(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】軌条車両
(51)【国際特許分類】
B61D 17/04 20060101AFI20230719BHJP
B61D 17/08 20060101ALI20230719BHJP
B61D 17/10 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
B61D17/04
B61D17/08
B61D17/10
(21)【出願番号】P 2019170409
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】眺野 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】森田 庸介
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 亮次
(72)【発明者】
【氏名】谷川 大貴
(72)【発明者】
【氏名】山内 源太
(72)【発明者】
【氏名】兜森 正志
(72)【発明者】
【氏名】菅沢 正浩
(72)【発明者】
【氏名】二村 有哉
(72)【発明者】
【氏名】原 悠介
(72)【発明者】
【氏名】岡本 直樹
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-269197(JP,A)
【文献】実開昭61-011465(JP,U)
【文献】特開平10-338160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 17/04
B61D 17/08
B61D 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構体底部と、前記構体底部の幅方向の両端部に立設される側構体と、前記側構体の上端部に載置される屋根構体と、を有する軌条車両において、
前記側構体の車内側に固定される横梁受部と、
前記横梁受部に固定される横梁と、を有
し、
前記横梁は、上板と、前記上板と対をなす下板と、前記上板と前記下板とを接続する接続板と、からなるI型断面形状であり、
前記上板の前記幅方向の寸法は、前記下板および前記接続板の前記幅方向の寸法より大きく、
前記横梁受部は、上板部と、前記上板部と対をなす下板部と、前記上板部と前記下板部とを接続する背板と、前記上板部および前記下板部および前記背板に接続する一対の側板と、を有する略箱型の形態であり、
前記背板から前記下板部の前記幅方向の端部までの寸法は、前記背板から前記上板部の前記幅方向の端部までの寸法より大きい、
ことを特徴とする軌条車両。
【請求項2】
請求項
1に記載される軌条車両において、
前記横梁の前記上板と前記横梁受部の前記上板部と、前記横梁の前記下板と前記横梁受部の前記下板部と、が機械的締結手段によって締結されており、
前記接続板の前記幅方向の端部と前記横梁受部の前記背板との間には、空間が設けられる、
ことを特徴とする軌条車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌条車両に関する。
【背景技術】
【0002】
敷設された軌道に沿って運行される軌条車両の内、比較的速い営業速度で走行する鉄道車両等は、構体底部と、構体底部の幅方向の両端部に立設される側構体と、構体底部の長手方向の両端部に立設される妻構体と、側構体および妻構体の上端部に載置される屋根構体と、からなる6面体の軌条車両構体を有する。
【0003】
軌条車両構体をなす構体底部から高さ方向に、乗客等が軌条車両に乗降する際に供されるホーム高さとほぼ同じ高さ床板が備えられる。この床板は幅方向に沿って一対の側構体を接続する態様で備えられる複数の横梁の上面に敷設される。特許文献1に、同様の軌条車両構体を有する高速鉄道車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高速走行する鉄道車両等に用いられる軌条車両構体は、軌条車両構体の長手方向の両端部を走行可能に支持する台車や、軌条車両構体の周囲を流れる空気などにより、広い周波数帯域において加振される。従来、一対の側構体をその幅方向に沿って接続する複数の横梁と、この横梁の上面に載置される床部と、を有する軌条車両構体が加振された際に、特に乗り心地評価への寄与が大きい周波数帯において、座席等が置かれる床部が局所的に大きく振動して快適性が損なわれる場合があった。