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特許7315982弱酸性薬物の制御放出のための医薬組成物およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】弱酸性薬物の制御放出のための医薬組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5578 20060101AFI20230720BHJP
   A61K 31/505 20060101ALI20230720BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20230720BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20230720BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20230720BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230720BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20230720BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20230720BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230720BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
A61K31/5578
A61K31/505
A61K9/127
A61K47/24
A61K47/28
A61K47/12
A61K47/40
A61K9/72
A61P11/00
A61P9/12
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021513875
(86)(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 US2019050769
(87)【国際公開番号】W WO2020056104
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-04-26
(31)【優先権主張番号】62/731,101
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520026478
【氏名又は名称】ファルモサ バイオファーマ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】カン,ペイ
(72)【発明者】
【氏名】リン,イー フォン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,コ チェー
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-524391(JP,A)
【文献】特開2010-018632(JP,A)
【文献】米国特許第05939096(US,A)
【文献】国際公開第1996/025147(WO,A1)
【文献】特表平08-509230(JP,A)
【文献】International Journal of Nanomedicine,2014年,Vol.9,pp.3249-3261
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00
A61K 9/00
A61K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上のリポソームが外部媒体に懸濁されてなる医薬組成物であって、前記リポソームが、
(a) 少なくとも1の小胞形成リン脂質および15モル%未満のステロールを含む、外部脂質二重層、ならびに
(b) 弱酸性薬物および弱酸性塩を含む、内部水性媒体
を含み、
前記内部水性媒体のpHが前記外部媒体のpHより高く、
前記弱酸性薬物は、イロプロストまたはアンブリセンタンであり、
前記外部媒体は緩衝液であり、
前記医薬組成物が模擬肺液(SLF)とインキュベートされ、前記弱酸性薬物の65%未満が前記インキュベートの1時間以内に前記模擬肺液に放出される、医薬組成物。
【請求項2】
前記外部媒体はクエン酸緩衝液またはリン酸緩衝液である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記外部脂質二重層は10モル%未満のステロールを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記外部脂質二重層はステロールを含まない、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ステロールは、コレステロール、ヘキサコハク酸コレステロール、エルゴステロール、ラノステロール、またはそれらのいずれかの組み合わせである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記小胞形成リン脂質は、第1のリン脂質および第2のリン脂質の混合物または第1のリン脂質および荷電脂質の混合物である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記弱酸性塩はカルボン酸塩または重炭酸塩である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記カルボン酸塩は、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、イソ酪酸塩、吉草酸塩、イソ吉草酸塩、安息香酸塩、またはそれらのいずれかの組み合わせである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記重炭酸塩は、重炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カルシウム、重炭酸マグネシウム、重炭酸セシウム、重炭酸リチウム、重炭酸ニッケル、重炭酸第一鉄またはそれ
らのいずれかの組み合わせである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記内部水性媒体はさらにシクロデキストリンを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
シクロデキストリンに対する弱酸性薬物のモル比(薬物/CD比)が0.06以下である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
シクロデキストリンに対する弱酸性薬物のモル比(薬物/CD比)が0.03以下である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
