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特許7315950リン酸化タンパク質の組織学的検出方法及びキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】リン酸化タンパク質の組織学的検出方法及びキット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20230720BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230720BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20230720BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20230720BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20230720BHJP
【FI】
G01N33/48 P
G01N33/53 Y
G01N1/28 J
C07K14/47
C07K16/18
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019099443
(22)【出願日】2019-05-28
(65)【公開番号】P2020038192
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2018164623
(32)【優先日】2018-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 知宏
(72)【発明者】
【氏名】角田 聡子
(72)【発明者】
【氏名】角田 伸人
(72)【発明者】
【氏名】東 優人
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/161182(WO,A1)
【文献】特表2010-517540(JP,A)
【文献】Vapor Fixation for Immunocytochemistry and X-Ray Microanalysis on Cryoultramicrotome Sections,The Journal of Histochemistry and Cytochemistry,1984年,Vol.32, No.6,pp.636-642,https://doi.org/10.1177/32.6.6373915
【文献】Phosphorylation of Different Tau Sites during Progression of Alzheimer's Disease,Acta Neuropathologica Communications,2018年06月29日,Vol.6,AN52,https://doi.org/10.1186/s40478-018-0557-6
【文献】Improved Immunodetection of Nuclear Antigens after Sodium Dodecyl Sulfate Treatment of Formaldehyde-Fixed Cells,The Journal of Histochemistry and Cytochemistry,1999年,Vol.47, No.8,pp.1095-1100,https://doi.org/10.1177/002215549904700814
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸化タンパク質を含む組織の凍結切片を作成する凍結切片作成工程と、
前記凍結切片を組織固定液の蒸気で処理して組織を燻蒸固定する燻蒸固定工程と、
染色前に、前記燻蒸固定された組織にイオン性界面活性剤を含浸させる前処理工程と、
前記イオン性界面活性剤が含浸された組織を抗体染色する抗体染色工程と、
を有することを特徴とする、リン酸化タンパク質の組織学的検出方法。
【請求項2】
前記リン酸化タンパク質は、リン酸化タウである請求項1記載のリン酸化タンパク質の組織学的検出方法。
【請求項3】
前記リン酸化タウは非凝集型リン酸化タウである請求項2記載のリン酸化タンパク質の組織学的検出方法。
【請求項4】
前記リン酸化タンパク質は、リン酸化GSK3βである請求項1記載のリン酸化タンパク質の組織学的検出方法。
【請求項5】
前記リン酸化タンパク質は、リン酸化ERK1/2である請求項1記載のリン酸化タンパク質の組織学的検出方法。
【請求項6】
前記凍結切片作成工程の前に、灌流脱血する脱血工程を有することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のリン酸化タンパク質の組織学的検出方法。
【請求項7】
前記組織固定液はホルマリンであることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載のリン酸化タンパク質の組織学的検出方法。
【請求項8】
前記イオン性界面活性剤はアニオン界面活性剤であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載のリン酸化タンパク質の組織学的検出方法。
【請求項9】
リン酸化タンパク質を含む組織の凍結切片を蒸気で処理して組織を燻蒸固定する組織固定液と、
抗体染色前に前記燻蒸固定された組織に前処理として含浸されるイオン性界面活性剤と、
前記イオン性界面活性剤が含浸された組織を抗体染色する抗体染色剤と、
を有することを特徴とする、リン酸化タンパク質の組織学的検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸化タンパク質の組織学的検出方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(Alzheimer’s disease : AD)は脳内の神経細胞の脱落及び機能不全により記憶障害を起こす、認知症の一つである。ADの病理学的特徴として老人斑と神経原線維変化(neurofibrillary tangle : NFT)がある。老人斑はAβというペプチドが神経細胞外に沈着することで形成される。NFTの主要成分はタウである。タウは微小管結合タンパク質ファミリーの一つであり、生理的にリン酸化されることで、微小管重合の安定化や細胞骨格の構造維持等の機能を制御されている。NFTは、このタウが異常にリン酸化された状態で重合し、神経細胞内において封入体を形成したものである(非特許文献1)。このように、タウの蓄積を伴う疾患は総称してタウオパチーと呼ばれており、ADはタウオパチーの代表的な疾患である。ADの発症機序は未だ不明な点が多く、根本的な治療法は確立されていない。従って、有効な治療法の開発のためにもタウオパチー神経変性機構の全容解明が急がれている。
【0003】
現在タウのリン酸化サイトは40カ所以上確認されており(非特許文献2)、正常から異常タウとして蓄積するまでに脳内において様々なリン酸化状態で存在していると考えられている(非特許文献3)。このようなリン酸化タウは特異抗体を用いることで、ウエスタンブロッティング法、ELISA 法等の生化学的手法により容易に検出できる。しかし、これらの抗体を用いて免疫組織染色等の方法によりリン酸化タウの組織局在を解析する場合、病態脳において凝集・蓄積したタウについては検出できる場合があるものの、正常神経細胞におけるリン酸化タウ又はタウオパチー神経変性の前段階に想定される非凝集異常リン酸化タウについては極めて染色性に乏しい。この結果、例えば AT8 等の抗リン酸化タウ抗体 (Thermo Fisher Scientific Inc.) で病態脳を組織染色すると、NFT のみが選択的に染色される。この原因については不明であり、これまで有効な染色方法は確立されてこなかった。一方、非凝集型リン酸化タウの組織染色を試みた論文報告は複数存在するものの(非特許文献4,5,6)、いずれも広く応用されるには感度が不十分であったり、タウの本来の軸索局在からは説明のつかない染色像であったり十分信頼できる染色がなされているとは言い難い。また、この原因については凝集型リン酸化タウの特殊な構造が想定されているものの不明であり(非特許文献7)、有効な染色法は確立されていない。従って、正常脳におけるリン酸化タウあるいはタウオパチー形成に至るまでの非凝集型リン酸化タウの組織局在は明らかになっていない。
【0004】
マウス脳において人為的にタウのリン酸化を加速させる方法として麻酔による低体温モデルが知られている(非特許文献5)。このタウのリン酸化は、生化学的手法では容易に検出できる。しかし一般組織学的解析ではこの検出が極めて困難である。本発明では、タウの高リン酸化モデルを用い、生理的なリン酸化タウの組織学的検出法の確立を行った。
【0005】
GSK3βは、セリンスレオニンタンパク質リン酸化酵素の一つである。その酵素活性はインスリン受容体シグナルなどによる自身のリン酸化によって制御されている。普遍的に組織に発現し、その基質は多岐にわたることから糖代謝や神経細胞の発生、機能など幅広い生体反応にかかわっている。tau はその基質の一つであり、GSK3βはアルツハイマー病における tau の異常化、神経変性に深く関わっていると考えられている。したがって、GSK3βの活性を決定しうるリン酸化の検出は幅広い研究分野で求められている。ERK1/2はEGFなどの成長因子やサイトカイン、酸化ストレス等によって活性化されるMitogen-activated Protein Kinase (MAPK) のサブファミリーである。細胞増殖や分裂、細胞分化にかかわるとされてきたが、神経系においてはシナプス可塑性とは関連性が指摘されている。マウス海馬ではNMDA型グルタミン酸受容体が活性化されるとシナプス可塑性現象が起きるが、このときに神経細胞ではERK1/2が活性化されており、逆にERK1/2の活性を阻害することでNMDA型受容体依存的な長期増強が抑制される。ERK1/2の活性も、上流のリン酸化酵素によるリン酸化によって制御されており、そのリン酸化と ERK の活性様々な生理現象との関係について盛んに研究がなされている。本発明では、リン酸化GSKβやリン酸化ERK1/2の組織学的検出法の確立を行った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】謝策, 宮坂知宏. 認知症におけるタウタンパク質(tau protein)の役割. 基礎老化研究. 2015 39(3):13-22
【文献】Iqbal K, Liu F, Gong CX. Tau and neurodegenerative disease: the story so far. Nat Rev Neurol. 2016 12(1):15-27
【文献】宮坂知宏, 高島明彦. タウ蛋白の分子修飾. Brain and Nerve. 2002 59(9): 753-766
【文献】Planel E, Tatebayashi Y, Miyasaka T, Liu L, Wang L, Herman M, Yu WH, Luchsinger JA, Wadzinski B, Duff KE, Takashima A. Insulin dysfunction induces in vivo tau hyperphosphorylation through distinct mechanisms. J Neurosci. 2007 27(50):13635-13648.
