(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】より高い熱安定性を有するAl-CrO系コーティングおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/58 20060101AFI20230720BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
C23C14/58 A
C23C14/08 K
(21)【出願番号】P 2020554369
(86)(22)【出願日】2018-09-17
(86)【国際出願番号】 EP2018075062
(87)【国際公開番号】W WO2019053257
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-08-11
(32)【優先日】2017-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】516082866
【氏名又は名称】エリコン サーフェス ソリューションズ アーゲー、 プフェフィコン
【住所又は居所原語表記】Churerstrasse 120 8808 Pfeffikon SZ CH
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【氏名又は名称】安達 友和
(74)【代理人】
【識別番号】100182903
【氏名又は名称】福田 武慶
(72)【発明者】
【氏名】ラーブ,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】コラー,クリスチャン マーティン
(72)【発明者】
【氏名】マイアホーファー,パウル ハインツ
(72)【発明者】
【氏名】アルント,ミルジャム
(72)【発明者】
【氏名】ラム,ユルゲン
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-537515(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0273093(US,A1)
【文献】特開2011-194519(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0226274(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/58
C23C 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークピース表面にAl-Cr-O系コーティングを製造する方法であって、
a)コーティングされる表面を有する少なくとも1つのワークピースを真空チャンバの内部に配置する工程
、
b)PVDプロセスを用いてコーティングされる前記ワークピースの表面に
、アルミニウムとクロムの原子パーセント比率がAl/Cr≦2.3に相当する第1の値であるAl-Cr-OフィルムAを堆積する工程
、および
c)前記フィルムAを酸素プラズマに曝すか、または前記フィルムAを酸素含有雰囲気中でアニー
ルする
ことで、CrO
3および/またはCrO
2型のCr-O揮発性化合物を形成
させて前記フィルムA
のクロムの
含有量を減少させ、前記フィルムAをアルミニウムとクロムの原子パーセント比率がAl/Cr≧3.5に相当する第2の値であるフィルムBに変換する工程であって、前記フィルムBは前記フィルムAよりも高い熱安定性を有する工程を、
順に含
む、方法。
【請求項2】
工程b)で堆積された前記フィルムA
を、Crが前記フィルム
Aから拡散し、前記フィルム
Aの表面
で酸素と反応するまで
、真空チャンバ内で生成させた前記酸素プラズマに曝
し、それにより、工程c)でCr-Oの前記揮発性化合物が形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)で堆積された前記フィルムAを、Crが前記フィルムAから拡散し、前記フィルムAの表面
で酸素と反応するまで、900℃超の基板温度で酸素含有雰囲気中でアニールに供し、それにより、工程c)でCr-Oの前記揮発性化合物が形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程c)におけるCr-Oの前記揮発性化合物の形成条件は、実質的に前記揮発性化合物CrO
