(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】銅粒子
(51)【国際特許分類】
B22F 1/102 20220101AFI20230719BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230719BHJP
H01B 5/00 20060101ALI20230719BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20230719BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
B22F1/102
B22F1/00 L
H01B5/00 E
H01B1/00 E
H01B1/22 A
(21)【出願番号】P 2019146441
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋澤 瑞樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆史
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-168878(JP,A)
【文献】特開2017-095780(JP,A)
【文献】特開2013-047365(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107460464(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に有機表面処理剤が施されている銅粒子であって、
前記有機表面処理剤が、炭素原子数が相対的に多い第1処理剤と、炭素原子数が相対的に少ない第2処理剤とを含み、
第1処理剤の炭素原子数が6以上18以下であり、第2処理剤の炭素原子数が1以上5以下であり、
第1処理剤が脂肪族有機酸からなり、第2処理剤が脂肪族有機酸塩からなる、銅粒子。
【請求項2】
第1処理剤の炭素原子数が
12以上18以下である、請求項1に記載の銅粒子。
【請求項3】
第2処理剤の炭素原子数が1以上
3以下である、請求項1又は2に記載の銅粒子。
【請求項4】
第2処理剤が一価のカチオンの塩である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の銅粒子。
【請求項5】
第2処理剤がアンモニウム塩である、請求項4に記載の銅粒子。
【請求項6】
一次粒子の平均粒径が0.1μm以上0.6μm以下である、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の銅粒子。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の銅粒子と、有機溶媒とを含む、導電性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅粒子に関する。本発明の銅粒子は、例えば導電性組成物の原料や、焼結材料の原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
本出願人は先に、一次粒子の平均粒径が0.1μm以上0.6μm以下であり、粒子表面に有機表面処理剤が施されており、該有機表面処理剤が施された状態での粒子に占める該有機表面処理剤の割合が、炭素原子換算で0.25質量%以上5.50質量%以下である銅粒子に関する技術を提案した(特許文献1参照)。この技術においては表面処理剤として炭素数6以上18以下の脂肪酸又は脂肪族アミンが好適に用いられる。この技術によれば、銅粒子の低温焼結性が良好になるという利点がある。またこの技術によれば、表面処理剤による銅の酸化を防止しつつ、比抵抗が低く、かつ基材との密着性が高い導体膜を容易に形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載の技術によれば、銅粒子及び有機溶媒を含むペーストやインクなどの組成物を基板上に塗布し、それによって形成された塗膜を焼成することによって導体膜を形成することができる。焼成には水素や一酸化炭素等の還元性雰囲気、及び水素-窒素混合雰囲気等の弱還元性雰囲気が好ましいと、同文献には記載されている。
【0005】
