(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】撹拌ボール
(51)【国際特許分類】
A47J 43/27 20060101AFI20230720BHJP
A47J 43/10 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
A47J43/27
A47J43/10
(21)【出願番号】P 2019119330
(22)【出願日】2019-06-27
【審査請求日】2022-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000204608
【氏名又は名称】大下産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【氏名又は名称】宇高 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100201341
【氏名又は名称】畠山 順一
(74)【代理人】
【識別番号】230116296
【氏名又は名称】薄葉 健司
(72)【発明者】
【氏名】市川 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】益田 栄壮
【審査官】柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3210736(JP,U)
【文献】実開昭59-160035(JP,U)
【文献】米国特許第02126890(US,A)
【文献】米国特許第06379032(US,B1)
【文献】特開2009-219848(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0047231(US,A1)
【文献】国際公開第2016/027052(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108056678(CN,A)
【文献】特開2015-167858(JP,A)
【文献】国際公開第2019/191640(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 43/10
A47J 43/27
B65D 23/04
A47G 19/22
B01F 33/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓋付撹拌用容器に挿入される撹拌ボールであって、
環状線材上に複数の波型周期が形成され、
前記波型周期の一方のピークは、一の極に集まる様に形成され、
前記一の極に集まる一方のピークは互いに拘束しない様に形成され、
前記波型周期の他方のピークは、他の極に集まる様に形成され、
前記他の極に集まる他方のピークは互いに拘束しない様に形成され、
略球状に形成される
ことを特徴とする撹拌ボール。
【請求項2】
前記波型周期は、2~9回繰り返される
ことを特徴とする請求項1記載の撹拌ボール。
【請求項3】
前記線材の直径は、0.5mm~3.0mmである。
ことを特徴とする
請求項1または2記載の撹拌ボール。
【請求項4】
請求項1
記載の形状をしている第1撹拌ボールと、
請求項1
記載の形状をしている第2撹拌ボールと
を有し、
前記第1撹拌ボールは、前記第2撹拌ボールより大きく、
前記第2撹拌ボールは、前記第1撹拌ボール内に挿入可能であり、前記第1撹拌ボール内から取り出し可能である
ことを特徴とする撹拌ボールセット。
【請求項5】
請求項1記載の撹拌ボールと、ホイップクリームまたはメレンゲを含む食品の材料と、を撹拌用容器に入れ、蓋をし、
前記撹拌用容器を上下成分を含む方向に加振を継続し、
前記撹拌ボールが撹拌用容器内壁に衝突する衝突音が聞こえなくなったら、加振を停止する
ことを特徴とする食品の泡立て方法。
【請求項6】
前記撹拌用容器を予め冷却しておく
ことを特徴とする
請求項5記載の食品の泡立て方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は撹拌ボールに関し、特にホイップクリームまたはメレンゲを含む食品を泡立て可能な撹拌ボールに関する。
【背景技術】
【0002】
メレンゲは卵の卵白を泡立てて作られる。ホイップクリームは牛乳を泡立てて作られる。つまり材料に空気を取り込む。他にも、オイルやソースのように泡立てて空気を取り込んで作られる食品は多い。
【0003】
泡立てには、複数のループワイヤがグリップ部にて固定されるハンド式泡立器(例えば特許文献1記載)を用いる。ボウルに食材を入れ、ハンド式泡立器のグリップを握り、ループワイヤが円弧を形成するように動かすことにより、食材を撹拌混合し、均一化し、空気を混入させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に市販されているボウルは比較的大きく、少量生産(例えば1人分)等に適していない。ボウルサイズを小さくすると、適切な撹拌動作ができなくなる。
