(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】溶着状態検査方法及び溶着状態検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 19/08 20060101AFI20230720BHJP
E04D 5/14 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
G01N19/08 A
E04D5/14 F
(21)【出願番号】P 2019134632
(22)【出願日】2019-07-22
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000217365
【氏名又は名称】田島ルーフィング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180194
【氏名又は名称】利根 勇基
(72)【発明者】
【氏名】関根 治之
(72)【発明者】
【氏名】須藤 孝一
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-037359(JP,A)
【文献】特開2018-200279(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0255201(US,A1)
【文献】特開2010-83558(JP,A)
【文献】特開平11-10107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/00-19/10
E04D 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水シートに溶着された被溶着部材の溶着状態を検査する溶着状態検査方法であって、
前記防水シートと前記被溶着部材との溶着箇所の周囲に密閉空間を形成することと、
前記密閉空間に配置された発光部から前記溶着箇所に光を照射することと、
前記密閉空間を減圧することと、
前記溶着箇所を目視することと
を含む、溶着状態検査方法。
【請求項2】
前記密閉空間を減圧しているときの該密閉空間の圧力を測定することを更に含む、請求項1に記載の溶着状態検査方法。
【請求項3】
前記密閉空間の減圧によって前記溶着箇所が剥離するときの前記密閉空間の圧力を測定することを更に含む、請求項2に記載の溶着状態検査方法。
【請求項4】
前記溶着状態が不十分である場合に前記被溶着部材を前記防水シートに再度溶着することを更に含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の溶着状態検査方法。
【請求項5】
防水シートに溶着された被溶着部材の溶着状態を検査する溶着状態検査装置であって、
前記防水シートと前記被溶着部材との溶着箇所を覆う被覆部材と、
前記被覆部材の内部に配置された発光部を有すると共に、該発光部から前記溶着箇所に光を照射する発光部材と、
前記被覆部材によって形成された密閉空間を減圧する減圧装置と
を備え、
前記溶着箇所が目視可能となるように、前記被覆部材の少なくとも一部が透明材料から構成される、溶着状態検査装置。
【請求項6】
前記密閉空間の圧力を測定する圧力計を更に備える、請求項5に記載の溶着状態検査装置。
【請求項7】
前記減圧装置は、スティック型コードレス掃除機、キャニスター式掃除機又はブロワバキュームである、請求項5又は6に記載の溶着状態検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶着状態検査方法及び溶着状態検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
屋根、バルコニー、開放廊下、外階段等の雨に曝される部分には防水工法によって防水処理が施される。従来、代表的な防水工法として、固定部材によって防水シートを下地に固定する機械的固定工法が知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
先打ち工法(UD工法)の機械的固定工法では、下地に固定された固定部材と、下地及び固定部材の上に敷設された防水シートとを溶着させることによって防水シートが固定部材を介して下地に固定される。固定部材と防水シートとの溶着の際には、固定部材が設置された位置の防水シート上に誘導加熱装置が設置され、誘導加熱装置によって固定部材のディスクが加熱される。このことによって、ディスクに被覆されたポリ塩化ビニルとディスク上の防水シートとが溶ける。この状態で押さえ板等によって防水シートがディスクに押圧されると、ディスクと防水シートとが互いに溶着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、誘導加熱装置による溶着は人の手によって行われる。このため、不的確な作業によってディスクと防水シートとの固定強度が低下するおそれがある。例えば、誘導加熱装置とディスクとの位置がずれていた場合や、加熱後の防水シートの押圧が不十分であった場合には、固定強度が低下し、防水シートが飛散するリスクが高まる。
