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特許7316085二酸化炭素の還元体回収システムおよび該システムを用いた有用炭素資源の製造方法
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  • 特許-二酸化炭素の還元体回収システムおよび該システムを用いた有用炭素資源の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】二酸化炭素の還元体回収システムおよび該システムを用いた有用炭素資源の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 3/26 20210101AFI20230720BHJP
   C25B 15/02 20210101ALI20230720BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20230720BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20230720BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20230720BHJP
【FI】
C25B3/26
C25B15/02
C25B11/081
C25B15/08 302
C25B9/23
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019083728
(22)【出願日】2019-04-25
(65)【公開番号】P2019203193
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2018094388
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【上記1名の代理人】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】梅田 実
(72)【発明者】
【氏名】松田 翔風
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋
(72)【発明者】
【氏名】海下 一徳
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203163(JP,A)
【文献】特開平08-296077(JP,A)
【文献】特開2013-256679(JP,A)
【文献】特開2015-054994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質を間に介して配置されたカソードおよびアノードを有する反応部と、
前記カソードに接続され、前記カソードに対して二酸化炭素を含有するガスを供給するカソード反応基質供給部と、
前記アノードに接続され、前記アノードに対して酸化反応する物質を供給するアノード反応基質供給部と、
前記カソードおよびアノードに、直流電源および交流電源を接続する配線と、前記カソードおよびアノードに、直流電圧および交流電圧を印加するシステムと、を備え
前記カソードおよびアノードに印加する直流電圧(V )が、動作温度での標準水素電極電位(NHE)に対して-1V~+1Vであって、前記カソードおよびアノードに印加する交流電圧のピーク間電位差(V p-p )が1mV~0.3Vであって、前記交流電圧の周波数が0.01Hz~10kHzであることによって、前記カソードまたはアノードの表面に吸着する物質を脱離する機能を有することを特徴とする、二酸化炭素還元体回収システム。
【請求項2】
電解質を間に介して配置されたカソードおよびアノードを有する反応部と、
前記カソードに接続され、前記カソードに対して二酸化炭素を含有するガスを供給するカソード反応基質供給部と、
前記アノードに接続され、前記アノードに対して酸化反応する物質を供給するアノード反応基質供給部と、
前記カソードおよびアノードに、直流電源および交流電源を接続する配線と、前記カソードおよびアノードに、直流電圧および交流電圧を印加するシステムと、を備え、
前記カソードに対して二酸化炭素を含有するガスを供給するカソード反応基質供給部において、二酸化炭素の分圧が1%~70%である二酸化炭素還元体回収システム。
【請求項3】
前記カソードおよびアノードに印加する直流電圧(V )が、動作温度での標準水素電極電位(NHE)に対して-1V~+1Vであって、前記カソードおよびアノードに印加する交流電圧のピーク間電位差(V p-p )が1mV~0.3Vであって、前記交流電圧の周波数が0.01Hz~10kHzであることによって、前記カソードまたはアノードの表面に吸着する物質を脱離する機能を有する、請求項2に記載の二酸化炭素還元体回収システム。
【請求項4】
前記カソードまたはアノードの表面に吸着する物質が、前記カソードまたはアノードでの還元反応または酸化反応により生成するカチオン、アニオンまたは中性の物質である、請求項1または請求項3に記載の二酸化炭素還元体回収システム。
【請求項5】
前記交流電圧が、直流電圧、交流電圧もしくはパルス電圧からなる電気信号、または、これらの電気信号の2種以上を組み合わせたものであって、前記交流電圧の周波数およびピーク間電位差(Vp-p)が、次の(a)~(d)で表される条件:
(a)周波数およびピーク間電位差(Vp-p)が一定、
(b)周波数が不規則に変化し、ピーク間電位差(Vp-p)が不規則に変化、
(c)周波数が一定、ピーク間電位差(Vp-p)が不規則に変化、
(d)周波数が不規則に変化し、ピーク間電位差(Vp-p)が一定、
のいずれかの電気信号である、請求項1または請求項3に記載の二酸化炭素還元体回収システム。
【請求項6】
前記電解質が、カチオンを輸送できる固体電解質膜、アニオンを輸送できる固体電解質膜、または、カチオンもしくはアニオンを輸送できる液体の少なくともいずれか1種である、請求項1または請求項2に記載の二酸化炭素還元体回収システム。
【請求項7】
前記カソードおよびアノードが、触媒材料と、導電性を有する材料と、カチオンまたはアニオンを輸送できる固体電解質と、を含み、前記触媒材料が、白金、金、パラジウム、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、ロジウム、ニッケル、鉄、銅、コバルト、銀からなる群より選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の二酸化炭素還元体回収システム。
【請求項8】
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の二酸化炭素還元体回収システムを用いた有用炭素資源の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の還元体回収システムおよび該システムを用いた有用炭素資源の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策として、二酸化炭素(CO)の大気中への排出量の削減や、排出COの再利用のための技術が必要とされており、そのうちCO固定化技術は、排ガスなどからCOを分離回収し、化学的に他の物質に転換し有効利用する方法として、盛んに開発されている。具体的には、光触媒反応や、熱による水素との反応、溶融塩などを用いた還元反応を用いるものなどが考案されている(特許文献1~3など)が、これらの方法には、必要な電気や熱エネルギーなどの外部エネルギーのコスト削減の課題がある。
【0003】
また、従来技術のCOと水素を用いたカソード/アノード燃料電池反応では、銅(Cu)電極などを用いると大きな過電圧を必要としたが、最小限の外部エネルギー付与でCO還元反応を起こさせることにより、炭素資源のリサイクルが可能な電解システムが提案されている(たとえば特許文献4~6など)。しかしながら、この方法では、二酸化炭素還元体が白金などの触媒を含有する電極上に強く吸着してしまうことにより、還元反応の抑制が起こりうるため、効率良く二酸化炭素還元体を回収する技術の開発が課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-88753号公報
【文献】特開2004-63361号公報
【文献】特開2010-53425号公報
【文献】国際公開第2012/118065号
【文献】国際公開第2012/128148号
