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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】発泡シート
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20230719BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20230719BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20230719BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20230719BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J9/04 CET
C08J9/04 CFD
B29C48/08
B29C44/00 E
B32B5/18 101
B32B27/30 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020545946
(86)(22)【出願日】2019-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2019034772
(87)【国際公開番号】W WO2020054536
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2018168650
(32)【優先日】2018-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】399051593
【氏名又は名称】東洋スチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】井上 修治
(72)【発明者】
【氏名】吉野 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 宝晃
(72)【発明者】
【氏名】塚田 雅史
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-077180(JP,A)
【文献】特開2000-248100(JP,A)
【文献】特開2014-118556(JP,A)
【文献】特開2010-173263(JP,A)
【文献】特開2009-155366(JP,A)
【文献】特開平07-108637(JP,A)
【文献】特開平10-337824(JP,A)
【文献】特開2018-048248(JP,A)
【文献】国際公開第2016/170964(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/098489(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B29C 48/08
B29C 44/00-44/60
B29C 67/20
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂組成物を発泡してなる発泡シートであって、
前記スチレン系樹脂組成物は、(A)スチレン系樹脂と(B)ポリ乳酸の合計100質量部に対し、(A)スチレン系樹脂55質量部以上90質量部以下(B)ポリ乳酸10質量部以上45質量部以下および(C)ブタジエンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルの共重合体1質量部以上8質量部以下を含み、
前記(C)ブタジエンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルの共重合体は、ブタジエンを含む重合体粒子をコアとして、その表面にエチレン性不飽和カルボン酸エステルを含む単量体をグラフト共重合させてシェルを形成させた多層構造粒子であり、
前記発泡シートは、厚みが0.5mm以上3.5mm以下、発泡倍率が1.1倍以上20.0倍以下、平均気泡径が30μm以上500μm以下、総揮発成分量が800μg/g未満、独立気泡率が60%以上であることを特徴とする発泡シート。
【請求項2】
前記(A)スチレン系樹脂と前記(B)ポリ乳酸が共連続構造を形成していることを特徴とする請求項1に記載の発泡シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の発泡シートの少なくとも一面に、熱可塑性樹脂からなる樹脂非発泡フィルムを積層してなることを特徴とする積層発泡シート。
【請求項4】
