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特許7315703組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子、組換えベクター及びそれを含む宿主細胞、並びに薬物組成物及びその応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子、組換えベクター及びそれを含む宿主細胞、並びに薬物組成物及びその応用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20230719BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230719BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20230719BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20230719BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230719BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230719BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230719BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20230719BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230719BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20230719BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/861 Z
C12N15/867 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P35/00
A61K35/12
A61K48/00
C07K14/705
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021560752
(86)(22)【出願日】2018-12-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-22
(86)【国際出願番号】 CN2018123049
(87)【国際公開番号】W WO2020132789
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】521276814
【氏名又は名称】黄 ▲海▼▲東▼
(73)【特許権者】
【識別番号】521276021
【氏名又は名称】周 ▲瀟▼▲藝▼
(73)【特許権者】
【識別番号】521276032
【氏名又は名称】▲陳▼ ▲漢▼▲強▼
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】黄 ▲海▼▲東▼
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0154313(US,A1)
【文献】特開2017-035086(JP,A)
【文献】特表2006-523711(JP,A)
【文献】Molecular Medicine Reports,2016年,Vol. 14,pp. 943-948
【文献】Accession No. NM_025240.2,Database GenBank [online],2018年12月23日,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/67188430?sat=47&satkey=3542347
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子であって、
前記遺伝子は、配列番号1で示されるヌクレオチド配列を有することを特徴とする組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子。
【請求項2】
ベクターと、前記ベクターによって携帯される標的遺伝子とを含む、組換えベクターであって、
前記標的遺伝子は、請求項1に記載の組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子であることを特徴とする組換えベクター。
【請求項3】
前記ベクターは、クローニングベクター、真核発現ベクター、原核発現ベクター、及びシャトルベクターからなる群から選択されることを特徴とする請求項2に記載の組換えベクター。
【請求項4】
前記ベクターは、pIRES2-EGFP、pCMVp-NEO.BAN、pEGFT-アクチン、レンチウイルスベクター、及びアデノウイルスベクターからなる群から選択されることを特徴とする請求項2に記載の組換えベクター。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか1項に記載の組換えベクターを含有する宿主細胞。
