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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】鋼材
(51)【国際特許分類】
   B23K 7/10 20060101AFI20230720BHJP
   B23K 7/00 20060101ALI20230720BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230720BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20230720BHJP
   F23D 14/54 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
B23K7/10 T
B23K7/10 S
B23K7/00 C
C22C38/00 301Z
C22C38/58
F23D14/54 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019094052
(22)【出願日】2019-05-17
(65)【公開番号】P2020189300
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】木下 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】新宅 祥晃
(72)【発明者】
【氏名】石田 浩司
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/014851(WO,A1)
【文献】特開平01-133675(JP,A)
【文献】特開2017-128795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 7/00 - 7/10
C22C 38/00
C22C 38/58
F23D 14/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
火口から切断用酸素ガスおよび予熱燃料ガスを鋼材の表面に同時に吹き付けて、前記鋼材を切断するガス切断機により切断される用途に用いられる鋼材であって、
前記ガス切断機は、前記鋼材の表面に吹き付ける前記切断用酸素ガスの酸素純度を99.5体積%以上に維持するための酸素純度維持機構を備え、
前記火口と前記鋼材との距離が3mm以上40mm以下であり、
前記鋼材は、質量%で、Si:0.25%以下を含有し、
前記酸素純度維持機構は、前記切断用酸素ガスおよび前記予熱燃料ガスを噴射する前記火口であり、
前記火口は、前記切断用酸素ガスを噴射する方向に垂直な断面において、前記火口の軸中心から径方向に向かって順に、
前記切断用酸素ガスを噴射する切断用酸素ガス噴流口、
補助酸素ガスを噴射する補助酸素ガス噴流口、および
前記予熱燃料ガスを噴射する予熱燃料ガス噴流口、を有し、
前記火口を備える前記ガス切断機を用いて、
前記切断用酸素ガスおよび前記補助酸素ガスの供給圧力を0.50MPa、前記予熱燃料ガスの供給圧力を0.05MPaとし、
前記火口と前記鋼材との距離を10mmとし、かつ、
切断速度を370mm/分として、前記鋼材を切断し、
切断された前記鋼材の切断面を、ウエスで3回ふき取った後、写真撮影し、得られた写真について、前記鋼材の表面側から裏面側に直線の観察する観察線を引き、前記観察線の全長を前記鋼材の板厚とし、前記観察線のうち、前記切断面に対して突起した状態の酸化皮膜と観察した部分の合計の長さを酸化皮膜付着長さとして、下記式により剥離率を算出した際に、前記剥離率が0.80以上である
材。
剥離率=(1-酸化皮膜付着長さ/板厚)×1.19×(板厚)-0.065
【請求項2】
火口から切断用酸素ガスおよび予熱燃料ガスを鋼材の表面に同時に吹き付けて、前記鋼材を切断するガス切断機により切断される用途に用いられる鋼材であって、
前記ガス切断機は、前記鋼材の表面に吹き付ける前記切断用酸素ガスの酸素純度を99.5体積%以上に維持するための酸素純度維持機構を備え、
前記火口と前記鋼材との距離が3mm以上40mm以下であり、
前記鋼材は、質量%で、Si:0.25%以下を含有し、
前記酸素純度維持機構は、前記切断用酸素ガスおよび前記予熱燃料ガスを噴射する前記火口であり、
前記火口は、前記切断用酸素ガスを噴射する方向に垂直な断面において、前記火口の軸中心から径方向に向かって順に、
