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  • 特許-被覆化学強化ガラス物品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】被覆化学強化ガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20230719BHJP
   C03B 33/09 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03B33/09
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020542606
(86)(22)【出願日】2019-02-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 EP2019052718
(87)【国際公開番号】W WO2019154782
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】18155306.6
(32)【優先日】2018-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
【住所又は居所原語表記】Avenue Jean Monnet 4, 1348 Louvain-la-Neuve, Belgique
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ランブリット, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ドラッグマン, シルヴァン
(72)【発明者】
【氏名】カリアロ, セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ペルシュロン, アレクシス
(72)【発明者】
【氏名】ギロン, グザヴィエ
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/038869(WO,A1)
【文献】特開2017-128493(JP,A)
【文献】特表2017-529305(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0196071(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0135197(US,A1)
【文献】特開2012-076949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 21/00
C03B 33/00
B23K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆ガラス物品の製造方法であって、前記方法が:
a.互いに反対側にある第1の主面及び第2の主面を有するガラス基材を準備するステップと、
b.前記ガラス基材の少なくとも前記第1の主面にレーザーを照射して、前記ガラス基材から少なくとも1つのガラス物品を分割するための輪郭線を画定する少なくとも1つの分離線を前記第1の主面の上に形成するステップであって、前記ガラス物品が、ステップa.の前記ガラス基材とは異なる形状及び/又はサイズを有するステップと、
c.少なくとも1つの分離線が上に形成された前記ガラス基材の化学強化を行うステップであって、前記分離線が、深さ方向で前記第1の主面から前記第2の主面へと延在しているステップと、
d.前記少なくとも1つの分離線に従って前記ガラス基材から前記少なくとも1つのガラス物品を分離するステップと、
を含み、
前記少なくとも1つの分離線が上に形成されたステップcのガラス材料の化学強化を行うステップと、ステップd.の前記少なくとも1つの分離線に従って前記ガラス基材から少なくとも1つのガラス物品を分離するステップとの間に、前記ガラス基材に対して少なくとも1つの被覆ステップが行われ、
前記方法が、前記ガラス物品の冷間曲げのステップをさらに含み、前記分離線が深さ方向で前記主面から前記反対側の主面まで延在することを特徴とする方法。
【請求項2】
被覆ガラス物品の製造方法であって、前記方法が:
a.互いに反対側にある第1の主面及び第2の主面を有するガラス基材を準備するステップと、