肺高血圧症または間質性肺疾患の治療のための請求項1~12のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、前記弱酸性薬物が吸入される医薬組成物。
【請求項14】
弱酸性薬物の副作用の低減のための請求項1~12のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、前記弱酸性薬物が吸入される医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年9月14日付で出願された、米国出願第62/731,101号の利益を主張しており、その開示全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
弱酸性薬物をカプセル化する少なくとも1のリポソームを含み、前記リポソームの外部脂質二重層(external lipid bilayer)における少量のステロールにより、弱酸性薬物のバーストリリース(burst release)を低減もしくは防止するおよび/または弱酸性薬物の放出を維持する医薬組成物が本明細書で開示される。
【背景技術】
【0003】
背景
リポソームは、天然または合成の脂質の二重層から構成される微細構造であり、内部コンパートメントを形成することで治療剤の貯蔵庫として機能する。様々なリポソーム組成物が、異なるサイズ、透過性、および安定性を有する薬物送達ビヒクルとして設計されており、それらはすべて、持続的な薬物放出を提供するように設計されている。しかしながら、これらの徐放性リポソーム組成物は、一般的に、薬物放出の高い初期バーストを示し、バーストリリース中の副作用および/または治療域外の血漿薬物レベルを増加させる。
【0004】
リポソーム組成物の放出プロファイルは、リポソーム膜の構造に依存し、リポソームの性能に影響を与える。したがって、放出プロファイルの制御は、薬物送達媒体としてリポソームを効果的に使用するための重要な前提条件となる。例えば、コレステロールを外部脂質二重層に加えると、膜の剛性、安定性が高まり、脂質二重層の透過性が低下する(S. Kaddah et al., Food Chem Toxicol. 2018 Mar;113:40-48)。S. Kaddah et al.は、カプセル化された薬物の放出が、リポソーム二重層のコレステロールの増加(最大30%)に伴い減少することを示す。E. Corvera et al. (Biochim Biophys Acta. 1992 Jun 30;1107(2):261-70)は、DMPCおよびDPPCリポソームに低濃度のコレステロール(5~8%)を添加すると、リポソームの安定性が低下し、膜透過性が向上することを示唆する。
【0005】
潜在的な副作用を低減し、弱酸性薬物の治療効果を拡大するために、初期バーストリリースのないリポソーム組成物に対する必要性が依然としてある。本発明は、これらおよび他の必要性に対処するものである。
【発明の概要】
【0006】
発明の簡単な概要
本発明は、1以上のリポソームが外部媒体(external medium)に懸濁されてなる医薬組成物であって、前記リポソームが、(a)少なくとも1の小胞形成リン脂質(vesicle-forming phospholipid)および15モル%未満のステロールを含む、外部脂質二重層(external lipid bilayer)、ならびに(b)弱酸性薬物および弱酸性塩を含む、内部水性媒体(internal aqueous medium)を含み、前記弱酸性薬物の65重量%未満が前記医薬組成物を投与してから1時間以内に前記外部媒体に放出される、医薬組成物を提供する。
【0007】
本発明はまた、本明細書に記載される医薬組成物を投与する工程を有する、呼吸器疾患の治療方法を開示する。
【0008】
また、有効量の本明細書に記載される医薬組成物を弱酸性薬物を摂取する必要のある対象に投与する工程を有する、弱酸性薬物の副作用の低減方法を提供する。
【0009】
本特許で使用される「発明(invention)」、「本発明(the invention)」、「本発明(this invention)」および「本発明(the present invention)」という用語は、本特許および以下の特許請求の範囲のすべての主題を広く指すことを意図している。これらの用語を含む記載は、本明細書に記載される主題を制限したり、以下の特許請求の範囲の意味や範囲を制限したりするものではないことを理解されたい。この特許に包含される発明の実施形態は、この概要ではなく、以下の特許請求の範囲によって定義される。この概要は、本発明の様々な態様の高レベルの概要であり、以下の詳細な説明の項でさらに説明されるいくつかの概念を紹介するものである。この概要は、請求項に記載される主題の重要なまたは必須の特徴を特定することを意図するものではなく、また、請求項に記載される主題の範囲を決定するために単独で使用されることを意図するものでもない。主題は、明細書全体、一部またはすべての図面、および各請求項の適切な部分を参照することによって理解されるべきである。
【0010】
本発明は、以下の図面や詳細な説明を読むと、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明の詳細な実施形態を、下記図面を参照しながら、以下で詳細に説明する。
図1図1は、イロプロスト、重炭酸塩およびHP-β-CDを含むリポソーム組成物(LL021b3A2)、イロプロスト、重炭酸塩およびRM-β-CDを含むリポソーム組成物(LL021m3A2)、またはイロプロスト溶液を投与されたラットの平均血漿イロプロスト濃度の対数を示す折れ線グラフである。
図2図2は、イロプロスト、重炭酸塩およびHP-β-CDを含むリポソーム組成物(LL021b3A2)、イロプロスト、重炭酸塩およびRM-β-CDを含むリポソーム組成物(LL021m3A2)、またはイロプロスト溶液の、0時間から特定の時間までの血漿濃度-時間曲線下の面積(AUC)と、0時間から無限時間(infinity)までの血漿濃度-時間曲線下の面積(AUCinf)と、の比を示す折れ線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
本明細書で使用される、冠詞「a」及び「an」は、冠詞の文法的対象の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)を指す。例として、「要素(an element)」とは、1つの要素または複数の要素を意味する。
【0013】
すべての数字は、「約」という用語によって修飾されている。本明細書で使用される、「約」という用語は、特定の値の±10%の範囲を指す。
【0014】
「含む(comprise)」または「含む(comprising)」という用語は、一般に、1つ以上の特徴(features)、成分(ingredients)または構成(components)が存在しうることを意味する含む(include/including)の意味で使用される。
【0015】
