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特許7315966生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230720BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20230720BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230720BHJP
【FI】
G01N33/53 D ZNA
C07K16/18
C12N15/13
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020569717
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2020003414
(87)【国際公開番号】W WO2020158856
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2019015199
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】511288304
【氏名又は名称】宮崎 徹
(73)【特許権者】
【識別番号】515099241
【氏名又は名称】社会福祉法人恩賜財団済生会
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】岡上 武
(72)【発明者】
【氏名】浅井 智英
(72)【発明者】
【氏名】鐘築 由香
(72)【発明者】
【氏名】廣田 次郎
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/043617(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/022315(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/086480(WO,A1)
【文献】Human SIM/CD5L/Spα ELISA Kit User's Manural,MLB,2014年,<URL: https:// www.mblintl.com/assets/CY-8080-v141003.pdf>
【文献】ARAI, S. et al.,Apoptosis inhibitor of macrophage protein enhances intraluminal debris clearance and ameliorates acute kidney injury in mice,Nature Medicine,2016年01月04日,Vol.22, No.2,pp.183-193
【文献】MIYAZAKI, T. et al.,AIM associated with the IgM pentamer: attackers on stand-by at aircraft carrier,Cellular & Molecular Immunology,2018年01月29日,Vol.15,pp.563-574
【文献】ARAI, S et al.,Obesity-Associated Autoantibody Production Requires AIM to Retain the Immunoglobulin M Immune Complex on Follicular Dendritic Cells,Cell Reports,2013年,Vol.3,No.4,pp.1187-1198
【文献】HIRAMOTO, E. et al.,The IgM pentamer is an asymmetric pentagon with an open groove that binds the AIM protein,Science Advances,2018年10月10日,Vol.4,No.10,eaau1199,<URL: https://advances.sciencemag.org/content/4/10/eaau1199>,<DOI: 10.1126/sciadv.aau1199>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
C07K 16/18
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する抗AIMモノクローナル抗体を用いる生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法であって、前記抗AIMモノクローナル抗体が、ヒトAIMのSRCR2ドメイン内のエピトープに結合する抗体である前記免疫学的分析方法。
【請求項2】
前記生物学的試料が、体液試料である、請求項1に記載の生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法。
【請求項3】
前記体液試料が、血清、血漿、血液及び尿からなる群から選択される、請求項2に記載の生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法。
【請求項4】
ヒトAIMのSRCR2ドメインが、配列番号3で表されるアミノ酸配列で表される、請求項1~3のいずれかに記載の免疫学的分析方法。
【請求項5】
遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する前記抗AIMモノクローナル抗体が、ヒトAIMのSRCR2ドメイン内のエピトープに結合し、ヒトAIMのSRCR1ドメイン中のアミノ酸配列に結合しない抗体である、請求項1~4のいずれかに記載の免疫学的分析方法。
【請求項6】
遊離AIM及び複合体AIMのいずれにも反応する性質を有する抗AIMモノクローナル抗体をさらに使用する、請求項1~5のいずれかに記載の遊離AIMの免疫学的分析方法。
【請求項7】
遊離AIMに反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する抗AIMモノクローナル抗体であって、AIMのSRCR2ドメイン内のエピトープに結合することを特徴とする前記モノクローナル抗体。
【請求項8】
ヒトAIMのSRCR2ドメインが、配列番号3で表されるアミノ酸配列でで表される、請求項7に記載のモノクローナル抗体。
【請求項9】
遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する前記抗AIMモノクローナル抗体が、ヒトAIMのSRCR2ドメイン内のエピトープに結合し、ヒトAIMのSRCR1ドメイン中のアミノ酸配列に結合しない抗体である、請求項7又は8に記載のモノクローナル抗体。
【請求項10】
遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する前記抗AIMモノクローナル抗体が、ヒトAIMのSRCR2ドメイン内のエピトープに結合し、ヒトAIMのSRCR1ドメイン中のアミノ酸配列、及びヒトAIMのSRCR3ドメイン中のアミノ酸配列のいずれにも結合しない抗体である、請求項9に記載のモノクローナル抗体。
