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特許7316185チルド状態食品封入体及びその製造方法並びに食品の保存方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】チルド状態食品封入体及びその製造方法並びに食品の保存方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/00 20060101AFI20230720BHJP
   A23L 3/3418 20060101ALI20230720BHJP
   A23L 3/3508 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
A23L3/00 101A
A23L3/3418
A23L3/3508
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019191303
(22)【出願日】2019-10-18
(65)【公開番号】P2021065117
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(73)【特許権者】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 竜介
(72)【発明者】
【氏名】小野 浩
(72)【発明者】
【氏名】関口 伸美
(72)【発明者】
【氏名】石田 亘
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 純子
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 俊之
(72)【発明者】
【氏名】古川 周平
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 千夏
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-168449(JP,A)
【文献】特開2000-308477(JP,A)
【文献】特開2015-116159(JP,A)
【文献】特開昭60-164468(JP,A)
【文献】特開昭58-098072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 3/00
A23L 3/3418
A23L 3/3508
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密封された包装容器と該包装容器内の収容空間に封入された食品とを含む、食品封入体であって、
前記収容空間の二酸化炭素濃度が10容量%以上50容量%以下であり、
前記食品がフェルラ酸類を0.04質量%以上0.15質量%以下含有する、チルド状態食品封入体。
【請求項2】
前記食品が更に酢酸ナトリウムを含有する、請求項1に記載のチルド状態食品封入体。
【請求項3】
前記食品における前記酢酸ナトリウムの含有量が0.25質量%以上である、請求項2に記載のチルド状態食品封入体。
【請求項4】
前記食品がチルド状態で保存、流通及び/又は販売されるものである、請求項1~3の何れか1項に記載のチルド状態食品封入体。
【請求項5】
密封可能な包装容器の収容空間に、フェルラ酸類を0.04質量%以上0.15質量%以下含有する食品を収容し、該収容空間の二酸化炭素濃度が10容量%以上50容量%以下となるように、該収容空間のガスを置換した後、該包装容器を密封する工程を有する、チルド状態食品封入体の製造方法。
【請求項6】
密封可能な包装容器の収容空間に、フェルラ酸類を0.04質量%以上0.15質量%以下含有する食品を収容し、該収容空間の二酸化炭素濃度が10容量%以上50容量%以下となるように、該収容空間のガスを置換した後、該包装容器を密封し、しかる後、該食品を該包装容器ごとチルド状態で保存する工程を有する、食品の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装容器内に食品が封入された食品封入体に関する。また本発明は、チルド温度帯で長期保存が可能な食品の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の保存では、微生物の繁殖による腐敗や変質が問題となる。従来、食品保存剤として、ソルビン酸、安息香酸ナトリウム等の抗菌性を有する有機酸や有機酸塩が一般に用いられている。特許文献1には、フェルラ酸類と有機酸、有機酸塩及びキトサンの少なくとも1種とを有効成分として含有する食品保存剤が記載されている。特許文献2には、ビタミンB1塩とフェルラ酸類とを含有する食品保存剤が記載されている。
【0003】