「対象(subject)」という用語は、呼吸器疾患を有する脊椎動物または呼吸器疾患の治療を必要とすると考えられる脊椎動物を指すことができる。対象としては、哺乳動物など、霊長類などの温血動物が含まれるが、より好ましくはヒトである。非ヒト霊長類も対象である。対象という用語には、猫、犬などの家飼いの動物、家畜(例えば、牛、馬、豚、羊、ヤギなど)および実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、スナネズミ、モルモットなど)が含まれる。したがって、本明細書では、獣医学的用途および医療製剤が包含される。
【0016】
「治療(treating)」という用語は、治療のための処置および予防のための(prophylactic)または予防のための(preventative)措置の双方を指す。治療が必要な対象には、すでに呼吸器疾患(respiratory disease)もしくは関連疾患(related disorder)を患っている対象、呼吸器疾患もしくは関連障害を患いやすい対象または呼吸器疾患を予防する必要がある対象がある。
【0017】
本明細書で使用される弱酸性薬物(weak acid drug)は、特記しない限りまたは文脈から明らかでない限り、その薬学的に許容される塩およびそのプロトン化形態を包含する。一実施形態では、弱酸性薬物は、カルボキシル基(-COOH)、ヒドロキシル基(-OH)、リン酸基(-PO)およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1の官能基を含む。他の実施形態では、弱酸性薬物は、1以上約7未満、2以上約6未満、2~6.9、または2.5~6のpKaを有する。また、弱酸性薬物は、上記したカルボキシル基(-COOH)、ヒドロキシル基(-OH)、およびリン酸基(-PO)に加えて、1以上の官能基を含んでもよい;そのような追加の官能基は、薬物の酸性度をその非官能化カウンターパートの酸性度から大きく変えるべきではない。一実施形態では、弱酸性薬物は、肺高血圧症を治療するために使用される。他の実施形態では、弱酸性薬物は、プロスタグランジン、プロスタサイクリン受容体アゴニスト、グルココルチコイドまたは非ステロイド性抗炎症薬である。表1は、本発明の弱酸性薬物の非限定的な例を示す。
【0018】
【表1-1】
【0019】
【表1-2】
【0020】
本明細書で使用される、「カプセル化(encapsulation)」、「ロードされた(loaded)」および「封入された(entrapped)」という用語は、交換可能に使用することができ、リポソームの内部水性媒体における生物学的活性剤(例えば、イロプロスト)の組み込み(incorporation)または会合(association)を指す。
【0021】
本開示は、1以上のリポソームが外部媒体に懸濁されてなる医薬組成物であって、前記リポソームが、(a)少なくとも1の小胞形成リン脂質および15モル%未満のステロールを含む、外部脂質二重層、ならびに(b)弱酸性薬物および弱酸性塩を含む、内部水性媒体を含み、この際、65重量%未満の弱酸性薬物が前記医薬組成物を投与してから1時間以内に前記外部媒体に放出される、医薬組成物を提供する。
【0022】
一具体的な実施形態では、外部脂質二重層中のステロールは、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.5モル%未満である。他の具体的な実施形態では、外部脂質二重層は実質的にステロールを含まない。
【0023】
医薬組成物中の弱酸性薬物のカプセル化率は、約70%、75%または80%を超える。
【0024】
医薬組成物は、カプセル化された弱酸性薬物のバーストリリース(burst release)を低減する。一実施形態では、弱酸性薬物の約70%、69%、68%、67%、66%または65%未満が、医薬組成物を投与してから1時間以内に放出される。その結果、標的部位での弱酸性薬物の副作用(例えば、咳、喉の炎症、咽頭の痛み、鼻血、喀血および上気道の喘鳴)が、外部脂質二重層におけるステロールが15モル%以上である医薬組成物に比して低減される。さらに、本医薬組成物は、弱酸性薬物の放出を延長し、投与頻度を減らす。
【0025】
一実施形態では、開示される医薬組成物からの弱酸性薬物のバーストリリースは、内部水性媒体におけるシクロデキストリンの添加またはカプセル化によりさらに減少する。シクロデキストリンの非限定的な例としては、α-CD、β-CD、γ-CD、2-ヒドロキシプロピルβ-CD(HP-β-CD)、スルホブチルエーテルβ-CD(SBE-β-CD)、ランダムにメチル化されたβ-CD(RM-β-CD)またはそれらの組み合わせがある。好ましくは、シクロデキストリンは、HP-β-CD、RM-β-CDまたはそれらの組み合わせである。一具体的な実施形態では、弱酸薬物とシクロデキストリンとのモル比(薬物/CD比)は、約0.06、0.055、0.05、0.045、0.04、0.035、または0.03以下である。
【0026】
また、外部脂質二重層中のステロールの量が15モル%未満である、本明細書に開示される医薬組成物を有効量、それを必要とする対象に投与する工程を含む、呼吸器疾患を治療するための方法が開示される。本明細書に開示される医薬組成物の弱酸性薬物のバーストリリースは、外部脂質二重層中に15モル%以上のステロールを有する医薬組成物と比較して減少する。呼吸器疾患の非限定的な例としては、肺高血圧症および間質性肺疾患がある。
【0027】
さらに、呼吸器疾患を治療するための本明細書に開示される医薬組成物の使用、または呼吸器疾患の治療のための薬剤の製造のための本明細書に開示される医薬組成物の使用が開示される。
【0028】
本発明はまた、弱酸性薬物を服用する必要のある対象に、外部脂質二重層中のステロールが15モル%未満である、本明細書に開示される医薬組成物を有効量投与することを含む、弱酸性薬物の副作用を低減するための方法に関する。
【0029】
実施形態によっては、本明細書に開示される医薬組成物は、上気道における弱酸性薬物の副作用を低減するために吸入によって投与される。
【0030】
A.リポソーム成分
本明細書で使用される「リポソーム」という用語は、内部水性媒体を封入する1以上の脂質二重層で構成される微視的な(microscopic)小胞(vesicles)または粒子(particles)を指す。リポソームを形成するには、少なくとも1つの「小胞形成脂質(vesicle-forming lipid)」の存在が必要であり、これは脂質二重層を形成するまたは脂質二重層に組み込まれることができる両親媒性脂質である。適切な小胞形成脂質を使用して、リポソームを構成する脂質二重層を形成することができる。小胞形成脂質としては、以下に限定されないが、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)またはホスファチジルセリン(PS)などのリン脂質、および正に帯電した脂質または負に帯電した脂質などの荷電脂質(charged lipids)などがある。
【0031】
