(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20230720BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230720BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20230720BHJP
B62D 115/00 20060101ALN20230720BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20230720BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
B62D115:00
B62D101:00
(21)【出願番号】P 2019135617
(22)【出願日】2019-07-23
【審査請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 準司
(72)【発明者】
【氏名】菊池 輝之
(72)【発明者】
【氏名】安原 智哉
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-023629(JP,A)
【文献】特開平11-020499(JP,A)
【文献】特開2002-293258(JP,A)
【文献】特開2011-005949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00-6/10
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を転舵させる駆動トルクを生じる電動部と、
前記電動部の駆動を制御する制御部と、
自車及び前記自車の前方を走行する先行車の情報を取得する情報取得部と、を備え、
前記制御部は、
前記情報取得部により取得された前記先行車の情報に基づき前記自車の操舵状態を予測する操舵予測部と、
前記操舵予測部の予測結果に基づいて、前記車輪に前記駆動トルクを伝達する経路上にあるあそびを詰める押付トルクを前記電動部に生じさせる押付制御部と、
ステアリングホイールが運転者により操作されている場合に前記押付制御部による制御の実行が不要と判定し、前記ステアリングホイールが運転者により操作されていない場合に前記押付制御部による制御の実行が必要と判定する制御実行判定部と、を有することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記押付トルクの大きさは、前記車輪を転舵させることができない大きさに設定されることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記車輪の転舵状態を検出する転舵状態検出器をさらに備え、
前記押付トルクの大きさは、前記転舵状態検出器の検出値を変化させない大きさに設定されることを特徴とする請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記操舵予測部は、前記情報取得部により取得された前記先行車の操舵方向に関する情報に基づいて、前記自車の予測操舵方向を予測し、
前記押付制御部は、前記電動部が生じる前記押付トルクが前記操舵予測部で予測された前記予測操舵方向に作用するように前記電動部を制御することを特徴とする請求項1から3の何れか1つに記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記操舵予測部は、前記情報取得部により取得された前記先行車の操舵地点に関する情報に基づいて、前記自車の操舵が行われる操舵予測地点及び前記操舵予測地点に前記自車が到達するまでの到達予測時間の少なくとも一方を予測し、
前記押付制御部は、前記操舵予測地点までの前記自車の距離が所定距離以下または前記到達予測時間が所定時間以下となったときに、前記電動部に前記押付トルクを生じさせることを特徴とする請求項1から4の何れか1つに記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記情報取得部により取得された前記自車及び前記先行車の情報に基づき前記自車と前記先行車との車間距離を算出する車間距離算出部と、
前記自車の車速に基づいて基準車間距離を算出する基準車間距離算出部と、をさらに有し、
前記操舵予測部は、前記車間距離が前記基準車間距離以上である場合に前記自車の操舵状態を予測することを特徴とする請求項1から5の何れか1つに記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
前記情報取得部は、複数台の前記先行車の情報を取得し、
前記操舵予測部は、前記情報取得部により取得された複数台の前記先行車の操舵情報に基づいて前記自車の操舵状態を予測することを特徴とする請求項1から6の何れか1つに記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
前記操舵予測部は、複数台の前記先行車の操舵方向が特定の地点において同じである場合、前記特定の地点において前記自車も同じ方向に操舵されると予測することを特徴とする請求項7に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車輪を転舵させる転舵部と、伝達機構を介して転舵部に駆動トルクを付与する電動部と、電動部の駆動を制御する制御部と、を備えた電動パワーステアリング装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される電動パワーステアリング装置では、減速機構やラックアンドピニオン機構といったバックラッシュが存在する伝達機構を介して電動部から転舵部へと駆動トルクが付与される。このため、操舵方向が直前の操舵方向とは反対の方向である場合には、電動部の駆動トルクを車輪に伝達する経路上に存在するバックラッシュが詰められるまでは電動部の駆動トルクが車輪へと伝わらず、操舵してから車輪が転舵し始めるまでに遅れが生じる。
【0005】
一方、操舵方向が直前の操舵方向と同じ方向である場合には、電動部の駆動トルクを車輪に伝達する経路上のバックラッシュは詰められた状態となっていることから、車輪は操舵に応じて応答性よく転舵する。
【0006】