請求項1または2に記載の発泡シートまたは請求項に記載の積層発泡シートを成形してなることを特徴とする成形容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡シート、積層発泡シート及び成形容器に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂の押出発泡シートは、軽量性、剛性、成形性に優れるため、食料品トレー、弁当箱、即席麺容器、納豆容器、カップ等の食品包装容器に広く使用されている。また、スチレン系樹脂の板状押出発泡体は、優れた断熱性及び機械的強度を有することから、一般建築物等の床材や壁材、天井材、畳の心材など様々な分野で使用されている。しかしながらスチレン系樹脂からなり、廃棄されるプラスチックゴミは環境問題として注目される「マイクロプラスチック」の発生源になることが懸念されている。
【0003】
生分解性を有する各種ポリマーを含有したプラスチック製品を使用することは、環境保護の観点から好ましい。また、植物由来原料の使用は、石油資源節約の観点から好ましい。近年、これらのことが一般消費者にも認識されるようになり、工業製品にも生分解性ポリマー、植物由来ポリマーを原料とする試みが広く行われてきている。特にポリ乳酸は、植物由来かつ生分解性を有するポリマーであり、かつ生分解性ポリマーの中でも、比較的高い融点と強靭性、透明性、耐薬品性を兼ね備えている点から、実用上優れたポリマーと認識され食品容器などへの利用が進んでいる。
【0004】
従来のポリ乳酸系樹脂発泡シート成形体のほとんどは、発泡が容易である非結晶性のポリ乳酸系樹脂組成物を材料として形成されたものであるとこから、ポリ乳酸系樹脂発泡シート成形体は、耐熱性が低いという問題があった。そこで、ポリ乳酸系樹脂発泡シートを熱成形する際に、結晶化度を上昇させることで、耐熱性の優れたポリ乳酸系樹脂発泡シート成形体を得る方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、樹脂組成の脆性が強くなり、その結果ポリ乳酸系樹脂発泡シート成形体のシート強度が低下してしまうという問題がある。そこで、例えば、スチレン系樹脂とポリ乳酸とを配合し、流動性の確保及び機械物性の改良を行う検討がなされている(特許文献2)。しかしながら、単純にスチレン系樹脂とポリ乳酸とを配合・溶融混合しただけでは、市場が求める物性を満たすことや、それぞれの樹脂特性を活かした製品設計をすることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-359910号公報
【文献】特開2008-50426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリ乳酸を含有する、耐熱性とシート強度のバランスに優れたスチレン系樹脂組成物から得られる発泡シートを提供することを課題とする。
【0007】
本発明は、電子レンジで加熱しても容器の変形を抑制できる充分な耐熱性を有し、かつシート強度に優れ取り扱いが容易な発泡シート、積層発泡シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発泡シートは、
スチレン系樹脂組成物を発泡してなる発泡シートであって、
前記スチレン系樹脂組成物は、(A)スチレン系樹脂と(B)ポリ乳酸の合計100質量部に対し、(A)スチレン系樹脂55質量部以上90質量部以下(B)ポリ乳酸10質量部以上45質量部以下および(C)ブタジエンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルの共重合体1質量部以上8質量部以下を含み、
前記(C)ブタジエンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルの共重合体は、ブタジエンを含む重合体粒子をコアとして、その表面にエチレン性不飽和カルボン酸エステルを含む単量体をグラフト共重合させてシェルを形成させた多層構造粒子であり、
前記発泡シートは、厚みが0.5mm以上3.5mm以下、発泡倍率が1.1倍以上20.0倍以下、平均気泡径が30μm以上500μm以下、総揮発成分量が800μg/g未満、独立気泡率が60%以上である発泡シートである。
【0010】
本発明の発泡シートでは、前記(A)スチレン系樹脂と前記(B)ポリ乳酸が共連続構造を形成していることが好ましい。
【0011】
本発明の積層発泡シートは、本発明の発泡シートの少なくとも一面に、熱可塑性樹脂からなる樹脂非発泡フィルムを積層してなる。
【0012】
本発明の成形容器は、本発明の発泡シートまたは積層発泡シートを成形してなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の発泡シートは、電子レンジで加熱しても容器の変形を抑制できる充分な耐熱性を有し、かつシート強度に優れ取り扱いが容易である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<発泡シート>