b.前記ガラス基材の少なくとも前記第1の主面にレーザーを照射して、前記ガラス基材から少なくとも1つのガラス物品を分割するための輪郭線を画定する少なくとも1つの分離線を前記第1の主面の上に形成するステップであって、前記ガラス物品が、ステップa.の前記ガラス基材とは異なる形状及び/又はサイズを有するステップと、
c.少なくとも1つの分離線が上に形成された前記ガラス基材の化学強化を行うステップであって、前記分離線が、深さ方向で前記第1の主面から前記第2の主面へと延在しているステップと、
d.前記少なくとも1つの分離線に従って前記ガラス基材から前記少なくとも1つのガラス物品を分離するステップと、
を含み、
前記少なくとも1つの分離線が上に形成されたステップcのガラス材料の化学強化を行うステップと、ステップd.の前記少なくとも1つの分離線に従って前記ガラス基材から少なくとも1つのガラス物品を分離するステップとの間に、前記ガラス基材に対して少なくとも1つの被覆ステップが行われ、
前記方法が、前記ガラス物品の冷間曲げのステップをさらに含み、前記分離線が、「スポット切断線」を形成する複数の隣接する空隙を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
前記強化及び前記被覆の後に、前記ガラス物品の前記第1及び第2の主面の上のカリウム濃度が、前記ガラス物品上の端部上に存在するカリウム濃度よりも高く、前記ガラス物品の前記端部上のカリウム濃度が前記ガラス物品全体のカリウム濃度よりも高いことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆化学強化ガラス物品の製造方法に関する。特に、本発明は、必要なサイズの改善された被覆強化ガラス部品をより大きなガラス基材から製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電子装置のカバーガラス、建築材料の板ガラス、乗り物の板ガラスなどの分野において、安全性の理由のため、及びそのような板ガラスに要求される安全規則を有するライン中に存在するために、高強度が必要とされることが多い。したがって、高い耐応力性を有する板ガラス又はカバーを得るために、板ガラスに対して化学強化プロセスが行われることが多い。
【0003】
化学強化処理では、元の原子よりも大きい原子直径を有するアルカリ金属イオンがガラス基材の表面に導入される。それによって、ガラス基材の表面上に圧縮応力層が形成され、それによってガラス基材の強度が改善される。
【0004】
一般に、化学強化ガラス物品は、(I)大きなサイズのガラス基材を準備することと、(II)そのガラス基材から、必要な形状及びサイズを有する複数のガラス物品を切断し収集することと、(III)成形されたガラス物品の化学強化を行うこととによって得られる。
【0005】
したがって、従来の化学強化ガラス物品の製造方法において、後で化学強化するために、最終形状に切断された多くのガラス基材が取り扱われる。化学強化される前、ガラス基材は、その端面において擦り傷が生じやすく、十分に注意深く取り扱う必要がある。
【0006】
従来方法によると、場合により小さな断片であり、又は複雑な形状を有し、耐応力性を有しないガラス基材の多くの断片は、化学強化プロセスが行われる前に取り扱う必要があり、そのためガラス基材が損傷する危険性が高い。さらに、主として最終的に得られるガラス物品の強度を保証することは困難であり、ガラス物品の製造歩留まりを最適に制御することができない。
【0007】
この問題を回避するため、大きなサイズを有するガラスを強化した後にガラス基材をその最終形状に切断することなどの幾つかの方法が開発されている。しかしこのような方法を用いると、最初のイオン交換によってガラス物品の端面は強化されない。結果として、最終ガラス物品は、外部負荷に対してあまり抵抗性とならず、安全性の要求を満たさない場合がある。
【0008】
さらに、ガラス基材の処理を行う必要がある場合、例えば、ガラス基材の表面上に被覆又は塗料を塗布する必要がある場合に、この問題が悪化する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的の1つは、ガラス物品の主面上、及びその端部上で良好な強度を有する被覆ガラス物品の製造方法を提供することである。これによって、改善された被覆強化ガラス物品を製造することができる。ガラス物品を損傷する危険性(一般に保管中又は輸送中に生じる擦り傷、取り扱い中又は加工中にくさびによって生じる端面上の傷又は損傷...)が大きく減少し、同時に、ガラス物品の製造方法が簡素化される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によると、被覆ガラス物品の製造方法は:
