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特許7315393無線端末、そのアップリンク送信制御方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】無線端末、そのアップリンク送信制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/04 20060101AFI20230719BHJP
   H04M 1/00 20060101ALI20230719BHJP
   H04W 52/02 20090101ALI20230719BHJP
   H04W 88/06 20090101ALI20230719BHJP
   H04W 72/0457 20230101ALI20230719BHJP
   H04W 4/00 20180101ALI20230719BHJP
【FI】
H04B1/04 A
H04M1/00 R
H04W52/02 130
H04W88/06
H04W72/0457 110
H04W4/00 111
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019128760
(22)【出願日】2019-07-10
(65)【公開番号】P2021016040
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】318012780
【氏名又は名称】FCNT株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯盛 英二
【審査官】鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-163599(JP,A)
【文献】特開2015-062265(JP,A)
【文献】特開2011-041263(JP,A)
【文献】特開2014-216909(JP,A)
【文献】特表2002-531023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/04
H04M 1/00
H04W 52/02
H04W 88/06
H04W 72/0457
H04W 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アップリンクへ送信するデータを蓄積するバッファを有し、前記バッファに滞留したデータ量を示す滞留量が閾値を超えない場合には第1の無線方式を用いてアップリンク送信を行い、前記滞留量が閾値を超える場合には、前記第1の無線方式と、前記第1の無線方式と異なる第2の無線方式との双方を用いたアップリンク送信を行う無線端末において、
前記バッファへのデータの供給を行い、前記第1の無線方式と第2の無線方式との双方を用いたアップリンク送信の実行を示す、前記アップリンク送信に用いる無線部の温度の急な上昇を検出し、前記無線部の温度の急な上昇を検出した後に、前記無線端末内の温度が上限閾値を超えた又は前記無線端末のバッテリの残量が下限閾値を下回った場合に、前記バッファへのデータの供給量に上限を設ける制御部、
を含むことを特徴とする無線端末。
【請求項2】
前記制御部は、前記無線部の温度の急な上昇を検出した場合における前記バッファへのデータの供給量を記憶し、その後、前記無線端末内の温度が上限閾値を超えた又は前記無線端末のバッテリの残量が下限閾値を下回った場合、前記記憶した供給量を前記上限に設定する
請求項1に記載の無線端末。
【請求項3】
前記制御部は、前記バッファに供給するデータ量に上限を設けた後に、前記無線端末内の温度の低下を検出した場合に、前記上限を解除する、
請求項1又は2に記載の無線端末。
【請求項4】
前記制御部は、前記バッファに供給するデータのうちの第1のデータの単位時間あたりの発生量が前記バッファへのデータの供給量の上限を超える場合に、前記第1のデータの発生源における、前記第1のデータの単位時間あたりの発生量を低下させる要求を出力する
請求項1から3のいずれか一項に記載の無線端末。
【請求項5】
アップリンクへ送信するデータを蓄積するバッファを有し、前記バッファに滞留したデータ量を示す滞留量が閾値を超えない場合には第1の無線方式を用いてアップリンク送信を行い、前記滞留量が閾値を超える場合には、前記第1の無線方式と、前記第1の無線方式と異なる第2の無線方式との双方を用いたアップリンク送信を行う無線端末のアップリンク送信制御方法であって、
前記無線端末が、
前記バッファへのデータの供給を行い、
前記第1の無線方式と第2の無線方式との双方を用いたアップリンク送信を示す、前記アップリンク送信に用いる無線部の温度の急な上昇を検出し、
前記無線部の温度の急な上昇を検出した後に、前記無線端末内の温度が上限閾値を超えた又は前記無線端末のバッテリの残量が下限閾値を下回った場合に、前記バッファへのデータの供給量に上限を設ける
ことを含む無線端末のアップリンク送信制御方法。
【請求項6】
アップリンクへ送信するデータを蓄積するバッファを有し、前記バッファに滞留したデータ量を示す滞留量が閾値を超えない場合には第1の無線方式を用いてアップリンク送信を行い、前記滞留量が閾値を超える場合には、前記第1の無線方式と、前記第1の無線方式と異なる第2の無線方式との双方を用いたアップリンク送信を行う無線端末に、
前記バッファへのデータを供給する処理と、
