(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】撥液性の膜付き多孔質体、およびそれを用いた物品
(51)【国際特許分類】
B32B 5/18 20060101AFI20230719BHJP
B65D 43/00 20060101ALI20230719BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230719BHJP
C08J 9/36 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
B32B5/18 101
B65D43/00
B65D65/40 D
C08J9/36
(21)【出願番号】P 2019183527
(22)【出願日】2019-10-04
【審査請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502435454
【氏名又は名称】株式会社SNT
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】松川 義彦
(72)【発明者】
【氏名】金森 進一郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 香奈
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 世明
(72)【発明者】
【氏名】藤本 幸司
(72)【発明者】
【氏名】堀田 芳生
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-92467(JP,A)
【文献】特開2011-140625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C08J 9/00-9/42
C09K 3/18
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔による表面凹凸構造部を有する多孔質体と、
前記多孔質体の表面に配置され、前記表面凹凸構造部よりも微細な凹凸構造部を形成する親水性微細粒子と、
前記微細な凹凸構造部の表面と結合する撥液性部位と、
前記微細な凹凸構造部と前記撥液性部位との結合部分を覆うように分布されたるバインダー樹脂と、を備える撥液性の膜付き多孔質体。
【請求項2】
細孔による表面凹凸構造部を有する多孔質体と、
中間微細粒子および熱可塑性樹脂によって、前記多孔質体の表面に前記表面凹凸構造部よりも小さい中間凹凸構造部を形成するアンダーコート部と、
前記アンダーコート部の表面に形成されたるトップコート部と、を備え、
前記トップコート部は、
前記中間凹凸構造部よりも微細な凹凸構造部を形成する親水性微細粒子と、
前記微細な凹凸構造部の表面と結合する撥液性部位と、
前記微細な凹凸構造部と前記撥液性部位との結合部分を覆うように分布されたるバインダー樹脂と、を有する、撥液性の膜付き多孔質体。
【請求項3】
前記多孔質体が発泡させた樹脂である、請求項1または2記載の撥液性の膜付き多孔質体。
【請求項4】
前記細孔による表面凹凸構造部の表面の算術平均粗さ(Sa)が
前記親水性微細粒子による微細な凹凸構造部の表面の算術平均粗さの1.5倍以上である、請求項1から3のいずれかに記載の撥液性の膜付き多孔質体。
【請求項5】
前記親水性微細粒子が親水性シリカ微粒子であり、前記バインダー樹脂はビニル系樹脂である、請求項1から4のいずれかに記載の撥液性の膜付き多孔質体。
【請求項6】
前記バインダー樹脂が塩化ビニル樹脂および酢酸ビニル樹脂の共重合体である、請求項1から5のいずれかに記載の撥液性の膜付き多孔質体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の撥液性の膜付き多孔質体によって形成されたる物品。
【請求項8】
パッキンおよび包装材から選択されたる請求項7記載の物品。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかに記載の撥液性の膜付き多孔質体が内部表面に設けられたる包装容器。
【請求項10】
請求項1から6のいずれかに記載の撥液性の膜付き多孔質体が内部表面に設けられたる蓋材を備えた化粧品用ジャー容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥液性の膜付き多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
