(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】水系塗料組成物の製造方法および塗装金属板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20230720BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20230720BHJP
C09D 7/00 20180101ALI20230720BHJP
C09C 1/28 20060101ALI20230720BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20230720BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20230720BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20230720BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D163/00
C09D7/00
C09C1/28
C23C26/00 A
C23C28/00 A
C09D7/62
C09D175/04
(21)【出願番号】P 2020008515
(22)【出願日】2020-01-22
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 泰載
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】大坪 遼輝
(72)【発明者】
【氏名】尾和 克美
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-107586(JP,A)
【文献】特開2006-342419(JP,A)
【文献】特開2002-348523(JP,A)
【文献】特開2005-41992(JP,A)
【文献】特開2020-158670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 163/00
C09D 7/00
C09C 1/28
C23C 26/00
C23C 28/00
C09D 7/62
C09D 175/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)と、アニオン系高分子分散剤(f)と、水とを粉砕混合して、顔料分散液を得る工程と、
前記顔料分散液と、ノニオン性の水分散性樹脂(a)と、リン酸変性エポキシ樹脂(b)と、メラミン化合物(c)と、シランカップリング剤(d)と、水とを撹拌混合して、水系塗料組成物を得る工程と
を含む、
水系塗料組成物の製造方法。
【請求項2】
前記アニオン系高分子分散剤(f)は、ポリカルボン酸の金属塩である、
請求項1に記載の水系塗料組成物の製造方法。
【請求項3】
前記アニオン系高分子分散剤(f)の含有量は、前記2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)100質量部に対して0.05~1.0質量部である、
請求項1または2に記載の水系塗料組成物の製造方法。
【請求項4】
前記顔料分散液は、前記ノニオン性の水分散性樹脂(a)をさらに含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の水系塗料組成物の製造方法。
【請求項5】
前記顔料分散液中の前記2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)の含有量は、前記顔料分散液に対して20~55質量%である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の水系塗料組成物の製造方法。
【請求項6】
前記水系塗料組成物において、
前記ノニオン性の水分散性樹脂(a)、前記リン酸変性エポキシ樹脂(b)および前記メラミン化合物(c)の合計100質量部に対して、
前記ノニオン性の水分散性樹脂(a)の含有量は、60~94.5質量部であり、
前記リン酸変性エポキシ樹脂(b)の含有量は、5~39.5質量部であり、
前記メラミン化合物(c)の含有量は、0.5~10質量部であり、
前記シランカップリング剤(d)の含有量は、0.3~5質量部である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の水系塗料組成物の製造方法。
【請求項7】
前記水系塗料組成物において、
前記ノニオン性の水分散性樹脂(a)、前記リン酸変性エポキシ樹脂(b)および前記メラミン化合物(c)の合計100質量部に対して、
前記2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)の含有量は、7.5~55質量部である、
請求項6に記載の水系塗料組成物の製造方法。
【請求項8】
前記ノニオン性の水分散性樹脂(a)は、ノニオン性のウレタン樹脂である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の水系塗料組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の水系塗料組成物の製造方法により、水系塗料組成物を得る工程と、
前記水系塗料組成物を、金属板の表面に付与した後、硬化させて、下塗り塗膜を形成する工程とを含む、
塗装金属板の製造方法。
【請求項10】
前記金属板は、めっき鋼板である、
請求項9に記載の塗装金属板の製造方法。
【請求項11】
前記下塗り塗膜は、前記金属板上に他の層を介さずに形成される、
請求項9または10に記載の塗装金属板の製造方法。
【請求項12】
前記下塗り塗膜の表面に、少なくとも上塗り塗膜を形成する工程をさらに含む、
請求項9~11のいずれか一項に記載の塗装金属板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系塗料組成物の製造方法および塗装金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装金属板は、一般的に、めっき鋼板などの金属板の表面に塗料を塗布することによって製造される。塗料としては、環境負荷を低減する観点などから、溶剤系塗料に代えて、水系塗料が用いられる場合がある。
【0003】
そのような水系塗料として、エポキシ樹脂分散液と、アクリル樹脂乳濁液と、リンモリブデン酸カルシウムなどの防錆顔料とを含む水系塗料組成物が提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の水系塗料組成物から得られる塗膜を有する塗装金属板は、高温高湿下で一定時間保存すると、環境中の水分が塗膜の内部に浸入しやすく、塗膜の膨れを生じやすいという問題があった。
【0006】
また、特許文献1に示されるような顔料を含む水系塗料組成物は、通常、ビーズミルなどの粉砕媒体(メディア)による粉砕混合を伴う分散機によって調製される。しかしながら、架橋成分(架橋性樹脂や架橋剤)と顔料とをビーズミルなどで粉砕混合すると、粉砕媒体との衝突により局所的に高温となりやすい。それにより、架橋成分の安定性が低下したり、架橋成分間の反応や架橋成分と顔料との反応が促進されることがあり、水系塗料組成物の粘度が上昇したりしやすいという問題があった。また、得られる水系塗料組成物は、保管中にも粘度が上昇しやすく、保存安定性が低いという問題もあった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、水系塗料組成物の製造時の粘度上昇を抑制しつつ、良好な保存安定性を有し、高温高湿下における塗膜の膨れを抑制しうる水系塗料組成物を提供可能な水系塗料組成物の製造方法および塗装金属板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の水系塗料組成物の製造方法および塗装金属板の製造方法に関する。
【0009】
本発明の水系塗料組成物の製造方法は、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)と、アニオン系高分子分散剤(f)と、水とを粉砕混合して、顔料分散液を得る工程と、前記顔料分散液と、ノニオン性の水分散性樹脂(a)と、リン酸変性エポキシ樹脂(b)と、メラミン化合物(c)と、シランカップリング剤(d)と、水とを撹拌混合して、水系塗料組成物を得る工程とを含む。
【0010】
