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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】スイッチング電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20230719BHJP
【FI】
H02M3/155 C
H02M3/155 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021040995
(22)【出願日】2021-03-15
(65)【公開番号】P2022140921
(43)【公開日】2022-09-29
【審査請求日】2022-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000103208
【氏名又は名称】コーセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】川高 伸人
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-183701(JP,A)
【文献】特開2009-142020(JP,A)
【文献】特開2000-253650(JP,A)
【文献】実開平06-036382(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇圧チョッパ回路と突入電流制限回路とを備え、
前記昇圧チョッパ回路は、一端が入力ラインに接続されたインダクタと、前記インダクタの他端とグランドラインとの間に接続された主スイッチング素子と、前記インダクタの他端と出力ラインとの間の接続された整流素子と、前記出力ラインと前記グランドラインとの間に接続された出力コンデンサとを備え、前記入力ラインと前記グランドラインとの間に、直流電圧又は交流電圧を整流した脈流電圧である入力電圧が入力され、前記出力ラインと前記グランドラインとの間に、直流の出力電圧を発生させるスイッチングコンバータであり、
前記突入電流制限回路は、前記整流素子と前記出力ラインとの接続点に挿入され、前記入力ラインから前記インダクタを通じて前記出力コンデンサに流入する電流を制限する限流素子と、前記限流素子に並列接続され、前記限流素子の両端を短絡又は開放状態にするスイッチ素子と、前記スイッチ素子を駆動するスイッチ素子駆動回路と、前記グランドラインを基準とする直流電源とを備え、
前記スイッチ素子駆動回路は、アノードが前記直流電源の出力端に接続された充電用ダイオードと、前記主スイッチング素子及びインダクタの接続点と前記充電用ダイオードのカソードとの間に接続され、前記主スイッチング素子がオンの期間に、前記直流電源から前記充電用ダイオードを通じてエネルギーが蓄積されるエネルギー蓄積コンデンサと、前記エネルギー蓄積コンデンサに蓄積された前記エネルギーを前記スイッチ素子の駆動端子に供給することによって、少なくとも前記整流素子が導通している期間、前記スイッチ素子をオンさせるエネルギー供給回路とを備えることを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
前記充電用ダイオードのアノードが前記出力ラインに接続され、前記出力コンデンサが前記直流電源として兼用されている請求項1記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
前記限流素子は、負の温度係数を有したサーミスタである請求項1又は2記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
前記スイッチ素子は、サイリスタ、トライアック、FET、バイポーラトランジスタ又はIGBTである請求項1乃至3のいずれか記載のスイッチング電源装置。
【請求項5】