前記第1の無線方式と第2の無線方式との双方を用いたアップリンク送信の実行を示す、前記アップリンク送信に用いる無線部の温度の急な上昇を検出する処理と、
前記無線部の温度の急な上昇を検出した後に、前記無線端末内の温度が上限閾値を超えた又は前記無線端末のバッテリの残量が下限閾値を下回った場合に、前記バッファへのデータの供給量に上限を設ける処理と
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線端末、そのアップリンク送信制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
3GPP(Third Generation Partnership Project)標準化仕様において、複数のコンポーネントキャリア(CC: Component Carrier)を束ねて通信を行うキャリアアグリゲ
ーション(CA:Carrier Aggregation)が規定されている。3GPPリリース10まで
のLTE(Long Term Evolution)に係るキャリアアグリゲーションでは、一つのeNB
(evolved Node B:基地局)内で運用される複数のコンポーネントキャリアを用いて同時通信を行うことでスループットを向上させている。3GPPリリース12ではeNB内キャリアアグリゲーションを拡張し、異なるeNBで運用されているコンポーネントキャリアを用いて同時通信を行うデュアルコネクティビティ(Dual Connectivity:DC)技術
が導入された。DCは基地局間キャリアアグリゲーション(Inter-eNB Carrier Aggregation)に相当し、スループットのさらなる向上が期待される。
【0003】
3GPPリリース15で規定された5G(第5世代移動通信)では、4G(第4世代移動通信)向けの基地局と5G向けの基地局との同時送受信を行いながら、4G向けのコア網(EPC:Evolved Packet Core)を介して通信を行うことが標準化されている。このような網構成に対応する無線端末(User Equipment: UE)は、5G通信用の無線通信部と、4G通信用の無線通信部とを備え、アップリンク送信用のデータを格納(貯留)するバッファのデータ量(貯留量)が基地局(5G向け)から通知された閾値を超えない間は、5G及び4Gのうちの5Gの無線通信部のみでアップリンク通信を行う。これに対し、閾値を超えた婆には、5G及び4Gの双方の無線通信部を用いた同時送信を行う(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-163599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した5G及び4Gの同時通信は、通信インフラが4Gから5Gへ移行するまでの過渡期における網運用に対応する通信モードである。このため、無線端末への負荷が大きく、無線端末の急激な温度上昇や、バッテリ残量の急速な低下を招来すると考えられる。
【0006】
本発明は、温度上昇やバッテリ残量低下を抑えることのできる無線端末、そのアップリンク送信制御方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施例の一つは、アップリンクへ送信するデータを蓄積するバッファを有し、前記バッファに滞留したデータ量を示す滞留量が閾値を超えない場合には第1の無線方式を用いてアップリンク送信を行い、前記滞留量が閾値を超える場合には、前記第1の無線方式と、前記第1の無線方式と異なる第2の無線方式との双方を用いたアップリンク送信を行う無線端末である。
この無線端末は、前記バッファへのデータの供給を行い、前記第1の無線方式と第2の無線方式との双方を用いたアップリンク送信の実行を示す、前記アップリンク送信に用い
る無線部の温度の急な上昇を検出し、前記無線部の温度の急な上昇を検出した後に、前記無線端末内の温度が上限閾値を超えた又は前記無線端末のバッテリの残量が下限閾値を下回った場合に、前記バッファへのデータの供給量に上限を設ける制御部を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明は、上記無線端末と同様の特徴を有する、無線端末のアップリンク送信制御方法、プログラム、プログラムを記録した記録媒体であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施例によれば、温度上昇やバッテリ残量低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態に係る無線端末が適用されるネットワークシステムの例を示す。
図2図2は、アップリンク通信に係る、無線端末と基地局とのやりとりを示す説明図である。
図3図3Aは、シングル送信の一例を示し、図3Bはデュアル送信の一例を示す。
図4図4は、デュアル送信におけるULデータ(パケット)の流れを示す。
図5図5は、無線端末(UE)の構成例を示す。
図6図6は、無線端末の構成を模式的に示す。
図7図7は、PDCP層に対するULデータの供給量(バッファの滞留量)と時間と閾値との関係を示す。
図8図8は、CPU温度の変化を示すグラフと、バッテリ残量の変化を示すグラフを示す。
図9図9は、デュアルコネクティビティ制御部の処理例を示すフローチャートである。
図10図10は、デュアルコネクティビティ制御部の処理例を示すフローチャートである。
図11図11は、バッファの閾値が基地局によって異なる例を示す。
図12図12は、図12は、基地局AでのCPU温度の遷移及びバッテリ残量の遷移を示す。