したがって、例えば、操舵が行われていない直進走行状態から左右何れかの方向に操舵される場合、操舵方向のトルク伝達経路上にバックラッシュが存在するか否かによって、操舵されてから車輪が転舵し始めるまでの時間が変化することになるため、車両の操作性が低下するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、電動パワーステアリング装置を備えた車両の操作性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電動パワーステアリング装置が、車輪を転舵させる駆動トルクを生じる電動部と、電動部の駆動を制御する制御部と、自車及び自車の前方を走行する先行車の情報を取得する情報取得部と、を備え、制御部が、情報取得部により取得された先行車の情報に基づき自車の操舵状態を予測する操舵予測部と、操舵予測部の予測結果に基づいて、車輪に駆動トルクを伝達する経路上にあるあそびを詰める押付トルクを電動部に生じさせる押付制御部と、ステアリングホイールが運転者により操作されている場合に押付制御部による制御の実行が不要と判定し、ステアリングホイールが運転者により操作されていない場合に押付制御部による制御の実行が必要と判定する制御実行判定部と、を有することを特徴とする。
【0009】
この発明では、先行車の情報に基づいて予測された自車の操舵状態に応じて、車輪に駆動トルクを伝達する経路上にあるあそびを詰める押付トルクを電動部に生じさせている。このように、操舵が行われる前に、トルク伝達経路上にあるあそびが詰められるため、操舵に応じて車輪が応答性良く安定して転舵されることになる。
【0010】
また、本発明は、押付トルクの大きさが、車輪を転舵させることができない大きさに設定されることを特徴とする。
【0011】
この発明では、押付トルクの大きさが、車輪を転舵させることができない大きさに設定される。このため、車両の操作に影響を及ぼすことなく、操舵が行われる前に、トルク伝達経路上にあるあそびを確実に詰めることができる。この結果、操舵に応じて車輪が応答性良く安定して転舵されることとなり、電動パワーステアリング装置を備えた車両の操作性を向上させることができる。
【0012】
また、本発明は、電動パワーステアリング装置が、車輪の転舵状態を検出する転舵状態検出器をさらに備え、押付トルクの大きさが、転舵状態検出器の検出値を変化させない大きさに設定されることを特徴とする。
【0013】
この発明では、押付トルクの大きさが、転舵状態検出器の検出値を変化させない大きさに設定される。つまり、押付トルクは、車輪を転舵させることができない大きさに設定される。このため、車両の操作に影響を及ぼすことなく、操舵が行われる前に、トルク伝達経路上にあるあそびを詰めておくことができる。この結果、操舵に応じて車輪が応答性良く安定して転舵されることとなり、電動パワーステアリング装置を備えた車両の操作性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明は、操舵予測部が、情報取得部により取得された先行車の操舵方向に関する情報に基づいて、自車の予測操舵方向を予測し、押付制御部が、電動部が生じる押付トルクが操舵予測部で予測された予測操舵方向に作用するように電動部を制御することを特徴とする。
【0015】
この発明では、電動部が生じる押付トルクは、操舵予測部で予測された予測操舵方向に作用する。このように予測された自車の予測操舵方向のトルク伝達経路上のあそびを詰めるように押付トルクを作用させることによって、操舵が行われる前に、トルク伝達経路上にあるあそびを詰めておくことができる。この結果、操舵に応じて車輪が応答性良く安定して転舵されることとなり、電動パワーステアリング装置を備えた車両の操作性を向上させることができる。
【0016】
また、本発明は、操舵予測部が、情報取得部により取得された先行車の操舵地点に関する情報に基づいて、自車の操舵が行われる操舵予測地点及び操舵予測地点に自車が到達するまでの到達予測時間の少なくとも一方を予測し、押付制御部が、操舵予測地点までの自車の距離が所定距離以下または到達予測時間が所定時間以下となったときに、電動部に押付トルクを生じさせることを特徴とする。
【0017】
この発明では、電動部は、操舵予測地点までの自車の距離が所定距離以下または操舵予測地点に自車が到達するまでの到達予測時間が所定時間以下となったときに押付トルクを生じる。このように自車が操舵予測地点に近づいたときに電動部に押付トルクを生じさせることで、操舵が行われる直前に、トルク伝達経路上にあるあそびを詰めておくことができる。この結果、操舵に応じて車輪が応答性良く安定して転舵されることとなり、電動パワーステアリング装置を備えた車両の操作性を向上させることができる。
【0018】
また、本発明は、制御部が、情報取得部により取得された自車及び先行車の情報に基づき自車と先行車との車間距離を算出する車間距離算出部と、自車の車速に基づいて基準車間距離を算出する基準車間距離算出部と、をさらに有し、操舵予測部が、車間距離が基準車間距離以上である場合に自車の操舵状態を予測することを特徴とする。
【0019】
この発明では、操舵予測部による自車の操舵状態の予測が、車間距離が基準車間距離以上である場合に行われる。このように車間距離が比較的短いときには、自車の操舵状態の予測を行わず、電動部への電流の供給を抑制することによって、電動部における電力消費量を低減させることができる。
【0020】
また、本発明は、情報取得部が、複数台の先行車の情報を取得し、操舵予測部が、情報取得部により取得された複数台の先行車の操舵情報に基づいて自車の操舵状態を予測することを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、操舵予測部が、複数台の先行車の操舵方向が特定の地点において同じである場合、特定の地点において自車も同じ方向に操舵されると予測することを特徴とする。
【0022】
