(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】自動車部品
(51)【国際特許分類】
F02M 35/10 20060101AFI20230720BHJP
F02B 39/00 20060101ALI20230720BHJP
F02M 35/024 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
F02M35/10 301L
F02B39/00 C
F02M35/024 511A
F02M35/024 511C
(21)【出願番号】P 2019160485
(22)【出願日】2019-09-03
【審査請求日】2022-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000151209
【氏名又は名称】マーレジャパン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26-46, D-70376 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】大山 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】戸田 彰人
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 吉朗
(72)【発明者】
【氏名】小松 洋輔
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-149204(JP,A)
【文献】特開2001-280311(JP,A)
【文献】特開2006-016993(JP,A)
【文献】特開2007-245343(JP,A)
【文献】特開2010-084558(JP,A)
【文献】特開2010-229842(JP,A)
【文献】特開2013-053533(JP,A)
【文献】特開2019-113009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/00
F02M 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を空気が流れ、屈曲部を有している管路と、該管路内における圧力変動による振動が伝達される平板部と、を備える自動車部品であって、
前記管路は前記平板部から延在しており、前記屈曲部の内径側と前記平板部とに複数のディンプルが形成されていることを特徴とする、自動車部品。
【請求項2】
前記ディンプルの縁が滑らかな曲線となるように形成されていることを特徴とする、請求項
1に記載の自動車部品。
【請求項3】
前記自動車部品は、エアクリーナ、インテークマニホールド、コンプレッサのうちのいずれかである、請求項1
または2に記載の自動車部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気が通流する管路を有する自動車部品に関する。
【背景技術】
【0002】
空気が通流する管路を有している自動車部品の中には、管路における圧力変動に起因する振動が、比較的広い平面を有している平板部に伝わり、この平板部が放射音の発生源となっているものがある。従来では、このような放射音を低減するために、平板部にリブを設けたり、平板部の板厚を増大したり、または平板部の材料密度を高めるなどの対策が行われている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような対策では、平板部の重量や製造コストが増加してしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、平板部の重量や製造コストを増やすことなく、簡易な方法で放射音を低減する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態によれば、内部を空気が流れ、屈曲部を有している管路と、管路内における圧力変動による振動が伝達される平板部と、を備える自動車部品であって、屈曲部の内径側と平板部とに複数のディンプルが形成されている、自動車部品が提供される。
【0007】
これによると、ディンプルによって管路の屈曲部付近に乱流を発生させて圧力変動を低減するとともに、ディンプルによって平板部の剛性を高めることができる。このように、実際の放射音の発生源である平板部と、その原因となる振動を発している管路との両方に、ともにディンプルを設けることで、放射音を効果的に低減することができる。
【0008】
好適には、ディンプルは略半球形であり、ディンプルの深さ、直径、ピッチは、管路内を流れる空気流のレイノルズ数に応じて決定されている。これによると、管路に合わせた最適な乱流形成が可能になる。
【0009】
好適には、ディンプルの縁が滑らかな曲線となるように形成されている。これによると、ディンプルの縁によって生じる空気抵抗を抑制または回避することができる。
【0010】
自動車部品は、例えばインテークマニホールドであるが、空気が通流する管路を有する部品であればよく、例えばコンプレッサやエアクリーナを構成する部品であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、空気が通流する管路と平板部とを有する自動車部品において、平板部から発せられる放射音を簡易な方法で低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】インテークマニホールドの概略斜視図である。
【
図2】
図1のインテークマニホールドの管路の内側が見えるようにした部分切断図である。
【
図4】ディンプルを設けない場合の、インテークマニホールドの管路の屈曲部付近の流れの解析図である。
【
図5】ディンプルを設けた場合の、インテークマニホールドの管路の屈曲部付近の流れの解析図である。
【
図8】ディンプルの有無による放射音の違いの測定結果である。
【