【0006】
また、泡立て作業は比較的手間が掛かり、作業時間の短縮が望まれていた。
【0007】
充分な泡立て効果を得るためには、大きな撹拌動作が必要になる。その結果、材料が飛び散り、周囲が汚れるおそれがある。
【0008】
また、食材の劣化を避けるために、食材をボウルに入れた後は、素早く泡立て、素早く食品を利用する必要がある。
【0009】
本発明は上記課題を解決するものであり、少量生産に対応でき、短時間で充分な泡立て効果が得られ、飛散のおそれがなく、食材および食品を一時保存可能な泡立技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の撹拌ボールは、蓋付撹拌用容器に挿入されて利用される。本発明の撹拌ボールは、環状線材上に複数の波型周期が形成され、前記波型周期の一方のピークは、一の極に集まる様に形成され、前記波型周期の他方のピークは、他の極に集まる様に形成され、略球状に形成される。
【0011】
これにより、少量生産に対応でき、短時間で充分な泡立て効果が得られ、飛散のおそれがなく、食材および食品を一時保存可能となる。
【0012】
上記発明において好ましくは、前記波型周期は、2~9回繰り返される。
【0013】
波型周期が1つでは極を形成できない。波型周期が9つ超では形状が複雑となり、洗浄手間が増えるなど実用的でない。
【0014】
上記発明において好ましくは、前記一の極に集まる一方のピークは互いに拘束しない様に形成され、前記他の極に集まる他方のピークは互いに拘束しない様に形成される。
【0015】
これにより、ピークは変形自在となり、適度な低剛性を実現する。微振動が発生し、泡立て効果が向上する。また、充分泡立てられると衝突音が消えやすくなる。
【0016】
上記発明において好ましくは、前記線材の直径は、0.5mm~3.0mmである。
【0017】
これにより、適度な低剛性を実現する。
【0018】
上記課題を解決する本発明は、第1撹拌ボールと第2撹拌ボールとからなる撹拌ボールセットである。第1撹拌ボールと第2撹拌ボールとは相似形である。前記第1撹拌ボールは、前記第2撹拌ボールより大きい。前記第2撹拌ボールは前記第1撹拌ボール内に挿入可能である。前記第2撹拌ボールは前記第1撹拌ボール内から取り出し可能である。
【0019】
これにより、泡立て効果が向上する。
【0020】
上記課題を解決する本発明は食品の泡立て方法である。上記撹拌ボールと、ホイップクリームまたはメレンゲを含む食品の材料と、を撹拌用容器に入れ、蓋をし、前記撹拌用容器を上下成分を含む方向に加振を継続し、前記撹拌ボールが撹拌用容器内壁に衝突する衝突音が聞こえなくなったら、加振を停止する。
【0021】
これにより、泡立て作業終了の判断を容易にできる。その結果、作業時間を短縮できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の撹拌ボールを用いれば、少量生産に対応でき、短時間で充分な泡立て効果が得られ、飛散のおそれがなく、食材および食品を一時保存可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態にかかる撹拌ボールおよび撹拌用容器の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0024】
~ボール形状等~
図1は、本実施形態にかかる撹拌ボール1および撹拌用容器2の概略構成図である。撹拌ボール1は蓋付撹拌用容器2に挿入されて用いられる。
【0025】
蓋付撹拌用容器2のサイズ等は特に限定はないが、片手(または両手)で加振する(動作後述)することを想定すると、直径50~150mm程度が好ましい。高さは、直径の1~2倍程度が好ましい。撹拌ボール1のサイズ等は特に限定はないが、容器直径の0.5~0.9倍程度が好ましい。
【0026】
図2は、撹拌ボール1の概略構成図である。撹拌ボール1は、環状線材上に複数の波型周期10が形成されることにより、形成される。すなわち、1つの環状線材より容易に形成可能である。
【0027】
図3は、環状線材を波型周期状に形成する概念図である。環状基準線に対し、たとえば、5つの波型周期10が形成されている。
【0028】
例示では5つの波型周期10が形成されているが、2~9程度が好ましい。1つでは極を構成できない。ただし、2つでは、硬式野球ボールの縫い目形状となり、充分な泡立て効果が得られないおそれがある。9つ以上では、形状が複雑になり、使用後の洗浄等が面倒となるおそれがある。したがって、3~7程度がより好ましい。4~6程度が更に好ましい。
