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特許7316186モータ制御装置及びその絶縁抵抗検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】モータ制御装置及びその絶縁抵抗検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/34 20200101AFI20230720BHJP
   G01R 27/02 20060101ALI20230720BHJP
   H02P 29/024 20160101ALI20230720BHJP
【FI】
G01R31/34 B
G01R31/34 A
G01R27/02 R
H02P29/024
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019191384
(22)【出願日】2019-10-18
(65)【公開番号】P2021067500
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇治
(72)【発明者】
【氏名】菊地 敬吾
(72)【発明者】
【氏名】平出 敏雄
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-038114(JP,A)
【文献】特開2015-129704(JP,A)
【文献】特開2004-271285(JP,A)
【文献】特開2007-198995(JP,A)
【文献】特開2012-093169(JP,A)
【文献】特開2006-136151(JP,A)
【文献】特開2019-113431(JP,A)
【文献】特許第5705382(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2013/0235618(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/34
G01R 31/72
G01R 27/02
H02P 29/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電源部と、前記第1電源部からの電力供給をオフすることができる第1スイッチと、前記第1電源部からの電力を母線に出力する直流供給部と、前記母線に接続されたコンデンサと、前記母線に供給された直流を交流に変換してモータを駆動制御するスイッチング素子と、負側母線に接続された接地コンデンサと、を備えたモータ制御装置であって、
前記負側母線を接地可能な第2スイッチと、
前記母線に接続された第2電源部に一端が接続され、他端が接地可能な第3スイッチと、
前記モータの巻線と前記負側母線との間の電流値を検出する電流検出部と、
前記第1スイッチにより電力供給がオフにされ、所定時間前記第2スイッチがオンにされて前記接地コンデンサの電荷が放電され、前記第3スイッチの開時及び閉時における前記電流検出部によってそれぞれ検出された電流値と前記コンデンサの電圧値及び前記第2電源部の電圧値とに基づいて、前記モータの絶縁抵抗値が算出される絶縁抵抗算出部と、
を備えたモータ制御装置。
【請求項2】
前記第2電源部は、前記母線と前記第3スイッチとの間に介在される直流電源部であり、
前記絶縁抵抗算出部は、前記第3スイッチの開時及び閉時における前記電流検出部によってそれぞれ検出された電流値と前記コンデンサの電圧値及び前記第2電源部の電圧値とに基づいて、前記モータの絶縁抵抗値を算出する、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記直流電源部は、その負側の一端が前記負側母線に接続され、
前記直流電源部の電圧は、前記コンデンサの電圧より低く設定される、請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記第2スイッチと前記第3スイッチとは、その順序で前記負側母線から直列に接続され、前記第2スイッチは、少なくとも前記負側母線と前記直流電源部とを、選択的に前記第3スイッチに接続可能なスイッチである、請求項2又は3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
