(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】強誘電性フルオロポリマー
(51)【国際特許分類】
C08F 214/22 20060101AFI20230719BHJP
C08F 2/18 20060101ALI20230719BHJP
C08F 2/26 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
C08F214/22
C08F2/18
C08F2/26 Z
(21)【出願番号】P 2019568693
(86)(22)【出願日】2018-06-05
(86)【国際出願番号】 EP2018064793
(87)【国際公開番号】W WO2018228871
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-05-06
(32)【優先日】2017-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】マラーニ, アレッシオ
(72)【発明者】
【氏名】ペドローリ, フランチェスコ
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104497191(CN,A)
【文献】特表2011-527362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 214/00-214/28
C08F 2/00-2/60
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロポリマー[ポリマー(F)]であって:前記ポリマー(F)における繰り返し単位の総モルに対して、
-
50モル%
~84.9%のフッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位と、
- 15モル%~30モル%のトリフルオロエチレンに由来する繰り返し単位と、
- 0.1モル%~10モル%の1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンに由来する繰り返し単位と
を含むフルオロポリマー[ポリマー(F)]。
【請求項2】
前記ポリマー(F)が、シス-1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレン又はトランス-1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンに由来する繰り返し単位を含む請求項1に記載のポリマー(F)。
【請求項3】
前記ポリマー(F)が、クロロトリフルオロエチレン及び1,1-クロロフルオロエチレンから選択される少なくとも1種のフッ素化モノマーに由来する繰り返し単位を更に含む請求項1又は2に記載のポリマー(F)。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリマー(F)を製造する方法であって、前記方法が、少なくとも1種のラジカル開始剤の存在下で、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン及び1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンを重合することを含む方法。
【請求項5】
前記方法が、水性媒体の存在下で実施される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、水性乳化重合又は水性懸濁重合により実施される請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が:
- 少なくとも1種の界面活性剤[界面活性剤(S)]、
- 少なくとも1種のラジカル開始剤、
- 場合により、少なくとも1種の非官能性パーフルオロポリエーテル(PFPE)オイルと、
- 場合により、少なくとも1つの連鎖移動剤と
を含む水性媒体中において水性乳化重合により実施される請求項4~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記界面活性剤(S)が、式(II):
[式中、X
1、X
2及びX
3は、互いに等しいか又は異なり、H、F及び場合により1個若しくは複数個のカテナリー又は非カテナリー酸素原子を含むC
1~C
6(パー)フルオロアルキル基からなる群から独立して選択され、Lは、結合又は二価の基であり、R
Fは、二価のフッ素化C
1~C
3架橋基であり、及びYは、アニオン性官能基である]
の環状フッ素化合物である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載の少なくとも1種のポリマー(F)を含む組成物[組成物(C)]。
【請求項10】
前記組成物(C)が、1種又は複数種の添加剤を更に含む請求項9に記載の組成物(C)。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の組成物(C)を含むフルオロポリマーフィルム[フィルム(F)]。
【請求項12】
請求項11に記載のフィルム(F)を製造する方法であって、前記方法が、前記組成物(C)をフィルムに加工することを含む方法。
【請求項13】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリマー(F)又は請求項11に記載のフィルム(F)の電気デバイス又は電子デバイスにおける使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年6月14日に出願された欧州特許出願第17175933.5号の優先権を主張する。この出願の内容全体があらゆる目的で参照によって本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、強誘電性フルオロポリマー、前記フルオロポリマーを製造する方法、及び前記フルオロポリマーの電気応用装置及び/又は電子応用装置における使用に関する。
【背景技術】
【0003】
トリフルオロエチレン(TrFE)に由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデン(VDF)コポリマーは、その加工の容易さ、化学的不活性、並びに魅力的な強誘電特性、圧電特性、焦電特性、フェロリラクサ(ferrorelaxor)特性、及び誘電特性のために、電気及び電子デバイスの双方の製造において広範に使用されてきた。
