(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】自動車を加熱する方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20230719BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
(21)【出願番号】P 2022022553
(22)【出願日】2022-02-17
【審査請求日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】10 2021 107 091.0
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510238096
【氏名又は名称】ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D-70435 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100202647
【氏名又は名称】寺町 健司
(72)【発明者】
【氏名】カイ セーレン ミューラー
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス ヴェンデ
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-165526(JP,A)
【文献】特開2014-108682(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0061128(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラクションモーターとして三相電気モーター(1)を含む自動車を加熱する方法であって、パルス制御インバータ(3)は、前記電気モーター(1)に電力を供給するために提供され、冷却剤回路(12)は、冷却剤を使用して前記電気モーター(1)及び前記パルス制御インバータ(3)を冷却するために提供され、前記冷却剤回路は、前記冷却剤を使用して、乗員室を加熱するための熱交換器及び/又は車両電池(13)に熱を供給する、方法において、前記電気モーター(1)が静止しているとき、正のd電流及び/又は負のd電流は、熱損失が生成される結果を伴ってd軸において制御され、前記熱損失は、前記冷却剤に導入されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電気モーター(1)は、前記d軸における前記d電流を供給され、且つ前記電気モーター(1)内及び前記パルス制御インバータ(3)内の両方において、廃熱として使用される熱損失を生成し、q軸におけるq電流は、ゼロに等しいことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記d電流が設定される結果として、前記自動車を推進し得るトルクが前記自動車の車輪に印加されないことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記電気モーター(1)からの前記熱損失は、前記電気モーター(1)の巻線からの電力損失として、且つ/又はラミネーション内の渦電流損失として生成され、並びに/或いは前記パルス制御インバータ(3)内の前記熱損失は、電力スイッチ及びフリーホイーリングダイオードからのオン状態損失として、且つ/又は前記電力スイッチがスイッチングされるときのスイッチング損失並びに/又は前記
電力スイッチの動作中のライン損失及び/若しくはDCリンクコンデンサ内の損失として生成されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記パルス制御インバータ(3)は、パワースイッチ及びフリーホイーリングダイオードを含む電子回路を有し、前記パワースイッチ及び前記フリーホイーリングダイオードを通した電流は、変調されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記パルス制御インバータ(3)は、ハイサイドパワートランジスタ(7)、ローサイドパワートランジスタ(8)、ハイサイドダイオード(9)及びローサイドダイオード(10)を有し、前記ハイサイドパワートランジスタ(7)及び前記ローサイドダイオード(10)を通した電流は、変調される方式で制御され、且つ/又は前記ローサイドパワートランジスタ(8)及び前記ハイサイドダイオード(9)を通した電流は、変調される方式で制御されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記パワートランジスタ(7、8)及びダイオード(9、10)を通した前記電流は、特に一定の振幅又は変調された振幅を有する方形波信号でパルス変調されることを特徴とする、請求項5又は6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車を加熱する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関を含む自動車では、内燃機関が稼働している際、乗員室及び/又は車両電池を加熱することができるように十分な廃熱が生成される。