また、無酸素下や不活性ガス存在下で食品を保存することにより、食品における微生物の繁殖を抑えることができることが知られている。特許文献3に記載の食品の保存方法では、品温が50~100℃となるように加熱調理した食品を容器内に密封し、且つ該容器内の二酸化炭素濃度を5%以上、酸素濃度を5%以下とする。特許文献4に記載の食品の保存方法では、食品に酢酸ナトリウム等の有機酸塩を所定量添加してpHを6~7に保持したものを、品温が100℃以下となるように加熱調理した後、二酸化炭素濃度が5%以上の容器内に密封し、10℃以下のチルド温度帯で保存する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-168449号公報
【文献】特開2008-113625号公報
【文献】特開昭58-98072号公報
【文献】特開昭60-164468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、食品ロスの低減や生産効率向上の点から、凍らない程度の低温で保存・流通・販売されるチルド食品が注目されている。チルド食品においては特に、環境中に比較的多く存在する乳酸菌による腐敗や変質が課題である。乳酸菌は、従来の各種静菌剤及び静菌方法では食味に影響を及ぼさずに静菌することが困難であり、チルド食品の設計において大きな壁となっている。
【0006】
本発明の課題は、食品本来の食味を維持しつつ、食品の微生物安全性を向上させる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、密封された包装容器と該包装容器内の収容空間に封入された食品とを含む、食品封入体であって、前記収容空間の二酸化炭素濃度が10容量%以上であり、前記食品がフェルラ酸類を0.04質量%以上含有する、食品封入体である。
【0008】
また本発明は、密封可能な包装容器の収容空間に、フェルラ酸類を0.04質量%以上含有する食品を収容し、該収容空間の二酸化炭素濃度が10容量%以上となるように、該収容空間のガスを置換した後、該包装容器を密封する工程を有する、食品封入体の製造方法である。
【0009】
また本発明は、密封可能な包装容器の収容空間に、フェルラ酸類を0.04質量%以上含有する食品を収容し、該収容空間の二酸化炭素濃度が10容量%以上となるように、該収容空間のガスを置換した後、該包装容器を密封し、しかる後、該食品を該包装容器ごとチルド状態で保存する工程を有する、食品の保存方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、食品本来の食味を維持しつつ、食品の微生物安全性を向上させる技術として、食品封入体及びその製造方法並びに食品の保存方法が提供される。本発明の技術は、食品をチルド温度帯で保存する場合に特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の食品封入体は、密封された包装容器と、該包装容器内の収容空間に封入された1種又は2種以上の食品とを含む。本発明は種々の食品の保存に適用可能であり、本発明に係る食品、すなわち包装容器内の収容空間に封入される食品は特に制限されない。本発明に係る食品は、各種食材、例えば、肉類、野菜類、魚類等であり得るが、典型的には、各種食材に切断、加熱等の加工を施してなる、加工食品である。加工食品の具体例として、飯類、パン類、麺類等の主食;惣菜等の副食;菓子類等のデザートが挙げられる。惣菜の具体例として、サラダ、和え物、煮物類、焼き物類、茹で物類、蒸し物類、炒め物類、揚げ物類を例示できる。
【0012】
なお、本発明では、包装容器内の収容空間に食品とともに特定量の二酸化炭素を収容するところ、食品が水分を比較的多く含むものである場合、具体的には例えばスープ類又はソース類である場合は、食品が保持する水分中に二酸化炭素が溶解し、食品の食味等に影響が出ることが懸念される。そこで本発明に係る食品は、固形物を主体とするものが好ましい。前記の惣菜の具体例は、基本的に固形物を主体とするものである。
【0013】
本発明に係る包装容器は、食品を直接的又は間接的に収容可能な収容空間を内部に有し且つ密封可能なものであればよい。ここでいう、「食品を直接的に収容可能」とは、食品を包装せずにそのまま収容し得ることを意味し、「食品を間接的に収容可能」とは、包装容器とは別の容器に収容された食品を該別の容器ごと収容し得ることを意味する。包装容器の形状及び寸法は特に制限されず、収容される食品の種類、形状、大きさ等に応じて適宜設定すればよい。包装容器の形状の具体例として、トレー、カップ、袋、箱、缶が挙げられる。また包装容器は、内部の収容空間が、仕切り部材の無い単一の空間であってもよく、仕切り部材によって複数の小空間に区分けされていてもよい。後者の場合において、包装容器内の収容空間における複数の小空間が互いに連通していると、各小空間のガス置換が容易になるという利点がある。
