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  • 特許-高強度耐摩耗多元系銅合金 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】高強度耐摩耗多元系銅合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/06 20060101AFI20230720BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20230720BHJP
   C22C 9/02 20060101ALI20230720BHJP
   C22C 9/05 20060101ALI20230720BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230720BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20230720BHJP
【FI】
C22C9/06
C22C9/00
C22C9/02
C22C9/05
C22F1/00 602
C22F1/00 612
C22F1/00 611
C22F1/00 623
C22F1/00 625
C22F1/00 630A
C22F1/00 630C
C22F1/00 630D
C22F1/00 631A
C22F1/00 627
C22F1/00 650A
C22F1/00 651B
C22F1/00 661A
C22F1/00 682
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/08 P
C22F1/08 Q
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021106216
(22)【出願日】2021-06-28
(65)【公開番号】P2022182908
(43)【公開日】2022-12-08
【審査請求日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】110118948
(32)【優先日】2021-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】595064050
【氏名又は名称】國立清華大學
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】葉均蔚
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-080924(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107779647(CN,A)
【文献】特開平02-179839(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2210703(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00-9/06
C22F 1/08
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩耗抵抗が415m/mmより大きく、組成が組成式CuAlNiSiで表される高強度耐摩耗多元系銅合金であって、
Nは、V及びNbからなる群から選択される少なくとも1種の耐火元素であり、
Mは、Zr、Cr、Ti、Sn、Fe、Mn、Mg、C、P及びBからなる群から選択される少なくとも1種の添加元素であり、
w、x、y、z、m及びsは、いずれも原子百分率の数値であり、
w、x、y、z、m及びsは、80≦w≦90、0.1≦x≦4、6≦y≦10、0.1≦z≦3、0.1≦m≦2、及び0.1≦s≦2で表される各不等式を満足し、
w+x+y+z+m+s=100であることを特徴とする、
高強度耐摩耗多元系銅合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金の関連技術分野に係り、特に、高強度耐摩耗多元系銅合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅及び銅合金は、良好な導電性及び導熱性、高い耐食性能、優秀な機械的強度、耐疲労性能、及び独特な金属光沢を有するため、工業製造上、広汎に応用され得る。
【0003】
銅合金の設計と製造を熟知している材料エンジニアであれば、銅ベリリウム合金と銅ニッケルケイ素合金は、いずれも高耐摩耗の銅合金であることを知っているはずである。この内、銅ニッケルケイ素合金は、コルソン合金(Corson Alloy)とも称される。高耐摩耗の銅合金は、軸受、精密な歯車、ウォーム歯車、ブッシング外筒などの、耐摩耗特性に対して比較的高い要求が求められる構成要素の製作によく用いられている。