2のみが形成されるように調整されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記フィルムBの前記第2の値は、Al/Cr≧4に相当する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記工程c)は、工程b)で堆積された前記フィルムAに含まれる前記Crの少なくとも90%が前記フィルムAから拡散するまで、および/または前記工程c)で形成される前記フィルムBの少なくとも90%がコランダム構造を有するアルファ-アルミナ
になるまで、行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記工程c)は、工程b)で堆積された前記フィルムAに含まれる前記Crの全てが前記フィルムから拡散し、かつコランダム構造を有するアルファ-アルミナからなる前記フィルムBが工程c)で形成されるまで、行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記フィルムAの堆積のために使用されるPVD堆積プロセスは、カソードアーク蒸着である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
アニール中の前記基板温度は、1000℃超であるように選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
アニール中の前記基板温度は、1100℃超であるように選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
アニール中の前記基板温度は、1200℃超であるように選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
コーティングされる前記ワークピースの表面材料が、多結晶アルミナ、サファイアコランダム、ムライト、または
、
-アルミナとイットリウム安定化ジルコニウム酸化物、
-アルミナと窒化ケイ素、
-アルミナと炭化ケイ素、
-アルミナと酸化イットリウム、
-アルミナと酸化エルビウムの混合物を含むまたはからなる化合物である、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
コーティングされる前記ワークピースは、タービンエンジン部品である、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、より高い熱安定性を有するAl-Cr-O系コーティングおよびそのような発明的コーティングを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化アルミニウムクロム含有コーティングおよび窒化アルミニウムクロム含有コーティング(それぞれAl-Cr-O系およびAl-Cr-N系コーティングともいう)は、カソードアーク蒸着(以下、CAEともいう)により合成されるのが一般的である。切削工具、成形工具、フライス工具など、様々な種類の工具をコーティングするために広く使用されている材料である。
【0003】
これらの材料は、特に優れた熱機械的特性を示し、耐摩耗性、耐酸化性に優れていることが知られている。
【0004】
しかし、工具や部品の性能や寿命のさらなる向上が求められている現状では、既に定着して広く使用されているコーティング材料であっても改善が求められている。
【0005】
乾式高速切削加工のような機械加工では、保護コーティングは1000℃以上の温度に耐えなければならない。
【0006】
その結果、経済的に便利な条件で効果的に機能するように設計されたコーティングは、複雑な相互依存性を示すいくつかの基準を満たさなければならない。
【0007】
(AlxCr1-x)Nのような多くのAl含有遷移金属窒化物の機械的性質と熱安定性は、窒化物に含まれるAl含有量に依存する。
【0008】
単一面心立方相(以下、fccとも略す)を示す機械的に好ましいコーティングの合成は、典型的には、x=0.7の原子パーセントのアルミニウム分率(以下、モル分率ともいう)に相当する最大溶解度によって制限される。この制限の根拠は、この分率値を超えると、CAEで製造されたコーティングでは、fcc相と六方晶ウルツァイト相(以下、wとも略す)の二相混合が観察されることである。
【0009】
最高の機械的特性を得るためには、fcc相の存在が必要であり、好ましくは特異相であることが観察されている。
【0010】
しかしながら、コーティングのAl含有量を増やすことで熱安定性が向上し得ることも確認されている。
【0011】
このため、fcc単相でありながら、x=0.7のしきい値に限りなく近い値に相当するAlモル分率を呈する(AlxCr1-x)Nコーティングを合成することが最も重要であると考えられている。
