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特許7315383インクジェット用水性組成物及び固体製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】インクジェット用水性組成物及び固体製剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20230719BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230719BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 9/44 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
C09D11/30
B41M5/00 120
B41M5/00 110
B41M5/00 134
B41J2/01 501
B41J2/01 109
B41J2/01 123
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/44
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019119272
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021004321
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110003764
【氏名又は名称】弁理士法人OMNI国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】森川 聡一郎
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/061848(WO,A1)
【文献】特開2014-040475(JP,A)
【文献】特開2018-080117(JP,A)
【文献】特開2010-163447(JP,A)
【文献】特開2008-115083(JP,A)
【文献】特表2017-507966(JP,A)
【文献】特表2018-505914(JP,A)
【文献】国際公開第2014/014010(WO,A1)
【文献】特開2011-236279(JP,A)
【文献】特開2015-140414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/30
B41M 5/00
B41J 2/01
A61K 9/20
A61K 9/48
A61K 9/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可食性を有するインクジェット用水性組成物であって、
可食性を有するポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンと、
主溶媒としての水と、
を少なくとも含み、
前記ポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンは、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、及びエチルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも1種の水不溶性ポリマーの微粒子が水中に分散してなるものであり、
前記水不溶性ポリマーの微粒子の前記インクジェット用水性組成物中に於けるD50が、5nm~00nmの範囲であるインクジェット用水性組成物。
【請求項2】
前記ポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンの固形分濃度が、インクジェット用水性組成物の全質量に対し、0.1質量%~50質量%の範囲内である請求項1に記載のインクジェット用水性組成物。
【請求項3】
少なくとも1種の可食性の顔料をさらに含む請求項1又は2に記載のインクジェット用水性組成物。
【請求項4】
前記顔料が、カーボンブラック、黄色酸化鉄、三二酸化鉄、四三酸化鉄又は酸化チタンである請求項3に記載のインクジェット用水性組成物。
【請求項5】
錠剤又はカプセル剤からなり、インクジェット用水性インクの乾燥皮膜を表面に有する固体製剤であって、
前記インクジェット用水性インクが、請求項1~4の何れか1項に記載のインクジェット用水性組成物を含む固体製剤。
【請求項6】
前記乾燥皮膜が印刷画像上に設けられており、
前記乾燥皮膜は、光透過性を有し、かつ、前記印刷画像を被覆するオーバーコート層である請求項5に記載の固体製剤。
【請求項7】
素錠又は口腔内崩壊錠の何れかの錠剤からなり、前記乾燥皮膜が当該素錠又は口腔内崩壊錠の表面の少なくとも一部を被覆するフィルムコーティング層であり、
前記フィルムコーティング層の厚さが1μm以上である請求項5に記載の固体製剤。
【請求項8】
前記インクジェット用水性インクが請求項3又は4に記載のインクジェット用水性組成物を含み、
前記乾燥皮膜が、印刷画像を形成するインク層である請求項5に記載の固体製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット用水性組成物及び固体製剤に関し、より詳細には、インクジェット方式での印刷に於いて吐出安定性に優れ、水性インク組成物や水性コーティング組成物として好適なインクジェット用水性組成物及び固体製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や食品等の固体製剤(例えば、錠剤やカプセル剤等)への印刷に用いるインクジェット用インクは、薬事法等で定められた原材料で構成される必要がある。固体製剤印刷用のインクジェット用インクは、水溶性の食用タール色素等を色材とする染料インク(例えば、特許文献1)と、可食性の酸化鉄顔料等を色材とする顔料インク(例えば、特許文献2)とに分類され、それぞれ販売等されている。
【0003】
しかし、錠剤の1種であるFC(フィルムコート)錠や糖衣錠等に対して、上述した固体製剤印刷用のインクジェット用インクを用いて印刷を行った際、固体製剤へのインク(印刷画像)の定着が十分でない場合があり、印刷画像が転写するという問題がある。
【0004】
このような印刷画像の転写の問題に対し、近年では、水性顔料を用いて形成された印刷画像上にオーバーコート層を形成し、これにより印刷画像を保護するという試みもなされている。オーバーコート層としては、例えば、水溶性高分子が溶解した無色の光透過性を有するオーバーコート用インクを塗布し乾燥させたものが挙げられる(例えば、特許文献3)。
【0005】
しかし、特許文献3に開示のオーバーコート層は水溶性高分子からなるため、人の指等で擦ると手汗の水分で溶解してしまうという課題がある。このような問題に対しては、例えば、オーバーコート用インクの溶媒を水からアルコールに変更し、水溶性高分子もアルコール溶解性の高分子に変更して、その解決を図るということが考えられる。しかし、オーバーコート用インクの溶媒をアルコールに変更した場合、インクジェット方式での印刷の際に、インクジェットヘッドにおけるアタック性が強くなり過ぎ、オーバーコート用インクの適用が可能なインクジェットヘッドが限られるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-236279号
【文献】特開2015-140414号
【文献】特開2018-80117号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、例えば、インクジェット方式での印刷の際に、インクジェットヘッド等に対するアタック性を抑制しつつ、吐出安定性に優れ、良好な取扱性を有するインクジェット用水性組成物及び固体製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るインクジェット用水性組成物は、前記の課題を解決するために、可食性を有するインクジェット用水性組成物であって、可食性を有するポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンと、主溶媒としての水と、を少なくとも含み、前記ポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンは、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、及びエチルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも1種の水不溶性ポリマーが水中に分散してなるものであることを特徴とする。
【0009】
一般に、水不溶性ポリマーが水中に分散してなるポリマーラテックス又はポリマーエマルジョン(以下、「ポリマーエマルジョン等」という場合がある。)を、インクジェット用水性組成物(以下、「水性組成物」という場合がある。)に含有させてインクジェット方式での印刷に用いた場合、水性組成物がインクジェットヘッドのノズル面で乾燥することがある。水性組成物が乾燥すると、その乾燥膜が形成されてノズル孔を閉塞し、これにより、ノズル詰まりに起因する吐出安定性の低下を招来する。
