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特許7315529変色指示薬を含むマイクロニードルアレイ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】変色指示薬を含むマイクロニードルアレイ
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/12 20060101AFI20230719BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20230719BHJP
   A61M 37/00 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
A61L31/12 100
A61L31/14
A61L31/14 500
A61M37/00 514
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020507527
(86)(22)【出願日】2018-08-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-22
(86)【国際出願番号】 EP2018071957
(87)【国際公開番号】W WO2019030417
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-07-28
(31)【優先権主張番号】102017118419.8
(32)【優先日】2017-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】300005035
【氏名又は名称】エルテーエス ローマン テラピー-ジステーメ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ヘニング
(72)【発明者】
【氏名】ジモーネ・マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ラリッサ・フローリン
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/053022(WO,A1)
【文献】特表2016-538003(JP,A)
【文献】特開2001-324502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
A61M 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体に複数のマイクロニードルを含む、皮内送達を伴う使用のためのマイクロニードルアレイであって、
マイクロニードルは、少なくとも1種の変色指示薬を含むことを特徴とし、
マイクロニードルは、少なくとも1種の活性成分を含み、
マイクロニードルは、生分解性ポリマー、生体適合性ポリマー、または水溶性ポリマーからなる少なくとも1種のポリマーを含み、
色の変化または色のシフトは、穿刺の結果として角質層に到達していることを示唆し、
変色指示薬は、マイクロニードルの不可分な部分であり、被覆の手段によって提供されていないことを特徴とし、
少なくとも1種の変色指示薬は、マイクロニードルに導入される、または組み込まれる、
前記マイクロニードルアレイ。
【請求項2】
変色指示薬は、マイクロニードル製造中にマイクロニードルが製造されるポリマーに添加されることを特徴とする、請求項1に記載の使用のためのマイクロニードルアレイ。
【請求項3】
マイクロニードルは、少なくとも1種の医療用医薬品を含むことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の使用のためのマイクロニードルアレイ。
【請求項4】
変色指示薬は、ニトラジンイエロー、ブロモチモールブルー、カルミン酸、ブラジリン、コンゴレッド、ニュートラルレッド、フェノールレッド、テトラブロモフェノールフタレイン、またはその混合物からなる群から選択される、少なくとも1種のpH指示薬であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の使用のためのマイクロニードルアレイ。
【請求項5】
変色指示薬は、ニトラジンイエローまたはブロモチモールブルーからなる群から選択される、少なくとも1種の生理学的に許容されるpH指示薬であることを特徴とする、請求項4に記載の使用のためのマイクロニードルアレイ。
【請求項6】
少なくとも1種のpH指示薬である変色指示薬は、クロモイオノフォアまたはフルオロイオノフォアから選択される化合物であり、化合物は、クロモフォアおよびフルオロフォアから選択される少なくとも1つの分子と共有結合した少なくとも1つのイオノフォアから構成されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項7】
