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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】Aβタンパク質特異的産生抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/10 20060101AFI20230720BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230720BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
A61K38/10 ZNA
A61P25/28
C07K7/08
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020538387
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2019032345
(87)【国際公開番号】W WO2020040106
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2018154788
(32)【優先日】2018-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、脳科学研究戦略推進プログラム「血漿Aβによるアルツハイマー病バイオマーカー探索と脳内Aβ動態解析」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】舟本 聡
(72)【発明者】
【氏名】延原 美香
(72)【発明者】
【氏名】河村 聖子
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/108780(WO,A1)
【文献】Nat Commun,2013年,Vol.4,2529
【文献】Molecular Neurodegeneration,2012年,Vol.7, Suppl 1,L9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61P 25/28
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)を含み、βセクレターゼ及び/又はγセクレターゼの活性を阻害することを特徴とするAβタンパク質特異的産生抑制剤。
【請求項2】
配列番号1に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)を含み、βセクレターゼの活性を阻害することを特徴とするAβタンパク質特異的産生抑制剤。
【請求項3】
配列番号1に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)を含み、γセクレターゼの活性を阻害することを特徴とするAβタンパク質特異的産生抑制剤。
【請求項4】
配列番号3に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)を含み、γセクレターゼ活性を阻害することを特徴とするAβタンパク質特異的産生抑制剤。
【請求項5】
配列番号4に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(RFGBTWDYWVYR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)を含み、γセクレターゼ活性を阻害することを特徴とするAβタンパク質特異的産生抑制剤。
【請求項6】
配列番号6に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)を含み、γセクレターゼ活性を阻害することを特徴とするAβタンパク質特異的産生抑制剤。
【請求項7】
配列番号7に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)を含み、γセクレターゼ活性を阻害することを特徴とするAβタンパク質特異的産生抑制剤。
【請求項8】
配列番号1に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、配列番号3に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、配列番号4に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(RFGBTWDYWVYR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、配列番号6に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、又は、配列番号7に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)を含むことを特徴とする、アルツハイマー病の予防及び/又は治療剤。
【請求項9】
配列番号1に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)。
【請求項10】
配列番号3に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)。
【請求項11】
配列番号4に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(RFGBTWDYWVYR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)。
【請求項12】
配列番号6に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)。
【請求項13】
配列番号7に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)。
【請求項14】
アルツハイマー病を治療及び/又は予防するための、医薬の製造のための、配列番号1にて示されるアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、配列番号3に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、配列番号4に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(RFGBTWDYWVYR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、配列番号6に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、又は、配列番号7に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)の使用。