a.互いに反対側にある第1の主面及び第2の主面を有するガラス基材を準備するステップと、
b.ガラス基材の少なくとも第1の主面にレーザーを照射して、ガラス基材から少なくとも1つのガラス物品を分割するための輪郭線を画定する少なくとも1つの分離線を第1の主面の上に形成するステップであって、ガラス物品が、ステップa.のガラス基材とは異なる形状及び/又はサイズを有するステップと、
c.少なくとも1つの分離線が上に形成されたガラス基材の化学強化を行うステップであって、分離線が、深さ方向で第1の主面から第2の主面へと延在しているステップと、
d.少なくとも1つの分離線に従ってガラス基材から少なくとも1つのガラス物品を分離するステップと、
を含む。
【0011】
本発明によると、少なくとも1つの分離線が上に形成されたガラス材料の化学強化を行うステップ(ステップc.)と、少なくとも1つの分離線に従ってガラス基材から少なくとも1つのガラス物品を分離するステップ(ステップd.)との間に、ガラス基材に対して少なくとも1つの被覆ステップが行われる。
【0012】
したがって、被覆及び化学強化の品質が、ガラス物品の主面上、及びその端部上で改善され、損失量、特に端部効果が減少する。
【0013】
提案された方法によって、化学強化プロセス及び被覆プロセスが、より大きなガラス基材上で直接連続して行われる単純な方法で、化学強化被覆ガラス物品を製造することができる。次に、ガラス物品の必要なサイズ及び形状によって決定される分離線に従って、大きなサイズのガラスからガラス物品が分離される。このようにして、ガラス物品の強化、被覆、及び分離がより良く制御される。また、この方法による被覆の堆積、大きなサイズのガラスパネル上で行われるので、はるかに容易である。したがって、製造歩留まりが増加し、製造コストが減少する。この方法によって、端部間の被覆及び塗料の堆積を容易に行うことができる。
【0014】
さらに、本発明の方法によって、被覆材料及びガラス基材の消費を実質的に節約する手段が提供される。
【0015】
さらに、本発明の方法によって、冷間曲げが可能な化学強化被覆ガラス物品を得るための手段が提供される。本発明による方法は、従来の被覆化学強化ガラスの製造方法よりも安価であり、効率的である。
【0016】
その名称が示すように、冷間曲げは、工場の通常温度で行われる。このプロセスは、ガラスを所望のフレーム形状に機械的に曲げられるフレーム中にガラスが入れられることで開始する。フレーム設置プロセスでは、ガラスはフレーム中に直接接着又はねじ留めされる。次にフレームは、乗り物又は建造物に設置される状態となる。
【0017】
ガラスが薄いほど、機械的な観点から曲げが容易になる。しかし、形状がねじれた設計を有する場合もある。この方法によって、イオン交換のためにガラス物品の端面が強くなるので、冷間曲げの性能が向上する。
【0018】
冷間曲げは、ガラスコンソール、ダッシュボード、ドアのトリム要素、ピラー、フロントガラス、サイドウィンドウ、バックウィンドウ、サンルーフ、分離壁......などの自動車の内部及び外部の板ガラス部分のガラス物品の曲げの場合に特に評価されている。
【0019】
本発明によると、強化及び被覆の後、ガラス物品の表面上のカリウム濃度は、ガラス物品の端部上に存在するカリウム濃度よりも高い。ガラス物品の端面内のカリウム濃度は、化学強化中に増加する。したがって、ガラス物品の端面は、外部の負荷/応力に対してより抵抗性となる。したがって、張力下で応力を受けうるガラス物品の面は、より十分に強化され(特に冷間曲げにおいて)、中央張力を制限するための圧縮が不要である場所での圧縮は制限される。
【0020】
本発明の一実施形態によると、分離線は、深さ方向で主面から反対側の主面まで延在する。
【0021】
第1の主面上に複数の分離線が形成され、分離線は、1つのステップ又は2つ以上のステップで形成することができる。分離線は、ガラス物品(すなわち最終製品)のサイズ及び/又は形状によって画定される。より大きなサイズのガラス基材から、分離線によってガラス物品の輪郭が画定される。したがって、被覆プロセス後、分離線/輪郭線により、大きなサイズのガラス基材からガラス物品が分離され、収集される。
