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特許7315968生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法及び対象におけるNASHの検出方法
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  • 特許-生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法及び対象におけるNASHの検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法及び対象におけるNASHの検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230720BHJP
【FI】
G01N33/53 D
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020569719
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2020003416
(87)【国際公開番号】W WO2020158858
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2019015224
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】511288304
【氏名又は名称】宮崎 徹
(73)【特許権者】
【識別番号】515099241
【氏名又は名称】社会福祉法人恩賜財団済生会
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】岡上 武
(72)【発明者】
【氏名】浅井 智英
(72)【発明者】
【氏名】鐘築 由香
(72)【発明者】
【氏名】廣田 次郎
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/043617(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/022315(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/162021(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/086480(WO,A1)
【文献】Human AIM/CD5L/Spα ELISA Kit User's Manual,MBL,2014年,<URL: https://www.mblintl.com/ assets/CY-8080-v141003.pdf>
【文献】ARAI, S. et al.,Apoptosis inhibitor of macrophage protein enhances intraluminal debris clearance and ameliorates acute kidney injury in mice,Nature Medicine,2016年01月04日,Vol.22,No.2,pp.183-193
【文献】MIYAZAKI, T. et al.,AIM associated with the IgM pentamer: attackers on stand-by at aircraft carrier,Cellular & Molecular Immunology,2018年01月29日,Vol.15,pp.563-574
【文献】ARAI, S et al.,Obesity-Associated Autoantibody Production Requires AIM to Retain the Immunoglobulin M Immune Complex on Follicular Dendritic Cells,Cell Reports,2013年,Vol.3, No.4,pp.1187-1198
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗IgM抗体の存在下で、生物学的試料と遊離AIMに特異的に反応する抗体とを接触させることを含む、複合体AIM及び遊離AIMを含む生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法。
【請求項2】
前記生物学的試料が、体液試料である、請求項1に記載の生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法。
【請求項3】
前記遊離AIMに特異的に反応する抗体が、モノクローナル抗体である、請求項1又は2に記載の生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法。
【請求項4】
抗IgM抗体と、遊離AIMに特異的に反応する抗体と、を含む、複合体AIM及び遊離AIMを含む生物学的試料中の遊離AIM分析キット。
【請求項5】
前記生物学的試料が、体液試料である、請求項4に記載の生物学的試料中の遊離AIM分析キット。
【請求項6】
遊離AIMに特異的に反応する抗体が、モノクローナル抗体である、請求項4又は5に記載の生物学的試料中の遊離AIM分析キット。
【請求項7】
抗IgM抗体の存在下で、生物学的試料と遊離AIMに特異的に反応する抗体とを接触させることを含む、複合体AIM及び遊離AIMを含む生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析における非特異反応抑制方法。
【請求項8】
前記生物学的試料が、体液試料である、請求項7に記載の非特異反応抑制方法。
【請求項9】
前記非特異反応が、生物学的試料中のIgMに由来する非特異反応である、請求項7又は8に記載の非特異反応抑制方法。
【請求項10】
抗IgM抗体の存在下で、生物学的試料と遊離AIMに特異的に反応する抗体とを接触させることと
シグナルを検出することにより、生物学的試料中の遊離AIM量を測定することと
測定した遊離AIM量を基準値と比較することと
を含む、NASHの検出方法。
【請求項11】
前記生物学的試料が、体液試料である、請求項10に記載のNASHの検出方法。
【請求項12】
前記遊離AIMに特異的に反応する抗体が、モノクローナル抗体である、請求項10又は11に記載のNASHの検出方法。
【請求項13】
NAFLとNASHとを判別する、請求項10~12のいずれかに記載のNASHの検出方法。
【請求項14】
抗IgM抗体と、遊離AIMに特異的に反応する抗体と、を含む、NASHの診断キット。
【請求項15】
体液試料中の遊離AIM濃度を測定する、請求項14に記載のNASHの診断キット。
【請求項16】
遊離AIMに特異的に反応する抗体が、モノクローナル抗体である、請求項14又は15に記載のNASHの診断キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法及び分析キットに関する。本発明は、生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析における非特異反応抑制方法にも関する。また、本発明は、対象におけるNASHの検出方法及び診断キットに関する。
【背景技術】
【0002】
AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)は組織マクロファージにより産生される、分子量約50kDa分泌型の血中タンパク質である。AIMは、システイン残基を多く含む特異的な配列であるscavenger receptor cysteine-rich(SRCR)ドメインをタンデムに3つつなげた構造をしている。それぞれのシステイン残基は各ドメイン内で互いにジスルフィド結合することで、コンパクトな球状の立体構造をしていると考えられている。
【0003】
AIMは、リポ多糖、IgM、補体制御因子、及び脂肪酸合成酵素など,さまざまな分子と結合するという特徴を持つことが知られている。中でも、AIMは、血中においてIgMとの複合体の形態で存在することが知られている。IgMは500kDaをこえる巨大なタンパク質複合体であるため、IgMに結合しているかぎりAIMも糸球体を通過して尿へと移行することはなく、AIMの高い血中濃度が保たれる。IgMから解離するとAIMはすみやかに尿へと排泄される。したがって、大部分のAIMは血液中においてIgMと複合体を形成しており、結合体ではなく遊離状態で血中に存在することはほとんどない。
