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特許7315979噴霧量調整器、噴霧塔および噴霧腐食試験機
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  • 特許-噴霧量調整器、噴霧塔および噴霧腐食試験機 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】噴霧量調整器、噴霧塔および噴霧腐食試験機
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20230720BHJP
【FI】
G01N17/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021140649
(22)【出願日】2021-08-31
(65)【公開番号】P2023034415
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2023-01-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107583
【氏名又は名称】スガ試験機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】須賀 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】金原 英司
(72)【発明者】
【氏名】築添 剛
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特許第6675741(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験槽と、試験槽内に設けた噴霧塔と、を含む噴霧腐食試験機であって、
噴霧塔は、噴霧量調整器と、筒部と、を含み、
噴霧量調整器は、
噴霧塔の所定の位置に固定するための噴霧量調整器固定部と、
上面部と、
4つの風向板と、
を含み、
噴霧塔が試験槽に配置された際に、試験槽の内壁に対向する風向板の面を第1面と規定した時、4つの風向板の第1面の幅の関係は、対向する試験槽内壁からの距離が小さいほど大きくなり、
4つの風向板は、
噴霧量調整器を鉛直方向の中心からみて約90度の位置にそれぞれ配置され、且つ、
隣り合う風向板の第1面を仮想的に延長した時に交差する角度が約90度となるように配置されている、
噴霧腐食試験機
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願における開示は、噴霧量調整器、噴霧塔および噴霧腐食試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
各種部品や材料等の環境による劣化に対する耐久性の評価を行うために、噴霧腐食試験機を使用することが知られている。噴霧腐食試験機で行われる試験は、試験槽内に試料を配置し、試料を加温や加湿、噴霧環境に曝す。一般に、噴霧腐食試験機は、試験槽内に筒状の噴霧塔を配置している。噴霧塔は空気ノズルと液ノズルを備えた噴霧器を具備し、空気ノズルから噴出する圧縮空気により吸い上げられた液ノズル内の噴霧液が、微粒子となって噴霧塔から試験槽内に放出される。また、噴霧腐食試験機で行われる試験には、噴霧する溶液により、中性塩水噴霧試験・酢酸酸性塩水噴霧試験・キャス試験等がある。それら試験は、例えば、中性塩水噴霧試験および酢酸酸性塩水噴霧試験では35℃±2℃、キャス試験では50℃±2℃というように試料周辺の温度を一定に保つことがJIS規格等により決められている。そのため、噴霧腐食試験機は、試験の精度を確保するため、噴霧塔から放出された噴霧液の量、温度等が試験槽内の位置によってばらつかない(例えば1.5±0.5ml/h・80cm2)ことが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された噴霧塔は、噴霧腐食試験機の試験槽の試験槽内壁近傍(換言すると、試験槽の中央ではなく端部)に配置されている。