前記昇圧チョッパ回路の前段に外来のサージ電圧が発生した時、このサージ電圧のエネルギーを前記エネルギー供給回路に伝送するサージエネルギー伝送回路が設けられ、前記エネルギー供給回路は、前記サージ電圧のエネルギーを前記スイッチ素子の駆動端子に供給することによって、前記スイッチ素子をオンさせる請求項1乃至4のいずれか記載のスイッチング電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇圧チョッパ回路の出力コンデンサに流れ込む突入電流を一定以下に抑える突入電流制限回路を備えたスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に開示されているように、突入電流防止回路を備えた昇圧コンバータがあった。突入電流防止回路は、電源投入時に昇圧チョッパ回路の出力コンデンサに流れ込む突入電流を抑える回路で、昇圧コンバータの整流素子(ダイオード7)と出力コンデンサ(コンデンサ8)との間に、限流素子(突入電流制限用の抵抗9)及びスイッチ手段(限流素子のその両端を短絡又は開放状態にするサイリスタ10)の並列回路を挿入し、スイッチ手段を、昇圧コンバータの昇圧用インダクタ(インダクタンス5)に設けた補助巻線(二次巻線5B)に発生した電圧を用いてオンさせる構成になっている。
【0003】
電源投入時は、スイッチ手段はオフしているので、出力コンデンサに流れ込む突入電流が限流素子によって抑えられる。そして、昇圧チョッパ回路がスイッチング動作を開始すると、昇圧用インダクタの補助巻線に発生する電圧を用いてスイッチ手段をオンさせ、整流素子のスイッチング電流が限流素子に流れないようにバイパスする。これによって、スイッチング電流が限流素子に流れて大きい損失が発生するのが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平6-36382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された突入電流防止回路は、昇圧用インダクタに補助巻線を追加する必要があるので、昇圧用インダクタの構造が複雑になってコストアップしてしまう。また、昇圧用インダクタは、昇圧チョッパ回路の性能に大きな影響を与える重要部品であるところ、補助巻線を追加するとメイン巻線を巻回するスペースが制限されるので、メイン巻線の巻数を想定よりも少なくしたり、規定の巻数を巻回できるように電線を細いものに変更したりしなければならず、性能が大幅に低下してしまう可能性がある。その他、昇圧用インダクタとしてトロイダル型のインダクタが選択されるケースが少なくないが、トロイダル型のインダクタは、補助巻線を追加するのが容易ではない。
【0006】
本発明は、上記背景技術に鑑みて成されたものであり、昇圧チョッパ回路の突入電流を、昇圧チョッパ回路の性能を低下させることなく、確実に制限できるシンプルな突入電流制限回路を備えたスイッチング電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、昇圧チョッパ回路と突入電流制限回路とを備え、前記昇圧チョッパ回路は、一端が入力ラインに接続されたインダクタと、前記インダクタの他端とグランドラインとの間に接続された主スイッチング素子と、前記インダクタの他端と出力ラインとの間の接続された整流素子と、前記出力ラインと前記グランドラインとの間に接続された出力コンデンサとを備え、前記入力ラインと前記グランドラインとの間に、直流電圧又は交流電圧を整流した脈流電圧である入力電圧が入力され、前記出力ラインと前記グランドラインとの間に、直流の出力電圧を発生させるスイッチングコンバータであり、
前記突入電流制限回路は、前記整流素子と前記出力ラインとの接続点に挿入され、前記入力ラインから前記インダクタを通じて前記出力コンデンサに流入する電流を制限する限流素子と、前記限流素子に並列接続され、前記限流素子の両端を短絡又は開放状態にするスイッチ素子と、前記スイッチ素子を駆動するスイッチ素子駆動回路と、前記グランドラインを基準とする直流電源とを備え、
前記スイッチ素子駆動回路は、アノードが前記直流電源の出力端に接続された充電用ダイオードと、前記主スイッチング素子及びインダクタの接続点と前記充電用ダイオードのカソードとの間に接続され、前記主スイッチング素子がオンの期間に、前記直流電源から前記充電用ダイオードを通じてエネルギーが蓄積されるエネルギー蓄積コンデンサと、前記エネルギー蓄積コンデンサに蓄積された前記エネルギーを前記スイッチ素子の駆動端子に供給することによって、少なくとも前記整流素子が導通している期間、前記スイッチ素子をオンさせるエネルギー供給回路とを備えるスイッチング電源装置である。
【0008】
