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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】出没式筆記具およびマーカーリフィル
(51)【国際特許分類】
   B43K 24/02 20060101AFI20230720BHJP
   B43K 24/10 20060101ALI20230720BHJP
   B43K 8/24 20060101ALI20230720BHJP
   B43K 8/02 20060101ALI20230720BHJP
   C09D 11/16 20140101ALI20230720BHJP
【FI】
B43K24/02 110
B43K24/10
B43K8/24
B43K8/02 150
B43K8/02 110
C09D11/16
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019085286
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020179623
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000108328
【氏名又は名称】ゼブラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】山城 聖美
(72)【発明者】
【氏名】内山 雄也
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-013653(JP,A)
【文献】特開2017-210551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00- 1/12
B43K 5/00- 8/24
B43K 21/00-21/26
B43K 24/00-24/18
C09D 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に第1開口部を有する軸筒と、
前記軸筒内に収納され、前記第1開口部から外にペン先が出没可能な中芯と、
を備えた出没式筆記具であって、
前記中芯は、インク組成物を収納するインク収納部と、前記インク収納部の先端に取り付けられた前記ペン先と、前記ペン先を覆うと共に先端に第2開口部を有するカバーと、を有し、
前記中芯は、前記出没式筆記具の非操作時には前記ペン先が前記カバーによって覆われた状態とし、且つ、前記出没式筆記具の操作時であって前記ペン先が前記軸筒から外に出る動作の際に前記カバーが前記ペン先に対して相対的に後方に移動して前記ペン先の先端が前記カバーの前記第2開口部から外に突出するように、構成されており、
前記ペン先を前記軸筒の前記第1開口部から外に突出させる動作の際、前記カバーの先端が前記軸筒の内周面に沿って前方側に移動することにより、前記ペン先の移動がガイドされる、出没式筆記具。
【請求項2】
前記中芯は、前記インク収納部と前記カバーとの間に配置される弾性部材を更に有し、前記弾性部材が前記カバーを前記インク収納部に対して前方に付勢する、
請求項1に記載の出没式筆記具。
【請求項3】
前記インク収納部は、後端側の第1収納部と、当該第1収納部よりも外径が小さい先端側の第2収納部とを含んでおり、
前記カバーは、筒形状であり、
前記第1収納部の前端と前記カバーの後端との間であって前記第2収納部の外周に沿うように前記弾性部材が配置されている、
請求項2に記載の出没式筆記具。
【請求項4】
前記カバーには、前記軸筒の軸方向に沿って延びる少なくとも1つのスリットが設けられており、
前記第2収納部には、その外周に少なくとも1つの突起が設けられており、
前記突起が前記スリット内に位置すると共に当該突起が前記スリットに沿って移動することにより、前記インク収納部に対する前記カバーの移動がガイドされる、
請求項3に記載の出没式筆記具。
【請求項5】
前記カバーの内周と前記ペン先の外周との間には隙間が設けられており、当該隙間の径方向に沿った幅が0.5mm以上である、
請求項1~4の何れか一項に記載の出没式筆記具。
【請求項6】
前記カバーは、後端側の第1カバー部と、前記第1カバー部よりも外径が小さい先端側の第2カバー部とを含んでいる、
請求項1~5の何れか一項に記載の出没式筆記具。
【請求項7】
前記インク収納部に収納される前記インク組成物は、着色剤、140℃以上の沸点を有する水溶性有機溶剤、及び水を含有するインク組成物、又は、着色剤、25℃において20Pa以下の飽和蒸気圧を有する水溶性有機溶剤、及び水を含有するインク組成物であって、
前記水溶性有機溶剤の含有量が前記インク組成物の全量を基準として50質量%以上であり、前記水の含有量が前記インク組成物の全量を基準として5~45質量%である、
請求項1~6の何れか一項に記載の出没式筆記具。
【請求項8】
前記インク組成物は、25℃において5.0~30.0mPa・sの粘度を有する、
請求項7に記載の出没式筆記具。
【請求項9】
前記水溶性有機溶剤が、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエタノールアミン、及び、600以下の平均分子量を有するポリエチレングリコールからなる群より選択された少なくとも1種を含む、請求項7又は8に記載の出没式筆記具。
【請求項10】
出没式筆記具に用いられるマーカーリフィルであって、
インク組成物を収納するインク収納部と、
前記インク収納部の先端に取り付けられたペン先と、
前記ペン先を覆うと共にその先端に開口部を有するカバーと、