本発明の塗装金属板の製造方法は、本発明の水系塗料組成物の製造方法により、水系塗料組成物を得る工程と、前記水系塗料組成物を、金属板の表面に付与した後、硬化させて、下塗り塗膜を形成する工程とを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水系塗料組成物の製造時の粘度上昇を抑制しつつ、良好な保存安定性を有し、高温高湿下における塗膜の膨れを抑制する水系塗料組成物を提供可能な水系塗料組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)と、架橋成分(例えばリン酸変性エポキシ樹脂(b)、メラミン化合物(c)およびシランカップリング剤(d))を含む水系塗料組成物では、塗膜形成時に、当該シリカ粒子(e)から溶出する金属イオンが、架橋成分間の架橋反応を促進するか、または、架橋反応に関与することで、塗膜の高温高湿下における塗膜の膨れを抑制する(塗膜の耐湿性を高める)ことができる。一方で、そのような水系塗料組成物は、製造時や保管時においても、意図しない架橋反応を生じやすく、粘度上昇しやすい。特に、当該シリカ粒子(e)を架橋成分とともに粉砕混合すると、粉砕媒体との衝突により局所的に高温となった際に、架橋成分の架橋反応が進みやすく、粘度上昇しやすい。
【0013】
これに対して、本発明では、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)の粉砕混合を、架橋成分の不存在下で行うことで、意図しない架橋反応の進行やそれによる粘度上昇を抑制することができる。さらに、当該シリカ粒子(e)の粉砕混合を、アニオン系高分子分散剤(f)の存在下で行うことで、当該シリカ粒子(e)表面の周囲にアニオン系高分子分散剤(f)の吸着層を形成することができるため、その立体障害により、当該シリカ粒子(e)の凝集を高度に抑制できる。さらに、当該シリカ粒子(e)の表面を吸着層で適度に覆うことで、水系塗料組成物の製造中または保管中に、架橋反応を過剰に促進させることもない。そのため、得られる塗膜の耐湿性を損なわない程度に、保存安定性を高めることができる。以下、各工程について説明する。
【0014】
1.水系塗料組成物の製造方法
水系塗料組成物の製造方法は、1)2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)と、アニオン系高分子分散剤(f)と、水とを粉砕混合して、顔料分散液を得る工程と、2)得られた顔料分散液と、ノニオン性の水分散性樹脂(a)と、リン酸変性エポキシ樹脂(b)と、メラミン化合物(c)と、シランカップリング剤(d)と、水とを撹拌混合して、水系塗料組成物を得る工程とを含む。
【0015】
1)の工程(顔料分散液を調製する工程)について
2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)、アニオン系高分子分散剤(f)および水を、粉砕媒体(メディア)を用いて粉砕混合して、顔料分散液を得る。
【0016】
[2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)]
2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)は、シリカ粒子表面の水酸基の少なくとも一部が、イオン交換によって2価の金属イオンで置き換えられたシリカ粒子である。2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)は、塗膜の耐湿性や耐食性を高めうる。
【0017】
2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)は、特に制限されず、その例には、カルシウム(Ca)交換シリカ、マグネシウム(Mg)交換シリカ、ストロンチウム(Sr)交換シリカ、マンガン(Mn)交換シリカが含まれる。中でも、2価のアルカリ土類金属イオンで交換されたシリカ粒子であることが好ましく、良好な耐湿性と耐食性を有する塗膜を付与しやすい観点では、カルシウム(Ca)交換シリカ、マグネシウム(Mg)交換シリカが好ましく、さらに保存安定性を高めやすい観点から、マグネシウム(Mg)交換シリカが好ましい。
【0018】
2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)の平均粒子径は、特に制限されないが、例えば1~5μmでありうる。2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)の平均粒子径は、例えばレーザー回折・散乱法にて得られる体積分布におけるメジアン径として測定することができる。
【0019】
2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)における金属イオン交換量は、特に限定されないが、(金属イオンを含まない)シリカ担体に対して例えば4~8質量%としうる。金属イオン交換量が一定以上であると、(金属イオンの種類もよるが)金属イオン溶出量が適量であるため、塗膜形成時におけるリン酸変性エポキシ樹脂(b)とメラミン化合物(c)との架橋反応を促進しやすい。
【0020】
金属イオン交換量は、例えば2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)の調製時の原料の仕込み比から求めることができる。また、以下の方法で求めることもできる。
1)2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)を、1質量%の塩化ナトリウム水溶液に一定量添加し、23℃で30分間、十分に攪拌する。
2)攪拌後の水溶液に含まれる2価の金属イオンの量(シリカ担体に対する質量%)を、イオンクロマトグラフィーによって測定し、金属イオン交換量とする。
【0021】
水系塗料組成物中での金属イオンの溶出量は、例えば2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)における金属イオン交換量や、金属イオンの種類、金属イオン交換シリカの製造条件などによって調整されうる。金属イオンの溶出量を適度に多くするためには、例えば金属イオン交換量を適度に多くしたり、金属イオンとして2価のアルカリ土類金属イオンを選択したりすることが好ましい。
【0022】
粉砕混合される2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)の量、すなわち、得られる顔料分散液におけるシリカ粒子(e)の含有量は、顔料分散液に対して20~55質量%であることが好ましい。当該シリカ粒子(e)の含有量が20質量%以上であると、一のシリカ粒子(e)表面の水酸基と、他のシリカ粒子(e)表面の水酸基との間で水素結合が生じやすく、それによりネットワークを形成しうるため、顔料分散液に適度なチキソトロピー性を付与できる。それにより、当該シリカ粒子(e)の沈降を抑制でき、分散性や保存安定性をより高めることができる。当該シリカ粒子(e)の含有量が55質量%以下であると、顔料分散液の過剰な粘度上昇を抑制できるため、流動性が損なわれにくい。
【0023】
[アニオン系高分子分散剤(f)]
アニオン系高分子分散剤(f)は、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)を良好に分散させうる。アニオン系高分子分散剤(f)は、アニオン性基を有する高分子分散剤である。アニオン性基の例には、ポリカルボン酸塩基、スルホン酸塩基が含まれ、好ましくはポリカルボン酸塩基である。
【0024】
ポリカルボン酸塩系の高分子分散剤は、ポリカルボン酸またはその塩である。ポリカルボン酸の例には、ポリアクリル酸(例えば(メタ)アクリル酸共重合体;(メタ)アクリル酸・アクリルニトリル共重合体、アクリル酸・メタクリル酸・アクリロニトリル共重合体などの(メタ)アクリル酸共重合体)、および、マレイン酸・α-オレフィン共重合体が含まれる。ポリカルボン酸の塩は、ポリカルボン酸の金属塩(ナトリウム、カリウム、セシウムなどのアルカリ金属塩)またはアンモニウム塩である。中でも、ポリアクリル酸またはその塩が好ましく、ポリアクリル酸の金属塩がより好ましく、ポリアクリル酸のナトリウム塩がさらに好ましい。
【0025】
ポリアクリル酸またはその塩の市販品の例には、商品名「アロンT-50」、「アロンA-210」、「アロンA-30L」(以上、東亞合成社製)、商品名「アクアリックDL」(日本触媒社製)、商品名「ノプコスパース44C」(サンノプコ社製)などがある。
【0026】
スルホン酸塩系の高分子分散剤の例には、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物、リグニンスルホン酸のホルマリン縮合物が含まれ、好ましくは芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物である。芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物の例には、縮合ナフタレンスルホン酸ナトリウムが含まれる。