クロモフォアまたはフルオロフォアは、中性、酸性、または塩基性のニトロ化されたベンゼン染料、中性、酸性、または塩基性のアゾ染料、キノン染料、中性、酸性、または塩基性のアントラキノン染料、アジン染料、中性、酸性、または塩基性のメチンおよびアゾメチンのようなメチン染料、トリアリールメタン染料、インドアミン(indoamine)染料
、カロテノイド、テルペノイド、フラボノイド、ポルフィリン、フルオレセイン、ローダミン、およびクマリンのような天然の染料、ならびにその直接染料から選択されることを特徴とする、請求項6に記載の使用のためのマイクロニードルアレイ。
【請求項8】
少なくとも1種のpH指示薬である変色指示薬は、バイオセンシング指示薬であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項9】
変色指示薬は、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、または5-アミノ-2,3-ジヒドロフタラジン-1,4-ジオンによって、表皮の一部を形成しない内因性の酵素を検出することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項10】
変色指示薬は、マイクロニードルの先端に含まれることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の使用のためのマイクロニードルアレイ。
【請求項11】
「プラス、十文字、星型、円形」のようなパターン、またはその他の任意の幾何学的な図形が、皮膚上に肉眼で視認可能であることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の使用のためのマイクロニードルアレイ。
【請求項12】
接着性のストリップまたはパッチからなる群から選択される固定手段を含むことを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の使用のためのマイクロニードルアレイ。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイを収容するマイクロニードルシステムであって、少なくとも1つのリザーバおよび/またはアプリケータを含む、前記マイクロニードルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担体に複数のマイクロニードルを含む、皮内送達するためのマイクロニードルアレイであって、ヒトまたは動物の皮膚を穿刺するのに適し、また少なくとも1つの変色指示薬を含むマイクロニードルアレイおよびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
物質、特に医療用医薬品を無痛皮内(または経皮)投与するのにマイクロニードルアレイが使用されるマイクロニードルシステムおよびデバイスは、先行技術から公知である。
【0003】
皮膚は、いくつかの層から構成される。皮膚の最外層(これは角質層に該当する)は、外来物質が身体内に侵入し、また身体そのものの物質が身体から漏出するのを防止する公知のバリア特性を有する。およそ10~30マイクロメートルの厚さを有する緻密な角質細胞の残渣から構成される複合構造である角質層は、身体を保護するというこの目的のために水分を漏出させない膜を形成する。角質層のこの生来の不透過性は、ほとんどの医薬品およびその他の物質が皮内送達の一環として皮膚を通じて投与されるのを妨害する。
【0004】
その結果、したがって、様々な物質が、例えば角質層に微小孔または切れ目を設け、そして医療用医薬品を角質層の内部または下部にフィードまたは送達することにより投与される。このように、いくつかの医療用医薬品を、例えば、皮下に(subcutaneously)、または皮内に(intradermally)、または皮膚内に(intracutaneously)投与することも可能である。
【0005】
マイクロニードルアレイが皮膚を十分に穿刺し、角質層に到達したか、またはこのバリアを乗り越えたか立証するのは、先行技術ではなおも困難である。
【0006】
先行技術において、特許文献1は、マイクロニードル経由の医療用医薬品の放出に対するモニタリングシステムについて記載する。しかし、内蔵の色素は物質(ここでは医療用医薬品)がマイクロニードルから放出されたかに関する情報を提供するにすぎないので、システムは角質層内への穿刺を検証する能力を有さない。
【0007】
さらに、特許文献1は、特に4~8のpH範囲における好適な変色指示薬、特にpH指示薬の使用について記載していない。
【0008】
特許文献2は、マイクロニードルアレイによるのでは、十分な皮膚穿刺が不可能であるという問題について記載し、そして送達システムに含まれるマイクロカプセル内に染料を存在させることを提案している。但し、その欠点として、そのようなマイクロカプセルは、破裂開放させ、そして色素の発現を可能とするために、好適な圧力を必要とすることが挙げられる。マイクロカプセルの破裂は、結果的に実際の皮膚穿刺とは独立しており、また最低限度の圧力が加えられることを必要とする。したがって、検証は間接的である。
【0009】