【0004】
近年、AIMが、インスリン抵抗性又は動脈硬化などのさまざまな疾患における病態の進行に関与することが明らかにされている。例えば、他の結合パートナーと結合していない遊離の形態で存在する遊離AIMと肝疾患との関係について報告されている(特許文献1)
【0005】
肝疾患の中では、近年、非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease;NAFLD)の患者が増加しており、日本国内においては約1500~2000万人がNAFLDに罹患していると推定される。
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は非飲酒者で脂肪肝を呈する病態総称である。NAFLDは、肝硬変や肝癌の発症母地にもなる非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis;NASH)と、病態がほとんど進行しない非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver;NAFL)とに分類される。日本国内においては、約150万~300万人がNASHに罹患していると推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/043617号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
遊離AIM量の測定結果に基づき特定の疾患を診断する場合、複合体を形成しているAIMの量を排除し、遊離AIM量のみを測定する必要がある。しかしながら、遊離AIMを検出する際に、他の結合パートナーと結合している複合体AIMも検出してしまう場合があった。したがって、複雑な操作を伴うことなく複合体を形成しているAIM量を排除し、遊離AIM量のみを測定することが可能な技術が望まれていた。
また、NASHの確定診断には、肝組織の生検が必須とされており、肝組織の生検により、脂肪量、炎症の程度、及び線維化の進行程度を把握し、NASHを診断することが可能となる。しかしながら、肝組織の生検は、肝臓に針を刺して組織や細胞を一部採取することを含むものであり、患者及び医療従事者に過度の負担を強いるものであると共に、合併症等のリスクを伴うものである。したがって、より簡易的に実施することができ、さらに患者及び医療従事者に負担をかけない新たなNASH診断法の開発が望まれていた。
本発明の目的は、優れた特異性を有する、複合体AIM及び遊離AIMを含む生物学的試料中の遊離AIM量の免疫学的分析方法、並びに優れた特異性及び感度を有する、対象におけるNASHの検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、抗IgM抗体を用いることにより、遊離AIMに特異的に反応する抗体の遊離AIMに対する特異性をさらに向上させることが可能であること、そして抗IgM抗体の使用と遊離AIMに特異的に反応する抗体の使用とを組み合わせることにより、対象においてNASHを検出できることを見出し、本発明を完成するに至った。
特許文献1の実施例3においては、健常人、NAFLに罹患する対象、及びNASHに罹患している対象の血清中の遊離AIM量において、差異は見受けられなかったことが記載されている。それにもかかわらず、抗IgM抗体の存在下で分析を行ったところ、NAFLに罹患している対象とNASHに罹患している対象の血清中の遊離AIM量において、有意差を確認することができた。これは驚くべきことである。
具体的に、本発明は以下のとおりである。
<1>抗IgM抗体の存在下で、生物学的試料と遊離AIMに特異的に反応する抗体とを接触させることを含む、複合体AIM及び遊離AIMを含む生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法、
<2>前記生物学的試料が、体液試料である、<1>に記載の生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法、
<3>前記遊離AIMに特異的に反応する抗体が、モノクローナル抗体である、<1>又は<2>に記載の生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法、
<4>抗IgM抗体と遊離AIMに特異的に反応する抗体とを含む、複合体AIM及び遊離AIMを含む生物学的試料中の遊離AIM分析キット、
<5>前記生物学的試料が、体液試料である、<4>に記載の生物学的試料中の遊離AIM分析キット、
<6>遊離AIMに特異的に反応する抗体が、モノクローナル抗体である、<4>又は<5>に記載の生物学的試料中の遊離AIM分析キット、
<7>抗IgM抗体の存在下で、生物学的試料と遊離AIMに特異的に反応する抗体とを接触させることを含む、複合体AIM及び遊離AIMを含む生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析における非特異反応抑制方法、
<8>前記生物学的試料が、体液試料である、<7>に記載の非特異反応抑制方法、
<9>前記非特異反応が、生物学的試料中のIgMに由来する非特異反応である、<7>又は<8>に記載の非特異反応抑制方法、
<10>抗IgM抗体の存在下で、生物学的試料と遊離AIMに特異的に反応する抗体とを接触させることと、シグナルを検出することにより、生物学的試料中の遊離AIM量を測定することと、測定した遊離AIM量を基準値と比較することと、
を含む、NASHの検出方法、
<11>前記生物学的試料が、体液試料である、<10>に記載のNASHの検出方法、
<12>前記遊離AIMに特異的に反応する抗体が、モノクローナル抗体である、<10>又は<11>に記載のNASHの検出方法、
<13>NAFLとNASHとを判別する、<10>~<12>のいずれかに記載のNASHの検出方法、
<14>抗IgM抗体と遊離AIMに特異的に反応する抗体とを含む、NASHの診断キット、
<15>体液試料中の遊離AIM濃度を測定する、<14>に記載のNASHの診断キット、並びに
<16>遊離AIMに特異的に反応する抗体が、モノクローナル抗体である、<14>又は<15>に記載のNASHの診断キット。
本発明は、以下の実施形態も包含する。
<A1>抗IgM抗体の存在下で、生物学的試料と遊離AIMに特異的に反応する抗体とを接触させることを含む、複合体AIM及び遊離AIMを含む生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法、

<A2>抗IgM抗体が、HBR-1、HBR-3、HBR-6、HBR-9、HBR20、HBR21、HBR23、及びHBR26からなる群から選択される1つ以上である、<A1>に記載の生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法、
<A3>抗IgM抗体の濃度が、1~1000μg/mLである<A1>又は<A2>に記載の生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法、
<A4>前記生物学的試料が、血液、血清、血漿又は尿である、<A1>~<A3>のいずれかに記載の生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析方法、
<B1>抗IgM抗体と遊離AIMに特異的に反応する抗体とを含む、複合体AIM及び遊離AIMを含む生物学的試料中の遊離AIM分析キット、
<B2>抗IgM抗体が、HBR-1、HBR-3、HBR-6、HBR-9、HBR20、HBR21、HBR23、及びHBR26からなる群から選択される1つ以上である、<B1>に記載の生物学的試料中の遊離AIM分析キット、
<B3>抗IgM抗体の濃度が、1~1000μg/mLである<B1>又は<B2>に記載の生物学的試料中の遊離AIM分析キット、
<B4>前記生物学的試料が、血液、血清、血漿又は尿である、<B1>~<B3>のいずれかに記載の生物学的試料中の遊離AIM分析キット、
<C1>抗IgM抗体の存在下で、生物学的試料と遊離AIMに特異的に反応する抗体とを接触させることを含む、複合体AIM及び遊離AIMを含む生物学的試料中の遊離AIMの免疫学的分析における非特異反応抑制方法、