前記充電用ダイオードのアノードが前記出力ラインに接続され、前記出力コンデンサが前記直流電源として兼用されている構成にしてもよい。また、前記限流素子は、負の温度係数を有したサーミスタであることが好ましい。また、前記スイッチ素子は、サイリスタ、トライアック、FET、バイポーラトランジスタ又はIGBT等を使用することができる。また。前記昇圧チョッパ回路の前段にに外来のサージ電圧が発生した時、このサージ電圧のエネルギーを前記エネルギー供給回路に伝送するサージエネルギー伝送回路が設けられ、前記エネルギー供給回路は、前記サージ電圧のエネルギーを前記スイッチ素子の駆動端子に供給することによって、前記スイッチ素子をオンさせる構成にすることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスイッチング電源装置によれば、入力電圧が投入された時、昇圧チョッパ回路の出力コンデンサに流れ込む突入電流を、限流素子によって小さく抑えることができ、その後の定常電流は、電圧降下が小さいスイッチ素子でバイパスされるので、限流素子に大きい損失が発生するのを防止することができる。また、突入電流制限回路は、シンプルな構成なので、安価に設けることができる。しかも、昇圧チョッパ回路のインダクタに補助巻線を追加する必要がないので、補助巻線を追加することによって昇圧性能が低下させてしまうという問題を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のスイッチング電源装置の第一の実施形態を示す回路図である。
図2】第一の実施形態のスイッチング電源装置が有する突入電流制限回路の動作を示すタイムチャートである。
図3】本発明のスイッチング電源装置の第二の実施形態を示す回路図である。
図4】第二の実施形態のスイッチング電源装置が有する突入電流制限回路の動作を示すタイムチャートである。
図5】本発明のスイッチング電源装置の第三の実施形態を示す回路図である。
図6】本発明のスイッチング電源装置の第四の実施形態を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のスイッチング電源装置の第一の実施形態について、図1図2に基づいて説明する。この実施形態のスイッチング電源装置10は、図1に示すように、スイッチングコンバータである昇圧チョッパ回路12と、突入電流制限回路14とを備えている。
【0012】
昇圧チョッパ回路12は、一端が入力ライン16に接続されたインダクタ18と、インダクタ18の他端とグランドライン20との間に接続されたMOS型FET等である主スイッチング素子22とを備え、さらに、インダクタ18の他端と出力ライン24との間の接続されたダイオード等である整流素子26と、出力ライン24とグランドライン20との間に接続された出力コンデンサ28とを備えている。
【0013】
昇圧チョッパ回路12の前段には、入力電源30から供給された商用交流電圧Eを全波整流した脈流の入力電圧Viを生成する整流回路32が設けられ、昇圧チョッパ回路12の後段には、負荷34が設けられている。つまり、昇圧チョッパ回路12は、自己の入力端である入力ライン16とグランドラインとの間に脈流の入力電圧Viが入力され、自己の出力端である出力ライン24とグランドライン20との間に、直流の出力電圧Voを発生させ、後段の負荷34に電力供給する。負荷34は、スイッチング電源装置10の外部に接続された電子機器等、あるいはスイッチング電源装置10の内部にある他の回路網等である。
【0014】
入力ライン16及びインダクタ18の接続点とグランドライン20との間には、入力コンデンサ35が設けられている。入力コンデンサ35は、主スイッチング素子22に流れるスイッチング電流が入力電源30の側に流出するのを抑えるための電流バイパス用のコンデンサで、容量は、入力電圧Viを平滑して直流電圧にするほど大きくはない。
【0015】
突入電流制限回路14は、整流素子26と出力ライン24との接続点に挿入され、入力電源30が投入された時、入力ライン16からインダクタ18を通じて出力コンデンサ28に流入する電流を制限する限流素子36を備え、さらに、限流素子36に並列接続され、限流素子36の両端を短絡又は開放状態にするスイッチ素子38と、スイッチ素子38を駆動するスイッチ素子駆動回路40とを備えている。
【0016】
限流素子36は、抵抗又は負の温度係数を有したサーミスタである。また、スイッチ素子38は、駆動端子(ゲート)を備えたサイリスタで、アノードが整流素子26のカソードに接続され、カソードが出力ライン24に接続され、ゲートがスイッチ素子駆動回路40に接続されている。
【0017】