【請求項15】
軽度認知障害(MCI)を治療及び/又は予防するための、医薬の製造のための、配列番号1にて示されるアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、配列番号3に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、配列番号4に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(RFGBTWDYWVYR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、配列番号6に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、又は、配列番号7に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Aβタンパク質特異的産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症は85歳以上の日本人口の約25%が発症するcommon diseaseであるが、アルツハイマー病(Alzheimer's disease)がそのうち約半数を占めている。アルツハイマー病は、認知機能低下や人格の変化を主な症状とする認知症の一種である。現在の日本には300万人を超えるアルツハイマー病患者が推計され、今後の高齢化に従い患者数は増加の一途を辿る。
【0003】
アルツハイマー病の発症のメカニズムとしてアミロイドカスケード説が提唱されている。アミロイドカスケードとは、加齢に伴うアミロイド蓄積が引き金となり、炎症反応、異常蛋白であるタウの神経細胞内蓄積、最終的には神経細胞の機能不全や変性(細胞死)に至る複雑な経路の呼称である。即ち、非特許文献1及び非特許文献2に記載されるように、Aβタンパク質は、細胞膜貫通タンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質(以下、本明細書にてAPPと称することがある。)がβセクレターゼによって切断された細胞膜貫通タンパク質であるβCTF(C99)が、更にγセクレターゼにて切断されて細胞膜から遊離し、脳内にて蓄積するものと考えられている。
【0004】
γセクレターゼにて切断されたC99はAβタンパク質と、AICDとに分けられることが知られており、APPがβセクレターゼによって切断されることにより、sAPPβが遊離することも知られている(図1)。
【0005】
以上のことから、βセクレターゼの阻害剤及びγセクレターゼの阻害剤は、アルツハイマー病の原因タンパク質である、Aβタンパク質の蓄積を抑制する効果を発揮する剤として考えられる。
【0006】
ところが、それぞれ膜貫通タンパク質であるPen-2、プレセニリン、ニカストリン、及びAph-1を含む複合体として知られるγセクレターゼは、アスパラギン酸プロテアーゼに属し、上述のAPPのみならずAPLP1、APLP2、Notch、Jagged2、Delta1、E-cadherin、N-cadherin、CD44、ErbB4、Nectin1、LRP1等といった膜貫通タンパク質、レセプター等も基質とするプロテアーゼである。
【0007】
従って、Aβタンパク質の産生抑制作用を得るために、L-685,458、DAPT、LY-411,575等といったγセクレターゼの活性阻害剤を使用すれば、上述のC99以外のタンパク質に対するγセクレターゼのプロテアーゼとしての酵素活性までもが抑制されてしまい、かかる阻害剤をそのまま薬剤として用いれば、副作用が生じるといった可能性が危惧されている。
【0008】
例えば、γセクレターゼの阻害剤の1つであるLY-411,575は、胸腺を萎縮させることや脾臓における成熟B細胞の細胞数を減少させること等が報告されており、このような阻害剤をそのまま医薬組成物とした場合、免疫等の点で副作用を引き起こす可能性が示唆されている(非特許文献3)。さらに、γセクレターゼの酵素活性そのものを低下させると、皮膚の異常、扁平上皮ガン、脾臓の肥大等を引き起こすことも報告されている(非特許文献4)。
【0009】
非ステロイド性抗炎症薬(以下、本明細書でNSAIDsと称することがある。)がAβタンパク質の産生抑制剤として有効であるといった知見が存在するが、いくつかの家族性アルツハイマー病(例えば、プレセニリンの変異を有する場合。)には、効果がないことが知られている(非特許文献5)。さらに軽度認知障害やアルツハイマー病患者から分離したγセクレターゼは活性が変化しており、Aβ42を低下させるγセクレターゼモヂュレーターの効果が低いことがわかった(非特許文献6)。
【0010】
また、βCTFの細胞外領域であるN末端にFLAGタグを付して発現させた場合、抗FLAG抗体の存在下では、γセクレターゼによる分解が見られない(非特許文献7)。
【0011】
特許文献1と2には、γセクレターゼが切断するたんぱく質の特性(長さ)に着目し、γセクレターゼがAβのもととなるたんぱく質(C99)の先端部分を捕らえて切断することにより、Aβを産生することに着目し、そして、C99の先端部分に結合するベプチド試薬(C99結合ペプチド)を開発し、その効果を検討したところ、γセクレターゼがC99の先端部分を捕らえることができず、切断できないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許6168998号公報
【文献】Funamoto,S.et al. Nat.Commun.2013;4:2529. doi:10.1038/ncomms3529
【非特許文献】
【0013】
【文献】Yankner BADuffy LK, Kirschner DA.1990.Neurotrophic and neurotoxic effects of amyloid beta protein: Reversal by tachykinin neuropeptides. Science 250:p.279-p.282.
【文献】Hyman BT. 1998. New neuropathological criteria for Alzheimer disease. Arch. Neural. 55:p.1174-p.1176.