前記カバーを前記インク収納部に対して前方に付勢する弾性部材と、を備え、
前記マーカーリフィルは、初期状態では前記ペン先が前記カバーによって覆われた状態とし、且つ、前記カバーが前記初期状態から後方に向かって前記弾性部材による付勢力に抗して移動した場合に、前記ペン先が前記カバーの前記開口部から外に突出するように、構成され、
前記インク収納部は、後端側の第1収納部と、当該第1収納部よりも外径が小さい先端側の第2収納部とを含んでおり、
前記カバーには、当該マーカーリフィルの軸方向にのみ沿って延びる少なくとも1つのスリットが設けられており、
前記第2収納部には、その外周に少なくとも1つの突起が設けられており、
前記突起が前記スリット内に位置すると共に当該突起が前記スリットに沿って移動することにより、前記インク収納部に対する前記カバーの前記軸方向に沿った移動のみがガイドされる、マーカーリフィル。
【請求項11】
前記インク収納部に収納される前記インク組成物は、着色剤、140℃以上の沸点を有する水溶性有機溶剤、及び水を含有するインク組成物、又は、着色剤、25℃において20Pa以下の飽和蒸気圧を有する水溶性有機溶剤、及び水を含有するインク組成物であって、
前記水溶性有機溶剤の含有量が前記インク組成物の全量を基準として50質量%以上であり、前記水の含有量が前記インク組成物の全量を基準として5~45質量%である、
請求項10に記載のマーカーリフィル。
【請求項12】
前記水溶性有機溶剤が、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエタノールアミン、及び、600以下の平均分子量を有するポリエチレングリコールからなる群より選択された少なくとも1種を含む、請求項11に記載のマーカーリフィル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出没式筆記具およびマーカーリフィルに関し、特に軸筒内に複数の中芯(筆記芯ともいう)が収納され、これら中芯から一の中芯を選択的に出没させることができる構成を備えた出没式筆記具および当該出没式筆記具に用いられるマーカーリフィルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2には、複数の中芯から一の中芯を選択的に出没させることができる出没式筆記具が開示されている。これらの出没式筆記具には主な中芯としてボールペン用中芯やシャープペンシル用中芯等が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-068494号公報
【文献】特開2016-168748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような出没式筆記具に収納される中芯の1つとして蛍光マーカーやサインペン等のマーカー中芯を採用した場合、マーカー中芯を出没させる際にマーカーのペン先が筆記具の軸筒先端の内周面に接触してしまうことが考えられる(例えば特許文献1の図3及び図4に示す動作を参照)。その結果、マーカー中芯のペン先からのインクにより筆記具先端を汚してしまうことになる。また、このように先端が汚れた筆記具を使用者が衣服のポケットなどに入れてしまうと、その衣服を汚してしまう虞もある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するために為されたものであり、中芯の1つとしてマーカー中芯を有する出没式筆記具において、出没の際に筆記具の先端を汚さない出没式筆記具およびそのような出没式筆記具に用いられるマーカーリフィルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る出没式筆記具は、先端に第1開口部を有する軸筒と、軸筒内に収納され、第1開口部から外にペン先が出没可能な中芯と、を備えている。中芯は、インク組成物を収納するインク収納部と、インク収納部の先端に取り付けられたペン先と、ペン先を覆うと共に先端に第2開口部を有するカバーと、を有している。中芯は、出没式筆記具の非操作時にはペン先がカバーによって覆われた状態とし、且つ、出没式筆記具の操作時であっってペン先が軸筒から外に出る動作の際にはカバーがペン先に対して相対的に後方に移動してペン先の先端がカバーの第2開口部から突出するように、構成されている。
【0007】
上記の出没式筆記具では、非操作時に中芯のペン先を覆うカバーが設けられており、操作時にペン先が軸筒から外に出る動作の際にカバーがペン先に対して相対的に後方に移動してペン先の先端をカバーから突出させるように構成されている。この構成によれば、マーカーの中芯のペン先が軸筒から外に出るまではカバーに覆われることになり、ペン先が軸筒の内周面に接しないことになる。その結果、この出没式筆記具によれば、ペン先の出没の際に出没式筆記具の先端を汚さないようにすることができる。また、このように出没式筆記具の先端を汚さないため、使用者がこの筆記具を衣服等のポケットにしまったとしても衣服を汚さないようにすることができる。
【0008】
上記の出没式筆記具において、中芯は、インク収納部とカバーとの間に配置される弾性部材を更に有し、弾性部材がカバーをインク収納部に対して前方に付勢することが好ましい。この場合、マーカー中芯が軸筒に収納されている非操作時(初期状態)にペン先をカバーで覆うようにし、マーカーのペン先が軸筒から外に突出する際にペン先をカバーから出すといった動作を簡易な機構により実現することができる。
【0009】