【請求項6】
前記宿主細胞は、239T細胞及びSHG44細胞から選択される1つ又は複数であることを特徴とする請求項5に記載の宿主細胞。
【請求項7】
薬学的に許容可能な賦形剤と、
請求項1に記載の組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子、請求項2から4のいずれか一項に記載の組換えベクター、又は請求項5から6のいずれか一項に記載の宿主細胞と、野生型ヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子とを1:1の割合で混合した混合物
を含むことを特徴とする薬物組成物。
【請求項8】
前記薬物組成物は、注射液であることを特徴とする請求項7に記載の薬物組成物。
【請求項9】
癌を予防又は治療する薬物の製造における、請求項1に記載の組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子、請求項2から4のいずれか一項に記載の組換えベクター、又は請求項5から6のいずれか一項に記載の宿主細胞と、野生型ヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子とを1:1の割合で混合した混合物使用
【請求項10】
前記癌は、肝臓癌、肺癌、前立腺癌、膵臓癌、小腸癌、結腸癌及び子宮頸癌であることを特徴とする請求項9に記載の使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝工学分野に関し、特にヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子及びそれによってコードされるタンパク質、組換えベクター及びそれを含む宿主細胞、並びに薬物組成物及びその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞の活性化には2つの異なるシグナルが必要である。一つ目のシグナルは、TCRと抗原ペプチド-MHC複合体との相互作用から生じ、二つ目のシグナルは、APC上のB7ファミリー分子とT細胞上のそのリガンドCD28ファミリー分子との結合、例えば、B7-1B7-2とCD28及びCTLA-4との結合によって生成される共刺激シグナルから生じるが、当該経路はクラシックのB7経路と称される。
【0003】
ヒトB7-H3遺伝子は、最初、Chapoval等によってヒト樹状細胞のcDNAライブラリーから発見されたが、その構造がB7ファミリーの遺伝子に似ているため、B7Homolog 3と命名され、B7-H3と略称されている。ヒトB7-H3遺伝子は、I型膜貫通型糖タンパク質であって、免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、アミノ酸配列においてB7ファミリーの他のメンバーと細胞外で20~27%の相同性がある。
【0004】
B7-H3は、広範囲に発現される。B7-H3は、転写レベルでは、大多数の組織で発現され、タンパク質レベルでは、例えば、ヒトの肝臓、肺、膀胱、精巣、前立腺、乳房、胎盤及びリンパ器官などの少数の組織でのみ発現される。遺伝子(mRNA)レベルとタンパク質水平レベルとでのB7-H3の発現の違いは、分子の転写後調節と関連している可能性がある。
【0005】
B7-H3は、抗原特異的体液免疫過程でリンパ球の増殖を調節できることに加えて、免疫調節分子でもある。近年、B7-H3は、多くの腫瘍細胞においても重要な臨床的意義を持っていることが発見され、即ち、抗腫瘍性の調節因子である可能性がある。
【0006】
ヒトB7-H3遺伝子は、第15染色体に位置付けられており、タンパク質は、体内で2IgB7-H3と4IgB7-H3との2つの異なる形態のスプライセオソームを有する。2IgB7-H3の細胞外セグメントは、IgV-IgCの2つの免疫グロブリンドメインから構成される。出願人は、研究を通じて、2IgB7-H3の遺伝子の突然変異と抗腫瘍性との相関性を発見したがっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2018/017708
【文献】WO2017/222593
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする技術的課題は、ヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子及びそれによってコードされるタンパク質、組換えベクター及びそれを含む宿主細胞、並びに薬物組成物及び応用を提供することである。前記ヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子は、癌の治療のための新しい方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、配列番号1で示されるヌクレオチド配列を有する、組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子を開示する。
