(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】水解性不織布及び湿潤水解性不織布
(51)【国際特許分類】
D21H 13/08 20060101AFI20230720BHJP
D04H 1/4258 20120101ALI20230720BHJP
D04H 1/492 20120101ALI20230720BHJP
D21H 25/04 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
D21H13/08
D04H1/4258
D04H1/492
D21H25/04
(21)【出願番号】P 2019139377
(22)【出願日】2019-07-30
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】萬道 律雄
(72)【発明者】
【氏名】久保 直樹
(72)【発明者】
【氏名】塩田 隼介
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/115588(WO,A1)
【文献】特開2001-098489(JP,A)
【文献】特開平11-093055(JP,A)
【文献】特開2006-307384(JP,A)
【文献】特表2008-546917(JP,A)
【文献】特開昭62-184193(JP,A)
【文献】国際公開第2019/150964(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00 - 27/42
D04H 1/00 - 18/04
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ繊維と、再生セルロース繊維とが交絡した水解性不織布であり、絶乾状態の前記水解性不織布と水の質量比が1:2となるように前記水解性不織布に純水を含浸させた湿潤水解性不織布の世界下水道トイレに流せる製品問題検討会議(IWSFG)水解性試験に準じた水解性が95%以上であり、
前記水解性不織布の湿潤引張強さが30N/m以上であり、
且つ、前記水解性不織布と水の質量比が1:2となるように前記水解性不織布に純水を含浸させた湿潤水解性不織布のやわらかさの指標であるHF値が95以上であ
り、
前記再生セルロース繊維は、中空扁平レーヨン繊維を含み、
前記水解性不織布の全質量に対して、前記中空扁平レーヨン繊維を10~50質量%含有する水解性不織布。
【請求項2】
パルプ繊維と再生セルロース繊維とを含むスラリーを湿式抄紙して得られた不織布シートに、高圧水ジェット流処理を施されてなる請求項1に記載の水解性不織布。
【請求項3】
前記水解性不織布の全質量に対するパルプ繊維の含有量は、50質量%以上である請求項請求項1または2に記載の水解性不織布。
【請求項4】
前記水解性不織布の全質量に対するパルプ繊維の含有量は、90質量%以下である請求項1~3のいずれかに記載の水解性不織布。
【請求項5】
前記
中空扁平レーヨン繊維の繊度は、1.0dtex以上7.0dtex以下である請求項
1~4のいずれかに記載の水解性不織布。
【請求項6】
前記
中空扁平レーヨン繊維の平均繊維長が0.5~20mmである請求項
1~5のいずれかに記載の水解性不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水解性不織布及び湿潤水解性不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トイレ用の掃除ワイパーやおしりふき等の清浄用品が使用されている。清浄用品の中には、使用後に水洗トイレに流すことができるものもあり、この場合、使用後の廃棄が容易となり、また衛生的に処理することが可能となる。このような清浄用品としては、水解紙に水分や薬剤を含浸させた清浄用品が上市されている。
【0003】
