(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】車両用内装部材、及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
B60R 13/02 20060101AFI20230720BHJP
F16B 5/07 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
B60R13/02 B
F16B5/07 H
(21)【出願番号】P 2019189936
(22)【出願日】2019-10-17
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【氏名又は名称】横井 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100124958
【氏名又は名称】池田 建志
(72)【発明者】
【氏名】片桐 雅史
(72)【発明者】
【氏名】田中 克樹
(72)【発明者】
【氏名】堺 朝比古
(72)【発明者】
【氏名】吉江 謙一
(72)【発明者】
【氏名】金子 仁
(72)【発明者】
【氏名】室川 慶介
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-008028(JP,U)
【文献】特開2008-220166(JP,A)
【文献】特開2019-131957(JP,A)
【文献】特開2017-001555(JP,A)
【文献】米国特許第05921620(US,A)
【文献】西独国特許出願公開第03225820(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/02
F16B 5/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用内装部材であって、
発泡材料層を有するトリム本体と、
前記車両用内装部材と相手部材との締結部であって前記発泡材料層よりも硬質の締結部と、を備え、
前記締結部は、
前記発泡材料層の表面に対向する底面を有する本体部と、
前記底面から前記発泡材料層内に突出した複数の突出部と、を含み、
前記突出部は、
前記底面に繋がっている基部と、
前記底面からの前記基部の突出方向とは異なる方向へ前記基部から出た出張り部と、を含み、
前記出張り部は、前記基部から第一方向へ出た第一方向出張り部と、前記底面に投影したときに前記第一方向とは異なる第二方向へ前記基部から出た第二方向出張り部と、を含み、
前記突出部が前記第一方向出張り部及び前記第二方向出張り部を含
み、
前記底面に沿った方向であって前記底面に投影したときに前記第一方向及び前記第二方向と交差する方向を第三方向として、
前記基部は、前記底面に繋がっている第一区分と、該第一区分から前記第三方向にあって前記底面に繋がっている第二区分と、を含み、
前記第一方向出張り部は、前記第一区分から前記第一方向へ出ており、
前記第二方向出張り部は、前記第二区分から前記第二方向へ出ている、
車両用内装部材。
【請求項2】
車両用内装部材であって、
発泡材料層を有するトリム本体と、
前記車両用内装部材と相手部材との締結部であって前記発泡材料層よりも硬質の締結部と、を備え、
前記締結部は、
前記発泡材料層の表面に対向する底面を有する本体部と、
前記底面から前記発泡材料層内に突出した複数の突出部と、を含み、
前記突出部は、
前記底面に繋がっている基部と、
前記底面からの前記基部の突出方向とは異なる方向へ前記基部から出た出張り部と、を含み、
前記出張り部は、前記基部から第一方向へ出た第一方向出張り部と、前記底面に投影したときに前記第一方向とは異なる第二方向へ前記基部から出た第二方向出張り部と、を含み、
前記突出部が前記第一方向出張り部及び前記第二方向出張り部を含み、
前記底面に沿った方向であって前記底面に投影したときに前記第一方向及び前記第二方向と交差する方向を第三方向として、
前記基部は、前記底面から前記第一方向出張り部に繋がる第一区分と、該第一区分から前記第三方向にあって前記底面から前記第二方向出張り部に繋がる第二区分と、前記第一区分と前記第二区分との間にある第三区分と、を含み、
前記第一方向出張り部と前記第二方向出張り部とは、前記第三方向において離隔している、
車両用内装部材。
【請求項3】
前記複数の突出部の体積V1(mm
3)に対する前記複数の突出部の表面積S1(mm
2)の比S1/V1(mm
-1)が10以下である、請求項1
又は請求項2に記載の車両用内装部材。
【請求項4】
前記発泡材料層の前記表面は、前記本体部の前記底面が接触している状態で凹んでいる凹部を有し、
前記発泡材料層の厚さT0に対する前記凹部の深さDaの比Da/T0が0.5以下である、請求項1~
請求項3のいずれか一項に記載の車両用内装部材。
【請求項5】
前記本体部の前記底面は、該底面からの前記突出部の高さよりも低い間隔Dbで前記発泡材料層の前記表面から離隔しており、
前記発泡材料層の厚さT0に対する前記間隔Dbの比Db/T0が0.5以下である、請求項1~
請求項3のいずれか一項に記載の車両用内装部材。
【請求項6】
車両用内装部材の製造方法であって、
前記車両用内装部材は、発泡材料層を有するトリム本体と、前記車両用内装部材と相手部材との締結部であって前記発泡材料層よりも硬質の締結部と、を備え、
前記締結部は、底面を有する本体部と、前記底面から突出した複数の突出部と、を含み、
前記突出部は、前記底面に繋がっている基部と、前記底面からの前記基部の突出方向とは異なる方向へ前記基部から出た出張り部と、を含み、
前記出張り部は、前記基部から第一方向へ出た第一方向出張り部と、前記底面に投影したときに前記第一方向とは異なる第二方向へ前記基部から出た第二方向出張り部と、を含み、
前記突出部が前記第一方向出張り部及び前記第二方向出張り部を含み、
前記底面に沿った方向であって前記底面に投影したときに前記第一方向及び前記第二方向と交差する方向を第三方向として、
前記基部は、前記底面に繋がっている第一区分と、該第一区分から前記第三方向にあって前記底面に繋がっている第二区分と、を含み、
前記第一方向出張り部は、前記第一区分から前記第一方向へ出ており、
前記第二方向出張り部は、前記第二区分から前記第二方向へ出ており、