本発明は、ヒト2Ig-B7-H3タンパク質を開示する。前記ヒト2Ig-B7-H3タンパク質のコーディング遺伝子は、前記組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子である。
【0010】
本発明は、ベクターと、前記ベクターによって携帯される標的遺伝子とを含み、前記標的遺伝子は、上記の技術方案に記載の組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子である、組換えベクターを開示する。
【0011】
好ましくは、前記ベクターは、クローニングベクター、真核発現ベクター、原核発現ベクター、及びシャトルベクターからなる群から選択される。
【0012】
本発明は、賦形剤と、上記の技術方案に記載のヒト2Ig-B7-H3タンパク質及び組換えベクターから選択される1つ又は複数とを含む、薬物組成物を開示する。
【0013】
好ましくは、前記薬物組成物は、注射液である。前記注射液は、薬学的に許容可能な賦形剤と、上記の技術方案に記載の組換えベクターから選択される1つ又は複数とを含む。
【0014】
本発明は、癌を予防又は治療する薬物の製造における、上記の技術方案に記載の組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子の応用を開示する。
【0015】
先行技術に比べ、本発明は、組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子及びそれによってコードされるタンパク質、組換えベクター及び前記遺伝子又はタンパク質を含む薬物組成物を提供する。本発明に係る遺伝子によってコードされるタンパク質の調節的発現、相互作用及びシグナル伝達は、腫瘍免疫応答過程において極めて重要な役割を果たし、特に、癌の予防及び治療のための有益で新しい方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】293T細胞のフローサイトメトリーデータの分析結果を示す図面である。
図2】SHG44細胞のフローサイトメトリーデータの分析結果を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本開示の例示的な実施例をより詳細に説明する。図面に本開示の例示的な実施例が示されているが、本開示は様々な形態で実施され得、本明細書に記載の実施例によって限定されるべきではないことを理解されたい。それどころか、これらの実施例は、本開示をより徹底的に理解できるようにし、かつ当業者に本開示の範囲を完全に伝達できるようにするために提供される。
【0018】
本発明の実施例は、組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子を提供する。前記遺伝子は、配列番号1で示されるヌクレオチド配列である。
【0019】
前記組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子は合計2765個の塩基を含み、5’末端の1488番目のCをTに部位特異的置換する
【0020】
本発明は、ヒト2Ig-B7-H3タンパク質を開示する。前記ヒト2Ig-B7-H3タンパク質のコーディング遺伝子は、前記組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子である。
【0021】
当技術分野で周知のように、タンパク質を構成する20種類の異なるアミノ酸のうち、Met(ATG)又はTrp(TGG)がそれぞれ単一コドンによってコードされるのを除いて、他の18種類のアミノ酸は、それぞれ2~6つのコドンによってコードされる(Sambrook等、分子クローニング、米国ニューヨーク州コールドスプリングハーバーラボラトリー出版社、第2版、1989年、第950ページの付録Dを参照)。即ち、遺伝コドンの縮重により、一つのアミノ酸を決定するコドンの多くは1つにとどまらず、トリプレットコドンの3番目のヌクレオチドの置換は、アミノ酸の組成を変更しない場合が多いため、同じアミノ酸配列をコードするタンパク質のヌクレオチド配列は異なってもよい。当業者は、周知のコドン表によって、本発明に開示される配列番号1で示されるヌクレオチド配列から生物学的方法(PCR法、点突然変異法など)又は化学合成法により前記ヌクレオシド配列を得て、組換え技術及び遺伝子治療に応用できるため、該部分の塩基配列は全て本発明の範囲に含まれるべきである。逆に、本明細書に開示されるDNA配列の利用は、例えば、Sambrook等による方法(分子クローニング、米国ニューヨーク州コールドスプリングハーバーラボラトリー出版社、第2版、1989年)などの当技術分野で公知されている方法により、本発明が提供するヌクレオチド配列を修正することで行われても良い。
【0022】
本発明の実施例は、ベクターと、前記ベクターによって携帯される標的遺伝子とを含み、前記標的遺伝子は、上記の技術方案に記載の組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子である、組換えベクターを開示する。
