(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】水素および炭素生成物を生成するプロセス
(51)【国際特許分類】
C01B 32/16 20170101AFI20230719BHJP
C01B 3/26 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
C01B32/16
C01B3/26
(21)【出願番号】P 2020555196
(86)(22)【出願日】2019-04-04
(86)【国際出願番号】 EP2019058456
(87)【国際公開番号】W WO2019197257
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-28
(32)【優先日】2018-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】スパヌ,レオナルド
(72)【発明者】
【氏名】メステルス,カロルス・マティアス・アナ・マリア
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-513466(JP,A)
【文献】米国特許第05767165(US,A)
【文献】特開2000-281304(JP,A)
【文献】特開2011-116656(JP,A)
【文献】特表2010-516610(JP,A)
【文献】米国特許第02760847(US,A)
【文献】国際公開第2017/136205(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/030821(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/16
C01B 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.第1の反応条件下で第1の反応ゾーンにおいて天然ガスを変換して、
水素及びメタンを含む第1のガス流および第1の
固体炭素生成物を生成することと、
b.前記第1のガス流から前記第1の
固体炭素生成物の少なくとも一部を分離することと、
c.第2の反応条件下で第2の反応ゾーンにおいて前記第1のガス流の少なくとも一部を変換して、第2のガス流および第2の
固体炭素生成物を生成することと、を含
み、
第2の反応ゾーンが溶融金属及び/又は溶融塩を含み、酸素の濃度が100ppmw未満であり、かつ水の濃度が100ppmw未満である、プロセス。
【請求項2】
前記第1の反応条件が600℃を超える温度を含む、請求項
1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記第1の反応条件が700~1300℃の範囲の温度を含む、請求項
1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記第1の反応ゾーンでの前記天然ガス
の変換が、酸素および水の非存在下で実施される、請求項1~
3のいずれかに記載のプロセス。
【請求項5】
前記天然ガスがメタンを含み、前記第1の反応条件が、前記第1の反応ゾーンで変換されるメタンの量が
3~
25重量%であるように選択される、請求項1~
4のいずれかに記載のプロセス。
【請求項6】
前記第1の
固体炭素生成物がカーボンナノチューブを含む、請求項1~
5のいずれかに記載のプロセス。
【請求項7】
前記分離がサイクロンまたは電気集塵機で実施される、請求項1~
6のいずれかに記載のプロセス。
【請求項8】
前記溶融金属が、鉄、コバルト、ニッケル、スズ、ビスマス、インジウム、ガリウム、銅、鉛、モリブデン、タングステン、またはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項
1~7のいずれかに記載のプロセス。
【請求項9】
前記溶融塩が、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、またはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項
1~7のいずれかに記載のプロセス。
【請求項10】
前記第2の反応条件が600~1300℃の範囲の温度を含む、請求項1~
9のいずれかに記載のプロセス。
【請求項11】
前記第2の反応条件が、前記第2の反応ゾーンで変換されるメタンの量が