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、高速で走行する場合であっても、快適性を維持できる軌条車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、代表的な本発明にかかる軌条車両の一つは、構体底部と、前記構体部の幅方向の両端部に立設される側構体と、前記側構体の上端部に載置される屋根構体と、を有する軌条車両において、前記側構体の車内側に固定される横梁受部と、前記横梁受部に固定される横梁と、を有し、前記横梁は、上板と、前記上板と対をなす下板と、前記上板と前記下板とを接続する接続板と、からなるI型断面形状であり、前記上板の前記幅方向の寸法は、前記下板および前記接続板の前記幅方向の寸法より大きく、前記横梁受部は、上板部と、前記上板部と対をなす下板部と、前記上板部と前記下板部とを接続する背板と、前記上板部および前記下板部および前記背板に接続する一対の側板と、を有する略箱型の形態であり、前記背板から前記下板部の前記幅方向の端部までの寸法は、前記背板から前記上板部の前記幅方向の端部までの寸法より大きい、ことにより達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高速で走行する場合であっても、快適性を維持できる軌条車両を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図2は、鉄道車両の長手方向に交差する断面図(
図1のA-A断面)である。
【
図3】
図3は、鉄道車両の側構体と横梁との接続部の拡大図(
図2のB部)である。
【
図4】
図4は、鉄道車両の側構体下端部の車内側面板に固定される横梁受部の斜視図である。
【
図5】
図5は、鉄道車両の構体に備えられる横梁のY方向の端部の斜視図である。
【
図6】
図6は、鉄道車両の上床の幅方向中央部の上下振動加速度応答を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図を参照して、本発明の実施の形態を説明する。まず、説明に供する各方向を定義する。軌条車両の長手方向またはレール方向をX方向、軌条車両の幅方向または枕木方向をY方向、軌条車両の高さ方向をZ方向とし、以下、単にX方向、Y方向、Z方向と記す。
【0011】
軌条車両は、敷設される軌道に沿って運行される車両であり、鉄道車両、モノレール車両、路面電車、新交通車両等を含む。軌条車両の代表例として、鉄道車両を取り上げて本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
図1は鉄道車両の側面図であり、
図2は鉄道車両の長手方向に交差する断面図(
図1のA-A断面)である。鉄道車両1は、6面体をなす構体3を有しており、構体3のY方向の両端部は、軌道(レール)90の上を転動する車輪を有する台車2に支持される。
【0013】
構体3は、構体底部7と、構体底部7のY方向の両端部に立設される側構体6と、構体底部7の長手方向の両端部に立設される妻構体8と、側構体6および妻構体8の上端部に載置される屋根構体5と、からなる6面体である。妻構体8にほぼ平行に、デッキ部と座席のある客室部とを仕切る仕切り壁9が備えられ、仕切り壁9には乗客等の移動に供される仕切り扉76が備えられる。
【0014】
構体3は、プラットホーム92の高さとほぼ同じ高さ位置で、Y方向に沿って延在し一対の側構体6を接続するとともに、X方向に沿って離散的に備えられる複数の横梁12を有する。横梁12の上面に上床72を備え、上床72の上面に座席70等が載置される。側構体6のうち、横梁12(上床72)よりZ方向の下方の部分を側構体下端部6aと称する。
【0015】
構体底部7と、側構体下端部6aと、横梁12を含む上床72と、で囲まれる領域に、主回路機器や補助電源装置、空気圧縮機等の各種電気品が備えられる。また、構体3は、横梁12と側構体6との接続部と、構体底部7と、を接続し、約45°の角度でY-Z面内で傾斜しつつ延在する斜め梁18を備える。複数の斜め梁18は、横梁12と同様に、X方向に沿って離散的に備えられる。
【0016】
図3は、鉄道車両の側構体と横梁との接続部の拡大図(
