(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】含水ケイ酸スラリー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/142 20060101AFI20230720BHJP
【FI】
C01B33/142
(21)【出願番号】P 2019183129
(22)【出願日】2019-10-03
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000228903
【氏名又は名称】東ソー・シリカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】中上 英紀
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-269311(JP,A)
【文献】特開昭59-022794(JP,A)
【文献】特開昭59-133093(JP,A)
【文献】特開2005-231954(JP,A)
【文献】特公昭37-009961(JP,B1)
【文献】特表2007-524555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が10~35m
2/gであり、レーザー回折法で測定した体積平均粒子径(D50)が0.4~0.9μmであり、かつレーザー回折法で測定した粒度分布における下位からの体積積算累積値の90%の粒子径(D90)が1.0~5.0μmであ
り、含水ケイ酸濃度が20~45重量%であり、弱酸強塩基を除く無機塩をスラリー100重量部に対して2.0~5.0重量部の割合で含有する含水ケイ酸を含む、含水ケイ酸スラリー。
【請求項2】
スラリーの分散媒が水または水含有溶液である、請求項1に記載の含水ケイ酸スラリー。
【請求項3】
スラリーのpHが3.0~8.0であり、電気伝導度(E.C.)が15~100mS/cm(ミリジーメンス)である、請求項1の含水ケイ酸スラリー。
【請求項4】
BET比表面積が10~35m
2/gであり、かつレーザー回折法で測定した体積平均粒子径(D50)が1.0μm以上の含水ケイ酸を
、含水ケイ酸濃度が20~45重量%となるように分散媒と混合し、スラリー化を行う工程
、
得られたスラリーを、レーザー回折法で測定した体積平均粒子径(D50)が0.4~0.9μmであり、かつレーザー回折法で測定した粒度分布における下位からの体積積算累積値の90%の粒子径(D90)が1.0~5.0μmになるまで湿式粉砕を行う工程、
及び
湿式粉砕工程後に得られたスラリーに対して、弱酸強塩基を除く無機塩を、前記スラリー100重量部に対し2.0~5.0重量部の割合で添加して、前記無機塩を含有する含水ケイ酸スラリーを得る工程
を含む、請求項1に記載の含水ケイ酸スラリーの製造方法。
【請求項5】
スラリーの分散媒が水または水含有溶液である、請求項
4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水ケイ酸スラリー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカを水系分散媒に分散したシリカスラリーは多種多様なものがある。あらかじめスラリー状態で合成されるコロイダルタイプやゾルタイプの含シリカスラリーをはじめ、粉体で供給さる乾式シリカを溶剤に分散したスラリーも多く利用されている。これらは、ナノサイズのシリカ一次粒子が単分散或いは単分散に近い凝集構造を有するシリカスラリーである。
【0003】
一方、約10~30nmの一次粒子がおよそ50~500nmのサイズに強く凝集した構造を持ち、粉体で供給される含水ケイ酸を水系分散媒に分散した含水ケイ酸スラリーは、含水ケイ酸が凝集構造を有することで、コロイダルシリカや乾式シリカとは異なる特性を有しており、そのため様々なタイプが検討されている。
【0004】
含水ケイ酸スラリーの製造方法としては、粉体の含水ケイ酸を水などの水系分散媒に分散し、ビーズミルや高圧ホモジナイザーなどの湿式粉砕機を用いて粒子径を調整する方法が開示されている。(特許文献1~3)
【0005】
また、含水ケイ酸スラリー中の含水ケイ酸は凝集構造を有しているために、凝集沈澱を起こし易いという欠点がある。その対策としてカチオン樹脂等を添加する方法が開示されている。(特許文献1, 3)
【0006】
含水ケイ酸スラリーの用途としては、インクジェット光沢紙(特許文献1)、研磨剤(特許文献2, 4)のほか、フィルムや樹脂コーティングの添加剤(特許文献3)、塗料、インキの艶消し剤などがある。透明性を要求されるインクジェット光沢紙やフィルム樹脂のコーティング添加剤分野ではBET比表面積が高く、細孔容量(または吸油量)が大きな含水ケイ酸が好まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-181190号公報
【文献】特開2003-146645号公報
【文献】特開2006-69870号公報