前記切断用酸素ガスを噴射する切断用酸素ガス噴流口、および
前記予熱燃料ガスを噴射する予熱燃料ガス噴流口、を有し、
前記切断用酸素ガス噴流口には、前記切断用酸素ガス噴流口の先端から前記切断用酸素ガスの流れ方向上流側に向かって、漸次的に断面積が小さくなるテーパ部が設けられており、
前記火口を備える前記ガス切断機を用いて、
前記切断用酸素ガスの供給圧力を0.50MPa、前記予熱燃料ガスの供給圧力を0.05MPaとし、
前記火口と前記鋼材との距離を10mmとし、かつ、
切断速度を370mm/分として、前記鋼材を切断し、
切断された前記鋼材の切断面を、ウエスで3回ふき取った後、写真撮影し、得られた写真について、前記鋼材の表面側から裏面側に直線の観察する観察線を引き、前記観察線の全長を前記鋼材の板厚とし、前記観察線のうち、前記切断面に対して突起した状態の酸化皮膜と観察した部分の合計の長さを酸化皮膜付着長さとして、下記式により剥離率を算出した際に、前記剥離率が0.80以上である
材。
剥離率=(1-酸化皮膜付着長さ/板厚)×1.19×(板厚)-0.065
【請求項3】
前記鋼材の化学組成が、質量%で、
C :0.02~0.20%、
Si:0.25%以下、
Mn:0.20~1.60%、
P :0.033%以下、
S :0.015%以下、
Al:0.080%以下、
N :0.009%以下、
Cu:0~0.50%、
Ni:0~0.50%、
Ti:0~0.050%、
Nb:0~0.040%、
V :0~0.100%、
Cr:0~2.00%、
Mo:0~0.50%、
W :0~0.40%、
B :0~0.0030%、
Ca:0~0.0050%、
Mg:0~0.0050%、
REM:0~0.0050%、
Sn:0~0.50%、
残部:Feおよび不純物である、
請求項1または請求項に記載の鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材の切断に、古くからガス切断が利用されている(例えば、特許文献1および2を参照。)。ガス切断とは、切断用の酸素ガスおよび予熱用の燃料ガス(プロパンガス等)を吹き付けながら鋼材を切断する技術であり、鉄の酸化反応に伴って発生する燃焼熱を利用することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭63-148027号公報
【文献】特開平1-133675号公報
【文献】特開平7-217830号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】中西実、「ガス切断の予熱炎に関する研究(第3報)-予熱炎の切断板厚に及ぼす影響-」、溶接学会誌、1968年、第37巻、第11号、p.1260-1267
【文献】西口公之、松山欽一、「高速切断法とその実用化」、溶接学会誌、1974年、第43巻、第8号、p.805-817
【文献】中西実、「切断酸素気流に関する二、三の考察および実験(第1報)-予熱炎をともなわない場合-」、溶接学会誌、1968年、第37巻、第4号、p.369-377
【文献】中西実、「切断酸素気流に関する二、三の考察および実験(第2報)-予熱炎を伴う場合-」、溶接学会誌、1968年、第37巻、第6号、p.604-610
【文献】中西実、「切断酸素気流に関する二、三の考察および実験(第3報)-シュリーレン写真と純度分布との関係-」、溶接学会誌、1968年、第37巻、第7号、p.730-735
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、ガス切断では鉄の酸化反応を利用するため、切断面には酸化皮膜が付着することとなる。また、切断面の裏面側(切断用の酸素ガスおよび予熱用の燃料ガスを噴射する側の反対側)には、溶けた鋼が排出されず冷え固まったノロ(スラグと称する場合もある)が生成し得る。
【0006】
ガス切断で切断面に付着した酸化皮膜のうち、切断面に対して突起し密着した状態の酸化皮膜があると、切断面が滑らかでなくなり、表面粗さが粗くなり、切断面の品位を損なうため、グラインダー等により研削する必要が生じる。ノロが生成する場合にも、グラインダー等により研削する必要が生じ、製造効率を悪化させる要因となる。そのため、ガス切断を行った際に、酸化皮膜の剥離性に優れ、かつノロが生成しにくい鋼材が求められている。
【0007】