水解紙には水洗時に容易に崩壊する性質が求められる一方で、清浄等の作業に耐え得る程度の強度が要求される。このため、水解紙の強度を向上させるために、紙力増強剤や樹脂成分を含有させることが検討されている。例えば、特許文献1には、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース及びカルボキシメチル化澱粉からなる群から選ばれるカルボキシル基を有する水溶性バインダーを含有する水解紙が記載されている。ここでは、水溶性バインダーのカルボキシル基が特定の多価金属と分子内混合塩を形成することで強度を高めることが検討されている。また、特許文献2には、水解性不織布基材の少なくとも一方の表面層に部分的に水不溶性樹脂が設けられ、かつ水不溶性樹脂が設けられた表面層に切れ目が設けられた水解性不織布が記載されている。ここでは、水不溶性樹脂として熱可塑性樹脂が用いられており、これにより、不織布の強度を高めている。
【0004】
また、水解紙の強度を高めるために、合成繊維を混合した不織布も開発されている。例えば、特許文献3には、合成繊維として再生セルロース繊維(レーヨン繊維)を用い、再生セルロース繊維と木材パルプとを混合して形成したウェブに高圧水ジェット流処理を施して水解性不織布を製造する方法が開示されている。なお、特許文献3で用いている再生セルロース繊維(レーヨン繊維)の断面形状は不規則な花弁状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-184984号公報
【文献】特開昭62-184193号公報
【文献】特開平11-93055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、水解紙にはより優れた水解性が求められるようになってきており、従来よりも高いレベルで水解性が要求される場合がある。一方で、清浄作業時には十分な湿潤強度を発揮することも求められている。
本発明は、清浄作業等に耐え得る含水時の強度、身体の清拭時に不快感を与えない柔らかさ、及び優れた水解性を兼ね備えた水解性不織布を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]パルプ繊維と、再生セルロース繊維とが交絡した水解性不織布であり、絶乾状態の前記水解性不織布と水の質量比が1:2となるように前記水解性不織布に純水を含浸させた湿潤水解性不織布の世界下水道トイレに流せる製品問題検討会議(IWSFG)水解性試験に準じた水解性が95%以上であり、前記水解性不織布の湿潤引張強さが30N/m以上であり、且つ、前記水解性不織布と水の質量比が1:2となるように前記水解性不織布に純水を含浸させた湿潤水解性不織布のやわらかさの指標であるHF値が95以上である水解性不織布。
[2]前記再生セルロース繊維は、扁平レーヨン繊維を含む[1]に記載の水解性不織布。
[3]前記扁平レーヨン繊維は、中空扁平レーヨン繊維である[1]または[2]に記載の水解性不織布。
[4]前記水解性不織布の全質量に対して、前記扁平レーヨン繊維を10~50質量%含有する[2]に記載の水解性不織布。
[5]前記扁平レーヨン繊維の繊度は、1.0dtex以上7.0dtex以下である[2]~[4]のいずれかに記載の水解性不織布。
[6]前記扁平レーヨン繊維の平均繊維長が0.5~20mmである[2]~[5]のいずれかに記載の水解性不織布。
[7]前記水解性不織布を離解して得られる前記パルプ繊維のJIS P 8121-2に準拠して測定されるろ水度が300~700mLである[1]~[6]のいずれかに記載の水解性不織布。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の水解性不織布に水分を含浸させてなる湿潤水解性不織布。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、清浄作業等に耐え得る含水時の強度、身体の清拭時に不快感を与えない柔らかさ、及び優れた水解性を兼ね備えた水解性不織布を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0010】
(水解性不織布)
本発明は、パルプ繊維と、再生セルロース繊維とが交絡した水解性不織布であって、絶乾状態の前記水解性不織布と水の質量比が1:2となるように前記水解性不織布に純水を含浸させた湿潤水解性不織布の世界下水道トイレに流せる製品問題検討会議(International Water Services Flushability Group 略称IWSFG)水解性試験に準じた水解性が95%以上であること、前記水解性不織布の湿潤引張強さが30N/m以上であること、前記水解性不織布と水の質量比が1:2となるように前記水解性不織布に純水を含浸させた湿潤水解性不織布のHF値が95以上であることの3つの条件をすべて満たす水解性不織布である。