前記底面を前記発泡材料層の表面に向けた前記締結部を前記発泡材料層の表面に押し当てることにより前記複数の突出部を前記発泡材料層に挿入する工程を含む、車両用内装部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用内装部材、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板パネルにより車体が形成された自動車では、ドアトリムといった内装部材が鋼板パネルを覆うことにより室内が装飾され、車室に防音性が付与され、車室内の安全性が高められている。内装部材は、例えば、発泡樹脂層、表側に配置された表皮材、及び、裏側に配置された複数のクリップ取付座を有する。各クリップ取付座には、内装部材を車体に取り付けるための樹脂クリップの基端が取り付けられる。
特許文献1には、シート材を接着したクッション材をクリップ取付座としてのブラケットの裏面に接着し、これらを型に入れて発泡樹脂原液を発泡させることにより、ブラケット等を発泡樹脂基材中に一体に埋設したドアトリムを製造することが示されている。ここで、クッション材を使用するのはクリップとしてのファスナーの基端をブラケットの裏側に入れることができるようにするためであり、クッション材の表面にシート材を接着するのはブラケットの裏側に入れたファスナーの基端を所定位置まで滑らせるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したドアトリムは、クッション材やシート材が必要である。このような問題は、デッキサイドトリムやルーフトリム等、ドアトリム以外の内装部材にも存在する。
【0005】
本発明は、クッション材やシート材といった別部材を使用しなくてもトリム本体にクリップ取付座といった締結部が強固に接合している車両用内装部材、及び、その製造方法を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両用内装部材は、
発泡材料層を有するトリム本体と、
前記車両用内装部材と相手部材との締結部であって前記発泡材料層よりも硬質の締結部と、を備え、
前記締結部は、
前記発泡材料層の表面に対向する底面を有する本体部と、
前記底面から前記発泡材料層内に突出した複数の突出部と、を含み、
前記突出部は、
前記底面に繋がっている基部と、
前記底面からの前記基部の突出方向とは異なる方向へ前記基部から出た出張り部と、を含み、
前記出張り部は、前記基部から第一方向へ出た第一方向出張り部と、前記底面に投影したときに前記第一方向とは異なる第二方向へ前記基部から出た第二方向出張り部と、を含み、
前記突出部が前記第一方向出張り部及び前記第二方向出張り部を含み、
前記底面に沿った方向であって前記底面に投影したときに前記第一方向及び前記第二方向と交差する方向を第三方向として、
前記基部は、前記底面に繋がっている第一区分と、該第一区分から前記第三方向にあって前記底面に繋がっている第二区分と、を含み、
前記第一方向出張り部は、前記第一区分から前記第一方向へ出ており、
前記第二方向出張り部は、前記第二区分から前記第二方向へ出ている、態様を有する。
さらに、本発明の車両用内装部材は、
発泡材料層を有するトリム本体と、
前記車両用内装部材と相手部材との締結部であって前記発泡材料層よりも硬質の締結部と、を備え、
前記締結部は、
前記発泡材料層の表面に対向する底面を有する本体部と、
前記底面から前記発泡材料層内に突出した複数の突出部と、を含み、
前記突出部は、
前記底面に繋がっている基部と、
前記底面からの前記基部の突出方向とは異なる方向へ前記基部から出た出張り部と、を含み、
前記出張り部は、前記基部から第一方向へ出た第一方向出張り部と、前記底面に投影したときに前記第一方向とは異なる第二方向へ前記基部から出た第二方向出張り部と、を含み、
前記突出部が前記第一方向出張り部及び前記第二方向出張り部を含み、
前記底面に沿った方向であって前記底面に投影したときに前記第一方向及び前記第二方向と交差する方向を第三方向として、
前記基部は、前記底面から前記第一方向出張り部に繋がる第一区分と、該第一区分から前記第三方向にあって前記底面から前記第二方向出張り部に繋がる第二区分と、前記第一区分と前記第二区分との間にある第三区分と、を含み、
前記第一方向出張り部と前記第二方向出張り部とは、前記第三方向において離隔している、態様を有する。
【0007】
また、本発明の車両用内装部材の製造方法は、
前記車両用内装部材は、発泡材料層を有するトリム本体と、前記車両用内装部材と相手部材との締結部であって前記発泡材料層よりも硬質の締結部と、を備え、
前記締結部は、底面を有する本体部と、前記底面から突出した複数の突出部と、を含み、
前記突出部は、前記底面に繋がっている基部と、前記底面からの前記基部の突出方向とは異なる方向へ前記基部から出た出張り部と、を含み、
前記出張り部は、前記基部から第一方向へ出た第一方向出張り部と、前記底面に投影したときに前記第一方向とは異なる第二方向へ前記基部から出た第二方向出張り部と、を含み、
前記突出部が前記第一方向出張り部及び前記第二方向出張り部を含み、
前記底面に沿った方向であって前記底面に投影したときに前記第一方向及び前記第二方向と交差する方向を第三方向として、
前記基部は、前記底面に繋がっている第一区分と、該第一区分から前記第三方向にあって前記底面に繋がっている第二区分と、を含み、
前記第一方向出張り部は、前記第一区分から前記第一方向へ出ており、
前記第二方向出張り部は、前記第二区分から前記第二方向へ出ており、
前記底面を前記発泡材料層の表面に向けた前記締結部を前記発泡材料層の表面に押し当てることにより前記複数の突出部を前記発泡材料層に挿入する工程を含む、態様を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、クッション材やシート材といった別部材を使用しなくてもトリム本体に締結部といった機能部品が強固に接合した車両用内装部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】自動車の内装の例を側面部の図示が省略された状態で模式的に示す図。
【
図3】締結部、及び、その周辺の例を模式的に示す斜視図。
【
図4】締結部、及び、その周辺を
図3のA1の位置で切断したときの断面の例を模式的に示す図。
【
図5】
図5Aはクリップ取付座に取り付けられるクリップの例を模式的に示す側面図、
図5Bは引掛部を有する自動車の要部の例を模式的に示す断面図。
【
図6】締結部における底部及びフックの例を模式的に示す斜視図。
【
図7】底面に沿った方向から見たフックの例を模式的に示す図。
【
図8】底面と直交する方向から見たフックの例を模式的に示す図。
【
図9】発泡材料層に入っているフックの例を模式的に示す図。
【
図10】トリム本体に締結部を接合する工程の例を模式的に示す図。
【
図11】
図11Aは発泡材料層の表面が凹部を有する場合の締結部、及び、その周辺の断面の例を模式的に示す図、