【0014】
本発明に係る包装容器は、少なくとも二酸化炭素についてガスバリア性を有するものであればよい。本発明に係る包装容器の材料の具体例として、アルミニウム等の金属;ポリビニルアルコール(PVA)、ナイロン(NY)類、エチレン/ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アルミラミネート(AL)、アルミ蒸着フィルム(VM)、シリカ蒸着フィルム、PET/NY/ポリプロピレン(PP)又はポリエチレン(PE)、PET/NY/AL/PP又はPE、PP/EVOH/PE、PP/PVA/PE等の樹脂が挙げられる。
【0015】
本発明の食品封入体は、<1>包装容器の収容空間の二酸化炭素濃度が10容量%以上である点、及び<2>包装容器の収容空間内に封入された食品がフェルラ酸類を0.04質量%以上含有する点で特徴付けられる。前記<1>の二酸化炭素と前記<2>のフェルラ酸類とが相乗的に作用することで、従来の各種静菌剤及び静菌方法では食味に影響を及ぼさずに静菌することが困難であった乳酸菌の繁殖を効果的に抑制することが可能となり、チルド食品をはじめとする種々の食品の微生物安全性が飛躍的に向上し得る。
【0016】
前記<1>に関し、包装容器の収容空間の二酸化炭素濃度が10容量%未満では、乳酸菌をはじめとする各種微生物の静菌効果に乏しい。包装容器の収容空間の二酸化炭素濃度は、少なくとも10容量%以上であるが、好ましくは15容量%以上、より好ましくは20容量%以上、なお好ましくは25容量%以上、更に好ましくは30容量%以上である。また、包装容器の収容空間の二酸化炭素濃度は、好ましくは50容量%以下、より好ましくは45容量%以下、更に好ましくは40容量%以下である。包装容器の収容空間の二酸化炭素濃度が高すぎると、該収容空間内の食品の味等の品質に影響を及ぼすおそれがある。
【0017】
包装容器の収容空間の二酸化炭素濃度(ガス組成)は、市販のガス分析計(例えば、商品名「CheckMate」、PBI Dansensor社製)を用いて常法に従って測定することができる。
【0018】
なお、本発明の食品封入体においては、包装容器の収容空間の二酸化炭素濃度が10容量%以上であることを前提として、包装容器の収容空間に二酸化炭素以外の他のガス成分が存在していてもよい。他のガス成分として、例えば、窒素(N)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)等の不活性ガスや酸素(O)が挙げられる。ただし酸素については、食品の味や風味等の品質を長期に維持する観点から、包装容器の収容空間の酸素濃度は15容量%以下であることが好ましく、より好ましくは10容量%以下であり、さらに好ましくは7容量%以下である。
【0019】
本発明の食品封入体において、包装容器の収容空間の容積(複数の小空間に区分けされている場合はそれらの容積の合計)に占める、食品の体積(2種以上の食品が収容されている場合はそれらの体積の合計)の割合(以下、「食品の収容空間占有率」ともいう。)は、好ましくは10~90%、より好ましくは20~80%、更に好ましくは20~70%である。食品の収容空間占有率が低すぎると、a)食品に対して収容空間が大きすぎるためバランスが悪く、食品が型崩れしやすくなる、b)食品と二酸化炭素との接触機会が過多となり、食品の食味等に及ぼす影響が無視できないものとなる、等の不都合が生じるおそれがある。一方、食品の収容空間占有率が高すぎると、収容空間に存在する二酸化炭素をはじめとするガスの量が過少となり、静菌効果が低下するおそれがある。
【0020】
前記<2>に関し、食品におけるフェルラ酸類の含有量が0.04質量%未満では、乳酸菌をはじめとする各種微生物の静菌効果に乏しい。一方、食品におけるフェルラ酸類の含有量が多すぎると、食品の食味等の品質に影響を及ぼすおそれがある。食品におけるフェルラ酸類の含有量は、食品の全質量に対して、好ましくは0.045質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上である。また、食品におけるフェルラ酸類の含有量は、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。特に0.1質量%以下であれば、食味に及ぼす影響を最小限とすることができる。
【0021】
本発明で用いるフェルラ酸類としては、例えば、フェルラ酸;フェルラ酸ナトリウム、フェルラ酸カリウム、フェルラ酸カルシウム等のフェルラ酸の水溶性塩類;フェルラ酸メチル、フェルラ酸エチル等のフェルラ酸の低級アルキルエステルを例示できる。本発明で用いるフェルラ酸類は、化学的に合成したものでもよく、フェルラ酸類を含む種々の天然物から抽出したものでもよい。本発明では、食品に1種類のフェルラ酸類を含有させてもよく、2種類以上のフェルラ酸類を含有させてもよい。