そのような真皮穿刺指示薬では、角質層中への、または角質層を通過して皮膚下部の層(表皮、真皮)内への物理的穿刺について、その奏功を明確に可視化することが、放出された穿刺指示薬によってなされることが一般的に必要とされる、と考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2009/081122 A1号
【文献】ドイツ国特許第10 2014 201 605 A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、皮膚、特に角質層内へのマイクロニードルの十分な穿刺深さについて、その信頼性のある検証を可能にすることが目的であり、直接的かつ迅速な検証が可能である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、皮膚表面上のpH値は4~5.5であるが、それと比較して角質層のpH値は6.5~7であるという事実を、特に有利に利用する。pH指示薬を使用すれば、したがって、皮膚表面から角質層を通過する間に目視可能な色の変化を生成することが可能となる。さらに、色の変化は、実現した穿刺深さにおいて、より具体的には、皮内周辺エリア(角質層、表皮、真皮)を考慮したとき、周辺エリアの関数としてpH値に依存せずに生ずる可能性もある。これは、この色の変化がマイクロニードルの皮膚中への穿刺に付随するとき、特に役立つ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明によれば、そのような好適な物質は、変色指示薬と呼ばれる。用語「色の変化」とは、無色から非無色(好ましくは皮膚表面に肉眼で視認可能)を含む、色のシフトが生ずることを意味する。
【0014】
したがって、本発明は、請求項1に記載の機能を有するそのような教示に関し、これは、担体に複数のマイクロニードルを含む、皮内送達を伴う使用のためのマイクロニードルアレイであり、該マイクロニードルには、少なくとも1種の変色指示薬が含まれる。特にpH指示薬の色の変化は、角質層への十分な穿刺深さを特に有利に示唆する。
【0015】
別の実施形態では、変色指示薬は、マイクロニードル内および担体内に存在することができる。
【0016】
マイクロニードルアレイは、患者の皮膚経由で、または皮膚中に物質を放出可能にするために、複数のマイクロニードルを含むことが可能であり、該マイクロニードルアレイは、患者の皮膚上に配置される。マイクロニードルアレイの各マイクロニードルは、好ましくは2つの端部を有する延長されたシャフトを含み、該シャフトの一方の端部はマイクロニードルのベースを形成し、それによってマイクロニードルは平面担体に連結している、またはそれによってマイクロニードルは平面担体と一体化している。ベースの反対側に位置するシャフトの端部は、マイクロニードルが皮膚内にできる限り容易に穿刺可能となるように、好ましくはテーパの付いた形状を有する。中空のマイクロニードルのそれぞれには、少なくとも1つの通路もしくはチャンネル、または少なくとも1つのボアホールが含まれ、マイクロニードルのベースからマイクロニードルの先端またはマイクロニードルのほぼ先端まで延在する。通路は、好ましくは円形の直径を有する。
【0017】
マイクロニードルは、様々な材料から製造可能であり、また、特に固体もしくは半固体、または中空のデザインをそれぞれ有する、例えば金属、セラミック材料、半導体、有機材料、ポリマー、または複合物からなる。
【0018】
そのようなマイクロニードルを製造するための好ましい材料は、例えば、医薬的に許容されるステンレススチール、金、チタン、ニッケル、鉄、錫、クロム、銅、パラジウム、白金、上記金属の合金、ケイ素、二酸化ケイ素、およびポリマーである。ポリマーは、特に好ましくは生分解性ポリマー、好ましくは生体適合性ポリマーおよび水溶性ポリマー、特に生物学的または非生物学的起源であるもの、好ましいポリマーは例えば乳酸および/またはグリコール酸のようなα-ヒドロキシ酸、例えばポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、およびポリエチレングリコール、ポリアンヒドリド、ポリ(オルト)エステル、ポリウレタン、ポリ酪酸、ポリ吉草酸とのコポリマー、およびポリ(ラクチド-co-カプロラクトン)、ポリビニルピロリドン(PVP)、グリカン、グリコサミノグリカン、およびヒアルロナンを含む。同様に、ポリマーは、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル、またはポリアクリルアミドの群に由来する非生分解性ポリマーであってもよい。別の実施形態では、マイクロニードルは、単結晶ケイ素のような単結晶材料からなる。
【0019】
