(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】湿式クラッチシステム用潤滑油
(51)【国際特許分類】
C10M 171/00 20060101AFI20230719BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20230719BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20230719BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20230719BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20230719BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20230719BHJP
【FI】
C10M171/00
C10N10:04
C10N40:04
C10N40:08
C10N40:25
C10N30:06
(21)【出願番号】P 2020564689
(86)(22)【出願日】2019-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2019018463
(87)【国際公開番号】W WO2019220988
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-04-18
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391050525
【氏名又は名称】シェブロンジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 浩一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 佳尚
(72)【発明者】
【氏名】青山 恭輔
(72)【発明者】
【氏名】宮本 剛
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-328265(JP,A)
【文献】特開2008-024938(JP,A)
【文献】特表2014-517106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分:
(a)潤滑粘度の主要量の油、
(b)カルシウム含有清浄剤、
(c)マグネシウム含有清浄剤に由来する少なくとも800ppmのMg、
(d)窒素含有分散剤に由来する600ppm未満のN
を含み、
リン含有量が0.06wt.%~0.15wt.%であり、イオウ含有量が0.5wt.%未満であり、かつ、硫酸灰分含有量が0.8wt.%超~2.0wt.%であり、
Ca対Mgの質量比が1:2~4:1であり、かつ
車両の内燃機関のクランクケースと、湿式クラッチ、ブレーキ、トルクコンバーター、歯車システム、静油圧変速機および油圧システムの少なくとも1つとを潤滑する、潤滑油組成物。
【請求項2】
前記カルシウム含有清浄剤に由来するカルシウムが、少なくとも潤滑油組成物の1000ppm存在する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
潤滑油組成物の全塩基価(TBN)が8mgKOH/g~16mgKOH/gである、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
ASTM D874に従い特定される硫酸灰分が
、0.80wt.%
~1.60wt.%である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記車両が、産業機械、自動車、トラックまたは他の車両である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記産業機械が、輸送機械、建設機械または農業機械である、請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記車両が自動変速機または無段変速機を備える、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
摩擦を車両において維持するための方法であって、
下記成分:
(a)潤滑粘度の主要量の油、
(b)カルシウム含有清浄剤、
(c)マグネシウム含有清浄剤に由来する少なくとも800ppmのMg、
(d)窒素含有分散剤に由来する600ppm未満のN
を含む潤滑油組成物により前記車両を潤滑することを含み、
前記潤滑油組成物のリン含有量が0.06wt.%~0.15wt.%であり、イオウ含有量が0.5wt.%未満であり、かつ、硫酸灰分含有量が0.8wt.%超~2.0wt.%であり、
Ca対Mgの質量比が1:2~4:1であり、かつ
前記潤滑油組成物が、前記車両の内燃機関のクランクケースと、湿式クラッチ、ブレーキ、トルクコンバーター、歯車システム、静油圧変速機および油圧システムの少なくとも1つとを潤滑する、上記方法。
【請求項9】
前記カルシウム含有清浄剤に由来するカルシウムが、潤滑油組成物の少なくとも1000ppm存在する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記車両が、産業機械、自動車、トラックまたは他の車両である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記産業機械が、輸送機械、建設機械または農業機械である、請求項10に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
前記車両が自動変速機または無段変速機を備える、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般には、産業機械のために、とりわけ、輸送機械、建設機械および農業機械のために有用である潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機油と呼ばれる自動変速機用潤滑油が、自動車、トラック、建設機械および他の車両に搭載される自動変速機の円滑な作動を助けるために従来から使用されている。自動変速機は、トルクコンバーター、歯車機構、湿式クラッチおよび油圧システムを含む。
【0003】
潤滑剤用添加剤が湿式クラッチおよび鋼板の摩擦特性に影響を与えることが広く知られている。相加的効果が、クラッチ材料、例えば、セルロース、アラミド(天然および合成)繊維、シリカおよび鋼板表面における添加剤の物理的吸収および化学的吸収の両方によって引き起こされる。
【0004】
様々なディーゼルエンジン油が内燃機関のために広く使用されており、アジアにおいて、とりわけ日本では、自動車用の重負荷のディーゼルエンジンシステムのためだけではなく、建設機械のディーゼルエンジンシステムのためにも広く使用されている。一部の建設機械には、湿式クラッチシステムが変速機においてだけではなく、ステアリング、駐車ブレーキ、ならびに移動トルクおよび動力作動トルクを制御するための多くのシステムにおいても装備される。潤滑液中のクラッチ材料と鋼との間における湿式クラッチの(静)摩擦が、エンジン出力を効率的に伝えるために非常に重要である。加えて、湿式クラッチの静摩擦係数は湿式クラッチのトルク容量に依存する。様々なエンジン油が、建設機械における変速機システムおよび油圧システム、ならびにそれらの湿式クラッチシステムのために広く使用されている。安全な作動をもたらすために湿式クラッチのより大きい(静)摩擦係数を維持すること、そして同様に、動力を建設機械のために効率的に伝えることが重要である。潤滑剤が不良な摩擦性能をもたらすならば、動力損失、機械を運転しているときに安全に対する負の影響を与えることがある機械作動の遅い応答、または変速機における湿式クラッチのロックアップからの大きい雑音を伴う不快な振動が発生することになるであろう。