【0011】
本発明で適用される水解性試験はIWSFGより公開されている「PAS 3:2018 スロッシュボックスによる水解性試験法」に基づくものである。
具体的には、実際に使用される大きさの水解性不織布を複数枚作製し、そのうちの一部の乾燥重量を測定し、残りのサンプルについて水解性を評価する。
水解性評価サンプルは予め排水設備模型を用いた前処理を行った後、4Lの水の入ったスロッシュボックス(振とう試験機)の水槽に入れ、振動数(18rpm)で30分間振とうさせた後、孔径25mmのふるいにかけ、ふるいの表面に10cm上方からシャワー水を4L/分の水量で1分間満遍なく水を掛けた後、ふるいに残った不織布片を採取し、乾燥重量を測定して、ふるい通過率を求めるものである。
スロッシュボックスについては、IWSFGの公開する条件を満たしているものでよいが、レンチング社の「Slosh Box100」を用いることもできる。
【0012】
本明細書における湿潤水解性不織布の湿潤引張強度は、絶乾状態の水解性不織布と水の質量比が1:2(不織布:水)となるように水解性不織布に純水を含浸させた状態で、引張試験機にて縦及び横方向の引張強度を測定したものである。具体的には、サンプル幅30mm、スパン長110mm、引張速度300mm/分の条件で、湿潤状態の水解性不織布の引張強度を縦及び横方向の引張強度を測定する。比湿潤引張強度の測定に用いられる引張試験機としては、例えば、エイ・アンド・デイ社製のTENSILON万能材料試験機を用いることができる。
【0013】
本発明の水解性不織布のHF値は、絶乾状態の水解性不織布と水の質量比が1:2となるように水解性不織布に純水を含浸させた湿潤水解性不織布について、ティシューソフトネス測定装置(型式TSA、日本ルフト社製)を用いて測定することができる。本発明の水解性不織布のHF値は95以上とするものであるが、100以上がより好ましい。
【0014】
上記条件を満たすため、本発明の水解性不織布は、再生セルロース繊維は、扁平レーヨン繊維を含むことが好ましく、中空扁平レーヨン繊維を含むことがより好ましい。
前記扁平レーヨン繊維は、前記水解性不織布の全質量に対して、前記扁平レーヨン繊維を10~50質量%含有することが好ましく、20~45質量%含有することがより好ましい。前記扁平レーヨン繊維を上記範囲で含有することにより、水解性不織布の柔らかさと、含水状態の水解性不織布で清浄作業を行っても水解性不織布が破れない強度を両立することができる。
【0015】
また、前記扁平レーヨン繊維の繊度は、1.0dtex以上7.0dtex以下であることが好ましい。前記扁平レーヨン繊維の繊度が上記範囲であることにより、水解性を保ちつつ、より高い湿潤強度を維持することができる。
【0016】
また、前記扁平レーヨン繊維の平均繊維長が0.5~20mmであることが好ましい。前記扁平レーヨン繊維の平均繊維長が上記範囲であることにより、良好な水解性と、含水状態の水解性不織布で清浄作業を行っても水解性不織布が破れない強度を両立しやすい。
【0017】
水解性不織布は、パルプ繊維と再生セルロース繊維を含む。水解性不織布において、パルプ繊維と再生セルロース繊維は交絡しており、それによってパルプ繊維と再生セルロース繊維が一体化している。このような繊維の交絡は、水解性不織布の湿潤強度を高める上で好ましく、繊維の交絡を進めるため、パルプ繊維と再生セルロース繊維とを含む不織布シートを湿式抄紙法により形成した後、高圧水ジェット流処理を施すことが好ましい。高圧水ジェット流処理を施すことによって、パルプ繊維と再生セルロース繊維はねじられ、曲げられ、回された状態となるため、繊維同士が交絡一体化する。
【0018】
