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特許7315962ガスクロマトグラフィーによる揮発性化学分析のための高速準周囲温度マルチキャピラリカラム予備濃縮システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】ガスクロマトグラフィーによる揮発性化学分析のための高速準周囲温度マルチキャピラリカラム予備濃縮システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/08 20060101AFI20230720BHJP
   G01N 30/60 20060101ALI20230720BHJP
   G01N 30/46 20060101ALI20230720BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20230720BHJP
   G01N 30/32 20060101ALI20230720BHJP
   G01N 30/40 20060101ALI20230720BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20230720BHJP
   G01N 1/40 20060101ALI20230720BHJP
   G01N 30/30 20060101ALI20230720BHJP
   G01N 30/12 20060101ALI20230720BHJP
   G01N 30/14 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
G01N30/08 G
G01N30/60 K
G01N30/46 A
G01N30/72 A
G01N30/32 A
G01N30/40
G01N1/00 101R
G01N1/40
G01N30/30
G01N30/12 J
G01N30/14 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020522372
(86)(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-21
(86)【国際出願番号】 US2018058349
(87)【国際公開番号】W WO2019089688
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-06-01
(31)【優先権主張番号】62/581,459
(32)【優先日】2017-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/175,230
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518320904
【氏名又は名称】エンテック インスツルメンツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(72)【発明者】
【氏名】カーディン, ダニエル ビー.
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0284978(US,A1)
【文献】特表2014-529080(JP,A)
【文献】国際公開第2011/099079(WO,A1)
【文献】特開平11-304784(JP,A)
【文献】特開平06-194351(JP,A)
【文献】特開2003-262625(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02757369(EP,A1)
【文献】特開2016-109298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
G01N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、
0.03インチ(0.076cm)から0.1インチ(0.25cm)の範囲の内径を有する第1のチューブを備える第1のトラップと、
第2のトラップであって、前記第2のトラップが直列に連結された第1のキャピラリカラムと第2のキャピラリカラムを備え、前記第2のトラップが第2のヒーターの内側に位置する、前記第2のトラップと、
圧力制御装置を含む化学分析装置と、
1つ又は複数の冷却システムであって、
第1の期間中に、前記第1のトラップ及び前記第2のトラップを捕捉温度に冷却するように構成され、前記第1のトラップを前記捕捉温度に冷却することにより、化学サンプルの水を気相から固相に直接移動させ、かつ前記化学サンプルの1つ又は複数の水溶性化合物が前記第1のトラップを通過することを可能とする、前記冷却システムと、
前記第1の期間中に、前記化学サンプルの1つ又は複数の化合物を前記第1のトラップ及び前記第2のトラップに移し、前記化学サンプルの前記1つ又は複数の化合物を前記第2のトラップの前記第1のキャピラリカラムから前記第2のトラップの前記第2のキャピラリカラムに移すことを含み、記水の一部を前記第2のトラップに移送することなく、前記化学サンプルの前記水の一部を前記第1のトラップに移送する、第1の方向のキャリアガスのフロー及び流量を制御するように構成される流量制御装置であって、
前記化学分析装置の前記圧力制御装置が、前記第1の期間の後の第2の期間中に、前記水の一部を前記第1のトラップから前記化学分析装置に移送することなく、前記化学サンプルの前記1つ又は複数の化合物を前記第2のトラップから前記化学分析装置に移送し、前記化学サンプルの前記1つ又は複数の化合物を前記第2のトラップの前記第2のキャピラリカラムから前記第2のトラップの前記第1のキャピラリカラムを通り前記化学分析装置に移すことを含み、前記第1の方向とは反対の第2の方向へのキャリアガスのフローを促進するように構成される、前記流量制御装置と、を備え、前記第2のヒーターが、
前記第2の期間中、前記第2のトラップを脱離温度に加熱するように構成される、システム。
【請求項2】
前記化学サンプルの前記1つ又は複数の化合物を第2のトラップから前記化学分析装置に移した後に、前記化学サンプルの前記水の一部が前記第1のトラップから除去される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記化学サンプルの前記1つ又は複数の化合物を前記第2のトラップに移した後、及び前記化学サンプルの前記1つ又は複数の化合物を前記第2のトラップから前記化学分析装置に移送する前に、前記流量制御装置が、前記水の一部を前記第1のトラップから前記第2のトラップに移送することなく、前記化学サンプルの1つ又は複数の化合物を前記第1のトラップから前記第2のトラップに移送するため、キャリアガスのスイープフローを前記第1の方向に制御するように更に構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
