IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイピージー フォトニクス コーポレーションの特許一覧

特許7315549物質をレーザー加工するためのシステムと方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】物質をレーザー加工するためのシステムと方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/067 20060101AFI20230719BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20230719BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20230719BHJP
   B23K 26/073 20060101ALI20230719BHJP
   G02F 1/37 20060101ALI20230719BHJP
   G02F 1/39 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
B23K26/067
B23K26/00 N
B23K26/064 A
B23K26/073
G02F1/37
G02F1/39
【請求項の数】 41
(21)【出願番号】P 2020527916
(86)(22)【出願日】2018-11-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 US2018062062
(87)【国際公開番号】W WO2019100067
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-11-08
(31)【優先権主張番号】62/588,760
(32)【優先日】2017-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501012517
【氏名又は名称】アイピージー フォトニクス コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】パンチョ・ツァンコフ
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン・アーマン
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー・クメテック
(72)【発明者】
【氏名】アレクセイ・アヴドキン
(72)【発明者】
【氏名】アンドレイ・バブシュキン
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特許第7148513(JP,B2)
【文献】特開2015-044238(JP,A)
【文献】特開2005-211909(JP,A)
【文献】特開2011-161483(JP,A)
【文献】特開平5-104276(JP,A)
【文献】特開平4-305390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
G02F 1/37
G02F 1/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークピースをレーザー加工する方法であって、
基本波長の広帯域で非偏光のファイバーレーザーの第一ビームを高調波波長の少なくとも一つの第二ビームに部分的に変換することと、
前記第一ビーム及び前記第二ビームが同軸で時間的に重なるように一つの経路に沿って前記第一ビーム及び前記第二ビームを誘導することと、
前記第一ビーム及び前記第二ビームを色収差を有する集束光学系を介して集束させて、基本波長と高調波波長とにおいて異なる吸収率を有するワークピークの表面に前記第一ビーム及び前記第二ビームを当てることと、
前記第二ビームが、物質状態変化を与え、前記第一ビームの焦点面よりも前記表面近くの焦点面を有し、前記第一ビームに対する前記ワークピースの吸収率を増大させる吸収率比の逆数に少なくとも等しくなるように前記第一ビームと前記第二ビームとの間のフルエンス比を制御することとを備える方法。
【請求項2】
前記第一ビームが前記表面から或る距離の前記ワークピース内部に第一焦点を有し、前記第二ビームが前記第一焦点から上流に間隔を空けた第二焦点を有するように前記第一ビームと前記第二ビームとの間に軸方向色収差を発生させることを更に備える請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フルエンス比を制御することが、前記経路に沿って色収差を発生させるクロマティック光学系を変位させること、又は、前記経路に沿って色収差を発生させるクロマティック光学系を、異なる屈折曲線を備えて構成された他のクロマティック光学系、若しくは溶融シリカ、CaF、MgF、又は前記第一ビームと前記第二ビームのそれぞれの焦点距離を変更させる他の光学物質製の他のクロマティック光学系に置き換えることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記吸収率比の逆数が、基本波長における吸収率と高調波波長における吸収率との比の逆数である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第一ビームから前記第二ビームへの高調波変換効率を制御することによって、前記ワークピースの表面上における前記フルエンス比を前記吸収率比の逆数よりも高くすることを更に備え、前記方法が、前記第二ビームが存在しない場合に必要とされるパワーよりも低い全波長の総レーザーパワーで達成される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記第二ビームの高調波波長が、第二次高調波波長及び/又は第三次高調波波長及び/又は第四次高調波波長を含み、又は、光学パラメトリック法及び/又はラマン法を用いることによって独立的に調節可能な波長を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第一ビームに対する前記ワークピースの吸収率を増大させるようにプラズマを発生させることを更に備える請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第二ビームの発生後に一つ以上のミラーのみを用いることによって、同軸の前記第一ビーム及び前記第二ビームをアクロマートコリメートすることを更に備える請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ワークピースをレーザー加工する方法であって、