水解性不織布において、パルプ繊維と再生セルロース繊維が交絡、一体化した様子は、不織布表面を拡大観察し、各繊維がランダムに配向し絡みあっている様子から見てとれる。また、本発明の水解性不織布は、高圧水ジェット流処理によってパルプ繊維と再生セルロース繊維が交絡、一体化した不織布であるため、水解性不織布には不織布の流れ方向(MD方向)に筋状の噴流跡が連続して形成されている。すなわち、本発明においては、このような噴流跡があることをもって、パルプ繊維と再生セルロース繊維が交絡していると判定することもできる。なお、噴流跡は、高圧水ジェット流がかかった微細な跡であり、噴流跡においては、水解性不織布を構成する繊維の密度が高圧水ジェット流のかかっていない箇所よりも高くなっている。
【0019】
本発明の水解性不織布の坪量は、15g/m2以上であることが好ましく、30g/m2以上であることがより好ましく、40g/m2以上であることがさらに好ましい。また、水解性不織布の坪量は、100g/m2以下であることが好ましく、80g/m2以下であることがより好ましく、50g/m2以下であることがさらに好ましい。水解性不織布の坪量を上記範囲内とすることにより、湿潤強度と水解性をより効果的に高めることができる。なお、本明細書において、水解性不織布の坪量は、JIS P 8124に準拠して測定されるものである。
【0020】
本発明の水解性不織布の厚みは、80μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、120μm以上であることがさらに好ましい。また、水解性不織布の厚みは、300μm以下であることが好ましく、250μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることがさらに好ましい。水解性不織布の厚みを上記範囲内とすることにより、湿潤強度と水解性をより効果的に高めることができる。また、水解性不織布の厚みを上記範囲内とすることにより、十分な水分を吸水しやすくなり、湿潤水解性不織布とした際の清浄効果を高めることができる。
【0021】
本発明の水解性不織布は、乾燥状態(絶乾状態)の不織布であり、水分や薬剤を含浸し得る不織布である。なお、本発明は、水解性不織布に水分や薬剤を含浸させてなる湿潤水解性不織布に関するものでもある。湿潤水解性不織布は、水分に加えて、さらにプロピレングリコール等の湿潤剤、アルコールやパラ安息香酸エステル類といって抗菌剤、防黴剤、香料、所望の薬効を有する薬剤等を含んでいてもよい。湿潤水解性不織布は、ウェットティシュ、おしりふき、ワイパー等のウェット製品として好ましく用いられる。
【0022】
<パルプ繊維>
本発明の水解性不織布はパルプ繊維を含む。パルプ繊維としては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプからなる繊維を挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹パルプ(広葉樹クラフトパルプ(LBKP))、針葉樹パルプ(針葉樹クラフトパルプ(NBKP))、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒クラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等を用いることもできる。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられる。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。パルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0023】
中でも、パルプ繊維としては、広葉樹パルプ(広葉樹クラフトパルプ(LBKP))及び針葉樹パルプ(針葉樹クラフトパルプ(NBKP))から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。針葉樹パルプ(針葉樹クラフトパルプ(NBKP))を用いることにより、水解性不織布を製造する際、パルプ繊維の脱落を抑制しやすくなり、生産効率を高めることができる。また、広葉樹パルプ(広葉樹クラフトパルプ(LBKP)を用いることにより、大量の水の存在下における水解をさせやすくできる。
【0024】