【0023】
標的遺伝子は、例えば、前記1つ又は複数の標的遺伝子の発現のためのプロモーター、ターミネーター及びエンハンサーのような、調節配列を更に含んでもよい。前記標的遺伝子は、マーカー遺伝子(例えば、β-ガラクトシダーゼ、緑色蛍光タンパク質又は他の蛍光タンパク質をコードする遺伝子)又はその生成物が他の遺伝子の発現を調節する遺伝子を含んでもよい。前記標的遺伝子は、DNAのほか、mRNA、tRNA又はrRNAであってもよいし、また、例えば、転写終止シグナル、ポリアデニル化部位及び下流エンハンサー要素のような、通常転写配列に関連する関連転写調節配列を更に含んでもよい。
【0024】
前記ベクターは、当技術分野で常用される標的遺伝子を携帯できる様々なベクター、及び技術発展改良により利用可能な標的遺伝子を携帯できる様々なベクターであり得る。前記ベクターは、例えば、プラスミド(裸のDNA)、リポソーム、分子カプラー、ポリマー及びウイルスである。
【0025】
前記プラスミド(裸のDNA)は、標的遺伝子を携帯でき、標的遺伝子を携帯した当該プラスミドは、組織細胞内に直接注射するか、或いは遺伝子銃、エレクトロポレーション及び電気融合技術によって導入することができる。さらに、超音波はプラスミドの転移効率を改善するのに役立つ。超音波とマイクロバブルエコー造影剤との組み合わせにより細胞膜の透過性を高めることができ、したがって裸のDNAの転移及び発現効率を著しく向上させる。この細胞膜透過技術は、細胞膜の表面に瞬時に小さな孔を作り、DNAはその機に乗じて細胞内に入る。
【0026】
前記リポソームは、脂質二分子層からなる粒子であり、標的遺伝子が細胞膜を貫通するのを媒介することができる。前記脂質は、卵黄及び大豆に由来する、レシチン(ホスファチジルコリン、PC)を主とする天然のリン脂質であってもよいし、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)等の合成リン脂質であってもよいし、またコレステロールを更に含有してもよい。好ましくは、リポソームは陽イオンリポソームであって、主に正電荷を帯びる脂質と中性補助脂質とが等モルで混合されてなる。当該正電荷を帯びるリポソームと負電荷を帯びるDNAとは、効果的に複合体を形成しでき、エンドサイトーシス作用によって細胞内に移入される。
【0027】
前記ポリマーは、カチオン性ポリマーを利用し、例えば、ポリ-L-リジンにおける正電荷とDNAにおける負電荷とが結合されて電気的中和グアニジンが生成されることによって、安定的なポリマー/DNA複合体を形成する。得られたカチオン性ポリマーとDNAの複合体は、依然として正電荷を帯び、細胞表面の負電荷を帯びる受容体と結合して、細胞内に浸透される。
【0028】
前記分子結合体は、標的遺伝子の外来性DNAを細胞表面の特異的受容体のリガンド又はモノクローナル抗体又はウイルス膜タンパク質に共有結合させるものであり、特異的結合特性を利用して、外来性遺伝子が特定のタイプの細胞内に導入されるのを媒介する。
【0029】
ウイルスは、通常、特定の細胞に高い効率で侵入して、自身のタンパク質を発現し、新しいウイルス粒子を生成できる。したがって、改変されたウイルスは、最初に遺伝子治療用のベクターとなる。例えば、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、及び単純ヘルペスウイルスベクター等が挙げられる。
【0030】
用語「発現ベクター」とは、組換えポリヌクレオチドを含むベクターであり、当該組換えポリヌクレオチドは、発現すべきヌクレオチド配列に操作的に連結される発現制御配列を含む。発現ベクターには、組換えポリヌクレオチドに導入されたコスミド、プラスミド(例えば、裸の又はリポソームに含まれるプラスミド)及びウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ関連ウイルス)を含む、当技術分野で既知のすべての発現ベクターが含まれる。
【0031】
用語「レンチウイルス」は、レトロウイルス科に属する。レンチウイルスは、分裂期の細胞及び非分裂期の細胞を感染させることができる。レンチウイルスに感染すると、大量の遺伝情報が宿主細胞に伝達され、長期間にわたって持続的かつ安定的に発現させるとともに、細胞分裂によって安定的に遺伝することができる。したがって、レンチウイルスは外来遺伝子を導入する最も効果的なツールの一つである。レンチウイルスの例には、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、馬伝染性貧血(EIA)、及び猫免疫不全ウイルス(FIV)が含まれる。
【0032】
レンチウイルスベクターは、外来遺伝子を宿主染色体に効率的に統合させ、持続的な発現を達成することができる。感染能力の面では、神経細胞、肝細胞、心筋細胞、腫瘍細胞、内皮細胞、幹細胞などの多くの種類の細胞に効率的に感染して、良好な遺伝子治療効果を達成することができる。
【0033】
好ましくは、本発明は、レンチウイルスベクターを用いる。
【0034】
