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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】燃焼システム
(51)【国際特許分類】
   F23J 15/00 20060101AFI20230720BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20230720BHJP
   B01D 53/90 20060101ALI20230720BHJP
   B01J 23/22 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
F23J15/00 A
B01D53/86 222
B01D53/90
B01J23/22 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019538443
(86)(22)【出願日】2019-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2019009200
(87)【国際公開番号】W WO2020179075
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】清永 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和広
(72)【発明者】
【氏名】盛田 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】村山 徹
(72)【発明者】
【氏名】春田 正毅
(72)【発明者】
【氏名】秦 慎一
(72)【発明者】
【氏名】猪股 雄介
【審査官】小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0225119(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0234126(US,A1)
【文献】国際公開第2017/042895(WO,A1)
【文献】特許第6410202(JP,B2)
【文献】国際公開第2010/131636(WO,A1)
【文献】特許第6093101(JP,B1)
【文献】特表2015-530921(JP,A)
【文献】特開2000-197822(JP,A)
【文献】特開平11-342337(JP,A)
【文献】特開昭57-038939(JP,A)
【文献】特開2007-167780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23J 15/00
B01D 53/86
B01D 53/90
B01J 23/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を燃焼させる燃焼装置と、
前記燃焼装置において前記燃料が燃焼することによって発生する排ガスが流通する排気路と、
前記排気路に配置され且つ前記排ガス中の煤塵を収集する集塵装置と、
前記排気路に配置され且つ脱硝触媒によって前記排ガスから窒素酸化物を除去する脱硝装置と、を備える燃焼システムであって、
前記脱硝装置は、前記排気路における前記集塵装置の下流側に配置され、
前記脱硝触媒は、酸化バナジウムを含む脱硝触媒であって、炭素含有量が0.05wt%以上であり、結晶構造中に酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する脱硝触媒であり、
前記酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有するとは、前記脱硝触媒の赤外透過スペクトルにおける、架橋V-O -V変角振動に由来する波数462~494cm -1 のピーク強度P1に対する、稜共有3V-O 伸縮振動に由来する波数494~549cm -1 のピーク強度P2の比(P1/P2)が0.98以下である、燃焼システム。
【請求項2】
前記燃焼システムは、前記排気路に配置され且つ前記排ガスから熱回収する空気予熱器を更に備え、
前記空気予熱器は、前記集塵装置の上流側に配置される、請求項1に記載の燃焼システム。
【請求項3】
燃料を燃焼させる燃焼装置と、
前記燃焼装置において前記燃料が燃焼することによって発生する排ガスが流通する排気路と、
前記排気路に配置され且つ前記排ガスから熱回収する空気予熱器と、
前記排気路に配置され且つ脱硝触媒によって前記排ガスから窒素酸化物を除去する脱硝装置と、を備える燃焼システムであって、
前記脱硝装置は、前記排気路における前記空気予熱器の下流側に配置され、
前記脱硝触媒は、酸化バナジウムを含む脱硝触媒であって、炭素含有量が0.05wt%以上であり、結晶構造中に酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する脱硝触媒であり、
前記酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有するとは、前記脱硝触媒の赤外透過スペクトルにおける、架橋V-O -V変角振動に由来する波数462~494cm -1 のピーク強度P1に対する、稜共有3V-O 伸縮振動に由来する波数494~549cm -1 のピーク強度P2の比(P1/P2)が0.98以下である、燃焼システム。
【請求項4】
燃料を燃焼させる内燃機関と、
前記内燃機関において前記燃料が燃焼することによって発生する排ガスが流通する排気路と、
前記排気路に配置され且つ前記内燃機関から排出される排ガスから排熱を回収する排熱回収装置と、
前記排気路に配置され且つ脱硝触媒によって前記排ガスから窒素酸化物を除去する脱硝装置とを備える燃焼システムであって、
前記脱硝装置は、前記排気路における前記排熱回収装置の下流側に配置され、
前記脱硝触媒は、酸化バナジウムを含む脱硝触媒であって、炭素含有量が0.05wt%以上であり、結晶構造中に酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する脱硝触媒であり、
前記酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有するとは、前記脱硝触媒の赤外透過スペクトルにおける、架橋V-O -V変角振動に由来する波数462~494cm -1 のピーク強度P1に対する、稜共有3V-O 伸縮振動に由来する波数494~549cm -1 のピーク強度P2の比(P1/P2)が0.98以下である、燃焼システム。
【請求項5】
前記排熱回収装置は、タービン装置と排ガスエコノマイザとを備え、
前記排ガスエコノマイザは、前記内燃機関から排出される排ガスと前記タービン装置から供給される排ガスとを熱源として蒸気を発生させ、
前記タービン装置は、前記内燃機関から排出される排ガスと、前記排ガスエコノマイザから供給される蒸気とを用いて発電をする、請求項4に記載の燃焼システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼システムに関する。より詳しくは、本発明は、燃料が燃焼することによって発生する排ガスを、脱硝触媒を用いて浄化する燃焼システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料の燃焼により大気中に排出される汚染物質の一つとして、窒素酸化物(NO,NO,NO,NO,N,N,N)が挙げられる。窒素酸化物は、酸性雨、オゾン層破壊、光化学スモッグ等を引き起こし、環境や人体に深刻な影響を与えるため、その処理が重要な課題となっている。
【0003】
上記の窒素酸化物を取り除く技術として、アンモニア(NH)を還元剤とする選択的触媒還元反応(NH-SCR)が知られている。特許文献1に記載のように、選択的触媒還元反応に用いられる触媒としては、酸化チタンを担体とし、酸化バナジウムを担持した触媒が広く使用されている。酸化チタンは硫黄酸化物に対して活性が低く、また安定性が高いため最も良い担体とされている。
【0004】
一方で、酸化バナジウムはNH-SCRにおいて主要な役割を果たすものの、SOをSOに酸化するので、酸化バナジウムを1wt%程度以上担持できなかった。また、従来のNH-SCRでは、酸化チタン担体に酸化バナジウムを担持させた触媒が低温ではほとんど反応しないので,350-400℃という高温で使用せざるを得なかった。
しかし、NH-SCRを実施する装置や設備の設計の自由度を高め、効率化するためには、低温でも高い窒素酸化物還元率活性を示す触媒の開発が求められていた。
【0005】
その後、本発明者らは、五酸化バナジウムが43wt%以上存在し、BET比表面積が30m/g以上であり、200℃以下での脱硝に用いられる脱硝触媒を見出した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-275852号公報
【文献】特許第6093101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、上記特許文献2の更なる改良を試みて鋭意検討した結果、更に優れた窒素酸化物の還元率活性を示す脱硝触媒を見出した。
【0008】
本発明は、アンモニアを還元剤とする選択的触媒還元反応の際、従来技術に比較して、低温での脱硝効率が更に良い触媒を用いた燃焼システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、燃料を燃焼させる燃焼装置と、前記燃焼装置において前記燃料が燃焼することによって発生する排ガスが流通する排気路と、前記排気路に配置され且つ前記排ガス中の煤塵を収集する集塵装置と、前記排気路に配置され且つ脱硝触媒によって前記排ガスから窒素酸化物を除去する脱硝装置と、を備える燃焼システムであって、前記脱硝装置は、前記排気路における前記集塵装置の下流側に配置され、前記脱硝触媒は、酸化バナジウムを含む脱硝触媒であって、炭素含有量が0.05wt%以上であり、結晶構造中に酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する脱硝触媒である燃焼システムに関する。
【0010】
また、前記燃焼システムは、前記排気路に配置され且つ前記排ガスから熱回収する空気予熱器を更に備え、前記空気予熱器は、前記集塵装置の上流側に配置されることが好ましい。
【0011】
