(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 47/04 20060101AFI20230720BHJP
【FI】
D05B47/04 B
(21)【出願番号】P 2019049159
(22)【出願日】2019-03-15
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝見 健
(72)【発明者】
【氏名】若田部 淳
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-008662(JP,A)
【文献】特開昭61-232887(JP,A)
【文献】特開昭57-003680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 47/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針棒に保持され、上糸を保持して往復移動する縫い針と、
ボビンケースに収容され下糸が巻かれたボビンを保持し、前記縫い針と協働して縫い目を形成する釜と、
前記ボビンの回転速度を検出する回転センサと、
前記上糸の張力を検出する上糸張力センサと、
前記上糸の張力を調整する上糸張力調整装置と、
前記下糸の張力を調整する下糸張力調整装置と、
演算装置と、
制御装置と、を備え、
前記演算装置は、
縫い速度を算出する縫い速度算出部と、
前記縫い速度と前記ボビンの回転速度とに基づいて、前記ボビンに巻かれている下糸の量を推測する下糸量推測部と、
前記下糸量推測部により推測された前記下糸の量に基づいて、前記下糸の張力を算出する下糸張力算出部と、を有
し、
前記制御装置は、
前記下糸張力算出部により算出された前記下糸の張力に基づいて、前記下糸張力調整装置に制御指令を出力する下糸張力制御部と、
前記上糸張力センサの検出データに基づいて、前記上糸張力調整装置に制御指令を出力する上糸張力制御部と、を有する、
ミシン。
【請求項2】
前記下糸の量は、前記ボビンに巻かれている前記下糸の最大径を含む、
請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記演算装置は、
前記縫い速度と前記ボビンの回転速度と前記下糸の最大径との関係を示す第1相関データを記憶する第1記憶部と、
前記下糸の最大径と前記下糸の張力との関係を示す第2相関データを記憶する第2記憶部と、を有し、
前記下糸量推測部は、前記第1相関データに基づいて、前記下糸の最大径を推測し、
前記下糸張力算出部は、前記第2相関データに基づいて、前記下糸の張力を算出する、
請求項2に記載のミシン。
【請求項4】
前記制御装置は、前記上糸張力センサにより検出された前記上糸の張力と、下糸張力算出部により算出された前記下糸の張力に基づいて、縫い目の状態を判定する縫い目判定部を有し、
前記縫い目判定部により前記縫い目の状態が不適切であると判定された場合、前記上糸及び前記下糸の少なくとも一方の張力を調整するための制御指令を出力する、
請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載のミシン。
【請求項5】
前記下糸張力調整装置は、前記ボビンケースを介して前記ボビンに与える磁力を変更する、
請求項
1から請求項
4のいずれか一項に記載のミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
ミシンに係る技術分野において、特許文献1に開示されているような、上糸張力調整装置及び下糸張力調整装置を備えるミシンが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
下糸の張力を検出することできれば、下糸の張力の検出データに基づいて、下糸の張力を高精度に調整することができる。しかし、下糸の張力を検出するセンサをミシンに設置することは困難である。
【0005】
本発明の態様は、下糸の張力を取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に従えば、針棒に保持され、上糸を保持して往復移動する縫い針と、ボビンケースに収容され下糸が巻かれたボビンを保持し、前記縫い針と協働して縫い目を形成する釜と、前記ボビンの回転速度を検出する回転センサと、演算装置と、を備え、前記演算装置は、縫い速度を算出する縫い速度算出部と、前記縫い速度と前記ボビンの回転速度とに基づいて、前記ボビンに巻かれている下糸の量を推測する下糸量推測部と、前記下糸量推測部により推測された前記下糸の量に基づいて、前記下糸の張力を算出する下糸張力算出部と、を有する、ミシンが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の態様によれば、下糸の張力を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るミシンを模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係るボビン及びボビンケースを示す分解斜視図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係るボビン、ボビンケース、及び磁力部材を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る下糸張力調整装置の第1例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る下糸張力調整装置の第2例を示す模式図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係るミシンを示す機能ブロック図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係る下糸の最大径とボビンの回転速度との関係を説明するための模式図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態に係るミシンの制御方法を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、第1実施形態に係る縫い目を示す模式図である。