第1のヒーターを更に備え、前記第1のトラップが前記第1のヒーター内に位置し、前記流量制御装置が、前記第1の方向に前記スイープフローを制御している間に、前記第1のヒーターが、前記第1のトラップを、前記捕捉温度よりも高く、且つ前記第1のトラップにおいて前記水の一部を保持するのに十分低いスイープ温度まで加熱するように構成されている、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記捕捉温度が摂氏-60度~摂氏0度の範囲であり、前記脱離温度が摂氏100度~摂氏250度の範囲である、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記化学分析装置が、ガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記第2のトラップに流体連結された弁及び流量制限装置と、
第1のヒーターとを更に備え、
前記第1のトラップが、前記第1のヒーター内に位置し、
前記第1のヒーター及び前記第2のヒーターが、前記第1のトラップ及び前記第2のトラップを、前記第2の期間の後の第3の期間中に、前記捕捉温度よりも高いベークアウト温度に加熱するように更に構成され、
前記弁及び前記流量制限装置が、前記第3の期間中に、前記第2のトラップ及び前記第1のトラップを通る前記第2の方向のフローを制御するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記1つ又は複数の冷却システムが、電子冷却システム、フロン系冷却システム、液体二酸化炭素冷却システム又は液体窒素冷却システムのうちの1つ又は複数を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
方法であって、
第1の期間中に、1つ又は複数の冷却システムで、第1のトラップ及び第2のトラップを捕捉温度まで冷却する工程であって、前記第1のトラップが、0.03インチ(0.076cm)から0.1インチ(0.25cm)の範囲の内径を有する第1のチューブを備え、前記第2のトラップが、直列に連結された第1のキャピラリカラムと第2のキャピラリカラムを備え、第2のヒーター内に配置され、前記第1のトラップを前記捕捉温度に冷却することにより、化学サンプルの水を気相から固相に直接移動させ、かつ前記化学サンプルの1つ又は複数の水溶性化合物が前記第1のトラップを通過することを可能とする、工程と、
前記第1のトラップ及び前記第2のトラップが前記捕捉温度にある間に、前記化学サンプルの1つ又は複数の化合物を前記第2のトラップの前記第1のキャピラリカラムから前記第2のトラップの前記第2のキャピラリカラムに移すことを含む、前記化学サンプルの前記1つ又は複数の化合物を前記第1のトラップ及び前記第2のトラップに移送する工程であって、
前記化学サンプルが、前記化学サンプルの前記1つ又は複数の化合物が前記第2のトラップに移送される間、前記第2のトラップに移送されることなく前記第1のトラップ内に残留する前記水の一部を含み、
前記化学サンプルの前記1つ又は複数の化合物の前記第1のトラップ及び前記第2のトラップへの移送が、流量制御装置を用いて、第1の方向にフローを制御することを含む、工程と、
前記第1の期間の後の第2の期間中に、前記第2のヒーターを用いて、前記第2のトラップを脱離温度に加熱する工程、及び
前記化学サンプルの前記1つ又は複数の化合物を前記第2のトラップの前記第2のキャピラリカラムから前記第2のトラップの前記第1のキャピラリカラムを通り化学分析装置に移すことを含む、前記化学サンプルの前記1つ又は複数の化合物を前記第2のトラップから前記化学分析装置に移送する工程であって、前記化学サンプルの前記1つ又は複数の化合物を前記第2のトラップから前記化学分析装置への移送が、前記第1のトラップから前記化学分析装置に前記水の一部を移送することなく、前記化学分析装置の圧力制御装置を用いて前記第1の方向とは反対の第2の方向にフローを促進することを含む、工程、を含む方法。
【請求項10】
前記化学サンプルの前記1つ又は複数の化合物を、第2のトラップから前記化学分析装置に移送した後に、前記化学サンプルの前記水の一部を前記第1のトラップから除去すること、を更に備える、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記化学サンプルの前記1つ又は複数の化合物を前記第2のトラップに移送した後、及び前記化学サンプルの前記1つ又は複数の化合物を前記第2のトラップから前記化学分析装置に移送する前に、前記流量制御装置を用いて、前記第1のトラップから前記第2のトラップへの前記水の一部を移送することなく、前記第1のトラップから前記第2のトラップに前記化学サンプルの前記1つ又は複数の化合物を移送するため、前記第1の方向にスイープフローを制御することを更に備える、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記流量制御装置が、前記第1の方向にスイープフローを制御する間、第1のヒーターを用いて、前記第1のトラップを、前記捕捉温度よりも高く、且つ前記第1のトラップにおいて前記水の一部を保持するのに十分に低いスイープ温度まで加熱することを更に備え、前記第1のトラップが前記第1のヒーター内に位置する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記捕捉温度が摂氏-60度~摂氏0度の範囲であり、前記脱離温度が摂氏100度~摂氏250度の範囲である、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記化学分析装置が、ガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計を備える、請求項9記載の方法。
【請求項15】
前記第2の期間の後の第3の期間中に、
第1のヒーターを用いて、前記第1のトラップを前記捕捉温度よりも高いベークアウト温度まで加熱する工程であって、前記第1のトラップが前記第1のヒーター内に位置する、工程と、
前記第2のヒーターを用いて、前記第2のトラップを前記ベークアウト温度に加熱する工程と、及び
弁及び前記第2のトラップに流体連結されている流量制限装置を用いて、前記第2のトラップ及び前記第1のトラップを通る前記第2の方向にフローを制御する工程、を更に備える、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記1つ又は複数の冷却システムが、電子冷却システム、フロン系冷却システム、液体二酸化炭素冷却システム、又は液体窒素冷却システムのうちの1つ又は複数を備える請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、その開示全体が全ての目的のため全体において引用することで本明細書の一部をなす、2017年11月3日付で出願された米国仮特許出願第62/581,459号の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
