IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日新イオン機器株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-基板移送装置 図1
  • 特許-基板移送装置 図2
  • 特許-基板移送装置 図3
  • 特許-基板移送装置 図4A
  • 特許-基板移送装置 図4B
  • 特許-基板移送装置 図4C
  • 特許-基板移送装置 図5A
  • 特許-基板移送装置 図5B
  • 特許-基板移送装置 図5C
  • 特許-基板移送装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】基板移送装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/317 20060101AFI20230720BHJP
   F16H 19/04 20060101ALI20230720BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20230720BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20230720BHJP
   B25J 5/02 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
H01J37/317 B
F16H19/04 H
F16H25/22 A
H01J37/20 A
B25J5/02 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021144853
(22)【出願日】2021-09-06
(65)【公開番号】P2023037992
(43)【公開日】2023-03-16
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小野田 正敏
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 大樹
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-146865(JP,A)
【文献】特開平10-135146(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0115914(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0367587(US,A1)
【文献】中国実用新案第211788912(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/317
H01J 37/20
F16H 19/04
F16H 25/22
B25J 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームが照射される基板を保持するホルダを備え、前記ホルダがホルダ側第一地点とホルダ側第二地点の間を往復直線移動するよう前記ホルダを動作させる基板移送装置であって、
前記ホルダから離れた位置に配置され、所定の回転軸を中心として所定の範囲で往復回転動作し得る軸部材と、
一端側に前記軸部材から離れた位置にある直動側第一地点と直動側第二地点の間を一方向に往復直線運動し得る直動部を有し、他端側が前記軸部材に近接するように配置された直動側旋回部材と、
前記直動側旋回部材が所定の範囲で直線移動することを許容した状態で前記直動側旋回部材とともに前記回転軸を中心に回転動作し得るよう、前記直動側旋回部材を支持する直動側支持部材と、
一端側において前記ホルダに連結され、他端側が前記軸部材に近接するように配置されたホルダ側旋回部材と、
前記ホルダ側旋回部材が所定の範囲で直線移動することを許容した状態で前記ホルダ側旋回部材とともに前記回転軸を中心に回転動作し得るよう、前記ホルダ側旋回部材を支持するホルダ側支持部材と、
前記軸部材と前記直動側旋回部材との間に介在し、前記直動側旋回部材の前記直動側支持部材に対する直線移動を前記軸部材の回転動作に変換する直動側変換部材と、
前記軸部材と前記ホルダ側旋回部材との間に介在し、前記軸部材の回転動作を前記ホルダ側支持部材に対する前記ホルダ側旋回部材の直線移動に変換するホルダ側変換部材と、
前記直動側支持部材に直接または間接的に伝えられて前記直動側支持部材を回転動作させる駆動力を発生させる駆動源と、
を備え、
前記駆動源が前記駆動力を発生させることで、前記直動側支持部材と前記ホルダ側支持部材とが一体となって前記回転軸を中心に回転動作するとともに、
前記直動部が前記一方向に直線移動するのに連動して、前記直動側旋回部材が前記直動側支持部材に対して直線移動し、前記直動側変換部材を介して前記軸部材が回転動作し、前記ホルダ側変換部材を介して前記ホルダ側支持部材が前記ホルダ側旋回部材に対して直線移動するよう構成されている基板移送装置。
【請求項2】
前記一方向に沿って配置されたねじ軸と、前記ねじ軸上を直線移動するナットとを有するボールねじを備え、
前記駆動源が前記ボールねじを駆動させることで、前記直動部が前記ナットに連動して前記一方向に直線移動し得るよう構成されている請求項1に記載の基板移送装置。
【請求項3】
前記回転軸が前記イオンビームの進行方向と直交し、
前記ホルダ側旋回部材が前記回転軸に垂直な面に沿って往復旋回移動するよう構成されている請求項1または2に記載の基板移送装置。
【請求項4】
前記ホルダは、前記基板が載置されるプラテンを備え、前記プラテンを前記回転軸と平行なプラテン回転軸を中心に所定の範囲で回転動作させられるよう構成されている請求項1~3のいずれか一項に記載の基板移送装置。
【請求項5】
前記直動側変換部材が、前記直動側旋回部材に配置される直動側ラックと前記軸部材の外周に配置される直動側ピニオンにより構成されるラック・アンド・ピニオンであり、
前記ホルダ側変換部材が、前記ホルダ側旋回部材に配置されるホルダ側ラックと前記軸部材の外周に配置されるホルダ側ピニオンにより構成されるラック・アンド・ピニオンである請求項1~4のいずれか一項に記載の基板移送装置。
【請求項6】
前記軸部材が所定角度回転する場合の前記直動側ラックの変位量と前記ホルダ側ラックの変位量の比が、前記直動部から前記回転軸までの距離と前記プラテン回転軸から前記回転軸までの距離の比に一致するよう構成されている請求項4を引用する請求項5に記載の基板移送装置。
【請求項7】
前記ホルダおよび前記ホルダ側旋回部材の一部が内部を高真空状態とされた処理チャンバ内に露出するように配置され、
前記ホルダ側旋回部材は内部空間を有する筒状に形成されており、
