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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】吸着装置及び分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/22 20060101AFI20230720BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20230720BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230720BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20230720BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20230720BHJP
   A61L 9/014 20060101ALN20230720BHJP
【FI】
G01N1/22 L
B01J20/20 A
B01J20/28 A
B01J20/34 H
G01N1/00 101R
A61L9/014
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019037742
(22)【出願日】2019-03-01
(65)【公開番号】P2020139912
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】關 雅志
(72)【発明者】
【氏名】李 相錫
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-221915(JP,A)
【文献】特開2017-015625(JP,A)
【文献】特開2012-238916(JP,A)
【文献】特表2018-524255(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173456(WO,A1)
【文献】特開2016-011929(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030235(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/079174(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
A61L 9/00- 9/22
B01J20/00-20/281
20/30-20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空構造を有し、内部空間と外部空間とを連絡する貫通孔が設けられた吸着装置であって、
基材と、
前記基材の一方の主面上に設けられた接着剤層と、
前記接着剤層を介して前記基材に各々の一端が支持され、互いから離間した複数のカーボンナノチューブ束であって、前記外部空間から前記貫通孔を介して前記内部空間へと導かれた流体に含まれる1以上の物質を吸着する複数のカーボンナノチューブ束
を備え
前記カーボンナノチューブ束の長さは20μm乃至200μmの範囲内にあり、前記接着剤層の厚さは3μm乃至20μmの範囲内にある吸着装置。
【請求項2】
前記基材は絶縁体である請求項に記載の吸着装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の吸着装置と、
前記吸着装置へ前記流体を導いて、前記流体に含まれる前記1以上の物質を前記複数のカーボンナノチューブ束に吸着させる第1流路と、
前記複数のカーボンナノチューブ束に前記1以上の物質を脱着させる脱着装置と、
前記複数のカーボンナノチューブ束から脱着させた前記1以上の物質を定量する測定装置と、
前記複数のカーボンナノチューブ束から脱着させた前記1以上の物質を前記吸着装置から前記測定装置へと導く第2流路と
を備えた分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、吸着装置及び分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス分析装置として、カーボンナノチューブを備えた装置が知られている。このような装置の一例として、特定の分子を選択的に吸着する性質を有する金属錯体でカーボンナノチューブを表面修飾した装置がある。そのような装置によると、ガス中における特定の分子の濃度を測定することが可能である。