これは、サンプルの予備濃縮、より詳しくは、マルチキャピラリカラムトラッピングシステム(MCCTS:multi-capillary column trapping system)を用いて低温で捕捉する前にサンプルから水を除去するサンプル予備濃度のためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ガスクロマトグラフィー(GC)は、典型的には、サンプル内の化学物質がGC注入前に予備濃縮されていない限り、サンプル中で少なくとも20PPBvの濃度で生じる標的化合物に限定される定量分析による気相化学物質の分析を提供する。多くの用途は、アロマ、芳香、又は臭気を含有する化合物の分析時に嗅覚検出限界に達するため、0.001PPB程度の低濃度の化学物質の分析を必要とする。また、空気中の多くの化学物質は、0.002PPB~0.02PPB程度の低レベルで健康リスクを生じさせることが見出され、これらの化合物の監視は、屋内及び屋外の両方の健康な環境を確保するためにより重要となりつつある。最後に、多くの極性及び非極性のVOCは、都市大気におけるオゾン生成に影響を及ぼすことが知られているため、それらの監視は、規制未達成地域におけるオゾンの濃度を低減しようとする戦略を作り出すために必要とされる。
【0004】
約-90℃で沸騰するC2炭化水素から約+230℃で沸騰するナフタレン及びC12炭化水素までの範囲の極性及び非極性の両方のVOCを分析するための最も成功したシステムの1つは、冷たい空のトラップを使用してサンプルからほとんどの水蒸気を排除し、続いて-10℃~-60℃に冷却した充填吸着剤トラップに捕捉する、2つのトラップ予備濃縮システムである。第1のトラップは、気体サンプル中の水蒸気を98%まで除去することができ、これは、質量分析計及び他の検出装置の応答も抑制しながら過剰な水がキャピラリGCカラムの性能に影響を及ぼすため重要である。他の化合物はいずれも、それらの非常に低い沸点(空気、CO2、メタン等)のため、又は低~準PPBレベルの化学物質が、なおも-10℃~-60℃でのそれらの飽和点よりもはるかに下方にあることから気相中に留まるため、この第1の脱水段階を通過する。第1の脱水トラップを通過した後、化合物は、対象とする全ての化合物を捕捉する第2の段階に入るが、固定ガスに非常にわずかな保持で通過させる(窒素、酸素、アルゴン、メタン、及び二酸化炭素)。最も一般的な充填トラップ吸着剤はTenax TAであるが、他の吸着剤も使用されている。
【0005】
低温トラップ脱水及び低温吸着剤捕捉のこの組み合わせは、多くの場合、良好に機能するが、幾つかの欠点を有する。最初に、低温充填トラップは、吸着されたサンプルを非常にゆっくりと放出するため高速キャピラリGCへの急速な注入ができないことから、第3の「収束」段階は、通常、キャピラリGC内への非常に速い注入速度を可能にするために、容積を更に減少させることを必要とする。ピーク広がりは、注入速度が十分に速くないときに発生し、GC分解能の損失及び分析装置の感度の低下を引き起こす。最終の第3段階の収束トラップの使用は、第3段階がコーティングされていないチューブである場合、液体窒素を使用し、対象となる化合物の全範囲を収集するために約-150℃未満の温度を必要とする。低温充填マイクロトラップはまた、-20℃~-60℃の温度でサンプルを「収束」させるために使用されてきたが、これは、別の吸着剤トラップを追加することにより、システム汚染を増加させる場合があり、また一方でシステムの複雑さも増して、したがってその潜在的な信頼性も高まる。捕捉後にサンプルを収束させるには、サンプルスループット速度を減速させる追加時間が必要であり、実験室の生産性に悪影響を及ぼす。
【0006】
第2の問題は、概して充填吸着剤トラップの使用から生じる。気体フローに対する抵抗が大きくなりすぎないように粒子間の十分な体積を可能にするため、これらのトラップには、20メッシュ~100メッシュの範囲の粒子径の吸着剤が充填される。すなわち、充填吸着剤トラップでの100メッシュ未満の粒子の使用はフローを大きく制限して、時間がかかりすぎるか、又はトラップ全体の圧力降下が高すぎて妥当な流量が得られない場合がある。しかしながら、20メッシュ~100メッシュの範囲内の粒子は、より高い濃度を含有するサンプルに曝露された場合には十分に大きく、残留キャリーオーバーを完全に脱ガスするにはしばらくかかることがある。一般に、低濃度ガスが予備濃縮されている場合であっても、必要とされるベークアウト時間は比較的長く、これもまた分析装置の生産性に影響を与える。
【0007】
光C2炭化水素:すなわち、エタン、エチレン、及びアセチレンを損失することなく、サンプルからの二酸化炭素(CO2)及び残留分子窒素の全てを排除しようとする場合に、充填トラップによる第3の問題が生じる。多くの場合、大気中又は室内空気中の500000PPB~1000000PPB(500PPM~1000PPM)である二酸化炭素の存在下で、これらの化合物をPPBレベル未満(sub-part-per-billion level)まで監視する。トラップ内でより大きい粒子径の吸着剤の使用を必要とする充填トラップを使用する場合、揮発性が高いため、C2炭化水素にトラップを突破させることなく、全てのCO2及び残留N2を追い出すことは困難な場合がある。単に、多量のCO2(しばしば、C2炭化水素の濃度の100万倍~1000万倍)及びN2(空気中、7億8000万PPB)のため、並びに粒子径が大きな吸着剤から全てのCO2及びN2を追い出すことが難しいため、かなりの量のCO2及びN2が残り、GC又はGCMSに同時に注入されて、エチレン及びN2はいずれも28amuの分子量を有し、CO2は質量分析計で分解してかなりの質量の28amuイオン(CO)も生じることから、クロマトグラフィー及び質量分析の検出の両方で問題を引き起こし、そのため残留するN2及びCO2の両方が低レベルのエチレン測定に干渉して、バックグラウンド干渉を引き起こす可能性がある。過剰なCO2はまた、C2炭化水素を分離するためのより一般的なカラムの1つであるAl2O3 PLOTカラムを害することもあるため、比較的完全な排除が必須である。
【0008】
充填トラップの使用に関する最終的な問題はまた、「チャネリング」と呼ばれる現象によって引き起こされる。吸着剤が加熱されると、ほとんどの固体のように膨張し、冷却されると収縮する。冷却されると、吸着剤の内部に形成されたチャネル又は間隙は、捕捉する間に、気体フローがこれらのより低いインピーダンス流路を好むようにすることができ、化学物質を望まれるよりも更にトラップ内に浸透させることができる。更に、サンプルがトラップに到達すると、特に揮発性がより低い化合物について、分析中の回収率が低くなる。これらのチャネルは、1つの冷却及び捕捉事象から次へと異なって形成される傾向があるため、トラップへの浸透の程度が変化し、回収及び分析システムの一貫性に影響を及ぼす。
【発明の概要】
【0009】