【0010】
しかし、本発明の水性組成物においては、ポリマーエマルジョン等として、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、及びエチルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも1種の水不溶性ポリマーが水中に分散してなるものを用いることで、そのようなノズル孔の閉塞を低減又は防止することができ、ノズル詰まりに起因する吐出安定性の低下を抑制することができる。さらに、本発明は主溶媒として水を用いアルコールを用いないので、インクジェットヘッドやインク流路等を構成する材料に、溶解、膨張、割れ及び表面荒れ等が生じるのを抑制することができ、水性組成物によるアタック性の低減が図れる。
【0011】
さらに、前記構成に於いては、前記ポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンの固形分濃度が、インクジェット用水性組成物の全質量に対し、0.1質量%~50質量%の範囲内であることが好ましい。
【0012】
ポリマーエマルジョン等の固形分濃度を0.1質量%以上にすることにより、例えば、水性組成物が顔料を含む場合には、当該顔料の定着性を向上させ、又は水不溶性ポリマーの成膜等の機能を発現させることができる。その一方、ポリマーエマルジョン等の固形分濃度を50質量%以下にすることにより、ノズル詰まりに起因する吐出安定性の低下を一層抑制することができる。
【0013】
前記構成に於いては、少なくとも1種の可食性の顔料をさらに含んでもよい。
【0014】
水性組成物中に顔料を含有させることで、本発明の水性組成物をインクジェット用水性インク組成物として使用することができる。この場合、水不溶性ポリマーは顔料のバインダーとして機能させることができる。その結果、前記構成に於いては、本発明の水性組成物を用いて固体製剤等に印刷した場合に、顔料同士の固着性、及び固体製剤等に対する顔料の定着性に優れた水性インク組成物の提供を可能にする。
【0015】
さらに、前記構成に於いては、前記顔料が、カーボンブラック、黄色酸化鉄、三二酸化鉄、四三酸化鉄又は酸化チタンであることが好ましい。
【0016】
本発明に係る固体製剤は、前記の課題を解決するために、錠剤又はカプセル剤からなり、インクジェット用水性インクの乾燥皮膜を表面に有する固体製剤であって、前記インクジェット用水性インクが、前記インクジェット用水性組成物を含むことを特徴とする。
【0017】
従来の水不溶性ポリマーを含む水性組成物では、当該水性組成物を用いてインクジェット方式で印刷を行うと、インクジェットヘッドでのノズル詰まり等により、吐出安定性が悪化していた。そのため、そのような水不溶性ポリマーを含む水性組成物を、インクジェット方式での印刷に適用するのは困難であった。しかし本発明では、可食性を有するアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー等の水不溶性ポリマーが水中に分散してなるポリマーエマルジョン等を水性組成物に含有させることで、吐出安定性の低下を招来することなくインクジェット方式での印刷を可能にする。これにより、本発明に於いては、インクジェット方式等により固体製剤に直接印刷することが可能となり、水不溶性ポリマーを含む乾燥皮膜が表面に設けられた固体製剤の提供を可能にする。
【0018】
前記構成に於いては、前記乾燥皮膜が印刷画像上に設けられており、前記乾燥皮膜は、光透過性を有し、かつ、前記印刷画像を被覆するオーバーコート層であってもよい。
【0019】
前記の構成によれば、印刷画像はオーバーコート層により被覆されて保護されるので、印刷画像の耐擦過性及び耐剥離性に優れた固体製剤を提供することができる。また、オーバーコート層はアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー等の水不溶性ポリマーを含み構成されるので、水不溶性であり、耐水性(又は耐湿性)を有する。従って、例えば、人の指等で擦っても手汗の水分で溶解するのを防止することができる。その結果、前記の構成であると、例えば製品情報等の印刷画像を固体製剤表面に形成する場合にも、印刷画像の画質の低下を抑制し、調剤ミスや誤飲を防止することが可能な固体製剤を提供することができる。
【0020】
前記構成に於いては、素錠又は口腔内崩壊錠の何れかの錠剤からなり、前記乾燥皮膜が当該素錠又は口腔内崩壊錠の表面の少なくとも一部を被覆するフィルムコーティング層であり、前記フィルムコーティング層の厚さが1μm以上であってもよい。
【0021】
前記の構成によれば、素錠又は口腔内崩壊錠はフィルムコーティング層により少なくとも一部が被覆されて保護されるので、有効成分の放出を抑制するなどの徐放性等を付与することができる。また、フィルムコーティング層はアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー等の水不溶性ポリマーを含み構成されるので、耐水性(又は耐湿性)を有する。従って、素錠等が湿度に起因して劣化するのを抑制することもできる。尚、フィルムコーティング層の厚さを1μm以上にすることにより、フィルムの機械的強度や、耐水性、徐放性等を良好に維持することができる。
【0022】
前記構成に於いては、前記インクジェット用水性インクが、前記可食性の顔料をさらに含むインクジェット用水性組成物を含み、前記乾燥皮膜が、印刷画像を形成するインク層であってもよい。
【0023】
前記構成によれば、乾燥皮膜中に含まれる水不溶性ポリマーをバインダーとして機能させることができる。その結果、顔料同士を接着させたり、錠剤又はカプセル剤の表面に対して顔料を強固に定着させることができ、インク層の定着性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のインクジェット用水性組成物によれば、水不溶性ポリマーとして、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、及びエチルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも1種の水不溶性ポリマーを選択し、当該水不溶性ポリマーが水中に分散してなるポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンを含有させる。これにより、本発明に於いては、インクジェットヘッド等に対するアタック性を抑制しつつ、吐出安定性及び取扱性を向上させることができる。その結果、本発明は、従来の水不溶性ポリマーを用いた水性組成物では困難であったインクジェット方式での印刷が可能な、インクジェット用水性組成物を提供することができる。
【0025】
また、本発明の固体製剤によれば、本発明のインクジェット用水性組成物は、可食性の水不溶性ポリマーとしてアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー等を含有することで、従来は困難であったインクジェット方式での印刷を可能にするので、当該水性組成物を含む水性インクにより印刷されたオーバーコート層、フィルムコーティング層、又はインク層を有する固体製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(インクジェット用水性組成物)
本実施の形態に係るインクジェット用水性組成物(以下、「水性組成物」という。)について、以下に説明する。
本実施の形態の水性組成物は、可食性のポリマーラテックス又はポリマーエマルジョン(以下、「ポリマーエマルジョン等」という。)と、主溶媒としての水とを少なくとも含む。この水性組成物は、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合した材料を用いることにより、可食性を有する。また、インクジェット方式での印刷に好適に用いることができる。ここで、本明細書に於いて「可食性」とは、医薬品若しくは医薬品添加物として経口投与が認められている物質、及び/又は食品若しくは食品添加物として認められているものを意味する。また、本明細書に於いて「インクジェット方式」とは、水性組成物を含む水性インクを微細なインクジェットヘッドより液滴として吐出し、その液滴を、例えば、固体製剤に定着させ、印刷画像等を形成させる印刷方式を意味する。尚、固体製剤の詳細については後述する。
【0027】
前記ポリマーエマルジョン等は、水不溶性ポリマーの微粒子が水中に分散してなる。本発明は、水不溶性ポリマーの微粒子をラテックス又はエマルジョンの形態で水に添加することにより、水に溶解しない水不溶性ポリマーが沈降するのを防止する。例えば、粉体状の水不溶性ポリマーを水に含有させた場合には、当該水不溶性ポリマーが水に溶解することなく沈降した組成物となる。その結果、当該組成物をインクジェットヘッドから吐出させることができず、インクジェット方式での印刷は困難となる。
【0028】