【0012】
PVD法による(AlxCr1-x)Nコーティングのモノリシック成長(つまり、単層)と多層成長の両方の間に、(AlxCr1-x)Nの単一のfcc相は、窒化アルミニウムのウルツァイト相(以下、w-AlNともいう)と、中間的に形成された窒化クロムの六方晶相(以下、h-Cr2Nともいう)の窒素放出を介して形成されたクロムの体心立方相(以下、bcc-Crともいう)に分解されることが観察されている。
【0013】
そのような相転移は、特に大きな体積変化と質量損失に関連している場合には、コーティング性能を著しく低下させる。したがって、このような相転移の開始を適用温度で、あるいはより高い温度で抑制する可能性を見出すことが望ましいと考えられる。
【0014】
AlおよびCrを窒素の代わりに酸素と化学的に組み合わせることで、酸化環境下での熱安定性および抵抗性がさらに向上するなど、全く異なる材料特性が得られる。
【0015】
加工工具の性能向上のために使用されるAl2O3コーティングは、通常、800~1000℃の温度で行われる化学気相成長法(以下、CVDともいう)によって生成される。この種のコーティングは、典型的にはアルファ構造、またはカッパ構造(以下、それぞれα構造、κ構造ともいう)を呈して成長し、優れた耐摩耗性と高熱間硬度とを有することが知られている。
【0016】
特にAl2O3の多形性のため、成長温度の低下は大きな課題である。
【0017】
α-Al2O3コーティングの代わりにコランダム型(Al、Cr)2O3固溶体で形成されたコーティングを使用することは、ここ数年の間に機械加工工具のコーティングのための有望な代替手段であることが証明されている。この主な理由は、おそらく以下である。
-Crは、α-Al2O3のような類似の格子定数を持ち、α-Al2O3とある種の混和性を持つ等方構造のα型Cr2O3を形成し、
-α型Cr2O3は、PVDプロセスを用いて容易に形成することができ、そして
-PVDプロセス、特にCAEを用いることで、プロセス温度500℃から600℃での準安定コランダム型(Al、Cr)2O3固溶体フィルムの成長を促進することが可能である
【0018】
しかし、上記の準安定型コランダム型(Al、Cr)2O3固溶体フィルムを使用する場合の明らかな欠点は、機械加工時に、コーティングされた工具が高温にさらされる場合、望ましくない相が概して形成されることであり、特に、コランダム型(Al、Cr)2O3固溶体フィルム中のAlモル分率が50%より高い(すなわち、x>0.5)、かつフィルムが低温(例えば、500℃から600℃の間)でPVDにより製造されている場合である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的
本発明の主な目的は、コランダム構造を呈し、Cr含有量に対してより高いAl含有量を有し、Al/Cr≦2.3の比率に相当する割合でアルミニウムとクロムを有する従来のPVDプロセスによって製造される類似のAl-Cr-O系コーティングと比較して、より高い熱安定性を有するAl-Cr-O系コーティングを形成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の説明
本発明の目的は、ワークピース表面に、少なくとも1つのAl-Cr-O系またはAl-O系フィルムを含むAl-Cr-O系コーティングを製造する方法を提供することによって達成され、該方法は、
a)コーティングされる表面を有する少なくとも1つのワークピースを真空チャンバの内部に配置する工程、および
b)コーティングされるワークピースの表面にアルミニウムおよびクロムを含むフィルムAを堆積する工程であって、フィルム中のアルミニウムとクロムの原子パーセント比率がAl/Cr≦2.3に相当する第1の値を有する工程を含み、
該方法は、
c)Cr-Oの揮発性化合物、例えばCrO3および/またはCrO2を形成し、それにより、フィルムAに含まれるクロムの少なくとも一部がCr-Oの揮発性化合物の形態でフィルムから出るようにする工程、
d)フィルムA中のクロム含有量が、フィルム中のアルミニウムとクロムの原子パーセント比率の第2の値に達するまで減少する期間中に、c)の工程を実行し、これにより、フィルムAは、Al/Cr≧3.5の比率に相当する、または原子パーセントで0%または約0%のCr含有量に相当する割合でのアルミニウムとクロムに相当するクロムの含有量が低減されたフィルムBに変換される工程をさらに含む。
【0021】