基本波長の広帯域で非偏光のファイバーレーザーの第一ビームの一部を高調波波長の少なくとも一つの広帯域の第二ビームに変換することであって、前記第一ビームの未変換の部分と前記第二ビームとが同軸で時間的に重なることと、
色収差を有する集束光学系を介して一つの経路に沿って前記第一ビーム及び前記第二ビームを誘導することによって、前記第一ビームと前記第二ビームとの間に色収差を生じさせて、基本波長と高調波波長とにおいてそれぞれ異なる吸収率を有する物質製のワークピースの表面に前記第一ビーム及び前記第二ビームが同時に当たり、前記表面に焦点を有する前記第二ビームが、物質状態変化を与えて、前記表面から前記ワークピースの内部又は外部に向かって間隔を空けた焦点を有する前記第一ビームに対する前記ワークピースの吸収率を増大させることと、
前記物質状態変化を与えるために、前記基本波長の前記第一ビームと前記高調波波長の前記第二ビームとのフルエンス比を、前記基本波長における吸収率と前記高調波波長における吸収率との比の逆数に少なくとも等しくなるように調整することと、を備える方法。
【請求項10】
前記第一ビームから前記第二ビームへの高調波変換効率を制御することを更に備え、前記高調波変換効率が前記基本波長における吸収率と前記高調波波長における吸収率との比の逆数よりも大きい場合に、前記物質状態変化が与えられる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
シングルモード又はマルチモードビームである前記第一ビームのガウス強度分布が変換中にドーナツ状強度分布に劣化することを防止するように前記高調波変換効率が制御される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第一ビームのドーナツ状強度分布を与えるように前記高調波変換効率が制御される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記ワークピースに入射する前記第一ビームと前記第二ビームの各々のエネルギーが、
th(λ)/Ethall(λ)>1
を満たす場合に前記物質状態変化が与えられ、Eth(λ)が、単一ビームのみによって前記ワークピースをレーザー加工するために必要な基本波長又は高調波波長において前記ワークピースに結合されるレーザービームのエネルギー閾値であり、Ethall(λ)が、同軸の前記第一ビーム及び前記第二ビームが前記ワークピースに同時に当たる際の各波長のレーザービームのエネルギー閾値である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第二ビームが、前記基本波長に対する第二次高調波波長と第三次高調波波長と第四次高調波波長とこれら波長の組み合わせとから選択された高調波波長、及び/又は、光学パラメトリック法又はラマン法を用いて発生させた独立的に調節可能な波長を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記基本波長における吸収率よりも高い前記第二ビームの波長における吸収率を有する物質製のワークピースの表面に前記第二ビームが当たることによって、電子プラズマを発生させることを更に備える請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記基本波長によって前記ワークピースの表面を加熱して、前記高調波波長における吸収を増大させることを更に備える請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記基本波長のビームが、0.9μm~2.1μmの波長範囲で放出された複数のシングルモード及び/又はマルチモードのレーザー光を含み、且つ、
数秒~フェムト秒範囲のパルス持続時間と、
1から100の間のM値と、
2nmから数百nmの間の幅広のスペクトル線と、
μJ~J範囲のパルスエネルギーと、
一桁ワットから数百キロワットの間の平均パワーと、を有し、
前記第二ビームのスペクトル線幅が0.5nmを超える、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
前記第二ビームの発生後に一つ以上のミラーのみを用いることによって、同軸の前記第一ビーム及び前記第二ビームをアクロマートコリメートすることを更に備える請求項9に記載の方法。
【請求項19】
前記第一ビームが、パルスモード、連続波モード、又は準連続波モードで動作するファイバーレーザーが発生させたシングルモード又はマルチモードのビームである、請求項9に記載の方法。
【請求項20】
ワークピースをレーザー加工するモジュール型の装置であって、
基本波長の広帯域で非偏光のファイバーレーザーの第一ビームを高調波波長の少なくとも一つの広帯域の第二ビームに部分的に変換するように動作する調節可能な高調波発生器であって、前記第一ビーム及び前記第二ビームが同軸で時間的に重なっていて、色収差を有する集束光学系を介して集束して、前記基本波長と前記高調波波長とにおいてそれぞれ異なる吸収率を有するワークピースの表面に同時に当たる、高調波発生器と、
前記第二ビームが前記表面上又は近くでの物質状態変化を与えて、前記第一ビームの吸収率を増大させる閾値に少なくとも等しくなるように前記第一ビームと前記第二ビームとの間のフルエンス比を調整するように動作するシステムと、を備える装置。
【請求項21】
前記高調波発生器と前記ワークピースとの間に位置するクロマティック光学系であって、前記第一ビームが前記表面から或る距離の前記ワークピースの内部に第一焦点を有し、前記第二ビームが前記第一焦点から上流に間隔を空けた前記表面近くの第二焦点を有するように未変換の前記第一ビームと前記第二ビームとの間に軸方向色収差を生じさせるように動作するクロマティック光学系を更に備える請求項20に記載の装置。