<C2>抗IgM抗体が、HBR-1、HBR-3、HBR-6、HBR-9、HBR20、HBR21、HBR23、及びHBR26からなる群から選択される1つ以上である、<C1>に記載の非特異反応抑制方法、
<C3>抗IgM抗体の濃度が、1~1000μg/mLである<C1>又は<C2>に記載の非特異反応抑制方法、
<C4>前記生物学的試料が、血液、血清、血漿又は尿である、<C1>~<C3>のいずれかに記載の非特異反応抑制方法、
<D1>抗IgM抗体の存在下で、生物学的試料と遊離AIMに特異的に反応する抗体とを接触させることと、シグナルを検出することにより、生物学的試料中の遊離AIM量を測定することと、測定した遊離AIM量を基準値と比較することと、
を含む、NASHの検出方法、
<D2>抗IgM抗体が、HBR-1、HBR-3、HBR-6、HBR-9、HBR20、HBR21、HBR23、及びHBR26からなる群から選択される1つ以上である、<D1>に記載のNASHの検出方法、
<D3>抗IgM抗体の濃度が、1~1000μg/mLである<D1>又は<D2>に記載のNASHの検出方法、
<D4>前記生物学的試料が、血液、血清、血漿又は尿である、<D1>~<D3>のいずれかに記載のNASHの検出方法、
<E1>抗IgM抗体と遊離AIMに特異的に反応する抗体とを含む、NASHの診断キット、
<E2>抗IgM抗体が、HBR-1、HBR-3、HBR-6、HBR-9、HBR20、HBR21、HBR23、及びHBR26からなる群から選択される1つ以上である、<E1>に記載のNASHの診断キット、
<E3>抗IgM抗体の濃度が、1~1000μg/mLである<E1>又は<E2>に記載のNASHの診断キット、
<E4>前記生物学的試料が、血液、血清、血漿又は尿である、<E1>~<E3>のいずれかに記載のNASHの診断キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複合体AIM及び遊離AIMを含む生物学的試料において、遊離AIMに特異的に反応する抗体の遊離AIMに対する特異性をさらに向上させることができる。本発明によれば、患者及び医療従事者に負担をかけず、NASHの診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】種々の抗ヒトIgM抗体を測定系に添加した場合の非特異反応抑制効果を表す図である。
図2】抗ヒトIgM抗体を測定系に添加した場合の非特異反応抑制効果を表す図である。
図3】本発明の免疫学的分析方法の一実施形態と既存の測定系との比較を表すグラフである。
図4】NASHの検出における本発明の免疫学的分析方法の一実施形態と既存の測定系との比較を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(生物学的試料)
本発明において分析可能な生物学的試料としては、主に生体(生物)由来の固形組織及び体液試料を挙げることができ、体液試料を用いることが好ましい。本発明において分析可能な生物学的試料は、より好ましくは、血液、血清、血漿、尿、唾液、喀痰、涙液、耳漏、又は前立腺液等の体液試料であり、さらに好ましくは血液、血清、血漿又は尿である。生体又は対象は、ヒト又は動物(例えば、マウス、モルモット、ラット、サル、イヌ、ネコ、ハムスター、ウマ、ウシ、及びブタ)を含み、好ましくはヒトである。対象からの生物学的試料は、本発明の実施時に採取または調製されたものでもよく、予め採取または調製され保存されたものであってもよい。試料を調製する者と試料中の遊離AIMを分析する者とは別の者であってもよい。生物学的試料は、インビボの試料であることができる。生物学的試料は、NASHを罹患している可能性のある対象、又はNASHを罹患している対象であることができる。本発明において、生物学的試料は、遊離AIMと複合体AIMの両方を含む。
【0012】
(AIM)
AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)は組織マクロファージにより産生される、分子量約50kDa分泌型の血中タンパク質である。AIMは、システイン残基を多く含む特異的な配列であるscavenger receptor cysteine-rich(SRCR)ドメインをタンデムに3つつなげた構造をしており、それぞれのシステイン残基は各ドメイン内で互いにジスルフィド結合することで、コンパクトな球状の立体構造をしていると考えられている。
ヒトAIMは、配列番号1で表される347アミノ酸から成り、システインを多く含む3つのSRCRドメインを含んでいる。SRCR1ドメインは、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号24~125に該当する。SRCR2ドメインは、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号138~239に該当する。SRCR3ドメインは、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号244~346に該当する。
ヒトAIMのアミノ酸配列は以下のとおりである。
MALLFSLILAICTRPGFLASPSGVRLVGGLHRCEGRVEVEQKGQWGTVCDDGWDIKDVAVLCRELGCGAASGTPSGILYEPPAEKEQKVLIQSVSCTGTEDTLAQCEQEEVYDCSHDEDAGASCENPESSFSPVPEGVRLADGPGHCKGRVEVKHQNQWYTVCQTGWSLRAAKVVCRQLGCGRAVLTQKRCNKHAYGRKPIWLSQMSCSGREATLQDCPSGPWGKNTCNHDEDTWVECEDPFDLRLVGGDNLCSGRLEVLHKGVWGSVCDDNWGEKEDQVVCKQLGCGKSLSPSFRDRKCYGPGVGRIWLDNVRCSGEEQSLEQCQHRFWGFHDCTHQEDVAVICSG(配列番号1)
すなわち、ヒトAIM中の、SRCR1ドメイン、SRCR2ドメイン、及びSRCR3ドメインのアミノ酸配列は、それぞれ以下の通りである。
SRCR1ドメイン:
VRLVGGLHRCEGRVEVEQKGQWGTVCDDGWDIKDVAVLCRELGCGAASGTPSGILYEPPAEKEQKVLIQSVSCTGTEDTLAQCEQEEVYDCSHDEDAGASCE(配列番号2)
SRCR2ドメイン:
VRLADGPGHCKGRVEVKHQNQWYTVCQTGWSLRAAKVVCRQLGCGRAVLTQKRCNKHAYGRKPIWLSQMSCSGREATLQDCPSGPWGKNTCNHDEDTWVECE(配列番号3)
SRCR3ドメイン:
LRLVGGDNLCSGRLEVLHKGVWGSVCDDNWGEKEDQVVCKQLGCGKSLSPSFRDRKCYGPGVGRIWLDNVRCSGEEQSLEQCQHRFWGFHDCTHQEDVAVICS(配列番号4)
【0013】
(遊離AIM)
本明細書において、「遊離AIM」とは、リポ多糖又はIgM等の他の物質と結合していない、遊離状態で存在するAIMを意味する。これに対し、本明細書において、リポ多糖又はIgM等の他の物質と結合しており、他の物質との複合体の状態で存在するAIMを複合体AIMと称する。遊離AIMとは、好ましくは、遊離状態で存在するヒトAIMである。遊離AIMとは、好ましくは、ヒトの遊離AIMであり、複合体AIMとは、好ましくは、ヒトの複合体AIMである。
【0014】
(抗IgM抗体)
本明細書において使用される用語「抗IgM抗体」は、IgMに結合する性質を有する抗体を意味する。換言すれば、「抗IgM抗体」は、オクタローニー法によりヒトIgMと沈降線を生ずる物質を意味する。IgMに結合性を有し且つ本発明の効果を損なわない範囲内で、他の抗原に対して結合性を有してもよい。本発明において使用される抗IgM抗体は、好ましくは抗ヒトIgM抗体である。本発明において使用される抗IgM抗体としては、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体のいずれも使用可能であるが、遊離AIMに特異的に反応する抗体の感度を確保する観点から、モノクローナル抗体を使用することが好ましい。抗IgM抗体は、IgMと結合することができる機能性断片であってもよい。本発明の免疫学的分析方法においては、ヒト血清サンプルに対する抗IgM抗体の使用により、抗IgM抗体非添加の場合と比較して、複合体AIMに由来する非特異反応を50%以下、好ましくは40%以下に減少させることができる。