【0005】
本発明は、建設機器においてだけではなく、変速機および湿式クラッチを備えるモーターサイクル潤滑剤においても重要である湿式クラッチのより大きい静摩擦係数を維持するための解決策を見出す。
【発明の概要】
【0006】
本発明の1つの実施形態によれば、下記成分:
(a)潤滑粘度の主要量の油、
(b)カルシウム含有清浄剤、
(c)マグネシウム含有清浄剤に由来する少なくとも800ppmのMg、
(d)窒素含有分散剤に由来する600ppm未満のN
を含み、
リン含有量が0.06wt.%~0.15wt.%であり、イオウ含有量が0.5wt.%未満であり、かつ、硫酸灰分含有量が0.8wt.%超~2.0wt.%であり、
Ca対Mgの質量比が1:2~4:1であり、かつ
車両の内燃機関のクランクケースと、湿式クラッチ、ブレーキ、トルクコンバーター、歯車システム、静油圧変速機および油圧システムの少なくとも1つとを潤滑する、潤滑油組成物
が提供される。
【0007】
本発明の別の実施形態によれば、摩擦を車両において維持するための方法であって、
下記成分:
(a)潤滑粘度の主要量の油、
(b)カルシウム含有清浄剤、
(c)マグネシウム含有清浄剤に由来する少なくとも800ppmのMg、
(d)窒素含有分散剤に由来する600ppm未満のN
を含む潤滑油組成物により前記車両を潤滑することを含み、
前記潤滑油組成物のリン含有量が0.06wt.%~0.15wt.%であり、イオウ含有量が0.5wt.%未満であり、かつ、硫酸灰分含有量が0.8wt.%超~2.0wt.%であり、
Ca対Mgの質量比が1:2~4:1であり、かつ
前記潤滑油組成物が、前記車両の内燃機関のクランクケースと、湿式クラッチ、ブレーキ、トルクコンバーター、歯車システム、静油圧変速機および油圧システムの少なくとも1つとを潤滑する、方法が提供される。
なお、下記[1]から[12]は、いずれも本発明の一形態又は一態様である。
[1]
下記成分:
(a)潤滑粘度の主要量の油、
(b)カルシウム含有清浄剤、
(c)マグネシウム含有清浄剤に由来する少なくとも800ppmのMg、
(d)窒素含有分散剤に由来する600ppm未満のN
を含み、
リン含有量が0.06wt.%~0.15wt.%であり、イオウ含有量が0.5wt.%未満であり、かつ、硫酸灰分含有量が0.8wt.%超~2.0wt.%であり、
Ca対Mgの質量比が1:2~4:1であり、かつ
車両の内燃機関のクランクケースと、湿式クラッチ、ブレーキ、トルクコンバーター、歯車システム、静油圧変速機および油圧システムの少なくとも1つとを潤滑する、潤滑油組成物。
[2]
前記カルシウム含有清浄剤に由来するカルシウムが、少なくとも潤滑油組成物の1000ppm存在する、[1]に記載の潤滑油組成物。
[3]
潤滑油組成物の全塩基価(TBN)が8mgKOH/g~16mgKOH/gである、[1]に記載の潤滑油組成物。
[4]
ASTM D874に従い特定される硫酸灰分が、約0.80wt.%~約1.60wt.%である、[1]に記載の潤滑油組成物。
[5]
前記車両が、産業機械、自動車、トラックまたは他の車両である、[1]に記載の潤滑油組成物。
[6]
前記産業機械が、輸送機械、建設機械または農業機械である、[5]に記載の潤滑油組成物。
[7]
前記車両が自動変速機または無段変速機を備える、[1]に記載の潤滑油組成物。
[8]
摩擦を車両において維持するための方法であって、
下記成分:
(a)潤滑粘度の主要量の油、
(b)カルシウム含有清浄剤、
(c)マグネシウム含有清浄剤に由来する少なくとも800ppmのMg、
(d)窒素含有分散剤に由来する600ppm未満のN
を含む潤滑油組成物により前記車両を潤滑することを含み、
前記潤滑油組成物のリン含有量が0.06wt.%~0.15wt.%であり、イオウ含有量が0.5wt.%未満であり、かつ、硫酸灰分含有量が0.8wt.%超~2.0wt.%であり、
Ca対Mgの質量比が1:2~4:1であり、かつ
前記潤滑油組成物が、前記車両の内燃機関のクランクケースと、湿式クラッチ、ブレーキ、トルクコンバーター、歯車システム、静油圧変速機および油圧システムの少なくとも1つとを潤滑する、上記方法。
[9]
前記カルシウム含有清浄剤に由来するカルシウムが、潤滑油組成物の少なくとも1000ppm存在する、[8]に記載の方法。
[10]
前記車両が、産業機械、自動車、トラックまたは他の車両である、[8]に記載の方法。
[11]
前記産業機械が、輸送機械、建設機械または農業機械である、[10]に記載の潤滑油組成物。
[12]
前記車両が自動変速機または無段変速機を備える、[8]に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書中に開示される主題の理解を容易にするために、本明細書中で使用されるようないくつかの用語、略語または他の省略表現が下記において定義される。定義されていない用語、略語または省略表現はどれも、本出願を提出した当時の当業者によって使用される通常の意味を有することが理解される。
【0009】
定義
本明細書において、下記の語句および表現は、使用されるならば、また、使用されたときには、下記において示される意味を有する。
【0010】
「主要量」は、組成物の50重量%を超えていることを意味する。
【0011】
「少量」は、組成物の50重量%未満であることを意味し、ただし、これは、添加剤(1つまたは複数)の有効成分として見なされる場合、明記された添加剤に関して、また、組成物に存在するすべての添加剤の総質量に関して表される。
【0012】
「有効成分」または「活性物質」は、希釈剤または溶媒ではない添加剤材料を示す。
【0013】
報告されるすべての百分率が、別途明記される場合を除き、有効成分に基づく(すなわち、キャリアまたは希釈油を無視した)重量%である。
【0014】
略語「ppm」は、潤滑油組成物の総重量に基づく重量比での百万分率を意味する。
【0015】
150℃における高温高せん断(HTHS)粘度を、ASTM D4683に従って求めた。
【0016】
100℃における動粘性率(KV100)を、ASTM D445に従って求めた。
【0017】
金属-用語「金属」は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらの混合物を示す。
【0018】
本明細書および請求項を通して、油溶性または油分散性の表現が使用される。油溶性または油分散性によって、所望のレベルの活性または性能を提供するために必要とされる量が、潤滑粘度の油に溶解されることによって、分散されることによって、または懸濁されることによって組み込まれることが可能であることを意味する。通常、これは、少なくとも約0.001重量%の材料が潤滑油組成物に組み込まれることが可能であることを意味する。油溶性および油分散性の用語、特に用語「安定的分散性」のさらなる議論については、米国特許第4,320,019号を参照のこと(これは特に、この点での関連する教示について参照によって本明細書中に組み込まれる)。
