(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】紫外線照射装置
(51)【国際特許分類】
B01J 19/12 20060101AFI20230720BHJP
C02F 1/32 20230101ALI20230720BHJP
【FI】
B01J19/12 C
C02F1/32
(21)【出願番号】P 2019121780
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 篤史
(72)【発明者】
【氏名】杉山 聖
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 直人
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-122262(JP,A)
【文献】特開2018-122263(JP,A)
【文献】特開2011-039120(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0008167(US,A1)
【文献】特開2011-050828(JP,A)
【文献】国際公開第2015/046014(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 10/00-12/02
B01J 14/00-19/32
C02F 1/20- 1/26
C02F 1/30- 1/38
A61L 2/00- 2/28
A61L 11/00-12/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理室と、
当該処理室の内部に向けて紫外線を照射する光源と、を備え、
前記処理室の内壁面は
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で形成されている紫外線反射面を有し、当該紫外線反射面における、前記光源から照射される前記紫外線の光軸方向に対する二乗平均平方根波長が1μm以上70μm以下である紫外線照射装置。
【請求項2】
前記紫外線反射面における前記光軸方向の要素の平均長さが140μm以上400μm以下である請求項1に記載の紫外線照射装置。
【請求項3】
前記紫外線反射面における算術平均粗さが2μm以上8μm以下である請求項1又は請求項2に記載の紫外線照射装置。
【請求項4】
前記紫外線反射面における最大高さが2μm以上53μm以下である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。
【請求項5】
前記紫外線反射面は、前記内壁面のうち、少なくとも前記光源側の端部から前記処理室の相当直径だけ前記光軸方向に離れた位置までの領域に形成される請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。
【請求項6】
前記紫外線の照射対象である照射対象物を前記処理室に流入する流入部と、
前記処理室から前記照射対象物を流出する流出部と、を備える請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の紫外線照射装
置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外線を用いて殺菌する際には、紫外線光源として水銀ランプやキセノンランプ等の管球が用いられている。また、近年、殺菌を行うことの可能な波長の光を照射することのできるLED(light emitting diode)が実用化されたことによって、紫外線光源として管球を用いた場合では実現できなかった装置構成が可能になっている。例えば、紫外線光源の光エネルギをより効果的に殺菌に用いるため、特許文献1及び特許文献2に示すように、管状の流路内壁面にフッ素樹脂を反射材として用いた構造が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-122262号公報
【文献】特開2018-122263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らは、流路内壁面にフッ素樹脂を反射材として用いたとしても、反射材そのものの表面性状によって反射特性が変化し、そのため、流路内の照射密度が低下し、殺菌性能が低下することを確認した。