これらの可能性は、トラクションモーターとして電気モーターを含む自動車において利用可能ではない。しかし、電気モーター及び関連する電力電子回路によっても廃熱が生成され得る。この廃熱は、冷却剤回路を介して乗員室及び/又は車両電池を加熱するために使用され得る。この熱源は、結果として、自動車が静止しているときに利用可能ではない。なぜなら、電気モーターが停止しているとき、相応して電気モーターによっていかなる熱も生成されないからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、トラクションモーターとして電気モーターを含む自動車を加熱する方法を提供することである。この方法により、自動車が静止しているときでも乗員室及び/又は車両電池を加熱することが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的は、請求項1の特徴によって達成される。
【0005】
本発明の例示的な一実施形態は、トラクションモーターとして三相電気モーターを含む自動車を加熱する方法に関する。ここで、パルス制御インバータは、電気モーターに電力を供給するために提供される。ここで、冷却剤回路は、冷却剤を使用して電気モーター及びパルス制御インバータを冷却するために提供される。前記冷却剤回路は、冷却剤を使用して、乗員室を加熱するための熱交換器及び/又は車両電池に熱を供給する。ここで、電気モーターが静止しているとき、正のd電流及び/又負のd電流は、熱損失が生成される結果を伴ってd軸において制御される。前記熱損失は、冷却剤に導入される。結果として、自動車を推進する自動車駆動トルクが生成されることなく、電流を電気モーターに供給することができる。しかし、電流フィードにより、熱損失の生成が結果的にもたらされる。前記熱損失は、加熱のために使用され得る冷却剤に導入される。従って、提供される電気モーターは、この動作モードでは自動車を推進しないが、目標とされる電流フィードを使用することにより、熱源として使用され得る。
【0006】
例示的な一実施形態では、電気モーターは、d軸におけるd電流を供給され、且つ電気モーター内及びパルス制御インバータ内の両方において、廃熱として使用される熱損失を生成することも有利である。ここで、q軸におけるq電流は、ゼロに等しい。推進は、q電流に基づいてトルクを生成した結果としてのみ発生する。従って、いかなるq電流も伴わないd電流により、自動車が推進されず、それにも関わらず熱損失が生成される。「d電流」及び「q電流」という用語は、d/q変換に基づいて三相電気モーターを記述するためのd/q座標の観点における検討に由来する。d/q変換は、一般に、軸d及びqを有する二軸座標系に対する軸U、V、Wを有する、三相機械とも呼称される三相電気モーターの場合と同様に、三相値を転送するように機能する。
【0007】
更なる例示的な一実施形態では、d電流が設定される結果として、自動車を推進し得るトルクが自動車の車輪に印加されない場合に好都合である。従って、自動車が移動される必要性を伴うことなく、電力損失が誘発される。
【0008】
電気モーターからの熱損失は、電気モーターの巻線からの電力損失として、且つ/又はラミネーション内の渦電流損失として生成され、並びに/或いはパルス制御インバータ内の熱損失は、パワースイッチ及びフリーホイーリングダイオードからのオン状態損失として、且つ/又はパワースイッチがスイッチングされるときのスイッチング損失並びに/又はパワースイッチの動作中のライン損失及び/若しくはDCリンクコンデンサ内の損失として生成されることも有利である。
【0009】
更に、パルス制御インバータは、パワースイッチ及びフリーホイーリングダイオードを含む電子回路を有することも有利である。ここで、パワースイッチ及びフリーホイーリングダイオードを通した電流は、変調される。従って、望ましいd電流は、適切な加熱を実現し、且つ電気モーターを損傷しないように一時的に変調され得る。
【0010】