そして、当該噴霧塔は、試験槽の内壁側に位置する部分に背面風向板を具備することで、噴霧塔から放出された噴霧液が試験槽内の到達する位置によって、噴霧液の量がばらつくことを防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6675741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された噴霧塔は、試験槽内壁近傍に配置される。しかしながら、噴霧腐食試験機において、噴霧塔は必ずしも試験槽内壁近傍に配置されるものではない。そのため、特許文献1に記載の噴霧塔が試験槽内壁近傍以外に配置された場合、噴霧塔から放出された噴霧液が試験槽内の到達する位置によって、噴霧液の量がばらついてしまうという問題がある。
【0006】
そこで、本出願における開示は、試験槽内の噴霧液が到達する位置における噴霧液の量のばらつきを小さくする噴霧量調整器、噴霧塔および噴霧腐食試験機を提供することを課題とする。本出願における開示のその他の任意付加的な効果は、発明を実施するための形態において明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)噴霧腐食試験機の試験槽内に配置される噴霧塔に設ける噴霧量調整器であって、
噴霧量調整器は、
噴霧塔の所定の位置に固定するための噴霧量調整器固定部と、
上面部と、
複数の風向板と、
を含み、
噴霧塔が試験槽に配置された際に、試験槽の内壁に対向する風向板の面を第1面と規定した時、第1面の幅は対向する内壁からの距離に応じて設定されている、
噴霧量調整器。
(2)第1面の幅は、対向する試験槽内壁からの距離が小さいほど大きくなる、
上記(1)に記載の噴霧量調整器。
(3)複数の風向板は4つであり、噴霧量調整器を鉛直方向の中心からみて90度の位置にそれぞれ配置されている、
上記(1)または(2)に記載の噴霧量調整器。
(4)4つの風向板の第1面の幅は、以下の(a)~(e)のいずれかから選択される関係となる、
上記(3)に記載の噴霧量調整器。
(a)対向する風向板の第1面の幅は同じであるが、隣接する風向板の第1面の幅が異なる。
(b)対向する風向板の2つの組合せにおいて、一つの組の対向する風向板の第1面の幅は同じであるが、他方の組の対向する風向板の第1面の幅は異なり、且つ、隣り合う風向板の第1面の幅が異なる。
(c)4つの風向板のうち3つの風向板の第1面の幅が同じで、当該3つの風向板の第1面の幅は、残り1つの風向板の第1面の幅よりも大きい。
(d)対向する風向板の第1面の幅は異なる。
(e)4つの風向板の第1面の幅が同じになる。
(5)上面部の底面に逆円錐形状の方向体を有する、
上記(1)~(4)のいずれか一つに記載の噴霧量調整器。
(6)上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の噴霧量調整器と、
筒部と、
を含む、噴霧塔。
(7)上記(6)に記載の噴霧塔を試験槽内に設けた、
噴霧腐食試験機。
【発明の効果】
【0008】
噴霧腐食試験機の試験槽内の噴霧液が到達する位置における噴霧液の量のばらつきを小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】噴霧塔1を具備する噴霧腐食試験機100の一例を示す概略図。
図2図2Aは噴霧塔1上部の概略図。図2Bは上面部12Bおよび方向体12Dを除いた噴霧塔1を鉛直方向上側からみた概略図。
図3-1】噴霧塔1を試験槽2内の各位置に配置した場合の風向板12Cの配置例を示す図。
図3-2】噴霧塔1を試験槽2内の各位置に配置した場合の風向板12Cの配置例を示す図。
図4】実施例における試験槽2内の測定位置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、噴霧量調整器12、噴霧塔1および噴霧腐食試験機100の実施形態について、詳しく説明する。なお、本明細書において、同種の機能を有する部材には、同一又は類似の符号が付されている。そして、同一又は類似の符号の付された部材について、繰り返しとなる説明が省略される場合がある。
【0011】