50~
100重量%であるように選択される、請求項1~
10のいずれかに記載のプロセス。
【請求項12】
前記第2のガス流が少なくとも50体積%の水素を含有する、請求項1~
11のいずれかに記載のプロセス。
【請求項13】
前記第2の
固体炭素生成物が、前記溶融金属および/または溶融塩よりも低い密度を有する、請求項1~
12のいずれかに記載のプロセス。
【請求項14】
前記溶融金属および/または溶融塩から前記第2の
固体炭素生成物を分離することをさらに含む、請求項
1~13のいずれかに記載のプロセス。
【請求項15】
a.天然ガスを、鉄、ニッケル、コバルトおよびそれらの混合物からなる群から選択される触媒と、温度が700~1200℃の範囲にある第1の反応ゾーンで接触させて、水素および未反応の天然ガスを含む第1のガス流、ならびにカーボンナノチューブを含む第1の固体炭素生成物を生成することと、
b.前記第1のガス流から前記カーボンナノチューブの少なくとも一部を気固分離装置内で分離することと、
c.鉄、コバルト、ニッケル、スズ、ビスマス、インジウム、ガリウム、銅、鉛、モリブデン、タングステンからなる群から選択される金属、またはアルカリハライドおよびアルカリ土類ハライドからなる群から選択される塩、あるいはそれらの混合物を含む
、溶融塩
および/または溶融金属
の床を含み、その温度が700~1200℃である第2の反応ゾーンに、前記未反応の天然ガスおよび水素の少なくとも一部を通過させて、水素および未反応の天然ガスを含む第2のガス流ならびに第2の固体炭素生成物を生成することと、を含
み、
酸素の濃度が100ppmw未満であり、かつ水の濃度が100ppmw未満である、水素および固体炭素を生成するプロセス。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2018年4月9日出願の米国仮特許出願第62/654,594号の優先権を主張するものであり、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、水素および炭素生成物を生成するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
水素および炭素生成物を生成するためのいくつかのプロセスが知られている。例えば、蒸気メタン改質は、天然ガスを水素に変換するプロセスである。天然ガスからのメタンおよび水が、触媒上で合成ガス(水素と一酸化炭素との混合物)に変換される。次に、一酸化炭素が水との反応によって二酸化炭素に変換され、水性ガスシフト反応を介して水素を併産する。蒸気メタン改質は、非常にエネルギー集約的なプロセスであり、水素を一酸化炭素および二酸化炭素から分離させる必要がある。この分離は、非常に困難である。さらに、二酸化炭素の環境への放出を防ぐために、生成された二酸化炭素は、隔離またはその他の方法で処理しなければならない。炭化水素から水素を生成するための他のプロセスには、石炭、コークス、石油、または天然ガスのガス化が含まれ、これらも二酸化炭素を併産する。
【0004】
困難な二酸化炭素/一酸化炭素からの分離を実行する必要なしに使用することができる水素を生成するプロセスを開発することが望ましいであろう。さらに、二酸化炭素を併産せず、困難なメタンからの水素の分離を必要としないプロセスでメタンから貴重な炭素生成物を生成することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、a)第1の反応条件下で第1の反応ゾーンにおいて天然ガスを変換して、第1のガス流および第1の炭素生成物を生成することと、b)第1のガス流から第1の炭素生成物の少なくとも一部を分離することと、c)第2の反応条件下で第2の反応ゾーンにおいて第1のガス流の少なくとも一部を変換して、第2のガス流および第2の炭素生成物を生成することと、を含むプロセスを提供する。
【0006】