本発明において使用される抗IgM抗体として、市販の抗IgM抗体を使用することもできる。市販の抗IgM抗体としては、HBR-1、HBR-3、HBR-6、HBR-9、HBR20、HBR21、HBR23、及びHBR26(SCANTIBODIES社)等が使用できる。非特異反応を効果的に防止することから、HBR-6及び/又はHRB-20を使用することが好ましい。
抗IgM抗体の添加濃度は十分な非特異反応抑制効果を示し、かつ免疫学的測定の本反応に影響を及ぼさない濃度であれば特に制限はないが、モノクローナル抗体である場合、1~1000μg/mLの濃度範囲での利用が望ましく、10~1000μg/mLがより望ましく、10~300μg/mLがさらに望ましい。ポリクローナル抗体である場合、0.01~2重量%の濃度範囲での利用が望ましく、0.03~2重量%の濃度範囲での利用が望ましく、0.05~1重量%がさらに望ましい。
本発明において、抗IgM抗体のIgMへの結合親和性は、本発明の効果が得られる限りにおいて特に限定されることはないが、例えば、IgMに対して少なくとも約10-4M、少なくとも約10-5M、少なくとも約10-6M、少なくとも約10-7M、少なくとも約10-8M、少なくとも約10-9M、少なくとも約10-10M、少なくとも約10-11M、少なくとも約10-12M、またはそれ以上のKdであることができる。
【0015】
抗IgM抗体は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体のいずれも公知の方法に従って作製することができる。モノクローナル抗体は、例えば、IgM又はIgMフラグメントで免疫した非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞である脾臓細胞あるいはリンパ節細胞を単離し、これを高い増殖能を有する骨髄腫由来の細胞株等と融合させてハイブリドーマを作製し、このハイブリドーマが産生した抗体を精製することによって得ることができる。また、ポリクローナル抗体は、IgM又はIgMフラグメントで免疫した動物の血清から得ることができる。また、免疫原としては、例えば、ヒトやサルなどの霊長類、ラットやマウスなどのげっ歯類、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ブタなどの、IgM又はIgMフラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
抗IgM抗体としては、抗体分子全体のほかに抗原抗体反応活性を有する抗体のフラグメントを使用することも可能であり、前記のように動物への免疫工程を経て得られたもののほか、遺伝子組み換え技術を使用して得られるものやキメラ抗体を用いることも可能である。抗体の断片としては機能性の断片であることが好ましく、例えば、F(ab')2、Fab'、scFvなどが挙げられ、これらのフラグメントは前記のようにして得られる抗体をタンパク質分解酵素(例えば、ペプシンやパパインなど)で処理すること、あるいは該抗体のDNAをクローニングして大腸菌や酵母を用いた培養系で発現させることにより製造できる。
【0017】
本明細書において「非特異反応」とは、本発明において使用される抗AIM抗体に、遊離AIM以外の物質が結合することを意味する。本発明では、抗IgM抗体を用いることで、複合体AIM、特にIgMが結合パートナーとして結合している複合体AIMによる非特異反応を抑制することができる。
【0018】
(遊離AIMに特異的に反応する抗体)
本明細書では、「遊離AIMに特異的に反応する抗体」は、抗IgM抗体の非存在下において遊離AIMにのみ反応し、複合体AIMとは実質的に反応しない抗体を意味する。本明細書において「遊離AIMには実質的に反応しない」とは、当業者に公知の手法により抗体の反応性を測定した場合に、遊離AIMに対する結合力を100とした場合の、複合体AIMに対する結合力が10%未満である場合を意味する。なお、本明細書において「抗AIM抗体」とは、遊離AIMに反応する抗体を意味する。すなわち、本明細書において「抗AIM抗体」には、遊離AIMに特異的に反応する抗体及び遊離AIMと複合体AIMのいずれにも反応する抗体が含まれる。
本発明の免疫学的分析方法において用いられる、遊離AIMに特異的に反応する抗体は、ヒトAIMのSRCR2ドメイン内のエピトープに結合するものであることができる。本発明の免疫学的分析方法において用いられる、遊離AIMに特異的に反応する抗体は、好ましくは、ヒトAIMのSRCR2ドメイン内のエピトープに結合し、SRCR1ドメインには結合しない。本発明の免疫学的分析方法において用いられる、遊離AIMに特異的に反応する抗体は、さらに好ましくは、ヒトAIMのSRCR2ドメイン内のエピトープに結合し、SRCR1ドメイン及びSRCR3ドメインのいずれにも結合しない。
【0019】
本発明の免疫学的分析方法では、遊離AIMに特異的に反応する抗体を少なくとも1つ使用する。測定対象となる遊離AIMを異なるエピトープを認識する2種の抗体でサンドイッチするいわゆるサンドイッチアッセイを行う場合、一方の抗体が遊離AIMに特異的に反応する抗体であればよく、もう一方の抗体は抗AIM抗体であればよいが、2種の抗体いずれもが遊離AIMに特異的に反応する抗体であることが好ましい。測定対象となる遊離AIMを異なるエピトープを認識する2種の抗体でサンドイッチするいわゆるサンドイッチアッセイを行う場合、2種の抗体が、異なるエピトープを認識することが好ましい。また、後述のECL法又はELISA法を行う場合は、固相に固定化された固相抗体として遊離AIMに特異的に反応する抗体を使用することが好ましい。
【0020】
本発明の免疫学的分析方法において使用される、遊離AIMに特異的に反応する抗体の遊離AIMへの結合親和性は、本発明の効果が得られる限りにおいて特に限定されることはないが、例えば、IgMに対して少なくとも約10-4M、少なくとも約10-5M、少なくとも約10-6M、少なくとも約10-7M、少なくとも約10-8M、少なくとも約10-9M、少なくとも約10-10M、少なくとも約10-11M、少なくとも約10-12M、またはそれ以上のKdであることができる。
【0021】
抗体と、複合体AIMなどの特定の化合物が「実質的に反応しない」かどうかの確認は、抗原固相化ELISA法、競合ELISA法、サンドイッチELISA法などにより行うことができるほか、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance)の原理を利用した方法(SPR法)などにより行うことができる。SPR法は、Biacore(登録商標)の名称で市販されている、装置、センサー、試薬類を使用して行うことができる。
【0022】
本発明の免疫学的分析方法では、抗IgM抗体を反応系に存在させることにより、遊離AIMに特異的に反応する抗体と複合体AIMとの反応性をさらに低下させることができる。抗IgM抗体を測定系に添加するタイミングについては、本発明の効果が得られる限りにおいて特に限定されることはないが、遊離AIMに特異的に反応する抗体の添加より前に又は添加と同時に添加することが好ましい。
【0023】
遊離AIMに特異的に反応する抗体は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体のいずれも公知の方法に従って作製することができる。モノクローナル抗体は、例えば、遊離AIM若しくは遊離AIMフラグメントで免疫した非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞である脾臓細胞あるいはリンパ節細胞を単離し、これを高い増殖能を有する骨髄腫由来の細胞株等と融合させてハイブリドーマを作製し、このハイブリドーマが産生した抗体を精製することによって得ることができる。また、ポリクローナル抗体は、遊離AIM若しくは遊離AIMフラグメントで免疫した動物の血清から得ることができる。また、免疫原としては、例えば、ヒトやサルなどの霊長類、ラットやマウスなどのげっ歯類、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ブタなどの、遊離AIM若しくは遊離AIMフラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