図11Bは本体部の底面が発泡材料層の表面から離隔している場合の締結部、及び、その周辺の断面の例を模式的に示す図。
【
図13】
図13A,13Bは底面に沿った方向から見た突出部の別の例を模式的に示す図。
【
図14】引っ張り試験の評価装置の例を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0011】
(1)本発明に含まれる技術の概要:
まず、
図1~14に示される例を参照して本発明に含まれる技術の概要を説明する。尚、本願の図は模式的に例を示す図であり、これらの図に示される各方向の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。むろん、本技術の各要素は、符号で示される具体例に限定されない。
また、本願において、数値範囲「Min~Max」は、最小値Min以上、且つ、最大値Max以下を意味する。
【0012】
[態様1]
本技術の一態様に係る車両用内装部材1は、発泡材料層10を有するトリム本体2と、前記車両用内装部材1と相手部材(例えば車体パネル80)との締結部3であって前記発泡材料層10よりも硬質の締結部3と、を備える。前記締結部3は、前記発泡材料層10の表面11(例えばトリム本体2の裏面2b)に対向する底面32を有する本体部30と、前記底面32から前記発泡材料層10内に突出した複数の突出部(例えばフック50)と、を含んでいる。前記突出部(50)は、前記底面32に繋がっている基部60と、前記底面32からの前記基部60の突出方向D0とは異なる方向(例えば第一方向D1と第二方向D2)へ前記基部60から出た出張り部70と、を含んでいる。
【0013】
上記態様1では、締結部3の底面32からトリム本体2の発泡材料層10内に突出した複数の突出部(50)に基部60の突出方向D0とは異なる方向(D1,D2)へ基部60から出た出張り部70があるので、締結部3の本体部30が発泡材料層10に埋設されていなくてもトリム本体2と締結部3とが強固に接合している。従って、本態様は、クッション材やシート材といった別部材を使用しなくてもトリム本体に締結部が強固に接合した車両用内装部材を提供することができる。
【0014】
ここで、締結部には、弾性クリップを介して相手部材(例えば車体パネル)に内装部材を取り付けるためのクリップ取付座、内装部材に相手部材を取り付けるための部位、等が含まれる。締結部は、発泡材料層と比べて相対的に硬質であればよく、非発泡の材質に限定されず、発泡材料層よりも発泡倍率が低い材質でもよい。
発泡材料層の表面に対向する底面は、発泡材料層の表面に接触していてもよいし、発泡材料層の表面から離隔していてもよい。
出張り部を有する突出部の形状には、フック状、きのこ状、等が含まれる。
尚、上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0015】
[態様2]
図6~8等に例示するように、前記出張り部70は、前記基部60から第一方向D1へ出た第一方向出張り部71と、前記底面32に投影したときに前記第一方向D1とは異なる第二方向D2へ前記基部60から出た第二方向出張り部72と、を含んでいてもよい。前記突出部(50)は、前記第一方向出張り部71及び前記第二方向出張り部72を含んでいてもよい。本態様は、互いに向きが異なる第一方向出張り部71及び第二方向出張り部72が突出部(50)にあるので、トリム本体と締結部との接合強度を向上させることができる。
【0016】
尚、本願における「第一」、「第二」、「第三」、…は、互いに類似点を有する複数の構成要素に含まれる各構成要素を識別するための用語であり、順番を意味しない。複数の構成要素のうちどの構成要素が「第一」、「第二」、「第三」、…に当てはまるのかは、相対的に決まる。
上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0017】
[態様3]
ここで、
図8等に例示するように、前記底面32に沿った方向であって前記底面32に投影したときに前記第一方向D1及び前記第二方向D2と交差する方向を第三方向D3とする。前記基部60は、前記底面32から前記第一方向出張り部71に繋がる第一区分61と、該第一区分61から前記第三方向D3にあって前記底面32から前記第二方向出張り部72に繋がる第二区分62と、を含んでいてもよい。当該基部60は、前記第一区分61と前記第二区分62との間にある第三区分63を含んでいてもよい。前記第一方向出張り部71と前記第二方向出張り部72とは、前記第三方向D3において離隔していてもよい。本態様は、第一方向出張り部と第二方向出張り部との間に発泡材料が入り込むことによりトリム本体と締結部との接合強度をさらに向上させることができる。
【0018】
[態様4]
また、前記複数の突出部(50)の体積V1(mm3)に対する前記複数の突出部(50)の表面積S1(mm2)の比S1/V1(mm-1)は、10以下でもよい。繰り返し試験を行ったところ、S1/V1≦10にすることによりトリム本体2と締結部3との接合強度が向上することが分かった。従って、本態様は、トリム本体と締結部との接合強度を向上させることができる。
【0019】
[態様5]
図11Aに例示するように、前記発泡材料層10の前記表面11は、前記本体部30の前記底面32が接触している状態で凹んでいる凹部12を有していてもよい。前記発泡材料層10の厚さT0に対する前記凹部12の深さDaの比Da/T0は、0.5以下でもよい。Da/T0≦0.5であると突出部(50)が入り込んでいる発泡材料層10の強度が良好であるため、本態様は、トリム本体と締結部との良好な接合強度を有する車両用内装部材を提供することができる。
【0020】
[態様6]
図11Bに例示するように、前記本体部30の前記底面32は、該底面32からの前記突出部(50)の高さH1よりも低い間隔Dbで前記発泡材料層10の前記表面11から離隔していてもよい。前記発泡材料層10の厚さT0に対する前記間隔Dbの比Db/T0は、0.5以下でもよい。Db/T0≦0.5であると、発泡材料層10に対する突出部(50)の引っ掛かりが良好であるため、本態様は、トリム本体と締結部との良好な接合強度を有する車両用内装部材を提供することができる。
【0021】
[態様7]