図13図13は、基地局BでのCPU温度の遷移及びバッテリ残量の遷移を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
従来技術では、デュアルコネクティビティ(DC)をサポートする端末において、アップリンク(UL)のデータ量が増加してきた場合における、4基地局と5G基地局との同時通信(デュアル送信ともいう)に関して、端末の熱やバッテリの内部状態については考慮されていない。
【0012】
5Gの主要サービスの一例と考えられるリアルタイムストリーミングは、端末のカメラで高精細な動画を撮影しながら、データを圧縮するエンコーディング処理を行う。そして、送信用の大量の送信データが発生した場合には、4G用の送信機と5G用の送信機とを使って同時送信を行い、所定の宛先(例えばコンテンツ配信用サーバ)へデータを送り続ける。
【0013】
しかし、同時送信は端末に大きな負荷をかけるため、同時送信動作を続けると、4G又は5Gを用いた単独での通信(シングル送信ともいう)の場合との比較において端末内の温度が急速に上昇し端末の動作が異常状態に陥る虞があった。また、同時通信は、単独通
信に比べてバッテリ消費も大きく、バッテリ残量が少ない状態での動作も考慮すべきである。以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。実施形態の構成は例示であり、本発明は実施形態の構成に限定されない。
【0014】
<ネットワーク構成例>
図1は、実施形態に係る無線端末が適用される、ネットワークシステムの例を示す。図1において、ネットワークシステムは、マクロセル1を形成するマクロセル基地局1A(基地局1A)と、マクロセル1内に存するスモールセル2を形成するスモールセル基地局2Aとを有する。
【0015】
基地局1Aは、4Gに適合する基地局であり、基地局2Aは、5Gに適合する基地局である。基地局1Aは、制御プレーン(Cプレーン)及びユーザプレーン(Uプレーン)の双方に関して、4G向けのコア網であるEPC5に接続される。基地局2Aは、Cプレーンに関して、基地局1Aを介してEPCに接続され、Uプレーンに関しては直接にEPC5に接続されることができる。5Gは、「第1の無線方式(無線通信規格)」の一例であり、4Gは、「第2の無線方式(無線通信規格)」の一例である。
【0016】
無線端末(UE)10は、4G通信機能と5G通信機能との双方を備えた端末である。UE10は、スモールセル(基地局2A)と接続しての通信と、マクロセル(基地局1A)に接続しての通信とを、夫々個別に、又は同時に(並列に)行うことができる。なお、5G通信を使ったサービスとしては、例えば、低遅延のデータ送受信や、リアルタイムストリーミング配信等、特にUEからの大量データを送信するアップリンク通信サービスが検討されている。
【0017】
図2は、アップリンク通信に係る、UEと基地局(BS)とのやりとりを示す説明図である。UE10は、図2におけるUEとして振る舞うことができる。一方、基地局1A及び2Aの夫々は、図2におけるBSとして振る舞うことができる。
【0018】
図2において、UEは、アップリンク通信(UE→BS方向の通信)用のデータ、すなわち、アップリンク(上りリンク)を用いてBSへ送信するデータ(ULデータとも表記)が発生すると、ULデータは、UEが備えるバッファ内に格納される。UEは、スケジューリングリクエスト(Scheduling Request;SR)と呼ばれるメッセージをBSへ送信する。SRは、ULデータを送信するための無線リソースの割り当てを要求するメッセージである。
【0019】
BSは、SRを受信すると、ULデータ用のリソースの割り当てを行い、割り当て結果(UL送信許可)を示すメッセージ(ULグラント(UL grant)と呼ばれる。以下、単にグラント)を、ダウンリンク通信(下りリンク、BS→UE方向の通信)によりUEへ送信する。UEは、グラントを受信すると、グラントにおいて使用が許可されたリソース(時間及び周波数帯域)を用いて、ULデータと、バッファステータスレポート(Buffer Status Report:BLR(バッファ量報告))と呼ばれるメッセージをBSに送信する。BSRは、バッファに滞留したULデータの量(滞留量)を示す。BSは、自身の通信状況(UEの接続数、送受信データ量)に基づいて、UEに対するバッファの滞留量の閾値を決定し、UEに送信(通知)する。
【0020】
図3Aは、シングル(single)送信の一例を示し、図3Bはデュアル(dual)送信の一例を示す。図3Aにおいて、UE10は、UE10内にあるULデータを格納するバッファ(UE内バッファ)の滞留データの量(データ滞留量)が閾値未満であれば、基地局1A(4G)及び基地局2A(5G)のうちの、基地局2AのみとUL通信を行う。これに対し、図3Bに示すように、UE内バッファのデータ滞留量が閾値以上になると、UEは
、基地局2A及び基地局1Aとの並列なUL通信(デュアル送信)を行う。デュアル送信では、UE10は、基地局1A(4G)と基地局2A(5G)のそれぞれに対し、BSR及びULデータを送信し、バッファの閾値を受け取る。デュアル送信では、ULデータが4G向けのバッファと、5G向けのバッファとに格納される。
【0021】
図4は、デュアル送信におけるULデータ(パケット)の流れを示す。デュアル送信では、UE10から基地局2A及び基地局1AのそれぞれにULデータ(パケット)が送信される。基地局2Aで受信されたバケットは、基地局間回線(X2インタフェース)を介して基地局1Aへ転送され、元のパケット列が生成されて、EPC5へ転送される。