また本発明は、燃料を燃焼させる燃焼装置と、前記燃焼装置において前記燃料が燃焼することによって発生する排ガスが流通する排気路と、前記排気路に配置され且つ前記排ガスから熱回収する空気予熱器と、前記排気路に配置され且つ脱硝触媒によって前記排ガスから窒素酸化物を除去する脱硝装置と、を備える燃焼システムであって、前記脱硝装置は、前記排気路における前記空気予熱器の下流側に配置され、前記脱硝触媒は、酸化バナジウムを含む脱硝触媒であって、炭素含有量が0.05wt%以上であり、結晶構造中に酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する脱硝触媒である燃焼システムに関する。
【0012】
また本発明は、燃料を燃焼させる内燃機関と、前記内燃機関において前記燃料が燃焼することによって発生する排ガスが流通する排気路と、前記排気路に配置され且つ前記内燃機関から排出される排ガスから排熱を回収する排熱回収装置と、前記排気路に配置され且つ脱硝触媒によって前記排ガスから窒素酸化物を除去する脱硝装置とを備える燃焼システムであって、前記脱硝装置は、前記排気路における前記排熱回収装置の下流側に配置され、前記脱硝触媒は、酸化バナジウムを含む脱硝触媒であって、炭素含有量が0.05wt%以上であり、結晶構造中に酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する脱硝触媒である燃焼システムに関する。
【0013】
また、前記排熱回収装置は、タービン装置と排ガスエコノマイザとを備え、前記排ガスエコノマイザは、前記内燃機関から排出される排ガスと前記タービン装置から供給される排ガスとを熱源として蒸気を発生させ、前記タービン装置は、前記内燃機関から排出される排ガスと、前記排ガスエコノマイザから供給される蒸気とを用いて発電をすることが好ましい。
【0014】
また、前記酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有するとは、前記脱硝触媒の赤外透過スペクトルにおける、架橋V-O-V変角振動に由来する波数462~494cm-1のピーク強度P1に対する、稜共有3V-O伸縮振動に由来する波数494~549cm-1のピーク強度P2の比(P1/P2)が0.98以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る燃焼システムは、アンモニアを還元剤とする選択的触媒還元反応の際、従来技術に比較して、低温での脱硝効率が更に良い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例7の五酸化バナジウム触媒のNO転化率を示すグラフである。
図1B】実施例1の五酸化バナジウム触媒のNO転化率の温度依存性を示すグラフである。
図2】実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例7の五酸化バナジウム触媒の反応速度を示すグラフである。
図3A】実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例7の五酸化バナジウム触媒の炭素含有量とNO転化率との関係を示すグラフである。
図3B】実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例7の五酸化バナジウム触媒の炭素含有量と反応速度との関係を示すグラフである。
図4】実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例6の五酸化バナジウム触媒の紫外-可視吸収スペクトルを示すグラフである。
図5A】実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例7の五酸化バナジウム触媒の吸収端波長とNO転化率との関係を示すグラフである。
図5B】実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例7の五酸化バナジウム触媒の吸収端波長と反応速度との関係を示すグラフである。
図6】実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例6の五酸化バナジウム触媒の吸収端波長とBET比表面積との関係を示すグラフである。
図7A】実施例1、及び比較例1~比較例4の五酸化バナジウム触媒の高波数領域の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
図7B】実施例2~実施例3、及び比較例5~比較例6の五酸化バナジウム触媒の高波数領域の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
図7C】実施例4~実施例6の五酸化バナジウム触媒の高波数領域の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
図8A】実施例1、及び比較例1~比較例4の五酸化バナジウム触媒の低波数領域の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
図8B】実施例2~実施例3、及び比較例5~比較例6の五酸化バナジウム触媒の低波数領域の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
図8C】実施例4~実施例6の五酸化バナジウム触媒の低波数領域の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
図9】五酸化バナジウム触媒の結晶構造を示す模式図である。
図10A】実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例6の五酸化バナジウム触媒の赤外吸収スペクトル(透過率比)とNO転化率との関係を示すグラフである。
図10B】実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例6の五酸化バナジウム触媒の赤外吸収スペクトル(透過率比)と反応速度との関係を示すグラフである。
図11A】比較例1の五酸化バナジウム触媒のTEM像である。
図11B】比較例1の五酸化バナジウム触媒のTEM像である。
図11C】実施例1の五酸化バナジウム触媒のTEM像である。
図11D】実施例1の五酸化バナジウム触媒のTEM像である。
図12】実施例1、及び比較例1~比較例4の五酸化バナジウム触媒のX線光電子スペクトル(XPS)を示すグラフである。
図13】実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例6の五酸化バナジウム触媒の水の吸着等温線を示すグラフである。
図14】実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例6の五酸化バナジウム触媒の水吸着量を示すグラフである。
図15A】実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例6の五酸化バナジウム触媒の水吸着量とNO転化率との関係を示すグラフである。
図15B】実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例6の五酸化バナジウム触媒の水吸着量と反応速度との関係を示すグラフである。
図16】実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例6の五酸化バナジウム触媒のラマンスペクトルを示すグラフである。
図17】本発明の第1の適用例に係る燃焼システムの構成を示す図である。
図18】本発明の第2の適用例に係る燃焼システムの構成を示す図である。
図19】本発明の第3の適用例に係る燃焼システムの構成を示す図である。
図20】本発明の第4の適用例に係る燃焼システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る脱硝触媒について説明する。
【0018】
本発明の脱硝触媒は、酸化バナジウムを含む脱硝触媒であって、炭素含有量が0.05wt%以上であり、結晶構造中に酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する。このような脱硝触媒は、従来用いられているバナジウム/チタン触媒等の脱硝触媒に比べて、低温環境下でも高い脱硝効果を発揮できる。
【0019】
第1に、本発明の脱硝触媒は、酸化バナジウムを含む。この酸化バナジウムは、酸化バナジウム(II)(VO)、三酸化バナジウム(III)(V)、四酸化バナジウム(IV)(V)、五酸化バナジウム(V)(V)を含み、脱硝反応中、五酸化バナジウム(V)のV元素は、5価、4価、3価、2価の形態を取ってもよい。
なお、この酸化バナジウムは、本発明の脱硝触媒の主成分であり、本発明の効果を阻害しない範囲内で他の物質を含んでいても良いが、本発明の脱硝触媒中、五酸化バナジウム換算で50%以上存在することが好ましい。更に好ましくは、酸化バナジウムが、本発明の脱硝触媒中、五酸化バナジウム換算で99%以上存在することが好ましい。更に好ましくは、酸化バナジウムが、本発明の脱硝触媒中、五酸化バナジウム換算で略100%存在することが好ましい。
【0020】
第2に、本発明の脱硝触媒は、炭素含有量が0.05wt%以上であるが、このような高濃度で炭素を含むことにより、従来用いられているバナジウム/チタン触媒等の脱硝触媒に比べて、低温環境下でも高い脱硝効果を発揮できる。本発明の脱硝触媒中に不純物が入り込むと、脱硝触媒中にアモルファスの部分が生成されるために結晶構造が連続せず、結晶格子中の線や面がひずむことにより高い脱硝効果が発揮されるが、この不純物としての炭素が多く存在するほど、高い脱硝効果が発揮されることが推察される。
【0021】
本発明の実施形態において、炭素含有量が0.07wt%の脱硝触媒を用いた反応温度200℃以下の選択的触媒還元反応においては、水分の共存下でない場合で84.3%のNO転化率を、水分の共存下の場合で51.5%のNO転化率を示した。また、炭素含有量が0.16wt%の脱硝触媒を用いた選択的触媒還元反応においては、水分の共存下でない場合で100%のNO転化率を、水分の共存下の場合で60.1%のNO転化率を示した。また、炭素含有量が0.17wt%の脱硝触媒を用いた選択的触媒還元反応においては、水分の共存下でない場合87.8%のNO転化率を、水分の共存下の場合で48.6%のNO転化率を示した。