【文献】Wong,G. T.et al.J.Biol.Chem.2004;279:12876-12882
【文献】Choi,S.H.et al.J.Neurosci.2007;27:13579-13580
【文献】Page,R.M.et al.J.Biol.Chem.2008;283:677-683
【文献】Kakuda,N.et al.EMBO Mol.Med.2012;4:344-352
【文献】Shah,S.et al.Cell.2005;122:435-447
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、Aβタンパク質の産生を特異的に阻害し、アルツハイマー病に対する治療及び/又は予防の為の薬剤の有効成分となる化合物を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明にかかるAβタンパク質特異的産生抑制剤は、配列番号2に記載されているS4ペプチド(FGBTWDYWVYR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)のN末側及び/又はC末側に、一つ又は複数のRを付加したS4’ペプチド、又は、該S4’ペプチドのアミノ酸配列においてV又は該VのC末側のYが欠失又は置換されているアミノ酸配列からなるS4’’ペプチドを含み、βセクレターゼ及び/又はγセクレターゼの活性を阻害することを特徴とする。
【0016】
本発明にかかるAβタンパク質特異的産生抑制剤は、配列番号1に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)を含み、βセクレターゼ及びγセクレターゼの双方の活性を阻害することを特徴とする。
【0017】
本発明にかかるAβタンパク質特異的産生抑制剤は、配列番号1に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)を含み、βセクレターゼの活性を阻害することを特徴とする。
【0018】
本発明にかかるAβタンパク質特異的産生抑制剤は、配列番号1に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)を含み、γセクレターゼの活性を阻害することを特徴とする。
【0019】
本発明にかかるAβタンパク質特異的産生抑制剤は、配列番号3に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)を含み、βセクレターゼ及び/又はγセクレターゼの双方の活性を阻害することを特徴とする。
【0020】
本発明にかかるAβタンパク質特異的産生抑制剤は、配列番号4に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(RFGBTWDYWVYR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)を含み、βセクレターゼ及び/又はγセクレターゼの双方の活性を阻害することを特徴とする。
【0021】
本発明にかかるAβタンパク質特異的産生抑制剤は、配列番号6に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)を含み、βセクレターゼ及び/又はγセクレターゼの双方の活性を阻害することを特徴とする。
【0022】
本発明にかかるAβタンパク質特異的産生抑制剤は、配列番号7に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)を含み、βセクレターゼ及び/又はγセクレターゼの双方の活性を阻害することを特徴とする。
【0023】
本発明にかかるアルツハイマー病の予防及び/又は治療剤は、配列番号1に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、配列番号3に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、配列番号4に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(RFGBTWDYWVYR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、配列番号6に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、又は、配列番号7に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明にかかるペプチドは、配列番号1に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)である。
【0025】
本発明にかかるペプチドは、配列番号3に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)である。