本発明はさらに、水素および固体炭素を生成するためのプロセスを提供し、これは、a)天然ガスを、鉄、ニッケル、コバルト、およびそれらの混合物からなる群から選択される触媒と、温度が700~1200℃の範囲にある第1の反応ゾーンで接触させて、水素および未反応のメタンを含む第1のガス流、ならびにカーボンナノチューブを含む第1の固体炭素生成物を生成することと、b)第1のガス流からカーボンナノチューブの少なくとも一部を気固分離装置内で分離することと、c)第1のガス流からの未反応のメタンおよび水素の少なくとも一部を溶融塩/金属床を含む第2の反応ゾーンに通過させ、この溶融塩/金属床が、鉄、コバルト、ニッケル、スズ、ビスマス、インジウム、ガリウム、銅、鉛、モリブデン、タングステンからなる群から選択される金属、またはアルカリハライドおよびアルカリ土類ハライドからなる群から選択される塩、あるいはそれらの混合物を含み、第2反応ゾーンの温度が、700~1200℃であり、水素および未反応のメタンを含む第2のガス流、ならびに第2の固体炭素生成物を生成することと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、2つの別個のプロセスステップを使用して天然ガスから2つの炭素生成物を生成するためのプロセスを提供し、これらの2つのステップの統合は、独特の利点を提供する。2つの異なるステップ、触媒、およびプロセス条件については、以下でさらに説明する。
【0009】
第1のプロセスステップでは、天然ガスが第1の反応ゾーンに供給され、そこで第1のガス流と第1の炭素生成物とに変換される。
【0010】
第1の反応ゾーンへの供給物は、メタンを含み、好ましくは大部分がメタンである。さらに、供給物は、他の低炭素数炭化水素、例えば、エタンを含み得る。供給物は、天然ガス、精製ガス、またはメタンを含む他のガス流であってもよい。天然ガスは、典型的には約90%以上のメタンであり、エタン、プロパン、高級炭化水素、および二酸化炭素または窒素のような「不活性物質」も含まれる。供給物はまた、この反応ゾーンに再循環され得る第2の反応ゾーンで生成された水素を含み得る。
【0011】
供給物は、反応ゾーンで触媒と接触させられる。触媒は、遷移金属または遷移金属化合物を含む。例えば、触媒は、鉄、ニッケル、コバルト、またはそれらの混合物を含み得る。
【0012】
触媒は、担持触媒であってもよく、遷移金属は、任意の好適な担体に担持されてもよい。好適な担体には、Al2O3、MgO、SiO2、TiO2、およびZrO2が含まれる。担体は、炭素収量ならびに生成される炭素生成物の構造および形態に影響を与える可能性がある。一実施形態では、アルミナまたは酸化マグネシウムのいずれかに担持された鉄触媒が使用される。触媒は、モリブデンまたはモリブデン含有化合物でドープすることができる。
【0013】
一実施形態では、触媒は、流動床反応器で使用されるため、触媒は、流動化を促進する適切な特性を有する。
【0014】
別の実施形態では、触媒は、第1の反応ゾーンへの触媒前駆体の注入を介して第1の反応ゾーンで、インサイチュで作り出される。好適な触媒前駆体には、金属カルボニルおよびメタロセンが含まれる。
【0015】
第1の反応は、任意の好適な反応器で実施されてもよいが、第1の反応ゾーンは、好ましくは気固反応器である。反応ゾーンは、第1の炭素生成物を生成するのに好適な条件で操作される。一実施形態では、担持触媒を使用して、気固反応器は、600℃を超える、好ましくは700~1300℃、より好ましくは700~1200℃の温度を有する流動床反応器として操作される。別の実施形態では、触媒前駆体は、300~600℃の温度で第1の反応ゾーンにおいて供給物と接触して、第1の反応ゾーンの残りの部分でより高い温度、最大1300℃で供給物と反応する固体触媒を形成する。
【0016】
一実施形態では、反応は、酸素が実質的に存在しない状態で実施される。酸素が実質的に存在しないということは、反応ゾーンに検出可能な酸素が存在しないことを意味する。別の実施形態では、酸素の濃度は、100ppmw未満、好ましくは30ppmw未満、より好ましくは10ppmw未満である。
【0017】
一実施形態では、反応は、水が実質的に存在しない状態で実施される。水が実質的に存在しないということは、反応ゾーンに検出可能な水が存在しないことを意味する。別の実施形態では、水の濃度は、100ppmw未満、好ましくは30ppmw未満、より好ましくは10ppmw未満である。
【0018】
触媒およびプロセス条件は、好ましくは、3~75重量%、好ましくは3~45重量%、最も好ましくは3~15重量%の範囲のメタンの変換を提供するように選択される。この反応が比較的低い変換率で操作される場合、所望の炭素生成物への選択性は、より高い。
【0019】