一方、炭素含有量が0.01wt%の脱硝触媒を用いた選択的触媒還元反応においては、水分の共存下でない場合35.5%のNO転化率を、水分の共存下の場合で5.2%のNO転化率しか示されなかった。また、炭素含有量が0.04wt%の脱硝触媒を用いた選択的触媒還元反応においては、水分の共存下でない場合39.2%のNO転化率を、水分の共存下の場合で5.6%のNO転化率しか示されなかった。
【0022】
また、上述の記載では、脱硝触媒中に、炭素含有量が0.05wt%以上であることが好ましいとしたが、なお好ましくは、炭素含有率が0.07wt%以上であってもよい。更に好ましくは、炭素含有率が0.11wt%以上であってもよい。更に好ましくは、炭素含有率が0.12wt%以上であってもよい。更に好ましくは、炭素含有率が0.14wt%以上であってもよい。更に好ましくは、炭素含有率が0.16wt%以上であってもよい。更に好ましくは、炭素含有率が0.17wt%以上であってもよい。
【0023】
第3に、本発明の脱硝触媒は、結晶構造中に酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する。
なお、ここで「欠陥サイト」とは、結晶において、ある種類の原子が占めるべき位置(サイト)でありながら、当該ある種類の原子が占めていない位置(サイト)のことを意味する。
上記のように本発明の脱硝触媒においては、不純物の混入により当該脱硝触媒に含まれる酸化バナジウム結晶の構造が局所的に乱れ、高い脱硝効果を発揮できるが、本発明の酸化バナジウム触媒は不純物が入り込むことで、結晶構造中の酸素原子が欠乏するサイトが出現することで高い脱硝効果が発揮されることが推察される。なお、「酸素原子が欠乏するサイト」のことを「酸素欠陥サイト」とも呼称する。
【0024】
なお、ここで「酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する」とは、後述の実施例に記載のように、脱硝触媒の赤外透過スペクトルの末端V=O伸縮振動に由来する1022-1016cm-1にて各スペクトルを規格化後、脱硝触媒の赤外透過スペクトルにおける、架橋V-O-V変角振動に由来する波数462~494cm-1のピーク強度P1に対する、稜共有3V-O伸縮振動に由来する波数494~549cm-1のピーク強度P2の比(P1/P2)が0.98以下であるということである。この「P1/P2」を算出するための波数は、ピークの上がり始めから終わりまでの場合の波数であるが、ピークトップの波数を用いて「P1/P2」を算出する場合、架橋V-O-V変角振動に由来する波数471~486cm-1のピーク強度P1に対する、稜共有3V-O伸縮振動に由来する波数503~524cm-1のピーク強度P2の比として算出してもよい。
【0025】
更に、本発明の脱硝触媒は、例えば「酸素欠陥が発生する欠陥サイト」のような点欠陥が一次元的に連続して配置される線欠陥や、点欠陥が二次元的に連続して配置される面欠陥、あるいは、格子のひずみのような格子欠陥を有することがある。
【0026】
また、本発明の脱硝触媒は、270℃以下での脱硝に用いられることが好ましい。これは、本発明の脱硝触媒の焼成温度が270℃であることに由来する。一方で、後述の実施例において、本発明の脱硝触媒は、反応温度200℃以下での選択的触媒還元反応において、高い脱硝効果を発揮したことから、本発明の脱硝触媒は、200℃以下での脱硝に用いることが可能である。200℃以下ではSOからSOへの酸化が発生しないため、上記の特許文献2でも知見が得られたように、選択的触媒還元反応時には、SOのSOへの酸化が伴わない。
【0027】
また、上述の記載では、本発明の脱硝触媒は、270℃以下の脱硝に用いられることが好ましいとしたが、好ましくは200℃以下の脱硝に用いられてもよい、更に好ましくは、反応温度が100―200℃の脱硝に用いられてもよい。更に好ましくは、反応温度160-200℃の脱硝に用いられてもよい。あるいは、反応温度が80-150℃の脱硝に用いられてもよい。
【0028】
また、本発明の脱硝触媒の吸収端波長は575nm以下であることが好ましい。このように吸収端波長が青色側にシフトしている触媒ほど、概ね高い脱硝効果を発揮することが出来る。これは、吸収端波長が青色側にシフトしているほど結晶構造が崩れていることに由来する。
【0029】
本発明の実施形態において、例えば、吸収端波長が567.4nmの脱硝触媒を用いた、反応温度200℃以下での選択的触媒還元反応では、水分の共存下でない場合でNO転化率が61.3%のNO転化率を、水分の共存下の場合で28.1%のNO転化率を示した。また、吸収端波長が548.2nmの脱硝触媒を用いた選択的触媒還元反応では、水分の共存下でない場合で84.3%のNO転化率を、水分の共存下の場合で51.5%のNO転化率を示した。また、吸収端波長が547.7nmの脱硝触媒を用いた選択的触媒還元反応では、水分の共存下でない場合で79.2%のNO転化率を、水分の共存化の場合で50.6%のNO転化率を示した。また、吸収端波長が535.9nmの脱硝触媒を用いた選択的触媒還元反応では、水分の共存下でない場合で87.8%のNO転化率を、水分の共存下の場合で48.6%のNO転化率を示した。また、吸収端波長が534.5nmの脱硝触媒を用いた選択的触媒還元反応では、水分の共存下でない場合で100%のNO転化率を、水分の共存下の場合で60.1%のNO転化率を示した。
一方、吸収端波長が587.3nmの脱硝触媒を用いた選択的触媒還元反応では、水分の共存下でない場合で35.5%のNO転化率、水分の共存下の場合で5.2%のNO転化率しか示さなかった。また、吸収端波長が580.1nmの脱硝触媒を用いた選択的触媒還元反応でも、水分の共存下でない場合で39.2%のNO転化率、水分の共存下の場合で5.6%のNO転化率しか示さなかった。
【0030】
また、脱硝触媒の吸収端波長は575nm以下であるが、好ましくは568nm以下であってもよい。更に好ましくは549nm以下であってもよい。更に好ましくは548nm以下であってもよい。更に好ましくは536nm以下であってもよい。更に好ましくは535nm以下であってもよい。
【0031】
また、本発明の脱硝触媒のBET比表面積は15.3m-1以上であることが好ましいが、このようにBET比表面積の大きな触媒ほど高い脱硝効果を発揮する。これは、脱硝触媒の単位質量当たりの表面積が広いほど、より多くの窒素酸化物を吸着させるサイト数が増加するためであることが推察される。
【0032】
本発明の実施形態において、BET比表面積が15.3m-1の脱硝触媒を用いた、反応温度200℃以下での選択的触媒還元反応では、水分の共存下でない場合で61.3%のNO転化率を、水分の共存下の場合で28.1%のNO転化率を示した。また、BET比表面積が19.2m-1の脱硝触媒を用いた選択的触媒還元反応では、水分の共存下でない場合で64.2%のNO転化率を、水分の共存下の場合で34.7%のNO転化率を示した。また、BET比表面積が24.9m-1の脱硝触媒を用いた選択的触媒還元反応では、水分の共存下でない場合で79.2%のNO転化率を、水分の共存下の場合で50.6%のNO転化率を示した。また、BET比表面積が26.1m-1の脱硝触媒を用いた選択的触媒還元反応では、水分の共存下でない場合で84.3%のNO転化率を、水分の共存下の場合で51.5%のNO転化率を示した。また、BET比表面積が26.7m-1の脱硝触媒を用いた選択的触媒還元反応では、水分の共存下でない場合で87.8%のNO転化率を、水分の共存下の場合で48.6%のNO転化率を示した。また、BET比表面積が29.6m-1の脱硝触媒を用いた選択的触媒還元反応では、水分の共存下でない場合で100%のNO転化率を、水分の共存下の場合で60.1%のNO転化率を示した。
一方、BET比表面積が15.2m-1の脱硝触媒を用いた、反応温度200℃以下での選択的触媒還元反応では、水分の共存下でない場合で35.5%のNO転化率、水分の共存下の場合で5.2%のNO転化率しか示さなかった。
【0033】
また、脱硝触媒のBET比表面積は、15.3m/g-1以上であることが好ましいが、更に好ましくは、19.2m/g-1以上であってもよい。更に好ましくは、24.9m/g-1以上であってもよい。更に好ましくは、脱硝触媒のBET比表面積が、26.1m/g-1であってもよい。更に好ましくは、脱硝触媒のBET比表面積が26.7m/g-1以上であってもよい。更に好ましくは、脱硝触媒のBET比表面積が29.6m/g-1以上であってもよい。
【0034】
なお、脱硝触媒のBET比表面積は、JIS Z8830:2013に規定された条件に準拠して測定することが好ましい。
【0035】
酸化バナジウムを含む脱硝触媒であって、炭素含有量が0.05wt%以上であり、結晶構造中に酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する脱硝触媒は、主としてゾルゲル法により作製できる。
【0036】
ゾルゲル法は、バナジン酸塩をキレート化合物に溶解して乾燥した後に焼成する工程を備える。キレート化合物としては、例えば、シュウ酸やクエン酸等の複数のカルボキシル基を有するもの、アセチルアセトナート、エチレンジアミン等の複数のアミノ基を有するもの、エチレングリコール等の複数のヒドロキシル基を有するもの等を用いてもよい。
【0037】
本発明の実施形態において、バナジン酸アンモニウムをシュウ酸溶液に溶解する工程、及び、その後乾燥と焼成をする工程を含む方法で製造された脱硝触媒は、水分の共存下でない場合で64.2~100%のNO転化率を、水分の共存下の場合で20.9~60.1%のNO転化率を示した。また、バナジン酸アンモニウムにエチレングリコールのみを添加し焼成した工程を含む方法で製造された脱硝触媒は、水分の共存下でない場合で61.3%のNO転化率を、水分の共存下の場合で28.1%のNO転化率を示した。
一方、このような工程を含まない方法で製造された脱硝触媒として、例えば、バナジン酸アンモニウムのみを焼成し、五酸化バナジウムとした後、エチレングリコールのみを添加し焼成することにより得られた脱硝触媒は、水分の共存下でない場合で35.5%のNO転化率、水分の共存下の場合で5.2%のNO転化率しか示さなかった。また、バナジン酸アンモニウムのみを焼成し、五酸化バナジウムとした後、シュウ酸及びエチレングリコールを添加し焼成することにより得られた脱硝触媒は、水分の共存下でない場合で39.2%のNO転化率、水分の共存下の場合で5.6%のNO転化率しか示さなかった。