【
図10】
図10は、第1実施形態に係る縫い目を示す模式図である。
【
図11】
図11は、第1実施形態に係るコンピュータシステムを示すブロック図である。
【
図12】
図12は、第2実施形態に係るミシンを模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下で説明する実施形態の構成要素は適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
【0010】
[第1実施形態]
第1実施形態について説明する。本実施形態においては、ミシン1に規定されたローカル座標系に基づいて各部の位置関係について説明する。ローカル座標系は、XYZ直交座標系により規定される。所定面内のX軸と平行な方向をX軸方向とする。X軸と直交する所定面内のY軸と平行な方向をY軸方向とする。所定面と直交するZ軸と平行な方向をZ軸方向とする。X軸を中心とする回転方向をθX方向とする。所定面は水平面と平行である。Z軸方向は上下方向である。+Z方向は上方向であり-Z方向は下方向である。なお、所定面が水平面に対して傾斜してもよい。
【0011】
<ミシン>
図1は、本実施形態に係るミシン1の一例を模式的に示す斜視図である。
図1に示すように、ミシン1は、ミシン本体10と、上糸供給装置20と、下糸供給装置30と、モータ50と、コンピュータシステム100とを備える。コンピュータシステム100は、演算装置70及び制御装置80を含む。ミシン1は、上糸供給装置20から供給される上糸3と下糸供給装置30から供給される下糸4とによって縫製対象物2を縫製する。上糸3及び下糸4により、縫製対象物2に縫い目5が形成される。
【0012】
縫製対象物2として、布又は皮が例示される。
【0013】
ミシン本体10は、ミシンヘッド11と、針板12と、押え部材13とを有する。
【0014】
ミシンヘッド11は、押え部材13、上糸供給装置20、及びモータ50を支持する。
【0015】
針板12は、縫製対象物2の裏面を下方から支持する。針板12には、縫製対象物2を+Y方向へ移動させるための送り歯(不図示)が設けられる。
【0016】
押え部材13は、縫製対象物2を上方から押さえる。押え部材13は、ミシンヘッド11に支持される。押え部材13は、針板12の上方に配置され、縫製対象物2の表面と接触する。押え部材13は、針板12との間で縫製対象物2を保持する。
【0017】
上糸供給装置20は、縫い針21と、針棒22と、天秤23と、上糸張力調整装置24と、プーリ25とを有する。縫い針21、針棒22、天秤23、上糸張力調整装置24、及びプーリ25のそれぞれは、上糸3が通過する経路に配置される。
【0018】
針棒22は、縫い針21を保持してZ軸方向に往復移動する。針棒22は、縫い針21とZ軸とが平行になるように縫い針21を保持する。針棒22は、ミシンヘッド11に支持される。針棒22は、針板12の上方に配置され、縫製対象物2の表面と対向可能である。
【0019】
縫い針21に上糸3が掛けられる。縫い針21は、上糸3が通過する糸通し孔を有する。縫い針21は、糸通し孔の内面で上糸3を保持する。縫い針21は、針棒22に保持され、上糸3を保持してZ軸方向に往復移動する。針棒22がZ軸方向に往復移動することにより、縫い針21は、上糸3を保持した状態でZ軸方向に往復移動する。
【0020】
天秤23は、縫い針21に上糸3を供給する。天秤23は、ミシンヘッド11に支持される。天秤23は、上糸3が通過する天秤孔を有する。天秤23は、天秤孔の内面で上糸3を保持する。天秤23は、針棒22に連動して、上糸3を保持した状態でZ軸方向に往復移動する。天秤23は、Z軸方向に往復移動することで、上糸3を繰り出したり引き上げたりする。
【0021】
上糸張力調整装置24は、上糸3の張力を調整する。上糸張力調整装置24は、上糸3に張力を付与する上糸調子器を含む。上糸張力調整装置24は、ミシンヘッド11に支持される。上糸供給源から上糸張力調整装置24に上糸3が供給される。上糸3が通過する経路において、縫い針21よりも上糸供給源に近い上流側に天秤23が配置され、天秤23よりも上流側に上糸張力調整装置24が配置される。上糸張力調整装置24は、天秤23を介して縫い針21に供給される上糸3の張力を調整する。
【0022】
プーリ25は、縫い針21に供給される上糸3の移動に併せて回転する。
【0023】
下糸供給装置30は、釜31と、ボビンケース41と、ボビン36と、下糸張力調整装置40とを有する。
【0024】
釜31は、ボビンケース41に収容されたボビン36を保持する。釜31は、針板12の下方に配置される。釜31から下糸4が供給される。
【0025】
下糸張力調整装置40は、ボビンケース41を介してボビン36に磁力を与える磁力部材46と、ボビン36に与える磁力を変更する磁力変更部48とを有する。下糸張力調整装置40は、ボビン36に与える磁力を変更することによって、下糸4の張力を調整する。
【0026】
モータ50は、針棒22を往復移動させ、天秤23を往復移動させ、送り歯を往復移動させ、釜31を回動させる動力を発生する。モータ50は、ミシンヘッド11に支持されるステータと、ステータに回転可能に支持されるロータとを有する。ロータが回転することにより、モータ50は動力を発生する。モータ50で発生した動力は、動力伝達機構(不図示)を介して、針棒22、天秤23、送り歯、及び釜31のそれぞれに伝達される。針棒22と天秤23と送り歯と釜31とは連動する。モータ50で発生した動力が針棒22に伝達されることにより、針棒22及び針棒22に保持されている縫い針21は、Z軸方向に往復移動する。モータ50で発生した動力が天秤23に伝達されることにより、天秤23は、針棒22に連動してZ軸方向に往復移動する。モータ50で発生した動力が送り歯に伝達されることにより、送り歯は、針棒22及び天秤23に連動してY軸方向に往復移動する。モータ50で発生した動力が釜31に伝達されることにより、釜31は、針棒22及び天秤23に連動してθX方向に回動する。ミシン1は、針棒22に保持されている縫い針21と釜31との協働により縫製対象物2を縫製する。