本発明は前記した課題を解決するためになされたものであり、ガス切断用の鋼材であって、ガス切断後の酸化皮膜の剥離性に優れ、かつノロが生成しにくい鋼材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々の鋼種を用いて、様々な条件においてガス切断を行い、切断面の調査を行った結果、鋼材中に含まれるSi含有量を低減して、切断時に鋼が酸化されることにより生じるFeSiO(ファイアライト)の生成を抑えるとともに、切断時に鋼材表面に吹き付けられるガス中の酸素純度を高めることにより、酸化皮膜の剥離性が向上し、さらに、ノロの生成を抑制することが可能であることを見出した。
【0009】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、下記の鋼材を要旨とする。
【0010】
(1)切断用酸素ガスおよび予熱燃料ガスを鋼材の表面に同時に吹き付けて、前記鋼材を切断するガス切断機により切断される用途に用いられる鋼材であって、
前記ガス切断機は、前記鋼材の表面に吹き付ける前記切断用酸素ガスの酸素純度を維持するための酸素純度維持機構を備え、
前記鋼材は、質量%で、Si:0.25%以下を含有する、
鋼材。
【0011】
(2)前記酸素純度維持機構は、前記切断用酸素ガスおよび前記予熱燃料ガスを噴射する火口であり、
前記火口は、前記切断用酸素ガスを噴射する方向に垂直な断面において、前記火口の軸中心から径方向に向かって順に、
前記切断用酸素ガスを噴射する切断用酸素ガス噴流口、
補助酸素ガスを噴射する補助酸素ガス噴流口、および
前記予熱燃料ガスを噴射する予熱燃料ガス噴流口、を有する、
上記(1)に記載の鋼材。
【0012】
(3)前記酸素純度維持機構は、前記切断用酸素ガスおよび前記予熱燃料ガスを噴射する火口であり、
前記火口は、前記切断用酸素ガスを噴射する方向に垂直な断面において、前記火口の軸中心から径方向に向かって順に、
前記切断用酸素ガスを噴射する切断用酸素ガス噴流口、および
前記予熱燃料ガスを噴射する予熱燃料ガス噴流口、を有し、
前記切断用酸素ガス噴流口には、前記切断用酸素ガス噴流口の先端から前記切断用酸素ガスの流れ方向上流側に向かって、漸次的に断面積が小さくなるテーパ部が設けられている、
上記(1)に記載の鋼材。
【0013】
(4)前記鋼材の化学組成が、質量%で、
C :0.02~0.20%、
Si:0.25%以下、
Mn:0.20~1.60%、
P :0.033%以下、
S :0.015%以下、
Al:0.080%以下、
N :0.009%以下、
Cu:0~0.50%、
Ni:0~0.50%、
Ti:0~0.050%、
Nb:0~0.040%、
V :0~0.100%、
Cr:0~2.00%、
Mo:0~0.50%、
W :0~0.40%、
B :0~0.0030%、
Ca:0~0.0050%、
Mg:0~0.0050%、
REM:0~0.0050%、
Sn:0~0.50%、
残部:Feおよび不純物である、
上記(1)から(3)までのいずれかに記載の鋼材。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガス切断後の酸化皮膜の剥離性に優れ、かつノロが生成しにくい鋼材を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】従来の火口の(a)縦断面図および(b)横断面図である。
図2】酸素カーテン式火口の(a)縦断面図および(b)横断面図である。
図3】ポストミックス火口の(a)縦断面図および(b)横断面図である。
図4】(a)ストレートノズルおよび(b)ダイバーゼントノズルの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
【0017】
(A)ガス切断機
本発明に係る鋼材は、ガス切断機により切断される用途に用いられる。ガス切断機は、切断用酸素ガスおよび予熱燃料ガスを鋼材の表面に同時に吹き付けて、鋼材を切断する機械である。
【0018】
ここで、本発明に係る鋼材の切断に用いられるガス切断機は、鋼材の表面に吹き付ける切断用酸素ガスの酸素純度を維持するための酸素純度維持機構を備えることを特徴とする。鋼材の表面に吹き付ける切断用酸素ガスの酸素純度を維持するとは、切断に用いる酸素ガスに、不純物の混入が0.5体積%以下となるようにして鋼材の表面に吹き付けることをいう。
【0019】
より詳細には、酸素純度が99.5体積%以上である酸素ガスに、不純物の混入が0.5体積%以下となるようにして鋼材の表面に吹き付けて、鋼材の表面に吹き付ける切断用酸素ガスの酸素純度を99.5体積%以上にすることをいう。
【0020】