還元性雰囲気での焼成によれば導電性の高い導体膜を首尾よく形成することができる。しかし、工業的には還元性雰囲気や弱還元性雰囲気よりも、不活性雰囲気又は酸化性雰囲気での焼成によっても導電性の高い導体膜を形成できることが有利である。還元性雰囲気以外の雰囲気での焼結を可能にするためには、銅粒子の表面に施す処理剤の量を減らすことが有利である。しかし、その場合には粒子の凝集が甚だしくなり、導体膜の表面を平滑にすることが容易でない。表面が粗い導体膜は、電気抵抗が局所的に異なりやすく、そのことに起因して導電信頼性が低下する場合がある。
【0006】
したがって本発明の課題は、銅粒子の焼結性の向上及び凝集防止に関し、更に詳しくは、凝集を防止しつつ、還元性雰囲気以外の雰囲気でも低温での焼結が可能な銅粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決すべく本発明者は鋭意検討した結果、銅粒子の表面を被覆する処理剤として特定の組み合わせを採用することによって、銅の酸化防止と、粒子の凝集防止という、これまで相容れなかった二つの課題を同時に解決し得ることを知見した。本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、
表面に有機表面処理剤が施されている銅粒子であって、
前記有機表面処理剤が、炭素原子数が相対的に多い第1処理剤と、炭素原子数が相対的に少ない第2処理剤とを含み、
第1処理剤が脂肪族有機酸からなり、第2処理剤が脂肪族有機酸塩からなる、銅粒子を提供することによって前記の課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、還元性雰囲気以外の雰囲気でも低温焼結性に優れ、且つ焼結によって得られた導体膜の表面平滑性にも優れた銅粒子が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の銅粒子は、該粒子の表面に有機表面処理剤が施されているものである。これによって、有機表面処理剤からなる表面処理層が、銅を含む金属からなる芯部の表面を連続的に又は不連続的に覆うように形成されている。有機表面処理剤は、銅の酸化と、粒子の凝集との双方を抑制するために用いられる。
【0010】
本発明に用いられる有機表面処理剤は、複数の処理剤を含んでいる。詳細には、有機表面処理剤は、脂肪族有機酸からなる第1処理剤と、脂肪族有機酸塩からなる第2処理剤とを含んでいる。第1処理剤は、その炭素原子数が第2処理剤の炭素原子数よりも多いものである。つまり、第1処理剤は、炭素原子数が相対的に多いものであり、また、第2処理剤は炭素原子数が相対的に少ないものである。
【0011】
本技術分野においては、銅粒子における銅の酸化の抑制と、粒子どうしの凝集の抑制とを両立するために、炭素原子数が比較的多い有機表面処理剤が用いられてきた。しかし、このような処理剤は、該処理剤の分解温度が高く、銅粒子の焼結時に残存することがあった。このことに起因して、焼結開始温度が上昇したり、銅粒子どうしの焼結後に得られる導体膜の抵抗が高くなったりすることがあった。この問題点を解決すべく本発明者が鋭意検討したところ、炭素原子数が相対的に多い第1処理剤に加えて、炭素原子数が相対的に少ない第2処理剤を組み合わせて用いることによって、銅の酸化及び粒子どうしの凝集の双方を抑制しつつ、焼結開始温度を低くすることができ、その結果、粒子どうしの低温焼結性を向上しつつ、焼結後に得られる導体膜の抵抗を低くすることができることを見出した。
【0012】
銅の酸化抑制と粒子どうしの凝集抑制とを両立させる観点から、脂肪族有機酸からなる第1処理剤における炭素原子数は、6以上18以下であることが好ましく、12以上18以下であることが更に好ましい。このような脂肪族有機酸としては、例えば、直鎖又は分枝鎖であり且つ飽和又は不飽和であるカルボン酸、あるいは直鎖又は分枝鎖であり且つ飽和又は不飽和である炭化水素基を有するスルホン酸等が挙げられ、好ましくは直鎖であり、且つ飽和又は不飽和のカルボン酸である。カルボン酸の具体例としては、クエン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸等が挙げられ、好ましくはラウリン酸、オレイン酸及びステアリン酸であり、更に好ましくはラウリン酸及びステアリン酸である。スルホン酸の具体例としては、ヘキサンスルホン酸、ヘプタンスルホン酸、オクタンスルホン酸、ノナンスルホン酸、デカンスルホン酸、ラウリンスルホン酸、パルミチンスルホン酸、オレインスルホン酸、ステアリンスルホン酸等が挙げられる。これらの脂肪酸は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