外部から導かれる電気ケーブルまたは管が、前記内部空間を通過して前記ホルダの内部に至るように配置されている請求項1~6のいずれか一項に記載の基板移送装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビームが照射される基板を移送する基板移送装置に関し、特に、処理チャンバ内でイオンビームを横切るように基板を移送する基板搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程で使用されるイオンビーム照射装置では、処理チャンバ内でイオンビームを横切るように基板を移送させる基板移送装置が使用される。このような装置として、特許文献1に第2の実施形態として開示されたイオンビーム照射装置が知られている。
【0003】
このイオンビーム照射装置は、基板を保持するホルダと、ホルダを支持するアームと、アーム伸縮用モータによってアームを伸縮させてホルダを往復直線駆動させる伸縮駆動機構を備える。また、このイオンビーム照射装置は、アームを旋回させるための旋回用モータによってホルダから離れた位置にある旋回中心軸まわりに所定角度範囲内でアームを往復旋回させる旋回駆動機構を備えている。
【0004】
このイオンビーム照射装置はさらに、処理チャンバ内におけるホルダの動作が往復直線運動となるようにアーム伸縮用モータおよび旋回用モータを制御する制御装置を備えている。すなわち、この制御装置は、旋回駆動機構によって円弧状の軌跡を描いて往復運動しようとするホルダを伸縮駆動機構によって旋回中心軸に向かう方向に沿って適切な距離だけ移動させ、ホルダを往復直線運動させる制御を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-236746
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に第2の実施形態として開示されたイオンビーム照射装置は、ホルダの運動が往復直線運動となるようにアーム伸縮用モータと旋回用モータの二つの駆動源を同時に連動させるための複雑な制御が必要であった。また、これら二つの駆動源を連動させて、ホルダを厳密に等速直線運動させることは困難であった。そこで、基板を保持するホルダを所定の回転軸まわりに往復旋回させるよう構成された場合であっても、一つの駆動源でホルダを往復直線運動させられる基板移送装置が求められていた。
【0007】
本発明は上記課題を解決するものであり、基板を保持するホルダを所定の回転軸まわりに往復旋回動作させる構成を有する基板移送装置であっても、一つの駆動源でホルダを往復直線運動させられる基板移送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明における基板移送装置は、
イオンビームが照射される基板を保持するホルダを備え、前記ホルダがホルダ側第一地点とホルダ側第二地点の間を往復直線移動するよう前記ホルダを動作させる基板移送装置であって、
前記ホルダから離れた位置に配置され、所定の回転軸を中心として所定の範囲で往復回転動作し得る軸部材と、
一端側に前記軸部材から離れた位置にある直動側第一地点と直動側第二地点の間を一方向に往復直線運動し得る直動部を有し、他端側が前記軸部材に近接するように配置された直動側旋回部材と、
前記直動側旋回部材が所定の範囲で直線移動することを許容した状態で前記直動側旋回部材とともに前記回転軸を中心に回転動作し得るよう、前記直動側旋回部材を支持する直動側支持部材と、
一端側において前記ホルダに連結され、他端側が前記軸部材に近接するように配置されたホルダ側旋回部材と、
前記ホルダ側旋回部材が所定の範囲で直線移動することを許容した状態で前記ホルダ側旋回部材とともに前記回転軸を中心に回転動作し得るよう、前記ホルダ側旋回部材を支持するホルダ側支持部材と、
前記軸部材と前記直動側旋回部材との間に介在し、前記直動側旋回部材の前記直動側支持部材に対する直線移動を前記軸部材の回転動作に変換する直動側変換部材と、
前記軸部材と前記ホルダ側旋回部材との間に介在し、前記軸部材の回転動作を前記ホルダ側支持部材に対する前記ホルダ側旋回部材の直線移動に変換するホルダ側変換部材と、
前記直動側支持部材に直接または間接的に伝えられて前記直動側支持部材を回転動作させる駆動力を発生させる駆動源と、
を備え、
前記駆動源が前記駆動力を発生させることで、前記直動側支持部材と前記ホルダ側支持部材とが一体となって前記回転軸を中心に回転動作するとともに、
前記直動部が前記一方向に直線移動するのに連動して、前記直動側旋回部材が前記直動側支持部材に対して直線移動し、前記直動側変換部材を介して前記軸部材が回転動作し、前記ホルダ側変換部材を介して前記ホルダ側支持部材に対して前記ホルダ側旋回部材が直線移動するよう構成されている。
【0009】
この構成によれば、直動側支持部材とホルダ側支持部材とが、所定の回転軸を中心に一体に往復回転動作を行う。また、直動側旋回部材は直動側支持部材とともに回転動作し、ホルダ側旋回部材はホルダ側支持部材とともに回転動作するよう構成されている。したがって、駆動源から発生した駆動力が直動側支持部材に直接または間接的に伝えられると、直動側旋回部材とホルダ側旋回部材はともに所定の回転軸を中心とした旋回運動を行うことになる。
【0010】
これと同時に、直動部が一方向に直線移動し、直動側旋回部材が直動側支持部材に対して相対的に直線移動する。すると、直動側変換部材によって直動側旋回部材の直線運動が回転運動に変換されて、前記軸部材が回転動作する。同時に、ホルダ側変換部材によって軸部材の回転運動が直線運動に変換され、ホルダ側旋回部材がホルダ側支持部材に対して相対的に直線移動する。すなわち、ホルダ側旋回部材と直動側旋回部材は軸部材の回転動作を介して連動する。したがってホルダ側旋回部材がホルダ側支持部材に対して直線移動する変位量は、直動側旋回部材が直動側支持部材に対して直線移動する変位量によって定まることになる。
【0011】
ここで、直動側旋回部材は、直動部が一方向に直線移動するのに連動し、直動側支持部材に対して直線移動する。換言すれば、直動側旋回部材は、直動側旋回部材の一端部側にある直動部が常に一方向に沿った一つの直線上に位置するよう、直動側支持部材に対して直線移動する。したがって、ホルダ側旋回部材は、ホルダ側旋回部材の一端側に連結されたホルダが常に一つの直線上に位置するよう、ホルダ側支持部材に対して直線移動することになる。
【0012】
このように、本発明の基板移送装置においては、ホルダ側旋回部材に連結されたホルダは、直動部の直線移動に連動して一つの直線上を変位することになる。したがって、直動部が一方向に往復直線移動するのに連動して、ホルダが一つの直線上を往復直線移動することになる。つまり、本発明の基板移送装置は、基板を保持するホルダを所定の回転軸まわりにホルダ側旋回部材を介して往復旋回させようとする構成であるが、一つの駆動源でホルダを往復直線運動させることができる。
【0013】
また、本発明の基板移送装置は、前記一方向に沿って配置されたねじ軸と、前記ねじ軸上を直線移動するナットとを有するボールねじを備え、前記駆動源が前記ボールねじを駆動させることで、前記直動部が前記ナットに連動して前記一方向に直線移動し得るよう構成されていてもよい。