尚、本明細書に於いて「水不溶性」とは、水に実質的に溶解しないことを意味し、より具体的には、常温常圧下における溶解度が水100gに対し1g未満であることをいう。また、前記「常温」とは5℃~35℃の温度範囲にあることを意味する。さらに、前記「常圧」とは、大気の標準状態近傍における圧力(標準大気圧)のことを意味し、大気の標準状態とは、約25℃近傍の温度、絶対圧で101kPa近傍の大気圧条件のことを意味する。さらに、前記「常圧」には標準大気圧に対し僅かに陽圧又は陰圧の場合も含み得る。
【0029】
前記ポリマーエマルジョン等に於ける水不溶性ポリマーは、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、及びエチルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも1種である。また、ポリマーエマルジョン等としては市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、オイドラギット(登録商標)NE30D(商品名、エボニック社製、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液(30%分散液))、オイドラギット(登録商標)RL30D(商品名、エボニック社製、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー分散液(30%分散液))、Aquacoat(登録商標)ECD30(商品名、FMC社製、エチルセルロース分散液(30%分散液))等が挙げられる。
【0030】
尚、ポリマーエマルジョン等には、乳化剤を含み得る。乳化剤としては特に限定されず、従来公知のものを採用することができる。
【0031】
水不溶性ポリマーの微粒子の水性組成物中に於けるD50(水不溶性ポリマーの微粒子の体積基準積算粒度分布に於ける積算粒度で50%の粒子径)は、5nm~1000nmの範囲内が好ましく、10nm~500nmの範囲内がより好ましく、20nm~300nmの範囲内が特に好ましい。特に、D50を20nm以上にすることにより、ポリマーエマルジョン等の再凝集を抑制することができる。その一方、D50を300nm以下にすることにより、インクジェットヘッドのノズル詰まりを抑制することができる。
【0032】
水不溶性ポリマーの微粒子の水性組成物中に於けるD99(水不溶性ポリマーの微粒子の体積基準積算粒度分布に於ける積算粒度で99%の粒子径)は、5μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましく、500nm以下が特に好ましい。
【0033】
尚、水不溶性ポリマーが水性組成物中に複数種含まれる場合は、各々の水不溶性ポリマーの微粒子のD50及びD99は、それぞれ前記数値範囲に含まれていればよい。また、水不溶性ポリマーの微粒子のD50及びD99は、マイクロトラックUPA-EX150(商品名、日機装(株)製)を用いて動的光散乱法により測定した値である。
【0034】
前記ポリマーエマルジョン等の固形分濃度は、水性組成物の全質量に対し、0.1質量%~50質量%の範囲内であることが好ましい。ポリマーエマルジョン等の固形分濃度を0.1質量%以上にすることにより、例えば、後述の通り、顔料を含む場合には、当該顔料の定着性を向上させ、又は水不溶性ポリマーの成膜等の機能を発現させることができる。その一方、ポリマーエマルジョン等の固形分濃度を50質量%以下にすることにより、ノズル詰まりに起因する吐出安定性の低下を一層抑制することができる。
【0035】
本実施の形態の水性組成物に於ける溶媒は水である。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水等のイオン性不純物を除去したものを用いるのが好ましい。特に、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間にわたってカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
【0036】
水の含有量は、水性組成物の全質量に対し、20質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。
【0037】
また、溶媒としては、水と水溶性有機溶剤の混合溶液を用いてもよい。水溶性有機溶剤としては特に限定されず、具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6-へキサントリオール、チオジグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等の多価アルコール類;N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。また、前記に列挙した水溶性有機溶剤のうち、本実施の形態に於いては、エチルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンが好ましい。水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0038】
また、本実施の形態の水性組成物に於いては、その他の添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、表面張力調整剤、湿潤剤、水溶性樹脂、界面活性剤、pH調整剤、キレート化剤、防腐剤、粘度調整剤、消泡剤、分散安定剤、還元防止剤、酸化防止剤等が挙げられる。表面張力調整剤及び湿潤剤を除き、これらの添加剤の含有量は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる(表面張力調整剤及び湿潤剤の含有量については、それぞれ後述する。)。尚、本実施の形態の水性組成物は医薬品又は食品等の固体製剤表面への印刷に用いるので、添加剤は薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものを用いるのが好ましい。
【0039】
表面張力調整剤としては特に限定されず、具体的には、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。グリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、カプリル酸デカグリセリル、ラウリン酸ヘキサグリセリンエステル、オレイン酸ヘキサグリセリンエステル、縮合リノレン酸テトラグリセリンエステル、脂肪酸エステルヤシパーム、HLBが15以下のラウリン酸デカグリセリル、HLBが13未満のオレイン酸デカグリセリル等が挙げられる。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、モノステアリン酸ポリグリセリル、モノオレイン酸ポリグリセリル、モノイソステアリン酸ポリグリセリル、モノラウリン酸ポリグリセリル、縮合リシノレイン酸ポリグリセリル、モノミリスチン酸デカグリセリル、ペンタイソステアリン酸ポリグリセリル、ペンタオレイン酸ポリグリセリル、ヘプタステアリン酸ポリグリセリル、デカオレイン酸ポリグリセリル等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。尚、本実施の形態の水性組成物は、医薬品又は食品等の固体製剤表面への印刷に用いるので、表面張力調整剤は薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものを用いるのが好ましい。
【0040】
表面張力調整剤の含有量は、水性組成物の全質量に対し、0.1質量%~5質量%の範囲内であることが好ましく、1質量%~2質量%の範囲内であることがより好ましい。表面張力調整剤の含有量が0.1質量%以上であると、インクジェット方式で印刷を行う際に、インクジェットヘッドに於けるノズルでのメニスカス形成不良等による吐出不良を防止し、当該ノズルの目詰まりが発生するのを一層防止することができる。その結果、吐出安定性の向上が図れる。その一方、表面張力調整剤の含有量が5質量%以下であると、表面張力調整剤の不溶分や乳化不良による吐出への悪影響を防止することができる。
【0041】
湿潤剤としては、薬事法等の基準に適合するものであれば特に限定されず、具体的には、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。尚、これらの湿潤剤は薬事法等の基準に適合するものであるので、固体製剤への印刷にも適用可能である。
【0042】
湿潤剤の添加量は、水性組成物の全質量に対し、1質量%~50質量%が好ましく、10質量%~40質量%がより好ましい。湿潤剤の含有量を1質量%以上にすることにより、インクジェット方式で印刷を行う際に、インクジェットヘッドのノズル近傍での目詰まりを防止し、吐出性能の一層の向上が図れる。その一方、湿潤剤の含有量を50質量%以下にすることにより、水性組成物の粘度を適性に制御することができる。
【0043】