上記の出没式筆記具において、インク収納部は、後端側の第1収納部と、当該第1収納部よりも外径が小さい先端側の第2収納部とを含み、カバーが筒形状であってもよい。そして、第1収納部の前端とカバーの後端との間であって第2収納部の外周に沿うように弾性部材が配置されていてもよい。この構成によれば、弾性部材を含む中芯の構成をコンパクトなものにすることができ、軸筒を必要以上に大きな形状にせず、出没式筆記具を筆記に適したサイズとすることが可能となる。
【0010】
上記の出没式筆記具において、カバーには、軸筒の軸方向に沿って延びる少なくとも1つのスリットが設けられており、第2収納部には、その外周に少なくとも1つの突起が設けられていてもよい。そして、突起がスリット内に位置すると共に当該突起がスリットに沿って移動することにより、インク収納部に対するカバーの移動がガイドされることが好ましい。この構成によれば、カバー先端からのペン先の出没動作をより確実なものとして、ペン先による筆記具先端の汚れをカバーによって一層確実に防止することができる。
【0011】
上記の出没式筆記具において、カバーの内周とペン先の外周との間には隙間が設けられており、隙間の径方向に沿った幅が0.5mm以上であってもよい。カバー内周とペン先の外周との間の隙間が狭い場合、毛細管現象によりペン先からのインクがその間を伝わってペン先から外に出やすいが、カバー内周とペン先との間の隙間をある程度の幅で設けることにより、このようなペン先からのインク漏れを防止することが可能となる。これにより、カバーの内部にペン先からのインクが貯まってしまい、そのインクにより軸筒の先端を汚してしまうといったことを防止することができる。また、このような隙間があることによりペン先に対するカバーの動きに少し遊びを持たせることができるので、ペン先を軸筒から出没させる際の動作をスムーズにすることも可能となる。
【0012】
上記の出没式筆記具において、カバーは、後端側の第1カバー部と、第1カバー部よりも外径が小さい先端側の第2カバー部とを含んでいてもよい。この場合、ペン先を覆う機能は維持しつつ、先端側のカバー外周径を小さくすることができるので、軸筒先端により近い位置までペン先をカバーで覆った状態で移動させることが可能となる。その結果、ペン先からのインクによる軸筒内周の汚れをより一層、防止することが可能となる。
【0013】
上記の出没式筆記具において、ペン先を軸筒の第1開口部から外に突出させる動作の際、カバーの先端が軸筒の内周面に沿って前方側に移動することにより、ペン先の移動がガイドされることが好ましい。この場合、軸筒先端により近い位置までペン先をカバーで覆った状態で移動させることが可能となる。その結果、ペン先からのインクによる軸筒内周の汚れをより一層、防止することが可能となる。
【0014】
上記の出没式筆記具において、インク収納部に収納されるインク組成物は、着色剤、140℃以上の沸点を有する水溶性有機溶剤、及び水を含有するインク組成物であることが好ましい。または、インク収納部に収納されるインク組成物は、着色剤、25℃において20Pa以下の飽和蒸気圧を有する水溶性有機溶剤、及び水を含有するインク組成物であることが好ましい。上記何れかのインク組成物において、水溶性有機溶剤の含有量がインク組成物の全量を基準として50質量%以上であり、水の含有量がインク組成物の全量を基準として5~45質量%であってもよい。このようなインク組成物が収納された中芯を備えた出没式筆記具であれば、キャップ等を別途装着したり、又は開口部に開閉蓋のような複雑な機構を設けたりしなくても、長期間、ペン先を外気に曝してもその筆記線を掠れされることなく使用することが可能となる。なお、この出没式筆記具において、インク組成物は、25℃において5.0~30.0mPa・sの粘度を有してもよい。この場合、インク組成物を中綿式のマーカーとして好適に用いることが可能となる。
【0015】
上記の出没式筆記具において、インク組成物に含まれる水溶性有機溶剤は、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエタノールアミン、及び、600以下の平均分子量を有するポリエチレングリコールからなる群より選択された少なくとも1種を含むことが好ましい。インク組成物が、これらの水溶性有機溶剤を含むことにより、ペン先を長時間空気中に曝露した後であってもカスレのない筆記線の形成が可能な筆記具が一層得られやすくなる。なお、上記インク組成物において、着色剤は、酸性染料、塩基性染料、直接染料、界面活性剤分散型顔料、及び自己分散型顔料からなる群より選択された少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0016】
また、本発明は、別の側面として、出没式筆記具に用いられるマーカーリフィルに関する。このマーカーリフィルは、インク組成物を収納するインク収納部と、インク収納部の先端に取り付けられたペン先と、ペン先を覆うと共にその先端に開口部を有するカバーと、カバーをインク収納部に対して前方に付勢する弾性部材と、を備えている。マーカーリフィルは、初期状態ではペン先がカバーによって覆われた状態とし、且つ、カバーを初期状態から後方に向かって弾性部材による付勢力に抗して移動した場合に、ペン先がカバーの開口部から外に突出するに、構成されている。このマーカーリフィルは、例えば、上述した何れかの出没式筆記具のマーカー中芯のインクがなくなった場合に新たなマーカー中芯に容易に交換することができるものであり、出没式筆記具に装着されることにより、上記と同様の効果を奏し得るものである。
【0017】