【0014】
この構成によれば、一般に制御が容易であるボールねじの駆動を制御することで直動部の移動を制御できる。したがって、直動部を容易に制御することができ、その結果、ホルダの往復直線運動を容易に制御することができる。
【0015】
また、本発明の基板移送装置は、前記回転軸が前記イオンビームの進行方向と直交し、 前記ホルダ側旋回部材が前記回転軸に垂直な面に沿って往復旋回移動するよう構成されてもよい。
【0016】
また、本発明の基板移送装置は、前記基板が載置されるプラテンを備え、前記プラテンを前記回転軸と平行なプラテン回転軸を中心に所定の範囲で回転動作させられるよう構成さてもよい。
【0017】
また、本発明の基板移送装置は、前記直動側変換部材が、前記直動側旋回部材に配置される直動側ラックと前記軸部材の外周に配置される直動側ピニオンにより構成されるラック・アンド・ピニオンであり、前記ホルダ側変換部材が、前記ホルダ側旋回部材に配置されるホルダ側ラックと前記軸部材の外周に配置されるホルダ側ピニオンにより構成されるラック・アンド・ピニオンである構成とされてもよい。
【0018】
また、本発明の基板移送装置は、前記軸部材が所定角度回転する場合の前記直動側ラックの変位量と前記ホルダ側ラックの変位量の比が、前記直動部から前記回転軸までの距離と前記プラテン回転軸から前記回転軸までの距離の比に一致するよう構成されていてもよい。
【0019】
また、本発明の基板移送装置は、前記ホルダおよび前記ホルダ側旋回部材の一部が内部を高真空状態とされた処理チャンバ内に露出するように配置され、前記ホルダ側旋回部材は内部空間を有する筒状に形成されており、外部から導かれる電気ケーブルまたは管が、前記内部空間を通過して前記ホルダの内部に至るように配置されている構成とされていてもよい。
【0020】
この構成によれば、電気ケーブルまたは管を基板移送装置の内部を通過させてホルダに導くことができることから、電気ケーブルまたは管がイオンビームに曝されることがない。したがって、電気ケーブルまたは管の劣化または損傷が抑制される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、基板を保持するホルダを所定の回転軸まわりに往復旋回動作させる構成を有する基板移送装置であっても、一つの駆動源でホルダを往復直線運動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第一実施形態における基板移送装置が配置されたイオンビーム照射装置を示す模式的平面図。
図2】本発明の第一実施形態における基板移送装置を示す斜視図。
図3】同実施形態における基板移送装置の縦断面図。
図4A】同実施形態における基板移送装置の直動部が直動側第一地点に位置する状態を示す模式図。
図4B】同実施形態における基板移送装置の直動部が直動側中間地点に位置する状態を示す模式図
図4C】同実施形態における基板移送装置の直動部が直動側第二地点に位置する状態を示す模式図
図5A】同実施形態における基板移送装置のホルダがホルダ側第一地点に位置する状態を示す模式図。
図5B】同実施形態における基板移送装置のホルダがホルダ側中間地点に位置する状態を示す模式図。
図5C】同実施形態における基板移送装置のホルダがホルダ側第二地点に位置する状態を示す模式図
図6】本発明の第二実施形態における基板移送装置を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、本発明の第一実施形態である基板移送装置10、および基板移送装置10を使用するイオンビーム照射装置100について説明する。
【0024】
図1はイオンビーム照射装置100の構成を模式的に示す平面図である。図1に示すように、イオンビーム照射装置100は、半導体ウエハである基板Sの被処理面SaにイオンビームIBを照射してイオン注入処理を行うイオン注入装置である。イオンビーム照射装置100は、イオンビームIBを生成するイオン源ユニット101と、イオンビームIBを輸送する輸送ユニット102と、基板Sに対するイオン注入処理が行われるエンドステーション103を備えている。
【0025】
イオン源ユニット101は、その内部において外部から供給される原料からプラズマが生成されるプラズマチャンバ101aを有している。また、イオン源ユニット101は、プラズマチャンバ101a内で生成されたプラズマに含まれるイオンをイオンビームIBとして取り出すための引出電極101bを備えている。本実施形態におけるイオン源ユニット101は、イオンビーム照射装置に広く用いられる構成が採用されており、その詳細な説明は省略する。
【0026】
輸送ユニット102は、プラズマチャンバ101aから引き出されたイオンビームIBを質量分離して所望のイオンを基板Sに到達させるための質量分析磁石102aを備えている。本実施形態における輸送ユニット102は、イオンビーム照射装置に広く用いられる構成が採用されており、その詳細な説明は省略する。
【0027】
エンドステーション103は、内部で基板SにイオンビームIBが照射される処理チャンバ104を備えている。処理チャンバ104の内部は、イオンビーム照射装置100の運転中、真空排気されて高真空状態に維持されている。エンドステーション103の内部には、処理チャンバ104内で基板Sを移送する基板移送装置10が配置されている。また、エンドステーション103内において、処理チャンバ104の外部は一般に大気圧下に置かれる。
【0028】
イオンビーム照射装置100においては、基板Sが所定の領域を一または複数回往復移動する間、基板SがイオンビームIBを横切ることで基板Sの被処理面SaがイオンビームIBに曝され、基板Sに対するイオン注入処理が施されることになる。本実施形態において、イオンビームIBは、イオンビームIBの進行方向についての断面について、鉛直方向の長さ寸法が水平方向の長さ寸法より大きいリボンビームである。尚、イオンビームIBの形状はこれに限定されるものではない。
【0029】
基板移送装置10は、基板Sを保持するホルダ11を備えており、基板Sを保持したホルダ11を移送させることによって、処理チャンバ104内で基板Sを所定の範囲で往復直線移動させるものである。本実施形態においては、基板移送装置10は、ホルダ11が図1に示す第一の直線L1に沿ってホルダ側第一地点P1とホルダ側第二地点P2の間を直線的に往復移動する往復直線移動を行うように構成されている。
【0030】
より詳細には、基板移送装置10は、ホルダ11に連結されたホルダ側旋回部材である第一アーム12を有し、第一アーム12は、処理チャンバ104に対する位置が固定された所定の回転軸A1を中心に所定の角度範囲で旋回動作可能に構成されている。そして、基板移送装置10は、第一アーム12を、回転軸A1を中心として所定の角度範囲で旋回移動させつつ、回転軸A1に向かう方向に沿って移動させることで、ホルダ11を第一の直線L1と平行に移動させられる構成である。