マイクロニードルは、円形の断面または非円形の断面を有する、例えば三角形、四角形、もしくは多角形の断面を有するシャフトを内蔵することができる。シャフトは、ニードルベースからニードルの先端またはニードルのほぼ先端まで延在する1つの通路または複数の通路を有することができる。マイクロニードルは、(有刺の)フックとして設計可能であり、該マイクロニードルのうちの1つまたはそれ以上は、1つまたはそれ以上のそのようなフックを内蔵する。さらに、マイクロニードルは、らせん形状での設計が可能であり、また回転可能に配置でき、これにより、回転動作が適用されると、皮膚への穿刺を容易にし、特に表皮内の所望の穿刺深さでの皮膚内への係留を有効にする(ドイツ国特許第103 53 629 A1号)。
【0020】
マイクロニードルの直径は、一般的に1μm~500μm、好ましくは10μm~100μmの範囲である。通路の直径は、一般的に3μm~80μmの範囲であり、好ましくは液状物質、液剤、および物質調製物が通過するのに適する。マイクロニードルの長さは、一般的に10μm~1,000μm、特に100μm~500μmの範囲である。
【0021】
マイクロニードルは、そのベースにおいて平面担体に連結している、または平面担体と一体化している。マイクロニードルは、好ましくは、担体の表面エリアに対して略垂直に位置するように配置される。マイクロニードルは、規則的または不規則に配置構成可能である。複数のマイクロニードルの配置構成は、断面が異なる形状、寸法が異なる直径、および/または異なる長さを有するマイクロニードルを含むことができる。複数のマイクロニードルの配置構成は、中空のマイクロニードルをもっぱら含むことができる。同様に、配置構成は、固体のマイクロニードル、ならびに液体包有物が点在した固体のマイクロニードルのような半固体の複合物を含むことができる。
【0022】
マイクロニードルアレイは平面担体を含むことができ、該担体は、円板形状、平板形状、またはフィルム形状の基本形状を実質的に有する。担体は、円形、楕円形、三角形、四角形、または多角形のベース表面エリアを有することができる。担体は、金属、セラミック材料、半導体、有機材料、ポリマー、または複合物のような様々な材料から製造可能である。担体を製造するのに適する材料は、好ましくはフィルムまたはウェブ形状の材料、例えば、好ましくはポリエチレン(PE)もしくはポリプロピレン(PP)からなる微孔性膜、または好ましくはエチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)もしくはポリウレタン(PUR)からなる拡散膜であってもよい。担体を製造するための好適な材料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)のようなポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルケトン(PAEK)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリウレタン(PU)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)のようなポリオレフィン、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリラクテート(PLA)、ならびにセルロース水和物またはセルロースアセテートのようなセルロースをベースにしたプラスチック材料からなる群より選択可能である。担体を製造するための好適な材料は、アルミニウム、鉄、銅、金、銀、白金、上記金属の合金、およびその他の医薬的に許容される金属フォイルまたは金属コーティングされたフィルムを含む金属の群からも選択可能である。
【0023】
担体は、好ましくは可撓性の材料、例えばプラスチック材料からなる。可撓性の材料からなる担体は、非可撓性の材料からなる担体よりも良好に皮膚の表面および皮膚の曲率に適合することができる。このように、マイクロニードルアレイと皮膚との間のより良好な接触が実現し、これによりマイクロニードルアレイの確実性を改善する。
【0024】
ここで、変色指示薬、特にpH指示薬を含むそのようなマイクロニードルアレイが少なくとも濡れていること、または好ましくは変色指示薬、特にpH指示薬が存在することが本発明にとって必要不可欠である。
【0025】
pH指示薬または対応するpH指示薬の混合物は、pH4~8、特に4.5~7の範囲において、肉眼で視認可能な色のシフトまたは色の変化を示すのが好ましい。pH指示薬が皮膚上に留まる際には、該pH指示薬が皮膚に侵入したとき、特に穿刺の結果として角質層に到達したときとは著しく異なる色を示すのが好ましい。このように、マイクロニードルが除去された直後に、明確に視認可能である明白な色の変化または色の差異を実現することが可能である。
【0026】
好ましくはpH4~8.5の範囲内である好適なpH指示薬は、ニトラジンイエロー、ブロモチモールブルー、カルミン酸、ブラジリン、コンゴレッド、ニュートラルレッド、フェノールフタレイン、フェノールレッド、テトラブロモフェノールフタレイン、またはその混合物であり得るが、但しそれに限定されない。
【0027】
同様に、pH指示薬は、混合物の形態でも存在する場合があり、対応する混合色が生成可能である。
【0028】
特に好ましい実施形態では、pH指示薬は、ニトラジンイエローおよびブロモチモールブルーのように生理学的に許容される。
