(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】ステアリングコラム装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/18 20060101AFI20230720BHJP
【FI】
B62D1/18
(21)【出願番号】P 2019162607
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000237307
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトコラムシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(72)【発明者】
【氏名】藤村 統
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-061889(JP,A)
【文献】特開2013-193508(JP,A)
【文献】特開2015-214320(JP,A)
【文献】国際公開第2014/119630(WO,A1)
【文献】特開2008-213521(JP,A)
【文献】特開2006-069524(JP,A)
【文献】特開2009-292308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトを回転自在に支持するアッパージャケット、ロアージャケット、及びリテーナを含むステアリングコラム装置であって、
前記リテーナは筒状であり、前記アッパージャケットの内周面に嵌合状態で固定され、その内周面に前記ロアージャケットを軸方向に前記アッパージャケットと相対摺動可能に嵌合し、
前記リテーナの先端に形成された爪と、
前記ロアージャケット
上、テレスコ機能での前記アッパージャケットの移動範囲より離脱方向外側の所定位置に形成された孔と、
を備えた、
ステアリングコラム装置。
【請求項2】
前記ロアージャケットの前記孔は、前記ロアージャケットの周面方向に、前記リテーナの前記爪の幅より広く形成される、
請求項1に記載のステアリングコラム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、テレスコ機能を有するステアリングコラム装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、相対摺動可能に、つまりテレスコ可能に、リテーナを介して嵌合されたアウターチューブ及びロアーチューブを有するステアリング装置が記載されている。
【0003】
かかる従来のステアリング装置では、例えば、車両への取り付け前のステアリング装置単品の状態でロック機構が解除された場合に、両チューブが互いに離脱しそうになったとしても、アウターチューブに固定状態で取り付けられた規制部材が、リテーナの軸方向の所定部に当接することにより、両チューブが互いに離脱することを防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来のステアリング装置では、規制部材は、ステアリング装置が車両に取り付けられる前の単体の状態のときに、両チューブが互いに離脱することを防止する目的でのみ、新たに設けられたものである。
【0006】
本願は、新たに規制部材を設けずに離脱を防止することが可能となるステアリングコラム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に係るステアリングコラム装置は、ステアリングシャフトを回転自在に支持するアッパージャケット、ロアージャケット、及びリテーナを含むステアリングコラム装置であって、リテーナは筒状であり、アッパージャケットの内周面に嵌合状態で固定され、その内周面にロアージャケットを軸方向にアッパージャケットと相対摺動可能に嵌合し、リテーナの先端に形成された爪と、ロアージャケット上、テレスコ機能でのアッパージャケットの移動範囲より離脱方向外側の所定位置に形成された孔と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に係るステアリングコラム装置は、請求項1のステアリングコラム装置において、ロアージャケットの孔は、ロアージャケットの周面方向に、リテーナの爪の幅より広く形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係るステアリングコラム装置によれば、リテーナに爪を形成し、ロアージャケットに孔を形成するだけで、ロアージャケットがアッパージャケットから離脱することを規制するようにしたので、この規制のために別部材を設ける必要がなくなるため、ステアリングコラム装置の製造コストをさらに低減させることが可能となる。
【0010】
また、請求項2に係るステアリングコラム装置によれば、ロアージャケットが周方向に多少動いたとしても、リテーナの爪がロアージャケットの孔に係止するので、ロアージャケットがアッパージャケットから離脱することを確実に規制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本願の一実施の形態に係るステアリングコラム装置に含まれる構成の一部の外観を示す斜視図である。
【
図2】
図1の構成に含まれるアッパージャケットとロアージャケットが相対摺動したときの様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1は、本願の一実施の形態に係るステアリングコラム装置の構成の一部の外観を示している。本実施形態のステアリングコラム装置は、チルト機能とテレスコ機能を備えているが、本発明は、テレスコ機能を備えた場合に生ずる問題点を解決するためになされているので、チルト機能については言及しない。なお、
図1及び
図2において、方向に言及する場合には、各図に示される矢印の方向を用いるものとする。但し、前後方向は、軸方向である。
【0014】
本実施形態のステアリングコラム装置は、
図1に示すようにステアリングコラム10を備えている。ステアリングコラム10は、アッパーシャフト11及びロアーシャフト15と、アッパーシャフト11及びロアーシャフト15をそれぞれ回転自在に支持するアッパージャケット12及びロアージャケット16とにより、主として構成されている。なお、アッパーシャフト11の先端には、図示しないステアリングホイールが取り付けられる。
【0015】
アッパージャケット12の内周面には、
図2に示すように、筒状のリテーナ20が嵌合状態で固定されている。リテーナ20は、本実施形態では例えば、樹脂により形成される。そしてリテーナ20の内周面には、ロアージャケット16が摺動可能に嵌合されている。リテーナ20の先端、つまり前端の所定の1箇所には、爪20aが形成されている。また、ロアージャケット16の所定の1箇所には、リテーナ20の爪20aが係止する孔16aが形成されている。孔16aの役割については、後述する。