【0022】
本発明の一実施形態によると、分離線は、「スポット切断線」を形成する複数の隣接する空隙を含む。
【0023】
空隙の深さは、ガラスの厚さによって決定されることを理解されたい。
【0024】
より好ましくは、空隙の深さは、ガラス基材の厚さに等しい。
【0025】
本発明によると、分離線、特に複数の隣接する空隙は、レーザーを用いて形成される。
【0026】
本発明の一実施形態によると、分離線、特に複数の近接する空隙は、ガラス基材の上面から形成される。「ガラス基材の上面」という用語は、分離線を形成するためにガラス基材が上に配置される支持体と直接接触しないガラス表面の表面である理解される。
【0027】
本発明の一実施形態によると、分離線、特に複数の近接する空隙は、ガラス基材の上面(第1の主面)と、ガラス基材の下面(第2の主面)とから形成される。分離線、特に複数の近接する空隙は、ガラス基材の上面及び下面から同時に又は別々に形成することができる。
【0028】
したがって、ガラス基材に対して化学強化及び被覆が行われる場合、分離線を介してガラス物品の端部も強化され被覆される。したがって、単純化された方法によって、ガラス物品は、擦り傷及び物理的応力に対する抵抗性がより高くなり、より高い審美性が得られる。
【0029】
提案される方法の最終段階において、ガラス物品を主ガラスパネルから分離する必要がある。種々の方法によって、分離を進行させることが可能である。解決策の1つは、初期分離線に沿って亀裂が伝播するように、制御された位置で機械的装置(ダイヤモンド工具、切削ホイール...)を用いて亀裂を開始させることであってよい。さらに、初期分離線の近傍でさらなる空隙を生じさせることで、初期分離線に沿った亀裂伝播が制御される。実際には、これらの最初の方法は、化学強化プロセスによって生じるガラスパネルの中心部の中の内部張力を使用することにある。したがって、適切な位置において最初の亀裂を開始することで、初期ガラスパネルからのガラス物品の分離が引き起こされる。最終ガラス物品が離れた初期ガラスパネルの破壊によって、品質に影響を与えずに最終ガラス物品を得ることも可能になる。初期ガラスペインからガラス物品を分離する別の技術は、COレーザースポット、火炎、若しくはIRヒーターによる加熱、又は圧縮空気、液体窒素、若しくはその他の冷却溶液による冷却のいずれかで、熱衝撃を誘発することによって分離線の分裂を促進することである。また、酸溶液(エッチング溶液)を複数の近接する空隙の上に注ぐことで、ガラス物品の分裂が誘発される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施形態によるガラス物品の製造方法の流れを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、図1を参照しながら本発明の一実施形態を説明する。
【0032】
図1中に示されるように、被覆ガラス物品の製造方法は、
a.互いに反対側にある第1の主面及び第2の主面を有するガラス基材を準備するステップと、
b.ガラス基材の少なくとも第1の主面にレーザーを照射して、ガラス基材から少なくとも1つのガラス物品を分割するための輪郭線を画定する少なくとも1つの分離線を第1の主面の上に形成するステップであって、ガラス物品が、ステップa.のガラス基材とは異なる形状及び/又はサイズを有するステップと、
c.少なくとも1つの分離線が上に形成されたガラス基材の化学強化を行うステップであって、分離線が、深さ方向で第1の主面から第2の主面へと延在しているステップと、
d.少なくとも1つの分離線に従ってガラス基材から少なくとも1つのガラス物品を分離するステップと、
を含む。
【0033】
本発明によると、少なくとも1つの分離線が上に形成されたガラス材料の化学強化を行うステップ(ステップc.)と、少なくとも1つの分離線に従ってガラス基材から少なくとも1つのガラス物品を分離するステップ(ステップd.)との間に、ガラス基材に対して少なくとも1つの被覆ステップが行われる。
【0034】