【0027】
以下の説明においては、ロータが回転することを、モータ50が回転する、という。縫い針21は、モータ50の回転により往復移動する。天秤23は、モータ50の回転により縫い針21に連動して往復移動する。送り歯は、モータ50の回転により縫い針21に連動して往復移動する。釜31は、モータ50の回転により縫い針21及び天秤23に連動して回動する。
【0028】
上糸供給源から供給されプーリ25に掛けられた上糸3は、上糸張力調整装置24に掛けられた後、天秤23を経由して、縫い針21に掛けられる。針板12は、針棒22及び針棒22に保持されている縫い針21と対向する。針板12は、縫い針21の直下の縫製位置において縫製対象物2を支持する。縫製位置において縫製対象物2の縫製処理が実行される。
【0029】
針板12は、縫い針21が通過可能な針孔を有する。モータ50が回転し、針棒22が下降すると、針棒22に保持されている縫い針21が縫製対象物2を貫通し、針板12に設けられている針孔を通過する。縫い針21が針板12の針孔を通過すると、縫い針21に掛けられている上糸3に釜31から供給された下糸4が掛けられる。上糸3に下糸4が掛けられた状態で、縫い針21が上昇して、縫製対象物2から退去する。縫い針21が縫製対象物2を貫通しているとき、縫製対象物2は停止する。縫い針21が縫製対象物2から退去したとき、縫製対象物2は送り歯により+Y方向に移動する。ミシン1は、縫製対象物2の+Y方向の移動と停止とを繰り返しながら縫い針21を往復移動させて、縫製対象物2に縫い目5を形成する。縫製対象物2に形成された縫い目5は、Y軸方向に延在する。
【0030】
ミシン1は、センサシステム60を備える。センサシステム60は、上糸3の消費量を検出する上糸消費量センサ61と、上糸3の張力を検出する上糸張力センサ62と、縫製対象物2の移動量を検出する移動量センサ63と、縫製対象物2の厚みを検出する厚みセンサ64と、ボビン36の回転速度を検出する回転センサ65とを有する。
【0031】
上糸消費量センサ61は、縫い目5の形成のために消費される上糸3の消費量を検出する。上糸消費量センサ61として、プーリ25の回転数を検出するエンコーダが例示される。プーリ25は、縫い針21に供給される上糸3の移動に併せて回転する。上糸消費量センサ61は、プーリ25の回転数を検出することにより、上糸3の消費量を検出する。なお、上糸消費量センサ61は、上糸3の消費量を検出することができればよく、エンコーダに限定されない。
【0032】
上糸張力センサ62は、縫い針21に掛けられる上糸3の張力を検出する。上糸張力センサ62として、歪ゲージ又は圧電素子が例示される。上糸張力センサ62は、上糸3が通過する経路において、天秤23と縫い針21との間に配置される。上糸張力センサ62は、天秤23と縫い針21との間において上糸3の張力を検出する。なお、上糸張力センサ62は、上糸3の張力を検出することができればよく、歪みゲージ又は圧電素子に限定されない。
【0033】
移動量センサ63は、縫製処理において送り歯により+Y方向に移動される縫製対象物2の移動距離を示す移動量を検出する。移動量センサ63として、針板12の下方に配置される光学センサが例示される。移動量センサ63は、針板12の一部に設けられた透過窓を介して、針板12の上方を移動する縫製対象物2に検出光を照射する。移動量センサ63は、縫製対象物2に照射され、縫製対象物2で反射した検出光を受光することによって、縫製対象物2の移動量を検出する。なお、移動量センサ63は、縫製対象物2の移動量を検出することができればよく、光学センサに限定されない。
【0034】
厚みセンサ64は、縫製処理される縫製対象物2の厚みを検出する。厚みセンサ64として、Z軸方向における押え部材13の位置を検出する位置センサが例示される。縫製処理において、縫製対象物2は、針板12と押え部材13との間に挟まれる。縫製対象物2の厚みが厚い場合、押え部材13は+Z方向に変位する。縫製対象物2の厚みが薄い場合、押え部材13は-Z方向に変位する。厚みセンサ64は、針板12との間で縫製対象物2を挟む押え部材13の位置を検出することによって、縫製対象物2の厚みを検出する。なお、厚みセンサ64は、縫製対象物2の厚みを検出することができればよく、位置センサに限定されない。
【0035】
回転センサ65は、縫製処理において回転するボビン36の単位時間当たりの回転数を示す回転速度を検出する。回転センサ65として、針板12の下方に配置される光学センサが例示される。回転センサ65は、ボビン36の少なくとも一部に検出光を照射する。回転センサ65は、ボビン36に照射され、ボビン36で反射した検出光を受光することによって、ボビン36の回転速度を検出する。なお、回転センサ65は、ボビン36の回転速度を検出することができればよく、光学センサに限定されない。
【0036】
<下糸供給装置>
次に、下糸供給装置30について説明する。
図1には、下糸供給装置30の分解斜視図が示されている。
図2は、本実施形態に係るボビン36及びボビンケース41の一例を示す分解斜視図である。
図3は、本実施形態に係るボビン36、ボビンケース41、及び磁力部材46の一例を示す斜視図である。
【0037】
釜31は、ボビンケース41及びボビンケース41に収容されたボビン36を保持する。ボビン36に下糸4が巻かれる。釜31は、縫い針21と協働して縫い目5を形成する。本実施形態において、釜31は、全回転釜である。釜31は、外釜32と、内釜33と、回り止め部材34とを有する。
【0038】
外釜32は、針板12の下方に配置される。外釜32の位置は固定される。外釜32は、-X方向に開口する外釜口を有する。内釜33は、外釜口を介して外釜32の内部に挿入される。外釜32は、外釜32よりも+X方向に設けられた釜軸に固定される。釜軸が回転することにより、外釜32は、θX方向に回動する。