本発明による上記の方法で製造されたフィルムBは、上記のように、Al/Cr≧3.5の比率に相当する第2の値に相当する割合でアルミニウムおよびクロムを含み、またはクロムを含まずアルミだけを含み、かつ同時に第1の値に相当するAl/Cr≦2.3の比率に相当する割合でアルミニウムとクロムを含む以前に生成されたフィルムAよりもより高い熱安定性を呈する。
【0022】
本発明の好ましい実施形態によると、酸素プラズマが真空チャンバ内で生成され、工程b)で堆積されたフィルムAは、Crがフィルムから拡散し、フィルムの表面で利用可能な酸素と反応するまで酸素プラズマに曝され、それにより、工程c)でCr-Oの揮発性化合物が形成される。
【0023】
好ましくは、揮発化という用語は、揮発性化合物の形成およびその後の固体状態から気体状態への相転移を指す。
【0024】
本発明のさらに好ましい実施形態によると、工程b)で堆積されたフィルムAは、Crがフィルムから拡散し、フィルムの表面で利用可能な酸素と反応するまで、900℃超の温度で酸素含有雰囲気中でアニールに供され、それによって工程c)でCr-Oの揮発性化合物が形成される。
【0025】
好ましくは、工程c)におけるCr-Oの揮発性化合物の形成条件は、実質的に揮発性化合物CrO2のみが形成されるように調整されている。
【0026】
フィルムAを酸素を含む雰囲気中でアニール処理することにより、揮発性化合物CrO2のみを本質的に形成するために、アニール温度は、1000℃超、好ましくは1100℃超、より好ましくは1200℃超となるように選択されなければならない。
【0027】
本発明のさらに好ましい実施形態によると、アニール工程は、温度の周期的な適用によって行われる。
【0028】
本発明のさらに好ましい一実施形態によると、工程b)で堆積したフィルムAは、Al-Cr-Oフィルムである。
【0029】
本発明の好ましい実施形態によると、工程c)が実行される期間は、工程b)で堆積されたフィルムAに含まれるCrの少なくとも90%がフィルムAから拡散し、かつこのように工程d)で製造されるフィルムBがコランダム構造を有する少なくとも90%のアルファ-アルミナを含むように製造されるように選択される。
【0030】
「工程b)で堆積されたフィルムAに含まれるCrの少なくとも90%がフィルムAから拡散するほど」とは、Crの含有量を90%減少させるために必要な工程c)の実行期間を指すが、好ましくは、コランダム構造を有するアルファ-アルミナの90%以上を含むコーティング層をもたらす相変態を得るための時間と同じである。
【0031】
この期間を決定するためには、異なる試行を行うことが必要であり、各試行では工程c)が異なる期間を調整して実行される。このようにして、各試行について工程c)の実行前と実行後のコーティングを検査し、コーティング層における請求された特徴を達成するために必要な期間がどれであるかを特定することが可能である。請求された特徴、つまり1)Cr含有量を90%以上低減し、かつ、2)コランダム構造を有するアルファ-アルミナを90%以上含有することは、Cr含有量のばらつきを検出するためのエネルギー分散型X線分析(EDX分析)を用いて(例えばEDXラインスキャンを行うことにより)、ならびに請求されたアルファ-アルミナおよびコランダム構造の存在を検出するためのX線回折法(XRD測定および分析)を用いて検出され得る。
図1にX線回折法(XRD)分析の結果を、
図2、3にEDSラインスキャン分析の結果を示す。
【0032】
上記に直接示されるように本実施形態による方法の好ましい変形例では、工程c)が実行される期間は、工程b)で堆積されたフィルムAに含まれるCrの基本的には全てがフィルムから拡散し、かつこのように工程d)で製造されるフィルムBがコランダム構造を有するアルファアルミナだけから実質的になるように製造されるように選択される。この方法は、特に、ワークピース(例えば、工具または部品)の少なくとも表面をコーティングするために使用され得、形成されたコランダム構造を有するアルファ-アルミナフィルムは、前の工程で形成された第1フィルムからCrが拡散した結果生じた孔を含む。このようなコランダム構造を有する多孔質アルファ-アルミナフィルムは、熱伝導が低減され、高温での熱不整合に対する応答性が良好であるという利点がある。
【0033】
本発明の好ましい実施形態によると、工程c)が実行される期間は、コランダム構造を有するAl-Cr-O固溶体だけを実質的に含むフィルムBが工程d)で製造されるほどの量の工程b)で堆積されたフィルムAに含まれるCrがフィルムから拡散し、そしてそのように製造されたフィルムBがAl/Cr≧4に相当する原子パーセントのアルミニウムとクロムの比率の第2の値を有するように選択される。