【0019】
用語「硫酸灰分」は、本明細書中で使用される場合、潤滑油における清浄剤および金属添加剤から生じる不燃性残留物を示す。硫酸灰分が、ASTM試験D874を使用して求められる場合がある。
【0020】
用語「全塩基価」または用語「TBN」は、本明細書中で使用される場合、KOHのミリグラム数に相当する1グラムのサンプルにおける塩基の量を示す。このように、TBN数がより大きいことは、よりアルカリ性の製造物を反映しており、したがって、アルカリ度がより大きいことを反映する。TBNを、ASTM D2896試験を使用して求めた。
【0021】
ホウ素、カルシウム、マグネシウム、モリブデン、リン、イオウおよび亜鉛の含有量を、ASTM D5185に従って求めた。
【0022】
窒素含有量を、ASTM D4629に従って求めた。
【0023】
本明細書中において言及されるすべてのASTM基準は本出願の出願日時点における最新版である。
【0024】
別途指定される場合を除き、すべての百分率が重量パーセントにおいてである。
【0025】
本開示では様々な改変および代替形態が可能であるが、それらの具体的な実施形態が本明細書中において詳しく記載される。しかしながら、具体的な実施形態の本明細書中における説明は、本開示を開示された特定の形態に限定するために意図されるものではなく、それどころか、本発明は、添付された請求項によって規定されるような本開示の精神および範囲に含まれるすべての改変、等価物および代替物を包含することになることを理解しなければならない。
【0026】
一般的説明または例において記載される活性の必ずしもすべてが要求されるわけではないこと、具体的な活性の一部が要求されない場合があること、また、1つまたは複数のさらなる活性が、開示される活性に加えて成し遂げられる場合があることには留意されたい。なおもさらに、活性が列挙される順序は必ずしも、それらが成し遂げられる順序ではない。
【0027】
様々な利点、他の長所、および問題に対する解決策が、具体的な実施形態に関して本明細書中に記載されている。しかしながら、これらの利点、長所、問題に対する解決策、そして、どのような特徴であれ、利点、長所または解決策をどのようなものであれ生じさせ得る、またはより顕著にさせ得る特徴(1つまたは複数)は、いずれかまたはすべての請求項の重要な特徴、要求される特徴、または不可欠な特徴であるとして解釈してはならない。
【0028】
本明細書中に記載される実施形態の明確化および例示は、これらの様々な実施形態の構造の一般的理解を提供するために意図される。
【0029】
本明細書中で使用される場合、用語“comprises”(含む)、用語“comprising”(含む)、用語“includes”(含む)、用語“including”(含む)、用語“has”(有する)、用語“having”(有する)、またはそれらのあらゆる他の変化形は、非排他的に含むことを包含するために意図される。例えば、列挙された一連の特徴を含むプロセス、方法、物品または装置は、必ずしもそのような特徴にだけ限定されるのではなく、明示的に列挙されていない他の特徴、あるいはそのようなプロセス、方法、物品または装置に固有的である他の特徴を含む場合がある。さらに、反することが明示的に述べられる場合を除き、“or”(または、もしくは、あるいは)は非排他的なorを示し、排他的なorを示さない。例えば、条件Aまたは条件Bは下記のいずれか1つによって満たされる:Aが真であり(または存在し)、Bが偽である(または存在しない)こと、Aが偽であり(または存在せず)、Bが真である(または存在する)こと、および、AとBとの両方が真である(または存在する)こと。
【0030】
“a”または“an”の使用は、本明細書中に記載される要素および成分を記載するために用いられる。これは単に便宜的になされるだけであり、本開示の実施形態の範囲の一般的な意味を与えるために行われる。この記載は、反することが意味されることが明確である場合を除き、1つまたは少なくとも1つを含むように読み取られなければならず、単数形は、複数であることもまた含み、逆に、複数形は、1つであることもまた含む。用語「平均化された」は、値を示すときには、平均、幾何平均、または中央値を意味することが意図される。元素周期表における縦列に対応する族番号は、CRC Handbook of Chemistry and Physics、第81版(2000-2001)において見られるような「新しい表記法」の規則が使用される。
【0031】
別途定義される場合を除き、本明細書中で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。材料、方法および例は例示に過ぎず、限定的であることは意図されない。本明細書中に記載されない限り、具体的な材料および処理行為に関する多くの詳細は従来のものであり、潤滑剤、同様にまた、石油産業およびガス産業における教本および他の情報源において見出される場合がある。
【0032】
明細書および例示は、本明細書中に記載される構造または方法が使用される配合物、組成物、装置およびシステムの要素および特徴のすべてを網羅的かつ包括的に記載するものとして役立つようには意図されていない。別個の様々な実施形態がまた、ただ1つの実施形態において組合わせで提供される場合がある。逆に、簡略のために、ただ1つの実施形態に関連して記載される様々な特徴がまた、別々に、またはどのような部分的組合わせであっても提供される場合がある。さらに、範囲で述べられる値に対する言及は、その範囲に含まれるありとあらゆる値を含む。多くの他の実施形態が、本明細書を読んで理解した後でのみ、当業者には明らかになり得る。他の実施形態が本開示から使用される場合があり、また、導かれる場合があり、その結果、構造的置換、論理的置換、または別の変更が、本開示の範囲から逸脱することなく行われ得るようになる。したがって、本開示は、限定的ではなく、むしろ例示的であると見なされるものとする。
【0033】
本発明の1つの実施形態によれば、下記成分:
(a)潤滑粘度の主要量の油、
(b)カルシウム含有清浄剤、
(c)マグネシウム含有清浄剤に由来する少なくとも800ppmのMg、
(d)窒素含有分散剤に由来する600ppm未満のN
を含み、
リン含有量が0.06wt.%~0.15wt.%であり、イオウ含有量が0.5wt.%未満であり、かつ、硫酸灰分含有量が0.8wt.%超~2.0wt.%であり、
Ca対Mgの質量比が1:2~4:1であり、かつ
車両の内燃機関のクランクケースと、湿式クラッチ、ブレーキ、トルクコンバーター、歯車システム、静油圧変速機および油圧システムの少なくとも1つとを潤滑する、潤滑油組成物
が提供される。
【0034】
本発明の1つの実施形態において、車両は、産業機械、自動車、トラックまたは他の車両である。別の実施形態において、産業機械は、輸送機械、建設機械または農業機械である。
【0035】
1つの実施形態において、輸送機械は、ディーゼルエンジンおよび油圧システムを備えるバスまたはトラックである。
【0036】
1つの実施形態において、建設機械は、ディーゼルエンジン、静油圧変速機(HST)、湿式クラッチを伴うパワーシフト変速装置、および油圧システムを備える。