【0029】
図4は、波型周期10の詳細構成図である。波型周期10は、正のピーク11と、負のピーク12を有する。図示の例では、左側から、環状基準線より正の方に上昇し、正のピーク11にて反転し、負の方向に下降し、環状基準線を通過し、負のピーク12にて反転し、再び上昇する。そして、環状基準線において右隣の波型周期に連続する。
【0030】
図4では、正弦波が例示されているが、多少形状が変わっていてもよい。
【0031】
図3において、さらに、5つの正のピーク11は、極13に集まる様に形成され、5つの負のピーク12は、極14に集まる様に形成される。ピーク11とピーク12とを結ぶ経線15が形成される。その結果、略球状(
図2参照)が形成される。
【0032】
5つの正のピーク11は互いに拘束しない(されない)。5つの負のピーク12は互いに拘束しない(されない)。その結果、極13,14には開口が形成されている。
【0033】
さらに、極13,14周辺において、波型周期10間においても隙間を有する。
【0034】
なお、撹拌ボール1は、地球儀形状に似ており、地球儀のN極やS極に相当する位置を極13,14とよび、地球儀の経線に相当する線を経線15と呼ぶ。ただし、地球儀の経線はN極―S極を真っ直ぐに結ぶのに対し、経線15は極13-極14を結ぶ仮想線から若干傾いている点で若干異なる。
【0035】
形状以外の構成について説明する。
【0036】
線材の材質は、特に限定されない。アルミやステンレス等の金属やポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン等の樹脂が好ましい。
【0037】
線材の太さは、特に限定されない。ただし、適度な低剛性(詳細後述)を実現するために、ある程度細いことが好ましい。例えば、金属材質の場合は直径0.5~2.5mm程度が好ましい。樹脂材質の場合は、金属より低剛性であるため、金属の場合と比べて、やや太くてもよく、たとえば、直径1.0~3.0mm程度が好ましい。
【0038】
蓋付撹拌用容器2の材質は、特に限定されない。金属製や樹脂製などが好ましい。
【0039】
~泡立て動作~
撹拌ボール1を用いた泡立て動作について説明する。撹拌用容器2の蓋を開けて、撹拌用容器2本体にホイップクリームまたはメレンゲを含む食品の材料(例えば卵白や牛乳など)と撹拌ボール1を入れ、蓋をする。
【0040】
撹拌用容器2を片手(サイズによっては両手)で持ち、上下成分を含む任意の方向に振動させ、加振を継続する。
【0041】
撹拌用容器2内において、撹拌ボール1は撹拌用容器内壁とぶつかりながら、回転移動する(
図5参照)。その際、材料に空気が取り込まれる。撹拌ボール1が撹拌用容器内壁とぶつかる際は、衝突音が発生する。
【0042】
衝突音が聞こえなくなったら(明らかに衝突音が小さくなった場合も含む)、加振を停止する。なお、食材が充分に泡立てられて高粘性となると、撹拌ボール1の回転移動が抑制され、衝突音も抑制されるものと推測される。
【0043】
蓋を開けて、ホイップクリームやメレンゲ等の食品を撹拌用容器2から取り出す。
【0044】
その際、好みに応じて、撹拌用容器2を予め冷却しておいてもよい。食材をいれた撹拌用容器2を冷蔵庫にて冷却しておく。保冷状態において泡立てることにより、高粘度としやすい。保冷効果を維持するために、二重容器を用いてもよい。
【0045】
図5は、撹拌用容器2の変形例である。容器本体および蓋が二重構造となっており、空洞に保冷効果を有するジェルが挿入されている。これにより、保冷効果を確実にする。また、防音効果も期待でき、衝突音の有無の判断もより容易になる。
【0046】
~効果1~
従来方法(ハンド式泡立器による泡立)と比較することにより、本実施形態の効果について説明する。
【0047】
従来方法で使用するボウルは比較的大きく、少量生産(例えば1人分)等に適していない。ボウルサイズを小さくすると、適切な撹拌動作ができなくなる。
【0048】
これに対し、本実施形態では、片手で掴める程度の撹拌用容器2を用いるため、少量生産(例えば1人分)可能である。さらに、食材を減量しても泡立て効果は変わらない。
【0049】
従来方法による泡立て作業は比較的手間が掛かり、作業時間の短縮が望まれていた。
【0050】
これに対し、本実施形態では、撹拌ボール1の泡立て効果により、大幅に作業時間を短縮できる。さらに、衝突音の有無により、作業終了の是非を客観的に判断するため、過剰に撹拌することがない。この点でも、作業時間を短縮できる。
【0051】
従来方法による泡立て作業では、充分な泡立て効果を得るためには、大きな撹拌動作が必要になる。その結果、材料が飛び散り、周囲が汚れるおそれがある。
【0052】
これに対し、本実施形態では、蓋を有する撹拌用容器2内での撹拌であり、材料が飛び散って周囲が汚れるおそれはない。