また、上記特許文献1及び特許文献2においては、流路内壁面に気泡が付着すると、気泡により紫外光が散乱され、流路内の紫外光の強度分布が変化することから、これを回避するために、流路内壁面の表面粗さRaを規定している。つまり、表面粗さRaが大きいと、気泡が付着している状態では殺菌性能が高くなるが、気泡に依存するため殺菌性能が安定しない(特許文献2参照)。一方で、表面粗さRaが小さいと気泡が付着しにくくなり、殺菌性能が安定する(特許文献1参照)。
【0005】
ここで、特許文献1のように表面粗さRaを2μm以下に制御しようとしたとき、通常の旋削方法で流路となる管状部材を形成する場合には、切削工具をより低速度で移動させる必要がある。このように切削工具の移動速度を低速度化することは生産性の低下につながり、生産コストが増大することになる。一方、流路として押出パイプ材を用いることで、気泡が付着しにくい表面粗さを有する流路内壁面を実現することができるが、この場合には、流路の内径寸法の精度を出すことが困難であり、殺菌性能が安定しない。
そこで、この発明は、従来の未解決の問題に着目してなされたものであり、生産性の低下を抑制しつつ、流路内の反射特性の変化を抑制し、殺菌性能を向上させることの可能な紫外線照射装置及び紫外線照射装置の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係る紫外線照射装置は、処理室と、当該処理室の内部に向けて紫外線を照射する光源と、を備え、前記処理室の内壁面はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で形成されている紫外線反射面を有し、当該紫外線反射面における、前記光源から照射される前記紫外線の光軸方向に対する二乗平均平方根波長が1μm以上70μm以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、生産性の低下を抑制しつつ、紫外線の照射密度を向上させることができ、紫外線照射装置の殺菌性能をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明を適用した紫外線照射装置の一例を示す概略の断面図である。
【
図2】パラメータ値の測定方法を説明するための説明図である。
【
図3】二乗平均平方根波長Rλqと紫外線照射装置1におけるLED出力64mW(LED波長270nm)における殺菌性能(LRV)(Flow Rate:2L/min、菌種:E.Coli ATCC8739)との対応を示す特性図である。
【
図4】要素の平均高さRSmと紫外線照射装置1におけるLED出力64mW(LED波長270nm)における殺菌性能(LRV)(Flow Rate:2L/min、菌種:E.Coli ATCC8739)との対応を示す特性図である。
【
図5】最大高さRz及び算術平均粗さRaと、紫外線照射装置1におけるLED出力64mW(LED波長270nm)(Flow Rate:2L/min、菌種:E.Coli ATCC8739)における殺菌性能(LRV)との関係を説明するための特性図であって、(a)は最大高さRzと殺菌性能(LRV)との関係、(b)は算術平均粗さRaと殺菌性能(LRV)との関係を示す。
【
図6】処理室内における光学シミュレーション結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
本発明者らは、鋭意検討し実験を重ねた結果、処理室の内壁面に紫外線反射面を設け、この紫外線反射面の光軸方向に対する二乗平均平方根波長を1μm以上70μm以下の値に制限することで、生産性の低下を抑制しつつ紫外線の照射密度を向上させることができることを見出した。
本発明に係る紫外線照射装置は、処理室と、処理室の内部に向けて紫外線を照射する光源と、を備え、処理室の内壁面は紫外線反射面を有し、紫外線反射面における、光源から照射される紫外線の光軸方向に対する二乗平均平方根波長が1μm以上70μm以下である。
【0011】
〔紫外線照射装置の構成〕
図1は、本発明を適用した紫外線照射装置1の構成の一例を概略的に示す断面図である。
紫外線照射装置1は、処理室構造部2と、発光部3と、を備える。
処理室構造部2は、内筒21と、内筒21及び発光部3を収容するケース部22と、を備える。
内筒21は、紫外線反射物質で形成される。紫外線反射物質としてはフッ素系樹脂材料が好ましく、例えばポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene PTFE)で形成される。ここでいう紫外線反射物質とは、UVC光(波長220nm以上300nm)に対して、拡散透過率が1%/1mm以上10%/1mm以下であり、且つ、全反射率が70%/1mm以上100%/1mm以下である物質のことをいう。