物品の表面に撥水撥油などの撥液性を付与することは非常に重要である。特に高粘度の液体や半固体、ゲル状物質等は、付着しやすく、それによる様々な問題が生じている。高粘度の物質として例えば化粧用のクリームの場合、その容器として広口の蓋の付いた容器(ジャー容器)が使用されることが多いが、使用の際に蓋を開けると、クリームが蓋の内側に大量に付着していることがよくある。この付着したクリームは使用するには躊躇され、そのまま廃棄されることもあり、また、見た目にも悪く、ブランドイメージを大事にする化粧品としては問題視される。
【0003】
容器内のクリームと蓋との間に薄いシートを置くといった対策もあるが、蓋の代わりに、薄いシートへクリームが付着するだけであり、しかも、使用の際にクリームが付着した薄いシートを取り除く作業が増える。結局、薄いシートに付着したクリームは廃棄されるし、根本的な課題であるクリームの付着防止を解決できているとは言えない。
【0004】
撥液剤を塗布するというアプローチで、物品の表面に付着防止機能を付与する技術が知られている。例えば、特許文献1では物品表面に粒径100nm以上の微粒子から形成された一次凹凸と、粒径7~90nmの微粒子から形成された二次凹凸と、二次凹凸にコーティングされた撥油剤とを備えた撥油性コーティングの発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された微粒子および撥油剤で形成された膜の場合、膜の耐久性が悪く実用化する上で耐久性を改善する必要があった。また、特許文献1の撥油性の膜では、水やオレイン酸など比較的低粘度の液体には撥液性を示すが、クリームのような高粘度物質に対する撥液性には改善の余地があった。
【0007】
本発明の目的は、物品表面に高粘度物質に対する優れた撥液性を付与できて、耐久性にも優れているものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る撥液性の膜付き多孔質体は、
細孔による表面凹凸構造部を有する多孔質体と、
前記多孔質体の表面に配置され、前記表面凹凸構造部よりも微細な凹凸構造部を形成する親水性微細粒子と、
前記微細な凹凸構造部の表面と結合する撥液性部位と、
前記微細な凹凸構造部と前記撥液性部位との結合部分を覆うように分布されたるバインダー樹脂と、を備えている。
【0009】
また、本発明の一態様に係る撥液性の膜付き多孔質体は、
細孔による表面凹凸構造部を有する多孔質体と、
中間微細粒子および熱可塑性樹脂によって、前記多孔質体の表面に前記表面凹凸構造部よりも小さい中間凹凸構造部を形成するアンダーコート部と、
前記アンダーコート部の表面に形成されたるトップコート部と、を備え、
前記トップコート部は、
前記中間凹凸構造部よりも微細な凹凸構造部を形成する親水性微細粒子と、
前記微細な凹凸構造部の表面と結合する撥液性部位と、
前記微細な凹凸構造部と前記撥液性部位との結合部分を覆うように分布されたるバインダー樹脂と、を有している。
【0010】
以上の構成の撥液性の膜付き多孔質体によれば、多孔質体の表面凹凸構造またはアンダーコート部の中間凹凸構造に、親水性微細粒子による微細な凹凸構造部と、その表面に結合した撥液性部位と、撥液性部位を有さないバインダー樹脂と、からなる撥液性コーティングが形成され、膜の表面の撥液性部位による撥液性が維持される。特に、膜の表面には、多数の親水性微細粒子によって細かな凹凸構造が形成されており、その凹凸構造の表面には、多数の撥液性部位が外側に向かって配向された状態になっているので、撥液性部位が優れた撥液性を発揮することができる。加えて、バインダー樹脂が、親水性微細粒子による微細な凹凸構造部を、多孔質体の表面またはアンダーコート部の表面に強固に固定するとともに、撥液性部位を、微細な凹凸構造部の表面に強固に固定する。従って、耐久性が改善された撥液性の膜付き多孔質体を提供することができる。
【0011】
しかも、親水性微細粒子による微細な凹凸構造部が、多孔質体の細孔による比較的大きな表面凹凸構造の表面に階層的に形成されるため、全体として大きく複雑な凹凸構造が得られる。これによって、高粘度物質に対する優れた撥液性が発現されるようになった。
【0012】