第1電源部と、前記第1電源部からの電力供給をオフすることができる第1スイッチと、前記第1電源部からの電力を母線に出力する直流供給部と、前記母線に接続されたコンデンサと、前記母線に供給された直流を交流に変換してモータを駆動制御するスイッチング素子と、負側母線に接続された接地コンデンサと、を備えたモータ制御装置の絶縁抵抗検出方法であって、
前記第1スイッチにより電力供給をオフし、
前記負側母線を接地可能な第2スイッチを所定時間オンにして前記接地コンデンサの電荷を放電し、
前記母線に一端を接続し、他端を第3スイッチを介して接地した第2電源部の、前記第3スイッチを開とし、前記モータの巻線と前記第2電源部が接続された前記母線との間の第1の電流値を電流検出部により検出し、
前記第3スイッチを閉とし、前記モータの巻線と前記第2電源部が接続された前記母線との間の第2の電流値を前記電流検出部により検出し、
検出された前記第1の電流値及び前記第2の電流値と、前記コンデンサの電圧値及び前記第2電源部の電圧値とに基づいて、前記モータの絶縁抵抗値を算出する、
モータ制御装置の絶縁抵抗検出方法。
【請求項6】
前記第2電源部は、前記母線に接続されて蓄電された前記コンデンサであり、前記第2電源部の電圧値は前記コンデンサの電圧値である、請求項5に記載のモータ制御装置の絶縁抵抗検出方法。
【請求項7】
前記第2電源部は、前記母線と前記第3スイッチとの間に介在される直流電源部であり、
縁抵抗算出部は、前記第3スイッチの開時及び閉時における前記電流検出部によってそれぞれ検出された電流値と前記コンデンサの電圧値及び前記第2電源部の電圧値とに基づいて、前記モータの絶縁抵抗値を算出する、請求項5に記載のモータ制御装置の絶縁抵抗検出方法。
【請求項8】
前記直流電源部は、その負側の一端が前記負側母線に接続され、
前記直流電源部の電圧は、前記コンデンサの電圧より低く設定される、請求項7に記載のモータ制御装置の絶縁抵抗検出方法。
【請求項9】
前記第2スイッチと前記第3スイッチとは、その順序で前記負側母線から直列に接続され、前記第2スイッチは、少なくとも前記負側母線と前記直流電源部とを、選択的に前記第3スイッチに接続可能なスイッチである、請求項7又は8に記載のモータ制御装置の絶縁抵抗検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの絶縁抵抗検出機能を備えたモータ制御装置及びモータ制御装置の絶縁抵抗検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サーボモータなどのモータは、インバータで構成されるモータ制御装置により駆動され、工作機械などに用いられる。工作機械など、切削液を用いて加工を行う機械では、切削液がモータに付着し、切削液によっては、モータ内部に入り込み、モータの絶縁を劣化させるという問題がある。
【0003】
また、工作機械以外に用いられる場合であっても、長期間にわたって用いられる場合や、使用環境によっては、同様の問題が生じ得る。
【0004】
モータの絶縁劣化は徐々に進行し、最終的には地絡に至る。モータが地絡すると、漏電ブレーカをトリップさせたり、モータ制御装置を破損させたりして、システムダウンに至る。システムダウンは、工場の製造ラインに多大な影響を及ぼす。そのため、予防保全の観点から、モータの絶縁抵抗を検出できる装置が望まれている。
【0005】
このような、モータの絶縁抵抗の検出方法としては、特許文献1が知られている。特許文献1には、第1のスイッチを介して交流電源から供給される交流電圧を直流電圧に整流する整流回路と、整流回路によって整流された直流電圧をコンデンサで平滑化する電源部と、電源部によって平滑化された直流電圧を半導体スイッチング素子のスイッチング動作により交流電圧に変換してモータを駆動するインバータ部と、モータのコイルに一端を接続し、コンデンサの一方の端子に他端を接続した抵抗器に流れる電流値を測定する電流検出部と、コンデンサの両端の電圧値を測定する電圧検出部と、コンデンサの他方の端子を接地する第2のスイッチと、モータの運転を停止し第1のスイッチをオフしかつ第2のスイッチをオフした状態とオンした状態の2つの状態において測定された2組の電流値及び電圧値を用いてモータのコイルと大地との間の抵抗であるモータの絶縁抵抗値を検出する絶縁抵抗検出部と、を有することを特徴とするモータ駆動装置が記載されている。
【0006】
特許文献1は、平滑コンデンサの電圧を用いて、2組の計測結果からモータの絶縁抵抗を算出する中で、個々の半導体スイッチング素子の漏れ電流に相当する等価抵抗を消去することにより、半導体スイッチング素子の漏れ電流の影響を解消している。
【0007】