【0039】
外釜32は、縫い針21から上糸3のループをすくい取る剣先を有する。外釜32の剣先ですくい取られた上糸3のループとボビン36から供給される下糸4とが絡むことによって、縫い目5が形成される。
【0040】
内釜33は、外釜32の内部に配置される。内釜33は、-X方向に開口する内釜口を有する。ボビン36及びボビンケース41は、内釜口を介して内釜33の内部に挿入される。内釜33は、ボビン36及びボビンケース41を支持する支軸332を有する。支軸332は、非磁性である。内釜33の内部に挿入されたボビン36及びボビンケース41は、支軸332に支持される。
【0041】
回り止め部材34は、Y軸方向に延伸する部材である。回り止め部材34の-Y側の端部は、例えばミシンヘッド11の下部に固定される。回り止め部材34の+Y側の端部に凸部341が設けられる。凸部341は、+Z方向に突出する。
【0042】
内釜33は、凹部331を有する。凹部331は、内釜33の上部に設けられる。回り止め部材34の凸部341は、内釜33の凹部331に嵌る。凸部341が凹部331に嵌ることにより、内釜33の回動が阻止される。回り止め部材34により、外釜32が回動しても、内釜33は回動しない。
【0043】
ボビン36は、釜31への下糸供給源である。
図1及び
図2に示すように、ボビン36は、円筒部37と、釜側フランジ部38と、正面側フランジ部39とを有する。
【0044】
釜側フランジ部38は、円筒部37の+X側の端部に接続される。正面側フランジ部39は、円筒部37の-X側の端部に接続される。下糸4は、釜側フランジ部38と正面側フランジ部39との間において円筒部37に巻かれる。ボビン36は、θX方向に回転することによって、下糸4を巻き出す。
【0045】
正面側フランジ部39は、磁性を有する。すなわち、正面側フランジ部39は、磁性材料で形成されている。円筒部37及び釜側フランジ部38は、磁性を有してもよいし磁性を有しなくてもよい。
【0046】
下糸張力調整装置40は、ボビンケース41と、ボビンケース41を介してボビン36に磁力を与える磁力部材46と、磁力部材46を支持する磁力部材支持部47と、ボビン36に与える磁力を変更する磁力変更部48とを有する。下糸張力調整装置40は、ボビンケース41を介してボビン36に与える磁力を変更することによって、下糸4の張力を調整する。
【0047】
ボビンケース41は、下糸4が巻かれたボビン36を収容する。ボビンケース41は、非磁性のカバー部42を有する。カバー部42は、ボビン36の正面側フランジ部39と対向する正面側部分43と、ボビン36の周囲に配置される側壁部分44とを有する。
【0048】
正面側部分43は、+X側に突出する軸円筒部431を有する。軸円筒部431は、ボビン36の円筒部37に挿入される。また、軸円筒部431の内側には、内釜33の支軸332が挿入される。ボビン36は、軸円筒部431に回転可能に支持される。
【0049】
図1に示すように、正面側部分43は、軸円筒部431に挿入された支軸332を保持するラッチレバー45を有する。ラッチレバー45は、支軸332が挿入される開口を有する。支軸332の先端部がラッチレバー45の開口に挿入され、ラッチレバー45の開口の内縁が支軸332に設けられている溝に嵌ることにより、ボビンケース41が支軸332から脱落することが抑制される。
【0050】
図2及び
図3に示すように、側壁部分44は、縫い針21の挿入を受け付ける縫い針受付領域441と、スリット442とを有する。縫い針受付領域441は、側壁部分44に設けられた空隙である。スリット442は、-X側の端部に糸繰り出し穴443を有する。下糸4は、スリット442に挿入される。スリット442は、挿入された下糸4を糸繰り出し穴443に導く。糸繰り出し穴443は、下糸4をボビンケース41の内側から外側に向けて繰り出す。
【0051】
板ばね447が側壁部分44に配置される。板ばね447は、スリット442の-X側の部分を覆うように配置される。板ばね447は、ボビンケース41の外部に導出された下糸4を保持する導出部448を有する。導出部448は、板ばね447の先端部に設けられた凹部を含む。導出部448よりも板ばね447の先端側に爪片449が設けられる。爪片449は、導出部448に導出された下糸4が板ばね447から外れることを抑制する。糸繰り出し穴443から繰りだされた下糸4は、側壁部分44に沿いながら板ばね447の下方を通過した後、導出部448に保持される。
【0052】
磁力部材46は、ボビンケース41の-X側に配置される。磁力部材46は、ボビンケース41を介してボビン36に磁力を与える。磁力部材46は、非磁性のボビンケース41を介して、磁性を有するボビン36の正面側フランジ部39を磁力で吸引する。磁力部材46は、磁力部材支持部47に支持される。磁力部材46がボビン36に与える磁力は、磁力変更部48により変更される。
【0053】
図4は、本実施形態に係る下糸張力調整装置40の第1例を示す模式図である。
図5は、本実施形態に係る下糸張力調整装置40の第2例を示す模式図である。
図4及び
図5は、
図3のA-A線矢視断面図に相当する。なお、
図4及び
図5では、下糸4及び磁力部材支持部47を省略している。
【0054】
図4に示すように、第1例に係る下糸張力調整装置40において、磁力部材46は、磁石46-1であり、磁力変更部48は、正面側フランジ部39と磁石46-1との距離を調整する駆動部48-1である。駆動部48-1は、磁石46-1をX軸方向に移動して、正面側フランジ部39と磁石46-1との距離を調整する。
【0055】
図4(A)に示すように、駆動部48-1により磁石46-1が正面側フランジ部39に接近すると、磁石46-1が正面側フランジ部39を吸引する吸引力が上昇する。これにより、正面側フランジ部39がボビンケース41の正面側部分43に押し付けられる力が増大し、正面側フランジ部39と正面側部分43との間に発生する摩擦力が上昇する。正面側フランジ部39と正面側部分43との間に発生する摩擦力が上昇することにより、ボビンケース41の内部におけるボビン36の回転抵抗が上昇する。ボビン36の回転抵抗が上昇すると、ボビン36から釜31に供給される下糸4に作用する引っ張り力が増大するため、下糸4の張力が高くなる。