【0031】
また、エンドステーション103は、処理チャンバ104に接続されたロードロック室(不図示)や基板Sを搬送するための搬送装置(不図示)を備えている。エンドステーション103は、基板移送装置10が配置されていることを除いては、イオンビーム照射装置に一般的な構成が採用されており、その詳細な説明を省略する。
【0032】
本実施形態における基板移送装置10は、後述するプラテン回転軸R1が常に第一の直線L1上に位置するように動作するよう構成されている。基板移送装置10は、ホルダ側旋回部材である第一アーム12の回転軸A1中心の旋回運動と、第一アーム12の回転軸A1に向かう方向に沿った直線移動とを機械的構造によって連動させるものである。これにより、基板移送装置10では従来必要であった複雑な制御が不要となっている。
【0033】
図1図6において、処理チャンバ104内で基板Sを移送する方向、すなわち、第一の直線L1はX方向に平行であり、処理チャンバ104内におけるイオンビームIBの進行方向はY方向に一致している。また、図1図6は本発明を理解することを第一の目的として作成されており、各図において各構成要素の形状や寸法比等は必ずしも一致してはいない。尚、イオンビームIBの進行方向とは、鉛直方向から見てイオンビームIBが進行する方向を指している。例えば、イオンビームIBがXY平面についてY方向に平行に進行していれば、YZ平面についてZ方向について上方または下方に傾いた状態で進行しいる場合であっても、イオンビームIBの進行方向はY方向であると捉えてよい。
【0034】
次に、本実施形態における基板移送装置10の構成について説明する。
図2は基板移送装置10の斜視図である。図2においては、基板移送装置10は、内部構造を示すために後述する第一支持体13の蓋13cが外された状態で示されている。また、図3は基板移送装置10の縦断面図であり、エンドステーション103の内壁面103aの一部、および、処理チャンバ104のチャンバ壁104aの一部も示されている。また、本実施形態のホルダ11はイオンビーム照射装置において広く知られた構成が採用されており、図3においてホルダ11の内部構造は簡略化されて示されている。
【0035】
図2に示すように、基板移送装置10は基板Sを保持するホルダ11を備えている。ホルダ11は、基板Sが載置される円板状のプラテン11aと、プラテン11aを動作させる駆動ユニット11bを備えている。図3に示すように、駆動ユニット11bの筐体内には、プラテン11aをプラテン回転軸R1中心に所定の角度範囲で回転動作させるプラテン駆動モータ11cが配置されている。また、基板移送装置10は、基板SがイオンビームIBを横切る間、イオンビームIBに対する被処理面Saの向きが常に一定となるようにプラテン駆動モータ11cを制御するプラテン駆動モータ制御部29を有している。また、本実施形態におけるプラテン回転軸R1は鉛直方向であるZ方向と平行であり、第一の直線L1およびイオンビームIBの進行方向に直交している。
【0036】
第一の直線L1は、ホルダ11の設計上の移動軌跡、または、ホルダ11に保持された基板Sの設計上の移動軌跡によって規定される。本実施形態においては、第一の直線L1はプラテン回転軸R1のXY平面上での移動軌跡と重なるものであると規定する。換言すれば、基板移送装置10は、プラテン回転軸R1が上面視で常に第一の直線L1上に位置するように動作するよう構成されている。
【0037】
図2に示すように、基板移送装置10は、ホルダ11から離れた位置に配置され、所定の回転軸A1を中心として所定の範囲で往復回転動作し得る軸部材15を備えている。軸部材15は回転軸A1がプラテン回転軸R1と平行となるように位置付けられている。
【0038】
また、基板移送装置10は、ホルダ側旋回部材である第一アーム12を備えている。第一アーム12は、一端側においてホルダ11に連結されている。また、第一アーム12は他端側が軸部材15に近接するように配置されている。
尚、第一アーム12の一端側および他端側とは、互いの相対的な位置関係を規定するものである。したがって、第一アーム12とホルダ11が連結される位置は特定の位置に限定されるものではなく、第一アーム12と軸部材15の位置関係も特定の位置関係に限定されるものでなない。また、第一アーム12の他端側が軸部材15に近接するように配置されている状態とは、後述するホルダ側変換部材17が第一アーム12と軸部材15との間に介在できるように離間している状態を指すものと捉えてもよい。
【0039】
第一アーム12は、駆動ユニット11bに連結された中空の筒状に形成された筒状部12aと、筒状部12aの他端側の上面に固定された板状部12bにより構成されている。板状部12bは平面視で長方形の板材により形成されており、板状部12bには板厚方向に開口する開口12cが形成されている。
【0040】
図2および図3に示すように、基板移送装置10は、第一アーム12を支持するホルダ側支持部材である第一支持体13を備えている。第一支持体13は、板状部12bを取り囲むように位置付けられた四つの側壁13a、一部の領域が板厚方向に開口した底壁13b、および蓋13cにより、全体が略直方体形状で内部が中空の箱形にされている。軸部材15は、開口12cおよび底壁13bに形成された開口13fを通り抜けるように配置され、蓋13cの下方に固定された軸受16に回転可能に支持されている。また、第一アーム12は、筒状部12aが側壁13aの厚さ方向に貫通するように形成された開口に挿通されるようにして配置されている。
【0041】
また、図3および図5A~Cに示すように、第一支持体13の内部には、対向する側壁13aの間をつなぐように一対の長尺状のホルダ側レール部材14aが筒状部12aの長手方向と平行になるように配置されている。より詳細には、一対のホルダ側レール部材14aはともに回転軸A1およびプラテン回転軸R1に直交する方向である第一の方向D1に平行となるように配置されている。図5A~Cに示すように、第一の方向D1は、プラテン回転軸R1から回転軸A1に向かう方向であるが、プラテン回転軸R1はホルダ11に連動して移動するため、第一の方向D1は回転軸A1とプラテン回転軸R1によって規定される相対的な方向である。
【0042】
図3および図5A~Cに示すように、第一アーム12の板状部12bの下面には各ホルダ側レール部材14a上をスライド移動し得るホルダ側ガイド部材14bが固定されている。ホルダ側レール部材14aとホルダ側ガイド部材14bとは、第一の方向D1以外の方向への移動を互いに規制している。
【0043】
すなわち、第一支持体13は、第一アーム12が第一支持体13に対して所定の範囲で第一の方向D1に沿って直線移動することを許容した状態で第一アーム12を支持している。また、第一支持体13は、第一アーム12とともに回転軸A1を中心に回転動作できるよう構成されている。
【0044】