【0004】
特に、それらの高い誘電率及び魅力的なフェロリラクサ特性のために、トリフルオロエチレン(TrFE)及びクロロトリフルオロエチレン(CTFE)に由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデン(VDF)ターポリマーが、薄膜トランジスタ(TFT)デバイスの製造に使用されている。
【0005】
周知のように、圧電性という用語は、電気的エネルギーを機械的エネルギーと交換する材料の能力及びその逆の能力を意味し、この電気機械的応答は、変形又は圧力振動中の寸法変化と本質的に関係していると考えられる。直接の圧電効果(応力がかけられるときの電気の発生)を示す材料はまた逆の圧電効果(電場がかけられるときの応力及び/又は歪みの発生)も示すという点において、圧電効果は可逆的である。
【0006】
強誘電性は、材料の特性であって、これによって材料が、その方向を外部電場の印加によって等価状態間で切り替えることができる、自発的電気分極を示す特性である。
【0007】
焦電気性は、加熱又は冷却時に電位を発生させる、特定の材料の能力である。実際に、温度におけるこの変化の結果として、正及び負の電荷は、移行によって反対の端部に移動し(即ち、その材料は分極した状態になり)、それ故に電位が確立される。
【0008】
フェロリラクサは、電気活性材料の特性であり、これにより、電気活性材料は、電場が印加されたときに大きな変位を示すが、作動中は力の伝達がない。
【0009】
良好な誘電特性を有する材料が、当技術分野で知られている。
【0010】
特に、高誘電材料は、高性能の電気及び電子デバイスを製造するために更により望ましいものとなっている。
【0011】
上述の観点から、容易に加工でき、それにより高い誘電率及び、特定の場合においては、電気及び電子デバイスに好適に使用されるように、高い圧電係数を具備するフィルムを提供する強誘電性フルオロポリマーに対する必要性が当技術分野において依然として存在する。
【0012】
米国特許出願公開第2016/046746号明細書(Arkema)は、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンとのフリーラジカル共重合により、及び少なくとも1種の第3のモノマーのフリーラジカル共重合により取得されるコポリマーであって、第3のモノマーが、0g/モルより大きいモル質量を有し、式:
[式中、R
1は、水素原子又はフッ素原子であり、R
2及びR
3は、Cl、F及びCF
3から互いに独立して選択され、並びに官能基は、ホスホネート、カルボン酸、SO
2X(ここでXは、F、OK、ONa若しくはOHである)又はSi(OR)
3(Rはメチル、エチル若しくはイソプロピル基である)基から選択される]に対応するコポリマーを開示する。第3のモノマーは、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、ベータ-ジフルオロアクリル酸、2-(トリフルオロ)メタクリル酸、ジメチルビニルホスホネート、ブロモトリフルオロエチレン、ビニルトリフルオロアセテート、イタコン酸及びt-ブチル2-(トリフルオロメチル)アクリレートから選択できる。
【0013】
米国特許第4708989号明細書(Thomson CSF)は、高い誘電率を有し、異なるキュリー温度を有する強誘電性ポリマーの合金から形成されるポリマー系誘電性材料であって、強誘電性ポリマーが、フッ化ビニリデン及びトリフルオロエチレンコポリマーP(VF2--VF3)[別名VDF/TrFE]、例えば、2種のターポリマーを混合して得られる合金、又はターポリマーとコポリマーを混合して得られる合金であってよいポリマー系誘電性材料を開示する。ターポリマーのうちで、VDF-TrFE-HFPターポリマーが具体的に記載されている。
【0014】
CA678492号明細書(PENNSALT CHEMICALS CORP)は、様々なVDFポリマーを特定の有機溶媒に溶かした溶液を開示する;例6は、VDF(約95モル%)と1,2-ジフルオロ-1,2-ジクロロエチレンとのコポリマーの例を特に記載する。VDF-TrFEコポリマーは、記載されていない。
【0015】
GB942956号明細書(PENNSALT CHEMICALS CORP)は、様々なVDFポリマーの特定の有機溶媒に溶かした溶液を開示する;例8は、約5toolパーセントの対称ジフルオロ-ジクロロエチレンを含有し、0.05~20ミクロンの範囲の粒径を有する、フッ化ビニリデンと対称ジフルオロ-ジクロロエチレンとのコポリマーを30重量部含有する水性分散液の例を特に開示する。
【0016】
欧州特許第2709113号明細書(BPP CABLES LTD)は、第1導体、第1絶縁層及び第1複数のワイヤを含むケーブルを開示し、第1絶縁層は:
-第1モノマーであって、1,1,2,2-テトラフルオロエチレン、1-フルオロエチレン、1,1-ジフルオロエチレン、1,2-ジフルオロエチレン、1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン、パーフルオロプロピルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロブチルエーテル、1-クロロ-1,2,2-トリフルオロエチレン、1,1ジクロロ-2,2-ジフルオロエチレン、1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレン、1,1,2-トリクロロ-2-フルオロエチレン、及びヘキサフルオロプロペンからなる群から選択される第1モノマー、並びに
-第2モノマーであって、エチレン、プロピレン、1,1,2,2-テトラフルオロエチレン、1-フルオロエチレン、1,1-ジフルオロエチレン、1,2-ジフルオロエチレン、1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロプロピルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロブチルエーテル、1-クロロ-1,2,2-トリフルオロエチレン、1,1ジクロロ2,2,ジフルオロエチレン、11,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレン、1,1,2-トリクロロ-2-フルオロエチレン及びヘキサフルオロプロペンからなる群から選択される第2モノマーを含むコポリマーである第1フルオロポリマーを含む。