酸素純度維持機構の構成については特に限定されず、例えば、切断用酸素ガスおよび予熱燃料ガスを噴射する火口が、切断用酸素ガスの酸素純度を維持するための機能を有していてもよい。上記機能を有する火口として、例えば、非特許文献1に開示される酸素カーテン式火口が挙げられる。
【0021】
図1(a)は、従来の火口の縦断面図であり、図1(b)は図1(a)におけるbb部分を示す横断面図である。また、図2(a)は、酸素カーテン式火口の縦断面図であり、図2(b)は図2(a)におけるbb部分を示す横断面図である。図1に示すように、従来の火口は、切断用酸素ガスを噴射する方向に垂直な断面において、火口の軸中心から径方向に向かって切断用酸素ガスを噴射する切断用酸素ガス噴流口1および予熱燃料ガスを噴射する予熱燃料ガス噴流口2を有する。
【0022】
一方、図2に示すように、酸素カーテン式火口は、切断用酸素ガスを噴射する方向に垂直な断面において、火口の軸中心から径方向に向かって順に、切断用酸素ガスを噴射する切断用酸素ガス噴流口1、補助酸素ガスを噴射する補助酸素ガス噴流口3、および予熱燃料ガスを噴射する予熱燃料ガス噴流口2を有する。
【0023】
酸素カーテン式火口では、切断用酸素ガス噴流口1と予熱燃料ガス噴流口2との間に、補助酸素ガス噴流口3を有することによって、鋼材の表面に吹き付けられる切断用酸素ガスが予熱燃料ガスによって希釈されるのを防止し、酸素純度が維持される(例えば、非特許文献1のTable6の結果を参照。)。
【0024】
また、特許文献3に記載されるポストミックス火口を用いてもよい。図3(a)は、ポストミックス火口の縦断面図であり、図3(b)は図3(a)におけるbb部分を示す横断面図である。ポストミックス火口は、酸素カーテン式火口のさらに径方向外側に予熱酸素ガス噴流口4を有するものである。
【0025】
また、切断用酸素ガスの酸素純度を維持するための機能を有する火口としては、上記の構成に限定されず、非特許文献2に開示されるダイバーゼントノズルを用いてもよい。図4は、(a)ストレートノズルおよび(b)ダイバーゼントノズルの縦断面図である。
【0026】
ダイバーゼントノズルは、従来の火口と同様に、切断用酸素ガスを噴射する方向に垂直な断面において、火口の軸中心から径方向に向かって切断用酸素ガスを噴射する切断用酸素ガス噴流口1および予熱燃料ガスを噴射する予熱燃料ガス噴流口2を有する。それに加えて、図4(b)に示すように、切断用酸素ガス噴流口には、切断用酸素ガス噴流口の先端から切断用酸素ガスの流れ方向上流側に向かって、漸次的に断面積が小さくなるテーパ部11が設けられている。
【0027】
さらに、切断用酸素ガス噴流口は、切断用酸素ガス噴流口の先端から切断用酸素ガスの流れ方向上流側に向かって順に、漸次的に断面積が小さくなる第1のテーパ部11、断面積が一定となる平行部12、および漸次的に断面積が大きくなる第2のテーパ部13が設けられていてもよい。
【0028】
火口(ノズル)の直下では、噴射する酸素ガスの噴流と大気(静止気体)との間には摩擦が発生する。ストレートノズルでは、酸素ガスの噴流速度が音速程度であるため、摩擦の影響により噴流が乱れ、酸素純度が低下する。それに対して、ダイバーゼントノズルでは、音速を超える速度の噴流が得られるため、噴流の乱れが抑制され、酸素純度が維持される(非特許文献2~5を参照。)。
【0029】
ガス切断条件については特に制限はなく、公知の条件から適宜選択すればよい。例えば、火口から切断用酸素ガスおよび予熱燃料ガスを鋼材の表面に同時に吹き付けて、鋼材を切断することで鋼材を製造するときにおける、切断用酸素ガスの供給圧力は0.01~2.50MPaとすることが好ましく、予熱燃料ガスの供給圧力は0.01~0.20MPaとすることが好ましい。
【0030】
また、鋼材の切断速度は低すぎると製造効率が悪く、一方、高すぎると切断不良が生じるおそれがある。そのため、切断速度は50~600mm/分とするのが好ましい。切断速度は100mm/分以上とするのがより好ましく、500mm/分以下とするのがより好ましい。
【0031】
さらに、火口と鋼材との距離が遠すぎると、鋼材表面での酸素純度が低下するおそれがある。そのため、火口と鋼材との距離は40mm以下とすることが好ましく、30mm以下とすることがより好ましい。上記距離に下限は設けないが、近すぎる場合には火口が、鋼材と接触したり切断に伴う燃焼熱により損傷したりするおそれもあることから、3mm以上とすることが好ましく、5mm以上とすることがより好ましい。
【0032】
(B)化学組成