本発明の発泡シートは、スチレン系樹脂組成物を発泡してなる。
【0015】
[スチレン系樹脂組成物]
スチレン系樹脂組成物は、(A)スチレン系樹脂と(B)ポリ乳酸の合計100質量部に対し、(A)スチレン系樹脂55質量部以上90質量部以下および(B)ポリ乳酸10質量部以上45質量部以下を含有する。(B)ポリ乳酸の割合が10質量部以上だと電子レンジで加熱しても変形が抑制される充分な耐熱性が得られやすく、45質量部以下だと充分なシート強度が得られやすい。スチレン系樹脂組成物は、好ましくは、(A)スチレン系樹脂60質量部以上85質量部以下および(B)ポリ乳酸15質量部以上40質量部以下、より好ましくは、(A)スチレン系樹脂60質量部以上75質量部以下および(B)ポリ乳酸25質量部以上40質量部以下を含有する。
【0016】
本発明において使用する(A)スチレン系樹脂とは、芳香族ビニル化合物系単量体を重合して得られるものであり、必要に応じて共役ジエン系ゴム状重合体を加えてゴム変性を行ってもよい。重合方法としては公知の方法、例えば、塊状重合法、塊状・懸濁二段重合法、溶液重合法等が挙げられる。芳香族ビニル化合物系単量体は、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン等の公知のものが使用できるが、好ましくはスチレンである。また、これらの芳香族ビニル化合物系単量体と共重合可能なアクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、無水マレイン酸等の単量体も、スチレン系樹脂組成物の性能を損なわない程度のものであれば使用しても良い。さらに本発明ではジビニルベンゼン等の架橋剤を芳香族ビニル化合物系単量体に対し添加して重合したものであっても差し支えない。
【0017】
本発明の(A)スチレン系樹脂のゴム変性に用いる共役ジエン系ゴム状重合体としては、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエンのランダムまたはブロック共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン-イソプレンのランダム、ブロック又はグラフト共重合体、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴムなどが挙げられるが、特にポリブタジエン、スチレン-ブタジエンのランダム、ブロック又はグラフト共重合体が好ましい。また、これらは一部水素添加されていても差し支えない。
【0018】
(A)スチレン系樹脂の例として、ポリスチレン(GPPS)、ゴム変性ポリスチレン(HIPS)、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、AS樹脂(アクリロニトリル-スチレン共重合体)、MS樹脂(メチルメタクリレート-スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル-エチレンプロピレン-スチレン共重合体)等が挙げられる。この中では、ゴム変性ポリスチレン(HIPS)が、樹脂組成物の耐衝撃性を高くすることができるため、特に好ましい。
【0019】
ゴム変性ポリスチレン(HIPS)の分子量については特に制限はないが、還元粘度(ηsp/C)で0.5dl/g以上1.0dl/g以下が好ましい。
【0020】
ゴム変性ポリスチレン(HIPS)中の共役ジエン系ゴム状重合体の含有量については特に制限はないが、3質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0021】
本発明で使用する(B)ポリ乳酸は、二酸化炭素排出量削減という観点から、植物由来原料が好ましい。
【0022】
ポリ(L-乳酸)の場合、D-乳酸成分の比率によってその結晶化速度が異なる。本発明樹脂組成物の耐熱性および成形性を考慮すると、D-乳酸成分の比率は0.01モル%以上5.0モル%以下とすることが好ましい。特に好ましくは0.01モル%以上1.5モル%以下の範囲である。
【0023】
(B)ポリ乳酸の分子量は、重量平均分子量(Mw)が5万以上40万以下であることが好ましく、特に好ましくは10万以上30万以下の範囲である。
【0024】
スチレン系樹脂組成物は、(C)ブタジエンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルの共重合体を含有してもよい。(C)ブタジエンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルの共重合体を含有すると、シート強度を劇的に向上させることができるため好ましい。本発明の(C)ブタジエンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルの共重合体は、モノマー単位としてブタジエンとエチレン性不飽和カルボン酸を有する熱可塑性エラストマーである。エチレン性不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル等が挙げられ、2種類以上を組み合わせて使用しても良い。また必要に応じて、ブタジエン及び/またはエチレン性不飽和カルボン酸エステルと共重合可能な他の単量体を組み合わせることも可能である。上記のエチレン性不飽和カルボン酸エステルの中では、メタクリル酸メチルが最も好ましい。