【0012】
内筒21は、両端が開口された筒状に形成され、内筒21の中空部が処理室(以下、単に処理室21cともいう。)を構成している。処理室21cは、その内壁面が後述する表面性状の条件を満足するように形成される。内筒21は、その内径は一定であるが、長手方向中央部付近に、その外径が他の領域よりも大きい大径部21aを有する。この大径部21aは、内筒21をケース部22に収容したときに、大径部21aの外周とケース部22の内周面とが密着するように形成される。
内筒21の発光部3側の端部寄りの位置には、周方向の例えば60度離れた6箇所に、径方向を向き、内筒21を貫通する連通口21bが形成されている。なお、連通口21bの配置位置及び配置数はこれに限るものではない。
内筒21の発光部3とは逆側の端部には、整流板23が開口部を塞ぐように設けられている。
【0013】
整流板23は、PTFE等の紫外線反射物質で形成される。整流板23は、表裏間を通じる開口孔23aを複数有し、照射対象物が整流板23を介して処理室21cに導入されることによって整流効果を発揮し、照射対象物の流速のばらつきを抑制するようになっている。なお、ここでは、内筒21内に導入される照射対象物を、整流板23を設けることにより整流するようにしているが、整流板23に限るものではなく、整流することの可能な整流機構を設ければよい。また、要求される殺菌効果を得ることができるのであれば、整流板23つまり整流機構を必ずしも設けなくともよい。
【0014】
内筒21の発光部3側の開口部には、開口部に密着して円盤状の窓24が設けられている。また、窓24は、内筒21をケース部22に収容したときに、窓24の外周面とケース部22の内周面とが密着するように形成される。
窓24は、例えば、石英ガラス等の紫外線透過性素材で形成される。
ケース部22は、例えば、ポリオレフィン、具体的にはポリプロピレン又はポリエチレンで形成される。
【0015】
ケース部22は、中空部の断面が円形の筒状を有し、内筒21を収容したときにケース部22の内壁面と大径部21aの外周面とが密着し、また、内筒21に設けられた整流板23とケース部22の一端との間、及び窓24とケース部22の他端との間に隙間が形成される大きさに形成される。ケース部22の、発光部3とは逆側寄りの外周面には、円筒状の中空部を内部に有する流入部22aがケース部22と一体に形成され、ケース部22の、発光部3寄りの外周面には、円筒状の中空部を内部に有する流出部22bがケース部22と一体に形成されている。これら流入部22a及び流出部22bは、ケース部22に内筒21を収容したときに、流入部22a及び流出部22bが、内筒21の大径部21aを挟んで軸方向両側に形成される隙間のそれぞれに個別に連通する位置に配置される。
【0016】
このため、内筒21をケース部22に収容したときに、内筒21の大径部21aとケース部22の内周面とが密着し、ケース部22と内筒21との隙間が二つの区画に分割される。そのため、流入部22aから入力された照射対象物は、整流板23側に形成された区画(以後、流入側整流室25という。)から、整流板23を通って処理室21cに流入する。そして、処理室21c内の照射対象物は、連通口21bを通って、窓24側に形成された区画(以後、流出側整流室26という。)に流出され、流出部22bを通って、紫外線照射装置1外に排出される。このとき、内筒21の大径部21aとケース部22の内周面とは密着しているため、流入側整流室25と流出側整流室26とは連通しない。また、窓24の外周とケース部22の内周面とは密着するため、窓24とケース部22の発光部3側との隙間は水密性が保たれる。
【0017】
発光部3は、光源としての発光素子31とこの発光素子31が実装された基板32とを含む。発光素子31は、例えば、UVC-LED(深紫外LED)からなる。発光部3は、窓24とケース部22との隙間に、発光素子31の発光面が窓24と対向するようにケース部22に固定される。発光素子31は、発光素子31からの照射光の光軸と、処理室21cの長手方向の中心軸とが一致するように配置される。
発光素子31は、例えば図示しない制御装置により制御される。
これにより、紫外線照射装置1に入力される照射対象物は流入部22a、流入側整流室25、整流板23を通って処理室21cに導入され、処理室21c内を移動しながら、発光素子31により紫外光の照射を受けた後、連通口21b、流出側整流室26、流出部22bを通って、紫外線照射装置1から排出される。
【0018】
〔処理室の内壁面の表面性状〕
次に、処理室21cの内壁面の表面性状について説明する。