本発明に係る鋼材は、Si含有量が、質量%で、0.25%以下である。上述のように、鋼材中に含まれるSi含有量が過剰であると、ガス切断中に酸化されて酸化皮膜中にFeSiOを形成し、酸化皮膜の剥離性を悪化させる。
【0033】
Si以外の元素の含有量については、特に制限はない。以下に、好適な化学組成について説明する。各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0034】
C :0.02~0.20%
Cは、強度を高める元素であるため、0.02%以上を含有させるのが好ましい。ただし、0.20%を超えると鋼板の靱性を劣化させることがある。このため、C含有量は0.02~0.20%とするのが好ましい。Cは安価な元素であり、ガス切断時にO(酸素)と鋼中のCとの反応熱による切断性の向上効果も期待できるため、C含有量の下限は0.05%とするのがより好ましい。
【0035】
Si:0.25%以下
Siは、脱酸剤として用いられる元素であるため、鋼材中には不可避的に含まれる。しかし、上述のように、Siはガス切断中に酸化されてスケール中にFeSiOを形成し、酸化皮膜の剥離性を悪化させるため、Si含有量は0.25%以下とする必要がある。Si含有量は0.15%以下であるのが好ましく、0.10%未満であることがより好ましい。なお、Si含有量に下限を設ける必要はないが、過度の低減は経済性の低下を招くため、0.01%以上とすることが好ましく、0.02%以上とすることがより好ましい。
【0036】
Mn:0.20~1.60%
Mnは、鋼材の強度確保に有効な元素であるため、0.20%以上含有させるのが好ましい。しかしながら、その含有量が1.60%を超えると、靱性の劣化およびガス切断性の劣化を招くことがある。したがって、Mn含有量は0.20~1.60%とすることが好ましい。Mn含有量の下限は0.30%とするのがより好ましい。
【0037】
P :0.033%以下
Pは、不純物として鋼中に存在する元素である。P含有量が過剰であると、鋼材の機械的性質および溶接性といった特性が劣化する。したがって、P含有量は0.033%以下とするのが好ましい。
【0038】
S :0.015%以下
Sは、不純物として鋼中に存在し、その含有量が多い場合には、鋼材の靱性等の機械的性質に悪影響を及ぼすおそれがある。したがって、Sの含有量は一定量以下に抑えるのがよく、0.015%以下とすることが好ましい。S含有量は0.010%以下とすることがより好ましい。
【0039】
Al:0.080%以下
Alは、脱酸作用を有する元素である。しかしながら、Al含有量が0.080%を超えると、溶接部に硬質の島状マルテンサイトが生成し、靱性が劣化するおそれがある。したがって、Al含有量は0.080%以下とするのが好ましい。Al含有量の好ましい上限は0.050%である。なお、Al含有量に下限を設ける必要はないが、過度の低減は経済性の低下を招くため、0.010%以上とすることが好ましく、0.020%以上とすることがより好ましい。
【0040】
N :0.009%以下
Nは、不純物として鋼中に存在し、その含有量が多い場合には、溶接性および鋳片の品位に悪影響を及ぼすおそれがある。このため、Nの含有量は一定量以下に抑えるのがよく、0.009%以下とすることが好ましい。
【0041】
Cu:0~0.50%
Cuは、耐食性を向上させる元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、その含有量が多い場合には、鋳片に割れ等の悪影響を及ぼすおそれがある。このため、Cu含有量は0.50%以下とすることが好ましく、0.40%以下とすることがより好ましい。上記の効果を得たい場合には、Cu含有量は0.01%以上とすることが好ましく、0.02%以上とすることがより好ましい。
【0042】
Ni:0~0.50%
Niも、耐食性を向上させる元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、その含有量が多い場合には、鋳片の品位に悪影響を及ぼすおそれがある。そのため、Ni含有量は0.50%以下とするのが好ましく、0.40%以下とすることがより好ましい。上記の効果を得たい場合には、Ni含有量は0.01%以上とすることが好ましく、0.02%以上とすることがより好ましい。
【0043】
Ti:0~0.050%