【0038】
また、本発明の脱硝触媒は、実施形態においては、バナジン酸アンモニウムとシュウ酸を混合することにより合成した前駆体錯体に対し、エチレングリコールを添加し焼成する方法によって製造される。このような方法で製造された脱硝触媒は、従来用いられているバナジウム/チタン触媒等の脱硝触媒に比べて、低温環境下でも高い脱硝効果を発揮できる。これは、エチレングリコールを添加することにより、脱硝触媒中の炭素含有量が高くなることに由来することが推察される。
【0039】
本発明の実施形態において、バナジン酸アンモニウムとシュウ酸を混合することにより合成した前駆体錯体に対し、エチレングリコールを添加し焼成する方法によって製造された脱硝触媒は、水分の共存下でない場合で64.2~100%のNO転化率を、水分の共存下の場合で34.7~60.1%のNO転化率を示した。
一方で、例えば、バナジン酸アンモニウムとシュウ酸を混合することにより合成した前駆体錯体に対し、プロピレングリコールを添加し焼成する方法によって製造された脱硝触媒は、水分の共存下でない場合で51.6%のNO転化率、水分の共存下の場合で20.9%のNO転化率しか示さなかった。
【0040】
また、上記の製造方法においては、バナジン酸アンモニウムに対するシュウ酸のモル比は2以上である。このような方法で製造された脱硝触媒は、従来用いられているバナジウム/チタン触媒等の脱硝触媒に比べて、低温環境下でも高い脱硝効果を発揮できる。これは、シュウ酸を添加することにより、五酸化バナジウムが高比表面積化したことに由来すことが理由とする。
【0041】
本発明の実施形態に係る上記の製造方法において、バナジン酸アンモニウムに対するシュウ酸のモル比が2となる方法で製造された脱硝触媒は、水分の共存下でない場合で84.3%のNO転化率を、水分の共存下の場合で51.5%のNO転化率を示した。また、バナジン酸アンモニウムに対するシュウ酸のモル比が3となる方法で製造された脱硝触媒は、水分の共存下でない場合で51.6~79.2%のNO転化率を、水分の共存下の場合で20.9~50.6%のNO転化率を示した。また、バナジン酸アンモニウムに対するシュウ酸のモル比が6となる方法で製造された脱硝触媒は、水分の共存下でない場合で64.2%のNO転化率を、水分の共存下の場合で34.7%のNO転化率を示した。また、バナジン酸アンモニウムに対するシュウ酸のモル比が9となる方法で製造された脱硝触媒は、水分の共存下でない場合で87.8%のNO転化率を、水分の共存下の場合で48.6%のNO転化率を示した。また、バナジン酸アンモニウムに対するシュウ酸のモル比が15となる方法で製造された脱硝触媒は、水分の共存下でない場合で100%のNO転化率を、水分の共存下の場合で60.1%のNO転化率を示した。
【0042】
なお、上記のゾルゲル法は、キレート化合物によるが、例えば、バナジン酸塩とシュウ酸のモル比が1:2~1:15となるように、バナジン酸塩をシュウ酸に溶解する工程を備えることが好ましい。なお好ましくは、バナジン酸塩とシュウ酸のモル比が1:3~1:15であってもよい。更に好ましくは、バナジン酸塩とシュウ酸のモル比が1:6~1:15であってもよい。更に好ましくは、バナジン酸塩とシュウ酸のモル比が1:9~1:15であってもよい。更に好ましくは、バナジン酸塩とシュウ酸のモル比が1:15であってもよい。
【0043】
このようにして調製される脱硝触媒においては、通常、酸化バナジウムが含まれ、炭素含有量が0.05wt%以上であり、結晶構造中に酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する。
【0044】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例
【0045】
以下、本発明に係る脱硝触媒の実施例を、比較例と共に具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0046】
<1 各実施例と比較例>
[比較例1]
バナジン酸アンモニウムをシュウ酸溶液に溶解させた。ここで、バナジン酸アンモニウム:シュウ酸のモル比は1:3である。全て溶かしきった後、ホットスターラー上で溶液中の水分を蒸発させ、乾燥機中において、120℃で一晩乾燥させた。その後、乾燥後の粉末を空気中において300℃で4時間焼成した。焼成後の五酸化バナジウムを、比較例1の脱硝触媒とした。なお、この比較例1の脱硝触媒のサンプル名を、“Va1ox3-0”とした。なお、この比較例1は、上記の特許文献2で開示される脱硝触媒である。
【0047】
[実施例1]
バナジン酸アンモニウム(NHVO)とシュウ酸を純水に溶解させた。全て溶かしきった後、ホットスターラー上で溶液中の水分を蒸発させた。調製した未反応シュウ酸を含むシュウ酸-バナジウム錯体と、エチレングリコールをメノウ乳鉢で約20分間混合した後、得られたペースト状触媒躯体を電気炉によって300℃の温度で2回焼成することにより五酸化バナジウム(V)の脱硝触媒を得た。ここで、バナジン酸アンモニウム:シュウ酸:エチレングリコールのモル比は1:3:1である。これにより得られた五酸化バナジウムを、実施例1の脱硝触媒とした。なお、この実施例1の脱硝触媒のサンプル名を、“Va1ox3-EG1”とした。
【0048】
[比較例2]
実施例1と同様の方法によって、バナジン酸アンモニウムにシュウ酸を加え合成した前駆体錯体に対し、トリエチレングリコールを添加し焼成することにより五酸化バナジウムの脱硝触媒を得た。ここで、バナジン酸アンモニウム:シュウ酸:トリエチレングリコールのモル比は1:3:1である。これにより得られた五酸化バナジウムを、比較例2の脱硝触媒とした。なお、この比較例2の脱硝触媒のサンプル名を、“Va1ox3-TG1”とした。
【0049】
[比較例3]
実施例1と同様の方法によって、バナジン酸アンモニウムにシュウ酸を加え合成した前駆体錯体に対し、ブチレングリコールを添加し焼成することに五酸化バナジウムの脱硝触媒を得た。ここで、バナジン酸アンモニウム:シュウ酸:ブチレングリコールのモル比は1:3:1である。これにより得られた五酸化バナジウムを、比較例2の脱硝触媒とした。なお、この比較例3の脱硝触媒のサンプル名を、“Va1ox3-BG1”とした。
【0050】
[比較例4]
実施例1と同様の方法によって、バナジン酸アンモニウムにシュウ酸を加え合成した前駆体錯体に対し、プロピレングリコールを添加し焼成することにより五酸化バナジウムの脱硝触媒を得た。ここで、バナジン酸アンモニウム:シュウ酸:プロピレングリコールのモル比は1:3:1である。これにより得られた五酸化バナジウムを、比較例2の脱硝触媒とした。なお、この比較例4の脱硝触媒のサンプル名を、“Va1ox3-PG1”とした。
【0051】
[実施例2]
バナジン酸アンモニウムにエチレングリコールのみを添加し焼成することにより五酸化バナジウムの脱硝触媒を得た。ここで、バナジン酸アンモニウム:エチレングリコールのモル比は1:1である。これにより得られた五酸化バナジウムを、実施例2の脱硝触媒とした。なお、この実施例2の脱硝触媒のサンプル名を、“Va1ox0-EG1”とした。
【0052】
[比較例5]
バナジン酸アンモニウムのみを焼成し、五酸化バナジウムとした後、エチレングリコールのみを添加し焼成することにより五酸化バナジウムの脱硝触媒を得た。ここで、バナジン酸アンモニウム:エチレングリコールのモル比は1:1である。これにより得られた五酸化バナジウムを、比較例5の脱硝触媒とした。なお、この比較例5の脱硝触媒のサンプル名を、“V1ox0-EG1”とした。
【0053】
[実施例3]
バナジン酸アンモニウムにシュウ酸を加え合成した前駆体錯体に対し、エチレングリコールを添加し焼成することにより五酸化バナジウムの脱硝触媒を得た。ここで、バナジン酸アンモニウム:シュウ酸:エチレングリコールのモル比は1:2:1である。これにより得られた五酸化バナジウムを、実施例3の脱硝触媒とした。なお、この実施例3の脱硝触媒のサンプル名を、“Va1ox2-EG1”とした。
【0054】
[比較例6]
バナジン酸アンモニウムのみを焼成し、五酸化バナジウムとした後、シュウ酸及びエチレングリコールを添加し焼成することにより五酸化バナジウムの脱硝触媒を得た。ここで、バナジン酸アンモニウム:シュウ酸:エチレングリコールのモル比は1:1:1である。これにより得られた五酸化バナジウムを、比較例6の脱硝触媒とした。なお、この比較例6の脱硝触媒のサンプル名を、“V1ox1-EG1”とした。
【0055】
[実施例4]
バナジン酸アンモニウムにシュウ酸を加え合成した前駆体錯体に対し、エチレングリコールを添加し焼成することにより五酸化バナジウムの脱硝触媒を得た。ここで、バナジン酸アンモニウム:シュウ酸:エチレングリコールのモル比は1:6:2である。これにより得られた五酸化バナジウムを、実施例4の脱硝触媒とした。なお、この実施例4の脱硝触媒のサンプル名を、“Va1ox6-EG2”とした。
【0056】
[実施例5]
バナジン酸アンモニウムにシュウ酸を加え合成した前駆体錯体に対し、エチレングリコールを添加し焼成することにより五酸化バナジウムの脱硝触媒を得た。ここで、バナジン酸アンモニウム:シュウ酸:エチレングリコールのモル比は1:9:3である。これにより得られた五酸化バナジウムを、実施例5の脱硝触媒とした。なお、この実施例5の脱硝触媒のサンプル名を、“Va1ox9-EG3”とした。
【0057】
[実施例6]
バナジン酸アンモニウムにシュウ酸を加え合成した前駆体錯体に対し、エチレングリコールを添加し焼成することにより五酸化バナジウムの脱硝触媒を得た。ここで、バナジン酸アンモニウム:シュウ酸:エチレングリコールのモル比は1:15:5である。これにより得られた五酸化バナジウムを、実施例6の脱硝触媒とした。なお、この実施例6の脱硝触媒のサンプル名を、“Va1ox15-EG5”とした。
【0058】
[比較例7]
バナジン酸アンモニウムにシュウ酸を加え合成した前駆体錯体に対し、エチレングリコールを添加し焼成することにより五酸化バナジウムの脱硝触媒を得ると共に、五酸化バナジウム中にカーボンが残存するように合成した。ここで、バナジン酸アンモニウム:シュウ酸:エチレングリコールのモル比は1:1.8:1である。これにより得られた五酸化バナジウムを、比較例7の脱硝触媒とした。なお、この比較例7の脱硝触媒のサンプル名を、“excess carbon”とした。