【0004】
工作機械の加工精度及び長期安定度についての需要が持続的に高まるのに対し、伝統的な銅ベリリウム合金及び銅ニッケルケイ素合金は、市場の需要を十分に満足できる耐摩耗特性を有するに至っていない。
図1は、時間に対する硬度を示す曲線グラフである。環境温度が350℃より低い時、銅ベリリウム合金の硬度変化と時間との関係は図1に示す通りとなる。
【0005】
研究データから、銅ベリリウム合金は、常温及び350℃より低い環境温度下で高強度の特性を有するものの、残念ながら、350℃以上の環境温度下では、その硬度が大幅に降下し、この特性が銅ベリリウム合金の応用を制限する。一方、銅ベリリウム合金と別の物品との間で界面摩擦が生じる時、両者間の界面に温度上昇現象が発生してしまう。このため、室温下で操作するにもかかわらず、銅ベリリウム合金の荷重が高い状態では、銅ベリリウム合金の界面温度は600℃にまで高温に達する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の説明から分かるように、その摩耗特性を顕著に向上させ、従って、その工業製造への応用を増加させるために、従来の銅合金に対して改良を行う必要がある。これに鑑みて、本願の発明者は、極力研究発明した結果、遂に一種の高強度耐摩耗多元系銅合金を研究開発して完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の主要な目的は、高強度耐摩耗多元系銅合金を提供することである。本発明の組成は、80~90at%のCu、0.1~4at%のAl、6~10at%のNi、0.1~3at%のSi、0.1~2at%のV及び/またはNb、及び0.1~2at%のMを含む。その内、Mは、Zr、Cr、Ti、Sn、Fe、Mn、Mg、C、P及びBからなる群から選択される少なくとも1つの添加元素である。
実験結果から、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金の多数個のサンプルは、温度450℃にて時効処理を50時間行った後、その強度と硬度を著しく高め、時効硬化の効果が現れ、かつ時効処理の過程において過時効軟化現象が発生していなかったことが示された。また、測定データから、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金の多数個のサンプルは、従来の銅合金と比較して、より好ましい耐摩耗特性が現れるので、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金は、従来の銅合金を取替えることができることにより、例えば、軸受、歯車、ピストン、コネクタ、導電レール、リードフレーム、継電器、プローブ針などのような各種の優良な耐摩耗特性を備えることを要する部品及び/または部材の製造に応用されることが示された。
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明が提供するかかる高強度耐摩耗多元系銅合金の第1実施例は、その摩耗抵抗が415m/mmより大きく、かつその組成が組成式CuAlNiSiで表される。その内、Nは、V及びNbからなる群から選択される少なくとも1種の耐火元素であり、かつMは、Zr、Cr、Ti、Sn、Fe、Mn、Mg、C、P及びBからなる群から選択される少なくとも1種の添加元素であり、その内、w、x、y、z、m及びsは、いずれも原子百分率の数値であり、かつw、x、y、z、m及びsは、80≦w≦90、0.1≦x≦4、6≦y≦10、0.1≦z≦3、0.1≦m≦2、及び0.1≦s≦2で表される各不等式を満足する。
【0009】
また、本発明が同時に提供する高強度耐摩耗多元系銅合金の第2実施例は、その摩耗抵抗が475m/mmより大きく、かつその組成が組成式CuAlNiSiで表される。その内、Nは、V及びNbからなる群から選択される少なくとも1種の耐火元素であり、かつMは、Zr、Cr、Ti、Sn、Fe、Mn、Mg、C、P及びBからなる群から選択される少なくとも1種の添加元素であり、その内、w、x、y、z、m及びsは、いずれも原子百分率の数値であり、かつw、x、y、z、m及びsは、97≦w≦98.5、x≦0.1、0.2≦y≦0.45、0.1≦z≦0.3、0.1≦m≦0.6、及び0.1≦s≦1.6で表される各不等式を満足する。
【0010】
実行可能な実施例において、高強度耐摩耗多元系銅合金は、真空アーク融解法、電熱糸加熱法、誘導加熱法及び急速凝固法からなる群から選択される1種の処理方法を利用して作製される。
【0011】
一実行可能な実施例において、高強度耐摩耗多元系銅合金は、鋳造、鍛造、押出成形及び伸線からなる群から選択される1種の塑性変形加工を利用して半完成品または完成品に加工される。
【0012】
別の実行可能な実施例において、高強度耐摩耗多元系銅合金は、少なくとも1つの金属材と結合されて複合金属構造になっている。
【0013】