【0026】
本発明にかかるペプチドは、配列番号4に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(RFGBTWDYWVYR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)である。
【0027】
本発明にかかるペプチドは、配列番号6に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)である。
【0028】
本発明にかかるペプチドは、配列番号7に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)である。 本発明にかかるペプチドの使用は、アルツハイマー病を治療及び/又は予防するための、医薬の製造のための、配列番号1にて示されるアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、配列番号3に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、配列番号4に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(RFGBTWDYWVYR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、配列番号6に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、又は、配列番号7に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)の使用である。
【0029】
本発明にかかるペプチドの使用は、軽度認知障害(MCI)を治療及び/又は予防するための、医薬の製造のための、配列番号1にて示されるアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、配列番号3に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVYRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、配列番号4に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(RFGBTWDYWVYR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、配列番号6に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)、又は、配列番号7に記載されているアミノ酸配列からなるペプチド(FGBTWDYWVRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)の使用である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、Aβタンパク質の産生を特異的に阻害することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】Aβタンパク質、C99、APP、sAPPβ、及びAICDと、γセクレターゼ並びにβセクレターゼの切断部位を示す模式図である。
図2】ペプチド#4、S4、S4R、S4RR及びRS4において、in vitro γセクレターゼアッセイ結果(biochemical assay)であり、Aβタンパク質の産生とNotchタンパク質の切断の確認結果を示す図である。
図3】ペプチド#4、S4、S4R、S4RR及びRS4において、in vitro 培養細胞でのアッセイ結果(cell-based assay)であり、細胞内に産生されるAβ量と細胞外に分泌されるAβ量を示す図である。
図4】ペプチドS4R及びS4RRにおいて、in vitro 培養細胞でのアッセイ結果(cell-based assay)であり、細胞外に分泌されるAβ量を示す図である。
図5】ペプチドT4Δ、W5Δ、D6Δ及びY7Δにおいて、in vitro 培養細胞でのアッセイ結果(cell-based assay)であり、細胞内に産生されるAβ量と細胞外に分泌されるAβ量を示す図である。
図6】ペプチドW8Δ、V9Δ及びY10Δにおいて、in vitro 培養細胞でのアッセイ結果(cell-based assay)であり、細胞内に産生されるAβ量と細胞外に分泌されるAβ量を示す図である。
図7】ペプチドS4RRを腹腔内投与したマウスの大脳中のAβの減少を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0033】