【請求項22】
フルエンスを測定するように動作するフルエンス測定ユニットと、フルエンス比を決定して、測定値を閾値と比較するように動作する処理ユニットと、前記クロマティック光学系を変位させる、又は前記クロマティック光学系を置換する、又は前記クロマティック光学系を変位及び置換するように動作するアクチュエーターとを備えて構成されている請求項21に記載の装置。
【請求項23】
前記閾値が、前記基本波長における吸収率と前記高調波波長における吸収率との比の逆数に少なくとも等しい、請求項20に記載の装置。
【請求項24】
前記基本波長における吸収率と前記高調波波長における吸収率との比の逆数よりも大きくなるように前記第一ビームから前記第二ビームへの高調波変換効率を制御するためのシステムを更に備える請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記高調波発生器が、前記第一ビームを、第二次高調波波長、第三次高調波波長及び第四次高調波波長の第二ビームに変換するように動作する、請求項20に記載の装置。
【請求項26】
前記第二ビームの発生後に同軸の前記第一ビーム及び前記第二ビームをアクロマートコリメートする一つ以上のミラーを更に備える請求項20に記載の装置。
【請求項27】
ワークピースを加工するためのモジュール型のシステムであって、
一つの経路に沿って基本波長の広帯域の第一ビームを出力するレーザー光源と、
前記第一ビームを受けて、前記第一ビームを高調波波長の少なくとも一つの第二ビームに部分的に変換するように動作する高調波波長発生器であって、前記第一ビームと前記第二ビームが同軸で時間的に重なる、高調波波長発生器と、
同軸の前記第一ビーム及び前記第二ビームが当たると、前記第二ビームが前記ワークピースの表面上又は近くに焦点面を有して、前記ワークピースの表面から前記ワークピースの内部に向かって間隔を空けた焦点面を有する前記第一ビームの後続の効果的な吸収のための温度上昇に十分な初期物質状態変化を与えるように、色収差を制御可能に生じさせるように構成されている色収差を有する集束光学系と、
前記基本波長の第一ビームと前記高調波波長の第二ビームとのフルエンス比が前記基本波長における吸収率と前記高調波波長における吸収率との比の逆数以上となるように、該フルエンス比を決定するように構成された処理ユニットと、を備えるシステム。
【請求項28】
前記レーザー光源が、連続波モード、準連続波モード又はパルスモードで動作するファイバーレーザーであり、シングルモード又はマルチモードで前記第一ビームを出力する、請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記高調波波長発生器が、
前記経路に沿って互いに間隔を空けて位置する一つ以上の非線形結晶であって、反射型集束のみを用いて選択的に、前記基本波長を、第二次高調波波長及び/又は第三次高調波波長及び/又は第四次高調波波長、又は、光学パラメトリック法及び/又はラマン法で独立的に調節可能な波長に連続変換する非線形結晶を備え、
一回通過又は複数回通過の波長変換方式で構成されている、請求項27に記載のシステム。
【請求項30】
各非線形結晶がタイプI型又はタイプII型の位相整合用にカットされている、請求項29に記載のシステム。
【請求項31】
前記高調波波長発生器と前記ワークピースとの間に位置するパラボラミラーを含むコリメーターを更に備える請求項27に記載のシステム。
【請求項32】
前記処理ユニットが、前記基本波長における吸収率と前記高調波波長における吸収率との比の逆数よりも大きくなるように前記高調波波長発生器の波長変換効率を調整するように動作する、請求項27に記載のシステム。
【請求項33】
前記処理ユニットが、前記第一ビームのガウス強度分布が波長変換中にドーナツ状強度分布に劣化することを防止するように前記波長変換効率を制御するように動作する、請求項32に記載のシステム。
【請求項34】
シングルモード又はマルチモードビームである前記第一ビームのドーナツ状強度分布を与えるように前記波長変換効率が制御される、請求項32に記載のシステム。
【請求項35】
前記レーザー光源が、前記ワークピースに入射する前記第一ビームと前記第二ビームの各々のエネルギーが、
th(λ)/Ethall(λ)>1
を満たすように動作し、Eth(λ)が、各波長の単一レーザービームのみによって前記ワークピースをレーザー加工するために必要な基本波長又は高調波波長において前記ワークピースに結合される単一レーザービームのエネルギー閾値であり、Ethall(λ)が、同軸の前記第一ビーム及び前記第二ビームが前記ワークピースに同時に当たる際の各波長のレーザービームのエネルギー閾値である、請求項27に記載のシステム。
【請求項36】
レーザー加工方法であって、
目標表面における所望の高調波フルエンスレベルであって、前記目標表面の物質の状態変化をもたらし、少なくともレーザー加工プロセスを開始させる所望の高調波フルエンスレベルを決定することと、
前記所望の高調波フルエンスレベルを達成するための高調波スポットサイズと変換効率と未変換ビームパワーを設定することと、
前記所望の高調波フルエンスレベルの高調波スポットサイズに対応する未変換残留放射を備える基本ビームの基本スポットサイズを決定することと、
前記高調波スポットサイズと前記基本スポットサイズを前記目標表面に同軸上で伝達するようにクロマティック光学システムを設定することと、
目標物質を効率的に加工するように前記クロマティック光学システムを用いてレーザー放射を前記目標表面に伝達することと、を備える方法。
【請求項37】
多重波長同軸レーザー加工ビームを発生させるための多重波長レーザー光源と、
前記多重波長同軸レーザー加工ビームをワークピースの表面上のレーザーと物質の相互作用領域に伝達して、前記多重波長同軸レーザー加工ビームの第一波長のレーザーと第二波長のレーザーの各々が前記相互作用領域の少なくとも一部にそれぞれ同心円状の第一レーザースポットと第二レーザースポットとして当たるようにするための多重波長光学システムと、を備え、
前記多重波長光学システムが、多重波長ビームコリメーターと、設定可能なクロマティック光学系と、レーザー加工焦点レンズと、を備え、