この特許文献1の回路構成によれば、この2組の計測中の、第1のスイッチをオフし、かつ、第2のスイッチをオフした状態では、平滑コンデンサの負側母線とアース間の電位差は0Vになり、モータの絶縁抵抗には電流が流れないため、半導体スイッチング素子の漏れ電流に相当する等価抵抗を正しく算出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-129704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、実際のモータ制御装置では、ノイズ対策のために、平滑コンデンサの負側母線とアース間に接地コンデンサを挿入する場合が多い。また、三相交流電源はS相もしくは中性点が接地されているのが通常である。このような構成において、特許文献1に記載のモータの絶縁抵抗の検出方法を適用した場合、第1のスイッチがオンになって交流電源が供給されると、整流回路により、平滑コンデンサの負側母線とアース間に交流電源の周波数で電位差が生じ、接地コンデンサがその電位差により充電される。そして、モータの絶縁抵抗を測定するために第1のスイッチをオフした時に、接地コンデンサの電圧が残っていると、電流検出部には、平滑コンデンサの電圧に基づく半導体スイッチング素子の漏れ電流のみならず、接地コンデンサの電圧によっても、モータの絶縁抵抗を通して電流が流れてしまい、半導体スイッチング素子の漏れ電流に相当する等価抵抗を正しく算出できないといったおそれがあった。
【0010】
本発明は、上記課題を解消するためになされたものであり、その目的は、負側母線とアース間に接地コンデンサが挿入されているモータ制御装置の場合であっても、モータの絶縁抵抗を精度良く検出できるモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための本発明の一の態様は、
第1電源部と、前記第1電源部からの電力供給をオフすることができる第1スイッチと、前記第1電源部からの電力を母線に出力する直流供給部と、前記母線に接続されたコンデンサと、前記母線に供給された直流を交流に変換して前記モータを駆動制御するスイッチング素子と、負側母線に接続された接地コンデンサと、を備えたモータ制御装置であって、
前記負側母線を接地可能な第2スイッチと、
前記母線に接続された第2電源部に一端が接続され、他端が接地可能な第3スイッチと
前記モータの巻線と前記負側母線との間の電流値を検出する電流検出部と、
前記第1スイッチ部により電力供給がオフにされ、所定時間前記第2スイッチがオンにされて前記接地コンデンサの電荷が放電され、前記第3スイッチの開時及び閉時における前記電流検出部によってそれぞれ検出された電流値と前記コンデンサの電圧値及び前記第2電源部の電圧値とに基づいて、前記モータの絶縁抵抗値が算出される絶縁抵抗算出部と、
を備えたモータ制御装置、である。
【0012】
前記課題を解決するための本発明の別の態様は、
第1電源部と、前記第1電源部からの電力供給をオフすることができる第1スイッチと、前記第1電源部からの電力を母線に出力する直流供給部と、前記母線に接続されたコンデンサと、前記母線に供給された直流を交流に変換して前記モータを駆動制御するスイッチング素子と、負側母線に接続された接地コンデンサと、を備えたモータ制御装置の絶縁抵抗検出方法であって、
前記第1スイッチにより電力供給をオフし、
前記負側母線を接地可能な第2スイッチを所定時間オンにして前記接地コンデンサの電荷を放電し、
前記母線に一端を接続し、他端を第3スイッチを介して接地した第2電源部の、前記第3スイッチを開とし、前記モータの巻線と前記第2電源部が接続された前記母線との間の第1の電流値を電流検出部により検出し、
前記第3スイッチを閉とし、前記モータの巻線と前記第2電源部が接続された前記母線との間の第2の電流値を前記電流検出部により検出し、
検出された前記第1の電流値及び前記第2の電流値と、前記コンデンサの電圧値及び前記第2電源部の電圧値とに基づいて、前記モータの絶縁抵抗値を算出する、
モータ制御装置の絶縁抵抗検出方法、である。
【0013】
本発明のその他の態様は、後述する発明を実施するための形態の実施例の説明から明らかである。
【0014】
本発明によれば、第1スイッチ部により電力供給をオフすることにより、第1電源部からの電力供給が停止される。
そして、モータの絶縁抵抗値を算出する際には、第1電源部からの電力供給が停止された状態で第3スイッチを閉とする前に、第2スイッチをオンすることにより、負側母線に接続された接地コンデンサに蓄積された電荷が接地側に放電されて、負側母線と各接地点との電位差がなくなる。