また、図面において示す各構成の位置、大きさ、範囲などは、理解を容易とするため、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、本出願における開示は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0012】
(噴霧塔の実施形態)
図1図3を参照して、実施形態に係る噴霧塔1について説明する。図1は、噴霧塔1を具備する噴霧腐食試験機100の一例を示す概略図である。図2Aは噴霧塔1上部の概略図である。図2Bは上面部12Bおよび方向体12Dを除いた噴霧塔1を鉛直方向上側からみた概略図である。図3Aは、噴霧塔1を試験槽2の中心に配置した場合の風向板12Cの配置例を示す図である。図3B~3Dは、噴霧塔1を試験槽2の中心からずれた位置に配置した場合の風向板12Cの配置例を示す図である。
【0013】
実施形態に係る噴霧塔1は、噴霧腐食試験機100の試験槽2内に配置され、筒部11と、噴霧量調整器12とを少なくとも具備する。そして、噴霧塔1は、微粒子となった噴霧液を放出する。なお、図1に示す例では、噴霧塔1は、任意付加的に噴霧器13を具備している。図1に示す噴霧腐食試験機100は、試験槽2、溶液溜め3、溶液補給タンク4、空気飽和器5、湿度発生器6、蒸気管7、噴霧液採取器8および噴霧液採取量確認器9を具備しているが、図1に示す噴霧腐食試験機100は単なる一例である。本出願で開示する噴霧腐食試験機100は少なくとも噴霧塔1および試験槽2を含むが、その他の構成は省略されてもよいし、任意の構成が付加されてもよい。なお、本明細書において、噴霧塔1から放出される前後やその形状によらず、噴霧塔1から放出される溶液を「噴霧液」と記載する。
【0014】
筒部11は、鉛直方向に延在する筒状の部材である。そして、筒部11の上部には、後述する噴霧量調整器12が配置される。筒部11は、噴霧塔1から噴霧液を放出できれば、筒部11の水平方向における断面形状は特に制限はない。断面形状としては、例えば、円形状、楕円形状、卵形や長円等のオーバル形状、三角、四角等の多角形状等が挙げられる。また、筒部11は、図示しない複数の空気流通孔を筒部11の下部に設けてもよい。
【0015】
噴霧量調整器12は、噴霧塔1から放出される噴霧液が到達する位置における噴霧液の量のばらつきが小さくなるように調整する。図2を参照し、噴霧量調整器12についてより具体的に説明する。噴霧量調整器12は、少なくとも、噴霧量調整器固定部12A、上面部12B、複数の風向板12Cを具備する。風向板12Cは、後述するとおり、噴霧塔1が試験槽2に配置された際に、試験槽2の内壁21に対向する風向板12Cの面を第1面と規定した時、第1面の幅a1~a4は対向する内壁21からの距離に応じて設定されている。噴霧量調整器12は、任意付加的に、方向体12D、支柱12E、ねじ12Fおよび水準器12Gを具備してもよい。
【0016】
噴霧量調整器固定部12Aは、筒部11の上方外周に遊嵌され、側面に設けられたねじ孔(図示せず)にねじ12Fを挿入することにより、ねじ12Fの締め付けで噴霧量調整器12を筒部11の上部に固定する。代替的に、噴霧量調整器固定部12Aは接着剤等を用いて筒部11に固定されてもよい。
【0017】
図2に示す例では、上面部12Bは噴霧量調整器固定部12Aから垂直に立設した2本の支柱12Eを介して固定されている。代替的に、複数の風向板12Cの内、2以上の風向板12Cを支柱12Eとして機能させてもよい。換言すると、噴霧量調整器12は支柱12Eを具備しなくてもよい。また、上面部12Bの上部に設けた水準器12Gにより、噴霧量調整器12の水平を確認できる。
【0018】
噴霧量調整器12を筒部11の上部に固定することで、筒部11の上端と上面部12Bとの間には開口14が形成される。この開口14を通して、噴霧液が噴霧塔1から放出される。
【0019】
風向板12Cは、図2A図2Bに示すように噴霧量調整器固定部12Aと上面部12Bとの間に設けられ、噴霧液の流れを制御する。噴霧塔1が噴霧腐食試験機100の試験槽2内に配置される際に、風向板12Cは、試験槽2の内壁21それぞれに対向するように噴霧量調整器12に配置される。そして、風向板12Cの当該内壁21に対向する面の幅が、内壁21からの距離に応じて設定されている。