【0059】
<2 評価>
<2.1 BET比表面積測定>
(測定方法)
各触媒のBET比表面積の測定には、MicrotracBEL BELSORP-maxを用いた。Ar雰囲気下、200℃で2時間前処理をした後、196℃で測定した。
【0060】
(測定結果)
【表1】
【0061】
表1は、実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例6のBET比表面積を示す。特許文献2で開示される比較例1を除けば、実施例か比較例かでBET比表面積の値の傾向に大きな差異は見られなかった。
具体的には、実施例において最もBET比表面積が小さいのは、実施例2の15.3/m-1という値であり、最もBET比表面積が大きいのは、実施例6の29.6/m-1という値であった。一方、比較例において最もBET比表面積が小さいのは、比較例5の15.2/m-1という値であり、最もBET比表面積が大きいのは、比較例1以外では比較例3の26.0/m-1という値であった。
【0062】
<2.2 NO転化率>
(測定方法1)
以下の表2の条件の下、反応温度100-200℃で、固定床流通式触媒反応装置を用いてNH-SCR反応を行った。触媒層を通過したガスのうち、NOをJasco FT-IR-4700で分析した。
【0063】
【表2】
【0064】
また、NO転化率を、下記の式(1)により算出した。なお、NOinは反応管入口のNO濃度、NOoutは反応管出口のNO濃度である。
【数1】
【0065】
(測定結果1)
表3に各五酸化バナジウム触媒の、水分が共存しない場合と水分の共存下の場合との双方のNO転化率を示す。図1Aは、この表3をグラフ化したものである。
【表3】
【0066】
水分が共存しない場合と水分の共存下の場合との双方で、実施例の脱硝触媒は、概ね、比較例の脱硝触媒よりも高いNO転化率を示した。とりわけ、バナジン酸アンモニウムに対しエチレングリコールを前駆体として添加し焼成した脱硝触媒が高いNO転化率を示した。中でも、実施例6(Va1ox15-EG5)は、最も高いNO転化率を示した。
【0067】
(測定方法2)
上記の表2の条件の下、実施例1(Va1ox3-EG1)の触媒を用いて、40℃から300℃までの間の複数の反応温度において、測定方法1と同様の方法でNH-SCR反応を行った。
【0068】
(測定結果2)
図1Bは、実施例1(Va1ox3-EG1)の、反応温度の変化に伴う、水分が共存しない場合と水分の共存下の場合との双方のNO転化率の変化を示す。
【0069】
図1Bのグラフから明らかなように、反応温度が200℃を下回るとNO転化率が減少するものの、例えば、略80℃の反応温度において、水分が共存しない場合のNO転化率が略25%を示す。これにより、本発明の実施例に係る脱硝触媒が、略80℃での脱硝においても、ある程度有用であることが示された。
【0070】
<2.3 反応速度>
表3に記載のNO転化率、表1に記載の各触媒の比表面積等を以下の式(2)に適用することにより、NOの反応速度を算出した。

反応速度[molNOcat -1-1]=転化率[%]×NO濃度(250ppm)×流速(250mL/min)/60/22400[mL/mol]/触媒量(0.375g)/各触媒の比表面積[m/g] 式(2)

なお、式(2)において、「60」とは、minをsecに換算するための数値である。
【0071】
図2は、水分が共存しない場合と水分の共存下の場合とのの双方における各触媒の反応速度を示すグラフである。
【0072】
水分が共存しない場合と水分の共存下の場合とのの双方で、実施例の脱硝触媒は、概ね、比較例の脱硝触媒よりも高い反応速度を示した。とりわけ、バナジン酸アンモニウムに対しエチレングリコールを前駆体として添加し焼成した脱硝触媒が高いNO転化率を示した。これらの触媒の比表面積当たりの反応速度がほぼ近い値であることから、前駆体量は比表面積の増減に寄与することが推測される。
また、比表面積当たりの反応速度(活性)については、実施例と比較例との双方を含め、比較例1よりも軒並み高い値となった。
【0073】
<2.4 炭素含有量>
(測定方法)
各五酸化バナジウム触媒の炭素含有量の測定の際は、C(炭素)、H(水素)、N(窒素)の元素分析によって炭素含有量を定量した。より詳細には、エグゼタ-アナリティカル社製CE-440F内部の高温の反応管内で、各脱硝触媒を完全燃焼・分解し、主構成元素であるC、H、NをCO、HO、Nに変換した後、これらの三成分を三つの熱伝導度検出器で順次定量し、構成元素中のC、H、Nの含有量を測定した。
【0074】
(測定結果)
表4は、各五酸化バナジウム触媒の炭素含有量を示す。
【表4】
【0075】
表4の数値より、実施例の五酸化バナジウム触媒に含まれる炭素含有量は、0.05wt%以上であると定量することが可能である。
【0076】
(炭素含有量と反応活性との関係)
図3Aは、表4に記載の各触媒の炭素含有量を横軸に、図1に記載の各触媒のNO転化率を縦軸にプロットしたグラフである。比較例1(Va1ox3-0)よりもNO転化率の高い実施例1(Va1ox3-EG1)、実施例2(Va1ox0-EG1)、実施例5(Va1ox9-EG3)、実施例6(Va1ox15-EG5)は、炭素含有率が0.05wt%を超えていることが示された。
【0077】
図3Bは、表4に記載の各触媒の炭素含有量を横軸に、図2に記載の各触媒の比表面積当たり反応速度を縦軸にプロットしたグラフである。とりわけ水分が共存しない場合においては、炭素含有量に拘わらず、比較例1(Va1ox3-0)よりも比表面積当たり反応速度が、概ね高くなることが示された。
【0078】
<2.5 紫外-可視吸収スペクトル>
(測定方法)
各五酸化バナジウム触媒の紫外-可視吸収スペクトルを測定した。図4は、測定の結果得られた、各触媒のスペクトル曲線を示す。更に図4において、各スペクトル曲線の変曲点から接線を引き、横軸との交点を求めることで吸収端波長を算出した。より詳細には、硫酸バリウムの白板を備えたサンプルホルダーに、各五酸化バナジウム触媒のサンプルを充填し、拡散反射法によって各紫外-可視吸収スペクトルを測定した。測定機器としては、島津製UV-3100PC紫外可視吸光光度計を用いた。
【0079】
(測定結果)
表5は、各五酸化バナジウム触媒の吸収短波長を示す。
【表5】
【0080】
表5より、各五酸化バナジウムによって吸収端波長の値が異なるため、電子的な構造が触媒によって異なることが推測される。
また、実施例において最も高い吸収端波長は、実施例2(Va1ox0-EG1)の567.4nmである。一方、比較例において最も高い吸収端波長は、比較例5(V1ox0-EG1)の587.3nmである。
【0081】
(吸収端波長と反応活性との関係)
図5Aは、表5に記載の各触媒の吸収端波長を横軸に、図1に記載の各触媒のNO転化率を縦軸にプロットしたグラフである。吸収端波長がブルーシフトするに伴い、すなわち結晶状態が崩れるに従い、NO転化率が高まる傾向が示された。
【0082】
図5Bは、表5に記載の各触媒の吸収端波長を横軸に、図2に記載の各触媒の比表面積当たり反応速度を縦軸にプロットしたグラフである。吸収端波長がブルーシフトするに伴い、すなわち結晶状態が崩れるに従い、比表面積当たり反応速度が高まる傾向が示された。
【0083】
(吸収端波長とBET比表面積との関係)
図6は、表5に記載の各触媒の吸収端波長を横軸に、表1に記載の各触媒のBET比表面積を縦軸にプロットしたグラフである。比較例1(Va1ox3-0)を除けば、吸収端波長が変化しても、BET比表面積に大きな違いは見られなかった。
【0084】
<2.6 赤外吸収スペクトル>
(測定方法)
各五酸化バナジウム触媒の赤外吸収スペクトルを測定した。図7A図7Cは、高波数領域(官能基領域:1150-4000cm-1)の赤外吸収スペクトルを測定した結果得られた、各触媒のスペクトル曲線を示す。また、図8A図8Cは、低波数領域(指紋領域:1150-400cm-1)の赤外吸収スペクトルを測定した結果得られた、各触媒のスペクトル曲線を示す。なお、測定の際には、1mgの各五酸化バナジウム触媒のサンプルと、10mgの臭化カリウムとを混合し、錠剤成型機によって加圧することにより成型した。更に、TGS検出器を用いて透過法によって赤外吸収スペクトルを測定した。測定機器としては、日本分光製FT/IR-6100赤外分光装置を用いた。
【0085】
(測定結果)
図7A図7Cに示すように、五酸化バナジウム触媒を製造する過程でグリコールを転化したものは、高波数領域中、矢印で示す領域内にピークが発生し、とりわけNO転化率の高い触媒では、2340cm-1及び2220cm-1のピークが出現している。これらのピークは、欠陥サイトに吸着しているCO及びCOであると推察される。
【0086】
図9は、五酸化バナジウムの結晶構造を示す。五酸化バナジウムの結晶構造中には、稜共有3V-O図9中の(a))と、架橋V-O-V(図9中の(b))が存在する。結晶構造中において、稜共有3V-Oが少なく、架橋V-O-Vが多いと、NOの吸着がしやすくなり、活性が増加する。
【0087】
図8A図8Cに示すように、低波数領域の赤外吸収スペクトルにおいて、架橋V-O-V変角振動に由来する波数462~494cm-1のピーク強度P1に対する、稜共有3V-O伸縮振動に由来する波数494~549cm-1のピーク強度P2の比(P1/P2)は、触媒に応じて変化する。このことから、触媒毎の酸化バナジウムの構造の違いを反映していることが示唆される。とりわけ、この「P1/P2」は、酸素欠陥が発生する欠陥サイトがどれくらい生じているかに対応する。
【0088】
図8A図8Cの赤外吸収スペクトルをノーマライズし、ピーク強度P1に対するピーク強度P2の比として、架橋V-O-Vの透過率に対する稜共有3V-Oの透過率の比を算出する。
【0089】
【表6】
表6は、実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例6における上記の透過率比を示す。図8A図8Cにおけるピークが下に凸となるほど、表6に示される透過率の値が小さくなる。例えば、架橋V-O-Vに帰属される低波数側P1(462~494cm-1)のピークが下に飛び出るほど、そのピークの透過率が小さくなる。
表6より、本発明の実施例におけるピーク強度P1に対するピーク強度P2の比(P1/P2)は、0.98以下と規定できる。