リポソームの脂質二重層は、少なくとも1の小胞形成脂質および0(ゼロ)モル%以上15モル%未満のステロール(例えば、0~14.99モル%)を含む。ここで、前記ステロールは、コレステロール、ヘキサコハク酸コレステロール(cholesterol hexasuccinate) 、エルゴステロール、ラノステロール、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるが、これらに限定されない。具体的な実施形態では、ステロールはコレステロールである。
【0032】
実施形態によっては、小胞形成脂質は、第1のリン脂質および第2のリン脂質の混合物である。特定の実施形態では、第1のリン脂質は、水素化卵ホスファチジルコリン(HEPC)、水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアリロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジアラキドイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、卵ホスファチジルコリン(EPC)、大豆ホスファチジルコリン(SPC)、オレオイルパルミトイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジペトロセリノイルホスファチジルコリン、パルミトイルエレイドイルホスファチジルコリン、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジウンデカノイルホスファチジルコリン、ジデカノイルホスファチジルコリン、ジノナノイルホスファチジルコリン、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、ホスファチジルコリン(PC)である。他の実施形態では、第2のリン脂質は、1,2-ジステアロリ-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DSPE-PEG2000)などの約500~約10,000ダルトンの分子量を有するポリエチレングリコールを含む、ポリエチレングリコール修飾リン脂質、ジステアリロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)またはジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)またはジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)などの負に帯電したリン脂質である。具体的な実施形態では、第1のリン脂質:コレステロール:第2のリン脂質のモル比は、75~99:0~14.9:0.1~25である。
【0033】
他の実施形態では、小胞形成脂質は、第1のリン脂質および荷電脂質の混合物である。具体的な実施形態では、小胞形成脂質は、第1のリン脂質、第2のリン脂質、および荷電脂質の混合物である。荷電脂質としては、ステアリルアミン、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)、3β-[N-(N,N-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DC-コレステロール)、N-コレステリル-スペルミン(GL67)、ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、エチルホスホコリン(エチルPC)またはそれらの組み合わせがある。他の具体的な実施形態では、第1のリン脂質:コレステロール:荷電脂質のモル比は、75~99:0~14.9:0.1~25である。
【0034】
一実施形態では、脂質二重層中のHSPC、コレステロール、およびDSPGのモル%は、75~99:0~14.9:0.1~25である。他の実施形態では、脂質二重層中のHSPC、コレステロール及びDSPE-PEG2000のモル%は、75~99:0~14.9:0.1~25である。
【0035】
一実施形態では、リポソームの外部脂質二重層は、界面活性剤をさらに含んでもよく、これは非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤または双性イオン性界面活性剤であってもよい。非イオン性界面活性剤は、そのヘッドに正式に帯電した基を持たない。カチオン性界面活性剤は、そのヘッドに正味の正電荷を持つ。双性イオン界面活性剤は、電気的に中性であるが、異なる原子に正と負の正式な電荷を持つ。
【0036】
非イオン性界面活性剤の非限定的な例としては、非イオン性水溶性モノ-、ジ-、およびトリ-グリセリド;ポリエチレングリコールの非イオン性水溶性モノ-およびジ-脂肪酸エステル;非イオン性水溶性ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、TWEEN 20(ポリオキシエチレン20ソルビタンモノオレエート)、SPAN 80などのソルビタンモノオレエート);非イオン性水溶性トリブロック共重合体(例えば、POLOXAMER 406(PLURONIC F-127)などのポリ(エチレンオキシド)/ポリ-(プロピレンオキシド)/ポリ(エチレンオキシド)トリブロック共重合体)またはその誘導体がある。
【0037】
カチオン性界面活性剤の非限定的な例としては、臭化ジメチルジアルキルアンモニウムまたは臭化ドデシルトリメチルアンモニウムがある。
【0038】
両性イオン性界面活性剤の非限定的な例としては、3-(N,N-ジメチルパルミチルアンモニオ)-プロパンスルホネートがある。
【0039】
本発明によれば、リポソームは、リポソームの内部水性媒体と外部媒体との間にpH勾配を形成するために、弱酸性塩を含む媒体中で調製される。小胞形成リン脂質および15%未満のステロールが弱酸性塩を含む媒体と接触すると、リポソーム懸濁液が形成される。
【0040】
懸濁液中のリポソームは、サイズの縮小に供される。リポソームのサイズは、通常、その直径を指す。リポソームのサイズの縮小は、押出、超音波処理、均質化技術または粉砕技術などの多くの方法によって達成することができ、これらはよく知られており、当業者によって実施することができる。押出には、リポソームを加圧下で、規定の孔径を有するフィルターに1回以上通すことを含む。フィルターは、通常、ポリカーボネート製であるが、リポソームと相互作用せず、十分な圧力下で押し出すことができるほど十分に強い耐久性材料で作製されてもよい。リポソームのサイズは、超音波処理によって小さくすることができる。超音波処理では、音波エネルギーを使用してリポソームを破壊またはせん断して、自発的により小さなリポソームに再形成するであろう。例えば、超音波処理は、リポソーム懸濁液を含むガラス管を、バス型ソニケーターで生成された音波震源(sonic epicenter)に浸漬することによって実施できる、または、プローブ型のソニケーターを使用してもよく、その場合には、音波エネルギーは、リポソーム懸濁液と直接接触するチタン製プローブの振動によって生成される。本発明において、リポソームは、通常、約500nm以下、約400nm以下、約300nm以下、約200nm以下または約100nm以下などの、約50nm~500nmの直径を有する。
【0041】