【0022】
5Gの主要サービスの一例と考えられるリアルタイムストリーミングは、端末のカメラで高精細な動画を撮影しながら、データを圧縮するエンコーディング処理を行う。そして、送信用の大量の送信データが発生した場合には、4G用の送信機と5G用の送信機とを使って同時送信を行い、所定の宛先(例えばコンテンツ配信用サーバ)へデータを送り続ける。
【0023】
しかし、デュアル送信は無線端末に大きな負荷をかける。このため、デュアル送信動作を続けると、シングル送信との比較において端末内の温度が急速に上昇し、無線端末が異常状態に陥る虞があった。また、デュアル送信はシングル送信に比べてバッテリ消費も大きく、バッテリ残量が少ない状態での動作も考慮すべきである。
【0024】
実施形態に係る無線端末では、PDCP(Packet Data Convergence Protocol)層の分割の可否を決めるバッファの閾値については、無線端末内で変更せず、IP(Internet Protocol)層からPDCP層に流入するULデータのバッファにおける滞留量を、無線端
末内の温度又はバッテリ残量と共に管理し、デュアル送信を制御する。
【0025】
実施形態に係る無線端末は、デュアル送信の制御のために、PDCP層へのULデータの供給量を調整する。このため、デュアル送信状態に遷移するPDCP層のバッファの閾値が分かることが好ましい。
【0026】
閾値を知る方法としては、PDCP層でULデータを分割するバッファの滞留量の閾値を、PDCP層からIP層に通知してもらうことが考えられる。しかし、バッファの閾値は、プロトコルスタック内の動作パラメータの一部に過ぎない。このため、ハンドオーバ(H/O)等で無線端末が接続するターゲット基地局毎に閾値は変わる。また、PDCP層でULデータを分割し、別々の基地局にSRメッセージを送信しても、UL送信をky化するグラントが各基地局から得られるとは限らない。また、バッファの閾値は、無線端末の状況とは無関係に、接続先の基地局の状況によって変動する。このため、閾値の変更タイミングを事前に知ることはできなかった。
【0027】
上記の事情から、以下の実施形態では、デュアル送信によるUE10の温度上昇に動作異常やバッテリ残量の急な低下を抑えることのできる無線端末、そのアップリンク送信制御方法、及びプログラムについて説明する。また、デュアル送信の制御に伴う送信レートの低下を抑えることのできる無線端末、そのアップリンク送信制御方法、及びプログラムについて説明する。
【0028】
図5は、無線端末(UE)の構成例を示す。図5において、UE10は、バスBを介して相互に接続された、CPU11、記憶装置12、入力装置13、出力装置14、検出回路16、ベースバンド(BB)回路17A及び17Bを含んでいる。BB回路17Aは、RF(Radio Frequency)回路18Aと接続されて5G通信用の無線部20Aをなす。ま
た、BB回路17Bは、RF回路18Bと接続されて5G通信用の無線部20Bをなす。
【0029】
また、UE10は、UE10の各部に動作用の電力を供給するためのバッテリ15を有している。バッテリ15の残量を示すバッテリ電圧は、検出回路16によって検出され、バスBを介してCPU11に通知される。RF回路18A、RF回路18Bのそれぞれには、温度センサ19A、19Bが夫々設けられており、RF回路18A、RF回路18Bのそれぞれの温度はCPU11に通知される。また、CPU11にも、温度センサ21が設けられ、CPU11の温度が測定される。CPU11の温度は、CPU11における処理に使用される。
【0030】
記憶装置12は、主記憶装置と補助記憶装置とを含む。主記憶装置は、例えばRAM(Random Access Memory)、或いはRAMとROM(Read Only Memory)の組み合わせである。主記憶装置は、プログラムやデータの記憶領域、CPU11の作業領域、通信データのバッファ領域(例えばバッファ23)として使用される。補助記憶装置は、プログラムやデータの記憶に使用される。補助記憶装置は、ハードディスク、Solid State Drive(
SSD)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、
フラッシュメモリなどである。
【0031】
入力装置13は、情報の入力に使用される。入力装置13は、キー、ボタン、タッチパネル、ポインティングデバイスなどを含む。また、入力装置13は、カメラやスキャナのような画像や映像の入力装置、マイクロフォンのような音声入力装置も含み得る。出力装置14は、情報やデータの出力に使用される。出力装置14は、例えばディスプレイ装置である。出力装置14は、スピーカのような音声出力装置を含み得る。
【0032】
CPU11は、記憶装置12に記憶されたプログラムを実行することによって、様々な処理を行う。CPU11は、例えば、UL通信に係る、アプリケーション層からIP層までの処理を行い、処理によって生じたULデータを、例えば、記憶装置12の記憶領域に形成されたバッファ23に格納する。バッファ23は、CPU11と接続されたローカルメモリにあってもよい。バッファ23に記憶されたULデータは、5G通信用のBB回路17Aが有するバッファ22Aに格納される。
【0033】