撥液性の膜付き多孔質体において、前記多孔質体が発泡させた樹脂であることが好ましい。また、撥液性の膜付き多孔質体において、前記細孔による表面凹凸構造部の表面の算術平均粗さ(Sa)が前記親水性微細粒子による微細な凹凸構造部の表面の算術平均粗さの1.5倍以上、30倍以下であることが好ましい。
【0013】
撥液性の膜付き多孔質体において、親水性微細粒子を親水性シリカ微粒子として、バインダー樹脂をビニル系樹脂としてもよい。特に、バインダー樹脂を、塩化ビニル樹脂および酢酸ビニル樹脂の共重合体としてもよい。親水性シリカ微粒子を用いることで、他の親水性酸化物微粒子よりも撥液性に優れた撥液性の膜を提供することができる。また、バインダー樹脂による耐久性の効果と塗布性との両方を考慮すると、親水性シリカ微粒子とビニル系樹脂の組み合わせが好ましい。
【0014】
本発明の他の一態様に係る物品、例えば、パッキンおよび包装材は、その表面に上記の撥液性の膜付き多孔質体を用いて得られる。また、本発明の他の一態様に係る包装容器は、上記の撥液性の膜付き多孔質体を蓋材の内部表面として用いる。上記の撥液性の膜付き多孔質体は、例えば、化粧品用ジャー容器の蓋材の内部表面など、様々な物品の表面を形成するのに用いられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、まず、耐久性に優れた撥液性の膜付き多孔質体を提供することができる。また、付着防止効果については、多孔質ではない表面に、同様のトップコートを積層、および、アンダーコートとトップコートを積層したものは、いずれもクリーム等の付着防止効果は認められるものの、特に高粘度物質に対する付着防止の効果については十分ではなく、実用的ではない。また、多孔質体の表面のままでは、多数の細孔の存在によって付着防止効果がある程度は認められるが、やはり効果は低く、実用的ではない。本発明によれば、多孔質体の表面に撥液性のあるトップコートを積層させることによって、クリームなどの高粘度物質の付着を防止する効果が高くなった。また、多孔質体とトップコートの間にアンダーコートを積層させたることによって、さらに付着防止の効果が高くなった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(A)は第一実施形態の撥液性の膜付き多孔質体の概略断面図であり、(B)は基材である多孔質体の表面の細孔の内壁に沿って形成された撥液性の膜の模式図。
【
図2】
図1の撥液性の膜を構成するトップコートの概略断面図である。
【
図3】
図2のトップコートの断面構造を模式的に示した図である。
【
図4】第二実施形態の撥液性の膜付き多孔質体において、基材である多孔質体の表面の細孔の内壁に沿って形成された撥液性の膜の模式図である。
【
図5】
図4の撥液性の膜を構成するアンダーコートとトップコートの概略断面図。
【
図6】(A)~(E)は、クリーム付着試験の方法を説明するための図である。
【
図7】多孔質体の表面に撥液膜を形成した場合のクリームAの付着量の低減効果を示すグラフであり、(A)は多孔質体が発泡PEである場合(実施例2)の効果、(B)は多孔質体が発泡塗膜である場合(実施例3,4)の効果を示す。
【
図8】撥液膜の基材として多孔質体を採用した場合(実施例1,2)のクリームBの付着量の低減効果を示すグラフである。
【
図9】多孔質体の表面に、トップコートのみの撥液膜(実施例1,3)を形成するよりも、アンダーコートおよびトップコートの撥液膜(実施例2,4)を形成した方が、クリームA~Cの付着量の低減効果が大きいことを示すグラフである。
【
図10】多孔質体の表面に撥液膜を形成した場合のクリームCの付着量の低減効果を示すグラフであり、(A)は多孔質体が発泡PEである場合(実施例1,2)の効果、(B)は多孔質体が発泡塗膜である場合(実施例4)の効果を示す。
【
図11】発泡PEの表面に撥液膜を形成した場合(実施例2)のクリームDの付着量の低減効果を示すグラフである。
【
図12】発泡PEの表面に撥液膜を形成した場合(実施例2)のクリームEの付着量の低減効果を示すグラフである。
【
図13】比較例5と実施例2のクリーム付着試験の結果を示す画像。
【
図14】撥液性の膜付き多孔質体のクリーム付着量の低減効果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を用いて、本発明の撥液性の膜付き多孔質体の好ましい実施形態を説明する。
【0018】
第一実施形態の撥液性の膜付き多孔質体1は、