【請求項11】
請求項6~10のいずれかに記載のモノクローナル抗体を含む、生物学的試料中の遊離AIM分析キット。
【請求項12】
前記生物学的試料が、体液試料である、請求項11に記載の遊離AIM分析キット。
【請求項13】
前記体液試料が、血清、血漿、血液及び尿からなる群から選択される、請求項12に記載の遊離AIM分析キット。
【請求項14】
遊離AIM及び複合体AIMのいずれにも反応する性質を有する抗AIMモノクローナル抗体をさらに含む、請求項11~13のいずれかに記載の遊離AIM分析キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法及び分析キットに関する。本発明は、遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する抗AIMモノクローナル抗体にも関する。
【背景技術】
【0002】
AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)は組織マクロファージにより産生される、分子量約50kDa分泌型の血中タンパク質である。AIMは、システイン残基を多く含む特異的な配列であるscavenger receptor cysteine-rich(SRCR)ドメインをタンデムに3つ(SRCR1ドメイン、SRCR2ドメイン、及びSRCR3ドメイン)つなげた構造をしている。それぞれのシステイン残基は各ドメイン内で互いにジスルフィド結合することで、コンパクトな球状の立体構造をしていると考えられている。
【0003】
AIMは、リポ多糖、IgM、補体制御因子、及び脂肪酸合成酵素など,さまざまな分子と結合するという特徴を持つことが知られている。中でも、AIMは、血中においてIgMとの複合体の形態で存在することが知られている。IgMは500kDaをこえる巨大なタンパク質複合体であるため、IgMに結合しているかぎりAIMも糸球体を通過して尿へと移行することはなく、AIMの高い血中濃度が保たれる。IgMから解離するとAIMはすみやかに尿へと排泄される。したがって、大部分のAIMは血液中においてIgMと複合体を形成しており、結合体ではなく遊離状態で血中に存在することはほとんどない。
【0004】
近年、AIMが、インスリン抵抗性又は動脈硬化などのさまざまな疾患における病態の進行に関与することが明らかにされている。例えば、特許文献1では、他の結合パートナーと結合していない遊離の形態で存在する遊離AIMと肝疾患との関係について報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/043617号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
遊離AIM量の測定結果に基づき特定の疾患を診断する場合、複合体を形成しているAIMの量を排除し、遊離AIM量のみを測定する必要がある。しかしながら、遊離AIMを検出する際に、他の結合パートナーと結合している複合体AIMも検出してしまう場合があった。したがって、複雑な操作を伴うことなく複合体を形成しているAIM量を排除し、遊離AIM量のみを測定することが可能な技術が望まれていた。
本発明の目的は、優れた特異性及び感度を有する、複合体AIM及び遊離AIMを含む生物学的試料中の遊離AIM量の免疫学的分析方法及び分析キット、並びに優れた特異性及び感度を有する、遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討し、複合体AIMには反応せず、遊離AIMには反応する抗AIMモノクローナル抗体、並びに複合体AIM及び遊離AIMのいずれにも反応する抗AIMモノクローナル抗体を作出した。そして、複合体AIMには反応せず、遊離AIMには反応する抗AIMモノクローナル抗体は、AIMのSRCR2ドメインをエピトープとして認識していることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的に、本発明は以下のとおりである。
<1>遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する抗AIMモノクローナル抗体を用いる生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法であって、前記抗AIMモノクローナル抗体が、ヒトAIMのSRCR2ドメイン内のエピトープに結合する抗体である前記免疫学的分析方法、
<2>前記生物学的試料が、体液試料である、<1>に記載の生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法、
<3>
前記体液試料が、血清、血漿、血液及び尿からなる群から選択される、<2>に記載の生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法、
<4>ヒトAIMのSRCR2ドメインが、配列番号3で表されるアミノ酸配列で表される、<1>~<3>のいずれかに記載の免疫学的分析方法、
<5>遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する前記抗AIMモノクローナル抗体が、ヒトAIMのSRCR2ドメイン内のエピトープに結合し、ヒトAIMのSRCR1ドメイン中のアミノ酸配列に結合しない抗体である、<1>~<4>のいずれかに記載の免疫学的分析方法、
<6>遊離AIM及び複合体AIMのいずれにも反応する性質を有する抗AIMモノクローナル抗体をさらに使用する、<1>~<5>のいずれかに記載の遊離AIMの免疫学的分析方法、
<7>遊離AIMに反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する抗AIMモノクローナル抗体であって、AIMのSRCR2ドメイン内のエピトープに結合することを特徴とする前記モノクローナル抗体、
<8>ヒトAIMのSRCR2ドメインが、配列番号3で表されるアミノ酸配列で表される、<7>に記載のモノクローナル抗体、
<9>遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する前記抗AIMモノクローナル抗体が、ヒトAIMのSRCR2ドメイン内のエピトープに結合し、ヒトAIMのSRCR1ドメイン中のアミノ酸配列に結合しない抗体である、<7>又は<8>に記載のモノクローナル抗体、
<10>
遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する前記抗AIMモノクローナル抗体が、ヒトAIMのSRCR2ドメイン内のエピトープに結合し、ヒトAIMのSRCR1ドメイン中のアミノ酸配列、及びヒトAIMのSRCR3ドメイン中のアミノ酸配列のいずれにも結合しない抗体である、<9>に記載のモノクローナル抗体、
<11><6>~<10>のいずれかに記載のモノクローナル抗体を含む、生物学的試料中の遊離AIM分析キット、
<12>前記生物学的試料が、体液試料である、<11>に記載の遊離AIM分析キット、
<13> 前記体液試料が、血清、血漿、血液及び尿からなる群から選択される、<12>に記載の遊離AIM分析キット、