これは、サンプルの予備濃縮、より詳しくは、マルチキャピラリカラムトラッピングシステム(MCCTS:multi-capillary column trapping system)を用いて低温で捕捉する前にサンプルから水を除去するサンプル予備濃度のためのシステム及び方法に関する。開示されるアプローチは、ガスクロマトグラフ(GC)への注入に先立って、それらの体積を減らすため-100℃~230℃超の沸点を有する揮発性化学物質を含有する気相サンプルを予備濃縮する。2つの別個のトラップ:サンプル内のほとんどの水分(例えば、水蒸気)を凝縮する不活性低温トラップと、複数の段階で構成される第2のキャピラリトラップ(例えば、マルチキャピラリカラムトラッピングシステム(MCCTS))を使用することができ、これらは、C2炭化水素、硫化水素及びホルムアルデヒドを含む、-100℃程度の低沸点化合物の保持を更に高めるために、任意に準周囲温度に冷却される。脱水トラップは、十分な水分を除去して高速キャピラリガスクロマトグラフィーを実施する際の干渉を低減又は排除しながら、質量分析計等のGC検出装置における干渉も低減又は排除する。MCCTSは、回収される化合物の沸点範囲を増加又は最大化するため直列に接続される、強度を増加させる、幾つかの短い(例えば、数インチ~数メートルの長さ)GCキャピラリカラムからなる。幾つかの実施形態では、これらのキャピラリカラムの冷却により、全ての化合物は、ガスクロマトグラフへのスプリットレス注入の前に二次収束が必要とされないほど十分に小さい体積で捕捉することができる。キャピラリトラップのより強い区画で使用される非常に小さい粒子径の収着剤は、任意に以前の充填トラップ技術と比較して、回収された化合物のはるかに速く且つより完全な放出を可能にし、より高い分解能のクロマトグラフィー及びはるかに少ないキャリーオーバーをもたらす。これらの非常に小さい粒子はまた、N2、メタン、及びCO2等のはるかに速い固定ガスの拡散排除を可能にし、これは、充填トラップ中でより大きな粒子を使用する場合よりも、それらの濃度を数百倍速く準PPBレベルまで低下させて、GCカラム上及び質量分析計の検出装置にはるかに少ないバックグラウンド及び干渉を提供する。
【0010】
開示されるシステム及び方法を、0.001PPB~1000PPMの全ての濃度のC2~C12炭化水素、ハロゲン化VOC、酸素、窒素、及び硫黄を含有する極性VOC、並びに多くの他の揮発性、GC適合性化学物質の分析を含む、何十もの用途に使用することができる。特に、他の手法を使用する回収が不十分なホルムアルデヒド及びH2S等の化合物を、開示されるシステムを使用してはるかに良好に回収することが示されている。空気又は他の気体サンプルを捕捉システムに直接導入することができ、又はサンプルを、分析用に実験室に移送するため、真空キャニスター若しくはテドラーバッグ内に最初に採取することができる。他の解決策では、より高濃度のサンプルに曝露された後、あらゆるシステムのバックグラウンドを素早く排除しながら、屋内又は屋外の空気中のそのような完全な範囲の揮発性化学物質のGCMS分析はできない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の幾つかの実施形態による例示的なサンプル濃縮システムを図示する。
【0012】
図2】本開示の幾つかの実施形態による例示的なプロセスを図示する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の説明では、本明細書の一部を形成し、実施され得る具体的な例を例示することによって示される添付図面を参照する。他の例を使用することができ、本開示の実施例の範囲から逸脱することなく、構造的変化を行うことができることを理解されたい。
【0014】
開示されるシステムは、低温トラップ脱水を使用して、第1段階のトラップにおいて水蒸気を除去するが、第2段階では低温充填トラップに代えて、揮発性化学物質を濃縮するために、準周囲温度のマルチキャピラリカラム捕捉システム(MCCTS)を使用する。サンプルを捕捉及び収束させるためのMCCTSの使用は、上記のように、充填トラップに関わる4つの主な問題を排除する。
【0015】
最初に、キャピラリトラップは、より良好な層流を有するより小さい内部容積を持ち、充填トラップよりも熱脱離時の剥離速度が速くなるほど、サンプルの濃縮及び濃度に後続する液体窒素(又は電子的に冷却された)収束トラップを必要としない。低温MCCTSによる捕捉後に更に収束させることなく、直接、スプリットレス注入をGCに行うことができ、時間を節約し、液体窒素のコストを削減し、概してシステムを簡素化することができる。
【0016】
キャピラリカラムに見られる粒子径は、充填トラップに見られるものよりも1000倍小さい典型的な体積を有するため、第2の問題も排除される。これは、粒子がキャピラリカラムの壁をコートするだけであり、カラムの内径の大部分を開けたままにして、圧力低下の少ない合理的な流速を可能にすることから、圧力降下を増加させることなくキャピラリカラムを用いて行うことができる。サンプルをGC又はGCMSに脱離した後、これらのより小さい吸着剤粒子は、システムベークアウト中に、残留化学物質を数百倍早く放出することができ、より短時間でシステムブランクレベルをはるかに良好にすることができる。これは、ランタイムを短縮することなくシステム性能を大幅に向上させる一方で、充填トラップ系システムが、許容可能なブランクレベルを再設定する前に1日~2日間のシステムベークアウトを必要とし得る、高濃度サンプルに偶発的に曝露される場合に経るダウンタイムを排除する。
【0017】
小さい粒子径はまた、典型的な充填トラップ吸着剤粒子の内部堆積のわずか1/1000を有する、より速い粒子のN2及びCO2パージアウトを有する統計的確率に起因して、C2炭化水素の何らかの損失の前に、二酸化炭素及び窒素の有効放出を可能にすることにより、第3の問題を排除する。これは、より良好なクロマトグラフィーを提供し、検出限界を改善するために多くのGC検出装置と共通のバックグラウンド干渉を低減又は排除する。
【0018】
最後に、MCCTSは、収着剤の壁コーティングを有する「開放管状」カラムを含む。開放管状カラムの開放部分の断面は、コーティングの断面よりもはるかに大きい。したがって、トラップが高温であるか低温であるかに関わらず、トラップの開放内径がほぼ同じままであるため、開放管状トラップを使用する場合、吸着剤の膨張及び収縮に起因する充填トラップ内への化合物の更なるチャネリング及び捕捉は起こらない。これにより、これらの捕捉システムの精度が向上し、+/-1%~2%に近づくことができるループ注入又はシリンジ注入で見られる再現性のレベルを達成することができる。
【0019】
MCCTSを低温で使用すると、キャピラリトラップに対する化学物質の吸着親和性が劇的に増加する。温度をおよそ35℃に低下させることにより、トラップは約10倍増加した吸着強度を示すことがわかっている。したがって、-10℃では、トラップは、他の光化合物と共に、C2炭化水素及びホルムアルデヒド等の周囲温度(例えば25℃~35℃)で十分に保持されない化学物質を保持することができる。トラップの製造は、より低温、例えば-40℃であってもトラップをはるかに強くするか、又は-10℃で必要とされるよりもはるかに短いカラムセグメントを可能にすることができる。化学物質が堆積及び保持され得るカラムセグメントが短いほど、GC又はGCMSに速く注入する。また、使用される吸着剤が少ないほど(例えば、カラム長さが短いほど)、高濃度サンプルへの曝露後により早くシステムが浄化する。