【0006】
また、誘導加熱装置による溶着は気温の影響を受ける。気温が低い場合にはディスクの加熱が不十分になり、気温が高い場合には防水シートの表面が焦げるおそれがある。このため、気温に応じて誘導加熱装置の出力及び発振時間を調整することが望ましい。しかしながら、斯かる作業は、煩雑であり、必ずしも正確に行われるとは限らない。
【0007】
このため、溶着状態の不良を検出すべく溶着後に溶着状態を検査することが望まれている。しかしながら、防水シート上から溶着状態を検査することは容易ではない。このため、固定強度を実験室で確認するために施工後の現物サンプルを撤去することが強いられることがあった。しかしながら、このことは余計な作業工数を発生させると共に撤去箇所の漏水リスクを高める。
【0008】
そこで、上記課題に鑑みて、本発明の目的は、防水シートに溶着された被溶着部材の溶着状態の検査を容易にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の要旨は以下のとおりである。
【0010】
(1)防水シートに溶着された被溶着部材の溶着状態を検査する溶着状態検査方法であって、前記防水シートと前記被溶着部材との溶着箇所の周囲に密閉空間を形成することと、前記溶着箇所に光を照射することと、前記密閉空間を減圧することと、前記溶着箇所を目視することとを含む、溶着状態検査方法。
【0011】
(2)前記密閉空間を減圧しているときの該密閉空間の圧力を測定することを更に含む、上記(1)に記載の溶着状態検査方法。
【0012】
(3)前記密閉空間の減圧によって前記溶着箇所が剥離するときの前記密閉空間の圧力を測定することを更に含む、上記(2)に記載の溶着状態検査方法。
【0013】
(4)前記溶着状態が不十分である場合に前記被溶着部材を前記防水シートに再度溶着することを更に含む、上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の溶着状態検査方法。
【0014】
(5)防水シートに溶着された被溶着部材の溶着状態を検査する溶着状態検査装置であって、前記防水シートと前記被溶着部材との溶着箇所を覆う被覆部材と、前記溶着箇所に光を照射する発光部材と、前記被覆部材によって形成された密閉空間を減圧する減圧装置とを備え、前記溶着箇所が目視可能となるように、前記被覆部材の少なくとも一部が透明材料から構成される、溶着状態検査装置。
【0015】
(6)前記密閉空間の圧力を測定する圧力計を更に備える、上記(5)に記載の溶着状態検査装置。
【0016】
(7)前記減圧装置は、スティック型コードレス掃除機、キャニスター式掃除機又はブロワバキュームである、上記(5)又は(6)に記載の溶着状態検査装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、防水シートに溶着された被溶着部材の溶着状態の検査を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、機械的固定工法を説明するための図である。
【
図2】
図2は、機械的固定工法における固定部材の固定工程を示す図である。
【
図3】
図3は、機械的固定工法における溶着工程を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の第一実施形態に係る溶着状態検査装置の概略的な斜視図である。
【
図5】
図5は、防水シートとディスクとの溶着箇所を覆う被覆部材を概略的に示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の第二実施形態に係る溶着状態検査装置の概略的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
【0020】
<第一実施形態>
最初に、
図1~
図5を参照して、本発明の第一実施形態について説明する。
【0021】
<機械的固定工法>
本実施形態における溶着状態検査装置及び溶着状態検査方法は、防水工法の一種である機械的固定工法において溶着された溶着箇所の検査に用いられる。
【0022】
図1は、機械的固定工法を説明するための図である。
図1の例では、機械的固定工法によって屋根に防水処理が施される。
【0023】
機械的固定工法では、固定部材80によって防水シート72を下地70に固定する。
図1に示される機械的固定工法は、固定部材80の固定後に固定部材80の上に防水シート72を敷設する先打ち工法(UD工法)の機械的固定工法である。
【0024】
図1の例では、最初に下地70の上に断熱材71が敷設される。断熱材71は、低い熱伝導率を有する材料から構成され、例えば、硬質ウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム等から構成される。防水シート72と下地70との間に断熱材71が設置される機械的固定工法は断熱機械的固定工法とも称される。
【0025】
