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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】サイリスタ起動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20230719BHJP
【FI】
H02P27/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022560301
(86)(22)【出願日】2021-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2021041867
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 泰明
(72)【発明者】
【氏名】荻野 宏之
(72)【発明者】
【氏名】安藤 彰修
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/159346(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/132269(WO,A1)
【文献】特開2006-320039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期機を起動させるサイリスタ起動装置であって、
交流電力を直流電力に変換するコンバータと、
前記直流電力を平滑化する直流リアクトルと、
前記コンバータから前記直流リアクトルを介して与えられる直流電力を可変周波数の交流電力に変換して前記同期機に供給するインバータと、
前記直流リアクトルを流れる直流電流が電流指令値に一致するように、前記コンバータにおけるサイリスタの点弧位相を制御する制御部とを備え、
前記サイリスタ起動装置は、前記直流電流を断続的に零にすることにより前記インバータの転流を行なう第1のモードと、前記同期機の誘起電圧により前記インバータの転流を行なう第2のモードとを順次実行することにより、前記同期機を停止状態から所定の回転速度まで加速させるように構成され、
前記制御部は、
前記電流指令値に対する前記直流電流の偏差の積分要素を用いた制御演算を行なうことにより、前記コンバータの出力電圧の電圧指令値を生成する電流制御部と、
前記電圧指令値に補正値を加算する補正部と、
前記補正値が加算された前記電圧指令値に基づいて、前記コンバータにおけるサイリスタの位相制御角を演算する制御角演算部とを含み、
前記第1のモードにおいて、前記補正値は、前記同期機の回転速度が速くなるほど大きくなるように設定される、サイリスタ起動装置。
【請求項2】
前記同期機の回転子位置を検出する位置検出器をさらに備え、
前記補正部は、前記位置検出器の検出信号から算出される前記同期機の回転速度が速くなるほど大きくなるように前記補正値を設定する、請求項1に記載のサイリスタ起動装置。
【請求項3】
前記インバータに入力される直流電圧を検出する電圧検出器をさらに備え、
前記補正部は、前記直流電圧が大きくなるほど大きくなるように前記補正値を設定する、請求項1に記載のサイリスタ起動装置。
【請求項4】
前記同期機に入力される交流電圧を検出する電圧検出器をさらに備え、
前記補正部は、前記交流電圧の実効値が大きくなるほど大きくなるように前記補正値を設定する、請求項1に記載のサイリスタ起動装置。
【請求項5】
前記補正部は、前記同期機の回転速度または回転速度に応じて変動するパラメータの値を説明変数とし、前記補正値を目的変数とする一次関数を用いて前記補正値を設定する、請求項1に記載のサイリスタ起動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サイリスタ起動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電機および電動機等の同期機を起動するためのサイリスタ起動装置が開発されている(たとえば国際公開2014/033849号明細書(特許文献1)参照)。サイリスタ起動装置は、交流電力を直流電力に変換するコンバータと、直流電力を平滑化する直流リアクトルと、コンバータから直流リアクトルを介して与えられる直流電力を可変周波数の交流電力に変換して同期機に供給するインバータとを備えている。同期機に供給する交流電力を制御することにより、停止状態の同期機を起動させて所定の回転速度で駆動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2014/033849号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記サイリスタ起動装置においては、同期機の起動時や低速時には同期機に発生する誘起電圧が低いため、インバータの転流(電流が移ること)が失敗する場合がある。そのため、サイリスタ起動装置では、同期機の起動時および低速時には、コンバータから出力される直流電流を断続的に零にしてインバータの転流を行なう「断続転流」が採用されている。