図2および図3に示すように、基板移送装置10は、軸部材15と第一アーム12との間に介在し、軸部材15と第一アーム12を連動して動作させるためのホルダ側変換部材17を備えている。ホルダ側変換部材17は、軸部材15の回転軸A1まわりの回転運動を第一アーム12の第一の方向D1に沿った直線運動に変換するものである。
【0045】
基板移送装置10におけるホルダ側変換部材17は、ホルダ側ラックである第一ラック17aとホルダ側ピニオンである第一ピニオン17bにより構成されるラック・アンド・ピニオンである。第一ラック17aは、複数の歯がつけられた長尺状の板材であり、第一アーム12に形成された開口12cの内周面に固定されている。また、第一ピニオン17bは、第一ラック17aに形成された歯と噛み合う歯車状の部材であり、軸部材15と一体になって回転軸A1中心に回転動作し得るよう、軸部材15aの上方側の外周面に固定されている。尚、本発明におけるホルダ側変換部材はラック・アンド・ピニオンに限定されるものではない。
【0046】
図2に示すように、基板移送装置10は、ホルダ11および第一支持体13の下方に配置され、直動側旋回部材である第二アーム22を備える。第二アーム22は、一端側に軸部材15から離れた位置において回転軸A1と直交する第二の方向D2に沿って所定の範囲で往復直線運動し得る直動部21を有する。第二アーム22の一端側を直線移動させる構成は任意であり、後述する直動ガイド28を用いる構成に限定されるものではない。また、直動部21は特定の構成要素によって規定されてもよく、第二アーム22の一端側に存在し、第二の方向D2に沿って直線移動し得る点または領域として規定されてもよい。尚、本実施形態においては、第二の方向D2はX方向に一致させているが、これに限定されるものではない。
【0047】
また、第二アーム22は他端側が軸部材15に近接するように配置されている。
尚、第二アーム22の一端側および他端側とは、互いの相対的な位置関係を規定するものである。したがって、第二アーム22における直動部21位置は特定の位置に限定されるものではなく、第二アーム22と軸部材15の位置関係も特定の位置関係に限定されるものでなない。また、第二アーム22の他端側が軸部材15に近接するように配置されている状態とは、後述する直動側変換部材27が第二アーム22と軸部材15との間に介在できるように離間している状態を指すものと捉えてもよい。
【0048】
基板移送装置10は、第二アーム22を支持する直動側支持部材である第二支持体23を備える。本実施形態においては、第二支持体23は板材により構成されているが、第一支持体13と同様に、内部に第二アーム22を収容する箱状に形成されていてもよい。
【0049】
図3および図4A~Cに示すように、第二支持体23の下面には一対の長尺状の直動側レール部材24aが、直動部21から回転軸A1に向かう第三の方向D3と平行となるように配置されている。第三の方向D3は、回転軸A1と直線移動する直動部21によって規定せれる相対的な方向である。また、第二アーム22他端側の上面には各直動側レール部材24a上をスライド移動し得る直動側ガイド部材24bが固定されている。直動側レール部材24aと直動側ガイド部材24bとは、互いに第三の方向D3以外の方向への移動を互いに規制している。
【0050】
すなわち、第二支持体23は、第二アーム22が第二支持体23に対して所定の範囲で第三の方向D3に沿って直線移動することを許容した状態で第二アーム22を支持している。また、第二支持体23は、第二アーム22とともに回転軸A1中心に回転動作する。
【0051】
また、図2および図3に示すように、第一支持体13と第二支持体23との間には中空で円筒形状の連結部材18が配置されている。第一支持体13と第二支持体23と連結部材18とは、一体となって回転軸A1まわりに回転動作するように互いに固定されている。また、第一支持体13と連結部材18と第二支持体23とは予めすべてまたは一部が一体に形成されたものであってもよい。
【0052】
図2に示すように、基板移送装置10は、第二アーム22の直動部21を直線移動させるための直動ガイド28を備える。図3に示すように、直動ガイド28は、処理チャンバ104のチャンバ壁104aの外側に固定部材104bを介して固定されている。直動ガイド28は、ガイドレール28aと、ガイドレール28a上を一方向にスライド移動し得るガイドブロック28bにより構成されている。ガイドレール28aは第二の方向D2に沿って配置されており、これによってガイドブロック28bは第二の方向D2に沿って直線移動し得る構成とされている。
【0053】
本実施形態の基板移送装置10においては、ガイドブロック28bは、ボールねじ25により駆動される。図3に示すように、ボールねじ25は、ねじ軸25aとねじ軸25a上を直線移動するナット25bを備えている。ねじ軸25aは、ガイドレール28aに沿って、すなわち第二の方向D2に沿って配置されている。
【0054】
また、図2に示すように、基板移送装置10は、ボールねじ25を駆動させる駆動力を発生させる回転モータである駆動源30を備える。本実施形態においては、駆動源30は、まずボールねじ25を駆動させるものであるが、駆動源30は結果として駆動力が第二支持体23に伝えられて第二支持体23を回転動作させるものであればよい。また、第一支持体13と第二支持体23は一体となって動作するよう構成されていることから、駆動源30は、直接または間接的に、第一支持体13または第二支持体23に駆動力を伝えるものとして捉えてよい。
【0055】
また、ガイドブロック28bには、円柱状の直動軸部材20が固定されている。直動軸部材20は上方の端部がガイドブロック28bに固定され、ガイドブロック28bと一体に第二の方向D2に沿って直線移動し得る構成とされている。また、直動軸部材20の下方側の端部は、軸受26を介して第二アーム22の一端側に配置されている。
【0056】
したがって、ガイドブロック28bがガイドレール28a上を直線移動すると、直動軸部材20に連動しての直動部21も第二の方向D2に直線移動することになる。ここで、直動軸部材20は軸受26によって相対的に回転動作可能に支持されており、直動部21が直線移動すると第二アーム22は、第二アーム22の他端側を回転軸A1に対して位置をずらしながら、回転軸A1中心に旋回移動するように動作する。尚、本実施形態における直動部21は、第二アーム22における直動軸部材20が支持されている領域と捉えてよい。
【0057】
図2および図3に示すように、基板移送装置10は、軸部材15と第二アーム22との間に介在し、軸部材15と第二アーム22を連動して動作させるための直動側変換部材27を備えている。直動側変換部材27は、第二アーム22の第二支持体23に対する直線運動を軸部材15の回転軸A1まわりの回転運動に変換するものである。
【0058】