これらの発明では、自車の操舵状態が複数台の先行車の操舵情報に基づいて予測される。このように複数台の先行車の操舵情報に基づいて自車の操舵状態を予測することにより、自車の操舵状態を精度よく予測することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電動パワーステアリング装置を備えた車両の操作性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置のブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置においてトルク伝達経路上のあそびを詰める際の処理手順を説明するための第1説明図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置においてトルク伝達経路上のあそびを詰める際の処理手順を説明するための第2説明図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置においてトルク伝達経路上のあそびを詰める際の処理手順を説明するための第3説明図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置においてトルク伝達経路上のあそびを詰める際の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0026】
図1を参照して、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置100(以下、「ステアリング装置100」という。)について説明する。ステアリング装置100は、車両に搭載され、運転者がステアリングホイール10に加える操舵力を補助し、車輪1を転舵する装置である。
【0027】
図1に示すように、ステアリング装置100は、ステアリングホイール10から入力される操舵トルクによって回転するステアリングシャフト20と、ステアリングシャフト20の回転に伴って車輪1を転舵させる転舵部としてのラック軸30と、を備える。
【0028】
ステアリングシャフト20は、運転者がステアリングホイール10を操作するステアリング操作に伴って回転する入力シャフト21と、ラック軸30を変位させる出力シャフト22と、入力シャフト21と出力シャフト22とを連結するトーションバー23と、により構成される。
【0029】
ラック軸30は、車両の左右方向に延びて設けられる軸状部材であり、タイロッド41及びナックルアーム42を介して車輪1に連結される。
【0030】
タイロッド41は、ラック軸30の端部に設けられるボールジョイント43を介してラック軸30に対して揺動自在に連結される。なお、ラック軸30とタイロッド41とを連結する連結部としては、ボールジョイント43に限定されず、他の形式の自在継手が用いられてもよい。
【0031】
出力シャフト22とラック軸30とは、出力シャフト22の端部に設けられるピニオンギヤ22aと、ラック軸30に設けられるラックギヤ30aと、からなる伝達機構としてのラックアンドピニオン機構を介して互いに連結される。
【0032】
ピニオンギヤ22aとラックギヤ30aとは互いに噛み合っており、出力シャフト22のトルクは、ピニオンギヤ22a及びラックギヤ30aを介してラック軸30の軸心方向の荷重に変換されてラック軸30に伝達される。これにより、ラック軸30は、伝達されるトルクにより軸心方向に変位し、タイロッド41を介して車輪1を転舵する。
【0033】
また、ステアリング装置100は、ステアリング操作に応じて操舵力を補助するために駆動される電動部としての電動モータ50と、電動モータ50の回転を減速してステアリングシャフト20に伝達する伝達機構としての減速部52と、を備える。
【0034】
減速部52は、電動モータ50により駆動されるウォームシャフト53と、出力シャフト22に設けられるウォームホイール54と、からなるウォームギヤ機構である。ウォームシャフト53とウォームホイール54とは互いに噛み合っており、電動モータ50のトルクは、ウォームシャフト53及びウォームホイール54を介して出力シャフト22に伝達される。電動モータ50から出力シャフト22に伝達されたトルクは、ピニオンギヤ22a及びラックギヤ30aを介してラック軸30に更に伝達される。
【0035】
また、ステアリング装置100は、トーションバー23に作用するトルクを検出する操舵トルクセンサ61と、操舵トルクセンサ61の検出値に応じて電動モータ50の駆動を制御するコントローラ60と、を更に備える。
【0036】
コントローラ60は、演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)と、CPUにより実行される制御プログラム等を記憶するROM(Read-Only Memory)と、CPUの演算結果等を記憶するRAM(random access memory)と、を含むマイクロコンピュータで構成される。コントローラ60は、単一のマイクロコンピュータで構成されていてもよいし、複数のマイクロコンピュータで構成されていてもよい。
【0037】
操舵トルクセンサ61は、運転者によるステアリング操作に伴って入力シャフト21に付与される操舵トルクを検出し、検出した操舵トルクに対応する電圧信号をコントローラ60に出力する。コントローラ60は、操舵トルクセンサ61からの電圧信号に基づいて、電動モータ50が出力するトルクを演算し、そのトルクが発生するように電動モータ50の駆動を制御する。
【0038】
このように、上記構成のステアリング装置100では、入力シャフト21に付与される操舵トルクを操舵トルクセンサ61にて検出し、その検出結果に基づいて電動モータ50の駆動をコントローラ60にて制御して運転者のステアリング操作をアシストすることが可能である。
【0039】
ここで、上記構成のステアリング装置100では、減速部52やラックアンドピニオン機構といったバックラッシュが存在する伝達機構を介して電動モータ50からラック軸30へと駆動トルクが付与される。また、ラック軸30と車輪1とを連結するタイロッド41及びナックルアーム42といったリンク機構にも少なからずあそびが存在する。つまり、上記構成のステアリング装置100において、電動モータ50の駆動トルクを車輪1に伝達する経路上には、意図的に設けられたバックラッシュ等のあそびが存在する。
【0040】
このため、ステアリングホイール10の操作方向が直前の操作方向とは反対の方向である場合には、電動モータ50の駆動トルクを車輪1に伝達する経路上に存在するあそびが詰められるまでは電動モータ50の駆動トルクが車輪1へと伝わらない。したがって、運転者によるステアリングホイール10の操作に応じて電動モータ50がアシストを開始してから車輪1が実際に転舵し始めるまでに遅れが生じる。
【0041】
一方、ステアリングホイール10の操作方向が直前の操作方向と同じ方向である場合には、電動モータ50の駆動トルクを車輪1に伝達する経路上のあそびは詰められた状態、すなわち、あそびがない状態となっている。このため、運転者によるステアリングホイール10の操作に応じて電動モータ50がアシストを開始すると車輪1は応答性良く転舵し始める。