Tiは、析出強化により鋼板の強度を高める作用を有する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、その含有量が多い場合には、溶接部の靭性に悪影響を及ぼすおそれがある。そのため、Ti含有量は0.050%以下とすることが好ましく、0.040%以下とすることがより好ましい。上記の効果を得たい場合には、Ti含有量は0.005%以上とすることが好ましく、0.010%以上とすることがより好ましい。
【0044】
Nb:0~0.040%
Nbは、析出強化により鋼板の強度を高める作用を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、その含有量が多い場合には、コスト面で不利になるうえに、溶接部の靱性を劣化させるおそれがある。したがって、Nb含有量は0.040%以下とすることが好ましく、0.030%以下とすることがより好ましい。上記の効果を得たい場合には、Nb含有量は0.003%以上とすることが好ましく、0.008%以上とすることがより好ましい。
【0045】
V :0~0.100%
Vも、析出強化により鋼板の強度を高める作用を有する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、その含有量が多い場合には、コスト面で不利になるうえに、母材の靭性を劣化させるおそれがある。そのため、V含有量は0.100%以下とすることが好ましく、0.090%以下とすることがより好ましい。上記の効果を得たい場合には、V含有量は0.010%以上とすることが好ましく、0.020%以上とすることがより好ましい。
【0046】
Cr:0~2.00%
Crは、鋼板の強度を高める作用を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、その含有量が多い場合には、融点が高いCr酸化物を形成して湯流れ性を悪化させて、ガス切断表面の粗さの劣化につながるおそれがある。そのため、Cr含有量は2.00%以下とすることが好ましく、1.50%以下とすることがより好ましい。上記の効果を得たい場合には、Cr含有量は0.02%以上とすることが好ましく、0.03%以上とすることがより好ましい。
【0047】
Mo:0~0.50%
Moは、固溶強化により鋼板の強度を高める作用を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、その含有量が多い場合には、コスト面で不利になるうえに、溶接性も害するおそれがある。そのため、Mo含有量は0.50%以下とすることが好ましく、0.40%以下とすることがより好ましい。上記の効果を得たい場合には、Mo含有量は0.10%以上とすることが好ましく、0.15%以上とすることがより好ましい。
【0048】
W :0~0.40%
Wも、固溶強化により鋼板の強度を高める作用を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、その含有量が多い場合には、コスト面で不利になるうえに、溶接性も害するおそれがある。そのため、W含有量は0.40%以下とすることが好ましく、0.30%以下とすることがより好ましい。上記の効果を得たい場合には、W含有量は0.05%以上とすることが好ましく、0.08%以上とすることがより好ましい。
【0049】
B :0~0.0030%
Bは、焼入れ性を高める作用を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、その含有量が多い場合には、溶接性を劣化させるおそれがある。そのため、B含有量は0.0030%以下とすることが好ましく、0.0020%以下とすることがより好ましい。上記の効果を得たい場合には、B含有量は0.0005%以上とすることが好ましく、0.0008%以上とすることがより好ましい。
【0050】
Ca:0~0.0050%
Caは、HAZ靱性を改善する作用を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、その含有量が多い場合には、ガス切断性が損なわれるおそれがある。したがって、Ca含有量は0.0050%以下とすることが好ましく、0.0040%以下とすることがより好ましい。上記の効果を得たい場合には、Ca含有量は0.001%以上とすることが好ましく、0.002%以上とすることがより好ましい。
【0051】
Mg:0~0.0050%