【0056】
図4(B)に示すように、駆動部48-1により磁石46-1が正面側フランジ部39から離れると、磁石46-1が正面側フランジ部39を吸引する吸引力が下降する。これにより、正面側フランジ部39がボビンケース41の正面側部分43に押し付けられる力が減少し、正面側フランジ部39と正面側部分43との間に発生する摩擦力が下降する。正面側フランジ部39と正面側部分43との間に発生する摩擦力が下降することにより、ボビンケース41の内部におけるボビン36の回転抵抗が下降する。ボビン36の回転抵抗が下降すると、ボビン36から釜31に供給される下糸4に作用する引っ張り力が減少するため、下糸4の張力が低くなる。
【0057】
図5に示すように、第2例に係る下糸張力調整装置40において、磁力部材46は、電磁石46-2であり、磁力変更部48は、電磁石46-2に印加する電流を変更する電源部48-2である。
【0058】
図5(A)に示すように、電源部48-2により電磁石46-2に印加される電流が増加すると、電磁石46-2が正面側フランジ部39を吸引する吸引力が上昇する。これにより、正面側フランジ部39がボビンケース41の正面側部分43に押し付けられる力が増大する。そのため、第1例と同様のメカニズムにより、下糸4の張力が高くなる。
【0059】
図5(B)に示すように、電源部48-2により電磁石46-2に印加される電流が減少すると、電磁石46-2が正面側フランジ部39を吸引する吸引力が下降する。これにより、正面側フランジ部39がボビンケース41の正面側部分43に押し付けられる力が減少する。そのため、第1例と同様のメカニズムにより、下糸4の張力が低くなる。
【0060】
なお、磁力部材46が正面側フランジ部39を磁力で吸引することにより、ボビン36の回転抵抗が増大する。そのため、ミシン1が駆動状態から停止状態に遷移したとき、又はミシン1の駆動状態において下糸4が切断したとき、磁力部材46の磁力により、ボビン36の空回りが抑制される。
【0061】
<演算装置及び制御装置>
図6は、本実施形態に係るミシン1の一例を示す機能ブロック図である。ミシン1は、上糸消費量センサ61、上糸張力センサ62、移動量センサ63、厚みセンサ64、及び回転センサ65を含むセンサシステム60と、演算装置70と、制御装置80と、モータ50と、上糸張力調整装置24と、下糸張力調整装置40と、操作装置90とを有する。
【0062】
操作装置90は、ミシン1を操作する作業者により操作される。操作装置90は、例えば作業者の足で操作される操作ペダルを含む。操作装置90は、作業者により操作されることにより操作データを生成する。操作装置90が操作されることにより、モータ50が始動又は停止する。また、操作装置90が操作されることにより、モータ50の回転速度が調整される。
【0063】
演算装置70は、データ取得部71と、縫い速度算出部72と、下糸量推測部73と、下糸張力算出部74と、第1記憶部75と、第2記憶部76とを有する。
【0064】
制御装置80は、データ取得部81と、モータ制御部82と、上糸張力制御部83と、下糸張力制御部84と、縫い目判定部85とを有する。
【0065】
データ取得部71は、センサシステム60の検出データを取得する。センサシステム60の検出データは、上糸消費量センサ61の検出データ、上糸張力センサ62の検出データ、移動量センサ63の検出データ、厚みセンサ64の検出データ、及び回転センサ65の検出データを含む。
【0066】
縫い速度算出部72は、針数とモータ50の駆動状態とに基づいて、縫い速度を算出する。針数とは、縫製処理において往復移動する針棒22の往復回数をいい、縫い目5の数に相当する。縫い速度[sti/min]とは、単位時間当たりの針数をいう。モータ50の駆動状態は、モータ50の単位時間当たりの回転数を示すモータ50の回転速度を含む。モータ50の回転速度は、モータ制御部82からモータ50に出力される制御指令により規定される。データ取得部71は、モータ制御部82から出力される制御指令を取得する。針数とモータ50の回転速度との関係を示す相関データは、例えばモータ50と針棒22との間の動力伝達機構の構造により一義的に定められ、第1記憶部75に記憶される。縫い速度算出部72は、第1記憶部75に記憶されている相関データとデータ取得部71により取得されたモータ50の駆動状態に基づいて、縫い速度を算出する。
【0067】
下糸量推測部73は、縫い速度とボビン36の回転速度とに基づいて、ボビン36に巻かれている下糸4の量を推測する。縫い速度は、縫い速度算出部72により算出される。ボビン36の回転速度は、回転センサ65により検出される。下糸量推測部73は、縫い速度算出部72から縫い速度を取得し、データ取得部71からボビン36の回転速度を取得する。
【0068】
ボビン36に巻かれている下糸4の量は、ボビン36に巻かれている下糸4の最大径Dmを含む。
【0069】
第1記憶部75は、縫い速度とボビン36の回転速度と下糸4の最大径Dmとの関係を示す第1相関データを記憶する。第1相関データは、予備実験又はシミュレーションにより導出され、第1記憶部75に予め記憶される。
【0070】
下糸量推測部73は、縫い速度算出部72から取得した縫い速度と、回転センサ65により検出されたボビン36の回転速度と、第1記憶部75に記憶されている第1相関データとに基づいて、ボビン36に巻かれている下糸4の最大径Dmを推測する。
【0071】
図7は、本実施形態に係る下糸4の最大径Dmとボビン36の回転速度との関係を説明するための模式図である。
図7(A)に示すように、ボビン36に多量の下糸4が巻かれている状態においては、ボビン36に巻かれている下糸4の最大径Dmは大きい。
図7(B)に示すように、ボビン36に少量の下糸4が巻かれている状態においては、ボビン36に巻かれている下糸4の最大径Dmは小さい。