【0017】
国際公開第2011/073254号パンフレット(Solvay Specialty Polymers Italy SpA)は、(i)含水素界面活性剤又はフッ素化界面活性剤と(ii)前記官能性PFPEとの組み合わせの存在下でのフッ化ビニリデン(VDF)熱可塑性ポリマーの分散液を製造するプロセスを開示する。VDFは、ビニルフルオリド(VF-1)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(MVE)、トリフルオロエチレン(TrFE)及びそれらからの混合物からなる群から選択されるフッ素化モノマーと共重合できる。
【発明の概要】
【0018】
本発明のフルオロポリマーは、高い誘電率を有利にも具備し、特定の場合には、良好な強誘電性を有利に維持しながら、電気及び/又は電子デバイスに好適に使用されるように高い圧電係数を有利にも具備することが、今や見出されている。
【0019】
したがって、第1の例では、本発明は、
- フッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位と、
- トリフルオロエチレンに由来する繰り返し単位と、
- 1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンに由来する繰り返し単位を含むフルオロポリマー[ポリマー(F)]に関する。
【0020】
本発明のポリマー(F)は、通常、シス-1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレン又はトランス-1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレン、好ましくはトランス-1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレン(以下トランス-1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンを「1112」と呼ぶ)に由来する繰り返し単位を含む。
【0021】
本発明のポリマー(F)は、前記ポリマー(F)における繰り返し単位の総モルに対して、通常少なくとも50モル%、好ましくは少なくとも56モル%、より好ましくは少なくとも62モル%のフッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位を含む。
【0022】
本発明のポリマー(F)は、前記ポリマー(F)における繰り返し単位の総モルに対して、通常15モル%~30モル%、好ましくは19モル%~28モル%のトリフルオロエチレンに由来する繰り返し単位を含む。
【0023】
本発明のポリマー(F)は、前記ポリマー(F)における繰り返し単位の総モルに対して、通常0.1モル%~10モル%、好ましくは0.5モル%~8.5モル%、より好ましくは1モル%~6モル%、更により好ましくは1モル%~5モル%の1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンに由来する繰り返し単位を含む。
【0024】
本発明のポリマー(F)は、少なくとも1種の他のフッ素化モノマーに由来する繰り返し単位を更に含んでもよい。
【0025】
本発明の目的上、用語「フッ素化モノマー」は、少なくとも1個のフッ素原子を含むエチレン性不飽和モノマーを意味するものとする。
【0026】
フッ素化モノマーは、1個若しくは複数個の他のハロゲン原子(Cl、Br、I)を更に含んでもよい。
【0027】
本発明のポリマー(F)が少なくとも1種の他のフッ素化モノマーに由来する繰り返し単位を更に含む場合は、前記ポリマー(F)は、通常、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン及び1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンと異なる少なくとも1種のフッ素化モノマーに由来する繰り返し単位を更に含む。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、本発明のポリマー(F)は、クロロトリフルオロエチレン及び1,1-クロロフルオロエチレンから選択される少なくとも1種のフッ素化モノマーに由来する繰り返し単位を更に含んでもよい。
【0029】
本発明の好ましい一実施形態によれば、本発明のポリマー(F)は、クロロトリフルオロエチレンに由来する繰り返し単位を更に含んでもよい。
【0030】
本発明のポリマー(F)は、少なくとも1種の他のフッ素化モノマーに由来する繰り返し単位を、前記ポリマー(F)における繰り返し単位の総モルに対して、0.1モル%~15モル%更に含んでもよく、好ましくは5モル%~10モル%含む。
【0031】
本発明のポリマー(F)は、通常、
- フッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位と、
- トリフルオロエチレンに由来する繰り返し単位と、
- 1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンに由来する繰り返し単位と、
- 場合により、少なくとも1種の他のフッ素化モノマーに由来する繰り返し単位を含み、好ましくはそれらからなる。
【0032】
本発明のポリマー(F)は、前記ポリマー(F)における繰り返し単位の総モルに対して、
- フッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位と、
- トリフルオロエチレンに由来する15モル%~30モル%、好ましくは19モル%~28モル%の繰り返し単位と、
- 1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンに由来する0.1モル%~10モル%、好ましくは0.5モル%~8.5モル%、より好ましくは1モル%~6モル%、更により好ましくは1モル%~5モル%の繰り返し単位とを好ましくは含み、より好ましくはそれらからなり、
- 場合により、少なくとも1種の他のフッ素化モノマー、好ましくはクロロトリフルオロエチレンに由来する0.1モル%~10モル%、好ましくは1モル%~5モル%の繰り返し単位
を含む。
【0033】