断熱材71の敷設後、複数の固定部材80が断熱材71上に離間されて配置される。複数の固定部材80はそれぞれ断熱材71及び下地70に固定される。この結果、断熱材71は固定部材80を介して下地70に固定される。
【0026】
図2は、機械的固定工法における固定部材80の固定工程を示す図である。
図2に示されるように、固定部材80はディスク81及びアンカー82を有する。ディスク81は、円盤形状を有し、金属(例えばステンレス鋼)から構成される。また、ディスク81には、防水シート72との溶着のためにポリ塩化ビニルが被覆されている。
【0027】
固定部材80を断熱材71及び下地70に固定するとき、断熱材71及び下地70に予め挿入穴75が形成される。アンカー82は、ディスク81の中心に形成された貫通穴を通して挿入穴75に挿入される。このとき、アンカー82は挿入穴75にねじ込まれ、固定部材80(ディスク81及びアンカー82)は断熱材71及び下地70に固定される。本実施形態では、接着剤76が挿入穴75に注入され、接着剤76によって固定部材80の固定強度が高められる。接着剤76は、例えば、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、シリコーンゴム系等の接着剤である。なお、接着剤76の代わりに樹脂製プラグが挿入穴75に挿入されてもよい。
【0028】
図1に示されるように、固定部材80の固定後、断熱材71及び固定部材80の上には防水シート72が敷設される。防水シート72は、防水性を有する材料から構成され、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂系、加硫ゴム系等の防水シートである。固定部材80のディスク81と防水シート72とは互いに溶着される。この結果、防水シート72は固定部材80を介して下地70に固定される。
【0029】
図3は、機械的固定工法における溶着工程を示す図である。ディスク81と防水シート72との溶着は誘導加熱装置90によって行われる。誘導加熱装置90は、加熱部91、把持部92、高周波電源(発振機)93、出力ケーブル94及び電源コード95を有する。
【0030】
加熱部91は、円筒形状を有し、コイルを収容する。把持部92は、加熱部91に接続され、作業者によって把持されるように構成される。高周波電源93は高周波電流を出力する。
【0031】
出力ケーブル94は、高周波電源93と加熱部91内のコイルとを接続し、高周波電源93によって出力された高周波電流を加熱部91内のコイルに流す。出力ケーブル94の一部は把持部92内を延在する。電源コード95は、高周波電源93に接続され、電力を電力源から高周波電源93に供給する。
【0032】
作業者は、固定部材80と防水シート72とを溶着するとき、把持部92を把持して、ディスク81が設置された位置の防水シート72上に加熱部91を設置する。この結果、防水シート72とディスク81とが接触する。次いで、作業者は、把持部92に設けられた発振スイッチ96をオンにする。この結果、高周波電源93によって出力された高周波電流が加熱部91内のコイルに流れる。
【0033】
コイルに流れる電流によってコイルの周りに磁界が生じ、磁束の変化を妨げるように固定部材80のディスク81に渦電流が流れる。このとき、ディスク81の電気抵抗によってジュール熱が発生し、ディスク81が加熱される。すなわち、ディスク81が誘導加熱される。このことによって、ディスク81に被覆されたポリ塩化ビニルとディスク81上の防水シート72とが溶ける。この状態で押さえ板等によって防水シート72がディスク81に押圧されると、ディスク81と防水シート72とが互いに溶着される。
【0034】
なお、ディスク81は、緩衝材を有する免振ディスクであってもよい。また、機械的固定工法において、断熱材71は用いられなくてもよい。この場合、固定部材80のディスク81は下地70に直接固定され、又はディスク81と下地70との間に緩衝シート(発泡シート等)が敷設される。
【0035】
また、防水シート72に保護塗料が塗布されてもよい。保護塗料は、近赤外波長領域の光に対する高い反射率を有する材料から構成され、例えばアクリルウレタン系の保護塗料である。保護塗料の塗布によって防水シート72の劣化及び汚れを抑制することができる。
【0036】
<溶着状態検査装置>
図4は、本発明の第一実施形態に係る溶着状態検査装置の概略的な斜視図である。溶着状態検査装置1は、防水シートに溶着された被溶着部材の溶着状態を検査する。
【0037】
溶着状態検査装置1は、被覆部材10、減圧装置20、発光部材30及び接続部材40を備える。被覆部材10は、円筒形状を有し、防水シートと被溶着部材との溶着箇所を覆う。本実施形態では、被溶着部材は、防水シート72に溶着された固定部材80のディスク81である。また、ディスク81と防水シート72との間が溶着箇所に相当する。
【0038】