【文献】特開2015-54944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、二酸化炭素還元体回収の方法において、電極上に強く吸着した二酸化炭素還元体を容易に取り出す二酸化炭素還元体回収システム、および該システムを用いた有用炭素資源の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意研究した結果、触媒層を設けた膜電極接合体を有する反応部のカソード側に、還元反応する二酸化炭素(CO)を供給し、アノード側に水素ガスや水を含む液体など酸化反応する物質を供給して、反応中にCOを還元するに際し、電極への直流電圧印加(COの還元電位付近を保持)に加えて、周期的に変化させた交流電圧をさらに印加することによって、白金などの触媒を含有する電極上に強く吸着したCO還元体を連続的に回収することが可能であることを見出した。すなわち本発明は、以下の内容で構成されている。
【0007】
1.電解質を間に介して配置されたカソードおよびアノードを有する反応部と、
前記カソードに接続され、前記カソードに対して二酸化炭素を含有するガスを供給するカソード反応基質供給部と、
前記アノードに接続され、前記アノードに対して酸化反応する物質を供給するアノード反応基質供給部と、
前記カソードおよびアノードに、直流電源および交流電源を接続する配線と、前記カソードおよびアノードに、直流電圧および交流電圧を印加するシステムと、を備えることを特徴とする、二酸化炭素還元体回収システム。
【0008】
2.前記カソードまたはアノードの表面に吸着する物質が、前記カソードまたはアノードでの還元反応または酸化反応により生成するカチオン、アニオンまたは中性の物質である、二酸化炭素還元体回収システム。
【0009】
3.前記カソードおよびアノードに印加する直流電圧(V)が、動作温度での標準水素電極電位(NHE)に対して-1V~+1Vであって、前記カソードおよびアノードに印加する交流電圧のピーク間電位差(Vp-p)が1mV~0.3Vであって、前記交流電圧の周波数が0.01Hz~10kHzであることによって、前記カソードまたはアノードの表面に吸着する物質を脱離する機能を有する、二酸化炭素還元体回収システム。
【0010】
4.前記交流電圧が、直流電圧、交流電圧もしくはパルス電圧からなる電気信号、または、これらの電気信号の2種以上を組み合わせたものであって、前記交流電圧の周波数およびピーク間電位差(Vp-p)が、次の(a)~(d)で表される条件:
(a)周波数およびピーク間電位差(Vp-p)が一定、
(b)周波数が不規則に変化し、ピーク間電位差(Vp-p)が不規則に変化、
(c)周波数が一定、ピーク間電位差(Vp-p)が不規則に変化、
(d)周波数が不規則に変化し、ピーク間電位差(Vp-p)が一定、
のいずれかの電気信号である、二酸化炭素還元体回収システム。
【0011】
5.前記電解質が、カチオンを輸送できる固体電解質膜、アニオンを輸送できる固体電解質膜、または、カチオンもしくはアニオンを輸送できる液体の少なくともいずれか1種である、二酸化炭素還元体回収システム。
【0012】
6.前記カソードおよびアノードが、触媒材料と、導電性を有する材料と、カチオンまたはアニオンを輸送できる固体電解質と、を含み、前記触媒材料が、白金、金、パラジウム、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、ロジウム、ニッケル、鉄、銅、コバルト、銀からなる群より選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、二酸化炭素還元体回収システム。
【0013】
7.前記カソードに対して二酸化炭素を含有するガスを供給するカソード反応基質供給部において、二酸化炭素の分圧が1%~70%である、二酸化炭素還元体回収システム。
【0014】
8.前記二酸化炭素還元体回収システムを用いた有用炭素資源の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の二酸化炭素還元体回収システムによれば、二酸化炭素の還元電位において、印加した直流電圧に交流電圧をさらに印加することにより、電極表面に吸着した二酸化炭素還元体を脱離させることができるので、効率よく二酸化炭素還元体を回収することができる。さらに、本発明の二酸化炭素還元体回収システムは、固体高分子形燃料電池やリン酸形燃料電池のセルをそのまま応用できるので、新しい装置を製造する必要なく、低コストで二酸化炭素還元体を回収することができる。また、本発明の二酸化炭素還元体回収システムにより、一酸化炭素などの有用な炭素資源の材料を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の二酸化炭素還元体回収システムの説明図である。
図2図1の二酸化炭素還元体回収システムの電解部の詳細図である。
図3】実施例1の時間とm/z 15強度の測定結果の図である。
図4】実施例13の電圧印加-m/z 15強度観測の繰り返し実験の図である。
図5】実施例14、15および16の測定結果の図である。
図6】実施例17の測定結果の図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<二酸化炭素還元体回収システム>
本発明の二酸化炭素還元体回収システムについて、図1の概略図を用いて、以下に詳細に説明する。図1は本発明の二酸化炭素還元体回収システムの最低限必要な装備を概略的に示したものであり、以下の例に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、省略、置換、数値などの変更、好ましい具体例の交換などが可能である。
【0018】
本発明の二酸化炭素還元体回収システム1は、反応部と、電極反応基質供給部5および6(カソード反応基質供給部5、アノード反応基質供給部6)と、配線7と、直流電圧および交流電圧を印加するシステム8と、を備えている。反応部は、電解質2を間に介して互いに対向する電極を有している。電極は、一方にカソード3と、もう一方にアノード4で構成されている。反応部は、カソード3およびアノード4を有し、電極の表面付近を含有する部分であり、電極表面とその付近の電解質2を含有していてもよい。カソード3にはカソード反応基質供給部5が接続され、アノード4にはアノード反応基質供給部6が接続されている。カソード3とアノード4とは、配線7を介して、直流電圧および交流電圧を印加するシステム8(または電源8)と電気的に接続されている。さらに、カソード3から排出されるガスを分析するシステム(ガス分析システム)9がカソード3に接続されている。
【0019】
本発明の二酸化炭素還元体回収システム1における、電解質2、カソード3およびアノード4で構成される部分は、膜状の電解質と電極がそれぞれ互いに接合して接合体を形成することが好ましく、その形態は膜電極接合体(MEA)と呼ばれている。このMEAは、特許文献4(国際公開第2012/118065号、特許第6021074号)および特許文献5(国際公開第2012/128148号、特許第6083531号)に記載された発明を利用することができる。具体的には、特許文献4または特許文献5に記載の「二酸化炭素の還元固定化システム」に使用されている装置の一部または全部は、本発明の「還元体回収システム」に使用されている装置においても同様に使用することができる。特に指定することが無い限り、本発明の二酸化炭素還元体回収システム1における詳細については、特許文献4または特許文献5に記載されている詳細を参照することができる。
【0020】
本発明の二酸化炭素還元体回収システム1において、カソード反応気基質供給部5は、前記カソード3に接続され、前記カソード3に対して、還元反応する物質として二酸化炭素を含有するガスを供給する機能を有する。アノード反応基質供給部6は、前記アノード4に接続され、前記アノード4に対して、酸化反応する物質を含有する供給する機能を有する。ここで、カソード3またはアノード4に「接続」した状態とは、供給された物質が電極の一部または全部と接することができる状態であれば、公知のものでよく、たとえば、特許文献4または特許文献5に記載されているものがあげられる。また、「ガスを供給するカソード反応基質供給部」5または「酸化反応する物質を供給するアノード反応基質供給部」6としては、水素(H)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、窒素(N)、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、水蒸気(HO)、微粒子混入ガス、またはそれらの混合ガス;水、水溶液、有機溶媒などの液体、などを供給できる公知の装置、配管、その他の付属品が使用できる。また、電極反応気質供給部5および6には、上記の物質が移動したり貯蔵できる配管、容器を含んでいてもよい。