<14>遊離AIM及び複合体AIMのいずれにも反応する性質を有する抗AIMモノクローナル抗体をさらに含む、<11>~<13>のいずれかに記載の遊離AIM分析キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複合体AIM及び遊離AIMを含む生物学的試料において、遊離AIMを正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】AIM測定ECL系のモノクローナル抗体の組み合わせ検討の結果を示す図である。
図1B】AIM測定ECL系のモノクローナル抗体の組み合わせ検討の結果を示す図である。
図1C】AIM測定ECL系のモノクローナル抗体の組み合わせ検討の結果を示す図である。
図1D】AIM測定ECL系のモノクローナル抗体の組み合わせ検討の結果を示す図である。
図1E】AIM測定ECL系のモノクローナル抗体の組み合わせ検討の結果を示す図である。
図1F】AIM測定ECL系のモノクローナル抗体の組み合わせ検討の結果を示す図である。
図1G】AIM測定ECL系のモノクローナル抗体の組み合わせ検討の結果を示す図である。
図1H】AIM測定ECL系のモノクローナル抗体の組み合わせ検討の結果を示す図である。
図2】ウエスタンブロッティングによるモノクローナル抗体のエピトープ特定分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(生物学的試料)
本発明において分析可能な生物学的試料としては、主に生体(生物)由来の固形組織及び体液試料を挙げることができ、体液試料を用いることが好ましい。本発明において分析可能な生物学的試料は、より好ましくは、血液、血清、血漿、尿、唾液、喀痰、涙液、耳漏、又は前立腺液等の体液試料であり、さらに好ましくは血液、血清、血漿又は尿である。生体又は対象は、ヒト又は動物(例えば、マウス、モルモット、ラット、サル、イヌ、ネコ、ハムスター、ウマ、ウシ、及びブタ)を含み、好ましくはヒトである。対象からの生物学的試料は、本発明の実施時に採取または調製されたものでもよく、予め採取または調製され保存されたものであってもよい。試料を調製する者と試料中の遊離AIM量を分析する者とは別の者であってもよい。生物学的試料は、インビボの試料であることができる。本発明において、生物学的試料は、遊離AIMと複合体AIMの両方を含む。
【0011】
(AIM)
AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)は組織マクロファージにより産生される、分子量約50kDa分泌型の血中タンパク質である。AIMは、システイン残基を多く含む特異的な配列であるscavenger receptor cysteine-rich(SRCR)ドメインをタンデムに3つつなげた構造をしており、それぞれのシステイン残基は各ドメイン内で互いにジスルフィド結合することで、コンパクトな球状の立体構造をしていると考えられている。
【0012】
ヒトAIMは、配列番号1で表される347アミノ酸から成り、システインを多く含む3つのSRCRドメインを含んでいる。SRCR1ドメインは、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号24~125に該当する。SRCR2ドメインは、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号138~239に該当する。SRCR3ドメインは、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号244~346に該当する。
ヒトAIMのアミノ酸配列は以下のとおりである。
MALLFSLILAICTRPGFLASPSGVRLVGGLHRCEGRVEVEQKGQWGTVCDDGWDIKDVAVLCRELGCGAASGTPSGILYEPPAEKEQKVLIQSVSCTGTEDTLAQCEQEEVYDCSHDEDAGASCENPESSFSPVPEGVRLADGPGHCKGRVEVKHQNQWYTVCQTGWSLRAAKVVCRQLGCGRAVLTQKRCNKHAYGRKPIWLSQMSCSGREATLQDCPSGPWGKNTCNHDEDTWVECEDPFDLRLVGGDNLCSGRLEVLHKGVWGSVCDDNWGEKEDQVVCKQLGCGKSLSPSFRDRKCYGPGVGRIWLDNVRCSGEEQSLEQCQHRFWGFHDCTHQEDVAVICSG(配列番号1)
すなわち、ヒトAIM中の、SRCR1ドメイン、SRCR2ドメイン、及びSRCR3ドメインのアミノ酸配列は、それぞれ以下の通りである。
SRCR1ドメイン:
VRLVGGLHRCEGRVEVEQKGQWGTVCDDGWDIKDVAVLCRELGCGAASGTPSGILYEPPAEKEQKVLIQSVSCTGTEDTLAQCEQEEVYDCSHDEDAGASCE(配列番号2)
SRCR2ドメイン:
VRLADGPGHCKGRVEVKHQNQWYTVCQTGWSLRAAKVVCRQLGCGRAVLTQKRCNKHAYGRKPIWLSQMSCSGREATLQDCPSGPWGKNTCNHDEDTWVECE(配列番号3)
SRCR3ドメイン:
LRLVGGDNLCSGRLEVLHKGVWGSVCDDNWGEKEDQVVCKQLGCGKSLSPSFRDRKCYGPGVGRIWLDNVRCSGEEQSLEQCQHRFWGFHDCTHQEDVAVICS(配列番号4)
【0013】
(遊離AIM)
本明細書において、「遊離AIM」とは、リポ多糖又はIgM等の他の物質と結合していない、遊離状態で存在するAIMを意味する。これに対し、本明細書において、リポ多糖又はIgM等の他の物質と結合しており、他の物質との複合体の状態で存在するAIMを複合体AIMと称する。遊離AIMとは、好ましくは、ヒトの遊離AIMであり、複合体AIMとは、好ましくは、ヒトの複合体AIMである。
【0014】
本明細書において「非特異反応」とは、本発明において使用される抗AIMモノクローナル抗体に、遊離AIM以外の物質、特に複合体AIMが結合することを意味する。
【0015】
(遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する抗AIMモノクローナル抗体)
本発明の免疫学的分析方法では、遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する抗AIMモノクローナル抗体を用いる。「遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない」とは、遊離AIMとは反応するが、他の物質、特に複合体AIMとは実質的に反応しないことを意味する。「実質的に反応しない」の意味は後述する。以下、「遊離AIMに反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する抗AIMモノクローナル抗体」を、「遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体」と呼ぶことがある。本明細書では、遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体に対して、遊離AIMと複合体AIMのいずれにも反応する抗AIMモノクローナル抗体を、単に「抗AIMモノクローナル抗体」と称する。