【0029】
変色指示薬は、クロモイオノフォアまたはフルオロイオノフォアから選択される化合物からさらに選択することができ、該化合物は、クロモフォアおよびフルオロフォアから選択される少なくとも1つの分子と共有結合した少なくとも1つのイオノフォアから構成。イオノフォアはイオンを錯体化する能力を有する分子である。
【0030】
クロモイオノフォアまたはフルオロイオノフォアには、皮内環境(角質層、表皮、真皮)の存在下で色の変化を生み出すことができる形状付与基(shape-imparting group)が含まれ、該分子の吸収スペクトルは電子の非局在化により変化し、その結果としてクロモイオノフォアおよび/またはフルオロイオノフォアの色が変化する。クロモイオノフォアおよびフルオロイオノフォアは、クロモフォアおよびフルオロフォアから選択される少なくとも1つの分子と共有結合した1つまたはそれ以上のイオノフォア分子から構成される化合物である。クロモフォアは、可視光範囲内で吸収する化合物であり、すなわち化合物には色が付いている。本出願の意味するところでは、フルオロフォアは、UV範囲内および可視光範囲内で吸収する化合物であり、化合物にはしたがって色が付いている。
【0031】
本発明によれば、好適なクロモフォアまたはフルオロフォアは、ベンジジン染料、キノン染料、特に中性、酸性、または塩基性のアントラキノン染料、アジン染料、中性、酸性、または塩基性のメチンおよびアゾメチンのようなメチン染料、トリアリールメタン染料、インドアミン(indoamine)染料、カロテノイド、テルペノイド、フラボノイド、ポルフィリン、フルオレセイン、ローダミン、およびクマリンのような天然の染料、ならびにその直接染料を含む、中性、酸性、または塩基性のニトロ化されたベンゼン染料、中性、酸性、または塩基性の(ジ)アゾ染料より選択される物質である。
【0032】
好適なイオノフォアは、例えば、Na-、KHPO、Na、HHCOのような塩(アルカリ塩)、キレート剤、ポタンド、コロナンド、およびクリプタンドであり、クラウンエーテルまたはコロナンドと呼ばれる大環状化合物、およびクリプタンドと呼ばれる大環状二環化合物である。本出願の意味するところでは、「ポタンド」は、イオン錯体化特性を有する開放構造を備える分子であって、該開放構造内の錯体化エリアはヘテロ原子を含有する鎖である分子を意味するものとの理解されなければならない。このような分子は、例えばオリゴエーテルである。本出願の意味するところでは、「コロナンド」は、イオン錯体化特性を有する閉鎖構造を備える2次元分子を意味するものと理解されなければならない。一般的に、これらは、ヘテロ原子を含有する炭化水素ベースの単環式の分子である。このような分子は、例えば、下記のユニット:-(CH-CH-Y)-を含有する大環状ポリエーテルであり、式中、YはO、S、N、およびPから選択されるヘテロ原子を表わし、nは2を上回る整数、好ましくは4~10の範囲である。
【0033】
このような分子は、例えば、15-クラウン-5、18-クラウン-6のようなクラウンエーテル;ベンゾ-15-クラウン-5、ベンゾ-18-クラウン-6、ジベンゾ-15-クラウン-5、ジベンゾ-18-クラウン-6のようなベンゾクラウンエーテル;アザ-15-クラウン-5、アザ-18-クラウン-6、ジアザ-15-クラウン-5、ジアザ-18-クラウン-6のようなモノアザクラウンエーテルまたはジアザクラウンエーテルである。本発明の意味するところでは、「クリプタンド」は、イオン錯体化特性を有する閉鎖構造(ケージ)を備える三次元分子を意味するものと理解されなければならない。一般的に、これらは、ヘテロ原子を含有する炭化水素ベースの二環式分子である。このような分子は、例えば、下記のユニット:-(CH-CH-Y)-を含有する大環状二環ポリエーテルであり、式中、YはO、S、N、およびPから選択されるヘテロ原子を表わし、nは2を上回る整数、好ましくは2~10の範囲である。同様に、上記変色指示薬は、酸化剤を含有することもある。
【0034】
酸化剤は、好ましくは、過酸化水素、尿素過酸化物、過ホウ酸塩および過硫酸塩のような過酸の塩、過酸から選択され、特に好ましくは酵素(オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ)から選択される。
【0035】
別の実施形態では、本発明は、例えば、グルコースオキシダーゼによるグルコースの酸化から身体内で過酸化水素が自然形成されることに起因する過酸化物の場合、外層(表皮)の一部を形成しない内因性の酵素、特にペルオキシダーゼを、ベンジジン、特に特有のブルーの着色を有する3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、および5-アミノ-2,3-ジヒドロフタラジン-1,4-ジオンのようなフタラジンなどによって検出する変色指示薬を含むことができる。
【0036】
さらに、インク、特にバイオセンシングインクが好適な変色指示薬である。
【0037】