【文献】Planel E, Krishnamurthy P, Miyasaka T, Liu L, Herman M, Kumar A, Bretteville A, Figueroa HY, Yu WH, Whittington RA, Davies P, Takashima A, Nixon RA, Duff KE. Anesthesia-induced hyperphosphorylation detaches 3-repeat tau from microtubules without affecting their stability in vivo. J Neurosci. 2008 28(48):12798-12807.
【文献】Tuerde D, Kimura T, Miyasaka T, Furusawa K, Shimozawa A, Hasegawa M, Ando K, Hisanaga SI. Isoform-independent and -dependent phosphorylation of microtubule-associated protein tau in mouse brain during postnatal development. J Biol Chem. 2018 293(5):1781-1793.
【文献】Trojanowski JQ, Schuck T, Schmidt ML, Lee VM. Distribution of tau proteins in the normal human central and peripheral nervous system. J Histochem Cytochem 1989 37(2): 209-215
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、リン酸化タンパク質の組織学的な検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
リン酸化タンパク質を含む組織の凍結切片を作成する凍結切片作成工程と、前記凍結切片を組織固定液の蒸気で処理して組織を燻蒸固定する燻蒸固定工程と、染色前に、前記燻蒸固定された組織にイオン性界面活性剤を含浸させる前処理工程と、前記イオン性界面活性剤が含浸された組織を抗体染色する染色工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リン酸化タンパク質を組織学的に明確に検出でき、特に、非凝集型リン酸化タウを組織学的に明確に検出できるため、アルツハイマー病等の認知症の研究、治療薬開発および診断に有益である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】正常体温(A, B)及び低体温処理(C, D)したマウスについてパラフィン切片を作成し、AT8で免疫組織染色した写真図である。
図2】新鮮凍結法により作成した切片におけるタウのリン酸化の状態を示す図である。(A)は、正常体温及び低体温処理したマウス脳より得られた新鮮凍結切片を可溶化しウエスタンブロッティングに供した図である。(B)は各抗体により認識されたバンドの輝度を定量化した図である。
図3】新鮮凍結切片作成後の固定法の検討結果を示す図である。(A)(B)は、4% パラホルムアルデヒド(以下、PFA:ParaFormAldehydeと略することがある。)を用いた浸漬法であり、(C)(D)は4% パラホルムアルデヒドを用いた燻蒸法である。
図4】本発明組織染色法によるTau1抗体を用いた脱リン酸化タウの検出を示す図である。
図5】免疫染色の前処理におけるドデシル硫酸ナトリウム(以下、SDS: Sodium Dodecyl Sulfateと略することがある。)の重要性を検討した図である。(A)処理無後にAT8での抗体染色、(B)ドデシル硫酸ナトリウムサンプルバッファー(SDS , 2-mercaptoethanol 含有)処理後にAT8での抗体染色、(C)ドデシル硫酸ナトリウムのみを除いたサンプルバッファー処理後にAT8での抗体染色、(D)2-mercaptoethanolのみを除いたサンプルバッファー処理後にAT8での抗体染色を行なった結果を示す図である。
図6】組織染色前処理に用いる変性剤の比較検討を示す図である。(A)1% ドデシル硫酸ナトリウム、(B)1% N-ラウロイルサルコシンナトリウム(以下、Sarkosylと記載することがある。)、(C)RIPA バッファー、(D)8M Urea、 (E)2M Urea、(F)6M Guanidin HCl で処理した後に AT8 での抗体染色である。
図7】リン酸化タウ以外について本発明の組織学的検出方法を使用した図であり、(A)リン酸化GSK3βについてのウエスタンブロッティング法による写真図、(B)リン酸化GSK3βについての抗体染色による写真図、(C)リン酸化ERK1/2についてのウエスタンブロッティング法による写真図、(D)リン酸化ERK1/2についての抗体染色による写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0012】
本実施形態にかかるリン酸化タンパク質の組織学的検出方法は、以下の(i)(ii)(iii)(iv)の工程を有する。
【0013】
(i)リン酸化タンパク質を含む組織の凍結切片を作成する凍結切片作成工程
(ii)凍結切片を組織固定液の蒸気で処理して組織を燻蒸固定する燻蒸固定工程
(iii)染色前に、前記燻蒸固定された組織にイオン性界面活性剤を含浸させる前処理工程
(iv)イオン性界面活性剤が含浸された組織を抗体染色する抗体染色工程
【0014】
また本実施形態にかかるリン酸化タンパク質の組織学的検出キットは、リン酸化タンパク質を含む組織の凍結切片を蒸気で処理して組織を燻蒸固定する組織固定液と、抗体染色前に前記燻蒸固定された組織に前処理として含浸されるイオン性界面活性剤と、イオン性界面活性剤が含浸された組織を抗体染色する抗体染色剤と、を有することを特徴とする。
【0015】
凍結切片作成工程では、リン酸化タンパク質を含む組織の凍結切片を作成する。タンパク質のリン酸化は、細胞の増殖の調節や酵素の活性、細胞内シグナル伝達等に重要な役割を果たすところ、本実施形態においては対象となるリン酸化タンパク質は特に限定されるものではなく、例えば、リン酸化タウ(リン酸化されたタウタンパク質)、GSK3β、ERK1/2等である、好ましくはリン酸化タウである。タウタンパク質は中枢神経細胞に多量に存在し、脳の神経ネットワークを構成する神経軸索の機能に必須なタンパク質であるが、タウタンパク質が細胞内で不溶性の凝集を作ると軸索輸送がうまくいかず、神経細胞の死を招く。タウタンパク質が細胞質中で線維化し、沈着した病理像は神経原線維変化と呼ばれる。この神経原線維変化は、アルツハイマー病だけではなく進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症、前頭側頭型認知症、ボクサー脳症等の変性疾患で観察される。また家族性前頭側頭型認知症(FTDP)ではタウ遺伝子の変異によりneurofibrillary tangle(NFT)の形成が促進され認知症状が出現することが明らかとなってきている。
【0016】
また本実施形態にかかるリン酸化タンパク質の組織学的検出方法では、上記の凝集型のリン酸化タウだけでなく非凝集型リン酸化タウをも検出可能である。なお神経原線維変化そのものには神経毒性は観られず線維化する以前のタウの状態に毒性と記憶障害の原因があると考えられているため、非凝集型リン酸化タウをも検出できる本発明の利点は大きい。
【0017】