本実施形態に係る紫外線照射装置1の処理室21cは紫外線反射物質で形成されている。つまり、処理室21cの内壁面は紫外線反射面を形成している。
処理室21cの内壁面つまり紫外線反射面は、その表面性状が次の(A)~(D)の表面性状の条件のうち少なくとも条件(A)を含む、一又は複数の条件を満足するように形成される。
(A)発光素子31からの照射光の光軸方向に対する二乗平均平方根波長Rλqが1μm以上70μm以下であること。
(B)発光素子31からの照射光の光軸方向の要素の平均長さRSmが140μm以上400μm以下であること。
(C)算術平均粗さRaが2μm以上8μm以下であること。
(D)最大高さRzが2μm以上53μm以下であること。
【0019】
なお、ここでいう二乗平均平方根波長Rλqとは、二乗平均平方根傾斜角から推定される平均波長を表す値を表したものであり、次式(1)で表される。式(1)中のZqは、基準長さにおける高さZ(x)の二乗平均平方根である。また、RΔqは、二乗平均平方根傾斜である。二乗平均平方根傾斜RΔqは、基準長さにおける局部傾斜dZ/dXの二乗平均平方根を表したものである。局部傾斜dZ/dXは、Z(x)を微分したものである。微分は基本的には7点公式を用いる。なお線の両端から3点以内ではデータが足りないため、3点公式、5点公式を用いる。
【0020】
【0021】
要素の平均長さRSmは基準長さにおける輪郭曲線要素の長さの平均を表したものであり、次式(2)で表される。(2)式中のXsiは1つの輪郭線要素に対応する長さである。この場合の輪郭要素を構成する山(谷)には、最低高さと、最低長さの規定があり、高さ(深さ)が最大高さの10%以下、または長さが計算区間の長さの1%以下であるものはノイズとみなされて、前後に続く谷(山)の一部と認識する。
【0022】
【0023】
〔処理室の形成方法〕
本実施形態に係る紫外線照射装置1の処理室21cは、例えば、次の手順で形成する。
上記表面性状の条件を満足し得る紫外線反射面を作製するためには、紫外線反射面つまり、処理室21cの内壁面を旋削加工により作製するときに、切削部材の送り量を、0.03mm/rev以上0.17mm/rev以下の範囲内の値に設定する。このように設定することによって、上記の表面性状の条件を満足し得る表面性状を有する内壁面、すなわち紫外線反射面を実現することができる。
【0024】
〔効果〕
以上説明したように、処理室21cの内壁面の表面性状が、上記の表面性状の条件を満足するように処理室21cを作製することによって反射率を向上させることができ、その結果、殺菌性能を向上させることができる。また、このとき、処理室21cの内壁面の表面性状そのものを調整することで反射率を向上させている。そのため、例えば、処理室21cの内壁面の気泡を利用して反射率を向上させる場合等のように、時間の経過と共に反射率が変化することはなく、一定以上の殺菌性能を発揮することができる。また、紫外線反射面の表面性状が、上記の表面性状の条件を満足するためには、旋削加工工程における切削部材の送り量を、0.03mm/rev以上0.17mm/rev以下の範囲に設定すればよい。そのため、紫外線反射面の形成に伴う処理時間が大幅に増大することなく、上記の表面性状の条件を満足し得る紫外線反射面を形成することができる。つまり、生産性の低下を抑制しつつ、反射率を向上させることができ、殺菌性能を向上させることができる。
【0025】
なお、上記実施形態においては、処理室21cの内壁面全面が上記の表面性状の条件を満足していなくともよい。少なくとも処理室21cの内壁面の、発光部3側の端部から、処理室21cの相当直径だけ離れた位置までの領域のみ、表面性状の条件を満足していればよい。つまり、紫外線照射装置1において、照射対象物に対する照射密度が最も高い領域は、発光素子31の直前から、処理室21cの相当直径だけ離れた位置までの領域である。そのため、照射対象物に対する照射密度が最も高い領域についてのみ十分な反射特性が得られるように紫外線反射面の表面性状を制御することによって、高い照射密度を得ると共に生産性を向上することができる。なお、相当直径とは、「(処理室21cの断面積の4倍)/(流路断面周の長さ)」のことをいう。
【0026】
また、上記実施形態においては、PTFEから内筒21を形成する場合について説明したがこれに限るものではない。フッ素系樹脂材料は、その表面性状がPTFEの表面性状と同等程度であるとみなすことができるため、PTFEとは別のフッ素系樹脂材料を用いて内筒21を形成した場合も、上記表面性状の条件を満足するようにすれば、上記と同等の作用効果を得ることができる。