パルプ繊維の長さ加重平均繊維長は、0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましく、2mm以上であることがさらに好ましい。また、パルプ繊維の長さ加重平均繊維長は、5mm以下であることが好ましく、4mm以下であることがより好ましく、3mm以下であることがさらに好ましい。
なお、パルプ繊維の長さ加重平均繊維長は、以下の測定方法で算出された繊維長である。まず水解性不織布を水に離解させて得られた繊維分散スラリーを作製する。これをナイロンメッシュスクリーンで濾過し、残渣(レーヨン)、濾液(パルプ分散液)に分ける。パルプ分散液を4500rpmで離解機で処理し、十分に離解させ、繊維分散スラリーを得る。得られた繊維分散スラリーを0.01質量%以上0.02質量%以下になるように希釈し、希釈液を作製する。この希釈液10mlに含まれる繊維成分の投影長さを、繊維長測定装置(メッツォオートメーション社製、カヤーニファイバーラボVer4.0)を用いて測定し、離解繊維の長さ加重平均値を算出する。
【0025】
パルプ繊維のフリーネスの上限、下限は特に限定されるものではないが、300ml以上であることが好ましく、350ml以上であることがより好ましく、400ml以上であることがさらに好ましく、450ml以上であることが特に好ましい。また、フリーネスは700ml以下であることが好ましい。
フリーネスは、JIS P 8121-2に規定するカナダ標準ろ水度(C.S.F.)で示される値であり、繊維の叩解の度合いを示す値である。繊維の叩解は、繊維を分散させた紙料(スラリー)に対して、ビーター、ディスクリファイナー等の公知の叩解機を用いて実施することができる。通常、繊維のフリーネスの値が小さいほど、叩解の度合いが強く、叩解による繊維の損傷が大きくてフィブリル化が進行している。繊維のフィブリル化が進行すると繊維間の結合点数が増加するため、強度が向上する。本発明においては湿潤強度と水解性を好ましい範囲とするために、フリーネスを適宜調節することも好ましい。
【0026】
水解性不織布の全質量に対するパルプ繊維の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。また、水解性不織布の全質量に対するパルプ繊維の含有量は、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。パルプ繊維の含有量を上記範囲内とすることにより、水解性不織布の湿潤強度と水解性をより効果的に高めることができる。
【0027】
<再生セルロース繊維>
本発明の水解性不織布は再生セルロース繊維を含み、再生セルロース繊維は、扁平レーヨン繊維を含むものである。再生セルロース繊維は、扁平レーヨン繊維を含むものであればよく、他の再生セルロース繊維を含むものであってもよい。ただし、再生セルロース繊維の全質量に対する扁平レーヨン繊維の割合は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが一層好まく、100質量%であることが特に好ましい。
【0028】
扁平レーヨン繊維は、繊維の断面形状が扁平形状である。なお、繊維の断面形状とは、レーヨン繊維の長さ方向に対し、垂直方向のカット面の形状のことをいう。本明細書において、扁平形状とは、繊維の断面形状が、中心点を通過する最大長で定義される長径と、中心点を通過する最小長で定義される短径を有する形状をいい、断面の長径/短径の比が2以上のものを言う。断面の長径/短径の比は、3以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましく、9以上であることが特に好ましい。また、断面の長径/短径の比は、25以下であることが好ましい。ここで、断面の長径/短径の比は、10個の異なる扁平レーヨン繊維の扁平断面を垂直方向より顕微鏡観察し、マイクロスケールを基準として測定した長径及び短径各々の平均の値から算出することができる。なお、扁平形状としては、例えば、まゆ型、長円型、楕円型等を例示することができる。
【0029】
扁平レーヨン繊維としては、密実扁平レーヨン繊維や中空扁平レーヨン繊維を用いることが好ましい。中でも、扁平レーヨン繊維は、中空扁平レーヨン繊維であることが好ましい。中空扁平レーヨンは、水解性不織布が使用される含水率では扁平形状を取るため、レーヨン同士の接触面積が増大することで、水の表面張力による吸着力や摩擦力が発生するため、高い強度が得られる。また、中空扁平レーヨンは、水洗時の大量の水の存在下では、膨潤し、ほぐれ易くなるため、水解性不織布は優れた水解性を発揮できるものと考えられる。中空扁平レーヨン繊維としては、市販品を用いることができ、例えば、ダイワボウレーヨン社製のSBHを用いることができる。