実行可能な実施例において、高強度耐摩耗多元系銅合金は、鋳造状態の合金、または均質化熱処理を経た均質化状態の合金である。
【0014】
実行可能な実施例において、高強度耐摩耗多元系銅合金は、高温時効処理を経由して時効硬化状態を呈する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、一種の高強度耐摩耗多元系銅合金の用途を同時に提供し、優良な耐摩耗特性を持つことを要する物品の製造に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】銅ベリリウム合金の350℃下における時間に対する硬度を示す曲線グラフである。
図2】サンプル#3の均質化状態下で450℃の時効熱処理を行う硬度変化推移図である。
図3】サンプル#17の均質化状態下で450℃の時効熱処理を行う硬度変化推移図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明にかかる高強度耐摩耗多元系銅合金及びその用途をより明瞭に記述するために、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例を以下に詳細に説明する。
【0018】
(実施例1)
実施例1において、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金は、415m/mmより大きい摩耗抵抗を有し、かつその組成がCuAlNiSiで表される。
本発明の設計によれば、Nは、V及びNbからなる群から選択される少なくとも1種の耐火元素であり、Mは、Zr、Cr、Ti、Sn、Fe、Mn、Mg、C、P及びBからなる群から選択される少なくとも1種の添加元素である。また、w、x、y、z、m及びsは、いずれも原子百分率の数値であり、かつw、x、y、z、m及びsは、80≦w≦90、0.1≦x≦4、6≦y≦10、0.1≦z≦3、0.1≦m≦2、及び0.1≦s≦2で表される各不等式を満足する。例を挙げて言えば、かかる高強度耐摩耗多元系銅合金は、82at%の銅(Cu)、2at%のアルミニウム(Al)、9at%のニッケル(Ni)、3at%のケイ素(Si)、1at%のバナジウム(V)、1at%のニオブ(Nb)、1at%の錫(Sn)、及び1at%のマンガン(Mn)を含む。この状態では、かかる高強度耐摩耗多元系銅合金の組成は、Cu82AlNiSiNbSnMnで表され、即ち、w=82、x=2、y=9、z=3、m=1+1=2、かつs=1+1=2である。
【0019】
(実施例2)
実施例2において、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金は、475m/mmより大きい摩耗抵抗を有し、かつその組成がCuAlNiSiで表される。
本発明の設計によれば、Nは、V及びNbからなる群から選択される少なくとも1種の耐火元素であり、かつMは、Zr、Cr、Ti、Sn、Fe、Mn、Mg、C、P及びBからなる群から選択される少なくとも1種の添加元素である。また、w、x、y、z、m及びsは、いずれも原子百分率の数値であり、かつw、x、y、z、m及びsは、97≦w≦98.5、x≦0.1、0.2≦y≦0.45、0.1≦z≦0.3、0.1≦m≦0.6、及び0.1≦s≦1.6で表される各不等式を満足する。例を挙げて言えば、かかる高強度耐摩耗多元系銅合金は、97at%の銅(Cu)、0.1at%のアルミニウム(Al)、0.45at%のニッケル(Ni)、0.25at%のケイ素(Si)、0.3at%のバナジウム(V)、0.3at%のニオブ(Nb)、0.45at%のジルコニウム(Zr)、0.45at%のクロミウム(Cr)、0.45at%のチタニウム(Ti)、及び0.25at%の炭素(C)を含む。この状態では、かかる高強度耐摩耗多元系銅合金の組成は、Cu97Al0.1Ni0.45Si0.250.3Nb0.3Zr0.45Cr0.45Ti0.450.25で表され、即ち、w=97、x=0.1、y=0.45、z=0.25、m=0.3+0.3=0.6、かつs=0.45+0.45+0.45+0.25=1.6である。
【0020】
本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金は、真空アーク融解法、電熱糸加熱法、誘導加熱法、あるいは急速凝固法を利用して製造して得られる。実務上の応用において、合金材料の設計と製造を熟知しているエンジニアであれば、そのエンジニアリング経験に基づいて、鋳造、鍛造、押出成形、伸線などの塑性変形加工を利用して本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金の完成品または半完成品に対して加工を施すことができる。さらに、実務応用において、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金は、少なくとも1つの金属材と結合されて複合金属構造になっていてもよい。