サイジング後、外部媒体中の弱酸性塩の濃度を調整して、内部水性媒体と外部媒体との間にpH勾配を提供する。これは、例えば、透析ろ過、透析、限外ろ過、接線流ろ過(tangential flow filtration)などの方法により、外部媒体をクエン酸緩衝液(HO)やリン酸緩衝液(HPO)などの弱酸性塩を含まない適切な緩衝液と交換するなど、様々な方法で実施できる。
【0042】
弱酸性塩は、リポソームの外部媒体と内部水性媒体との間に、より低い外部とより高い内部のpH勾配を提供する。一実施形態では、内部水性媒体のpHは、外部媒体のpHよりも少なくとも0.1単位高い。他の実施形態では、内部水性媒体のpHは、外部媒体のpHよりも少なくとも1単位高い。さらに別の実施形態では、内部水性媒体のpHは約7、8、9または10であり、外部媒体のpHは7未満、6未満、5未満、4未満、3未満、約3~7、約3.5~6.5、または約4~6である。さらに別の例示的な実施形態では、外部媒体のpHは、弱酸性薬物のpKaを超える。
【0043】
弱酸性塩の非限定的な例としては、カルボン酸塩および重炭酸塩がある。
【0044】
本明細書で使用される「重炭酸塩(Bicarbonate salt)」は、重炭酸アニオンおよびカチオン成分を含む薬学的に許容される塩化合物を指す。一実施形態では、塩化合物のカチオン成分は金属である。金属の非限定的な例としては、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、セシウム(Cs)、リチウム(Li)などのIAまたはIIA族金属または鉄(Fe)やニッケル(Ni)などのIAまたはIIA族以外の金属がある。重炭酸塩の例としては、以下に限定されないが、重炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カルシウム、重炭酸マグネシウム、重炭酸セシウム、重炭酸リチウム、重炭酸ニッケル、重炭酸第一鉄(ferrous iron bicarbonate)またはそれらの任意の組み合わせがある。
【0045】
本明細書で使用される「カルボン酸塩(Carboxylic acid salt)」としては、以下に限定されないが、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、イソ酪酸塩、吉草酸塩、イソ吉草酸塩またはそれらの組み合わせがある。例示的な一実施形態では、酢酸塩は、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、またはそれらの組み合わせである。
【0046】
重炭酸塩またはカルボン酸塩の濃度は、50mM以上、100mM以上、150mM以上、200mM以上、250mM以上、300mM以上、350mM以上、400mM以上、450mM以上、500mM以上、600mM以上、700M以上、800mM以上 900mM、1000mM未満、50mM以上1000mM未満、50mM~800mM、200mM以上1000mM未満、200mM~800mM、または200mM~600mM、250mM以上1000mM未満、250mM~800mM、または250mM~600mM、300mM~600mMである。
【0047】
調製されたリポソームは、弱酸性薬物のローディング(loading)および対象への投与の前のかなりの期間保存してもよい。例えば、リポソームは、弱酸性薬物のローディング(loading)前のかなりの期間、冷蔵状態で保存してもよい。あるいは、投与前に、リポソームを脱水し、保存し、続いて再水和し、弱酸性薬物をロードしてもよい。リポソームはまた、弱酸性薬物をロードした後に、脱水してもよい。脱水は、当技術分野で利用可能で知られている多くの方法によって実施することができる。いくつかの実施形態では、リポソームは、標準的な凍結乾燥装置、すなわち低圧条件下での脱水を使用して脱水される。また、リポソームは、例えば、液体窒素を使用して凍結してもよい。脱水の前に、サッカリドをリポソーム環境、例えば、リポソームを含む緩衝液に加え、脱水中のリポソームの安定性と完全性(integrity)を確保してもよい。サッカリドの例としては、以下に限定されないが、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、デキストロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、またはそれらの組み合わせがある。
【0048】
上記したように15モル%未満のステロールを含むまたは実質的にステロールを含まないリポソーム懸濁液を、弱酸性薬物のローディングのために用意する。具体的には、弱酸性薬物をリポソームの外部媒体に加え、所望のローディング濃度およびカプセル化効率(医薬組成物組成物中の弱酸性薬物の総量に対する弱酸性薬物の内部/カプセル化量のパーセント)が達成されるまで、得られた懸濁液をインキュベートして、弱酸性薬物をリポソームの内部水性媒体に拡散させる。
【0049】
B.外部脂質二重層のステロール含有量と制御放出プロファイルとの関連
リポソームの外部脂質二重層中に15モル%未満(例えば、0~14.99モル%)のステロールを有する本発明の医薬組成物は、カプセル化された弱酸性薬物のバーストリリースを低減し、したがって弱酸性薬物の副作用を低減する。さらに、所望の治療効果のために十分な量の弱酸性薬物が医薬組成物から放出され、放出プロファイルはリポソームの外部脂質二重層に15モル%を超えるステロールを有する医薬組成物の放出プロファイルと比較して予想外に延長される。
【0050】
本明細書で使用される、「バーストリリース(burst release)」という用語は、医薬組成物を投与してから1時間(60分)以内に医薬組成物からカプセル化された弱酸性薬物の70、69、68、67、66または65%を超える急速なおよび/またはいくらか制御されない放出を指す。
【0051】
本明細書で使用される、「持続放出(extended release)」という用語は、「制御放出(controlled release)」、「遅延放出(delayed release)」、「改変放出(modified release)」、「持続放出(prolonged release)」、「プログラム放出(programmed release)」、「時間放出(time release)」、「速度制御(rate controlled)」または「徐放(sustained release)」と交換可能に使用することができ、医薬組成物を投与してから1時間以内に弱酸性薬物の50、45または40%未満の放出を指す。
【0052】
一実施形態では、医薬組成物のバーストリリースまたは持続放出プロファイルは、捕捉された弱酸性薬物のインビトロ放出(IVR)アッセイおよび/またはインビボ薬物動態研究に基づく。
【0053】
特定の実施形態では、インビトロ放出(IVR)アッセイおよび/またはインビボ薬物動態研究に基づいて、医薬組成物は、捕捉された弱酸性薬物の約70、69、68、67、66または65重量%未満が医薬組成物を投与した時点から1時間以内に放出されるという放出プロファイルを有する。
【0054】
C.投与