遊離AIMに特異的に反応する抗体としては、抗体分子全体のほかに抗原抗体反応活性を有する抗体のフラグメントを使用することも可能である。前記のように動物への免疫工程を経て得られたもののほか、遺伝子組み換え技術を使用して得られるものやキメラ抗体を用いることも可能である。抗体の断片としては機能性の断片であることが好ましく、例えば、F(ab')2、Fab'、scFvなどが挙げられる。これらのフラグメントは前記のようにして得られる抗体をタンパク質分解酵素(例えば、ペプシンやパパインなど)で処理すること、あるいは該抗体のDNAをクローニングして大腸菌や酵母を用いた培養系で発現させることにより製造できる。
【0025】
本明細書において、遊離AIMと「反応する」、遊離AIMを「認識する」、遊離AIMと「結合する」は、同義で用いられるが、これらの例示に限定されることはなく、最も広義に解釈する必要がある。抗体が遊離AIMなどの抗原(化合物)と「反応する」か否かの確認は、抗原固相化ELISA法、競合ELISA法、サンドイッチELISA法などにより行うことができるほか、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance)の原理を利用した方法(SPR法)などにより行うことができる。SPR法は、Biacore(登録商標)の名称で市販されている、装置、センサー、試薬類を使用して行うことができる。
【0026】
本明細書において、「不溶性担体」を「固相」、抗原や抗体を不溶性担体に物理的あるいは化学的に担持させることあるいは担持させた状態を「固定」、「固定化」、又は「固相化」と表現することがある。また、「分析」、「検出」、又は「測定」という用語は、遊離AIMの存在の証明及び/又は定量などを含めて最も広義に解釈する必要があり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。
【0027】
(免疫学的分析方法)
本発明において使用される免疫学的分析方法としては、電気化学発光免疫測定法(ECL法)、ELISA、酵素免疫測定法、免疫組織染色法、表面プラズモン共鳴法、ラテックス凝集免疫測定法、化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、放射免疫測定法、免疫沈降法、ウエスタンブロット法、イムノクロマトグラフ法、EATA法(Electrokinetic Analyte Transport Assay)及び高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
使用される抗体と結合可能な標識抗体(二次抗体)を用いることにより、遊離AIMに結合した抗体の量を測定することができ、それにより生物学的試料中の遊離AIM量を測定することができる。標識抗体を製造するための標識物質としては、例えば酵素、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、アビジン、放射性同位体、金コロイド粒子、又は着色ラテックスなどが挙げられる。当業者であれば、使用される抗体と標識物質に応じて、免疫学的分析方法を適宜選択することができる。
【0029】
免疫学的分析方法としては、電気化学発光免疫測定法(ECL法)を用いることが好ましい。電気化学発光免疫測定法(ECL法)とは、標識物質を電気化学的刺激により発光させ,その発光量を検出することで被検出物質量を算出する方法を意味する。電気化学発光免疫測定法(ECL法)では、標識物質として、ルテニウム錯体を用いることができる。固相(マイクロプレート又はビーズ等)に電極を設置してこの電極上で電気化学的刺激を起こすことにより、このルテニウム錯体の発光量を検出することができる。
遊離AIMに特異的に反応する抗体を固相抗体及び検出抗体のいずれの用途として用いてもよいが、遊離AIMに特異的に反応する抗体を固相抗体として用い、固相抗体とは異なるエピトープを認識する抗AIM抗体を検出抗体(標識抗体)として用いて電気化学発光免疫測定法(ECL法)を行うことが好ましい。遊離AIMに特異的に反応する抗体を固相抗体として用い、標識抗体として抗AIM抗体を用い、そして、固相としてビーズ、標識としてルテニウム錯体をそれぞれ用いた際の測定原理は、以下のとおりである。下記は本発明の一実施態様における測定原理を示すものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
1.抗IgM抗体の存在下で、遊離AIMに特異的に反応する抗体が結合したビーズと試料とを反応させると、試料中の遊離AIMがビーズに結合した固相抗体と結合する。
2.ビーズを洗浄後、ビーズに結合した遊離AIMに、ルテニウム標識抗体を反応させると、サンドイッチ状に結合する。
3.ビーズを洗浄後、電極上にて電気エネルギーを加えると、遊離AIMを介してビーズに結合したルテニウム標識抗体量に応じて、ルテニウム錯体が発光する。この発光量を計測することにより、検体中の遊離AIMを測定することができる。
また、ルテニウム標識抗体として、固相抗体とは異なるエピトープを認識する、遊離AIMに特異的に反応する抗体を使用することもできる。
【0030】
イムノアッセイの中で、酵素標識を用いるELISA法も、簡便且つ迅速に標的を測定することができて好ましい。サンドイッチELISAの場合、遊離AIMに特異的に反応する抗体を固定化した不溶性担体と、標識物質で標識された、固定抗体とは異なるエピトープを認識する抗AIM抗体とを使用することができる。この場合、不溶性担体はプレート(イムノプレート)が好ましく、標識物質は、適宜選択して使用できる。
遊離AIMに特異的に反応する抗体を固相抗体及び検出抗体のいずれの用途として用いてもよいが、遊離AIMに特異的に反応する抗体を固相抗体として用い、固相抗体とは異なるエピトープを認識する抗AIM抗体を検出抗体(標識抗体)として用いてサンドイッチELISAを行うことが好ましい。不溶性担体に固定化された遊離AIMに特異的に反応する抗体は、抗IgM抗体の存在下において、試料中の遊離AIMを捕捉し、不溶性担体上で抗体-遊離AIM複合体を形成する。標識物質で標識された抗体は、前記捕捉された遊離AIMに結合して前述の抗体-遊離AIM複合体とサンドイッチを形成する。標識
物質に応じた方法により標識物質の量を測定することにより、試料中の遊離AIMを測定することができる。抗体の不溶性担体への固定化の方法、抗体と標識物質との結合方法等、具体的な方法は、当業者に周知の方法を特に制限なく使用することができる。
また、標識抗体として、固相抗体とは異なるエピトープを認識する、遊離AIMに特異的に反応する抗体を使用することもできる。 また、免疫学的分析方法として、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)あるいはEATA法(Electrokinetic Analyte Transport Assay)を用いることも可能である。EATA法は、富士フィルム和光純薬株式会社製のミュータスワコーi30を使用して実施することができる。
【0031】
免疫学的分析方法としては、代表的な粒子凝集免疫測定法であるラテックス免疫凝集法(以下、LTIA法ということがある)も好ましい。LTIA法では、目的成分に対する抗体を担持させたラテックス粒子を用い、目的成分である抗原と抗体担持ラテックス粒子とが抗原抗体複合物を形成して結合することによって生じるラテックス粒子の凝集(濁り)の程度を光学的手段(例えば、透過光を測定する比濁法、散乱光を測定する比朧法など)などにより検出し、目的成分を分析することができる。本発明の免疫学的分析方法では、遊離AIMに特異的に反応する抗体を担持させたラテックス粒子を用い、抗IgM抗体の存在下において、目的成分である遊離AIMと抗体担持ラテックス粒子とが抗原抗体複合物を形成して結合することによって生じるラテックス粒子の凝集の程度を光学的手段により検出することができる。LTIA法を採用する場合、遊離AIMに特異的に反応する2種以上の抗体を使用することができ、又は遊離AIMに特異的に反応する抗体と遊離AIM及び複合体AIMのいずれにも反応する性質を有する抗体とを使用することもできる。
【0032】
[2]遊離AIM量の測定キット
本発明の遊離AIM量の測定キットは、抗IgM抗体と遊離AIMに特異的に反応する少なくとも1つの抗体とを含む。本発明の測定キットには、ほかに、他の検査試薬、検体希釈液、及び/又は使用説明書などを含むこともできる。
【0033】
本発明の遊離AIM量の測定キットは、好ましくは、以下の(1)~(3)を含むECL法による遊離AIM分析キットであることができる。
(1)遊離AIMに特異的に反応する抗体を固定化した固相、