【0003】
例えば、或るマンガンフタロシアニンは、アセトンに対する吸着能が高い。カーボンナノチューブは、このマンガンフタロシアニンで表面修飾すると、マンガンフタロシアニンのアセトン吸着量に応じて電気伝導度が変化する。従って、このマンガンフタロシアニンで表面修飾したカーボンナノチューブを備えた装置は、ガス中のアセトン濃度の測定に利用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-107310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、吸着性に優れた吸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、基材と、前記基材の一方の主面上に設けられた接着剤層と、前記接着剤層を介して前記基材に各々の一端が支持され、互いから離間した複数のカーボンナノチューブ束であって、前記外部空間から前記貫通孔を介して前記内部空間へと導かれた流体に含まれる1以上の物質を吸着する複数のカーボンナノチューブ束とを備え、前記カーボンナノチューブ束の長さは20μm乃至200μmの範囲内にあり、前記接着剤層の厚さは3μm乃至20μmの範囲内にある吸着装置が提供される。
【0007】
他の実施形態によれば、前記吸着装置と、前記吸着装置へ流体を導いて、前記流体に含まれる1以上の物質を前記複数のカーボンナノチューブ束に吸着させる第1流路と、前記複数のカーボンナノチューブ束に前記1以上の物質を脱着させる脱着装置と、前記複数のカーボンナノチューブ束から脱着させた前記1以上の物質を定量する測定装置と、前記複数のカーボンナノチューブ束から脱着させた前記1以上の物質を前記吸着装置から前記測定装置へと導く第2流路とを備えた分析装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る分析装置を概略的に示す図。
図2図1の分析装置が含んでいる吸着装置の平面図。
図3図2の吸着装置のIII-III線に沿った断面図。
図4図2及び図3の吸着装置の分解斜視図。
図5図2乃至図4の吸着装置が含んでいるカーボンナノチューブ束を概略的に示す斜視図。
図6図5に示すカーボンナノチューブ束を概略的に示す平面図。
図7】カーボンナノチューブ束の配置と流体の流れとの関係の一例を概略的に示す平面図。
図8】実施形態に係る吸着装置の製造方法におけるカーボンナノチューブ束の形成工程を概略的に示す斜視図。
図9】実施形態に係る分析装置を使用して得られた結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0010】
図1に示す分析装置1は、流体に含まれる特定成分を分析するための装置である。流体は、例えば、空気などの雰囲気、呼気、排気ガス、上水、又は下水である。流体が気体である場合、流体に含まれる特定成分は、例えば揮発性有機化合物である。揮発性有機化合物としては、例えばエタン、ペンタン、オクタン、ウンデカン又はアセトン等が挙げられる。
【0011】
分析装置1は、吸着装置2と、支持体3と、脱着装置4と、導管5a及び5bと、測定装置6とを含んでいる。
【0012】
吸着装置2は、複数のカーボンナノチューブ束を収容した中空構造を有している。これらカーボンナノチューブ束は、流体中の1以上の物質、即ち、上記成分を物理吸着する。吸着装置2には、その内部空間と外部空間とを連絡する一対の貫通孔が設けられている。吸着装置2の詳細な構造については、後で説明する。
【0013】
支持体3は、吸着装置2を支持している。支持体3は、吸着装置2を着脱可能に支持していてもよく、着脱不可能に支持していてもよい。
【0014】
脱着装置4は、上記物質のカーボンナノチューブ束からの脱着を生じさせる。脱着装置4は、例えば、カーボンナノチューブ束又は吸着装置2への加熱、加振若しくは光照射、カーボンナノチューブ束が収容された空間に対する減圧若しくは気体及び液体などの流体の流通、又はそれらの2以上の組み合わせにより、上記物質のカーボンナノチューブ束からの脱着を生じさせる。ここでは、一例として、脱着装置4は抵抗加熱器であるとする。
【0015】
導管5aの一端は、吸着装置2の一方の貫通孔に接続されている。導管5aは、分析装置1の外部から吸着装置2へと流体を導いて、流体に含まれる上記1以上の物質をカーボンナノチューブ束に吸着させる第1流路を構成している。
【0016】