第1の反応ゾーンは、好ましくは固体炭素生成物である第1の炭素生成物を生成する。炭素生成物は、好ましくはカーボンナノチューブを含む。カーボンナノチューブは、長さ対直径の比が10,000を超える、好ましくは100,000を超える、より好ましくは1,000,000を超えるナノ構造を有する炭素の同素体である。カーボンナノチューブの直径は、典型的には数ナノメートルのオーダーであり、長さは、数ミリメートルのオーダーである。カーボンナノチューブは一般に、円筒形であり、フラーレンキャップを有する。ナノチューブは、単一の壁、二重の壁、または複数の壁を有することができる。多壁ナノチューブは、チューブ形状を形成するように、それ自体の上に巻き込まれたグラフェンの複数の層を含む。単一壁ナノチューブは、欠陥が少なく、多壁ナノチューブよりも強力で導電性が高いため、一般に多くの用途に好ましい。カーボンナノチューブは、ナノスケールの電子デバイス、高強度材料、電界放出デバイス、ガス貯蔵を含む、様々な用途で使用することができる。
【0020】
カーボンナノチューブに加えて、水素、任意の未反応のメタン、メタンからの炭化水素熱分解生成物、例えば、アセチレンを含む第1のガス流が生成される。第1のガス流はまた、第1の反応ゾーンへの供給物中に存在した任意の高級炭化水素および不活性物質を含み得る。
【0021】
第1の炭素生成物および第1のガス流は、1つ以上の出口を通って反応器を出るが、一実施形態では、生成物は、共通の出口を通って流動床反応器の上部を出る。この組み合わされた生成物流は、気固分離器に送られて、炭素生成物をガス流から分離する。気固分離器は、1つ以上のサイクロンおよび/または1つ以上の静電集塵器を備えてもよい。炭素生成物は、生成物として除去され、第1のガス流の少なくとも一部が第2のプロセスゾーンに送られる。カーボンナノチューブを生成するための同様の反応を含み得る他のプロセスでは、ガス流は、未反応のメタンから水素を分離する価値が低く、困難であるため、典型的には燃料として燃焼される。
【0022】
第2のプロセスステップでは、第1のガス流の少なくとも一部が第2の反応ゾーンに供給され、そこで第2のガス流と第2の炭素生成物とに変換される。第1のステップからのガス流を供給することにより、ガス流は、ガス流が燃料として燃焼されたであろう典型的なカーボンナノチューブプロセスによって実現される値よりも大きい値で効果的に収益化することができる。
【0023】
第2の反応ゾーンに供給されるガス流は、メタンおよび水素を含む。第1の反応ゾーンおよび分離ステップからの第1のガス流に加えて、追加のメタンおよび/または水素は、それが第2の反応ゾーンに供給される前に添加されてもよい。さらに、供給物は、1つ以上の不活性ガス、例えば、窒素を含み得る。
【0024】
第2の反応ゾーンは、溶融塩もしくは溶融金属、またはそれらの混合物を含む。溶融金属は、好ましくは、鉄、コバルト、ニッケル、スズ、ビスマス、インジウム、ガリウム、銅、鉛、モリブデン、タングステン、またはそれらの混合物を含む。溶融塩は、ハロゲン化アルカリまたはハロゲン化アルカリ土類であってもよい。溶融塩は、好ましくは、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、またはそれらの混合物を含む。溶融塩/金属は、その融点より高い温度で反応ゾーンに存在する。
【0025】
好ましい溶融塩/金属は、高い熱伝導率、炭素と比較して高い密度、および長期の化学的安定性を有し得る。溶融塩/金属は、化学的に安定しており、最高約1300℃の温度で使用することができる。
【0026】
一実施形態では、固体触媒が溶融相中に分散されている。供給物は、床の底部に加えてもよく、供給物が溶融塩/金属床を通過するときに反応が実施される。
【0027】
従来技術のプロセスでは、反応器の壁に固体炭素層が堆積するため、重大な問題が見られた。固体炭素が床で形成される溶融塩/金属床の使用は、壁へのこの炭素の堆積を防ぐ。
【0028】
第2の反応は、任意の好適な反応容器で実施され得る。供給物は、反応ゾーンに注入され、溶融塩/金属床を通して泡立つ。メタンは、気泡が反応器内で上昇するにつれて、気泡の内部で分解される。気泡が表面に到達すると、水素、炭素、およびいかなる未反応のメタンも放出される。水素および未反応のメタンは、第2のガス流として除去され、固体炭素生成物は、表面に残る。いくつかの実施形態では、固体炭素生成物を溶融塩/金属床から分離するために、追加の分離ステップが必要になる場合がある。
【0029】
反応器の別の重要な特徴は、高温の塩または金属によって引き起こされる腐食に対して耐性を示す必要があることである。一実施形態では、反応器は、充填カラムであってもよい。