Mgは、HAZ靱性を改善する作用を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、その含有量が多い場合には、ガス切断性が損なわれるおそれがある。そのため、Mg含有量は0.0050%以下とすることが好ましく、0.0040%以下とすることがより好ましい。上記の効果を得たい場合には、Mg含有量は0.001%以上とすることが好ましく、0.002%以上とすることがより好ましい。
【0052】
REM:0~0.0050%
REMは、HAZ靱性を改善する作用を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、その含有量が多い場合には、ガス切断性が損なわれるおそれがある。したがって、REM含有量は0.0050%以下とすることが好ましく、0.0040%以下とすることがより好ましい。上記の効果を得たい場合には、REM含有量は0.001%以上とすることが好ましく、0.002%以上とすることがより好ましい。
【0053】
なお、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量は上記元素の合計量を意味する。
【0054】
Sn:0~0.50%
Snは、Sn2+となって溶解し、酸性塩化物溶液中でのインヒビター作用により腐食を抑制する作用を有する。また、Fe3+を速やかに還元させ、酸化剤としてのFe3+濃度を低減する作用を有することにより、Fe3+の腐食促進作用を抑制するので、高飛来塩分環境における耐候性を向上させる。また、Snには鋼のアノード溶解反応を抑制し耐食性を向上させる作用がある。これらの作用は、Sn含有量が0.50%を超えると飽和する。したがって、Sn含有量は0.50%以下とすることが好ましく、0.30%以下とすることがより好ましい。上記の効果を得たい場合には、Sn含有量は0.03%以上とすることが好ましく、0.05%以上とすることがより好ましい。
【0055】
Snを含有させる場合には、Cu含有量を0.10%未満とし、かつCu/Sn比が1.0以下とすることが好ましい。Cu含有量が0.10%以上であるか、またはCu/Sn比が1.0を超えると、Cuの含有により耐食性が低下する場合があり、さらに、鋼板を製造する際に圧延割れの原因となるおそれがある。Snを含有させる場合のCu含有量の上限は0.09%であることがより好ましい。
【0056】
上記の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0057】
(C)厚さ
本発明の鋼材の厚さについては特に限定はしない。ただし、鋼材厚さの上限は60mmとすることが好ましく、40mmとすることがより好ましく、30mmとすることがさらに好ましい。
【0058】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
(D)製造方法
本発明に係る鋼材の製造条件について特に制限はないが、例えば、上述した化学組成を有する鋼片を、950~1200℃の加熱温度で30分以上保持し、デスケーリングを行った後に熱間圧延を施し、その後、空冷または水冷により室温まで冷却することにより、製造することができる。
【実施例
【0060】
表1に示す化学組成を有する鋼種A~Iのスラブを1120℃に加熱し、デスケーラーでスケールを除去後、仕上げ温度750~900℃で圧延して厚さが20~60mmの鋼材を得た。
【0061】
【表1】
【0062】
上記鋼材に対してガス切断機を用いた切断試験を行い、ガス切断後の切断面における酸化皮膜の剥離性およびノロ生成の有無について評価を行った。切断試験には、日酸TANAKA株式会社製のガス切断機KT-5NXを用いた。
【0063】
火口としては、図1に示す切断用酸素ガスの酸素純度を維持するための機能を有していない従来の火口、図2に示す切断用酸素ガスの酸素純度を維持するための機能を有する酸素カーテン式火口、図3に示す切断用酸素ガスの酸素純度を維持するための機能を有するポストミックス火口、図4に示す切断用酸素ガスの酸素純度を維持するための機能を有するダイバーゼントノズルの火口、のいずれかを用いた。
【0064】
従来の火口の場合には、切断用酸素ガスの供給圧力を0.45MPa、予熱燃料ガスの供給圧力を0.03~0.05MPaとした。また、ダイバーゼントノズルの場合には、切断用酸素ガスの供給圧力を0.50MPa、予熱燃料ガスの供給圧力を0.05MPaとした。
【0065】
酸素カーテン式火口の場合には、切断用酸素ガスおよび補助酸素ガスの供給圧力を0.50~0.55MPa、予熱燃料ガスの供給圧力を0.05~0.10MPaとした。また、ポストミックス火口の場合には、切断用酸素ガス、補助酸素ガスおよび予熱酸素ガスの供給圧力を0.50MPa、予熱燃料ガスの供給圧力を0.05MPaとした。