スイッチ素子駆動回路40は、アノードが出力ライン24に接続された充電用ダイオード42と、主スイッチング素子22及びインダクタ18の接続点と充電用ダイオード42のカソードとの間に接続されたエネルギー蓄積コンデンサ44と、エネルギー蓄積コンデンサ44とスイッチ素子38の駆動端子との間に接続されたエネルギー供給回路46とを備えている。その他、エネルギー蓄積コンデンサ44と充電用ダイオード42のカソードとの間には、エネルギー蓄積コンデンサ44を充放電する電流のピーク値を抑える電流制限用の抵抗48が挿入されている。
【0018】
スイッチ素子駆動回路40の内部回路の動作を簡単に説明すると、エネルギー蓄積コンデンサ44は、主スイッチング素子22がオンの期間に、出力ライン24から充電用ダイオード42を通じてエネルギーが蓄積される。そして、エネルギー供給回路46は、エネルギー蓄積コンデンサ44に蓄積されたエネルギーの一部をスイッチ素子38のゲートカソード間に供給することによって(ゲートに駆動電流を流し込むことによって)、少なくとも整流素子26が導通している期間、スイッチ素子38をオンさせる動作を行う。
【0019】
なお、このエネルギー供給回路46は、アノードが抵抗48及び充電用ダイオード42の接続点に接続され、カソードがスイッチ素子38のゲートに接続されたダイオード46aと、スイッチ素子38のゲートカソード間に接続されたコンデンサ46b及び抵抗46cとで構成される。ダイオード46aは、エネルギー蓄積コンデンサ44からスイッチ素子38のゲートに向けて電流を流すとともに、電流が逆向きに流れるのを阻止するダイオードである。また、コンデンサ46bは、スイッチ素子38が誤オンするのを防止するノイズ除去用のコンデンサで、抵抗46cは、コンデンサ46bを所定の速度で放電させる放電用の抵抗である。
【0020】
次に、スイッチング電源装置10の動作を説明する。入力電源30の商用交流電圧Eが投入されると、瞬時に入力ライン16に入力電圧Viが発生する。この時、昇圧チョッパ回路12はスイッチング動作を開始しておらず(主スイッチング素子22はオフ)、スイッチ素子38もオフしているので、入力ライン16、インダクタ18、整流素子26、限流素子36、出力ライン24、出力コンデンサ28の経路に突入電流が流れる。しかしながら、限流素子36の働きで、突入電流のピーク値が一定以下の小さい値に抑えられる。そして、この突入電流によって出力コンデンサ28が充電され、出力電圧Voが、入力電圧Viの波高値とほぼ同じ値まで上昇する。
【0021】
その後、昇圧チョッパ回路12がスイッチング動作を開始し、最初に主スイッチング素子22がオンすると、図2における時間T1以前の状態になる。時間T1以前の状態では、主スイッチング素子22がオンしているため、電圧Va(グランドライン20に対する整流素子26のアノードの電位)はほぼゼロボルトであり、整流素子26は、出力電圧Voが逆方向に印加されて非導通となる。そして、出力ライン24、充電用ダイオード42、抵抗48、エネルギー蓄積コンデンサ44、主スイッチング素子22の経路に電流が流れ、エネルギー蓄積コンデンサ44の両端電圧VcがVc≒Voとなり、エネルギーが蓄積される。また、電圧Vc(グランドライン20に対するエネルギー蓄積コンデンサ44の一端の電位)も、Vb=Va+Vc≒Voとなる。スイッチ素子38は、時間T1以前の状態と同様に、オフを継続する。
【0022】
時間T1のタイミングで主スイッチング素子22がオフに転じると、電圧Vaが所定の傾きで上昇し始め、電圧Vcが保持されたまま電圧Vbが上昇し、充電用ダイオード42は、逆電圧が印加されて非導通となる。その後、エネルギー供給回路46のダイオード46aが速やかに導通し、スイッチ素子38のゲートにエネルギー蓄積コンデンサ44のエネルギーが供給され(ゲート電流が供給され)、スイッチ素子38がオンできる状態になる。ただし、スイッチ素子38のアノードがフローティング状態なので、スイッチ素子38はオンすることができない。また、電圧Vcは、エネルギー蓄積コンデンサ44のエネルギーが放出されるため、徐々に低下する。
【0023】
そして、電圧Vaが出力電圧Voを僅かに超えた時(時間T2)、整流素子26が導通し、ほぼ同時にスイッチ素子38がオンし、整流素子26の電流Ifの波形に示すように、インダクタ18、整流素子26、スイッチ素子38、出力ライン24、出力コンデンサ28の経路にスッチング電流が流れる。その後間もなく、電圧Vcがほぼゼロボルトまで低下し、スイッチ素子38のゲートにエネルギーが供給されなくなるが(ゲート電流が供給されなくなるが)、サイリスタであるスイッチ素子38は、一旦オンするとオン状態にラッチされるので、整流素子26が導通してスイッチング電流が流れている間、限流素子36の両端が短絡状態に保持される。そのため、限流素子36にスイッチング電流が流れて大きい損失が発生する状況にはならない。