【0020】
噴霧腐食試験機100の試験槽2を鉛直方向からみた形状は、一般的に長方形である。例えば図3Aに示すように噴霧塔1の中心が、試験槽2の中心に配置される場合を想定する。そして、噴霧塔1の中心から試験槽2の内壁21の短辺21Aへの垂線の長さをL2aおよびL2bと規定し、噴霧塔1の中心から試験槽2の内壁21の長辺21Bへの垂線の長さをL3aおよびL3bと規定する。図3Aに示す例では、鉛直方向からみた同一平面において、噴霧塔1の中心と試験槽2の一つの角22との距離(L1)は、噴霧塔1の中心から一つの角22を挟む試験槽2の内壁21の短辺21Aへの垂線の長さ(L2b)および噴霧塔1の中心から角22を挟む試験槽2の内壁21の長辺21Bへの垂線の長さ(L3a)よりも大きくなる。そして、噴霧塔1から放出された噴霧液は、試験槽2内で重力方向の力が係ることから試料Sに自由落下する。したがって、噴霧量調整器12が風向板12Cを具備しない場合、内壁21の短辺21Aおよび長辺21Bに到達する噴霧液の量は、試験槽2の角22に向かうほど少なくなる。噴霧量調整器12が具備する風向板12Cは、噴霧液が到達する距離が異なっている場合でも、到達する噴霧液の量のばらつきが少なくなるように調整する。
【0021】
具体的には、上記したように噴霧腐食試験機100の試験槽2は、一般的に鉛直方向からみると長方形である。したがって、図3Aに示すように、風向板12Cを試験槽2の内壁21に対向するように配置すると風向板12Cは4つ配置される。4つの風向板12Cは、噴霧量調整器12を鉛直方向の中心からみて約90度の位置にそれぞれ配置される。風向板12Cを試験槽2の内壁21に対向する位置に配置することで、噴霧塔1と最も近い位置の内壁21へ到達する噴霧液の量を減らし、試験槽2の角22へ到達する噴霧液の量を増やせる。換言すると、風向板12Cは、噴霧液が放出される方向をガイドするガイド板ではなく、噴霧塔1から近い位置の内壁21へ噴霧液が直接到達することを邪魔する邪魔板ということもできる。
【0022】
到達する噴霧液の量は、風向板12Cの内壁21と対向する面である第1面a1~a4の幅を変えることで調節できる。具体的には、図3A図3Dに示すように、風向板12Cの第1面の幅a1~a4は、風向板12Cと対向する内壁21との距離が小さいほど大きくする。風向板12Cの第1面の幅a1~a4を対向する内壁21との距離に応じて設定することで、風向板12Cと内壁21との距離が異なっていても、それぞれの内壁21に到達する噴霧液の量のばらつきを小さくできる。
【0023】
図3A図3Dを参照し、風向板12Cの配置例をより具体的に示す。図3A図3Dは、試験槽2を鉛直方向から見た図である。なお、図3A図3Dは風向板12Cの機能を説明する関係上、支柱12Eの記載は省略する。
【0024】
図3Aに示す例では、噴霧塔1の中心は試験槽2の中心に配置されている(L3a=L3b<L2a=L2b)。
【0025】
図3Bに示す例では、噴霧塔1の中心は、短辺21Aに平行な方向は短辺21Aの中心(L3a=L3b)、長辺21Bに平行な方向は長辺21Bの中心とは異なる位置に配置されている(L2a≠L2b)。ただし、図3Bに示す例では、L2a<L3a=L3b<L2bである。
【0026】
図3Cに示す例では、噴霧塔1の中心は、短辺21Aに平行な方向は短辺21Aの中心(L3a=L3b)、長辺21Bに平行な方向は長辺21Bの中心とは異なる位置に配置されている(L2a≠L2b)。ただし、図3Cに示す例では、L2a=L3a=L3b<L2bである。
【0027】
図3Dに示す例では、噴霧塔1の中心は、短辺21Aに平行な方向は短辺21Aの中心とは異なり(L3a≠L3b)、長辺21Bに平行な方向も長辺21Bの中心とは異なる位置に配置されている(L2a≠L2b)。ただし、図3Dに示す例では、L2b<L3a<L3b<L2aである。
【0028】
図3Aに示す例では、噴霧塔1の中心と試験槽2の内壁21の短辺21Aと長辺21Bとの距離は、L3a=L3b<L2a=L2bである。したがって、図3Aに示す例では、風向板12Cの第1面の幅a1~a4の関係は、風向板12Cと風向板12Cに対向する内壁21との距離からa1=a2>a3=a4となる。換言すると、対向する風向板12Cの第1面の幅は同じであるが、隣接する風向板12Cの第1面の幅が異なる。