本発明において、「遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する抗AIMモノクローナル抗体を用いる」とは、遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する抗AIMモノクローナル抗体を用いて、遊離AIMを定量することを意味する。「遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する抗AIMモノクローナル抗体を用いる」は、以下の工程を含むことができる。
遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する抗AIMモノクローナル抗体と生物学的試料とを接触させる工程。
【0016】
本発明の免疫学的分析方法では、遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する2種以上の抗AIMモノクローナル抗体を用いることが好ましい。前記2種以上の抗AIMモノクローナル抗体は、それぞれ異なるエピトープを認識することが好ましい。
本発明の免疫学的分析方法では、遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する抗AIMモノクローナル抗体に加えて、遊離AIM及び複合体AIMのいずれにも反応する性質を有する抗AIMモノクローナル抗体をさらに使用することができる。遊離AIMには反応するが、複合体AIMには反応しない性質を有する前記抗AIMモノクローナル抗体と遊離AIM及び複合体AIMのいずれにも反応する性質を有する抗AIMモノクローナル抗体は、それぞれ異なるエピトープを認識することが好ましい。
本発明の免疫学的分析方法において用いられる、遊離AIMには反応するが複合体AIMには反応しない性質を有する抗AIMモノクローナル抗体は、ヒトAIMのSRCR2ドメイン内のエピトープ、好ましくは立体構造であるエピトープに結合する。本発明の免疫学的分析方法において用いられる、遊離AIMには反応するが複合体AIMには反応しない性質を有する抗AIMモノクローナル抗体は、好ましくは、SRCR1ドメインには結合せず、さらに好ましくは、SRCR1ドメイン及びSRCR3ドメインのいずれにも結合しない。
【0017】
本明細書において、遊離AIMと「反応する」、遊離AIMを「認識する」、遊離AIMと「結合する」は、同義で用いられるが、これらの例示に限定されることはなく、最も広義に解釈する必要がある。抗体が遊離AIMなどの抗原(化合物)と「反応する」か否かの確認は、抗原固相化ELISA法、競合ELISA法、サンドイッチELISA法などにより行うことができるほか、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance)の原理を利用した方法(SPR法)などにより行うことができる。SPR法は、Biacore(登録商標)の名称で市販されている、装置、センサー、試薬類を使用して行うことができる。
【0018】
使用される抗体と、ある化合物が「反応しない」とは、本発明に使用される抗体がある化合物と実質的に反応しないことをいう。「実質的に反応しない」とは、例えば、上記SPR法に基づき、Biacore(登録商標)T100やT200を使用し、本発明の抗体を固定化して測定を行った場合に、本発明に使用される抗体の反応性の増強が認められないことをいう。詳細には、抗体と化合物との反応性が、コントロール(化合物非添加)の反応性と比べて有意な差がないことをいう。上記SPR法以外の当業者に周知の方法又は手段によっても「実質的に反応しない」ことを確認できるのはいうまでもない。
【0019】
本発明の免疫学的分析方法において使用される、遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体の遊離AIMへの結合親和性は、本発明の効果が得られる限りにおいて特に限定されることはないが、例えば、IgMに対して少なくとも約10-4M、少なくとも約10-5M、少なくとも約10-6M、少なくとも約10-7M、少なくとも約10-8M、少なくとも約10-9M、少なくとも約10-10M、少なくとも約10-11M、少なくとも約10-12M、またはそれ以上のKdであることができる。
【0020】
本発明の免疫学的分析方法において使用される抗体は、抗原(免疫原)として遊離AIMをリン酸緩衝生理食塩水などの溶媒に溶解し、この溶液を動物に投与して免疫することにより製造できる。必要に応じて前記溶液に適宜のアジュバントを添加した後、エマルジョンを用いて免疫を行ってもよい。アジュバントとしては、油中水型乳剤、水中油中水型乳剤、水中油型乳剤、リポソーム、水酸化アルミニウムゲルなどの汎用されるアジュバントのほか、生体成分由来のタンパク質やペプチド性物質などを用いてもよい。例えば、フロイントの不完全アジュバント又はフロイントの完全アジュバントなどを好適に用いることができる。アジュバントの投与経路、投与量、投与時期は特に限定されないが、抗原を免疫する動物において所望の免疫応答を増強できるように適宜選択することが望ましい。
【0021】
免疫に用いる動物の種類も特に限定されないが、哺乳動物が好ましく、例えばマウス、ラット、ウシ、ウサギ、ヤギ、ヒツジなどを用いることができ、より好ましくはマウス又はラットを用いることができる。動物の免疫は、一般的な手法に従って行えばよく、例えば、抗原の溶液、好ましくはアジュバントとの混合物を動物の皮下、皮内、静脈、又は腹腔内に注射することにより免疫を行うことができる。免疫応答は、一般的に免疫される動物の種類及び系統によって異なるので、免疫スケジュールは使用される動物に応じて適宜設定することが望ましい。抗原投与は最初の免疫後に何回か繰り返し行うことが好ましい。
【0022】
モノクローナル抗体を得るために、引き続き以下の操作が行われるがそれに限定されることはなく、モノクローナル抗体それ自体の製造方法については当業界で周知されており、かつ汎用されているので当業者は前記の抗原を用いることによって本発明の免疫学的分析方法において使用されるモノクローナル抗体を容易に製造することが可能である(例えばAntibodies,ALaboratory Manual(ColdSpringHarbor Laboratory Press,(1988) 第6章などを参照のこと)。
【0023】
最終免疫後、免疫した動物から抗体産生細胞である脾臓細胞あるいはリンパ節細胞を摘出し、高い増殖能を有する骨髄腫由来の細胞株と細胞融合することによりハイブリドーマを作製することができる。細胞融合には抗体産生能(質・量)が高い細胞を用いることが好ましく、また骨髄腫由来の細胞株は融合する抗体産生細胞の由来する動物と適合性があることが好ましい。細胞融合は、当該分野で公知の方法に従って行うことができる。例えば、ポリエチレングリコール法、センダイウイルスを用いた方法、電流を利用する方法などを採用することができる。得られたハイブリドーマは当業界で汎用の条件に従って増殖させることができる。産生される抗体の性質を確認しつつ所望のハイブリドーマを選択することができる。ハイブリドーマのクローニングは、例えば限界希釈法や軟寒天法などの周知の方法により行うことが可能である。