直動側変換部材27は、直動側ラックである第二ラック27aと直動側ピニオンである第二ピニオン27bにより構成されるラック・アンド・ピニオンである。第二ラック27aは、複数の歯がつけられた長尺状の板材であり、第二アーム22の他端側に形成された開口22cの内周面に固定されている。また、第二ピニオン27bは、第二ラック27aに形成された歯と噛み合う歯車状の部材であり、軸部材15と一体になって回転軸A1中心に回転動作し得るよう、軸部材15の下方側の外周面に固定されている。尚、本発明における直動側変換部材はラック・アンド・ピニオンに限定されるものではない。
【0059】
図3に示すように、基板移送装置10においては、筒状部12aと側壁13aとの間には第一シール部材13dが配置されている。第一シール部材13dは、筒状部12aが相通されている側壁13aの開口を通じてエンドステーション103内の空気が処理チャンバ104内に流入することを防止するものである。また、連結部材18とチャンバ壁104aの間には、第二シール部材13eが配置されており、連結部材18とチャンバ壁104aとの間から処理チャンバ104内に空気が流入することを防止している。
【0060】
すなわち、イオンビーム照射装置100においては、基板移送装置10は、ホルダ11と側壁13aの外側に位置する筒状部12aの一部のみが内部を高真空状態とされた処理チャンバ104内に位置付けられている。一方、基板移送装置10のホルダ11と側壁13aの外側に位置する筒状部12aの一部を除く各構成要素は、第一支持体13および連結部材18によって処理チャンバ104から隔離されており、エンドステーション103内の大気圧下に置かれた状態とされている。したがって、基板移送装置10が動作した場合であっても処理チャンバ104内の真空度に影響を与えることがない。また、基板移送装置10の動作にともなってパーティクルが発生した場合であっても、当該パーティクルが処理チャンバ104内に流入することが防止される。
【0061】
図3に示すように、第一支持体13とホルダ11の内部には、ホルダ11の内部に配置された装置を駆動させるための電源ケーブルや信号線である電気ケーブル11d、および、ホルダ11を冷却するための冷媒が流動する管11eが基板移送装置10の外部から導入されている。また、図2および図3に示すように、プラテン駆動モータ11cを制御する信号をプラテン駆動モータ制御部29からプラテン駆動モータ11cに伝える信号線であるプラテン駆動信号線11fもまた第一支持体13の内部を通過してホルダ11に至るように配置されている。
【0062】
図3に示すように、連結部材18は、処理チャンバ104の外側に位置する領域において、連結部材18の側壁の一部を切り欠くようにして形成された配策用開口18aを有する。電気ケーブル11d、管11e、およびプラテン駆動信号線11fは束ねられた状態で、配策用開口18aを通じて箱状の第一支持体13の内部に導かれ、筒状部12aの内部空間ISを通じてホルダ11内に至るよう配策されている。電気ケーブル11d、管11e、プラテン駆動信号線11fは、基板移送装置10の内部空間を通過させてホルダ11に導かれるため、イオンビームIBに曝されず、電気ケーブル11d、管11e、プラテン駆動信号線11fの劣化および損傷が抑制される。
【0063】
基板移送装置10は、ボールねじ25のナット25bがねじ軸25aを所定の範囲で往復動作するように駆動源30を制御することで、直動部21は直動側第一地点Q1と直動側第二地点Q2の間を往復移動するように構成されている。本実施形態では、直動部21は、図2および図4A図Cに示された第二の直線L2上を移動する。
【0064】
図4Aに示すように、直動部21が直動側第一地点Q1に位置するときに、駆動源30から駆動力が発生させると、ボールねじ25が駆動して直動軸部材20が動き始めるのに連動し、直動部21が第二の方向D2に移動し始める。すると、第二アーム22が第二支持体23に対して第三の方向D3に移動しつつ、回転軸A1を中止に旋回動作し始める。このとき、第二ラック27aが回転軸A1に対して第三の方向D3に移動しながら第二ピニオン27bを回すように動作し始め、第二アーム22は回転軸A1中心に旋回するように運動し始める。同時に第二ピニオン27bとともに、軸部材15も回転軸A1を中心に回転動作し始める。
【0065】
その後、図4Bに示すように、直動部21が直動側第一地点Q1と直動側第二地点Q2の中間地点である直動側中間地点Q3に到達すると、第二ラック27aは回転軸A1に対する移動方向を反転させた後、再び第二ラック27aが第二ピニオン27bを先ほどとは反対方向に回すように運動し始める。そして、図4Cに示すように、直動部21が直動側第二地点Q2に到達すると、直動部21は移動方向を反転させて、再び直動側第一地点Q1に戻るよう運動する。
【0066】
また、直動部21が直動側第一地点Q1から直動側第二地点Q2に至る間、第二アーム22は回転軸A1中心の旋回動作を行う。この第二アーム22の旋回動作は直動側レール部材24aと直動側ガイド部材24bを介して第二支持体23に伝えられ、第二支持体23が、直動部21の直線移動に連動して回転軸A1中心の旋回動作を行うことになる。
【0067】
より詳細には、第二アーム22が旋回動作するのに伴い、第二アーム22に固定された直動側ガイド部材24bが直動側レール部材24a上をスライド移動しつつ、直動側レール部材24aを旋回動作させる。その結果、直動側レール部材24aが固定された第二支持体23が回転軸A1中心に回転動作することになる。
尚、直動部21が直動側第二地点Q2から直動側第一地点Q1に移動する際の第二アーム22およびの第二支持体23の動作は、直動側第一地点Q1から直動側第二地点Q2に至る場合と反対の動きとなるため説明を省略する。
【0068】
前述の第二アーム22およびの第二支持体23の動作は、第一アーム12およびの第一支持体13の動作に反映される。
直動部21が直動側第一地点Q1に位置するとき、ホルダ11はホルダ側第一地点P1に位置する。直動部21が直動側第一地点Q1から移動し始めると、図5Aに示すように、第一支持体13は、第二支持体23と一体に回転軸A1中心に回転し始める。
【0069】
一方、軸部材15が回転し始めることで、第一ピニオン17bが回転し、第一ラック17aを第一の方向D1に移動させることで、第一アーム12が第一支持体13に対して第一の方向D1に移動し始める。つまり、ホルダ11が第一の方向D1に沿って回転軸A1に近づくように移動し始める。また、基板Sの被処理面SaのイオンビームIBに対する向きを一定にするよう、プラテン駆動モータ11cによって駆動されることで、プラテン11aをプラテン回転軸R1まわりに回転動作し始める。
【0070】
その後、直動部21が直動側中間地点Q3に到達すると、図5Bに示すようにホルダ11はホルダ側中間位置P3に到達する。このとき前述のように軸部材15の回転方向が反転するのに伴い、第一ピニオン17bの回転方向も反転し、第一ラック17aを移動させる向きを変えて動作し始める。つまり、ホルダ11が第一の方向D1に沿って回転軸A1から離れるように移動し始める。そして、直動部21が直動側第二地点Q2に到達すると同時に、図5Cに示すように、ホルダ11はホルダ側第二地点P2に到達する。