【0042】
したがって、例えば、運転者によってステアリングホイール10の操作が行われていない直進走行状態から左右何れかの方向に操舵される場合、操舵方向のトルク伝達経路上にあそびが存在するか否かによって、操舵されてから車輪1が転舵し始めるまでの時間が変化することになる。このため、車両の操作性が低下し、結果として、運転者の操作フィーリングが悪化してしまうおそれがある。
【0043】
また、電動モータ50において比較的大きな駆動トルクが発生すると、急激にバックラッシュが詰められるため、例えば、ピニオンギヤ22aがラックギヤ30aに打ち付けられたり、ウォームシャフト53がウォームホイール54に打ち付けられたりすることにより伝達機構において歯打ち音が生じ、運転者に不快感を与えてしまうおそれがある。
【0044】
本実施形態では、上述のような現象が生じることを避けるために、運転者によるステアリングホイール10の操作方向を予測し、電動モータ50からアシスト力としての駆動トルクが付与される前に、あそびを詰めるための押付トルクを電動モータ50に生じさせることによって、電動モータ50の駆動トルクを車輪1に伝達する経路上にあるあそびを予め詰めている。
【0045】
次に、
図1及び
図2を参照して、上記構成のステアリング装置100においてトルク伝達経路上にあるあそびを予め詰めるあそび抑制制御を実行するために設けられる構成について説明する。
図2は、ステアリング装置100の制御系のブロック図である。
【0046】
図1に示すように、ステアリング装置100は、入力シャフト21に設けられステアリングホイール10の回転角度である操舵角を検出する操舵角センサ62と、自車の車速を検出する車速センサ63と、ラック軸30の軸方向の移動量から車輪1の転舵状態を検出する転舵状態検出器としての転舵状態センサ64と、自車及び自車の前方を走行する先行車の情報を無線で取得する情報取得部65と、を更に備える。これらセンサで検出された検出値及び情報取得部65で取得された情報は、上述のコントローラ60に入力される。
【0047】
操舵角センサ62は、入力シャフト21とともに回転する図示しないセンターギヤと、センターギヤに噛み合う図示しない2つのアウターギヤと、を有し、アウターギヤの回転に伴う磁束の変化に基づいて、センターギヤの回転角度、すなわち、入力シャフト21の回転角度を検出する。
【0048】
転舵状態センサ64は、ラック軸30の軸方向の移動量を検出する変位センサであり、例えば、静電容量式または渦電流式の変位センサが用いられる。なお、転舵状態センサ64は、車輪1の転舵状態を直接的または間接的に検出することができればどのようなセンサであってもよく、ラック軸30から車輪1に至る何れかの部材の変位を検出するものであってもよい。つまり、転舵状態センサ64は、伝達機構のバックラッシュの影響を受けることなく、車輪1の転舵と共に変位する部位の変位状態を検出することが可能である。
【0049】
情報取得部65は、GPS(Global Positioning System)受信器と外部通信器とを有する。情報取得部65は、GPS受信器により複数のGPS衛星から送信される電波を受信し自車の位置情報を取得し、外部通信器により自車の前方を走行する複数台、例えば3~5台の先行車の位置情報及び操舵情報を取得する。
【0050】
情報取得部65の外部通信器により取得される操舵情報には、少なくとも操舵方向と操舵が行われた時の車両の位置情報が含まれる。なお、自車の前方を走行する先行車とは、運転者が前方において視認可能な車両を含み、自車が走行している車線を自車よりも先に通過した車両を意味する。つまり、外部通信器は、自車が走行している車線を自車よりも先に通過した車両が、どの位置において、左右どちらの方向に操舵しながら走行していったかという情報を取得する。
【0051】
外部通信器は、例えば、先行車に搭載されている外部通信器との間で車両情報を送受信可能な車車間通信装置である。なお、外部通信器は、車車間通信装置に限定されず、自車の前方を走行する先行車の位置情報及び操舵情報を取得可能であれば、アクセスポイントを介してクラウドネットワークと通信を行う通信装置であってもよい。このように、クラウドサーバから情報を取得することにより、車車間通信装置により通信可能な先行車が存在しない場合であっても、自車が走行している車線を自車よりも先に通過した直近の複数台の車両の情報を取得することが可能である。
【0052】
続いて
図2を参照し、上述のセンサ類から情報が入力されるコントローラ60の機能について説明する。
【0053】
コントローラ60は、上記構成のステアリング装置100においてあそび抑制制御を実行するための機能として、あそび抑制制御を行うか否かを判定する制御実行判定部60aと、自車と自車の前方を走行する先行車との間の車間距離を算出する車間距離算出部60bと、自車の車速に応じて自車と自車の前方を走行する先行車との間の基準車間距離を算出する基準車間距離算出部60cと、情報取得部65によって取得された複数台の先行車の位置情報及び操舵情報を保存する先行車情報保存部60dと、先行車情報保存部60dに保存された複数台の先行車の操舵情報に基づいて自車の操舵状態を予測する操舵予測部60eと、操舵予測部60eで予測された結果と情報取得部65によって取得された自車の位置情報とに基づいてあそびを詰める押付トルクを電動モータ50に生じさせる押付制御部60fと、押付制御部60fからの指令に応じて電動モータ50に電流を供給する電流供給部60gと、を有する。なお、これら制御実行判定部60a等は、コントローラ60の各機能を、仮想的なユニットとして示したものであり、物理的に存在することを意味するものではない。
【0054】
制御実行判定部60aは、ステアリングホイール10が運転者により操作されているか否かに基づいて、あそび抑制制御の実行の要否を判定する。ステアリングホイール10が運転者により操作されている場合、つまり、車輪1が左右何れかの方向に転舵している場合は、トルク伝達経路上にあそびがない状態となっている。このような場合は、あそびを詰める制御を行う必要がないことから、あそび抑制制御は実行不要と判定される。
【0055】
一方、ステアリングホイール10が運転者により操作されていない場合は、今後行われるステアリングホイール10の操作方向が、直前の操作方向とは反対の方向である場合、トルク伝達経路上にあそびが存在する可能性がある。このような場合は、あそびを詰める制御を行う必要があることから、あそび抑制制御を行う必要があると判定される。