BB回路17Aは、ディジタルデータ(ULデータ)にディジタル変調を施して対する上り方向のベースバンド信号(BB信号)に変換する処理や、アナログBB処理として、BB信号をアナログ信号に変換し、RF回路18Aに送る処理を行う。また、BB回路17Aは、RF回路18Aから受信されるアナログ信号をBB信号に変換する処理、BB信号の復調処理を行ってダウンリンクデータを得る処理を行う。
【0034】
RF回路18Aは、アップリンク及びダウンリンクに共通の構成要素として、デュプレクサを含み、デュプレクサは送受信アンテナに接続されている。アップリンク方向に関して、RF回路18Aは、アップコンバータとパワーアンプ(PA)とを含む。アップコンバータは、BB回路17Aからのアナログ信号(RF信号)を電波の周波数にアップコンバートする。PAはアップコンバートされた信号を増幅する。デュプレクサは、増幅された信号を送受信アンテナに接続し、送受信アンテナは電波を放射する。放射された電波が基地局2Aで受信される。
【0035】
ダウンリンク方向に関して、RF回路18Aは、ローノイズアンプ(LNA)とダウンコンバータとを含む。基地局からの電波は、デュプレクサを介してLNAへ入力され、LNAで低雑音増幅される。低雑音増幅された信号は、ダウンコンバータでアナログ信号(RF信号)の周波数にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた信号は、BB回路に入力される。
【0036】
BB回路17B及びRF回路18Bは、4Gと5Gとで変復調方式などに違いがあるが、ディジタルデータと無線信号との間の変換をアップリンク及びダウンリンク方向のそれぞれにおいて行う点で、BB回路17A及びRF回路18Aと同じである。BB回路17A及び17Bは、例えば、DSP、FPGA、ASICなどの集積回路、2種以上の集積回路の組み合わせなどによって形成される。また、RF回路18A及び18Bは、電気・電子回路によって形成される。
【0037】
プロトコルスタックの観点からは、無線部20A及び無線部20Bは、PDCP層から物理層に係る処理を行う。PDCP層の処理に関して、BB回路17Aは、図3A及びBの説明においてUE内バッファとして説明したバッファ22Aを有する。
【0038】
PDCP層に係る処理において、BB回路17Aは、PDCP層の直上のIP層の処理の結果として生じたULデータがバッファ22Aに格納されると、ULデータが発生したものとして、SRメッセージの送信、グラント受信、ULデータ及びBSRの送信を行う。
【0039】
無線部20Aは、基地局2Aから受信されるバッファの滞留量の閾値を監視し、閾値を超えると、無線部20A及び20Bによるデュアル送信を開始する。すなわち、BB回路17Aは、バッファ22Aに滞留するULデータの一部を、4G通信用のBB回路17Bが有するバッファ22Bに格納する。すると、BB回路22Bが無線部20BにおけるPDCP層の処理を開始する。すなわち、基地局1AへSRメッセージを送信し、基地局1Aからグラントを受信し、バッファ22Bに滞留するULデータ及びBSRの送信を行う。このようにして、デュアル送信、すなわち、無線部20Aによる5Gアップリンク通信と、無線部20Bによる4Gアップリンク通信とが同時(並列)に行われる。
【0040】
その後、バッファ22AのULデータの滞留量が閾値を下回る状態になれば、バッファ22BへのULデータの供給は停止し、無線部20Bを用いたUL通信が停止し、シングル送信の状態に戻る。
【0041】
図6は、無線端末(UE10)の構成を模式的に示す図であり、UE10におけるTCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)層に係る処理とPDC
P層に係る処理とを模式的に示す。CPU11は、プログラムの実行によって、デュアルコネクティビティ(DC)制御部101として動作する。
【0042】
図7は、PDCP層に対するULデータの供給量(バッファの滞留量)と時間と閾値との関係を示す。送信レートが一定との仮定において、ULデータの供給量(滞留量)が基地局2Aから通知される閾値を超えない範囲では、シングル送信が行われ、滞留量が閾値を超える間は、デュアル送信が行われる。デュアル送信は、RF回路18A及び18Bに対して負荷をかけるため、RF回路18A及び18Bの温度は急上昇する。DC制御部101は、温度の急上昇(急峻な上昇)を、デュアル送信状態として検出する。
【0043】
図8は、CPU温度の変化を示すグラフと、バッテリ残量の変化を示すグラフを示す。UE10のデュアル送信状態では、CPU11の負荷が上昇するため、CPU11の温度は発熱によって上昇する。CPU11の温度上昇はCPU11の異常動作(ひいてはUE10の異常動作)の要因となるため、CPU温度の上限値を閾値として用意する。また、デュアル送信状態では、CPU11の負荷が上昇するため、シングル送信状態に比べて消費電力量は大きくなる。このため、バッテリ残量の下限値(閾値)を用意する。
【0044】
図8に示す現象1は、シングル送信状態からデュアル送信状態への遷移に伴い、CPU11の負荷が上昇して温度が上昇するとともに、バッテリ残量の減少量が増加する状況を
示す。現象2は、バッファ22Aの滞留量が減少し、シングル送信状態になると、CPU11の負荷が減少して、温度が低下する状況を示す。また、現象2は、CPU11の負荷減少によってバッテリ残量の減少率が緩やかになる状況を示す。現象3は、再びデュアル送信状態になると、CPU11の温度上昇が見られるとともに、バッテリ残量の減少率が増加する状況を示す。
【0045】