【0024】
ハイブリドーマの選択は、産生される抗体が実際の測定に用いられる条件を考慮し、選択の段階で効率的に行うこともできる。例えば、動物に免疫して得られた抗体を、交差反応性を確認したい化合物(複合体AIM)の存在下、固相に固定化した遊離AIMと反応させ、交差反応性を確認したい化合物(複合体AIM)の非存在下での反応性と比較することにより所望の抗体を産生するハイブリドーマをより効率よく選抜することができる。また、動物に免疫して得られた抗体を、生物試料由来成分の存在下、固相に固定化した遊離AIMと反応させ、生物試料由来成分の非存在下での反応性と比較することにより所望の抗体を産生するハイブリドーマをより効率よく選択することもできる。
【0025】
クローニング工程後、産生される抗体と遊離AIMとの結合能をECL法、ELISA法、RIA法、蛍光抗体法などの方法を用いてアッセイすることにより、選択されたハイブリドーマが所望の性質を有するモノクローナル抗体を産生するか否かを確認することができる。
前記のようにして選別されたハイブリドーマを大量培養することにより、所望の特性を有するモノクローナル抗体を製造することができる。大量培養の方法は特に限定されないが、例えば、ハイブリドーマを適宜の培地中で培養してモノクローナル抗体を培地中に産生させる方法を挙げることができる。哺乳動物の腹腔内にハイブリドーマを注射して増殖させ、腹水中に抗体を産生させる方法なども挙げることができる。モノクローナル抗体の精製は、先述した抗血清からの抗体の精製法、例えばDEAE陰イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、硫安分画法、PEG分画法、エタノール分画法などを適宜組み合わせて行うことができる。
【0026】
本発明の免疫学的分析方法において使用されるモノクローナル抗体としては、抗体分子全体のほかに抗原抗体反応活性を有する抗体のフラグメントを使用することも可能である。前記のように動物への免疫工程を経て得られたもののほか、遺伝子組み換え技術を使用して得られるものやキメラ抗体を用いることも可能である。抗体の断片としては機能性の断片であることが好ましく、例えば、F(ab')2、Fab'などが挙げられる。これらのフラグメントは前記のようにして得られる抗体をタンパク質分解酵素(例えば、ペプシンやパパインなど)で処理することにより製造できる。
【0027】
また、本発明の免疫学的分析方法において抗体は、不溶性担体上に固定された固定(固相)化抗体として使用したり、後述する当業者に周知慣用の標識物質で標識した標識抗体として使用することができる。例えば、不溶性担体にモノクローナル抗体を物理的に吸着させ、あるいは化学的に結合(適当なスペーサーを介してよい)させることにより固定抗体を製造することができる。不溶性担体としては、ポリスチレン樹脂などの高分子基材、ガラスなどの無機基材、セルロースやアガロースなどの多糖類基材などからなる不溶性担体を用いることができ、その形状は特に限定されず、板状(例えば、マイクロプレートやメンブレン)、ビーズあるいは粒子状(例えば、ラテックス粒子)、筒状(例えば、試験管)など任意の形状を選択できる。
【0028】
本発明の免疫学的分析方法において使用される抗体と結合可能な標識抗体(二次抗体)を用いることにより、遊離AIMに結合した抗体の量を測定することができ、それにより生体試料中の遊離AIMを検出することができる。標識抗体を製造するための標識物質としては、例えば酵素、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、アビジン、又は放射性同位体、金コロイド粒子、着色ラテックスなどが挙げられる。標識物質と抗体との結合法としては、当業者に利用可能なグルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法、又は過ヨウ素酸法などの方法を用いることができるが、固定抗体や標識抗体の種類及
びそれらの製造方法は前記の例に限定されることはない。例えば、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)やアルカリホスファターゼ(ALP)などの酵素を標識物質として用いる場合にはその酵素の特異的基質(酵素がHRPの場合には、例えばO-フェニレンジアミン(OPD)あるいは3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)、ALPの場合にはp-ニトロフェニル・ホスフェートなど) を用いて酵素活性を測定することができる。ビオチンを標識物質として用いる場合には少なくともアビジンあるいは酵素修飾アビジンを反応させるのが一般的である。
【0029】
本明細書において、「不溶性担体」を「固相」、抗原や抗体を不溶性担体に物理的あるいは化学的に担持させることあるいは担持させた状態を「固定」、「固定化」、「固相化」と表現することがある。また、「分析」、「検出」、又は「測定」という用語は、遊離AIMの存在の証明及び/又は定量などを含めて最も広義に解釈する必要があり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。
【0030】
本発明の免疫学的分析方法では、少なくとも1つの遊離AIMに特異的に反応する抗体を使用する。測定対象となる遊離AIMを異なるエピトープを認識する2種の抗体でサンドイッチするいわゆるサンドイッチアッセイを行う場合、一方の抗体が遊離AIMに特異的に反応する抗体であればよく、もう一方の抗体は抗AIMモノクローナル抗体であればよいが、2種の抗体いずれもが遊離AIMに特異的に反応する抗体であることが好ましい。測定対象となる遊離AIMを異なるエピトープを認識する2種の抗体でサンドイッチするいわゆるサンドイッチアッセイを行う場合、2種の抗体が、それぞれ異なるエピトープを認識することが好ましい。また、ECL法又はELISA法を行う場合は、固相に固定化された固相抗体として遊離AIMに特異的に反応する抗体を使用することが好ましい。
【0031】
(免疫学的分析方法)
本発明において使用される免疫学的分析方法としては、電気化学発光免疫測定法(ECL法)、ELISA、酵素免疫測定法、免疫組織染色法、表面プラズモン共鳴法、ラテックス凝集免疫測定法、化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、放射免疫測定法、免疫沈降法、ウエスタンブロット法、イムノクロマトグラフ法、EATA法(Electrokinetic Analyte Transport Assay)及び高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
使用される抗体と結合可能な標識抗体(二次抗体)を用いることにより、遊離AIMに結合した抗体の量を測定することができ、それにより生物学的試料中の遊離AIM量を測定することができる。標識抗体を製造するための標識物質としては、例えば酵素、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、アビジン、放射性同位体、金コロイド粒子、又は着色ラテックスなどが挙げられる。当業者であれば、使用される抗体と標識物質に応じて、免疫学的分析方法を適宜選択することができる。