上記のマーカーリフィルでは、インク収納部は、後端側の第1収納部と、当該第1収納部よりも外径が小さい先端側の第2収納部とを含んでおり、カバーは、筒形状であり、第1収納部の前端とカバーの後端との間であって第2収納部の外周に沿うように弾性部材が配置されていてもよい。また、カバーには、当該マーカーリフィルの軸方向に沿って延びる少なくとも1つのスリットが設けられてり、第2収納部には、その外周に少なくとも1つの突起が設けられており、突起がスリット内に位置すると共に当該突起がスリットに沿って移動することにより、インク収納部に対するカバーの移動がガイドされてもよい。上記の場合、上述した出没式筆記具と同様の効果を奏することができる。
【0018】
上記のマーカーリフィルでは、インク収納部に収納されるインク組成物は、着色剤、140℃以上の沸点を有する水溶性有機溶剤、及び水を含有するインク組成物であることが好ましい。または、インク収納部に収納されるインク組成物は、着色剤、25℃において20Pa以下の飽和蒸気圧を有する水溶性有機溶剤、及び水を含有するインク組成物であることが好ましい。上記何れかのインク組成物において、水溶性有機溶剤の含有量がインク組成物の全量を基準として50質量%以上であり、水の含有量がインク組成物の全量を基準として5~45質量%であってもよい。この場合も、上述した出没式筆記具と同様の効果を奏することができる。なお、このマーカーリフィルにおいて、インク組成物は、25℃において5.0~30.0mPa・sの粘度を有してもよい。この場合、インク組成物を中綿式のマーカーとして好適に用いることが可能となる。
【0019】
上記のマーカーリフィルでは、インク組成物に含まれる水溶性有機溶剤は、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエタノールアミン、及び、600以下の平均分子量を有するポリエチレングリコールからなる群より選択された少なくとも1種を含むことが好ましい。インク組成物が、これらの水溶性有機溶剤を含むことにより、ペン先を長時間空気中に曝露した後であってもカスレのない筆記線の形成が可能な筆記具が一層得られやすくなる。なお、上記インク組成物において、着色剤は、酸性染料、塩基性染料、直接染料、界面活性剤分散型顔料、及び自己分散型顔料からなる群より選択された少なくとも1種を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、中芯の1つとしてマーカー中芯を有する出没式筆記具において、出没の際に筆記具の先端を汚さない出没式筆記具およびそのような出没式筆記具に用いられるマーカーリフィルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る出没式筆記具の内部構造を示す断面図であり、図1の(a)は、何れの中芯も突出していない非操作時(初期状態)の断面図であり、図1の(b)は、1つの中芯が軸筒から外に突出している操作時の断面図である。
図2図2は、図1に示す出没式筆記具のマーカー中芯を示す斜視図である。
図3図3は、図2に示すマーカー中芯の一部品であるカバーを示す斜視図である。
図4図4の(a)は、図2に示すマーカー中芯の断面図であり、図4の(b)は、マーカー中芯にキャップを嵌めたリフィル製品の断面図である。
図5図5は、図1に示す出没式筆記具の先端部分を拡大して示す断面図であり、非操作時の図である。
図6図6は、図1に示す出没式筆記具の先端部分を拡大して示す断面図であり、操作時であってマーカー中芯が軸筒から外に突出した状態を示す図である。
図7図7は、図1に示す出没式筆記具のマーカー中芯が軸筒から外に突出した状態(操作時)を示す全体断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る出没式筆記具及び当該出没式筆記具に用いられる交換用のマーカーリフィルについて説明する。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いる場合があり、重複する説明は省略する。また、「前/前方」は、軸筒の軸方向の一方側であって出没式筆記具の先端方向を意味し、「後/後方」は、軸筒の軸方向の他方側であって出没式筆記具の先端方向とは逆の後端側を意味する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る出没式筆記具の内部構造を示す断面図である。図1の(a)及び(b)に示すように、出没式筆記具1は、前軸3及び後軸4を含む軸筒2、シャープペン中芯5、ボールペン中芯6、クリップ7、及び、スライド駒8を備えている。出没式筆記具1は、更に、蛍光ペン用のマーカー中芯10を備えている。マーカー中芯10の後端には、ノック操作用のスライド駒8の先端が挿入され、スライド駒8と連動するクリップ7を前方(図示の左方向)に移動することにより、マーカー中芯10が軸筒2(前軸3)の開口部3a(第1開口部)から外に突出するように構成されている(図7を参照)。マーカー中芯10は、ノックが解除されると、軸筒2内の初期位置に戻る(図1の(a)を参照)。このようにマーカー中芯10は、軸筒2から出没可能となっている。なお、軸筒2(後軸4)には、スライド駒8の外周への突起部を露出させる開口が設けられており、当該突起部がその開口内を移動することで、上述した前方及び後方への移動が可能となっている。
【0024】