本実施形態にかかるAβタンパク質特異的産生抑制剤は、S4ペプチド(FGBTWDYWVYR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である)のN末側及び/又はC末側に、一つ又は複数のRを付加したS4’ペプチド、又は、該S4’ペプチドのアミノ酸配列においてV又は該VのC末側のYが欠失又は置換されているアミノ酸配列からなるS4’’ペプチドを含み、βセクレターゼ及び/又はγセクレターゼの活性を阻害する。
【0034】
S4’ペプチドは、特に限定されるものではないが、例えば下記である。
FGBTWDYWVYRR(配列番号3) →S4R
RFGBTWDYWVYR(配列番号4) →RS4
RFGBTWDYWVYRR(配列番号8)
RRFGBTWDYWVYRR(配列番号9)
RFGBTWDYWVYRRR(配列番号10)
RRFGBTWDYWVYR(配列番号11)
FGBTWDYWVYRRR(配列番号1) →S4RR
RRFGBTWDYWVYRRR(配列番号12)
S4’’ペプチドは、特に限定されるものではないが、例えば下記である。
FGBTWDYWYRRR(配列番号6) →V9Δ
FGBTWDYWVRRR(配列番号7) →Y10Δ
好ましくは本実施形態にかかるAβタンパク質特異的産生抑制剤は、配列番号1に記載されているアミノ酸配列からなるペプチドを含み、具体的にはそのペプチドはFGBTWDYWVYRRRである。ここでBはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である。このペチドは改変型C99結合ペプチド(S4RR)と称することが可能である。
【0035】
配列番号1にて示されるアミノ酸配列を有する本発明にかかるペプチドにおいて、2番目のグリシンのカルボキシル基と上記L-4,4’ビフェニルアラニンのアミド基がペプチド結合しており、4番目のスレオニンのアミド基と上記L-4,4’ビフェニルアラニンのアミド基がペプチド結合している。
【0036】
本発明にかかるペプチドは、適宜修飾が施されていてもよい。具体的には、ビオチン修飾、蛍光色素修飾、糖鎖修飾、脂質修飾等が挙げられ、これらの何れかに限定されるものではない。このような修飾箇所は、特に限定されるものではなく、ペプチド内部、ペプチドのC末端、又はペプチドのN末端の何れであってもよい。これらの修飾方法は、公知の方法を採用すればよく、特に限定されるものではない。
【0037】
本発明にかかるペプチドはC99のN末端領域に結合する。C99とは、βCTFとも称され、APP(例えばNCBIのAccession No Q95241.1等に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質)が、βセクレターゼによって切断された産物であるために、C99のN末端領域に結合するということは、APPに結合するということ同意である。そして、C99のN末端領域とは、APPからすれば、βセクレターゼの切断認識部位付近に該当するものである。そのため本発明にかかるペプチドは、βセクレターゼの活性阻害剤として有用である。
【0038】
また、C99のN末端領域付近はγセクレターゼによっても認識及び切断され、切断後の断片がAβタンパク質(例えばNCBIのAccession No 1Z0Q_A、1BA6_A)に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質)として産生されるため、C99のN末端領域に結合するということは、Aβタンパク質に結合するということ同じ意味である。
【0039】
本発明にかかるペプチドは、種々の溶媒に可溶であり、その具体的な溶媒は特に限定されることはないが、例えば水、PBS、DMSO、DMF等の溶媒が挙げられる。また、これらの溶媒を二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0040】
本発明にかかるペプチドは、C99のN末端領域に結合する。上述のように当該領域は、γセクレターゼのC99切断認識部位付近に該当する領域であることから、γセクレターゼの活性阻害剤として有用である。このように本発明にかかるペプチドは、βセクレターゼ及びγセクレターゼの双方の活性を阻害する。
【0041】
本発明にかかるペプチドは、公知の方法によって作製することが出来る。具体的には、ペプチド合成機などを用いた化学的な製造方法を採用してもよいし、ペプチドのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸を宿主細胞に導入して、生化学的な合成方法を採用してもよい。
【0042】
本発明にかかるペプチドは上述のようにC99のN末端領域に結合する。本発明にかかるペプチドは、このような現象に基づいて機能を発揮するために、APP以外の他の基質に対するβセクレターゼ活性もγセクレターゼ活性も阻害しない傾向となる。即ち、本発明のペプチドは、APP特異的なβセクレターゼ阻害活性及びγセクレターゼ阻害活性を有する。
【0043】