【0030】
反応は、600~1300℃、好ましくは700~1200℃の範囲の温度で実施される。
【0031】
当業者にとって、メタン変換は、温度、圧力、および供給組成に応じて熱力学的制約に制限されることは明らかである。触媒およびプロセス条件は、好ましくは、50重量%から熱力学的限界まで、好ましくは75重量%から熱力学的限界までの範囲のメタンの変換を提供するように選択される。メタン変換は、50重量%~100重量%、好ましくは75重量%~100重量%であってもよい。
【0032】
第2の反応ゾーンは、第2の固体炭素生成物、および水素を含む第2のガス流を生成する。第2のガス流は、少なくとも50体積%の水素、好ましくは少なくとも75体積%の水素、より好ましくは少なくとも90体積%の水素を含み得る。
【0033】
この反応ゾーンでは、二酸化炭素が形成されないため、他の反応で使用され得る前に二酸化炭素を水素から分離する必要はない。第2のガス流内の水素に加えて、いかなる未反応のメタンも、アンモニア合成を含むほとんどの下流プロセスに悪影響を与えないであろう。これは、他の水素生成プロセス、例えば、二酸化炭素を生成する水蒸気メタン改質に優る利点を提供する。
【0034】
例えば、アンモニアの生成において、二酸化炭素は、触媒毒であり、したがって、二酸化炭素を含まない水素流は、アンモニアの生成における使用に特に有益である。蒸気メタン改質プロセスからの一酸化炭素および/または二酸化炭素は、中毒、例えば、このプロセスでは不要な追加の反応ステップを必要とするであろうアンモニア合成触媒を回避するために、メタンに水素化する必要がある場合がある。
【0035】
第2の固体炭素生成物は、溶融塩/金属よりも低い密度を有するため、固体炭素生成物は、溶融塩/金属床の上部に留まり、分離をより容易にする。固体炭素生成物は、カラー顔料、繊維、ホイル、ケーブル、活性炭、またはタイヤを生成するための原料として使用することができる。さらに、固体炭素生成物を他の材料と混合して、それらの材料の機械的、熱的、および/または電気的特性を変更することができる。固体炭素生成物の最終的な炭素形態は、塩/金属、任意の固体触媒および反応条件の選択によって制御される。
【0036】
水素に加えて、ガス流は、未反応のメタンをさらに含み得る。この第2のプロセスステップでの変換率が高いため、未反応のメタンの量は少なく、それが十分に少ない場合、メタンを水素から分離するガス分離ステップは不要である。より高い純度の水素が必要な場合、第2のガス流内のメタンのレベルが比較的低いために、圧力スイング吸着プロセス(PSA)を非常に効率的に使用することができる。
【0037】
これら2つのプロセスステップを組み合わせることにより、2つの異なる固体炭素生成物を生成することができる。さらに、いくつかの異なるプロセスで使用することができる純粋な水素流を生成することができる。これら2つのプロセスステップの統合により、メタン流からの分離を必要としない、一酸化炭素/二酸化炭素不純物を含まない水素流が提供される。さらに、形成された第1の炭素生成物の一部は、非常に価値のあるカーボンナノチューブ生成物である。
【0038】
図1は、プロセスの一実施形態を示す。この実施形態では、メタンを含む供給物は、供給ライン2を介して反応器10に送られる。反応器は、触媒を含み、メタンは、メタン熱分解により水素と固体炭素生成物とに変換される。反応器は、流動床反応器であってもよい。生成物は、ライン4を介してセパレーター20に送られ、そこで気体生成物は、ライン6を介して除去され、固体生成物は、ライン16を介して除去される。気体生成物は、かなりの量の水素および未反応のメタンを含み、固体生成物は、固体炭素生成物である。いかなる同伴触媒も、任意に炭素生成物から分離され、反応器に再循環されてもよい。気体生成物は、第2の反応器30に送られ、そこで未反応のメタンの少なくとも一部が、追加の水素と追加の固体生成物とに変換される。この反応器は、好ましくは溶融塩/金属床を含む。生成物は、ライン8を介して除去され、次いでセパレーター40で分離される。気体生成物は、ライン14を介して生成物として除去され得る水素を含む。他の気体生成物および任意に水素の一部は、ライン12を介して反応器10に再循環されてもよい。固体炭素生成物は、ライン18を介して除去される。
【0039】