【0020】
図1は、本開示の幾つかの実施形態による例示的なサンプル濃縮システム100を図示する。揮発性化学物質を含有する気相サンプル110は、直列に接続された2つのトラップ120及び130を通して引き込まれるか、又は押し通される。幾つかの実施形態では、システム100は、サンプル110、第1のトラップ120、第2のトラップ130、化学分析装置140、流量制御装置及び体積測定システム160、並びにバルブ172を含む。第1のトラップ120は、管材122の一区画を含むことができる。第2のトラップ130は、直列に接続された第1のキャピラリカラム132と、第2のキャピラリカラム134と、第3のキャピラリカラム136とを含むことができる。第1のトラップ120及び第2のトラップ130はそれぞれヒーターを含み、2つのトラップを互いに独立して加熱することができる。各トラップ120及び130を、液体窒素極低温冷却システム又は電子冷却システム等のそれぞれの冷却システムに更に熱的に連結することができ、したがって、互いに独立して冷却することができる。システム100は、システム100の1つ又は複数の構成要素の動作を制御するための非一時的コンピュータ可読媒体上に格納されたソフトウェア及び/又は命令を実行する1つ又は複数のプロセッサ(例えば、コントローラ、マイクロプロセッサ、コンピュータ、コンピュータシステム等)(図示していない)を更に含むことができる。
【0021】
幾つかの実施形態では、第1のトラップ120は、動作されている温度において揮発性化学物質を吸着又は吸収しない不活性の内部表面を有する開放管又はカラム120を含む。管122は、収集された水が流路を遮断しないように十分な大きさを有しなければならないが、管122の内側の十分な直線速度及び最小表面積を維持するのに十分狭い。幾つかの実施形態では、管122は、0.03インチ~0.1インチの内径、1インチ~12インチの長さ、及び20マイクロリットル~50マイクロリットルの容積を有するが、場合によっては、他の内径、長さ及び体積を使用することもできる。第1のトラップ120は、ヒーターを更に含むことができ、液体窒素冷却システム、フロン系冷却、スターリングエンジン、液体CO2、又はペルチェ冷却装置等の電子冷却システム等の準周囲冷却システムによって冷却することができる。サンプル捕捉中、第1のトラップ120は、サンプル110の露点を-40℃~-10℃の範囲のレベルまで減少させ、それにより、水蒸気の95%~99%が残りのサンプルから分離され得て、これがシステム100の第2のトラップ130に進むことができる。水を排除するこの手段は、水のみが、多くの状況において、その飽和点の1.1~10の係数内で典型的には空気又はヘッドスペースサンプル中に存在することから有効である。サンプル中のほとんどの他の化合物は、それらの飽和濃度よりも数千倍低くてもよく、したがって、それらは実質的に冷却され得るが、依然として気相中に留まる。更に、水は気相から固相に直接移動するため、ホルムアルデヒド及びH2S等の非常に水溶性の高い化合物であっても、これらの化合物は液体水に非常に溶けやすいものの、これらの化合物は、同様に固相水と相互作用しないため、第1のトラップ120によって保持されないことから、損失なくトラップを通過することができる。分析に先立って、水蒸気の95%~99%がサンプルから除去される限り、質量分析計を備えるキャピラリガスクロマトグラフ又はその検出装置に顕著に影響することなく、最大1000ccの総サンプル体積を収集することができる。
【0022】
サンプルは、中間スイッチバルブ、ロータリーバルブ、又は圧力制御された「T字」接続部150を通じて、第1のトラップ120から直接第2のトラップ130に流れることができる。幾つかの実施形態では、接続部150は、第1のトラップ120を戻って通過することなく、直接の化学分析装置140(例えば、GC又はGCMS)への第2のトラップ130の逆流を可能にする。幾つかの実施形態では、逆流フローは、5psig~40psigの圧力で清浄な汚染のないパージガスにアクセスするために弁172を開くことによって促進される。第2のトラップ130は、互いに直列に接続された強度を増加させるカラム132、134及び136等の2個~4個のキャピラリカラムを含むことができる。例えば、第1のキャピラリカラム132は最も弱いカラムとすることができ、第3のキャピラリカラム136は最も強いカラムであり得て、第2のキャピラリカラム134は、他のカラムに対して中間の強度を有する。言い換えれば、第3のキャピラリカラム136は、第2のキャピラリカラム134又は第1のキャピラリカラム132よりもサンプルの1つ又は複数の化合物に対してより高い化学親和性を有する。カラム132、134及び136は、約-100℃~230℃超の沸点を有する対象となる全ての化合物を吸収/吸着することができる。この沸点範囲は、C2炭化水素~C12炭化水素の化合物の範囲を包含し、これは、米国環境保護庁(US EPA)がNMOC、すなわち非メタン有機化合物と呼ぶものの範囲である。それらはまた、VOC、又は揮発性有機化合物とも称される。幾つかの実施形態では、より重いサンプル化合物は、最も低い強度を有し得る第1のキャピラリカラム132によって捕捉され得て、一方、より軽いサンプル化合物は、第1のキャピラリカラム132を通過して第2のキャピラリカラム134又は第3のキャピラリカラム136によって捕捉され得る。幾つかの実施形態では、捕捉中のガスの流速は、5cc/分~100cc/分(例えば、10cc/分~30cc/分)の範囲である。
【0023】
カラム132、134及び136は、任意に、加熱マンドレル又はオーブン(図示していない)内に配置されるため、それらは、捕捉中に冷却され、次いで化学分析装置への逆脱離中に加熱され得る。幾つかの実施形態では、捕捉中、第2のトラップ130は、液体窒素冷却システム、フロン系冷却、スターリングエンジン、液体CO2、又はペルチェ冷却装置等の電子冷却システム等の準周囲冷却システムによって冷却される。幾つかの実施形態では、カラムの長さは、各セグメントについてわずか数インチから数メートルにわたる。例えば、第1のカラム132は0.3メートル~1メートルの長さを有するPDMSカラムであってもよく、第2のカラム134は0.3メートル~0.8メートルの長さを有するPLOT Qカラムであってもよく、また第3のカラム136は0.1メートル~0.5メートルの長さを有するPLOT Carboxenカラムであってもよいが、幾つかの実施形態では、第3のカラム136は、C2炭化水素を分析する際には捕捉体積を500cc超まで増加させるためより長く手もよい。幾つかの実施形態では、各カラムは、それを進めるカラムよりも3倍~30倍強力である(例えば、第2のカラム134は、第1のカラム132よりも3倍~30倍強力である等)。一般に、-20℃~-50℃に冷却すると、第2のトラップ130は、単純なファン冷却を使用する場合等、+35℃で動作する場合よりもおよそ100倍強くなる。したがって、幾つかの実施形態では、カラム132、134及び136の長さは、全ての標的VOCを依然として保持しながら、より高い温度(例えば、0℃超、20℃超、35℃超等)で動作する同様の捕捉システムと比較して、より短くすることができる。