図1(A)のように、多数の細孔2および当該細孔2による表面凹凸構造部を有するシート状の多孔質体3と、この多孔質体3の少なくとも一方の面に形成される撥液性の膜4と、を備えている。
【0019】
<基材>
本実施形態では、撥液性の膜4が形成される多孔質体3を指して、基材と呼ぶ。何らかの物品が多孔質体3の表面を有していれば、そのような物品が基材となる。また、物品自体の表面が多孔質体3でなくても、その上にシート状の多孔質体3を貼り付けたり、塗布によって多孔質体3の層を形成したりすれば、そのような物品も基材となる。特に限定された物品ではなく、表面に撥液性を付与させたい任意の物品を基材とすることができる。例えば、一般的な工業製品、その部品、部材、装置、また壁材や厨房、インテリア、エクステリアなどの住宅関連、生活に関る様々な日用品、食品や医薬品や化粧品などの容器包装材料などが基材となる。特に化粧品用のジャー容器の蓋の内側が基材として好適である。
【0020】
多孔質体3は、常温で固体であるものが好ましいが、これに限定されない。各種のプラスチック、ガラス、紙、セラミック、金属およびこれらの複合物等を多孔質体3の材料に使用できる。プラスチックおよびその複合物は、多孔質化の加工を行い易く、また、多孔質の形状等の制御も容易になるため、多孔質体3の材料として特に適する。
【0021】
多孔質体3の形状は、方形、球状など製品によって様々な形状が考えられるが、フィルムやシート状の多孔質体3が撥液性の膜4を積層するのに特に適する。
【0022】
多孔質体3は、少なくとも、その表面が多孔質になっているものを指す。その多孔質の細孔2の形状、サイズなどは特に限定されない。ただ、細孔2のサイズがあまりに大きいと、凹凸構造であっても、付着物に対する撥液性を発揮しにくくなり、多孔質体3の付着防止の効果が弱まる。また、細孔2のサイズがあまりに小さいと、多孔質体3の表面に撥液性の膜4を積層させることによって、細孔2の開口部が撥液性の膜で塞がってしまい、多孔質体3の付着防止の効果が弱まる。従って、細孔2のサイズとしては、平均口径が5~500μmであるのが好しい。また、細孔2の開口面積率は、多孔質体3の表面の面積に対して5~80%であるのが好ましい。細孔2による表面凹凸構造部は、その表面に付着物が接触した際に、エアーポケットを形成し易く、付着防止の効果を発揮しやすくなる。
【0023】
多孔質体3の形成方法は特に限定されず、得られた基材の表面が少なくとも多孔質になっていれば良い。例えば発泡剤など、細孔2を形成するものを基材の材料に混ぜておき、これを用いて基材を形成し、加熱処理等によって発泡させ、必要に応じて破泡させるとよい。その結果、基材の表面に多数の細孔2が形成される。その他、微細な針状のものを形成中の基材に押し当てることで基材の表面を多孔質にする、特定の微粒子を基材に混ぜておき、製品の形成後にその微粒子を除去する、などの方法も考えられる。一般的に多孔質を作成する方法であれば全て使用可能である。
【0024】
基材の厚さは特に限定されるものではないが、フィルムとして1~200μm、シートとして200~10000μm程度が一般的に使用される。
【0025】
<トップコート部>
次に、撥液性の膜4は、
図1(B)に拡大して示すように、細孔2による表面凹凸構造部の表面を覆うように積層されている。本実施形態の撥液性の膜4は、トップコート部で構成されている。トップコート部は、多孔質体3の表面に沿って配置され、細孔2による表面凹凸構造部よりも微細な凹凸構造部を形成する親水性微細粒子5を含む。さらに、トップコート部は、
図2に拡大して示すように、微細な凹凸構造部の表面と結合する撥液性部位6と、微細な凹凸構造部と撥液性部位6との結合部分を覆うように分布されたるバインダー樹脂7とを含む。
【0026】
図3にも示すように、微細な凹凸構造は数珠状に接続した多数の親水性微細粒子5で形成され、バインダー樹脂7によって多孔質体3の表面に固定されている。また、撥液性部位6は親水性微細粒子5と結合しており、その結合部分がバインダー樹脂7に覆われるとともに、撥液性部位6の先端は外側に向かって配向している。
【0027】
親水性微細粒子5としては、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウムなどがあるが、親水性シリカ微粒子が好適である。その粒径は平均一次粒径として5~100nmが好適である。親水性微細粒子5は、