また、上記実施形態においては、
図1に示すように、紫外線照射装置1が、流入側整流室25と流出側整流室26とを備える場合について説明したが、流入側整流室25と流出側整流室26とを備えていなくともよい。要は、内壁面に反射材が設けられた処理室21cを有し、処理室21cの端部に設けられた発光素子31から、照射対象物に対して紫外線照射を行うようになっている紫外線照射装置であれば適用することができる。
【0027】
〔効果の詳細説明〕
次に、表面性状の条件を満足するように内筒21を作製することによる効果を詳述する。
本発明者らは、表面性状の異なる紫外線反射材を用いて
図1に示した紫外線照射装置1にてE.Coli(ATCC8739)菌液を2L/minで通水した際の殺菌性能の検出を行った。紫外線照射装置1において反射材のみを変えて殺菌性能評価をする事で、反射材特性を間接的に評価する事が出来る。なお、先行文献1、2に記載の通り、反射面に気泡が付着すると反射材特性が正確に評価できないので、評価時には脱気水を事前に流して反射面の気泡を除去した上で殺菌評価を実施した。
【0028】
表面性状の条件で規定される各種パラメータの測定は次の手順で行った。すなわち、
図2(a)に示すように、レーザ共焦点顕微鏡VK-X(株式会社キーエンス社製)を用いて、紫外線反射面の表面性状を測定した。レンズ倍率は10倍、視野角は約1mmとした。具体的には、内筒21に相当するPTFEからなる円筒状の部材を軸方向に沿った切断線で四等分し、そのうちの一つの個片をパラメータ測定用のサンプルS1とした。このサンプルS1の内壁面つまり紫外線反射面に相当する面について、軸方向の21箇所において各パラメータを測定した(
図2(b))。二乗平均平方根波長Rλqについては、軸方向の21箇所それぞれについて算出した二乗平均平方根波長Rλqの平均値を紫外線反射面の二乗平均平方根波長Rλqとした。同様に、軸方向の21箇所それぞれについて算出した要素の平均長さRSmの平均値を紫外線反射面の要素の平均長さRSmとした。また、21箇所それぞれについて算出した算術平均粗さの平均値を紫外線反射面の算術平均粗さRaとし、21箇所それぞれについて算出した最大高さRzの平均値を、紫外線反射面の最大高さRzとした。
【0029】
そして、二乗平均平方根波長Rλqが異なる複数のサンプルS1、要素の平均長さRSmが異なる複数のサンプルS1、算術平均粗さRaが異なる複数のサンプルS1、最大高さRzが異なる複数のサンプルS1をそれぞれ用意し、各サンプルS1についてそれぞれ対応するパラメータ、すなわち二乗平均平方根波長Rλq、要素の平均長さRSm、算術平均粗さRa、最大高さRzを測定した。
【0030】
〔殺菌性能と二乗平均平方根波長Rλqとの関係〕
図3は、紫外線反射面の光軸方向に対する二乗平均平方根波長Rλqと殺菌性能との関係を示した特性図である。
図3において、横軸は二乗平均平方根波長Rλq(μm)、縦軸は紫外線照射装置1においてLED出力64mW(LED波長270nm)における殺菌性能(LRV)(Flow Rate:2L/min、菌種:E.Coli ATCC8739)である。
図3に示すように、二乗平均平方根波長Rλqが大きくなるほど、殺菌性能が低下している。
【0031】
ここで、紫外線照射装置1において、殺菌装置として実用上使用することの可能な性能である99%殺菌(LRV2.0)を満足するためには、
図3から、二乗平均平方根波長Rλqを70μm以下とすればよいことがわかる。さらに99.9%殺菌(LRV3.0)を満足するためには、
図3から、二乗平均平方根波長Rλqを50μm以下とすればよいことがわかる。
一方で、反射面の加工条件を検討した結果、反射面を切削加工する際の切削送り量を小さくするほど二乗平均平方根波長Rλqが小さくなることが確認された。二乗平均平方根波長RλqがRλq<1μmを満足し得る紫外線反射面を形成するためには、切削送り量を0.03mm/rev以下にする必要があり、内筒21の1本当たりの、加工処理時間が長くなり加工コストが増大する。
【0032】
そこで、生産性の低下量が比較的小さくて済む送り量で旋削加工を行った場合に得られる二乗平均平方根波長Rλq=1μmを、紫外線反射面の二乗平均平方根波長の下限値とする。
このように、二乗平均平方根波長Rλqを1μm以上70μm以下の範囲内の値とすることによって、生産性の低下を抑制しつつ、十分な反射率を有する紫外線反射面を実現することができ、その結果、殺菌性能を向上させることができる。
また、反射面の切削加工時の送り量として0.03mm/rev以上0.17mm/rev以下とする事で、上記に示した表面形状を得ることが出来る。