図6図7及び図8のグラフに示すような特性を考慮して、DC制御部101は、以下に示す処理を行う。DC制御部101(CPU11)は、「制御部」の一例である。
(1)温度測定
DC制御部101は、ULデータを送信する際、UE10内の温度センサ19A、19Bの状況を定期的にサンプリング(検出)する。温度センサ19A及び19Bは、RF回路18A、18Bの温度を示す信号を出力する。RF回路18A、18BはUE10の筐体内の例えば基板上に実装されるが、他の実装方法で実装されてもよい。DC制御部101は、温度センサ19A、19BからRF回路18A、18Bの温度を示す情報を取得する。
【0046】
なお、温度センサの数は、二つに限定されず、1又は2以上であってもよい。例えば、デュアル送信か否かを判定可能な温度が得られる限りにおいて、温度センサ19A及び19Bのうち、いずれか一方のみが設けられてもよい。4G用のRF回路と、5G用RF回路とが一つのチップ乃至パッケージで形成されている場合には、1つの温度センサで十分な場合もあり得る。3以上の温度センサを設けて平均値を用いることもあり得る。
【0047】
RF回路18A、18Bの温度を継続的に監視し、急峻な傾き(単位時間あたりの上昇量が閾値以上)が発生している場合にはそれを検出する。急峻な傾きの有無は、現在の通信状態がデュアル送信状態かシングル送信状態かの判定に用いる。急峻な傾き(急な上昇)が検出されると、現在の通信状態がデュアル送信状態と判定する。
【0048】
温度センサ21は、CPU11に内蔵された温度センサであり、温度センサ21によって測定される温度は、デュアル送信状態の継続を維持するか、デュアル送信状態を停止させるかを判定する閾値との比較に用いられる。なお、温度センサ21は、閾値との比較可能なCPU温度を測定できる限りにおいて、非内蔵(外付け)であってもよい。温度センサ21の数は2以上であってもよい。
【0049】
(2)バッテリ残量
DC制御部101は、ULデータを送信する際、UE10内の温度センサ19A、19Bの状況を定期的にサンプリング(検出)する。図5を用いて説明したように、バッテリ15の電圧は、検出回路16(図5)によって検出され、DC制御部101に入力される。DC制御部101は、電圧をバッテリ残量を示す情報として取得する。
【0050】
バッテリ残量の変化速度は、通常、温度の変化(上昇/下降)に比べて遅い。このため、バッテリ残量の変化に関してはデュアル送信状態か判定には用いず、バッファ22Aに供給するデータ量を制限する閾値との比較に用いる。
【0051】
(3)同時送信判定
DC制御部101は、温度センサ19A、19Bによって測定される温度の、単位時間当たりの変化量が閾値を超えるかの判定を行う。閾値を超えると判定される場合、デュアル送信状態と判定される。閾値は記憶装置12又は記憶装置12以外の記憶装置に記憶され、DC制御部101によって使用される。
【0052】
(4)同時送信維持可否判定
記憶装置12、又は記憶装置12以外の記憶装置は、CPU11の温度と比較する閾値と、バッテリ残量と比較する閾値とを記憶している。DC制御部101は、UE10内の温度の温度が閾値を上回るか、又はバッテリ残量が閾値を下回るかの判定を行う。UE10内の温度の温度が閾値未満の状態、又はバッテリ残量が閾値より多い状態は、デュアル送信状態を維持してもよい状態であることを示す。これに対し、UE10内の温度の温度が閾値以上の状態、又はバッテリ残量が閾値以下の状態は、デュアル送信状態を解除すべき(維持しない)状態であることを示す。
【0053】
(5)供給量調整
同時送信維持可否判定において、UE10内の温度の温度が閾値以上、又はバッテリ残量が閾値以下と判定される場合には、DC制御部101は、デュアル送信状態を解除するために、TCP/IP層からPDCP層のバッファ22Aへ供給するデータ量(供給量)を所定値に設定する。所定値は、UE10内の温度の温度が閾値以上、又はバッテリ残量が閾値以下と判定されるより前に測定及び記憶された供給量である。但し、実験や経験則から供給量を予め定める場合もあり得る。
【0054】
供給量の上限設定により、供給量の上限が定まる。すなわち、バッファ22Aに供給されるデータ量に制限がかかるため、いずれはバッファ22Aの滞留量が基地局から通知される閾値以下となり、デュアル送信状態が解除される。なお、バッファ22Aへ供給するULデータは、例えば、バッファ23にて保持する。
【0055】
供給量調整に関して、DC制御部101は、ULデータがリアルタイム性を有するデータ(例えば、ストリームデータ)か否かを判定する。リアルタイム性のあるデータに関しては情報源(カメラなど)に、データ量を引き下げるリクエスト(撮像画質を低下させるリクエスト)を出す。リアルタイム性を有しないULデータについては、供給順の優先度(Priority)を下げて、リアルタイム性を有するULデータが優先的にバッファ22Aへ供給されるようにする。
【0056】
図9及び図10は、DC制御部101の処理例を示すフローチャートである。本実施形態では、CPU11がDC制御部101として動作する例を示すが、CPU11以外のプロセッサや集積回路がDC制御部101としての処理を行うようにしてもよい。
【0057】
S01において、DC制御部101は、5Gサービス(5G用の無線部20Aを用いたUL送信)が稼働中かを判定する。この判定は、例えば、バッファ23に蓄積された、情報源(入力装置13など)からのULデータをPDCP層(バッファ22A)に供給しているか否かを以て判定することができる。5Gサービスが稼働中でないと判定される場合には、DC制御部101は、ULデータ供給量をリセットし(S02)、処理をS01に戻す。これに対し、5Gサービスが稼働中である判定される場合には、DC制御部101は、処理をS03に進める。