【0016】
このように、アッパーシャフト11及びアッパージャケット12と、ロアーシャフト15及びロアージャケット16とは、相対摺動可能に構成され、ステアリングコラム10は全体として、前後方向に伸縮可能に構成されている。但し
図2には、アッパーシャフト11及びロアーシャフト15は図示されていない。
【0017】
アッパージャケット12には、
図1に示すように、アッパーブラケット30が取り付けられる。アッパーブラケット30は、アッパージャケット12を車体(図示せず)に固定するためのものである。つまり、アッパージャケット12は、アッパーブラケット30を介して車体に取り付けられる。
【0018】
一方、ロアージャケット16にも、ロアーブラケット40が取り付けられ、ロアージャケット16も、ロアーブラケット40を介して車体に取り付けられる。
【0019】
ステアリングコラム10が、アッパーブラケット30及びロアーブラケット40を介して車体に取り付けられた場合、テレスコ機能は主として、アッパージャケット12を介して実現されるため、テレスコ機能を実現するためのテレスコ機構は、アッパージャケット12周辺に設けられる。但し、テレスコ機構の詳細な構成は、図示されていない。
【0020】
図2(a)は、車両への取り付け前のステアリングコラム装置単品の状態でテレスコ機能のロックが解除された場合に、ロアージャケット16がアッパージャケット12から離脱方向に摺動した様子を示している。
【0021】
このようにテレスコ機能のロックが解除され、ロアージャケット16が、アッパージャケット12から離脱方向に摺動したとする。
図2(a)では、ロアージャケット16がアッパージャケット12に対して、相対的に前方向に摺動する。このような摺動が進んで行くと、
図2(b)又は
図2(c)のようにロアージャケット16の表面上に出ていたリテーナ20の爪20aは、孔16aに入り込み、係止される。
図2(a)は、リテーナ20の爪20aがロアージャケット16の孔16aに係止された状態を示している。
【0022】
この係止により、ロアージャケット16とアッパージャケット12との相対摺動は停止するので、ロアージャケット16のアッパージャケット12からの離脱を防止することができる。
【0023】
なお、ロアージャケット16がリテーナ20内を周方向に移動した状態で、アッパージャケット12から離脱方向に摺動した場合、リテーナ20の爪20aの周方向の幅とロアージャケット16の孔16aの周方向の幅が同じ程度であると、リテーナ20の爪20aがロアージャケット16の孔16aに係止しないことがある。このため、ロアージャケット16の孔16aの周方向の幅をリテーナ20の爪20aの周方向の幅より広く形成しておく方が好ましい。
【0024】
図2(b)は、車両への取り付け後のステアリングコラム装置において、テレスコ機能のロックが解除された場合に、ステアリングコラム10を最小長まで縮小した様子を示している。また
図2(c)は、
図2(b)と同様に、テレスコ機能のロックが解除された場合に、ステアリングコラム10を最大長まで伸長させた様子を示している。つまり、
図2(b)及び
図2(c)は、テレスコ機能によりステアリングコラム10を最小長から最大長まで伸縮させたとしても、リテーナ20の爪20aはロアージャケット16の表面上に位置し、爪20aに係止されないことを意味している。逆に言えば、孔16aは、このようなロアージャケット16上の位置に形成される。
【0025】
図2(d)は、車両への取り付け後のステアリングコラム装置において、二次衝突が発生した場合に、運転者がステアリングコラム10を押したことに応じて、アッパージャケット12が車体の前方に移動した様子を示している。
図2(d)と
図2(b)とを比較すれば分かるように、
図2(d)におけるリテーナ20の爪20aとロアージャケット16の孔16aとの距離は、
図2(b)におけるそれより遠くなっている。つまり、二次衝突が発生した場合には、リテーナ20の爪20aがロアージャケット16の孔16aに係止されることはない。したがって、二次衝突が発生した場合、係止による荷重の影響は受け得ない。
【0026】
以上説明したように、本実施形態のステアリングコラム装置は、ステアリングシャフト11,15を回転自在に支持するアッパージャケット12、ロアージャケット16、及びリテーナ20を含むステアリングコラム装置であって、リテーナ20は筒状であり、アッパージャケット12の内周面に嵌合状態で固定され、その内周面にロアージャケット16を軸方向にアッパージャケット12と相対摺動可能に嵌合し、リテーナ20の先端に形成された爪20aと、ロアージャケット16の所定位置に形成された孔16aと、を備えている。
【0027】
そして、本実施形態のステアリングコラム装置は、ロアージャケット16がアッパージャケット12から離脱する方向に摺動した場合には、リテーナ20の爪20aがロアージャケット16の孔16aに係止することにより、ロアージャケット16がアッパージャケット12から離脱することを規制する。
【0028】
このように、本実施形態のステアリングコラム装置では、リテーナ20に爪20aを形成し、ロアージャケット16に孔16aを形成するだけで、ロアージャケット16がアッパージャケット12から離脱することを規制するようにしたので、この規制のために別部材を設ける必要がなくなるため、ステアリングコラム装置の製造コストをさらに低減させることが可能となる。
【0029】
また、ロアージャケット16の孔16aは、ロアージャケット16の周方向に、リテーナ20の爪20aの幅より広く形成される。
【0030】
これにより、ロアージャケット16が周方向に多少動いたとしても、リテーナ20の爪20aがロアージャケット16の孔16aに係止するので、ロアージャケット16がアッパージャケット12から離脱することを確実に規制することが可能となる。
【0031】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものでなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0032】
(1)上記実施形態では、リテーナ20の爪20aの個数も、ロアージャケット16の孔16aの個数も、1つとしたが、これに限らず、複数形成するようにしてもよい。
【0033】
(2)上記実施形態では、リテーナ20は、樹脂により形成したが、素材は樹脂に限らない。
【符号の説明】
【0034】
10 ステアリングコラム
11 アッパーシャフト
12 アッパージャケット
15 ロアーシャフト
16 ロアージャケット
16a 孔
20 リテーナ
20a 爪