【0025】
また、本発明の(C)ブタジエンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルの共重合体は、ブタジエンを含む重合体粒子をコアとして、その表面にエチレン性不飽和カルボン酸エステルを含む単量体をグラフト共重合させてシェルを形成させた多層構造粒子が、耐衝撃強度をより高めることができるため好ましい。このような(C)ブタジエンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルの共重合体の例として、メタブレンC-223A(三菱ケミカル社製)、カネエースM-511(カネカ社製)等が挙げられる。
【0026】
樹脂組成物中における(C)ブタジエンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルの共重合体の添加量は、特に限定されないが、(A)スチレン系樹脂と(B)ポリ乳酸の合計100質量部に対して、1質量部以上8質量部以下が好ましく、3質量部以上8量部以下がより好ましい。1質量部以上であれば、耐衝撃強度の向上効果が得られやすく、8質量部以下であれば、耐熱性の向上効果が得られやすい。
【0027】
本実施の形態においては、(A)スチレン系樹脂および(B)ポリ乳酸を混練することにより、共連続構造を形成させることが好ましい。(A)スチレン系樹脂と(B)ポリ乳酸が共連続構造を形成すると、(A)スチレン系樹脂と(B)ポリ乳酸が相互に絡み合うため、シート強度向上の点で好ましい。
【0028】
共連続構造とは、複数成分のそれぞれが連続した相を形成しながら互いに混じりあっている構造を言う。ここで、ポリマーアロイにおける相状態は、大別すると完全相溶(単相)、海島構造(多相)、共連続構造(多相)、層状構造(多相)の4つに分けられる。大抵のポリマーアロイは完全相溶することはなく、海島構造、共連続構造または層状構造を形成することが知られている。尚、海島構造とは、複数成分の片方が連続する相の中に、もう一方が粒子状(島状)に分散している構造を言う。また、層状構造とはそれぞれの成分が連続相を形成するが、互いの成分が混じりあうことはなく独立している構造を言う。
【0029】
ポリマーアロイにおいて共連続構造を形成させるためには、溶融混錬時の樹脂組成、樹脂温度が重要であることを見出した。樹脂温度は160℃以上240℃以下で押出成形することが好ましい。本範囲内であれば強固な共連続構造を形成し、シート強度が向上する。
【0030】
本発明の樹脂組成物には、本発明の要旨を超えない範囲で他の添加物、例えば補強材、難燃剤、染顔料、着色防止剤、滑剤、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、充填剤、結晶化核剤、相溶化剤等の公知の添加剤、酸化チタンやカーボンブラックなどの着色剤などの改質剤を添加することができる。これらの添加方法は、特に限定されず、公知の方法で添加すれば良い。例えば、(A)スチレン系樹脂または(B)ポリ乳酸の製造時の原料の仕込工程、重合工程、仕上工程で添加する方法や、押出機や成形機を用いて樹脂組成物を混合する工程で添加する方法を適用することができる。
【0031】
本発明の樹脂組成物の混合方法は、特に限定されず、公知の混合技術を適用することが出来る。例えば、ミキサー型混合機、V型ブレンダー、及びタンブラー型混合機等の混合装置を用いて、各種原料を予め混合しておき、その混合物を溶融混練することによって、均一な樹脂組成物を製造することが出来る。溶融混練装置も、特に限定されないが、例えばバンバリー型ミキサー、ニーダー、ロール、単軸押出機、特殊単軸押出機、及び二軸押出機等が挙げられる。更に、押出機等の溶融混練装置の途中から難燃剤等の添加剤を別途添加する方法もある。
【0032】
[厚み]
本発明の発泡シートの厚みは、0.5mm以上3.5mm以下であり、1.5mm以上2.5mm以下が好ましく、1.5mm以上2.3mm以下がより好ましい。発泡シートの厚みが前記範囲内であれば、シート強度に優れ取り扱いが容易な発泡シートとなる。また、発泡シートの厚みが前記下限値以上であれば、強度、耐熱性、断熱性に優れる。発泡シートの厚みが前記上限値以下であれば、熱成形性が良好となる。
【0033】
[発泡倍率]