【0090】
(赤外吸収スペクトルと触媒活性との関係)
図10Aは、この透過率の比を横軸に、図1に記載の各触媒のNO転化率を縦軸にプロットしたグラフである。透過率の比の減少と共に、NO転化率が上昇することが示される。このことから、稜共有3V-Oの割合が小さいほど活性が向上することが示唆される。
【0091】
図10Bは、上記の透過率を横軸に、図2に記載の各触媒の比表面積当たり反応速度を縦軸にプロットしたグラフである。透過率比の減少と共に、比表面積当たり反応速度が上昇することが示される。このことからも、稜共有3V-Oの割合が小さいほど活性が向上することが示唆される。
【0092】
双方のグラフより、本発明の実施例の透過率比は0.98以下と定量出来る。
なお、上記の透過率比は、欠陥サイトの指標となる。
【0093】
<2.7 TEM像>
図11A及び図11Bは、比較例1(Va1ox3-0)のTEM像を示す。なお、図11Aは倍率14万倍のTEM像であり、図11Bは倍率140万倍のTEM像である。
一方、図11C及び図11Dは、実施例1(Va1ox3-EG1)のTEM像を示す。なお、図11Cは倍率14万倍のTEM像であり、図11Dは倍率140万倍のTEM像である。
【0094】
これらの画像から分かるように、エチレングリコールの添加の有無でモルフォロジーに変化はない。
【0095】
<2.8 X線光電子スペクトル(XPS)測定>
(測定方法)
比較例1(Va1ox3-0)、実施例1(Va1ox3-EG1)、比較例2(Va1ox3-TG1)、比較例3(Va1ox3-BG1)、比較例4(Va1ox3-PG1)につき、電子状態について分析するため、X線光電子スペクトル(XPS)を測定した。より詳細には、各実施例及び比較例の触媒の粉末試料を、カーボンテープを用いてサンプルホルダーに固定し、X線光電子スペクトルを測定した。測定装置としては、日本電子製JPS-9010MX光電子分光計を用いた。
【0096】
(測定結果)
図12は、V2p、O1s、C1s領域におけるXPSスペクトルを示す。触媒毎に明確な電子状態の変化は確認されなかった。
【0097】
<2.9 水吸着量>
(測定方法)
実施例1~実施例6、及び比較例1~比較例6につき、吸着等温線を求めた。すなわち一定温度下で各触媒に吸着する水の平衡吸着量を、相対圧を変化させながら測定した。具体的には、各実施例及び各比較例の触媒の粉末をサンプルホルダーに封入し、BELCAT製Belsorp・maxkを用いて測定を行った。なお、ここで「相対圧」とは、飽和蒸気圧に対する吸着平衡圧の比を意味し、0~1の値となる。
【0098】
(測定結果)
図13は、各触媒の水の吸着等温線を示す。図14は、相対圧p/pが0.2,0.5,0.8それぞれにおける各触媒の水の吸着量を示す。
【0099】
図13及び図14の双方において、水の吸着量と合成方法との間での相関は示されなかった。
【0100】
(水吸着量と触媒活性との関係)
図15Aは、相対圧p/p=0.8における各触媒の水吸着量を横軸に、図1に記載の各触媒のNO転化率を縦軸にプロットしたグラフである。水吸着量とNO転化率との間に相関は見られなかった。
【0101】
図15Bは、相対圧p/p=0.8における各触媒の水吸着量を横軸に、図2に記載の各触媒の比表面積当たり反応速度を縦軸にプロットしたグラフである。水吸着量と比表面積当たり反応速度との間に相関は見られなかった。
【0102】
<2.10 ラマンスペクトル>
(測定方法)
各五酸化バナジウム触媒の結晶構造について分析するため、ラマン分光法によりラマンスペクトルを測定した。
【0103】
(測定結果)
図16は、各触媒のラマンスペクトルを示す。図16からは各触媒の結晶構造に由来するピークを確認することが出来る。一方で、欠陥モード等に由来するピークは出現しなかった。
【0104】
以上のように、酸化バナジウムを含む脱硝触媒であって、炭素含有量が0.05wt%以上であり、結晶構造中に酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する本発明の脱硝触媒を用いた、アンモニアを還元剤とする選択的触媒還元反応においては、270℃以下の低温での脱硝効率が高い。
【0105】
<3 適用例>
<3.1 燃焼システム>
<3.1.1 第1の燃焼システム>
以下、本発明の第1の適用例について図面を参照しながら説明する。
図17は、第1の適用例に係る燃焼システム1の構成を示す図である。燃焼システム1は、微粉炭を燃料とする燃焼システムである。図17に示すように、燃焼システム1は、例として火力発電システムを想定しており、燃焼装置としてのボイラ10と、微粉炭機20と、排気路L1と、空気予熱器30と、熱回収器としてのガスヒータ40と、集塵装置50と、誘引通風機60と、脱硫装置70と、加熱器としてのガスヒータ80と、脱硝装置90と、煙突100と、を備える。
【0106】
ボイラ10は、燃料としての微粉炭を空気とともに燃焼させる。ボイラ10において、微粉炭が燃焼することにより排ガスが発生する。なお、微粉炭が燃焼することによって、クリンカアッシュ及びフライアッシュ等の石炭灰が生成する。ボイラ10において生成するクリンカアッシュは、ボイラ10の下方に配置されるクリンカホッパ11に排出されてから、図示しない石炭灰回収サイロに搬送される。
【0107】
ボイラ10は、全体として略逆U字状に形成される。ボイラ10において生成する排ガスは、ボイラ10の形状に沿って逆U字状に移動する。ボイラ10の排ガスの出口付近における排ガスの温度は、例えば300~400℃である。
【0108】
微粉炭機20は、図示しない石炭バンカから供給される石炭を、微細な粒度に粉砕して微粉炭を形成する。微粉炭機20は、微粉炭と空気とを混合することにより、微粉炭を予熱及び乾燥させる。微粉炭機20において形成された微粉炭は、エアーが吹きつけられることにより、ボイラ10に供給される。
【0109】
排気路L1は、上流側がボイラ10に接続される。排気路L1は、ボイラ10において発生する排ガスが流通する流路である。
【0110】
空気予熱器30は、排気路L1に配置される。空気予熱器30は、排ガスと図示しない押込式通風機から送り込まれる燃焼用の空気との間で熱交換を行い、排ガスから熱回収する。燃焼用の空気は、空気予熱器30において加熱されてからボイラ10に供給される。
【0111】
ガスヒータ40は、排気路L1における空気予熱器30の下流側に配置される。ガスヒータ40には、空気予熱器30において熱回収された排ガスが供給される。ガスヒータ40は、排ガスから更に熱回収する。
【0112】
集塵装置50は、排気路L1におけるガスヒータ40の下流側に配置される。集塵装置50には、ガスヒータ40において熱回収された排ガスが供給される。集塵装置50は、電極に電圧を印加することによって排ガス中の石炭灰(フライアッシュ)等の煤塵を収集する装置である。集塵装置50において捕集されるフライアッシュは、図示しない石炭灰回収サイロに搬送される。集塵装置50における排ガスの温度は、例えば80~120℃である。
【0113】
誘引通風機60は、排気路L1における集塵装置50の下流側に配置される。誘引通風機60は、集塵装置50においてフライアッシュを除去した排ガスを、一次側から取り込んで二次側に送り出す。
【0114】
脱硫装置70は、排気路L1における誘引通風機60の下流側に配置される。脱硫装置70には、誘引通風機60から送り出された排ガスが供給される。脱硫装置70は、排ガスから硫黄酸化物を除去する。詳しくは、脱硫装置70は、排ガスに石灰石と水との混合液(石灰石スラリー)を吹き付けることによって、排ガスに含まれる硫黄酸化物を混合液に吸収させて、排ガスから硫黄酸化物を除去する。脱硫装置70における排ガスの温度は、例えば50~120℃である。
【0115】
ガスヒータ80は、排気路L1における脱硫装置70の下流側に配置される。ガスヒータ80には、脱硫装置70において硫黄酸化物が除去された排ガスが供給される。ガスヒータ80は、排ガスを加熱する。ガスヒータ40及びガスヒータ80は、排気路L1における、空気予熱器30と集塵装置50との間を流通する排ガスと、脱硫装置70と後述する脱硝装置90との間を流通する排ガスと、の間で熱交換を行うガスガスヒータとして構成してもよい。
とりわけガスヒータ80は、排ガスを、後段の脱硝装置90における脱硝反応に適した温度まで加熱させる。
【0116】
脱硝装置90は、排気路L1におけるガスヒータ80の下流側に配置される。脱硝装置90には、ガスヒータ80において加熱された排ガスが供給される。脱硝装置90は、脱硝触媒によって排ガスから窒素酸化物を除去する。脱硝装置90においては、酸化バナジウムを含む脱硝触媒であって、炭素含有量が0.05wt%以上であり、結晶構造中に酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する上記の脱硝触媒を用いる。脱硝装置90における排ガスの温度は、例えば130~200℃である。
【0117】
脱硝装置90では、選択接触還元法によって排ガスから窒素酸化物を除去する。選択接触還元法によれば、還元剤及び、上記の脱硝触媒によって窒素酸化物から窒素及び水を生成することで、排ガスから効率的に窒素酸化物を除去することができる。選択接触還元法において用いられる還元剤は、アンモニア及び尿素の少なくとも一方を含む。還元剤としてアンモニアを用いる場合、アンモニアガス、液体アンモニア及びアンモニア水溶液のいずれの状態のアンモニアを用いてもよい。
【0118】
より具体的には、脱硝装置90は、導入された排ガスに対してアンモニアガスを注入してから、その混合ガスを、脱硝触媒に接触させる構成とすることができる。
【0119】
このため、脱硝装置90は、例えば一段又は複数段の脱硝触媒層を備え、当該脱硝触媒層は、複数のケーシングと、これら複数のケーシングに収容される複数のハニカム触媒と、シール部材とを備えてもよい。
【0120】
より詳細には、ケーシングは、一端及び他端が開放された角筒状の金属部材により構成され、開放された一端及び他端が脱硝反応器における排ガスの流路に向かい合うように、つまり、ケーシングの内部を排ガスが流通するように配置されてもよい。また、複数のケーシングは、排ガスの流路を塞ぐように当接した状態で連結されて配置されてもよい。
【0121】
ハニカム触媒は、長手方向に延びる複数の排ガス流通穴が形成された長尺状(直方体状)に形成され、排ガス流通穴の延びる方向が排ガスの流路に沿うように配置されてもよい。