【0058】
S03では、DC制御部101は、RF温度、CPU温度、及びバッテリ残量を測定する。S04では、DC制御部101は、RF温度が急上昇しているか否か(すなわち、単位時間あたりの温度の上昇率が閾値を超えるか否か)を判定する。RF温度が急上昇と判定される場合には、処理がS05に進み、そうでないと判定される場合には、処理がS06に進む。S04の処理では、RF温度として、RF回路18Aの温度と、RF回路18Bの温度との少なくとも一方が急上昇しているかを判定してもよく、RF回路18Aの温度とRF回路18Bの温度とを何らかの方法でまとめた値(平均値)をRF温度として用いてもよい。
【0059】
S05に処理が進むことは、UE10がデュアル送信状態であると判定されたことを意
味する。DC制御部101は、このときのULデータの供給量をデュアル送信時のULデータ供給量として、記憶装置12又は記憶装置12以外の記憶装置に記憶する。その後、処理がS06に進む。
【0060】
S06では、DC制御部101は、S03で取得したCPU温度がCPU温度の閾値以上であるか、又はバッテリ残量がバッテリ残量の閾値以下かを判定する。CPU温度が閾値未満であり、且つバッテリ残量が閾値より大きいと判定される場合は、処理がS07に進む。これに対し、S03で取得したCPU温度がCPU温度の閾値以上、又はバッテリ残量がバッテリ残量の閾値以下と判定される場合には、処理がS08に進む。
【0061】
S07に処理が進んだ場合、通常動作モードとしての動作をDC制御部101は行う。すなわち、DC制御部101は、ULデータの供給量に制限のない状態で、ULデータをPDCP層に供給し、シングル送信又はデュアル送信を行わせる。S07の終了後、処理はS01に戻る。
【0062】
S08に処理が進んだ場合、DC制御部101はバッファ供給量上限モードで動作を行う。すなわち、S05で記憶した、単位時間当たりのULデータ供給量をPDCP層に対する供給量の上限に設定し、この上限の範囲でPDCP層にULデータを供給する。
【0063】
S09に処理が進んだ場合では、DC制御部101は、情報源(入力装置13など)から送られてくる情報源データ量(すなわちULデータ量)がPDCP層供給量を上回っているかを判定する。例えば、DC制御部101は、バッファ23に対し、単位時間当たりに流入する(蓄積される)ULデータの量(バッファ23への流入量)が、バッファ23からPDCP層へ供給されるULデータの単位時間当たりの供給量(PDCP供給量)を上回るかを判定する。バッファ23への流入量がPDCP供給量を上回ると判定される場合には、処理がS10に進み、そうでないと判定される場合には、処理がS01に戻る。
【0064】
S10に処理が進んだ場合では、DC制御部101は、現在稼働中のアプリケーションプログラム(アプリ)のリスト(記憶装置12上に作成される)を参照し、アプリがリアルタイム性を要するアプリが稼働中か否かを判定する。リアルタイム性を要するアプリ(例えばビデオストリームをアップロードするアプリ)が稼働中であると判定される場合には処理がS11に進み、そうでないと判定される場合には、処理がS01に戻る。
【0065】
S11に処理が進んだ場合では、DC制御部101は、アプリに対し、情報源からの情報量の低下を要求する。例えば、情報源(例えばカメラ)が撮像する画像データの解像度(フレームサイズ)の低下を要求する。S11の処理が終了すると、処理はS01に戻る。
【0066】
<動作例>
上述したように、UE10内のDC制御部101はRF温度、CPU温度、バッテリ残量を周期的に測定し(S03)、RF温度の急上昇を監視する(S04)。RF温度の急上昇は、5Gを用いたUL送信の開始後、ULデータ量が増加するにつれて、RF回路18A、18Bの温度経変化(上昇)の傾き(単位時間あたりの上昇量)が大きくなる。DC制御部101は、この温度変化をデュアル送信の実施として検知する。DC制御部101は、デュアル送信の実施を検知した時点でのULデータ供給量を記憶する。このULデータ供給量は、デュアル送信をトリガするデータ量と認識する。
【0067】
DC制御部101は、デュアル送信状態になってもしばらくはULデータの供給量に制限を設けない状態を維持する(S01→S03→S04→S06→S07→S01のループ)。但し、DC制御部101は、S06において、S03で測定したCPU温度が上限
以上になっていないか、又はバッテリ残量下限以下になっていないかを監視する(S06)。
【0068】
CPU温度が上限以上となった場合、或いはバッテリ残量が下限以下となった場合には、温度を可能な限り早期に下げる動作を行う。このため、RF温度が急上昇したときに記憶したULデータ供給量を、PDCP層への供給量の上限に設定する(S08)。これによって、DC制御部101は。、S01→S03→S04→S06→S08→S09→S01のループで処理を行う。バッファ供給量上限モードでは、設定したULデータ供給量は維持され、バッファ供給量上限モードが解除されるまで更新されない。
【0069】
PDCP層へのULデータ供給量の上限が設定されることで、PDCP層のバッファ22Aに蓄積されるULデータ量が低下し、基地局から通知される閾値を下回る状態になると、デュアル送信状態が解除され、シングル送信となる。
【0070】