【0071】
そして、直動部21が直動側第二地点Q2から直動側第一地点Q1に向かって移動するのに連動して、ホルダ11がホルダ側第二地点P2からホルダ側第一地点P1に移動する。このようにホルダ11がホルダ側第一地点P1とホルダ側第二地点P2との間を移動することで、ホルダ11に保持された基板SがイオンビームIBを横切るように移送され、被処理面SaがイオンビームIBに曝されることになる。
【0072】
このように、基板移送装置10においては、直動部21が第二の方向D2に直線移動するのに連動して第二支持体23と第一支持体13とが一体となって回転軸A1中心に回転動作する。同時に、直動部21が第二の方向D2に直線移動するのに連動し、第二アーム22が第二支持体23に対して相対的に直線移動すると、直動側変換部材27を介して軸部材15が回転動作し、この軸部材15の回転動作がホルダ側変換部材17を介して第一アーム12に伝えられ、第一アーム12が第一支持体13に対して相対的に直線移動する。
【0073】
仮に、直動部21が、直動部21と回転軸A1との距離を変えずに回転軸A1中心に旋回移動すると、直動部21は図4A図4Cに示す回転軸A1を中心とした第一の円弧C1を軌跡とする移動を行う。つまり、第二アーム22は、第一の円弧C1上を動こうとする直動部21が常に第二の直線L2上に位置するように第二支持体23に対して直線移動していると捉えることができる。簡単に言えば、基板移送装置10においては、直動部21が第二の方向D2に沿って直線移動するのに伴って、第二アーム22が回転軸A1を中心にして旋回しつつ第一の円弧C1の法線方向に移動するように動作するよう構成されている。
【0074】
一方、仮に第一アーム12が第一支持体13に対して直線移動できなければ、ホルダ11は、図5A図5Cに示す第二の円弧C2を軌跡とする回転軸A1中心の往復旋回移動を行うことになる。したがって、プラテン回転軸R1が第一の直線L1上に位置するように第一アーム12を第二の円弧C2の法線方向に適切に移動させることによって、ホルダ11を第一の直線L1に沿って直線移動させることができる。
【0075】
ここで、第一アーム12の第一支持体13に対する変位量と、第二アーム22の第二支持体23に対する変位量とはともに軸部材15の回転角度に依存する。したがって、第一アーム12の第一支持体13に対する変位量は、第二アーム22の第二支持体23に対する変位量に依存することになる。第二アーム22は、直動部21が常に第二の直線L2上に位置するよう、第二アーム22の第二支持体23に対して変位するものであるから、第一アーム12もホルダ11が常に同一直線上にあるように変位する。すなわち、基板移送装置10の構成によれば、一つの駆動源30によってホルダ11を往復直線運動させることができる。その結果、従来必要であった二つのモータを連動させる複雑な制御が不要となる。
【0076】
また、前述のように、第二アーム22が回転軸A1中心に旋回移動しつつ、直動部21が第二の直線L2上に位置するよう第二の円弧C2の法線方向に移動していると捉えることができる。さらに、直動部21の動作に連動し、第一アーム12が、回転軸A1中心に旋回移動しつつ、ホルダ11が第一の直線L1に沿って直線移動するよう第二の円弧C2の法線方向に移動していると捉えることができる。すなわち、内部を高真空状態とされた処理チャンバ104内のおけるホルダ11および第一アーム12の動作が、処理チャンバ104の外側で大気圧下に置かれた直動部21および第二アーム22の動作にそれぞれ対応する。簡単に言えば、基板移送装置10は、処理チャンバ104の外部に配置された構成要素から成る機構の動作が、処理チャンバ104内に配置された構成要素からなる機構の動作として再現されるものである。
【0077】
したがって、処理チャンバ104の外部における直動部21または第二アーム22の位置または動作を検出することで、処理チャンバ104内のホルダ11または第一アームの位置または動作を検出できることになる。例えば、直動部21の位置を検出するセンサを配置し、当該センサの検出結果を用いれば、処理チャンバ104内でのホルダ11の位置を算出することができる。これにより、例えば、メンテナンス作業等によりイオンビーム照射装置100の電源を停止した後、再び電源を入れて稼働させる場合であっても、直動部21の位置を検出することにより、ホルダ11の処理チャンバ104内での位置を算出することができる。
【0078】
また、ホルダ11、第一アーム12、直動軸部材20、第二アーム22、直動ガイド28は、機械的構造によって互いに連動して動作するよう構成されている。したがって、処理チャンバ104の外部にある直動軸部材20、第二アーム22、またはガイドブロック28bの位置または姿勢を検出することで、検出時において基板移送装置10の各構成要素がイオンビーム照射装置100に対してどのような位置または姿勢であるのかを算出することも可能である。つまり、イオンビーム照射装置100の再稼働に要する時間を削減できることもできる。また、処理チャンバ104の外部ある構成要素を監視することで、高真空の処理チャンバ104内にセンサ等を配置することなくホルダ11の動作を監視することができる。
【0079】
また、イオンビームIBに対する被処理面Saの向きを一定にするため、プラテン11aをプラテン回転軸R1まわりに変位させている。ここで、イオンビームIBに対する被処理面Saの向きを一定にするために所定期間でプラテン11aがプラテン回転軸R1まわりに変位する角度は、当該期間で直動軸部材20が軸受26に対して変位する相対角度に一致する。したがって、プラテン駆動モータ制御部29が、直動軸部材20の軸受26に対するずれ量を検出した結果を使用してプラテン駆動モータ11cを駆動することで、被処理面SaのイオンビームIBに対する向きを高精度で一定にしたまま基板Sを一方向に移動させることができる。尚、プラテン駆動モータ制御部29は、軸部材15の回転動作を検出してプラテン駆動モータ11cを制御してもよく、前述の構成に限定されるものではない。また、
【0080】
また、直動部21とホルダ11の動作は相関するため、直動部21を等速直線運動させることで、ホルダ11を等速直線運動させることができる。基板移送装置10は、ボールねじ25を採用しており、ナット25bが等速直線運動するように駆動源30を制御することは一般に容易である。したがって、基板移送装置10は、所定の領域でホルダ11を容易に等速直線運動させることが可能である。つまり、基板移送装置10においては、ホルダ11に保持された基板SがイオンビームIBを等速で一方向に横切るように制御することが容易である。尚、ホルダ11は基板Sが少なくともイオンビームIBを横切る間だけ等速直線移動していればよく、ホルダ側第一地点P1とホルダ側第二地点P2の間を常に等速で移動する必要はない。
【0081】