【0024】
その後、時間T2になって主スイッチング素子22がオンに転じると、電圧Vaがほぼゼロボルトになるので、整流素子26が非導通となり、スイッチ素子38もラッチが解除されてオフに転じる。そして、エネルギー蓄積コンデンサ44が再び充電され、電圧Vc≒Voとなる。なお、スイッチ素子54がオフするのは、整流素子26にスイッチング電流が流れていない時なので、限流素子36に大きい損失が発生する状況にはならない。
【0025】
その後、時間T3になって主スイッチング素子22がオンに転じると、上述した時間T1以降の動作が繰り返され、出力電圧Voが目標値に向かって上昇していく。
【0026】
以上説明したように、スイッチング電源装置10によれば、商用交流電圧Eが投入された時、昇圧チョッパ回路12の出力コンデンサ28に流れ込む突入電流を、限流素子36によって小さく抑えることができ、その後の定常電流(スイッチング電流)は、電圧降下が小さいスイッチ素子38でバイパスされるので、限流素子に大きい損失が発生するのを防止することができる。また、突入電流制限回路14は、シンプルな構成なので、安価に設けることができる。しかも、昇圧チョッパ回路12のインダクタ18に補助巻線を追加する必要がないので、補助巻線を追加することによって昇圧チョッパ回路の性能が低下させてしまうという問題を回避することができる。
【0027】
また、限流素子36は抵抗又は負の温度特性を有したサーミスタであると説明したが、コスト等の条件が合えば、後者を使用することが好ましい。例えば、何らかの理由でスイッチ素子38がオフからオンに転じるタイミングが遅れた場合、スイッチング電流が限流素子36に流れ、限流素子38が発熱してしまう可能性がある。しかし、負の温度特性を有したサーミスタを使用すれば、発熱すると抵抗値が低下して損失が小さくなり、発熱が抑えられるので、抵抗を使用した時よりもさらに安全性が向上する。
【0028】
また、動作説明の中では述べなかったが、上記のスイッチ素子駆動回路40は、整流素子26が導通状態から非導通状態に移行する時、整流素子26の両端に発生するリンギング(サージ電圧)を低減する効果も期待できる。つまり、エネルギー蓄積コンデンサ44及びコンデンサ46bの容量や、抵抗48及び抵抗46cの抵抗値を調節することによって、スイッチ素子駆動回路40がサージ電圧を吸収するスナバ回路として機能させることも可能である。
【0029】
次に、本発明のスイッチング電源装置の第二の実施形態について、図3図4に基づいて説明する。ここで、上記のスイッチング電源装置10と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0030】
この実施形態のスイッチング電源装置50は、図3に示すように、上記の昇圧チョッパ回路12と新規な突入電流制限回路52とを備えている。以下、スイッチング電源装置10と構成が異なる点を中心に説明する。
【0031】
上記の突入電流制限回路14の場合、スイッチ素子38がサイリスタであるが、突入電流制限回路52の場合は、スイッチ素子54としてMOS型FETを使用している点に特徴があり、これに合わせて、スイッチ素子駆動回路40の中のエネルギー供給手段46がエネルギー供給手段56に置き換えられている。スイッチング電源装置50の他の構成は、スイッチング電源装置10と同様である。
【0032】
スイッチ素子36は、駆動端子(ゲート)を備えたNチャネルのMOS型FETで、ドレインが整流素子26のカソードに接続され、ソースが出力ライン24に接続され、ゲートがスイッチ素子駆動回路40に接続されている。
【0033】
スイッチ素子駆動回路40は、上記の充電用ダイオード42及びエネルギー蓄積コンデンサ44と、エネルギー蓄積コンデンサ44とスイッチ素子54の駆動端子との間に接続されたエネルギー供給回路56とを備えている。スイッチ素子駆動回路40の内部回路の動作を簡単に説明すると、エネルギー蓄積コンデンサ44は、主スイッチング素子22がオンの期間に、出力ライン24から充電用ダイオード42を通じてエネルギーが蓄積される。そして、エネルギー供給回路56は、エネルギー蓄積コンデンサ44に蓄積されたエネルギーの一部をスイッチ素子54のゲートソース間に供給することによって(ゲートソース間に駆動電圧を印加することによって)、少なくとも整流素子26が導通している期間、スイッチ素子54をオンさせる動作を行う。