【文献】特開2016-1000034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、従来にはないBET比表面積が小さく(例えば、BET比表面積35m2/g以下)、一次粒子径が大きく(例えば、直径で60nm以上)、かつ凝集形態を有した非球状のサブミクロンサイズの含水ケイ酸のスラリーに対するニーズが高まっている。以下、本願明細書において、サブミクロンサイズとは、数値限定していない場合、0.1~1.0ミクロンのサイズを指す。
【0009】
このようなスラリーは、例えば、研磨剤用途で使用した場合、研磨面の平滑性はコロイダルシリカ等、他のタイプの含水ケイ酸スラリーには劣るものの、研磨速度の向上などが期待できる。また、フィルムや樹脂コーティング添加剤として使用した場合、透明性は劣るものの、コーティング材料との密着性の向上に伴う接着強度の向上や、コート面のブロッキング性能の向上や表面が何かに擦れた時の耐キズ性の向上が期待できる。
【0010】
以下、本願明細書において、特に断らない限り、含水ケイ酸とは粉体状態の含水ケイ酸を指し、スラリーとは、含水ケイ酸スラリーを指す。
【0011】
ケイ酸は、ケイ酸ソーダと鉱酸の中和反応により析出した一次粒子を成長させることで合成される。そのため、BET比表面積が35m2/g以下の含水ケイ酸であっても調製することは可能である。しかし、通常、この方法では、析出した小さな一次粒子が凝集状態を保ったまま粒子成長していくため、含水ケイ酸のBET比表面積が35m2/g以下に至るまで成長させると、硬く大きな凝集粒子となってしまう。
【0012】
本発明者らの実験によれば、従来法を用いてBET比表面積35m2/g以下の含水ケイ酸を調製すると、凝集粒子径が数10μmサイズの硬い不定形な含水ケイ酸になり、その後の粉砕が困難であり、特に1μm未満のサブミクロンサイズまで粉砕することは実質的に不可能であった。
【0013】
さらに、含水ケイ酸特有の問題として、スラリー中の含水ケイ酸の沈降問題が挙げられる。特にBET比表面積35m2/g以下の含水ケイ酸ではそれが顕著であった。含水ケイ酸の沈降防止方法は特許文献1から3にあるように、カチオン樹脂等を添加する方法も提案されているが、BET比表面積35m2/g以下の含水ケイ酸ではこの添加効果は低かった。さらに、スラリーにカチオン樹脂等を添加すると、例えば、コーティング添加剤用途では後のpH調整でゲル化をしてしまうという問題があり、研磨用途ではカチオン樹脂成分による摩擦抵抗の低下で研磨速度が低下するなどの問題が有った。このように用途によっては、これら沈降防止方法は好ましくない場合があった。
【0014】
そこで本発明者らは、これらの課題を解決するために、BET比表面積が35m2/g以下であるにも関わらず、ナノサイズの一次粒子が凝集した形態を有し、かつ沈降しにくいスラリーについて種々検討を行った。
【0015】
上述のように、従来法で調製したBET比表面積が35m2/g以下の含水ケイ酸は凝集力が強く、1μm未満のサブミクロン領域まで粉砕することが出来ない。そこで、BET比表面積が35m2/g以下でありながら、例えば、湿式粉砕によって1μm未満のサブミクロン領域まで粉砕することが出来るような含水ケイ酸の新規な合成方法の検討を行った。
【0016】
その結果、後述するような従来法と同様にケイ酸ソーダと鉱酸の中和反応を用いる方法ではあるが、濃度が低い鉱酸を用い、従来よりゆっくりと粒子成長をさせることで、BET比表面積が35m2/g以下でありながら、ナノサイズの一次粒子が凝集した形態を有し、かつ1μm未満のサブミクロン領域まで粉砕することができる含水ケイ酸の合成に成功した。
【0017】
さらに、この方法で合成したBET比表面積35m2/g以下の含水ケイ酸を1μm未満のサブミクロン領域まで湿式粉砕して、ナノサイズの一次粒子が凝集した形態を有し、かつ沈降しにくい含水ケイ酸スラリーの調製に成功し、本発明を完成するに至った。
【0018】
加えて、調製した含水ケイ酸スラリーに特定の無機塩を添加することにより、含水ケイ酸の沈降が抑制され、分散状態が維持できることも見出した。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、以下の通りである。
[1]
BET比表面積が10~35m2/gであり、レーザー回折法で測定した体積平均粒子径(D50)が0.4~0.9μmであり、かつレーザー回折法で測定した粒度分布における下位からの体積積算累積値の90%の粒子径(D90)が1.0~5.0μmである含水ケイ酸を含む、含水ケイ酸スラリー。
[2]
含水ケイ酸濃度が20~45重量%である、[1]に記載の含水ケイ酸スラリー。
[3]
弱酸強塩基を除く無機塩をさらに含有する、[1]に記載の含水ケイ酸スラリー。
[4]
前記無機塩をスラリー100重量部に対して2.0~5.0重量部の割合で含有する、[3]に記載の含水ケイ酸スラリー。
[5]
スラリーの分散媒が水または水含有溶液である、[1]に記載の含水ケイ酸スラリー。
[6]
スラリーのpHが3.0~8.0であり、電気伝導度(E.C.)が15~100mS/cm(ミリジーメンス)である、[1]の含水ケイ酸スラリー。
[7]
BET比表面積が10~35m2/gであり、かつレーザー回折法で測定した体積平均粒子径(D50)が1.0μm以上の含水ケイ酸を分散媒と混合し、スラリー化を行う工程、及び