【0005】
断続転流では、一般的に、インバータの転流指令と同時にコンバータの位相制御角を絞ることにより、直流リアクトルを流れる直流電流を一旦零にして、次に転流すべきインバータのサイリスタに再びゲートパルスを与えて、転流させる。そして、直流電流が零となる時間が一定時間(インバータのサイリスタの消弧に必要な時間に相当)経過すると、コンバータでは、位相制御角の絞りが解除され、直流電流が電流指令値に一致するための点弧位相の制御が再開される。これにより、再び直流リアクトルに直流電流が流れ始める。
【0006】
直流リアクトルに流れる電流は、コンバータの出力端子間の直流電圧とインバータの入力端子間の直流電圧との差に依存する。インバータの入力端子間の直流電圧は、同期機の回転速度が速くなるにつれて増大する。そのため、コンバータの点弧位相の制御に用いる定数が固定である場合、同期機の回転速度が速くなるにつれて、直流電流が電流指令値に一致させる制御の応答性が低下する。
【0007】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、断続転流時における、直流リアクトルを流れる直流電流の制御の応答性を改善することができるサイリスタ起動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のある局面によれば、同期機を起動させるサイリスタ起動装置は、コンバータと、直流リアクトルと、インバータと、制御部とを備える。コンバータは、交流電力を直流電力に変換する。直流リアクトルは、直流電力を平滑化する。インバータは、コンバータから直流リアクトルを介して与えられる直流電力を可変周波数の交流電力に変換して同期機に供給する。制御部は、直流リアクトルを流れる直流電流が電流指令値に一致するように、コンバータにおけるサイリスタの点弧位相を制御する。サイリスタ起動装置は、直流電流を断続的に零にすることによりインバータの転流を行なう第1のモードと、同期機の誘起電圧によりインバータの転流を行なう第2のモードとを順次実行することにより、同期機を停止状態から所定の回転速度まで加速させるように構成される。制御部は、電流制御部と、補正部と、制御角演算部とを含む。電流制御部は、電流指令値に対する直流電流の偏差の積分要素を用いた制御演算を行なうことにより、コンバータの出力電圧の電圧指令値を生成する。補正部は、電圧指令値に補正値を加算する。制御角演算部は、補正値が加算された電圧指令値に基づいて、コンバータにおけるサイリスタの位相制御角を演算する。第1のモードにおいて、補正値は、同期機の回転速度が速くなるほど大きくなるように設定される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によると、断続転流時における、直流リアクトルを流れる直流電流の制御の応答性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係るサイリスタ起動装置の構成を示す回路ブロック図である。
図2図1に示すサイリスタ起動装置の動作を示すタイムチャートである。
図3図1に示すコンバータ制御部の構成を示す回路ブロック図である。
図4】参考形態に係るサイリスタ起動装置に備えられるコンバータ制御部の構成を示す回路ブロック図である。
図5】コンバータの正側出力端子と負側出力端子との間の直流電圧と、インバータの正側入力端子と負側入力端子との間の直流電圧との差を示す図である。
図6】積分器の出力を示す図である。
図7】実施の形態2に係るサイリスタ起動装置の構成を示す回路ブロック図である。
図8図7に示すコンバータ制御部の構成を示す回路ブロック図である。
図9】実施の形態3に係るサイリスタ起動装置に備えられるコンバータ制御部の構成を示す回路ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下では、複数の実施の形態について説明するが、各実施の形態で説明された構成を適宜組合わせることは出願当初から予定されている。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0012】
[実施の形態1]
(サイリスタ起動装置の構成)