【0034】
エネルギー供給回路56の構成を説明すると、エネルギー供給回路56は、アノードが抵抗48及び充電用ダイオード42の接続点に接続されたダイオード56aと、ダイオード56aのカソードと出力ライン24との間に接続されたコンデンサ56bと、ダイオード56a及びコンデンサ56bの接続点とスイッチ素子54のゲートとの間に接続された抵抗56cと、スイッチ素子54のゲートソース間に接続されたコンデンサ56d及び抵抗56eとで構成される。ダイオード56aは、エネルギー蓄積コンデンサ44からコンデンサ56bに向けて電流を流すとともに、電流が逆向きに流れるのを阻止するダイオードである。コンデンサ56bは、エネルギー蓄積コンデンサ44との容量比を利用して電圧Vcより低い電圧Vdを生成するとともに、電圧Vcが低下しても電圧Vdを一定以上の値に保持さるコンデンサである。抵抗56c及びコンデンサ56dは、スイッチ素子54が誤オンするのを防止するノイズ除去用のフィルタを構成し、抵抗56eは、コンデンサ56bを所定の速度で放電させる放電用の抵抗である。
【0035】
次に、スイッチング電源装置50の動作を説明する。入力電源30の商用交流電圧Eが投入されると、瞬時に入力ライン16に入力電圧Viが発生する。この時、昇圧チョッパ回路12はスイッチング動作を開始しておらず(主スイッチング素子22はオフ)、スイッチ素子54もオフしているので、入力ライン16、インダクタ18、整流素子26、限流素子36、出力ライン24、出力コンデンサ28の経路に突入電流が流れる。しかしながら、限流素子36の働きで、突入電流のピーク値が一定以下の小さい値に抑えられる。そして、この突入電流で出力コンデンサ28が充電され、出力電圧Voが、入力電圧Viの波高値とほぼ同じ値まで上昇する。
【0036】
その後、昇圧チョッパ回路12がスイッチング動作を開始し、最初に主スイッチング素子22がオンすると、図2における時間T1以前の状態になる。時間T1以前の状態では、主スイチング素子22がオンしているため、電圧Va(グランドライン20に対する整流素子26のアノードの電位)はほぼゼロボルトであり、整流素子26は、出力電圧Voが逆方向に印加されて非導通となる。そして、出力ライン24、充電用ダイオード42、抵抗48、エネルギー蓄積コンデンサ44、主スイッチング素子22の経路に電流が流れ、エネルギー蓄積コンデンサ44の両端電圧VcがVc≒Voとなり、エネルギーが蓄積される。また、電圧Vc(グランドライン20に対するエネルギー蓄積コンデンサ44の一端の電位)も、Vb=Va+Vc≒Voとなる。スイッチ素子54は、時間T1以前の状態と同様に、オフを継続する。
【0037】
時間T1のタイミングで主スイッチング素子22がオフに転じると、電圧Vaが所定の傾きで上昇し始め、電圧Vcが保持されたまま電圧Vbが上昇し、充電用ダイオード42は、逆電圧が印加されて非導通となる。その後、エネルギー供給回路56のダイオード56aが速やかに導通し、コンデンサ56bに電圧Vcを降圧した電圧が発生し、スイッチ素子54のゲートにエネルギー蓄積コンデンサ44のエネルギーが供給される(ゲートソース間に電圧Vdが供給される)。この電圧Vdは、スイッチ素子55のゲート閾値電圧Vthよりも高くなるように設定されており、電圧Vdが供給されるとスイッチ素子54がオンする。また、電圧Vcは、エネルギー蓄積コンデンサ44のエネルギーが放出されることによって、徐々に低下する。
【0038】
そして、電圧Vaが出力電圧Voを僅かに超えた時(時間T2)、整流素子26が導通し、整流素子26の電流Ifの波形に示すように、インダクタ18、整流素子26、スイッチ素子54、出力ライン24、出力コンデンサ28の経路にスッチング電流が流れる。その後間もなく、電圧Vcがほぼゼロボルトまで低下するが、ダイオード56aがコンデンサ56bからの逆流を阻止するので、スイッチ素子54のゲートソース間には、コンデンサ56bから電圧Vd(>Vth)が供給され続ける。そして、スイッチ素子54は、少なくとも整流素子26が導通してスイッチング電流が流れている間、オンを継続し、限流素子36の両端が短絡状態に保持される。そのため、限流素子36にスイッチング電流が流れて大きい損失が発生する状況にはならない。