出没式筆記具1では、このマーカー中芯10は、他の中芯であるシャープペン中芯5やボールペン中芯6と共に、軸筒2の円筒形状内に周方向に略均等になるように収納されている。シャープペン中芯5やボールペン中芯6は、マーカー中芯10と同様に、個別のスライド駒にそれぞれ連結され、各スライド駒を前方に移動することにより、各中芯が軸筒2の先端から外に選択的に突出するように構成されている(図1(b)を参照)。軸筒から突出した各中芯は、マーカー中芯10と同様に、ノックが解除されると、軸筒2内の初期位置に戻る(図1の(a)を参照)。上述した出没機構は、例えば特開平2016-068494号や特開平2016-168748号に記載されている従来の出没機構を用いることができるため、その詳細な説明は省略する。なお、図1に示す出没式筆記具の例では、中芯として、マーカー中芯10以外にシャープペン中芯5及びボールペン中芯6を軸筒2内に収納して選択的に一の中芯を出没できる構成としているが、マーカー中芯10と2つのボールペン中芯6(例えば色の異なる中芯)とを軸筒2内に収納する構成でもよく、また、複数のマーカー中芯10(例えば色の異なる中芯)を軸筒2内に収納する構成でもよく、更に、収納する中芯の数はマーカー中芯10を含めて2本以上であればよく、3本の中芯に限定されるものではなく4本等でもよい。
【0025】
次に、図2図4を参照して、マーカー中芯10の詳細な構成について説明する。図2は、図1に示す出没式筆記具1のマーカー中芯10を示す斜視図である。図3は、マーカー中芯10の一部品であるカバー14を示す斜視図である。図4の(a)は、マーカー中芯10の断面図であり、図4の(b)は、マーカー中芯10にキャップ17を嵌めたリフィル製品の断面図である。
【0026】
マーカー中芯10は、例えば蛍光のマーキングペンとして用いられる中芯であり、インクタンク11(インク収納部)、中綿12、ペン先13、カバー14、カバースプリング15(弾性部材)、及び、尾栓16を備えている。インクタンク11、中綿12、ペン先13、カバー14、及び、尾栓16は、所定のプラスチック材料、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、ポリアセタール(POM)等から構成される。
【0027】
インクタンク11は、円筒形状であり、後端側のメインタンク部11a(第1収納部)と、前端側に位置し、メインタンク部11aよりも外径が小さいペン先挿入部11b(第2収納部)とを含んで構成される。インクタンク11のメインタンク部11aには、その後端に開口が設けられており、その開口から、水性インク等のインク組成物が繊維間に吸蔵された中綿12を挿入し、中綿12をその中に収納する。これにより、マーキングペン用のインク組成物がインクタンク11(メインタンク部11a)内に収納される。インクタンク11の後端の開口は、中綿12の挿入後に尾栓16により密封される。尾栓16には取付け穴16aが設けられており、取付け穴16aにスライド駒8の先端が挿入され、スライド駒8の移動に伴ってマーカー中芯10が前方又は後方に移動する。なお、スライド駒8は、この取付け穴16aからマーカー中芯10を容易に取り外すことができ、これにより、マーカー中芯10の交換を行えるようになっている。
【0028】
インクタンク11の先端側のペン先挿入部11bにはペン先13が挿入され、ペン先13がインクタンク11に取り付けられている。ペン先13は、インクタンク11内において、その後端部分が中綿12内に入り込む位置まで挿入されて、インクタンク11に対して固定される。ペン先13は、略円柱形状の芯が軸方向に沿って延在したチップ部材であり、毛細管現象を利用して中綿12内に吸蔵されたインク組成物をその先端まで移動させ、マーキングペンとしての筆記に使用させる部材である。ペン先13としては、例えば、先端にPOM被膜を設けたコートチップを用いることができる。
【0029】
ペン先13の外側にはカバー14が配置されている。カバー14は、略円筒形状であり、出没式筆記具1のマーカー中芯10を外に突出させる操作が行われていない非操作時(初期状態)において、ペン先13の外側に配置されて、ペン先13のうちインクタンク11から前方に露出している部分(先端部分)を略完全に覆う。また、カバー14の先端には開口部14a(第2開口部)が設けられており、後述するように、軸筒2内においてマーカー中芯10が前方に移動するように操作された際に、ペン先13の先端部分が開口部14aから外に突出できるように構成されている。マーカー中芯10は、軸筒2への収納された非操作時にはペン先13がカバー14によって覆われており、ペン先13が軸筒2の開口部3aから外に出る際にはカバー14がペン先13に対して相対的に後方に移動してペン先13の先端をカバー14の開口部14aから突出させるように構成されている。
【0030】
また、カバー14は、後端側の大径部14b(第1カバー部)と、大径部14bよりも外径が小さい小径部14c(第2カバー部)とを有している。ペン先13は、カバー14の大径部14bから小径部14cにわたって覆われている。カバー14には、周方向において略逆側になる位置に一対のスリット14dが設けられている。スリット14dからは内部のペン先13の一部を視認することができる。また、各スリット14dには、その後端に接するように、インクタンク11のペン先挿入部11bの外周に設けられた一対の突起11cが位置している。カバー14(大径部14b)の内周とペン先13の外周との間には隙間Sが設けられている(図4の(a)を参照)。隙間Sの径方向に沿った幅は、例えば0.5mm以上になっており、両者の間に十分な大きさの隙間が形成されている。
【0031】