得られたスラリーを、レーザー回折法で測定した体積平均粒子径(D50)が0.4~0.9μmであり、かつレーザー回折法で測定した粒度分布における下位からの体積積算累積値の90%の粒子径(D90)が1.0~5.0μmになるまで湿式粉砕を行う工程、
を含む、[1]に記載の含水ケイ酸スラリーの製造方法。
[8]
含水ケイ酸と分散媒との混合は、20~45重量%の濃度のスラリーが得られるように行う、[7]に記載の製造方法。
[9]
スラリーの分散媒が水または水含有溶液である、[7]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]
湿式粉砕工程後に得られたスラリーに対して、弱酸強塩基を除く無機塩を添加して、前記無機塩を含有する含水ケイ酸スラリーを得る、[7]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]
前記無機塩は、前記スラリー100重量部に対し2.0~5.0重量部の割合で添加する、[10]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、BET比表面積が10~35m2/gで、体積平均粒子径(D50)が0.4~0.9μmであり、体積積算累積値90%(D90)が1.0~5.0μmである、ナノサイズの一次粒子が凝集した形態を有し、かつ沈降しにくい含水ケイ酸スラリーを提供することができる。
【0021】
さらに、本発明の含水ケイ酸スラリーは、含水ケイ酸濃度を20~45重量%までの高濃度化することも可能である。
【0022】
加えて本発明によれば、弱酸強塩基を除く無機塩をスラリーに添加することで、沈降安定性により優れた含水ケイ酸スラリーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】BET比表面積が35m
2/g以下の含水ケイ酸の一次粒子成長モデルを示す。
【
図2】実施例、比較例の含水ケイ酸スラリーの製造フロー
【
図3】実施例3の湿式粉砕前後のレーザー回折法体積粒度分布
【
図4】比較例1の湿式粉砕前後のレーザー回折法体積粒度分布
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、BET比表面積が10~35m2/gであり、レーザー回折法で測定した体積平均粒子径(D50)が0.4~0.9μmであり、かつレーザー回折法で測定した粒度分布における下位からの体積積算累積値90%(D90)が1.0~5.0μmである含水ケイ酸を含む、含水ケイ酸スラリーに関する。
【0025】
本発明の含水ケイ酸スラリーに含まれる含水ケイ酸のBET比表面積は、10~35m2/gの範囲である。BET比表面積35m2/gを超える含水ケイ酸スラリーは、例えば研磨分野では研磨速度が不十分であり、コーティング用途では接着強度や耐キズ特性が不十分である。一方、BET比表面積が10m2/g未満の場合には、含水ケイ酸の製造自体が困難である。含水ケイ酸スラリーに含まれる含水ケイ酸のBET比表面積は、好ましくは15~30m2/g、さらに好ましくは15~25 m2/gの範囲である。BET比表面積は小さい程、スラリーを高濃度化することが可能である。さらに、研磨用途等では研磨速度の更なる向上やコーティング剤との密着性の更なる向上も期待できる。
【0026】
本発明の含水ケイ酸スラリーに含まれる含水ケイ酸の体積平均粒子径(D50)は0.4~0.9μmの範囲であり、体積積算累積値90%粒子径(D90)は1.0~5.0μmの範囲である。本発明の含水ケイ酸の粒子径の測定は、含水ケイ酸の非球状の凝集粒子の大きさを、レーザー回折法で測定した体積分布基準の値を示し、D50値は粒度分布における体積積算累積値が50%の値(メジアン径)、D90は粒度分布における体積積算累積値が下位から90%(または上位10%)の値を示す。これらは、Microtracシリーズ(MicrotracBEL社製)、Mastersizerシリーズ(Malvern社製)、LSシリーズ(BECKMAN COULTER社製)などの市販のレーザー回折式粒度分布計で測定出来る。
【0027】
D50は、100~200nm程度の一次粒子が数個~数100個程度凝集した非球状構造を持つ含水ケイ酸粒子のメジアン径を示している。D50が0.4μm未満の場合、一次粒子が十分に凝集していないことを意味し、凝集形態を有した非球状のサブミクロンサイズの含水ケイ酸のスラリーを提供する本発明の目的から逸脱する。D50が0.9μmを超える場合、凝集粒子は粒度分布を有することからミクロンサイズの粒子が多数存在することを意味し、好ましくない。D50は0.5~0.8μmの範囲が好ましい。
【0028】
D90は1.0μm以上である。D50が0.4~0.9μmの範囲であることから、D90が1.0μm未満である含水ケイ酸のスラリーの調製は実質的に困難である。D90の値や最大粒子径は可能な限り小さく、D50の値に近づく程、理想的ではあるが、少なくとも5.0μm以下でなければならない。D90が5.0μmを超えると、例えば研磨用途ではキズの発生原因になり、コーティング用途ではいわゆるブツ発生要因になる。D90は好ましくは1.0~3.0μmの範囲、さらに好ましくは1.0~2.0μmの範囲である。