本発明によると、組成が化学強化に適しているのであれば、ガラス基材のガラス組成は特に限定されない。ガラス基材は、例えば、ソーダ石灰ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス...であってよい。本発明によるガラス基材は、フロート法、引き上げ法、ローリング法、又は溶融ガラス組成物から開始してガラス板を製造するための周知のその他のあらゆる方法によって得られるガラス基材であってよい。本発明による優先的な一実施形態によると、ガラス基材はフロートガラス基材である。「フロートガラス基材」という用語は、還元性条件下で溶融スズ浴上に溶融ガラスを注ぐことにあるフロートガラス法によって形成されたガラス基材を意味することを理解されたい。
【0035】
本発明によるガラス基材は、0.03~19mmの間で変動する厚さを有することができる。有利には、本発明によるガラス基材は0.03mm~6mmの間で変動する厚さを有することができる。好ましくは、重量と、ガラス物品の容易な冷間曲げが可能となることとの理由で、本発明によるガラス基材の厚さは0.1~2.2mmである。
【0036】
本発明によると、ガラス物品の冷間曲げが必要な場合に、ガラス物品及び支持体の個別の設計に正確に適合するように、ガラス基材を全体的又は部分的に湾曲させることができる。
【0037】
この段階で、次にガラス基材の化学強化処理が行われる。
【0038】
本発明によると、少なくとも1つの分離線を形成するために、ガラス基材にレーザーが照射される。好ましくは、ガラス基材の少なくとも第1の主面の上にレーザーによって形成された複数の空隙の線によって画定される「スポット切断線」として少なくとも1つの分離線を形成するために、ガラス基板にレーザーが照射される。
【0039】
ここで、「分離線」は、あらかじめ決定された配列で複数の空隙の線を配列することによって形成された直線状の領域又は湾曲した領域を意味する。
【0040】
本発明の一実施形態によると、少なくとも1つのガラス物品をガラス基材から容易に適切に分離するために、複数の空隙の線の深さはガラス基材の厚さに相当する。
【0041】
ガラス基材の厚さ、及び/又はガラス物品の形状及び/又はサイズによるが、空隙の必要な深さは、ガラス基材の第1の主面をレーザーに曝露することによって、又はガラス基材の第1及び第2の主面をレーザーに曝露することによって、又はガラス基材の第1の主面を複数の組のレーザービームに連続的な方法で曝露することによって得ることができる。
【0042】
「分離線」のあらかじめ決定された配列は、例えばガラス基材の第1の主面の上にある固定された方向(X方向)で配列された複数の表面空隙であり、それによって面内空隙領域が形成される。
【0043】
それぞれの表面空隙は、少なくとも第1の主面の上のレーザーの照射位置に対応し、例えば1μm~5μmの直径を有する。しかし、表面空隙の直径はレーザーの照射条件、ガラス基材...によって変化する。
【0044】
隣接する表面空隙間の中心間距離は、ガラス基材の組成及び厚さ、レーザー加工条件、ガラス物品の形状及び/又はサイズ...に基づいて決定される。例えば、隣接する表面空隙間の中心間距離は2μm~10μmの範囲内であってよい。表面空隙間の中心間距離はすべての位置で等しくなる必要はなく、場所によって異なっていてよく、空隙は不規則な間隔で配列することができることに留意されたい。
【0045】
他方、前述したように、複数の空隙の線(スポット切断線)は、第1の主面から第2の主面に向けてガラス基材中に1つ以上の空隙を配列することによって形成することができる。
【0046】
空隙の形状、サイズ、及びピッチは特に限定されない。例えば、空隙は、Y方向から見た場合に円、楕円、長方形、三角形などの形状を有することができる。さらに、Y方向から見た空隙の最大寸法は、例えば0.1μm~1000μmの範囲内である。
【0047】
本発明の一実施形態によると、少なくとも1つの分離線を構成する空隙は、ガラス基材の厚さ方向(Z方向)に沿って配列される。好ましくは、分離線の各空隙はZ方向に延在する。しかし、少なくとも1つの分離線を構成する各空隙は、Z方向に対して傾いてガラス基材の第1の主面から第2の主面へと配列することができ、分離線を構成する少なくとも1つの分離線は、ガラス基材の第1の主面とは反対側の第2の主面に対して開放された空隙(第2の表面空隙)を有する場合も有さない場合もある。
【0048】
したがって、前述したように、分離線は、連続した「線」として形成されるのではなく、それぞれの表面空隙が連結される場合に形成される仮想の空隙領域である。これが直線領域を表すことに留意すべきである。