【0021】
本発明の二酸化炭素還元体回収システム1において、「直流電源および交流電源を接続する配線」における「接続する配線」7は、図1中の配線7と同じ意味を示す。これらの配線は電気的に抵抗が小さい材質で出来た配線を有するものでよく、たとえば、銅製の被覆された市販のケーブルなどが好ましい。また、カソード3やアノード4に目的の印加電圧、電気信号を出力できるものであれば、8で表される「電源(直流電圧および交流電圧を印加するシステム)」とカソード3およびアノード4の間に、電気抵抗が小さい材料を介していてもよく、それらの介在する物体が、5および6で表される電極反応基質供給部であってもよい。その場合、電極反応基質供給部5および6の材質は、電気抵抗の小さい金属材料などであることが好ましい。さらに、「直流電源および交流電源を接続する配線」7における「直流電源」および「交流電源」は、図1中の8で表される「電源(直流電圧および交流電圧を印加するシステム)」と同じ意味を示す。「電源」8は配線7を含んでいてもよい。これらの「電源」8は公知のものが使用でき、たとえば市販の電源装置が使用でき、出力電圧や出力電流を自由に制御できるものが好ましく、直流電圧や交流電圧を任意に出力できる一体型のものでもよく、複数の機器を接続したものでもよい。
【0022】
本発明の二酸化炭素還元体回収システム1において、「直流電圧および交流電圧を印加するシステム」8としては、具体的に、出力電流は、直流、交流ともに0~100mAで、出力電圧は、最大で±10V出力できる装置が好ましく、電流値は、少なくともpA単位で設定できるものが好ましく、市販のポテンショ/ガルバノスタットであるのがより好ましい。ただし、これらの装置の仕様は、本発明の特徴とは無関係であり、適当な直流電圧、交流電圧もしくはパルス電圧を出力できるものであれば、それらを並列または直列に複数接続することなどの方法で、自由に電気的信号を制御できるものである。交流の周波数は、数Hzの直流に限りなく近い低周波数から、50GHz程度の高周波数を印加できるものが使用可能であるが、市販の仕様の周波数領域の電源であればよい。また、本発明の二酸化炭素還元体回収システム1においては、直流電圧のみ、交流電圧のみ、またはパルス電圧のみを印加してもよく、適当にこれらの信号を組み合わせて、たとえばインピーダンスアナライザや関数発生器(ファンクションジェネレーター)など市販の装置で電源制御装置にプログラムさせることで、それぞれ周期的または不規則に強度や振幅、周波数を変化させる電気信号を印加してもよい。本発明の「電気信号を印加するシステム」とは、たとえばヒーターやモーターなどの電力を消費する電源を含有していてもよく、これらに限定されず任意の素子や電気的な装置を接続することができる。
【0023】
以上、図1を用いて説明したように、上記構成を備えた本実施形態の二酸化炭素還元体回収システム1は、触媒層を設けた膜電極接合体(MEA)を有する電解部のカソード側に対して還元反応する二酸化炭素を供給し、アノード側に水素(水、水蒸気なども含む)などの酸化反応する物質を供給し、電解部のカソードとアノードの間の印加電圧を制御し、カソードにおける二酸化炭素還元体を生成させるシステムであって、電気化学反応が起こる直流電圧が印加された状態のカソードやアノードに、たとえば周期的や不規則に変化する電圧(交流、もしくは直流+交流)を印加し、外部からのエネルギーを付与することによって、電極表面上に強く吸着した二酸化炭素還元体を電極表面から脱離させることができ、効率よくCOの還元などの電気化学反応を進行させることができる。
【0024】
ここで、本発明における「還元体」とは、カソード表面における電気化学反応において、(i)カソードから電子を受け取って還元された物質、(ii)カソード付近に移動してカソード付近の物質と反応した後の物質、のいずれも指すものとする。本発明において、カソード付近において二酸化炭素(CO)を由来とする物質が還元された物質、またはCOが還元されて電極付近の物質と反応した物質である場合、それらは「二酸化炭素(CO)還元体」と同じ意味を有する。本発明における「二酸化炭素(CO)を含有するガス」中に含まれるCO以外のガス等としては、NO、HCNなどの窒素を含有するガス化合物;硫化水素(HS)、二酸化硫黄(SO)、硫化カルボニル(COS)などの硫黄を含有するガス化合物;Cl、HClなどの塩素含有ガス、ヨウ素、臭素などのハロゲン含有ガス;空気中にPM2.5などの数100nm~数100μmの粒径の微小粒子状物質を含有するガス;などが不純物として混入しても許容される。
【0025】
本発明の二酸化炭素還元体回収システムの反応機構を以下に説明する。ここでは、二酸化炭素(CO)が電極表面付近で還元され、CO還元体として電極から脱離する反応機構を説明するが、反応機構はこれらに限定されない。
【0026】
たとえば、カソード付近における電極反応は、下記式(1)または(2)のうち、少なくとも一つを含むCOの還元反応で表される。
【0027】
CO + HO + 2e → CO + 2OH ……(1)
CO + 2H + 2e → CO + HO ……(2)
【0028】
一方、アノード付近における電極反応は、カソードに電子を供給するために、動作温度での酸化反応のオンセット電位が、同じ動作条件での前記カソードでのCOの還元反応よりも負である反応材料の酸化反応で表され、反応材料が水素の場合、下記式(3)のような水素(H)の酸化反応で表される。また、下記式(4)で表される水(HO)の酸化反応が含まれる。
【0029】
→ 2H + 2e ……(3)
2HO → O + 4H + 4e ……(4)
【0030】
なお、本発明の酸化反応は、上記の水素や水に限定されず、たとえば、水銀(Hg)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)などの金属または金属イオン;ヨウ素イオン(I)、過塩素酸イオン(ClO )などのハロゲン化物含有イオン;アルコール、キノン、炭化水素、芳香族炭化水素など有機化合物;などの酸化反応があげられる。
【0031】
このように、前記カソードまたはアノードの表面付近では、上記の還元反応または酸化反応により生成した一酸化炭素(CO)、水酸化物イオン(OH)、水(HO)などのカソード反応で生じた物質、プロトン(H)、酸素(O)などのアノード反応で生じた物質、それぞれの反応前の二酸化炭素(CO)、水素(H)、水(HO)などの中性の物質が存在しており、本発明においては、これらの物質が、カソードまたはアノードの表面に吸着する物質としてあげられる。
また、前記「二酸化炭素(CO)を含有するガス」中に含まれるCO以外のガス等、として前述した、NO、HCNなどの窒素を含有するガス化合物;硫化水素(HS)、二酸化硫黄(SO)、硫化カルボニル(COS)などの硫黄を含有するガス化合物;Cl、HClなどの塩素含有ガス、ヨウ素、臭素などのハロゲン含有ガス;空気中にPM2.5などの数100nm~数100μmの粒径の微小粒子状物質を含有するガス;これらCO以外のガス等などが還元反応または酸化反応した物質;上記のカソード反応で生じた物質、アノード反応で生じた物質、および、二酸化炭素を含有するガス中に含まれる二酸化炭素以外のガス等が、互いに結合または吸着した物質も同様に、カソードまたはアノードの表面に吸着する物質としてあげられる。
さらに、水や有機溶媒などの媒体中に微量に含まれる金属原子やその集合体、金属イオン、有機化合物および有機化合物からなるイオン、なども同様に、カソードまたはアノードの表面に吸着する物質としてあげられる。具体的には、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、鉄イオン、ニッケルイオン、金イオンなどの無機カチオン;置換または無置換のアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、アニリニウムイオンなどの有機カチオン;塩化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、ヨウ素イオンなどの無機アニオン;メタノール、エタノール、ジメチルエーテルなどのアルコール、エーテル類;アンモニア、メタン、エタン、ギ酸などその他の有機化合物;アルキル硫酸イオンなどの―SO 基、カルボキシル基(―COO)を有する有機アニオン;フラーレン類、グラフェン類、カーボンナノチューブ(CNT)、炭素繊維などのナノカーボン、それらの凝集体、それらのカチオンまたはアニオン;などがあげられる。