前記設定可能なクロマティック光学系が、前記第一波長のレーザーと前記第二波長のレーザーの相対的な焦点距離を調整し、
前記第一レーザースポットと前記第二レーザースポットの直径比が前記クロマティック光学系を設定することによって調整され、前記第二波長のレーザーが物質状態変化を与え前記第一波長のレーザーの焦点面よりも前記表面近くの焦点面を有し、前記第一波長のレーザーに対する前記ワークピースの吸収率を増大させる吸収率比の逆数に少なくとも等しくなるように前記第一波長のレーザーと前記第二波長のレーザーとの間のフルエンス比を変更する、多重波長レーザー加工システム。
【請求項38】
小さい方の同心円状スポットの直径が大きい方の同心円状スポットの直径の1/2未満である、請求項37に記載の多重波長レーザー加工システム。
【請求項39】
前記設定可能なクロマティック光学系が同軸ビームの経路から取り外し可能であり、
前記クロマティック光学系が設置されている際の第一焦点距離と、前駆クロマティック光学系が取り外されている際の第二焦点距離とを有する請求項37に記載の多重波長レーザー加工システム。
【請求項40】
前記設定可能なクロマティック光学系が、第二クロマティック光学系と交換可能な第一クロマティック光学系を備え、
前記第一クロマティック光学系に対応する第一焦点距離と、前記第二クロマティック光学系に対応する第二焦点距離とを有する請求項37に記載の多重波長レーザー加工システム。
【請求項41】
前記設定可能なクロマティック光学系が、取り外し可能な第一クロマティック光学系と、取り外し可能な第二クロマティック光学系とを備え、
複数のクロマティック光学系の構成に対応する複数の焦点距離を有する請求項37に記載の多重波長レーザー加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、色収差を生じさせるレンズシステムを通して同軸で伝播する基本波長及び高調波波長のビームを用いて物質を加工するためのコスト効率的なファイバーレーザーシステムと方法に関する。本開示は、物質に当たる複数のビームに更に関し、各ビーム焦点の間隔が空けられ、ビームのフルエンス比が、その物質によるビームの吸収の比の逆数に少なくとも等しくなるようにし、高調波波長のビームが物質の状態変化を与え、基本波長のビームに対する物質の吸収率を増大させる。
【背景技術】
【0002】
レーザー加工は、ポリマー、金属、ガラス、セラミック等の多様な物質に関連したものになっている。各物質に使用されるレーザーの種類は、物質の光吸収特性に適合するように選択される。しかしながら、これは、多数の物質がそれぞれ劇的に異なる特性を有するので単純ではない。一部の物質は、特定の波長を反射する表面を有するが、特定の熱条件下では反射されていたビームを透過させる。他の物質は特定の波長を選択的に吸収する。更に他の物質は、単純に、一つのグループの波長では効果的に加工できないものであり、他の波長グループがその物質を効果的に加工することができるものとなる。
【0003】
紫外線(UV,ultraviolet)から赤外線(IR,infrared)までの波長範囲内で高反射性であることを特徴とする物質から多くの製品が製造されている。このグループの物質として、特に、シリコン(Si)、銅(Cu)、青銅、黄銅、アルミニウム(Al)、鏡面研磨されたステンレス鋼、銀(Ag)、金(Au)、プラチナ(Pt)、これら物質の合金が挙げられる。これらの物質は、室温において最大92%の可視光を反射し、最大98%の赤外線を反射し得る。言うまでもないことではあるが、上記物質は、他の同様の物質と共に多数の産業応用において重要なものである。
【0004】
特許文献1は、上述の問題を認識している一文献である。特許文献1には、700~1200nmの波長範囲のレーザー発生光によって高反射性物質を加工するためのファイバーレーザーシステムが開示されている。特許文献1には、それぞれ基本周波数と二倍周波数の二つのビームを対象物質に同時照射することを含む概念的には単純なプロセスが開示されている。二倍周波数の緑色ビームが照射表面を溶かして、基本周波数のIR光のより効率的な吸収をもたらす。二種の異なる周波数での対象物質の照射は、例えば、特許文献2に記載のように当該分野において周知である。
【0005】
特許文献1に開示されている解決策は、各パルスの初期短時間にわたるIR光強度にスパイクが生じるようにすることによって、パルス形状を制御することを含み、これが、IRビームから緑色ビームへの高波長変換効率をもたらす。発生した緑色ビームが照射物質の温度を融点に上昇させて、赤色光の吸収を増大させる。初期ピークパワースパイク後の各パルスのパワープロファイルは、各パルス端に対してIR光のピークパワーを最小にすることによって制御される。
【0006】
特許文献1に開示されている方法及び機器の動作を検討するにあたっては、そのコスト効率を評価することが有用である。大型の産業規模では、効果的に機能することができる比較的低コストのデバイスが高利益に換言されることになる。対象物質のレーザー加工プロセスに関しては、低コストで効果的に機能するレーザーシステムには、設計者にとって困難な多数の検討事項が含まれる。例えば、ファイバーレーザーは、特許文献2のNd:YAGレーザーと比較して低コスト、低メンテナンス、高効率であるために、工業生産市場に大きなインパクトを与えている。特許文献1で教示されている準連続ファイバーレーザーは、そのコスト効率を引き上げるいくつかの欠点を有し得る。短時間であっても高い変換効率を目標としているため、特許文献1は、所望の高変換効率に関連してコヒーレントな狭帯域レーザーを教示している。しかしながら、2nm未満のスペクトル幅を有する狭帯域ファイバーレーザーは、高コストと低いピークパワーとをもたらし得る。パルスパワープロファイルを制御することは、高度な制御回路を必要とし、これはただ単に特許文献1に開示の機器のコストに加算され得る。まとめると、特許文献1に開示の機器は、大規模な物質レーザー加工業界にとっては経済的に魅力的なものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2013/0134139号明細書