図9】ディンプルの有無による放射音の違いの測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための一形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、エンジンの燃焼室に空気を導入するためのインテークマニホールド10の概略斜視図である。インテークマニホールド10は、エンジンが吸い込む混合気または空気をシリンダに分配するための管路14a~cを有している。管路14a~cは、コレクタ12との接続部の近傍に、それぞれ屈曲部を有している。
図1では、管路14a~cは、コレクタ12と一体的に形成されているが、別の部材として形成されていてもよい。インテークマニホールド10は樹脂製であるが、アルミニウム合金などの他の材料から成っていてもよい。
【0015】
インテークマニホールド10の管路14a~cを通って空気がエンジン内に導入される際に、管路の屈曲部では圧力変動が生じる。比較的広い平面を有しているコレクタ12の近傍で圧力変動が発生する場合、圧力変動に起因する管路の振動がコレクタ12に伝達され、コレクタ12が放射音の発生源となってしまうという問題がある。
【0016】
図2は、
図1において、インテークマニホールド10の管路14a~cの内側が見えるようにした部分切断図である。図示するように、管路14a~cの内面のうち、屈曲部の内径側にのみ、多数のディンプル20が形成されている。これらディンプル20は、管路内を流れる空気が、屈曲部の内径側の表面から剥離することにより生じる圧力変動を低減することができる。これに加えて、圧力変動に起因する管路の振動が伝達されるコレクタ12の平面領域にも、多数のディンプル20が形成されている。これにより、コレクタ12の剛性を高めることができる。このように、管路14a~cとコレクタ12にそれぞれ設けられた多数のディンプル20の組み合わせにより、コレクタ12から生じる放射音を低減することができる。
【0017】
図3は、ディンプル20の拡大図である。図示のように、ディンプル20は略半球形であり、ピッチb、直径c、深さkを有している。ディンプル形状は、管路内を流れる空気流のレイノルズ数に応じて、ピッチb、直径c、深さkの最適な組み合わせが選択される。
【0018】
なお、管路14a~cに設けられる全てのディンプル20が同一形状であってもよいし、位置によって異なる形状であってもよい。管路14a~cに設けられるディンプルと、コレクタ12に設けられるディンプルは、同一形状であってもよいし、異なる形状であってもよい。
【0019】
図4は、ディンプルを設けない場合の、インテークマニホールドの管路の屈曲部付近の流れの解析図である。図中の矢印が流れの方向を示しており、管路14の右端がエンジンのシリンダに接続されている。これによると、管路14の屈曲部の内径側で、流れが内周面から剥離していることが分かり、これが管路内の圧力変動の原因となっている。
【0020】
図5は、ディンプルを設けた場合の、インテークマニホールドの管路の屈曲部付近の流れの解析図である。屈曲部の内径側に設けられたディンプルにおいて、小さな乱流が発生していることが分かる(図中の枠内)。ディンプルにより小さな乱流を発生させて剥離点を崩すことで、剥離点がより下流側に移動する。このように、大きな剥離が小さく細かな剥離になることで、管路内の圧力変動が低減される。
【0021】
なお、
図3に示したディンプル20のように縁に角があると、管路の通気抵抗が悪化することもある。このため、
図6に示すディンプル20´のように、ディンプルの縁が滑らかな曲線となるように形成されていると好ましい。
【0022】
以下では、ディンプル形成による放射音低減効果の確認実験について説明する。
【0023】
図7は、放射音測定装置の概略図である。ディンプルのないインテークマニホールドと、ディンプルを形成したインテークマニホールド10のそれぞれについて、ブロア30から管路14に空気を送り込み、コレクタから発せられる放射音を、コレクタの表側、裏側にそれぞれ配置したマイクM1、M2にて測定した。
【0024】
図8は、マイクM1、M2によって測定された放射音を周波数解析したグラフである。ほとんどの周波数において、ディンプル有りの方がディンプルなしの場合よりも放射音が小さくなっており、特に1400Hz付近において放射音が最も低減していることが分かる。マイクM1、M2のいずれにおいても、10~2000Hzの平均値で約-2dBの放射音低減効果が得られた(
図9参照)。
【0025】
以上説明したように、本実施形態によれば、インテークマニホールドにおいて、管路の屈曲部の内径側、つまり、管路内を流れる空気が内周面から剥離する箇所に、複数のディンプルを形成することによって、流れの剥離から生じる圧力変動を低減することができる。また、圧力変動に起因する管路の振動が伝達されて放射音の発生源となるコレクタにも、複数のディンプルを形成することによって、コレクタの剛性を高め、放射音を低減することができる。
【0026】
このように、本実施形態によれば、実際の放射音の発生源であるコレクタだけでなく、コレクタに伝達される振動の発生源である管路にもディンプルを形成することによって、コレクタからの放射音を効果的に抑制することができる。コレクタの剛性を高めるために、リブを設けたり、板厚や材料密度を増加させたりする必要がないので、重量や製造コストが増加することもない。また、ディンプルの深さだけ管路の断面積が増加するので、管路の通気抵抗も低下する。
【0027】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、様々な変形、改良が可能である。
【0028】
上記の実施形態では、インテークマニホールドの管路とコレクタとにディンプルを設けることについて説明したが、本発明は、内部を空気が流れ、屈曲部を有している管路と、管路内における圧力変動が伝達される平板部とを有している、任意の部品に適用することができる。例えば自動車部品であれば、インテークマニホールド以外にコンプレッサやエアクリーナ等が想定される。
【符号の説明】
【0029】
10 インテークマニホールド
12 コレクタ(平板部)
14a、14b、14c 管路
20、20´ ディンプル
30 ブロア
M1、M2 マイク