パルス制御インバータは、ハイサイドパワートランジスタ、ローサイドパワートランジスタ、ローサイドダイオード及びハイサイドダイオードを有することも有利である。ここで、ハイサイドパワートランジスタ及びローサイドダイオードを通した電流は、変調される方式で制御され、且つ/又はローサイドパワートランジスタ及びハイサイドダイオードを通した電流は、変調される方式で制御される。この個々の変調により、電気モーターが損傷することなく、定義された電流フィードによって加熱が実現されることが可能になる。
【0011】
パワートランジスタ及びダイオードを通した電流は、特に一定の振幅又は変調された振幅を有する方形波信号でパルス変調されることが好ましい。この個々の変調により、電気モーターが損傷することなく、定義された電流フィードによって加熱が実現されることが可能になる。
【0012】
以下では、例示的な一実施形態に基づいて且つ図面を参照して、本発明について詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による方法を示す、パルス制御インバータを有する電気モーターの相互接続の概略図を示す。
【
図2】電気モーターが停止しているときに熱損失を生成するための電気モーターの動作に関する概略図を示す。
【
図3】電気モーターが停止しているときに熱損失を生成するための代替方式での電気モーターの動作に関する概略図を示す。
【
図4】電気モーターが停止しているときに熱損失を生成するための代替方式での電気モーターの動作に関する概略図を示す。
【
図5】電気モーターが停止しているときに熱損失を生成するための代替方式での電気モーターの動作に関する概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1では、高電圧車両電気システム2及びパルス制御インバータ3によって電流が供給される三相機械としての電気モーター1を概略的に示す。この目的のために、電気モーター1の3つの個々の位相には、別個に制御される方式で電流Iを供給することができる。
【0015】
この場合、電気モーター1は、誘導型又はオーム型であり得る抵抗性コンポーネントを有する。これらについては、参照符号4及び5を参照されたい。
【0016】
その三相を有する電気モーター1を通した電流は、電流IU、IV及びIWが描写され得るように3次元座標系で図示され得る。d/q変換により、電流Id及びIqを伴う描写の利用も可能になる。
【0017】
パルス制御インバータ3は、パワースイッチモジュール6を有する。これらのパワースイッチモジュール6は、ハイサイドパワースイッチ7、ローサイドパワースイッチ8、ハイサイドダイオード9及びローサイドダイオード10を備える。この場合、パワースイッチは、MOSFETパワースイッチ又は
図1に示されるようにIGBTパワースイッチ11の形態を有することができる。この場合、ダイオードは、IGBTパワースイッチ11内に統合される。パワースイッチモジュール6は、本明細書では、2つのIGBTパワースイッチ11からなり得る。
【0018】
この場合、電気モーター1のトルクMは、複数の項を有する。1つの項では、Mの個々のトルク成分は、Id*Iqに比例する。また、他の項では、トルク成分は、Iqに比例する。これは、Iq=0であるとき、トルクMが伝達されないことを意味する。しかし、この場合、Idは、熱損失が誘発される結果を伴って非ゼロであり得る。
M~A*Id*Iq+B*Iq
ここで、係数A及びBは、以下の式により、極ペアの数p、永久磁石の磁束F及び/又はd/q軸におけるセカントインダクタンスSに比例する。
A=3/2*p*(Ss,d-Ss,q)及びB=3/2*p*F
【0019】
従って、自動車が停止している間の加熱を、Iq=0である動作点で使用することができる。
【0020】
従って、トラクションモーターとして三相電気モーター1を含む自動車を加熱する本発明による方法は、以下の方式を提供する。ここで、パルス制御インバータ3は、電気モーター1に電力を供給するために提供される。ここで、冷却剤回路12は、冷却剤を使用して電気モーター1及びパルス制御インバータ3を冷却するために提供される。前記冷却剤回路は、乗員室を加熱するための熱交換器及び/又は車両電池13に熱を供給するために冷却剤を使用する。この場合、車両電池13は、高電圧車両電気システム2の一部分である。
【0021】
電気モーター1が静止しているとき、正のd電流及び/又は負のd電流は、熱損失が生成される結果を伴ってd軸において制御される。前記熱損失は、冷却剤に導入される。これにより、車両電池13及び/又は乗員室を加熱することが可能になる。
【0022】