【0029】
発明の含水ケイ酸スラリーは、含水ケイ酸濃度が20~45重量%であることが好ましい。含水ケイ酸スラリーの含水ケイ酸濃度は、輸送コストなどの経済的な側面を考慮すると高い方が好ましく、20重量%以上の濃度であることが好ましい。但し、20重量%未満のスラリーを排除する意図ではない。スラリーは水などで希釈して含水ケイ酸濃度を調整することが可能であり、高濃度であることが実用上、好ましいが、45重量%を超える高濃度になると、粘度が急激に上昇し、スラリー形態を維持することが難しくなる。粘度の急激上昇は、凝集形態を有する含水ケイ酸が有する細孔構造に起因する。スラリーの粘度を考慮すると、含水ケイ酸濃度は20~45%の範囲が好ましい。さらに、スラリーの長期安定性や粘度を考えると、含水ケイ酸濃度は、好ましくは20~40重量%の範囲、さらに好ましくは25~35重量%の範囲である。
【0030】
一般にスラリー粘度は低い方が良いとされ、工業的に使用されるスラリーの粘度は500mPa・s以下、更に好ましくは200mPa・s以下である。本発明のスラリーは、濃度が45重量%以下であれば、スラリー粘度は概ね工業的に使用されるスラリーの粘度の範囲内となる。
【0031】
本発明の含水ケイ酸スラリーは、経時で含水ケイ酸が沈降するが、ハードケークを形成することはなく、経時沈降により形成されたソフトケーク化やソフトゲル化等軽い攪拌や振とうするなど簡単な操作によって容易に流動性が取り戻せる。このような再分散が可能な範囲での経時変化は実用的には許容レベルである。本発明の含水ケイ酸スラリーは、このような再分散性を有することから、製造後、長期間保存した後でも、研磨剤として、或いはフィルムや樹脂コーティング添加剤として、インキの艶消し剤やその他の用途で、有用に使用することができる。但し、経時沈降しない含水ケイ酸スラリーであれば、さらに好ましい。
【0032】
本発明の含水ケイ酸スラリーは、弱酸強塩基を除く無機塩をさらに含有することが好ましい。無機塩類の含有により、スラリー中での含水ケイ酸の経時沈降を抑制乃至防止することができる。本発明のスラリーに含有させる塩は弱酸強塩基塩以外の無機塩であればよい。無機塩の具体例を挙げれば、強酸強塩基の例としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウム、硝酸カリウム等、強酸弱塩基の例としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等が例示できる。無機塩類の添加による沈降を防止の原理は詳細には判明していないし、理論に拘泥する意図はないが、含水ケイ酸の表面電荷と水系分散媒中のイオン電荷の何らかの相互作用によるものと考えられる。なお、弱酸強塩基塩の場合は、pHの説明項でも後述するが、スラリーのpHがアルカリ性となり、シリカが溶解し、スラリーの性状が変化するため本発明には適さない。
【0033】
無機塩(弱酸強塩基除く)濃度は、無機塩の種類にもよるが、スラリー100重量部に対して、例えば、2.0~5.0重量部の範囲であることが適当である。無機塩濃度が2.0重量部以上であれば、十分な沈降防止効果が見られ、粒子の沈澱によるハードケーク形成を回避できる。また、無機塩は5.0重量部以下の含有量であれば、粘度上昇を招くこともない。また、そもそも含水ケイ酸にとっては不純物である無機塩の含有量は抑制することが好ましい。このような観点から無機塩の含有量は、スラリー100重量部に対して好ましくは2.0~4.0重量部、さらに好ましくは2.0~3.0重量部の範囲である。
【0034】
本発明の含水ケイ酸スラリーへの、第4級アルキルアンモニウム塩、アルキルカルボン酸塩等に代表される有機官能基を持つ塩の添加は、本発明の目的およびスラリーの長期安定性の面から好ましくない。特に第4級アルキルアンモニウム塩は、スラリーの増粘化を招き、さらに界面活性剤の成分を含むことが多いので、例えば研磨用途では摩擦抵抗の低下、艶消し用途では塗膜強度の低下を招き易く好ましくなく、アルキルカルボン酸塩等は経時分解し変色するなどの問題も引き起こす。
【0035】
本発明の含水ケイ酸スラリーの分散媒が水または水含有溶液であることが適当である。水含有溶液は、水に加えて、例えば、アルコール、エチレングリコール等の水溶性有機溶媒を含有する溶液であることができる。但し、水の単独使用が最も好ましい。アルコールやエチレングリコール等の水溶性有機溶媒を含有する水含有溶液を分散媒として用いると、製造過程での湿式粉砕の際に、粉砕エネルギーにより発熱することがあるので、安全面を考慮すると水を単独で使用するのが最も好ましい。
【0036】
本発明の含水ケイ酸スラリーは、pHが3.0~8.0の範囲であることが好ましい。スラリーのpHは、スラリーそのもののpHであり、具体的にはスラリーにpH電極を差し込んで測定した値を意味する。pHが3.0以上であれば、強酸性となりすぎず、使用用途が限られる心配はない。pHが8.0以下であれば、含水ケイ酸が経時的に溶解してスラリー性能が変化してしまう心配はない。pHは好ましくは3.0~7.5、さらに好ましくは4.0~7.0 の範囲である。