第2の例においては、本発明は、本発明のポリマー(F)を製造するプロセスに関し、前記プロセスは、少なくとも1種のラジカル開始剤の存在下において、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン及び1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンを重合することを備える。
【0034】
本発明のプロセスは、通常、水性媒体の存在下で実施される。
【0035】
本発明のプロセスは、水性乳化重合又は水性懸濁重合により実施してもよい。
【0036】
本発明のプロセスは、通常、125℃未満、好ましくは80℃未満の温度で実施される。
【0037】
水性乳化重合は、通常:
- 少なくとも1種の界面活性剤[界面活性剤(S)]と、
- 少なくとも1種のラジカル開始剤と、
- 場合により、少なくとも1種の非官能性パーフルオロポリエーテル(PFPE)オイルと、
- 場合により、少なくとも1つの連鎖移動剤と
を含む水性媒体中で実施される。
【0038】
本発明の目的上、「界面活性剤[界面活性剤(S)]」とは、疎水基と親水性基の両方を含有する両親媒性有機化合物を意味するものとする。
【0039】
界面活性剤(S)は、通常、
- 含水素界面活性剤[界面活性剤(H)]、
- フッ素化界面活性剤[界面活性剤(F)]、及び
- それらの混合物;からなる群から選択される。
【0040】
界面活性剤(H)は、イオン性含水素界面活性剤[界面活性剤(IS)]、又は非イオン性含水素界面活性剤[界面活性剤(NS)]であってよい。
【0041】
好適な界面活性剤(IS)の非限定例としては特に、3-アリルオキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸塩、ポリビニルホスホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリビニルスルホン酸塩、及びアルキルホスホネートが挙げられる。
【0042】
界面活性剤(H)は、界面活性剤(NS)であるのが好ましい。
【0043】
好適な界面活性剤(NS)の非限定例としては特に、エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドに由来する繰り返し単位を含む、オクチルフェノールエトキシレート及び脂肪族アルコールポリエーテルが挙げられる。
【0044】
界面活性剤(NS)は一般に、EN 1890規格(方法A:1重量%の水溶液)に従い測定すると、有利には50℃以上、好ましくは55℃以上の曇点を有する。
【0045】
界面活性剤(NS)は好ましくは、商標名TRIXON(登録商標)X及びPLURONIC(登録商標)で市販されている非イオン性含水素界面活性剤からなる群から選択される。
【0046】
本発明の第一実施形態によれば、界面活性剤(F)は、式(II):
[式中、X
1、X
2及びX
3は、互いに等しいか又は異なり、H、F及び場合により1個若しくは複数個のカテナリー又は非カテナリー酸素原子を含むC
1~C
6(パー)フルオロアルキル基からなる群から独立して選択され、Lは、結合又は二価の基であり、R
Fは、二価のフッ素化C
1~C
3架橋基であり、及びYは、アニオン性官能基である]
の環状フッ素化合物であってよい。
【0047】
式(II)においては、アニオン性官能基Yは、式:
[式中、X
aは、H、一価の金属(好ましくはアルカリ金属)又は式-N(R’
n)
4のアンモニウム基であり、ここで、出現ごとに等しいか若しくは異なる、R’
nは、水素原子又はC
1~6炭化水素基(好ましくはアルキル基)である]のものからなる群から選択されるのが好ましい。
【0048】
アニオン性官能基Yは、上で定義したように式(3”)のカルボキシレートであることが最も好ましい。
【0049】
本発明のこの第一実施形態の第一変形形態によれば、界面活性剤(F)は、式(III):
[式中、X
1、X
2、X
3、R
F及びYは、上で定義したものと同じ意味を有する]の環状フッ素化合物である。
【0050】
本発明のこの第一実施形態の第一変形形態の環状フッ素化合物が、式(IV):
[式中、X
1、X
2、X
3、R
F及びX
aは、上で定義したものと同じ意味を有する]の環状フッ素化合物であるのがより好ましい。
【0051】
本発明のこの第一実施形態の第二変形形態によれば、界面活性剤(F)は、式(V):
[式中、R
F及びX
aは、上述したものと同じ意味を有し、互いに等しいか又は異なるX*
1、X*
2は、独立してフッ素原子、-R’
f又は-OR’
f、(ここで、R’
fは、C
1~C
3パーフルオロアルキル基である)であり、R
F
1は、F又はCF
3であり、kは、1~3の整数である]
の環状フッ素化合物である。
【0052】
本発明のこの第一実施形態の界面活性剤(F)は、式(VI):
[X
aは、上で定義したものと同じ意味を有し、特にX
aは、NH
4である]の環状フッ素化合物であるのがより好ましい。
【0053】
本発明の第二実施形態によれば、界面活性剤(F)は、式(VII):
Rf§(X-)k(M+)k (VII)
[式中、
-Rf§は、場合により、1個又は複数個のカテナリー又は非カテナリー酸素原子を含む、C4~C16(パー)フルオロアルキル鎖、及び、(パー)フルオロポリオキシアルキル鎖から選択され、
-X-は、-COO-、-PO3
-及び-SO3
-から選択され、
-M+は、NH4
+及びアルカリ金属イオンから選択され、且つ、
-kは、1又は2である]のフッ素化界面活性剤であってよい。
【0054】
水性重合媒体において乳化重合での使用に好適な本発明のこの第二実施形態による界面活性剤(F)の非限定的な例としては、特には、以下:
(a’)CF3(CF2)n0COOM’(式中、n0は4~10、好ましくは5~7の範囲の整数であり、好ましくはn0は6に等しく、M’はNH4、Na、Li又はK、好ましくはNH4を表す);
(b’)T-(C3F6O)n1(CFYO)m1CF2COOM’’(式中、Tは、Cl原子又は式CxF2x+1-x’Clx’Oのパーフルオロアルコキシド基(式中、xは、1~3の範囲の整数であり、x’は、0又は1である)を表わし、n1は、1~6の範囲の整数であり、m1は、0又は1~6の範囲の整数であり、M’’は、NH4、Na、Li、又はKを表わし、Yは、F又は-CF3を表わす);
(c’)F-(CF2CF2)n2-CH2-CH2-X*O3M’’’(式中、X*は、リン又は硫黄原子であり、好ましくはX*は、硫黄原子であり、M’’’は、NH4、Na、Li、又はKを表わし、n2は、2~5の範囲の整数であり、好ましくはn2は、3に等しい);