【0039】
その後、時間T2になって主スイッチング素子22がオンに転じると、電圧Vaがほぼゼロボルトになるので、整流素子26は逆電圧が印加されて非導通となる。そして、エネルギー蓄積コンデンサ44が再び充電されて、電圧Vc≒Voとなる。スイッチ素子54は、ゲートソース間電圧Vd<Vthになった時にオフする。なお、スイッチ素子54がオフするのは、整流素子26にスイッチング電流が流れていない時なので、限流素子36に大きい損失が発生する状況にはならない。
【0040】
その後、時間T3になって主スイッチング素子22がオンに転じると、上述した時間T1以降の動作が繰り返され、出力電圧Voが目標値に向かって上昇していく。
【0041】
以上説明したように、スイッチング電源装置50によれば、上記のスイッチング電源装置10と同様の効果を得ることができる。また、スイッチング電源装置50の場合、スイッチ素子54がMOS型FETであり、オン時の電圧降下がサイリスタよりも小さいので、スイッチング電流が流れた時に発生する損失をさらに低減することができ、定常動作時の電源効率をさらに向上させることができる。
【0042】
次に、本発明のスイッチング電源装置の第三の実施形態について、図5に基づいて説明する。ここで、上記のスイッチング電源装置10と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0043】
この実施形態のスイッチング電源装置58は、上記のスイッチング電源装置10の構成に、サージエネルギー伝送回路60を追加したものである。サージエネルギー伝送回路60は、入力ライン16に外来のサージ電圧Vsが加わった時、このサージ電圧Vsのエネルギーをエネルギー供給回路46に伝送する回路である。そして、エネルギー供給回路46は、このエネルギーをスイッチ素子38の駆動端子に供給することによって、スイッチ素子38をオンさせる動作を行う。外来のサージ電圧Vsは、例えば雷サージ等のエネルギーによって発生するサージ電圧のことで、状況によってはピーク値が数キロボルト以上にもなる。
【0044】
図5に示すように、サージエネルギー伝送回路60は、入力ライン16とエネルギー供給回路46の入力(充電用ダイオード42のカソード)との間に接続された、コンデンサ62及び抵抗48の直列回路により構成される。ここでは、スイッチ素子駆動回路40の抵抗48が、エネルギー伝送回路60の抵抗48として兼用されている。
【0045】
次に、スイッチング電源装置58の動作を説明する。入力電源30の商用交流電圧Eが投入された時の動作は、スイッチング電源装置10とほぼ同じで、追加されたエネルギー供給回路60は、この動作にほとんど影響しない。
【0046】
サージエネルギー伝送回路60は、入力ライン16にサージ電圧Vsが発生した時に機能する。まず、サージエネルギー伝送回路60がない場合(コンデンサ62がない場合)について説明すると、入力ライン16にサージ電圧Vsが発生した時、サージ電圧Vsのエネルギーが電流として放出される経路(すなわち、比較的インピーダンスが低い経路)として、入力ライン16,インダクタ18、整流素子26,限流素子36を通じて出力コンデンサ28に至る経路がある。しかしながら、限流抵抗36によって放出電流が制限されるため、入力ライン16に発生するサージ電圧Vsは非常に高い電圧になってしまい、入力ライン16の周辺に接続された整流回路32、主スイッチング素子22、スイッチ素子38等に過大なストレスが加わり、破損してしまう可能性がある。
【0047】
これに対して、サージエネルギー伝送回路60(コンデンサ62)を設けると、サージ電圧Vsのエネルギーの一部が、サージエネルギー伝送回路60を通じてエネルギー供給回路46に伝送され、エネルギー供給回路46が、そのエネルギーをスイッチ素子38の駆動端子に供給してスイッチ素子38をオンさせ、限流素子36の両端を速やかに短絡する。そうすると、サージ電圧Vsのエネルギーを放出できる経路のインピーダンスが十分に小さくなり、サージ電圧Vsのエネルギーの多くが速やかに出力コンデンサ28に放出される。その結果、入力ライン16に発生するサージ電圧Vsが一定以下の低い電圧に抑えられ、整流回路32、主スイッチング素子22、スイッチ素子38等が安全に保護される。
【0048】