【文献】米国特許第5083007号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】J.M Liu, “Simple technique for measurement of pulsed Gaussian-beam spot size”, Optics Letters, Vol. 7, May 1982
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、単純でコスト効率的な物質加工レーザーシステムが必要とされている。
【0010】
また、ファイバーレーザーの基本周波数では良好に加工されない又は過度の平均パワーで加工される金属や誘電体や複合材を効率的に加工する単純でコスト効率的な物質加工ファイバーレーザーシステムも必要とされている。
【0011】
また、物質に結合されて通常は熱として散逸される平均レーザーパワー又はパルスエネルギーを制限するように動作可能な単純でコスト効率的なモジュール型の物質加工ファイバーレーザーシステムも必要とされている。
【0012】
また、上記ファイバーレーザーシステムが、エネルギー効率的な加工のために必要な条件を提供するように動作可能なビーム誘導光学系を備えて構成されることも必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
基本構成において、本開示のレーザー加工システムは、少なくとも2nmのスペクトル幅を有する基本波長の第一ビームを出力するレーザー光源を備えて構成される。高調波波長発生器を用いて、第一ビームを一回又は複数回変換して、少なくとも一つの高調波波長の少なくとも一つの第二ビームを発生させる。複数のビームを光学システムによって同軸上で伝播させて、物質にビームを伝達して、その物質において、一つのビーム(典型的には、高調波波長の第二ビーム)が少なくとも部分的に吸収されて、物質状態の変化を誘起して、基本波長のビームの吸収を増大させる。限定的な場合では、高調波波長の第二ビームが、物質状態変化の誘起を生じさせることに留意されたい。
【0014】
物質状態変化は、照らされた物質の温度変化や、固相/液相/気相/プラズマ相の相転移を含むマクロレベルで誘起され得る。代わりに、物質状態は、物質を基底状態や励起状態から他の励起状態や電離状態や遷移状態に切り替えて、化学的な変化をもたらすミクロレベルでも生じ得る。
【0015】
典型的には、第二ビームの焦点は物質の表面上に位置する。しかしながら、物質及び/又は高調波波長に依存して、第二ビームの焦点は表面から軸方向に間隔が空けられ得る。物質が状態を変化させる閾値に達すると、第一ビームの吸収が顕著に増大して、対象の作業の効率が改善される。基本波長の第一ビームがまず表面を加熱して、第二ビーム用に吸収率を増加させる稀な場合でも、各ビームの焦点と焦点の関係は変わらない。
【0016】
本開示のシステムの一態様は色収差の発生であり、これは、アクロマート(色収差補正)レンズやレンズシステムを開示することが多いレーザー物質加工の分野において一般的なものではない。つまり、本開示の光ビーム伝達システムは、クロマティック(色収差有)であるレンズ又はレンズシステムを備えて構成される。
【0017】
クロマティックレンズは、複数の異なる波長において光を収集して、表面に対する異なる焦点高さで光を集束させる。色収差は一般的に軸方向、つまりビーム伝播経路に沿ったものである。横方向の色収差は、クロマティックシステムにおいて補正され得るか補正済みのままのものとなり得る。
【0018】
本開示のシステムの他の態様は、色収差を補って、本開示の構造を既知の従来技術の構造と有利に区別するものである。特許文献1をざっと見返すと、特許文献1は、各パルスのパワープロファイルを制御することによってエネルギーバランスを最適化することを教示している。パルス形状制御は、最初にIRピークパワーを増大させて、緑色光を効率的に発生させて、融点に達すると、各パルスの終わりまでにピークパワーを徐々に減少させるように設計される。つまり、物質を処理する加工システムの効率は、各パルス中の波長変換効率を変化させることによって制御される。
【0019】
従って、上述の特徴を含む本開示の更なる態様は、それぞれ基本波長と高調波波長の二つ以上の同軸ビームを制御することを重視している。少なくとも一実施形態では、本開示のシステムは、ビーム同士の間のフルエンス比を、第二ビームが物質状態変化を与える吸収率の比の逆数に少なくとも等しくなるように制御するためのプロセッサを備えて構成される。本開示のシステムの上記利点の簡単な例示として、従来技術のシステムの10kWファイバーレーザー光源が、実質的に低いパワーのレーザー、例えば1kWファイバーレーザーに置き換えられて、そのパワーの僅かな部分が異なる高調波波長に変換される。
【0020】
実際には、この制御は、クロマティック光学系を配置して場合によっては光路に沿ってずらして第一ビームと第二ビームの相対的な焦点距離を設定又は調整することによって実行され得る。こうすることによって、表面における第一ビームと第二ビームにそれぞれ関連する第一レーザースポットと第二レーザースポットの直径比が、フルエンス比を変更するように制御される。そのクロマティック光学系を同軸ビームの経路から取り外して、異なる焦点距離、異なる直径比、つまり異なるフルエンス比を与えるように構成された他のシステムに置き換えることができる。
【0021】
本開示のシステムの更に他の態様では、ビーム伝達システムは、一つ以上の反射表面が設けられたアクロマート(色収差補正)コリメーターを含む。この特徴は、基本波長ビームと複数の高調波ビーム、例えば、緑色光と紫外線(UV)や、緑色光、UVと遠紫外線(DUV)を用いる本開示のシステムにおいて特に有用であることが分かった。ビームの平行性を保つことが、クロマティックレンズシステムの観点から特に重要な役割を果たし、所望の焦点距離差が所望のフルエンス比を与える。有利には、コリメーターは、横方向クロマティック効果に対する極めて高い耐性に起因して、屈折素子を備えずに構成される。システムの所望の色収差を、クロマティックレンズから直ぐ上流の完全な光学システムにおいて適応させ得る。
【0022】