(2)電気化学発光物質で標識した、固定化抗体とは異なるエピトープを認識する抗AIM抗体、並びに
(3)抗IgM抗体。
ECL法を使用する場合、本発明の測定キットは、遊離AIMに特異的に反応する抗体を固定化した固相とルテニウム錯体等の電気化学発光物質で標識した抗AIM抗体とを含むことが好ましい。例えば、固相としてマイクロビーズを用いたキットでは、遊離AIMに特異的に反応する抗体を固相化したマイクロビーズに、抗IgM抗体の存在下で、生物学的試料を添加して反応させた後、試料を除去して洗浄する。続いて、電気化学発光物質を標識した、遊離AIMに特異的に反応する抗体とは異なるエピトープを認識する抗AIM抗体を添加して反応させる。マイクロビーズを洗浄後、電気エネルギーを加えて発光させ標識物質の発光量を測定することにより、遊離AIM濃度を求めることができる。
また、固定抗体及び標識抗体の少なくとも一方が遊離AIMに特異的に反応する抗体であればよく、電気化学発光物質標識抗体として、固相抗体とは異なるエピトープを認識する、遊離AIMに特異的に反応する抗体を使用することもできる。
【0034】
サンドイッチELISA法を使用する場合、測定キットは少なくとも、以下の(1)~(3)を含むサンドイッチELISA法による遊離AIM分析キットであることができる。
(1)遊離AIMに特異的に反応する抗体(固相抗体)を固定化した不溶性担体、
(2)標識物質で標識された、固相抗体とは異なるエピトープを認識する抗AIM抗体(標識抗体)、及び
(3)抗IgM抗体。
このようなキットでは、まず、固相抗体を固定化した不溶性担体に、抗IgM抗体の存在下で、生物学的試料を添加した後インキュベートし、試料を除去して洗浄する。次に、標識抗体を添加した後インキュベートし、基質を加えて発色させる。プレートリーダー等を用いて発色を測定することにより、生物学的試料中における遊離AIM濃度を求めることができる。
また、固定抗体及び標識抗体の少なくとも一方が遊離AIMに特異的に反応する抗体であればよく、標識抗体として、固相抗体とは異なるエピトープを認識する、遊離AIMに特異的に反応する抗体を使用することもできる。
【0035】
LTIA法を使用する場合、測定キットは少なくとも、以下の(1)~(3)を含むLTIA法による遊離AIM分析キットであることができる。
(1)遊離AIMに特異的に反応する抗体(第一固相抗体)を固定化したラテックス粒子、
(2)固相抗体とは異なるエピトープを認識する抗AIM抗体(第二固相抗体)を固定化したラテックス粒子、及び
(3)抗IgM抗体。
このようなキットでは、抗IgM抗体存在下において、遊離AIMを介して第一固相抗体と第二固相抗体とが凝集する。凝集の程度を光学的手段を用いて検出することにより、生物学的試料中における遊離AIM濃度を求めることができる。
【0036】
(NASH)
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は肝細胞に脂肪が沈着するのみの単純性脂肪肝と、脂肪沈着とともに肝細胞の変性・壊死、炎症と共に線維化を伴う脂肪性肝炎に大別され、「NASH」は後者を意味する。すなわち、本明細書において、「NASH」とは、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のうち、肝細胞に脂肪が沈着するのみの単純性脂肪肝以外の疾患を意味する。
NASHの病理学的診断は、例えば、日本消化器病学会NAFLDNASH診療ガイドライン(2014年版)に従い行うことができる。具体的には、前記ガイドラインの80頁に記載のMatteoni分類に基づき患者を分類し、Type3及び4をNASHと診断することができる。Type1及び2は、NAFLと診断することができる。なお、また、前記ガイドラインの82頁に記載のNAS(NAFLD Activity Score)に基づき患者を分類し、NAS5点以上はNASHの可能性が高い。また、前記ガイドラインの82頁に記載のYounossiの診断基準に基づき、以下の(1)又は(2)を満たす場合をNASHと診断することができる。
(1)肝細胞の脂肪化(程度は問わない)に加え小葉中心性の肝細胞の風船様変性(centrilobular ballooning)やMallory-Denk体を認めるもの。
(2)肝細胞の脂肪化に加え小葉中心性の細胞周囲/類洞周囲(pericellular/perisinusoidal)の線維化または架橋形成(bridging fibrosis)を認めるもの。
【0037】
本明細書において「NASH」は、NASHが進行した肝硬変を含むが、NASHが進行した肝細胞癌を含まないものとする。
【0038】
特許文献1においては、NAFLに罹患する対象とNASHに罹患している対象の血清中の遊離AIM量において、差異は見受けられなかったことが記載されている。それにもかかわらず、抗IgM抗体の存在下で分析を行ったところ、NAFLに罹患する対象とNASHに罹患している対象の血清中の遊離AIM量において、有意差を確認することができた。特許文献1においては、遊離AIMの免疫学的分析において複合体AIMによる非特異的反応が生じ、両者の間に有意差が生じなかったものと推定される。
【0039】
本発明のNAFLD又はNASHの検出又方法を行った後、必要に応じて、他のNASHの検出方法の患者への実施、及び/又はNASH治療薬の患者への投与を実施してもよい。
【0040】
(シグナル)
シグナルは、遊離AIM量を正確に測定できる限り特に限定されることはなく、当業者に公知の任意のシグナルを採用することができる。シグナルは、抗体に標識した標識物質が発するシグナルであることができる。抗体に標識した標識物質としては、例えば酵素、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、アビジン、又は放射性同位体、金コロイド粒子、着色ラテックス粒子等が挙げられる。また標識物質と抗体との結合方法としては、当業者に利用可能なグルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法、又は過ヨウ素酸法等の方法を用いることができる。標識物質、結合方法のいずれも、上記に限定されることなく公知の方法を用いることができる。例えば、パーオキシダーゼやアルカリホスファターゼ等の酵素を標識物質として用いる場合には、その酵素の特異的基質(酵素が西洋ワサビパーオキシダーゼの場合には、例えば1,2-フェニレンジアミンあるいは3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン、アルカリホスファターゼの場合には、p-ニトロフェニルホスフェート等)を用いて酵素活性を測定することができ、ビオチンを標識物質として用いる場合には少なくともビオチン以外の標識物質で標識されたアビジンを反応させるのが一般的である。
【0041】
LTIA法を使用する場合は、散乱光強度、透過光強度、吸光度等を用いてラテックスの凝集の度合いを光学的に測定し、このラテックスの凝集度合いをシグナルとして用いることもできる。上記光学的測定には、散乱光強度、透過光強度、吸光度等を検出できる光学機器、またはこれらの検出方法を複数備えた光学機器などに代表される一般の生化学自動分析機であればいずれも使用することができる。上記凝集の度合いを光学的に測定する方法としては従来公知の方法が用いられ、例えば、凝集の形成を濁度の増加としてとらえる比濁法、凝集の形成を粒度分布又は平均粒径の変化としてとらえる方法、凝集の形成による前方散乱光の変化を積分球を用いて測定し透過光強度との比を比較する積分球濁度法等が挙げられる。
【0042】
(基準値)
本発明のNASHの検出方法は、測定した遊離AIM量を基準値と比較することを含む。本発明のNASHの検出方法では、対象における遊離AIM量の量が、健常人群又はNAFL群の遊離AIM量よりも高いことを指標としてNASHの検出を行うことができる。具体的には、例えば、対象における遊離AIM量が健常人群又はNAFL群との判定用閾値(基準値)以上となった場合に、NASHを罹患している可能性が高いと判定することができる。
【0043】
数値の範囲を基準値とすることもできる。NASHに罹患しているか否かを診断する際には、予め、NASHに罹患していると診断された対象、および、NASHではないと診断された対象の生物学的試料中の遊離AIM量の範囲を計測しておき、対象の生物学的試料中の前記遊離AIM量が、健常な対象又はNAFLを罹患している対象の生物学的試料中の前記遊離AIM量の範囲に入る場合は、この対象はNASHを罹患していない可能性が高く、NASHに罹患している対象の生物学的試料中の前記遊離AIM量の範囲に入る場合は、NASHに罹患している可能性が高い。