導管5bの一端は、吸着装置2の他方の貫通孔に接続されている。導管5bの他端は、測定装置6に接続されている。導管5bは、カーボンナノチューブ束から脱着させた上記1以上の物質を吸着装置2から測定装置6へと導く第2流路を構成している。
【0017】
測定装置は、カーボンナノチューブ束から脱着させた上記1以上の物質を定量する。測定装置は、例えば、ガスクロマトグラフである。
【0018】
この分析装置1による分析では、先ず、導管5aを介して吸着装置2の内部空間へ流体を供給するとともに、吸着装置2の内部空間から導管5bを介して流体を排出する。流体が吸着装置2の内部空間を流通すると、カーボンナノチューブ束は、流体中に含まれる物質の一部を吸着する。カーボンナノチューブ束が十分な量の物質を吸着した後、吸着装置2の内部空間への流体の供給及び吸着装置2の内部空間からの流体の排出を停止する。
【0019】
次いで、脱着装置4を作動させる。カーボンナノチューブ束は、上記物質を化学吸着している訳ではなく、物理吸着しているだけである。それ故、脱着装置4を作動させると、カーボンナノチューブ束は、吸着している上記物質のほぼ全量を脱着する。この脱着を生じさせると、吸着装置2の内部空間内のガス中での上記物質の濃度は、流体中の上記物質の濃度と比較して高くなる。
【0020】
その後、吸着装置2の内部空間内のガスを、導管5bを介して測定装置6へと供給する。例えば、導管5aを介して吸着装置2の内部空間へ不活性ガスを供給して、高い濃度で上記物質を含有したガスを、吸着装置2の内部空間から導管5bへ介して測定装置6へと送り出す。測定装置6は、上記ガスが含んでいる上記物質を定量する。
【0021】
例えば、流体が呼気である場合、呼気が含んでいる成分の多くは窒素、酸素、二酸化炭素及び水蒸気であり、呼気中の揮発性有機化合物の濃度は1%以下に過ぎない。従って、呼気をそのままの状態でガスクロマトグラフを用いた分析に供しても、高い精度で定量分析することはできない。
【0022】
これに対し、この分析装置1では、上記物質の濃度を高めたガスを測定装置6へ供給する。そのため、例えば、測定装置6の分析精度が低くても、十分に高い精度で定量分析することができる。また、測定装置6は、精度が低くてもよいので、寸法が小さく、安価なものを使用することができる。
【0023】
また、カーボンナノチューブ束は、上記物質を化学吸着している訳ではなく、物理吸着しているだけである。それ故、吸着装置2は、繰り返し使用することができる。なお、吸着装置2は、1回の分析毎に新品に交換してもよい。
【0024】
更に、吸着装置2では、金属錯体などによる化学吸着ではなく、カーボンナノチューブ束による物理吸着を利用するので、金属錯体による表面修飾などに起因した不均一を生じない。それ故、分析精度がこの不均一性の影響を受けることはない。
【0025】
次に、吸着装置2について詳細に説明する。
図2乃至図4に示すように、吸着装置2は、吸着装置本体21と、封止部材22とを含んでいる。
【0026】
吸着装置本体21は、図5に示すように、基材211と、複数のカーボンナノチューブ束212a乃至212dと、接着剤層213とを含んでいる。
【0027】
基材211は、一主面に第1領域と第2領域とを含んでいる。第1領域は、基材211の一方の主面のうち、接着剤層213を介してカーボンナノチューブ束212a乃至212dを支持している領域である。第1領域の一例としては、後述するサブ領域が挙げられる。第2領域は、基材211の上記主面のうち、カーボンナノチューブ束212a乃至212dを支持していない領域である。
【0028】
基材211は、例えば薄板状である。基材211は、硬質であってもよく、可撓性であってもよい。基材211の材料としては、例えば、金属などの導体を使用してもよく、シリコンなどの半導体を使用してもよく、ガラス、酸化マグネシウム、サファイア、及び酸化アルミニウムなどの絶縁体を使用してもよい。
【0029】
基材211は、絶縁体からなることが好ましい。例えば、基材211が鉄などの導体からなる場合、水分を多く含む流体を使用すると、基材211が腐食する可能性がある。これに対し、基材211がガラスなどの絶縁体からなる場合、水分を多く含む流体を使用しても、基材211の腐食は生じ難い。
【0030】
接着剤層213は、基材211の主面上に設けられている。接着剤層213は、例えば、エポキシ樹脂又はアクリル樹脂からなる。
【0031】