図1は、実施の形態1に係るサイリスタ起動装置の構成を示す回路ブロック図である。実施の形態1に係るサイリスタ起動装置100は、停止している同期機20を所定の回転速度まで加速させることにより、同期機20を始動させる。以下の説明では、所定の回転速度を「定格回転速度」とも称する。
【0013】
同期機20は、電機子巻線ATU、ATV,ATWを有する固定子と、界磁巻線22を有する回転子とを含む。同期機20は、たとえば火力発電所のガスタービンに結合されており、ガスタービンによって回転駆動される。
【0014】
サイリスタ起動装置100は、変圧器TRの二次側に接続されている。変圧器TRの一次側は交流電源30に接続されている。変圧器TRは、交流電源30から供給される三相交流電圧を所定の電圧値の三相交流電圧に変換してサイリスタ起動装置100に与える。
【0015】
サイリスタ起動装置100は、コンバータ1、直流リアクトル3、およびインバータ2を備える。コンバータ1は、少なくとも6個のサイリスタRP,SP,TP,RN,SN,TNを含む三相全波整流器である。サイリスタRP,SP,TPのカソードはともに正側出力端子1aに接続され、それらのアノードはそれぞれ入力端子1c,1d,1eに接続される。サイリスタRN,SN,TNのカソードはそれぞれ入力端子1c,1d,1eに接続され、それらのアノードはともに負側出力端子1bに接続される。コンバータ1は、変圧器TRからの三相交流電力を可変電圧の直流電力に変換する。
【0016】
直流リアクトル3は、コンバータ1の正側出力端子1aとインバータ2の正側入力端子2aとの間に接続される。直流リアクトル3は、コンバータ1から出力される直流電流Idを平滑化する。コンバータ1の負側出力端子1bとインバータ2の負側入力端子2bとは互いに接続される。なお、もう1つの直流リアクトル3が、コンバータ1の負側出力端子1bとインバータ2の負側入力端子2bとの間に接続されていてもよい。
【0017】
インバータ2の3つの出力端子2c,2d,2eは、同期機20の3つの電機子巻線ATU,ATV,ATWにそれぞれ接続される。インバータ2は、少なくとも6個のサイリスタU,V,W,X,Y,Zを含む三相他励式インバータである。サイリスタU,V,Wのアノードはともに正側入力端子2aに接続され、それらのカソードはそれぞれ出力端子2c,2d,2eに接続される。サイリスタX,Y,Zのアノードはそれぞれ出力端子2c,2d,2eに接続され、それらのカソードはともに負側入力端子2bに接続される。
【0018】
サイリスタ起動装置100は、変流器4,5、電圧検出器6、位置検出器7、コンバータ制御部8、およびインバータ制御部9をさらに備える。
【0019】
変流器4は、変圧器TRからコンバータ1に流れる三相交流電流を検出し、検出値を示す信号をコンバータ制御部8に与える。
【0020】
変流器5は、インバータ2から同期機20の電機子巻線ATU,ATV,ATWに流れる電流を検出し、検出値を示す信号を位置検出器7に与える。
【0021】
電圧検出器6は、インバータ2から同期機20に供給される三相交流電圧VU,VV,VWの瞬時値を検出し、検出値を示す信号を位置検出器7に与える。具体的には、電圧検出器6は、同期機20の電機子巻線ATU,ATV,ATWにおける三相交流電圧の線間電圧のうちの2つの線間電圧(図1では、U相-V相間の交流電圧VU-VVおよびV相-W相間の交流電圧VV-VWとする)を検出する。なお、電圧検出器6は、3つの線間電圧(U相-V相間の交流電圧VU-VV、V相-W相間の交流電圧VV-VWおよび、W相-U相間の交流電圧VW-VU)を検出する構成としてもよい。
【0022】
このように、U相-V相間の交流電圧VU-VV、V相-W相間の交流電圧VV-VWおよびW相-U相間の交流電圧VW-VUのうちの少なくとも2つの線間電圧を検出することにより、U相、V相、W相の交流電圧を計算により求めることができる。この線間電圧から相電圧への変換は、電圧検出器6または位置検出器7において行なわれる。
【0023】
位置検出器7は、変流器5および電圧検出器6からの信号に基づいて同期機20の回転子の位置を検出し、検出値を示す信号をコンバータ制御部8およびインバータ制御部9に与える。
【0024】
コンバータ制御部8は、変流器4からの信号および位置検出器7からの信号に基づいて、コンバータ1を制御する。具体的には、コンバータ制御部8は、コンバータ1から出力される直流電流Idが所定の電流指令値Id*に一致するように、コンバータ1を電流制御する。コンバータ制御部8の内部構造については後述する。
【0025】
インバータ制御部9は、位置検出器7からの信号に基づいて、インバータ2の点弧位相を制御する。具体的には、インバータ制御部9は、制御角演算部10と、ゲートパルス発生器11とを含む。制御角演算部10は、検出された同期機20の回転子の位置に基づいて位相制御角(点弧角)γを演算し、演算した位相制御角γをゲートパルス発生器11に与える。なお、断続転流モードにおいて、制御角演算部10は、位相制御角γを0°に設定する。ゲートパルス発生器11は、制御角演算部10から受けた位相制御角γに基づいてインバータ2のサイリスタのゲートに与えるゲートパルス(点弧指令)を生成する。