【0029】
図3Bに示す例では、噴霧塔1の中心と試験槽2の内壁21の短辺21Aと長辺21Bとの距離は、L2a<L3a=L3b<L2bである。したがって、図3Bに示す例では、風向板12Cの第1面の幅a1~a4の関係は、風向板12Cと風向板12Cに対向する内壁21との距離からa4<a1=a2<a3となる。換言すると、対向する風向板12Cの2つの組合せにおいて、一つの組の対向する風向板12Cの第1面の幅は同じであるが、他方の組の対向する風向板の第1面の幅は異なり、且つ、隣り合う風向板12Cの第1面の幅が異なる。なお、図3Bに示す例では、噴霧塔1の中心を長辺21B方向にずらしているが、噴霧塔1の中心を短辺21A方向にずらした場合でも、換言後の幅の関係になることは明らかである。
【0030】
図3Cに示す例では、噴霧塔1の中心と試験槽2の内壁21の短辺21Aと長辺21Bとの距離は、L2a=L3a=L3b<L2bである。したがって、図3Cに示す例では、風向板12Cの第1面の幅a1~a4の関係は、風向板12Cと風向板12Cに対向する内壁21との距離からa4<a1=a2=a3となる。換言すると、4つの風向板12Cのうち3つの風向板12Cの第1面の幅が同じで、当該3つの風向板12Cの第1面の幅は、残り1つの風向板12Cの第1面の幅よりも大きい。
【0031】
図3Dに示す例では、噴霧塔1の中心と試験槽2の内壁21の短辺21Aと長辺21Bとの距離は、L2b<L3a<L3b<L2aである。したがって、図3Dに示す例では、風向板12Cの第1面の幅a1~a4の関係は、風向板12Cと風向板12Cに対向する内壁21との距離からa3<a2<a1<a4となる。なお、図3Dに示す例では、L2b<L3aであるが、L2b=L3aとなる位置に噴霧塔1を配置することも想定される。図3Dに示す例は、L2b=L3aとなる位置を含めて、対向する風向板12Cの第1面の幅は異なると換言できる。
【0032】
なお、図3A図3Dは、試験槽2を鉛直方向にみた時に、一般的な長方形の場合の例である。試験槽2を鉛直方向に見た場合、例えば、正方形や台形等の長方形以外の四角形、6角形等の多角形の場合でも、内壁の数に応じて風向板12Cを設け、内壁21との距離に応じて風向板12Cの幅を設定すればよい。例えば、試験槽2を鉛直方向にみた形状が正方形(図示は省略)の場合、4つの風向板12Cの第1面の幅a1~a4が同じとなるように設定してもよい。
【0033】
また、図3A図3Dは、風向板12Cの配置を具体的に示すための例であって、図示された例に限定されるものではない。本出願で開示する技術思想の範囲内であれば、風向板12Cの配置に制限はない。例えば、図3Bに示す例において、噴霧塔1が試験槽2の更に左側に配置される場合、a3の幅は更に大きくなる一方、a4の幅は更に小さくなる。a4の有無により到達する噴霧液の量のばらつきがほぼ無視できる位にa4の幅が小さい場合、a4は設けなくてもよい。本明細書において「第1面の幅は対向する内壁からの距離に応じて設定されている」と記載した場合、第1面の幅をゼロに設定、換言すると、風向板12Cが形成されない場合も含まれる。したがって、風向板12の数は、試験槽2の内壁21の数と同じであってもよいし、内壁21の数より小さくてもよい。
【0034】
本出願で開示する噴霧量調整器12は、風向板12Cを具備することで、試験槽2内の噴霧液が到達する位置による噴霧液の量のばらつきを小さくできる。さらに後述する実施例のように、噴霧量調整器12は、風向板12Cによって放出される噴霧液の流れを制御することで、試験槽2内の位置の違いによる温度のばらつきも小さくできる。
【0035】
噴霧腐食試験機100で行われる試験には、試験槽2内の試料S周辺の温度を、例えば、35℃±2℃、50℃±2℃等の温度に保つ必要がある。図1に示す例では、噴霧腐食試験機100は、湿度発生器6、蒸気管7を具備し、湿度発生器6で発生させた蒸気を蒸気管7から試験槽2に導入して試験槽2を加熱する。風向板12Cによって噴霧液が試験槽2の位置によらず均等に放出されるということは、噴霧塔1からの噴霧液の流れに偏りが生じないことに加え、蒸気管7から試験槽2に導入される蒸気の流れにも好影響を与える。よって、風向板12Cを図3A図3Dに示すように配置することで、試験槽2内を加熱した際、位置の違いによる温度のばらつきを小さくできる。さらに、試験槽2内の温度のばらつきが小さくなることで、局所的な温度の違いによる噴霧液の蒸発を防ぎ、噴霧液の塩濃度やpHのばらつきも小さくできる。