【0015】
この状態で、第3スイッチを開とした状態では、コンデンサの電圧のみによりスイッチング素子を介する漏れ電流が流れ、第1の電流値が電流検出部によって検出される。他方、同様に第1電源部からの電力供給が停止された状態で、第3スイッチを閉とした場合には、第1の電流値と、第2電源部の電圧のみによるモータの巻線を通る電流の大部分(余部は負側のスイッチング素子の微小な漏れ電流である。)とが加わった第2の電流値が電流検出部によって検出される。電流検出部によって検出された両電流値すなわち第1の電流値及び第2の電流値と、コンデンサの電圧値及び第2電源部の電圧値とに基づいて演算を行うことにより、モータの絶縁抵抗値を精度よく算出することができる。
【0016】
なお、ここで、「第1スイッチ」は、遮断器を含めてあらゆるスイッチを含み、バッテリや電源の端子と接触する端子や接点であっても、電源からの電力供給をオフすることができる構造であればすべて含むものとする。また、「直流供給部」は、交流から直流に変換する電力変換器等が用いられる。その他、「スイッチ」と称する場合には、前記の「スイッチ」を含み、電流を止め又は流すことができれば如何なるものでもよく、機械的なスイッチ、リレー、半導体スイッチなども含む。
【発明の効果】
【0017】
以上のとおり、本発明によれば、負側母線とアース間に接地コンデンサが挿入されているモータ制御装置の場合でも、モータの絶縁抵抗を精度良く検出できるモータ制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のモータ制御装置の第1の態様を示す回路図
図2】本発明のモータ制御装置の第2の態様を示す回路図
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に本発明の第1の態様を示す。
【0020】
なお、以下の説明においては、電流は電流値を、電圧は電圧値を、インピーダンスはインピーダンス値を、また抵抗は抵抗値を含み得るものとし、当業者の技術常識にしたがって、解釈されるものとする。
【0021】
モータ制御装置Cont1は、整流回路(直流供給部)Sと、正側の母線MLと負側の母線MLからなる母線MLと、平滑コンデンサ(コンデンサ)C1、と、半導体スイッチング素子TR~TRにより構成されるインバータと、絶縁抵抗算出部3とから構成される。
【0022】
モータ制御装置Cont1は、電力供給をオフすることができる第1スイッチである電磁接触器MSを介して三相交流電源(第1電源部)Sから供給される三相交流電圧を整流回路(直流供給部)Sにより全波整流して直流電圧を母線MLに出力する。
【0023】
出力された直流電圧は、母線MLの正側の母線MLと負側の母線MLとの間に接続された平滑コンデンサ(コンデンサ)C1、により平滑化される。
【0024】
平滑化された母線ML、MLに供給されている直流電圧は、正側の母線MLと負側の母線MLとの間に接続された半導体スイッチング素子TR~TRにより構成されるインバータに供給され、母線ML、MLに供給された直流を逆変換した交流によりモータ1が駆動される。
【0025】
モータ制御装置Cont2は、正側の母線MLと負側の母線MLからなる母線MLと、平滑コンデンサ(コンデンサ)Cと、半導体スイッチング素子TR~TR12により構成されるインバータと、絶縁抵抗算出部3とから構成される。
【0026】
モータ制御装置Cont2は、モータ制御装置Cont1とともに整流回路Sからの直流電圧が供給され、半導体スイッチング素子TR~TR12により構成されるインバータにより母線MLに供給された直流を交流に逆変換してモータ2を駆動するように構成されている。
【0027】
モータ制御装置Cont1、Cont2の負側母線MLは、ノイズ対策のため、それぞれ接地コンデンサC、Cを介して接地されている。
【0028】
ここでは、さらに、負側母線MLに、接地スイッチである第2スイッチSWが設けられている。
【0029】
この態様は、モータ1とモータ2がそれぞれ別の軸を駆動するように構成された2軸駆動に適用される構成を示している。
【0030】
モータ制御装置1の絶縁抵抗算出部3は、母線MLのうちの負側母線MLとアースEの間に設けられた直流電源(第2電源部)Sと、スイッチSW(第3スイッチ)と、負側母線MLとモータ1の巻線Lに接続された電流検出抵抗Rと、電流検出抵抗Rの電圧から電流を検出するとともに、絶縁抵抗の検出動作を制御し、また、絶縁抵抗値を演算する検出制御部(電流検出部)4とから構成されている。