さらなる実施形態では、上記のプロセスは、異なる順序で統合されてもよい。この実施形態では、メタンは、溶融塩/金属床を含む第1の反応ゾーンに供給される。形成される炭素生成物は、生成物ガス流から分離され、生成物ガス流は、流動床触媒を含む第2の反応ゾーンに供給され、そこで第2の生成物ガス流に加えて、第2の炭素生成物が形成される。
本明細書は以下の発明の態様を包含する。
[項目1] a.第1の反応条件下で第1の反応ゾーンにおいて天然ガスを変換して、第1のガス流および第1の炭素生成物を生成することと、
b.前記第1のガス流から前記第1の炭素生成物の少なくとも一部を分離することと、
c.第2の反応条件下で第2の反応ゾーンにおいて前記第1のガス流の少なくとも一部を変換して、第2のガス流および第2の炭素生成物を生成することと、を含むプロセス。
[項目2] 前記第1の反応ゾーンが流動床反応器である、項目1に記載のプロセス。
[項目3] 前記第1の反応ゾーンが担持触媒を含有する、項目1または2に記載のプロセス。
[項目4] 前記第1の反応ゾーンが、遷移金属または遷移金属化合物を含む触媒を含有する、項目1~3のいずれかに記載のプロセス。
[項目5] 前記遷移金属化合物が鉄、ニッケルまたはコバルトである、項目4に記載のプロセス。
[項目6] 前記第1の反応条件が600℃を超える温度を含む、項目1~5のいずれかに記載のプロセス。
[項目7] 前記第1の反応条件が700~1300℃の範囲の温度を含む、項目1~6のいずれかに記載のプロセス。
[項目8] 前記第1の反応ゾーンでの前記天然ガス変換が、酸素および水の非存在下で実施される、項目1~7のいずれかに記載のプロセス。
[項目9] 前記天然ガスがメタンを含み、前記第1の反応条件が、前記第1の反応ゾーンで変換されるメタンの量が約3~約25重量%であるように選択される、項目1~8のいずれかに記載のプロセス。
[項目10] 前記第1のガス流が水素およびメタンを含む、項目1~9のいずれかに記載のプロセス。
[項目11] 前記第1の炭素生成物がカーボンナノチューブを含む、項目1~10のいずれかに記載のプロセス。
[項目12] 前記分離がサイクロンまたは電気集塵機で実施される、項目1~11のいずれかに記載のプロセス。
[項目13] 前記第2の反応ゾーンが溶融金属および/または溶融塩を含む、項目1~12のいずれかに記載のプロセス。
[項目14] 前記溶融金属が、鉄、コバルト、ニッケル、スズ、ビスマス、インジウム、ガリウム、銅、鉛、モリブデン、タングステン、またはそれらの混合物からなる群から選択される、項目13に記載のプロセス。
[項目15] 前記溶融塩が、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、またはそれらの混合物からなる群から選択される、項目13に記載のプロセス。
[項目16] 前記第2の反応条件が600~1300℃の範囲の温度を含む、項目1~15のいずれかに記載のプロセス。
[項目17] 前記第2の反応条件が、前記第2の反応ゾーンで変換されるメタンの量が約50~約100重量%であるように選択される、項目1~16のいずれかに記載のプロセス。
[項目18] 前記第2のガス流が少なくとも50体積%の水素を含有する、項目1~17のいずれかに記載のプロセス。
[項目19] 前記第2の炭素生成物が、前記溶融金属および/または溶融塩よりも低い密度を有する、項目1~18のいずれかに記載のプロセス。
[項目20] 前記溶融金属および/または溶融塩から前記第2の炭素生成物を分離することをさらに含む、項目13~19のいずれかに記載のプロセス。
[項目21] a.天然ガスを、鉄、ニッケル、コバルトおよびそれらの混合物からなる群から選択される触媒と、温度が700~1200℃の範囲にある第1の反応ゾーンで接触させて、水素および未反応の天然ガスを含む第1のガス流、ならびにカーボンナノチューブを含む第1の固体炭素生成物を生成することと、
b.前記第1のガス流から前記カーボンナノチューブの少なくとも一部を気固分離装置内で分離することと、
c.鉄、コバルト、ニッケル、スズ、ビスマス、インジウム、ガリウム、銅、鉛、モリブデン、タングステンからなる群から選択される金属、またはアルカリハライドおよびアルカリ土類ハライドからなる群から選択される塩、あるいはそれらの混合物を含む溶融塩/金属床を含み、その温度が700~1200℃である第2の反応ゾーンに、前記未反応の天然ガスおよび水素の少なくとも一部を通過させて、水素および未反応の天然ガスを含む第2のガス流ならびに第2の固体炭素生成物を生成することと、を含む、水素および固体炭素を生成するプロセス。