ところで、本技術の一態様に係る製造方法は、車両用内装部材1の製造方法である。前記車両用内装部材1は、発泡材料層10を有するトリム本体2と、前記車両用内装部材1と相手部材(例えば車体パネル80)との締結部3であって前記発泡材料層10よりも硬質の締結部3と、を備えている。前記締結部3は、底面32を有する本体部30と、前記底面32から突出した複数の突出部(例えばフック50)と、を含んでいる。前記突出部(50)は、前記底面32に繋がっている基部60と、前記底面32からの前記基部60の突出方向D0とは異なる方向(例えば第一方向D1と第二方向D2)へ前記基部60から出た出張り部70と、を含んでいる。本製造方法は、前記底面32を前記発泡材料層10の表面11(例えばトリム本体2の裏面2b)に向けた前記締結部3を前記発泡材料層10の表面11に押し当てることにより前記複数の突出部(50)を前記発泡材料層10に挿入する工程(例えば接合工程ST1)を含んでいる。
【0022】
上記態様6では、締結部3の底面32から突出した複数の突出部(50)がトリム本体2の発泡材料層10に入り、該複数の突出部(50)に基部60の突出方向D0とは異なる方向(D1,D2)へ基部60から出た出張り部70があるので、締結部3の本体部30が発泡材料層10に埋設されていなくてもトリム本体2と締結部3とが強固に接合している。従って、本態様は、クッション材やシート材といった別部材を使用しなくてもトリム本体に締結部が強固に接合した車両用内装部材の製造方法を提供することができる。
【0023】
(2)車両用内装部材の具体例:
図1は、例として自動車100の内装を側面部の図示が省略された状態で模式的に示している。
図2は、車両用内装部材の例としてドアトリム111の裏面2bを模式的に示している。
図3は、クリップ取付座としての締結部3、及び、その周辺を模式的に示している。
図4は、締結部3、及び、その周辺を
図3のA1の位置で切断したときの断面を模式的に例示している。
図5Aは、クリップ取付座としての締結部3に取り付けられるクリップの例を模式的に示している。
図5Bは、締結部3の例である引掛部3Aを有する自動車100の要部を模式的に例示する断面図である。これらの図中、FRONT、REAR、UP、DOWNは、それぞれ、前、後、上、下を示す。また、符号D5は自動車100の前後方向を示し、符号D6は自動車100の上下方向を示し、符号D7は車両用内装部材1の厚さ方向を示す。
【0024】
図1に示す自動車100は、道路上で使用されるように設計及び装備された路上走行自動車とされ、例えば、鋼板製といった金属製の車体パネル80(
図5A,5B参照)が車室SP1及び荷室SP2を囲んで車体を形成している。また、
図1に示す自動車100は、後部の荷室SP2が車室SP1と繋がり、2列のシート101(前席と後席)を備えるワゴンタイプの乗用自動車とされている。むろん、本技術を適用可能な自動車には、3列シートタイプといった2列シートタイプ以外の自動車も含まれ、いわゆるステーションワゴンやワンボックスカー等の他、セダンタイプ等の自動車も含まれる。
【0025】
自動車100の車体パネル80には、室内(SP1,SP2)側において種々の内装部材1が配置されている。車室SP1から側方にあるドアパネル(車体パネル80の例)には、車室SP1側においてドアトリム111(内装部材1の例)が設置されている。荷室SP2から側方にあるデッキサイドパネル(車体パネル80の例)には、荷室SP2側においてデッキサイドトリム112(内装部材1の例)が設置されている。車室SP1から側方にあるピラー(車体パネル80の例)には、車室SP1側においてピラートリム113(内装部材1の例)が設置されている。車室SP1及び荷室SP2から上方にあるルーフパネル(車体パネル80の例)には、室内(SP1,SP2)側においてルーフトリム114(内装部材1の例)が設置されている。荷室SP2から後方にある後部扉(Tailgate)105のドアパネル(車体パネル80の例)には、荷室SP2側において後部扉用トリム115(内装部材1の例)が設置されている。車体パネル80は、クリップ取付座を有する内装部材に対する相手部材90の例である。
【0026】
図2に示すドアトリム111は、トリム本体2、及び、複数の締結部3を備えている。トリム本体2は、
図1に示すように車室SP1に面する室内面2a、及び、
図2に示すように締結部3が固定された裏面2bを有している。裏面2bは、ドアトリム111において室内面2aとは反対の面であり、車外を向いた面である。ドアトリム111は、ドアパネルの凹凸形状、及び、車室SP1の所要形状に応じた凹凸形状を有する。トリム112~115も、ドアトリム111と同様のトリム本体2、及び、複数の締結部3を備えている。
【0027】
図3,4は、トリム111~115を含む内装部材1の要部を例示している。
図3,4に示す内装部材1のトリム本体2は、裏面2bを含む発泡材料層10、及び、室内面2aを有する表皮材20を有している。
【0028】
発泡材料層10には、樹脂材料を発泡させて気泡(空気Ar)を含むように成形された発泡樹脂成形体を用いることができる。樹脂材料の発泡成形には、例えば、射出成形を用いることができる。前述の樹脂材料には、熱可塑性樹脂といった熱可塑性の材料が含まれていれば、種々の合成樹脂(エラストマーを含む)を用いることができ、添加剤が添加されてもよい。前述の熱可塑性樹脂には、ポリプロピレン(PP)樹脂やポリエチレン(PE)樹脂といったポリオレフィン樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、これらの組合せ、等を用いることができ、充てん材等の添加剤が含まれてもよい。樹脂の発泡には、シリンダー内で加圧された気体を溶融樹脂に溶解させる物理発泡、化学発泡剤を添加して熱分解や化学反応により気体を溶融樹脂に混入させる化学発泡、等を採用することができる。発泡剤には、ブタンやペンタンといった炭化水素を発生させる揮発性発泡剤、アゾジカルボンアミド(ADCA)やヒドラゾジカルボンアミド等といった有機系発泡剤、炭酸アンモニウムといった炭酸ガス等を発生させる無機系発泡剤、等を用いることができる。
【0029】
発泡材料層10の発泡倍率は、例えば、2~50倍、より好ましくは3~40倍、さらに好ましくは4~30倍にすることができる。
発泡材料層10の厚さT0は、軽量で所要の剛性を得る点から、例えば、締結部3のフック50の高さH1以上、且つ、8mm以下にすることができる。発泡材料層10の目付は、軽量で所要の剛性を得る点から、例えば、450~1200g/m2にすることができる。
【0030】
表皮材20には、不織布、織物、編物、カーペット、合成樹脂(エラストマーを含む)、ゴム、等を用いることができる。表皮材20の裏面には、バッキング(裏打ち層)が形成されてもよい。バッキングには、熱可塑性樹脂といった合成樹脂(エラストマーを含む)等を用いることができる。前記熱可塑性樹脂には、低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル、といった低融点の熱可塑性樹脂等を用いることができる。