組織の凍結切片の作成方法は、特に限定されるものではないが、例えば組織試料をドライアイスや液体窒素で凍結してブロックを作成し、クライオスタット等を用いて、凍結した試料を数μmから数十μmに薄切する。
【0018】
次に燻蒸固定工程では、作成された凍結切片を組織固定液の蒸気で処理して組織を燻蒸固定する。組織固定液は、組織試料を自己分解や腐敗による劣化から保護するための化学処理能を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えばホルムアルデヒド若しくはパラホルムアルデヒドによるホルマリン固定液、エタノール、メタノール、アセトン若しくはクロロホルムによるアルコール固定液、又は、ブアン液等のピクリン酸固定液を使用することができ、好ましくはパラホルムアルデヒドによるホルマリン蒸気での燻蒸固定である。ホルマリン蒸気の場合、例えば20g/L~60g/L パラホルムアルデヒド、好ましくは30g/L~50g/m パラホルムアルデヒド、より好ましくは40g/L パラホルムアルデヒドにて燻蒸固定を行う。ホルマリン蒸気での処理は、例えば、試料台に載置された凍結切片試料を密閉容器内に設置し、熱により揮散したガス状のホルマリンを該密閉容器内に充満させ、試料をガス状のホルマリンに曝す処理である。
【0019】
次に前処理工程では、抗体染色前に、燻蒸固定された組織にイオン性界面活性剤を含浸させる。イオン性界面活性剤は、特に限定されるものではなく、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及び両性界面活性剤の何れも使用することができるが、好ましくはアニオン界面活性剤である。
【0020】
アニオン界面活性剤は、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、イソステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸トリエタノールアミン、パルミチン酸カリウム、セチル硫酸ナトリウム、ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸2ナトリウム、パルミチン酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルリン酸ナトリウム、N-アシルグルタミン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸トリエタノールアミン、ラウリル酸ナトリウム、ラウリル硫酸リチウム、ラウリル硫酸カリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸モノエタノールアミン、ラウリル硫酸ジエタノールアミン、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム、アルキル硫酸トリエタノールアミンエーテル、ロート油、リニアドデシルベンゼン硫酸、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油マレイン酸、アシルメチルタウリン、脂肪酸セッケン、α-アシルスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、POEアルキルエーテル硫酸塩、アルキルアミド硫酸塩、アルキルリン酸塩、POEアルキルリン酸塩、アルキルアミドリン酸塩、アルキロイルアルキルタウリン塩、N-アシルアミノ酸塩、POEアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルスルホ酢酸ナトリウム、アシルイセチオン酸塩、アシル化加水分解コラーゲンペプチド塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、石けん用素地、カリ石けん、ウンデシレン酸亜鉛、カリウム含有石けん用素地、ヤシ油脂肪酸カリウム、硫酸化ヒマシ油、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸亜鉛、ミリスチン酸マグネシウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、N-アシル-L-グルタミン酸トリエタノールアミン、N-アシル-L-グルタミン酸ナトリウム、N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-グルタミン酸ナトリウム、N-ヤシ油脂肪酸・硬化牛脂脂肪酸アシル-L-グルタミン酸ナトリウム、N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-グルタミン酸トリエタノールアミン、ステアロイル-L-グルタミン酸二ナトリウム、N-硬化牛脂脂肪酸アシル-L-グルタミン酸ナトリウム、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ナトリウム、N-ステアロイル-L-グルタミン酸、N-ラウロイル-L-リジン、ラウロイル-L-グルタミン酸トリエタノールアミン、L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩、N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩、ヤシ油脂肪酸サルコシン、ヤシ油脂肪酸サルコシンナトリウム、ヤシ油脂肪酸サルコシントリエタノールアミン、ラウロイルサルコシン、ラウロイルサルコシントリエタノールアミン、カルボキシル化ポリオキシエチレントリデシルエーテルナトリウム塩(3E.O.)、β-ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸液等である。
【0021】
また、ヤシ油脂肪酸メチルタウリンカリウム、ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、ヤシ油脂肪酸メチルアラニンナトリウム液、ヤシ油脂肪酸トリエタノールアミン液、ラウロイルメチル-β-アラニンナトリウム液、ラウリル-N-カルボキシメトキシエチル-N-カルボキシメチルイミダゾリニウムジナトリウムドデカノイルサルコシン、ヤシ油アルキル-N-カルボキシエチル-N-ヒドロキシイミダゾリニウムベタインナトリウム、ヤシ油アルキル-N-カルボキシエトキシエチル-N-カルボキシエチルイミダゾリニウムジナトリウムヒドロキシド、ヤシ油アルキル-N-カルボキシメトキシエチル-N-カルボキシメチルイミダゾリニウムジナトリウムヒドロキシド、ヤシ油アルキル-N-カルボキシメトキシエチル-N-カルボキシメチルイミダゾリニウムジナトリウムラウリル硫酸、ミリストイルメチル-β-アラニンナトリウム液、ステアロイルメチルタウリンナトリウム、テトラデセンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン、アルカンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸アンモニウム、オクチルフェノキシジエトキシエチルスルホン酸ナトリウム、ヤシ油アルキル硫酸マグネシウム・トリエタノールアミン、ミリスチル硫酸ナトリウム、セトステアリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム(2E.O.)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム(3E.O.)液、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ジエタノールアミン(3E.O.)