銅の酸化抑制と粒子の凝集抑制とを両立させつつ、粒子どうしの低温焼結性を高める観点から、脂肪族有機酸塩からなる第2処理剤における炭素原子数は、1以上5以下であることが好ましく、1以上3以下であることが更に好ましい。このような脂肪族有機酸塩としては、例えば、直鎖又は分枝鎖であり、且つ飽和又は不飽和のカルボン酸の塩、あるいは直鎖又は分枝鎖であり且つ飽和又は不飽和である炭化水素基を有するスルホン酸の塩等が挙げられ、好ましくは直鎖飽和カルボン酸塩である。脂肪族有機酸塩の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、シュウ酸等のカルボン酸、若しくはエタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸等のスルホン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、又は前記カルボン酸若しくは前記スルホン酸の無置換若しくは第一級ないし第四級アンモニウム塩等のアンモニウム塩等が挙げられる。これらの脂肪酸塩は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
これらのうち、第2処理剤は、一価のカチオンの塩であることが好ましく、脂肪族有機酸のアンモニウム塩であることがより好ましく、脂肪族有機酸の無置換アンモニウム塩であることが更に好ましい。このような例としては、カルボン酸又はスルホン酸のアンモニウム塩が好ましく、カルボン酸又はスルホン酸の無置換若しくは第一級ないし第四級アンモニウム塩であることがより好ましく、カルボン酸又はスルホン酸の無置換アンモニウム塩であることが更に好ましい。
【0015】
アルカリ金属塩を用いる場合には、銅粒子の焼結時にアルカリ金属が残存し、焼結体における銅の純度が低下することがあるところ、このような脂肪族有機酸塩を用いることによって、銅の酸化抑制と粒子の凝集抑制とを両立させつつ、第2処理剤の分解温度を低くして、粒子の焼結時に第2処理剤が導体膜中に残存することを低減することができる。その結果、還元性雰囲気以外の雰囲気でも粒子どうしの低温焼結性に一層優れ、得られる導体膜の表面平滑性に優れたものとなる。特に、第2処理剤としてアンモニウム塩を用いることによって、粒子の焼結時に、第2処理剤の分解及び揮発を容易に進行させることができ、且つ第2処理剤が導体膜中に残存しづらくなるので有利である。この効果をより一層顕著なものとする観点から、第2処理剤における炭素原子数は低いほど好ましく、第2処理剤としてギ酸アンモニウム(HCOONH4)及び酢酸アンモニウム(CH3COONH4)の少なくとも一種を用いることが更に好ましく、ギ酸アンモニウムを用いることがより一層好ましい。
【0016】
二種の処理剤を含む有機表面処理剤は、例えば、銅粒子を製造した後の工程において、得られた銅粒子と該有機表面処理剤とを混合することによって、粒子表面に施すことができる。有機表面処理剤を施す量は、該有機表面処理剤が施された状態での銅粒子に占める該有機表面処理剤全体の割合(質量%)で表して、炭素原子換算で0.2質量%以上2.0質量%以下とすることが好ましく、0.3質量%以上1.0質量%以下とすることが更に好ましい。このような範囲にあることで、有機表面処理剤による銅粒子表面の酸化被膜の除去や、共融解による効果によって、銅粒子どうしの融解温度を低温化することができ、その結果、還元性雰囲気以外の雰囲気でも低温焼結性を高めることができる。
【0017】
銅粒子の表面に施された有機表面処理剤全体の割合(質量%)は、次のようにして測定することができる。有機表面処理剤が施された銅粒子の集合体である銅粉0.5gを、炭素・硫黄分析装置(堀場製作所製、EMIA-320V)にて酸素気流中で加熱し、銅粉中の炭素分をCOあるいはCO2に分解させてその量を定量することで測定できる。
【0018】
また第1処理剤及び第2処理剤の定性及び定量は、例えば核磁気共鳴(NMR)法、ラマン分光法、赤外分光法、液体クロマトグラフィー法、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)等を用いて行うことができる。
【0019】
銅粒子の低温での焼結性の向上と、該粒子の焼結によって得られる導体膜の表面平滑性の向上とを両立する観点から、有機表面処理剤が施された銅粒子において、その一次粒子の平均粒径が、好ましくは0.1μm以上0.6μm以下、更に好ましくは0.15μm以上0.4μm以下である。一次粒子とは、外形上の幾何学的形態から判断して、粒子としての最小単位と認められる物体のことをいう。
【0020】