図5は、防水シート72とディスク81との溶着箇所を覆う被覆部材10を概略的に示す図である。被覆部材10は底面に開口部11を有する。開口部11の面積は、ディスク81の面積、すなわち防水シート72とディスク81との溶着箇所の面積よりも大きい。被覆部材10は、ディスク81が開口部11内に位置するように防水シート72上に設置され、防水シート72とディスク81との溶着箇所(以下、単に「溶着箇所」と称する)を覆う。この結果、被覆部材10によって溶着箇所の周囲に密閉空間15が形成される。
【0039】
作業者は溶着箇所を目視することよってディスク81の溶着状態を検査する。このため、溶着箇所が目視可能となるように、被覆部材10の少なくとも一部は透明材料から構成される。本実施形態では、被覆部材10の上部(上面)12が、透明材料から構成され、溶着箇所を目視するための窓部として機能する。透明材料は例えばガラス又は透明性樹脂(ポリ塩化ビニル、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン等)である。
【0040】
被覆部材10の上部12は被覆部材10の他の部分(本実施形態では円筒部分)に接着剤等によって接着される。被覆部材10の上部12以外の部分、すなわち被覆部材10の透明材料以外の部分は任意の材料(金属、樹脂等)から構成される。
【0041】
なお、被覆部材10の上部12の一部が透明材料から構成されてもよい。また、被覆部材10全体が透明材料から構成されてもよい。さらに、溶着箇所が目視可能であれば、被覆部材10の側部が透明材料から構成されてもよい。
【0042】
図4に示されるように、被覆部材10には減圧装置20が接続される。本実施形態では、減圧装置20は接続部材40を介して被覆部材10に接続される。接続部材40は中空の円筒形状を有する。接続部材40の一方の端部は、被覆部材10の側部に形成された接続孔13に接続され、接続部材40の他方の端部は減圧装置20に接続される。接続部材40の一方の端部は被覆部材10に接着され又は被覆部材10の接続孔13に圧入される。減圧装置20の先端部分は接続部材40に接着され又は接続部材40内に圧入される。接続部材40の内部は、被覆部材10によって形成された密閉空間15と連通している。
【0043】
減圧装置20は密閉空間15を減圧する。具体的には、減圧装置20は密閉空間15から気体(空気)を排出することによって密閉空間15を減圧する。減圧装置20は、本体21、把持部22、吸引スイッチ23、吸引部及び電池を有する。
【0044】
本体21は、接続部材40に接続され、密閉空間15内の気体を吸引する吸引部を収容する。吸引部は、例えば、高速回転によって密閉空間15から気体を吸引するファンと、ファンを駆動するモータとから構成される。
【0045】
電池は、本体21の外部に取り付けられ、吸引部のモータに電力を供給する。電池は例えば一次電池(アルカリ乾電池、マンガン乾電池、リチウム一次電池等)又は二次電池(リチウムイオン電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池等)である。なお、電池は本体21内に収容されてもよい。
【0046】
把持部22は、本体21に接続され、作業者によって把持されるように構成される。また、把持部22には吸引スイッチ23が設けられる。吸引スイッチ23がオンにされると、吸引部のモータに電力が供給され、減圧装置20は密閉空間15を減圧する。例えば、減圧装置20は密閉空間15の圧力を3kPa~6kPa減少させる。一方、吸引スイッチ23がオフにされると、モータへの電力供給が停止され、減圧装置20による密閉空間15の減圧が停止される。なお、吸引スイッチ23は本体21に設けられていてもよい。
【0047】
本実施形態では、減圧装置20としてスティック型コードレス掃除機が用いられる。スティック型コードレス掃除機は、屋根等の防水処理を施す現場において清掃等のために予め用意されていることが多い。このため、減圧装置20としてスティック型コードレス掃除機を用いることによって高価な装置を別に用意することなく溶着状態を容易に検査することができる。
【0048】
なお、減圧装置20としてキャニスター式掃除機又はブロワバキュームが用いられてもよい。これらも、屋根等の防水処理を施す現場に予め用意されていることが多い。また、スティック型コードレス掃除機、充電式ブロワバキューム又はエンジン式ブロワバキュームが減圧装置20として用いられる場合、動力源(電池又はエンジン)が内蔵されているため、動力源を別個に用意することなく減圧装置20を駆動することができる。一方、減圧装置20としてキャニスター式掃除機又はAC電源式ブロワバキュームが用いられる場合には、電源コードを介して減圧装置20に電力が供給される。なお、減圧装置20として、キャニスター式掃除機、AC電源式ブロワバキューム又はエンジン式ブロワバキュームが用いられる場合、減圧装置20から電池が省略される。
【0049】
発光部材30は、発光部31、コントローラ32及び電気配線33を有し、溶着箇所に光を照射する。具体的には、発光部材30は、防水シート72の延在方向(例えば水平方向)に対して垂直以外の方向から溶着箇所に光を照射する。すなわち、発光部材30は横又は斜め横から溶着箇所に光を照射する。
【0050】