【0037】
1つの実施形態において、農業機械は、ディーゼルエンジン、静油圧変速機(HST)、湿式クラッチを伴うパワーシフト変速装置、および油圧システムを備える。
【0038】
別の実施形態において、車両は、自動変速機または無段変速機を備える。
【0039】
別の実施形態において、摩擦を車両において維持するための方法であって、
下記成分:
(a)潤滑粘度の主要量の油、
(b)カルシウム含有清浄剤、
(c)マグネシウム含有清浄剤に由来する少なくとも800ppmのMg、
(d)窒素含有分散剤に由来する600ppm未満のN
を含む潤滑油組成物により前記車両を潤滑することを含み、
前記潤滑油組成物のリン含有量が0.06wt.%~0.15wt.%であり、イオウ含有量が0.5wt.%未満であり、かつ、硫酸灰分含有量が0.8wt.%超~2.0wt.%であり、
Ca対Mgの質量比が1:2~4:1であり、かつ
前記潤滑油組成物が、前記車両の内燃機関のクランクケースと、湿式クラッチ、ブレーキ、トルクコンバーター、歯車システム、静油圧変速機および油圧システムの少なくとも1つとを潤滑する、方法が提供される。
【0040】
潤滑粘度の油/基油成分
潤滑粘度の油(これはときには(「ベースストック」または「基油」と呼ばれる)が潤滑剤の主要な液状構成成分であり、これに、添加剤および場合によっては他の油が、例えば、最終的な潤滑剤(または潤滑剤組成物)を製造するためにブレンドされる。基油は、様々な高濃度物を作製するために、同様にまた、潤滑油組成物をそのような高濃度物から作製するために有用であり、天然潤滑油および合成潤滑油ならびにそれらの組合わせから選択される場合がある。
【0041】
天然油には、動物油および植物油、流動パラフィン油、ならびに、パラフィン系タイプ、ナフテン系タイプ、およびパラフィン系・ナフテン系の混合タイプの水素化精製され、溶媒処理された鉱物系潤滑油が含まれる。石炭またはシェールに由来する潤滑粘度の油もまた、有用な基油である。
【0042】
合成潤滑油には、炭化水素油、例えば、重合オレフィンおよび共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン)など;アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン類、テトラデシルベンゼン類、ジノニルベンゼン類、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン類;ポリフェノール(例えば、ビフェニル系、テルフェニル系、アルキル化ポリフェノール);ならびにアルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィド、そしてそれらの誘導体、類似体および同族体が含まれる。
【0043】
合成潤滑油の別の好適なクラスには、ジカルボン酸(例えば、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸、コハク酸、アルキルコハク酸およびアルケニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、アジピン酸、リノール酸二量体、フタル酸)と、様々なアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)とのエステルを含む。これらのエステルの具体的な例には、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、ならびに1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコールおよび2モルの2-エチルヘキサン酸と反応させることによって形成される複合エステルが含まれる。
【0044】
合成油として有用なエステルにはまた、C5~C12のモノカルボン酸と、ポリオールおよびポリオールエーテル(例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールおよびトリペンタエリトリトールなど)とから作製されるエステルが含まれる。
【0045】
基油はフィッシャー・トロプシュ合成の炭化水素に由来する場合がある。フィッシャー・トロプシュ合成の炭化水素は、H2およびCOを含有する合成ガスから、フィッシャー・トロプシュ触媒を使用して作製される。そのような炭化水素は典型的には、基油として有用であるためのさらなる処理を必要とする。例えば、これらの炭化水素は、水素異性化、水素化分解および水素異性化、脱ろう、または水素異性化および脱ろうが、当業者に知られているプロセスを使用して行われる場合がある。
【0046】
未精製油、精製油および再精製油を本発明の潤滑油組成物において使用することができる。未精製油は、さらなる精製処理を行うことなく天然または合成の供給源から直接的に得られる油である。例えば、レトルト操作から直接的に得られるシェール油、蒸留から直接的に得られる石油、またはエステル化プロセスから直接的に得られ、さらに処理することなく使用されるエステル油が、未精製油であるであろう。精製油は、1つまたは複数の特性を改善するために1つまたは複数の精製工程でさらに処理されていることを除いて、未精製油と類似している。多くのそのような精製技術が、例えば、蒸留、溶媒抽出、酸抽出または塩基抽出、ろ過およびパーコレーションなどが当業者には知られている。再精製油は、すでに使用された精製油に適用される、精製油を得るために使用されるプロセスと類似するプロセスによって得られる。そのような再精製油は、再生油または再処理油としてもまた知られており、使用済み添加剤および油分解産物の承認のための様々な技術によってさらに処理されることが多い。
【0047】
したがって、本発明の潤滑油組成物を作製するために使用され得る基油が、米国石油協会(API)の基油互換性ガイドライン(API刊行物1509)において指定されるようなグループI~グループVにおける基油のどれからでも選択され得る。そのような基油グループは下記において表1に要約される。
【表1】
【0048】
本明細書中における使用のために好適である基油は、APIグループI、グループII、グループIII、グループIVおよびグループVの油ならびにそれらの組合わせに対応する種類のいずれかである。
【0049】
基油は本発明の潤滑油組成物の主成分を構成しており、50wt.%超~99wt.%(例えば、70wt.%~95wt.%、または85wt.%~95wt.%)の範囲での量で存在する。
【0050】
一般に、本発明の潤滑油組成物におけるイオウのレベルが潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.7wt.%以下である:例えば、約0.01wt.%~約0.70wt.%、0.01wt.%~0.6wt.%、0.01wt.%~0.5wt.%、0.01wt.%~0.4wt.%、0.01wt.%~0.3wt.%、0.01wt.%~0.2wt.%、0.01wt.%~0.10wt.%のイオウのレベル。1つの実施形態において、本発明の潤滑油組成物におけるイオウのレベルが、潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.60wt.%以下、約0.50wt.%以下、約0.40wt.%以下、約0.35wt.%以下、約0.34wt.%以下、約0.33wt.%以下、約0.32wt.%以下、約0.31wt.%以下、約0.30wt.%以下である。