この場合、電気モーター1は、d軸におけるd電流を供給される。廃熱として使用される熱損失は、電気モーター内及びパルス制御インバータ内の両方で生成される。ここで、q軸におけるq電流は、ゼロに等しい。この場合、d電流をゼロに設定することにより、自動車を推進し得るトルクが自動車の車輪に印加されないことを保証する。
【0023】
電気モーター1からの熱損失は、電気モーター1の巻線からの電力損失として、且つ/又はラミネーション内の渦電流損失として発生し、並びに/或いはパルス制御インバータ3内の熱損失は、パワースイッチ7、8及びフリーホイーリングダイオードからのオン状態損失として、且つ/又はパワースイッチ7、8がスイッチングされるときのスイッチング損失並びに/又はパワースイッチ7、8の動作中のライン損失及び/若しくはDCリンクコンデンサ内の損失として発生する。
【0024】
図1によれば、パルス制御インバータ3は、パワースイッチ7、8及びフリーホイーリングダイオード9、10を含む電子回路を有する。ここで、パワースイッチ7、8及びフリーホイーリングダイオード9、10を通した電流は、変調される。
【0025】
図示の例示的な実施形態では、パルス制御インバータ3は、ハイサイドパワートランジスタ7、ローサイドパワートランジスタ8、ハイサイドダイオード9及びローサイドダイオード10を有する。ここで、ハイサイドパワートランジスタ7及びローサイドダイオード10を通した電流は、変調される方式で制御され、且つ/又はローサイドパワートランジスタ8及びハイサイドダイオード9を通した電流は、変調される方式で制御される。
【0026】
この場合、パワートランジスタ7、8及びダイオード9、10を通した電流は、特に一定の振幅又は変調された振幅を有する方形波信号でパルス変調され得る。
【0027】
【0028】
図2では、ハイサイドパワートランジスタ電流は、I
q=0であり、且つI
dが例えば644Aに等しいように、方形波信号としてのローサイドダイオード電流で交互に変調される。位相U、V、Wの電流I
PH,U、I
PH,V及びI
PH,Wも対応して示される。この場合、結果としてI
q=0であり、且つI
dが644Aであるように、I
PH,Uは、約644Aで常に正であり、電流I
PH,V及びI
PH,Wは、一定であり、且つ約-180A及び約-450Aで負である。
【0029】
図3では、ローサイドパワートランジスタ電流は、I
q=0であり、且つI
dが例えば-644Aに等しいように、方形波信号としてのハイサイドダイオード電流で交互に変調される。位相U、V、Wの電流I
PH,U、I
PH,V及びI
PH,Wも対応して示される。この場合、結果的にI
q=0であり、且つI
dが-644Aであるように、I
PH,Uは、約-644Aで常に負であり、電流I
PH,V及びI
PH,Wは、一定であり、且つ約180A及び約450Aで正である。
【0030】
図4では、ローサイドパワートランジスタ電流は、高周波方形波信号としてのハイサイドダイオード電流で交互に変調される。これは、I
q=0であり、且つI
dが方形波信号として+400A~-400Aで交互に変化するように、高周波方形波信号としてのローサイドダイオード電流で交互に変調されるハイサイドパワートランジスタ電流で交互に実現される。位相U、V、Wの電流I
PH,U、I
PH,V及びI
PH,Wも対応して示される。前記電流も、結果的にI
q=0であり、且つI
dが+400A~-400Aでジャンプするように、対応する方形波信号の形態を有する。
【0031】
図5では、ローサイドパワートランジスタ電流は、正弦波振幅を有する高周波信号としてのハイサイドダイオード電流で交互に変調される。これは、I
q=0であり、且つI
dが正弦波信号として+400A~-400Aで交互に変化するように、正弦波振幅を有する高周波信号としてのローサイドダイオード電流で交互に変調されるハイサイドパワートランジスタ電流で交互に実現される。位相U、V、Wの電流I
PH,U、I
PH,V及びI
PH,Wも対応して示される。前記電流も、結果的にI
q=0であり、且つI
dが+400A~-400Aで正弦波的に交互に変化するように、対応する正弦波信号の形態を有する。
【符号の説明】
【0032】
1 電気モーター
2 高電圧車両電気システム
3 パルス制御インバータ
4 抵抗性コンポーネント
5 抵抗性コンポーネント
6 パワースイッチモジュール
7 ハイサイドパワースイッチ/ハイサイドパワートランジスタ
8 ローサイドパワースイッチ/ローサイドパワートランジスタ
9 ハイサイドダイオード
10 ローサイドダイオード
11 IGBTパワースイッチ
12 冷却剤回路
13 車両電池