図3の拡大図に示すように、金属アルコキシド8によって、親水性微細粒子5同士が数珠状に連結している。
【0028】
バインダー樹脂7はビニル系樹脂が好適で、さらに塩化ビニル樹脂および酢酸ビニル樹脂の共重合体が好適である。
【0029】
撥液性部位6としてはフルオロ基を有するパーフルオロアルキルシラン(FAS)が好適である。FASはトップコートの積層過程でその反応基部分(Si)が親水性微細粒子5と結びつき、撥液性部位6であるフルオロ基が外側に向かって配向した状態で親水性微細粒子5の微細凹凸構造の表面に共有結合されている。
【0030】
FASは、アルキルシランのアルキル基のいくつかがフッ化炭素基(パーフルオロ基)に置換されたものであり、例えば、CF3(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)5(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)7(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)7(CH2)2SiCH3(OCH3)2、CF3(CF2)3(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)7(CH2)2SiCl3が挙げられるが、その中でも、C8のへプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、C6のトリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、あるいはC4のノナフルオロヘキシルトリメトキシシランが好ましく、安全面と撥油特性からすればC6のトリデカフルオロオクチルトリメトキシシランがより好ましい。
【0031】
トップコート部の厚さは特に限定はないが、0.1~5.0μmが好適である。
【0032】
このように、撥液性部位6が親水性微細粒子5に共有結合していること、親水性微細粒子5同士が金属アルコキシド8によって連結されていること、及び、これらの共有結合や連結部をバインダー樹脂7が覆っていることなどから、従来の撥液材より耐久性に優れた塗膜となっている。
【0033】
第二実施形態の撥液性の膜付き多孔質体11は、同様の多孔質体3を備えているが、撥液性の膜14が、アンダーコート部とトップコート部による二層構造である点で、第一実施形態とは異なっている。多孔質体3に積層させる撥液性の膜としては、膜4のようにトップコート部のみでも良いが、膜14のように、その間にアンダーコート部を積層させることによって更なる効果が得られる。
【0034】
<アンダーコート部>
図4の拡大図のように、アンダーコート部は、中間微細粒子9を含み、多孔質体3の表面に中間凹凸構造部を形成している。また、アンダーコート部は、
図5の拡大図のように、中間微細粒子9を多孔質体3の表面に保持するための熱可塑性樹脂17も含んでいる。
【0035】
なお、トップコート部は、アンダーコート部の表面に沿って積層される。トップコート部は、第一実施形態と同様に、撥液性部位6およびバインダー樹脂7を含んでいる。
【0036】
サイズの大きい順にならべると、細孔2の孔径、中間微細粒子9の粒径、親水性微細粒子5の粒径となる。つまり、細孔2による比較的粗い表面凹凸構造部の表面に、中間微細粒子9による中間的な細かさの中間凹凸構造部が形成され、さらに、その中間凹凸構造部の表面に、親水性微細粒子5による微細な凹凸構造部が形成されている。細孔2および2種類の微細粒子がそれぞれ形成する凹凸構造によって、全体としては大きくて起伏が激しく、局所的には微細であるという、複合的な凹凸構造が得られ、より撥液性を高める効果がある。
【0037】
このように、アンダーコート部の中間微細粒子9の最小粒径を、トップコート部の親水性微細粒子5の最大粒径よりも大きくすることが好ましい。また、中間微細粒子9の最大粒径を、細孔2の孔径よりも小さくすることが好ましい。
【0038】
中間微細粒子9として特に限定はないがシリカビーズが好適である。シリカビーズには、結晶性シリカ、非晶性シリカ(乾式シリカ、湿式シリカ、シリカゲル等)があり公知の物を適宜使用できる。シリカビーズの形状は特に限定されず、多面体や凹凸形など様々な形状を選択できる。
【0039】
熱可塑性樹脂17としては特に限定されないが、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート、メタクリルスチレン共重合体、酢酸セルロース、ポリウレタン、ポリカーボネートなどが用いられる。