【0027】
中でも、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)のような無機粒子との親和性が特に高い観点などから、ポリカルボン酸の金属塩(好ましくはナトリウム塩)がより好ましい。
【0028】
アニオン系高分子分散剤(f)の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば2000~1000000であることが好ましく、5000~60000であることがより好ましい。アニオン系高分子分散剤(f)の重量平均分子量が一定以上であると、少量の添加であっても2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)を安定的に分散させうる。アニオン系高分子分散剤(f)の重量平均分子量が一定以下であると、当該シリカ粒子(e)の表面がアニオン系高分子分散剤(f)で覆われすぎないため、塗膜形成時の架橋反応が阻害されることもなく、水系塗料組成物の塗膜の耐湿性が損なわれにくい。アニオン系高分子分散剤(f)の重量平均分子量は、JIS K 0124-2011に準じ、ゲルパーミエーションクロマトグラフで測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出することができる。
【0029】
顔料分散液を調製する際のアニオン系高分子分散剤(f)の添加量は、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)100質量部に対して0.05~1.0質量部であることが好ましい。アニオン系高分子分散剤(f)の添加量が0.05質量部以上であると、当該シリカ粒子(e)の分散性を十分に高めやすく、1.0質量部以下であると、水系塗料組成物の焼き付け時にリン酸変性エポキシ樹脂(b)とメラミン化合物(c)との架橋反応が不十分となることによる塗膜の耐湿性の低下を抑制しうる。アニオン系高分子分散剤(f)の添加量は、同様の観点から、当該シリカ粒子(e)100質量部に対して、0.1~0.6質量部であることがより好ましい。
【0030】
2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)の粉砕混合は、顔料分散液における分散性をさらに高めやすくし、かつ組成の調整を容易にする観点から、アニオン系高分子分散剤(f)だけでなく、分散樹脂(g)をさらに添加して行うことが好ましい。
【0031】
[分散樹脂(g)]
分散樹脂(g)は、特に制限されないが、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)との反応性が低い樹脂であることが好ましく、後述するノニオン性の水分散性樹脂(a)であることがより好ましい。ノニオン性の水分散性樹脂(a)は、当該シリカ粒子(e)と相互作用することで、当該シリカ粒子(e)を沈降させにくくし、保存安定性を一層高めうる。また、得られる水系塗料組成物の不揮発分の含有割合が低下するのを抑制することができる。
【0032】
顔料分散液を調製する際の分散樹脂(g)の添加量は、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)100質量部に対して例えば120質量部以下(顔料分散液全体に対しては50質量%以下)であることが好ましい。分散樹脂(g)の添加量が、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)100質量部に対して120質量部以下であると、粉砕媒体により分散樹脂(g)が破壊される割合を少なくできるため、顔料分散液の保存安定性が損なわれにくい。
【0033】
[他の成分(h)]
顔料分散液には、必要に応じて他の成分(h)をさらに添加してもよい。他の成分(h)の例には、消泡剤、増粘剤が含まれる。消泡剤の例には、ジメチルシリコーンオイル、フルオロシリコーンオイル、流動パラフィン、ポリオキシエチレンプロピレン付加物などが含まれる。
【0034】
[粉砕混合]
前述の通り、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)を、粉砕媒体を用いないで混合(撹拌混合)すると、当該シリカ粒子(e)が凝集しやすく、所望の平均粒子径になるまで十分に分散させることができない。そのため、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)を、粉砕媒体を用いて混合(粉砕混合)することが好ましい。
【0035】
粉砕混合は、粉砕媒体を用いた混合であれば特に限定されず、例えば、粉砕媒体としてビーズを用いたビーズミルによって行うことができる。ビーズミルとは、原料を粉砕しながら混合するミルであり、原料を入れた容器中にビーズを充填して回転させて、原料を摺りつぶして粉砕および分散を行う装置をいう。そのようなビーズミルには、アトライター、ボールミル、振動ミル、SCミルなどが含まれる。
【0036】
ビーズミルは、液体中で原料を微細化する湿式ビーズミルである。比較的小さい粒子径に粉砕しやすい観点では、湿式ビーズミルが好ましい。
【0037】
粉砕混合条件(周速、混合時間)は、特に制限されない。周速は、例えば3~10m/sであることが好ましい。混合時間は、周速にもよるが、例えば3~30分間であることが好ましい。周速や混合時間が上記範囲内であると、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)の平均粒子径を後述する範囲に調整しやすく、分散不良や過分散による液安定性の低下を抑制しうる。
【0038】
[顔料分散液]
(平均粒子径)
顔料分散液における2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)の平均粒子径は、特に制限されないが、0.5~5.0μmであることが好ましく、0.8~3.0μmであることがより好ましい。当該シリカ粒子(e)の平均粒子径が一定以上であると再凝集しにくく、一定以下であると沈降しにくく、いずれも分散性に優れる。
【0039】
顔料分散液における2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)の平均粒子径は、JIS Z 8825-1/ISO 13320に準拠したレーザー回折・散乱法、例えばレーザー回折式粒度分布計(例えば島津製作所製、SALD2300)により、当該シリカ粒子(e)のメジアン径(D50)として測定することができる。
【0040】
顔料分散液におけるシリカ粒子(e)の平均粒子径は、主に、粉砕混合の周速や混合時間によって調整することができる。
【0041】
(粘度)
顔料分散液の、20℃におけるフォードカップ粘度は、特に制限されないが、300秒以下であることが好ましく、100秒以下であることがより好ましい。顔料分散液のフォードカップ粘度は、ASTM D1200・ISO2431に準拠して、20℃の環境下、No.4フォードカップを用いて測定することができる。
【0042】
顔料分散液の粘度は、例えば2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)の含有量によって調整することができる。
【0043】
2)の工程(水系塗料組成物を調製する工程)について
得られた顔料分散液と、ノニオン性の水分散性樹脂(a)と、リン酸変性エポキシ樹脂(b)と、メラミン化合物(c)と、シランカップリング剤(d)と、水とを撹拌混合して、水系塗料組成物を得る。
【0044】
すなわち、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)と、リン酸変性エポキシ樹脂(b)と、メラミン化合物(c)と、シランカップリング剤(d)とを、粉砕媒体を用いて粉砕混合すると、リン酸変性エポキシ樹脂(b)の安定性が低下したり、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)から溶出した成分により架橋成分(リン酸変性エポキシ樹脂(b)とメラミン化合物(c))の架橋反応が過剰に促進されたりする場合があり、保存安定性が低下しやすい。そのような保存安定性の低下を抑制する観点から、当該シリカ粒子(e)と、架橋成分(特にリン酸変性エポキシ樹脂(b)とメラミン化合物(c))との混合は、粉砕媒体を用いない混合、すなわち、撹拌混合で行うことが好ましい。
【0045】
[ノニオン性の水分散性樹脂(a)]