【0053】
従来方法では、食材の劣化を避けるために、食材をボウルに入れた後は、素早く泡立て、素早く食品を利用する必要がある。
【0054】
これに対し、本実施形態では、蓋を有する撹拌用容器2を用いるため、事前に食材を撹拌用容器2に入れて準備することができる。また、蓋をしたままであれば、泡立て後の食品を一時的に保存できる。
【0055】
~効果2~
ところで、粉末プロテインを水等に溶かす際に用いる撹拌ボール(参考例)が市販されている。
図6は参考例に係る撹拌ボールの概略構成図である。
【0056】
撹拌用容器に粉末プロテインと水と撹拌ボール(参考例)を入れ、蓋をする。容器を加振することで、撹拌ボールが粉末プロテインの溶解を補助する。
【0057】
参考例に係る撹拌ボールは、略球状である点で、本実施形態の撹拌ボール1と類似するが、線材をコイル状に形成する点で、本実施形態と異なる。
【0058】
本願発明者は、参考例に係る撹拌ボールを用いて、メレンゲおよびホイップクリームを作成し、本実施形態による泡立て効果と比較した。
【0059】
本実施形態では、容易に衝突音の有無を判別できたのに対し、参考例では衝突音がしばらく継続し、徐々に小さくなり、最終的には衝突音は聞こえなくなったものの、加振を止める判断が難しかった。
【0060】
本実施形態では、参考例に比べて、作業時間(具体的には加振継続時間)が明らかに短縮(約半分)できた。
【0061】
本実施形態では、確実に泡立て効果を実感できたのに対し、参考例では、泡立て効果が不充分な例もあった。また、本実施形態の方がきめ細やかな泡立てができた。
【0062】
参考例に係る撹拌ボールは、粉末プロテインの溶解に適しているが、食材の泡立てには適していないものと思われる。
【0063】
~原理推察~
上記参考例との比較を通して、本願原理について推察した。
図7は、本願原理推察の説明図である。
【0064】
参考例はコイル状であり、コイル軸方向に対しては弾性(適度な低剛性)を有する。一方で、コイル周面方向は高剛性(ほぼ変形しない)である。すなわち、剛性に偏りがある。
【0065】
その結果、均質な撹拌とならないおそれがある。さらに、高剛性なコイル周面が容器壁面に当たる際に、衝突を抑制できないおそれもある。
【0066】
これに対し、本願発明者は、本実施形態の撹拌ボール1が適度な低剛性を有する点に着目した。
【0067】
すなわち、ピーク11,12は拘束されず、自由端になっている。これにより、回転移動中および衝突の際に変形自在であり、変形に伴い微振動が発生する。微小変形のイメージを図に追記する。
【0068】
また、経線15も経度方向(図示左右方向)に変形自在であるとともに、中心に向かう方向にも変形自在であり、変形に伴い微振動が発生する。微小変形のイメージを図に追記する。
【0069】
その結果、均質な撹拌が可能となる。さらに、微振動発生により微小気泡を取り込める。
【0070】
適度な低剛性を有することにより、食材が高粘度化するに伴い、衝突が軽減される。これにより、衝突音低減現象が発生する。
【0071】
~変形使用例~
図8は、撹拌ボール1の変形使用例を説明する概念図である。変形使用例では、大きめの撹拌ボール1Aと小さ目の撹拌ボール1Bとからなる撹拌ボールセットを用いる。撹拌ボール1A,1Bは、相似形である。
【0072】
撹拌ボール1は、極13,14周辺に開口が形成され、開口はピーク11,12間の隙間と連続している。また、ピーク11,12は自由端になっており変形自在である。
【0073】
したがって、撹拌ボール1Aの極13周辺開口部に、撹拌ボール1Bのピーク12を対向させて、撹拌ボール1Bを撹拌ボール1A内に挿入することができる。
【0074】
撹拌ボール1Bは撹拌ボール1A内において独自の挙動をする。その結果、泡立て効果が向上する。
【0075】
上記挿入手順と逆の手順により、撹拌ボール1Bを撹拌ボール1A内から取り出すことができる。撹拌ボール1Aと撹拌ボール1Bとは、それぞれ個別に用いてもよい(上記泡立て動作参照)。
【0076】
~変形例~
以上、上記実施形態を例に本願発明について説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものでなく、その技術思想の範囲で種々の変形が可能である。
【0077】
例えば、上記実施形態では、ピーク11,12が自由端であることに着目したが、低剛性という本願特徴を維持できる範囲で、ピーク11,12を拘束してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 撹拌ボール
2 蓋付撹拌用容器
10 波型周期
11 波型周期のピーク(正側)
12 波型周期のピーク(負側)
13 極(N極相当)
14 極(S極相当)
15 経線