【0030】
扁平レーヨン繊維の繊度は、1.0dtex以上7.0dtex以下であることが好ましく、1.2dtex以上5.0dtex以下であることがより好ましく、1.2dtex以上2.0dtex以下であることがさらに好ましい。扁平レーヨン繊維の繊度を上記範囲内とすることにより、水解後に繊維成分が再凝集することを抑制することができ、これにより、水解性をより効果的に高めることができる。
【0031】
扁平レーヨン繊維の平均繊維長は、0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましく、2mm以上であることがさらに好ましい。また、扁平レーヨン繊維の平均繊維長は、20mm以下であることが好ましく、15mm以下であることがより好ましく、10mm以下であることがさらに好ましい。なお、扁平レーヨン繊維の平均繊維長はJIS L-1015 8.4.1平均繊維長の測定方法に基づく。
【0032】
水解性不織布の全質量に対する扁平レーヨン繊維の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。また、水解性不織布の全質量に対する扁平レーヨン繊維の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましい。扁平レーヨン繊維の含有量を上記範囲内とすることにより、水解性不織布の湿潤強度と水解性をより効果的に高め、経済的にも有利である。
【0033】
また、水解性不織布におけるパルプ繊維と扁平レーヨン繊維の混合比率(パルプ繊維:扁平レーヨン繊維)は、質量比で5:1~1:5であることが好ましく、5:1~1:2であることがより好ましく、3:1~1:2であることがさらに好ましい。パルプ繊維と扁平レーヨン繊維の混合比率を上記範囲内とすることにより、水解性不織布の湿潤強度と水解性をより効果的に高めることができる。
【0034】
再生セルロース繊維としては、上述した扁平レーヨン繊維に加えて、例えば、キュプラ繊維やリヨセル繊維等を含んでいてもよい。
【0035】
<任意成分>
本発明の水解性不織布は、他の任意成分を含むものであってもよい。任意成分としては、例えば、乾燥紙力剤、湿潤紙力剤、柔軟剤等を挙げることができる。乾燥紙力剤としては、例えば、カチオン化澱粉、ポリアクリルアミド(PAM)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を挙げることができる。湿潤紙力剤としては、ポリアミドエピクロロヒドリン、尿素、メラミン、熱架橋性ポリアクリルアミド等を挙げることができる。柔軟剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等を挙げることができる。上記の任意成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
(水解性不織布の製造方法)
本発明の水解性不織布の製造方法は、湿式抄紙法により形成した、パルプ繊維と再生セルロース繊維とポリエチレンオキシド樹脂とを含む不織布シートに高圧水ジェット流処理を施す工程を含む。ここで、再生セルロース繊維は、扁平レーヨン繊維である。また、絶乾状態の水解性不織布と水の質量比が1:2(不織布:水)となるように水解性不織布に純水を含浸させた湿潤水解性不織布の水解性は100秒以下であり、且つ抄紙機の縦方向の湿潤引張強さが55N/m以上、横方向の湿潤引張強さが30N/m以上となるように、水解性不織布の坪量、厚み、抄紙液の供給速度、ワイヤー速度などを調整することが好ましい。
【0037】
水解性不織布の製造工程では、まず、パルプ繊維と再生セルロース繊維とを含むスラリーを得る。そして、該スラリーを円網抄紙機、短網抄紙機、傾斜ワイヤー抄紙機、長網抄紙機等の公知の抄紙機を用いて湿式抄紙し、不織布シート(湿式ウェブ)を形成する。なお、抄紙工程のワイヤーパートにおいて抄紙液速度とワイヤー速度の比を調整することで不織布シート(湿式ウェブ)の繊維配向をコントロールすることができる。