液、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン(3E.O.)液、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(3E.O.)液、硬化ヤシ油脂肪酸グリセリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(5)ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミドリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル(12-14)エーテルリン酸(2E.O.),(8E.O.),(10E.O)、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンセチルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンセチルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンコレステリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸ジエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテルリン酸、ポリオキシプロピレングリセリルエーテルリン酸、ポリオキシプロピレンブチルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ヤシ油脂肪酸エチルエステルスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、オクチルフェノキシジエトキシエチルスルフォン酸ナトリウム、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、オレイン酸アミドスルホコハク酸二ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキル(C12-15)エーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキル(C12-14)スルホコハク酸二ナトリウム(7E.O.)、スルホコハク酸ポリオキシエチレンラウロイルエタノールアミド二ナトリウム(5E.O.)、イソステアロイル乳酸ナトリウム、ウンデシレノイル加水分解コラーゲンナトリウム、ウンデシレノイル加水分解コラーゲンカリウム、ウンデシルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインナトリウム、ラウリン酸加水分解コラーゲンナトリウム、ヤシ油脂肪酸加水分解コラーゲンナトリウム、ヤシ油脂肪酸加水分解コラーゲンカリウム、ヤシ油脂肪酸加水分解コラーゲンカリウム液、ヤシ油脂肪酸加水分解コラーゲントリエタノールアミン、イソステアロイル加水分解コラーゲン、イソステアロイル加水分解シルク、イソステアロイル加水分解コラーゲンアミノメチルプロパンジオール塩、エチレンジアミン-N,N,N´,N´-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)ジオレイン酸塩、ドデカノイルサルコシン、ラウリルアミノジプロピオン酸ナトリウム液(30%)、オレオイルサルコシン、ミリストイル-ベータ-アラニンナトリウム液、ウンデシルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインナトリウム、アルキル(C12,13,16)硫酸アンモニウム、アルキル(C11,13,15)硫酸トリエタノールアミン(1)、アルキル(C11,13,15)硫酸トリエタノールアミン(2)、アルキル(C12-15)硫酸トリエタノールアミン、アルキル(C12-14)硫酸トリエタノールアミン、アルキル(12,13)硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン(3E.O.)液、(C11-15)パレス-3硫酸ナトリウム、(C12,13)パレス-3硫酸ナトリウム、(C12-15)パレス-3硫酸ナトリウム、(C12,13)パレス-3硫酸TEA、(C12,13)パレス-3硫酸(TEA/Na)、PEG-3ヤシ脂肪酸アミドMEA硫酸Na、PEG-5ヤシ脂肪酸アミドMEAリン酸、PEG-5ラウリルクエン酸スルホコハク酸2Na、PEG-5セテス-10リン酸、PEG-25ブチルリン酸、アルキル(C14-18)スルホン酸ナトリウム、アルキル(C20-22)リン酸、イソラウレス-4リン酸、ウンデシレノイルグリシン、オリーブ脂肪酸カリウム、オレイルサルコシン、オレイルメチルタウリンナトリウム、オレス-3リン酸、オレス-4リン酸、オレス-5リン酸、オレス-10リン酸、オレス-20リン酸、オレス-7リン酸ナトリウム、オレス-8リン酸ナトリウム、オレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウム、カプリロイルグリシン、ココイルアミノ酸ナトリウム、ココイルアラニントリエタノールアミン、ココイルイセチオン酸ナトリウム、ココイルイセチオン酸アンモニウム、ココイルグリシンカリウム、ココイルグリシンナトリウム、ココイルグルタミントリエタノールアミン、ココイルグルタミン酸、ココイルグルタミン酸2ナトリウム、ココイルグルタミン酸カリウム等のココイルグルタミン酸塩類、ココイルサルコシン、ココイルサルコシンナトリウム、ココイルサルコシントリエタノールアミン、ココイルタウリンナトリウム、ココイルメチルアラニン、ココイルメチルアラニンナトリウム、ココイルメチルタウリン、ココイルメチルタウリンカリウム、ココイルメチルタウリンマグネシウム、ココイルメチルタウリンナトリウム、ココイルリンゴアミノ酸ナトリウム、コセス硫酸ナトリウム、ジ(C11-15)パレス-2リン酸、ジ(C12-15)パレス-4リン酸、ジ(C12-15)パレス-8リン酸、ジ(C12-15)パレス-10リン酸、ジオレイルリン酸、ジオレス-8リン酸ナトリウム、ジオレス-8リン酸ナトリウム、ジココイルエチレンジアミンPEG-15硫酸ナトリウム、ジラウレス-10リン酸ナトリウム、ステアレス-2リン酸、ステアレス-3リン酸、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、スルホコハク酸ウンデシレナミドMEA-2Na、スルホコハク酸ラウラミドMEA-2Na、スルホコハク酸ラウレス2ナトリウム、セチルリン酸DEA、セチルリン酸カリウム、セテアリル硫酸ナトリウム、セテス-10リン酸、セテス-20リン酸、トリセテアレス-4リン酸、トリセデス-4カルボン酸、トリセデス-8カルボン酸、トリセデス-4カルボン酸ナトリウム、トリセデス-7カルボン酸ナトリウム、トリセデス-3酢酸ナトリウム、トリセデス-7リン酸カリウム、トリラウレス-4リン酸、乳酸オレイル、パーム脂肪酸グルタミン酸ナトリウム、パルミトイルグルタミン酸マグネシウム、パルミトイルサルコシンナトリウム、パルミトイルプロリン、パルミトイルプロリンナトリウム、パルミトイルメチルタウリンナトリウム、ミリストイルグルタミン酸カリウム、ミリストイルグルタミン酸ナトリウム、ミリストイルサルコシンナトリウム、ミリストイルメチルタウリンナトリウム、ヤシ脂肪酸カリウム、ヤシ脂肪酸トリエタノールアミン、ヤシ脂肪酸アルギニン、ラウラミノジ酢酸ナトリウム、ラウリルグリコール酢酸ナトリウム、ラウレス-5カルボン酸、ラウレス-6カルボン酸、ラウレス-11カルボン酸、ラウレス-5カルボン酸ナトリウム、ラウレス-6カルボン酸ナトリウム、ラウレス-11カルボン酸ナトリウム、ラウレス-5酢酸、ラウレス-6酢酸、ラウレス-4,5酢酸カリウム、ラウレス-3酢酸ナトリウム、ラウレス-4酢酸ナトリウム、ラウレス-5酢酸ナトリウム、ラウレス-6酢酸ナトリウム、ラウレス-11酢酸ナトリウム、ラウレス硫酸MIPA、ラウレス硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸トリエタノールアミン、ラウレス-2硫酸アンモニウム、ラウレス-3硫酸アンモニウム、ラウレス-1リン酸、ラウレス-2リン酸、ラウレス-4リン酸、ラウロイルアスパラギン酸ナトリウム、ラウロイルカラスムギアミノ酸ナトリウム、ラウロイル乳酸ナトリウム、ラウロイルメチルアラニンカリウム、ラウロイルメチルアラニントリエタノールアミン、リン酸ジセチル、リン酸セチル等である。