【0051】
1つの実施形態において、本発明の潤滑油組成物におけるリンのレベルが潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.15wt.%以下である。1つの実施形態において、本発明の潤滑油組成物におけるリンのレベルが約0.06wt.%~約0.15wt.%である。1つの実施形態において、本発明の潤滑油組成物におけるリンのレベルが潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.14wt.%以下である:例えば、約0.06wt.%~約0.14wt.%のリンのレベル。1つの実施形態において、本発明の潤滑油組成物におけるリンのレベルが潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.13wt.%以下である:例えば、約0.06wt.%~約0.13wt.%のリンのレベル。1つの実施形態において、本発明の潤滑油組成物におけるリンのレベルが潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.12wt.%以下である:例えば、約0.06wt.%~約0.12wt.%のリンのレベル。
【0052】
1つの実施形態において、本発明の潤滑油組成物によって生じる硫酸灰分のレベルが、ASTM D874によって求められる場合、約1.60wt.%以下である:例えば、ASTM D874によって求められる場合、約0.80wt.%~約1.60wt.%の硫酸灰分のレベル。1つの実施形態において、本発明の潤滑油組成物によって生じる硫酸灰分のレベルが、ASTM D874によって求められる場合、約1.50wt.%以下である:例えば、ASTM D874によって求められる場合、約0.80wt.%~約1.50wt.%の硫酸灰分のレベル。1つの実施形態において、本発明の潤滑油組成物によって生じる硫酸灰分のレベルが、ASTM D874によって求められる場合、約1.40wt.%以下である:例えば、ASTM D874によって求められる場合、約0.80wt.%~約1.40wt.%の硫酸灰分のレベル。
【0053】
好適には、本発明の潤滑油組成物は、全塩基価(TBN)が8mgKOH/g~16mgKOH/gである場合がある。いくつかの実施形態において、潤滑油組成物は、全塩基価(TBN)が、10mgKOH/g~16mgKOH/g、10mgKOH/g~14mgKOH/g、10mgKOH/g~13mgKOH/g、または10mgKOH/g~12mgKOH/gである場合がある。
【0054】
いくつかの実施形態において、例えば、油の望ましい等級が、0W-30、0W-40、5W-30、10W-30、10W-40、10W-50、15W-30、15W-40、20W-50、30、40などのSAE粘度グレードのものである。
【0055】
清浄剤混合物
清浄剤混合物は、少なくとも1つのカルシウム含有清浄剤と、少なくとも1つのマグネシウム含有清浄剤とを含む。
【0056】
典型的な清浄剤は、分子の長鎖疎水性部分と、分子のより小さいアニオン性または撥油性の親水性部分とを含有するアニオン性物質である。清浄剤のアニオン性部分は典型的には、有機酸、例えば、イオウ酸、カルボン酸、亜リン酸、フェノール、またはそれらの混合物などに由来する。対イオンは典型的には、アルカリ土類金属またはアルカリ金属である。
【0057】
実質的に化学量論的量の金属を含有する塩は中性塩として記載され、全塩基価(TBN)が0~80mgKOH/gである。多くの組成物は、酸性ガス(例えば、二酸化炭素)に富む過剰の金属化合物(例えば、金属水酸化物または金属酸化物)を反応することによって達成される多量の金属塩基を含有するので、過塩基性(overbased)である。有用な清浄剤は、中性、軽度過塩基性、または高過塩基性であることが可能である。
【0058】
清浄剤混合物において使用される少なくともいくつかの清浄剤は過塩基性であることが望ましい。過塩基性清浄剤は、燃焼過程によって生じる酸性不純物を中和し、油に閉じ込めることを助ける。典型的には、過塩基性材料は、清浄剤の金属イオン対アニオン性部分の比率が当量基準で1.05:1~50:1(例えば、4:1~25:1)である。得られる清浄剤は、TBNが典型的には150mgKOH/g以上(例えば、250mgKOH/g~450mgKOH/g以上)であろう過塩基性清浄剤である。TBNが異なる清浄剤の混合物を使用することができる。
【0059】
いくつかの実施形態において、過塩基性清浄剤は低過塩基性である場合があり、例えば、TBNが活性物質基準で100未満である過塩基性塩である場合がある。1つの実施形態において、低過塩基性塩のTBNは約30~約100である場合がある。別の実施形態において、低過塩基性塩のTBNは約30~約80である場合がある。いくつかの実施形態において、過塩基性清浄剤は中程度過塩基性(medium overbased)である場合があり、例えば、TBNが約100~約250である過塩基性塩である場合がある。1つの実施形態において、中程度過塩基性塩のTBNは約100~約200である場合がある。別の実施形態において、中程度過塩基性塩のTBNは約125~約175である場合がある。いくつかの実施形態において、過塩基性清浄剤は高過塩基性である場合があり、例えば、TBNが250を超える過塩基性の塩である場合がある。1つの実施形態において、高過塩基性塩のTBNは活性物質基準で約250~約800である場合がある。
【0060】
好適な清浄剤には、スルホネート、フェネート、カルボキシレート、ホスフェートおよびサリチレートの金属塩が含まれる。
【0061】
スルホネートが、アルキル置換芳香族炭化水素(例えば、石油の分画化から得られる、または芳香族炭化水素のアルキル化によって得られるアルキル置換芳香族炭化水素など)をスルホン化することによって典型的には得られるスルホン酸から調製される場合がある。例には、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、ジフェニルまたはそれらのハロゲン誘導体をアルキル化することによって得られるものが含まれた。このアルキル化が、約3個~70個超の炭素原子を有するアルキル化剤を用いて触媒の存在下で行われる場合がある。アルカリールスルホネートは通常、アルキル置換芳香族部分あたり約9個~80個以上の炭素原子(例えば、約16個~60個の炭素原子)を含有する。
【0062】
フェネートを、アルカリ土類金属の水酸化物または酸化物(例えば、CaO、Ca(OH)2、MgOまたはMg(OH)2)をアルキルフェノールまたは硫化アルキルフェノールと反応させることによって調製することができる。有用なアルキル基には、直鎖もしくは分岐鎖のC1~C30(例えば、C4~C20)のアルキル基、またはそれらの混合が含まれる。好適なフェノールの例には、イソブチルフェノール、2-エチルヘキシルフェノール、ノニルフェノールおよびドデシルフェノールなどが含まれる。出発アルキルフェノールは、それぞれが独立して直鎖または分岐鎖である2つ以上のアルキル置換基を含有し得ることには留意しなければならない。非硫化アルキルフェノールが使用されるときには、硫化生成物が、この技術分野において広く知られている方法によって得られる場合がある。これらの方法には、アルキルフェノールと硫化剤(例えば、元素状イオウ、ハロゲン化イオウ(例えば、二塩化イオウなど)など)との混合物を加熱し、その後、硫化フェノールをアルカリ土類金属塩基と反応させることが含まれる。