【0024】
下流体積測定手法(例えば、マスフロー制御装置であり得る流量制御装置及び体積測定システム160、固定リストリクター及び所与の期間にわたる固定圧力の使用、又は既知の体積リザーバーにおいて所望の圧力変化を得ること等)を使用して収集された体積を測定した後、第1のトラップ120は、(例えば、第1のトラップ120のヒーターを使用して)0℃~+20℃の範囲の温度に加熱され得て、追加の少量(例えば、5cc~40cc)のキャリア流体(例えば、不活性又は非反応性の気体)が、第1のトラップ120内に一時的に吸着されていた対象の任意のVOCを回収することを可能にする。このキャリア流体のフローは、流量制御装置及び体積測定システム160によって制御され得る。非常に少量のキャリア流体を使用することは、第2のトラップ130内の水蒸気の量を著しく増加させず、幾つかのVOCのより完全な回収を生じさせることができる。
【0025】
次いで、第2のトラップ130は、高温(例えば、100℃~250℃)まで流れない条件下で加熱されて、収集された化合物を化学分析装置へとより迅速に放出させることができる。予熱後、キャリア流体は、捕捉された化合物を第2のトラップ130に迂回させて化学分析装置140内に「逆流(back-flush)」させる。逆流の間、フローを、第3のカラム136から第1のカラム132へ接続部150を通して、化学分析装置140に流入させることができる。幾つかの実施形態では、第2のトラップ130から化学分析装置140に1つ又は複数のサンプル化合物を移送する場合。圧力制御装置は、化学分析装置140に含まれるオーブン156の温度、キャリア流体の種類(例えば、ヘリウム又は水素)、化学分離カラム142の長さ及び直径、並びに、接続150と化学分離カラム142の間の化学分離カラム142の入口にある制限装置等の化学分析装置140の1つ又は複数の制限装置の特性に基づいて化学分離カラム142内の圧力を制御することによりフローを促進する。注入中のキャリアガス圧力の急速なランピング(ramping)は、化学物質を圧縮して、より一層速い注入速度を提供し、より狭いオンカラム(on-column)ピーク幅を生じさせて、次からの化学ピークの感度及び分解能を改善することができる。
【0026】
幾つかの実施形態では、第2のトラップ130は、トラップ130(例えば、第3のカラム136等のより強力なカラム)の後側を、トラップ(例えば、第1のカラム132等のより弱いカラム)の前側よりも早く加熱するためにヒーターを構築することによって熱勾配で予熱中に加熱され、これは注入速度も増加し得る。充填トラップは通常1インチ~5インチのベッド長しか含まないのに対し、第2のトラップの2個~4個のカラムを合わせた長さは10インチ~100インチであり得て、熱勾配脱離中に圧縮を得るためのより長い経路長を提供することから、かかる温度勾配は、充填トラップに対する熱勾配の影響よりもはるかに良好に、複数のキャピラリカラムを含むこの第2のトラップ130に作用する。また、トラップ内部の吸着剤は、チューブ自体に長く熱を伝達するのと同じ速さでチューブの中心線に熱を伝達しないことから、急速な温度勾配では、充填トラップ全体を一貫して放射状に加熱することはできない。開放管状カラムの場合、吸着剤又はポリマーコーティングは、管材の内壁上にのみ存在し、ほぼ即座に、それらがコーティングされる管材の温度をとる。第2のトラップ130のキャピラリカラムに使用されるより小さい粒子径は、以前の充填トラップ技術よりも迅速な放出及びより高い分解能のクロマトグラフィーを可能にすることができる。
【0027】
第2のトラップ130から化学分離カラム142にサンプルを移送した後、第1のトラップ120及び第2のトラップ130をベークアウトして逆流させ、過剰な水(例えば、第1のトラップ120から)及び第1のトラップ120又は第2のトラップ130内に残っている任意の残留サンプル化合物を除去することができる。逆流中、フローを、開口弁172によって流入させ、第1のトラップ120及び第2のトラップ130を通るキャリア流体のフローを逆方向(例えば、第2のトラップ130から第1のトラップ120へ)放出する。バルブ172は、例えば、バルブ172を通って放出された5psig~40psigの清浄ガスの圧力を使用する場合、逆流フローを5cc/分~100cc/分に制限するための焼結ステンレス鋼フリット又は臨界オリフィス制限装置を含むことができる。第1のカラム120及び第2のカラム130の温度は、ベークアウト中に100℃~300℃の範囲であり得る。
【0028】
図2は、本開示の幾つかの実施形態による例示的なプロセス200を図示する。プロセス200は、図1を参照して上述したシステム100を使用して実行することができる。幾つかの実施形態では、非一時的コンピュータ可読媒体上に格納されたソフトウェア及び/又は命令を実行する1つ又は複数のプロセッサ(例えば、コントローラ、マイクロプロセッサ、コンピュータ、コンピュータシステム等)(図示していない)は、システム100の1つ又は複数の構成要素の動作を制御して、プロセス200を実行することができる。
【0029】
工程202では、第1のトラップ120及び第2のトラップ130は、電子冷却、フロン系冷却、スターリングエンジン、液体窒素、又は液体CO2のいずれかを使用して、捕捉温度まで冷却される。幾つかの実施形態では、捕捉温度は、各トラップについて-40℃等の0℃~-60℃の範囲である。第1のトラップ120及び第2のトラップ130は、同じ捕捉温度又は異なる捕捉温度まで冷却され得る。
【0030】
工程204では、サンプルは、流量制御装置及び体積測定システム160に至る保持されていない固定ガスによって、第1のトラップ120及び第2のトラップ130に移送される。このようにサンプルを導入する間、流量制御装置及び体積測定システム160は、トラップ120及び130を通って移送される気体の体積を測定することができる。移送された気体は、内部標準ガス、較正ガス若しくは測定されるサンプルであってもよく、又は内部標準若しくは外部標準のGC法を支持するため、及びサンプル分析中に標的化合物のマトリクススパイクを支持するため等の、これらのいずれか又は全ての任意の互いの組み合わせであってもよい。幾つかの実施形態では、捕捉中のガスの流速は、5cc/分~100cc/分(例えば、10cc/分~30cc/分)の範囲である。
【0031】
工程204では、サンプルが第1のトラップ120及び第2のトラップ130に移送される間、過剰な水分を、第1のトラップ120においてサンプル、内部標準、較正標準又は加湿ブランクガスから除去することができる。除去量を温度によって決定することができ、したがって、第1のトラップ120を出るガスの露点によって決定することができる。例えば、第1のトラップ120が-40℃の温度を有する場合、-100℃~+230℃で沸騰する化合物は、依然としてそれらの対応する飽和点を上回ることができることから、1PPM以下の濃度で凝縮されるべきではない。