本開示のシステムの更に他の態様は、各入射ビームについて物質状態変化のエネルギー閾値の比を解析的に決定することを提供する。エネルギー閾値の決定は、その全体が参照として本願に組み込まれる非特許文献1において開発されたものである。特に、加工されるワークピースに伝達される複数のビーム各々のエネルギーは以下のように決定される:
th(λ)/Ethall(λ)>1
ここで、Eth(λ)は、他の波長の補助なしで単独でワークピースを加工するのに必要な個々のビームのエネルギー閾値であり、Ethall(λ)は、本開示の複合ビームにおける、つまり、全波長が同時に存在する場合における同じレーザービームのエネルギー閾値である。
【0023】
本開示の全ての態様において実装される波長変換器は、非線形結晶(NLC,nonlinear crystal)に限定されるものではなく、ラマン結晶や、更にはラマンファイバー、つまり、ファイバーレーザー光源から基本波長のビームを受ける増幅器及び発振器でもあり得る。代わりに、光学パラメトリック増幅器や発振器も使用可能である。パラメトリック変換方式やラマン変換方式を取り入れることで、スペクトル調節可能な波長を発生させることができ、これは、基本波長のビームについての固定された高調波波長で高調波の数が限られる場合よりも或る種の加工物質の表面状態を変化させるのにより効率的である。
【0024】
レーザービームが物質に当たる場合、そのエネルギー結合は吸収によって決定される。物質の温度が上昇して、熱の散逸が増える。強力なレーザーの場合、温度は、融点及び蒸発点を超えて上昇し得て、物質が電離プラズマとなる。この場合、後続のレーザー吸収は、密度や温度等のプラズマ特性によって決定される。多くの物質加工応用では、プラズマの生成が、レーザーエネルギーの吸収を促進する。これが、本開示の他の態様の主題であり、上記態様の各々における本開示のシステムの動作にとって有用となり得る。
【0025】
上記態様は、本開示の方法の各ステップを実行する本開示のレーザーシステムの具体的な特徴を含む。つまり、上記態様と、以下の具体的な説明で開示されるいくつかの追加的な特徴との全てが、本開示の方法に直接関係しているものである。上記態様の各々は、本開示の態様のあらゆる組み合わせの特徴を用いて実行可能な一つ以上の特徴を含む。
【0026】
本開示の上記及び他の特徴と利点は、添付図面を伴う明細書の説明と特許請求の範囲とからより明らかとなるものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本開示の例示的なシステムである。
図2】各種物質の吸収の波長依存性である。
図3】各種物質による基本波長のビームと高調波波長のビームとの既知の吸収の比を示す表である。
図4図4A図4Dは、IR、緑色、UV、DUV波長の光のパルス形状を示す。
図5図5A図5Cは、波長変換効率に対するパルス形状依存性を示す。
図6図6A図6Cは、波長変換効率に対するパルス形状依存性を示す。
図7】既知のレーザー加工プロセスを示すフローチャートである。
図8図8A及び図8Bは、それぞれ本開示のレーザー加工プロセスのフローチャートである。
図9】非線形結晶に基づき図1の本開示のレーザーシステムで用いられる波長変換の模式図を示す。
図10】非線形結晶に基づき図1の本開示のレーザーシステムで用いられる波長変換の模式図を示す。
図11】非線形結晶に基づき図1の本開示のレーザーシステムで用いられる波長変換の模式図を示す。
図12】パラメトリック波長変換の模式図を示す。
図13】ラマン波長変換の模式図を示す。
図14】レーザー加工プロセスのフローチャートである。
図15】レーザー加工プロセスのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本開示の基本概念は、室温で処理される物質によって異なって吸収される異なる波長の二つ以上のレーザービームでワークピースをレーザー処理することを含む。室温において他のビームの波長よりも効率的に吸収される波長の或る一つのビームのエネルギーが物質に結合されて、物質状態変化を誘起する。物質変化が生じると、ワークピースは各種波長の他の一つ以上のビームを効率的に吸収するようになる。本開示のプロセスの最適化で、本開示の方法及びシステムが事実上あらゆる物質を良好に処理することができるようになる。例えば、そのような物質は、ガラス、サファイア、セラミック、銅、腐食金属、薄金属、生物組織、PCB(プリント回路板)、シリコンウェーハであり得る。
【0029】
図1は、本開示の物質加工システム10の一般レイアウトを示す。図示されている構成は、2nmから数百nmの間の範囲内のスペクトル線で基本波長の広帯域非偏光ビーム18を出力するレーザー光源12を含む。白色レーザー光源12は、多様な構成を有し得るが、好ましくは、連続波(CW,continuous wave)、準連続波(QCW,quasi continuous wave)、パルスの三つの方式全てで動作可能なファイバーレーザーである。QCW又はパルス方式では、レーザー光源12はパルス列を出力し、各パルスは、μJ~J範囲のパルスエネルギーと、数秒~フェムト秒範囲のパルス持続時間(パルス幅)と、一桁ワットから数百キロワットの間の平均パワーとを有する。多くの産業応用では、M値が1という最高の質を出力ビーム18が有することが要求されるが、本開示の方法及びシステムは、他の応用においてMが最大100となるマルチモードビームでも効率的に動作することができる。
【0030】
ビーム18の波長とは異なる各波長における他のビームの発生は、高調波周波数発生器14によって実現される。その発生器14は、多種多様な物理的機構に基づいて動作し得るものであるが、窮極的には、その構成にかかわらず、発生器14は、ビーム18の波長を、0.5nmを超えるスペクトル線幅を有するビーム20の異なる波長に部分的に変換するように動作可能である。本開示の範囲内では、周波数高調波発生器14は、多種多様な変換プロセスを用いるように動作可能であり、その変換プロセスとしては、周波数二倍、非線形結晶での和周波数発生や差周波数発生、非線形結晶材でのパラメトリック発振やパラメトリック増幅、バルク結晶や光ファイバーでのラマン変換が挙げられる。光学方式の具体的な例については以下で詳述する。
【0031】