【0037】
本発明の含水ケイ酸スラリーは、電気伝導度(E.C.)が15~100mS/cm(ミリジーメンス)の範囲であることが好ましい。スラリーの電気伝導度は、スラリーそのものの電気伝導度であり、具体的にはスラリーに電気伝導度測定用電極を差し込んで測定した値を意味する。スラリーの電気伝導度は、無機塩を含有しない場合には、洗浄の度合にもよるが、一般に1mS/cm以下であることから、スラリー中の塩分濃度を示す指標でもある。本発明の含水ケイ酸スラリーが無機塩を含有する場合、電気伝導度が15mS/cm以上であれば、無機塩濃度が低いことで生じる経時安定性の低下を抑制でき、100mS/cm以下であれば、無機塩が多すぎることもなく好ましい。電気伝導度は、好ましくは15~80mS/cm、さらに好ましくは15~60mS/cmの範囲である。
【0038】
<含水ケイ酸スラリーの製造方法>
本発明の含水ケイ酸スラリーは、
(1)BET比表面積が10~35m2/gであり、かつレーザー回折法で測定した体積平均粒子径(D50)が1.0μm以上の含水ケイ酸(以下、原料含水ケイ酸と呼ぶ)を分散媒と混合し、スラリー化を行う工程、及び
(2)得られたスラリーを、レーザー回折法で測定した体積平均粒子径(D50)が0.4~0.9μmであり、かつレーザー回折法で測定した粒度分布における下位からの体積積算累積値90%までの粒子径(D90)が1.0~5.0μmになるまで湿式粉砕を行う工程、
を含む方法により製造することができる。
【0039】
工程(1)
BET比表面積が10~35m2/gであり、かつレーザー回折法で測定した体積平均粒子径(D50)が1.0μm以上の原料含水ケイ酸を準備する。一般的に、BET比表面積が35m2/g以下の低BET含水ケイ酸は、鉱酸とケイ酸アルカリ水溶液との反応時に添加物を加えて粒子の凝集を促進させることで製造される。それに対して、本発明では、原料含水ケイ酸は、濃度の低い硫酸などの鉱酸を用い、かつゆっくりと含水ケイ酸粒子成長をさせることにより、添加物を加えることなく、一次粒子の大きな低BET含水ケイ酸を合成する。凝集による低BET含水ケイ酸は粒子骨格が強固になり、粉砕が困難になるのが一般的である。それに対して、本発明においては、含水ケイ酸は、中和反応におけるケイ酸アルカリ水溶液と低濃度の鉱酸を用い、ゆっくりと時間をかけて粒子成長をさせることで、低BETながら粉砕性のよい原料含水ケイ酸を得ることができる。
【0040】
具体的には、鉱酸(例えば、硫酸)の濃度は、5~20%の範囲であり、粒子成長をさせる時間は、反応の規模にもよるが、例えば、500~700分の範囲とし、従来比で3倍以上の時間をかけて行うことが好ましい。また、中和反応時には循環ポンプやラインミキサー等を併用すると、低BETながら粉砕性のよい原料含水ケイ酸をより効果的に調製できる。
【0041】
中和反応後は一般的な含水ケイ酸の製造方法と同様の方法で、含水ケイ酸の濾過、水洗、乾燥、乾式粉砕、乾式分級等を行ってレーザー回折法で測定した体積平均粒子径(D50)が1.0μm以上のミクロンサイズの含水ケイ酸を得る。濾過、水洗方法に限定はないが、一般的なフィルター式の濾過が利用でき、濾過後に水洗を行って中和反応で生じ、含水ケイ酸内に残留する塩の除去を行う。乾燥には一般的な静置乾燥や流動乾燥、噴霧乾燥などが利用できる。乾式粉砕には市販のピンミルやジェットミル等を使用することができ、必要に応じて風力分級機等を用いた分級を行い、粗粒子の除去を行うことができる。
【0042】
但し、上記に例示した乾式の粉砕機、乾式の分級機を用いるだけでは上記で合成した原料含水ケイ酸をサブミクロンサイズまで粉砕することは困難である。そこで、乾式による粉砕・分級段階では、可能な範囲での微粒化を行うに止めることが望ましい。これにより、従来の方法よりは中和合成に時間がかかるが、後工程での湿式粉砕性が良好な含水ケイ酸(原粉となる粉体)が得られる。
【0043】
上記に例示した製造方法によって得られる原料含水ケイ酸は低BET比表面積でありながら、従来の含水ケイ酸とは異なり一次粒子間の凝集が強くないため、後工程で、サブミクロンの大きさまで粉砕できるものと考えられる。分かり易く説明するために、
図1にBET比表面積が35m
2/g以下の含水ケイ酸の一次粒子成長モデルを示す。従来法で合成した含水ケイ酸は、初期段階で一次粒子が凝集したまま成長するので、BET比表面積が35m
2/g以下まで成長すると一次粒子間の結合が強くなり、硬い凝集粒子になる。一方、本発明の含水ケイ酸は、先述の説明のように低濃度でゆっくりと時間をかけて一次粒子を成長させるので、一次粒子間の結合も少なく、強くない凝集構造を持つ。そのために、粉砕も比較的容易で、後工程でサブミクロンサイズまで粉砕できるものと考えられる。
【0044】
本発明のスラリーは上記で製造した原料含水ケイ酸を用いて製造することができるが、必要に応じて含水ケイ酸に対して、粉体状態のまま、焼結しない程度にコントロールされた加熱処理(焼成)を加えても良い。具体的には、含水ケイ酸を、ローラーハースキルン、ロータリーキルンなどの機器を使用して、600℃~1,000℃で1時間以上加熱処理することで凝集体を焼き固め、凝集力の強さを調整することができる。