【0032】
サンプルが第1のトラップ120及び第2のトラップ130に移送される間、-100℃~+230℃で沸騰する化合物は、0℃~-50℃の温度で、第2のトラップ130上に定量的に捕捉され、保持され得る。
【0033】
工程206では、幾つかの実施形態では、第1のトラップ120は「スイープ」されて、第1のトラップ120から第2のトラップ130への水蒸気の移送が最小限に抑えられて、残留する標的化合物を第2のトラップ130に移送する。各気体の容量を収集した後(サンプル、内部標準、キャリブレーション標準、ブランクガス)、第1のトラップ120は、0℃~+20℃等又は幾つかの実施形態では10℃のやや暖かい温度に加熱することができ、これは水蒸気濃度をかなり低く保って、より低い捕捉温度にある間に第1のトラップ120に一時的に吸着した任意の化合物を「スイープ」するために、ヘリウム又は窒素等の非常に少量の追加の不活性ガスを第1のトラップ120から第2のトラップ130へと通過させることができる。幾つかの実施形態では、少量の気体(例えば、5cc~40cc)は、相当量の凝縮水を第2のトラップ130に送達しないが、幾つかの化合物の回収を増加させることができる。第1のトラップ120をスイープするための気体フローは、流量制御装置及び体積測定システム160によって制御され得る。幾つかの実施形態では、「スイープ」ガスの流速は、5cc/分~100cc/分(例えば、5cc/分~20cc/分)の範囲である。
【0034】
工程208では、化学分析装置140は、化学的分離及び検出のためサンプルを受け取る準備ができていることを示す、準備完了(READY)信号を生成する。分析装置140が次の注入の準備ができているとき、第2のトラップ130は、工程210において高温(例えば、100℃~250℃)まで予熱され得る。予熱後、工程212では、キャリアガス(例えば、ヘリウム又は水素ガス)を迂回させて、捕捉された化合物を第2のトラップ130から化学分析装置140へと逆流させ、工程214で分析を開始する。第2のトラップ130から化学分析装置140への気体フローは、上述の化学分析装置140の圧力制御装置によって制御され得る。幾つかの実施形態では、第2のトラップ130から化学分析装置140へのサンプル移送中のガスの流速は、0.3cc/分~3cc/分の範囲である。流速は、任意に、注入開始後に1cc/分~3cc/分まで増加する、0.3cc/分~1cc/分の範囲の初期流速で経時的に増加する。前述したように、キャリア流体圧力の急速な上昇、及び/又は前部よりも早く第2のトラップ130の後部を加熱する熱勾配の使用は、いずれも化学分析装置140へのより速い注入速度を提供することができる。注入速度が速いほど、化学分離カラム142上に存在する化合物はより狭くなり、「分解」するか、又はそれらを互いに分離することがより容易になる。狭いピーク幅はまた、「より高い」ピークをもたらし、それによって信号雑音比を改善して、痕跡量レベル分析にとって重要である、より良好な検出限界を提供し得る。化学分析中、サンプル化合物及びキャリアガス(例えば、水素又はヘリウム)を含むガスは、0.3cc/分~3cc/分の流速で化学分離カラム142を通って移動する。
【0035】
注入後、工程216では、第1のトラップ120及び第2のトラップ130は、短時間で「逆流」方向(例えば、第2のトラップ130から第1のトラップ120へ)にベークアウトされ、次いで冷却されて次のサンプルを処理する。逆方向に第2のトラップ130及び第1のトラップ120を通る(例えば、第2のトラップ130から第1のトラップ120へ)気体の逆流を、流速を5cc/分~100cc/分(例えば、20cc/分~30cc/分)に制限するために、関連するフリット又は臨界オリフィスを用いてバルブ172によって制御することができる。超高純度窒素又はヘリウム等のキャリア流体を、逆流中に使用することができる。
【0036】
システム100は、気相サンプル中のVOC及び類似の化学物質の痕跡量レベル分析を改善又は最適化するために使用することができる。液体又は固体のサンプルの上方にある「ヘッドスペース」はまた、ヘッドスペースが閉じたシステム内で液体又は固体と平衡を達成することを可能にし、続いてヘッドスペースガスを捕捉システムに移送することによって分析することもできる。シリンダーガスを、炭酸飲料を製造するために使用される二酸化炭素中の硫化水素及び他の硫黄種等の不純物について試験することができる。精錬所のプロセスストリームは、オンラインで、又は収集容器若しくはバッグを使用することによって、痕跡量レベルの不純物について試験することができる。食品、飲料、及び全ての消費者製品を特性評価する際に、アロマ、フレーバー、芳香、及び臭気化合物の分析中に、低い検出限界を得ることができる。
【0037】
本発明の非常に重要な1つの用途は、年空気においてオゾン生成を増加させることが知られている毒性化学物質及び化学物質に関する、外気、室内空気、土壌ガス、埋立ガス、及び排煙において環境的に収集されたサンプルの分析の改善に対するものである。これらのサンプルは、予備濃縮システム及びGC若しくはGCMSに直接導入されてもよく、又はサンプルは、テドラーバッグ(Tedlar bag)に収集されてもよく、又はUS EPA法TO15、中国法HJ759-2015、及びその他に記載されているような真空サンプリングキャニスターを使用することができる。古典的な充填トラップと比較して、直列に接続された複数のキャピラリカラム132、134及び136を含む、第2のトラップ130内の小粒子によって提供されるより低いブランクレベルは、はるかに速く浄化し汚染レベルを低下させるそれらの能力の結果であり、今日の高感度質量分析計を使用する検出限界をより低くする。これらの導入システムの最終的な検出限界は、一般に、それらがどの程度清浄であるか;すなわち、それらの化学的バックグラウンドレベルによって制限される。「化学ノイズ」を減少させることにより、システムはより大きな「信号雑音比」を即座に達成することができ、これは、任意の化学分析装置の検出限界を最終的に決定する。
【0038】