C99特異的とは、C99とその他の候補基質が同時に存在している場合に、C99をより活性を阻害する基質として選択する傾向であることを示す。
【0044】
本発明にかかるペプチドに、本発明にかかるペプチド以外の他の成分が含有される場合、その具体的な他の成分は、βセクレターゼ及びγセクレターゼの双方の活性阻害効果を減少させない限り、特に限定されるわけではないが、例えば防腐剤、殺菌剤、安定剤等といった公知の剤が含まれていてもよい。
【0045】
上述した本発明にかかるペプチドは、アルツハイマー病の予防及び/又は治療における使用に好適である。また、上述した本発明にかかるペプチドは、アルツハイマー病の治療及び/又は予防するための、医薬の製造のための使用に好適である。
【0046】
本発明にかかるアルツハイマー病治療及び/または予防剤は、上述の本発明のペプチドを含むものであるが、当該ペプチドは特にAβタンパク質特異的産生抑制作用を発揮することから、本発明にかかるアルツハイマー病治療及び/又は予防剤は、副作用が低いといった顕著な効果を発揮する。
【0047】
本発明にかかるアルツハイマー病の治療及び/又は予防剤に、本発明にかかるペプチド以外の他の成分が含有される場合、その具体的な他の成分は、アルツハイマー病の治療及び/又は予防効果を減少させない限り、薬学的に許容可能な担体或いは添加物が含まれていてもよい。
【0048】
薬学的に許容可能な担体又は添加物とは、任意の担体、希釈剤、賦形剤、懸濁剤、潤滑剤、アジュバント、媒体、乳化剤、吸収剤、保存剤、界面活性剤、着色剤、香料、或いは甘味料を意味し、これらの中でも公知のものを適宜採用すればよい。
【0049】
本発明にかかるアルツハイマー病の治療及び/又は予防剤の剤型は、たとえば錠剤、散剤、シロップ剤、ハップ剤、注射剤、点滴剤等が挙げられ、特に限定はされないが、注射剤又は点滴剤とすることが好ましい。このような注射剤や点滴剤は、水性であっても、非水性であっても、懸濁性であっても良い。また、用時調製型の剤型であってもよい。
【0050】
本発明にかかるアルツハイマー病の治療及び/又は予防剤は、アルツハイマー病に罹患した患者に投与する工程を含む免疫疾患の治療方法における利用可能性を有している。また、アルツハイマー病の病態や症状を発症していないものの、アルツハイマー病の素因を持ち得る患者に投与する工程を含むアルツハイマー病の予防方法における利用可能性も有する。さらに、アルツハイマー病発症前段階の軽度認知障害(例えばMMSE26点以下等)を呈する者においても利用可能性を有する。軽度認知障害(MCI)は、認知症に至らない程度の認知機能障害が生じる症例であり、基本的な日常生活に支障がない状態ではあるが、重要な約束を忘れたり、初めての場所へ旅行することが困難となる等の症状が生じる疾患である。MCIの段階でもアルツハイマー型認知症と同様にアルツハイマー病の原因である脳内アミロイドベータの蓄積が認められる。そのため本発明にかかるペプチドは、MCIを治療及び/又は予防するための、医薬の製造のために使用できる。
【0051】
本発明のアルツハイマー病患者とは、特に限定はされないが、例えば、記憶障害、見当識障害、学習障害、注意障害、空間認知機能、問題解決能力の障害等といった、徐々に進行する認知障害等の症状を呈する患者であり、その所見として画像診断等で大脳皮質に老人斑(Aβタンパク質の沈着像)が存在すると診断される患者;びまん性の脳萎縮が存在すると診断される患者;タウタンパク質、Aβ等の髄液バイオマーカー、血液バイオマーカー等で診断された患者であればよい。
【0052】
本発明にかかるアルツハイマー病の治療及び/又は予防剤の投与量並びに投与方法は、対象とする患者の性別、人種、年齢、全身状態、疾患の重篤度等に応じて、0.001~100mg/kg/dayの範囲で適宜設定することができる。
【0053】
本発明にかかるアルツハイマー病の治療及び/又は予防剤は、上記の量を一日に一度に投与してもよく、数回に分けて投与してもよい。また、上記疾患に対する治療効果を有する範囲において、投与間隔は、毎日、隔日、毎週、隔週、2~3週毎、毎月、隔月または2~3ヶ月毎でもよい。投与方法は、例えば経口、筋肉内、静脈内、動脈内、くも膜下腔内、皮内、腹腔内、鼻腔内、肺内、眼内、腟内、頸部内、直腸内、皮下等へ投与する方法が挙げられ、特に限定はされない。
【実施例
【0054】
1.ペプチドの作製
配列番号1~7に記載されているアミノ酸配列からなるペプチドをペプチドスクリーニング技術にて製造した。
配列番号1 S4RR FGBTWDYWVYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である
配列番号2 S4 FGBTWDYWVYR、 BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である