(d’)A-Rbf-B二官能性フッ素化界面活性剤[式中、A及びBは、互いに等しく又は異なり、式-(O)pCFY’’-COOM*(式中、M*は、NH4、Na、Li、又はKを表わし、好ましくはM*は、NH4を表わし、Y’’は、F又は-CF3であり、pは、0又は1である)を有し、Rbfは、A-Rbf-Bの数平均分子量が300~1800の範囲にあるような二価の(パー)フルオロアルキル鎖又は(パー)フルオロポリエーテル鎖である]、及び、
(e’)それらの混合物
が挙げられる。
【0055】
水性ラテックスは、通常、水性乳化重合により実施されるプロセスにより取得できる。本発明の水性ラテックスは、ISO 13321に従い測定すると、50nm~450nm、好ましくは250nm~300nmを占める平均一次粒径を有する一次粒子の形態の、少なくとも1種のポリマー(F)を含むのが好ましい。
【0056】
本発明の目的上、「平均一次粒径」とは、乳化重合により得られるポリマー(F)の一次粒子の平均サイズを意味するものとする。
【0057】
本発明の目的上、ポリマー(F)の「一次粒子」は、一次粒子のアグロメレートとは区別可能であることが意図されるべきである。ポリマー(F)の一次粒子を含む水性ラテックスは有利には、水性重合媒体中における乳化重合により得ることができる。ポリマー(F)の一次粒子のアグロメレートは、典型的には、水性ポリマー(F)ラテックスの濃縮及び/又は凝固並びにその後の乾燥及び均質化など、それによってポリマー(F)粉末を提供するポリマー(F)製造の回収及びコンディショニング工程によって入手可能である。
【0058】
本発明の水性ラテックスはそれ故、水性媒体中にポリマー(F)粉末を分散させることにより調製される水性スラリーとは区別可能であると意図されるべきである。水性スラリーに分散したポリマー(F)粉末の平均粒径は、通常、ISO 13321に従って測定すると、1μmよりも大きい。
【0059】
本発明の水性ラテックスは有利には、ISO 13321に従い測定すると、50nm~450nm、好ましくは250~300nmを占める平均一次粒径を有する少なくとも1種のポリマー(F)の一次粒子に均一に分散している。
【0060】
水性乳化重合は、通常、10バール~80バール、好ましくは15バール~35バールに含まれる圧力で実施される。
【0061】
当業者は、とりわけ使用されるラジカル開始剤を考慮して重合温度を選択することとなる。水性乳化重合温度は、通常50℃~90℃の間、好ましくは60℃~80℃に含まれる温度で実施される。
【0062】
ラジカル開始剤の選択は特に限定されないが、水性乳化重合に好適な水溶性ラジカル開始剤は、重合プロセスを開始させる、及び/又は加速させることができる化合物から選択されると理解される。
【0063】
無機ラジカル開始剤を用いてもよく、それらには、限定されるものではないが、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸塩が挙げられる。
【0064】
また、有機ラジカル開始剤を使用でき、これらに限定されるものではないが、以下のもの:アセチルシクロヘキサンスルホニルパーオキシド;ジアセチルパーオキシジカーボネート;ジエチルパーオキシジカーボネート、ジシクロヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネートなどのジアルキルパーオキシジカーボネート;tert-ブチルパーネオデカノエート;2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル;tert-ブチルパーピバレート;ジオクタノイルパーオキシド;ジラウロイル-パーオキシド;2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル);tert-ブチルアゾ-2-シアノブタン;ジベンゾイルパーオキシド;tert-ブチル-パー-2エチルヘキサノエート;tert-ブチルパーマレエート;2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル);ビス(tert-ブチル-パーオキシ)シクロヘキサン;tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート;tert-ブチルパーアセテート;2,2’-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ブタン;ジクミルパーオキシド;ジ-tert-アミルパーオキシド;ジ-tert-ブチルパーオキシド(DTBP);p-メタンヒドロパーオキシド;ピナンヒドロパーオキシド;クメンヒドロパーオキシド;及びtert-ブチルヒドロパーオキシドが挙げられる。
【0065】
他の好適なラジカル開始剤としては、特には、クロロカーボン系及びフルオロカーボン系アシルパーオキシドなどのハロゲン化フリーラジカル開始剤、例えばトリクロロアセチルパーオキシド、ビス(パーフルオロ-2-プロポキシプロピオニル)パーオキシド、[CF
3CF
2CF
2OCF(CF
3)COO]
2、パーフルオロプロピオニルパーオキシド、(CF
3CF
2CF
2COO)
2、(CF
3CF
2COO)
2、{(CF
3CF
2CF
2)-[CF(CF
3)CF
2O]
m-CF(CF
3)-COO}
2(式中、m=0~8である)、[ClCF
2(CF
2)
nCOO]
2、及び[HCF
2(CF
2)
nCOO]
2(式中、n=0~8である);パーフルオロアルキルアゾ化合物、例えばパーフルオロアゾイソプロパン、[(CF
3)
2CFN=]
2、
[式中、
は、1~8個の炭素を有する直鎖又は分岐状パーフルオロカーボン基である];安定な又はヒンダードパーフルオロアルカンラジカル、例えばヘキサフルオロプロピレン三量体ラジカル、[(CF
3)
2CF]
2(CF
2CF
2)C
●ラジカル及びパーフルオロアルカンなどが挙げられる。
【0066】
ジメチルアニリン-ベンゾイルパーオキシド、ジエチルアニリン-ベンゾイルパーオキシド及びジフェニルアミン-ベンゾイルパーオキシドなどの、レドックス対を形成する少なくとも2種の成分を含むレドックス系をまた、重合プロセスを開始するラジカル開始剤として使用してもよい。
【0067】
無機ラジカル開始剤の中では、過硫酸アンモニウムが特に好ましい。
【0068】