カバー14の後端とインクタンク11のメインタンク部11aの前端との間には、カバースプリング15が配置されている。カバースプリング15は、インクタンク11のペン先挿入部11bの外周に位置する。カバースプリング15は、メインタンク部11aを基準としてカバー14を前方に付勢する。マーカー中芯10では、カバー14がスリット14d内に位置する突起11cによって更に前方に移動できないように構成されていることから、カバースプリング15がカバー14を前方に付勢した状態で、上述した位置に配置されている。カバースプリング15は、マーカー中芯10が前方に移動する際、即ち、ペン先13が軸筒2の開口部3aから外に突出する動作を行う際、カバー14がペン先13に対して相対的に後方に移動することに伴って圧縮される。圧縮されたカバースプリング15は、ノックが解除されると、カバー14がペン先13を覆うように現状復帰させる。
【0032】
なお、図4の(b)は、上記構成のマーカー中芯10と略同様の構成を備えたマーカーリフィル10aの断面を示している。即ち、マーカーリフィル10aは、マーカー中芯10と同様に、インクタンク11、中綿12、ペン先13、カバー14、カバースプリング15、及び、尾栓16を備えており、出没式筆記具1におけるマーカー中芯10に収納されたインク組成物が使い終わった後、当該中芯を交換するためのリフィル製品である。図4の(b)では、マーカーリフィル10aは、インクの乾燥防止のため、キャップ17を更に備える構成となっているが、乾燥防止機能を備えたインク組成物を用いた場合には、キャップ17を備えなくてもよい。また、マーカーリフィル10aをプラスティックフィルム等によって個別に包装するような場合にもキャップ17を備えなくてもよい。
【0033】
続いて、上記構成を備えたマーカー中芯10を備えた出没式筆記具1において、マーカー中芯10のペン先13を軸筒2から外に出す操作を行う際の各構成の動作について、図5図7を参照して説明する。図5は、出没式筆記具1の先端部分を拡大して示す断面図であり、非操作時の図である。図6は、出没式筆記具1の先端部分を拡大して示す断面図であり、操作時であってマーカー中芯10が軸筒2から外に突出した状態を示す図である。図7は、出没式筆記具1のマーカー中芯10が軸筒2から外に突出した状態(操作時)を示す全体断面図である。
【0034】
まず、図5に示すように、マーカー中芯10を外に出す操作前の状態(非操作時)では、マーカー中芯10のペン先13はカバー14によって完全に覆われている。その後、マーカー中芯10を軸筒2の開口部3aから外に出す動作を行おうとすると、まず、マーカー中芯10が非操作時の状態のままでそのまま前方に移動する。そして、マーカー中芯10の先端、即ちカバー14の小径部14cの先端が軸筒2の前軸3の内周面3bに接触する。その後、マーカー中芯10を更に前方に移動させると、小径部14cの先端が内周面3bを伝ってガイドされ、開口部3aまで移動する。
【0035】
開口部3aの内径は、小径部14cの外径よりも小さいため、ここで小径部14cの移動が制限される。この制限箇所からマーカー中芯10を更に前方に移動させると、図6及び図7に示すように、ペン先13に対してカバー14が相対的に後方に移動、即ちペン先13がカバー14に対して前方に移動して、ペン先13の先端がカバー14の小径部14cに設けた開口部14a及び軸筒2の開口部3aを順に通過して、軸筒2の外に突出する。この際、カバースプリング15は圧縮される。その後、所定の筆記作業が終了してノックが解除されると、カバースプリング15の圧縮力により突出動作と逆の動きをして、マーカー中芯10は初期状態に復帰する。
【0036】
以上、本実施形態に係る出没式筆記具1によれば、非操作時にマーカー中芯10のペン先13を覆うカバー14が設けられており、操作時にペン先13が軸筒2から外に出る動作の際にカバー14がペン先13に対して相対的に後方に移動してペン先13の先端をカバーから突出させるように構成されている。このため、マーカー中芯10のペン先13が軸筒2から外に出るまではカバー14に略覆われることになり、ペン先13が軸筒2の内周面3bに接しないことになる。その結果、出没式筆記具1によれば、ペン先13の出没の際に出没式筆記具1の先端を汚さないようにすることができる。また、このように出没式筆記具1の先端を汚さないため、使用者がこの筆記具を衣服等のポケットにしまったとしても衣服を汚さないようにすることができる。
【0037】
また、出没式筆記具1では、マーカー中芯10は、インクタンク11とカバー14との間に配置されるカバースプリング15を更に有し、カバースプリング15がカバー14をインクタンク11に対して前方に付勢している。このため、マーカー中芯10が軸筒2に収納されている非操作時(初期状態)にペン先13をカバー14で覆うようにし、マーカー中芯10のペン先13が軸筒2から外に突出する際にペン先13をカバー14から出す(つまりカバー14をペン先に対して後方に移動させる)といった動作を簡易な機構により実現することができる。
【0038】
また、出没式筆記具1では、インクタンク11は、後端側のメインタンク部11aと、メインタンク部11aよりも外径が小さい先端側のペン先挿入部11bとを含み、カバー14が円筒形状であってもよい。そして、メインタンク部11aの前端とカバー14の後端との間であってペン先挿入部11bの外周に沿うようにカバースプリング15が配置されている。このため、カバースプリング15を含むマーカー中芯10の構成をコンパクトなものにすることができ、軸筒2を必要以上に大きな形状にせず、出没式筆記具1を筆記に適したサイズとすることが可能となる。
【0039】
また、出没式筆記具1では、カバー14には、軸筒2の軸方向に沿って延びる一対のスリット14dが設けられており、ペン先挿入部11bには、その外周に一対の突起11cが設けられている。そして、各突起11cが各スリット14d内に位置すると共に突起11cがスリット14dに沿って移動することにより、インクタンク11に対するカバー14の移動がガイドされる。この構成によれば、カバー14の先端からのペン先13の出没動作をより確実なものとして、ペン先13による筆記具先端の汚れをカバー14によって一層確実に防止することができる。