発光部31は、被覆部材10の内部、すなわち密閉空間15に配置され、光を発する。本実施形態では、発光部31は、被覆部材10の側部の内面に取り付けられ、6個の発光ダイオード(LED)から構成される。なお、発光部31は1個以上の他の数のLEDから構成されてもよい。また、発光部31は1個以上の電球(例えば豆電球)から構成されてもよい。
【0051】
電気配線33は発光部31とコントローラ32とを電気的に接続する。本実施形態では、電気配線33は被覆部材10の接続孔13及び接続部材40の内部を通って接続部材40の外部に延在している。この場合、電気配線33が接続部材40から出る箇所は電気配線33又は電気配線33及びシール部材によって密閉される。
【0052】
なお、電気配線33は、被覆部材10に形成された孔(接続孔13とは別の孔)を通って被覆部材10の外部に延在してもよい。この場合、この孔は電気配線33又は電気配線33及びシール部材によって密閉される。
【0053】
コントローラ32には電池及び点灯スイッチ34が設けられる。電池は、コントローラ32に収容され、発光部31に電力を供給する。電池は例えば一次電池(アルカリ乾電池、マンガン乾電池、リチウム一次電池等)又は二次電池(リチウムイオン電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池等)である。
【0054】
点灯スイッチ34はコントローラ32の外面に設けられる。点灯スイッチ34がオンにされると、発光部31に電力が供給され、発光部31が発光する。この結果、発光部材30は溶着箇所に光を照射する。一方、点灯スイッチ34がオフにされると、発光部31への電力供給が停止され、発光部31は消灯する。
【0055】
作業者は、ディスク81の溶着状態を検査するとき、発光部材30によって溶着箇所に光を照射し、減圧装置20によって密閉空間15を減圧する。すなわち、作業者は、ディスク81の溶着状態を検査するとき、点灯スイッチ34及び吸引スイッチ23をオンにする。
【0056】
ディスク81の溶着状態が不十分である場合、すなわちディスク81の少なくとも一部が防水シート72に溶着されていない場合には、密閉空間15の減圧によって防水シート72の溶着されていない部分がディスク81から浮き上がる。すなわち、防水シート72とディスク81とが溶着されている部分と、防水シート72とディスク81とが溶着されていない部分との間に段差が生じる。
【0057】
このとき、発光部材30によって溶着箇所に光を照射すると、屋外の現場であっても、天候に関わらず、段差が明暗として表れる。このため、溶着箇所を目視することによって溶着状態の不良を容易に検出することができる。したがって、溶着状態検査装置1を用いることによって、被溶着部材の溶着状態の検査を容易にすることができる。
【0058】
また、本実施形態では、発光部材30は横又は斜め横から溶着箇所に光を照射する。このことによって段差の明暗を強調することができ、ひいては溶着状態の検査精度を高めることができる。
【0059】
また、本実施形態によれば、防水シートに溶着された被溶着部材の溶着状態を検査する溶着状態検査方法が、以下のように行われる。溶着状態検査方法は、防水シートと被溶着部材との溶着箇所の周囲に密閉空間を形成することと、溶着箇所に光を照射することと、密閉空間を減圧することと、溶着箇所を目視することとを含む。本実施形態では、被溶着部材は固定部材80のディスク81である。
【0060】
また、溶着状態検査方法は、被溶着部材の溶着状態が不十分である場合に被溶着部材を防水シートに再度溶着することを更に含んでいてもよい。このことによって、溶着状態の不良が検出されたとしても、溶着箇所を迅速に補修することができる。上述した例では、ディスク81の溶着状態が不十分である場合には、誘導加熱装置90によってディスク81と防水シート72とが再度溶着される。
【0061】
<第二実施形態>
第二実施形態に係る溶着状態検査装置及び溶着状態検査方法は、基本的に第一実施形態と同様である。このため、以下、本発明の第二実施形態について、第一実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0062】
図6は、本発明の第二実施形態に係る溶着状態検査装置の概略的な斜視図である。第二実施形態では、溶着状態検査装置1’は、密閉空間15の圧力を測定する圧力計50を更に備える。
図6に示されるように、圧力計50は被覆部材10に接続される。
【0063】
例えば、圧力計50は、機械式圧力計であり、指針51がメモリ52上の値を示すことによって密閉空間15の圧力を出力する。圧力計50によって出力される圧力はゲージ圧力又は絶対圧力である。ゲージ圧力は、大気圧をゼロとする圧力であり、絶対圧力は、絶対真空をゼロとする圧力である(ゲージ圧力=絶対圧力-大気圧)。
【0064】
上述したように、溶着状態検査方法では、密閉空間15を減圧することによって溶着状態の不良を検出する。しかしながら、不適切な作業、減圧装置20の故障等によって密閉空間15の減圧が不十分となる場合がある。この場合、ディスク81の溶着状態が不十分であるにも拘わらず、防水シート72がディスク81から浮き上がらず、溶着状態の不良を検出できないおそれがある。