【0034】
Al-Cr-O層でアルミニウムとクロムの原子パーセント比率が請求の範囲内である場合、すなわち、Al/Cr=4である場合、特徴「工程b)で堆積されたフィルムAに含まれるCrが、フィルムBが製造される・・・を含むフィルムから拡散するように選択される」とは、本質的に上記の工程c)の期間の決定のための同じ手順を指すだけではなく、EDX分析でも特定されていることも指す。
【0035】
好ましくは、ワークピースは、Crがフィルムから拡散する間に形成された孔を呈するコランダム構造を有するアルファ-アルミナフィルムを含む。
【0036】
好ましくは、コーティングされるワークピースの表面材料が、多結晶アルミナ、サファイアコランダム、ムライト、またはアルミナを含む他の任意の化合物、特に、
-アルミナとイットリウム安定化ジルコニウム酸化物、および/または
-アルミナと窒化ケイ素、および/または
-アルミナと炭化ケイ素、および/または
-アルミナと酸化イットリウム、および/または
-アルミナと酸化エルビウムの混合物を含むまたはからなる化合物である。
【0037】
好ましくは、ワークピースはタービンエンジン部品である。
【0038】
本発明によって提供される特別な利点
本発明は、少なくとも現状技術と比較して、特に有利であり、その理由は、
-コランダム型(Al、Cr)2O3固溶体とAl/Cr≧3.5の比率に相当する高濃度のアルミニウムを含む高熱安定なAl-Cr-O系フィルムを製造し、
-熱伝導率の低下をもたらす孔を有する構造化されたコーティングの製造を可能にするからである。
【0039】
本発明をより詳細に説明するためのいくつかの実施例
異なるコーティングを本発明に従って合成し、調査した。
【0040】
本発明の理解を容易にするために、本発明に従って堆積されたコーティングのいくつかの分析を以下に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図のキャプション:
【
図1】(a)(堆積直後の)断面SEM像と(b)堆積直後、および真空中で1時間、Ta=800から1500℃(100℃ステップで)でアニールされ、モノリシック成長した(Al、Cr)
2O
3のXRD測定。
【
図2】(a)断面TEMの概要、(b)領域付近のSAED基板、(c)STEMの概要、(d)液滴のTEM-BF画像、(e)STEM画像および(f)Ta=900℃で、真空中1時間、アニールされた(Al、Cr)
2O
3の液滴のEDXラインスキャン。
【
図3】(a)断面TEM BF画像、(b)および(c)Ta=1300°Cで1時間アニールした後の(Al、Cr)
2O
3のSTEMおよび対応するEDSラインスキャン。(d)断面TEM BF画像、(e)真空中で、Ta=1500°Cで1時間アニールされた、(Al、Cr)
2O
3の対応するEDSラインスキャン(f)によるSTEMの概要。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明に従って製造されたコーティングの実施例および分析
コーティング堆積には、Oerlikon Balzers社のInnovaタイプのコーティング機を使用した。コーティング機には、カソードアーク蒸着装置を搭載した。
【0043】
カソード材料としては、粉末冶金(PM)で製造されたターゲットを使用した。
【0044】
アルミニウム70%、クロム30%の原子パーセントに相当する元素組成を持つPlansee Composite Materials GmbH社製のアルミニウムとクロムのターゲットを使用した。
【0045】
低合金鋼箔、多結晶Al2O3およびSi(100)基板をアセトンおよびエタノール中で10分間超音波洗浄した後、ターゲットから基板までの最小距離が約25cmの二重回転カルーセルに取り付けた。
【0046】
堆積チャンバは、プロセス温度が500℃になるように、放射線とプラズマとを組み合わせた加熱プロセスで約30分間加熱した。
【0047】
アルゴンイオンエッチングをさらに30分間実施し、コーティングされる基板表面から汚染物や酸化物を除去した。
【0048】
1000sccmの酸素流量(平均プロセス圧力約2.6Pa)を導入した酸素雰囲気中で180Aのアーク電流で運転した4枚のAl0.7Cr0.3カソードをカソードアーク蒸着して、モノリシック成長(AlxCr1-x)2O3を堆積させた。
【0049】
基板ホルダーに-40Vの負の基板バイアスを印加した。
【0050】