ノニオン性の水分散性樹脂(a)は、ノニオン性の親水性基を有し、かつイオン性官能基を有しない水分散性樹脂である。ノニオン性の親水性基は、水酸基、アミド基、ポリオキシアルキレン基(例えばポリオキシエチレン基)などでありうる。中でも、ノニオン性の親水性基は、塗料組成物の保存安定性を高める観点では、ポリオキシエチレン基であることが好ましい。
【0046】
ノニオン性の水分散性樹脂(a)の例には、ノニオン性のウレタン樹脂、ノニオン性のアクリル樹脂、ノニオン性のエポキシ樹脂、ノニオン性のポリエステル樹脂が含まれる。これらの樹脂は、ノニオン性界面活性剤(またはポリオキシアルキレン基などのノニオン性の親水性基と、反応性基とを有する分散剤)の存在下で、モノマーを重合または樹脂を撹拌して得られる樹脂であってもよいし、ノニオン性の親水性基を有するモノマーを含むモノマー成分を重合して得られる樹脂であってもよい。
【0047】
ノニオン性のウレタン樹脂は、例えばポリイソシアネート成分と、ノニオン性の親水性基(例えば水酸基)を有するポリオールを含むポリオール成分とを反応させて得られる重合体でありうる。
【0048】
ポリイソシアネート成分の例には、シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂環式構造を有するポリイソシアネート;4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネートが含まれる。
【0049】
ノニオン性の親水性基を有するポリオールの例には、3価以上のポリオール(ノニオン性の親水性基が水酸基である場合)、ポリオキシエチレングリコールやポリオキシエチレン基と少なくとも2個の水酸基を有する化合物(ノニオン性の親水性基がポリオキシエチレン基である場合)が含まれる。
【0050】
ポリオール成分は、上記以外の他のポリオールをさらに含んでもよい。他のポリオールの例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリンなどの脂肪族ポリアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテルポリオール類;アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸などのジカルボン酸とグリコールから得られるポリエステルポリオール類が含まれる。
【0051】
ノニオン性のアクリル樹脂は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと、ノニオン性の親水性基を有する重合性不飽和モノマーとの共重合体でありうる。ノニオン性の親水性基を有する重合性不飽和モノマーの例には、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、ポリオキシアルキレン基を有する重合性不飽和モノマーなどが含まれる。
【0052】
ノニオン性のポリエステル樹脂は、例えば、ノニオン性の親水性基を有するポリオールを含むポリオール成分と、ポリカルボン酸との重縮合体であってもよい。ノニオン性の親水性基を有するポリオールは、前述と同様のものを用いることができる。ポリカルボン酸の例には、アジピン酸、セバシン酸、ブタントリカルボン酸などの脂肪族ポリカルボン酸や、テレフタル酸やトリメリット酸などの芳香族カルボン酸が含まれる。
【0053】
ノニオン性のエポキシ樹脂は、例えばエポキシ基と反応しうる官能基(アミノ基やエポキシ基)とポリオキシアルキレン基とを有するポリオキシアルキレン化合物の存在下で、エポキシ樹脂を撹拌して得られる樹脂や;エポキシ基を2以上有する化合物と、ポリエチレングリコールまたはそのモノエステルとを反応させて得られる樹脂などが含まれる。
【0054】
中でも、保存安定性を高めやすい観点では、ノニオン性のアクリル樹脂、ノニオン性のウレタン樹脂が好ましい。また、得られる塗膜の耐湿性を高めやすい観点では、ノニオン性のエポキシ樹脂、ノニオン性のウレタン樹脂が好ましい。すなわち、保存安定性が良好で、かつ塗膜の耐湿性を高めやすく、塗膜の密着性などにも優れる観点では、ノニオン性のウレタン樹脂が特に好ましい。
【0055】
ノニオン性の水分散性樹脂(a)の重量平均分子量は、特に制限されないが、例えば50000~1000000であることが好ましい。ノニオン性水分散性樹脂(a)の重量平均分子量が50000以上であると、得られる塗膜に十分な強度または可撓性を付与しやすく、1000000以下であると、塗料組成物の粘度上昇を抑制しやすく、塗工性が損なわれにくい。重量平均分子量は、前述と同様の方法で測定することができる。
【0056】
[リン酸変性エポキシ樹脂(b)]
リン酸変性エポキシ樹脂(b)は、塗膜の金属板との密着性や耐湿性を高めうる。リン酸変性エポキシ樹脂(b)は、エポキシ樹脂を、リン酸結合を有する化合物と反応させて得られる樹脂であり、揮発性アミンなどの塩基で中和することにより、エマルションを形成しうる。
【0057】
原料となるエポキシ樹脂は、特に制限されず、その例には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ノボラック型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;シクロヘキサンジメタノールや水添ビスフェノールAなどから得られる脂環式エポキシ樹脂が含まれる。中でも、密着性、耐食性の観点から、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂が好ましい。
【0058】
エポキシ樹脂の重量平均分子量は、800~50000であることが好ましい。エポキシ樹脂の重量平均分子量が800以上であると、得られる塗膜に十分な可撓性を付与しやすく、50000以下であると、塗料組成物の粘度上昇を抑制しやすく、塗工性が損なわれにくい。
【0059】
リン酸結合を有する化合物は、特に限定されないが、その例には、メタリン酸、オルトリン酸、ピロリン酸などリン酸類;ジエチルフォスフェート、ジブチルフォスフェート、ジオクチルフォスフェートなどのリン酸エステルが含まれる。
【0060】
エポキシ樹脂と反応させるリン酸結合を有する化合物の量(変性量)は、エポキシ樹脂のエポキシ基1モルに対してリン酸結合を有する化合物のリン酸基のモル数が、例えば0.1~1.5モルとなる量であることが好ましい。
【0061】
中和に用いられる揮発性アミンの例には、トリエチルアミンなどが含まれる。
【0062】
[メラミン化合物(c)]
メラミン化合物(c)は、リン酸変性エポキシ樹脂(b)の硬化剤として機能しうる。それにより、塗料組成物の硬化物は、良好な耐湿性や耐食性(特に耐湿性)を有しうる。
【0063】
メラミン化合物(c)の種類は、特に限定されず、メラミン硬化剤として公知のものを用いることができる。メラミン化合物(c)は、例えばメラミンとアルデヒドを反応させて得られるメチロール化メラミン化合物や、そのメチロール基の少なくとも一部がアルコール類(例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2-エチルブタノール、2-エチルヘキサノールなどの1価アルコール)によってエーテル化されたものが挙げられる。
【0064】
メチロール化メラミン化合物の例には、トリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン、トリブチロールメラミン、ヘキサブチロールメラミンが含まれる。メチロール化メラミン化合物のエーテル化物の例には、メトキシメチルメラミン(例えばヘキサメトキシメチルメラミンなど)、エトキシメチルメラミン、エトキシブチルメラミン、ブトキシブチルメラミンが含まれる。
【0065】
中でも、塗料組成物の保存安定性を高めやすくする観点では、メチロール化メラミン化合物のメチロール基の少なくとも一部を炭素原子数1~4の1価アルコールでエーテル化して得られるメラミン化合物が好ましい。
【0066】
[シランカップリング剤(d)]
シランカップリング剤(d)は、塗膜の金属板との密着性を高めうる。また、シランカップリング剤(d)は、後述する2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)の表面の官能基と架橋反応することで、得られる塗膜の耐湿性や密着性をさらに高めうる。
【0067】
シランカップリング剤(d)は、分子内に、加水分解でシラノール基(Si-OH)を与えるアルコキシ基などと、エポキシ基、ビニル基、アミノ基、メルカプト基またはアルキル基などの有機基とを有する化合物をいう。
【0068】