接着剤層213の厚さは、3μm乃至20μmの範囲内にあることが好ましく、5μm乃至10μmの範囲内にあることがより好ましい。接着剤層213が厚すぎると、コスト高となる。接着剤層213が薄すぎると、後述する転写の際に、カーボンナノチューブ束212a乃至212d又はカーボンナノチューブの一部が転写され難い。
【0032】
カーボンナノチューブ束212a乃至212dの一端は、第1領域の位置で、接着剤層213を介して基材211に支持されている。ここでは、カーボンナノチューブ束212a乃至212dは、基材211の一方の主面に対して略垂直な方向に延びている。カーボンナノチューブ束212a乃至212dの各々は、真っ直ぐに伸びていてもよく、撓んでいてもよい。
【0033】
カーボンナノチューブ束212a乃至212dの各々は、図6に示すように、その長さ方向に各々が伸びた多数のカーボンナノチューブ2121からなる。カーボンナノチューブ2121は、例えば、シングルウォールチューブである。カーボンナノチューブ2121は、アームチェアチューブ、ジグザグチューブ、及びカイラルチューブの何れであってもよい。
【0034】
カーボンナノチューブ2121の長さは、例えば、カーボンナノチューブ束212a乃至212dの高さとほぼ等しい。カーボンナノチューブ2121の直径は、例えば、10nm乃至100nmの範囲内にある。また、カーボンナノチューブ束212a乃至212dの各々において、カーボンナノチューブ2121間の距離は、例えば、10nm乃至100nmの範囲内にある。
【0035】
カーボンナノチューブ束212a乃至212dの各々の径は、例えば、1μm乃至100μmの範囲内にある。カーボンナノチューブ束212a乃至212dの高さは、20μm乃至200μmの範囲内にあることが好ましく、50μm乃至100μmの範囲内にあることがより好ましい。
【0036】
カーボンナノチューブ束212a乃至212dは、互いから離れて位置している。カーボンナノチューブ束212a乃至212d間の距離は、例えば、1μm乃至100μmの範囲内にある。
【0037】
カーボンナノチューブ束212a乃至212dは、基材211上の複数の単位領域から伸びている。これら単位領域の各々は、放射状に配置された複数のサブ領域からなる。具体的には、単位領域の各々は、複数のサブ領域からなり、典型的には回転対称性を有している。各サブ領域は、回転軸から外側へ向けて伸びた形状を有している。
【0038】
ここでは、図7に示すように、単位領域2110の各々は、放射状に配置された複数のサブ領域2110a乃至2110dからなる。サブ領域2110a乃至2110dの各々は、単位領域2110の中心から外側へ向けて伸びた形状、具体的には、単位領域2110の中心側の端が反対側の端と比較して曲率半径がより小さい液滴形状を有している。サブ領域2110aの長さ方向Daは、サブ領域2110cの長さ方向Dcに対して平行である。サブ領域2110bの長さ方向Dbは、サブ領域2110dの長さ方向Ddに対して平行である。方向Da及びDcは、方向Db及びDdに対して垂直である。
【0039】
方向Da乃至Ddは、それぞれ、サブ領域2110a乃至2110dに対して垂直な方向から見た場合に、直線Lに対して傾いている。この場合、方向Daが直線Lに対して成す角度θaは、例えば、0°より大きく且つ90°未満の範囲内とする。また、この場合、方向Dbが直線Lに対して成す角度θbは、例えば、90°より大きく且つ180°未満の範囲内とする。更に、この場合、方向Dcが直線Lに対して成す角度θcは、例えば、180°より大きく且つ270°未満の範囲内とする。そして、この場合、方向Ddが直線Lに対して成す角度θdは、例えば、270°より大きく且つ360°未満の範囲内とする。ここでは、角度θa、θb、θc及びθdは、それぞれ、45°、135°、225°及び315°である。
【0040】
なお、直線Lは、図2乃至図4に示す貫通孔TH1及びTH2の開口のうち、吸着装置2の内部空間側に位置した開口の中心を通る直線である。方向Da乃至Ddは、それぞれ、サブ領域2110a乃至2110dに対して垂直な方向から見た場合に、直線Lに対して傾いていなくてもよい。また、サブ領域2110a乃至2110dは、単位領域2110の中心から外側へ向けて伸びた形状を有していなくてもよい。
【0041】
カーボンナノチューブ束212a乃至212dは、それらの高さ全体に亘り、高さ方向に垂直な断面の形状が、サブ領域2110a乃至2110dの形状とそれぞれほぼ等しい。図7に示す単位領域2110は、基材211上で縦横に配列している。図2乃至図4に示すように、カーボンナノチューブ束212a乃至212dから各々がなる単位構造212も、単位領域2110の配列に対応して基材211上で縦横に配列している。