これらの物質の中でも、本発明におけるカソードまたはアノードの表面に吸着する物質として好ましい物質には、CO、CO還元体である一酸化炭素(CO)、プロトンがあげられる。
【0032】
本発明の二酸化炭素還元体回収システムの反応部において、カソードに二酸化炭素を含有するガスを供給し、アノードに対して酸化反応する物質として水素を供給し、前記カソードおよびアノードに、直流電圧および交流電圧を印加している間において、たとえばカソードの表面付近では、具体的に、次のような反応が促進される。
【0033】
カソード中に触媒として白金(Pt)が使用されている場合を例に示す。直流の一定電圧により酸化還元反応を開始すると、そのPt原子の周辺で、電極反応で生成したCO還元体である一酸化炭素(C=O)、プロトン(H)などが生成され、互いに反応することにより、メタン、ギ酸などの有機化合物となる反応が進行し、電極表面から発生する。理論上この一定電圧は反応を進行させるのに十分なエネルギーであるが、しかしながら、このとき、Pt原子と結合し、局所的にPt―C=OやPt―Hという状態を形成したり、または、COやHが分子の状態で吸着したままの状態になることにより、反応が進行しないことが起こりうる。このように、カソード内のPtなどの触媒原子にCOなどの二酸化炭素還元体が結合した状態について、本発明では、これらの状態を「カソードの表面に吸着した状態」とする(カソード内の触媒が被毒された状態とも表現される)。電極内にPtなどの触媒原子が含有されていれば、電極はカソードおよびアノードのどちらでもあってもよく、また、カソードまたはアノード表面に吸着した物質は、これらの状態は特に限定されず、カソードまたはアノード表面付近で、酸化反応または還元反応によって生成したカチオン、アニオンまたは中性の状態で、いかなる分子構造をとることができ、たとえば、二酸化炭素還元体としてCOとなったり、水素分子が酸化されてプロトンとなってカソードまたはアノードの表面に吸着することが起こりうる。また、これらのカソードまたはアノードの表面に吸着する物質は、カソードやアノードの電極を形成する原子と共有結合、イオン結合、ファンデルワールス力などの分子間力によって、いかなる程度の結合の状態をとることができる。
【0034】
本発明の二酸化炭素還元体回収システムにおいて、このような二酸化炭素還元体の吸着が起こり、それ以上の還元反応が進行しない場合に、直流電圧が印加された電極に交流電圧をさらに印加し、電極表面の電位を頻繁に変化させて、吸着物質周辺(還元体を含む)に外部からのエネルギーを与えることにより、二酸化炭素還元体の脱離を進行させることができる。
【0035】
本発明の二酸化炭素還元体回収システムにおいて、CO還元体の脱離を進行させることができる好ましい条件は、前記電極(カソードおよびアノード)に与える一定の「直流電圧(本発明では、この値をVで表す)」(比較的長時間の直流)の印加状態に対し、さらに交流電圧を印加して与えることである。具体的には、前記電極に印加する一定の直流電圧Vとしては、動作温度での標準水素電極電位(NHE)に対して-1V~+1Vであるのが好ましい。
【0036】
本発明の二酸化炭素還元体回収システム中の「直流電圧および交流電圧を印加するシステム」における「交流電圧」は、直流電圧、交流電圧もしくはパルス電圧からなる電気信号、または、これらの電気信号の2種以上を組み合わせたものである。一般に狭義の「交流電圧」は、正弦波、矩形波、三角波、鋸歯状波などの周期的な信号を指すが、本発明の「交流電圧」は、二酸化炭素還元体の脱離を進行させる条件の電圧条件に限り、周波数(周期)が一定である電気信号も、一定の周期(周波数)を有さない不規則な電気信号(たとえば、(比較的短時間の)直流電圧、交流電圧もしくはパルス電圧からなり、正負が周期的/不規則(ノイズ状も含む)に変化する電気信号の波など)も、いずれも含むものとする。なお、本発明においては交流電圧条件を示す値として、たとえば正弦派の交流電圧の場合、振幅の2倍に相当する、電圧ピークの最高点と最低点との高低差である「ピーク間電位差」(本発明では、Vp-pと表す)を使用する場合がある。本発明の「交流電圧」のピーク間電位差(Vp-p)は、一定であっても、不規則であってもよいものとする。したがって、本発明の二酸化炭素還元体回収システムにおける「交流電圧」の周波数およびピーク間電位差(Vp-p)については、次の(a)~(d)で表される条件:
(a)周波数およびピーク間電位差(Vp-p)が一定、
(b)周波数が不規則に変化し、ピーク間電位差(Vp-p)が不規則に変化、
(c)周波数が一定、ピーク間電位差(Vp-p)が不規則に変化、
(d)周波数が不規則に変化し、ピーク間電位差(Vp-p)が一定、
のうち、いずれかの電気信号である条件を有するものとする。
このように、本発明における「直流電圧」に印加する「交流電圧」の波形は周期的でも不規則でもよく、周期的である場合はその周波数は適宜最適な条件に変化させるのが好ましい。また、その「交流電圧」のピーク間電位差(Vp-p)が1mV~0.3Vであるのが好ましい。さらに、「交流電圧」の周波数が0.01Hz~10kHzであるのが好ましく、0.1Hz~1kHzであるのがより好ましい。このような条件を有する直流電圧および交流電圧を印加するシステムにおいては、Hや水の酸化反応を妨げない。
【0037】
本発明における「交流電圧」は、本発明に係る電気化学反応を起こさせる範囲の電位を有する電気信号を有し、その反応を保持できる電流範囲を示す電気信号であれば特に制限されない。その波形としては、正弦波、矩形波、三角波、鋸歯状波などがあげられるが、矩形波もしくは正弦波であるのが好ましい。また、直流電圧、交流電圧もしくはパルス電圧からなる電気信号、または、これらの電気信号の2種以上を組み合わせたものであって、前記交流電圧の周波数およびピーク間電位差が一定な、もしくはそれぞれ不規則に変化する電気信号であるのが好ましい。「交流電圧」の連続的な印加時間は、二酸化炭素還元体を連続的に回収できる時間であれば特に制限されないが、1秒以上であることが好ましい。本発明は上記の電気信号を有する直流電源および交流電圧の印加条件によって、前記カソードまたはアノードの電極の表面に吸着した物質を脱離する機能を促進することができる。
【0038】
カソードに供給できるガスとしては、カソードに対して還元反応するガスが好ましく、二酸化炭素(CO)を含有するガスであることが好ましい。また、アノードに供給できる物質としては、酸化反応する物質であれば制限されない。これらの物質は、たとえば、水素などのガス分子やガス状の物質を含む水溶液などの液体を噴霧したり、加熱や減圧などで気化させたガス状物質を供給する方法を採用することができる。
【0039】
電解質は、カソードとアノードの両電極間を、その電極間の電場に依存して、自由にカチオンやアニオンを輸送することができるものであれば特に制限されないが、電解質としては、カチオンを輸送できる固体電解質膜(カチオン導電膜)、アニオンを輸送できる固体電解質膜(アニオン導電膜)、カチオンまたはアニオンを輸送できる液体の電解質などが好ましく、それらのうち複数を用いてもよい。
【0040】
カチオンを輸送できる固体電解質膜としては、たとえばポリパーフルオロスルホン酸膜などのフッ素系高分子電解質膜、スチレングラフト重合膜、ポリアリレンエーテル系膜などの炭化水素系高分子膜や、その他タングストリン酸などの無機系膜、および、有機修飾ケイ酸塩などの有機-無機系導電材料の膜などがあげられる。アニオンを輸送できる固体電解質膜の例としては、テトラアルキルアンモニウムカチオン基などのカチオン性基を有する炭化水素樹脂膜、および芳香族炭化水素樹脂膜などがあげられる。液体の電解質としてはリン酸水溶液や各種のイオン液体などがあげられる。
【0041】
電解質を移動するイオンとしては、具体的に、プロトン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、鉄イオン、ニッケルイオン、金イオンなどの無機カチオン;置換または無置換のアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、アニリニウムイオンなどの有機カチオン;塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、ヨウ素イオンなどの無機アニオン;アルキル硫酸イオンなどの―SO 基、カルボキシル基(―COO)を有する有機アニオン、などがあげられる。