本発明の発泡シートの発泡倍率は、1.1倍以上20.0倍以下であり、1.5倍以上15.0倍以下が好ましく、1.7倍以上12.0倍以下がより好ましい。発泡シートの発泡倍率が前記範囲内であれば、シート強度に優れ取り扱いが容易な発泡シートとなる。また、発泡シートの発泡倍率が前記下限値以上であれば、断熱性に優れ、発泡シートの発泡倍率が前記上限値以下であればシート強度に優れる。
【0034】
[平均気泡径]
本発明の発泡シートの平均気泡径は、30μm以上500μm以下であり、50μm以上350μm以下が好ましく、50μm以上300μm以下がより好ましい。発泡シートの平均気泡径が前記範囲内であれば、シート強度に優れ取り扱いが容易な発泡シートとなる。また、発泡シートの平均気泡径が前記下限値以上であれば、成形性が良好で、良好な成形品が得られる。発泡シートの平均気泡径が前記上限値以下であれば、発泡シートが柔らかくなり、割れが生じにくくなる。
【0035】
[総揮発成分量]
本発明の発泡シートの総揮発成分量は、800μg/g未満であり、700μg/g未満が好ましく、600μg/g未満がより好ましい。発泡シートの総揮発成分量が前記上限値以下であれば、成形品が変形しにくく、耐熱性、耐油性に優れる。
【0036】
[独立気泡率]
本発明の発泡シートの独立気泡率は、60%以上であり、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。発泡シートの独立気泡率が前記範囲内であれば、シート強度に優れ取り扱いが容易な発泡シートとなる。
【0037】
[製造方法]
本発明の発泡シートの製造方法としては、特に限定されず、例えば、前記スチレン系樹脂組成物、造核剤等を押出機に供給して加熱溶融し、発泡剤を加えて混練し、押出機の先端に取り付けられた金型から押出発泡させ、得られた発泡シートを巻き取って回収する方法が挙げられる。
【0038】
発泡剤としては、汎用されているものが用いられる。例えば、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、ヒドラゾイルジカルボンアミド、重炭酸ナトリウム等の化学発泡剤;プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ヘキサン等の飽和脂肪族炭化水素、ジメチルエーテル等のエーテル類、塩化メチル、二酸化炭素、窒素等の物理発泡剤等が挙げられる。
【0039】
造核剤としては、例えば、タルク、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸カルシウム、クレー、クエン酸等が挙げられる。なかでも、造核剤としては、タルクが好ましい。造核剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。造核剤の添加量は、スチレン系樹脂組成物100質量部に対して0.01質量部以上5質量部以下が好ましい。
【0040】
押出機の先端に取り付ける金型としては、例えば、環状開口を有する環状金型(サーキュラーダイ)、Tダイ等が挙げられる。環状金型を用いる場合の具体的な態様としては、例えば、環状金型から押出した円筒状発泡体を冷却マンドレルに沿わせつつ、該冷却マンドレルの先端部の両側に設けたカッターにより、該円筒状発泡体に軸方向に切れ目を入れて切開し、2枚の発泡シートとする態様が挙げられる。
【0041】
発泡シートの厚み、発泡倍率、平均気泡径、総揮発成分量及び独立気泡率を制御する方法は、特に限定されない。例えば、造核剤の使用量を増やすことで、発泡倍率は大きくなる。また、発泡剤の使用量を減らすことで、発泡倍率は小さくなる。押出機における樹脂成分の溶融混練温度を高くすることで、発泡シートの総揮発成分量が高くなる。発泡剤の使用量や種類を変更することで、発泡シートの厚みを制御できる。また、造核剤の使用量を減らすことにより、平均気泡径が大きくなる。
【0042】
[作用効果]
以上説明した本発明の発泡シートは、(A)スチレン系樹脂及び(B)ポリ乳酸の割合、並びに厚み、発泡倍率、平均気泡径、総揮発成分量及び独立気泡率を特定の範囲に制御していることで、電子レンジで加熱しても容器の変形を抑制できる充分な耐熱性を有するうえ、シート強度に優れ取り扱いも容易である。
【0043】
<積層発泡シート>
本発明の積層発泡シートは、本発明の発泡シートの少なくとも一面に積層された樹脂非発泡フィルムを有する。樹脂非発泡フィルムを積層する面は、発泡シートの表面、裏面、側面のいずれでもいいが、表面と裏面のいずれか一方または両方であることが好ましい。
【0044】
樹脂非発泡フィルムは、熱可塑性樹脂からなる発泡させていないフィルムである。樹脂非発泡フィルムを積層することで、積層発泡シートの表面がより美麗になり、また剛性がより高くなり、耐熱、耐油性がより向上する。樹脂非発泡フィルムを形成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、耐衝撃性ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂等が挙げられる。また、これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上をドライラミネート等で積層してもよい。樹脂非発泡フィルムは、着色料(顔料、染料等)を添加することで様々な色調に着色してもよく、表面に印刷を施すことで様々な模様やデザインを表示してもよい。