【0033】
免疫学的分析方法としては、電気化学発光免疫測定法(ECL法)を用いることが好ましい。電気化学発光免疫測定法(ECL法)とは、標識物質を電気化学的刺激により発光させ,その発光量を検出することで被検出物質量を算出する方法を意味する。電気化学発光免疫測定法(ECL法)では、標識物質として、ルテニウム錯体を用いることができる。固相(マイクロプレート又はビーズ等)に電極を設置してこの電極上で電気化学的刺激を起こすことにより、このルテニウム錯体の発光量を検出することができる。
遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体を固相抗体及び検出抗体のいずれの用途として用いてもよいが、遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体を固相抗体として用い、固相抗体とは異なるエピトープを認識する抗AIMモノクローナル抗体を検出抗体(標識抗体)として用いて電気化学発光免疫測定法(ECL法)を行うことが好ましい。遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体を固相抗体として用い、標識抗体として抗AIMモノクローナル抗体を用い、そして、固相としてビーズ、標識としてルテニウム錯体をそれぞれ用いた際の測定原理は、以下のとおりである。下記は本発明の一実施態様における測定原理を示すものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
1.遊離AIMに特異的に反応する抗体が結合したビーズと試料とを反応させると、試料中の遊離AIMがビーズに結合した固相抗体と結合する。
2.ビーズを洗浄後、ビーズに結合した遊離AIMに、ルテニウム標識抗体を反応させる
と、サンドイッチ状に結合する。
3.ビーズを洗浄後、電極上にて電気エネルギーを加えると、遊離AIMを介してビーズに結合したルテニウム標識抗体量に応じて、ルテニウム錯体が発光する。この発光量を計測することにより、検体中の遊離AIM量を測定することができる。
また、ルテニウム標識抗体として、固相抗体とは異なるエピトープを認識する、遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体を使用することもできる。
【0034】
イムノアッセイの中で、酵素標識を用いるELISA法も、簡便且つ迅速に標的を測定することができて好ましい。サンドイッチELISAの場合、遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体を固定化した不溶性担体と、標識物質で標識された、固定抗体とは異なるエピトープを認識する抗AIMモノクローナル抗体とを使用することができる。この場合、不溶性担体はプレート(イムノプレート)が好ましく、標識物質は、適宜選択して使用できる。
遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体を固相抗体及び検出抗体のいずれの用途として用いてもよいが、遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体を固相抗体として用い、固相抗体とは異なるエピトープを認識する抗AIMモノクローナル抗体を検出抗体(標識抗体)として用いてサンドイッチELISAを行うことが好ましい。不溶性担体に固定化された遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体は、試料中の遊離AIMを捕捉し、不溶性担体上で抗体-遊離AIM複合体を形成する。標識物質で標識された抗AIMモノクローナル抗体は、前記捕捉された遊離AIMに結合して前述の抗体-遊離AIM複合体とサンドイッチを形成する。標識物質に応じた方法により標識物質の量を測定することにより、試料中の遊離AIMを測定することができる。抗体の不溶性担体への固定化の方法、抗体と標識物質との結合方法等、具体的な方法は、当業者に周知の方法を特に制限なく使用することができる。
また、標識抗体として、固相抗体とは異なるエピトープを認識する、遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体を使用することもできる。
【0035】
免疫学的分析方法としては、代表的な粒子凝集免疫測定法であるラテックス免疫凝集法(以下、LTIA法ということがある)も好ましい。LTIA法では、目的成分に対する抗体を担持させたラテックス粒子を用い、目的成分である抗原と抗体担持ラテックス粒子とが抗原抗体複合物を形成して結合することによって生じるラテックス粒子の凝集(濁り)の程度を光学的手段(例えば、透過光を測定する比濁法、散乱光を測定する比朧法など)などにより検出し、目的成分を分析することができる。本発明の免疫学的分析方法では、遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体を担持させたラテックス粒子を用い、目的成分である遊離AIMと抗体担持ラテックス粒子とが抗原抗体複合物を形成して結合することによって生じるラテックス粒子の凝集の程度を光学的手段により検出することができる。LTIA法を採用する場合、遊離AIMに特異的に反応する2種以上の抗AIMモノクローナル抗体を使用することができ、又は遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体と遊離AIM及び複合体AIMのいずれにも反応する性質を有する抗AIMモノクローナル抗体とを使用することもできる。
また、免疫学的分析方法として、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)あるいはEATA法(Electrokinetic Analyte Transport Assay)を用いることも可能である。EATA法は、富士フィルム和光純薬株式会社製のミュータスワコーi30を使用して実施することができる。
【0036】
(遊離AIM量の分析キット)
本発明の遊離AIM量の測定キットは、遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体を含む。本発明の測定キットには、ほかに、他の検査試薬、検体希釈液、及び/又は使用説明書などを含むこともできる。
【0037】
本発明の遊離AIM量の測定キットは、好ましくは、以下の(1)~(2)を含むECL法による遊離AIM分析キットとすることができる。
(1)遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体を固定化した固相、並びに
(2)電気化学発光物質で標識した、固定抗体とは異なるエピトープを認識する抗AIMモノクローナル抗体。
ECL法を使用する場合、本発明の測定キットは、遊離AIMに特異的に反応する抗体を固定化した固相とルテニウム錯体等の電気化学発光物質で標識した、抗AIMモノクローナル抗体とを含むことが好ましい。例えば、固相としてマイクロビーズを用いたキットでは、遊離AIMに特異的に反応する抗体を固相化したマイクロビーズに、生物学的試料を添加して反応させた後、試料を除去して洗浄する。続いて、電気化学発光物質を標識した、遊離AIMに特異的に反応する抗体とは異なるエピトープを認識する抗AIMモノクローナル抗体を添加して反応させる。マイクロビーズを洗浄後、電気エネルギーを加えて発光させ標識物質の発光量を測定することにより、遊離AIM濃度を求めることができる。