コーティングの熱安定性は、7元素(In、Sn、Bi、Zn、Al、Ag、Au)で校正されたDSC-STA 449 F1 Jupiter(登録商標)を用いて、示差走査熱量測定(DSC)と熱重量分析(TGA)とを組み合わせて調査した。測定は、動的He雰囲気(保護=50ml/分;パージ=50ml/分)で1500℃まで加熱速度20K/分で行った。
【0051】
コーティングされた多結晶Al2O3基板を、20K/分の加熱速度を適用して100℃のステップで800から1500℃までの範囲のアニール温度TaでCentorr LF22-200真空オーブンでアニールした。試料はピーク温度で1時間保持し、冷却は受動的に行った。
【0052】
コーティングの化学的および形態学的調査は、EDAXエネルギー分散型X線分光法(EDS)検出器を取り付けたFEI Quanta 200電界放出銃走査型電子顕微鏡(FEG SEM)を用いて実施した。
【0053】
結晶組成に関する情報は、アニール粉末試料のブラッグ-ブレンタノ配置(BB:2θ=15-90°)およびグレージング-入射配置(GI:入射角Ω=2°、2θ=15-90°)でのX線回折(XRD)により得られた。Al2O3基板上のアニールされたコーティングを、Cu Kα放射源とシンチレーション検出器を備えたEmpyrean PANalytical θ-θ回折計で分析した。
【0054】
コーティングの微細構造に関するより詳細な検査は、200 keVの加速電圧で動作し、EDAX Apollo XLT2 EDS検出器を装備したTECNAI F20 FEG TEMを使用して、走査TEM(STEM)、選択領域電子回折(SAED)、およびEDS)を含む透過型電子顕微鏡(TEM)によって実現された。
【0055】
Si基板とAl2O3基板上にモノリシックに成長した(Al、Cr)2O3を用いて行ったエネルギー分散型X線分光法は、(Al0.74Cr0.26)2O3と(Al0.76Cr0.26)2O3の化学組成が堆積直後の状態で、全体の酸素含有量が約59 at.%であり、化学量論的なM2O3状態であることを示すことを明らかにする。
【0056】
図1は、多結晶Al
2O
3基板上に堆積され、真空アニールされたモノリシックに成長した(Al
0.76Cr
0.24)
2O
3のXRDパターンを示す。読者の便宜のために、空の基板の測定値が下部に追加されている。(Al、Cr)
2O
3固溶体を示す緑色の六角形は、70at.%Al
2O
3および30at.%Cr
2O
3のVegardのような線形動作に従って2θ位置に配置されている。粉末X線回折測定とは異なり、基板ピークが強いため、コーティングのfcc XRDピークを検出できない。しかしながら、追加のTEM調査によれば、六方晶固溶体(Al、Cr)
2O
3と優勢な準安定立方晶の二相組成が確認されている。アニール時の最初のXRDピークは、Ta=800°C、2θ~44.5°で検出可能であり、金属Crまたは数パーセントのAlを含むCrの固溶体に割り当てられ得る。ピークの形状と強度は、より微細な微細構造を示唆する。Ta=900°Cで、(Al
0.7Cr
0.3)
2O
3位置基準の近くにあるピークが現れる。金属Crを示す広範で弱いXRDピークは、Ta=1100℃で消失するが、α-(Al、Cr)
2O
3の37.4、42.9、65.8、67.5°2θのピークは、1200℃へのアニール時に強度が増加する。1300℃以上にアニール温度を上昇させると、興味深いことに、XRDのピークは、このように純粋なα-Al
2O
3リファレンスに向かって、より高い回折角にシフトする結果となる。これは、(Al、Cr)
2O
3固溶体がAlで濃縮されていることを示唆しており、興味深い知見である。
【0057】
言い換えれば、サファイアまたはコランダム(または他の温度安定性のある材料)からなる基板を提供し、この基板にAl-Cr-Oのコーティングを適用すると、十分な高温で焼戻しを行った後、エピタキシャル界面が形成され、アルファアルミナコーティングが形成される。
【0058】
多結晶Al
2O
3基板上にモノリシック成長させた(Al、Cr)
2O
3の熱誘起結晶構造および微細構造の変化を調べるために、透過型電子顕微鏡による研究を行った。900℃で5分間アニールした後のコーティングの明視野TEM画像、
図2aおよびbは、微細な柱状のアンダーデンス微細構造を明らかにする。コーティング断面に沿ったSAED調査は、
図1のXRDスペクトルでは特定できなかった立方体構造を示す。真空アニール処理によって引き起こされたコーティングの構造的変化は重要ではなく、コランダム型相の発達は決定できない。