【0031】
モータ制御装置2の絶縁抵抗算出部3は、母線MLのうちの負側母線MLとモータ2の巻線Lに接続された電流検出抵抗R、電流検出抵抗Rの電圧から電流を検出し、また、絶縁抵抗値を演算する検出制御部(電流検出部)4から構成されている。
【0032】
電流検出抵抗R、Rはそれぞれの軸のモータ1、2のU相、V相、W相の各相のうちの1相の巻線Lのみに接続すればよく、モータ1、2の巻線Lの抵抗は非常に小さいため、いずれの相でも検出が可能である。
【0033】
直流電源Sは、平滑コンデンサC1、の電圧より低い電圧の範囲で、できるだけ高い電圧の電源を、アースE側の電位が負側母線MLより高い状態になるようにして用いる。また、計測に必要な程度で微小な電流容量の電源を用いている。
【0034】
平滑コンデンサC1、2の電圧より直流電源Sの電圧を低く設定するのは、計測時にモータ1、2の絶縁抵抗Rm1、Rm2からインバータ部の上アーム(正側)の半導体スイッチング素子TR~TR、TR~TRのフリーホイールダイオードDを通して平滑コンデンサC、Cを充電する方向に電流が流れて、絶縁抵抗Rm1、Rm2の検出精度が低下するのを防ぐためである。
【0035】
前記したモータ制御装置Cont1、Cont2の作動について以下説明をする。
【0036】
通常のモータ制御時は、第2、第3のスイッチSW、SWはオフのまま電磁接触器MSをオンとし、インバータにより各軸のモータ制御が行われる。絶縁抵抗検出時は、モータ制御装置Cont1、Cont2を以下のとおり作動させる。
【0037】
全軸のモータ制御動作を停止させ、半導体スイッチング素子TR~TR12をオフにし、電磁接触器MSを遮断する。そして、第3スイッチSWはオフのまま第2スイッチSWをオンにして、所定時間の間に、接地コンデンサC3、の電荷を放電し、負側母線とアース間の電位差を0Vにする。次いで、第2スイッチSWをオフとして、インバータの直流電圧VPNと電流検出抵抗Rの電圧VR1A、電流検出抵抗Rの電圧VR2Aを計測する。
【0038】
接地コンデンサC3、の電圧が0Vになっているため、接地コンデンサC3、からモータ1、2の絶縁抵抗Rm1、Rm2を通して計測回路に電流は流れない。
【0039】
平滑コンデンサC1、の電圧がインバータを構成する半導体スイッチング素子TR~TR12に印加されているので、インバータの直流電圧VPNは、実質的に平滑コンデンサC1、の電圧に等しい。かかる電圧により、半導体スイッチング素子TRからTRに電流が流れ、また、電流検出抵抗Rに電流(第1の電流(値))が流れる。同様に半導体スイッチング素子TRからTR10に電流が流れ、また、電流検出抵抗Rに電流(第1の電流(値))が流れる。
【0040】
正側の半導体スイッチング素子TRからTRへと流れる電流及びTRからTR10へと流れる電流は、半導体スイッチング素子の漏れ電流である。全ての相に同様に漏れ電流が流れるが、電流検出抵抗R、Rが接続されている一相に着目することによりモータの絶縁抵抗を求めることができる。
【0041】
TR、TRの半導体スイッチング素子の等価漏れ抵抗をそれぞれRtr1とし、また、TR、TR10の半導体スイッチング素子の等価漏れ抵抗をそれぞれRtr2とすると以下の式(1)、(2)が成り立つ。
【0042】
(VPN-VR1A)/Rtr1=VR1A/Rtr1+VR1A/R1 ・・・(1)
(VPN-VR2A)/Rtr2=VR2A/Rtr2+VR2A/R・・・(2)
【0043】
次にスイッチSWをオンにして、負側母線MLに対してアースEに直流電源Sの電圧VDCを印加し、電流検出抵抗Rの電圧VR1Bおよび電流検出抵抗Rの電圧VR2Bを計測する。これらの電流検出抵抗R1、と電圧VR1B、R2Bからそこを流れる電流(第2の電流(値))を取得できる。
【0044】
モータ1に絶縁劣化がある場合は、直流電源Sの電圧がモータの絶縁抵抗Rm1を通して半導体スイッチング素子TRに印加され、電流検出抵抗Rと半導体スイッチング素子TRに電流が流れる。
【0045】
同様にモータ2に絶縁劣化がある場合は、直流電源Sの電圧がモータの絶縁抵抗Rm2を通して半導体スイッチング素子TR10に印加され、電流検出抵抗Rと半導体スイッチング素子TR10に電流が流れる。
【0046】
また、平滑コンデンサC1、の電圧、すなわちインバータの直流電圧VPNが半導体スイッチング素子TR1、TRに印加された状態のため、半導体スイッチング素子TRからTRへと電流が流れ、また、電流検出抵抗Rにも電流が流れる。