【0044】
判定用閾値(基準値)は、種々条件、例えば、基礎疾患、性別、年齢などにより変化することが予想されるが、当業者であれば、対象に対応する適当な母集団を適宜選択して、その集団から得られたデータを統計学的処理を行うことにより、正常値範囲又は判定用閾値を決定することができる。基準値は、例えば、ヒト血清中の値において0.1μg/mL、0.2μg/mL、0.3μg/mL、0.4μg/mL、0.5μg/mL、0.6μg/mL、0.7μg/mL、0.8μg/mL、0.9μg/mL、1.0μg/mL、1.1μg/mL、1.2μg/mL、1.3μg/mL、1.4μg/mL、1.5μg/mL、1.6μg/mL、1.7μg/mL、1.8μg/mL、1.9μg/mL、2.0μg/mL、2.1μg/mL、2.2μg/mL、2.3μg/mL、2.4μg/mL、2.5μg/mL、2.6μg/mL、2.7μg/mL、2.8μg/mL、2.9μg/mL、3.0μg/mL、3.1μg/mL、3.2μg/mL、3.3μg/mL、3.4μg/mL、又は3.5μg/mLとすることができる。
【0045】
本発明のNASHの検出方法は、対象のNAFLからNASHへの進行をモニタリングすることもできる。特定の時点でのNAFLを罹患している対象の遊離AIM量を測定し、一定期間後(例えば、1、3、6、又は12か月後、又は3~6か月後など)に再度この対象の遊離AIM量を測定し、遊離AIM量が基準値以上になれば、NAFLからNASHへ進行したと判断することができる。逆に、基準値より低ければ、NAFLからNASHへ進行していないと判断することができる。
【0046】
(NASHの診断キット)
前述の遊離AIM量の測定キットをNASHの診断キットとして用いることができる。特に、前述の、(1)~(3)を含むECL法による遊離AIM分析キット、(1)~(3)を含むサンドイッチELISA法による遊離AIM分析キット、及び(1)~(3)を含むLTIA法による遊離AIM分析キットをNASHの診断キットとして使用することができる。
【0047】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、「%」は特に説明のない限り重量%を示す。
【実施例
【0048】
〔製造例1:遊離AIMに特異的に反応する抗体の作製〕
1.マウス抗ヒトAIMモノクローナル抗体の作製
以下の手順により、マウス抗ヒトAIMモノクローナル抗体であるNo.1抗体及びNo.2抗体を得た。
抗原として全長ヒトrAIM(1mg/ml)を等量のTiterMaxGold(G-1フナコシ)と混合しエマルジョンを作製した。免疫動物にはBalb/cマウス(チャールズリバー(株)6週齢のメス2匹を用い、後ろ足底部へ抗原溶液100μLを投与した。2週間後に同様の投与を行い、更に2週間以上をおいて抗原溶液100μgを後ろ足底部へ投与し3日後の細胞融合に備えた。ミエローマ細胞にはマウスP3U1を用いた。
麻酔下にて心臓採血を行ったマウスから、無菌的に膝窩リンパ節を摘出し、#200メッシュ付ビーカーにのせ、シリコン棒で押しながら、細胞浮遊液を調製した。細胞はRPMI1640にて2回の遠心洗浄を行った後、細胞数をカウントした。対数増殖期の状態のミエローマ細胞を遠心により集め、洗浄後、リンパ細胞とミエローマ細胞の比率が5対1となるように調製し、混合遠心を行った。細胞融合はPEG1500(783641 ロシュ)を用いて行った。すなわち、細胞ペレットへ1mLのPEG液を3分間かけて反応させ、その後段階的に希釈を行い、遠心にて洗浄した後、培地を加え96ウェルプレート15枚へ200μLずつ入れ、1週間の培養を行った。培地にはミエローマ細胞用培地にHATサプリメント(21060-017 GIBCO)を加え、FBS濃度を15%にしたものを用いた。
凍結保存された細胞を解凍し、増殖培養を行った後、1週間以上前に0.5mlのプリスタン(42-002 コスモバイオ)を腹腔内投与したヌードマウス(BALB/cAJcl-nu/nu 日本クレア)の腹腔へ、1×108個を投与し、およそ2週間後に4~12mlの腹水を得た。遠心処理にて固形物を除去した後、凍結保存を行った。その後、凍結保存した腹水から抗体を精製し、No.1抗体及びNo.2抗体を得た。
【0049】
〔実施例1:抗ヒトIgM抗体添加による非特異反応の防止効果の確認〕
1.ヒト検体のカラムクロマトグラフィーでの分離
ヒト検体10μLをサイズ排除クロマトグラフィー(TSKgel G3000 SWXL,東ソー) にてサイズ分画し、複合体AIMと遊離AIMの各フラクションを得た(複合体AIM:フラクションNo.6, 7、遊離AIM:フラクションNo.14,15)。またHPLCはリン酸バッファーを用いて流速1mL/分で実施し各フラクションを500μLずつ分取した。
【0050】
2.No.2抗体結合磁気ビーズの作製
1)150mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.8)で透析したNo.2抗体の吸光度を測定し、同緩衝液を用いてAbs 0.5に調製した。
2)Dynal Biotech 社製 Dynabeads M-450 Epoxy
1mL(30 mg/mL)を上記緩衝液で3回洗浄し、1)の抗体液を1mL添加した。25℃にて回転攪拌を18時間以上実施した。
3)ビーズブロッキングバッファー[50mM Tris,150mM NaCl,0.1%BSA,0.09% NaN3,pH7.8]でビーズを2回洗浄した。洗浄により緩衝液を取り除くことで溶液中に残存していたビーズ未結合の抗体を除去した。その後ビーズブロッキングバッファーを1mL加え攪拌し25℃にて回転攪拌を18時間以上実施した。
4)ビーズブロッキングバッファーでビーズを2回洗浄後、ビーズブロッキングバッファーを1mL加え攪拌した。これを抗体結合磁気ビーズとし、使用時まで4℃で保存した。
【0051】
3.ルテニウム標識No.1抗体の作製
1)150mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.8)で透析済みNo.1抗体液312.5μLに10mg/mLのルテニウム錯体(IGEN社製 Origin Tag-NHS ESTER)を14.1μL加え、30分間攪拌した。その後、2M グリシンを50μL添加し、20分間攪拌した。
2)直径1cm、高さ30cmのガラス管に充填したゲルろ過カラムクロマトグラフィー(GEヘルスケア バイオサイエンス社製 Sephadex G-25)にルテニウム錯体標識抗体をアプライし、未標識のルテニウム錯体とルテニウム錯体標識抗体を単離精製した。溶出は、10mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)にて行った。
【0052】
4.抗ヒトIgM抗体添加による非特異反応の防止効果の確認
1)複合体AIMフラクション(No. 6, 7)を10μLずつ取り、合計20μL分を200μLの反応用溶液[50mM HEPES,50mM NaCl,0.05% Tween20,1mM EDT-4Na,0.5% BSA,0.09% NaN3,100μg/mL マウスIgG,pH7.8]又は抗IgM抗体含有反応用溶液へ添加した。同様に、遊離AIMフラクション(No.14,15)を10μLずつ取り、合計20μL分を200μLの反応用溶液又は抗IgM抗体含有反応用溶液へ添加した。抗IgM抗体としては、HBR-1、HBR-3、HBR-6、HBR-9、HBR-20、HBR-21、HBR-23、又はHBR-26を反応用溶液基準でいずれも50μg/mLとなるように調整して用いた。HBR-6及びHBR-20は抗IgMモノクローナル抗体である。
2)そこにビーズ希釈液[50mM HEPES,100mM NaCl,0.1% Tween20,1mM EDT-4Na,0.5% BSA,0.09% NaN3,pH7.8]で0.5mg/mL濃度に希釈したNo.2抗体結合磁気ビーズを25μLずつ添加し、30℃で9分間反応させた(第一反応)。
その後、磁気ビーズを磁石でトラップし、反応管内の液体を抜き取り、洗浄液[50mmol/L Tris HCl,0.01%(W/V)Tween20,0.15mol/L NaCl,pH7,5]350μLで2回磁気ビーズを洗浄し、抗原抗体反応以外の非特異結合物質を除去した(BF分離)。