また、電気化学発光物質で標識するための抗AIMモノクローナル抗体として、固相抗体とは異なるエピトープを認識する、遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体を使用することもできる。
【0038】
サンドイッチELISA法を使用する場合、測定キットは少なくとも、以下の(1)~(2)を含むサンドイッチELISA法による遊離AIM分析キットであることができる。
(1)遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体(固相抗体)を固定化した不溶性担体、及び
(2)標識物質で標識された、固相抗体とは異なるエピトープを認識する抗AIMモノクローナル抗体(標識抗体)。
このようなキットでは、まず、固相抗体を固定化した不溶性担体に、生物学的試料を添加した後インキュベートし、試料を除去して洗浄する。次に、標識抗体を添加した後インキュベートし、基質を加えて発色させる。プレートリーダー等を用いて発色を測定することにより、生物学的試料中における遊離AIM濃度を求めることができる。
また、標識抗体として、固相抗体とは異なるエピトープを認識する、遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体を使用することもできる。
【0039】
LTIA法を使用する場合、測定キットは少なくとも、以下の(1)~(2)を含むLTIA法による遊離AIM分析キットであることができる。
(1)遊離AIMに特異的に反応する抗体(第一固相抗体)を固定化したラテックス粒子、及び
(2)固相抗体とは異なるエピトープを認識する抗AIMモノクローナル抗体(第二固相抗体)を固定化したラテックス粒子。
このようなキットでは、遊離AIMを介して第一固相抗体ラテックスと第二固相抗体ラテックスとが凝集する。凝集の程度を光学的手段を用いて検出することにより、生物学的試料中における遊離AIM濃度を求めることができる。
また、第二固相抗体として、第一固相抗体とは異なるエピトープを認識する、遊離AIMに特異的に反応する抗AIMモノクローナル抗体を使用することもできる。
【0040】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、特に説明のない限りは、%は重量%を示す。
【実施例
【0041】
〔実施例1:抗体の作製〕
1.マウス抗ヒトAIMモノクローナル抗体の作製
以下の手順により、マウス抗ヒトAIMモノクローナル抗体であるNo.8抗体、No.11抗体、No.12抗体、及びNo.29抗体を得た。
抗原として全長ヒトrAIM(2mg/ml)を等量のTiterMaxGold(G-1フナコシ)と混合しエマルジョンを作製した。免疫動物にはBalb/cマウス(チャールズリバー(株)8週齢のメス2匹を用い、後ろ足底部へ抗原溶液50μLを投与した。2週間後に同様の投与を行い、更に2週間以上をおいて抗原溶液50μgを後ろ足底部へ投与し3日後の細胞融合に備えた。
ミエローマ細胞にはマウスP3U1を用い、増殖培養には、RPMI1640(11875-119 GIBCO)に、グルタミンとピルビン酸を加え、FBS(S1560 BWT社)を10%になるように添加した培地を用いた。抗生物質としてはペニシリン、ストレプトマイシンを適量加えた。
麻酔下にて心臓採血を行ったマウスから、無菌的に膝窩リンパ節を摘出し、#200メッシュ付ビーカーにのせ、シリコン棒で押しながら、細胞浮遊液を調製した。細胞はRPMI1640にて2回の遠心洗浄を行った後、細胞数をカウントした。対数増殖期の状態のミエローマ細胞を遠心により集め、洗浄後、リンパ細胞とミエローマ細胞の比率が5対1となるように調整し、混合遠心を行った。細胞融合はPEG1500(783641 ロシュ)を用いて行った。すなわち、細胞ペレットへ1mLのPEG液を3分間かけて反応させ、その後段階的に希釈を行い、遠心にて洗浄した後、培地を加え96ウェルプレート15枚へ200μLずつ入れ、1週間の培養を行った。培地にはミエローマ細胞用培地にHATサプリメント(21060-017 GIBCO)を加え、FBS濃度を15%にしたものを用いた。
凍結保存された細胞を解凍し、増殖培養を行った後、1週間以上前に0.5mlのプリスタン(42-002 コスモバイオ)を腹腔内投与したヌードマウス(BALB/cAJcl-nu/nu 日本クレア)の腹腔へ、1×107個を投与し、およそ2週間後に4~12mlの腹水を得た。遠心処理にて固形物を除去した後、凍結保存を行った。その後、凍結保存した腹水から抗体を精製し、No.8抗体、No.11抗体、No.12抗体、及びNo.29抗体を得た。
【0042】
〔実施例2:遊離AIMに特異的に結合する抗体のスクリーニング〕
(1.抗体結合磁気ビーズの作製)
1)150mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.8)で透析したNo.8抗体の吸光度を測定し、同緩衝液を用いてAbs 0.5にそれぞれ調製し、抗体溶液を作製した。
2)Dynal Biotech 社製 Dynabeads M-450 Epoxy(30 mg/mL)を1mL分注し、分注液を上記緩衝液で3回洗浄し、1)で作製した抗体溶液を1mL添加した。25℃にて回転攪拌を18時間以上実施した。
3)ビーズブロッキングバッファー[50mM Tris,150mM NaCl,0.1%BSA(脂肪酸不含),0.09% NaN3,pH7.8]で2)で調製したビーズを2回洗浄した。洗浄により緩衝液を取り除くことで溶液中に残存していたビーズ未結合の抗体を除去した。その後ビーズブロッキングバッファーを1mLずつ加え攪拌し25℃にて回転攪拌を18時間以上実施した。
4)ビーズブロッキングバッファーでビーズを2回洗浄後、ビーズブロッキングバッファーを1mL加え攪拌した。これをNo.8抗体結合磁気ビーズとした。
5)前記手順1)~4)をNo.11、No.12、及びNo.29抗体に関しても繰り返し、No.11抗体結合磁気ビーズ、No.12抗体結合磁気ビーズ、及びNo.29抗体結合磁気ビーズを得た。これらの4種の抗体結合磁気ビーズを使用時まで4℃で保存した。
【0043】
(2.ルテニウム標識抗体の作製)
1)150mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.8)で透析済みNo.8抗体液312.5μLに、10mg/mLのルテニウム錯体(IGEN社製 Origin Tag-NHS ESTER)を14.1μL加え、30分間攪拌した。その後、2M グリシンを50μL添加し、20分間攪拌した。
2)直径1cm、高さ30cmのガラス管に充填したゲルろ過カラムクロマトグラフィー(GEヘルスケア バイオサイエンス社製 Sephadex G-25)に1)で作製したルテニウム錯体標識抗体をアプライし、未標識のルテニウム錯体とルテニウム錯体標識No.8抗体を単離精製した。溶出は、10mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)にて行った。