【0042】
ここでは、単位領域2110の各々を4つのサブ領域2110a乃至2110dで構成しているが、単位領域2110の各々は、2つ、3つ、又は5つ以上のサブ領域で構成してもよい。或いは、単位領域2110の各々は、連続した1つの領域であってもよい。
【0043】
封止部材22は、例えば薄板状である。封止部材22は、硬質であってもよく、可撓性であってもよい。ここでは、一例として、封止部材22はガラス板であるとする。封止部材22としてガラス板を使用した場合、後述する凹部や貫通孔の形成が容易である。
【0044】
図4に示すように、封止部材22は、その一方の主面に、凹部RS1乃至RS3と、溝GR1及びGR2とを有している。凹部RS3は、凹部RS1と凹部RS2との間に位置している。溝GR1は、凹部RS1と凹部RS3とを連絡している。溝GR2は、凹部RS1と凹部RS2とを連絡している。
【0045】
ここでは、2つの溝GR1で凹部RS1と凹部RS3とを連絡しているが、凹部RS1と凹部RS3とを連絡する溝GR1の数は、1であってもよく、3以上であってもよい。また、ここでは、2つの溝GR2で凹部RS2と凹部RS3とを連絡しているが、凹部RS2と凹部RS3とを連絡する溝GR2の数は、1であってもよく、3以上であってもよい。
【0046】
封止部材22は、凹部RS3の底面が単位構造212と向き合うように基材211に接合されている。封止部材22は、図3に示すように、基材211とともに中空構造を形成している。具体的には、この中空構造において、図4に示す凹部RS1乃至RS3は、それぞれ、図2及び図3に示すチャンバCH1乃至CH3を形成している。図4に示す溝GR1及びGR2は、それぞれ、図2に示すように、チャンバCH1及びCH3を連絡する流路FP1、及び、チャンバCH2及びCH3を連絡する流路FP2を構成している。なお、単位構造212は、チャンバCH3内に位置している。
【0047】
図4に示すように、封止部材22は、凹部RS1及びRS2の底部に対応した位置に、第1貫通孔TH1及び第2貫通孔TH2を有している。貫通孔TH1は、チャンバCH1を吸着装置2の外部空間と連絡している。貫通孔TH2は、チャンバCH2を吸着装置2の外部空間と連絡している。貫通孔TH1の数は2以上であってもよい。また、貫通孔TH2の数も2以上であってもよい。
【0048】
封止部材22には、凹部RS1乃至RS3並びに溝GR1及びGR2を設けなくてもよい。即ち、封止部材22の基材211と向き合う面は、平坦であってもよい。この場合、例えば、基材211の封止部材22と向き合う面に、凹部RS1乃至RS3並びに溝GR1及びGR2を設ける。そして、カーボンナノチューブ束212a乃至212dは、凹部RS3の底面に配置する。
【0049】
封止部材22は省略することができる。例えば、図1に示す分析装置1が、吸着装置本体21を収容し且つ吸着装置2について上述した中空構造と同様の機能を有している容器を含んでいる場合、封止部材22は省略してもよい。或いは、図1に示す分析装置1が、封止部材22と同様の機能を有している部材、即ち、基材211と組み合わせることによりカーボンナノチューブ束212a乃至212dを収容する中空構造を形成する部材を含んでいる場合、封止部材22は省略してもよい。
【0050】
この吸着装置2は、例えば、以下の方法によって製造する。
先ず、図8に示すように、シリコン基板232を準備する。次に、シリコン基板232上に、下地層231を形成する。具体的には、シリコン基板232上に、下地層231としてバリア層231a及び触媒層231bをこの順に形成する。バリア層231a及び触媒層231bの各々は、例えば、マスクを用いたスパッタリング法により形成する。
【0051】
バリア層231aは、触媒層231bを構成している材料がシリコン基板232へと拡散するのを抑制する。バリア層231aは、例えば、アルミナ、二酸化シリコン、五酸化タンタル、又は酸化ハフニウムからなる。
【0052】
触媒層231bは、カーボンナノチューブ生成のシード及びその成長を促進する触媒としての役割を果たす。触媒層231bは、シリコン基板232上に離間して形成する。触媒層231bは、例えば、鉄などの金属からなる。
【0053】
次に、例えば、化学気相堆積(CVD)法により、カーボンナノチューブ2121を生成及び成長させる。触媒層231bの存在により、カーボンナノチューブ2121の生成及び成長は、触媒層231bの位置で選択的に生じる。その結果、カーボンナノチューブ束212a乃至212dが得られる。