【0031】
図2~4に示す締結部3は、発泡材料層10よりも硬質なクリップ取付座であり、車体パネル80といった車体に内装部材1を固定するための弾性クリップ500(
図5A参照)を取り付けるための機能部位である。締結部3は、
図5Aに示すクリップ500における上フランジ503から下フランジ505にかけての基端を保持する。締結部3を形成するための樹脂材料は、種々の合成樹脂(エラストマーを含む)を用いることができ、添加剤が添加されてもよく、成形の容易性の点から熱可塑性樹脂といった熱可塑性の樹脂材料が好ましい。前述の熱可塑性樹脂には、PP樹脂やPE樹脂といったポリオレフィン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂といったポリエステル樹脂、これらの組合せ、等を用いることができ、繊維等の添加剤が含まれてもよい。前述の繊維には、ガラス繊維や炭素繊維といった無機繊維、ケナフといった植物繊維、これらの組合せ、等を用いることができる。締結部3を非発泡の樹脂成形体にすると、締結部3は樹脂製の発泡材料層10よりも硬質となる。締結部3が発泡樹脂成形体であっても、締結部3の発泡倍率が樹脂製の発泡材料層10の発泡倍率よりも低ければ、締結部3は樹脂製の発泡材料層10よりも硬質となる。また、発泡材料層10に使用されている樹脂の材質よりも硬質の樹脂を締結部3に使用することにより、締結部3を発泡材料層10よりも硬質にしてもよい。さらに、
図3,4に示す締結部3において、底部31の一部とフック50にポリエステル樹脂といった比較的高融点の樹脂材料を使用し、残りの部分にポリオレフィン樹脂といった比較的低融点の樹脂材料を使用してもよい。
【0032】
図3,4に示す締結部3は、発泡材料層10の表面11に接触した底面32を有する本体部30、及び、底面32から発泡材料層10内に突出した複数のフック50を含んでいる。
図3,4に示す底面32は、発泡材料層の表面に対向する底面の例である。フック50は、突出部の例である。本体部30は、前述の底面32を有する底部31、該底部31から厚さ方向D7へ離れている頭部41、及び、開口30oを残して底部31から頭部41に繋がっている側壁部44~46を含んでいる。底部31と頭部41との間には、空間33がある。空間33は、開口30oに繋がり、左側壁部44と右側壁部46との間にある。奥側壁部45は、左側壁部44から右側壁部46に繋がっている。頭部41は、
図5Aに示すクリップ500の脚部504を挿入口43から入れるための貫通穴42を有している。挿入口43は開口30oに繋がっており、貫通穴42は空間33に繋がっている。従って、空間は、開口30oから貫通穴42までの部分を除いて、底部31、頭部41、及び、側壁部44~46に囲まれている。本具体例において、クリップ500を保持する保持部40は、頭部41、及び、側壁部44~46を含む。
【0033】
図5Aに示すクリップ500は、車外から室内(SP1,SP2)に向かう順に、弾性を有するクリップ頭部501、皿状のシール片502、円板状の上フランジ503、円柱状の脚部504、及び、円板状の下フランジ505を有している。クリップ500は、例えば、樹脂製とされ、熱可塑性樹脂といった樹脂材料を成形することにより形成される。下フランジ505が締結部3の開口30oから空間33に挿入されると、両フランジ503,505が頭部41を挟み脚部504が貫通穴42を貫通した状態となる。これにより、クリップ500の基端が保持部40に保持され、クリップ500が締結部3に取り付けられる。
締結部3に保持されているクリップ500は、車体パネル80の貫通穴81に挿入されることにより車体パネル80(相手部材90の例)と係合する。これにより、クリップ500を介して車体パネル80に内装部材1が取り付けられる。
【0034】
締結部3は、クリップ取付座に限定されず、内装部材1に相手部材90を取り付けるための部位でもよい。
図5Bは、自動車100において締結部3に含まれる引掛部3A及びその周辺の断面を模式的に例示している。引掛部3Aは、内装部材1に相手部材90を取り付けるための締結部3である。例えば、引掛部3Aにワイヤーハーネス85(相手部材90の例)を引っ掛けて固定すると、内装部材1にワイヤーハーネス85が取り付けられる。
【0035】
図6は、締結部3における底部31及びフック50を模式的に例示している。
図6の下部には、底面32及びフック50の拡大図が示されている。
図7は、底面32に沿った方向から見たフック50を模式的に例示している。
図8は、底面32と直交する方向から見たフック50を模式的に例示している。尚、
図8は、発泡材料層10に入った状態のフック50を発泡材料層10の図示を省略した状態で示している。
【0036】
図6に示すように、複数のフック50は、底面32上において、ほぼ第一方向D1へ並べられ、第一方向D1と略直交する第三方向D3へは千鳥状に並べられている。尚、
図6に示す方向D1,D2,D3は、発泡材料層10に挿入される前のフック50の形状に基づいている。フック50が発泡材料層10に挿入されると、方向D1~D3が
図6に示す方向からずれることがある。
むろん、複数のフック50に例示される複数の突出部の配置は、
図6に示す配置に限定されず、第三方向D3、及び、第三方向D3と直交する方向の2方向へ規則的に並んだ配置等でもよい。
【0037】
図6~8に示すフック50は、底面32に繋がっている基部60、及び、底面32からの基部60の突出方向D0とは異なる方向D1,D2へ基部60から出た出張り部70を含んでいる。
出張り部70は、基部60から第一方向D1へ出た第一方向出張り部71、及び、底面32に投影したときに第一方向D1とは異なる第二方向D2へ基部60から出た第二方向出張り部72を含んでいる。すなわち、各フック50は、互いに向きが異なる第一方向出張り部71及び前記第二方向出張り部72を含んでいる。ここで、底面32に投影したときの方向D1~D3は、
図8に示すように底面32と直交する方向から見たときの底面32上における方向を意味する。底面32に投影したときの方向D1,D2は、ほぼ、互いに反対の方向である。ここで、底面32に沿った方向であって底面32に投影したときに第一方向D1及び第二方向D2と交差する方向を第三方向D3とする。
【0038】
基部60は、底面32から第一方向出張り部71に繋がる第一区分61、該第一区分61から第三方向D3にあって底面32から第二方向出張り部72に繋がる第二区分62、及び、第一区分61と第二区分62との間にある第三区分63を含んでいる。第一方向出張り部71と第二方向出張り部72とは、第三方向D3において離隔している。すなわち、第一方向出張り部71と第二方向出張り部72との間には、隙間CL1がある。