有機ラジカル開始剤の中では、50℃よりも高い自己加速分解温度(SADT)を有するパーオキシド、例えば、ジ-tert-ブチルパーオキシド(DTBP)、ジ-tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、tert-ブチル(2-エチル-ヘキシル)パーオキシカーボネート、tert-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエートなどが特に好ましい。
【0069】
上に定義した1種又は複数種のラジカル開始剤を、水性重合媒体の重量を基準にして、有利には0.001重量%~20重量%の範囲の量で、乳化重合プロセスの水性重合媒体に添加してよい。
【0070】
「非官能性パーフルオロポリエーテル(PFPE)油」とは、本明細書により、(パー)フルオロポリオキシアルキレン鎖[鎖(Rf)]及び非官能性末端基を含むパーフルオロポリエーテル(PFPE)油を意味するものとする。
【0071】
非官能性PFPE油の非官能性末端基は、一般に、フッ素とは異なる1つ若しくは複数のハロゲン原子又は水素原子を場合により含む、1~3個の炭素原子を有するフルオロ(ハロ)アルキル基、例えばCF3-、C2F5-、C3F6-、ClCF2CF(CF3)-、CF3CFClCF2-、ClCF2CF2-、ClCF2-から選択される。
【0072】
非官能性PFPE油は、通常、400~3000、好ましくは600~1500を占める数平均分子量を有する。
【0073】
非官能性PFPE油は、好ましくは、以下からなる群から選択される。
(1’)商標名GALDEN(登録商標)及びFOMBLIN(登録商標)でSolvay Solexis S.p.A.から市販されている非官能性PFPE油であって、前記PFPE油が、一般に以下の式:CF3-[(OCF2CF2)m-(OCF2)n]-OCF3m+n=40~180;m/n=0.5~2CF3-[(OCF(CF3)CF2)p-(OCF2)q]-OCF3p+q=8~45;p/q=20~1000のいずれかに従う少なくとも1種のPFPE油を含む非官能性PFPE油。
(2’)商標名DEMNUM(登録商標)でDaikinから市販されている非官能性PFPE油であって、前記PFPEが、一般にここで以下の式:F-(CF2CF2CF2O)n-(CF2CF2CH2O)j-CF2CF3j=0又は>0の整数;n+j=10~150に従う少なくとも1種のPFPEを含む非官能性PFPE油。
(3’)商標名KRYTOX(登録商標)でDu Pont de Nemoursから市販されている非官能性PFPE油であって、前記PFPEが、一般に以下の式:F-(CF(CF3)CF2O)n-CF2CF3n=10~60に従うヘキサフルオロプロピレンエポキシドの少なくとも1種の低分子量のフッ素末端封止ホモポリマーを含む非官能性PFPE油。
【0074】
非官能性PFPE油は、上で定義した式(1’)を有するものから選択されるのがより好ましい。
【0075】
連鎖移動剤は、存在するならば、例えば、エタン、3~10の炭素原子を有するケトン、エステル、エーテル、又は脂肪族アルコール、例えばアセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、イソプロピルアルコール;例えば、クロロホルム、トリクロロフルオロメタンなどの、1~6の炭素原子を有する、場合により水素を含有する、クロロ(フルオロ)カーボン;例えば、ビス(エチル)カーボネート、ビス(イソブチル)カーボネートなどの、アルキルが1~5の炭素原子を有するビス(アルキル)カーボネートなどのフッ素化モノマーの重合において公知のものから一般的に選択される。
【0076】
連鎖移動剤は、存在するならば、開始時に、重合中に連続的に又は個別的な量で(段階的に)水性重合媒体に供給されることができ、連続的又は段階的供給が好ましい。
【0077】
上に詳述した水性乳化重合プロセスは、当技術分野において記載されている(例えば1991年2月5日に出願の米国特許第4990283号明細書(AUSIMONT S.P.A.)、1996年3月12日に出願の米国特許第5498680号明細書(AUSIMONT S.P.A.)及び2000年8月15日に出願の米国特許第6103843号明細書(AUSIMONT S.P.A.)を参照のこと)。
【0078】
本発明の水性ラテックスは、20重量%~30重量%の少なくとも1種のポリマー(F)を含むのが好ましい。
【0079】
水性ラテックスは、当技術分野で公知の任意の技術により濃縮してもよい。
【0080】
第3の例においては、本発明は、上に定義した少なくとも1種のポリマー(F)を含む組成物[組成物(C)]に関する。
【0081】
本発明の組成物(C)は、液体媒体[媒体(L)]を更に含んでもよい。
【0082】
本発明の目的上、用語「液体媒体[媒体(L)]」は、大気圧下20℃にて液体状態で1種又は複数種の化合物を含む媒体を意味するものとする。
【0083】
媒体(L)の性質は、ポリマー(F)を溶解するのに適していれば特に限定されない。
【0084】
媒体(L)は、通常、1種又は複数種の有機溶媒を含む。
【0085】
第4の例においては、本発明は、上で定義した組成物(C)を含むフルオロポリマーフィルム[フィルム(F)]に関する。
【0086】
第5の例においては、本発明は、本発明のフィルム(F)を製造するためのプロセスに関し、前記プロセスは、上で定義した組成物(C)をフィルムに加工することを含む。
【0087】
本発明のフィルム(F)は、通常、乾燥された後に、場合によりアニーリングされる。
【0088】
組成物(C)が更に媒体(L)を含む場合、本発明のフィルム(F)は、通常、
(i)基材を提供する工程と、
(ii)上で定義した組成物[組成物(C)]を提供する工程であって、前記組成物が液体媒体[媒体(L)]を更に含む工程と、
(iii)工程(ii)で提供された組成物(C)を、工程(i)で提供された基材の少なくとも1つの表面に対して塗布し、これにより、湿潤フィルムを提供する工程と、
(iv)工程(iii)で提供された湿潤フィルムを乾燥させ、これにより、乾燥フィルムを提供する工程と、
場合により、(v)工程(iv)で提供された乾燥フィルムをアニーリングする工程
を備えるプロセスにより取得できる。
【0089】
本発明のプロセスによって取得できるフィルム(F)は、有利には、様々な用途に好適に使用される良好な機械的特性を有する均一なフルオロポリマーフィルムであることが判明している。
【0090】
本発明の目的上、「フィルム」という用語は、その長さ又はその幅よりも小さい厚さを有する平らな片の材料を意味するものとする。