一次粒子の平均粒径は、例えば走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製JSM-6330F)を用い、倍率10000倍又は30000倍で銅粒子を観察し、視野中の粒子200個について水平方向フェレ径を測定し、これらの測定値から、球に換算した体積平均粒径を算出することができる。
【0021】
上述のとおり、本発明の銅粒子は、有機表面処理剤からなる表面処理層が、銅を含む金属からなる芯部を覆うように形成されている。芯部は、銅を主体として含んでおり、好ましくは銅を80質量%以上含み、更に好ましくは銅及び残部不可避不純物のみからなる。
【0022】
また、銅粒子の形状は球状であることが、粒子の分散性を高めて、表面平滑性の高い導体膜を得る観点から好ましい。球状の銅粒子を得るためには、例えば芯部を構成する金属粒子の形状を球状とすればよい。なお、粒子が球状であるとは、以下の方法で測定した円形度係数が好ましくは0.85以上、更に好ましくは0.90以上であることをいう。円形度係数は、次の方法で算出される。金属粒子の走査型電子顕微鏡像を撮影し、粒子どうしが重なり合っていないものを無作為に1000個選び出す。粒子の二次元投影像の面積をSとし、周囲長をLとしたときに、粒子の円形度係数を4πS/L2の式から算出する。各粒子の円形度係数の算術平均値を上述した円形度係数とする。粒子の二次元投影像が真円である場合は、粒子の円形度係数は1となる。
【0023】
以下に、本発明の銅粒子の好適な製造方法について説明する。本製造方法は、芯部となる銅の粒子を生成させる工程(生成工程)、得られた該粒子を洗浄処理する工程(洗浄工程)、及び該粒子の表面に有機表面処理剤を施す工程(表面処理工程)の三つに大別される。このような工程を経ることによって、上述した物性を有する銅粒子を容易且つ簡便に得ることができる。
【0024】
まず、芯部となる銅の粒子(以下、この粒子を「銅芯粒子」ともいう。)を生成させる。銅芯粒子の製造方法としては、例えば特開2015-168878号公報に記載の方法で製造することできる。すなわち、水と、好ましくは炭素原子数が1以上5以下の一価アルコールとを含む液媒体に、塩化銅、酢酸銅、水酸化銅、硫酸銅、酸化銅又は亜酸化銅等の一価又は二価の銅源を含む反応液を調製する。この反応液とヒドラジンとを、銅1モルに対して好ましくは0.5モル以上50モル以下の割合となるように混合し、該銅源を還元して、銅芯粒子を得る。本工程で得られる銅芯粒子は、その表面に有機表面処理剤が施されていないものである。
【0025】
次いで、上述の工程で得られた銅芯粒子を洗浄処理する。洗浄方法としては、例えばデカンテーション法や、ロータリーフィルター法等が挙げられる。ロータリーフィルター法で銅芯粒子を洗浄する場合、例えば銅芯粒子を水等の溶媒に分散させた水性スラリーを調製し、該スラリーの導電率を好ましくは2.0mS以下となるまで洗浄を行う。このときの洗浄条件は、例えば、洗浄溶媒として水を用いた場合、洗浄温度を15℃以上30℃以下、洗浄時間を10分以上60分以下とすることができる。スラリーの導電率を上述の範囲とすることによって、洗浄対象の銅芯粒子が凝集することなく均一に分散したままで、後述する表面処理を効率よく行うことができる。このスラリー中の銅芯粒子の含有割合は、洗浄効率の向上と粒子の分散性の向上とを両立する観点から、好ましくは5質量%以上50質量%以下である。
【0026】
続いて、洗浄後の銅芯粒子に対して、有機表面処理剤による表面処理を行う。表面処理の方法として、洗浄後の銅芯粒子を水等の溶媒に分散させた水性スラリーに、第1処理剤及び第2処理剤のうち一方を添加して表面処理を行った後、他方の処理剤を添加して表面処理を行ってもよく、あるいは、該スラリーに、第1処理剤及び第2処理剤を同時に添加して表面処理を行ってもよい。銅芯粒子のスラリーは、洗浄工程で得られたスラリーをそのまま用いてもよく、該スラリーを固液分離して得られた固形分を洗浄工程で用いた溶媒と同一の又は異なる溶媒に更に分散させたスラリーを用いてもよい。銅芯粒子に対して表面処理を均一に行う観点から、第1処理剤を添加して表面処理を行った後、第2処理剤を添加して表面処理を行うことが好ましい。
【0027】
処理剤を順次添加して表面処理を行う方法を例にとり以下に説明する。まず洗浄工程を経て得られた銅芯粒子を含むスラリーを第1処理剤の融点以上(例えば25℃以上70℃以下)に加熱し、その状態下で、水と相溶性のある有機溶媒に溶解させた第1処理剤を該スラリーに瞬時に加え、その後1時間撹拌して、銅芯粒子の表面に第1処理剤を施す。
【0028】