【0036】
風向板12Cは、試験槽2内の各位置に到達する噴霧液の量および温度に影響を与える。したがって、風向板12Cの第1面の幅の相対関係は上記のとおりであるが、第1面の幅の絶対値は、試験槽2の大きさ、噴霧塔1の配置される位置、加熱温度に応じて、試験槽2内の各位置に到達する噴霧液の量、および各位置の温度のばらつきが小さくなるよう適宜設定すればよい。
【0037】
噴霧量調整器12は、上面部12Bに方向体12Dを具備してもよい。方向体12Dは、噴霧塔1から放出される噴霧液の方向を調整する。方向体12Dは、筒部11の内部から上昇してきた噴霧液を開口14方向へ向かわせるものであれば、特に制限はない。例えば、逆円錐形状としてもよく、風向板12Cに対向する位置に側陵が配置される逆四角錐形状としてもよい。また、逆円錐形状、逆四角錐形状の方向体12Dは、錐の頂点から上面部12Bに向かって直線であっても、曲線であってもよい。噴霧量調整器12が方向体12Dを具備することで、微粒子となった噴霧液を開口14から効率よく放出できる。
【0038】
実施形態に係る噴霧塔1において、噴霧器13は任意付加的な構成要素である。噴霧器13は、筒部11の内部に配置される。そして、噴霧器13は、液ノズル13Aと、空気ノズル13Bとを具備している。噴霧器13は、同一平面内で液ノズル13Aの先端部および空気ノズル13Bの先端部が近接するようにブロックでそれらが一体となるように形成されている。空気ノズル13Bから噴出する圧縮空気により、液ノズル13Aから噴霧液が吸い上げられ微粒子となって、円筒11の上端と噴霧量調整器12の上面部12Bとが成す開口14から噴霧液が放出される。噴霧器13は、噴霧液を微粒子として放出できるものであれば特に制限はない。
【0039】
(噴霧量調整器の実施形態)
上記の実施形態に係る噴霧塔1のうち、筒部11、噴霧器13については、既存の噴霧塔の部品をそのまま使用できる。すなわち、上記の実施形態に係る噴霧塔1において、筒部11、噴霧器13については既存の部品を使用し、噴霧量調整器12のみを新たに提供してもよい。試験槽2のサイズは、噴霧腐食試験機100の種類により異なるものの、試験槽2のサイズと噴霧塔1の配置位置が決まれば、上記のとおり風向板12Cの第1面の幅を設定した噴霧量調整器12を製造し、提供することができる。なお、噴霧量調整器12の実施形態は、上記噴霧塔1の実施形態で説明済みである。したがって、噴霧量調整器の実施形態の記載は省略する。
【0040】
上記の実施形態に係る噴霧量調整器12、および当該噴霧量調整器12を含む噴霧塔1は、以下の効果を奏する。
(1)噴霧腐食試験機100の試験槽2に、風向板12Cを具備した噴霧塔1を配置することで、試験槽2内の噴霧液が到達する位置による噴霧液の量のばらつきを小さくできる。したがって、噴霧腐食試験機100における試験を精度よく行える。
(2)風向板12Cにより、試験槽2内の位置の違いによる温度のばらつきを小さくできる。
(3)風向板12Cにより、局所的な温度の違いによる噴霧液の蒸発を防ぎ、噴霧液の塩濃度やpHのばらつきを小さくできる。
(4)噴霧量調整器12に方向体12Dを具備した場合、微粒子となった噴霧液を開口14から効率よく放出できる。
【0041】
(噴霧腐食試験機の実施形態)
噴霧腐食試験機100は、噴霧塔1、および噴霧塔1が配置される試験槽2を少なくとも具備している。また、任意付加的に、溶液溜め3、溶液補給タンク4、空気飽和器5、湿度発生器6、蒸気管7、噴霧液採取器8および噴霧液採取量確認器9を噴霧腐食試験機100の構成要素として具備してもよい。噴霧腐食試験機100が有する噴霧塔1は、噴霧塔1の実施形態で説明済みである。したがって、噴霧塔1に関しては、繰り返しとなる記載は省略する。
【0042】