【0072】
針棒22と天秤23とボビン36を保持する釜31とは連動する。モータ50が高速で回転し、縫い速度が高くなると、ボビン36の回転速度も高くなる。モータ50が低速で回転し、縫い速度が低くなると、ボビン36の回転速度も低くなる。モータ50がある回転速度で回転した場合、最大径Dmが小さいほど、ボビン36の回転速度は高くなり、最大径Dmが大きいほど、ボビン36の回転速度は低くなる。
【0073】
第1記憶部75には、縫い速度とボビン36の回転速度と下糸4の最大径Dmとの関係を示す第1相関データが記憶されている。そのため、縫い速度算出部72により縫い速度が算出され、回転センサ65によりボビン36の回転速度が検出されることにより、下糸量推測部73は、第1相関データに基づいて、ボビン36に巻かれている下糸4の最大径Dmを推測することができる。
【0074】
下糸張力算出部74は、下糸量推測部73により推測された下糸4の量に基づいて、下糸4の張力を算出する。下糸張力算出部74は、ボビン36に巻かれている下糸4の最大径Dmに基づいて、下糸4の張力を算出する。
【0075】
第2記憶部76は、下糸張力調整装置40が初期状態のときの、ボビン36に巻かれている下糸4の最大径Dmと下糸4の張力との関係を示す第2相関データを記憶する。第2相関データは、予備実験又はシミュレーションにより導出され、第2記憶部76に予め記憶される。なお、下糸張力調整装置40の初期状態とは、磁力変更部48によりボビン36に与えられている磁力が予め定められた初期値である状態をいう。
【0076】
下糸張力算出部74は、下糸量推測部73から取得した下糸4の最大径Dmと、第2記憶部76に記憶されている第2相関データとに基づいて、ボビン36から縫い針21に供給される下糸4の張力を算出する。
【0077】
下糸張力調整装置40が初期状態において、モータ50がある回転速度で回転した場合、
図7(A)に示すように、ボビン36に巻かれている下糸4の最大径Dmが大きい状態においては、下糸4の張力は低く、
図7(B)に示すように、ボビン36に巻かれている下糸4の最大径Dmが小さい状態においては、下糸4の張力は高くなる。
【0078】
第2記憶部76には、下糸張力調整装置40が初期状態のときの、ボビン36に巻かれている下糸4の最大径Dmと下糸4の張力との関係を示す第2相関データが記憶されている。そのため、下糸4の最大径Dmが推測されることにより、下糸張力算出部74は、第2相関データに基づいて、下糸4の張力を算出することができる。
【0079】
データ取得部81は、センサシステム60の検出データを取得する。また、データ取得部81は、ミシン1を操作する作業者により操作された操作装置90の操作データを取得する。操作装置90は、作業者により操作されることにより操作データを生成する。
【0080】
モータ制御部82は、操作装置90の操作データに基づいて、モータ50を制御する制御指令を出力する。
【0081】
上糸張力制御部83は、上糸3の張力を調整するための制御指令を上糸張力調整装置24に出力する。本実施形態において、上糸張力制御部83は、上糸張力センサ62の検出データに基づいて、上糸張力調整装置24に制御指令を出力する。上糸張力センサ62の検出データは、データ取得部81により取得される。上糸張力制御部83は、データ取得部81により取得された上糸張力センサ62の検出データに基づいて、上糸3の張力を調整するための制御指令を出力する。
【0082】
下糸張力制御部84は、下糸4の張力を調整するための制御指令を下糸張力調整装置40に出力する。本実施形態において、下糸張力制御部84は、下糸張力算出部74により算出された下糸4の張力に基づいて、下糸張力調整装置40に制御指令を出力する。下糸張力制御部84は、下糸張力調整装置40の磁力変更部48に制御指令を出力する。磁力変更部48は、下糸張力制御部84から出力された制御指令に基づいて、ボビン36に与える磁力を変更する。下糸張力算出部74により算出された下糸4の張力は、データ取得部81により取得される。下糸張力制御部84は、データ取得部81により取得された下糸4の張力に基づいて、下糸4の張力を調整するための制御指令を出力する。
【0083】
縫い目判定部85は、上糸張力センサ62により検出された上糸3の張力と、下糸張力算出部74により算出された下糸4の張力に基づいて、縫い目5の状態を判定する。
【0084】
縫い目判定部85により縫い目5の状態が不適切であると判定された場合、上糸張力制御部83は、上糸3の張力を調整するための制御指令を出力する。また、縫い目判定部85により縫い目5の状態が不適切であると判定された場合、下糸張力制御部84は、下糸4の張力を調整するための制御指令を出力する。
【0085】
<制御方法>
次に、ミシン1の制御方法について説明する。
図8は、本実施形態に係るミシン1の制御方法を示すフローチャートである。
【0086】
作業者により操作装置90が操作されると、モータ50が始動する。モータ50の始動により、針棒22が往復移動し釜31が回動しボビン36が回転する。縫い速度算出部72は、モータ50の駆動状態に基づいて、縫い速度を算出する(ステップS1)。
【0087】
下糸量推測部73は、ステップS1において算出された縫い速度と、回転センサ65により検出されたボビン36の回転速度と、第1記憶部75に記憶されている第1相関データとに基づいて、ボビン36に巻かれている下糸4の最大径Dmを推測する(ステップS2)。
【0088】
下糸張力算出部74は、ステップS2において推測された下糸4の最大径Dmと、第2記憶部76に記憶されている第2相関データとに基づいて、下糸4の張力を算出する(ステップS3)。
【0089】
縫い目判定部85は、上糸張力センサ62により検出された上糸3の張力と、ステップS3において算出された下糸4の張力とに基づいて、縫い目5の状態を判定する。本実施形態において、縫い目判定部85は、糸締り率が適切か否かを判定する(ステップS4)。
【0090】