【0063】
サリチレートが、塩基性金属化合物を少なくとも1つのカルボン酸と反応させ、水を反応生成物から除くことによって調製される場合がある。サリチル酸から作製される清浄剤が、カルボン酸から調製される清浄剤の1つの部類である。有用なサリチレートには、長鎖アルキルサリチレートが含まれる。
【0064】
ヒドロカルビル置換サリチル酸がコルベ反応によって様々なフェノールから調製される場合がある(米国特許第3,595,791号を参照のこと)。ヒドロカルビル置換サリチル酸の金属塩が、極性溶媒(例えば、水またはアルコールなど)における金属塩の複分解によって調製される場合がある。
【0065】
アルカリ土類金属ホスフェートもまた清浄剤として使用され、この技術分野では知られている。
【0066】
好ましいカルシウム含有清浄剤には、カルシウムスルホネート、カルシウムフェネートおよびカルシウムサリチレート、とりわけ、カルシウムスルホネート、カルシウムサリチレート、ならびにそれらの混合物が含まれる。
【0067】
カルシウム清浄剤
1つの実施形態において、カルシウム含有清浄剤には、カルシウムスルホネート、カルシウムフェネートおよびカルシウムサリチレートが含まれる。
【0068】
カルシウム含有清浄剤は、重量比で少なくとも1000ppm、少なくとも1050ppm、少なくとも1100ppm、少なくとも1150ppm、少なくとも1200ppm、少なくとも1250ppm、少なくとも1300ppm、少なくとも1350ppm、少なくとも1400ppm、少なくとも1450ppm、少なくとも1500ppm、少なくとも1550ppm、少なくとも1600ppm、少なくとも1650ppm、少なくとも1700ppm、少なくとも1750ppm、少なくとも1800ppm、少なくとも1850ppm、少なくとも1900ppm、少なくとも1950ppm、少なくとも2000ppmのカルシウムを潤滑油組成物に与える量で使用される場合がある。1つの実施形態において、カルシウム含有量は、潤滑油組成物に対するカルシウムが重量比で4000ppm以下、3500ppm以下、3000ppm以下である。
【0069】
いくつかの実施形態において、カルシウム含有清浄剤は、高過塩基性、中程度過塩基性または低過塩基性の清浄剤が可能である。
【0070】
マグネシウム清浄剤
好ましいマグネシウム含有清浄剤には、マグネシウムスルホネート、マグネシウムフェネートおよびマグネシウムサリチレートが含まれ、とりわけマグネシウムスルホネートが含まれる。
【0071】
マグネシウム含有清浄剤は、重量比で少なくとも800ppm、少なくとも850ppm、少なくとも900ppm、少なくとも950ppm、少なくとも1000ppm、少なくとも1050ppm、少なくとも1100ppm、少なくとも1150ppm、少なくとも1200ppm、少なくとも1250ppm、少なくとも1300ppm、少なくとも1350ppm、少なくとも1400ppm、少なくとも1450ppm、少なくとも1500ppm、少なくとも1550ppm、少なくとも1600ppm、少なくとも1650ppm、少なくとも1700ppm、少なくとも1750ppm、少なくとも1800ppm、少なくとも1850ppm、少なくとも1900ppm、少なくとも1950ppm、少なくとも2000ppmのマグネシウムを潤滑油組成物において与える量で使用される場合がある。1つの実施形態において、マグネシウム含有量は、潤滑油組成物におけるマグネシウムが重量比で4000ppm以下、3500ppm以下、3000ppm以下、2500ppm以下である。1つの実施形態において、マグネシウム含有量は、潤滑油組成物におけるマグネシウムが重量比で800ppm~2500ppm、900ppm~2300ppm、1100ppm~2300ppm、1300ppm~2300ppm、1500ppm~2300ppmである。
【0072】
いくつかの実施形態において、マグネシウム含有清浄剤として、高過塩基性、中程度過塩基性または低過塩基性の清浄剤が可能である。1つの実施形態において、潤滑油組成物におけるカルシウム対マグネシウムの質量比が0.5:1~4:1である。他の実施形態において、潤滑油組成物におけるカルシウム対マグネシウムの質量比が0.6:1~3.5:1、0.6:1~3.0:1、0.6:1~2.5:1、0.6:1~2.0:1、0.6:1~1.7:1、0.6:1~1.5:1、0.6:1~1.3:1である。
【0073】
窒素含有分散剤
分散剤により、油に不溶性であるエンジン運転期間中の酸化から生じる様々な物質が懸濁状態で維持され、そのため、スラッジの凝集および沈殿または金属部品表面での付着が防止される。本明細書中において有用である分散剤には、ガソリンエンジンおよびディーゼルエンジンで使用されたときに付着物の形成を軽減するために効果的であることが知られている窒素含有の無灰(金属非含有)分散剤が含まれる。
【0074】
好適な分散剤には、ヒドロカルビルスクシンイミド、ヒドロカルビルスクシンアミド、ヒドロカルビル置換コハク酸の混合エステル/アミド、ヒドロカルビル置換コハク酸のヒドロキシエステル、ならびに、ヒドロカルビル置換フェノール、ホルムアルデヒドおよびポリアミンのマンニッヒ縮合生成物が含まれる。ポリアミンおよびヒドロカルビル置換フェニル酸の縮合生成物もまた好適である。これらの分散剤の混合物もまた使用することができる。
【0075】
塩基性の窒素含有無灰分散剤が周知の潤滑油添加剤であり、その調製の様々な方法が特許文献において広範囲に記載されている。好ましい分散剤が、アルケニル置換基が好ましくは40個超の炭素原子の長鎖であるアルケニルスクシンイミドおよびアルケニルスクシンアミドである。これらの物質は、ヒドロカルビル置換ジカルボン酸物質を、アミン官能基を含有する分子と反応させることによって容易に作製される。好適なアミンの例として、ポリアミン、例えば、ポリアルキレンポリアミン、ヒドロキシ置換ポリアミンおよびポリオキシアルキレンポリアミンなどが挙げられる。
【0076】
特に好ましい無灰分散剤が、ポリイソブテニルコハク酸無水物と、ポリアルキレンポリアミン(例えば、下記式のポリエチレンポリアミン:
NH2(CH2CH2NH)zH
(式中、zは1~11である)
など)とから形成されるポリイソブテニルスクシンイミドである。ポリイソブテニル基はポリイソブテンに由来し、好ましくは数平均分子量(Mn)が700ダルトン~3000ダルトン(例えば、900ダルトン~2500ダルトン)の範囲である。例えば、ポリイソブテニルスクシンイミドは、Mnが900ダルトン~2500ダルトンであるポリイソブテニル基に由来するビススクシンイミドである場合がある。
【0077】
この技術分野では知られているように、分散剤は、(例えば、ホウ素化剤または環状カルボネートを用いて)後処理される場合がある。
【0078】
窒素含有無灰(金属非含有)分散剤は塩基性であり、さらなる硫酸灰分を導入することなく、この分散剤が添加される潤滑油組成物のTBNに寄与する。
【0079】
分散剤は、600ppm未満の窒素を潤滑油組成物に対して、潤滑油組成物に対する窒素の重量比で550ppm未満、500ppm未満、450ppm未満、400ppm未満の窒素を与えるための量で存在する場合がある。