【0065】
これに対して、第二実施形態では、密閉空間15を減圧しているときの圧力が圧力計50によって測定される。すなわち、第二実施形態では、溶着状態検査方法は、密閉空間15を減圧しているときの密閉空間15の圧力を測定することを更に含む。このことによって、密閉空間15の減圧に異常がないことを容易に確認することができ、ひいては溶着状態の検査精度を高めることができる。
【0066】
また、密閉空間15の減圧度(真空度)が大きいほど、ディスク81から防水シート72を引っ張る力が強くなる。このため、溶着箇所が剥離するときの密閉空間15の減圧度が大きいほど、溶着箇所の引張強度が高いことになる。また、密閉空間15の減圧度と溶着箇所の引張強度との関係は実験によって予め取得可能である。
【0067】
そこで、第二実施形態では、溶着状態検査方法は、密閉空間15の減圧によって溶着箇所が剥離するときの密閉空間15の圧力を測定することを更に含む。このことによって、溶着箇所の引張試験が擬似的に行われることとなり、簡易的な方法によって現場で溶着箇所の引張強度を推定することができる。
【0068】
例えば、密閉空間15の減圧によって溶着箇所の一部が剥離するときの密閉空間15の圧力が測定される。また、密閉空間15の減圧によって溶着箇所全体が剥離するときの密閉空間15の圧力が測定されてもよい。なお、この引張試験では、溶着箇所を剥離させるために、溶着状態を検査するときよりも密閉空間15の減圧度が大きくされてもよい。また、この引張試験は、正常な溶着状態の溶着箇所及び不良な溶着状態の溶着箇所の両方に適用可能である。
【0069】
<その他の実施形態>
以上、本発明に係る好適な実施形態を説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載内で様々な修正及び変更を施すことができる。
【0070】
例えば、被覆部材10は、防水シートと被溶着部材との溶着箇所を覆うことができれば、円筒形状以外の形状(例えば、直方体等)を有していてもよい。また、溶着状態検査装置1、1’から接続部材40が省略され、減圧装置20が被覆部材10に直接接続されてもよい。
【0071】
また、減圧装置20は真空ポンプ等であってもよい。
【0072】
また、発光部材30の発光部31及びコントローラ32は一体であってもよい。また、コントローラ32が省略され、電気配線33を介して電力源から発光部31に電力が供給されてもよい。
【0073】
また、発光部材30は、LED又は電球を有するハンディライトであってもよい。この場合、発光部材30は、例えば、密閉空間15内に設置され、又は被覆部材10に形成された孔に挿入される。また、この場合、発光部材30は、被覆部材10の外部から被覆部材10の透明材料を通して溶着箇所に光を照射するように作業者によって把持されてもよい。
【0074】
また、溶着状態検査装置1、1’及び溶着状態検査方法は、後打ち工法(US工法)の機械的固定工法において溶着された溶着箇所の検査に用いられてもよい。後打ち工法の機械的固定工法では、防水シート72の敷設後に防水シート72の上から固定部材80を固定する。このことによって、防水シート72が下地70に固定される。
【0075】
後付け工法の機械的固定工法では、固定部材80のアンカー82を挿入するために防水シート72に形成された挿入孔を通して水が浸入するおそれがある。このため、固定部材80の固定後に、固定部材80のディスク81がパッチによって覆われる。パッチは、円盤状の薄いシートであり、溶剤によってディスク81及びディスク81の周囲の防水シート72に溶着される。後付け工法の機械的固定工法において用いられる防水シート72は、改質アスファルトの防水シート、ウレタン塗膜防水材が塗布される緩衝シート(例えばオルタックシートLG)等である。
【0076】
後付け工法の機械的固定工法では、パッチが被溶着部材に相当する。パッチの溶着状態が不十分である場合、すなわちパッチの少なくとも一部が防水シート72に溶着されていない場合には、防水シート72に形成された挿入孔からパッチと防水シート72との間を通って密閉空間15に空気が流入する。この状態を上述した溶着状態検査方法によって検知することによって、パッチの溶着状態の不良を検出することができる。
【0077】
また、密閉空間15に空気が流入する場合、減圧装置20によって密閉空間15を減圧したとしても密閉空間15の減圧度合が小さくなる。このため、第二実施形態に係る溶着状態検査装置1’の圧力計50を用いて、密閉空間15を減圧しているときの密閉空間15の減圧度合が所定値以下であるときに、パッチの溶着状態が不良であると判定してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1、1’ 溶着状態検査装置
10 被覆部材
15 密閉空間
20 減圧装置
30 発光部材
72 防水シート
80 固定部材
81 ディスク
82 アンカー