本発明は、本発明に係る組換えベクターを含有する宿主細胞を更に提供する。本発明者による組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子を含有する組換えベクターを宿主体内形質転換させることで、組換えベクターと腫瘍細胞発現との間の関係を研究するために用いられる。好ましくは、前記宿主は、大腸菌、239細胞及びSHG44細胞から選択される1つ又は複数である。そのうち、遺伝子組み換え菌としての大腸菌は、本発明に係る組換えクローニングベクターを含むことで、本発明に係る組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子の増幅を実現しても良く、本発明に係る組換え発現ベクターを含有することで、本発明に係るヒト組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子の大量発現を実現しても良い。前記組換えベクターが組換えアデノウイルスベクターである場合、当該ベクターは、SHG44及び239細胞において増幅され得る。
【0035】
本発明の実施例は、賦形剤と、上記の技術方案に記載のヒト2Ig-B7-H3タンパク質及び前記組換えベクターから選択される1つ又は複数とを含む、薬物組成物を開示する。
【0036】
前記薬学的に許容可能な賦形剤とは、無毒固体、半固体状又は液状充填剤、希釈剤、カプセル化材料又は他の製剤補助材料を指し、例えば、食塩水、緩衝食塩液、グルコース、水、グリセリン、エタノール及びそれらの混合物を含むが、これらに限定されない。前記薬物組成物は、非経口、舌下、脳槽内、膣内、腹膜内、直腸内、頬内又は表皮投与に適している。
【0037】
非経口投与には、静脈内、筋肉内、腹膜内、胸骨内、皮下、関節内注射及び注入が含まれる。非経口投与に適した薬物組成物には、無菌水溶液又は非水溶液、分散液、懸濁液又は乳液、及び使用直前に無菌の注射可能溶液又は分散液で製造される粉末が含まれる。適切な水性又は非水性ベクター、希釈剤、溶剤又は賦形剤には、水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、植物油、及びオレイン酸エチルのような注射可能な有機エステルが含まれる。これらの組成物は、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、保護剤、及びイノシトール、ソルビトール、スクロースのような分散補助剤を更に含有してもよい。糖類、塩化ナトリウム、塩化カリウムのような浸透圧調節剤を加えることが好ましい。
【0038】
表皮投与には、皮膚、粘膜上、並びに肺及び眼表面への投与が含まれる。このような薬物組成物には、粉末剤、軟膏、点滴剤、経皮パッチ、イオントフォレーシス装置、及び吸入剤等が含まれる。直腸又は膣投与用の組成物は、好ましくは、坐剤であり、カカオ脂、ポリエチレングリコール又は坐剤ワックスのような適切な非刺激性賦形剤と混合することによって製造することができる。前記賦形剤又はベクターは、室温では固体であり、体温下では液状であるため、直腸又は膣管内で溶けて活性化合物を放出する。
【0039】
好ましくは、前記薬物組成物は、注射液である。前記注射液は、薬学的に許容可能な賦形剤と、本発明に係るヒトグルコキナーゼ突然変異体コーディング遺伝子及び本発明に係る組換えベクターから選択される1つ又は複数とを含む。
【0040】
好ましくは、前記薬物組成物は、注射液である。前記注射液は、薬学的に許容可能な賦形剤と、上記の技術方案に係る組換えベクターから選択される1つ又は複数とを含む。
【0041】
本発明の実施例は、癌を予防及び治療する薬物の製造における、上記の技術方案に係る組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子の応用を開示する。
【0042】
マウスのいくつかの腫瘍細胞株にて異所性発現させた後、腫瘍特異的細胞毒性Tリンパ球活性化を誘導することで、癌細胞の成長を遅らせ、ひいては腫瘍を完全に除去することができる。トランスフェクトされた癌細胞株をマウスに移植した後、マウスの生存期間を顕著に延ばすことができる。
【0043】
以下、実施例を通じて本開示の技術方案をさらに説明する。当業者は、前記実施例が本開示の理解を助けることのみを意図しており、本開示に対する具体的な限定と見なされるべきではないことを理解すべきである。
【0044】
当分野の通常の知識を有する者が本開示の特徴及び効果を理解できるようにするために、以下では、明細書及び特許出願範囲で言及される用語及び術語に対して一般的な説明及び定義がなされる。別段の指定がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、当業者により本開示に対して理解される通常の意味を有する。矛盾がある場合は、本明細書に係る定義に従うべきである。
【0045】
下記の実施例で使用される実験方法は、特に説明がない限り、いずれも従来の方法である。
【0046】
以下の実施例で使用される材料、試薬などは、特に説明がない限り、いずれも商業的に入手可能なものである。
【実施例
【0047】
実施例1
ヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子