【0080】
他の潤滑油添加剤
本明細書中に記載される添加剤化合物に加えて、潤滑油組成物はさらなる潤滑油添加剤を含むことができる。
【0081】
本開示の潤滑油組成物は他の従来の様々な添加剤もまた含有する場合があり、これらは、これらの添加剤が分散または溶解される潤滑油組成物の望ましい特性をどのようなものであれ付与することができる、または改善することができるものである。当業者には知られている添加剤はどれも、本明細書中に開示される潤滑油組成物において使用される場合がある。いくつかの好適な添加剤が、Mortier他、“Chemistry and Technology of Lubricants”(第2版、London、Springer、1996)、およびLeslie R.Rudnick、“Lubricant Additives:Chemistry and Applications”(New York、Marcel Dekker、2003)に記載されており、これらの両方が参照によって本明細書中に組み込まれる。例えば、潤滑油組成物は、抗酸化剤、摩耗防止剤、金属清浄剤、防錆剤、曇り止め剤(dehazing agent)、解乳化剤、金属不活性化剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、消泡剤、共溶媒、腐食防止剤、無灰分散剤、多機能剤、色素、極圧添加剤など、およびそれらの混合物とブレンドすることができる。様々なこれらの添加剤が知られており、市販されている。これらの添加剤、またはそれらの類似化合物を、通常のブレンド手順による本開示の潤滑油組成物の調製のために用いることができる。
【0082】
本発明の潤滑油組成物は、摩擦および過度の摩耗を軽減することができる1つまたは複数の摩耗防止剤を含有することができる。当業者によって知られている摩耗防止剤はどれも潤滑油組成物において使用される場合がある。好適な摩耗防止剤の限定されない例には、ジチオリン酸亜鉛、ジチオホスフェートの金属塩(例えば、Pb塩、Sb塩およびMo塩など)、ジチオカルバメートの金属塩(例えば、Zn塩、Pb塩、Sb塩およびMo塩など)、脂肪酸の金属塩(例えば、Zn塩、Pb塩およびSb塩など)、ホウ素化合物、ホスフェートエステル、ホスフィトエステル、リン酸エステルまたはチオリン酸エステルのアミン塩、ジシクロペンタジエンと各種チオリン酸との反応生成物、およびそれらの組合わせが含まれる。摩耗防止剤の量は、潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.01wt.%から約5wt.%にまで、約0.05wt.%から約3wt.%にまで、または約0.1wt.%から約1wt.%にまで変化する場合がある。
【0083】
ある特定の実施形態において、摩耗防止剤はジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩(例えば、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート化合物など)であり、またはジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩(例えば、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート化合物など)を含む。ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩の金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属、あるいはアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケルまたは銅である場合がある。いくつかの実施形態において、金属は亜鉛である。他の実施形態において、ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩のアルキル基は、約3個~約22個の炭素原子、約3個~約18個の炭素原子、約3個~約12個の炭素原子、または約3個~約8個の炭素原子を有する。さらなる実施形態において、アルキル基は線状または分枝状である。
【0084】
本明細書中に開示される潤滑油組成物における亜鉛ジアルキルジチオホスフェート塩を含めたジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩の量は、そのリン含有量によって測定される。いくつかの実施形態において、潤滑油組成物のリン含有量は本明細書中に開示される通りである。
【0085】
本発明の潤滑油組成物は好ましくは、有機酸化防止剤を0.01wt.%~5wt.%の量で、好ましくは0.1wt.%~3wt.%の量で含有する。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール型酸化防止剤またはジアリールアミン型酸化防止剤が可能である。ジアリールアミン型酸化防止剤は、窒素原子から生じる塩基価を与えることにおいて好都合である。ヒンダードフェノール型酸化防止剤は、NOxガスを全くもたらさないことにおいて好都合である。
【0086】
ヒンダードフェノール型酸化防止剤の例には、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(6-t-ブチル-o-クレゾール)、4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクチル、3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシル、および3-(3,54-ブチル-4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロピオン酸オクチル、ならびに市販の製造物、例えば、限定されないが、Irganox L135(いずれかの国における登録商標)(BASF)、Naugalube531(いずれかの国における登録商標)(Chemtura)およびEthanox376(いずれかの国における登録商標)(SI Group)などが含まれる。
【0087】
ジアリールアミン型酸化防止剤の例には、炭素原子が4個~9個のアルキル基の混合を有するアルキルジフェニルアミン、p,p’-ジオクチルジフェニルアミン、フェニル-ナフチルアミン、フェニル-ナフチルアミン、アルキル化ナフチルアミン、およびアルキル化フェニル-ナフチルアミンが含まれる。
【0088】
ヒンダードフェノール型酸化防止剤およびジアリールアミン型酸化防止剤のそれぞれを単独で、または組合わせで使用することができる。所望されるならば、他の油溶性の酸化防止剤を加えることができる。
【0089】
潤滑油配合物の調製においては、添加剤を炭化水素油(例えば、鉱物潤滑油または他の好適な溶剤)における10wt.%~80wt.%の有効成分の高濃度物の形態で導入することが一般的な慣行である。
【0090】
通常、これらの高濃度物は、完成した潤滑剤(例えば、クランクケースモーター油)を形成する際には添加剤パッケージの重量部あたり3重量部~100重量部(例えば、5重量部~40重量部)の潤滑油により希釈される場合がある。高濃度物の目的は、当然のことながら、様々な物質の取り扱いをあまり困難かつ厄介にしないことであり、同様にまた、最終ブレンド物における溶解または分散を容易にすることである。