【0122】
煙突100は、排気路L1の下流側が接続される。煙突100には、脱硝装置90において窒素酸化物を除去した排ガスが導入される。煙突100に導入された排ガスは、ガスヒータ80によって加熱されていることから、煙突効果によって煙突100の上部から効果的に排出される。また、ガスヒータ80において排ガスが加熱されることで、煙突100の上方において水蒸気が凝縮して白煙が生じるのを防ぐことができる。煙突100の出口付近における排ガスの温度は、例えば110℃である。
【0123】
<3.1.2 第2の燃焼システム>
図18は、第2の適用例に係る燃焼システム1Aの構成を示す図である。燃焼システム1Aは、燃焼システム1と同様に、微粉炭を燃料とする燃焼システムである。燃焼システム1Aにおいて、燃焼システム1と同一の構成要素については、同一の符号を用いると共に、その機能の説明は省略する。
【0124】
燃焼システム1Aにおいては、脱硝装置90が、集塵装置50の直後に設置されている点で、燃焼システム1と異なる。更に、脱硝装置90の下流には、上流から順に、誘引通風機60、脱硫装置70、ガスヒータ80が備わる。
【0125】
燃焼システム1におけるガスヒータ80は、排ガスを、後段の脱硝装置90における脱硝反応に適した温度まで加熱させるものであった。一方で、燃焼システム1Aにおけるガスヒータ80は、排ガスを、後段の煙突100から拡散するまで適した温度まで加熱させる。
【0126】
脱硝装置90を集塵装置50の直後に設置することにより、脱硝装置90の前段にガスヒータを設ける必要なく、脱硝装置90における排ガスの温度を、130~200℃とすることができる。
【0127】
<3.1.3 第3の燃焼システム>
図19は、第3の適用例に係る燃焼システム1Bの構成を示す図である。燃焼システム1Bは、燃焼システム1及び1Aとは異なり、天然ガスを燃料とする燃焼システムである。燃焼システム1Bにおいて、燃焼システム1及び燃焼システム1Aと同一の構成要素については、同一の符号を用いると共に、その機能の説明は省略する。
【0128】
図19に示すように、燃焼システム1Bは、燃焼装置としてのボイラ10と、天然ガスの気化器15と、排気路L1と、空気予熱器30と、脱硝装置90と、誘引通風機60と、煙突100と、を備える。一方、燃焼システム1Bは、集塵装置と脱硫装置を必須の構成要素とはしていない。
【0129】
気化器15は、図示しないLNGタンクから供給される天然ガスを、気化してボイラ10に供給する。気化する際には、海水を利用する方式(オープンラック式)を用いてもよく、ガスバーナで温水を作り加熱する方式(サブマージドコンバスチョン式)を用いてもよく、中間媒体を用いて数段階の熱交換を行う方式を用いてもよい。
【0130】
脱硝装置90は、排気路L1における空気予熱器30の下流側に配置される。脱硝装置90には、空気予熱器30において冷却された排ガスが供給される。脱硝装置90は、脱硝触媒によって排ガスから窒素酸化物を除去する。脱硝装置90における排ガスの温度は、例えば130~200℃である。
【0131】
煙突100には、排気路L1の下流側が接続される。煙突100には、脱硝装置90において窒素酸化物を除去した排ガスが導入される。脱硝装置90における排ガスの温度は、例えば130~200℃であることから、煙突100に導入された排ガスは、煙突効果によって煙突100の上部から効果的に排出される。また、煙突100の出口付近における排ガスの温度は、例えば110℃である。
【0132】
脱硝装置90を空気予熱器30の下流側に配置することにより、脱硝触媒が脱硝する排ガスの温度が低くなり、脱硝触媒の劣化を低減することが可能となる。
【0133】
<3.1.4 第4の燃焼システム>
図20は、第4の適用例に係る燃焼システム1Cの構成を示す図である。図20に示すように、燃焼システム1Cは、船舶の推進のために用いられる燃焼システムであり、燃料供給装置110と、燃焼装置としての内燃機関120と、集塵装置130と、排熱回収装置140と、脱硝装置150と、煙突160と、加勢モータ170と、燃料路R1、排気路R2及びR3、蒸気路R4、電力路R5とを備える。
【0134】
燃料供給装置110は、内燃機関120に対し、燃料路R1を用いて燃料を供給する。燃料としては、例えば、軽油・重油等の石油系燃料を用いることができる。
【0135】
燃料路R1は、上流側が燃料供給装置110に接続され、下流側が内燃機関120に接続される。燃料路R1は、燃料供給装置110から内燃機関120に向けて燃料が運搬される流路である。
【0136】
内燃機関120は、石油系燃料を空気と共に燃焼させる。内燃機関120において、石油系燃料が燃焼することにより排ガスが発生する。発生した排ガスは、排気路R2を経由して、集塵装置130に排出される。なお、内燃機関120は、例えば、大型船舶で用いられる2ストローク低速ディーゼル機関であってもよく、フェリー等で用いられる4ストローク中速ディーゼル機関であってもよく、高速船艇や小型船で用いられる4ストローク高速ディーゼル機関であってもよい。
【0137】
排気路R2は、上流側が内燃機関120に接続される。排気路R2は、内燃機関120で発生する排ガスが流通する流路である。
【0138】
集塵装置130は、排気路R2における内燃機関120の下流側に配置され、内燃機関120から排出された排ガスが供給される。集塵装置130は、排ガス中の煤塵を収集する装置である。煤塵の収集方法としては、例えば、電極に電圧を印加して煤塵を帯電させ、クーロン力を用いて収集する方法を用いてもよい。あるいは、ベンチュリスクラバが実施する方法のように、ベンチュリ部に煤塵吸収液を供給し、このベンチュリ部で高速になった排ガスによって煤塵吸収液を微細化させて、気液接触により煤塵を収集する方法を用いてもよい。
【0139】
排熱回収装置140は、排気路における集塵装置130の下流側に配置され、集塵装置130で煤塵が除去された排ガスが供給される。排熱回収装置140は、集塵装置130から供給される排ガスから排熱を回収する。より具体的には、排熱回収装置140は、タービン装置141と排ガスエコノマイザ145とを備える。
【0140】
タービン装置141は、ガスタービン142と、蒸気タービン143と、発電機144とを備える。ガスタービン142と発電機144、及び、蒸気タービン143と発電機144とは互いに接続される。ガスタービン142は、集塵装置130から排気路R3を経由して供給される排ガスによって駆動する。ガスタービン142が駆動されると、ガスタービン142に接続する発電機144も連動して駆動し発電を行う。また、蒸気タービン143は、後述の排ガスエコノマイザ145から蒸気路R4を経由して供給される蒸気によって駆動する。蒸気タービン143が駆動されると、蒸気タービン143に接続する発電機144も連動して発電を行う。発電機144によって生成される電力は、電力路R5を経由して加勢モータ170に供給される。
【0141】
排ガスエコノマイザ145は、集塵装置130から排気路R2を経由して供給される排ガスと、ガスタービン142から排気路R3を経由して供給される排ガスとを熱源として、給水タンク(図示せず)等に貯蓄された水から蒸気を発生させる。排ガスエコノマイザ145により生成された蒸気は、蒸気路R4を経由して、蒸気タービン143に供給される。
【0142】
排気路R3は、排気路R2とは異なる排気路であり、上流側が集塵装置130に、下流側が排ガスエコノマイザ145に接続されると共に、その途中で、ガスタービン142を経由する。排気路R3は、集塵装置130から供給される排ガスを、ガスタービン142を経由して、排ガスエコノマイザ145に流通する流路である。
【0143】
蒸気路R4は、上流側が排ガスエコノマイザ145に、下流側が蒸気タービン143に接続される。蒸気路R4は、排ガスエコノマイザ145で発生する蒸気が流通する流路である。
【0144】
電力路R5は、上流側が発電機144に、下流側が加勢モータ170に接続される。電力路は、発電機144で生成される電力が流通する流路である。
【0145】
脱硝装置150は、排気路R2における排熱回収装置140の下流側に配置され、排熱が回収された排ガスが供給される。脱硝装置150は、脱硝触媒によって排ガスから窒素酸化物を除去する。脱硝装置150においては、酸化バナジウムを含む脱硝触媒であって、炭素含有量が0.05wt%以上であり、結晶構造中に酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する上記の脱硝触媒を用いる。脱硝装置150は、排熱回収装置140の下流側に設置されているため、脱硝装置150における排ガスの温度は、例えば130~200℃である。
【0146】
脱硝装置150では、選択接触還元法によって排ガスから窒素酸化物を除去する。選択接触還元法によれば、還元剤及び脱硝触媒によって窒素酸化物から窒素及び水を生成することで、排ガスから効率的に窒素酸化物を除去することができる。選択接触還元法において用いられる還元剤は、アンモニア及び尿素の少なくとも一方を含む。還元剤としてアンモニアを用いる場合、アンモニアガス、液体アンモニア及びアンモニア水溶液のいずれの状態のアンモニアを用いてもよい。
【0147】
より具体的には、脱硝装置150は、導入された排ガスに対してアンモニアガスを注入してから、その混合ガスを脱硝触媒に接触させる構成とすることができる。
【0148】
煙突160は、排気路R2の下流側が接続される。煙突160には、脱硝装置150において窒素酸化物を除去した排ガスが導入される。煙突160に導入された排ガスは、脱硝装置150における排ガスの温度が、例えば130~200℃であることから、煙突効果によって煙突160の上部から効果的に排出される。また、煙突160の上方において水蒸気が凝縮して白煙が生じるのを防ぐことができる。煙突160の出口付近における排ガスの温度は、例えば110℃である。
【0149】
加勢モータ170は、電力路R5における発電機144の下流側に設置され、内燃機関120のプロペラシャフト周りの回転を加勢するように駆動する。加勢モータ170には、発電機144から電力路R5を経由して電力が供給され、この電力を用いることにより、内燃機関120により生成される動力を加勢するように駆動する。
【0150】
<3.1.5 第5の燃焼システム>