図2のB部)である。側構体6は、並行する車内側面板10aと車外側面板10bと、これらを接続する接続リブ10Lとからなるとともに、X方向に沿って一体に押し出し成形された中空押し出し形材からなる。カーテンレール状のC型チャンネル部10cが、車内側面板10aと一体に押し出し成形で備えられる。
【0017】
略箱状の横梁受部15は、その背板15d(
図4参照)に挿通したボルト17a(
図3参照)により、X方向に位置調整可能にC型チャンネル部10cに固定される。
【0018】
横梁12は、上板12aと、上板12aと対をなす下板12bと、上板12aと下板12bとを接続する接続板12cとからなる。横梁12は、車内側面板10aに固定される横梁受部15を介して、側構体下端部6aと接続される。
【0019】
図4は、鉄道車両の側構体下端部の車内側面板に固定される横梁受部の斜視図である。横梁受部15は、側構体下端部6aの車内側面板10aに備えられるC型チャンネル部10cにボルトで締結される背板15dと、背板15dの上端部から水平方向に延伸する上板部15aと、背板15dの下端部から水平方向に延伸する下板部15bと、上板部15aおよび背板15dおよび下板部15bのX方向の両端部に接続される五角形状である一対の側板15cと、から構成される。背板15dは、X方向に見て「く」字状に折れ曲がっている。
図4に示すように背板15dの下部に矩形状の開口を設けて、剛性の調整を行ってもよい。
【0020】
上板部15aと下板部15b、および、一対の側板15cは、各々ほぼ平行に備えられる。背板15dを基準として、下板部15bは上板部15aよりもY方向の側(横梁12のY方向の中央部寄り)に位置する。つまり、背板15dから上板部15aのY方向の端部(縁)までの寸法W2より、背板15dから下板部15bのY方向の端部(縁)までの最大寸法W3の方を大きく設定してある。背板15d、上板部15aおよび下板部15bには、後述する横梁12の端部を接続するときに供されるボルトが貫通する孔を備える。また、上板部15aの下面と、下板部15bの上面との距離をH5とする。
【0021】
図5は、鉄道車両の構体に備えられる横梁のY方向の端部の斜視図である。横梁12は、Z方向に隔置される上板12aと下板12bと、これら両板を中央で接続する接続板12cとからなるI型断面を有する部材である。横梁受部15に接続される横梁12のY方向の端部は、上板12aのY方向の端部(縁)が下板12bのY方向の端部(縁)よりもY方向に寸法W1だけ突き出した態様に加工される。接続板12cには必要に応じて軽量化のための開口部が設けられる。上板12aの下面と、下板12bの下面との距離をH2としたとき、H5≒H2である。
【0022】
図3を参照して、横梁12を横梁受部15に固定する手順を説明する。まず、側構体下端部6aの車内側面板10aのC型チャンネル部10cに対し、ボルト17aのねじ軸を溝から外方へと突き出すようにしながら、その頭部をスライドさせつつ内挿する。その後、C型チャンネル部10cに横梁受部15を接近させ、ボルト17aのねじ軸を背板15dの孔に挿通する。更に横梁受部15の内部に突出したねじ軸にナットを螺合させて工具で締め上げることにより、横梁受部15を車内側面板10aに固定する。
【0023】
次に、横梁12を横梁受部15のZ方向上方から下方へ向けて下降させ、横梁12のY方向の端部の下板12bを横梁受部15の下板部15bの上面に載置するともに、横梁12の上板12aを横梁受部15の上板部15aの上面に載置した後、それぞれ機械的締結手段であるボルト17bを用いて横梁12を横梁受部15に締結する。このとき、横梁12の接続板12cのY方向の端部と横梁受部15の背板15dとの間に、寸法Y1の空間が形成されており、接続板12cは横梁受部15を構成するいずれの板部にも締結されない。
【0024】
図6は、鉄道車両の上床の幅方向中央部の上下振動加速度応答を示す模式図である。この模式図は、乗り心地を評価する振動加速度の評価点を上床72の幅方向の中央部のE点(
図2参照)とし、横軸の周波数(Hz)に対応する上下方向の振動加速度(m/s
2)を縦軸に示した図である。実線は本実施形態による軌条車両の上床の振動加速度スペクトルであり、点線は従来の軌条車両の上床の振動加速度スペクトルである。
【0025】
従来、I型断面の横梁は、横梁受部に横梁をなす上板と下板と接続板のそれぞれを剛的に締結した後、横梁を備える横梁受部を側構体下端部にボルトで固定する構造であった。軌条車両の構体は、乗客等が振動を感じやすい周波数帯域F(