【0042】
電解質としてカチオン導電膜を用いる場合にはカチオンをアノード反応系に含有させるか、外部装置から随時供給する。アニオン導電膜を用いる場合にはアニオンをカソード反応系に含有させるか、外部装置から随時供給する。あるいは、アノード反応またはカソード反応で生成する物質(カチオン、アニオン)を電解質で輸送されるイオンとして用いてもよい。
【0043】
アノードでの酸化反応に供する物質としては、特に限定されないが、電気化学反応中において、水と容易に反応しないものが好ましく、たとえば、水素、メタノール、ジメチルエーテル、アンモニア、メタン、鉄、ニッケル、スズ、鉛などがあげられる。
【0044】
カソードおよびアノードは、触媒材料と、導電性を有する材料と、カチオンを輸送できる固体電解質と、を含んでおり、前記触媒材料は、白金、金、パラジウム、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、ロジウム、ニッケル、鉄、銅、コバルト、銀からなる群より選ばれる1種または2種以上であるのが好ましく、導電性材料との複合体を作製する場合、触媒金属の濃度は10重量%以上であるのが好ましい。
【0045】
本発明において、ガス状の物質をアノード反応基質に用いる場合には、アノード反応系を気相とし、ガス態として反応基質を供給する装置構成を採用することが好ましい。一方、金属イオンなどのガス態を取りにくい物質をアノード反応基質に用いる場合には、アノード反応系を液相とし、これらの物質を液相に溶解させて用いる装置構成を採用することが好ましい。
【0046】
以下、本発明の二酸化炭素還元体回収システムの具体例を、図2を例に説明する。なお、簡単な説明のために、以下、図中の作用極(カソード)11での還元反応は、二酸化炭素(CO)に限定し、また、対極(アノード)12での酸化反応は、水素(H)の酸化に限定し、電解質(電解質膜)10を固体カチオン導電膜、電解質10を移動するイオンをプロトンのみ、としたものを代表例として説明する。
【0047】
以下、アノード反応系が気相の場合の例を説明する。図2は、本発明に係る二酸化炭素還元体回収システムの電解部を示す図である。なお、図2においては、図1で示される配線7および電源(直流電圧および交流電圧を印加するシステム)8を省略している。また、固体高分子形燃料電池などと同様の構造を有しており、以下、本発明の二酸化炭素還元体回収システムおける図2の構造を有する装置全体を「単セル」と呼ぶ場合がある。図2中、本発明の反応部は、電解質(膜)10、作用極(カソード)11、対極(アノード)12、および、これら電解質膜10、カソードおよびアノードを含む膜電極接合体(MEA)を備えている。また、膜電極接合体(MEA)10~12は、その両側で、ガスケット13で挟まれ外部から密封されている。続いて13の外側を、カソードガス拡散層16、アノードガス拡散層17および動的水素電極(DHE)20を通す孔を含むセパレータ(絶縁材)14で挟まれ、14のさらに外側に、ガス等供給路およびガス等排出路としてカソードガス流路18とアノードガス流路19を内臓したステンレス鋼板(ガス流路形成部材)15が接して備えられており、本発明の反応部はこれらの内側の空間および部分を表す。ステンレス鋼板15は試料および内部を加熱するため棒状ヒータや冷媒管などの温度制御機構21を備え付けられる部位を有し、また、ナット22の部品などを用いて反応部を外部から密封する。図2では、本発明のカソード反応基質供給部およびアノード反応基質供給部の一部または全部に14~19が相当し、ガス源および15に接するガス配管は省略されている。また、電源および電源を接続する配線なども省略されている。なお、本発明における二酸化炭素還元体回収システムの具体例のその他詳細は、本発明で新たに記載された上記の部分を除いて、特許文献4および特許文献5に同様に記載されている。
【0048】
カソードまたはアノードのそれぞれの側において、ガス流路形成部材15には、それぞれの反応基質供給部と排出部とが接続されている。ガス流路形成部材15内には、反応基質を流通させる流路(カソードガス流路18、アノードガス流路19)が形成されている。すなわち前記流路の一方の端部は電極反応基質供給部であるカソードガス拡散層16およびアノードガス拡散層17に接続され、他方の端部は排出部(18および19のもう一方)に接続されている。電極反応基質は、ガス流路形成部材15内に形成された流路を通じてガス拡散層16および17に供給され、電極11または12で発生するガス等は上記流路を通じて排出される。
【0049】
<カソード>
カソード11は、触媒材料により構成される。触媒材料としては、COまたはCOの還元によって生じる一酸化炭素(CO)への親和性が高い材料を含有することが好ましい。このような触媒材料を用いることにより、カソード11における還元反応を効率的に進行させることができる。このような触媒は必要に応じて選択でき、例えば、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、鉄(Fe)、銅(Cu)、コバルト(Co)からなる群より選ばれる、1種また2種以上が挙げられる。触媒材料はカソード11中に0.09質量%以上含有させることが好ましい。
【0050】
カソード11には、触媒材料のほかに導電性材料を含有させてもよい。導電性材料を含有させる場合は、還元固定化反応の効率が良くなるので好ましい。導電性材料は特に限定されず、例えばPt、Au、Ag、Pd、Ru、Ir、Rh、レニウム(Re)、Os、スズ(Sn)、Fe、クロム(Cr)、Cu、Ni、Co、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ステンレス鋼材;グラファイト、グラフェン、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)などのカーボン材料;スズドープ酸化インジウム;フッ素ドープ酸化インジウム;からなる群より選択される少なくとも1種、またはこれらの混合物もしくは金属同士であればこれらの合金を用いることができる。
【0051】
またカソード11には、カチオンまたはアニオンの少なくとも1種を輸送できる固体電解質を含有させることが好ましい。固体電解質を含有させることで、電気化学反応の反応点と考えられている電解質と電極との界面(三相界面)を増加させることができるためである。
【0052】
カソード11の形状は特に限定されず、ワイヤー状、シート状、板状、棒状、メッシュ状等、通常のカソードに用いられる任意の形状を選択できる。これらの形状の中でも、二COの還元反応が効率的に進む点で、表面積が大きい構造が好ましい。さらに、反応基質であるCOがカソード11の全体に容易に浸透できるように、カソード11が空隙を有していることが好ましい。また、電解質10と反応基質の授受を効率的に行うために、電解質10とカソード11の接合面積が大きい構造であることが好ましい。このような構造として、カソード11の形状はシート状の形状が好ましい。
【0053】
カソード11を触媒のみで構成する場合には、触媒材料の単結晶または多結晶のいずれを用いてもよく、COの還元反応を効率的に進める点で、表面積が大きいことが好ましく、たとえば、触媒材料のバルク上に触媒材料の微粒子が担持された構造や、触媒微粒子のみの集合体が好ましい。これらに含まれる触媒微粒子の粒子径は1nm以上10μm以下が好ましい。1nm未満では触媒材料の結晶性が十分でないため十分な性能を発揮できない場合があり、10μmを超える場合は表面積が小さく、十分な性能が発揮できない場合がある。このような構造の触媒微粒子としては、例えば白金黒が挙げられる。
【0054】
カソード11が、触媒材料と、さらに上記導電性材料および上記固体電解質の少なくとも1種とを含む材料とで構成される場合、その触媒粒子の粒子径は1nm~1μmが好ましい。1nm未満では触媒材料の結晶性が十分でないため十分な性能を発揮できないためであり、1μmを超えると、導電性材料や固体電解質と均一に分散させるのが難しいからである。触媒微粒子の粒径は、X線回折や電子顕微鏡観察など公知の方法で測定できる。
【0055】
上記導電性材料の含有量は、CO還元体回収の反応を効率よく進める場合、上記触媒材料の重量(A)と、導電性を有する材料(導電性材料)の重量(B)の比(D=A/B)において、D=0.01~4.0が好ましく、D=0.1~2.0がさらに好ましい。