【0040】
アンダーコート部は、中間微細粒子9と熱可塑性樹脂17を溶媒に溶かしまたは分散させたアンダーコート液を、多孔質体3に塗布し乾燥して形成させる。溶媒としては使用する熱可塑性樹脂17を溶解するものであればよく、特に限定されないが、n-ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、アルコール類などがある。
【0041】
図5の熱可塑性樹脂17の厚さは、特に限定されないが、中間微細粒子9の粒径と比べて、幾らか小さくなる。つまり、中間微細粒子9が全て熱可塑性樹脂17に埋まっているのではなく、中間微細粒子9の一部が熱可塑性樹脂17から出ている状態に、アンダーコート部が形成される。
【0042】
上述の第一実施形態では、多孔質体3の細孔2による大きな表面凹凸構造の表面に、撥液性部位6が結合した親水性微細粒子5とバインダー7とを有するトップコート部が積層されることによって、高い撥液性能が発現し、高粘度液体やゲル状物質などの非常に付着しやすい物質の付着を防ぐことが可能となった。
【0043】
また、第二実施形態では、多孔質体3とトップコート部の間にアンダーコート部を積層することで、細孔2による大きな表面凹凸構造、中間微細粒子9による中間的な細かさの中間凹凸構造、および、親水性微細粒子5による微細な凹凸構造がそれぞれ構成されることによって、さらに高い撥液性が得られる。アンダーコート部は、中間的な細かさの中間凹凸構造を提供するだけではなく、多孔質体3にトップコート部を強固に結びつけ、撥液性の膜をより強く耐久性のあるものとしている。
【0044】
このような段階的な凹凸構造については、例えば、細孔2による表面凹凸構造の表面の算術平均粗さ(Sa)を計測した値が、アンダーコートおよびトップコートで形成された凹凸構造の表面の算術平均粗さの計測値の1.5倍以上、30倍以下の範囲になるようにしてもよい。
【0045】
以上の各実施形態では、撥液性および耐久性に優れた撥液性の膜付き多孔質体が得られ、それによって形成されたパッキン、包装材、包装容器などの物品を提供することができる。特に、化粧品用ジャー容器といった包装容器においては、その蓋材の内部表面へ適用が好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
基材は次の三種類を用いた。
・発泡ポリエチレンシート(発泡PE) ;厚さ 130μm
(発泡層80μm、シーラント層50μm)
・二軸延伸ポリプロピレンシート(OPP);厚さ 60μm
・低密度ポリエチレンシート(LDPE) ;厚さ 150μm
【0048】
アンダーコート用の塗液は次の配合にて調製したものを用いた。
・中間微細粒子;シリカビーズ・・・・・・配合比 14%
・熱可塑性樹脂;オレフィン系樹脂・・・・配合比 24%
・溶媒・・・・・・・・・・・・・・・・・配合比 62%
【0049】
トップコート用の塗液は次の配合にて調製したものを用いた。
・親水性微細粒子 ;親水性シリカ微粒子・・・・・・・・・・・配合比 7%
・バインダー樹脂 ;塩酢ビ樹脂・・・・・・・・・・・・・・・配合比 4%
・金属アルコキシド;オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)・・配合比 5%
・撥液性部位 ;パーフルオロアルキルシラン(FAS)・・配合比 1%
・加水分解触媒 ;塩酸・・・・・・・・・・・・・・・・・・配合比 0.3%
・溶媒・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・配合比82.7%
【0050】
付着物として、次の五種類の化粧用クリーム(全てスキンケア用)を用いた。
・クリームA; 表面張力 30.2mN/m、 粘度 119860mPa・s
・クリームB; 表面張力 29.5mN/m、 粘度 84160mPa・s
・クリームC; 表面張力 31.3mN/m、 粘度 79850mPa・s
・クリームD; 表面張力 31.7mN/m、 粘度 76490mPa・s
・クリームE; 表面張力 28.6mN/m、 粘度 98850mPa・s