【0091】
本発明のフィルム(F)を製造するためのプロセスの工程(i)では、基材は、通常、多孔質基材である。
【0092】
「非多孔質基材」という用語は、本明細書では、有限寸法の孔を含まない高密度基材を意味するものとする。
【0093】
本発明のフィルム(F)を製造するためのプロセスの工程(iii)では、組成物(C)は、通常、キャスティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、ドクターブレーディング、スロットダイコーティング、グラビアコーティング、インクジェット印刷、スピンコーティング、スクリーン印刷、ブラシ、スキージー、フォームアプリケーター、カーテンコーティング、及び真空コーティングからなる群から選択される加工技術を用いることによって、工程(i)で提供された基材の少なくとも1つの表面に対して塗布される。
【0094】
乾燥温度は、本発明のフィルム(F)からの1種又は複数種の有機溶媒の蒸発による除去を行うように選択されることとなる。
【0095】
乾燥は、通常、少なくとも50℃の温度で実施される。乾燥は、好ましくは50℃~100℃の温度で実施される。乾燥は、大気圧下又は真空下のどちらかで行うことができる。或いは、乾燥は、手が加えられた雰囲気下で、例えば、通常、特には水分が除かれた(0.001%v/v未満の水蒸気含量)不活性ガス下で行うことができる。
【0096】
アニーリングは、通常、60℃~115℃に含まれる温度で実施される。アニーリングは、通常フィルム(F)の厚みに応じて、15分~120分に含まれる時間で行うことができる。
【0097】
フィルム(F)は、通常、いかなる有機溶媒も含まない。
【0098】
フィルム(F)は、有利には100nm~100μmに含まれる厚さを有する。
【0099】
フィルム(F)の厚さは、反射測定法、形状測定法、走査型電子顕微鏡法、及び原子間力顕微鏡法などの任意の好適な技術により測定することができる。
【0100】
組成物(C)は、1種又は複数種の添加剤を更に含むことができる。
【0101】
添加剤を含むならば、添加剤の選択は、媒体(L)におけるポリマー(F)の溶解性を妨げない限り、特に限定されない。
【0102】
好適な添加剤の非限定的な例としては、特に、顔料、UV吸収剤、架橋剤、架橋開始剤、セラミック、ガラス、シリカ、導電性金属粒子、半導電性酸化物、カーボンナノチューブ、グラフェン、コア-シェル粒子、カプセル化粒子、導電性塩、シリコン系粒子などの有機及び無機充填剤が挙げられる。
【0103】
組成物(C)が1種又は複数種の添加剤を更に含む場合、これによって提供されるフィルム(F)は、通常、少なくとも1種の添加剤を更に含む組成物(C)を含む。
【0104】
組成物(C)が、架橋剤及び架橋開始剤からなる群から選択される1種又は複数種の添加剤を更に含む場合、これによって提供されるフィルム(F)は、有利には、架橋性フルオロポリマーフィルム[フィルム(FC)]であり、これは、通常、架橋剤及び架橋開始剤からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を更に含む組成物(C)を含む。
【0105】
第6の例においては、本発明は、本発明のポリマー(F)又はフィルム(F)の電気及び/又は電子デバイスでの使用に関する。
【0106】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0107】
本発明は、以下の実施例を参照してこれからより詳細に説明されるが、実施例の目的は、例示的なものであるにすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0108】
原料
ポリマー(F-a):VDF(69.9モル%)-TrFE(27.9モル%)-1112(2.2モル%)。
ポリマー(F-b):VDF(68.2モル%)-TrFE(26.4モル%)-1112(5.4モル%)。
ポリマー(F-c):VDF(66.2モル%)-TrFE(25.6モル%)-1112(8.2モル%)。
ポリマー(F-d):VDF(67.1モル%)-TrFE(24.2モル%)-CTFE(7.1モル%)-1112(1.6モル%)。
ポリマー(a):VDF(76.1モル%)-TrFE(23.9モル%)。
ポリマー(b):VDF(57.5モル%)-TrFE(34.8モル%)-CTFE(7.7モル%)。
【0109】
ポリマー(F-a)の製造
バッフル及び90rpmで稼働する撹拌機を装着したAISI 316鋼の縦型オートクレーブに14.2リットルの脱塩水を導入した。次に、温度を70℃の反応温度にした。この温度に達したとき、上で定義した式(VI)の環式界面活性剤(Xa=NH4)の35%w/w水溶液335グラム、7バールのフッ化ビニリデン、及び4mlのトランス-1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンを導入した。
【0110】
続いて、モル比が70:30のVDF-TrFEのガス状混合物を、圧縮機を介して30バールの圧力に到達するまで添加した。定量ポンプにより、3重量%の過硫酸ナトリウム水溶液(NaPS)200mlを供給した。上述のモノマー混合物を供給することにより、重合圧力を一定に維持した;2mlのトランス-1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンを合成ポリマー28g毎に総量42mlまで供給した。混合物を560g供給したときに、圧力を最大15バールまで低下させ、反応器を室温まで冷却した。ラテックスを取り出し、48時間凍結させ、解凍したら、凝固したポリマーを脱塩水で洗浄し、80℃で48時間乾燥させた。
【0111】
ポリマー(F-a)の特性を表1に示す。
【0112】
ポリマー(F-b)の製造
一般的な手順下でポリマー(F-a)を製造するのと同じ条件に従ったが、以下の修正を導入した:
- 3重量%の過硫酸ナトリウム水溶液(NaPS)150mlを使用、
- モノマー混合物を有する反応器を加圧する前に、トランス-1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンを6ml供給、及び
- 6mlのトランス-1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンを合成ポリマー56g毎に総量60mlまで供給。
【0113】