【0040】
また、出没式筆記具1では、カバー14の内周とペン先13の外周との間に隙間Sが設けられており、隙間Sの径方向に沿った幅が0.5mm以上であってもよい。カバー14の内周とペン先13の外周との間の隙間Sが狭い場合、毛細管現象によりペン先13からのインクがその間を伝わってペン先13から外に出やすいが、カバー14の内周とペン先13との間の隙間Sをある程度の幅で設けることにより、このようなペン先13からのインク漏れを防止することが可能となる。これにより、カバー14の内部にペン先13からのインクが貯まってしまい、そのインクにより軸筒2の先端を汚してしまうといったことを防止することができる。また、このような隙間Sがあることによりペン先13に対するカバー14の動きに少し遊びを持たせることができるので、ペン先13を軸筒2から出没させる際の動作をスムーズにすることも可能となる。
【0041】
また、出没式筆記具1では、カバー14は、後端側の大径部14bと、大径部14bよりも外径が小さい先端側の小径部14cとを含んでいる。このため、ペン先13を覆う機能は維持しつつ先端側のカバー14の外周径を小さくし、これにより、軸筒2の先端により近い位置までペン先13をカバー14で覆った状態で移動させることが可能となる。その結果、ペン先13からのインクによる軸筒2の内周面3bの汚れをより一層、防止することが可能となる。
【0042】
また、出没式筆記具1では、ペン先13を軸筒2の開口部3aから外に突出させる動作の際、カバー14の先端が軸筒2の内周面2bに沿って前方側に移動することにより、ペン先13の移動がガイドされることが好ましい。この場合、軸筒2の先端により近い位置までペン先13をカバー14で覆った状態で移動させることが可能となる。その結果、ペン先13からのインクによる軸筒2の内周面2bの汚れをより一層、防止することが可能となる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく様々な実施形態に適用することができる。例えば、上記実施形態では、中綿式マーキングペンを例にとって説明したが、直液式マーキングペンに本発明を適用してもよい。また、上記実施形態ではインクタンク11に収納されるインクが一般的な蛍光ペン用インクである例をとって説明してきたが、長期的なマーカーの掠れを防止するため、インク組成物を以下のような組成のものとしてもよい。これにより、出没式筆記具1のインク組成物を長期にわたって掠れないものすることができ、先端にキャップ等を設ける必要がなくなる。
【0044】
ここで、上述した出没式筆記具1に用いられる水性インクのインク組成物の変形例について説明する。この変形例に係るインク組成物としては、着色剤、140℃以上の沸点を有する水溶性有機溶剤、及び水を含有するインク組成物を用いることができる。ここでいう沸点は1気圧(101325Pa)における通常沸点を指す。また、水溶性有機溶剤とは、20℃における水への溶解度が例えば15g/100mL以上、好ましくは30g/100mL以上である有機溶剤である。なお、上記インク組成物は、140℃以上の沸点を有する水溶性有機溶剤に代えて、25℃において20Pa以下の飽和蒸気圧を有する水溶性有機溶剤を含有していてもよい。
【0045】
上記水溶性有機溶剤は、アルコール又はそのアルキルエーテルであることが好ましい。上記アルコールは、多価アルコールであることが好ましく、2価アルコール又は3価アルコールであることがより好ましい。上記水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール(PEG)、ジエチレングリコール、トリエタノールアミン、1,3-ブチレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリオキシアルキレンエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ジメチルトリグリコール、N-エチルジエタノールアミン、モノ-n-ブチルジエタノールアミン、ポリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、及び、コハク酸ビスエトキシジグリコール等が挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は、単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0046】
上記水溶性有機溶剤は、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエタノールアミン、及び、600以下の平均分子量を有するポリエチレングリコールからなる群より選択された少なくとも1種を含むことが好ましい。インク組成物が上記水溶性有機溶剤を含むことにより、ペン先を長時間空気中に曝露した後であってもカスレのない筆記線の形成が可能な筆記具が一層得られやすくなる。なお、上記ポリエチレングリコールの平均分子量は150以上であることが好ましい。いくつかの溶媒の沸点及び蒸気圧を下記表1にまとめる。表1中の「PEG200」は平均分子量180~220のポリエチレングリコールである。
【0047】
【表1】
【0048】
本変形例に係るインク組成物は、水溶性有機溶剤として2価アルコール及び3価アルコールの両方を含有することが好ましく、さらに、3価アルコールとしてグリセリンを含むことがより好ましい。インク組成物がグリセリンを含むことにより、さらに、浸透面への筆記線の裏抜けを抑制できる傾向がある。