【0045】
樹脂非発泡フィルムの厚みは、10μm以上150μm以下が好ましく、10μm以上100μm以下がより好ましい。樹脂非発泡フィルムの厚みが前記下限値以上であれば、加熱成形時にフィルムが伸びやすく欠損が生じにくくなる。樹脂非発泡フィルムの厚みが前記上限値以下であれば、コストアップにならず、フィルム積層時に低温で積層でき光沢性が失われることもない。
【0046】
樹脂非発泡フィルムを積層する方法としては、発泡シートと樹脂非発泡フィルムを共押し出しして積層する方法や、加熱ロール、バインダー、接着剤等を用いて発泡シートに樹脂非発泡フィルムを積層する方法等が挙げられる。
【0047】
[作用効果]
以上説明した本発明の積層発泡シートは、(A)スチレン系樹脂及び(B)ポリ乳酸の割合、並びに厚み、発泡倍率、平均気泡径、総揮発成分量及び独立気泡率を特定の範囲に制御した発泡シートを用いていることで、電子レンジで加熱しても容器の変形を抑制できる充分な耐熱性を有するうえ、シート強度に優れ取り扱いも容易である。
【0048】
<成形容器>
本発明の成形容器は、前記した本発明の発泡シート又は積層発泡シートを成形して得た成形容器である。
【0049】
本発明の成形容器の形状や寸法は、特に限定されず、例えば、カップ入り即席麺用のカップや丼が挙げられる。本発明の成形容器は、本発明の発泡シート又は積層発泡シートを熱成形することで得られる。その際に、積層発泡シートを用いる場合、容器の機械的強度、耐熱、耐油性がより向上する点から、少なくとも容器の内側が樹脂非発泡フィルムとなるように熱成形することが好ましい。
【0050】
熱成形方法としては、例えば、真空成形や圧空成形、あるいはこれらの応用としてのフリードローイング成形、プラグ・アンド・リッジ成形、リッジ成形、マッチド・モールド成形、ストレート成形、ドレープ成形、リバースドロー成形、エアスリップ成形、プラグアシスト成形、プラグアシストリバースロード成形等の、従来公知の一般的な成形法等が挙げられる。
【0051】
[作用効果]
以上説明した本発明の成形容器は、(A)スチレン系樹脂及び(B)ポリ乳酸の割合、並びに厚み、発泡倍率、平均気泡径、総揮発成分量及び独立気泡率を特定の範囲に制御した発泡シートを用いていることで、電子レンジで加熱しても容器の変形を抑制できる充分な耐熱性を有するうえ、シート強度に優れ取り扱いも容易である。
【実施例
【0052】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[原料]
<スチレン系樹脂(A)>
(A-1);東洋スチレン株式会社製 ゴム変性ポリスチレン 還元粘度0.70dl/g、ゴム状重合体含有量9.2質量%
<ポリ乳酸(B)>
(B-1);浙江海正生物材料(Zhejiang Hisun Biomaterials Co.,Ltd.)製「REVODA190」 D-乳酸成分の比率0.5モル%、重量平均分子量(Mw)20万
<ブタジエンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルの共重合体(C)>
(C-1);三菱ケミカル株式会社製「メタブレンC-223A」 ポリブタジエン(コア)に、メタクリル酸メチル及びスチレンをグラフト共重合させてシェル層を形成させた多層構造粒子。
【0053】
[共連続構造の確認方法]
発泡シート0.5gにメチルエチルケトン(MEK)を50g加えて、1週間経過後の未溶解物を作製し、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JSM-6510)を用いて、2000倍に拡大して撮影し、共連続構造の有無を確認した。
共連続構造有:連続した網目状構造を有している
共連続構造無:不連続な構造となっている
【0054】
[厚みの測定方法]
発泡シートの幅方向の両端20mmを除き、幅方向50mm間隔で21点を測定点とした。この測定点の厚みを、シックネスゲージ547-313(ミツトヨ社製)を使用し、最小単位0.1mmまで測定した。これらの測定値の平均値を発泡シートの厚みT(mm)とした。
【0055】
[発泡倍率]
発泡シートの幅方向の両端20mmを除き、幅方向に等間隔に、10cm×10cmの切片10個を切り出し、各切片の質量(g)を0.001g単位まで測定した。各切片の質量(g)の平均値を1m2当たりの質量に換算した値を、坪量M(g/m2)とした。厚みT(mm)と坪量Mとから、下式(1)により見掛け密度ρを求め、さらに下式(2)により発泡倍率を求めた。