【0022】
本発明の食品封入体において、食品は、フェルラ酸類に加えて更に、酢酸ナトリウムを含有してもよい。これにより、静菌効果がより一層向上し得る。食品における酢酸ナトリウムの含有量は、食品の全質量に対して、好ましくは0.15質量%以上、より好ましくは0.25質量%以上である。また、食品における酢酸ナトリウムの含有量は、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下である。食品における酢酸ナトリウムの含有量が多すぎると、食品の食味等の品質に影響を及ぼすおそれがある。
【0023】
本発明の食品封入体において、食品中におけるフェルラ酸類と酢酸ナトリウムとの含有質量比は、フェルラ酸類:酢酸ナトリウムとして、好ましくは1:25~15:25、より好ましくは4:25~10:25である。
【0024】
本発明の食品封入体において、前記のフェルラ酸類、酢酸ナトリウム以外の通常食品保存に用いられるほかの成分を、食品の味や風味に影響を与えない範囲で含有させてもよい。例として、エタノール、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、アミノ酸、脂肪酸、脂肪酸エステル、塩基性蛋白質・ペプチド等が挙げられる。有機酸としては、酢酸、乳酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、アジピン酸、ソルビン酸等が挙げられる。有機酸塩としては、前記有機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられる。無機酸および無機酸塩としては、リン酸及びリン酸塩が挙げられる。アミノ酸としては、グリシン、アラニン等が挙げられる。脂肪酸としては、炭素原子数6~18の脂肪酸が挙げられる。脂肪酸エステルとしては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。塩基性蛋白質・ペプチドとしてはプロタミン、リゾチーム、ε-ポリリジン、キトサン(分解物含む)、ペクチン分解物、ナイシン等が挙げられる。これらの成分は2種以上含んでいてもよい。
【0025】
本発明の食品封入体において、食品のpHは特に制限されないが、静菌効果と食品の食味等とのバランスの観点から、好ましくは5.0~7.0、より好ましくは5.5~6.5、更に好ましくは5.7~6.2である。ここでいう「食品のpH」は、食品封入体における包装容器を開封し、該包装容器の収容空間から取り出した食品のpHであり、フェルラ酸類、酢酸ナトリウム等の静菌剤が含有された状態での食品のpHである。
【0026】
本発明の食品封入体は、チルド温度帯で保存、流通及び/又は販売されるものであり得る。ここでいう「チルド温度帯」は、食品封入体に含まれる食品が凍結しない程度の低温であり、具体的には、食品封入体が置かれた環境の雰囲気温度として、好ましくは10℃以下、より好ましくは7℃以下、更に好ましくは5℃以下の範囲である。本発明の食品封入体は、このようなチルド温度帯での保存、流通及び/又は販売が可能でありつつも、食品本来の食味、風味等の品質が維持されているものである。
【0027】
本発明の食品封入体は前記のとおり、特に乳酸菌の繁殖を効果的に抑制することを可能とする。乳酸菌の種類は特に限定されないが、一般的に、食品製造時に混入しやすい乳酸菌として、Lactobacillus属細菌、Leuconostoc属細菌、Lactococcus属細菌 、Pediococcus属細菌、Weissella属細菌、Enterococcus属菌等が挙げられ、本発明の食品封入体はこれらの菌の繁殖を効果的に抑制できる。
【0028】
次に、本発明の食品封入体の製造方法について説明する。なお、以下の説明では、前述した本発明の食品封入体とは異なる点を説明する。本発明の食品封入体の製造方法に関し特に説明しない点については、前述した本発明の食品封入体の説明が適宜適用される。
【0029】
本発明の食品封入体の製造方法は、密封可能な包装容器の収容空間に、フェルラ酸類を0.04質量%以上含有する食品を収容する工程(第1の工程)と、該収容空間の二酸化炭素濃度が10容量%以上となるように、該収容空間のガスを置換する工程(第2の工程)と、該包装容器を密封する工程(第3の工程)とを有する。
【0030】
前記第1の工程(食品収容工程)の実施前に、フェルラ酸類を0.04質量%以上含有する食品を調製する(食品調製工程)。前記食品調製工程において、食品にフェルラ酸類を添加する方法及びタイミングは特に制限されず、食品の種類に応じて適宜の方法を選択すればよい。例えば、食品が惣菜の如き加工食品の場合は、惣菜の調理中、調理後、喫食直前等、任意の段階でフェルラ酸類を添加することができる。食品にフェルラ酸類に加えて更に、酢酸ナトリウムその他静菌剤を含有させる場合は、フェルラ酸類と同様の方法及びタイミングで添加することができる。前記食品調製工程において、食品のpHを調整してもよい。