【0021】
特に説明する点は、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金は、従来の銅合金を取替えるために用いられ、従って、例えば、軸受、歯車、ピストン、コネクタ、導電レール、リードフレーム、継電器、プローブ針などのような各種の優良な耐摩耗特性を備えることを要する部品及び/または部材の製造に応用される点である。
上記の本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金の実施例1及び実施例2について、これによって的確に実施することが可能であることを実証するために、以下、多数組の実験資料の表現に沿って、実証を行った。
【0022】
(実験例1)
実験例1において、真空アーク融解炉を利用して本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金の多数個のサンプルを製造すると共に、次に、各個のサンプルに対して均質化熱処理及び時効硬化処理を行い、最後に各個のサンプルの硬度測定及び乾式摩耗試験を行った。説明に値するのは、均質化処理の目的は、各個のサンプルの内部の樹枝状偏析を除去し、固溶度を増加させ、及び後続の時効熱処理の析出硬化効果を向上させることにある。
【0023】
乾式摩耗試験は、ピンオンディスク(pin-on-disk)摩耗試験機を利用して完了される。乾式摩耗試験を行う時、まず、サンプル#2を直径8mmで厚み3mmに切断して円形薄片を切り出し、次に、前記円形薄片を直径8mmのSKD-61丸鋼棒の下方箇所に固定する。その後、前記SKD-61丸鋼棒の下方でディスクを回転させるように操作し、従って室温下で円形薄片とディスクとの相対摩耗が進行する。摩耗抵抗の計算方式は、摩耗距離(m)/摩耗による損失体積(mm)である。
【0024】
実験例1において、均質化の処理条件は、温度900℃、かつ処理時間6時間の条件である。また、時効熱処理の処理条件は、温度450℃、かつ処理時間50時間の条件である。かかる多数個のサンプルの組成及びその関連実験データを下記の表(1)にまとめて示す。
【0025】
【表1】
【0026】
より詳細に説明すると、表(1)に列挙されるものは、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金の実施例1の12種のサンプルの成分組成である。表(1)の実験データから、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金の成分組成には、バナジウム(V)またはニオブ(Nb)などの耐火元素、及び少なくとも1種のその他の微量添加元素を添加し、合金の摩耗抵抗の向上を的確に得ることができることが発見できる。
注意に値することは、合金の摩耗抵抗の向上と添加元素の添加量及び/または添加種類とは正の相関を表していない点である。さらに重要なことは、表(1)の実験データから、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金の各個のサンプルは、いずれも従来のC17200銅ベリリウム合金(390m/mm)と比較して、より好ましい耐摩耗特性が現れるので、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金は、従来の銅合金を代替することができることにより、例えば、軸受、歯車、ピストン、コネクタ、導電レール、リードフレーム、継電器、プローブ針などのような各種の優良な耐摩耗特性を備えることを要する部品及び/または部材の製造に応用できることが示された点である。
【0027】
図2は、サンプル#3の時効時間に対する硬度を示す曲線グラフである。サンプル#3に対して、450℃の環境温度下で時効処理を行ったが、図2に示すように、サンプル#3は、100時間にまで長く到達する時効処理の過程において過時効軟化現象が発生していなかった。このため、実験データから、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金は、高温環境においても依然として高強度に維持され、この特性は、その対摩耗抵抗(耐摩耗性)の向上に対してキーとなる要因として作用する役割を担うことが実証された。
【0028】
補足説明すると、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金に多種の添加元素及び/または多種の耐火元素を含有させる方式によって、かかる高強度耐摩耗多元系銅合金の内部に多様化競争を発生させることができ、従って、合金の内部の原子拡散速度を低下させ、核生成成長速度を遅くする。最終的に、合金の内部の析出物のサイズを減少する効果が達成され、従って、合金の硬度を向上させ、かつ及び高温時効軟化を緩和する。例を挙げて言えば、バナジウム(V)とニオブ(Nb)は、高融点耐火元素であり、よって、その原子の多元系銅合金の銅基地相における拡散がゆっくりと進む。同時に、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)とケイ素(Si)には、強力な結合を有し、それゆえ、Ni-Si-V-Nb化合物の形成が緩和され、かつNi-Si化合物の析出が集中し、高強度耐摩耗多元系銅合金の高温耐摩耗性に対して著しい改善効果が得られる。