【0056】
具体的には、制御実行判定部60aは、操舵トルクセンサ61の検出値が所定値以下であり、且つ、操舵角センサ62の検出値が所定値以下である場合、ステアリングホイール10が運転者により操作されていないことからあそび抑制制御を行う必要があると判定し、操舵トルクセンサ61の検出値が所定値よりも大きい、または、操舵角センサ62の検出値が所定値よりも大きい場合、ステアリングホイール10が運転者により操作されている可能性が高いことからあそび抑制制御を行う必要はないと判定する。
【0057】
上記判定に用いられる所定値は、各センサの不感帯やステアリングホイール10に運転者が触れているだけで生じる各センサの検出値の振れ幅を考慮して設定される。なお、上記判定には、操舵トルクセンサ61及び操舵角センサ62の何れか一方のみが用いられてもよい。
【0058】
また、制御実行判定部60aは、自車と自車の前方を走行する先行車との間の車間距離に基づいて、あそび抑制制御を実行すべき状態にあるか否かを判定する。自車と自車の前方を走行する先行車との間の車間距離が比較的短い場合は、渋滞中であることが考えられる。渋滞中のように自車と先行車との間隔が比較的短い場合にあそび抑制制御が行われると、電動モータ50への電流の供給が頻繁に行われ、結果として、電力消費量が増大してしまうおそれがある。
【0059】
このように電流が無駄に消費されてしまうことを防止するため、制御実行判定部60aは、自車と先行車との間の車間距離が所定の基準車間距離より長い場合には、あそび抑制制御を実行すべき状態にあると判定する。
【0060】
具体的には、制御実行判定部60aは、車間距離算出部60bにおいて算出された車間距離Dが基準車間距離算出部60cにおいて算出された基準車間距離D1以上である場合にあそび抑制制御を実行すべき状態にあると判定し、車間距離Dが基準車間距離D1未満である場合にあそび抑制制御を実行すべき状態にないと判定する。
【0061】
車間距離算出部60bは、情報取得部65で取得された自車の位置情報と、先行車の位置情報と、に基づいて車間距離Dを算出し、基準車間距離算出部60cは、車速センサ63で検出された自車の車速に基づいて基準車間距離D1を算出する。基準車間距離D1は、いわゆる安全な車間距離であり、例えば、時速70kmまでは時速の数値から10を差し引いた値(例えば、時速60kmであれば、60-10=50m)であり、時速70kmを超える時速では時速の数値(例えば、時速80kmであれば、80m)である。基準車間距離D1の算出に用いられるマップや数式は、予めコントローラ60のROM等に記憶されている。
【0062】
なお、制御実行判定部60aは、車速センサ63で検出された自車の車速が低く、例えば時速30km以下であり、渋滞中である可能性が高い場合には、車速センサ63で検出された自車の車速のみに基づいて、あそび抑制制御を実行すべき状態にないと判定してもよい。また、制御実行判定部60aにおいて判定に用いられる車間距離Dとしては、レーザー等を用いて車間距離を検出する車間距離検出器により検出された値が用いられてもよい。
【0063】
操舵予測部60eは、あそび抑制制御を実行すると判定した制御実行判定部60aから指令を受けると、先行車情報保存部60dに保存された複数台の先行車の操舵情報に基づいて、今後、自車がどの位置において、左右どちらの方向に操舵されるかを予測する。
【0064】
次に、
図3から
図5を参照し、操舵予測部60eによる自車の操舵方向及び操舵位置の予測について説明する。
図3から
図5は、自車が走行している車線を自車よりも先に3台の車両A~Cが走行している場合について、時間の経過毎に示している。
【0065】
図3に示されるように、自車の前方を走行する先行車Aの操舵方向が変化すると、先行車Aの操舵方向と操舵が行われた時の先行車Aの位置情報が情報取得部65を介して取得され、先行車情報保存部60dに保存される。
図3に示される例では、先行車Aは操舵地点Gにおいて左方向に操舵されたとの情報が先行車情報保存部60dに保存される。
【0066】
続いて、
図4に示されるように、自車の前方を走行する先行車Bの操舵方向が変化すると、先行車Bの操舵方向と操舵が行われた時の先行車Bの位置情報が情報取得部65を介して取得され、先行車情報保存部60dに保存される。
図4に示される例では、先行車Bは、先行車Aと同様に、操舵地点Gにおいて左方向に操舵されたとの情報が先行車情報保存部60dに保存される。
【0067】
さらに、
図5に示されるように、自車のすぐ前を走行する先行車Cの操舵方向が変化すると、先行車Cの操舵方向と操舵が行われた時の先行車Cの位置情報が情報取得部65を介して取得され、先行車情報保存部60dに保存される。
図5に示される例では、先行車Cは、先行車A及び先行車Bと同様に、操舵地点Gにおいて左方向に操舵されたとの情報が先行車情報保存部60dに保存される。
【0068】
操舵予測部60eは、先行車情報保存部60dに保存された3台の先行車A~Cの操舵情報を参照し、3台の先行車A~Cのすべてが同じ操舵地点Gにおいて左方向に操舵されたことから、自車も同じ操舵地点Gにおいて左方向に操舵されると予測する。この場合、操舵予測部60eは、左方向を自車の予測操舵方向とし、自車のすぐ前を走行する先行車Cの操舵が行われた操舵地点Gを操舵予測地点G1とした予測結果を押付制御部60fに出力する。なお、操舵予測地点G1は、厳密に特定された位置ではなく、GPS信号の誤差やデータ処理における誤差等を考慮し、
図5に示すように、走行車線上のおおよそのエリアを示すものとして設定される。
【0069】
一方、3台の先行車A~Cのすべてが同じ方向に操舵されなかった場合、例えば、1台のみが操舵された場合は、操舵された位置に交差点や分岐路が存在する可能性があることから、自車の操舵予測は保留される。
【0070】
このように、操舵予測部60eは、先行車情報保存部60dに保存された複数台の先行車A~Cの操舵情報に基づいて自車の操舵方向及び自車の操舵が行われる操舵予測地点G1を予測する。なお、操舵予測部60eにおいて予測に用いられる先行車の台数は3台に限定されず、1台または2台であってもよいし、4台以上の複数台であってもよい。自車の操舵方向及び操舵位置の予測精度を向上させるためには、3台以上の複数台の情報を用いることが好ましい。また、操舵予測地点G1は、自車のすぐ前を走行する先行車Cの操舵が行われた操舵地点Gではなく、予測に用いられた先行車A~Cの操舵地点Gをすべて包含する地点やこれらを平均した地点であってもよい。