実施形態に係る噴霧腐食試験機100は、試験槽2に設置された試料Sを、噴霧等の状態に曝すことで、試料Sの劣化を試験できるものであって、噴霧塔1から噴霧液を放出して試験を行うものであれば特に制限はない。
【0043】
試験槽2は、その内部に試料Sを載置して、中性塩水噴霧試験・酢酸酸性塩水噴霧試験・キャス試験等の試験を行う。図1に示す例では、噴霧腐食試験機100は、ケース23および上蓋24を具備している。試験槽2は、ケース23と上蓋24によって形成される。ケース23に上蓋24を被せた際、ウォーターシール部25を形成して試験槽2内の環境と外部環境とを隔離する。ウォーターシール部25は、ケース23の上部にある凹部に上蓋24が嵌合するように上蓋24をケース23に被せ、凹部に水を入れて形成される。なお、ケース23と上蓋24は、試験に使用される溶液で腐食されない材料であれば、特に制限はない。例えば、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、チタン等が挙げられる。
【0044】
溶液溜め3は、噴霧塔1の真下に配置され、導管を通じて溶液補給タンク4と接続されている。噴霧液は、液ノズル13Aへ供給される前に試験槽2内の溶液溜め3に貯蔵される。このようにした場合、溶液溜め3の噴霧液を試験槽2内の温度と同じ温度とすることができる。また、筒部11の下部と溶液溜め3の上部とが連通した構造としてもよい。このようにした場合、液ノズル13Aより噴霧され微粒子となった噴霧液のうち、筒部11の内壁に付着した噴霧液は筒部11の内壁を伝って流れ落ち、溶液溜め3に回収される。
【0045】
空気飽和器5は、圧力が調整された圧縮空気を飽和空気(飽和状態の圧縮空気)にするためのものであり、その内部に水を収容している。空気飽和器5において生成された飽和空気は空気供給管を通じて空気ノズル13Bに送られる。
【0046】
湿度発生器6は、水を溜めた容器内にヒータを設けたものであり、ヒータにより水を熱して蒸気を発生させる。そして、試験槽2内底部に廻らせた蒸気管7により送風手段等を用いずに試験槽2内に蒸気を導入して、試験槽2内を例えば、35℃±2℃、50℃±2℃等の所定の温度に加熱する。湿度発生器6は一般的には試験槽2内の空気の温度を基準として、ヒータのオン・オフにより試験槽2内の空気の温度制御を行っている。
【0047】
噴霧液採取器8上に落下した噴霧液は、導管を通じて試験槽2外に設置された噴霧液採取量確認器9に到達する。噴霧液採取量確認器9の目盛で採取量を読み取り、1時間当たりの平均の噴霧液採取量を算出し、各噴霧液採取器8の噴霧液採取量を測定することで、噴霧液の均一性を確認できる。
【0048】
実施形態に係る噴霧腐食試験機100は、従来の噴霧腐食試験機に噴霧量調整器12を含む噴霧塔1を含むことが特徴である。実施形態に係る噴霧腐食試験機100を用いることで、上記した実施形態に係る噴霧塔1と同様の効果を奏する。
【0049】
以下に実施例を掲げ、本出願で開示する実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単に実施形態の説明のためのものである。本出願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例
【0050】
<塩水噴霧試験における噴霧液量、塩濃度、温度の測定>
[実施例1]
試験槽2の中心に噴霧量調整器12を含む噴霧塔1を配置した噴霧腐食試験機100を使用した塩水噴霧試験において、試験槽2内の噴霧液量、噴霧液の塩濃度および温度を測定した。噴霧液量、噴霧液の塩濃度および温度は、図4に示す鉛直方向からみた試験槽2内のA~Hの各位置で測定した(D、Eにおいて温度は未測定)。また、鉛直方向からみた試験槽2の内壁21に対向する風向板12Cの第1面の幅を図4に示すようにa1~a4とした。測定条件を以下に示す。
【0051】
〔測定条件〕
塩水噴霧試験
試験槽のサイズ:幅(鉛直方向からみた長辺)900mm×奥行(鉛直方向からみた短辺)600mm×高さ400mm
加熱方式:蒸気加熱方式(蒸気管は試験槽2の幅方向に2本配置(図4の略A-C位置および略F-H位置))
試験槽設定温度:35℃
空気飽和器温度:47℃