デュアル送信状態の解除によって、CPU11の負荷が減少し、CPU温度が低下していく。そして、S06において、CPU温度が上限閾値を下回る状態になる(或いは、充電によってバッテリ残量が下限閾値を上回る状態となる)と、バッファ供給量上限モードから通常動作モードへ遷移する。通常動作モードでは、ULデータ供給量の上限がなくなり、無制限となる。
【0071】
上記したようなデュアル送信の制御を行うことによって、5G用の無線部20A単体(1回線)で送信できるULデータの最大送信レートは維持しつつ、UE10のさらなる温度上昇を避けることができる。
【0072】
UE10における温度上昇の傾き、バッテリ消費の傾きとULデータ量の関係は基地局間で一定ではなく、バッファ22Aの閾値は基地局毎に異なっている。このため、DC制御部101は、図9及び図10の処理を繰り返し行い、デュアル送信がなされるときのULデータ供給量を記憶する処理を行う。
【0073】
図11は、バッファの閾値が基地局によって異なる例を示す。図11の上側のグラフは、基地局A(例えば図1の基地局1A)にUE10が接続している場合のUEデータ供給量の遷移を示す。これに対し、図11の下側のグラフは、基地局B(基地局1A以外の4G基地局)へハンドオーバした場合における、データ供給量の遷移の例を示す。図11に示すように、基地局Aと基地局Bとでは、UE10に通知する、バッファ22Aの閾値が異なる(差分が存在する)。このため、基地局Bへの接続状態では、デュアル送信状態となる閾値が基地局Aと異なる。
【0074】
図12は、基地局AでのCPU温度の遷移及びバッテリ残量の遷移を示し、図13は、基地局BでのCPU温度の遷移及びバッテリ残量の遷移を示す。図12及び図13に示すように、基地局Aと基地局Bとは、UE10に通知する閾値が異なるため、CPU温度やバッテリ残量の遷移も異なる。
【0075】
また、実施形態では、図10のS09~S11に示すように、通信サービスがリアルタイム性を有するサービスかどうかを考慮する。リアルタイム性のあるサービスに対しては送信レートの低下に合わせてデータ量の低減を図り、サービス利用を継続可能とする。すなわち、ユーザの利便性を確保可能とする。
【0076】
実施形態に係るUE10(無線端末)は、UL送信するデータを蓄積するバッファ22Aを有し、バッファ22Aに滞留したデータ量を示す滞留量が閾値を超えない場合には5G(第1の無線方式)を用いてUL送信を行い、滞留量が閾値を超える場合には、5G及
び4G(第2の無線方式)を用いたUL送信を行う。UE10は、バッファ22Aへのデータの供給を行い、5G及び4Gを用いたUL送信の実行を示す、無線部20A、20Bの温度の急な上昇を検出し、温度の急上昇の検出後に、UE10内の温度(本実施形態ではCPU温度)が上限閾値を超えた、又はバッテリ15の残量が下限閾値を下回った場合に、バッファ22Aへのデータの供給量に上限を設けるDC制御部101(CPU11:制御部)を含む。
【0077】
これによって、デュアル送信が継続することでUE10の温度が上昇してUE10の動作に異常が生じることや、UE10のバッテリ残量が急に低下するのを回避することができる。
【0078】
DC制御部101は、無線部20A、20Bの温度の急な上昇を検出した場合における、バッファ22Aへのデータの供給量を記憶し、その後、UE10内の温度が上限閾値を超えた又はバッテリ15の残量が下限閾値を下回った場合、記憶した供給量を上限に設定する。これによって、上限設定によっても、UL送信の送信レートが大きく低下するのを抑え、シングル送信における最大の送信レートでシングル送信を行うことを可能にする。
【0079】
また、DC制御部101は、バッファ22Aに供給するデータ量に上限を設けた後に、UE10内の温度(CPU温度)の低下を検出した場合に、上限を解除する。これによって、再びデュアル送信の実行が可能となる。
【0080】
また、DC制御部101は、バッファ22Aに供給するデータのうちの第1のデータ(リアルタイム性を有するデータ)の単位時間あたりの発生量(情報源データ量)がバッファ22Aへのデータの供給量(PDCP層供給量)の上限を超える場合に、第1のデータの発生源(例えば、入力装置13、カメラ)における、第1のデータの単位時間あたりの発生量を低下させる要求(リクエスト)を出力する。これによって、サービスの利用を継続可能とする。
【0081】
なお、上述した実施形態では、S06の処理において、CPU温度が閾値以上、又はバッテリ残量が閾値未満かを判定している。但し、この構成に代えて、DC制御部101がS06の処理においてCPU使用率(CPU動作量)を取得し、CPU使用率が閾値以上かを判定するようにしてもよい。また、PDCP層供給量の上限を解除する閾値判定についても、CPU使用率を用いてもよい。また、PDCP層供給量の上限を設ける場合の閾値と異ならせて、ヒステリシス動作が行われるようにし、チャタリングが回避されるようにしてもよい。以上説明した実施形態の構成は適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0082】
1A、2A・・・基地局
10・・・無線端末(UE)
11・・・CPU
12・・・記憶装置
13・・・入力装置
14・・・出力装置
15・・・バッテリ
19A、19B・・・RF回路
20A、20B・・・無線部
101・・・デュアルコネクティビティ制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13