【0071】
先行車情報保存部60dには、予め設定された台数の先行車の操舵情報が随時保存される一方、自車が通過した地点における先行車の操舵情報については随時消去される。このように保存される情報を新たな情報に更新することによって、自車の操舵方向及び操舵位置を正確に予測することが可能になるとともに、データの保存領域を小さくすることができる。
【0072】
押付制御部60fは、操舵予測部60eで予測された操舵予測地点G1に自車の位置が近づくと、電動モータ50にあそびを詰めるための押付トルクを生じさせる。ここで、操舵予測地点G1までかなりの距離があるときに電動モータ50に押付トルクを生じさせてあそびを詰めたとしても、操舵予測地点G1に到達したときには、走行中の振動等によって、再びあそびが生じているおそれがある。このため、押付制御部60fは、操舵予測地点G1に自車の位置がある程度近づいたときに、電動モータ50に押付トルクを生じさせている。
【0073】
具体的には、情報取得部65のGPS受信器によって取得された自車の位置から操舵予測部60eで予測された操舵予測地点G1までの距離Lが所定距離L1以下となったときに電流供給部60gへ電動モータ50に電流を供給するよう指令を送る。
【0074】
また、あそび抑制制御は、自車の操舵が行われる前、すなわち、自車が操舵予測地点G1に到達する前までに実行する必要があることから、所定距離L1は、ある程度の余裕を持って設定される。なお、操舵予測地点G1に自車が到達するまでの時間は、自車の車速によって変化することから、所定距離L1の設定には自車の車速を考慮することが好ましい。
【0075】
また、押付制御部60fから電流供給部60gへの指令には、電動モータ50に供給される電流の向き、すなわち、電動モータ50の回転方向が含まれる。押付制御部60fから電流供給部60gへ指令される電動モータ50の回転方向は、操舵予測部60eで予測された予測操舵方向であり、電動モータ50で生じた押付トルクは、操舵予測部60eで予測された予測操舵方向に作用する。
【0076】
電流供給部60gは、押付制御部60fからの指令に応じて、電動モータ50に押付トルクを生じさせるために、所定の微弱電流を供給する。
【0077】
ここで押付トルクの大きさは、主にピニオンギヤ22aとラックギヤ30aとの間のバックラッシュやウォームシャフト53とウォームホイール54との間のバックラッシュを詰めることができれば十分であり、ラック軸30を変位させることができない大きさ、換言すれば、車輪1を転舵させることができない大きさに設定される。
【0078】
このため、電流供給部60gから電動モータ50に供給される電流の大きさは、ラック軸30の軸方向の移動量を検出する転舵状態センサ64の検出値に基づいて制御されてもよく、例えば、電動モータ50に供給される電流を徐々に大きくし、転舵状態センサ64の検出値が変化した時点で電流の供給を停止するようにしてもよい。
【0079】
次に、
図3~
図5に加えて、
図6のフローチャートを参照し、上述の機能を有するコントローラ60により行われるあそび抑制制御について説明する。
図6に示される制御は、コントローラ60によって所定の時間毎に繰り返し実行される。
【0080】
まず、ステップS11において、制御実行判定部60aにより、自車が操舵中であるか否かが判定される。ステップS11において、操舵中であると判定された場合、あそびを詰める制御を行う必要がないことから、一旦処理を終了する。
【0081】
一方、ステップS11において、操舵中ではないと判定された場合、ステップS12に進み、車間距離算出部60bにより、
図3に示される自車と自車のすぐ前を走行する先行車Cとの間の車間距離Dが算出される。
【0082】
続く、ステップS13では、基準車間距離算出部60cにより、基準車間距離D1が算出される。
【0083】
次に、ステップS14において、算出された車間距離Dと基準車間距離D1とが制御実行判定部60aにおいて比較される。
【0084】
車間距離Dが基準車間距離D1に満たない場合は、渋滞中のおそれがあることから、一旦処理を終了する。
【0085】
車間距離Dが基準車間距離D1以上であれば、あそび抑制制御を行う必要性があるとして、ステップS15に進む。
【0086】
ステップS15では、先行車情報保存部60dにより、先行車の操舵情報が順次取得される。
【0087】
続くステップS16では、操舵予測部60eにより、取得された先行車の操舵情報が所定の台数において一致するか否かが判定される。例えば、判定台数が予め3台に設定されている場合には、3台の先行車の操舵位置及び操舵方向が同じであるか否かが判定される。
【0088】
ステップS16において、先行車の操舵情報が一致しない場合や取得された操舵情報が所定の台数に達していない場合は、ステップS17に進み、先行車の操舵情報を更新する。
【0089】
一方、ステップS16において、先行車の操舵情報が一致した場合、ステップS18に進み、予測される自車の操舵予測地点G1が設定される。
【0090】
続くステップS19では、押付制御部60fによって、自車の位置から操舵予測地点G1までの距離Lが所定距離L1以下になったか否かが判定される。
【0091】
自車が操舵予測地点G1に徐々に近づき、自車の位置から操舵予測地点G1までの距離Lが所定距離L1以下になると、ステップS20に進む。
【0092】
ステップS20では、押付制御部60fからの指令に応じて電流供給部60gから電動モータ50へ電流が供給される。
【0093】
電流が供給された電動モータ50は、操舵予測部60eで予測された予測操舵方向に作用する押付トルクを生じ、主にピニオンギヤ22aとラックギヤ30aとの間のバックラッシュやウォームシャフト53とウォームホイール54との間のバックラッシュを詰める。
【0094】
このように自車が操舵予測地点G1に到達する前に、あそびを詰めるための押付トルクを電動モータ50に生じさせることによって、自車の操舵が行われる前に、電動モータ50の駆動トルクを車輪1に伝達する経路上にあるあそびを予め詰めておくことが可能となる。このため、どのような操舵が行われる場合であっても、操舵に応じて車輪1が応答性良く安定して転舵することになり、結果として、車両の操作性を向上させることができるとともに運転者の操作フィーリングを向上させることができる。
【0095】
以上の実施形態によれば以下の効果を奏する。
【0096】