水性組成物の粘度は、インクジェットノズルからの吐出安定性を考慮すると、インクジェットノズル吐出時において、2mPa・s~7mPa・sが好ましく、3mPa・s~5mPa・sがより好ましい。水性組成物の粘度を前記数値範囲内にすることにより、インクジェットノズルでの目詰まりの発生を一層抑制して良好な吐出安定性の維持が図られる。尚、水性組成物の粘度は、例えば、粘度計(商品名:VISCOMATE MODEL VM-10A、(株)セコニック製)を用いて、測定温度25℃の条件下で測定することにより得られる。
【0044】
本実施の形態の水性組成物は、例えば、固体製剤表面に、インク層を形成して印刷画像を形成することが可能な水性インク組成物として用いることができる。また、印刷画像の表面を保護するオーバーコート層、又は素錠若しくは口腔内崩壊錠の表面に設けられるフィルムコーティング層の形成が可能な水性コーティング組成物として用いることができる。
【0045】
<水性インク組成物>
本実施の形態の水性組成物を水性インク組成物として用いる場合、当該水性インク組成物中には、さらに色材としての顔料が添加される。顔料を混合しても、本実施の形態の水性インク組成物に於いては、ポリマーエマルジョン等の水不溶性ポリマー及び顔料が凝集するのを抑制ないし低減することができる。
【0046】
顔料の種類としては可食性を有するものであれば特に限定されない。これにより、本実施の形態の水性インク組成物を医薬品やサプリメント等の固体製剤表面への印刷用として用いることができる。具体的には、例えばカーボンブラック、黄色酸化鉄、三二酸化鉄、四三酸化鉄(黒酸化鉄)、酸化チタン等が挙げられる。
【0047】
カーボンブラックとしては特に限定されず、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等が挙げられる。また、本実施の形態のカーボンブラックとしては市販品を用いることも可能であり、そのような市販品としては、例えば、#900、#970、#100、#2200、#2300、#2350、#2600、MA-7、MA-8、MA-100、MA-11、MCF88、#45L、#50、#10、#33、#40、#4000、#52、CF9等(商品名、いずれも三菱化学株式会社製)、ニテロン、HTC(商品名、いずれも新日鉄住金化学社製)、旭#55、旭#51、旭#50U、旭#50、旭#35、旭#15、アサヒサーマル(商品名、いずれも旭カーボン社製)、Raven700、5750、5250、5000、3500、1255(商品名、いずれもコロンビア社製)、REGAL400R、330R、660R、MogulL、Monarch700、800、880、900、1000、1100、1300、Monarch1400(商品名、いずれもキャボット社製)、Color Black FW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170(商品名、いずれもデグッサ社製)、PRINTEX35、U、V、140U、140V(商品名、いずれもデグッサ社製)、Special Black6、5、4A、4(商品名、いずれもデグッサ社製)、TOKABLACK #8500、#8300、#7550、#7400、#7350、#7240、#7100、#7050、#5500、#4500、#4400、#4300(商品名、いずれも東海カーボン社製)等を例示できる。
【0048】
例示した顔料は一種単独で、又は二種以上が混合して水性インク組成物中に含まれる。顔料を二種以上混合して含有させることにより、水性インク組成物の色相を調整することができる。
【0049】
尚、顔料がカーボンブラックである場合、その平均一次粒子径は10nm~40nmが好ましい。また、顔料が四三酸化鉄である場合、その平均一次粒子径は10nm~3μmが好ましい。ここで、「平均一次粒子径」とは、溶媒中に添加して分散させる前の顔料の粒子を電子顕微鏡で観察して求めた算術平均粒子径を意味する。
【0050】
また、顔料は水性インク組成物中に分散状態で存在する。分散状態にある顔料の体積基準積算粒度分布に於ける積算粒度で50%の粒子径(D50)は、50nm~300nmの範囲内が好ましく、100nm~150nmの範囲内がより好ましい。また、顔料の体積基準積算粒度分布に於ける積算粒度で99%の粒子径(D99)は、100nm~500nmの範囲内が好ましい。D50を50nm以上にすることにより、分散安定性、耐光性及び吐出安定性の悪化を防止し、印刷濃度の低下も防止することができる。その一方、D50を300nm以下にすることにより、顔料の分離や沈降を防止し、分散安定性の維持が図れる。尚、顔料が水性インク組成物中に複数種含まれる場合は、各々の顔料のD50及びD99が前記数値範囲に含まれていればよい。また、顔料の平均分散粒子径D50及びD99は、マイクロトラックUPA-EX150(商品名、日機装(株)製)を用いて動的光散乱法により測定した値である。
【0051】
顔料の含有量は画像濃度に直接影響するものであり、水性インク組成物の保存性や粘度、pH、錠剤等に印刷する場合はその印刷濃度等に影響を及ぼすものであることから、これらの点を考慮して適宜設定すればよい。例えば、顔料がカーボンブラックの場合、通常は、水性インク組成物の全質量に対し0.3質量%~20質量%の範囲が好ましく、0.5質量%~10質量%の範囲内がより好ましく、1質量%~5質量%の範囲内が特に好ましい。特に、カーボンブラックの含有量を1質量%以上にすることにより、画像濃度の低下を抑制することができる。その一方、カーボンブラックの含有量を5質量%以下にすることにより、光沢性の低下やノズルの目詰まり、吐出安定性の低下を防止することができる。また、顔料が四三酸化鉄の場合、通常は、水性インク組成物の全質量に対し0.1質量%~30質量%の範囲が好ましく、1質量%~20質量%の範囲内がより好ましく、5質量%~15質量%の範囲内が特に好ましい。特に、酸化鉄の含有量を5質量%以上にすることにより、画像濃度の低下を抑制することができる。その一方、酸化鉄の含有量を15質量%以下にすることにより、光沢性の低下やノズルの目詰まり、吐出安定性の低下を防止することができる。尚、顔料が水性インク組成物中に複数種含まれる場合は、全ての顔料の含有量の合計がこれらの数値範囲に含まれていればよい。
【0052】
ポリマーエマルジョン等の固形分濃度は前述の数値範囲内で設定可能であるが、水性組成物が顔料を含む水性インク組成物である場合、当該ポリマーエマルジョン等の固形分濃度は0.1質量%~10質量%の範囲内がより好ましく、1.5質量%~10質量%の範囲内が特に好ましい。
【0053】
また、水性インク組成物が顔料を含む場合、前記ポリマーエマルジョン等の固形分濃度は、前記顔料に対し、質量基準で0.1倍~10倍であることが好ましく、0.2倍~5倍であることがより好ましく、0.3倍~3倍であることが特に好ましい。ポリマーエマルジョン等の固形分濃度を前記顔料に対し0.1倍以上にすることにより、顔料の定着力向上効果を発現させることができる。その一方、ポリマーエマルジョン等の固形分濃度を前記顔料に対し10倍以下にすることにより、インクジェットヘッドのノズルの目詰まり及び吐出安定性の低下を防止することができる。
【0054】
また、水性インク組成物中に顔料を含有させる場合、当該水性インク組成物中には、顔料を良好に分散させるための顔料分散剤がさらに含まれていることが好ましい。顔料分散剤は顔料の表面に吸着することで、立体障害による反発力や電気的斥力により顔料の分散を安定化することができる。
【0055】
本実施の形態に於いて、顔料分散剤は水溶性又は水分散性を有するものであることが好ましい。ここで、本明細書に於いて「水溶性」とは、常温常圧下に於いて、水100gに対し顔料分散剤が1g以上溶解することを目安とする。「水分散性」とは、顔料分散剤が主溶媒である水の中で分散することを意味する。
【0056】
顔料分散剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム類、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート類、ショ糖脂肪酸エステル類、水溶性セルロース類等が挙げられる。これらは、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。但し、本実施の形態の水性インク組成物は医薬品又は食品等の固体製剤表面への印刷に用いるので、顔料分散剤は、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものを用いるのが好ましい。
【0057】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル類としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル等が挙げられる。
【0058】