【0091】
潤滑油組成物を調製するプロセス
本明細書中に開示される潤滑油組成物は、潤滑油を作製するための当業者に知られているどのような方法によってでも調製することができる。いくつかの実施形態において、基油を、本明細書中に記載されるジルコニウム含有化合物とブレンドまたは混合することができる。必要な場合には、1つまたは複数の他のものを加えることができる。添加剤が基油に個別に、または同時に加えられる場合がある。いくつかの実施形態において、添加剤が基油に個別に1回または複数回の添加で加えられ、その際の添加はどのような順序であってもよい。他の実施形態において、添加剤が、必要な場合には添加剤高濃度物の形態で、基油に同時に加えられる。いくつかの実施形態において、添加剤を基油に可溶化することが、混合物を約25℃~約200℃の温度に、約50℃~約150℃の温度に、または約75℃~約125℃の温度に加熱することによって助けられる場合がある。
【0092】
当業者に知られている混合装置または分散装置はどれも、成分をブレンドするために、成分を混合するために、または成分を可溶化するために使用される場合がある。ブレンドすること、混合すること、または可溶化することが、ブレンダー、撹拌機、分散機、ミキサー(例えば、遊星形ミキサーおよび二重遊星形ミキサー)、ホモジナイザー(例えば、GaulinホモジナイザーおよびRannieホモジナイザー)、ミル(例えば、コロイドミル、ボールミルおよびサンドミル)、あるいは、どのような装置であれこの技術分野において知られている他の混合装置または分散装置を用いて実施される場合がある。
【0093】
潤滑油組成物の適用
本明細書中に開示される潤滑油組成物は、火花点火内燃機関において、特に直接噴射エンジンおよび過給エンジンにおいてモーター油(すなわち、エンジン油またはクランクケース油)として使用するために好適である場合がある。
【0094】
下記の例は、本発明の様々な実施形態を例示するために提示されており、しかし、本発明を示される具体的な実施形態に限定するためには意図されていない。反することが示される場合を除き、すべての部および百分率が重量比である。すべての数値が近似的である。数値範囲が与えられるとき、述べられた範囲を外れる実施形態が依然として本発明の範囲に含まれる場合があることを理解しなければならない。それぞれの例において記載される具体的な詳細は本発明の必要な特徴として解釈してはならない。
【0095】
実施例
下記の実施例は例示目的のためだけに意図されており、本発明の範囲をいかなる点でも限定するものではない。
【0096】
実施例1
潤滑油組成物を、下記の成分を一緒にブレンドすることによって調製した:
(a)一次および二次の亜鉛ジアルキルジチオホスフェートの混合物;
(b)過塩基性フェネート清浄剤、過塩基性ホウ素化(borated)スルホネート清浄剤および低過塩基性カルシウムスルホネート清浄剤の混合物;
(c)高過塩基性マグネシウムスルホネート清浄剤(TBNが402であり、Mg含有量が9.4%wtであるMgスルホネート);
(d)炭酸エチレン処理分散剤およびホウ素化スクシンイミド分散剤;
(e)アルキル化ジフェニルアミン型抗酸化剤;
(f)慣行量(conventional amount)の流動点降下剤;
(g)エチレンプロピレンに基づく粘度指数改善剤;
(h)モリブデンスクシンイミド抗酸化剤;
(i)泡抑制剤;ならびに
(j)残余量のグループI基油。
【0097】
実施例2
TBNが397であり、Mg含有量が9.6%wtである高過塩基性マグネシウムスルホネートを除いて、実施例1を繰り返した。
【0098】
実施例3
高過塩基性カルシウムスルホネートおよびさらなる高過塩基性マグネシウムスルホネートを配合物に加え、、下記において表2に示される値が得られるようにしたことを除いて、実施例1を繰り返した。
【0099】
比較例1
過塩基性マグネシウムスルホネートを実施例1から除き、下記において表2に示される値になる様な量の高過塩基性カルシウムスルホネートと置き換えた。
【0100】
比較例2
実施例1において、下記において表2に示される値になる様に、過塩基性マグネシウムスルホネートのレベルを調節し、かつ、高過塩基性カルシウムスルホネートを加えた。
【0101】
比較例3
実施例1において、下記において表2に示される値になる様に、過塩基性マグネシウムスルホネートのレベルを調節し、かつ、高過塩基性カルシウムスルホネートを加えた。
【0102】
比較例4
実施例1において、下記において表2に示される値になる様に、過塩基性マグネシウムスルホネートのレベルを調節し、かつ、高過塩基性カルシウムスルホネートを加えた。
【0103】
比較例5
実施例1において、下記において表2に示される値になる様に、過塩基性マグネシウムスルホネートのレベルを調節し、かつ、高過塩基性カルシウムスルホネートを加えた。
【0104】
マイクロクラッチ試験
湿潤摩擦特性を評価する手段として、測定を日本建設機械化協会(Japan Construction Machinery Association)の建設機械用油圧作動油(JCMAS P 047:2004)の摩擦特性試験方法(JCMAS P 047 4)に基づいて行った。マイクロクラッチ試験のための方法の詳細を下記において示す。
【0105】
a)摩擦係数および温度を測定しながら、下記の試験条件において与えられる条件を用いて試験装置を室温で5分間操作する。
b)マイクロクラッチ試験リグの電気ヒーターによって制御される次回試験温度に達するまで、試験装置を表面圧および周速度で操作する。
c)試験温度を5分間維持しながら、温度および摩擦係数を測定する。
【0106】
試験条件
試験試料片材料:クラッチディスク・フェーシング材:SD1795-S
プレート材:SS400鋼
(試験試料片寸法の詳細がJACMAS P 047に示される)
試験条件:温度:40、60、80、100、120、140℃
表面圧:392kPa、周速度:3.0×10-2m/s(回転速度:20min-1)
試験液量:20ml
【0107】
新しい試験用クラッチについては、慣らし運転が、安定した摩擦データを得るために測定前に必要である。慣らし運転の条件は下記の通りである。
【0108】
温度:室温
表面圧:392kPa、周速度:3.0×10-2m/s(回転速度:20min-1)
摩擦時間:60分以上
【0109】
本発明は上述のマイクロクラッチ試験条件のもとでの例および比較例によって下記において説明され、しかし、これらは代表的な例に過ぎず、本発明はそれらによって決して限定されない。
【表2】
【0110】
JASO DH-1、API CG-4、CH-4、またはCI-4を有するディーゼルエンジン油が、内燃機関のためだけではなく、産業機械、とりわけ、輸送機械、建設機械および農業機械における油圧システムおよび変速機システムのためにも広く使用されている。湿式クラッチのより大きい静摩擦係数をそれらの機械において得ることは、良好な応答および燃料効率を示すので、機械の安全な操作を可能にするために、また、機械のための優れた動力伝達効率を与えるためにも重要である。摩擦係数はすべての試験温度において油について0.13(0.125)よりも大きくなければならない。例1、例2および例3は優れた湿式クラッチ摩擦をマイクロクラッチ試験において示すことが明白である。