糸締り率とは、上糸3の消費量と下糸4の消費量との比をいう。すなわち、上糸3の消費量をCu、下糸4の消費量をClとした場合、糸締り率は、演算[Cu/Cl]によって算出される。
【0091】
図9は、本実施形態に係る縫い目5を示す模式図である。
図9は、第1縫製対象物2Aと第2縫製対象物2Bとを含む縫製対象物2が上糸3及び下糸4により縫製された状態を示す。
【0092】
図9(A)に示すように、上糸3の消費量Cuと下糸4の消費量Clとが等しい場合、糸締り率は100[%]である。
図9(B)に示すように、上糸3の消費量Cuが下糸4の消費量Clよりも少ない場合、糸締り率は100[%]よりも小さい。
図9(C)に示すように、上糸3の消費量Cuが下糸4の消費量Clよりも多い場合、糸締り率は100[%]よりも大きい。
【0093】
糸締り率は、上糸3の張力及び下糸4の張力により決定される。上糸3の張力と下糸4の張力とが等しい場合、糸締り率は100[%]になる可能性が高い。上糸3の張力が下糸4の張力よりも高い場合、糸締り率は100[%]よりも小さくなる可能性が高い。下糸4の張力が上糸3の張力よりも高い場合、糸締り率は100[%]よりも大きくなる可能性が高い。
【0094】
本実施形態においては、糸締り率が適切な状態は、糸締り率が100[%]よりも大きい状態であることとする。したがって、ステップS4において、縫い目判定部85は、糸締り率が100[%]よりも大きいか否かを判定する。
【0095】
なお、糸締り率が適切な状態は、糸締り率が100[%]である状態でもよいし、糸締り率が100[%]よりも小さい状態でもよい。
【0096】
ステップS4において、下糸4の張力が上糸3の張力よりも高いと判定された場合、すなわち糸締り率が100[%]よりも大きいと判定された場合(ステップS4:Yes)、上糸3の張力及び下糸4の張力は変更されない。
【0097】
ステップS4において、上糸3の張力と下糸4の張力とが等しい又は上糸3の張力が下糸4の張力よりも高いと判定された場合、すなわち糸締り率が100[%]である又は糸締り率が100[%]よりも小さいと判定された場合(ステップS4:Yes)、制御装置80は、上糸3及び下糸4の少なくとも一方の張力を調整するための制御指令を出力する(ステップS5)。
【0098】
上糸3の張力と下糸4の張力とが等しい又は上糸3の張力が下糸4の張力よりも高いと判定された場合、下糸4の張力が上糸3の張力よりも高くなるように、下糸張力制御部84は、下糸張力調整装置40に、下糸4の張力を高くするための制御指令を出力する。また、上糸3の張力と下糸4の張力とが等しい又は上糸3の張力が下糸4の張力よりも高いと判定された場合、下糸4の張力が上糸3の張力よりも高くなるように、上糸張力制御部83は、上糸張力調整装置24に、上糸3の張力を低くするための制御指令を出力する。
【0099】
図10は、本実施形態に係る縫い目5を示す模式図である。上糸3の張力及び下糸4の張力が調整されることにより、縫製対象物2の締り具合が変化する。縫い目判定部85は、上糸張力センサ62により検出された上糸3の張力と、ステップS3において算出された下糸4の張力とに基づいて、縫製対象物2の締り具合が適切か否かを判定してもよい。
【0100】
<コンピュータシステム>
図11は、本実施形態に係るコンピュータシステム100を示すブロック図である。コンピュータシステム100は、上述の演算装置70及び制御装置80を含む。コンピュータシステム100は、CPU(Central Processing Unit)のようなプロセッサ101と、ROM(Read Only Memory)のような不揮発性メモリ及びRAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリを含むメインメモリ102と、ストレージ103と、入出力回路を含むインターフェース104とを有する。演算装置70の機能及び制御装置80の機能は、プログラムとしてストレージ103に記憶されている。プロセッサ101は、プログラムをストレージ103から読み出してメインメモリ102に展開し、プログラムに従って上述の処理を実行する。なお、プログラムは、ネットワークを介してコンピュータシステム100に配信されてもよい。
【0101】
プログラムは、上述の実施形態に従って、コンピュータシステム100に、モータ50の駆動状態に基づいて、縫い速度を算出することと、縫い速度とボビン36の回転速度とに基づいて、ボビン36に巻かれている下糸4の量を推測することと、推測された下糸4の量に基づいて、下糸4の張力を算出することと、を実行することができる。
【0102】
<効果>
以上説明したように、本実施形態によれば、縫い速度とボビン36の回転速度とに基づいて、ボビン36に巻かれている下糸4の量が推測される。下糸4の張力は、推測された下糸4の量に基づいて算出される。本実施形態によれば、下糸4の張力を検出するセンサがミシン1に設置されなくても、下糸4の張力を取得することができる。したがって、制御装置80は、算出された下糸4の張力に基づいて、下糸4の張力を高精度に調整することができる。
【0103】
ボビン36に巻かれている下糸4の量は、ボビン36に巻かれている下糸4の最大径Dmを含む。下糸4の最大径Dmにより、針棒22に連動するボビン36の回転速度が変化し、下糸4の張力が変化する。そのため、下糸4の最大径Dmが推測されることにより、下糸張力算出部74は、下糸4の張力を高精度に算出することができる。
【0104】
縫い速度とボビン36の回転速度と下糸4の最大径Dmとの関係を示す第1相関データが導出され、第1記憶部75に記憶される。下糸4の最大径Dmと下糸4の張力との関係を示す第2相関データが導出され、第2記憶部76に記憶される。したがって、下糸量推測部73は、第1相関データに基づいて、下糸4の最大径Dmを高精度に推測することができる。下糸張力算出部74は、第2相関データに基づいて、下糸4の張力を高精度に算出することができる。
【0105】
下糸張力算出部74により算出された下糸4の張力に基づいて、下糸張力制御部84から下糸張力調整装置40に制御指令が出力される。これにより、下糸張力制御部84は、下糸張力算出部74により算出された下糸4の張力に基づいて、下糸4の張力を高精度に調整することができる。