また、図示はしないが、第5の適用例として、酸化バナジウムを含む脱硝触媒であって、炭素含有量が0.05wt%以上であり、結晶構造中に酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する上記の脱硝触媒を、生ゴミなどを焼却する燃焼システムに備わる脱硝装置で用いてもよい。生ゴミを燃焼するボイラの後段に設置される脱硝装置においては、排ガスの温度が150℃以下となることがあるが、上記の脱硝触媒は、反応温度が80-150℃の脱硝に用いることが可能であるため、このような燃焼システムにとっても有用である。
【0151】
<3.2 基盤に触媒成分をコーティングしてなる脱硝触媒>
上記の脱硝触媒は基本的に粉末状であるが、例えば、特開2005-199108号公報で開示されるように、火力発電所に設置される排煙脱硝装置においては、ハニカム形状の基盤に触媒成分をコーティングしたハニカムタイプの触媒が用いられることがある。本発明においても、第6の適用例として、基盤に対して、上記の脱硝触媒を触媒成分としてコーティングすることが可能である。
【0152】
上記の基盤としては、200℃以上の温度で変形等がなければ、任意の基盤を用いる事が可能である。例えば、基盤として、セラミック、陶器、チタン等の金属を用いてもよい。あるいは、基盤として、セラミック繊維ペーパー、ガラス繊維ペーパー、難燃紙、活性カーボンペーパー、脱臭用ペーパー、ハニカムフィルター不織布、フェルト、プラスチックシートから成るコルゲート型のハニカムフィルターを用いてもよい。
あるいは、新品の触媒や使用済みの触媒上に、更に本発明の触媒成分をコーティングしてもよい。また、基盤は任意の形状とすることが可能であり、例えば、板状、ペレット状、流体状、円柱型、星型状、リング状、押出し型、球状、フレーク状、パスティル状、リブ押出し型、リブリング状のいずれかとすることが可能である。例えば、コルゲート型のハニカムフィルターは、ブロック型、ローター型、斜交型、異形ブロック、短冊型、ミニプリーツ等の自由な形態を取ることが可能である。
【0153】
<3.3 ブロック状に成形された脱硝触媒>
更に、例えば、特開2017-32215号に記載されるように、石炭火力発電設備に備わる脱硝装置において、ハニカム触媒のような触媒ブロックが用いられることがあるが、本発明においても、第7の適用例として上記の脱硝触媒を触媒成分とする触媒ブロックを製造することが可能である。
【0154】
具体的には、上記の粉末状の脱硝触媒に対し、バインダーとして、例えば、CMC(カルボキシメチルセルロース)又はPVA(ポリビニルアルコール)を1~50wt%混合して混練し、押出造粒機、真空押出機等の成形器で押出成形したり、プレス成形したりした後、乾燥させてから、焼成することにより、触媒ブロックを製造することが可能である。なお、焼成の際、上記のバインダーが焼き飛ばされることから、焼成後の触媒ブロック中の、上記の脱硝触媒の重量比は100wt%となる。
【0155】
また、上記の粉末状の脱硝触媒に対し、更に、例えば、チタン、モリブデン、タングステン、及び/又はその化合物(とりわけ酸化物)、又はシリカ等を混合した上で、混練し、押し出し成形することにより、触媒ブロックを製造することが可能である。
【0156】
触媒ブロックは任意の形状を取ることが可能であり、例えば、板状、ペレット状、流体状、円柱状、星型状、リング状、押出し型、球状、フレーク状、ハニカム状、パスティル状、リブ押出し型、リブリング状とすることが可能である。また、例えば、ハニカム状の触媒ブロックは、ハニカム面が三角形、四角形、五角形、六角形等の多角形であったり、円形であったりしてもよい。
【0157】
<3.4 その他の用途>
上記の脱硝触媒の用途として、3.1では燃焼システムについて、3.2では基盤に触媒成分をコーティングしてなる脱硝触媒について、3.3ではブロック状に成形された脱硝触媒について述べたが、脱硝触媒の用途はこれには限られない。
例えば、3.1.1及び3.1.2では微粉炭を燃料とする燃焼システムについて、3.1.3では天然ガスを燃料とする燃焼システムについて述べたが、上記の脱硝触媒は、微粉炭や天然ガスの代わりに、石油やバイオマス燃料を用いる燃焼システムで用いられてもよい。また、3.1.4では船舶の推進のために用いられる燃焼システムについて述べたが、上記の脱硝触媒は、船舶の代わりに自動車を推進するために用いられる燃焼システムで用いられてもよい。
【0158】
上記の適用例に係る燃焼システムによれば、以下の効果が奏される。
(1)上記のように、上記適用例に係る燃焼システム1では、ボイラ(燃焼装置)10において発生する排ガスの流通する排気路L1において、脱硝装置90を集塵装置50の下流側に配置した。更に、上記実施形態では、脱硝装置90において、酸化バナジウムを含む脱硝触媒であって、炭素含有量が0.05wt%以上であり、結晶構造中に酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する脱硝触媒を用いた。
上記の脱硝触媒を用いることにより、上記実施形態に係る燃焼システム1では、アンモニアを還元剤とする選択的触媒還元反応の際、従来技術に比較して、低温での脱硝効率が更に高いという効果を発揮できる。
【0159】
(2)上記適用例に係る燃焼システム1Aでは、排ガスから熱回収する空気予熱器30を更に備え、空気予熱器30は集塵装置50の上流側に配置した。
空気予熱器30により熱回収された排ガスが、集塵装置50に供給されることにより、排ガスの熱による集塵装置50への負荷が抑えられる。また、排気路L1におけるボイラ(燃焼装置)10の近傍に通常配置される空気予熱器30の上流に脱硝装置90が配置されていないことから、アンモニアと排ガス中のS分とが反応することで生成する硫酸アンモニウムに起因する空気予熱器30の目詰まりが生じない。これにより、燃焼システム1Aは稼働のコストが低い。
【0160】
(3)上記適用例に係る燃焼システム1Bでは、ボイラ(燃焼装置)10において発生する排ガスの流通する排気路L1において、脱硝装置90を空気予熱器30の下流側に配置した。更に、上記実施形態では、脱硝装置90において酸化バナジウムを含む脱硝触媒であって、炭素含有量が0.05wt%以上であり、結晶構造中に酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する脱硝触媒を用いた。
上記の脱硝触媒を用いることにより、上記実施形態に係る燃焼システム1Aでは、アンモニアを還元剤とする選択的触媒還元反応の際、従来技術に比較して、低温での脱硝効率が更に高いという効果を発揮できる。また、これにより、脱硝装置90を空気予熱器30の下流側に配置することが可能となるため、脱硝触媒が脱硝する排ガスの温度が低くなり、脱硝触媒の劣化を低減することが可能となる。
また、上記の実施形態における燃焼システム1Bでは、集塵装置と脱硫装置を必須の構成要素とはしていない。従って、燃焼システム1Bの構成を単純化することにより、設置コストを下げることが可能となる。
【0161】
(4)上記適用例に係る燃焼システム1Cは、内燃機関120において燃料が燃焼することによって発生する排ガスが流通する排気路R2と、排気路R2に配置され且つ内燃機関120から排出される排ガスから排熱を回収する排熱回収装置140と、排気路R2に配置され且つ脱硝触媒によって排ガスから窒素酸化物を除去する脱硝装置150とを備える燃焼システム1Cであって、脱硝装置150は、排気路R2における排熱回収装置140の下流側に配置され、脱硝触媒は、酸化バナジウムを含む脱硝触媒であって、炭素含有量が0.05wt%以上であり、結晶構造中に酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する脱硝触媒である。
上記の脱硝触媒を用いることにより、上記実施形態に係る燃焼システム1Cでは、アンモニアを還元剤とする選択的触媒還元反応の際、従来技術に比較して、低温での脱硝効率が更に高いという効果を発揮でき、脱硝装置を排熱回収装置の下流側に配置することが可能となる。更に、脱硝装置150に排ガスを導入する直前で、排ガスを加熱することは必須ではない。これにより、脱硝触媒が高温に晒されることがなくなるため、脱硝触媒の劣化が低減され、燃焼システム1Cの稼働のコストは低くなる。
また、上記の実施形態の燃焼システム1Cは、排ガスを加熱する加熱ヒータが必須ではない分、コンパクトな構成とすることが可能である。これにより、船舶のような狭いスペースにも、脱硝装置付きの燃焼システムを設置することが可能となる。
【0162】
(5)上記のように、排熱回収装置140は、タービン装置141と排ガスエコノマイザ145とを備え、排ガスエコノマイザ145は、内燃機関120から排出される排ガスとタービン装置141から供給される排ガスとを熱源として蒸気を発生させ、タービン装置141は、内燃機関120から排出される排ガスと、排ガスエコノマイザ145から供給される蒸気とを用いて発電をすることが好ましい。
上記の実施形態における排熱回収装置140は、タービン装置141と排ガスエコノマイザ145とを備えることにより、内燃機関120における燃料の燃焼により生成される熱エネルギーを、より有効に活用することが可能となる。
【0163】
(6)上記のように、上記適用例に係る脱硝触媒において、「酸素欠陥が発生する欠陥サイトを有する」とは、脱硝触媒の赤外透過スペクトルにおける、架橋V-O-V変角振動に由来する波数462~494cm-1のピーク強度P1に対する、稜共有3V-O伸縮振動に由来する波数494~549cm-1のピーク強度P2の比(P1/P2)が0.98以下であることが好ましい。
これにより、上記適用例に係る脱硝触媒は、NOの吸着がしやすくなり、より高いNO転化率を発揮できる。
【符号の説明】
【0164】
1、1A、1B、1C 燃焼システム
10 ボイラ
15 気化器
30 空気予熱器
50 電気集塵装置
90 150 脱硝装置
100 160 煙突
110 燃料供給装置
120 内燃機関
130 集塵装置
140 排熱回収装置
141 タービン装置
145 排ガスエコノマイザ
170 加勢モータ
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図11D
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図15A
図15B
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図20