変色指示薬、特にpH指示薬は、マイクロニードルと、またはマイクロアレイのマトリックスもしくは処方物と一体化またはそれに組み込み可能である。さらに、変色指示薬は、マイクロニードル上または担体上に塗布可能である。但し、変色指示薬、特にpH指示薬は、マイクロニードルの不可分な部分であり、そのためにマイクロニードル内に導入可能または組み込み可能であるのが好ましい。特に、変色指示薬は、例えば、マイクロニードル製造中にポリマーに添加可能である。
【0038】
変色指示薬、特にpH指示薬、本発明によれば、または混合物は、例えばそのようなマイクロニードルアレイ製造中に、例えばマトリックスに添加可能である。別の実施形態では、そのような変色指示薬は、マイクロニードルアレイまたはマイクロニードルの不可分な部分もしくは構成要素であり、またはマイクロニードルは、少なくとも1種の変色指示薬を含む、もしくはそれから構成される。
【0039】
特に好ましい実施形態では、例えば、少なくとも1つのマイクロニードルの先端は、変色指示薬で濡れている、または変色指示薬が少なくとも1つのマイクロニードルの先端に含まれている。例えば、変色指示薬、特にpH指示薬はマイクロニードルの先端と一体化可能またはそれに組み込み可能である。特に、変色指示薬は、マイクロニードルの先端製造中に、例えばポリマーに添加可能である。
【0040】
別の好ましい実施形態では、活性成分、特に医療用医薬品は、マイクロニードルと、またはマイクロアレイのマトリックスもしくは処方物と一体化可能またはそれに組み込み可能である。さらに、少なくとも1つの活性成分、特に医療用医薬品が、マイクロニードル上または担体上に塗布可能である。但し、活性成分、特に医療用医薬品は、マイクロニードルの不可分な部分であり、そのために、マイクロニードル内に、特にマイクロニードルの先端内に導入可能または組み込み可能であるのが好ましい。特に、活性成分、特に医療用医薬品は、マイクロニードル製造中に、例えばポリマーに添加可能である。マイクロニードルは、少なくとも1種の医療用医薬品を含む、またはそれから構成される。
【0041】
そのような医療用医薬品は、好ましくはEU指令2001/83/EC(ヒト用医薬品に関係するコミュニティーコード)で定義する医薬品である。
【0042】
別の特別な実施形態では、選択されたマイクロニードルは、変色指示薬、特にpH指示薬と共に提供可能である。
【0043】
これは、皮膚にパターン、特に「プラス、十文字、星型、円形」のようなパターン、およびその他の任意の幾何学的な図形を有利に適用することを可能にし、視覚的なグラフィックデザインでも、マイクロニードルの適用または穿刺が奏功したことを患者またはユーザーの肉眼に対して示す。
【0044】
さらに、マイクロニードルアレイまたはマイクロニードルは、流体通路が、本発明による変色指示薬をより容易に放出することができるように、完全にまたは部分的に、水溶性または生分解性ポリマー(前出)からなるのが好ましい。
【0045】
別の実施形態では、マイクロニードルアレイは、マイクロニードルシステムの一部である。そのようなマイクロニードルシステムは、皮膚上への固定ならびに皮膚に圧力を加えるための容易な取り扱いを可能にする通常の機能部品、特に少なくとも1つのリザーバおよび1つのアプリケータと共に構成可能である。
【0046】
マイクロニードルシステムは、好ましくは液剤または調製物の形態で、少なくとも1種の任意の物質、特に活性成分、補助剤、または医療用医薬品を含有する少なくとも1つのリザーバを含むことができる。
【0047】
リザーバは、システムに含まれる少なくとも1種の任意の物質、活性成分、または医療用医薬品を収蔵するのに使用される。
【0048】
リザーバと該リザーバに接続したマイクロニードルの通路との間に液体の接続が存在するように、リザーバは中空のマイクロニードルの通路と接続している。このように、マイクロニードルシステムが皮膚に適用された後、リザーバに圧力を加えると、リザーバの内容物は、リザーバからマイクロニードルの通路を経由してマイクロニードルシステムの外部に放出可能である。手元の調製物は、マイクロニードルシステムからマイクロニードルの先端またはその近傍に流出し、そして、標的組織内に侵入可能である。リザーバは、通常、平面担体の表面に連結しているが、この表面は、マイクロニードルが押し出される担体の表面とは反対側に位置する担体の表面である。
【0049】
リザーバは、リザーバに加えられた圧力に対して若干抵抗するように、容易に圧迫され、これにより、リザーバに収納された調製物に対して圧力を伝え、調製物を流出させることができる。1つの実施形態によれば、リザーバは、例えば、可撓性のバッグの形態で存在することができる。
【0050】