【0049】
インク組成物がグリセリンを含むと、粘度が特に高くなる傾向があり、直液式の筆記具においては問題がないが、中綿式の筆記具における好適な粘度範囲を外れる可能性がある。しかし、インク組成物がグリセリンと併せて2価アルコールを含むことにより、グリセリンによる裏抜け抑制効果を得つつ、中綿式の筆記具に適したインク組成物の粘度とすることができる。このような2価アルコールとして、エチレングリコールを用いることが好ましい。インク組成物が上記混合溶剤を含む場合、水溶性有機溶剤全量に対する、グリセリンの含有量は70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。また、水溶性有機溶剤全量に対する、グリセリンの含有量は5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。なお、水溶性有機溶剤全量に対するグリセリンの含有量は30質量%以上であってもよく、50質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよい。
【0050】
本変形例に係るインク組成物において、上記水溶性有機溶剤の含有量は、インク組成物の全量を基準として、50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。インク組成物が上記水溶性有機溶剤を50質量%以上含有することにより、ペン先を長時間空気中に曝露した後であってもカスレのない筆記線の形成が可能な筆記具を得ることができる。上記水溶性有機溶剤の含有量は、例えば、インク組成物の全量を基準として、90質量%以下であることができる。
【0051】
本変形例に係るインク組成物は水を含有し、水の含有量は、インク組成物の全量を基準として、5~45質量%であり、好ましくは5~40質量%であり、より好ましくは5~35質量%であり、さらに好ましくは5~25質量%である。本実施形態に係るインク組成物は吸湿性を有する水溶性有機溶剤を50質量%以上含有し、筆記具中のインク組成物が吸湿するとインク漏れが発生する可能性がある。吸湿性によるインク漏れの問題は水溶性有機溶剤としてエチレングリコール又はグリセリン等、特にエチレングリコールを用いたときに顕著である。しかし、インク組成物に水を5質量%以上含有させておくことにより、その後の吸湿を抑制し、長期間に亘ってインク漏れの発生を抑制することができる。また、水の含有量が45質量%以下であることにより、ペン先を長時間外気に曝露した後であってもカスレのない筆記線の形成が可能な筆記具を得やすくなる。
【0052】
なお、水溶性有機溶剤全量に対するグリセリンの含有量が70質量%以上である場合、水の含有量は、インク組成物の全量を基準として、35~45質量%であることが好ましい。インク組成物が水を35質量%以上含有することにより、グリセリン含有量が大きい場合であっても、インク組成物の粘度の増加を抑えることができ、マーキングペンにおけるインク組成物の排出がしやすくなる。
【0053】
本変形例に係るインク組成物において、着色剤は、酸性染料、塩基性染料、直接染料、界面活性剤分散型顔料、及び自己分散型顔料からなる群より選択された少なくとも1種を含むことができる。着色剤の含有量は、インク組成物の全量を基準として、例えば、0.5~5.0質量%であることができる。
【0054】
本変形例に係るインク組成物は、本実施形態で得られる効果を損なわない範囲で、上記成分に加えて、上記水溶性有機溶剤及び水以外の溶剤、防腐剤、pH調整剤、増粘剤、防腐剤(防黴剤)、潤滑剤、及び界面活性剤等の添加剤を含有していてもよい。上記インク組成物は、樹脂を含有しないことが好ましい。また、不揮発分は、上記インク組成物の全量を基準として、0.1~10質量%であることが好ましく、0.1~5.0質量%であることがより好ましい。インク組成物が樹脂を含有しないことにより、又は、不揮発分が10質量%以下であることにより、ペン先を長時間空気中に曝露した後であってもカスレのない筆記線の形成が可能な筆記具を得やすくなる。
【0055】
本変形例に係るインク組成物の粘度は、例えばインク組成物を中綿式マーキングペンに用いる場合には、25℃において、5.0~30.0mPa・sであることが好ましい。また、上記粘度は、インク組成物を直液式マーキングペンに用いる場合には、25℃において、5.0~100.0mPa・sであることが好ましい。
【0056】
本変形例のインク組成物は、上記水溶性有機溶剤、着色剤及び水、必要に応じて添加剤を、例えば、ディゾルバー、ヘンシェルミキサー及びホモミキサーなどの攪拌機を用いて混合することにより得られる。攪拌機の攪拌条件は特に制限されないが、たとえば、ディゾルバー攪拌機を用いて、回転数100~1000rpmで30~180分間攪拌することにより、各成分が均一に分散したインク組成物を得ることができる。
【符号の説明】
【0057】
1…出没式筆記具、2…軸筒、3…前軸、3a…開口部(第1開口部)、3b…内周面、4…後軸、7…クリップ、8…スライド駒、10…マーカー中芯、10a…マーカーリフィル、11…インクタンク(インク収納部)、11a…メインタンク部(第1収納部)、11b…ペン先挿入部(第2収納部)、12…中綿、13…ペン先、14…カバー、14a…開口部(第2開口部)、14b…大径部(第1カバー部)、14c…小径部(第2カバー部)、14d…スリット、15…カバースプリング(弾性部材)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7