【0029】
(実験例2)
実験例2において、真空アーク融解炉を同様に利用して本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金の多数個のサンプルを製造すると共に、各個のサンプルに対して均質化熱処理及び時効硬化処理を行い、最後に各個のサンプルの硬度測定及び乾式摩耗試験を行った。かかる多数個のサンプルの組成及びその関連実験データを下記の表(2)にまとめて示す。
【0030】
【表2】
【0031】
より詳細に説明すると、表(2)に列挙されるものは、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金の実施例2の8種のサンプルの成分組成である。図3は、サンプル#17の時効時間に対する硬度を示す曲線グラフである。
サンプル#17に対して、450℃の環境温度下で時効処理を行ったが、図3に示すように、サンプル#17は、100時間にまで長く到達する時効処理の過程において過時効軟化現象が発生していなかった。このため、実験データから、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金は、高温環境においても依然として高強度に維持され、この特性は、その対摩耗抵抗(耐摩耗性)の向上に対してキーとなる要因として作用する役割を担うことが実証された。
【0032】
注意に値することは、表(2)の実験データから、高強度耐摩耗多元系銅合金の銅含有量が次第に増加すると、各個のサンプルの均質化状態の硬度もそれに伴って低下することが示された点である。それでも、こうして、高強度耐摩耗多元系銅合金に多種の添加元素及び/または多種の耐火元素を含有させる方式によって、かかる高強度耐摩耗多元系銅合金の内部の析出物のサイズを減少させることができる。従って、合金の硬度を向上させ、かつ及び高温時効軟化を緩和し、高強度耐摩耗多元系銅合金の高温耐摩耗性に対して著しい改善効果が得られる。よって、表(2)の実験データから、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金の各個のサンプルは、いずれも従来のC17200銅ベリリウム合金(390m/mm)と比較して、より好ましい耐摩耗特性が現れるので、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金は、従来の銅合金を取替えることができることにより、例えば、軸受、歯車、ピストン、コネクタ、導電レール、リードフレーム、継電器、プローブ針などのような各種の優良な耐摩耗特性を備えることを要する部品及び/または部材の製造に応用できる。
【0033】
上記のように、本発明に開示されたかかる高強度耐摩耗多元系銅合金の全ての実施例及びその実験データを既に十分かつ明瞭に説明してきた。上記の説明から分かるように、本発明は、以下の特徴及び利点を有する。
【0034】
(1)本発明は、主にその組成が80~90at%のCu、0.1~4at%のAl、6~10at%のNi、0.1~3at%のSi、0.1~2at%のV及び/またはNb、及び0.1~2at%のMを含む高強度耐摩耗多元系銅合金が開示される。その内、Mは、Zr、Cr、Ti、Sn、Fe、Mn、Mg、C、P及びBからなる群から選択される少なくとも1つの添加元素である。実験結果から、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金の多数個のサンプルは、温度450℃にて時効処理を50時間行った後、その強度と硬度を著しく高め、時効硬化の効果が現れ、かつ時効処理の過程において過時効軟化現象が発生していなかったことが示された。また、測定データから、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金の多数個のサンプルは、従来の銅合金と比較して、より好ましい耐摩耗特性が現れるので、本発明の高強度耐摩耗多元系銅合金は、従来の銅合金を代替できることにより、例えば、軸受、歯車、ピストン、コネクタ、導電レール、リードフレーム、継電器、プローブ針などのような各種の優良な耐摩耗特性を備えることを要する部品及び/または部材の製造に応用できることが示された。
【0035】
強調すべき点は、上記で開示されたものは、単なる好適な実施例であり、一部の変更または修飾は、本願の技術思想をもとにして、本願の特許権の範疇を逸脱しない限り、当該技術に習熟している者であれば、容易に推察できる点である。
図1
図2
図3