【0056】
上記固体電解質の含有量は、CO還元体回収の反応を効率よく進める場合、上記触媒材料の重量(A)と上記固体電解質の重量(C)の比(E=A/C)において、E=0.1~5.0が好ましく、E=0.2~3.0がさらに好ましい。
【0057】
<アノード>
アノード12は、触媒材料により構成される。触媒材料としては、特に限定されないが、選択したアノード反応に対して活性が高い材料が好ましく、たとえば、水素または水の酸化反応を用いる場合、Pt、Au、Pd、Ru、Os、Ir、Rh、Ni、Fe、Cu、Co、Agからなる群より選ばれる、少なくとも1種が好ましい。上記の触媒材料は単結晶、多結晶のいずれを用いてもよく、これらの元素を含む金属錯体化合物などの有機化合物であってもよい。
【0058】
アノード12には、カソード11と同様に、触媒材料のほかに導電性材料を含有させてもよい。この場合にもCO還元体回収の効率を向上させる効果が得られる。導電性材料としてはカソード11と同様のものを用いることができる。
またアノード12に、カチオンを輸送できる固体電解質を含有させてもよい。このよう
な固体電解質を含有させる場合は、電気化学反応の反応点と考えられている電解質と電極
との界面(三相界面)を増加させることができるため好ましい。
【0059】
アノード12の形状は特に限定されず、カソード11と同様の構成を採用することができる。シート状とすることが特に好ましい。また、COの還元反応を効率的に進める点で、表面積が大きい構造であることが好ましく、カソード11と同様に、白金黒などの微粒子状の触媒材料を用いた構成とすることが好ましい。
さらに、アノード12が、触媒材料と、上記導電性材料および上記固体電解質の少なくとも1種を含む材料とで構成される場合の粒子径、導電性材料の含有量、固体電解質の含有量についても、カソード11と同様の構成を採用することができる。
【0060】
電解質10は、CO還元が起こる温度範囲において、カチオン導電性またはアニオン導電性を有し、イオン導電性が高い材料が好ましい。また、電解質10は、アノード12において給気および排気されるガスと、カソード11において給気および排気されるガスとが混合されないようにするために、ガスバリア性に優れたものが好ましい。さらに、カソード11とアノード12で、電解質を介したリーク電流が発生するのを抑制するよう、電解質10の材質は電子伝導性が低いものが好ましい。このような電解質である導電膜としては、たとえば、ポリパーフルオロスルホン酸膜などのフッ素系高分子電解質膜;スチレングラフト重合膜、ポリアリレンエーテル系膜などの炭化水素系高分子膜;その他タングストリン酸などの無機系膜;有機修飾ケイ酸塩などの有機-無機系導電材料の膜;などがあげられる。
【0061】
<ガス拡散層>
ガス拡散層16および17の材質としては、導電性を有しており、かつ、カソード11およびアノード12それぞれに対してガスを供給できるものであれば、特に限定されない。反応効率を高める点で、電極反応基質供給部5および6から供給される反応基質が、カソードガス拡散層16を通じてカソード11、アノードガス拡散層17を通じてアノード12に均一に拡散させることができるものが好ましく、たとえば、カーボンペーパーやステンレスメッシュなどがあげられる。
【0062】
ガス拡散層16および17は、それぞれ接するカソード11およびアノード12と別体でもよく、一体に形成してもよい。一体に形成する場合には、たとえば、カソード11およびアノード12の構成材料を、それぞれ接するガス拡散層16および17を塗布することで一体化することができる。
【0063】
<流路形成部材>
流路形成部材15は、カソード反応基質供給部5、アノード反応基質供給部6を介して供給されるガス(反応基質)を、それぞれのガス拡散層16および17に供給する機能とともに、カソード11、アノード12で発生するガス等をガス流路18または19のいずれかを介して外部に排出する機能を有する。また図2に示す構成では、流路形成部材15は集電材料により形成されており、互いに接する各電極のガス拡散層16および17と電気的に接続する機能を有している。集電材料の例としては、例えばステンレス鋼やカーボンなどがあげられる。
【0064】
流路形成部材15としては、少なくとも上記のガス輸送機能を備えていれば特に限定されないが、還元反応を促進させる点で、流路形成部材15が均一にカソード11およびアノード12にガスを行き渡らせることができる構造を有していることが好ましく、具体的には、たとえば、サーペンタイン流路や他の公知の流路の使用が可能である。
【0065】
流路形成部材15は、反応効率の点から、ガスバリア性が高いことが好ましい。また、ガスの損失を低減させて反応効率を低下させないためには、電極反応が起こる空間を外部から遮断する部材は互いに接着するなどして密着させ、系全体を密閉した構成とすることが好ましい。そのために、流路形成部材15と電極などの間に絶縁材14を間に介して突き合わせ、密着させるのが好ましい。
【0066】
絶縁材14としては、両側の流路形成部材15の間を絶縁させることができるものであれば特に限定されない。絶縁材16として接着機能を有するものを用いた場合、本発明の二酸化炭素還元体回収システムを容易に密閉し、系外へのイオンや電子の漏洩を防止することが可能になる。このような接着機能を有するものとしては、たとえばテフロン(登録商標)製のシール、その他の絶縁性の接着剤などがあげられる。
【0067】
<カソード反応基質供給部>
電極反応基質供給部5(またはカソードガス拡散層16)が、二酸化炭素(CO)を含有するガスを供給するカソード反応基質供給部である場合について、以下に説明する。
上記カソード反応基質供給部は、カソード11に対してCOを含有するガスを供給する装置である。必要に応じて、カソード11に供給するガスには水蒸気を含有させてもよい。たとえば、電解質膜10を湿潤状態に保持しなければならない場合や、前記式(1)に示したように水を用いてCOを還元する場合などである。電解質膜10を湿潤状態に保持しなければならない場合とは、電解質膜10の含水量が、膜のイオン導電率やガス浸透速度、電解質膜10を固体状態で使用したときの膜強度等に影響する場合である。
本発明において、電極に対して還元反応するガスが二酸化炭素を含有するガスである場合、二酸化炭素の分圧は、1%~70%であるのが好ましく、1%~50%であるのがより好ましい。また、水蒸気以外のN、He、Arなどのガスを混合してもよい。これらのガスによりCO濃度を調整することで、カソード11でのCO還元体回収の速度に応じて適切なガス流量に調整することができる。
【0068】
カソード11に供給するCOの流量は特に限定されないが、還元によって消費されるCOを速やかに供給でき、連続的にCOを供給できる流量以上であることが好ましい。カソード反応基質供給部の装置構成としては、COおよび必要に応じて水蒸気をカソード11に供給することができる構成であれば特に限定されない。たとえば、水蒸気を大気(CO含有ガス)に含有させるためのバブリング機構と、水蒸気を含有させた大気を送出するガス搬送機構とを備えた構成とすることができる。
【0069】
カソード反応基質供給部はCO濃縮装置を備えていることが好ましい。CO濃縮装置によって濃縮したCOをカソード11に供給することにより、CO還元反応効率を高めることができる。CO濃縮における「濃縮」とは、カソード11に供給するガスから、CO還元反応を阻害する反応を起こす物質を除去したり、CO以外の物質を除去することにより、上記ガス中のCO濃度を増大させることを意味する。
前記式(1)および(2)のCO還元反応を阻害する反応としては、たとえば酸素(O)還元反応が挙げられる。したがって、カソード11に供給するガスからOを除去する操作は、上記のCO濃縮操作に該当する。
【0070】
CO濃縮装置としては、具体的に、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)などがあげられる。MCFCはCO濃縮を効率的に行うことが可能であり、しかも他の物理的、化学的にCO濃縮を行う装置のように外部エネルギーを必要としないので、好ましい。また、MCFCの発電電力を、直接または間接的に、本発明の二酸化炭素還元体回収システムのCO還元反応に利用してもよい。このMCFCを構成する空気極に供給されるガスは、COとOを含有していれば特に限定されず、大気や、火力発電所、セメント工場、ディーゼル発電機などから大気中に排出されるガスなどを原料として使用できるため、MCFC燃料極へのHや炭酸ガス(CO、CO)を消費するが、本発明の二酸化炭素還元体回収システムと併用することにより、CO排出に寄与することができる。上記のCO濃縮装置に関する詳細は、特許文献4などに記載されている。