第1処理剤を用いた表面処理において、銅芯粒子を含むスラリー中の第1処理剤の含有量は、表面処理剤を処理していない銅芯粒子100質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上2.0質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上1.5質量部以下とする。このような量で表面処理を行うことによって、上述した炭素原子割合で表面処理された銅粒子を得ることができる。
【0029】
次いで、第1処理剤が施された銅芯粒子含むスラリーを固液分離して固形物を得、該固形物を有機溶媒に分散させてスラリーとする。このスラリーに、有機溶媒に溶解させた第2処理剤を瞬時に加える。その後、有機溶媒を乾燥等によって除去して、銅芯粒子の表面に第1処理剤及び第2処理剤を含む有機表面処理剤が施された銅粒子を得る。この方法によって得られた銅粒子は、銅芯粒子の表面に第1処理剤と第2処理剤とを含む表面処理層が形成されたものとなる。
【0030】
第2処理剤を用いた表面処理において、銅芯粒子を含むスラリー中の第2処理剤の含有量は、表面処理剤を処理していない銅芯粒子100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上2.0質量部以下、より好ましくは0.2質量部以上1.0質量部以下とする。このような量で表面処理を行うことによって、上述した炭素原子割合で表面処理された銅粒子を得ることができる。
【0031】
表面処理工程において用いられる有機溶媒は、炭素原子数が1以上5以下である一価アルコール、多価アルコール、多価アルコールのエステル、ケトン、エーテル等を挙げることができる。これらのうち、水との相溶性、経済性、取扱い性及び除去の容易性の観点から、炭素原子数が1以上5以下の一価アルコールを用いることが好ましく、メタノール水溶液、エタノール、n-プロパノール、又はイソプロパノールを用いることが更に好ましい。
【0032】
以上の工程を経て得られた本発明の銅粒子は、必要に応じて洗浄や固液分離を行った後、該粒子を水や有機溶媒等の溶媒に分散させたスラリーの形態で用いてもよく、該粒子を乾燥させて、銅粒子の集合体である乾燥粉の形態で使用することができる。いずれの場合であっても、本発明の銅粒子は、構成金属である銅の酸化が抑制され、且つ粒子の凝集が抑制されたものとなる。また、本発明の銅粒子は、後述するように、有機溶媒や樹脂等に更に分散させて、導電性インクや導電性ペースト等の導電性組成物の形態で用いることもできる。
【0033】
本発明の銅粒子を含む導電性組成物は、該銅粒子及び有機溶媒を少なくとも含んで構成される。有機溶媒としては、金属粉を含む導電性組成物の技術分野においてこれまで用いられてきたものと同様のものを特に制限なく用いることができる。そのような有機溶媒としては、例えば一価アルコール、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、多価アルコールアリールエーテル、ポリエーテル、エステル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、飽和炭化水素などが挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、高い還元作用を有し、焼結時における銅粒子の意図しない酸化を防ぐ観点から、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールなどのポリエーテルを用いることが好ましい。同様の観点から、有機溶媒としてポリエチレングリコールを用いる場合、その数平均分子量は、120以上400以下であることが好ましく、180以上400以下であることが更に好ましい。
【0034】
本発明の導電性組成物には、必要に応じて、分散剤、有機ビヒクル及びガラスフリットの少なくとも一種を更に添加してもよい。分散剤としては、ナトリウム、カルシウム、リン、硫黄及び塩素等を含有しない非イオン性界面活性剤等の分散剤等が挙げられる。有機ビヒクルとしては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等の樹脂成分と、ターピネオール及びジヒドロターピネオール等のテルペン系溶剤、エチルカルビトール及びブチルカルビトール等のエーテル系溶剤等の溶剤とを含む混合物が挙げられる。ガラスフリットとしては、例えばホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸バリウムガラス、ホウケイ酸亜鉛ガラス等が挙げられる。
【0035】