【0031】
前記第2の工程(ガス置換工程)において、包装容器の収容空間のガス組成を前記特定範囲(二酸化炭素濃度が10容量%以上)に調整する方法は特に制限されないが、一般的な方法としては、該収容空間に元々存在するガスを特定組成のガスに置換するガス置換法が挙げられる。ガス置換法の具体例としては例えば、i)食品が収容された包装容器内の収容空間に、特定組成のガスをフラッシュして容器内のガスを置換する方法、ii)食品が収容された包装容器内の収容空間を真空脱気した後に、特定組成のガスを充填する方法、等が挙げられる。ガス置換法において、包装容器の収容空間のガス置換率は、通常95%以上である。前記i)及びii)において、包装容器の収容空間に充填する特定組成のガスとしては、密封された該収容空間の二酸化炭素濃度が10容量%以上となるようなガスであればよく、二酸化炭素に加えて更に、不活性ガス等を含んでいてもよい。
【0032】
前記第3の工程(密封工程)において、包装容器の密封方法は特に制限されず、包装容器の種類等に応じて、ヒートシール等の公知のシール方法を利用することができる。
【0033】
本発明には、食品の保存方法が包含される。本発明の食品の保存方法は、密封可能な包装容器の収容空間に、フェルラ酸類を0.04質量%以上含有する食品を収容する工程(第1の工程)と、該収容空間の二酸化炭素濃度が10容量%以上となるように、該収容空間のガスを置換する工程(第2の工程)と、該包装容器を密封する工程(第3の工程)と、該食品を該包装容器ごとチルド状態で保存する工程(第4の工程)とを有し、典型的には更に、該第1の工程の実施前に、フェルラ酸類を0.04質量%以上含有する食品を調製する食品調製工程を有する。本発明の食品の保存方法における前記の第1ないし3の工程及び食品調製工程は、前述した本発明の食品封入体の製造方法における各工程と同じである。前記第4の工程(チルド保存工程)は、前記第3工程(密封工程)を経て得られた食品封入体を、チルド温度帯の環境に置くことで実施できる。ここでいう「チルド温度帯」については、前述したとおりである。
【実施例
【0034】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0035】
〔実施例1~5、比較例1~14、対照例1~7〕
密封された包装容器と該包装容器内の収容空間に封入された食品とを含む、食品封入体において、該「食品」を「乳酸菌の菌液が接種された培地」に変更したもの(以下、「培地封入体」ともいう。)を複数種作製して実施例、比較例又は対照例とし、それらをチルド状態で120時間保存したときの抗菌力を評価した。具体的には、下記<抗菌力試験>を実施した。結果を下記表1~8に示す。
【0036】
<抗菌力試験>
(1)試験条件
・培地:TSB半流動培地(寒天0.1質量%)
・静菌剤:フェルラ酸、酢酸ナトリウム
・培地のpH:5.8
・培養温度:10℃
(2)供試菌
事前検証で10℃条件下での増殖性の高かった以下の4菌種の乳酸菌を供試菌とした。
・Weissella viridescens
・Leuconostoc mesenteroides
・Leuconostoc citreum
・Leuconostoc pseudomesenteroides
【0037】
(3)培地の調製
TSB培地を調製し、該培地に静菌剤(フェルラ酸、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム)及び寒天を所定量内割で添加し、1N-HCl水溶液を用いて該培地のpHを5.8に調整した後、該培地を加温溶解させて、試験管1本当たり10mLに分注し、121℃で15分間滅菌処理した。滅菌処理後、培地のpHを測定し、滅菌処理前と比べてpHが0.1以上変化していないことを確認した。pH測定には市販のpHメーター(東亜ディーケーケー社製、TOA HM-30G)を使用した。
【0038】
(4)菌液の調製及び接種
供試菌各株のマイクロバンクをTSB培地10mLに入れ、30℃で20時間種培養した。その種培養液0.1mLを、新しいTSB培地10mLに植菌し、30℃で20時間培養したものを本培養液とした。本培養液をペプトン水で希釈し、各株の生菌数が理論値で7×10cfu/mLとなるように調整し、菌液を調製した。
この菌液0.1mLを、前記(3)で調製したpH5.8のTSB半流動培地10mLに接種した(終濃度7cfu/mL)(N=3)。
下記方法により、接種菌液の生菌数を測定し、接種菌液量から初発菌数を算出した。