シランカップリング剤(d)の例には、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどの、分子内にエポキシ基を有するエポキシ系シランカップリング剤;ビニルトリメトキシシラン、ビニルメトキシシランなどの、分子内にビニル基を有するビニル系シランカップリング剤;アミノメチルトリメトキシシラン、アミノメチルトリエトキシシラン、アミノメチルトリプロポキシシラン、アミノメチルトリブトキシシラン、アミノメチルトリフェノキシシラン、アミノエチルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどの、分子内にアミノ基を有するアミン系シランカップリング剤;メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、メルカプトメチルトリプロポキシシラン、メルカプトメチルトリブトキシシラン、メルカプトメチルトリフェノキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジエトキシシランなどの、分子内にメルカプト基を有するメルカプト系シランカップリング剤などが含まれる。中でも、リン酸変性エポキシ樹脂(b)との親和性が良好であり、かつメラミン化合物(c)との架橋反応も可能であり、耐湿性の高い硬化物を得やすくする観点などから、エポキシ系シランカップリング剤が好ましい。
【0069】
[他の成分]
上記各成分に加えて、上記以外の他の成分をさらに添加してもよい。他の成分の例には、水溶性有機溶剤(例えばメタノール、エタノール、n-プロパノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類)、増粘剤(例えばメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、マグネシウムアルミニウムシリケート、ポリビニルアルコール、メタクリル酸アクリル重合体、ウレタン変性ポリエーテルなど)、上記消泡剤、乳化剤(ノニオン性界面活性剤、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなど)、(e)成分以外の防錆剤(例えばリン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、リン酸亜鉛マグネシウム、リン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、シリカ、リン酸ジルコニウム、トリポリリン酸2水素アルミニウム、酸化亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛、メタホウ酸バリウムおよびクロム酸ストロンチウム)、pH調整剤(トリエチルアミン、トリエタノールアミン、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ類や、塩酸、酢酸、クエン酸などの酸類)、造膜助剤(ブチルセルソルブ、テキサノール、カルビトールなどの、沸点150~250℃の水溶性有機溶剤)、顔料(酸化チタン、カーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄、ベンガラなどの着色顔料、硫酸バリウム、酸化チタン、シリカおよび炭酸カルシウムなどの体質顔料)が含まれる。
【0070】
上記各成分の添加量は、得られる水系塗料組成物における各成分の含有量が、後述する範囲となるように調整すればよい。
【0071】
[撹拌混合]
撹拌混合は、攪拌機(ミキサー)による混合であり、粉砕媒体による粉砕を伴わない混合をいう。そのような撹拌混合では、ノニオン性の水分散性樹脂(a)や、リン酸変性エポキシ樹脂(b)などが壊されにくいため、得られる水系塗料組成物の保存安定性を高めることができる。
【0072】
撹拌混合条件(攪拌翼先端速度(周速)、撹拌時間)は、特に制限されない。周速は、例えば1.0~5.0m/sであることが好ましい。撹拌時間は、周速にもよるが、例えば10~60分間であることが好ましい。周速や撹拌時間が上記範囲内であると、各成分を良好に混合することができる。
【0073】
なお、高速攪拌などにより水系塗料組成物が発熱した場合は、水系塗料組成物の安定性や、所望の性能が損なわれにくくする観点から、周速を低くしたり、容器を冷却したりすることが好ましい。水系塗料組成物の過剰な反応を抑制する観点では、水系塗料組成物の温度は、40℃未満となるように調整することが好ましい。
【0074】
[水系塗料組成物]
得られる水系塗料組成物は、ノニオン性の水分散性樹脂(a)と、リン酸変性エポキシ樹脂(b)と、メラミン化合物(c)と、シランカップリング剤(d)と、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)と、当該シリカ粒子(e)の少なくとも一部の表面に吸着しているアニオン系高分子分散剤(f)とを含む。
【0075】
水系塗料組成物における各成分の含有量は、特に制限されないが、良好な保存安定性と耐湿性とを両立しやすくする観点から、以下を満たすことが好ましい。
【0076】
ノニオン性の水分散性樹脂(a)の含有量は、(a)、(b)および(c)成分の合計100質量部に対して60~94.5質量部であることが好ましい。ノニオン性の水分散性樹脂(a)の含有量が60質量部以上であると、ノニオン性の水分散性樹脂(a)は、例えばリン酸変性エポキシ樹脂(b)よりも2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)から溶出した金属イオンによって反応が促進されにくいため、塗料組成物の保存安定性を高めやすい。ノニオン性の水分散性樹脂(a)の含有量が94.5質量部以下であると、得られる塗膜の耐湿性や密着性、耐食性が損なわれにくい。ノニオン性の水分散性樹脂(a)の含有量は、同様の観点から、(a)、(b)および(c)成分の合計100質量部に対して70~89質量部であることがより好ましく、70~85質量部であることがより好ましい。
【0077】
リン酸変性エポキシ樹脂(b)の含有量は、(a)、(b)および(c)成分の合計100質量部に対して5~39.5質量部であることが好ましい。リン酸変性エポキシ樹脂(b)の含有量が5質量部以上であると、メラミン化合物(c)との架橋反応などにより、架橋密度の高い硬化物を形成しうるため、塗膜の金属板との密着性や耐湿性を高めやすく、39.5質量部以下であると、保存中にメラミン化合物(c)との架橋反応などによる粘度上昇を生じにくいため、塗料組成物の保存安定性が損なわれにくい。リン酸変性エポキシ樹脂(b)の含有量は、同様の観点から、(a)、(b)および(c)成分の合計100質量部に対して10~29質量部であることがより好ましく、15~25質量部であることがさらに好ましい。
【0078】
また、リン酸変性エポキシ樹脂(b)の含有量は、上記と同様の観点から、ノニオン性の水分散性樹脂(a)とリン酸変性エポキシ樹脂(b)の合計100質量部に対して、5~40質量部であることが好ましく、10~30質量部であることがより好ましく、15~30質量部であることがさらに好ましい。
【0079】
メラミン化合物(c)の含有量は、得られる水系塗料組成物において、(a)、(b)および(c)成分の合計100質量部に対して0.5~10質量部となる範囲であることが好ましい。メラミン化合物(c)の含有量が0.5質量部以上であると、リン酸変性エポキシ樹脂(b)を十分に架橋させやすいため、塗膜の金属板との密着性や耐湿性、耐食性を高めやすく、10質量部以下であると、保存中にリン酸変性エポキシ樹脂(b)の架橋反応などによる粘度上昇を生じにくいため、保存安定性が損なわれにくい。メラミン化合物(c)の含有量は、同様の観点から、(a)、(b)および(c)成分の合計100質量部に対して1~8質量部であることがより好ましく、3~8質量部であることがさらに好ましい。
【0080】
シランカップリング剤(d)の含有量は、(a)、(b)および(c)成分の合計100質量部に対して0.3~5質量部であることが好ましい。シランカップリング剤(d)の含有量が0.3質量部以上であると、塗膜の金属板との密着性や耐湿性、耐食性を高めやすく、5質量部以下であると、塗料組成物の保存安定性が損なわれにくい。シランカップリング剤(d)の含有量は、同様の観点から、(a)、(b)および(c)成分の合計100質量部に対して1~4質量部であることがより好ましく、1.5~3質量部であることがさらに好ましい。
【0081】
2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)の含有量は、(a)、(b)および(c)成分の合計100質量部に対して5~70質量部であることが好ましい。2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)の含有量が5質量部以上であると、(b)成分と(c)成分との架橋反応などを十分に促進させやすいため、塗膜の金属板との密着性や耐湿性、耐食性(特に耐湿性)を高めやすく、70質量部以下であると、保存中に(b)成分と(c)成分との架橋反応などによる粘度上昇が生じにくいため、塗料組成物の保存安定性が損なわれにくい。2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)の含有量は、同様の観点から、(a)、(b)および(c)成分の合計100質量部に対して7.5~55質量部であることがより好ましく、15~45質量部であることがさらに好ましい。