【0026】
(サイリスタ起動装置の動作)
図2は、サイリスタ起動装置100の動作を示すタイムチャートである。図2には、コンバータ1から出力される直流電流Idおよび同期機20の回転速度が示されている。
【0027】
サイリスタ起動装置100においては、同期機20の電機子巻線ATU,ATV,ATWに誘起される逆起電力(誘起電圧)を利用してインバータ2におけるサイリスタの転流が行なわれる。このような転流は「負荷転流」と呼ばれている。
【0028】
しかしながら、同期機20の回転速度が遅い場合、すなわち同期機20の起動時や低速時には、電機子巻線ATU,ATV,ATWに発生する誘起電圧が低いため、サイリスタの転流が失敗する場合がある。そのため、同期機20の回転速度が遅いときには、コンバータ1から出力される直流電流Idを断続的に零にしてインバータ2の転流を行なう「断続転流」が採用されている。
【0029】
図2に示されるように、サイリスタ起動装置100は、断続転流モード(第1のモード)と負荷転流モード(第2のモード)とを順次切り替えて実行することにより、同期機20を停止状態から定格回転速度まで加速させるように構成される。
【0030】
具体的には、時刻t=0にて停止状態の同期機20を起動させると、サイリスタ起動装置100は断続転流モードを実行する。断続転流モード時、直流電流Idはパルス波形を示している。図2の例では、各パルスの波高値は一定値とされている(Id=I0)。波高値は、例えば、断続転流モードの時間中に同期機20に供給される交流電力の積算値が、停止状態の同期機20を切り替え回転速度まで加速させるための電力量を満たすように設定される。パルス間の休止時間Δtは、インバータ2のサイリスタの消弧に必要な時間に設定されている。
【0031】
そして、同期機20の回転速度が定格回転速度の10%程度に到達すると、サイリスタ起動装置100は、断続転流モードを負荷転流モードに切り替える。
【0032】
(コンバータ制御部の構成)
図3は、コンバータ制御部8の構成を示す回路ブロック図である。図3に示されるように、コンバータ制御部8は、電流検出器12と、速度制御部13と、電流制御部14と、補正部15と、制御角演算部16と、ゲートパルス発生器17とを含む。
【0033】
電流検出器12は、変流器4によって検出された三相交流電流を、コンバータ1から出力される直流電流Idに変換する。
【0034】
電流検出器12は、整流回路121と、ゲイン乗算器122とを含む。整流回路121は、全波整流型のダイオード整流器を用いて、変流器4から受けた三相交流電流を整流する。ゲイン乗算器122は、整流回路121からの出力信号にゲインを乗じることにより、直流電流Idを演算する。
【0035】
速度制御部13は、検出された同期機20の回転子の位置に基づいて、同期機20の回転速度を演算する。速度制御部13は、演算した回転速度に基づいて、直流電流Idの目標値である電流指令値Id*を生成する。
【0036】
電流制御部14は、直流電流Idを電流指令値Id*に追従させるための制御演算を実行して、コンバータ1の出力電圧の電圧指令値VDC1*を生成する。具体的には、電流制御部14は、電流指令値Id*に対する直流電流Idの偏差ΔIdの積分要素を用いた制御演算を行なうことにより、電圧指令値VDC1*を生成する。
【0037】
電流制御部14は、減算器141と、ゲイン乗算器142と、積分器143と、加算器144とを含む。減算器141は、電流指令値Id*と直流電流Idとの偏差ΔIdを演算し、演算した偏差ΔIdをゲイン乗算器142と積分器143とに出力する。ゲイン乗算器142は、偏差ΔIdに所定の比例ゲインKを乗算する。積分器143は、偏差ΔIdを所定の積分ゲインKで積分する。加算器144は、ゲイン乗算器142および積分器143からの出力を加算して、電圧指令値VDC1*を生成する。電圧指令値VDC1*は、コンバータ1が出力すべき直流電圧VDC1を規定する制御指令に相当する。このように、電流制御部14は、比例積分(PI:Proportional-Integral)演算することにより電圧指令値VDC1*を生成する。なお、電流制御部14は、比例積分微分(PID:Proportional-Integral-Differential)演算を行なうように構成されていてもよい。
【0038】