【0106】
上糸張力センサ62で検出された上糸3の張力に基づいて、上糸張力制御部83から上糸張力調整装置24に制御指令が出力される。これにより、上糸張力制御部83は、上糸張力センサ62により検出された上糸3の張力に基づいて、上糸3の張力を高精度に調整することができる。
【0107】
縫い目判定部85は、上糸張力センサ62により検出された上糸3の張力と、下糸張力算出部74により算出された下糸4の張力に基づいて、縫い目5の状態を判定する。縫い目5の状態は、糸締り率でもよいし縫製対象物2の締り具合でもよい。縫い目判定部85の判定結果に基づいて、上糸3及び下糸4の少なくとも一方の張力を調整するための制御指令が出力されることにより、縫製対象物2を適切に縫製することができる。
【0108】
下糸張力調整装置40は、ボビンケース41を介してボビン36に与える磁力を変更する。制御装置80は、ボビン36に与える磁力を変更するだけで、下糸4の張力を調整することができる。
【0109】
[第2実施形態]
第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同様の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0110】
図12は、本実施形態に係るミシン1の一例を模式的に示す斜視図である。上述の実施形態においては、下糸供給装置30が全回転釜である釜31を有することとした。本実施形態においては、下糸供給装置300が半回転釜である釜310を有することとする。
【0111】
図12に示すように、釜310は、大釜320と、ドライバ330と、中釜340と、中釜押え部材350とを有する。
【0112】
大釜320は、針板12の下方に配置される。大釜320の位置は固定される。大釜320の上方に板バネが設けられる。板バネは、下糸4が挿通される開口を有する。大釜320は、-X方向に開口する釜口を有する。ドライバ330及び中釜340は、釜口を介して大釜320の内部に挿入される。ドライバ330及び中釜340が大釜320の内部に挿入された後、釜口に中釜押え部材350が装着される。
【0113】
ドライバ330及び中釜340は、大釜320の内部においてθX方向に往復回動する。大釜320は、中釜340の外周面に接触する内周面を有する。
【0114】
ドライバ330は、一端部と他端部とを有する略円弧状である。ドライバ330は、大釜320の内部に配置される釜軸に固定される。釜軸がθX方向に往復回動することにより、ドライバ330がθX方向に往復回動する。
【0115】
ドライバ330が往復回動することにより、ドライバ330の一端部と他端部とは、中釜340に交互に接触する。ドライバ330と中釜340との間を上糸3が通過することにより、中釜340は、縫い針21からの上糸3のループをくぐることができる。
【0116】
中釜340は、略円弧状である。中釜340は、縫い針21から上糸3のループをすくい取る剣先を有する。中釜340は、ドライバ330よりも-X側において、ドライバ330と連結される。ドライバ330がθX方向に往復回動することにより、中釜340がθX方向に往復回動する。
【0117】
中釜340は、大釜320の内周面と接触する外周面を有する。中釜340は、大釜320の内周面と接触した状態で、θX方向に往復回動することができる。
【0118】
中釜340は、ボビン36及びボビンケース41が格納される格納部を有する。中釜340は、格納部から-X方向に突出する支軸342を有する。支軸342は、非磁性である。支軸342は、中釜340の往復回動の中心に配置される。支軸342は、ボビン36及びボビンケース41を支持する。
【0119】
中釜押え部材350は、大釜320の釜口に装着される。中釜押え部材350は、大釜320の内部に収容されたドライバ330及び中釜340がX軸方向に移動することを規制する。
【0120】
中釜押え部材350は、大釜320の釜口より小径の小開口を有する。ボビン36及びボビンケース41は、中釜押え部材350の小開口を介して、中釜340の格納部に挿入される。また、ボビン36及びボビンケース41は、中釜押え部材350の小開口を介して、中釜340の格納部から退去される。
【0121】
以上説明したように、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0122】
1…ミシン、2…縫製対象物、2A…第1縫製対象物、2B…第2縫製対象物、3…上糸、4…下糸、5…縫い目、10…ミシン本体、11…ミシンヘッド、12…針板、13…押え部材、20…上糸供給装置、21…縫い針、22…針棒、23…天秤、24…上糸張力調整装置、25…プーリ、30…下糸供給装置、31…釜、32…外釜、33…内釜、34…回り止め部材、36…ボビン、37…円筒部、38…釜側フランジ部、39…正面側フランジ部、40…下糸張力調整装置、41…ボビンケース、42…カバー部、43…正面側部分、44…側壁部分、45…ラッチレバー、46…磁力部材、46-1…磁石、46-2…電磁石、47…磁力部材支持部、48…磁力変更部、48-1…駆動部、48-2…電源部、50…モータ、60…センサシステム、61…上糸消費量センサ、62…上糸張力センサ、63…移動量センサ、64…厚みセンサ、65…回転センサ、70…演算装置、71…データ取得部、72…縫い速度算出部、73…下糸量推測部、74…下糸張力算出部、75…第1記憶部、76…第2記憶部、80…制御装置、81…データ取得部、82…モータ制御部、83…上糸張力制御部、84…下糸張力制御部、85…縫い目判定部、90…操作装置、100…コンピュータシステム、101…プロセッサ、102…メインメモリ、103…ストレージ、104…インターフェース、331…凹部、332…支軸、341…凸部、342…支軸、431…軸円筒部、441…縫い針受付領域、442…スリット、443…糸繰り出し穴、447…板ばね、448…導出部、449…爪片。