組み換えヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子は合計2765個の塩基を含み、5’末端の1488番目のCをTに部位特異的置換する
【0048】
実施例2
組換えベクター構築
pIRES2-EGFPベクターのNHeIとNotI制限酵素切断部位の間に、配列表の配列番号1で示されるヌクレオチド配列を挿入して、組換えプラスミドpIRES2-EGFP/2Ig-B7-H3を得る。
【0049】
ステップ1:LipofectamineTM2000カチオン性リポソームトランスフェクションキットを使用し、キットの説明書に従って操作し、組換えプラスミドpIRES2-EGFP/2Ig-B7-H3を239T細胞に導入して、組換え細胞を得る。
【0050】
ステップ2:ステップ1で得られた組換え細胞を、5%(体積比)のウシ胎児血清を含有するDMEM/F12培地に接種した後、37℃、5%のCOのインキュベーター内で48時間培養してから、上清を収集する。
【0051】
ステップ3:ステップ2で得られた上清を取り、0.45μmのフィルター膜で濾過し、濾液を収集し、その後、pHを7.4に調整する。
【0052】
ステップ4:ステップ3で得られた濾液をアフィニティークロマトグラフィーで精製する。
【0053】
平衡化バッファーは、0.5M NaClを含有するpH7.4、0.5MのTris-HClバッファーであり、
溶離液は、pH3.0、0.1MのGly-HClバッファーである。
【0054】
先ず、平衡化バッファーで3つのカラムボリュームを洗浄した後、溶離液でターゲットを洗浄し、流速は、いずれも5mL/minとする。
【0055】
A280nmにより紫外線吸収ピークを検出する。
【0056】
コレクションチューブを用いてターゲットピークを収集した後、コレクションチューブ内の溶液を透析バッグに移し、pH7.4、0.01MのPBSバッファーの中で透析して、ヒト2Ig-B7-H3タンパク質を得る。
【0057】
実施例3
細胞表面におけるヒト2Ig-B7-H3タンパク質コーディング遺伝子の発現
細胞表面における2IgB7-H3の発現を検出するために、実施例2で得られたベクター及びネガティブコントロールレンチウイルスでSHG44、293T細胞を感染させた。感染後に細胞を収集し、細胞表面での2IgB7-H3の発現をフローサイトメトリーで検出する。
【0058】
1.材料及び器具
ターゲット細胞:SHG44、293T
培地:DMEM+10%FBS+1%P/S
フローサイトメトリー試薬:2IgB7-H3フローサイトメトリー抗体(ヒト)
フローサイトメトリー器具:BD FASAriaセルソーター。
【0059】
2.実験手順
1)細胞の培養:
実施例2で得られたベクター及びネガティブコントロールレンチウイルスで感染させたSHG44及び293T細胞を5% CO2、37℃の二酸化炭素インキュベーター内で培養する。
【0060】
2)細胞への感染:
(1)対数増殖期にあるSHG44、293T細胞をトリプシン消化させ、細胞懸濁液を作る。
【0061】
(2)SHG44、293T細胞懸濁液を6ウェルプレートに接種し、5% CO、37℃の二酸化炭素インキュベーターで一晩培養する。
【0062】
(3)ウイルス力価に応じて、実施例2で製造されたベクター及びネガティブコントロールウイルスを各ウェルに適量加える。SHG44のMOIは100であり、293TのMOIは2であり、実験の群分けは、次のとおりである。
【表1】
【0063】
感染してから48時間後、写真を撮り、記録する。
【0064】
3)細胞染色及びフローサイトメトリー検出
i)培地を除去し、PBSで2回洗浄し、底面壁に付着された細胞をトリプシンで消化し、細胞を収集し、1000rpmで5分間遠心する。
【0065】
ii)上清を除去し、1ml PBSで細胞を再懸濁し、1000rpmで5分間遠心する。
【0066】
iii)上清を除去し、サンプルごとに500ulのPBSで細胞を再懸濁し、軽く均一に吹く。
【0067】
iv)各グループに2IgB7-H3フローサイトメトリー抗体及びアイソタイプコントロールを加え、軽く均一に混ぜる。
【0068】
v)日陰で4℃で30分間インキュベートする。
【0069】
vi)1000rpmで5分間遠心し、上清を除去し、1ml PBSで細胞を再懸濁する。
【0070】
vii)1000rpmで5分間遠心し、上清を除去し、500ulのPBSで細胞を再懸濁する。
【0071】
viii)機器に載せてフローサイトメトリー検出を行う。
【0072】
4.実験結果
フローサイトメトリーデータ分析
293T細胞のフローサイトメトリーデータ分析結果は、図1に示す通りである。
【0073】
SHG44細胞のフローサイトメトリーデータ分析結果は、図2に示す通りである。
【0074】
5.結論
結果から分かるように、抗原提示細胞293T及びSHG44細胞のWT+MT群のCD276の平均蛍光強度は、いずれもWT群及びMT群よりも高く、即ち、WT群及びMT群のCD276の発現量が比較的高い。
【0075】
実施例4
抗癌における応用