【0038】
不織布シートに高圧水ジェット流処理を施す工程では、得られた不織布シート(湿式ウェブ)に高圧水ジェット流処理を施す。高圧水ジェット流処理は公知の方法により処理することができる。具体的には、不織布シート(湿式ウェブ)を多孔性の支持体上に配置し、不織布シート(湿式ウェブ)の上面から、孔径が0.08~0.30mm程度の細孔が多数配列したノズルを通して水圧15~150kg/cm2の水圧で高圧水を噴射し、不織布シート(湿式ウェブ)を構成する繊維の相互を交絡させる。高圧水ジェット流処理により不織布シート(湿式ウェブ)に付与されるエネルギーは、以下の式(iii)の高圧水ジェット流エネルギーで表される。高圧水ジェット流エネルギーは、0.01kWh/kg/m以上であることが好ましく0.02kWh/kg/m以上であることがより好ましい。また、高圧水ジェット流エネルギーは、0.50kWh/kg/m以下であることが好ましく0.40kWh/kg/m以下であることがより好ましく、0.30kWh/kg/m以下であることがさらに好ましく、0.20kWh/kg/m以下であることが特に好ましい。高圧水ジェット流エネルギーを上記範囲内とすることにより水解性不織布の湿潤強度を高めつつ、水解性を高めることができる。
V=(2×g×(P―Ap)×10000/(ρ×1000))1/2×60・・・(i)
V:ノズルから吐出される水の流速(m/分)
g:重力加速度=9.8m/s2
P:ノズル部での水圧(kgf/cm2)
A:ノズル1孔の面積(mm2)
p:大気圧(kgf/cm2)
ρ:水の密度(g/cm3)
F=(A/100)×V×100・・・(ii)
F:ノズル部の1孔から吐出される水の流量(cm3/分)
A:ノズル1孔の面積(mm2)
V:ノズルから吐出される水の流速(m/分)
E=P×(F/100)×0.163・・・(iii)
E:高圧水ジェット流エネルギー(kWh/kg/m)
【0039】
なお、高圧水ジェット流処理は、湿式抄紙してウェブを形成した直後にオンラインで行っても良いし、湿式抄紙したウェブを一旦乾燥した後、オンラインあるいはオフラインで高圧水ジェット流処理を行っても良い。
【0040】
高圧水ジェット流処理が施された不織布シートは、その後の工程においてプレス及び乾燥される。
【0041】
(用途)
本発明の水解性不織布は、水やプロピレングリコール等の湿潤剤、アルコールやパラ安息香酸エステル類といって抗菌剤、防黴剤、香料、所望の薬効を有する薬剤等を含浸させてウェットティシュ、おしりふき、ワイパー等のウェット製品として用いられる。また、本発明の水解性不織布を衛生材料の表面材として使用してもよい。この場合、所望に応じて不織布に親水性や撥水性を高めるような処理を施しても良い。
【実施例】
【0042】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0043】
(実施例1)
繊度1.7dtex、長さ7mmの中空扁平レーヨン繊維(商品名:コロナSBH、ダイワボウレーヨン株式会社製)26質量部、未叩解の針葉樹クラフトパルプ(NBKP、JIS P 8121-2:2012に準拠して測定されたフリーネスが673ml)74質量部となるように繊維原料を混合した固形分濃度1.0質量%のパルプスラリーを得た。手抄きシートマシンにてパルプスラリーから不織布シートを作製した。次いでウォータージェット装置(高圧水ジェット流処理装置)を用いて、負荷エネルギーが0.022kWh/kg/mとなるように、不織布シートに高圧水ジェット流を噴射した。高圧水ジェット流処理が施された不織布シートを乾燥し、乾燥後の坪量が43.0g/m2の水解性不織布を得た。
(実施例2)
実施例1において、高圧水ジェット流の負荷エネルギーを0.088kWh/kg/mにした以外は実施例1と同じ方法で実施例2の水解性不織布を得た。
【0044】
(実施例3)
実施例1において、未叩解の針葉樹クラフトパルプ(NBKP、JIS P 8121-2:2012に準拠して測定されたフリーネスが673ml)74質量部のうちの37部を未叩解の広葉樹クラフトパルプ(LBKP、JIS P 8121-2:2012に準拠して測定されたフリーネスが510ml)に変更し、且つ高圧水ジェット流の負荷エネルギーを0.029kWh/kg/mにした以外は実施例1と同じ方法で実施例3の水解性不織布を得た。