好ましい実施形態によれば、リザーバは、パッドまたはバルーンとして設計され、そして弾性材料から、例えば、エラストマーポリマーまたはゴムから製造される。ポリマーの例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)のようなポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルケトン(PAEK)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリウレタン(PU)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)のようなポリオレフィン、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリラクテート(PLA)、ならびにセルロース水和物またはセルロースアセテートのようなセルロースをベースにしたプラスチック材料が挙げられる。
【0051】
別の好ましい実施形態では、マイクロニードルアレイを含むマイクロニードルシステムは、アプリケータと共に構成される。そのようなアプリケータは、マイクロニードルアレイが皮膚または角質層を穿刺するように、圧力機構を有利に作動可能にする(例えば、国際公開第2008091602A2号、国際公開第2016162449A1号を参照)。
【0052】
さらなる実施形態によれば、マイクロニードルアレイは、コンタクト接着ストリップまたはパッチによって、好ましくは患者またはテスト対象の皮膚に付着する固定手段を含むことができる。好適なコンタクト接着剤として、感圧接着剤(PSA)として知られている、軽微な圧力を短時間加えた後に皮膚に接着する高粘度物質が挙げられる。これは、高い凝集力および接着力を有する。例えば、ポリ(メタ)アクリレートベースの、ポリイソブチレンベースの、またはシリコーンベースのコンタクト接着剤を使用することが可能である。
【0053】
したがって、本発明は、皮内送達するための本発明によるマイクロニードルアレイであって、皮膚に対する固定手段を含むマイクロニードルアレイに関する。
【0054】
本発明によれば、用語「皮内送達(intradermal delivery)」(類義語:「皮膚内送達(intracutaneous delivery)」)は、マイクロニードルアレイを経由する、皮膚中への任意の物質の投与について記載し、また皮膚に穴を開けるマイクロニードルを必要とする。
【0055】
したがって、同様に、本発明は、皮内送達するための方法であって、
少なくとも1種の物質が、皮膚に対する固定手段と担体の複数のマイクロニードルとを含むマイクロニードルアレイによって送達され、
該マイクロニードルおよび/または担体にはpH指示薬が含まれる
前記方法に関する。
【0056】
下記の実施例は、本発明をさらに記載するために提供されるが、本発明はこの実施例に制限されない。
【実施例1】
【0057】
機能性の検証
マイクロニードルにより送達されるニトラジンイエロー(pH指示薬)の使用。送達の奏功後に、ブルーの着色がおよそ10秒後に肉眼で視認可能であった。pH6.5~7である角質層のpH値と比較して、皮膚表面上のpH値はpH4~5.5と異なることから、穿刺について区別評価が可能となる。
a)ブルーの着色は、送達の奏功、すなわちマイクロニードルの角質層中への穿刺を示唆する;
b)皮膚が不変のまま留まる、またはわずかに黄色がかった色調を帯びるのは、すなわちマイクロニードルの角質層中への穿刺の不奏功である。
【0058】
この例示的な実施形態では、微量のニトラジンイエロー(0.02%)を、マイクロニードルのマトリックス中に指示薬として添加した。
【実施例2】
【0059】
別の例示的な実施形態は、皮膚内で利用可能な物質(外層(表皮)には存在しない)の存在を有利に活用する変色指示薬の使用である。
【0060】
そのような変色指示薬は、1種またはそれ以上の物質コンポーネントから作成可能である。皮膚内の物質の存否は、相対的な情報を表すものと理解され、そして皮膚内への穿刺の奏功に関して指示薬にとって十分な識別機能に到達したものと理解される。
【0061】
本発明の意味するところでは、グルコース応答性指示薬の使用を選択することが特に明白であるが、但しそれに限定されない。この目的のために、ヒト体液内のグルコース検出について公知の反応が利用可能であり、その反応では、グルコースオキシダーゼによるグルコースの酸化、およびペルオキシダーゼにより触媒された反応生成物の後続反応が、指示薬のサブコンポーネントに該当する物質の色の変化を引き起こす。
【0062】
皮膚が穿刺されたときの色の変化を区別評価するための好適な物質は、好ましくは、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB/TMBH)およびベンジジンの構造的クラスに由来する誘導体、ならびに5-アミノ-2,3-ジヒドロフタラジン-1,4-ジオンのようなフタラジン、およびそれに由来する誘導体であるが、但しその他を排除しない。
【0063】
指示薬のサブコンポーネントとしてTMBまたはTMBHのロイコ形態を使用すれば、穿刺の区別評価が、下記事項により可能となる:
a)ブルーの着色は、送達の奏功、すなわちマイクロニードルの角質層中への穿刺を示唆する;TMBH(無色)からTMB(ブルー)への色の変化は、指示薬の上記反応に基づく
b)皮膚が不変のまま留まるのは、マイクロニードルの角質層中への穿刺の不奏功、およびそれに対応する指示薬物質の反応が存在しないことを意味する。