ポリグリセリン脂肪酸エステル類は、顔料がカーボンブラックである場合に、特にその分散性の向上を図ることができる。ポリグリセリン脂肪酸エステル類としては、例えば、当該ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の炭素数が18~20の範囲内のものが挙げられる。より具体的には、例えば、パルミチン酸デカグリセリル、モノステアリン酸デカグリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、オレイン酸デカグリセリル、アラキジン酸デカグリセリル等が挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、例示したポリグリセリン脂肪酸エステル類のうち、本実施の形態に於いては、モノステアリン酸デカグリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル及びオレイン酸デカグリセリルがカーボンブラックの分散性と入手性の観点から好ましい。モノステアリン酸デカグリセリルとしては、例えば、NIKKOL(登録商標)MGS-150V(商品名、日光ケミカルズ(株)製)、NIKKOL DECAGLYN(登録商標)1-50SV(商品名、日光ケミカルズ(株)製)等が挙げられる。モノイソステアリン酸デカグリセリルとしては、例えば、NIKKOL DECAGLYN(登録商標)1-ISV(商品名、日光ケミカルズ(株)製)等が挙げられる。また、オレイン酸デカグリセリルとしては、例えば、DECAGLYN(登録商標)1-OV(商品名、日光ケミカルズ(株)製)等が挙げられる。
【0059】
リン酸ナトリウム類は 顔料が四三酸化鉄である場合に、特にその分散性を好適に向上させることができる。四三酸化鉄の顔料は磁性を有しているため、粒子間での凝集力が強いが、リン酸ナトリウム類が、反発力等により四三酸化鉄の顔料同士の再凝集を防止することができる。その結果、分散性及び分散安定性に優れた水性インク組成物を得ることができる。
【0060】
リン酸ナトリウム類としては、例えば、リン酸一ナトリウム(NaHPO・HO)、リン酸二ナトリウム(NaHPO・12HO)、リン酸三ナトリウム(NaPO・12HO)、無水リン酸一ナトリウム(NaHPO)、無水リン酸二ナトリウム(NaHPO)、無水リン酸三ナトリウム(NaPO)、ピロリン酸ナトリウム(Na・10HO)、無水ピロリン酸ナトリウム(Na)、酸性ピロリン酸ナトリウム(Na)、トリポリリン酸ナトリウム(Na10)、テトラポリリン酸ナトリウム(Na13)、ペンタポリリン酸ナトリウム(Na16)、ヘキサメタリン酸ナトリウム((NaPO、但し、nは10~23である。)等が挙げられる。これらのリン酸ナトリウムは適宜必要に応じて、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0061】
また、例示したリン酸ナトリウム類のうち、本実施の形態に於いては、1分子当たり平均して1~23個のリン酸基及び/又はリン酸塩基を含有するものが好ましい。ここで、本明細書に於いて「リン酸基」とは-OPO(OH)又は(-O)P(O)OHで表される官能基を意味し、「リン酸塩基」とは-OPO(OH)又は(-O)P(O)OHで表される官能基に於ける水素原子の少なくとも一つがNaイオンで置換された塩の状態で存在する官能基を意味する。そのようなリン酸ナトリウム類としては、具体的には、無水リン酸二ナトリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム等が挙げられる。これらのリン酸ナトリウム類であると、一定の分散時間以上で顔料を分散させることにより、顔料のD50を50nm~300nmの範囲とし、かつ、D99を500nm以下の範囲とすることができ、一層優れた分散性能を付与することができる。
【0062】
ポリソルベート類は、顔料がカーボンブラックである場合に、特にその分散性の向上を図ることができる。ポリソルベート類としては、例えば、ポリソルベート20(モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.))、ポリソルベート40(モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.))、ポリソルベート60(モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.))、ポリソルベート80(モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.))等が挙げられる。
【0063】
ポリソルベート20の市販品としては、例えば、ニューカルゲンD-941(商品名、竹本油脂(株))、イオネットT-20-C(商品名、三洋化成工業(株))、オイムルギン SML20(商品名、ヘンケルジャパン(株))、レオドール TW-L120(商品名、花王(株))、ニッコールTL-10(商品名、日光ケミカルズ(株))、アデカエストールT-2(商品名、旭電化工業(株))を用いることができる。
【0064】
ポリソルベート40の市販品としては、例えば、ニッコール TP-10EX(商品名、日光ケミカルズ(株))、レオドールTW-P120(商品名、花王(株))、ニューカルゲン D-943-D(商品名、竹本油脂(株))を用いることができる。
【0065】
ポリソルベート60の市販品としては、例えば、ニッコール TS-10MV(商品名、日光ケミカルズ(株))、ノニオン(商品名、日本油脂(株))、レオドール TW-S120(商品名、花王株式会社)、オイムルギン SMS20(商品名、ヘンケルジャパン(株))、ニューカルゲン D-944(商品名、竹本油脂(株))、アデカエストール T-62(商品名、旭電化工業(株))を用いることができる。
【0066】
ポリソルベート80の市販品としては、例えば、ニッコール TO-10MV(商品名、日光ケミカルズ(株))、レオドール TW-0120(商品名、花王(株))、オイムルギン SMO20(商品名、ヘンケルジャパン(株))、ニューカルゲン D-945(商品名、竹本油脂(株))、アデカエストール T-82(商品名、旭電化工業(株))を用いることができる。
【0067】
ショ糖脂肪酸エステル類はショ糖と脂肪酸とのエステル化物である。脂肪酸は、炭素数8~24、好ましくは炭素数10~22、より好ましくは炭素数12~18の飽和又は不飽和脂肪酸である。脂肪酸は、より具体的には、ラウリン酸等が挙げられる。
【0068】
水溶性セルロース類としては、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。
【0069】
顔料と顔料分散剤との含有比は、質量基準で1:0.01~1:5であることが好ましく、1:0.1~1:1であることがより好ましく、1:0.2~1:0.5であることが特に好ましい。特に、前記含有比が1:0.1以上であると、顔料の分散性の低下を防止することができる。その一方、前記含有比が1:1以下であると、例えば、インクジェット方式での印刷の際に、ノズルプレートの付着に起因する吐出安定性の低下を防止することができる。
【0070】
水性インク組成物は、ポリマーエマルジョン等、顔料、顔料分散剤、水及び必要に応じて配合するその他の添加剤を任意の順序で混合して製造することができる。例えば、ポリマーエマルジョン等、顔料、顔料分散剤及び水等を一度に混合し、この混合液に対し通常の分散機を用いて分散処理を施す。このときの分散時間は特に限定されないが、分散状態にある顔料のD50及びD99が前記の数値範囲内となるように設定するのが好ましい。
【0071】
顔料の分散処理の際に使用される分散機としては、一般に使用される分散機であれば特に限定されない。具体的には、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、ナノマイザー等が挙げられる。
【0072】
続いて、分散処理により得られた分散液に対し、さらに前述の他の添加剤を適宜な方法で混合し、これにより、水性インク組成物を製造することができる。即ち、例えば、分散液に、表面張力調整剤及び必要に応じて他の添加剤を加え、さらに水にて希釈する。その後、十分に撹拌し、必要に応じて目詰まりの原因となる粗大粒径及び異物を除去するための濾過を行う。これにより、色材として顔料を用いた水性インク組成物を得ることができる。
【0073】
各材料の混合方法としては特に限定されず、例えば、ディスパー、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合を行うことができる。また、濾過方法としては特に限定されず、例えば、遠心濾過、フィルター濾過等を採用することができる。
【0074】
<水性コーティング組成物>
本実施の形態の水性組成物を水性コーティング組成物として用いる場合、当該水性コーティング組成物中に含まれる任意成分としての他の添加剤は、水性組成物を水性インク組成物として用いる場合に添加する顔料及び顔料分散剤を除き、前述の通りである。
【0075】
ポリマーエマルジョン等の固形分濃度は前述の数値範囲内で設定可能であるが、水性組成物が水性コーティング組成物であり、オーバーコート層の形成に用いる場合、当該ポリマーエマルジョン等の固形分濃度は0.1質量%~20質量%の範囲内がより好ましく、1質量%~10質量%の範囲内が特に好ましい。また、フィルムコーティング層の形成に用いる場合、当該ポリマーエマルジョン等の固形分濃度は10質量%~50質量%の範囲内がより好ましく、10質量%~30質量%の範囲内が特に好ましい。