図6参照)において、側構体下端部の上端部に接続する側構体の中央部がY方向に振動する樽型の振動モードを有する。側構体が樽型の振動モードで振動すると、横梁を側構体下端部に接続する横梁受部に、の曲げモーメント荷重が作用する。この結果、横梁の幅方向の両端部にY-Z平面内の曲げモーメントが作用して、横梁の幅方向の中央部が上下に振動しやすい傾向があった。
【0026】
本実施形態では、横梁12と横梁受部15とは、横梁12の上板12aと下板12bのみが横梁受部15の上板部15aと下板部15bとに接続しており、横梁12の接続板12cは横梁受部15の背板15dに接続しておらず、接続板12cと背板15dとの間に寸法Y1の空隙を有する構成である。
さらに、この構成は、横梁受部15と横梁12の接続部に寸法Y1の空隙を備えることによって、接続部の剛性を調整しており、横梁受部15と横梁12の接続部が過度に高い剛性を有することと剛性の急変を抑制している。
【0027】
従来の構成であれば、構体3をなす側構体6が樽型のモードで振動して、側構体6に接続する側構体下端部6aに固定される横梁受部15にY-Z面内の曲げモーメントが作用する場合、横梁12のY方向の両端部に生じる曲げモーメントによって、Y方向の中央部の横梁12に上方圧縮(-Z方向に凸)の変形に続いて、Y方向の中央部の横梁12に下方圧縮(+Z方向に凸)の変形が交互に生じるため、周波数f1において横梁12のY方向の中央部の振幅が低減されなかった。
これに対して、本実施形態の構成によれば、Y方向の中央部の横梁12に上方圧縮(-Z方向に凸)の変形に続いて生じる下方圧縮(+Z方向に凸)の変形を抑制する(打ち消す)変形が励起されるため、横梁12のY方向の中央部の振動が抑制されて、一般的に乗客の感度の高い周波数f1における振幅を効果的に低減できる。
さらに、この構成によって、周波数f1より高い周波数帯域において、横梁受部15に生じた曲げモーメントの横梁12の端部への伝達が緩和されるので、横梁12の幅方向の中央部の上下方向の振動が抑制される。そのため、横梁12に支持される上床72の上下方向の振動が抑制されるので、快適な乗り心地を備える軌条車両を提供することができる。
【0028】
さらに、本実施形態のI型断面を有する横梁12のY方向の端部の形状を、上板12aのY方向の端部(縁)が下板12bのY方向の端部(縁)よりもY方向に寸法W1だけ突き出す形状とするとともに、本実施形態の横梁受部15の形状を、背板15dから上板部15aのY方向の端部(縁)までの寸法W2より、背板15dから下板部15bのY方向の端部(縁)までの最大寸法W3の方を大きく設定した形状としている。
【0029】
この構成によって、まず比較的軽量の横梁受部15を、側構体下端部6aの車内側面板10aに備えられるC型チャンネル部10cに容易に位置決めして固定できる。その後、側構体下端部6aに固定された横梁受部15の上方から、比較的大重量の横梁12を側方にスライドさせることなく、まっすぐ下降させて、横梁受部15に載置した後、ボルト17bで横梁12を横梁受部15に締結できるので、作業効率を高めるとともに作業工数を小さくできる。
【0030】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態における構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態における構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0031】
E…振動加速度評価点、 F…乗り心地評価へ寄与が大きい周波数帯域、
1…鉄道車両、 2…台車、
3…構体、 5…屋根構体、
6…側構体、 6a…側構体下端部、
7…構体底部、 8…妻構体、
10a…車内側面板、 10b…車外側面板、
10L…接続リブ、 10c…C型チャンネル部、
12…横梁、 12a…上板、
12b…下板、 12c…接続板、
15…横梁受部、 15a…上板部、
15b…下板部、 15c…側板、
15d…背板、 17a,17b…ボルト、
18…斜め梁、 70…座席、
72…上床、 74…客室仕切り壁、
76…仕切り扉、 90…軌道、
92…プラットホーム、
X…長手方向(レール方向)、 Y…幅方向(枕木方向)、
Z…高さ方向