ステアリング装置100では、先行車A~Cの操舵情報に基づいて予測された自車の操舵方向および操舵位置に応じて、トルク伝達経路上にあるあそびを詰める押付トルクを電動モータ50に生じさせている。このように、操舵が行われる前に、トルク伝達経路上にあるあそびが詰められるため、操舵に応じて車輪1が応答性良く安定して転舵されることになり、結果として、ステアリング装置100を備えた車両の操作性を向上させることができるとともに運転者の操作フィーリングを向上させることができる。
【0097】
また、ステアリング装置100では、車輪1を転舵させるための比較的大きな駆動トルクを電動モータ50において生じさせる前に、トルク伝達経路上にあるあそびが詰められる。このため、比較的大きな駆動トルクによって、ピニオンギヤ22aがラックギヤ30aに打ち付けられたり、ウォームシャフト53がウォームホイール54に打ち付けられたりすることが防止され、伝達機構において歯打ち音が生じることが抑制される。この結果、運転者に不快感を与えることを防止することができる。
【0098】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。以下に示すような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示される構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0099】
上記実施形態では、操舵予測部60eで予測された操舵予測地点G1に自車の位置がある程度近づいたか否かの判定が操舵予測地点G1までの自車の距離Lに基づいて判定されている。これに代えて、操舵予測地点G1に自車の位置がある程度近づいたか否かの判定は、操舵予測地点G1に自車が到達するまでの到達予測時間Tに基づいて行われてもよい。
【0100】
具体的には、操舵予測部60eにおいて、操舵予測地点G1に加えて、操舵予測地点G1に自車が到達するまでの到達予測時間Tを自車の車速に基づいて随時予測し、押付制御部60fにおいて、予測された到達予測時間Tが所定時間T1以下となったとき、操舵予測地点G1に自車の位置がある程度近づいたと判定し、電動モータ50に押付トルクを生じさせる。なお、押付制御部60fでは、予測された到達予測時間Tが所定時間T1以下となったとき、または、操舵予測地点G1までの距離Lが所定距離L1以下となったとき、または、これら両方の条件が満たされたときに操舵予測地点G1に自車の位置がある程度近づいたと判定されてもよい。
【0101】
また、上記実施形態では、ステアリング操作に伴って回転する入力シャフト21に連結された出力シャフト22に電動モータ50の出力が付与されている。電動モータ50の出力が付与されるシャフトとしてはこれに限定されず、例えば、ラック軸30であってもよい。
【0102】
また、ステアバイワイヤ方式などのように、出力シャフトがステアリング操作に伴って回転する入力シャフトとは連結していない場合、電動モータ50の出力は、当該出力シャフトに対して付与されてもよい。
【0103】
また、上記実施形態では、ステアリング装置100の操舵が運転者によって行われる場合について説明したが、ステアリング装置100の操舵は、自動的に操舵が行われるいわゆる自動運転によって行われてもよく、この場合も自動的な操舵が行われる前に、トルク伝達経路上にあるあそびが詰められるため、自動的な操舵に応じて車輪1が応答性良く安定して転舵されることになり、結果として、ステアリング装置100を備えた自動運転車両の操作性を向上させることができる。
【0104】
また、上記実施形態では、電動モータ50によりラック軸30を介して2つの車輪1が転舵される。これに代えて、車輪1毎に設けられた電動モータ50によって伝達機構やリンク機構を介して各車輪1を転舵させる独立操舵方式であってもよい。この場合も操舵が行われる前に、車輪1と電動モータ50との間に介在する伝達機構やリンク機構にあるあそびが詰められるため、操舵に応じて車輪1が応答性良く安定して転舵されることになり、結果として、ステアリング装置100を備えた車両の操作性を向上させることができるとともに運転者の操作フィーリングを向上させることができる。
【0105】
また、上記実施形態では、出力シャフト22の回転を車輪1に伝達する伝達機構としてピニオンギヤ22aとラックギヤ30aを有するラックアンドピニオン機構が用いられているが、伝達機構としては、出力シャフト22に結合されるピットマンアームを有するリンク機構が用いられてもよい。この場合も操舵が行われる前に、リンク機構にあるあそびが詰められるため、操舵に応じて車輪1が応答性良く安定して転舵されることになり、結果として、ステアリング装置100を備えた車両の操作性を向上させることができるとともに運転者の操作フィーリングを向上させることができる。
【0106】
また、上記実施形態では、予測された自車の操舵方向のトルク伝達経路上にあそびがあるか否かに関わらず、あそびを詰める押付トルクを電動モータ50に生じさせている。これに代えて、予測された自車の操舵方向のトルク伝達経路上にあそびがあると判定された場合に限り、あそびを詰める押付トルクを電動モータ50に生じさせてもよい。トルク伝達経路上のあそびの有無については、例えば、予測された自車の操舵方向と、直前に操舵された方向と、が異なる方向であればあそびがあり、予測された自車の操舵方向と、直前に操舵された方向と、が同じ方向であればあそびがないと判定してもよい。
【0107】
以下、本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0108】
ステアリング装置100は、車輪1を転舵させる駆動トルクを生じる電動モータ50と、電動モータ50の駆動を制御するコントローラ60と、自車及び自車の前方を走行する先行車A~Cの情報を取得する情報取得部65と、を備え、コントローラ60は、情報取得部65により取得された先行車A~Cの情報に基づき自車の操舵状態を予測する操舵予測部60eと、操舵予測部60eの予測結果に基づいて、車輪1に駆動トルクを伝達する経路上にあるあそびを詰める押付トルクを電動モータ50に生じさせる押付制御部60fと、を有する。
【0109】
この構成では、先行車A~Cの操舵情報に基づいて予測された自車の操舵方向および操舵位置に応じて、トルク伝達経路上にあるあそびを詰める押付トルクを電動モータ50に生じさせている。このように、操舵が行われる前に、トルク伝達経路上にあるあそびが詰められるため、操舵に応じて車輪1が応答性良く安定して転舵されることになり、結果として、ステアリング装置100を備えた車両の操作性を向上させることができるとともに運転者の操作フィーリングを向上させることができる。