【0076】
水性コーティング組成物は、前述の各成分を適宜な方法で混合することよって製造することができる。混合方法及び添加順序は特に限定されない。混合後は、十分に撹拌し、必要に応じて目詰まりの原因となる粗大粒子及び異物を除去するための濾過を行う。これにより、本実施の形態に係る水性コーティング組成物を得ることができる。
【0077】
各材料の混合方法としては特に限定されず、例えば、ディスパー、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合を行うことができる。また、濾過方法としては特に限定されず、例えば、遠心濾過、フィルター濾過等を採用することができる。
【0078】
<インクジェット用水性インク>
本実施の形態のインクジェット用水性インクは、前述の水性インク組成物又は水性コーティング組成物を少なくとも含む。水性インク組成物及び水性コーティング組成物は、薬事法等で定められている医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合しているので、これらの水性組成物の何れかを含む水性インクも可食性を有しており、医薬品又はサプリメント等の錠剤やカプセル剤からなる固体性剤の表面に直接印刷することが可能である。また、素錠及びOD錠など表面の平滑性が悪い錠剤に対しても、インクジェット方式による非接触印刷を可能にする。
【0079】
尚、前記水性インク組成物又は水性コーティング組成物は、最終製品たる水性インクに含まれるものである場合の他、当該水性インクそのものとしても用いることができる。
【0080】
(固体製剤)
本明細書に於いて、「固体製剤」とは食品製剤及び医薬製剤を含む意味であり、固体製剤の形態としては、例えばOD錠(口腔内崩壊錠)、素錠、FC(フィルムコート)錠(例えば、フィルムコーティング層がHPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)からなるもの)、糖衣錠(例えば、糖衣層がショ糖からなるもの)等の錠剤又はカプセル剤が挙げられる。また、固体製剤は、医薬品用途であってもよく、食品用途であってもよい。食品用途の錠剤の例としては、錠菓やサプリメント等の健康食品が挙げられる。
【0081】
本実施の形態の固体製剤は、その表面に水性インクの乾燥皮膜が少なくとも形成されたものである。乾燥皮膜は、水性組成物中に含まれていた水不溶性ポリマーにより少なくとも構成される。
【0082】
水性インクが少なくとも水性インク組成物を含むものである場合、乾燥皮膜には顔料が含まれるため、当該乾燥皮膜は印刷画像を形成するインク層として機能する。この場合、乾燥皮膜(インク層)中に含まれる水不溶性ポリマーは、顔料同士を接着させる機能を発揮する他、被膜形成作用も発揮するので、固体製剤に対する顔料の定着性を向上させることができる。その結果、顔料の剥離を低減し、印刷画像の識別性及び視認性の低下を抑制するので、調剤ミスや誤飲の発生を防止することができる。
【0083】
また、水性インクが少なくとも水性コーティング組成物を含むものである場合、乾燥皮膜は印刷画像を保護するオーバーコート層、又は素錠若しくは口腔内崩壊錠の表面をコーティングするフィルムコーティング層として機能する。
【0084】
乾燥皮膜がオーバーコート層である場合、当該オーバーコート層は固体製剤の印刷画像を覆う様に設けられる。オーバーコート層を設けることで、固体製剤に印刷された印刷画像の保護を図ることが可能になる。その結果、印刷面が接触物に接触することにより印刷画像が当該接触物に転写し、画質が低下するのを防止することができる。また、オーバーコート層が印刷画像を保護することで、例えば熱安定性や光安定性、耐擦過性、耐摩耗性(又は耐摩擦性)を付与することもできる。さらに、オーバーコート層は水不溶性ポリマーにより構成されるため、印刷画像の耐水性(又は耐湿性)の向上も図れる。
【0085】
オーバーコート層は可視光領域に於いて無色の光透過性を有していることが好ましい。これにより、オーバーコート層を介して印刷画像を観察したときの視認性が低下するのを抑制することができる。但し、本発明は、印刷画像の視認性に悪影響を及ぼさない限り、オーバーコート層が、色補正やその他の特別な目的等のために有色の光透過性を有することを妨げるものではない。
【0086】
オーバーコート層の(乾燥塗布後の)厚さは、水性インクの組成や要求される印刷画像の保護性能等を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されない。通常、オーバーコート層の厚さは0.1μm~5μmの範囲内であり、好ましくは0.5μm~3μm、より好ましくは1μm~2μmである。オーバーコート層の厚さを0.1μm以上にすることにより、印刷画像の熱安定性や光安定性の確保が図れる。また、印刷画像に対する耐水性(又は耐湿性)、耐擦過性及び耐摩耗性(又は耐摩擦性)を付与することができ、これにより印刷画像の転写等を防止することができる。その一方、オーバーコート層の厚さを5μm以下にすることにより、印刷画像の視認性が低下するのを抑制することができる。
【0087】
乾燥皮膜がフィルムコーティング層である場合、当該フィルムコーティング層は素錠又はOD錠(以下、「素錠等」という。)の表面に設けられる。これにより、素錠等からの有効成分の放出を抑制するなどの徐放性を付与することができる。特に、本実施の形態のフィルムコーティング層は水不溶性ポリマーを含み構成されるので、素錠等に耐水性(又は耐湿性)も付与する。その結果、湿度に起因した素錠等の劣化も抑制することができる。尚、フィルムコーティング層は素錠等の表面の少なくとも一部に設けられていればよいが、表面全面に設けられているのがより好ましい。
【0088】
フィルムコーティング層の(乾燥塗布後の)厚さは、水性インクの組成や要求される接着性能等を考慮して適宜設定することができる。本実施の形態の場合、フィルムコーティング層の厚さは1μm以上であり、好ましくは10μm~100μm、より好ましくは20μm~50μmである。フィルムコーティング層の厚さを1μm以上にすることにより、フィルムの機械的強度や、耐水性(又は耐湿性)、徐放性等を良好に維持することができる。尚、フィルムコーティング層の厚さを100μm以下にした場合には、水性インクの液滴の塗布後の乾燥速度の短縮化が可能になる。また、例えば、口腔内等で、素錠やOD錠の速やかな崩壊が阻害されるのを防止することができる。
【0089】
尚、印刷画像は、前記水性インク組成物を含む水性インクの乾燥皮膜により形成されたインク層であってもよい。また、従来公知の顔料インクや染料インク等により形成された他のインク層であってもよい。印刷画像の種類としては特に限定されず、絵柄、文字、模様及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。印刷画像は、例えば、文字等により表された製品情報等であってもよい。
【0090】
乾燥皮膜は、インクジェット方式により固体製剤上に印刷して形成することができる。より具体的には、微細なノズルより水性インクを液滴として吐出し、その液滴を固体製剤上に付着させることにより行う。乾燥皮膜としてインク層を印刷する場合、水性インクの液滴は固体製剤表面やフィルムコーティング層上に吐出して供給される。また、乾燥皮膜としてオーバーコート層を印刷する場合、水性インクの液滴は固体製剤の印刷画像上に吐出し供給される。この場合、水性インクの吐出対象領域は、少なくとも印刷画像の形成領域であることが好ましい。さらに、乾燥皮膜としてフィルムコーティング層を印刷する場合、水性インクの液滴は固体製剤表面に吐出して供給される。水性インクの吐出方法として特に限定されず、例えば、連続噴射型(荷電制御型、スプレー型等)、オンデマンド型(ピエゾ方式、サーマル方式、静電吸引方式等)等の公知の方法を採用することができる。
【実施例
【0091】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、以下の実施例に記載されている材料や含有量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定するものではない。また、インクジェット用水性組成物の各材料は何れも薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものである。
【0092】
(実施例1)
表1に示す通り、ポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンとして5質量%のエチルセルロース分散液(商品名:Aquacoat(登録商標)ECD30、FMC社製)、表面張力調整剤として2質量%のポリグリセリン脂肪酸エステル類(商品名:SYグリスターMCA-750、坂本薬品工業株式会社製)、湿潤剤として30質量%のプロピレングリコール、及び63質量%の水を混合し、本実施例に係る水性コーティング組成物を作製した。
【0093】
(実施例2)