液体窒素で凍結保存したマウス肝臓癌H22細胞を37℃のウォーターバスで素早く解凍し、細胞密度を1×10/mLに調整し、2匹のBALB/cマウスに0.2mLずつ腹腔内接種する。
【0076】
マウスの腹部が膨らんだ後、マウスを頸椎脱臼により殺し、腹部を消毒し、腹水を抽出して合併し、PBSで細胞密度を1×10/mLに調整し、20匹のBALB/cマウスに対して1匹ごとに0.2mL皮下接種する。12日後、マウスを1群ごとに10匹として2つの群に分けて、以下の処理を行う。
【0077】
第1群:処理せず、いかなる治療薬物も接種しない。
【0078】
第2群:ヒト2Ig-B7-H3タンパク質を腹部皮下注射し、3回免疫する(毎回に0.2mL)。1回の免疫用量は、20ug/匹である。
【0079】
腫瘍細胞接種後12日目に一回目の免疫を行い、15日目に2回目の免疫を行い、18日目に3回目の免疫を行う。
【0080】
免疫後2日目から、毎日腫瘍の成長状況を観察し、腫瘍の大きさを記録し、次の式に従って腫瘍の体積を計算する。V=ab/2(Vは体積であり、aは腫瘍の長径であり、bは腫瘍の短径である)。腫瘍体積の変化を表1に示す。
【表2】
【0081】
結果から分かるように、ヒト2Ig-B7-H3タンパク質は、皮下接種された誘導型肝臓癌モデルに対して明らかな治療作用を有する。ヒト2Ig-B7-H3タンパク質による治療後、皮下腫瘍の成長速度が顕著に低下し、腫瘍体積が小さくなった。
【0082】
実施例5
ヒト肺腺癌細胞PC-9を100mL/Lウシ胎児血清を含有するDMEM培地で培養し、1×10/mLの細胞濃度で円形ガラス底培養皿(Φ=35mm)に移植し、36℃、5%CO細胞インキュベーターで22時間培養した後、培養液を廃棄し、平均に10等分して、DMEM培地で溶解されたヒト2Ig-B7-H3タンパク質(12μM、氷浴で予冷)を加え(以下、「投薬」と略称)、氷浴及び日陰で2時間インキュベートした後、それぞれペプチド溶液を廃棄し、予冷したPBSで2回洗浄する。
【0083】
操作中、チューブリンの厚さ(即ち、マイクロチューブの壁の厚さ)の変化を観察及び記録する。観察結果が示す如く、10回の実験のすべてにおいて、ヒト肺腺癌細胞PC-9のチューブリンの厚さが薄くなる現象が現れたが、具体的な結果を表2に示す。表2から分かるように、投薬後のチューブリンの厚さは、投薬前の80%±2%であり、本発明に係るタンパク質が癌細胞のマイクロチューブ力学を破壊でき、癌細胞の増殖を阻む抗有糸分裂剤の役割を果たす(癌細胞の有糸分裂を減速又は阻む)ことを示している。
【表3】
【0084】
実施例6
実験対象は、臨床病期IVの肺腺癌患者である。前記合成ポリペプチドをpH7.4のPBS(Hyclone)溶液に溶解させ、濃度を2.5mg/mlに調整し、毎回上腕に200ug皮下注射した後、5%Aldaracream(iNova Pharmaceuticals Australia Pty Ltd.)で覆い、週に1回、12週間を1サイクルとする。それぞれELISAを用いて投薬前、投薬後3週目、7週目、及び11週目のIFN-γの分泌状況を検出し、具体的な実施例で用いられた合成ポリペプチド及び投薬前後のテスト結果を表3に示す。
【0085】
表3から分かるように、投薬後、T細胞により分泌されるIFN-γのレベルは明らかに増加する傾向があり、ひいては指数関数的成長の状況が現われた。これは、本発明に係るタンパク質の使用が肺腺癌患者の末梢血の腫瘍殺傷能力を向上できることを示しており、本発明の効果がさらに証明された。本発明により提供されるタンパク質が肺腺癌の治療に対して明らかな治療効果を有し、肺腺癌細胞との特異的結合により、癌細胞が樹状細胞を生成して抗原提示細胞を形成するように誘導し、ひいては体内でのキラーT細胞の生成を刺激することで、肺腺癌に対する治療を実現すると推測される。
【0086】
その後、肺腺癌患者の代わり、体内に癌細胞のないボランティアにより上記の試験を繰り返し、ELISAで投薬前、投薬後3週目、7週目、11週目のIFN-γの分泌状況を検出したところ、明らかな変動がなく、本発明の合成ポリペプチドが癌細胞のない有機体に対してIFN-γ分泌を刺激する作用がなく、毒性や副作用が少ないことが示されている。
【表4】
【0087】
上記の実施例の説明は、本発明の方法及びその核となる思想の理解を助けるためにのみ使用される。当業者にとって、本発明の原理から逸脱することなく、本発明に対していくつかの改良及び修飾を行うことができ、これらの改良及び修飾も本発明の特許請求の範囲の保護範囲内に収まることを指摘しておくべきである。
【0088】
開示された実施例の上記の説明は、当業者が本発明を実現又は使用できるようにする。これらの実施例に対する様々な修正は、当業者には明らかであり、本明細書で定義された一般的な原理は、本発明の精神又は範囲から逸脱することなく他の実施例で具現され得る。したがって、本発明は、本明細書に示された実施例に限定されるものではなく、本明細書に開示された原理及び新規な特徴と一致する最も広い範囲に符合すべきである。
図1
図2
【配列表】
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