見掛け密度ρ(g/cm3)=M/(T×103)・・・(1)
発泡倍率=真密度/見掛け密度ρ・・・(2)
【0056】
[平均気泡径の測定方法]
シートの厚み方向の平均気泡径を求めた。発泡シートの押出方向の垂直断面を走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JSM-6510)を用いて観察した。発泡シートの全厚みにわたって垂直な直線を引き、ASTM D2842-06に基づいて該直線の長さと該直線と交差する気泡数より下記式(3)を用いて平均弦長を求め、さらに下記式(4)を用いて平均気泡径を算出した。
平均弦長=直線の長さ/気泡数・・・(3)
平均気泡径(μm)=平均弦長/0.616・・・(4)
【0057】
[総揮発成分量の測定方法]
発泡シート500mgを、内部標準物質としてシクロペンタノールを含むジメチルホルムアミド(DMF)10mlに溶解し、揮発成分(スチレンモノマー、トルエン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、キシレン)の含有量を、ガスクロマトグラフを用いて測定した。
(測定条件)
ガスクロマトグラフ:HP-5890(ヒューレットパッカード社製)
カラム:HP-WAX、0.25mm×30m、膜厚0.5μm
インジェクション温度:220℃
カラム温度:60℃から150℃、10℃/min
ディテクター温度:220℃
スプリット比:30/1
【0058】
[独立気泡率の測定方法]
発泡シートを縦25mm×横25mmの試験片に切り出し、試験片を重ねたときに25mm前後となるように枚数分用意する。用意した試験片を空気式比重計((株)島津製作所 アキュピックII1340TC-100cc)を用いて体積(V1)を求めた。各々の試験片の合計重量(M0)、見かけ体積(V0)を計測し、独立気泡率を下記式(5)で算出した。
独立気泡率(%)=(V0-V1)/(V0-M0/真密度)×100・・・(5)
【0059】
[耐熱性の評価方法]
発泡シートを使用し、口径100mm、深さ60mmの円型丼形状容器に加熱成形して得られた耐熱容器を100℃のオーブンに入れ1時間加熱した。その後、丼容器において、互いに直交する方向のそれぞれの直径を測定することで寸法変化量を求め、直交する各々の寸法比(短直径/長直径)から、以下の基準で判定した。
○:寸法比が0.7以上である。
×:寸法比が0.7未満であり、変形が大きく使用不可である。
【0060】
[シート強度の評価方法]
発泡シートを使用し、フィルムインパクトテスターBU-302(テスター産業社製)を用いて衝撃球面R12.7mmにて測定を行った。測定は発泡シートの表面、裏面、各々20回ずつ行い、全ての平均値をシート強度(kJ/m)とした。
【0061】
<実施例1(参考例)
[樹脂組成物の製造]
各試薬(スチレン系樹脂(A-1)70質量部、ポリ乳酸(B-1)30質量部)を、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社製、FM20B)にて予備混合した後、二軸押出機(東芝機械株式会社製、TEM26SS)に供給してストランドとし、水冷してからペレタイザーへ導き、ペレットを作製した。この際、シリンダー温度200℃で加熱し供給量30kg/hとした。
【0062】
[発泡シートの製造]
前記ペレット100質量部に対し、造核剤(東洋スチレン社製:「DSM1401A」)を1.0質量部添加し、第1押出機(東芝機械株式会社製、直径40mm)に投入してシリンダー温度210℃で加熱し混練溶融した。次いで、該第1押出機の途中に設けた注入口から、樹脂組成物100質量部に対して、発泡剤として二酸化炭素を2.5質量部圧入し、樹脂組成物と混合させた。そして、造核剤及び発泡剤と混練された樹脂組成物を第1押出機から第2押出機(東芝機械株式会社製、直径50mm)に供給し、ダイス出口付近の樹脂温度170℃に冷却してサーキュラーダイを用いて押出発泡させ、吐出量10kg/hにて筒状体を得た。得られた筒状体を押出方向に沿って1箇所切断して3.5m/minで引き取ることで発泡シートとした。得られた発泡シートは、共連続構造を有しており、総揮発成分量が400μg/g、厚み2.0mm、発泡倍率が10.9倍、平均気泡径が300μm、独立気泡率が80%であった。
【0063】
<実施例2から6、比較例1から7(実施例2,3,5,6は参考例)
樹脂組成物の組成、ペレットの製造条件、発泡シートの製造条件を表1のように変更した点以外は実施例1と同様にして、発泡シート製造し、評価した。結果を表1に示す。尚、比較例2は、発泡シートを押し出すことができず、発泡シートを製造することができなかった。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示すように、本発明の発泡シートを用いた実施例では、シート強度、耐熱性に優れる。