表1に示す通り、本実施例に於いては、ポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンとしてアンモニオアルキルメタクリレートコポリマー分散液(商品名:オイドラギット(登録商標)RL30D、エボニック社製)を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、本実施例に係る水性コーティング組成物を作製した。
【0094】
(実施例3)
表1に示す通り、本実施例に於いては、ポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンとしてアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液(商品名:オイドラギット(登録商標)NE30D、エボニック社製)を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、本実施例に係る水性コーティング組成物を作製した。
【0095】
(比較例1)
表1に示す通り、本比較例に於いては、ポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンとしてアクリル酸メチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸コポリマー分散液(商品名:オイドラギット(登録商標)FS30D、エボニック社製)を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、本比較例に係る水性コーティング組成物を作製した。
【0096】
(比較例2)
表1に示す通り、本比較例に於いては、ポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンとしてメタクリル酸コポリマー水分散液(商品名:オイドラギット(登録商標)L30D-55、エボニック社製)を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、本比較例に係る水性コーティング組成物を作製した。
【0097】
(比較例3)
表1に示す通り、本比較例に於いては、ポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンとしてメタクリル酸メチル・メタクリル酸ジエチルアミノエチル共重合体分散液(商品名:コリコートスマートシール30D、BASF社製)を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、本比較例に係る水性コーティング組成物を作製した。
【0098】
(比較例4)
表1に示す通り、本比較例に於いては、ポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンとして酢酸ビニル樹脂水分散液(商品名:コリコートSR30D、BASF社製)を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、本比較例に係る水性コーティング組成物を作製した。
【0099】
(実施例4)
表2に示す通り、ポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンとして15質量%のエチルセルロース分散液(商品名:Aquacoat(登録商標)ECD30、FMC社製)、表面張力調整剤として2質量%のポリグリセリン脂肪酸エステル類(商品名:SYグリスターMCA-750、坂本薬品工業株式会社製)、湿潤剤として30質量%のプロピレングリコール、及び53質量%の水を混合し、本実施例に係る水性コーティング組成物を作製した。尚、本実施例に於いて、ポリマーエマルジョン等としてエチルセルロース分散液を選択したのは、実施例1に於いて良好な吐出安定性を示したからである(表1参照)。
【0100】
(実施例5)
表2に示す通り、ポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンとして10質量%のアンモニオアルキルメタクリレートコポリマー分散液(商品名:オイドラギット(登録商標)RL30D、エボニック社製)、表面張力調整剤として2質量%のポリグリセリン脂肪酸エステル類(商品名:SYグリスターMCA-750、坂本薬品工業株式会社製)、湿潤剤として30質量%のプロピレングリコール、及び58質量%の水を混合し、本実施例に係る水性コーティング組成物を作製した。尚、本実施例に於いて、ポリマーエマルジョン等としてアンモニオアルキルメタクリレートコポリマー分散液を選択したのは、実施例2に於いて良好な吐出安定性を示したからである(表1参照)。
【0101】
(実施例6)
表3に示す通り、顔料として1質量%のカーボンブラック、顔料分散剤として0.3質量%のポリオキシエチレンアルキルエーテル(商品名::NIKKOL(登録商標)BS-20、日光ケミカルズ株式会社製)、ポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンとして5質量%のエチルセルロース分散液(商品名:Aquacoat ECD30、FMC社製)、表面張力調整剤として2質量%のポリグリセリン脂肪酸エステル類(商品名:SYグリスターMCA-750、坂本薬品工業株式会社製)、湿潤剤として30質量%のプロピレングリコール、及び61.7質量%の水を混合し、本実施例に係る水性インク組成物を作製した。
【0102】
(実施例7)
表3に示す通り、本実施例に於いては、ポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンとしてアンモニオアルキルメタクリレートコポリマー分散液(商品名:オイドラギット(登録商標)RL30D、エボニック社製)を用いた。それ以外は、実施例6と同様にして、本実施例に係る水性インク組成物を作製した。
【0103】
(実施例8)
表1に示す通り、本実施例に於いては、ポリマーラテックス又はポリマーエマルジョンとしてアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液(商品名:オイドラギット(登録商標)NE30D、エボニック社製)を用いた。それ以外は、実施例6と同様にして、本実施例に係る水性インク組成物を作製した。
【0104】
(比較例5)
表3に示す通り、顔料として1質量%のカーボンブラック、顔料分散剤として0.3質量%のポリオキシエチレンアルキルエーテル(商品名:NIKKOL(登録商標)S-20、日光ケミカルズ株式会社製)、表面張力調整剤として2質量%のポリグリセリン脂肪酸エステル類(商品名:SYグリスターMCA-750、坂本薬品工業株式会社製)、湿潤剤として30質量%のプロピレングリコール、及び66.7質量%の水を混合し、本比較例に係る水性インク組成物を作製した。
【0105】
(比較例6)
表3に示す通り、顔料として1質量%のカーボンブラック、顔料分散剤として0.3質量%のポリオキシエチレンアルキルエーテル(商品名:NIKKOL(登録商標)BS-20、日光ケミカルズ株式会社製)、5質量%のエチルセルロース粉体、表面張力調整剤として2質量%のポリグリセリン脂肪酸エステル類(商品名:SYグリスターMCA-750、坂本薬品工業株式会社製)、湿潤剤として30質量%のプロピレングリコール、及び61.7質量%の水を混合し、本比較例に係る水性インク組成物を作製した。
【0106】
(比較例7)
表3に示す通り、本比較例に於いては、エチルセルロース粉体に代えてアンモニオアルキルメタクリレートコポリマー粉体を用いた。それ以外は、比較例6と同様にして、本比較例に係る水性インク組成物を作製した。
【0107】
(粘度の測定)
実施例1~3及び比較例1~4の水性コーティング組成物、並びに実施例6~8及び比較例5~7の水性インク組成物について、それぞれ粘度を測定した。粘度の測定には、粘度計(VISCOMATE MODEL VM-10A、(株)セコニック製)を用いて、測定温度25℃の条件下で行った。結果を表1及び表3に示す。
【0108】
(水不溶性ポリマーの体積基準積算粒度分布における粒子径の測定)
各実施例1~3、6~8及び比較例1~7に於ける水不溶性ポリマーのD10、D50及びD99について、それぞれマイクロトラックUPA-EX150(商品名、日機装(株)製)を用いて動的光散乱法により測定した。結果を表1、表3に示す。尚、実施例6~8及び比較例5~7の水性インク組成物については、水不溶性ポリマーの他、カーボンブラックも含めて粒子径の測定を行った。
【0109】
表1、表3から分かる通り、実施例1~3、6~8の各水性組成物に於いては、D10、D50及びD99のいずれの値も過度に大きくなるのが抑制されており、インクジェット方式での印刷に適していることが確認された。
【0110】
(保存安定性)
実施例1~3及び比較例1~4の水性コーティング組成物、並びに実施例6~8及び比較例5~7の水性インク組成物のそれぞれについて、保存安定性の評価を行った。すなわち、各実施例及び比較例の水性コーティング組成物又は水性インク組成物の調合後、室温で1週間静置し、顔料及び/又は水不溶性ポリマーの凝集や沈降が起こっていないかを目視で確認した。