【0082】
アニオン系高分子分散剤(f)の含有量は、前述の通り、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)100質量部に対して0.05~1.0質量部であることが好ましく、0.1~0.6質量部であることがより好ましい。
【0083】
本発明の水系塗料組成物は、高い保存安定性を有しつつ、耐湿性の高い塗膜を形成しうる。したがって、本発明の水系塗料組成物は、塗装金属板の下塗り塗膜を得るための水系塗料組成物として好ましく用いられる。
【0084】
2.塗装金属板
本発明の塗装金属板は、金属板と、その表面に配置された下塗り塗膜とを有する。
【0085】
2-1.金属板
塗装原板となる金属板は、塗装金属板の用途に応じて適宜選択することができる。金属板の例には、亜鉛系めっき鋼板、Zn-Al系合金めっき鋼板、Zn-Al-Mg系合金めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板などのめっき鋼板;冷延鋼板、ステンレス鋼板(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系を含む)などの鋼板;アルミニウム板;アルミニウム合金板;および銅板が含まれる。なかでも、耐食性を高める観点から、金属板は、めっき鋼板であることが好ましく、溶融めっき鋼板であることがより好ましい。めっき鋼板のめっき付着量は、特に制限されないが、例えば30~500g/m2でありうる。
【0086】
金属板の厚みは、用途や加工性に応じて設定されればよく、特に制限されないが、例えば0.1~2mmであることが好ましい。
【0087】
2-2.下塗り塗膜
下塗り塗膜は、上記製造方法で得られる水系塗料組成物の硬化物からなる。下塗り塗膜は、上塗り塗膜と金属板との間の密着性を高めうるだけでなく、得られる塗装金属板の耐湿性や耐食性を高めうる。
【0088】
下塗り塗膜の厚みは、1~10μmであることが好ましい。下塗り塗膜の厚みが1μm以上であると、金属板と上塗り塗膜との間の密着性を高めやすく、かつ十分な耐湿性および耐食性が得られやすい。下塗り塗膜の厚みが10μm以下であると、塗装金属板の外観や加工性が損なわれにくい。下塗り塗膜の厚みは、上記観点から、3~7μmであることがより好ましい。
【0089】
2-3.上塗り塗膜
本発明の塗装金属板は、下塗り塗膜の表面に、少なくとも上塗り塗膜を有しうる。具体的には、上塗り塗膜は、下塗り塗膜の表面、または、下塗り塗膜と上塗り塗膜との間に他の層(例えば中塗り塗膜)を有する場合は当該他の層の表面に、配置されうる。
【0090】
上塗り塗膜は、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物で構成されてもよいし、硬化剤と反応する官能基を有する硬化性樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物で構成されてもよい。
【0091】
熱可塑性樹脂の種類は、塗装金属板の用途に応じて適宜設定されうる。熱可塑性樹脂の例には、アクリル樹脂、ポリエステル、フッ素樹脂、アクリル-スチレン樹脂、スチレン樹脂、シリコーン樹脂が含まれる。これらの樹脂は、1種類だけ含まれてもよいし、2種類以上が含まれてもよい。
【0092】
硬化性樹脂の種類は、塗装金属板の用途に応じて適宜設定されうる。硬化性樹脂の例には、オイルフリーのポリエステル樹脂(水酸基含有ポリエステル樹脂)などの硬化性ポリエステル、水酸基含有アクリル樹脂などの硬化性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、およびこれらの樹脂のウレタン変性物、シリコーン変性物もしくはエポキシ変性物が含まれる。
【0093】
硬化剤は、硬化性樹脂の種類や上塗り塗膜の焼付け条件などに応じて適宜選択されうる。例えば、水酸基を有する硬化性樹脂などの硬化剤の例には、メラミン化合物およびイソシアネート化合物が含まれる。
【0094】
これらの樹脂組成物は、必要に応じて着色顔料および体質顔料などの他の成分をさらに含有していてもよい。着色顔料および体質顔料は、前述の下塗り塗膜に含まれうる着色顔料および体質顔料と同様のものを用いることができる。
【0095】
上塗り塗膜の厚みは、薄すぎると所期の意匠性が得られないことがあり、厚すぎると外観や加工性を損なうことがある。上塗り塗膜の厚みは、塗装金属板の外観や加工性の観点から、5~30μmであることが好ましい。
【0096】
2-4.他の層
塗装金属板は、上記以外の他の層をさらに有してもよい。他の層の例には、化成処理皮膜や中塗り塗膜などが含まれる。
【0097】
[化成処理皮膜]
金属板は、塗装金属板の耐食性および塗膜密着性を高める観点から、その表面には、化成処理が施されていてもよい。すなわち、化成処理皮膜は、金属板と下塗り塗膜との間に配置されてよい。化成処理皮膜の種類は、特に限定されないが、例えばクロメート皮膜であってもよいし、非クロメート皮膜(クロムフリー皮膜)であってもよい。
【0098】
クロメート系皮膜の例には、塗布型クロメート処理皮膜が含まれる。非クロメート系皮膜の例には、Ti-Mo複合皮膜、フルオロアシッド系皮膜、リン酸塩皮膜が含まれる。
【0099】
化成処理皮膜の付着量は、耐食性および塗膜密着性の向上に有効な範囲であれば特に限定されない。例えば、クロメート皮膜の場合、全Cr換算付着量が5~100mg/m2となるように付着量を調整すればよい。また、非クロメート皮膜の場合、Ti-Mo複合皮膜では10~500mg/m2、フルオロアシッド系皮膜ではフッ素換算付着量または総金属元素換算付着量が3~100mg/m2、リン酸塩皮膜では5~500mg/m2、となるように付着量をそれぞれ調整すればよい。
【0100】
[中塗り塗膜]
中塗り塗膜は、例えは、上塗り塗膜との外観上の相加または相乗効果により、塗装金属案の意匠性を高めるために、下塗り塗膜の表面、すなわち下塗り塗膜と上塗り塗膜との間に配置されうる。
【0101】
中塗り塗膜は、上塗り塗膜と同様に、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物で構成されてもよいし、硬化性樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物で構成されてもよい。所期の効果に応じた他の成分をさらに含有していてもよい。樹脂組成物を構成する成分は、塗装金属板の用途に応じて、下塗り塗膜および上塗り塗膜を構成する樹脂組成物の各成分として挙げたものと同様のものを用いることができる。
【0102】
中塗り塗膜の厚みは、所期の効果を十分に得やすくする観点では、一定以上であることが好ましく、塗装金属板の外観を損なわないようにする観点では、一定以下であることが好ましい。所期の意匠性の向上効果を得る観点から、中塗り塗膜の厚みは、例えば5~30μmとしうる。
【0103】
3.塗装金属板の製造方法
本発明の塗装金属板は、任意の方法で製造することができる。本発明の塗装金属板の製造方法は、1)本発明の水系塗料組成物の製造方法で水系塗料組成物を得る工程と、2)得られた水系塗料組成物を金属板の表面に付与した後、硬化させて、下塗り塗膜を形成する工程とを含み、3)下塗り塗膜の表面に、少なくとも上塗り塗膜(一以上の塗膜)を形成する工程をさらに含むことが好ましい。
【0104】
1)の工程について
前述の水系塗料組成物の製造方法により、水系塗料組成物を得る。
【0105】
2)の工程について
次いで、得られた水系塗料組成物を、金属板の表面に付与する。具体的には、金属板の表面に、水系塗料組成物を塗布する。水系塗料組成物を塗布する方法は、特に制限されず、その例には、ロールコート法、ローラーカーテンコート法、フローコート法、カーテンフロー法、およびスプレー法が含まれる。
【0106】
そして、金属板の表面に塗布した水系塗料組成物を、乾燥および焼き付けさせて(硬化させて)、下塗り塗膜を形成する。焼き付け温度は、樹脂成分が融着および/または硬化しうる温度であればよく、例えば到達板温で70~250℃としうる。
【0107】
3)の工程について
そして、得られた下塗り塗膜の表面に、少なくとも上塗り塗料組成物を付与する。具体的には、下塗り塗膜の表面に、少なくとも上塗り塗料組成物を塗布する。上塗り塗料組成物の塗布方法は、前述と同様としうる。