また本発明の導電性組成物には、導電性組成物の各種の性能を一層高めることを目的として、必要に応じて、本発明の銅粒子に加えて、該銅粒子と同一若しくは異なる金属組成を有する金属粒子、あるいは該銅粒子と同一若しくは異なる粒子形状を有する金属粒子を適宜配合してもよい。
【0036】
本発明の導電性組成物は、これを基板上に塗布して塗膜とし、この塗膜を加熱して焼結させることによって、銅を含む導体膜を形成することができる。導体膜は、例えばプリント配線板の回路形成や、セラミックコンデンサの外部電極の電気的導通確保のために好適に用いられる。基板としては、銅粒子が用いられる電子回路の種類に応じて、ガラスエポキシ樹脂等からなるプリント基板や、ポリイミド等からなるフレキシブルプリント基板が挙げられる。
【0037】
本発明の導電性組成物における銅粒子及び有機溶媒の配合量は、該導電性組成物の具体的な用途や該導電性組成物の塗布方法に応じて調整可能であるが、導電性組成物における銅粒子の含有割合は、好ましくは5質量%以上95質量%以下、より好ましくは80質量%以上90質量%以下である。塗布方法としては、例えばインクジェット法、ディスペンサ法、マイクロディスペンサ法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレー塗布法、バーコーティング法、ロールコーティング法などを用いることができる。
【0038】
形成された塗膜を焼結させる際の加熱温度は、銅粒子の焼結開始温度以上であればよく、例えば170℃以上300℃以下とすることができる。加熱時における雰囲気は、例えば酸化性雰囲気下、又は非酸化性雰囲気下で行うことができる。酸化性雰囲気としては、例えば酸素含有雰囲気が挙げられる。非酸化性雰囲気としては、例えば水素や一酸化炭素等の還元性雰囲気、水素-窒素混合雰囲気等の弱還元性雰囲気、アルゴン、ネオン、ヘリウム及び窒素等の不活性雰囲気が挙げられる。いずれの雰囲気を用いる場合であっても、加熱時間は、上述の温度範囲で加熱することを条件として、好ましくは1分以上3時間以下、更に好ましくは3分以上2時間以下とする。
【0039】
このようにして得られた導体膜は、本発明の銅粒子の焼結によって得られたものであるので、比較的低温の条件で焼結を行った場合でも、十分に焼結を進行させることができる。また焼結時には、銅粒子が低温でも溶融するので、銅粒子どうし、あるいは銅粒子と基材の表面との接触面積を大きくすることができ、その結果、接合対象物との密着性が高く、且つ密な焼結構造を効率良く形成することができる。更に、得られた導体膜は、表面平滑性が高く、導電信頼性が高いものとなる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0041】
〔実施例1〕
特開2015-168878号公報の実施例1に記載の方法に準じて、有機表面処理剤が施されていない球状の銅芯粒子(銅:100質量%)が水に分散したスラリーを製造した。このスラリーをロータリーフィルターによって25℃で30分間洗浄して、洗浄処理された銅芯粒子のスラリーを得た。洗浄後の導電率は1.0mSであり、スラリー中の銅芯粒子の含有量は、1000g(10質量%)であった。
【0042】
次いで、洗浄処理された銅芯粒子のスラリーを50℃に加熱し、この状態下で、第1処理剤として、ラウリン酸10gをメタノール100mLに溶解させた第1処理剤溶液を瞬時に添加し、50℃で1時間撹拌した。その後、ろ過により固液分離を行い、第1処理剤で表面処理された銅芯粒子を固形分として得た。
【0043】
続いて、第1処理剤で表面処理された銅芯粒子の200gをイソブタノール40mLに分散させてスラリーとし、その後、第2処理剤として酢酸アンモニウム1gをメタノール水溶液(メタノール90体積%)20mLに溶解させた第2処理剤溶液を瞬時に添加した。反応終了後のスラリーを真空乾燥させて、二種の処理剤が表面に施された銅粒子を得た。
【0044】
〔実施例2〕
第2処理剤の添加量を2gに変更したほかは、実施例1と同様の方法で銅粒子を得た。
【0045】
〔実施例3〕
第1処理剤の添加量を8gに変更したほかは、実施例1と同様の方法で銅粒子を得た。
【0046】
〔実施例4〕
第2処理剤の添加量を2gに変更したほかは、実施例3と同様の方法で銅粒子を得た。
【0047】
〔実施例5〕
第1処理剤の添加量を5gに変更したほかは、実施例2と同様の方法で銅粒子を得た。
【0048】
〔実施例6〕
第1処理剤としてステアリン酸を用いたほかは、実施例2と同様の方法で銅粒子を得た。
【0049】
〔実施例7〕
第2処理剤としてギ酸アンモニウムを用いたほかは、実施例2と同様の方法で銅粒子を得た。