【0033】
〔殺菌性能と要素の平均長さRSmとの関係〕
図4は、Rλqが1μm以上70μm以下の反射材サンプルにおいて、紫外線反射面の要素の平均長さRSmと殺菌性能との関係を示した特性図である。
図4において、横軸は要素の平均長さRSm(μm)、縦軸は紫外線照射装置1においてLED出力64mW(LED波長270nm)における殺菌性能(LRV)(Flow Rate:2L/min、菌種:E.Coli ATCC8739)である。
図4の特性図から、要素の平均長さRSmが大きくなるほど殺菌性能も大きくなることがわかる。紫外線照射装置1において、さらに性能を向上させ、99.9%殺菌(LRV3.0)を満足するためには、要素の平均長さRSmを140μm以上とする必要があることがわかる。
【0034】
このように、要素の平均長さRSmが140μm以上であれば、紫外線照射装置1において、実用上の発光素子31を用いた場合に、高い殺菌性能を得ることができ、LRV3.0以上の殺菌性能を得ることができる。一方で、要素の平均長さRSmが400μmを超えると、切削加工にて実現する事が困難となり、生産性が低下する。このように、要素の平均高さRSmを140μm以上400μm以下の範囲内の値に制限することによって、生産性の低下を回避しつつ殺菌性能を向上させることができる。
【0035】
〔算術平均粗さRa及び最大高さRzと反射率との関係〕
図5は、二乗平均平方根波長Rλqが1μm以上70μm以下の反射材サンプルにおいて、最大高さRz(
図5(a))及び算術平均粗さRa(
図5(b))と紫外線照射装置1においてLED出力64mW(LED波長270nm)における殺菌性能(LRV)(Flow Rate:2L/min、菌種:E.Coli ATCC8739)との関係を示したものである。
ここで、紫外線照射装置1において99.9%殺菌(LRV3.0)を満足するためには、
図5(a)から最大高さRzを53μm以下とすればよく、
図5(b)から算術平均粗さRaを8μm以下とすればよいことがわかる。
一方で、最大高さRzおよび算術平均粗さRaを小さくすればするほど紫外線反射面を形成するための作製時間が増大し、生産コストが増大する。そこで、生産性の低下量が比較的小さくて済む条件で紫外線反射面を形成した場合に得られる最大高さRz=2μm及び算術平均粗さRa=2μmを、最大高さRz及び算術平均粗さRaの下限値とする。
このように、最大高さRzを2μm以上53μm以下または算術平均粗さRaを2μm以上8μm以下の範囲内の値に制限することによって、生産コストの増加を抑制しつつ、殺菌性能を向上させることができる。
【0036】
〔処理室内における反射率の必要制御領域〕
図6は、処理室21c内における光学シミュレーション結果を示したものである。処理室21cが、UV透過率が97%の水で満たされた状態で、発光素子31により波長265nmの紫外線照射を行ったときの、処理室21cのPTFEからなる紫外線反射面において全反射率が85%であるときの、入射フラックスの分布を示したものである。
図6に示すように、入射フラックスは、発光素子31に近い領域が最も多く、発光素子31から離れるほど少なくなる。つまり、発光素子31に近い領域における紫外線照射が、紫外線照射対象物に対してより大きく寄与している。そのため、紫外線照射対象物に対して、紫外線照射がより大きく寄与する発光素子31に近い領域における、紫外線反射面の反射特性を向上させれば、処理室21cにおける反射特性を効率よく向上させることができる。すなわち少なくとも、発光素子31から処理室21cの相当直径だけ離れた位置までの領域について、紫外線反射面の表面性状を前記条件(A)~(D)を満足するようにすれば、殺菌性能を向上させることができる。また、処理室21cの内壁面全体ではなく、発光素子31の近い領域についてのみ表面性状を制御すればよいため、その分紫外線反射面の形成に要する旋削加工処理における処理時間を短縮することができ、すなわち生産性を高めることができる。
【0037】
なお、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。
さらに、本発明の範囲は、請求項により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画されうる。
【符号の説明】
【0038】
1 紫外線照射装置
2 処理室構造部
3 発光部
21 内筒
21a 大径部
21b 連通口
21c 処理室
22 ケース部
23 整流板
24 窓
25 流入側整流室
26 流出側整流室
31 発光素子
32 基板