なお、コンバータ制御部8は、インバータ2の正側入力端子2aと負側入力端子2bとの間の直流電圧VDC2よりも直流リアクトル3による電圧降下分だけ大きくなるように直流電圧VDC1を制御する(図1参照)。これにより、直流電流Idが制御される。
【0039】
補正部15は、電流制御部14によって生成された電圧指令値VDC1*に補正値を加算することにより、電圧指令値VDC1*を補正する。
【0040】
補正部15は、補正値演算器151と、加算器152とを含む。補正値演算器151は、位置検出器7によって検出された同期機20の回転子の位置に基づいて、同期機20の回転速度を演算する。補正値演算器151は、予め定められた補正関数F(x)に回転速度を入力することにより補正値を演算する。加算器152は、電圧指令値VDC1*と補正値とを加算する。
【0041】
補正関数F(x)は、説明変数xを回転速度とし、目的変数を補正値とする関数である。補正関数F(x)は、断続転流モードにおいて、回転速度が速くなるほど補正値が大きくなるように定められている。そのため、補正部は、断続転流モードにおいて、同期機20の回転速度が速くなるほど大きくなるように補正値を設定する。
【0042】
制御角演算部16は、補正値が加算された電圧指令値VDC1*に基づいて、コンバータ1におけるサイリスタの位相制御角αを演算する。制御角演算部16は、演算した位相制御角αをゲートパルス発生器17に与える。ただし、制御角演算部16は、断続転流モードにおいて、休止時間Δtの間、直流電流Idが零になるように、位相制御角αを絞る。
【0043】
ゲートパルス発生器17は、制御角演算部16から受けた位相制御角αに基づいてコンバータ1のサイリスタのゲートに与えるゲートパルス(点弧指令)を生成する。ゲートパルス発生器17によって生成されたゲートパルスに従ってコンバータ1がスイッチング制御されることにより、電流指令値Id*に従った直流電流Idがコンバータ1から出力される。
【0044】
(利点)
実施の形態1に係るサイリスタ起動装置100の利点について、参考形態に係るサイリスタ起動装置と比較しながら説明する。
【0045】
図4は、参考形態に係るサイリスタ起動装置に備えられるコンバータ制御部の構成を示す回路ブロック図である。参考形態に係るサイリスタ起動装置は、図1に示すサイリスタ起動装置100と比較して、コンバータ制御部8の代わりに図4に示すコンバータ制御部208を備える点で相違する。図4に示されるように、コンバータ制御部208は、図3に示すコンバータ制御部8と比較して、補正部15を含まない点で相違する。
【0046】
コンバータ制御部8,208に含まれる電流制御部14の比例ゲインKおよび積分ゲインKは固定値である。そのため、電流制御部14は、同期機20の回転速度にかかわらず、電流指令値Id*と直流電流Idとの偏差ΔIdが同一であれば、同じ電圧指令値VDC1*を生成する。しかしながら、インバータ2の正側入力端子2aと負側入力端子2bとの間の直流電圧VDC2は、同期機20の回転速度に応じて増大する。直流電流Idは、直流電圧VDC1と直流電圧VDC2との電位差に応じた値となる。したがって、同期機20の回転速度が速くなるにつれて直流電圧VDC2が大きくなると、直流電圧VDC1と直流電圧VDC2との電位差が小さくなり、直流電流Idは、電流指令値Id*に近づきにくくなる。
【0047】
図5は、コンバータ1の正側出力端子1aと負側出力端子1bとの間の直流電圧VDC1と、インバータ2の正側入力端子2aと負側入力端子2bとの間の直流電圧VDC2との差(VDC1-VDC2)を示す図である。図5には、断続転流モードにおける1パルス期間の差(VDC1-VDC2)の時間変化が示される。図5において、横軸は時間を示し、縦軸は差(VDC1-VDC2)を示す。また、上側には、同期機20の回転速度が0に近いときの差(VDC1-VDC2)が示され、下側には、同期機20の回転速度が定格回転速度の10%に近いときの差(VDC1-VDC2)が示される。図5に示されるように、回転速度が速くなるにつれて、差(VDC1-VDC2)が小さくなる。そのため、直流リアクトル3に電流が流れにくくなり、直流電流Idは、電流指令値Id*に近づきにくくなる。
【0048】
さらに、同期機20の回転速度が速くなるにつれ、電流指令値Id*と直流電流Idとの偏差ΔIdが小さくなる。そのため、積分器143の出力も、同期機20の回転速度が速くなるにつれ小さくなる。その結果、直流電流Idは、電流指令値Id*に近づきにくくなる。
【0049】
図6は、積分器143の出力を示す図である。図6には、断続転流モードにおける1パルス期間の積分器143の出力の時間変化が示される。図6において、横軸は時間を示し、縦軸は積分器143の出力を示す。また、上側には、同期機20の回転速度が0に近いときの積分器143の出力が示され、下側には、同期機20の回転速度が定格回転速度の10%に近いときの積分器143の出力が示される。図6に示されるように、同期機20の回転速度が速くなるにつれて、積分器143の出力が小さくなる。