【0047】
同様に、半導体スイッチング素子TRからTR10へと電流が流れ、また、電流検出抵抗Rにも電流が流れる。
【0048】
これらの半導体スイッチング素子TRからTRへと流れる電流及びTRからTR10へと流れる電流は、これらの半導体スイッチング素子の漏れ電流である。しかし、これら半導体スイッチング素子の漏れ電流は、一般にモータの絶縁抵抗の低下により流れる電流と比較すると小さいので、平滑コンデンサの電圧C1、はほとんど低下しないと想定することができる。
【0049】
この時、以下の式(3)、(4)が成り立つ。
【0050】
(VPN-VR1B)/Rtr1+(VDC-VR1B)/Rm1=VR1B/Rtr1+VR1B/R・・・(3)
(VPN-VR2B)/Rtr2+(VDC-VR2B)/Rm2=VR2B/Rtr2+VR2B/R・・・(4)
【0051】
モータ1の絶縁抵抗Rm1は、前記式(1)と式(3)の連立方程式を解くことにより、以下の式(5)で求めることができる。
【0052】
m1=R(VDC-VR1B)(VPN-2VR1A)/{(VR1B-VR1A)VPN}・・・(5)
【0053】
また、モータ2の絶縁抵抗Rm2は、前記式(2)と式(4)の連立方程式を解くことにより、以下の式(6)で求めることができる。
【0054】
m2=R(VDC-VR2B)(VPN-2VR2A)/{(VR2B-VR2A)VPN}・・・(6)
【0055】
これらの演算は、検出制御部4、4で行われている。なお、電流検出抵抗R、Rの電圧VR1A、R2Aの検出は、それぞれ1回ずつ検出することにより絶縁抵抗値Rm1、Rm2を算出することができることはいうまでもないが、両電圧VR1A、R2Aのいずれか一方又は両方を複数回測定し、測定した電圧の各種平均値を採用しても差し支えない。
【0056】
このような各種平均値を用いた場合には、ノイズ等により生じる異常値の影響を軽減できることのほか、より精度の高い絶縁抵抗値Rm1、Rm2を得ることができる。
【0057】
そして、算出した絶縁抵抗値Rm1、Rm2をユーザ装置に情報として伝達する。絶縁抵抗値Rm1、Rm2の伝達は、いかなる手段に依っても良く、有線送信でも、無線送信でも差し支えない。
【0058】
絶縁抵抗値Rm1、Rm2を知得したユーザは、かかる絶縁抵抗値が低い場合に絶縁抵抗の劣化が生じていると判断し、モータを交換するなど、予め、モータが地絡してシステムダウンすることを予測し、そのような不都合の発生を防止することができる。
【0059】
絶縁抵抗が劣化しているか否かの判断は、実験や経験的に知られている値と比較することや、正常製品を用いて最初にモータ制御装置を設置した時に測定し、記録又は記憶させた初期値と比較することや、安全基準その他の設定値と比較することなど、適宜の判断手段を用いることができる。
【0060】
モータ1、2の絶縁抵抗Rm1、Rm2が非常に小さく、半導体スイッチング素子TR~TR12の負側の半導体スイッチング素子TR~TR6、TR10~TR12が短絡破損しているような場合は、直流電源Sからモータ1、2の絶縁劣化部を通して負側の半導体スイッチング素子TR~TR6、TR10~TR12に電流が流れるが、直流電源Sの電流容量は、平滑コンデンサC1、と比較すると非常に小さくすることができるため、流れる電流を僅かなものにとどめることができる。
【0061】
したがって、負側の半導体スイッチング素子TR~TR6、TR10~TR12の2次破損や、さらなるモータ1、2の絶縁劣化を生じさせるおそれはない。
【0062】
前記態様では、2つのモータ1、2を使用する2軸のモータ制御装置における本発明の態様について説明したが、1軸あるいは3軸以上の場合においても、同様に本発明を適用することが可能である。前記態様がそうであるように、3軸以上の場合であっても、直流電源Sは1軸にのみに設ければ足りる。
【0063】
前記態様では、第1電源部として三相交流電源Sを用いているが、第1電源部としては、三相交流電源ではなく、単相交流電源を用いても良い。また、前記態様では、直流供給部として整流回路を用いているが、PWMコンバータなどの電源に回生できる回路でも良い。その場合には、PWMコンバータを停止させて計測する。
【0064】
また、第1電源部として、交流電源の代わりにバッテリなどの直流電源を用いても良い。また、電磁接触器を用いなくとも良く、スイッチを用いても良い。また、バッテリを装着するとそのことによりバッテリからモータ制御装置に電力が供給される場合には、バッテリ装着時に電気的に接続される接点や端子自体を第1スイッチとみなし得る。