【0108】
上塗り塗料組成物は、前述の成分のほか、溶剤をさらに含みうる。溶剤は、硬化樹脂を溶解させることができるものであればよく、特に制限されないが、その例には、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)やN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、メチルイソブチルケトン(MIBK)などの非プロトン性極性溶剤;ジエチレングリコールジメチルエーテル(DMDG)やジエチレングリコールジエチルエーテル(DEDG)などのエーテル類;塩化メチレンや四塩化炭素などのハロゲン化脂肪族炭化水素;キシレンなどの炭化水素類;およびアルコール類が含まれる。
【0109】
次いで、塗布した上塗り塗料組成物を、乾燥および焼き付け(硬化)させて、上塗り塗膜を形成する。焼き付け温度は、硬化樹脂が融着および/または硬化しうる温度であればよく、例えば到達板温で200~260℃としうる。
【0110】
4)の工程について
また、金属板と下塗り塗膜との密着性をより高める観点などから、1)の工程と2)の工程の間に、4)金属板の表面に化成処理皮膜を形成する工程をさらに行ってもよい。
【0111】
化成処理皮膜は、金属板の表面を、公知の方法で化成処理することにより形成することができる。例えば、化成処理液をロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの方法で金属板の表面に塗布し、水洗せずに乾燥させればよい。乾燥温度および乾燥時間は、水分を蒸発させることができれば特に限定されない。生産性の観点からは、乾燥温度は、到達板温で60~150℃の範囲内が好ましく、乾燥時間は、2~10秒の範囲内が好ましい。
【0112】
また、上塗り塗膜との外観上の相加または相乗効果により、塗装金属案の意匠性を高める観点などから、必要に応じて、2)の工程と3)の工程の間に、5)下塗り塗膜の表面に中塗り塗膜を形成する工程をさらに行ってもよい。
【実施例】
【0113】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0114】
1.水系塗料組成物の材料
<ノニオン性の水分散性樹脂(a)の水分散体>
樹脂Aの水分散体:ノニオン性ウレタン樹脂の水分散体、ADEKA社製HUX-841(固形分32質量%、ノニオン性の親水性基としてポリオキシエチレン基を有するウレタン樹脂)
樹脂Bの水分散体:ノニオン性アクリル樹脂の水分散体、楠本化成社製DXA.4081(固形分50質量%、ノニオン性の親水性基としてポリオキシエチレン基を有するアクリル樹脂)
樹脂Cの水分散体:ノニオン性エポキシ樹脂の水分散体、ADEKA社製EM-0464(固形分45質量%、ノニオン性の親水性基としてポリオキシエチレンを有するエポキシ樹脂)
樹脂Dの水分散体:アニオン性ウレタン樹脂の水分散体、第一工業製薬社製スーパーフレックス170(固形分33質量%、アニオン性の親水性基としてカルボキシ基を有するウレタン樹脂)
【0115】
<リン酸変性エポキシ樹脂(b)の水分散体>
オルトリン酸60gおよびプロピレングリコールモノメチルエーテル280gを仕込み、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂(三菱ケミカル社製jER1055、分子量1600、エポキシ等量:800~900g/eq)850gを徐々に添加し、80℃で2時間反応させた。反応終了後、トリエチルアミン120gと水1950gを加え、固形分28質量%のリン酸変性エポキシ樹脂の水分散体(平均粒子径0.11μm)を得た。
【0116】
<メラミン化合物(c)>
ヘキサメトキシメチルメラミン(三井サイテック社製サイメル303)
【0117】
<シランカップリング剤(d)>
グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越シリコーン社製KBM-403)
【0118】
<金属イオン交換シリカ(e)>
Mg交換シリカ:富士シリシア化学社製サイロマスク52M(平均粒子径2.7μm、金属イオン交換量6質量%)
Ca交換シリカ:富士シリシア化学社製サイロマスク52(平均粒子径2.7μm、金属イオン交換量6質量%)
【0119】
<分散剤>
(アニオン系高分子分散剤)
A:サンノプコ社製 ノプコサントR(ポリアクリル酸ナトリウム塩、分子量60000、固形分40%)
B:サンノプコ社製 ノプコスパース44C(ポリアクリル酸ナトリウム塩、分子量12000、固形分40%)
C:サンノプコ社製 ノプコスパース5020(ポリアクリル酸アンモニウム塩、分子量20000、固形分41%)
D:サンノプコ社製 SN-PW43(縮合ナフタレンスルホン酸ナトリウム、分子量20000、固形分41%)
【0120】
(他の分散剤)
E:ノニオン系分散剤(日本乳化剤社製、ニューコール710、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)
F:カチオン系分散剤(第一工業製薬社製、カチオーゲンD2、ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド)
【0121】
なお、アニオン系高分子分散剤の重量平均分子量は、JIS K 0124-2011に準じ、ゲルパーミエーションクロマトグラフで測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した。
【0122】
2.顔料分散液の調製
<顔料分散液1~18の調製>
表1に示される種類の分散剤、分散樹脂および水を、表1に示される配合量で容器に入れた。次いで、これらを攪拌機にて1.5m/秒で攪拌しながら、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)としてMg交換シリカ(サイロマスク52M、平均粒子径2.7μm、金属イオン交換量6質量%)を少しずつ添加し、すべて投入した後、10分間さらに攪拌した。そして、攪拌した混合物をビーズミルに投入して、周速5.2m/秒で10分間さらに分散させて(粉砕A)、顔料分散液を得た。
【0123】
<顔料分散液19の調製>
2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)を、表1に示されるものに変更した以外は顔料分散液1と同様の方法で、顔料分散液19を得た。
【0124】
<顔料分散液20~22の調製>
分散樹脂を、表1に示されるものに変更した以外は顔料分散液1と同様の方法で、顔料分散液20~22を得た。
【0125】
<顔料分散液23~25の調製>
分散方法を、表1に示される方法に変更した以外は顔料分散液1と同様の方法で、顔料分散液23~25を得た。
なお、粉砕Bは、ボールミルを用いて、周速1.5m/秒で60分間行い;撹拌Aは、自転公転式ミキサー(写真化学社製カクハンターSK350T、粉砕媒体なし)を用いて、周速6m/秒で10分間行い(自転公転ともに);撹拌Bは、攪拌機(新東科学社製B1h1200、攪拌翼タービン型、粉砕媒体なし)を用いて、周速1.5m/秒で60分間行った。
【0126】
<顔料分散液26および27の調製>
高分子分散剤を、表1に示されるものに変更した以外は顔料分散液1と同様の方法で、顔料分散液26および27を得た。
【0127】
<評価>
得られた顔料分散液1~27における2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)の平均粒子径、流動性および分散性を、以下の方法で評価した。
【0128】
(平均粒子径)
レーザー回折式粒度分布計(島津製作所製、SALD2300)により、金属イオン交換シリカのメジアン径(D50)を測定し、平均粒子径とした。
【0129】
(流動性)
得られた顔料分散液のフォードカップ粘度(秒)を、No.4フォードカップを用いて、20℃の環境下、ASTM D1200・ISO2431に準拠して測定した。そして、100秒以下であるものを◎、100秒超200秒以下のものを○、200秒超300以内であるものを△、300秒を超えるものまたは流動しないものを×とした。
【0130】
(分散性)
得られた顔料分散液を試験管に入れて、室温(23℃)にて保管した。
そして、72時間を超えても沈降しないものを◎、24時間超72時間以内で沈降するものを○、12時間超24時間以内に沈降するものを△、12時間以内に沈降するものを×とした。
【0131】
顔料分散液1~27の組成および評価結果を、表1に示す。
【0132】
【0133】