【0045】
原料含水ケイ酸は分散媒と混合し、スラリー化を行う。分散媒は水または水含有溶液である。水または水含有溶液である分散媒は前述と同義である。分散媒は、水の単独使用が最も好ましい。
【0046】
本発明の含水ケイ酸スラリー(最終製品)のスラリー濃度は、好ましくは20~45重量%の範囲である。但し、工程(1)で調製する原料含水ケイ酸のスラリー濃度は、工程(2)で湿式粉砕が可能な範囲の粘度を有する範囲とする。原料含水ケイ酸及び分散媒の種類を考慮して、例えば、1~25重量%の範囲とすることができる。好ましくは10~20重量%の範囲である。但し、この範囲に限定される意図ではない。
【0047】
工程(2)
工程(1)で得られたスラリーを、レーザー回折法で測定した体積平均粒子径(D50)が0.4~0.9μmであり、かつ粒度分布における下位からの体積積算累積値の90%の粒子径(D90)が1.0~5.0μmになるまで湿式粉砕を行う。原料含水ケイ酸はD50が1.0μm以上であるので、これを0.4~0.9μmになるまで湿式粉砕する。
【0048】
本発明の含水ケイ酸は細孔構造を有するため、濃度上昇に伴い粘度も上昇するので高濃度化が困難である。そのため、まず市販の攪拌機や分散機を用いて低濃度のスラリーを調整し、次いで湿式粉砕を繰り返しながら、粘度が低くなったら含水ケイ酸を追加投入し、高濃度化、サブミクロン化を同時に進行させると良い。湿式粉砕は、例えば湿式ジェットミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザーなどの市販の高性能湿式粉砕機を利用することができ、目的の粒度分布になるまで循環粉砕を繰り返しながら調整を行う。この方法で、スラリー濃度を例えば、20~45重量%の範囲まで高めて、本発明の含水ケイ酸スラリーを得ることができる。但し、スラリー濃度はこの範囲に限定される意図ではない。
【0049】
工程(3)
工程(2)で得られた含水ケイ酸スラリーには、弱酸強塩基を除く無機塩を添加することができる。工程(2)で得られたスラリー100重量部に対し、例えば、2.0~5.0重量部になるように弱酸強塩基を除く無機塩を添加し、攪拌混合等することで弱酸強塩基を除く無機塩を含有する含水ケイ酸スラリーを調製することができる。
【0050】
本発明の含水ケイ酸スラリーは、例えば、研磨剤やフィルムや樹脂等のコーティング添加剤、インキの艶消し剤等に有用な水系スラリーとしての利用が期待できる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0052】
[評価方法]
実施例及び比較例における各種物性測定と試験は下記の方法によって行った。
【0053】
1)BET比表面積
含水ケイ酸を全自動比表面積測定装置(型式:Macsorb(R) HM model-1200、マウンテック社製)を用いて1点法で測定を行った。
【0054】
2)平均粒子径(D50)および90%粒子径(D90)
レーザー回折式粒度分布測定装置(型式:マイクロトラックMT-3000、マイクロトラック・ベル社製)を用いて粒度分布を測定し、粒度分布における体積積算累積値の50%の値(D50値)および下位からの体積積算累積値90%の値(D90値)を求めた。
【0055】
3)pHの測定
スラリー(有姿)のpHを、市販のガラス電極pHメーター(型式:F-53, 堀場製作所社製)を用いて測定した。
【0056】
4)電気伝導度
スラリー(有姿)の電気伝導度を、市販の電気伝導度計(型式CM-30R, 東亜ディーケーケー社製)を用いて測定した(測定温度25℃)。
【0057】
5)粘度測定
200mlのトールビーカーに、スラリー(有姿)を200ml入れ、直後に市販のB型粘度計(型式:TVB-10M, 東機産業社製)を用いて、No.20 ローター、60rpm×1分後の粘度を測定した。
【0058】
6)含水ケイ酸濃度
スラリー中の含水ケイ酸濃度は、製造中に水に加えた含水ケイ酸の量から算出した。また、市販の赤外線水分計(型式:K-600、ケット科学研究所製)を用いて、150℃×60分の条件で水分量の測定を行い、水分を除いた固形分濃度の値からも確認した。
【0059】
7)無機塩の量
スラリー中に添加した量から算出した。また、水分を除いた含水ケイ酸の固形分を、走 査型蛍光X線分析装置(型式:ZSX PrimusII、リガク社製)を用いて元素定性分析を行 い、無機塩量の確認も行った。
【0060】
8)スラリーの沈降状態の評価
スラリー10gを20ml蓋付容器に入れ、1週間静置した。その後、振とう器(型式:V-SX、イワキ社製)にて5分間振とうさせて、沈降状態の観察試料とした。沈降状態は、蓋が底面になるように容器を反転させた際の容器底に残るハードケークの割合にて確認した。沈降状態の評価は以下のA~Cの3段階で行い、評価Aを合格とした(沈降試験の状態[写真付き]も参照)。
【0061】
A: 振とう・反転後、容器の底にハードケークがほとんどなく、含水ケイ酸の沈降が確認できない状態。
B: 振とう・反転後、容器の底に含水ケイ酸のわずかな沈降が確認できる(沈降しにくい)状態。