【0050】
このように、同期機20の回転速度が速くなるにつれ、差(VDC1-VDC2)が小さくなり、積分器143の出力が小さくなる。その結果、直流電流Idは、電流指令値Id*に近づきにくくなる。
【0051】
図4に示されるコンバータ制御部208では、電流制御部14からの電圧指令値VDC1*をそのまま用いて位相制御角αが演算される。そのため、同期機20の回転速度が速くなるにつれ、直流電流Idを電流指令値Id*に近づける電流制御の応答性が低下する。
【0052】
また、電流制御部14から出力される電圧指令値VDC1*に一定の補正値を加算する参考形態も考えられる。このような参考形態であっても、同期機20の回転速度の増大に伴う電流制御の応答性の低下を十分に抑制できない。
【0053】
これに対し、図3に示されるコンバータ制御部8では、電流制御部14からの電圧指令値VDC1*に対して補正値を加算することにより、電圧指令値VDC1*を補正し、補正後の電圧指令値VDC1*を用いて位相制御角αが演算される。断続転流モードにおいて、補正値は、同期機20の回転速度が速くなるほど大きくなるように設定される。具体的には、補正部15は、位置検出器7の検出信号から算出される同期機20の回転速度が速くなるほど大きくなるように補正値を設定する。そのため、同期機20の回転速度が速くなったとしても、電流制御の応答性の低下を抑制できる。
【0054】
(補正関数)
同期機20に入力される交流電圧の実効値をEacとするとき、インバータ2の正側入力端子2aと負側入力端子2bとの間の直流電圧VDC2は、以下の関係式(1)を満たす。
VDC2=C×Eac×cosγ・・・(1)
関係式(1)において、Cは定数であり、γはインバータ2の位相制御角である。上述したように、断続転流モードでは、位相制御角γは0°に設定される。そのため、直流電圧VDC2は、交流電圧の実効値Eacに比例する。
【0055】
同期機20の回転速度は、同期機20に入力される交流電圧の周波数に比例する。インバータ制御部9は、同期機20の焼損を防止するために、Vf特性に従い、交流電圧の周波数に比例するように交流電圧の実効値Eacを設定する。そのため、直流電圧VDC2は、同期機20の回転速度に比例する。
【0056】
補正値は、同期機20の回転速度の増大に応じた直流電圧VDC2の増大を補償するために設定される。そのため、補正関数F(x)は、一次関数で表されることが好ましい。すなわち、補正関数F(x)は、F(x)=A×x+Bで表される。定数A,Bは、予め実験またはシミュレーションによって決定される。なお、定数Bは0に設定されてもよい。
【0057】
[実施の形態2]
図7は、実施の形態2に係るサイリスタ起動装置の構成を示す回路ブロック図である。本実施の形態2に係るサイリスタ起動装置100Aは、図1に示すサイリスタ起動装置100と比較して、コンバータ制御部8の代わりにコンバータ制御部8Aを備え、電圧検出器18をさらに備える点で相違する。
【0058】
電圧検出器18は、インバータ2の正側入力端子2aと負側入力端子2bとの間の直流電圧VDC2を検出する。電圧検出器18は、検出信号をコンバータ制御部8Aに出力する。
【0059】
図8は、図7に示すコンバータ制御部8Aの構成を示す回路ブロック図である。図8に示されるように、コンバータ制御部8Aは、図3に示すコンバータ制御部8と比較して、補正部15の代わりに補正部15Aを含む点で相違する。
【0060】
補正部15Aは、補正値演算器151Aと、加算器152とを含む。補正値演算器151Aは、電圧検出器18によって検出された直流電圧VDC2を予め定められた補正関数F1(x)に入力することにより補正値を演算する。加算器152は、電圧指令値VDC1*と補正値とを加算する。
【0061】
補正関数F1(x)は、説明変数xを直流電圧VDC2とし、目的変数を補正値とする関数である。補正関数F(x)は、断続転流モードにおいて、直流電圧VDC2が大きくなるほど補正値が大きくなるように定められている。そのため、補正部15Aは、断続転流モードにおいて、直流電圧VDC2が大きくなるほど大きくなるように補正値を設定する。
【0062】
上述したように、直流電圧VDC2は、同期機20の回転速度に比例する。そのため、補正値は、断続転流モードにおいて、同期機20の回転速度が速くなるほど大きくなるように設定される。したがって、実施の形態2に係るサイリスタ起動装置100Aは、実施の形態1に係るサイリスタ起動装置100と同様の利点を有する。
【0063】