噴霧圧力:0.098MPa
測定位置の高さ:試験槽床面から310mm
風向板の第1面の幅:a1=a2=6mm、a3=a4=3mm
【0052】
[比較例1]
噴霧塔1の噴霧量調整器12に風向板12Cを具備しなかった以外は、実施例1と同様である。
【0053】
表1に、A~H各位置で測定された噴霧液量、塩濃度および温度を示す。また、表1の一番下の行には、A~H各位置で測定された最低値と最高値を示している。
【0054】
【表1】
【0055】
表1から風向板12Cを具備した実施例1は、噴霧液量、塩濃度および温度すべてにおいて比較例1と比べてばらつきが小さくなった。したがって、風向板12Cを図4に示すように配置することで、A~H各位置に到達した噴霧液の量が同程度になることが示された。また、従来、試験槽2の加熱には、試験槽2内の位置による温度のばらつきを小さくできる方式として蒸気加熱方式が用いられてきた。しかしながら、実施例1は、比較例1よりも温度のばらつきが小さかった。これは、風向板12Cを具備したことにより、噴霧塔1から放出された噴霧液の流れに偏りが生じなかったことに加え、試験槽2に導入した蒸気の流れに好影響を与えたため、温度のばらつきが小さくなったと考えられる。さらに、温度のばらつきが小さくなることで、局所的な温度の違いによる噴霧液の蒸発を防ぎ、噴霧液の塩濃度のばらつきも小さくなったと考えられる。
【0056】
以上の結果より、噴霧量調整器12を含む噴霧塔1は、噴霧塔1が試験槽2に配置された際に、試験槽2の内壁21に対向する風向板12Cの第1面の幅を対向する内壁21からの距離に応じて設定したことで、試験槽2内における噴霧液の量および温度の位置によるばらつきを小さくすることが示された。したがって、本出願で開示する噴霧量調整器12を含む噴霧塔1が配置された噴霧腐食試験機100は、精度よく試験を行うことができる。
【0057】
(その他の変形例)
以上、実施の形態例をいくつか挙げて説明したが、本出願における開示はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態等では、噴霧量調整器12、噴霧塔1および噴霧腐食試験機100における各機器の構成(形状、配置、個数等)を具体的に挙げて説明したが、これらの構成については、上記実施の形態等で説明したものには限られず、他の形状や配置、個数等であってもよい。具体的には、例えば、噴霧量調整器12に備えられる風向板12Cは、4つであることを例に挙げて説明したが、4つよりも少ない場合でも、多い場合でも良い。また、風向板12Cの第1面の幅は、試験槽2の大きさ、噴霧塔1の配置される位置、加熱温度の他に、蒸気管7の形状や加熱方式等に応じて適宜調整してもよい。また、風向板12Cの第1面の形状は、噴霧量調整器固定部12Aと上面部12Bとの間に設ける際に、噴霧量調整器固定部12A側の幅を大きくして略台形形状とするなど、適宜調整してもよく、他の面の形状も適宜調整してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本出願で開示する噴霧量調整器、噴霧塔および噴霧腐食試験機は、試験槽内の噴霧液が到達する位置による噴霧液の量のばらつきを小さくでき、噴霧腐食試験機における試験を精度よく行える。したがって、噴霧量調整器、噴霧塔および噴霧腐食試験機を扱う業者にとって有用である。
【符号の説明】
【0059】
1…噴霧塔、11…筒部、12…噴霧量調整器、12A…噴霧量調整器固定部、12B…上面部、12C…風向板、12D…方向体、12E…支柱、12F…ねじ、12G…水準器、13…噴霧器、13A…液ノズル、13B…空気ノズル、2…試験槽、21…内壁、21A…短辺、21B…長辺、22…角、23…ケース、24…上蓋、25…ウォーターシール部、3…溶液溜め、4…溶液補給タンク、5…空気飽和器、6…湿度発生器、7…蒸気管、8…噴霧液採取器、9…噴霧液採取量確認器、100…噴霧腐食試験機、a1~a4…第1面の幅、L1…噴霧塔1の中心と角22との距離、L2a、L2b、L3a、L3b…噴霧塔1の中心から内壁21への垂線、S…試料
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4