C: 振とう・反転後でも、容器の底にハードケークが形成され、含水ケイ酸の沈降がはっきりと確認できる状態。
【0062】
[含水ケイ酸a~fの製造例]
(含水ケイ酸a)
以下の(i)から(v)の工程を経て含水ケイ酸を製造した。なお、下記の工程(i)から(ii)は、攪拌機を備えた容量240Lの蒸気加熱式ステンレス製の容器で、温度を90℃に保ったまま、常に攪拌をおこないながら実施した。また、記載のケイ酸ソーダ水溶液はSiO2濃度12.8wt%、Na2O濃度4.0wt%、SiO2/Na2Oモル比3.2の3号ケイ曹を、硫酸は9.0wt%の希硫酸を使用した。
【0063】
(i)温水36.8kgにpHが10.5になるまでケイ酸ソーダ水溶液を加えた。
次いでケイ酸ソーダ水溶液87.27kgと硫酸をpHが10.0~11.0を維持するように、660分かけて同時に滴下を行い、中和反応させた。
(ii)ケイ酸ソーダ水溶液の滴下を停止し、硫酸のみを滴下して、pHが3.0になった時点で硫酸の滴下も停止して、中和反応を完全に終了させ、含水ケイ酸aのスラリーを得た。
(iii)得られた含水ケイ酸スラリーを、フィルタープレスで濾過し、充分な水洗も行って含水ケイ酸ケークを得た。
(iv)含水ケイ酸ケークの乾燥は、スプレードライヤー(型式:AN-40R型 アシザワ・ニロアトマイザー社製)を用いて、含水率が6%未満になるように行った。
(v)乾燥した含水ケイ酸はジェットミル(型式:PJM-100NP 日本ニューマチック社製)で乾式の粉砕を行い、分級機(型式:クラッシールN-01型 セイシン企業社製)を用いて乾式の分級を行い、凝集した粗粒子を取り除いて、原粉となる含水ケイ酸aを得た。
含水ケイ酸aのBET比表面積は20m2/gであった。
【0064】
(含水ケイ酸b)
含水ケイ酸aの工程(i)と同量の温水とケイ酸ソーダ水溶液を加えたのち、工程(i)と同量のケイ酸ソーダ水溶液と希硫酸をpH 10.0~11.0を維持しながら585分(時間短縮)で中和反応を行うように流量を調整しながら同時に滴下したこと以外は、含水ケイ酸aと同じ方法で、BET比表面積が25m2/gの含水ケイ酸bを得た。
【0065】
(含水ケイ酸c)
含水ケイ酸aの工程(i)と同量の温水とケイ酸ソーダ水溶液を加えたのち、工程(i)と同量のケイ酸ソーダ水溶液と希硫酸をpH 10.0~11.0を維持しながら540分(時間短縮)で中和反応を行うように流量を調整しながら同時に滴下したこと以外は含水ケイ酸aと同じ方法で、BET比表面積が30m2/gの含水ケイ酸cを得た。
【0066】
(含水ケイ酸d)
従来から一般的に行われている低BET含水ケイ酸の製造方法に従って含水ケイ酸の製造を行った。
すなわち、含水ケイ酸aと同じ容器、同じケイ酸ソーダ水溶液、同じ温度、同じ攪拌条件ではあるが、硫酸は95wt%の濃硫酸を用い、中和反応が短時間で終了するために、
含水ケイ酸aの工程(i)を、0.20mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液56.6kgに、pHが10.5になるようにケイ酸ソーダ水溶液を仕込んだ後、ケイ酸ソーダ水溶液116.17kgと濃硫酸をpHが10.0~11.0を維持するように、120分かけて同時に滴下しながら中和反応を行った。
以後、含水ケイ酸aの工程(ii)~(v)と同じ工程を経てBET比表面積が30m2/gの含水ケイ酸dを得た。
【0067】
(含水ケイ酸e)
従来から一般的に行われている低BET含水ケイ酸の製造方法に従って含水ケイ酸の製造を行った。
容器の温度を86℃とし、硫酸は含水ケイ酸dと同じく95wt%の濃硫酸を用いた以外は、含水ケイ酸aと同じ容器、同じケイ酸ソーダ水溶液、同じ攪拌条件で、中和反応が短時間で終了するために、含水ケイ酸aの工程(i)を、0.05mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液102.1kgに、pHが10.5になるようにケイ酸ソーダ水溶液を仕込んだ後、ケイ酸ソーダ水溶液55.17kgと濃硫酸をpHが10.0~11.0を維持するように200分かけて同時に滴下しながら中和反応を行い、以後、含水ケイ酸aの工程(ii)~(v)と同じ工程を経てBET比表面積が50m2/gの含水ケイ酸eを得た。
【0068】
(含水ケイ酸f)
含水ケイ酸aをマッフル炉(型式:S100G ヤマト科学社製)を用いて950℃×2時間の加熱処理し、BET比表面積の調製及び含水ケイ酸凝集体の硬さ調製を行った。
含水ケイ酸fのBET比表面積は13m2/gであった。
【0069】
[実施例1~10、比較例1~2]
実施例、比較例で製造した含水ケイ酸スラリーの製造フローを
図2に示す。ただし、本発明の含水ケイ酸スラリーの製造方法は、この方法に限定されるものではない。
また、実施例および比較例で得られた含水ケイ酸およびスラリーの物性を表1に示す。
実施例3と比較例1の湿式粉砕前後のレーザー回折法による体積粒度分布を
図3, 4に示す。
沈降試験の状態表2(写真付)に示す。
【0070】
実施例1