以上説明したように、スイッチング電源装置58によれば、上記のスイッチング電源装置10と同様の効果を得ることができ、さらに、サージエネルギー伝送回路60を設けているので、入力ライン16に外来のサージ電圧Vsが発生した時、内部の回路素子を安全に保護することができる。
【0049】
次に、本発明のスイッチング電源装置の第四の実施形態について、図6に基づいて説明する。ここで、上記のスイッチング電源装置10と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0050】
この実施形態のスイッチング電源装置64は、上記のスイッチング電源装置10の構成を少し変更したもので、具体的には、充電用ダイオード42のアノードを、出力ライン24に接続するのではなく、直流電源66の出力端に接続する構成にしたものである。直流電源66は、例えば、主スイッチング素子22のスイッチング動作を制御する制御回路68に電源電圧Vccを供給するための直流電源等である。
【0051】
上記のスイッチング電源装置10の場合、エネルギー蓄積コンデンサ44に蓄積されるエネルギーは、出力ライン24(出力コンデンサ28)から充電用ダイオード42を通じて供給されるのに対し、スイッチング電源装置64の場合は、直流電源66から充電用ダイオード42を通じて供給されるという違いがある。しかしながら、エネルギー蓄積コンデンサ44は、主スイッチング素子22がオンの期間にエネルギーが蓄積される点や、エネルギー供給回路46は、主スイッチング素子22がオフした時、エネルギー蓄積コンデンサ44のエネルギーを用いてスイッチ素子38をオンさせる点は、同様である。
【0052】
このように、スイッチング電源装置64の突入電流制限回路14の動作は、スイッチング電源装置10の突入電流制限回路14の動作と基本的に同じであり、スイッチング電源装置64においても、スイッチング電源装置10と同様の効果を得ることができる。
【0053】
なお、本発明のスイッチング電源装置は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、図1に示すエネルギー供給回路46内部の回路構成は、スイッチ素子がサイリスタのときに好適な回路構成の一例を示したものであり、サイリスタの性能や出力電圧Voの値等に応じて適宜変更することができる。同様に、図3に示すエネルギー供給回路56内部の回路構成は、スイッチ素子がNチャネルのMOS型FETのときに好適な回路構成の一例を示したものであり、MOS型FETの性能や出力電圧Voの値等に応じて適宜変更することができる。また、スイッチ素子は、オンのタイミングを外部制御可能にする駆動端子を備えたものであれば、サイリスタやMOS型FET以外の素子に変更してもよく、例えば、トライアック、バイポーラトランジスタ、IGBT等を使用することができる。
【0054】
上記スイッチング電源装置58の場合、サージエネルギー伝送回路60の一端が入力ライン16に接続されているが、サージエネルギー伝送回路の一端を接続する位置は昇圧チョッパ回路12の前段であればよく、例えば整流回路32の入力端に接続することも可能であり、同様の作用効果が得られる。また、サージエネルギー伝送回路は、昇圧チョッパ回路の前段に発生した外来のサージ電圧のエネルギーをエネルギー供給回路に伝送可能なものであればよく、上記のエネルギー伝送回路60(コンデンサ62及び抵抗48の直列回路)の構成に限定されない。
【0055】
その他、本発明のスイッチング電源装置は、整流回路32が内蔵されたAC入力型のスイッチング電源装置に限定されず、整流回路32を有しないDC入力型のスイッチング電源装置でもよく、同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0056】
10,50,58,64 スイッチング電源装置
12 昇圧チョッパ回路
14,52 突入電流制限回路
16 入力ライン
18 インダクタ
20 グランドライン
22 主スイッチング素子
24 出力ライン
26 整流素子
28 出力コンデンサ(直流電源)
36 限流素子
38,54 スイッチ素子
40 スイッチ素子駆動回路
42 充電用ダイオード
44 エネルギー蓄積コンデンサ
46,56 エネルギー供給回路
60 サージエネルギー伝送回路
66 直流電源
E 商用交流電圧
Vi 入力電圧
Vo 出力電圧
Vs 外来のサージ電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6