なお、補正値は、直流電圧VDC2の増大を補償するために設定される。そのため、補正関数F1(x)は、一次関数で表されることが好ましい。すなわち、補正関数F1(x)は、F1(x)=A1×x+B1で表される。定数A1,B1は、予め実験またはシミュレーションによって決定される。なお、定数B1は0に設定されてもよい。
【0064】
[実施の形態3]
図9は、実施の形態3に係るサイリスタ起動装置に備えられるコンバータ制御部の構成を示す回路ブロック図である。実施の形態3に係るサイリスタ起動装置は、図1に示すサイリスタ起動装置100と比較して、コンバータ制御部8の代わりに図9に示すコンバータ制御部8Bを備える点で相違する。図9に示されるように、コンバータ制御部8Bは、図3に示すコンバータ制御部8と比較して、補正部15の代わりに補正部15Bを含む点で相違する。
【0065】
補正部15Bは、補正値演算器151Bと、加算器152とを含む。補正値演算器151Bは、電圧検出器6によって検出された検出値を位置検出器7から受ける。なお、補正値演算器151Bは、検出値を電圧検出器6から直接受けてもよい。補正値演算器151B、受けた検出値に基づいて、同期機20に入力される交流電圧の実効値Eacを演算する。補正値演算器151Bは、交流電圧の実効値Eacを予め定められた補正関数F2(x)に入力することにより補正値を演算する。加算器152は、電圧指令値VDC1*と補正値とを加算する。
【0066】
補正関数F2(x)は、説明変数xを同期機20に入力される交流電圧の実効値Eacとし、目的変数を補正値とする関数である。補正関数F2(x)は、断続転流モードにおいて、交流電圧の実効値Eacが大きくなるほど補正値が大きくなるように定められている。そのため、補正部15Bは、断続転流モードにおいて、交流電圧の実効値Eacが大きくなるほど大きくなるように補正値を設定する。
【0067】
上述したように、交流電圧の実効値Eacは、同期機20の回転速度に比例する。そのため、補正値は、断続転流モードにおいて、同期機20の回転速度が速くなるほど大きくなるように設定される。したがって、実施の形態3に係るサイリスタ起動装置は、実施の形態1に係るサイリスタ起動装置100と同様の利点を有する。
【0068】
なお、補正値は、同期機20の回転速度の増大に伴う直流電圧VDC2の増大を補償するために設定される。関係式(1)で示されるように、直流電圧VDC2は交流電圧の実効値Eacに比例する。そのため、補正関数F2(x)は、一次関数で表されることが好ましい。すなわち、補正関数F2(x)は、F2(x)=A2×x+B2で表される。定数A2,B2は、予め実験またはシミュレーションによって決定される。なお、定数B2は0に設定されてもよい。
【0069】
なお、上述した実施の形態1~3では、同期機20が火力発電所においてガスタービンによって回転駆動される発電機である場合について説明したが、これに限るものではなく、同期機20は一般産業分野で使用される同期機であってもよい。たとえば、同期機20は、製鉄所の冷却ブロワ用の同期機であってもよい。
【0070】
今回開示された実施の形態がすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
1 コンバータ、1a 正側出力端子、1b 負側出力端子、1c~1e 入力端子、2 インバータ、2a 正側入力端子、2b 負側入力端子、2c~2e 出力端子、3 直流リアクトル、4,5 変流器、6,18 電圧検出器、7 位置検出器、8,8A,8B,208 コンバータ制御部、9 インバータ制御部、10,16 制御角演算部、11,17 ゲートパルス発生器、12 電流検出器、13 速度制御部、14 電流制御部、15,15A,15B 補正部、20 同期機、22 界磁巻線、30 交流電源、100,100A サイリスタ起動装置、121 整流回路、122,142 ゲイン乗算器、141 減算器、143 積分器、144,152 加算器、151,151A,151B 補正値演算器、ATU,ATV,ATW 電機子巻線、RN,RP,SN,SP,TN,TP,U,V,W,X,Y,Z サイリスタ、TR 変圧器。
【要約】
サイリスタ起動装置のコンバータ制御部(8)は、電流指令値に対する直流電流の偏差の積分要素を用いた制御演算を行なうことにより、コンバータ(1)の出力電圧の電圧指令値を生成する電流制御部(14)と、電圧指令値に補正値を加算する補正部(15)と、補正値が加算された電圧指令値に基づいて、コンバータ(1)におけるサイリスタの位相制御角を演算する制御角演算部(16)とを含む。断続転流モードにおいて、補正値は、同期機の回転速度が速くなるほど大きくなるように設定される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9