【0071】
また、本実施形態のCOの還元体回収を行う際に、アノードに酸化反応させたい有機廃液などを使用することによって、CO還元体回収を行いながら、有機廃液などの酸化処理を同時に行い、特定の有害物質を除去することに応用することができる。
【0072】
<アノード反応基質供給部>
カソード11において、前記式(2)に示した反応を用いる場合にはCOの還元反応そのものにプロトン(H)が必要であり、前記式(1)に示した反応を用いる場合には生成した水酸化物イオン(OH)の消費が必要である。これに対して、アノード12では、水素が供給され、前記式(3)の酸化反応によって、電子とHを生成させる。そして、生成させたHをカチオン導電膜を介してカソードへ供給し、前記式(2)の反応に関与、または前記式(1)のカソード反応で生成したOHの中和を行うことにより、OHが消費される。
【0073】
アノード12および電解質10の湿潤状態が、電解質10へのイオン導電率や、ガス浸透速度および固体状態の膜を使用した場合の電解質膜の強度に影響する場合、それらの性能を十分に維持できる程度の量の水をアノード反応に必要な水に追加し、アノード12に供給するガスに含有させることが好ましい。
【0074】
アノード反応基質供給部6は、アノード酸化反応によってHおよび電子を発生できる物質を、ガス状(ミスト状、エアロゾル状など含む)、液状、固体状にして送出できる機構を備えていれば特に制限されない。
アノード12で酸化反応に関与するHやHOなどの供給量は特に制限されないが、カソード11へ連続的にHやHOを供給でき、酸化反応を進行させることができる量以上であればよい。また、アノード反応基質供給部からガスを供給する場合については、反応に関与する主成分であるHなどを十分に供給できる範囲で、N、He、Arなどのガスを含有させ、供給ガスの濃度を調節してもよい。N、He、Arなどは、反応により生成される気体などを排出部に速やかに送出させるために、別途供給させてもよい。
【0075】
カソード11では、前記式(1)および(2)に示した通り、一酸化炭素(CO)が生成される。このCOは、CO回収機構を設けて回収し、炭素(C、特に構造を限定しないアモルファスカーボンなど)、ギ酸(HC(=O)OH)、メタノール(CHOH)、エタン(CHCH)、エチレン(CHCH)などの有効な炭素資源を生成する原料として用いてもよい。本発明を用いれば、このような方法により、有用炭素資源の生成、製造を効率よく行うことができる。また、反応に寄与することなく排出部へ排出されたCOを回収し、再び流路形成部材15に送る機構を設けてもよい。さらに、カソード11で生成された水を、カソード反応基質供給部5に送り、反応に再利用する機構を設けてもよい。
【0076】
本発明の二酸化炭素還元体回収システム1には、カソード11およびアノード12の温度を制御する温度制御機構20を設けてもよい。温度制御機構としては、二酸化炭素還元体回収システム1の反応場を-70~200℃の範囲に温度制御できるものであれば特に限定されず、公知の加熱冷却装置を用いることができる。上記の温度範囲は、二酸化炭素還元体回収システム1において典型的に用いられる電解質10がイオン導電性を有する温度範囲であり、電解質10の種類に応じて制御範囲を適宜変更することが好ましい。二酸化炭素還元体回収システム1は、0~100℃で実施させるのが好ましく、5~80℃で実施させるのがより好ましい。
【0077】
本発明の二酸化炭素還元体回収システム1は、アノード反応系が液相の場合でも使用できる。詳細は、特許文献4などに記載されているが、液相の場合、たとえば、流路形成部材15と電解質10と絶縁材14に囲まれた室内が溶液で満たされている。溶液は、アノードの酸化反応の基質となる水素または水を含有する液体であればよい。このような溶液としては、水素を溶存させた水または水溶液、水素を溶存させた有機溶媒などをあげることができ、アノード反応の種類に応じて適宜選択すればよい。溶液としては、水素または水の酸化反応を阻害するような物質を含有していないものであることが好ましい。また、上記の例に限定されず、各電極において、電極反応を進行させることが可能であれば、カソード反応系またはアノード反応系が、気相、液相または固相、いずれの形態をとりうることができる。
【0078】
本発明における二酸化炭素還元体回収システム1には、カソードまたアノードの電極表面から脱離し、発生した気体を分析するための装置(ガス分析システム)9を付加することができる。具体的には、質量分析システムを備えたガスクロマトグラフィー装置(GC-MS)が好ましく、それによって、発生したガス分子の質量から、発生した分子の構造を推定することができる。
【実施例
【0079】
以下実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、カソードより排出される一酸化炭素以外のガスは、本発明の二酸化炭素還元体回収システムに付属した四重極質量分析計 JMS-Q1050GC(日本電子株式会社製)にて分析した。
【0080】
[実施例1]
下記の手順で二酸化炭素還元体回収システムを作製した。
(1)カーボンペーパーの前処理
撥水加工処理済みカーボンペーパー(東レ株式会社製、型番:TGP-H-060H)(ガス拡散層)を3cm×3cm角に切断し、アルコール水溶液で洗浄した。
(2)電解質膜の前処理
電解質膜(デュポン社製、型番:Nafion(登録商標)117)を6cm×6cm角に切断し、純水、過酸化水素水および希硫酸水溶液中で順次煮沸処理した。
(3)電極触媒散布液の調製
市販のNafion分散液を混合し、ボールミルを用い、46.2重量%白金担持カーボン(田中貴金属工業株式会社製)(Pt/C)、超純水、2-プロパノール、メタノール、手順(2)で調製した電解質分散液を混合し、Pt/C電極触媒散布液とした。
(4)電極触媒散布液の塗布
手順(3)で準備した電極触媒散布液を白金金属量が1.0mg/cmとなるようにスプレーコート法で上記(1)で準備したカーボンペーパー上に塗布した。
(5)膜電極接合体(MEA)の作製
手順(4)で準備したPt/C触媒塗布済みのカーボンペーパー2枚を用いて、手順(2)で処理した電解質膜を挟み込み、140℃-4.5kNで10分間ホットプレス成形し、カソードおよびアノードを電解質膜の両面に接合した膜電極接合体(MEA)を作製した。
(6)単セルの組み立て
上記手順(1)~(5)のように作製したMEAを用いて、その両側をガスケット、セパレータ、ガス流路形成部材で挟み、図2の構成を有する固体高分子形セルを作製した。以下、本実施例で図2のように作製した固体高分子形セルを単セルと表す。
(7)単セル運転の前処理
上記のように準備した単セルの一方の電極(作用極)に加湿アルゴンガス、もう一方の電極(対極)に加湿水素ガスを供給し、電位が安定するまでポテンショスタットを用いて電位走査を繰り返し行った。
【0081】
(8)CO還元実験
続いて、下記の手順で、CO還元実験を行った。
上記のように準備した単セルの作用極にCOとArの加湿混合ガス(CO分圧4%)、対極(CE)に加湿水素ガスを供給し、単セルと、直流電圧および交流電圧を印加するシステムとして、ポテンショスタット(北斗電工株式会社製、型番:HA301)と電位走査装置(ポテンシャルスキャナー、北斗電工株式会社製、型番:HB104)を接続した。単セルのCO排ガスは、ガス分析システムである質量分析計に直接接続した。以上のように二酸化炭素還元体回収システムを組み立てた。続いて、電極電位を自然電位(電流が観測されない電位)から0.10V vs.CEに電位をステップした時点を0sとし、m/z 15(メタン(CH)のフラグメント)の検出強度を測定した。時間と検出強度の関係の測定結果を図3に示す。この結果から、電位をステップした直後からm/z 15が検出され、0.10V vs.CEにてCO還元に基づくメタン生成が観測された。図3のピーク面積は、メタン生成量に相当する量を示している。図3から算出される面積をm/z 15の強度(任意単位)とした数値を表1に示す。
また、図3の結果には、電位をステップ直後数秒でメタン生成強度はピークとなり、その後減少し、約10秒過ぎに強度が0に近付き、メタン生成が終了することが示されている。この、メタン生成が終了する現象は、触媒が被毒している様子と認められる。