配列番号3 S4R FGBTWDYWVYRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である
配列番号4 RS4 RFGBTWDYWVYR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である
配列番号5 #4 MHLVICDCYCTTDICYCYSCTPN
配列番号6 V9Δ FGBTWDYWYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である
配列番号7 Y10Δ FGBTWDYWVRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である
下記に示す実験において、上述の配列番号1~7に示すアミノ酸配列を有するペプチドは全てDMSOに溶かした状態で使用した。
【0055】
2.可溶化γセクレターゼ活性評価
・γセクレターゼ画分の調製
HEK293の破砕液から100,000 x G 1時間の超遠心の沈殿を膜画分とし、これを250 mMショ糖と1% CHAPSO(界面活性剤)を含むPIPES緩衝液で可溶化後、100,000 x G 1時間の超遠心で得た上清をγセクレターゼ画分とした(Nakuda et al., J. Biol. Chem. 2006)。
【0056】
・γセクレターゼ基質の調製
sf9細胞にγセクレターゼ基質(C99やNotch)のバキュロウイルスを感染させ、36時間後に細胞を遠心で回収した。細胞の沈殿をPEPES緩衝液で懸濁し(0.5 ml程度)、等量の2% NP-40を含むPEPES緩衝液で可溶化し、100,000 x G 1時間の超遠心で上清を得た。この上清に対して、抗FLAG抗体アガロースビーズを添加し、一晩撹拌し基質タンパク質を回収する。ビーズから基質タンパク質を0.2 Mグリシン(pH 2.0)で溶出し、Tris緩衝液で中和後に、タンパク質定量を行い、精製標品とした。
【0057】
・ペプチド
各種ペプチド#4、S4、S4R、S4RR及びRS4(配列番号1~5)は、Fmoc固相合成法を利用したintavis社ResPeP SLDペプチド合成機で、またはSynPeptide社に合成委託した。いずれの場合もN末にアセチル基、C末にアミド基の修飾をした。各ペプチドはDMSOに溶解し、20 mM溶液を調製した。
【0058】
・各種ペプチドのγセクレターゼ反応系での評価(Biochemical assay)
γセクレターゼ画分を、250 mMショ糖と各種プロテアーゼ阻害剤カクテルを含むPIPES緩衝液で4倍に希釈しγセクレターゼ溶液とした。γセクレターゼ溶液に、1/10量の1%ホスファチジルコリンと各種基質ならびに所定の濃度の各種ペプチドを添加し、37℃で4時間反応させた。ウエスタンブロット法により反応液中の産生A?量やNotch切断量を検討した。結果を図2に示す。図2に示されるように、S4は1μM~10μMにおいてAβ量を十分に減少させていないが、S4R、RS4及びS4RRのいずれも1μM~10μMにおいてAβ量を十分に減少させた。またS4R、RS4及びS4RRのいずれも1μM~10μMにおいてNotch切断を抑制していた。
【0059】
3.培養細胞での解析
APPタンパク質を安定に発現し、且つ、一過的にNotchを発現するCHO-K1細胞(7WD10細胞)に対して、各種ペプチド#4、S4、S4R、S4RR及びRS4(配列番号1~5)を作用させて、Aβタンパク質の産生と、Notchタンパク質の切断を確認する実験を行った。
【0060】
上記細胞の培養液に、上記5種類のペプチドをそれぞれ最終濃度が10、20、並びに40μMとなるように添加した。その後、細胞培養液(Medium)或いは細胞破砕液(Cell lysate)中に含まれるsAPPβ、NICD、C99(βCTF)、及びAβタンパク質(細胞溶解液中に存在するものをintracellular Aβとし、細胞培養液中に存在するものをextracellular Aβとする)それぞれ認識する抗体を用いたウエスタンブロッティング法にて確認した。
【0061】
図3では、全てのペプチドを添加した場合に、その添加した濃度にかかわらず細胞溶解液中にNICDの存在量を減少させないことが明らかに示されている。そのため配列番号1にかかるペプチドが他のペプチドと同様に基質特異性があることが示されている。
【0062】
また、図3では、配列番号1にかかるペプチドが他のペプチドと比較して優れたC99の減少効果を示しており、また配列番号1にかかるペプチドが他のペプチドと比較して、優れたβセクレターゼの活性阻害効果を有することを示している。
【0063】
また、配列番号1にかかるペプチドが他のペプチドと比較して優れたAβタンパク質の減少効果を示しており、また配列番号1にかかるペプチドが他のペプチドと比較して、優れたγセクレターゼの活性阻害効果を有することを示している。
【0064】