【0049】
さらに、分離線は、複数の単一の平行な分離線でできていてよく、これらの分離線は、非常に近接して配置されて、複数の平行の「線」の集合体が形成される。
【0050】
一実施形態によると、ガラス基材の第1の主面に最初にレーザーを照射することができ、次に第2の主面にレーザーが照射される。第1及び第2の主面は、同時又は別々に照射することができる。分離線を構成する空隙の必要な深さは、ガラス基材の厚さを通過するレーザー操作を繰り返すことによって得ることができる。
【0051】
本発明による方法に適したレーザーは、例えば短パルスレーザーである。このような短パルスレーザービームは、少なくとも1つの分離線を構成する空隙を効率的に形成するためのバーストパルスであることが好ましい。さらに、このような短パルスレーザーの照射時間における平均出力は、例えば30W以上である。この短パルスレーザーの平均出力が10W未満である場合、場合によっては十分な空隙を形成できない。バーストパルスのレーザー光の一例として、3~10のパルス数のバーストレーザーによって1つの内部空隙の列が形成され、レーザー出力は定格(50W)の約90%であり、バースト周波数は約60kHzであり、バーストの時間幅は20ピコ秒~165ナノ秒である。バーストの時間幅として、好ましい範囲は10ナノ秒~100ナノ秒である。
【0052】
少なくとも1つの分離線の形成に続いて、少なくとも1つの分離線が少なくとも1つのガラス物品の輪郭線を上に画定しているガラス基材は、次に化学強化プロセスに供される。
【0053】
化学強化処理の条件は特に限定されない。例えば、少なくとも1つの分離線が少なくとも1つのガラス物品の輪郭線を上に画定しているガラス基材を380℃~500℃の溶融塩中に1分~72時間浸漬することによって、化学強化を行うことができる。
【0054】
溶融塩として、硝酸塩を使用することができる。例えば、ガラス基材中に含まれるリチウムイオンをより大きなアルカリ金属イオンで置換する場合、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ルビジウム、及び硝酸セシウムの少なくとも1つを含む溶融塩を使用することができる。さらに、ガラス基材中に含まれるナトリウムイオンをより大きなアルカリ金属イオンで置換する場合、硝酸カリウム、硝酸ルビジウム、及び硝酸セシウムの少なくとも1つを含む溶融塩を使用することができる。さらに、ガラス基材中に含まれるカリウムイオンをより大きなアルカリ金属イオンで置換する場合、硝酸ルビジウム及び硝酸セシウムの少なくとも1つを含む溶融塩を使用することができる。
【0055】
さらに、炭酸カリウムなどの1種類以上の塩を溶融塩にさらに加えることができる。この場合、10nm~1μmの厚さを有する低密度層をガラス基材の表面上に形成することができる。
【0056】
少なくとも1つの分離線が少なくとも1つのガラス物品の輪郭線を上に画定しているガラス基材に対して化学強化処理を行うことによって、ガラス基材の第1の主面及び第2の主面の上、並びにガラス物品の端部の上に圧縮応力層を形成することができる。圧縮応力層の厚さは、置換されるアルカリ金属イオンの侵入深さに相当する。例えば、硝酸カリウムを使用してナトリウムイオンをカリウムイオンで置換する場合、ソーダ石灰ガラスの場合の圧縮応力層の厚さは8μm~27μmとなることができ、アルミノケイ酸塩ガラスの場合の圧縮応力層の厚さは10μm~100μmである。アルミノケイ酸塩ガラスの場合、アルカリ金属イオンの侵入深さは、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上である。
【0057】
したがって、ガラス基材は化学強化が行われているので、ガラス基材から製造されるガラス物品の擦り傷のない外観及び強度の保証が、従来の製造方法よりも容易になる。したがって、製造歩留まりが増加しうる。
【0058】
さらに、特に、分離線による分離後にその形状を有するガラス物品は、同様に化学強化されている端面を有する。したがって、ガラス物品は十分な強度が得られる。
【0059】
本発明によると、少なくとも1つの分離線を介してガラス基材から少なくとも1つのガラス物品が分離され収集される前に、ガラス基材に対して被覆処理が行われる。
【0060】