ポリマー(F-b)の特性を表1に示す。
【0114】
ポリマー(F-c)の製造
一般的な手順下でポリマー(F-a)を製造するのと同じ条件に従ったが、以下の修正を導入した:
- 3重量%の過硫酸ナトリウム水溶液(NaPS)160mlを使用、
- モノマー混合物を有する反応器を加圧する前に、トランス-1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンを8ml供給、
- 8mlのトランス-1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンを合成ポリマー52g毎に総量80mlまで供給、及び
- 連鎖移動剤として酢酸エチルを20g供給。
【0115】
ポリマー(F-c)の特性を表1に示す。
【0116】
ポリマー(F-d)の製造
一般的な手順下でポリマー(F-a)を製造するのと同じ条件に従ったが、80℃の反応温度で以下の修正を導入した:
- モル比が63/28/9のVDF-TrFE-CTFEのガス状混合物を供給、
- 5バールのVDFを供給、
- 0.5バールのCTFEを供給、
- 3重量%の過硫酸ナトリウム水溶液(NaPS)60mlを使用、
- モノマー混合物を有する反応器を加圧する前に、トランス-1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンを総量5ml供給、及び
- 連鎖移動剤として酢酸エチルを20g供給。
【0117】
ポリマー(F-d)の特性を表1に示す。
【0118】
ポリマー(a)の製造
一般的な手順下でポリマー(F-a)を製造するのと同じ条件に従ったが、トランス-1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンを添加しないで、以下の修正を導入した:
- モル比が75/25のVDF-TrFEのガス状混合物を供給、
- 3重量%の過硫酸ナトリウム水溶液(NaPS)180mlを使用、及び
- 連鎖移動剤として酢酸エチルを50g使用。
【0119】
ポリマー(a)の特性を表1に示す。
【0120】
ポリマー(b)の製造
一般的な手順下でポリマー(F-a)を製造するのと同じ条件に従ったが、トランス-1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンを添加しないで、以下の修正を導入した:
- モル比が63/28/9のVDF-TrFE-CTFEのガス状混合物を供給、
- 5バールのVDFを供給、
- 0.5バールのCTFEを供給、
- 3重量%の過硫酸ナトリウム水溶液(NaPS)180mlを使用、及び
- 連鎖移動剤として酢酸エチルを20g使用。
【0121】
ポリマー(b)の特性を表1に示す。
【0122】
フルオロポリマーフィルムを製造する一般的手順
ポリマーをメチルエチルケトンの20%w/w濃度の溶液に調製した後、ドクターブレード法により、Elcometer自動フィルムアプリケーターモデル4380のフィルムアプリケーターを用いて、それらからフィルムをガラス基板上にキャストした。
【0123】
そのようにキャストしたポリマー層を真空下、70℃で2時間乾燥させた。そのようにして取得した乾燥フィルム上に、商標名ORGACON(登録商標)でAgfa-Gevaertより購入したポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)を伝導性材料として用いて、フィルムの両側に電極としてインクジェット印刷技術により1cm×1cmの12の模様をプリントした。
【0124】
試料の厚さを、Mitutoyoマイクロメーターを用いて測定した。
【0125】
フルオロポリマーフィルムのアニーリング
各フルオロポリマーの溶融温度に従ってフルオロポリマーフィルムに対してアニーリング温度を選択した:Tアニーリング=T溶融-5℃。
【0126】
従来式オーブン内に一定温度(Tアニーリング)で1時間フルオロポリマーフィルムを放置した後、室温まで徐冷して、アニーリングを行った。オーブンのスイッチをオフにし、室温に達するように全ての系を放置して、徐冷を行った。
【0127】
フルオロポリマーフィルムのポーリング
RADIANTによって最大10KVの電場が発生するHigh Voltage Interfaceを装備したLC Precisionポーリング装置を使用して、フルオロポリマーフィルムをポーリングした。80V/μm~250V/μmの可変電場が試料全体に印加された分極セルにアニーリングしたフィルムを置いた。
【0128】
フルオロポリマーフィルムの誘電率の決定
誘電率[k]の値は、ピエゾテスト(Piezotest)によって提供されたピエゾメーターシステムによる誘電容量の直接測定から導かれた。容量値は、全て110Hzで測定した。また測定を用いて、電極の電気均一性及び電気導電性を確認した。
【0129】
フルオロポリマーフィルムの圧電係数の測定
PM 300システム(PiezoTest Inc.)を用いて、室温で110Hzの振動下でフィルムを通電した、歪測定ゴージ(instrument strain gouge)内に分極した試料を置くことにより、圧電係数の値(d33)を測定した。d33値をμC/Nとして報告する。
【0130】
結果を以下の表1に示す。
【0131】
【0132】
表1に示すように、特には、本発明によるポリマー(F-a)、(F-b)、(F-c)及び(F-d)のいずれかによって具現される、本発明のポリマー(F)は、有利にもポリマーがその強誘電性を保持する温度よりも低いキュリー温度(TCurie)を有する。
【0133】
同様に表1に示すように、特には、本発明によるポリマー(F-a)、(F-b)、及び(F-c)のいずれかによって具現される、本発明のポリマー(F)は、アニーリング前かアニーリング後かのどちらかにポリマー(a)と比較すると高い誘電率を具備する。
【0134】
特に、本発明によるポリマー(F-d)は、アニーリング前かアニーリング後かのどちらかにポリマー(b)と比較すると高い誘電率を具備する。
【0135】
更に、表1に示すように、特には、本発明によるポリマー(F-a)、(F-b)、及び(F-c)のいずれかによって具現される、本発明のポリマー(F)は、アニーリングの前でさえ、ポリマー(a)及びポリマー(b)のいずれかと比較すると高い圧電係数を具備する。
【0136】
上述の観点から、本発明のポリマー(F)又はそれらの任意のフィルムは、電気及び/又は電子デバイスに使用するのに特に好適であることが判明した。