【0039】
以上より、各フック50は、第一区分61と第一方向出張り部71とを組み合わせた第一方向フック、及び、第二区分62と第二方向出張り部72とを組み合わせた第二方向フックを含んでいる。
図7に示すように、第一方向フックは、第一区分61において第一方向出張り部71の方へ傾いた突出方向D01へ底面32から突出し、第一方向出張り部71において徐々に底面32の方へ曲がる第一方向D1へ第一区分61から突出している。従って、第一方向出張り部71において、先端71eは、底面32を基準として最も高い頂部71tとは異なる。第一方向出張り部71は、底面32の方へ向いた凹部71dを有している。先端71e、頂部71t、及び、凹部71dは、曲面状である。また、第二方向フックは、第二区分62において第二方向出張り部72の方へ傾いた突出方向D02へ底面32から突出し、第二方向出張り部72において徐々に底面32の方へ曲がる第二方向D2へ第二区分62から突出している。従って、第二方向出張り部72において、先端72eは、底面32を基準として最も高い頂部72tとは異なる。第二方向出張り部72は、底面32の方へ向いた凹部72dを有している。先端72e、頂部72t、及び、凹部72dは、曲面状である。
【0040】
尚、突出方向D01,D02の概念は、突出方向D0の概念に含まれる。設計上、第一方向フックと第二方向フックとは同じ形状であり、先端71eの高さは先端72eの高さと同じであり、頂部71tの高さは頂部72tの高さと同じである。頂部71t,72tの高さH1は、発泡材料層10の厚さT0以下であり(
図4参照)、厚さT0の0.2~0.8倍が好ましく、厚さT0の0.3~0.7倍がより好ましい。
【0041】
また、底面32に沿った方向におけるフック50の最大の幅W1は、発泡材料層10と締結部3との接合強度を良好にする点から、例えば、高さH1の0.6~2.0倍とすることができ、高さH1の0.8~1.7倍が好ましく、高さH1の1.0~1.4倍がより好ましい。尚、成形された発泡材料層10に締結部3を接合する場合、発泡材料層10に複数のフック50を容易に挿入する点からも、幅W1は前述の数値範囲が好ましい。
【0042】
さらに、第一方向出張り部71及び第一区分61の厚さT1、及び、第二方向出張り部72及び第二区分62の厚さT2は、発泡材料層10と締結部3との接合強度を良好にする点から、例えば、0.1~1.0mmとすることができ、0.2~0.8mmが好ましい。第三区分63の厚さT3は、発泡材料層10と締結部3との接合強度を良好にする点から、例えば、0.1~1.0mmとすることができ、0.2~0.8mmが好ましい。
【0043】
底面32に並べられるフック50といった突出部の数は、発泡材料層10と締結部3との接合強度を良好にする点から、例えば、900mm2(1辺30mmの正方形の面積)当たり40~200本とすることができ、900mm2当たり60~180本が好ましく、900mm2当たり80~160本がより好ましい。
【0044】
図9は、締結部3がトリム本体2に接合された状態において発泡材料層10に入っているフック50を底面32に沿って第三方向D3と直交する方向から見た様子を模式的に例示している。
図9に示す内装部材1において、第一方向出張り部71と第二方向出張り部72と間の隙間CL1は、底面32から離れるにつれて広がっている。この場合、
図8に示すように、発泡材料層10に入っているフック50において、第一方向出張り部71が突出する第一方向D1、及び、第二方向出張り部72が突出する第二方向D2は、底面32に投影したときに基部60の第三区分63から離れる向きである。
以上より、内装部材1の厚さ方向D7において発泡材料層10と締結部3との接合強度が高くなっている。
【0045】
ここで、
図6に示すように、底面32から突出した全てのフック50を合わせた体積をV1(mm
3)とし、底面32から突出した全てのフック50を合わせた表面積をS1(mm
2)とする。体積V1は、底面32から突出した各フック50の体積V2(mm
3)の合計を意味する。表面積S1は、底面32から突出した各フック50の表面積S2(mm
2)の合計を意味し、各フック50において底面32に繋がっている部分の面積を含まない。フック50の合計の体積V1(mm
3)に対するフック50の合計の表面積S1(mm
2)の比S1/V1(mm
-1)は、トリム本体2と締結部3との接合強度を良好にする点から、10以下が好ましく、9以下がより好ましく、8以下がさらに好ましい。また、フック50の成形を容易にする点から、前述の比S1/V1(mm
-1)は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上がさらに好ましい。
【0046】
詳しくは後述するが、内装部材1を形成するため
図10に例示するように締結部3の本体部30の底面32を発泡材料層10の表面11に対して厚さ方向D7へ押し当てると、
図11Aに例示するような凹部12が発泡材料層10の表面11に形成されることがある。
図11Aの下部には、凹部12を有するトリム本体2の要部を抜き出した拡大図が示されている。
【0047】
図11Aに示す発泡材料層10の表面11は、締結部3の本体部30の底面32が接触している状態で凹んでいる凹部12を有している。ここで、発泡材料層10の厚さT0に対する凹部12の深さDaの比Da/T0は、0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。比Da/T0が前述の数値以下であると、フック50が入り込んでいる発泡材料層10の強度が良好であるため、締結部3の引っ張り試験を行った時に発泡材料層10が締結部3とともに剥離することが抑制され、トリム本体2と締結部3との接合強度が良好である。
【0048】
また、締結部3の本体部30を発泡材料層10の表面11に押し当てる力を弱めると、
図11Bに例示するように本体部30の底面32がフック50の高さH1よりも低い間隔Dbで発泡材料層10の表面11から離隔した状態になることがある。ここで、発泡材料層10の厚さT0に対する間隔Dbの比Db/T0は、0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。比Db/T0が前述の数値以下であると、発泡材料層10に対するフック50の引っ掛かりが良好であるため、トリム本体2と締結部3との接合強度が良好である。さらに、本体部30を押し当てる力が制限されることにより、トリム本体2の室内面2aに本体部30から押された跡が生じることが抑制される。