【0111】
保存安定性の各評価は、以下の基準を用いて行った。結果を表1及び表3に示す。
○:顔料及び/又はポリマーの凝集及び/又は沈降が目視で確認できない。
△:顔料及び/又はポリマーの凝集及び/又は沈降が目視で確認できる。
×:顔料及び/又はポリマーの著しい凝集及び/又は沈降が目視で確認できる。
【0112】
(吐出安定性の評価)
マット紙(商品名:スーパーファイン紙、エプソン(株)製)を用意し、実施例1~3及び比較例1~4の水性コーティング組成物、並びに実施例6~8及び比較例5~7の水性インク組成物をそれぞれ用いて、インクジェット方式による印刷を行った。具体的には、インクジェットプリンタ(KC 600dpiヘッド、中速印字治具)を用いてシングルパス(ワンパス)方式にて印刷を行った。また、印刷は気温25℃、相対湿度50%の環境下で行った。その後、ドライヤーにて熱風を直接当て、印刷面を十分に乾燥させた。これにより、各実施例及び各比較例に係るサンプルを作製した。
【0113】
各水性コーティング組成物及び水性インク組成物の吐出安定性の評価は、ヘッドから水性コーティング組成物又は水性インク組成物を吐出させた後、インクジェットプリンタを停止させ、その後、再度印刷したときの印刷画像にノズル欠けがどれくらい増加したか、及び寝ぼけが観察されたか否かにより行った。但し、比較例に係る水性コーティング組成物及び水性インク組成物のうち、インクジェット方式での印刷が困難であったものについては吐出安定性の評価を行わなかった。
【0114】
吐出安定性の評価は、15分のオープンタイム(最初にヘッドから水性コーティング組成物又は水性インク組成物を吐出させた後に停止し、その後、再度印刷させるまでの時間間隔)後の印字について行った。また、寝ぼけ量とは、シングルパス印刷画像において水性コーティング組成物又は水性インク組成物が吐出されないことによる書き出しの掠れが解消されるまでの長さ(cm)を意味する。ノズル詰まり増加数とは、インクジェットプリンタ停止中に、ヘッド端面での水性コーティング組成物又は水性インク組成物の乾燥固着などにより、当該水性コーティング組成物又は水性インク組成物の吐出が不可能になったノズルの本数のことを意味する。
【0115】
寝ぼけ及びノズル詰まりの各評価は、以下の基準を用いて行った。結果を表1及び表3に示す。
<寝ぼけ>
○:寝ぼけ量が1cm未満
×:寝ぼけ量が2cm以上
△:寝ぼけ量が○及び×の何れにも該当しない場合
【0116】
<ノズル詰まり>
○:ノズル詰まり増加数が0本
×:ノズル詰まり増加数が10本以上
△:ノズル詰まりの増加数が○及び×の何れにも該当しない場合
【0117】
(濾過性)
実施例1~3及び比較例1~4の水性コーティング組成物、並びに実施例6~8及び比較例5~7の水性インク組成物のそれぞれについて、濾過性を評価した。すなわち、減圧条件下にて、ポアサイズ1μmのフィルターを20mlの水性コーティング組成物又は水性インク組成物が1分間で通過するか否か測定した。濾過性の各評価は、以下の基準を用いて行った。結果を表1及び表3に示す。
○:1分以内に通過
△:1分以上かかって通過
×:フィルターが詰まり、水性コーティング組成物又は水性インク組成物が通過できない
【0118】
(オーバーコート層の性能)
実施例1~3、比較例1、2の水性コーティング組成物を用いて、予め画像が印刷されたフィルムコーティング錠に対し、当該画像上にインクジェット方式で印刷を行い、オーバーコート層を形成した。具体的には、インクジェットプリンタ(KC 600dpiヘッド、中速印字治具)を用いてシングルパス(ワンパス)方式にて印刷を行った。また、印刷は気温25℃、相対湿度50%の環境下で行った。その後、ドライヤーにて熱風を直接当て、印刷面を十分に乾燥させた。これにより、各実施例及び各比較例に係るサンプルを作製した。その後、各サンプルのオーバーコート層について、その性能評価を行った。
【0119】
オーバーコート層の性能評価は、耐擦過性の試験により行った。具体的には、得られた各サンプルに於けるオーバーコート層の印刷面に対し10回の指擦過を行った。これにより、オーバーコート層の下にあるインク層の剥がれ度合(耐擦過性)を評価した。結果を表1に示す。
【0120】
耐擦過性の評価は、以下の基準を用いて行った。結果を表1に示す。
○:インク層に全く剥がれなし
△:インク層に剥がれがあるが、文字識別が可能な程度
×:インク層が著しく剥がれて、文字識別が不可能
【0121】
(成膜性の評価)
実施例4及び5の水性コーティング組成物を用いて、素錠に対しインクジェット方式で印刷を行い、フィルムコーティング層を形成した。さらに、形成したフィルムコーティング層の成膜性を評価した。
【0122】
印刷は、インクジェットプリンタ(KC 600dpiヘッド、中速印字治具)を用いてシングルパス(ワンパス)方式にて行った。また、印刷は気温25℃、相対湿度50%の環境下で行い、水性コーティング組成物の液滴量(吐出量)は、約12mg/cmとした。その後、自然乾燥にて印刷面を十分に乾燥させた。乾燥時間は1時間とした。表2にフィルムコーティング層の断面写真を示す。
【0123】
(顔料の定着性評価)
実施例6~8及び比較例5~7の水性インク組成物を用いて、フィルムコーティングに対しそれぞれインクジェット方式で印刷を行い、インク層を形成した。さらに、形成したインク層に於いて顔料の定着性評価を行った。
【0124】
印刷は、インクジェットプリンタ(KC 600dpiヘッド、中速印字治具)を用いてシングルパス(ワンパス)方式にて行った。また、印刷は気温25℃、相対湿度50%の環境下で行い、その後、自然乾燥にて印刷面を十分に乾燥させた。乾燥時間は1時間とした。
【0125】
インク層の定着性に関する性能評価は、次の通り行った。すなわち、得られた各サンプルの印刷面に対し、10回の指擦過を行い、これによりインク層の剥がれ度合い(耐擦過性)を評価した。
【0126】
定着性評価は、以下の基準を用いて行った。結果を表3に示す。
○:インク層に全く剥がれなし
△:インク層に剥がれがあるが、文字識別が可能な程度
×:インク層が著しく剥がれて、文字識別が不可能
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
(結果)
表1から分かる通り、比較例1、2及び4の水性コーティング組成物ではノズル詰まりが発生し、吐出安定性が良好ではなかった。また、比較例3の水性コーティング組成物では、保存安定性が良好でなく、濾過した際にもメタクリル酸メチル・メタクリル酸ジエチルアミノエチル共重合体が再凝集してフィルターの目詰まりが発生するなど濾過性も不良であった。その結果、比較例3の水性コーティング組成物では、インクジェット方式での印刷が困難であった。その一方、実施例1~3の水性コーティング組成物では、保存安定性、濾過性及び吐出安定性(寝ぼけ及びノズル詰まり)が良好であり、インクジェット方式での印刷が実用レベルで可能であることが確認された。また、オーバーコート層の性能評価に関し、実施例1~3では印刷画像の剥がれが確認されず、耐擦過性が良好であることが確認された。
【0131】
また、表2から分かる通り、実施例4ではエチルセルロース分散液の固形分濃度を15質量%にし、実施例5ではアンモニオアルキルメタクリレートコポリマー分散液の固形分濃度を10質量%にして、ポリマーエマルジョンの固形分濃度の値を大きくした。しかし、何れの水性コーティング組成物に於いても、インクジェット方式での印刷が可能であった。さらに、表2に示す通り、素錠の最表面には、実施例4の場合では膜厚が18μmのフィルムコーティング層が良好に形成され、実施例5の場合では膜厚が12μmのフィルムコーティング層が良好に形成されていた。これらの結果から、ポリマーエマルジョンの固形分濃度が大きい場合でも、本実施例の水性コーティング組成物ではインクジェット方式での印刷が可能であることが確認された。従って、例えば、厚さ10μm以上のコーティング層も、実施例4及び5の水性コーティング組成物では印刷が可能であり、素錠やOD錠に対し、連続コーティング用インクとして適用可能であることも分かった。
【0132】
さらに、表3から分かる通り、比較例5の水性インク組成物では吐出安定性が良好であるものの、ポリマーエマルジョンではなくエチルセルロース粉体を用いた比較例6や、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー粉体を用いた比較例7では、何れも水不溶性ポリマーの沈降が発生し、保存安定性及び濾過性は不良であった。その結果、比較例6及び7の水性インク組成物では、インクジェット方式での印刷が困難であった。その一方、実施例6~8の水性インク組成物では、黒色顔料としてのカーボンブラックが含まれていても、各水不溶性ポリマーに凝集現象は見られず、良好な保存安定性、濾過性及び吐出安定性(寝ぼけ及びノズル詰まり)を示した。また、インク層の定着性に関する性能評価に関し、実施例6~8では水不溶性ポリマーが有する接着作用や、皮膜形成作用により、顔料が錠剤のフィルムコーティング層表面に良好に定着していることが確認された。