【0045】
(比較例1)
実施例1において、繊度1.7dtex、長さ7mmの中空扁平レーヨン繊維26部の代わりに繊度1.1dtex、長さ7mmの菊型レーヨン繊維26部を用い、且つ高圧水ジェット流の負荷エネルギーを0.088kWh/kg/mにした以外は実施例1と同じ方法で比較例1の水解性不織布を得た。
【0046】
(比較例2)
トイレに流せるおしりふき市販品1(商品名:ムーニートイレに流せるタイプ、ユニ・チャーム社製)を使用した。
【0047】
(比較例3)
トイレに流せるおしりふき市販品2(商品名:メリーズするりんキレイおしりふきトイレに流せるタイプ、花王社製)を使用した。
【0048】
(水解性)
実施例、比較例1各水準を110mm×200mmの大きさに断裁したもの、比較例2、3については製品の大きさのものを複数枚用意して、乾燥後の質量を測定した。その後、実施例、比較例1各水準の水解性不織布と水の質量比が1:2(不織布:水)となるように水解性不織布に純水を含浸させて湿潤状態の水解性不織布(湿潤水解性不織布)を得た。比較例2,3については製品の状態で準備した。
その後、湿潤状態の水解性不織布の水解性をIWSFGより公開されている「PAS 3:2018 スロッシュボックスによる水解性試験法」に準拠して測定した。
【0049】
(湿潤引張強度)
実施例、比較例1で得られた水解性不織布については、各水準の水解性不織布と水の質量比が1:2(不織布:水)となるように水解性不織布に純水を含浸させて湿潤状態の水解性不織布とし、比較例2,3の水解性不織布については製品の状態で、引張試験機(エイ・アンド・デイ社製、TENSILON万能材料試験機)にてサンプル幅30mm、スパン長110mm、引張速度300mm/分の条件で、水解性不織布のウォータージェット痕もしくはエンボス加工痕と並行方向及び垂直方向の湿潤引張強度を測定し、相乗平均を算出した。
【0050】
(HF値)
実施例、比較例1各水準については絶乾状態の水解性不織布と水の質量比が1:2(不織布:水)となるように水解性不織布に純水を含浸させて湿潤状態の水解性不織布(湿潤水解性不織布)を得た。比較例2,3については製品の状態でサンプルを準備した。
湿潤状態の水解性不織布について、ティシューソフトネス測定装置(型式TSA、日本ルフト社製、アルゴリズム:TP2)を用いて、HF値を測定した。
【0051】
(清浄作業性)
実施例、比較例1各水準については絶乾状態の水解性不織布を150mm角に断裁して、水解性不織布と水の質量比が1:2(不織布:水)となるように水解性不織布に純水を含浸させて湿潤状態の水解性不織布(湿潤水解性不織布)を得た。比較例2,3については、製品の状態で150mm角に断裁してサンプルを得た。
次に東洋精機製作所製の「サウザランドラブテスタ」のサンプル台に人工皮膚(バイオスキンプレート、スムーズサーフェス、ビューラックス社製)を固定した。
さらに、上記で得られた湿潤水解性不織布を900gの摺動子(サンプル台接触する部分は平面で20mm角)に貼り付け、円弧軌道上を一定速度で10往復させて湿潤水解性不織布の損傷度合いを目視で評価した。
○:大きな損傷がみられず、清浄作業性に優れる。
×:人口皮膚と接触した部分に穴が開いており、実用上問題がある。
【0052】
(手触り感)
実施例、比較例1各水準については絶乾状態の水解性不織布と水の質量比が1:2(不織布:水)となるように水解性不織布に純水を含浸させて湿潤状態の水解性不織布(湿潤水解性不織布)サンプルを得た。比較例2,3については製品の状態でサンプルを準備した。
比較例2のサンプルを手で触ったときの柔らかさを基準として、各サンプルを手で触ったとき、比較例と同等以上の柔らかさであると感じられる場合は○、明らかに硬く感じられるものを×とし、結果を表1に示した。
【0053】
【0054】
表1に示した通り、実施例1~3で得られた水解性不織布は、清浄作業性に問題ない強度、優れた水解性、柔らかい手触り感を同時に満たす優れたものであった。一方、比較例1,2は水解性に問題があった。比較例3については、手触り感が硬いものであった。