【0049】
(3)車両用内装部材の製造方法の具体例、並びに、作用及び効果:
発泡材料層10は、例えば、所要形状の型面を有する金型に溶融樹脂材料を射出し、該樹脂材料を発泡させ、金型を冷却することにより、成形される。発泡材料層10における室内面2a側に表皮材20を貼付すると、トリム本体2が形成される。また、室内面2aに溶融樹脂材料が回り込まないように金型に表皮材20を入れてから溶融樹脂材料を射出し、該樹脂材料を発泡させ、金型を冷却することにより、トリム本体2を形成することも可能である。
【0050】
締結部3は、例えば、入子型(insert die)が母型(master block)に嵌め込まれ所要形状の型面を有する金型に溶融樹脂材料を射出し、金型を冷却することにより、成形される。入子型は、母型の中に嵌め込んで使用する部分的金型であり、スライド型とも呼ばれる可動式でもよいし、固定式でもよい。また、締結部3の内、底部31の一部とフック50にPET樹脂といった比較的高融点(例えば融点220℃以上)の樹脂材料を使用し、残りの部分にPP樹脂といった比較的低融点(例えば融点200℃以下)の樹脂材料を使用してもよい。この場合、底部31の一部とフック50になる成形シートは、射出成形、押出成形、等により形成することができる。例えば、成形シートは、所要形状の型面を有する金型に溶融樹脂材料を射出し、金型を冷却することにより、成形される。締結部3は、例えば、複数のフック50に溶融樹脂材料が回り込まないように金型に成形シートを入れてから溶融樹脂材料を射出し、金型を冷却することにより、成形される。
【0051】
図10は、トリム本体2に締結部3を接合する接合工程ST1を模式的に例示している。接合工程ST1では、底面32を発泡材料層10の表面11に向けた締結部3を発泡材料層10の表面11に対して厚さ方向D7へ押し当てることにより複数のフック50を発泡材料層10に挿入する。すると、
図4,11A,11Bに示すように、締結部3の底面32が発泡材料層10の表面11に対向している状態に維持され、発泡材料層10に入っている複数のフック50の出張り部70により締結部3がトリム本体2から厚さ方向D7へ離れることが抑制される。また、第一方向出張り部71と第二方向出張り部72と間に隙間CL1を有するフック50を発泡材料層10に挿入することにより、発泡材料層10において隙間CL1に入る部位が隙間CL1を第三方向D3へ広げる。これにより、
図9で示したように、第一方向出張り部71と第二方向出張り部72とが底面32から離れるにつれて互いに離れている。
【0052】
以上より、内装部材1の厚さ方向D7において締結部3がトリム本体2に強固に接合している。一方、締結部3の底部31は、発泡材料層10に埋設されていない。従って、本具体例は、クッション材やシート材といった別部材を使用しなくてもトリム本体に締結部が強固に接合した車両用内装部材を提供することができる。特に、
図9で示したように第一方向出張り部71と第二方向出張り部72と間の隙間CL1が底面32から離れるにつれて広がっていることにより、厚さ方向D7において発泡材料層10と締結部3との接合強度が高くなっている。
【0053】
(4)変形例:
本発明は、種々の変形例が考えられる。
例えば、本技術を適用可能な車両用内装部材は、ドアトリム111以外にも、デッキサイドトリム112、ピラートリム113、ルーフトリム114、後部扉のトリム115、トランクの内装材、等でもよい。
【0054】
締結部は、
図2~4で示したクリップ取付座に限定されない。
図3,4で示した符号を用いて説明すると、締結部3の側壁部44~46は、折れ曲がるように繋がっていることに限定されず、曲面状に繋がっていてもよい。また、締結部3の底部31は、側壁部44~46から外側へ広がっていてもよい。ここで、底面32に沿って、側壁部44~46から空間33が存在する側が内側であり、側壁部44~46から空間33とは反対側の部分が外側である。側壁部44~46から外側に底部31がある場合、側壁部44~46から内側には底部31が無くてもよい。例えば、
図12A,12Bに示すクリップ取付座3B,3Cを内装部材1に使用することが可能である。ここで、上述した具体例と同様の構成については、同じ符号を付して詳しい説明を省略する。クリップ取付座3B,3Cの概念は、締結部3の概念に含まれる。
【0055】
図12Aに示すクリップ取付座3Bは、曲面状に繋がっている側壁部44~46、及び、側壁部44~46から内側に無く側壁部44~46から外側へ延出した底部31を有している。この場合、クリップ取付座3Bの底面(不図示)は側壁部44~46から外側にあり、側壁部44~46から外側にある底面に突出した複数のフックが並べられることになる。これにより、
図2~4で示した締結部3と比べて底面を広くすることができ、フックの数を増やすことができ、トリム本体2と締結部3との接合強度を高くすることができる。
【0056】
図12Bに示すクリップ取付座3Cは、曲面状に繋がっている側壁部44~46、及び、側壁部44~46の内側から外側へ延出した底部31を有している。この場合、クリップ取付座3Cの底面(不図示)は側壁部44~46の内側から外側まであり、側壁部44~46の内側から外側まである底面に突出した複数のフックが並べられることになる。これにより、
図12Aに示すクリップ取付座3Bと比べて必要な面積が少なくて済む。
【0057】
また、突出部は、
図6~9で示したフック50に限定されない。
図6~9で示した符号を用いて説明すると、第二方向フック(第二区分62と第二方向出張り部72)は、第一方向フック(第一区分61と第一方向出張り部71)とは異なる形状でもよい。出張り部70は、基部60から第一方向D1と第二方向D2の両方と異なる方向へ基部60から出た第三方向出張り部を含んでいてもよい。また、基部60に第三区分63が無くてもよく、フック50に第二方向出張り部72と第二区分62と第三区分63が無くてもよい。さらに、
図13A,13Bに例示する突出部50A,50Bが底面32から発泡材料層10内に突出していてもよい。
【0058】
図13Aに示す突出部50Aは、底面32から突出した柱状(例えば円柱状)の基部60と、底面32からの前記基部60の突出方向D0とは異なる方向へ基部60の先端から出た出張り部70と、を含んでいる。
図13Bに示す突出部50Bは、底面32から突出した柱状(例えば円柱状)の基部60と、底面32からの前記基部60の突出方向D0とは異なる方向へ基部60の途中から出た出張り部70と、を含んでいる。
図13A,13Bに示す基部60の突出方向D0は底面32と直交する方向であるが、基部60の突出方向D0は底面32と直交する方向からずれた方向でもよい。