ビーム18及びビーム20は、同軸上で光路に沿って伝播し、以下で説明するように一つ又は複数のレンズを備えて構成されたクロマティック調整器16に当たる。クロマティック調整器16が、第一ビームと第二ビームとの間に軸方向色収差を生じさせて、これらビームは、物質22製のワークピースに同時に当たる。クロマティック調整器16を用いると、長波長のビーム18は、物質22の表面上又は付近にある短波長のビーム20の焦点から遠く離れた焦点を有する。結果として、ビーム20の焦点において、ビーム18は、ビーム20のスポット直径よりも大きなスポット直径を成す。ビーム20の焦点における長波長のビーム18の強度は、そのビーム18自体の焦点における強度よりも顕著に低い。スポット直径の違いに起因して、ビーム20とビーム18との間のフルエンス比は、従来技術のアクロマートレンズシステムの場合と比較すると、クロマティックシステム16の物質に応じて、通常2~10倍となり、ここでフルエンスは、QCWレーザーとパルスレーザーの場合にはビーム面積当たりのパルスエネルギーであり、CWレーザーの場合にはビーム面積当たりのパワーである。
【0032】
ビーム18の吸収の増大、つまりはシステム全体のより効率的な使用に繋がる所望の物質状態変化を提供するのに必要なビーム20の最小量を制御するように構成される本開示のシステム10にとっては、フルエンス比が重要である。高パワーレーザー光源12を用いれば、典型的には、IRビーム等のビーム18で多種の物質をレーザー処理することができるが、IRビーム18のみを使用すると、許容不能に非効率的なプロセスに繋がることに留意されたい。同じことが他の単一波長光にも当てはまり、原理的には個別に物質22を処理し得るが、レーザー処理プロセスを非効率なものにし得る。一つのビームで同じ物質を加工する代わりに多重ビームを使用することを、解析的には以下のように表すことができる:
th(λ)/Ethall(λ)>1
ここで、Eth(λ)は、他の波長の補助なく単独でワークピースを加工するのに必要な個々のビームのエネルギー閾値であり、Ethall(λ)は、本開示の多重ビームにおける、つまり全波長が同時に存在している場合における同じレーザービームのエネルギー閾値である。上記の条件に合うと、応用によっては、本開示のシステムを用いるプロセスの効率を桁違いに向上させることができる。多重ビームを用いる応用での典型的なパルスエネルギーは、単一のパルス閾値エネルギーEthの4~5倍である。
【0033】
システム10のビーム20とビーム18との間のフルエンス比は、図2に示されるように文書で十分に裏付けられている大気温度における多種多様な物質についての吸収の波長依存性に基づいて得られる。本発明者は、所望の物質状態変化を誘起するためには、フルエンス比がそれら同じビームについての物質22の吸収の比の逆数以上でなければならないことを見出した。いくつかの吸収の比が図3に示されており、ここで、IRは赤外線、GRは緑色光、UVは紫外線、DUVは遠紫外線である。フルエンスを測定及び制御するための多数の方法が当業者に知られているものであるので、ここでは詳細に説明しない。本開示のシステムにおいて、各ビームのフルエンスは個別に測定されることに留意されたい。
【0034】
フルエンス比はいくつかの方法によって調整可能である。一つの方法は、現在取り付けられているレンズセットを、異なる物質(例えば、溶融シリカ(FS,fused silica)、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化カルシウム(CaF)等)製となり得る異なるレンズセットに置換することによって、クロマティック調整器16の色収差を操作することを含む。他の方法では、変換効率を調整する。対象の作業に適したクロマティック調整器16の選択は、自動レンズ送達機構を含む機械的方法によって実現可能である。波長変換のパラメータを調整するための方法もレーザー分野の当業者には周知であり、非線形(NL)結晶の幾何学的形状や温度、又はラマンファイバーの長さを変更すること等を含み得る。変換が制御可能に調整される一方で、パルスのパワープロファイルは、図4A図4Dに示されるように、実際的に変化していないままである。
【0035】
典型的には、レーザー物質加工で用いられるレーザーは、狭帯域で偏光していて、良好な高調波変換効率を提供するように構成される。しかしながら、高変換効率には、図6A図6Cに示されるように、基本ビームプロファイルの顕著な劣化が伴い、図6A図6Cでは、ガウスプロファイルが第二次高調波変換、第三次高調波変換を介してドーナツ状プロファイルに徐々に変換していく様子が示されている。ドーナツ状プロファイルは、極少数の応用以外では一般的に悪影響を及ぼす。大抵の場合、ガウスプロファイルビームが用いられる。低変換効率と幅広なスペクトル線はどちらも効率を減少させて、図5A図5Cに示されるように比較的変化していないガウスプロファイルをもたらす。従って、低変換効率が、本願で開示されるように単一レーザーから複数のビームを発生させるのにとって有用であり、全てのビームに良好なビーム品質を与える。本開示の目的としては、緑色ビーム20について、低変換効率は20%未満であり、高変換効率は50%超であり得て、UV光にとっては10%未満が低変換効率であり、30%超の変換効率が高変換効率である。
【0036】
図7は、既知の従来技術で典型的に用いられているアクロマート(色収差補正)での光学的模式図を示す。ワークピースに当たる両ビームをその表面上で集束させる。
【0037】
図8A及び図8Bはそれぞれ本開示のシステム10の光学構成を示す。上述のように、第一波長のビーム18は高調波変換器14において変換されて、少なくとも二つのそれぞれ長波長と短波長の同軸ビーム18、20がコリメート光学系26においてコリメートされる。コリメートされたビームをクロマティック調整器16が受ける。
【0038】
広帯域レーザー光源12と複数のレーザー波長を用いると、一般的には、モノクロマティック(単色)処理レンズ設計は所謂色収差を示す。こうした収差は物質分散、波長に対する屈折率の変動の結果である。異なる屈折率では、レンズの焦点距離は波長に依存して、軸方向色収差をもたらし、異なる波長が異なる焦点距離で集束するようになる。
【0039】