2Lのポリ容器に純水700gを入れ、市販の攪拌機(型式:ZZ-1200、東京理化器械社製)で攪拌しながら含水ケイ酸a 175gを加え 20wt%スラリーを最初に調製した。次いで、このスラリーを湿式ジェットミル(型式:スターバーストHJP-25005, スギノマシン社製)を用いて、噴射圧力200~240MPaにて斜交衝突させることにより湿式粉砕を行った。0.5パス粉砕後(ここで、1,000gのスラリーを粉砕することを1パスと定義した)、スラリーの濃度を上げるために、さらに含水ケイ酸a 75gを追加投入、攪拌後再び粉砕した。0.5パス粉砕後、粘度が低下したことを確認してから、さらに含水ケイ酸a 50gを追加投入、攪拌後、30wt%スラリーとした。このスラリーをさらに10パス粉砕することで1,000gの高濃度スラリーを得た。
【0071】
実施例2
実施例1で得られた高濃度スラリー100gに対し、硫酸ナトリウム1gを添加し、市販の攪拌機にてよく混合し、目的とする含水ケイ酸スラリーを得た。
【0072】
実施例3
硫酸ナトリウムの添加量を高濃度スラリー100gに対して2gに変更した以外は実施例2と同様の方法で含水ケイ酸スラリーを製造した。
【0073】
実施例4
硫酸ナトリウムの添加量を高濃度スラリー100gに対して4gに変更した以外は実施例2と同様の方法で含水ケイ酸スラリーを製造した。
【0074】
実施例5
スラリーの濃度を20wt%にした後、含水ケイ酸aを追加投入せず、最終濃度も20wt%のスラリーにしたこと以外は、実施例1と同様の方法で湿式粉砕を行って、875gの20wt%スラリーを得た。
得られた20wt%スラリー100gに対し、硫酸ナトリウム2gを添加し、市販の攪拌機にてよく混合して含水ケイ酸スラリーを得た。
【0075】
実施例6
実施例1の30wt%スラリーに、さらに含水ケイ酸aを4回に分けて167g追加し、濃度を40wt%まで上昇させた後、実施例1と同様の方法で、10パスの粉砕を行って1,167gの40wt%高濃度スラリーを得た。
得られた40wt%高濃度スラリー100gに対し、硫酸ナトリウム2gを添加し、市販の攪拌機にてよく混合して含水ケイ酸スラリーを得た。
【0076】
実施例7
含水ケイ酸を含水ケイ酸bに変更した以外は、実施例3と同じ方法で含水ケイ酸スラリーを製造した。
【0077】
実施例8
含水ケイ酸を含水ケイ酸cに変更した以外は、実施例3と同じ方法で含水ケイ酸スラリーを製造した。
【0078】
実施例9
含水ケイ酸を含水ケイ酸fに変更した以外は、実施例3と同じ方法で含水ケイ酸スラリーを製造した。
【0079】
実施例10
得られた高濃度スラリー100gに対し、硫酸ナトリウムを塩化アンモニウム2gの添加に変更した以外は、実施例3と同じ方法で含水ケイ酸スラリーを製造した。
【0080】
比較例1
含水ケイ酸を含水ケイ酸dに変更した以外は、実施例5と同じ方法で20wt%含水ケイ酸スラリーを得た。
【0081】
比較例2
含水ケイ酸を含水ケイ酸eに変更した以外は、実施例5と同じ方法で20wt%含水ケイ酸スラリーを得た。
【0082】
【0083】
[実施例、比較例説明]
実施例、比較例及び表1で示したとおり、本発明では、従来とは異なる方法で含水ケイ酸を製造することにより、BET比表面積が10~35m2/gでもレーザー回折法で測定した体積平均粒子径(D50)が0.4~0.9μm、体積積算累積値90%(D90)が1.0~5.0μmである含水ケイ酸スラリーを提供できる。とりわけ実施例では、比較例1, 2(従来法で製造した含水ケイ酸)と比較してBET比表面積が低いにも関わらず、より微粒子に粉砕することができる。
【0084】
さらに、実施例のスラリーは、含水ケイ酸濃度が20~40重量%であっても、含水ケイ酸100重量部に対して弱酸強塩基を除く無機塩1.0~5.0重量部をスラリーに添加することにより、BET比表面積が35m2/g以下でも、比較例1, 2とは異なり、沈降しない、または沈澱しにくい含水ケイ酸スラリーであった。
【0085】
[粒度分布(レーザー回折法体積分布)]
[粒度分布図の説明]
従来から一般的に行われている低BET比表面積の含水ケイ酸の製造方法に従って製造した含水ケイ酸(比較例1のd)では湿式粉砕を行っても粒子径が殆ど小さくならなかった[
図4]が、実施例のように従来とは異なる方法で製造した含水ケイ酸(実施例1の含水ケイ酸a)では、低BET比表面積の含水ケイ酸でも小さく粉砕することができた[
図3]。
[沈降試験の状態]
【0086】
【0087】
[沈降試験の状態の説明;塩添加量と沈降状態の比較]
実施例1の含水ケイ酸スラリーは実施例の方法で製造したため、Na2SO4(塩)を添加していないにも関わらず、ほぼ沈降していない。実施例3、6の含水ケイ酸スラリーは、実施例の方法で製造された含水ケイ酸を用い、さらにNa2SO4を2重量部添加しているので、含水ケイ酸濃度が30~40wt%の高濃度で経時させても全く沈降しない。比較例1の含水ケイ酸スラリーは、従来の方法で製造した含水ケイ酸dを用いており、Na2SO4を2重量部添加しているにも関わらず、経時で沈降した。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、含水ケイ酸スラリーが関連する分野に有用である。