【0054】
次に、一方の主面に接着剤層213を設けた基材211を準備する。そして、カーボンナノチューブ束212a乃至212dをシリコン基板232から接着剤層上に転写する。なお、カーボンナノチューブ束212a乃至212dと触媒層231bとの間の接合強度は、バリア層231aと触媒層231bとの間の接合強度及びバリア層231aとシリコン基板232との間の接合強度よりも弱い。従って、転写の際に、バリア層231a及び触媒層231bはシリコン基板232上に残留する。
【0055】
なお、基材211が可撓性であると、これを転写の際に撓ませることができる。それ故、接着剤層213を、シリコン基板232上のカーボンナノチューブ束212a乃至212dへ容易に接触させることができる。また、基材211が可撓性である場合、これを、カーボンナノチューブ束212a乃至212dとともに、シリコン基板232から剥離することも容易である。
【0056】
次に、このようにして得られた吸着装置本体21と、別途用意した封止部材22とを、図3に示すように接合する。吸着装置本体21と封止部材22とは、例えば、表面活性化接合法により直接接合することができる。或いは、吸着装置本体21と封止部材22とは、接着剤を使用して接合することもできる。前者の場合、接着剤に含まれる成分が測定に影響を及ぼすことがない。
以上のようにして、図2乃至図4に示す吸着装置2を得る。
【0057】
なお、上述した製造方法では、バリア層231aは、シリコン基板232の主面の一部に設けられているが、基材211の主面全体を覆うように設けてもよい。バリア層231aは省略することができる。
【0058】
次に、この吸着装置2における流体の流れ等について説明する。
吸着時には、図2などに示す貫通孔TH1を介して、吸着装置2の内部空間へ流体を供給する。
【0059】
貫通孔TH1を通過した流体は、先ず、チャンバCH1に到達する。チャンバCH1とチャンバCH3とは複数の流路FP1によって接続しているので、流体の流れは、流路FP1によって複数の流れへと分けられる。チャンバCH3には複数個所から流体を供給するので、チャンバCH3のうちチャンバCH1近傍の領域において、流速に大きなばらつきを生じることはない。
【0060】
これら流れは、チャンバCH3において合流する。流体がチャンバCH3を通過する過程で、単位構造212を構成しているカーボンナノチューブ束は、流体が含んでいる1以上の物質を吸着する。
【0061】
その後、この流体の流れは、流路FP2によって複数の流れへと分けられ、チャンバCH2において合流する。チャンバCH3からは複数個所から流体を排出するので、チャンバCH3のうちチャンバCH2近傍の領域において、流速に大きなばらつきを生じることはない。
【0062】
チャンバCH2に到達した流体は、貫通孔TH2を介して、吸着装置2の外部へと排出する。
【0063】
脱着時には、図1に示す脱着装置4を作動させる。図5に示すカーボンナノチューブ束212a乃至212dは、上記物質を化学吸着ではなく、物理吸着しているだけであるので、図1に示す脱着装置4を作動させると、図5に示すカーボンナノチューブ束212a乃至212dは、吸着している上記物質のほぼ全量を脱着する。この脱着を生じさせると、図2及び図3に示す吸着装置2の内部空間内のガス中での上記物質の濃度は、流体中の上記物質の濃度と比較して高くなる。
【0064】
その後、例えば、貫通孔TH1を介して吸着装置2の内部空間へ不活性ガスを供給することにより、上記物質を高い濃度で含んだガスを、貫通孔TH2を介して吸着装置2の外部へと排出する。なお、吸着時と同様に、チャンバCH3内では流速に大きなばらつきを生じることはない。従って、比較的少量の不活性ガスを流通させるだけで、上記物質を高い濃度で含んだガスを排出することができる。
【0065】
上記の通り、図5に示すカーボンナノチューブ束は、多数のカーボンナノチューブ2121からなる。カーボンナノチューブ束212a乃至212dの各々において、カーボンナノチューブ2121間には隙間がある。それ故、流体の一部は、チャンバCH3を通過する際に、カーボンナノチューブ束212a乃至212dの何れかの内部を通過する。従って、カーボンナノチューブ束212a乃至212dの各々は、その表面だけでなく、内部においても、流体中の1以上の物質を吸着する。そして、カーボンナノチューブ束212a乃至212dの各々の内部では、その表面と比較して、吸着した物質の脱着は生じ難い。従って、カーボンナノチューブ束212a乃至212dの各々は、高い吸着効率を示す。