【0022】
カチオン界面活性剤は、例えば、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ジココイルジメチルアンモニウム、塩化ミリスチルジメチルベンジルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルピリジニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンザルコニウム液、ラウリルアミンオキサイド、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ジメチルステアリルアンモニウム処理ヘクトライト、塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウム処理ヘクトライト、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム処理ベントナイト、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化トリ(ポリオキシエチレン)ステアリルアンモニウム(5E.O.)、塩化ジ(ポリオキシエチレン)オレイルメチルアンモニウム(2E.O.)、塩化ステアロイルコラミノホルミルメチルピリジニウム、塩化ポリオキシプロピレンメチルジエチルアンモニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン液、臭化アルキルイソキノリニウム液、臭化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウムサッカリン、ステアリルトリメチルアンモニウムサッカリン、ポリエチレングリコール・エピクルルヒドリン・ヤシ油アルキルアミン・ジプロピレントリアミン縮合物、ポリエチレングリコール・エピクロロヒドリン・牛脂アルキルアミンジプロピレントリアミン縮合物、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム(1),(2)、臭化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニン酸アミドプロピルジメチルヒドロキシプロピルアンモニウム、ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド、ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド、ラノリン誘導体第四級アンモニウム塩、PEG-5オレアミン、PEG-2オレアンモニウムクロリド、PEG-2コカミン、PEG-3コカミン、PEG-5コカミン、PEG-10コカミン、PEG-15コカミン、PEG-2ジメドウフォームアミドエチルモニウムメトサルフェート、アルキル(C12,14)オキシヒドロキシプロピルアルギニン塩酸塩、アルキル(C16,18)トリモニウムクロリド、イソアルキル(C10-40)アミドプロピルエチルジモニウムエトサルフェート、イソステアリルエチルイミダゾリニウムエトサルフェート、カエサルピニアスピノサヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド、クオタニウム-33、クオタニウム-91、コカミドプロピルPGジモニウムクロリドン酸、コカミドプロピルベタインアミドMEAクロリド、ココイルアルギニンエチルPCA、ココトリモニウムメト硫酸、コロハヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド、酢酸(ミリスタミド/パルミタミド)ブチルグアニジン、ジアルキル(C12-18)ジモニウムクロリド、ジココイルエチルヒドロキシエチルモニウムメトサルフェート、ジココジモニウムクロリド、ジステアリルジモニウムクロリド、ジステアロイルエチルヒドロキシエチルモニウムメトサルフェート、ジセチルジモニウムクロリド、ジパルミトイルエチルヒドロキシエチルモニウムメトサルフェート、ジヒドロキシプロピルPEG-5リノールアンモニウムクロリド、ジメチルPABAアミドプロピルラウルジモニウムトシル酸、ジメチルステアラミン、ステアラミドエチルジエチルアミン、ステアラミドプロピルジメチルアミン、ステアラルコニウムクロリド、ステアリルトリモニウムサッカリン、ステアルトリモニウムクロリド、ステアルトリモニウムブロミド、ステアロキシプロピルトリモニウムクロリド、セタルコニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリド、セトリモニウムクロリド、セトリモニウムブロミド、セトリモニウムメトサルフェート、ソイトリモニウムクロリド、パルミタミドプロピルトリモニウムクロリド、パンテニルヒドロキシプロピルステアルジモニウムクロリド、ヒドロキシエチルセチルジモニウムリン酸、ヒドロキシプロピルトリモニウムハニー、ヒドロキシプロピルビスヒドロキシエチルジモニウムクロリド、ベヘナミドプロピルジメチルアミン、ベヘナミドプロピルジメチルアミン、ベへントリモニウムクロリド、ベへントリモニウムメトサルフェート、ポロキサミン701、ポロキサミン702、ポロキサミン704、マロン酸ビスヒドロキシエチルセチルアミド、ヤシ油アルキルPGジモニウムクロリドリン酸ナトリウム、ラウリルトリモニウムクロリド、ラウリルピリジニウムクロリド、リノールアミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸等である。
【0023】
両性界面活性剤は、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ウンデシル-N-ヒドロキシエチル-N-カルボキシメチルイミダゾリウムベタイン、ヤシ油アルキルベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ステアリルジヒドロキシエチルベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ビス(ステアリル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリン)クロル酢酸錯体、ヤシ油脂肪酸加水分解コラーゲン、オレオイル加水分解コラーゲン、加水分解コラーゲンヘキサデシル、ラウリン酸アミドプロピルベタイン液、ミリストイル加水分解コラーゲン液、塩酸アルキルアミノエチルグリシン液、レシチン等のカルボキシベタイン型、アミドベタイン型、スルホベタイン型、ヒドロキシスルホベタイン型、アミドスルホベタイン型、ホスホベタイン型、アミノカルボン酸塩型、イミダゾリン誘導体型、アミドアミン型、PEG-3ラウラミンオキシド、オレアミンオキシド、オレイルベタイン、(カプリル/カプラミド)プロピルベタイン、ココアミンオキシド、ココアンホ酢酸ナトリウム、ココアンホジ酢酸ナトリウム、ココアンホジ酢酸2ナトリウム、ココアンホプロピオン酸ナトリウム、ジヒドロキシエチルラウラミンオキシド、ステアラミンオキシド、ステアリルベタイン、パーム核脂肪酸アミドエチルヒドロキシエチルアミノプロピオン酸ナトリウム、パーム核脂肪酸アミドプロピルベタイン、ヒドロキシアルキル(C12,14)ヒドロキシエチルアラニン、ヘプタデシルヒドロキシエチルカルボキシラートメチルイミダゾリニウムクロリド/ヘプタデシルビスヒドロキシエチルイミダゾリニウム、ミリスタミドプロピルベタイン、ミリスタミンオキシド、ミリスチルベタイン、ラウラミドプロピルアミンオキシド、ラウラミドプロピルヒドロキシスルタイン、ラウラミドプロピルベタイン、ラウラミノプロピオン酸ナトリウム、ラウラミンオキシド、ラウリミノジプロピオン酸ナトリウム、ラウリルヒドロキシスルタイン、ラウリルベタイン、ラウロアンホ酢酸ナトリウム、ラウロイルリシン等である。