本発明の医薬組成物は、血液と直接接触しない対象のキャビティに投与されうる。投与経路の例としては、以下に制限されないが、吸入、気管内注射、皮下注射、関節内注射、筋肉内注射、硝子体内注射および髄膜注射がある。
【0055】
本発明の医薬組成物はまた、対象の血液に直接投与されてもよい。
【0056】
本開示によれば、医薬組成物は、1日に1回から3回、2日ごとに1回、または3日ごとに1回投与されてもよい。
【0057】
本開示を、下記例においてさらに説明する。しかしながら、下記例は、例示のみを目的としており、実際に本開示を限定するものとして解釈されるべきではないことを理解されたい。
【0058】
実施例
一般的な実験手順:
1.イロプロスト(Iloprost)リポソーム組成物の調製
エタノール注入技術を用いて、リポソームコロイド懸濁液を調製した。98:2または98.5:1.5のモル比で第1のリン脂質(HSPC)と第2のリン脂質(DSPE-PEG2000またはDSPG)を含む、すべての脂質成分を、約60℃で2.86mLのエタノール溶液に溶解した。得られた脂質溶液を、必要に応じて(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン(すなわち、45~120mM)を含む17.4mLの重炭酸ナトリウム溶液(100~400mM;pH 8.5)に注入し、リポソームの水和のために60℃で激しく攪拌しながら混合した。混合物を、孔径0.2または0.1μmのポリカーボネート膜を通して6~10回押し出し、約100nm~200nmの範囲内の平均粒子サイズおよび<0.2の多分散度指数(PdI)を有するリポソームの懸濁液を得た。リポソームの懸濁液を、10mMのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)に対して接線流ろ過システム(tangential flow filtration system)で透析して、リポソームの内部水性媒体と外部媒体との間に膜間pH勾配(transmembrane pH gradient)を形成した(すなわち、内部がより高いおよび外部がより低いpH勾配)。次に、そのようなpH勾配を有するリポソームの懸濁液を、薬物ローディングプロセス(drug loading process)まで4℃で保存した。
【0059】
イロプロスト(Cayman Chemical, USAから購入)を50mMのクエン酸ナトリウム溶液に溶解し、薬物濃度が1000~250μg/mLになるようにリポソームの懸濁液に添加し、37℃で30分間インキュベートした。得られた生成物をクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)で調節して、外部媒体でのpHが5.5であり、リポソーム懸濁液中のリン脂質濃度が10mMであるイロプロストをロードしたリポソーム組成物(iloprost-loaded liposomal composition)を得た。
【0060】
2.アンブリセンタン(Ambrisentan)リポソーム組成物の調製
(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリンを使用してまたは使用せずに、上記ステップ1.に従ってリポソーム懸濁液を調製した。アンブリセンタン(Cayman Chemical, USAから購入)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した後、所定の薬物濃度が約500μg/mLになるようにリポソームの懸濁液に添加し、37℃で30分間インキュベートした。得られた生成物をクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)で調節して、外部媒体中のpHが5.5であり、リポソーム懸濁液中のリン脂質濃度が10mMであるアンブリセンタンをロードしたリポソーム組成物(ambrisentan-loaded liposomal composition)を得た。
【0061】
3.リポソーム組成物の定量的特性化
a.カプセル化された遊離イロプロスト/アンブリセンタンの濃度
イロプロストまたはアンブリセンタンのリポソーム組成物をPD MiniTrapTM G-25カラム(GE Healthcare)に注入し、カプセル化された薬物を遊離薬物から分離した。イロプロストまたはアンブリセンタンのリポソーム組成物をメタノールと混合して(90体積%メタノールおよび10体積%リポソーム懸濁液)、リポソーム-メタノール混合物を形成した。
【0062】
カプセル化されたイロプロストおよび遊離イロプロストの濃度は、フォトダイオードアレイ(PDA)検出器を備えたWaters Acquity HPLCシステムに30μLのリポソーム-メタノール混合物を注入することによって分析した。移動相は、アセトニトリル、メタノール、リン酸緩衝液(pH 2.5)の体積比36:17:47の混合物であり、移動相の流速は1.0 mL/minである。分離は、25℃で3.9mm×15.0cm、5.0μmの寸法のC8カラムを使用して行い、205nmで吸光度のピークを検出した。
【0063】
カプセル化されたアンブリセンタンの濃度および遊離アンブリセンタンの濃度は、質量検出器(QDa)を備えたWaters Acquity UPLCシステムに1μLのリポソーム-メタノール混合物を注入することによって分析した。移動相Aはアセトニトリルに0.1%ギ酸を含み、移動相BはddH2Oに0.1%ギ酸を含んだ。グラジエント条件は次のとおりであった:50%移動相Aで0.2分間、2分までに10%移動相A、5.5分までに50%移動相A。分離は、4.6mm×10.0cm、3.0μmの寸法のC18カラムを使用して、35℃で、流速1.0mL/minで行った。MS取得(MS acquisition)は、アンブリセンタンでは[M+H]イオン、m/z 347.2を使用してSIRモードで行った。
【0064】
b.カプセル化効率(EE)および薬物対シクロデキストリン比(drug-to-cyclodextrin ratio):
リポソーム組成物中の薬物(イロプロストまたはアンブリセンタン)の総量の濃度には、内部水性媒体中のカプセル化された薬物(L)および外部媒体中の遊離薬物(F)が含まれる。
【0065】
薬物のカプセル化効率(EE)は、薬物の総量(L+F)に対するリポソームの内部水性媒体中のカプセル化された薬物(L)の割合(%)として算出した、以下の式を参照のこと:
【0066】
【数1】
【0067】
イロプロストリポソーム組成物のILO/CD比およびアンブリセンタンリポソーム組成物のAMB/CD比は、下記式を用いて算出した:
【0068】
【数2】
【0069】
c.平均粒子サイズおよび多分散度指数(PdI):
リポソームの平均粒子サイズは、動的光散乱によって評価した。リポソームのサイズ分布を示す値である、多分散度指数(PdI)は、Beckman Coulter Delsa TM Nano Cパーティクルアナライザーを用いて、平均粒子サイズと同じ評価手法を使用して測定した。
【0070】
実施例1:ステロールの量が異なるイロプロストリポソーム組成物のインビトロ放出(IVR)プロファイル