【0039】
<生菌数の測定方法>
生菌数は、表面塗抹平板法により計測した。具体的には下記のとおりである。
寒天培地をあらかじめ平板として固めた培地表面に、試料液0.1mLあるいは100倍、10000倍に希釈した試料液0.1mLを滴下し、コンラージ棒で均等に塗抹し、培養した。培地及び培養条件としては標準寒天培地(栄研化学)を用いた30℃、48時間の好気培養を採用した。
生菌数は、培地で生育したコロニー数に希釈倍数を乗じて培地1gあたりの生菌数(cfu/g)として計測した。例えば、試料液を希釈せずに0.1mLの試料液を接種した培地において、培養後に30個のコロニーが観察された場合、3.0×10cfu/gとした。各菌についての培地の中で最大の生菌数となった培地の値を、生菌数測定結果とした。
【0040】
(5)培地封入体の作製(試験管内のガス置換)
前記(4)で菌液を接種された培地が入った試験管を、密封可能でガスバリア性を有する袋状の包装容器(パウチ)、具体的には、該試験管を10本程度収容可能なナイロンポリ袋に入れ、必要に応じパウチ内のガス置換を実施した後、パウチをヒートシールにより密封して、培地封入体を作製した。ガス置換は、市販のガス置換包装機(東静電気株式会社製、真空包装機V-381)を用いて常法に従って実施し、パウチ内に炭酸ガスと窒素ガスとの混合ガス(CO:10~30容量%、N:70~90容量%)又は窒素ガスのみ(N:100容量%)を封入した。なお、検体をガス置換する前後に、空袋をガス置換し、市販のガス濃度測定機(PBI Dansensor社製、CheckMate3)を用いて、ガス組成が設定どおりであることを確認した。
【0041】
(6)培地封入体の恒温保存及び生菌数測定
前記(5)で作製した培地封入体を、槽内温度10℃の恒温槽に120時間静置することで、該培地封入体をチルド状態で120時間保存した。その後、恒温槽から培地を取り出して菌数(恒温保存後菌数)を測定し、次式に従い、恒温保存後菌数の測定値の常用対数値から前記初発菌数の常用対数値を差し引いて、増加菌数を算出した。
増加菌数(LOGcfu/g)=LOG(恒温保存後菌数)-LOG(初発菌数)
各実施例及び比較例の増加菌数について、対照例の増加菌数と比較した場合に、前者(実施例又は比較例)が後者(比較対象の実施例又は比較例と同じ表に掲載されている対照例)よりも2LOGcfu/g以上少ない場合を◎◎(最高評価)、1.5LOGcfu/g以上少ない場合を◎、1LOGcfu/g以上少ない場合を〇、1LOGcfu/g未満少ない場合を△、前者と後者とが同等であるか又は後者の方が多い場合を×とした。
なお、対照例は、比較対象(実施例又は比較例)とガス置換の有無(収容空間のガス組成)のみが異なるものである。下記表1~8では、比較した実施例、比較例及び対照例どうしを1つの表にまとめている。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表1~2に示すとおり、各実施例は、培地中にフェルラ酸類を0.04質量%以上含有し、且つ培地の収容空間の二酸化炭素濃度が10容量%以上であるため、これを満たさない比較例及び対照例に比べて、チルド状態での保存時における抗菌力に優れていた。
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
表3~4の各比較例は、何れも培地中にフェルラ酸類を0.04質量%未満含有するものであるところ、培地の収容空間の二酸化炭素濃度の増加に伴って抗菌力が向上していることが確認できるが、フェルラ酸類の含有量が少ないことに起因して、抗菌力としては不十分であった。
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】
【表7】
【0051】
表5~7の各比較例は、何れも培地中にフェルラ酸類以外の他の静菌剤(酢酸ナトリウム及び/又は乳酸ナトリウム)を含有するものであるところ、培地の収容空間の二酸化炭素濃度がゼロの場合(比較例10)は勿論のこと、該二酸化炭素濃度が10容量%以上の場合(比較例11~13)でも、抗菌力としては不十分であった。
【0052】
【表8】
【0053】
表8に示すとおり、ガス置換を実施して培地の収容空間の二酸化炭素濃度を10容量%以上とし、且つ静菌剤としてフェルラ酸類と酢酸ナトリウムとを併用した場合(実施例5)には、静菌剤としてフェルラ酸類のみを用いた場合(実施例3)に比べて、より優れた抗菌力を発現し得る。
【0054】
なお、各実施例で採用された静菌剤濃度及び収容空間のガス組成を食品(サラダ、白和え)に適用し、該食品を前記のようにチルド状態で120時間保存した後、専門パネラーに喫食してもらったところ、保存前と比較して食味、風味は同等との評価であった。また、その際フェルラ酸類に影響する食味の変化についても、問題はなかった。