配列番号3にかかるペプチドS4R及び配列番号4にかかるペプチドRS4は、ともに細胞内に産生されるAβを十分には減少させてはいない。しかし、配列番号3にかかるペプチドS4R及び配列番号4にかかるペプチドRS4は、ともにS4と比較して、細胞外に分泌されるAβを十分に減少させている。APPはN末端側が細胞外に配向し、細胞膜を1回貫通する膜タンパク質で、まずβセクレターゼで細胞外ドメインが切断されてC99となり、さらにC99がγセクレターゼによって切断され、約40個のアミノ酸でできたAβとなるが、このとき細胞内で産生されるAβ42は少量作られ、細胞外に分泌されるAβ40は多く産生される。S4R及びRS4は、ともに、多く産生される細胞外に分泌されるAβを十分に減少させる点において、S4と比較して優れた効果を有する。
【0065】
図4は、S4R及びS4RRにおいて、細胞外に分泌されるAβの減少量をグラフ化したものである。S4R及びS4RRはともに濃度依存的に細胞外に分泌されるAβ量を減少させていることが明白である。なお図4には記載していないが図3に示されているようにRS4も濃度依存的に細胞外に分泌されるAβ量を減少させる。
【0066】
4.短鎖化ペプチドの検討
下記に記載されているアミノ酸配列からなるペプチドをFmoc固相合成法を利用したintavis社ResPeP SLDペプチド合成機で製造した。N末にアセチル基、C末にアミド基の修飾をした。各ペプチドはDMSOに溶解し、20 mM溶液を調製した。
配列番号13 T4Δ FGBTWDYWYVRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である
配列番号14 W5Δ FGBTWDYWYVRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である
配列番号15 D6Δ FGBTWDYWYVRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である
配列番号16 Y7Δ FGBTWDYWYVRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である
配列番号17 W8Δ FGBTWDYWYVRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である
配列番号6 V9Δ FGBTWDYWYRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である
配列番号7 Y10Δ FGBTWDYWVRRR、BはL-4,4’ビフェニルアラニン残基である
24-wellプレートに、2.5 × 104細胞/ wellの密度でAPPとΔE Notchを共発現するCHO細胞を播種し、翌日に所定の濃度の各種ペプチドを含む培地と交換した。ペプチドの最終濃度は10μMであった。24時間培養後、ウエスタンブロット法により、分泌A?量やNotch切断量などを検討した。図5は、T4Δ、W5Δ、D6Δ及びY7Δにおいて、細胞内に産生されるAβ量及び細胞外に分泌されるAβ量を検討したものである。図6は、W8Δ、V9Δ及びY10Δにおいて、細胞内に産生されるAβ量及び細胞外に分泌されるAβ量を検討したものである。図5及び図6に示されるように4位、5位、6位、7位又は8位の欠失は、細胞内に産生されるAβ量の抑制活性を喪失させるとともに、細胞外に分泌されるAβ量の抑制活性を喪失させる。しかしながら図5及び図6に示されるように9位又は10位の欠失は、細胞内に産生されるAβ量の抑制活性が維持されており、細胞外に分泌されるAβ量の抑制活性も維持していることが判明した。
【0067】
5.動物への投与
10匹のAPPノックインマウス(ノックイン技法により作製されたマウス)の腹腔内に、DMSOに溶解した配列番号1にかかるペプチドを200,400,1000nmol/マウス投与した。投与は5日連続して行い、5日の後にマウスを安楽死させ、大脳を摘出した。
【0068】
摘出した大脳を公知の方法で溶解し、抗4G8抗体で免疫沈降を行った後に、抗マウスAβ抗体を用いたウエスタンブロッティングに供した。陰性対照として、DMSOのみを投与した群(10匹)も同様に実験を行った。
【0069】
また、ウエスタンブロッティングでは、2、10、50、及び200pgのゲッ歯類由来のAβを標準物質として実験を行った。
【0070】
図7に示されるように配列番号1にかかるペプチドを腹腔内投与したマウスでは、大脳中のAβを示すバンドが減少する事が明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
アルツハイマー病の予防及び/又は治療に利用できる。
【配列表フリーテキスト】
【0072】
配列番号1~5:合成ペプチド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
0007315964000001.app