図2cのZコントラストのSTEM取得は、組み込まれた球状および平坦な形状のマクロ粒子の存在を明らかにする。
【0059】
金属または金属間材料と比較して酸化物コーティングのより高い熱安定性は、
図2dおよびeのそれぞれのTEM BFおよびSTEM画像の平面形状の金属間液滴の熱誘起分解によって示される。
図2eの破線の白線は、
図2fに提供されるEDSラインスキャンの方向を示す。
【0060】
モノリシック成長させた(Al、Cr)
2O
3フィルムを真空中で1300℃と1500℃で1時間アニールしたときの微細構造は、
図3a~cとd~fに示すように、明らかに粗大化していた。これらの温度では、全ての準安定相画分はすでにコランダム固溶体に変化している。微細構造の変化は、Ta=1500℃でアニールした試料ではさらに顕著である。いずれの温度でも、EDS分析はコーティング中のCrの損失を示す。1300℃では、Cr含有量がコーティング面に向かって減少する。1500℃では、Crはコーティングからほぼ完全に除去されている。このAl-Cr-O中のCrの損失により、固溶体中のAl濃度が上昇し、最終的にα-Al
2O
3が形成される。これは、
図1のXRDで観察されたピークシフトと一致する。
【0061】
これらの結果から、1000℃を超えるとCrの拡散が始まり、
図3cに示すような典型的なプロファイルが得られると結論づけられる。Cr濃度は、基板とコーティングの界面からコーティング面に向かって徐々に減少する。Alの濃度は実質的に一定のままである。酸素含有量はコーティング表面に向かって増加し、CrがOと反応してCrO
2またはCrO
3になり、揮発することを示す。より高い温度では、
図3fから導かれるように、このプロセスはより高速である。コーティングとサファイア基板との間のEDSラインスキャンでは、少なくともAlとOの深さプロファイルでは顕著な界面は見られない。コーティングからまだ拡散していないごくわずかなCrのみが検出される。しかしながら、サファイア基板への界面の完全な形成にもかかわらず、Crの損失が原因でコーティングに作製されたいくつかの穴がある。
【0062】
この驚くべき発見により、アニール温度が上昇したAl-Cr-Oコーティング中のCrの損失が、コーティング中のAl含有量の増加の原因であることが証明された。言い換えると、コーティングの焼き戻しは、おそらく酸素との反応を介して、基板表面へのCr拡散とそれに続くCrの揮発を開始することにより、Al含有量が増加したAl-Cr-Oコーティングを生成する方法である。この拡散は、真空または希ガス雰囲気で進行するが、酸素によって加速されたり、または活性酸素もしくは酸素プラズマによってさらに加速され得る。
【0063】
揮発化という用語は、揮発性化合物の形成およびその後の固体状態から気体状態への相転移を指す。
【0064】
本発明の文脈では、特にCrO3およびCrO2の形成では-これらの化合物は、固体状態から気体状態への迅速な遷移を有するので、「揮発性」と考えられる-本発明によるそのような揮発性化合物(CrO2およびCrO3)の形成の1つの態様は、例えば、AlおよびCrを含むコーティングを酸素プラズマで処理することによって、元素金属クロムが酸素と反応して揮発性化合物CrO3またはCrO2を形成し、それによって固体状態から気体状態への相転移を引き起こすことである。
【0065】
これらの驚くべき結果は、さらに、Crの流出拡散の結果が、基板コーティングシステムの設計に利用できる非常に興味深く有用な結果をもたらすことを示す:
-コランダム構造中で優先的にAl含有量を増加させたAl-Cr-Oコーティングを作製する
-Al-Cr-O系コーティングを合成してα-Al2O3系コーティングを作製し、上記の流出拡散工程を行う
-遮熱コーティングとして利用可能なAl-Cr-Oから多孔質アルファ-アルミナコーティングを作製する。
【0066】
本発明による全ての方法は、コーティングされる表面が以下の材料のいずれかで作られるワークピースにコーティングを提供するのに有利である:
-多結晶アルミナ、
-サファイアコランダム、
-ムライト、あるいは
-アルミナを含む他の任意の化合物、特に、
-アルミナとイットリウム安定化ジルコニウム酸化物、および/または
-アルミナと窒化ケイ素、および/または
-アルミナと炭化ケイ素、および/または
-アルミナと酸化イットリウム、および/または
-アルミナと酸化エルビウムの混合物を含むまたはからなる化合物。
【0067】
本発明による方法は、その性能を向上させるために、タービンエンジン部品にコーティングを提供するのに特に適している。