これらの中で「クリームE」を、表面張力が小さく、かつ、粘度が比較的大きいことから、最も厳しい条件の付着物とした。なお、表面張力は、協和界面化学(株)製プレート式表面張力計「CBVP-Z」を用いて測定することができ、24℃の条件下で測定した。また、粘度は、Thermo Scientific HAAKE社製B型粘度計「VT6L/R型」(スピンドル L3(ISO2555準拠)、回転数:0.3rpm)を用いて測定することができ、24℃の条件下で測定した。
【0051】
以下の実施例1、2および比較例1~5の試験片をそれぞれ作製した。
<実施例1> 発泡PEの基材に、上記のトップコート塗液を塗布・乾燥して作製した。
<実施例2> 発泡PEの基材に、上記のアンダーコート塗液を塗布・乾燥した上に、上記のトップコート塗液を塗布・乾燥して作製した。
<比較例1> OPPの基材をそのまま使用した。
<比較例2> OPPの基材に、上記のトップコート塗液を塗布・乾燥して作製した。
<比較例3> OPPの基材に、上記のアンダーコート塗液を塗布・乾燥した上に、上記のトップコート塗液を塗布・乾燥して作製した。
<比較例4> LDPEの基材をそのまま使用した。
<比較例5> 発泡PEの基材をそのまま使用した。
【0052】
<試験方法>
実施例1、2および比較例1~5の試験片に対してクリームを使った付着試験を実施した。
図6を用いて手順を説明する。まず、クリームを、外径φ38mm(内径φ30mm)、高さ8mmのキャップ(PE製、
図6(A)は、キャップを真上から見た画像である。)に入れて、ヘラで水平にすり切る(
図6(B))。その上に試験片のシートを載せて(
図6(C))、容器ごと反転させて、容器を倒立状態(
図6(D))にして1分間保持する。その後、容器を元の正立状態に戻し、試験片のシートを剥がし、試験片へのクリームの付着状態を確認し、その付着量を測定する(
図6(E))。キャップの重量は1.7gであり、キャップに入れたクリームの重量はクリームによって重量が異なるが、例としてクリームBで5.4gである。クリームを入れた状態で、試験片を載せる前のキャップの重量と、試験片を剥がした後のキャップの重量とをそれぞれ測定し、その差分から試験片へのクリームの付着量を得る。試験片3枚について試験を実施し、その平均値をクリームの付着量とした。試験結果を表1に示す。
【0053】
また、実施例3、4および比較例6の試験片をそれぞれ次のように作製した。共通事項として、厚さ188μmの非多孔質のPETシートを用いた。実施例3、4では、そのPETシートの表面に、一般的に使用されている有機発泡性の樹脂塗料を塗布し、加熱処理することで表面の樹脂を発泡させて多孔質の塗膜を作製した。これを、発泡塗料コーティングPETシートと呼ぶ。
【0054】
<実施例3> 基材に上記の発泡塗料コーティングPETシートを使用した以外は、実施例1と同様に作製した。
<実施例4> 基材に上記の発泡塗料コーティングPETシートを使用した以外は、実施例2と同様に作製した。
<比較例6> 非多孔質のPETシートの基材をそのまま使用した。
【0055】
クリーム付着試験は、実施例1に対するものと同様に実施した。試験結果を表1に示す。
【0056】
【0057】
表1にて、「トップのみ」は、撥液膜がトップコートだけであることを示す。「アンダー&トップ」は、撥液膜がトップコートおよびアンダーコートを有することを示す。「PET、発泡塗膜」は、上述の発泡塗料コーティングPETシートを示す。
【0058】
図7のグラフは、基材の表面に撥液膜を形成した場合のクリームAの付着量の低減効果を示すグラフであり、(A)は基材が発泡PEである場合(実施例2)の効果を示す。クリームAの試験結果より、発泡PEのままの表面よりも、この表面にアンダーコートおよびトップコートの両方を形成した方が、クリームAの付着量が明らかに低減することが分かる。(B)は基材が発泡塗料コーティングPETシートである場合(実施例3,4)の効果を示す。クリームA試験結果より、非多孔質体のPETシートのままの表面よりも発泡塗料コーティングPETシートの表面にトップコートのみ(又はアンダーコートおよびトップコートの両方)を形成した方が、クリームAの付着量が明らかに低減することが分かる。
【0059】
実施例2の発泡PEにアンダーコートおよびトップコートを積層したものは、クリームAの付着量が9.3mgと、比較例5の発泡PEの基材のみのクリームAの付着量86.5mgに比べ、クリームAの付着量が大幅に減少している。また、実施例3,4の発泡塗膜にトップコートを積層したもの、アンダーコートとトップコートを両方積層させたものについては、クリームAの付着量が18.8mg,2.2mgと、比較例6の非多孔質のPETシートへの付着量84.1mgに比較して良好な結果となった。