3)次にルテニウム用希釈溶液[50mM HEPES,50mM NaCl,0.05% Tween20,1mM EDT-4Na,0.5% BSA,0.09% NaN3,100μg/mL マウスIgG,pH7.8]で0.6μg/mL濃度に希釈したルテニウム標識No.1抗体を200μL加えて30℃で9分間反応させた(第二反応)。
反応後の磁気ビーズを磁石でトラップし反応管内の液体を抜き取り、洗浄液350μLで2回磁気ビーズを洗浄し、抗原抗体反応以外の非特異結合物質を除去した(BF分離)。
4)その後、反応管に300μLのトリプロピルアミンを入れ、磁気ビーズと混合した。この状態で電気エネルギーを与えることでルテニウム錯体が発光し、その発光強度を検出機で検出した。
なお、上記反応管への磁気ビーズ添加操作以降は、ルテニウム錯体発光自動測定機であるピコルミIII上で実施した。
【0053】
5.結果
結果を図1に示す。F6+F7のカウント比率が基準よりも低くなるほど、抗体の複合体AIMへの非特異的反応が抑制されたと考えられる。また、F14+F15のカウント比率が基準よりも低くなるほど、抗体の遊離AIMへの感度が低下したと考えられる。抗IgM抗体を添加した測定系では、添加していない測定系に対して、F6+F7のカウント比率が、94.3%、88.3%、87.6%、92.3%、81.8%、91.2%、91.3%、又は91.0%となった。すなわち、抗IgM抗体を添加したいずれの測定系においても、抗体の複合体AIMへの非特異的反応が抑制された。
【0054】
〔実施例2:本発明の測定系における抗ヒトIgM抗体添加による非特異反応の防止効果の確認〕
本発明の測定系における抗ヒトIgM抗体添加による非特異反応の防止効果をECL法を用いて以下の手順で検証した。
【0055】
1.抗体結合磁気ビーズの作製
実施例1と同様の手順で実施した。
【0056】
2.ルテニウム標識抗体の作製
実施例1と同様の手順で実施した。
【0057】
3.遊離AIM特異的抗体による遊離AIM量及びIgM-AIM量の測定
1)健常人血清サンプルを実施例1と同様の手順で各フラクションに分離し、IgM-AIMを含むフラクションと遊離AIMを含むフラクションを反応用溶液[50mM HEPES,50mM NaCl,0.05% Tween20,1mM EDT-4Na,0.5% BSA,0.09% NaN3,100μg/mL マウスIgG,50μg/mL 抗ヒトIgM抗体,pH7.8]を用いて1/10に希釈し、検体希釈液を作製した。次に、反応管に100μLの反応用溶液を入れ、検体希釈液2μLを添加した。
2)そこにビーズ希釈液[50mM HEPES,100mM NaCl,0.1% Tween20,1mM EDT-4Na,0.5% BSA,0.09% NaN3,pH7.8]で0.5mg/mL濃度に希釈したNo.2抗体結合磁気ビーズを25μLずつ添加し、30℃で9分間反応させた(第一反応)。
その後、磁気ビーズを磁石でトラップし、反応管内の液体を抜き取り、洗浄液[50mmol/L Tris HCl,0.01%(W/V)Tween20,0.15mol/L NaCl,pH7,5]350μLで2回磁気ビーズを洗浄し、抗原抗体反応以外の非特異結合物質を除去した(BF分離)。
3)次にルテニウム用希釈溶液[50mM HEPES,50mM NaCl,0.05% Tween20,1mM EDT-4Na,0.5% BSA,0.09% NaN3,100μg/mL マウスIgG,pH7.8]で0.6μg/mL濃度に希釈したルテニウム標識No.1抗体を200μL加えて30℃で9分間反応させた(第二反応)。
反応後の磁気ビーズを磁石でトラップし反応管内の液体を抜き取り、洗浄液350μLで2回磁気ビーズを洗浄し、抗原抗体反応以外の非特異結合物質を除去した(BF分離)。
4)その後、反応管に300μLのトリプロピルアミンを入れ、磁気ビーズと混合した。この状態で電気エネルギーを与えることでルテニウム錯体が発光し、その発光強度を検出機で検出した。
なお、上記反応管への磁気ビーズ添加操作以降は、ルテニウム錯体発光自動測定機であるピコルミIII上で実施した。
5)健常人血清サンプルを抗ヒトIgM抗体を含まない反応溶液を用いて1/10で希釈して作製した検体希釈液について、操作1)~4)を繰り返したものをコントロールとした。
【0058】
図2に、IgM-AIM検出量及び遊離AIM検出量の合計量に対するIgM-AIM検出量のパーセンテージ又は遊離AIM検出量のパーセンテージを示す。実施例2の測定系は、遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体であるNO.2抗体を用いた測定系であることから、IgM-AIM量及び遊離AIM量の合計に対するIgM-AIM量のパーセンテージが少ないほど、IgM-AIMに由来する非特異反応が少ないと考えられる。すなわち、検出されたIgM-AIMの量は、NO.2抗体に対するIgM-AIM由来の非特異反応の程度を表すと考えられる。
抗ヒトIgM抗体を添加した測定系では、IgM-AIM量及び遊離AIM量の合計量に対するIgM-AIM量が2.4%となり、抗ヒトIgM抗体を添加しなかった測定系では、IgM-AIM量及び遊離AIM量の合計量に対するIgM-AIM量が7.5%となった。したがって、抗ヒトIgM抗体を添加することにより、遊離AIMに特異的に結合する抗体のIgM-AIMに由来する非特異反応を抑制できることが分かった。
【0059】
〔実施例3:本発明の測定系と既存の測定系との比較〕
本発明の測定系と既存の測定系とで、IgM-AIM量に由来する非特異反応の程度を比較した。
(3-1)本発明の測定系
実施例2のECL法と同様の手順を用いて、IgM-AIMを含むフラクションと遊離AIMを含むフラクションの各々に関して、遊離AIM量及びIgM-AIM量の測定を行った。
(3-2)既存の測定系
Human AIM ELISA kit(CY-8080,CircuLex社)を用いて、IgM-AIMを含むフラクションと遊離AIMを含むフラクションの各々に関して、遊離AIM量及びIgM-AIM量の測定を行った。プロトコルは、Human AIM ELISA kitの添付文書に従った。結果を図3に示す。
【0060】
本発明の測定系では、IgM-AIM量及び遊離AIM量の合計量に対するIgM-AIM量が2.5%となり、既存の測定系では、IgM-AIM量及び遊離AIM量の合計量に対するIgM-AIM量が19.7%となった。したがって、本発明の測定系は、既存の測定系と比較して非特異反応が顕著に少ないことが示された。
【0061】
〔実施例4:本発明の測定系又は既存測定系によるNASHの検出〕
(4-1)本発明の測定系
実施例2のECL法と同様の手順を用いて、NAFL患者血清42検体、NASH患者血清141検体、及びNASH-HCC患者血清26検体において遊離AIM量を測定し、各患者間で有意差が生じるか否かについて検討した。
(4-2)既存の測定系
Human AIM ELISA kit(CY-8080,CircuLex社)を用いて、NAFL患者血清42検体、NASH患者血清141検体、及びNASH-HCC患者血清26検体において遊離AIM量を測定し、各患者間で有意差が生じるか否かについて検討した。プロトコルは、Human AIM ELISA kitの添付文書に従った。結果を図4に示す。
【0062】
本発明の測定系において、NASH患者血清における遊離AIM量は、NAFL患者血清における遊離AIM量よりも有意に多くなった。既存の測定系では、NASH患者血清における遊離AIM量は、NAFL患者血清における遊離AIM量と同程度であり、両者に有意差は見られなかった。本発明の測定系においては、抗IgM抗体を測定系に添加することにより遊離AIM特異的抗体に対するIgM-AIMの非特異反応を抑制することができ、NASH患者血清における遊離AIM量とNAFL患者血清における遊離AIM量との間で有意差を生じたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、複合体AIM及び遊離AIMを含む生物学的試料の免疫学的分析において、遊離AIMに特異的に反応する抗体の遊離AIMに対する特異性をさらに向上させることができる。本発明によれば、患者及び医療従事者に負担をかけず、NASHの診断を行うことができる。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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