【0066】
また、カーボンナノチューブ束212a乃至212dは、互いから離れて位置させている。即ち、カーボンナノチューブ束212a乃至212d間に隙間を設けている。それ故、カーボンナノチューブ束212a乃至212dは、流体の流れを過剰に妨げることがない。
【0067】
また、上記の通り、カーボンナノチューブ束212a乃至212dは、それらの高さ方向に垂直な断面の形状が、それぞれ、図7に示すサブ領域2110a乃至2110dの形状とほぼ等しい。図7の方向Da乃至Ddは、それぞれ、サブ領域2110a乃至2110dに対して垂直な方向から見た場合に、直線Lに対して傾いている。そして、図2のチャンバCH3における流体の平均的な流れの方向は、図7の直線Lに対して平行である。このような構造を採用すると、流体の流れが最適化され、高い吸着効率を達成できる。
【0068】
そして、上記の通り、カーボンナノチューブ束212a乃至212dは、上記物質を化学吸着ではなく、物理吸着しているだけである。それ故、それらが吸着している上記物質のほぼ全量を脱着させることは容易である。
【0069】
従って、この吸着装置2を使用すると、上記物質の濃度を十分に高めたガスを得ることができる。そのため、例えば、測定装置の分析精度が低くても、十分に高い精度で定量分析することができる。また、測定装置は、精度が低くてもよいので、寸法が小さく、安価なものを使用することができる。
【0070】
また、この吸着装置2は、以下に説明するように、吸着性の低下を生じ難い。
シリコンからなる基材211上に下地層231を形成し、そこでカーボンナノチューブ2121を生成及び成長させてなる吸着装置は、その使用に伴い、吸着性が低下する。これは、カーボンナノチューブ束212a乃至212dやカーボンナノチューブ2121と下地層231との間の接合強度が低いことに起因して、吸着装置の使用に伴って、カーボンナノチューブ束212a乃至212dやカーボンナノチューブ2121が基材211から脱落するためである。
【0071】
カーボンナノチューブ束212a乃至212dやカーボンナノチューブ2121が基材211から脱落すると、流体に含まれる成分を吸着する面積が減少する。また、カーボンナノチューブ束212a乃至212dやカーボンナノチューブ2121が基材211から脱落すると、その位置で流体の流速が大きくなり、カーボンナノチューブ2121と流体に含まれる成分とが接触する時間が短くなる。従って、吸着装置の吸着性が低下する。
【0072】
上記の吸着装置2では、接着剤層213を介してカーボンナノチューブ束212a乃至212dやカーボンナノチューブ2121を基材211へ固定している。それ故、この吸着装置2では、カーボンナノチューブ束212a乃至212dやカーボンナノチューブ2121と基材211との間の接合強度が高く、吸着性の低下を生じ難い。即ち、この吸着装置2は吸着性に優れている。
【0073】
接着剤層213の厚さは、上述した数値範囲の下限値以上であることが好ましい。転写を利用してカーボンナノチューブ束212a乃至212dを基材211上に設ける場合、一部のカーボンナノチューブ束212a乃至212d又は一部のカーボンナノチューブ2121は、シリコン基板232から基材211上へ転写されないことがある。これらが転写されないと、流体に含まれる成分を吸着する面積が減少する。また、これらが転写されないと、転写されなかった位置で流体の流速が大きくなるため、カーボンナノチューブ2121と流体に含まれる成分とが接触する時間が短くなる。従って、設計通りの吸着性を達成することが難しい。
【0074】
カーボンナノチューブ束212a乃至212dの一部やカーボンナノチューブ2121の一部が転写されないのは、それらの高さや長さがばらついていることに起因している。即ち、カーボンナノチューブ束212a乃至212dの高さやカーボンナノチューブ2121の長さがばらついていると、転写の際に、カーボンナノチューブ束212a乃至212dの一部やカーボンナノチューブ2121の一部が接着剤層213と接触できないことがある。これらは、接着剤層213と接触できないと、シリコン基板232上に残留する可能性がある。
【0075】
接着剤層213の厚さが十分に厚ければ、カーボンナノチューブ束212a乃至212dの高さやカーボンナノチューブ2121の長さがばらついていたとしても、ほぼ全てのカーボンナノチューブ束212a乃至212dやカーボンナノチューブ2121を接着剤層213に接触させることができる。従って、ほぼ全てのカーボンナノチューブ束212a乃至212dやカーボンナノチューブ2121を接着剤層213上へと転写することができる。従って、設計通りの吸着性を達成することができる。