なお、比較例1の多孔質のないOPP基材のみ、比較例4の発泡させていないPEであるLDPE基材のみを使用した場合は、クリームAの付着量が340.3mgおよび288.0mgと更に悪い結果となっている。
【0060】
図8のグラフは、撥液膜の基材として発泡PEを採用した場合(実施例1,2)のクリームBの付着量の低減効果を示すグラフであり、実施例1が発泡PEにトップコートを積層させた場合、実施例2が発泡PEにアンダーコートおよびトップコートの両方を積層させた場合の試験結果を示す。クリームBの試験結果より、トップコートのみ(実施例1)又はアンダーコートおよびトップコートの両方(実施例2)のいずれの場合にも、基材をOPPから発泡PEに変更したことによって、クリームBの付着量が大きく低下したことが分かる。
【0061】
図9のグラフは、多孔質体の表面に、トップコートのみの撥液膜(実施例1,3)よりも、アンダーコートおよびトップコートの撥液膜(実施例2,4)を形成した方が、クリームA~Cの付着量の低減効果が大きいことを示す。クリームA~Cのいずれの試験結果においても、基材が発泡PEか発泡塗膜かに関わらず、トップコートのみ(実施例1,3)の場合に対して、アンダーコートおよびトップコートの両方(実施例2,4)の場合の方がクリームの付着防止性の点で優れていることが分かる。
【0062】
図10のグラフは、多孔質体の表面に撥液膜を形成した場合のクリームCの付着量の低減効果を示すグラフであり、(A)は多孔質体が発泡PEである場合(実施例1,2)の効果、(B)は多孔質体が発泡塗膜である場合(実施例4)の効果をそれぞれ示す。クリームCの試験結果より、比較例5の発泡PEのままの表面よりも、この表面にトップコートのみ(又はアンダーコートおよびトップコートの両方)を形成した方が、クリームCの付着量が明らかに低減することが分かる。非多孔質体のPETシートのままの表面よりも、発泡塗料コーティングPETシートの表面にアンダーコートおよびトップコートの両方を形成した方が、クリームCの付着量が明らかに低減することが分かる。
【0063】
なお、比較例5の発泡させたPE基材のみを使用した場合のクリームCの付着量は57.9mgであり、比較例1(OPP基材のみ)の344.0mgや比較例4(LDPE基材のみ)の365.8mgのように非多孔質の表面の場合と比較して、クリームCの付着量が減少しているが、実施例1のトップコートを積層させたもの(付着量6.7mg)や、実施例2のトップコートとアンダーコートの両方を積層させたもの(付着量2.7mg)の方が遥かにクリームCの付着量が少なくなっている。トップコートのみ、またはアンダーコートとトップコートの両方を積層させたものが実用的な撥液性材料になり得る。
【0064】
図11および
図12のグラフも、発泡PEの表面にアンダーコートおよびトップコートの両方を積層した場合(実施例2)のクリームDおよびクリームEの付着量の低減効果を示す。クリームAと同様、クリームDおよびEの試験結果より、発泡PEのままの表面(比較例5)よりも、この表面にアンダーコートおよびトップコートの両方を積層させた方が、クリームD、Eの付着量が明らかに低減することが分かる。
【0065】
なお、
図13は上述の比較例5及び実施例2のクリームEの付着試験の結果を示す画像である。比較例5の画像にはかなり多くのクリームが付着しているのに対し、実施例2の画像にはほとんどクリームが付着していないことが分かる。
【0066】
最後に、
図14のグラフに、実施例1~4および比較例1~6の付着試験結果をまとめて示した。実施例1~4の試験結果のように、多孔質の基材表面に撥液膜を形成することによって、クリーム付着量が安定して減少することが分かる。特に、多孔質の基材表面に撥液膜としてアンダーコートおよびトップコートの両方を形成したもの(実施例2,4)では、クリーム付着量が50mg以下まで減少し、クリームBを除けば、概ね10mg未満まで付着量を減少させ得ることが分かる。
【符号の説明】
【0067】
1,11・・・撥液性の膜付き多孔質体
2 ・・・細孔
3 ・・・多孔質体
4,14・・・撥液性の膜
5 ・・・親水性微細粒子
6 ・・・撥液性部位
7 ・・・バインダー樹脂
8 ・・・金属アルコキシド
9 ・・・中間微細粒子(シリカビーズ)
17 ・・・熱可塑性樹脂