表1に示されるように、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)を粉砕混合して得られる顔料分散液は、当該シリカ粒子(e)を撹拌混合して得られる顔料分散液よりも、当該シリカ粒子(e)の平均粒子径が適度に小さく、分散性が良好である(沈降が少ない)ことがわかる(顔料分散液1~23と、顔料分散液24~25との対比)。
【0134】
また、顔料分散液中のアニオン系高分子分散剤(f)の含有量が分散樹脂100質量部に対して0.1~1質量部であると、流動性がより高まることがわかる(顔料分散液5~10の対比)。
【0135】
また、分散樹脂をさらに含むことで、分散性がより高まる(沈降しにくくなる)ことがわかる(顔料分散液1および15~17の対比)。
【0136】
これに対し、ノニオン系分散剤やカチオン系分散剤を用いた顔料分散液では、良好な分散性が得られないことがわかる(顔料分散液1~23と、顔料分散液26~27との対比)。
【0137】
3.水塗料組成物の調製
<水系塗料組成物1~39、41~46>
表2に示される顔料分散液を、攪拌機(新東科学社製B1h1200、攪拌翼タービン型、粉砕媒体なし)を用いて、周速1.5m/秒で攪拌しながら(撹拌B)、残余のノニオン性の水分散性樹脂(a)と、リン酸変性エポキシ樹脂(b)と、メラミン化合物(c)と、シランカップリング剤(d)とを、表2示される組成になるように投入し、投入後30分間さらに攪拌して、水系塗料組成物1~39、41~46を得た。
【0138】
<水系塗料組成物40>
攪拌機の代わりに、ビーズミルを用いて周速5.2m/秒で10分間粉砕混合(粉砕A)した以外は水系塗料組成物1と同様にして、水系塗料組成物40を得た。
【0139】
水系塗料組成物1~24の組成および調製方法を表2に示し、水系塗料組成物25~46の組成および調製方法を表3に示す。
【0140】
【0141】
【0142】
4.塗装金属板の作製および評価
<塗装金属板1~46の作製>
(1)金属板(塗装原板)の準備
板厚0.5mmの冷間圧延鋼板を準備した。この鋼板を、55質量%Al-45質量%Zn合金のめっき浴内に導入し、当該冷間圧延鋼板の両面に、溶融55質量%Al-45質量%Zn合金のめっき層をそれぞれ形成した。次いで、得られた鋼板を、溶融状態から25℃/秒の速度で130℃まで冷却した後、水冷(ウォータークエンチ)により常温(25℃)まで冷却して、めっき鋼板を得た。得られためっき鋼板の片面のめっき付着量は、80g/m2であった。
【0143】
(2)化成処理皮膜の形成
得られためっき鋼板の表面に、クロムフリー化成処理液をバーコーターで塗布した後、乾燥させて化成処理皮膜を形成した。クロムフリー化成処理液には、チタンフッ化水素酸(H2TiF6):0.1mol/Lおよびジルコンフッ化水素酸(H2ZrF6):0.1mol/Lの混合溶液を用いた。化成処理皮膜の付着量は、TiおよびZrの総金属元素換算付着量で3.5mg/m2であった。
【0144】
(3)下塗り塗膜の形成
得られた化成処理皮膜上に、表4または5に示される水系塗料組成物を、バーコーターで塗布した後、最高到達板温150℃、乾燥時間30秒で焼付けて、膜厚5μmの下塗り塗膜を形成した。
【0145】
(4)上塗り塗膜の形成
(上塗り塗料組成物の調製)
ポリエステル系クリア塗料(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製ニッペスーパーコート250HQ、オイルフリーの硬化性ポリエステル樹脂、メラミン硬化剤を含む塗料)に、当該樹脂固形分100質量部に対して5質量部のフタロシアニン系青色顔料(クロモファイン4927、大日精化社製)と、3質量部の酸化チタン(タイペークWHITE、R-930、石原産業社製)とを添加および混合して均一に分散させて、上塗り塗料組成物を得た。
【0146】
次いで、得られた下塗り塗膜の表面に、上記調製した上塗り塗料組成物を、バーコーターで塗布した後、最高到達板温220℃、乾燥時間40秒間で焼付けて、膜厚15μmの上塗り塗膜を形成し、塗装金属板を得た。
【0147】
(5)評価
塗装金属板の作製に用いた水系塗料組成物の保存安定性を、以下の方法で評価した。
【0148】
(保存安定性)
得られた水系塗料組成物のフォードカップ粘度(秒)を、作製直後と、40℃30%Rhの環境で30日間保管した後とで、それぞれ測定した。測定は、20℃の環境下で、No.4フォードカップを用いて、ASTM D1200・ISO2431に準拠して行った。そして、保存安定性を、以下の基準に基づいて評価した。
◎:粘度上昇が5秒未満
○:粘度上昇が5秒以上30秒未満
△:粘度上昇が30秒以上
×:塗料がゲル化
△以上であれば良好と判断した。
【0149】
また、得られた塗装金属板の上塗り塗膜の密着性、耐湿性および耐食性を、以下の方法で評価した。
【0150】
(密着性)
塗装金属板の上塗り塗膜の表面から、1mm間隔の切れ目によって100個のマス目ができるように基盤目状の切り込みを入れた。形成された切り込み部にテープを貼り付け、テープを剥離後、当該切り込み部における剥離面積を求めた。そして、以下の基準により、金属板と下塗り塗膜との間の界面の密着性を評価した。
◎:剥離面積0%(剥離なし)
○:剥離面積が0%超10%以下
△:剥離面積が10%超30%以下
×:剥離面積が30%超
△以上であれば良好と判断した。
【0151】
(耐湿性)
塗装金属板を湿潤環境(50℃、95%Rh)に1000時間曝した。その後、上塗り塗膜の平坦部の膨れ発生面積率を測定した。そして、以下の基準で耐湿性を評価した。
◎:膨れ発生率が0%(膨れ発生なし)
○:膨れ発生率が0%超5%未満
△:膨れ発生率が5%以上30%未満
×:膨れ発生率が30%以上
△以上であれば良好と判断した。
【0152】
(耐食性)
塗装金属板に対し、めっき鋼板のめっき層に達するようにナイフでX型のクロスカット傷を入れ、5%塩水噴霧1時間、乾燥4時間(60℃、30%Rh)、湿潤3時間(50℃、95%Rh)を1サイクルとして、120サイクル実施した。そして、試験後のクロスカット部の最大膨れ幅を測定した。最大膨れ幅は、クロスカット部からの膨れの侵入深さの最大幅を示す。そして、以下の基準で耐食性を評価した。
◎:最大膨れ幅が2mm以下
○:最大膨れ幅が2mm超4mm以下
△:最大膨れ幅が4mm超7mm以下
×:最大膨れ幅が7mm超
△以上であれば良好と判断した。
【0153】
水系塗料組成物1~24および塗装金属板1~24の評価結果を表4に示し、水系塗料組成物25~46および塗装金属板25~46の評価結果を表5に示す。
【0154】
【0155】
【0156】
表4および5に示されるように、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)を粉砕混合した後、架橋成分(リン酸変性エポキシ樹脂(b)やメラミン化合物(c))と撹拌混合して得られる水系塗料組成物1~46は、保存安定性が良好であることがわかる。また、得られる塗装金属板1~46は、密着性、耐湿性、および耐食性がいずれも良好であった。
【0157】
特に、アニオン系高分子分散剤(f)として分散剤Aや分散剤B(ポリアクリル酸のナトリウム塩)を用いるほうが、分散剤C(ポリアクリル酸のアンモニウム塩)や、分散剤D(縮合ナフタレンスルホン酸ナトリウム)を用いるよりも水系塗料組成物の保存安定性や塗膜の耐湿性を高め得ることがわかる(水系塗料組成物3、41~43の対比)。これは、ナトリウム塩のほうが、アンモニウム塩よりもシリカ粒子(e)との親和性が高く、カルボン酸基(アクリル酸)のほうが、スルホン酸よりもシリカ粒子(e)との親和性が高いことなどから、分散剤AやBが、分散剤Cよりもシリカ粒子(e)の表面に吸着しやすいためであると考えられる。
【0158】
また、顔料分散液中のアニオン系高分子分散剤(f)の量を、金属イオン交換シリカ100質量部に対して0.1質量部以上とすることで、保存安定性が高まりやすく、1質量部以下とすることで、塗膜の耐湿性の低下を抑制できることがわかる(水系塗料組成物18、19および37の対比)。
【0159】
また、顔料分散液に分散樹脂を添加することで、水系塗料組成物中の不揮発分の含有割合を高めることができるとともに、水系塗料組成物中でも顔料沈降を一層抑制でき、保存安定性が一層高くなることがわかる(水系塗料組成物41と46の対比)。
【0160】
これに対して、2価の金属イオンで交換されたシリカ粒子(e)と架橋成分とを同時に粉砕混合して得られる水系塗料組成物38は、保存安定性が低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明の水系塗料組成物の製造方法は、製造時の粘度上昇を抑制でき、良好な保存安定性を有しつつ、高温高湿下における塗膜の膨れを抑制しうる水系塗料組成物を得ることを可能とする。よって、塗装金属板の製造における環境負荷が軽減されるとともに製造コストが削減され、十分な性能を有する塗装金属板のさらなる普及が期待される。