【0076】
なお、カーボンナノチューブ束212a乃至212dの高さが高くなるほど、カーボンナノチューブ束212a乃至212dの高さ又はカーボンナノチューブ2121の長さのばらつきは大きくなる。従って、カーボンナノチューブ束212a乃至212dの高さが上述した範囲内にある場合、接着剤層213の厚さを上記範囲内とすることが特に好ましい。
【0077】
図9は、上記の分析装置1にサンプルガスを供給し続けた後に、水素炎イオン化検出器(FID)を用いて、カーボンナノチューブ束212a乃至212dが吸着した成分を分析して得られた結果を示すグラフである。サンプルガスとしては、ペンタン、オクタン及びウンデカンを含むガスを使用した。図9に示すように、ペンタン、オクタン及びウンデカンの存在を示すピークが検出され、この分析装置1の吸着装置2は、設計通りの性能を有していることを確認できた。
【0078】
以上、吸着装置2を流体の分析に利用することを説明したが、吸着装置2は分析以外の目的で使用することも可能である。例えば、吸着装置2は、空気清浄器に利用して、空気中に存在するPM2.5又は浮遊カビなどの大きさが例えば100μm以下の汚れを吸着させることもできる。或いは、吸着装置2は、脱臭剤として使用することもできる。例えば、吸着装置2は、インクジェット記録装置及び電子写真装置などの画像形成装置の筐体内に設置する脱臭剤として使用することができる。なお、吸着装置2を分析以外の目的、例えば、脱臭の目的で使用する場合においても、封止部材22は省略することができる。
【0079】
吸着装置2には、流体を強制的に送り込んでカーボンナノチューブ2121に特定の成分を吸着させてもよい。或いは、吸着装置2には、流体を強制的に送り込むことなしに、カーボンナノチューブ2121に特定の成分を吸着させてもよい。後者の場合であっても、吸着装置2には自然対流などによって流体が供給されるため、カーボンナノチューブ2121に特定の成分を吸着させることができる。
【0080】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
以下に、当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]
基材と、
前記基材の一方の主面上に設けられた接着剤層と、
前記接着剤層を介して前記基材に各々の一端が支持され、互いから離間した複数のカーボンナノチューブ束と
を備えた吸着装置。
[2]
前記接着剤層の厚さは3μm乃至20μmの範囲内にある項1に記載の吸着装置。
[3]
前記カーボンナノチューブ束の長さは20μm乃至200μmの範囲内にある項1又は2に記載の吸着装置。
[4]
前記基材は絶縁体である項1乃至3の何れか1項に記載の吸着装置。
[5]
項1乃至4の何れか1項に記載の吸着装置と、
前記吸着装置へ流体を導いて、前記流体に含まれる1以上の物質を前記複数のカーボンナノチューブ束に吸着させる第1流路と、
前記複数のカーボンナノチューブ束に前記1以上の物質を脱着させる脱着装置と、
前記複数のカーボンナノチューブ束から脱着させた前記1以上の物質を定量する測定装置と、
前記複数のカーボンナノチューブ束から脱着させた前記1以上の物質を前記吸着装置から前記測定装置へと導く第2流路と
を備えた分析装置。
【符号の説明】
【0081】
1…分析装置、2…吸着装置、3…支持体、4…脱着装置、5a…導管、5b…導管、6…測定装置、21…吸着装置本体、22…封止部材、211…基材、212…単位構造、212a…カーボンナノチューブ束、212b…カーボンナノチューブ束、212c…カーボンナノチューブ束、212d…カーボンナノチューブ束、2121…カーボンナノチューブ、213…接着剤層、2110…単位領域、2110a…サブ領域、2110b…サブ領域、2110c…サブ領域、2110d…サブ領域、231…下地層、231a…バリア層、231b…触媒層、232…シリコン基板、CH1…チャンバ、CH2…チャンバ、CH3…チャンバ、Da…長さ方向、Db…長さ方向、Dc…長さ方向、Dd…長さ方向、FP1…流路、FP2…流路、GR1…溝、GR2…溝、L…直線、RS1…凹部、RS2…凹部、RS3…凹部、TH1…貫通孔、TH2…貫通孔、θa…角度、θb…角度、θc…角度、θd…角度。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9