【0024】
次に抗体染色工程ではイオン性界面活性剤が含浸された組織を抗体染色する。抗体染色は抗体を用いて組織内の抗原を検出する方法である。抗体の特異性を利用して抗原を検出し、抗原の局在を観察することができる。抗体染色に使用される抗体は、特に限定されるものではないが、例えばタウに結合する抗体としてはAnti-Rat Tau、RTM38、AT8、PHF1、Tau1等である。
【0025】
前述した凍結切片作成工程の前に、灌流脱血する脱血工程を有することが好ましい。脱血工程は、抗体染色での血管への非特異的染色を抑えるためのものであり、リン酸化タウの検出自体に影響するものではない。脱血は例えば生理食塩水等により行うことが可能である。
【実施例
【0026】
1.本発明必須工程(凍結切片作成工程、燻蒸固定工程、イオン性界面活性剤を含浸させる前処理工程、及び、染色工程)を見出すまでの検討
[一般的な組織染色法によるリン酸化タウの検出]
はじめに、一般的な組織学的解析法によるリン酸化マウスモデル脳におけるリン酸化タウの検出を試みた。正常体温 (37°C) 及び低体温 (< 30°C) 処理を施したC57BL/6 系統の野生型及びタウノックアウト (TKO) マウス(いずれも10~14週齢で雌雄両方を用いた。)を4% パラホルムアルデヒド含有PBS で灌流固定し、常法に従いパラフィン包埋切片を作成した。なお低体温によるタウ高リン酸化マウスモデルの作成は Planel らの方法にしたがった。マウスに pentobarbital (ソムノペンチル : 共立製薬株式会社) を投与し、深麻酔状態にしたまま室温に放置した。直腸体温計で直腸温を測定し、30°C 以下(25°C以下が望ましい)になった時に低体温であると判定した。
【0027】
パラフィン包埋切片の作成は下記手順に従った。即ち、マウスを麻酔後正常体温 (37°C付近) 及び低体温 (30°C以下) であることを確認し、開腹、心臓を露出させた。ペリスタポンプ (ATTO) のチューブの先に 27G の注射針 (TERUMO) をつなぎ、露出した心臓の左心室に刺して右心房を切開した。左心室に刺した注射針にペリスタポンプから PBS を灌流し、右心房の切開箇所から放血した。その後 4% パラホルムアルデヒド in PBS に輸液を変えて同様に灌流固定した。固定後マウスの頭部を切除し、さらに 4% パラホルムアルデヒド 内で48 時間後固定した。その後脳を摘出し、エタノール、キシレン、温パラフィンに置換させパラフィン包埋ブロックを作成した。パラフィンブロックをミクロトームにより 6 μm でスライスし、スライドグラスに貼り付け乾燥させた。作成したパラフィン切片をキシレン、エタノール、水の順に浸漬し、水和した。
【0028】
図1は、正常体温(A, B)及び低体温処理(C, D)したマウスについて一般的なパラフィン切片を作成し、Citrate buffer 処理の後に代表的な抗リン酸化タウ抗体であるAT8で免疫組織染色した写真図である。A, C は野生型マウス、B, Dはタウノックアウトマウスである。Eは、低体温処理におけるタウのリン酸化についてウエスタンブロッティング法による検証の結果である。体温又は遺伝型にかかわらず、AT8 によるタウ様の染色性は認められなかった。またパラフィン切片を作成後、4% パラホルムアルデヒドによる燻蒸固定を行いドデシル硫酸ナトリウムによる前処理を行った後にAT8による染色を試みたがリン酸化タウの染色性は認められなかった。E左側に示されるように、低体温マウスの脳では明確に AT8 陽性のバンドが認められた。E右側はバンドの輝度を定量化した図である。AT8 による染色は有意に(**, p > 0.01) 上昇していた。以上の結果から、低体温処理によりタウは明らかにリン酸化されているものの、組織学的には検出できていないことが判明した。
【0029】
なお、タウは大脳皮質 (Cor)、海馬(Hp) 等広範に存在するが、とくに海馬 CA3 領域を走行する mossy fiberにおいて強く染色される。また、錐体細胞層をはじめ、神経細胞体からなる構造は染色性が乏しい。これはタウの軸索局在を反映したものである。従って、mossy fiber における正確な染色の有無が、タウの染色の判定基準となる。
【0030】
AT8はタウの 202 番目のセリン及び205 番目のスレオニンがいずれもリン酸化された場合にのみ反応する抗体であり、病態脳に凝集するタウの検出に汎用されている。AT8 による染色を行なった結果、低体温処理を施したマウスにおいてもほとんど染色は認められず、正常体温の野生型マウス、あるいはタウノックアウトマウスとの差異は認められなかった。他の抗リン酸化タウ抗体であるPHF1でもAT8を使用する以外は同様に実験をおこなったが、PHF1の場合でも同様の結果であり、低体温におけるタウの高リン酸化は検出できなかった。一般的に免疫染色性の向上の問題解決には切片を Citrate buffer でオートクレーブすることによって抗原を賦活化させる方法が用いられるが、同抗原賦活化処理により使用した抗体によるリン酸化タウの検出はできなかった。これらの結果から、一般的な方法で作成したパラフィン切片ではリン酸化タウを検出することが極めて困難であることがわかった。なお本実施例で使用する抗体を下記表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
[Fresh frozen section作成までのリン酸化タウの定量]
パラフィン切片では、切片作成までの間に固定、脱水、有機溶媒による透徹、加温パラフィンへの包埋等の複雑なステップを要する。また、このような切片では切片作成後に生化学的手法による解析は不可能となる。これに対し、摘出した脳を速やかに凍結、薄切する新鮮凍結法による切片を作成した。なお新鮮凍結切片の作成は下記手順に従った。即ち、正常又は低体温処理後、マウスより速やかに脳を摘出し、液体窒素上にバランスディッシュ (BIO-RAD) を浮かべ、その上で脳を急冷させた。完全に凍結したのを確認し、 -80℃ で保存した。切片の作成にはクライオスタット (Leica) を用いて、厚さ 15 μm で薄切し、 -80℃ で冷凍保存した。新鮮凍結切片後にもタウのリン酸化が保存されていることをウエスタンブロッティング法により確認した (図2) 。図2は、新鮮凍結法により作成した切片におけるタウのリン酸化の状態を示す図である。(A)は、正常体温及び低体温処理したマウス脳より得られた新鮮凍結切片を可溶化し、表記の抗体を用いてウエスタンブロッティングに供した図である。Anti-Rat Tau (BD Bioscience)はリン酸化に依存しない抗体であり、正常体温のタウに比べ、低体温脳のタウうはバンドが上方にシフトしており、高度にリン酸化されていることがわかる。また AT8, PHF1等の抗リン酸化タウ抗体ではいずれも低体温脳由来のサンプルで強く反応がみとめられ、一方 tau1 等の脱リン酸化型タウに対する抗体では低体温脳では反応性が減弱されていた。これらの結果から、新鮮凍結法で作成後の切片についても低体温によるタウの高リン酸化が保存されていることが判明した。(B)は、各抗体により認識されたバンドの輝度を定量化した図である(n=3,Mean±SEM, **:p<0.01*:p<0.05)。この結果から、脳の摘出から新鮮凍結切片を作成するまでにリン酸化タウは残っていることが分かった。