したがって、上記によれば、幾つかの実施形態では、システムは、第1のチューブを備える第1のトラップと、第2のトラップであって、第2のトラップが直列に連結された複数のキャピラリカラムを備え、第2のトラップが第2のヒーターの内側に位置し、第2のヒーターが、第2の期間中、第2のトラップを脱着温度に加熱するように構成される、第2のトラップと、圧力制御装置を含む化学分析装置と、第2の期間に先立って第1の期間中に、第1のトラップ及び第2のトラップを捕捉温度まで冷却するように構成された1つ又は複数の冷却システムと、第1の期間中に、化学サンプルの1つ又は複数の化合物を第1のトラップ及び第2のトラップに移送し、化学サンプルの水の一部を第2のトラップに移送することなく、水の一部を第1のトラップに移送する第1の方向にキャリアガスのフロー及び流量を制御するように構成される流量制御装置とを備え、化学分析装置の圧力制御装置は、第2の期間中に水の一部を第1のトラップから化学分析装置に移送することなく、化学サンプルの1つ又は複数の化合物を第2のトラップから化学分析装置に移送する第1の方向と反対の第2の方向にキャリアガスのフローを促進するように構成されている。追加的に又は代替的には、幾つかの実施形態では、サンプルの1つ又は複数の化合物を第2のトラップから化学分析装置に移送した後に、化学サンプルの水の一部を第1のトラップから除去する。追加的に又は代替的に、幾つかの実施形態では、流量制御装置は、化学サンプルの1つ又は複数の化合物を第2のトラップに移送した後、及び化学サンプルの1つ又は複数の化合物を第2のトラップから化学分析装置に移送する前に、第1のトラップから第2のトラップへと水の一部を移送することなく、サンプルの1つ又は複数の化合物を第1のトラップから第2のトラップに移送するため、第1の方向にキャリアガスのスイープフローを制御するように更に構成されている。追加的又は代替的には、幾つかの実施形態では、システムは第1のヒーターを更に備え、第1のトラップは第1のヒーター内に位置し、第1のヒーターは、流量制御装置が、第1の方向にスイープフローを制御している間に、第1のトラップを捕捉温度よりも高く、且つ第1のトラップにおいて水の一部を保持するのに十分に低いスイープ温度まで加熱するように構成されている。追加的に又は代替的には、幾つかの実施形態では、第2のトラップの複数のキャピラリカラムが、第1の強度を有する第1のキャピラリカラムと、第1の強度よりも大きい第2の強度を有する第2のキャピラリカラムとを備え、第1のキャピラリカラムが、第1のトラップと第2のキャピラリカラムとの間にある。追加的に又は代替的に、幾つかの実施形態では、捕捉温度は摂氏-60度~摂氏0度の範囲であり、脱離温度は摂氏100度~摂氏250度の範囲である。追加的に又は代替的には、幾つかの実施形態では、化学分析装置は、ガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計を備える。追加的に又は代替的に、幾つかの実施形態では、システムは、第2のトラップに流体連結された弁及び流量制限装置と、第1のヒーターとを更に備え、第1のトラップが第1のヒーターに位置し、第1のヒーター及び第2のヒーターは、第1のトラップ及び第2のトラップを、第2の期間の後の第3の期間中に捕捉温度よりも高いベークアウト温度まで加熱するように更に構成され、弁及び流量制限装置は、第3の期間中に、第2のトラップ及び第1のトラップを通る第2の方向のフローを制御するように構成されている。追加的に又は代替的に、幾つかの実施形態では、1つ又は複数の冷却システムは、電子冷却システム、フロン系冷却システム、液体二酸化炭素冷却システム又は液体窒素冷却システムのうちの1つ又は複数を備える。
【0039】
追加的に又は代替的には、幾つかの実施形態では、方法は、1つ又は複数の冷却システムを用いて、第1のトラップ及び第2のトラップを捕捉温度まで冷却する工程であって、第1のトラップが第1のチューブを備え、第2のトラップが直列に連結されて第2のヒーター内に位置する複数のキャピラリカラムを備える、工程と、第1のトラップ及び第2のトラップが捕捉温度である間に、化学サンプルの1つ又は複数の化合物を第1のトラップ及び第2のトラップに移送する工程であって、化学サンプルが、化学サンプルの1つ又は複数の化合物が第2のトラップに移送される間に、第2のトラップに移送されることなく第1のトラップに残留する水の一部を含み、化学サンプルの1つ又は複数の化合物を第1のトラップ及び第1のトラップへの移送が、流量制御装置を用いて第1の方向にフローを制御することを含む、工程と、第2のヒーターを用いて第2のトラップを脱離温度まで加熱する工程と、及び化学サンプルの1つ又は複数の化合物を第2のトラップから化学分析装置に移送する工程であって、化学サンプルの1つ又は複数の化合物の第2のトラップから化学分析装置への移送が、第1のトラップから化学分析装置に水の一部を移送することなく、化学分析装置の圧力制御装置を用いて第1の方向とは反対の第2の方向にフローを促進することを含む工程を含む。追加的に又は代替的に、幾つかの実施形態では、方法はサンプルの1つ又は複数の化合物を、第2のトラップから化学分析装置に移送した後に、化学サンプルの水の一部を第1のトラップから除去することを更に含む。追加的に又は代替的に、幾つかの実施形態では、方法は、化学サンプルの1つ又は複数の化合物を第2のトラップに移送した後、及び化学サンプルの1つ又は複数の化合物を第2のトラップから化学分析装置に移送する前に、流量制御装置を用いて、第1のトラップから第2のトラップへと水の一部を移送することなく、サンプルの1つ又は複数の化合物を第1のトラップから第2のトラップに移送するために、第1の方向にスイープフローを制御する工程を更に含む。追加的又は代替的には、幾つかの実施形態では、方法は、流量制御装置が、第1の方向にスイープフローを制御する間、第1のヒーターを用いて、第1のトラップを捕捉温度よりも高く、且つ第1のトラップにおいて水の一部を保持するのに十分に低いスイープ温度に加熱することを更に含み、第1のトラップは第1のヒーター内に位置する。追加的に又は代替的には、幾つかの実施形態では、第2のトラップの複数のキャピラリカラムが、第1の強度を有する第1のキャピラリカラムと、第1の強度よりも大きい第2の強度を有する第2のキャピラリカラムとを備え、第1のキャピラリカラムが、第1のトラップと第2のキャピラリカラムとの間にある。追加的に又は代替的に、幾つかの実施形態では、捕捉温度は摂氏-60度~摂氏0度の範囲であり、脱離温度は摂氏100度~摂氏250度の範囲である。追加的に又は代替的には、幾つかの実施形態では、化学分析装置は、ガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計を備える。追加的に又は代替的には、幾つかの実施形態では、方法は、第2の期間の後の第3の期間中に、第1のヒーターを用いて、第1のトラップを、捕捉温度よりも高いベークアウト温度に加熱する工程であって、第1のトラップが第1のヒーター内に位置する、工程と、第2のトラップを、第2のヒーターを用いてベークアウト温度に加熱する工程と、及び弁及び第2のトラップに流体連結されている流量制限装置を用いて、第2のトラップ及び第1のトラップを通る第2の方向にフローを制御する工程、を更に含む。追加的に又は代替的に、幾つかの実施形態では、1つ又は複数の冷却システムは、電子冷却システム、フロン系冷却システム、液体二酸化炭素冷却システム又は液体窒素冷却システムのうちの1つ又は複数を備える。
【0040】
添付の図面を参照して実施例を完全に説明してきたが、様々な変更及び修正が当業者には明らかとなることに留意されたい。かかる変更及び修正は、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の実施例の範囲内に含まれるものとして理解されるべきである。
図1
図2