【0110】
また、この構成では、車輪1を転舵させるための比較的大きな駆動トルクを電動モータ50において生じさせる前に、トルク伝達経路上にあるあそびが詰められる。このため、比較的大きな駆動トルクによって、ピニオンギヤ22aがラックギヤ30aに打ち付けられたり、ウォームシャフト53がウォームホイール54に打ち付けられたりすることが防止され、伝達機構において歯打ち音が生じることが抑制される。この結果、運転者に不快感を与えることを防止することができる。
【0111】
また、押付トルクの大きさは、車輪1を転舵させることができない大きさに設定される。
【0112】
この構成では、押付トルクの大きさが、車輪1を転舵させることができない大きさに設定される。このため、車両の操作に一切影響を及ぼすことなく、操舵が行われる前に、トルク伝達経路上にあるあそびを確実に詰めることができる。この結果、操舵に応じて車輪1が応答性良く安定して転舵されることとなり、ステアリング装置100を備えた車両の操作性を向上させることができるとともに運転者の操作フィーリングを向上させることができる。
【0113】
また、操舵予測部60eは、情報取得部65により取得された先行車A~Cの操舵方向に関する情報に基づいて、自車の予測操舵方向を予測し、押付制御部60fは、電動モータ50が生じる押付トルクが操舵予測部60eで予測された予測操舵方向に作用するように電動モータ50を制御する。
【0114】
この構成では、電動モータ50が生じる押付トルクは、操舵予測部60eで予測された予測操舵方向に作用する。このように予測された自車の予測操舵方向のトルク伝達経路上にあるあそびを詰めるように押付トルクを作用させることによって、操舵が行われる前に、トルク伝達経路上にあるあそびを確実に詰めておくことができる。この結果、操舵に応じて車輪1が応答性良く安定して転舵されることとなり、ステアリング装置100を備えた車両の操作性を向上させることができるとともに運転者の操作フィーリングを向上させることができる。
【0115】
また、操舵予測部60eは、情報取得部65により取得された先行車A~Cの操舵地点Gに関する情報に基づいて、自車の操舵が行われる操舵予測地点G1及び操舵予測地点G1に自車が到達するまでの到達予測時間Tの少なくとも一方を予測し、押付制御部60fは、操舵予測地点G1までの自車の距離Lが所定距離L1以下または到達予測時間Tが所定時間T1以下となったときに、電動モータ50に押付トルクを生じさせる。
【0116】
この構成では、操舵予測地点G1までの自車の距離Lが所定距離L1以下または操舵予測地点G1に自車が到達するまでの到達予測時間Tが所定時間T1以下となったときに、電動モータ50に押付トルクを生じさせている。このように自車が操舵予測地点G1に近づいたときに押付トルクを電動モータ50に生じさせることで、操舵が行われる直前に、トルク伝達経路上にあるあそびを確実に詰めることができる。この結果、操舵に応じて車輪1が応答性良く安定して転舵されることとなり、ステアリング装置100を備えた車両の操作性を向上させることができるとともに運転者の操作フィーリングを向上させることができる。
【0117】
また、コントローラ60は、情報取得部65により取得された自車及び先行車Cの情報に基づき自車と先行車Cとの車間距離Dを算出する車間距離算出部60bと、自車の車速に基づいて基準車間距離D1を算出する基準車間距離算出部60cと、をさらに有し、操舵予測部60eは、車間距離Dが基準車間距離D1以上である場合に自車の操舵状態を予測する。
【0118】
この構成では、操舵予測部60eによる自車の操舵状態の予測が、車間距離Dが基準車間距離D1以上である場合に行われる。このように車間距離Dが比較的短く、渋滞のおそれがあるときには、自車の操舵状態の予測を行わず、電動モータ50へ電流が頻繁に供給されることを抑制することによって、電動モータ50における電力消費量を低減させることができる。
【0119】
また、情報取得部65は、複数台の先行車A~Cの情報を取得し、操舵予測部60eは、情報取得部65により取得された複数台の先行車A~Cの操舵情報に基づいて自車の操舵状態を予測する。
【0120】
また、操舵予測部60eは、複数台の先行車A~Cの操舵方向が特定の操舵地点Gにおいて同じである場合、特定の操舵地点Gにおいて自車も同じ方向に操舵されると予測する。
【0121】
これらの構成では、自車の操舵状態が複数台の先行車A~Cの操舵情報に基づいて予測される。このように自車の操舵状態を複数台の先行車A~Cの操舵情報に基づいて予測することにより、1台の先行車の操舵情報に基づいて予測する場合よりも自車の操舵状態を精度よく予測することができる。
【0122】
また、ステアリング装置100は、車輪1の転舵状態を検出する転舵状態センサ64をさらに備え、押付トルクの大きさは、転舵状態センサ64の検出値を変化させない大きさに設定される。
【0123】
この構成では、押付トルクの大きさが、転舵状態センサ64の検出値を変化させない大きさに設定される。つまり、押付トルクは、車輪1を転舵させることができない大きさに設定される。このため、車両の操作に一切影響を及ぼすことなく、操舵が行われる前に、トルク伝達経路上にあるあそびを確実に詰めることができる。この結果、操舵に応じて車輪1が応答性良く安定して転舵されることとなり、ステアリング装置100を備えた車両の操作性を向上させることができるとともに運転者の操作フィーリングを向上させることができる。
【0124】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0125】
100・・・電動パワーステアリング装置(ステアリング装置)、1・・・車輪、22a・・・ピニオンギヤ(伝達機構)、30・・・ラック軸(転舵部)、30a・・・ラックギヤ(伝達機構)、50・・・電動モータ(電動部)、52・・・減速部(伝達機構)、60・・・コントローラ(制御部)、60a・・・制御実行判定部、60b・・・車間距離算出部、60c・・・基準車間距離算出部、60d・・・先行車情報保存部、60e・・・操舵予測部、60f・・・押付制御部、60g・・・電流供給部、61・・・操舵トルクセンサ、62・・・操舵角センサ、63・・・車速センサ、64・・・転舵状態センサ、65・・・情報取得部