【0033】
[新鮮凍結切片を用いた免疫染色]
新鮮凍結切片の作成までにリン酸化タウが残っていることが分かったため、組織固定法について検討した。その結果、灌流固定と同様に4%パラホルムアルデヒド溶液に組織切片を浸漬した固定では染色性は認められなかった。従って、よりマイルドな組織固定を狙い4%パラホルムアルデヒド溶液(4g/mLパラホルムアルデヒド)をもちいた燻蒸法による固定を行なった。即ち、ガラス製染色バット内にプロワイプ (エリエール) 3 枚を敷き、30 mLの4% パラホルムアルデヒド in PBS を吸収させた。60℃加温し、作成した新鮮凍結切片を並べ密閉して 30分燻蒸固定を行なった。さらにウエスタンブロッティングによる生化学的解析の条件に近づけるため、燻蒸固定後の組織を ドデシル硫酸ナトリウムサンプルバッファーに浸し、リン酸化タウの立体構造を変化させることで、検出を試みた。なお本実施例で使用する変性剤の組成と変性条件を下記表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
その結果、AT8では低体温マウス脳において、海馬CA3 領域の mossy fiber を中心とした染色がみとめられた(図3) 。図3は、新鮮凍結切片作成後の固定法の検討結果を示す図である。新鮮凍結切片について、4% パラホルムアルデヒドを用いて浸漬法 (A, B)、燻蒸法 (C, D) による後固定をおこなった後に AT8抗体による組織染色を行なった。正常体温マウス (A, C) と低体温マウス (B, D) を比較すると、浸漬法で固定化した後にドデシル硫酸ナトリウムサンプルバッファーで処理した場合は、ともに染色性は認められないのに対し、燻蒸法で固定化した後に ドデシル硫酸ナトリウムサンプルバッファーで処理した場合は、ともにmossy fiber におけるAT8陽性のリン酸化タウが認められた(矢印及び挿入図)。
【0036】
AT8抗体を使用する以外は、同様に、新鮮凍結切片作成後、4% パラホルムアルデヒドを用いて燻蒸法による後固定をおこなった後にPHF1抗体による組織染色を行なったところ、正常体温マウス及び低体温マウスともにリン酸化タウが認められた。
【0037】
さらに、AT8抗体を使用する以外は、同様に、新鮮凍結切片作成後、4% パラホルムアルデヒドを用いて燻蒸法による後固定をおこなった後抗脱リン酸化型タウ抗体であるTau1抗体による組織染色を行なったところ、正常体温でタウが染まり、低体温の切片でもその染色やや減少するもののタウの染色性が認められた(図4)。即ち、PBSで脱血したのち、新鮮凍結切片/4% パラホルムアルデヒド燻蒸法による固定後、さらにドデシル硫酸ナトリウムサンプルバッファー処理をおこなった後にtau1抗体による組織染色を行なった。tau1では正常体温の生型マウスで認められるタウ様の染色が低体温処理により減弱しているものの、正常体温マウス及び低体温マウスともに脱リン酸化タウが認められた。図4は、本発明組織染色法によるTau1抗体を用いた脱リン酸化タウの検出を示す図である。aは正常体温での染色性を示す図であり、bは低体温での染色性を示す図である。
【0038】
これらの結果から、新鮮凍結切片と燻蒸固定の組み合わせという比較的弱い強度の組織固定、及びサンプルバッファーを用いたタンパク質変性処理が組織染色におけるタウリン酸化の正確な解析に重要であることが考えられた。このような染色は4% パラホルムアルデヒドによる灌流固定後に凍結切片を作成しても再現されなかったことから、新鮮凍結切片と燻蒸固定、サンプルバッファー処理が必須であると判断した。
【0039】
[組織染色前処理に用いる変性剤の検討]
本法によるリン酸化タウの染色には一般的なウエスタンブロッティング法に用いられるドデシル硫酸ナトリウムサンプルバッファーによる処理が必要である。この ドデシル硫酸ナトリウムサンプルバッファーには界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムと還元剤である 2-mercaptoethanol (2-ME) が含まれる。これらの効果を判定する目的で、サンプルバッファー中の ドデシル硫酸ナトリウム、 2-ME をそれぞれ抜いた溶液を作成し、AT8 染色性への効果について検証した (図5)。
【0040】
図5は、免疫染色の前処理におけるドデシル硫酸ナトリウムの重要性を検討した図である。低体温マウスより作成した新鮮凍結切片/燻蒸固定切片について(A)処理無後にAT8での抗体染色、(B)ドデシル硫酸ナトリウムサンプルバッファー処理後にAT8での抗体染色、(C)ドデシル硫酸ナトリウムのみを除いたサンプルバッファー処理後にAT8での抗体染色、(D)2-mercaptoethanolのみを除いたサンプルバッファー処理後にAT8での抗体染色を行なった結果を示す図である。ドデシル硫酸ナトリウムを含むサンプルバッファーで処理した時のみ明確な AT8の染色が認められた。新鮮凍結切片/燻蒸固定で調整した切片であっても AT8 による染色には ドデシル硫酸ナトリウムサンプルバッファー処理が必須であり、ドデシル硫酸ナトリウムを除去すると効果が消失することから、ドデシル硫酸ナトリウムがこの効果をもたらしていることが判明した。
【0041】
ドデシル硫酸ナトリウムは代表的なイオン性界面活性剤であり、強い界面活性作用による可溶化とともにタンパク質の構造変性作用がある。ドデシル硫酸ナトリウムと同様、あるいは関連する複数の界面活性剤及びタンパク質変性剤について AT8 染色性についての検証を行った(図6)。
【0042】
図6は組織染色前処理に用いる変性剤の比較検討を示す図である。低体温マウスより作成した新鮮凍結切片/燻蒸固定切片について (A)1% ドデシル硫酸ナトリウム、 (B)1% N-ラウロイルサルコシンナトリウム、(C)RIPA バッファー、(D)8M Urea、 (E)2M Urea、(F)6M Guanidin HCl で処理した後に AT8 での抗体染色を行なった。この結果、ドデシル硫酸ナトリウム, N-ラウロイルサルコシンナトリウム等のイオン性界面活性剤が有効であり、ドデシル硫酸ナトリウムを含む RIPA バッファーにおいても効果が認められた。一方、Urea、Guanidin HCl のようなカオトロピックイオン類のタンパク質変性剤については効果が認められなかった。このように抗体染色前に、燻蒸固定された組織にドデシル硫酸ナトリウム、N-ラウロイルサルコシンナトリウム、又は、RIPA バッファー等のイオン性界面活性剤を含浸させる前処理工程が必須であることが判明した。
【0043】
以上の結果から、リン酸化タウの組織学的検出法として有用性が認められた方法は、新鮮凍結切片と燻蒸固定の組み合わせ、さらに前処理としてイオン性界面活性剤に浸漬する方法であるとした。
【0044】
2.本発明試験例
下記に本発明のリン酸化タンパク質の組織学的検出方法の試験例を記載する。