A.インビトロ放出(IVR)アッセイ
イロプロストリポソーム組成物を処方し、イロプロストの濃度を、前記一般的な実験手順のセクションの手順に従って分析した。リポソームの平均粒子サイズは100~200nmであり、PdIは0.20未満であった。
【0071】
様々なIVRアッセイを使用して、IVRプロファイルを評価できる。実際のIVRアッセイは、特許請求の範囲に記載されたリポソーム組成物中のイロプロストに応じて当業者には既知である、または当業者には明らかであろう。リポソームからのイロプロスト放出プロファイルは、100rpm振盪速度で37℃で模擬肺液(SLF)[Dissolution Technologies 2011, 18, 15-28]に対して出発リン脂質濃度が10mMであるイロプロストをロードしたリポソーム溶液の10倍希釈によって得た。各時点で放出されたイロプロストのパーセンテージ(Release %)を、下記式を用いて、特定の時点(T)でインキュベーション後のカプセル化効率(EE)を初期(T)カプセル化効率と比較することによって計算した。
【0072】
【数3】
【0073】
結果:
ステロールの量が異なるイロプロストリポソーム組成物の物理化学的特性およびIVRプロファイルを表1に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表1から、重炭酸ナトリウム塩を用いると>90%のEEが達成され、15モル%未満のコレステロールを含むイロプロストリポソーム組成物でSLFインキュベーションから1時間以内に65%未満のイロプロストが放出されたが、15モル%以上のコレステロールを含むイロプロストリポソーム組成物では37℃でのSLFインキュベーションから1時間以内に70%を超えるイロプロストが放出されたことが示される。
【0076】
実施例2:ステロールの量が異なるアンブリセンタンリポソーム組成物のインビトロ放出(IVR)プロファイル
アンブリセンタンリポソーム組成物を処方し、アンブリセンタンの濃度を、前記一般的な実験手順のセクションの手順に従って分析した。リポソームの平均粒子サイズは100~200nmであり、PdIは0.20未満であった。
【0077】
結果:
ステロールの量が異なるアンブリセンタンリポソーム組成物の物理化学的特性およびIVRプロファイルを表2に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
表2から、重炭酸ナトリウム塩を用いると>90%のEEが達成され、15モル%未満のコレステロールを含むアンブリセンタンリポソーム組成物で37℃でのSLFインキュベーションから1時間以内に50%未満のアンブリセンタンが放出されたことが示される。
【0080】
実施例3:シクロデキストリン(CD)を含むまたは含まないイロプロストリポソーム組成物のインビトロ放出(IVR)プロファイル
実施例1のイロプロストリポソーム組成物の放出プロファイルに対するリポソームの内部水性媒体中のシクロデキストリン((2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン(HP-β-CD))の効果を評価するために、インビトロ研究を実施した。
【0081】
結果:
シクロデキストリン(HP-β-CD)を含むまたは含まないイロプロストリポソーム組成物の物理化学的特性およびIVRプロファイルを表3に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
表3から、シクロデキストリンの添加により、バーストリリースがさらに低減し(60%未満のイロプロストが37℃でのSLFインキュベーションから1時間以内に放出され)、イロプロストリポソーム組成物の放出属性は維持される(40%未満のイロプロストが37℃でのSLFインキュベーションから1時間以内に放出された)ことが示される。
【0084】
実施例4:異なる弱酸性塩を使用したイロプロストリポソーム組成物のカプセル化効率
実施例1のイロプロストリポソーム組成物のカプセル化効率に対する異なる弱酸性塩の効果を評価するためにインビトロ研究を実施した。本実施例では、重炭酸ナトリウム溶液(400mM)および酢酸ナトリウム溶液を使用してイロプロストをロードした。
【0085】
結果:
異なる弱酸性塩を使用したイロプロストリポソーム組成物のカプセル化効率を表4に示す。
【0086】
【表5】
【0087】
表4から、重炭酸塩および酢酸塩を用いると>80%のEEが達成され、内部水性媒体にシクロデキストリンが存在するとバーストリリースがさらに低減し、リポソーム組成物からのイロプロストの放出が持続することが示される。
【0088】
実施例5:イロプロスト対シクロデキストリン(ILO/CD)比が異なるイロプロストリポソーム組成物のインビトロ放出(IVR)プロファイルおよびインビボ薬物動態(PK)パラメーター
イロプロストリポソーム組成物のIVRプロファイルに対する異なるILO/CD比の効果を評価するために、インビトロ研究を実施した。実施例1に概説した手順に従って、本研究のリポソーム組成物を調製し、IVRプロファイルを分析した。イロプロスト溶液(20μg/mL)は、約8.4のpHに調整した、トロメタミンの2mM溶液にイロプロストを溶解することによって調製した。
【0089】
B.イロプロストリポソーム組成物のインビボ薬物動態(PK)研究
本インビボPK研究では、各グループ3匹のオスのSprague-Dawleyラット(BioLASCO Taiwan Co., Ltd.から購入)をイソフルランで麻酔し、上顎切歯の周りに引っ掛けられたリボンを用いて45°~50°平面の仰臥位でアーチ型のプラットフォームに背中をしっかりと置いた。マイクロスプレーエアロゾルチップ(Microsprayer, PennCentury, Philadelphia, USA)を各ラットの気管分岐部に挿入し、テストサンプル(すなわち、表5の組成物またはイロプロスト溶液)を、マイクロスプレーエアロゾル装置に取り付けられた高圧シリンジを用いて60μg/kgの所定量で各ラットに気管内投与した。
【0090】
所定の時点(すなわち、投与してから5、30分、1.5、3、6、7および8時間)で、血液サンプルを各ラットからヘパリンコートされたチューブに採取し、湿った氷上に置いた。次に、血液サンプルを、採取後1時間以内に約2500×gで15分間、4±2℃で遠心分離し、血漿を血球から分離した。各ラットの血漿サンプル約0.1mLを新しい保存チューブに加え、-70±2℃で保存した。
【0091】
血漿イロプロスト濃度を測定するために、50μLの血漿サンプルを96ウェルプレートのウェルに移した後、各ウェルに150μLのアセトニトリルを添加した。得られた混合物を1分間ボルテックスして血漿タンパク質のイロプロストへの結合を破壊し、続いて3000rpmで5分間遠心分離した。上澄み(150μL)を等容のHOと混合し、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)で分析して、ラットの血漿イロプロスト濃度を測定した。
【0092】
結果:
異なるILO/CD比を有するイロプロストリポソーム組成物のIVRプロファイルおよびPKパラメーター(Cmax)を表5、図1および図2に示す。
【0093】
【表6】
【0094】
表5から、ILO/CD比が0.06未満であるイロプロスト-リポソーム組成物はバーストリリースプロファイルの低下を示す(68.7%未満のイロプロストが投与時から1時間以内に放出される)ことが示される。より持続的な放出属性(45%未満のイロプロストが37℃でのSLFインキュベーションから1時間以内に放出される)が、ILO/CD比が0.026未満であるイロプロスト-リポソーム組成物で認められた。内部水性媒体にシクロデキストリンを添加した場合、同様の傾向が見られた。
【0095】
図1は、所定の用量での表6のイロプロスト-リポソーム組成物(LL021b3A2 /LL021m3A2)またはイロプロスト溶液を投与されたラットにおける血漿平均イロプロスト濃度の対数対24時間までの投与時間を示す。イロプロスト溶液の投与から1時間以内にピークがあるのに比して、イロプロスト-リポソーム組成物の投与後には有意なピークは存在しない。ピーク放出の減少は、薬物の副作用を防ぐ、例えば、特許請求の範囲に規定されたリポソーム組成物との直接接触した際の上気道におけるより少ない局所刺激。
【0096】
図2は、一定期間にわたるイロプロストの総曝露を決定するためおよび各組成物(表6のイロプロスト-リポソーム組成物またはイロプロスト溶液)におけるイロプロストの異なる投与量を正規化するため、ゼロ時間から特定の時間までの血漿濃度-時間曲線下の面積(area under the plasma concentration-time curve)(AUC)とゼロ時間ロから無限時間までの血漿濃度-時間曲線下の面積(AUCinf)との比を示す。イロプロスト溶液の投与から1時間以内に100%のイロプロストが放出されたのに比して、イロプロスト-リポソーム組成物の投与から24時間以内で80%を超えるイロプロストが放出された。これらの結果は、標的部位での薬物蓄積が減少し、したがって副作用が少ないことを示す。
【0097】
実施例6:異なるシクロデキストリン(CD)を含むイロプロストリポソーム組成物のインビトロ放出(IVR)プロファイルおよびインビボ薬物動態(PK)パラメーター
実施例1の手順の概要に従って、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)またはランダムにメチル化された-β-シクロデキストリン(RM-β-CD)を含むイロプロストリポソーム組成物を調製し、IVRプロファイルを評価した。
【0098】
結果:
表6は、異なるCDを含むイロプロストリポソーム組成物の物理化学的特性を示す。HP-β-CDおよびRM-β-CDは双方ともイロプロスト-リポソーム組成物のバーストリリースを低減した(20%未満のイロプロストが37℃でのSLFインキュベーションから1時間以内に放出される)。
【0099】
【表7】
【0100】
上記説明では、説明の目的で、実施形態の完全な理解を提供するために、多くの特定の詳細が示されている。しかしながら、1以上の他の実施形態が、これらの特定の詳細のいくつかなしで実施され得ることは当業者には明らかであろう。また、本明細書全体を通した「一実施形態(one embodiment)」、「実施形態(an embodiment)」、序数などで示した実施形態への言及は、特定の特徴、構造、または特性が開示の実施に含まれ得ることを意味することを理解されたい。説明において、開示を合理化し、様々な発明の態様の理解を助ける目的で、様々な特徴が単一の実施形態、図、またはその説明に一緒にグループ化されることがあり、一実施形態の1以上の特徴または特定の詳細は、本開示の実施において、必要であれば、他の実施形態の1以上の特徴または特定の詳細とともに実施され得ることもさらに理解されたい。
本発明は、下記態様および形態を包含する。
(1)1以上のリポソームが外部媒体に懸濁されてなる医薬組成物であって、前記リポソームが、
(a) 少なくとも1の小胞形成リン脂質および15モル%未満のステロールを含む、外部脂質二重層、ならびに
(b) 弱酸性薬物および弱酸性塩を含む、内部水性媒体
を含み、
前記弱酸性薬物の65%未満が前記医薬組成物を投与してから1時間以内に前記外部媒体に放出される、医薬組成物。
(2)前記外部脂質二重層は10モル%未満のステロールを含む、上記(1)に記載の医薬組成物。
(3)前記外部脂質二重層は実質的にステロールを含まない、上記(1)に記載の医薬組成物。
(4)前記ステロールは、コレステロール、ヘキサコハク酸コレステロール、エルゴステロール、ラノステロール、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、上記(1)に記載の医薬組成物。
(5)前記小胞形成リン脂質は、第1のリン脂質および第2のリン脂質の混合物または第1のリン脂質および荷電脂質の混合物である、上記(1)に記載の医薬組成物。
(6)前記弱酸性塩はカルボン酸塩または重炭酸塩である、上記(1)に記載の医薬組成物。
(7)前記カルボン酸塩は、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、イソ酪酸塩、吉草酸塩、イソ吉草酸塩、安息香酸塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、上記(6)に記載の医薬組成物。
(8)前記重炭酸塩は、重炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カルシウム、重炭酸マグネシウム、重炭酸セシウム、重炭酸リチウム、重炭酸ニッケル、重炭酸第一鉄またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、上記(6)に記載の医薬組成物。
(9)前記内部水性媒体はさらにシクロデキストリンを含む、上記(1)に記載の医薬組成物。
(10)シクロデキストリンに対する弱酸性薬物のモル比(薬物/CD比)が0.06以下である、上記(9)に記載の医薬組成物。
(11)シクロデキストリンに対する弱酸性薬物のモル比(薬物/CD比)が0.03以下である、上記(9)に記載の医薬組成物。
(12)前記弱酸性薬物は、プロスタグランジン、プロスタサイクリン受容体アゴニスト、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、抗凝固剤、エンドセリン(ET)受容体アンタゴニストまたはそれらの組み合わせである、上記(1)に記載の医薬組成物。
(13)前記プロスタグランジンがイロプロストである、上記(12)に記載の医薬組成物。
(14)前記ET受容体アンタゴニストがアンブリセンタンである、上記(12)に記載の医薬組成物。
(15)上記(1)に記載の医薬組成物を投与する工程を有する、呼吸器疾患の治療方法。
(16)有効量の上記(1)に記載の医薬組成物を必要とする対象に投与する工程を有する、弱酸性薬物の副作用の低減方法。
(17)前記弱酸性を吸入することにより、上気道における前記弱酸性薬物の副作用を低減する、上記(16)に記載の方法。
図1
図2