クロマティック調整器は多種多様な構成を有し得る。例えば、適切な光学物質の中空クロマティックダブレット(air‐spaced chromatic doublet)を、クロマティック補正器として使用し得て、一波長のビームコリレーションを処理レンズへの入力として他の波長に対して相対的に調整して、処理レンズの軸方向色収差を補正し、又は複数の波長における焦点距離を分離するために色収差を意図的に加え得る。
【0040】
クロマティックダブレットは、ビームコリメーションを維持するように一波長において長焦点距離又は無限焦点距離を有し、つまりアフォーカルであり得る。ダブレットは中空であり得て、丈夫な光学ガラスと結晶性レーザー物質との組み合わせを利用し得る。高パワーレーザー及び紫外線波長では特に、FS、MgF、CaFの組み合わせが使用され得る。処理レンズの物質と組み合わせると、二種類の物質が二つの波長における焦点距離を補正又は分離することができ、三種類の物質が三つの波長における焦点距離を補正又は分離することができる。例えば、焦点距離を増大させるため、短波長に対して相対的な1064nmにおいて、ダブレットは、分散が相対的に高い正光学素子と、分散が相対的に低い負光学素子とを含み得る。例えば、ダブレットはほぼ同じ焦点距離を有する正FS素子と負CaF素子とを含み得る。球面収差等の他の光学収差を補正するためには、二つよりも多くの光学素子を備える複雑なクロマティック補正器の光学設計が必要とされ得る点は理解されたい。
【0041】
次いで、ビーム18、20は、それぞれ所望のビームスポット直径を有するように集束光学系24によって集束される。ビーム18、20は、ワークピース22の表面上のレーザーと物質の相互作用領域に伝達されると、同心円状の第一レーザースポットと第二レーザースポットでそれぞれ表面に当たる。図8Aでは、クロマティック調整器16は、第一ビームの焦点がワークピース22の表面から上流に位置し、図8Bでは、焦点30は表面下に存在する。どちらの構成でも、変換されたビーム20の焦点28はワークピース22の表面上に在る。本開示のビーム伝達光学系の更なる構成は、図7に示されるのと同じ構成を有し得るが、従来技術の集束光学系が色収差を有するように構成される。
【0042】
ビーム18とビーム20との間のレーザースポット直径の比は、小さい方の同心円スポットの直径が大きい方の同心円スポットの直径の1/2未満になるようにクロマティック調整器16を構成することによって、調整される。クロマティック調整器は、相互可換な複数組のクロマティック光学系16を備えて構成され得て、各組が他の組とは互いに異なる焦点距離を定める。
【0043】
図9図13は高調波変換器14の多種多様な構成を開示する。変換器14の図示されている設計は、図9図10に示されるような一回通過(シングルパス)方式、又は図11図13に示されるような多重通過(マルチパス)変換方式を含み得る。
【0044】
特に図9図10を参照すると、変換器16は、三ホウ酸リチウム(LBO)等のタイプIの非線形結晶32と34を用いることによって第二次高調波と第三次高調波の周波数を発生させるように動作可能である。動作時には、レーザー12から放出されたビーム18がコリメートレンズ36に入射して、半波長板によって回転させられて、結晶32の内部で集束して、その後ビーム18とビーム20が同軸上を伝播するようにする。容易に理解できるように、図9の構成が結晶32のみを有するのであれば、変換器14は図示されるような二つのビームのみを出力するものとなる。しかしながら、第二結晶34が組み込まれているので、図示されている構成は第三次高調波を発生させるように動作可能であり、また、結晶と結晶の間には説明のためにレンズが示されているが、実際には、これは一つ以上の球面鏡である。
【0045】
全てのビームは同心円状であり、外側のビームがビーム18で、最も内側のビームが第三次高調波ビームである。コリメート光学系26は光路に沿って結晶34の下流に配置され、一つ以上の球面鏡として構成され得る。クロマティック調整器16は図示されるようにコリメーター26の直ぐ下流に配置される。図10は、図9の構造と同じ構造を有するが、第二次高調波及び第三次高調波に加えて、第三結晶40によって第四次高調波を発生させるように動作可能である。
【0046】
図11図13は多重通過(マルチパス)の変換システムを示す。図11の構成は、アクロマート全反射コリメーター26として構成されたコリメート光学系で第二次高調波を発生させるように動作可能である。図12は、光学的パラメトリック増幅器(OPA,optical parametric amplifier)を用いる代替的な高調波発生を示し、このシステムの一つ以上のパラメータ(二つ三つ例を挙げると、温度及び/又は結晶回転及び/又は時間遅延等)を変更することによって0.2μm~2μmの間のスペクトル調節性を有し、典型的には、直列の複数の非線形結晶において実現され、又は光学的パラメトリック発振器(OPO,optical parametric oscillator)として機能するキャビティにおいて実現される。図14に示されるラマン増幅器は、ラマンファイバー、ラマン結晶46又はラマン流体として構成可能であって、OPOと同様に、ラマン発振器として機能するキャビティにおいて実現可能である。
【0047】
添付図面を参照して本発明の実施形態を説明してきたが、本発明はこれらの正確な実施形態に限定されないことを理解されたい。例えば、システム10は、焦点において物質状態変化を生じさせるための同軸上で時間的に先行する高強度(ns/ps)パルスのIR/緑色/UV/DUVを有する長パルスIR光源、MM(マルチモード)IRビーム、同軸シングルモードIR等を備えても構成され得る。従って、当業者には、添付の特許請求の範囲において定められる本発明の範囲や要旨から逸脱せずに、多様な変更、修正、適用が可能であることを理解されたい。
【符号の説明】
【0048】
10 システム
12 レーザー光源
14 高調波発生器
16 クロマティック調整器
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A-5C】
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15