【0050】
〔比較例1〕
第1処理剤を用いた表面処理に代えて、酢酸アンモニウム23gをメタノール水溶液(メタノール90体積%)100mLに溶解させた第2処理剤溶液を瞬時に添加したほかは、実施例1と同様の方法で銅粒子を得た。つまり、本比較例の銅粒子は、第1処理剤を用いておらず、第2処理剤のみで表面処理を行ったものである。得られた銅粒子における第2処理剤の含有量は、合計量として炭素原子換算で0.47質量%であった。
【0051】
〔比較例2〕
第1処理剤による表面処理を行った後、第2処理剤による表面処理を行わなかった他は、実施例3と同様の方法で銅粒子を得た。つまり、本比較例の銅粒子は、第1処理剤のみで表面処理されたものである。得られた銅粒子における第1処理剤の含有量は炭素原子換算で0.71質量%であった。
【0052】
〔比較例3〕
第1処理剤による表面処理を行った後、第2処理剤による表面処理を行わなかった他は、実施例5と同様の方法で銅粒子を得た。つまり、本比較例の銅粒子は、第1処理剤のみで表面処理されたものである。得られた銅粒子における第1処理剤の含有量は炭素原子換算で0.71質量%であった。得られた銅粒子の一次粒子の平均粒径は、5.73μmであった。
【0053】
〔焼結性の評価〕
本出願人の先の出願に係る特開2017-157329号公報の実施例1に記載の方法に準じて、焼結を行った。詳細には、実施例及び比較例の銅粒子8.5gと、数平均分子量が300のポリエチレングリコールとをプラスチック容器に入れて混合し、銅粒子を含む導電性ペーストを得た。得られたペーストをガラス基板に塗布し、以下の表1に示す温度で、窒素雰囲気下、3分間焼結させた。焼結後の銅粒子について、銅粒子どうしの融着度合を電子顕微鏡を用いて観察し、以下の評価基準で焼結性を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0054】
<焼結性の評価基準>
◎:粒子どうしが融着し、粒子間に太いネッキングが見られ、焼結性に優れる。
○:粒子どうしが融着し、粒子間にネッキングが見られ、焼結性を有する。
×:粒子どうしが融着しておらず、焼結性が悪い。
【0055】
〔導体膜の抵抗率の評価〕
実施例及び比較例の銅粒子100質量部に対して、樹脂としてポリアミド樹脂(T&K TOKA製、TPAE-826-5A)を4質量部、並びに有機溶媒としてターピネオール17.5質量部及びリモネン7.5質量部を混合し、3本ロール混練機を用いて混練してペースト状の導電性組成物を得た。この導電性組成物を、基材である厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルムの一面に、スクリーン印刷によって塗布し、厚さ50μmの塗膜を形成した。塗膜のサイズは1cm四方とした。この塗膜を大気下、110℃で30分間にわたり予備乾燥させた後、塗膜を25℃まで冷却させた。次いで、表面に離型フィルムを配して塗膜を保護し、同温度で30MPaの圧力にて、大気下で圧縮した。圧縮には油圧プレス機を用いた。その後、塗膜を光焼成工程に付した。光焼成にはキセノンフラッシュランプを用いた。パルス幅は1.25ms、パルス電圧は2500~3000Vに設定した。このようにして得られた導電膜の表面に離型フィルムを配して導電膜を保護し、油圧プレス機を用いて、30MPaの圧力で圧縮する後工程を施して、導体膜を製造した。
【0056】
導体膜の抵抗率は、抵抗率計(三菱ケミカルアナリテック株式会社製、Loresta-GP MCP-T610)を用いて、測定対象の導体膜について3回測定し、その算術平均値を抵抗率(Ω・cm)とした。抵抗率が低ければ低いほど導体膜の抵抗が小さいことを示す。結果を以下の表1に示す。
【0057】
〔表面平滑性の評価〕
上述の〔導体膜の抵抗率の評価〕において、焼結温度を190℃として製造した各導体膜を表面粗さ測定装置(株式会社東京精密製、SURFCOM 130A)を用いて、表面粗さを測定した。測定対象の導体膜について表面粗さを3回測定し、その算術平均値を平均表面粗さRa(μm)とし、各測定値のうち最大のものを最大表面粗さRmax(μm)とした。表面粗さの値が低ければ低いほど導体膜の表面平滑性が良好であることを示す。結果を以下の表1に示す。
【0058】
【0059】
表1に示すように、実施例の銅粒子は、比較例の銅粒子と比較して、低温での焼結性に優れており、該銅粒子の焼結によって得られた導体膜の抵抗が十分に小さいものであることが判る。また、実施例の銅粒子を用いて製造した導体膜は、その表面平滑性に優れていることも判る。