【0082】
[実施例2~実施例5]
次に、表1に示す条件でCO分圧を変えて、実施例1(8)のCO還元実験と同様の実験を行った。メタン生成量を表すm/z 15の強度の測定結果を表1にまとめて示す。
【0083】
[比較例1]
続いて、CO分圧を100%として実施例1(8)のCO還元実験と同様に実験を行った。メタン生成量を表すm/z 15の強度の測定結果を表1にまとめて示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示すように、本発明の実施例における二酸化炭素還元体回収システムにおいて、CO分圧2~50%の条件で得られるメタン生成量は、比較例のCO分圧100%の条件で実験したメタン生成量に比べて、約10倍以上大きい。これらの実施例では、CO分圧4~50%の間では、4%でメタン生成量が最大であった。
【0086】
[実施例6]
実施例1の単セルと装置を用い、ポテンショスタットに交流電圧を印加するための関数発生器(ファンクションジェネレーター、株式会社エヌエフ回路設計ブロック製、型番:1906)を追加して接続した。CO分圧は4%でガス供給した。交流電圧は、矩形波、周波数100Hz、印加電位範囲0.05~0.15V vs.CE(交流波のピークの最高値と最低値の差=ピーク間電位差(Vp-p)=100mV)の条件で印加した。以上の条件で、実施例1(8)のCO還元実験と同様の実験を行った。実施例1と同様の方法で、時間-検出強度の図のピーク面積からメタン生成量を表すm/z 15の強度を測定した。実施例1の強度を1とし、実施例6の相対値を表2に示す。また、Ar存在下における水素生成量を表すm/z 41の強度についても、そのピーク強度を面積で測定し、実施例1の強度を1とした実施例6の相対面積強度の値を表2に示す。
【0087】
[実施例7~実施例9]
次に、実施例6と同様に周波数100Hzとし、交流電圧印加範囲を0.05~0.10V vs.CE(ピーク間電位差(Vp-p)=50mV)、0.10~0.15V vs.CE(ピーク間電位差(Vp-p)50mV)、0.10~0.20(V vs.CE(ピーク間電位差(Vp-p)=100mV)で行った以外は実施例6と同様の方法で実験を行った。メタン生成量を表すm/z 15の相対面積強度およびAr存在下における水素生成量を表すm/z 41の相対面積強度を表2にまとめて示す。
【0088】
【表2】
【0089】
表2に示すように、交流電圧の印加により、実施例6および実施例7ではメタン生成が増加し、実施例8および実施例9ではメタン生成が増加するとともに副生成物である水素の生成が抑制されることがわかった。これらの実施例では、0.10~0.15V vs.CEにおいて、メタン生成が最大であった。
【0090】
[実施例10~実施例12]
実施例6~実施例9の単セルと装置を用い、CO分圧4%でガス供給した。交流電圧は、矩形波、印加電位範囲0.05~0.15V vs.CE(ピーク間電位差(Vp-p)=100mV)とし、周波数を0.025Hz、1Hz、500Hzのように変えて印加し、実施例6と同様の方法でメタン生成量を表すm/z 15を測定した。実施例6と同様に、実施例1の結果を1とした相対面積強度を表3にまとめて示す。交流電圧の周波数により、メタン生成量が変化することがわかった。これらの実施例では、100Hzにおいて、メタン生成量が最大であった。
【0091】
【表3】
【0092】
[実施例13]
実施例6~実施例12の単セルと装置を用い、CO分圧4%でガス供給し、電極電位を0.30V vs.CEとした(交流電圧を印加しない直流の状態、もしくは長周期交流の状態)。一定時間後、電極電位を0.30V vs.CEから0.10V vs.CEにステップし、交流電圧を印加した。交流電圧条件は矩形波、周波数100Hz、印加電位範囲0.10~0.15V vs.CE(ピーク間電位差(Vp-p)=50mV)である。一定時間、交流電圧印加の後、電極電位を0.30V vs.CEにステップし、上記の操作を繰り返した。このように、0.30V(直流、約30秒間)→0.10~0.15V(交流、矩形波、約30秒間)vs.CEの電圧条件のサイクルの操作を繰り返した。その結果を図4に示す。
【0093】
図4から明らかなように、m/z 15の強度増加が矩形波交流電圧を印加するタイミングごとに確認された。図4の各サイクルの結果は、実施例1の図3でメタン生成が終了する現象と同様に約10秒でピーク強度が減衰しており、触媒が被毒している様子と認められるが、交流印加を一定時間行い、続けて高い0.30V vs.CEに一定時間戻すことによって再度メタンが生成することがわかった。このように、COの還元が起こる電位において、適当な電圧範囲および周波数の交流印加を行い、さらに高電位の直流印加(電位ステップ幅の大きな長周期交流)とを組み合わせることで、触媒被毒が解消され、メタンを連続生成できることがわかった。
【0094】
[実施例14]
実施例6~実施例13の単セルと装置を用い、CO分圧4%でガス供給し、電極電位を0.20 V vs. CEとした(交流電圧を印加しない直流の状態)。一定時間後、電極電位を0.20V vs.CEから0.10V vs.CEにステップした。30秒後電極電位を0.20V vs. CEにステップし、30秒後再び0.10V vs.CEにステップする上記の操作を繰り返した。このように、0.20V(直流、30秒間)→0.10V(直流、30秒間) vs.CEの電圧条件のサイクルの操作を繰り返した。結果を図5(a)(0.2-0.1ステップ)に示す。
【0095】
[実施例15および実施例16]
実施例14において電極電位0.20V vs.CEを0.30V vs.CEおよび0.40V vs.CEに変更した以外はすべて実施例14と同様にして電位ステップ操作を行った。それぞれを実施例15および実施例16とし、結果を図5(b)(0.3-0.1ステップ)および図5(c)(0.4-0.1ステップ)に示す。
【0096】
図5から明らかなように、m/z 15の強度増加が矩形波交流電圧を印加するタイミングごとに確認された。図5の各サイクルの結果は、実施例1の図3でメタン生成が終了する現象と同様に約10秒でピーク強度が減衰しており、触媒が被毒している様子と認められるが、電位を0.20~0.40V vs.CEに一定時間戻すことによって再度メタンが生成することがわかる。このように、COの還元が起こる電位において、適当な高電位の直流印加を周期的に加えることで、触媒被毒が解消され、メタンを連続生成できることがわかる。
【0097】
[実施例17]
実施例15において、0.10V vs.CEと0.30V vs.CEに保持する時間を1秒に変更した以外はすべて実施例15と同様にして電位ステップ操作を行った。結果を図6(0.1-0.3V vs.CE,1s)に示す。図6から明らかなように、0.10V vs.CEと0.30V vs.CEへの電位ステップを1秒周期で繰り返すことで、m/z 15の減衰が起こることなく(触媒が被毒せずに)、メタンを連続的に生成できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の二酸化炭素還元体回収システムによれば、二酸化炭素の還元電位において、印加した直流電圧に交流電圧をさらに印加することにより、電極表面に吸着した二酸化炭素還元体を脱離させることができるので、効率よく二酸化炭素還元体を回収することができる。さらに、本発明の二酸化炭素還元体回収システムは、固体高分子形燃料電池やリン酸形燃料電池のセルをそのまま応用できるので、新しい装置を製造する必要なく、低コストで二酸化炭素還元体を回収することができる。また、本発明の二酸化炭素還元体回収システムにより、一酸化炭素などの有用な炭素資源の材料を生成することができる。
【符号の説明】
【0099】
1 二酸化炭素還元体回収システム
2 電解質
3 カソード
4 アノード
5,6 電極反応基質供給部
(5 カソード反応基質供給部)
(6 アノード反応基質供給部)
7 配線
8 電源(直流電圧および交流電圧を印加するシステム)
9 ガス分析システム
10 電解質(膜)
10,11,12 膜電極接合体(MEA)
11 作用極(カソード)
12 対極(アノード)
13 ガスケット
14 セパレータ(絶縁材)
15 ステンレス鋼板(ガス流路形成部材)
16 カソードガス拡散層
17 アノードガス拡散層
18 カソードガス流路
19 アノードガス流路
20 動的水素電極(DHE)
21 温度制御機構
22 ナット
図1
図2
図3
図4
図5
図6