基板移送装置10は、回転軸A1がイオンビームIBの進行方向と直交し、第一アーム12が回転軸A1に垂直な面に沿って往復旋回移動するよう構成されている。基板移送装置10においては、プラテン駆動モータ11cによってプラテン回転軸R1を駆動させることで、プラテン11aが常にイオンビームIBに向けるように構成されている。また、プラテン回転軸R1はプラテン駆動モータ11cによって駆動されているが、ホルダ11と第一支持体13とを機械的構造によって連動させることで、プラテン回転軸R1中心に回転動作させてもよい。
【0082】
また、基板移送装置10は、軸部材15が所定角度回転した場合の第二ラック27aの変位量と第一ラック17aの変位量の比と、直動部21から回転軸A1までの距離とプラテン回転軸R1から回転軸A1までの距離の比とが一致するように構成されている。この構成によれば、直動部21の位置とプラテン回転軸R1の位置が相関することになり、例えば直動部21の第二の直線L2上での位置を検出することで、プラテン11aの第一の直線L1上の位置が分かるようになる。したがって、この構成によれば、プラテン回転軸R1中心にプラテン11aを回転させるためのプラテン駆動モータ11cの制御が容易となる。尚、軸部材15が所定角度回転した場合の第二ラック27aの変位量と第一ラック17aの変位量の比は1対1である必要はなく、任意に設定すればよい。
【0083】
また、基板移送装置10は、直動軸部材20、第二アーム22、第二支持体23、軸部材15、第一アーム12、第一支持体13、およびホルダ11は互いに機械的構造によって連動するよう構成されている。したがって、駆動源30が停止している場合でも、直動軸部材20、第二アーム22、第二支持体23、軸部材15、第一アーム12、第一支持体13、または、ホルダ11のいずれかに外力を加えて動作させれば前述と同一の動作を行う。
【0084】
仮に従来のように第一アーム12がモータに駆動されて伸縮する構成であるとすると、イオンビーム照射装置100の運転を停止して処理チャンバ104内で清掃やメンテナンス作業等を行う場合には、第一アーム12を手動で伸縮させる必要がある。また、第一アーム12を伸縮させずに第一アーム12を旋回させると、ホルダ11が処理チャンバ104内の内壁や構造物に衝突するおそれがある。つまり、ホルダ11を退避させて作業を行う際には、作業者が人力で第一アーム12を旋回移動させつつ、第一アーム12を伸縮させる必要がある。
【0085】
これに対し、基板移送装置10を用いたイオンビーム照射装置100においては、機械的構造によって、第一アーム12が動作しつつホルダ11が第一の直線L1に沿って移動するように構成されている。したがって、作業者は、ホルダ11または第一アーム12に対して一方向に外力を加えることのみによって、ホルダ11を第一の直線L1に沿って移動させることができる。つまり、イオンビーム照射装置100の運転を停止した状態で作業者が処理チャンバ104内で作業を行う場合であっても、ホルダ11が処理チャンバ104内にある構造物やチャンバ壁104a等に接触するおそれがなく、作業性が良い。
【0086】
本実施形態においては、ボールねじ25を駆動させることで直動軸部材20を介して直動部21を直線移動させているが、直動部21を直線移動させる構成はこれに限定されるものではない。例えば、駆動源30をリニアモーターにより構成し、当該リニアモーターの駆動によって直動軸部材20または第二アーム22を駆動させることにより、直動部21が第二の方向に直線移動する構成としてもよい。また、直動部21がタイミングベルトによって駆動される構成として、駆動源30が当該タイミングベルトを駆動させることで、直動部21を介して直動部21が第二の方向D2に直線移動する構成としてもよい。
【0087】
次に本発明の第二実施形態である基板移送装置50について説明する。
第一実施形態における基板移送装置10と基板移送装置50の主な相違点は駆動源30からの駆動力の伝えられ方にある。基板移送装置50が有する基板移送装置10と共通する構成要素については、第一実施形態と同一の符号を付与し、その説明を省略する。また、基板移送装置50の断面図である図6には示されていないが、基板移送装置50が、基板移送装置10と同一の配置で、電気ケーブル11d、管11e、プラテン駆動信号線11f、およびプラテン駆動モータ制御部29を備えている。
【0088】
図6に示すように、基板移送装置50は、駆動源30からの駆動力が回転動作伝達ユニット31を介してまず第二支持体23に伝えられる。したがって、基板移送装置50は、基板移送装置10と異なり、ボールねじ25を備えてはいない。
【0089】
また、基板移送装置50は、直動側第一地点Q1および直動側第二地点Q2の間における直動部21の位置を測定し得るセンサ51を備える。センサ51は、ガイドレール28aに対するガイドブロック28bの位置を検出しているが、センサ51は実質的に直動部21の位置を検出できるものであればよい。また、センサ51の検出結果は駆動源30を制御する制御部32に送られ、この検出結果を基に駆動源30は制御される。
【0090】
基板移送装置50においては、駆動源30の駆動力はまず第二支持体23を回転動作させるが、直動軸部材20、第二アーム22、第二支持体23、軸部材15、第一アーム12、第一支持体13、およびホルダ11は互いに機械的構造によって連動するよう構成されている。したがって、基板移送装置50においても、直動軸部材20、第二アーム22、第二支持体23、軸部材15、第一アーム12、第一支持体13、およびホルダ11は基板移送装置10と同様の機構で動作する。つまり、ホルダ11は第一の直線L1を往復直線移動するように動作し、基板移送装置50は基板移送装置10と同様の効果を奏するものである。
【0091】
また、本発明は前記実施形態および前記変形例に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0092】
IB イオンビーム
S 基板
IS 内部空間
L1 第一の直線
L2 第二の直線
D1 第一の方向
D2 第二の方向
D3 第三の方向
A1 第一の軸
R1 プラテン回転軸
P1 ホルダ側第一地点
P3 ホルダ側中間位置
Q1 直動側第一地点
Q2 直動側第二地点
100 イオンビーム照射装置
10 基板移送装置
11 ホルダ
12 第一アーム(ホルダ側旋回部材)
13 第一支持体(ホルダ側支持部材)
15 軸部材
17 ホルダ側変換部材
17a 第一ラック(ホルダ側ラック)
17b 第一ピニオン(ホルダ側ピニオン)
21 直動部
22 第二アーム(直動側旋回部材)
23 第二支持体(直動側支持部材)
25 ボール螺子
27 直動側変換部材
27a 第二ラック(直動側ラック)
27b 第二ピニオン(直動側ピニオン)
28 直動ガイド
29 プラテン駆動モータ制御部
30 駆動源
31 回転動作伝達ユニット
50 基板移送装置
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6