【0045】
2-1.脱血工程
解析対象とするマウスを麻酔後、解剖台に固定、開腹し、心臓を露出させた。ペリスタポンプ等のチューブの先に 27G の注射針をつなぎ、露出した心臓の左心室に刺して右心房を切開した。左心室に刺した注射針にペリスタポンプから Phosphate buffered saline (PBS: 137 mM NaCl 、 2.7mM KCl 、 7 mM Na2HPO4、 1.47 mM KH2PO4, pH7.4) を灌流し、右心房の切開箇所から血液を流出させた。
【0046】
2-2.凍結切片作成工程
脱血後、速やかに脳を摘出し、液体窒素上に浮かべたバランスディッシュ上で脳を急冷凍結させた。完全に凍結したのを確認し、-80℃ で保存した。切片の作成にはクライオスタット (Leica) を用いて、厚さ 15 μm で薄切し、MAS コートが施されたスライドグラス上に貼付、乾燥させた後に -80℃ で冷凍保存した。
【0047】
2-3.燻蒸固定工程
ガラス製染色バット内にプロワイプ (エリエール) 3 枚を敷き、30 mLの4% パラホルムアルデヒドを吸収させ、60℃ に設定したホットプレート上であらかじめ十分加温する。 ここに2-2で作成した新鮮凍結切片を並べ、60℃、30分の条件で固定(燻蒸固定)を行った。固定後、水で 5 分間洗浄した。
【0048】
2-4.イオン性界面活性剤を含浸させる前処理工程
燻蒸固定後の組織について、ドデシル硫酸ナトリウムサンプルバッファー ( 2% (w/v) ドデシル硫酸ナトリウム、80mM Tris pH6.8 、 10% (w/v) Glycerol 、 1% (v/v) 2-Mercaptoethanol (2-ME) )、又は、1% ドデシル硫酸ナトリウム, 1% N-ラウロイルサルコシンナトリウム含有 Tris buffered saline (TBS; 50mM Tris-HCl pH7.6 、152mM NaCl)、もしくは RIPA バッファー (50mM Tris pH7.6、 150mM NaCl、1% Nonidet P40、 0.5% (w/v) Sodium Deoxycholate、 0.1% (w/v) ドデシル硫酸ナトリウム)等のイオン性界面活性剤含有緩衝液に 5 分間浸した。その後、蒸留水で 5 分間洗浄した後、 TBS で 5 分間洗浄した。
【0049】
2-4.抗体染色工程
組織をPAPPEN (大同産業) でマーキングし、 10% Goat serum in TBS で 60 分間ブロッキングした。ブロッキング後、各種1次抗体を添加した 1% Bovine serum albumin (BSA) in TBSを加え一晩反応させた。その後 0.1% の Tween20 を加えたTBS (TBS-T) で 5 分 × 4 回洗浄し、1% Bovine serum albumin (BSA) in TBSで希釈した二次抗体を 2 時間反応させた。反応後 TBS-T で 5 分× 4 回洗浄しABC 溶液(Avidin-Biotin-Complex; VECTOR LABORATORIES) で 30 分間反応させた。
【0050】
TBS-T で 5 分間洗浄後 0.4 mg/mL Diaminobenzidine (DAB), 0.1% 過酸化水素を加えた TBS 中で発色させた。発色を確認後、ヘマトキシリンに約 10 秒間浸し、核染色を行った。染色後、水で 5 分間洗浄し、エタノール、キシレンの順にそれぞれ5 分間 × 3 回浸し封入した。
【0051】
【表3】
【0052】
試験例1に示されるように4% パラホルムアルデヒドによる灌流固定後に凍結切片を作成してもリン酸化タウの染色性は認められなかった。またパラフィン切片作成後に燻蒸固定工程及び前処理工程を経て抗体染色をしてもリン酸化タウの染色性は認められなかった。試験例4,9,10及び11に示されるように、凍結切片作成及び燻蒸固定工程だけでは抗体染色をしてもリン酸化タウの染色性は認められなかった。図3に示されたように、凍結切片作成及び前処理工程だけでは抗体染色をしてもリン酸化タウの染色性は認められなかった。しかしながら試験例2,3,5,6,7及び8に示されるように、凍結切片作成後に燻蒸固定工程及び前処理工程を経て抗体染色をすることによりリン酸化タウの染色性は明瞭に認められた。
【0053】
2-5.リン酸化タウ以外のリン酸化タンパク質への応用
正常体温(37°C)又は低体温(< 30°C)処理を施したマウス(いずれも10~14週齢で雌雄両方を用いた。)につき、麻酔後、解剖台に固定、開腹し、心臓を露出させた。露出した心臓の左心室に刺した注射針にペリスタポンプから Phosphate buffered salineを灌流し血液を流出させた。
【0054】
脱血後、速やかに脳を摘出し、液体窒素上に浮かべたバランスディッシュ上で脳を急冷凍結させた。完全に凍結したのを確認し、-80℃ で保存した。切片の作成にはクライオスタット (Leica) を用いて、厚さ 15 μm で薄切し、MAS コートが施されたスライドグラス上に貼付、乾燥させた後に -80℃ で冷凍保存した。
【0055】
ガラス製染色バット内にプロワイプ (エリエール) 3 枚を敷き、30 mLの4% パラホルムアルデヒドを吸収させ、60℃ に設定したホットプレート上であらかじめ十分加温する。ここに前述の作成した新鮮凍結切片を並べ、60℃、30分の条件で固定(燻蒸固定)を行った。固定後、水で 5 分間洗浄した。
【0056】
燻蒸固定後の組織について、ドデシル硫酸ナトリウムサンプルバッファーに5分間浸した。その後、蒸留水で 5 分間洗浄した後、TBSで5分間洗浄した。
【0057】
GSK3βのリン酸化を認識する抗体としてCell Signaling Technology 社の Phosphor- GSK3β antibody (#9336)を使用した。また、ERK1/2のリン酸化を認識する抗体としてCell Signaling Technology 社のPhospho-p44/42 MAPK (Erk1/2) (Thr202/Tyr204) Antibody (#9101)を使用した。ドデシル硫酸ナトリウムサンプルバッファーが含浸された組織をこれら抗体にて抗体染色した。
【0058】
図7は、リン酸化タウ以外について本発明の組織学的検出方法を使用した図であり、(A)リン酸化GSK3βについてのウエスタンブロッティング法による写真図、(B)リン酸化GSK3βについての抗体染色による写真図、(C)リン酸化ERK1/2についてのウエスタンブロッティング法による写真図、(D)リン酸化ERK1/2についての抗体染色による写真図である。
【0059】
図7に示されるように、いずれの抗体においても、正常体温処理及び低体温処理でのマウス脳でのリン酸化の亢進が認められた。通常の組織染色法ではこのリン酸化の亢進は検出できず、通常の組織染色法では正常体温処理と低体温処理との染色の差の相違が判明することもない。一方、本発明の組織学的検出方法では、#9336では大脳皮質、海馬、線条体等に染色が見られ、特に脳の灰白質に広範な染色の増強が認められた。また、#9101では海馬CA3領域の苔状線維にシグナルが認められ、低体温による増強が検出できた。以上の結果から、本発明の組織学的検出方法は、リン酸化タウの検出のみならず幅広いリン酸化タンパク質の解析に有用であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
アルツハイマー病の研究、治療薬開発および診断に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7