【0066】
なお、酸素カーテン式火口の場合、補助酸素ガスの供給は、切断用酸素ガスの供給と同一の酸素ボンベから分岐させて使用した。そのため、補助酸素ガスの供給圧力と切断用酸素ガスの供給圧力とは同じである。同様に、ポストミックス火口の場合、補助酸素ガスおよび予熱酸素ガスの供給は、切断用酸素ガスの供給と同一の酸素ボンベから分岐させて使用した。そのため、補助酸素ガスおよび予熱酸素ガスの供給圧力と切断用酸素ガスの供給圧力とは同じである。
【0067】
また、火口と鋼材との距離(火口高さ)および切断速度は、表2に示す条件とした。
【0068】
【表2】
【0069】
ガス切断で切断面に付着した酸化皮膜のうち、切断面に対して突起し密着した状態の酸化皮膜があると、切断面の表面粗さが粗くなっている。切断面を軍手またはウエスでふき取った際には、この酸化皮膜で引っかかりが生じる。このような切断面の品位では、グラインダー等により研削する必要が生じてしまう。
【0070】
本願では、ガス切断後の切断面のこのような酸化皮膜の剥離性を以下の要領で評価し、剥離率を求めた。
【0071】
まず始めに、ガス切断後の鋼材の切断面を、軍手またはウエスで3回ふき取った。そして、ガス切断後の鋼材の切断面を写真撮影し、得られた写真について、鋼材の表面側から裏面側に直線の観察する観察線を引き、観察線の全長を鋼材の板厚とし、観察線のうち、切断面に対して突起した状態の酸化皮膜と観察した部分の合計の長さを酸化皮膜付着長さとして、下記式により剥離率を求めた。
剥離率=(1-酸化皮膜付着長さ/板厚)×1.19×(板厚)-0.065
【0072】
この剥離率では、板厚の影響を補正する項を設けて、剥離性の評価が、異なる板厚のものでも統一的にできるようにした。そして、この剥離率が0.80以上であるものを、剥離性が良好とした。
【0073】
なお、観察し定量化する位置は、ガス切断を開始した点およびガス切断を終了した点から切断方向に20mm以上離れた、ガス切断が定常状態である部分のうち、ドラグラインの部分を除いた、ガス切断方向の中間点とした。この位置であれば、ガス切断は定常状態であり、ばらつきを少なくして酸化皮膜の剥離性を評価できる。
【0074】
また、ガス切断後の鋼材の切断面を写真撮影するに際しては、鋼材の切断面に対して斜めから光を当てるなどして、酸化皮膜が切断面に対して突起し密着した状態であるかどうかが分かりやすくなるようにした。
【0075】
本発明者らが調べたところ、酸化皮膜が切断面に対して突起し密着した状態である場合には、酸化皮膜の厚さは10μm超の例えば20μm程度の厚いものであった。それに対して、酸化皮膜が切断面に対して突起していない場合には、酸化皮膜の厚さは10μm以下の例えば5μm程度の薄いものであった。
【0076】
このことから、酸化皮膜が厚いことで、酸化皮膜は切断面に対して突起して密着し、切断面の表面粗さを粗くさせ、切断面の品位を低下させているものと思われる。
【0077】
さらに、ガス切断後の切断面におけるノロ生成の有無の評価は以下の要領で行った。
【0078】
ガス切断後の切断面の酸化皮膜の剥離性の評価と同様に、まず始めに、ガス切断後の鋼材の切断面を、軍手またはウエスで3回ふき取った。そして、ガス切断を開始した点およびガス切断を終了した点から切断方向に20mm以上離れた、ガス切断が定常状態である部分のうち、ドラグラインの部分を除いた、ガス切断方向の中間部で、切断面の裏面側の連続した50mmの間に、大きさが3mm以上のノロの生成があるかどうかを目視で判断し評価した。
【0079】
それらの結果を表2に併せて示す。
【0080】
表2から明らかなように、本発明の規定を満足する試験No.1~15では、剥離率が0.80以上で良好であり、かつノロの生成が認められなかった。それらに対して、比較例の試験No.16~21では、剥離率が低くなった。特に試験No.16および21では、全面に酸化皮膜が残存し、ノロも生成する結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、ガス切断後の酸化皮膜の剥離性に優れ、かつノロが生成しにくい鋼材を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0082】
1.切断用酸素ガス噴流口
2.予熱燃料ガス噴流口
3.補助酸素ガス噴流口
4.予熱酸素ガス噴流口
11.テーパ部
12.平行部
13.テーパ部

図1
図2
図3
図4