【0065】
さらに、前記態様では、モータ制御装置Cont1、Cont2として、半導体スイッチング素子からなる三相インバータを用いているが、単相モータを駆動する場合には単相インバータを用いても良い。なお、インバータ方式は、前記態様のものに限定されるものではなく、フルブリッジであってもハーフブリッジであっても良い。
【0066】
加えて、前記態様では、半導体スイッチング素子TR~TR12のゲートドライブ電源は、通常の絶縁電源(図示せず)を用いているが、必要に応じて、ブートストラップ電源、高耐圧IC、その他各種電源の組み合わせなど、任意のゲートドライブ電源を選択し得る。
【0067】
次に、図2に本発明の第2の態様を示す。
【0068】
図2に示す第2スイッチSWは、開閉スイッチではなく、直流母線MLに通じる接点aと、第2電源S2に通じる接点bとのいずれか一方にのみ接触する選択スイッチとして構成されている。
【0069】
この場合のモータ制御装置Cont1、Cont2の作動について以下説明をする。
【0070】
通常のモータ制御時は、前記本発明の第1の態様と同じ計測が可能となるように、第2スイッチSWは接点bと接続されていない状態とされ(中立状態であっても、接点aと接続された状態であっても良い。)、第3スイッチSWはオフのまま、電磁接触器MSをオンとし、インバータにより各軸のモータ制御が行われる。その際、第2スイッチSWは接点bと接続されていない状態のままである。
【0071】
絶縁抵抗検出時は、モータ制御装置Cont1、Cont2を以下のとおり作動させる。
【0072】
全軸のモータ制御動作を停止させ、半導体スイッチング素子TR~TR12をオフにし、電磁接触器MSを遮断する。そして、第2スイッチSWが負側母線MLに通じる接点aを選択している状態として、第3スイッチSWをオフからオンに切り替えて接地回路を構成する。次いで、所定時間後に、第3スイッチSWをオンからオフに切り替えて接地回路を遮断して、インバータの直流電圧VPNと電流検出抵抗Rの電圧VR1A、電流検出抵抗Rの電圧VR2Aを計測する。
【0073】
次に第2スイッチSWを第2電源部Sに通じる接点bを選択している状態とし、第3スイッチSWをオフからオンに切り替えて接地回路を構成する。次いで、負側母線MLに対してアースEに直流電源Sの電圧VDCを印加し、電流検出抵抗Rの電圧VR1Bおよび電流検出抵抗Rの電圧VR2Bを計測する。これらの電流検出抵抗R1、と電圧VR1B、R2Bからそこを流れる電流(第2の電流(値))を取得できる。
【0074】
その余の動作やモータ1、2の絶縁抵抗Rm1、Rm2の測定・算出方法は、前記本発明の第1の態様と同じである。
【0075】
前記本発明の第1の態様と第2の態様とは、第2スイッチと第3スイッチの構成が異なっているが、要は、モータ1、2の絶縁抵抗Rm1、Rm2を測定する際に、接地コンデンサC3、に蓄積した電荷を放電させてから、直流電圧Sの印加による電流検出を行えるようにするため、第2、第3スイッチと同じ技術的意義を有するスイッチである限り、どのような構成のスイッチであっても差し支えない。
【0076】
以上、本発明の態様について縷々説明したが、本発明の技術的範囲は、これまでの説明において具体的に明示したものに限られるものではなく、特許請求の範囲に記載された事項によって包含される態様はすべて含まれるものである。また、個々の用語や説明は、その技術的範囲を限定するものとして解釈されるものではない。
【符号の説明】
【0077】
モータ 1、2
アース E
絶縁抵抗 Rm1、Rm2
モータ制御装置1 Cont1
モータ制御装置2 Cont2
三相交流電源(第1電源部) S
電磁接触器(第1スイッチ) MS
整流回路(直流供給部) SDC
母線 ML
正側母線 ML
負側母線 ML
平滑コンデンサ(コンデンサ) C(C、C
接地コンデンサ C、C
インバータの直流電圧 VPN
半導体スイッチング素子 TR~TR12
半導体スイッチング素子の等価漏れ抵抗 Rtr1、Rtr2
フリーホイールダイオード D
絶縁抵抗算出部 3(3、3
直流電源(第2電源部) S
直流電源の電圧 VDC
スイッチ(第2スイッチ) SW
検出制御部(電流検出部) 4(4、4
電流検出抵抗 R、R
電流検出抵抗R1の電圧 VR1A
電流検出抵抗R2の電圧 VR2A
スイッチ(第3スイッチ) SW
図1
図2