本発明の一実施形態によると、ガラス板に少なくとも1つの透明で電気伝導性の薄層が被覆される。本発明による透明で電気伝導性の薄層は、例えばSnO:F、SnO:Sb、又はITO(インジウムスズ酸化物)、ZnO:Al、又はさらにはZnO:Gaをベースとする層であってよい。
【0061】
本発明の別の有利な一実施形態によると、ガラス板に少なくとも1つの反射防止層が被覆される。本発明による反射防止層は、例えば低屈折率の多孔質シリカをベースとする層であってよいし、又は数層(スタック)、特に低屈折率及び高屈折率を有し低屈折率を有する層で終了する誘電体材料の交互層の層のスタックから構成されてよい。テクスチャー加工されたガラス板を使用することもできる。反射を防止するためにエッチング技術又は被覆技術を使用することもできる。
【0062】
別の一実施形態によると、ガラス基材は、少なくとも1つの耐指紋層が被覆されるか、又は指紋を軽減若しくは防止するために処理されている。このような層又はこのような処理は、反対側の面上に堆積される透明で電気伝導性の薄層と組み合わせることができる。このような層は、同じ面上に堆積される反射防止層と組み合わせることができ、耐指紋層はスタック外部の上に存在し、従って反射防止層を覆っている。
【0063】
別の一実施形態によると、ガラス基材は、デジタル印刷又はシルクスクリーン印刷されたガラス基材、エッチングされたガラス基材である。
【0064】
別の一実施形態によると、ガラス基材には、塗料/エナメル、抗菌性ガラス被覆...が被覆される。
【0065】
本発明によると、「被覆される/被覆」という用語は、(そのTgよりも低い「ガラスの場合に見ることができる」温度において)表面材料の追加又は除去、物理化学的な変性によって、ガラスの表面の性質(機械的、化学的、光エネルギー的、生物学的、電気的、審美的な性質...)を変化させることができるような被覆並びに塗料又は表面処理であってよい。
【0066】
別の一実施形態によると、以下の限定的な被覆の一覧:低e被覆、ソーラーコントロール被覆、ダイヤモンド状被覆、自己洗浄性被覆(TiO、...)、イオン注入被覆、ラッカー塗装(Lacobel型)、銀若しくは誘電体の被覆、伝導性インク、赤外線透過インク、半透明インク、蛍光材料又はアップコンバージョン材料、「メッシュ」(銀ナノワイヤ、カーボンナノチューブ)の堆積、表面の(ナノ)レーザー構造化、安全フィルム、両面接着剤、ゾル-ゲル被覆(それらのあらゆる機能、すなわち色の変更、酵素の組み込み...を有する)、ソーラータイプの被覆及び薄膜など、表面の酸攻撃、サンダー仕上げ、彫刻...から選択される被覆でガラス基材が被覆される。
【0067】
所望の用途及び/又は性質により、被覆は、ガラス基材の第1及び/又は第2の主面の上に設けることができる。また、セリグラフィー及びそのような被覆...として、ガラス基材のある面及び/又は他の面の上に数個の被覆の組み合わせを堆積することができる。
【0068】
本発明の好ましい一実施形態によると、ガラス物品は、面1(当業者には周知の用語)にアンチグレア、反射防止被覆、及び耐指紋被覆が設けられ、多色セリグラフィー、安全フィルムが面2に設けられる。
【0069】
少なくとも1つの被覆が、基材の第1及び第2の主面の少なくとも1つの上に取り付けられた後、少なくとも1つの分離線によって形状が画定される少なくとも1つのガラス物品は、ガラス基材から分離され、ガラス基材から収集される。
【0070】
したがって、顧客が直接使用できる単純化された方法で、少なくとも1つの被覆強化ガラス物品が得られる。
【0071】
本発明による単純化された方法により得られる少なくとも1つの被覆された強化ガラス物品は、例えば所望の複雑な形状にするために冷間曲げを行うことができる。複雑な形状で、審美的で、ある機能性を有するように被覆されたガラス物品を本発明によって得ることができる。本発明によるガラス物品は、例えば、安全性の理由のため、及びこのような板ガラスに必要な安全規則を有するライン中に存在するために高強度が必要となることが多い、電子装置のカバーガラス、建築材料の板ガラス、乗り物の板ガラス...の分野で使用することができる。
【0072】
本発明により得られるガラス物品は、自動車製造業者によってますます複雑な形状が要求される、乗り物内部の板ガラス(glazing)、例えばコンソール、ダッシュボード、車の外部の窓、ガラストリム要素として特に適している。
【0073】
したがって、本発明は、上記方法によって得られるガラス物品にも関する。
図1