図13A,13Bに示す出張り部70が基部60から出た方向は底面32に沿った方向であるが、出張り部70の基部60から出た方向は底面32に沿った方向からずれた方向でもよい。
【0059】
尚、突出部50A,50Bにおける比S1/V1(mm-1)は、フック50の場合と同じく、10以下が好ましく、9以下がより好ましく、8以下がさらに好ましい。また、前述の比S1/V1(mm-1)は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上がさらに好ましい。複数の突出部50A,50Bが突出している底面32が接触している状態で凹んでいる凹部12の深さDaの比Da/T0も、0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。本体部30の底面32が間隔Dbで発泡材料層10の表面11から離隔している場合における間隔Dbの比Db/T0も、0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。
【0060】
また、上述した例では発泡材料層10に突出部を挿入することによりトリム本体2に締結部3を接合したが、締結部3を金型に入れて溶融樹脂を発泡させながら発泡材料層10を射出成形することにより発泡材料層10の成形と同時に締結部3を発泡材料層10に接合してもよい。
【0061】
(5)実施例:
以下、実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明は以下の例により限定されるものではない。
【0062】
発泡材料層10のサンプルには、厚さT0=3.0mmにした発泡倍率6倍のPP発泡樹脂を用いた。締結部3の底部31及びフック50のサンプルには、PET樹脂を用いた。底部サンプルの形状は
図6,7に示す通りであり、各フック50の型形状における高さH1は2.3mmであり、成形後の各フック50の高さH1は2.5mmであった。
【0063】
[実施例1]
1辺30mmの正方形の底面32に144本のフック50を有する底部サンプルを成形した。フック50の合計の体積V1は281.808mm
3であり、フック50の合計の表面積S1は、2004.48mm
2であった。比S1/V1は、7.11mm
-1である。得られた底部サンプルの各フック50を発泡材料層10の表面11に押し当てることにより、凹部12(
図11A参照)の無い、すなわち、比Da/T0=0.00、且つ、比Db/T0=0.00である内装部材サンプルを作製した。
【0064】
[実施例2]
実施例1と同じ底部サンプルの各フック50を発泡材料層10の表面11に押し当てることにより、発泡材料層10の表面11にDa=1.0mm、すなわち、比Da/T0=0.29の凹部12を有する内装部材サンプルを作製した。
【0065】
[実施例3]
1辺30mmの正方形の底面32に170本のフック50を有する底部サンプルを成形した。フック50の合計の体積V1は288.66mm3であり、フック50の合計の表面積S1は、2208.3mm2であった。比S1/V1は、7.65mm-1である。得られた底部サンプルの各フック50を発泡材料層10の表面11に押し当てることにより、発泡材料層10の表面11にDa=1.0mm、すなわち、比Da/T0=0.29の凹部12を有する内装部材サンプルを作製した。
【0066】
[実施例4]
1辺30mmの正方形の底面32に144本のフック50を有する底部サンプルを成形した。フック50の合計の体積V1は207.072mm3であり、フック50の合計の表面積S1は、2180.16mm2であった。比S1/V1は、10.53mm-1である。得られた底部サンプルの各フック50を発泡材料層10の表面11に押し当てることにより、凹部12の無い、すなわち、比Da/T0=0.00、且つ、比Db/T0=0.00である内装部材サンプルを作製した。
【0067】
[引っ張り試験の評価装置]
図14は、トリム本体2と底部31(締結部3)との接合強度を評価する評価装置600を模式的に例示している。内装部材サンプルのトリム本体2は、図示しない固定具に固定され、ボルト631を通す穴2hが形成されている。底部31と評価装置用板610とは、穴2hからボルト631が通されて該ボルト631とナット632とにより互いに固定されている。引っ張り力F1を加えるための紐620の両端は、底部31と板610との間でボルト631に固定されている。
実施例1~4の内装部材サンプルを評価装置600にセットし、F1=220Nの引っ張り力を加える試験を繰り返し10回行った。
【0068】
[結果]
表1は、引っ張り試験の評価結果を示している。
【表1】
表1に示すように、比S1/V1が10よりも大きい実施例4の内装部材サンプルの場合、該サンプルは内装部材として使用可能であるが、F1=220Nの引っ張り力を加えた時にトリム本体2からの底部サンプルの剥離が見られた。一方、比S1/V1が10以下である実施例1~3の内装部材サンプルの場合、F1=220Nの引っ張り力を加える試験を繰り返し10回行っても、底部サンプルはトリム本体2から剥離しなかった。従って、S1/V1≦10にすることによりトリム本体2と締結部3との接合強度が向上することが分かった。
【0069】
(6)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、クッション材やシート材といった別部材を使用しなくてもトリム本体にクリップ取付座といった締結部が強固に接合した車両用内装部材等の技術を提供することができる。むろん、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術及び上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1…内装部材、
2…トリム本体、2a…室内面、2b…裏面、
3…締結部、3A…引掛部、3B,3C…クリップ取付座、
10…発泡材料層、11…表面、12…凹部、20…表皮材、
30…本体部、31…底部、32…底面、33…空間、40…保持部、41…頭部、
50…フック(突出部の例)、50A,50B…突出部、
60…基部、61…第一区分、62…第二区分、63…第三区分、
70…出張り部、71…第一方向出張り部、72…第二方向出張り部、
80…車体パネル、85…ワイヤーハーネス、
90…相手部材、
100…自動車、111…ドアトリム、
CL1…隙間、
D0…突出方向、D1…第一方向、D2…第二方向、D3…第三方向、
D5…前後方向、D6…上下方向、D7…厚さ方向、
ST1…接合工程。