3)前記手順1)~2)をNo.11、No.12、及びNo.29抗体に関しても繰り返し、ルテニウム錯体標識No.11抗体、ルテニウム錯体標識No.12抗体、及びルテニウム錯体標識No.29抗体を得た。
【0044】
(3.遊離AIMに特異的に結合する抗体のスクリーニング)
1)NASH-HCC患者血清1検体を10μL取り、200μLの反応用溶液[50mM HEPES,50mM NaCl,0.05% Tween20,1mM EDT-4Na,0.5% BSA,0.09% NaN3,100μg/mL マウスIgG,pH7.8]へ添加した。
2)そこにビーズ希釈液[50mM HEPES,100mM NaCl,0.1% Tween20,1mM EDT-4Na,0.5% BSA,0.09% NaN3,pH7.8]で0.5mg/mL濃度に希釈したNo.11抗体結合磁気ビーズを25μLずつ添加し、30℃で9分間反応させた(第一反応)。
その後、磁気ビーズを磁石でトラップし、反応管内の液体を抜き取り、洗浄液[50mmol/L Tris HCl,0.01%(W/V)Tween20,0.15mol/L NaCl,pH7,5]350μLで2回磁気ビーズを洗浄し、抗原抗体反応以外の非特異結合物質を除去した(BF分離)。
3)次にルテニウム用希釈溶液[50mM HEPES,50mM NaCl,0.05% Tween20,1mM EDT-4Na,0.5% BSA,0.09% NaN3,100μg/mL マウスIgG,pH7.8]で0.6μg/mL濃度に希釈したルテニウム標識No.12抗体を200μL加えて30℃で9分間反応させた(第二反応)。
反応後の磁気ビーズを磁石でトラップし反応管内の液体を抜き取り、洗浄液350μLで2回磁気ビーズを洗浄し、抗原抗体反応以外の非特異結合物質を除去した(BF分離)。
4)その後、反応管に300μLのトリプロピルアミンを入れ、磁気ビーズと混合した。この状態で電気エネルギーを与えることでルテニウム錯体が発光し、その発光強度を検出機で検出した。
なお、上記反応管への磁気ビーズ添加操作以降は、ルテニウム錯体発光自動測定機であるピコルミIII上で実施した。
上記操作を以下の計16通りの抗体の組み合わせ(抗体結合磁気ビーズ4種類×ルテニウム標識抗体×4種類)で実施して、測定系に対するIgM-AIM量の測りこみを検証した。
【0045】
結果を図1(A)~図1(H)に示す。No.12抗体を抗体結合磁気ビーズ又はルテニウム標識抗体として用いた場合に、遊離AIMを特異的に分析できることが分かった。
No.12抗体を抗体結合磁気ビーズ又はルテニウム標識抗体として用いていない場合には、IgM-AIMの測定系への測りこみが見られた(4測定系のみ図1(E)~(H)として掲載。残りは図示せず。)。したがって、No.12抗体が遊離AIMに特異的な抗体であることが示された。
【0046】
〔実施例3:エピトープ分析〕
(1.ELISA法によるエピトープ分析)
抗原として遊離AIM(SRCR1+2+3)及びAIMのSRCR1+2(SRCR1ドメイン及びSRCR2ドメインから成るペプチド)を用い、そして抗AIMモノクローナル抗体としてNo.8、No.11、No.12、およびNo.29抗体を用いてELISA法を行い、No.8、No.11、No.12、およびNo.29抗体のエピトープを分析した。実験に使用したヒトAIMの各断片は、タカラバイオ社に作成を依頼して入手した。
遊離AIMおよびAIMのSRCR1+2(SRCR1ドメイン+SRCR2ドメイン)をプレートに固相化し、No.8、No.11、No.12、およびNo.29抗体を添加した。洗浄後、HRP標識抗マウスIgGモノクローナル抗体を反応させ、HRP基質によって発色させた。結果を表1及び2に示す。
【0047】
【表1】
【表2】
【0048】
表1は、ELISA測定値を示し、表2は、前記ELISA測定値を基にした、各抗体の抗原への反応性を示している。「+」は反応することを示し、「-」は反応しないことを示す。
No.8、No.11およびNo.29抗体は、SRCR1+2とは反応しなかったが、遊離AIMとは反応した。No.12抗体は、遊離AIM及びSRCR1+2のいずれとも反応した。
したがって、ELISAの結果より、No.12抗体はSRCR1ドメイン又はSRCR2ドメインのいずれかをエピトープとして認識しており、No.8、No.11およびNo.29抗体は、SRCR3ドメインをエピトープとして認識していることが分かった。
【0049】
(2.ウエスタンブロッティングによるエピトープ分析)
抗原としてAIMのSRCR1ドメイン(図2中の「1」)、AIMのSRCR2ドメイン(図2中の「2」)、AIMのSRCR2ドメイン及びSRCR3ドメイン(図2中の「23」)、並びにヒトAIM(図2中の「hAIM」を用い、そして抗AIMモノクローナル抗体としてNo.11及びNo.12抗体を用いてウエスタンブロットを行い、No.11及びNo.12抗体のエピトープを分析した。各抗原をsample bufferと混合し、SDS-PAGE法にて分離した。電気泳動後、蛋白質をPVDF膜(Immobilon,ミリポア社)に転写し、No.11又はNo.12抗体と4℃ overnightにて一次抗体反応を行った。二次抗体にHRP結合抗マウスIgG抗体、検出試薬としてLuminata Forte Western HRP Substrate(ミリポア社)を用い、シグナルの検出はImage Quant LAS 4000(GE Healthcare社)にて行った。結果を図2に示す。
【0050】
No.12抗体は、hAIM(SRCR1+2+3)、SRCR2+3、及びSRCR2に反応したことから、エピトープはSRCR2であった。No.12抗体は、SRCR1には反応しなかった。
一方、No.11抗体は、hAIM(SRCR1+2+3)及びSRCR2+3に反応したことから、SRCR3に反応する抗体であることわかった。No.11抗体は、SRCR1及びSRCR2にはいずれも反応しなかった。
【0051】
以上よりNo.12抗体は、SRCR2ドメインをエピトープとして認識しており、No.11抗体は、SRCR3ドメインをエピトープとして認識していることが明らかになった。また、実験に使用した各SRCRは、HEK293細胞を使用して得ており、HEK293細胞を使用すると生体内の構造に近い状態のタンパクが得られることから、No.12抗体は、SRCR2ドメイン内の立体構造を認識する抗体であると考えられた。
したがって、SRCR2ドメインをエピトープとして認識するモノクローナル抗体をスクリーニングすることにより、複合体AIMには反応せず、遊離AIMには反応する抗AIMモノクローナル抗体を得ることができることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、複合体AIM及び遊離AIMを含む生物学的試料において、遊離AIMのみを特異的に検出することが可能である。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図2
【配列表】
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