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特許7316197偏光フィルムの製造方法、偏光フィルムの製造装置及び制御システム
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  • 特許-偏光フィルムの製造方法、偏光フィルムの製造装置及び制御システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】偏光フィルムの製造方法、偏光フィルムの製造装置及び制御システム
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20230720BHJP
   B29C 55/04 20060101ALI20230720BHJP
   B29C 55/06 20060101ALI20230720BHJP
   B65H 23/26 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
G02B5/30
B29C55/04
B29C55/06
B65H23/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019208896
(22)【出願日】2019-11-19
(65)【公開番号】P2021081583
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 達也
(72)【発明者】
【氏名】池田 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】岡本 幸一
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-132313(JP,A)
【文献】特開2013-120256(JP,A)
【文献】特開2011-138070(JP,A)
【文献】特開2012-027459(JP,A)
【文献】特開2011-215216(JP,A)
【文献】特開2019-1609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B29C 55/04
B29C 55/06
B65H 23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原反フィルムを処理槽において二色性物質で染色すると共に一軸延伸した後、オーブンで乾燥させて偏光子を作製し、貼り合わせロールで前記偏光子と保護フィルムとを貼り合わせて偏光フィルムを製造する方法であって、
前記処理槽と前記貼り合わせロールとの間前記偏光子を搬送する第1テンションカットロール、前記処理槽と前記貼り合わせロールとの間に且つ前記第1テンションカットロールの下流側に張力計と、交互に複数配置し、
前記張力計で測定した張力が予め定められた値になるように、前記第1テンションカットロールの周速を制御する第1制御工程を含
前記第1制御工程において、最も下流側に配置された前記張力計及び前記第1テンションカットロールの組み合わせによる周速の制御を実行した後、前記最も下流側に配置された組み合わせよりも上流側に配置された前記張力計及び前記第1テンションカットロールの組み合わせによる周速の制御を上流側に向けて順次実行する、
偏光フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記処理槽の出側に前記第1テンションカットロールを配置すると共に、前記処理槽において前記原反フィルムを搬送する第2テンションカットロールを配置し、
前記第1制御工程を実行した後、前記処理槽の出側に配置された前記第1テンションカットロールの周速を測定し、前記測定した前記第1テンションカットロールの周速と前記第2テンションカットロールの周速との比率が予め定められた値になるように、前記第2テンションカットロールの周速を制御する第2制御工程を含む、
請求項に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記オーブン出側での前記偏光子の水分率が15%以下である、
請求項1又は2に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記オーブン出側での前記偏光子の厚みが20μm以下である、
請求項1からの何れかに記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項5】
原反フィルムを二色性物質で染色すると共に一軸延伸する処理槽と、前記処理槽で処理された原反フィルムを乾燥させて偏光子を作製するオーブンと、前記偏光子と保護フィルムとを貼り合わせる貼り合わせロールと、前記処理槽と前記貼り合わせロールとの間に配置され、前記偏光子を搬送する第1テンションカットロールと、を備える偏光フィルムの製造装置であって、
前記処理槽と前記貼り合わせロールとの間に且つ前記第1テンションカットロールの下流側に配置された張力計と、
制御装置と、を備え、
前記第1テンションカットロール及び前記張力計は、交互に複数配置され、
前記制御装置は、前記張力計で測定した張力が予め定められた値になるように、前記第1テンションカットロールの周速を制御
前記制御装置は、最も下流側に配置された前記張力計及び前記第1テンションカットロールの組み合わせによる周速の制御を実行した後、前記最も下流側に配置された組み合わせよりも上流側に配置された前記張力計及び前記第1テンションカットロールの組み合わせによる周速の制御を上流側に向けて順次実行する、
偏光フィルムの製造装置。
【請求項6】
前記張力計と、
前記制御装置と、を備える、
請求項に記載の偏光フィルムの製造装置に用いられる制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原反フィルムを処理槽において二色性物質で染色すると共に一軸延伸した後、オーブンで乾燥させて偏光子を作製し、貼り合わせロールで偏光子と保護フィルムとを貼り合わせて偏光フィルムを製造する方法、偏光フィルムを製造する装置及び制御システムに関する。特に、本発明は、オーブン出側での偏光子の水分率が低くても、処理槽と貼り合わせロールとの間における偏光子の搬送を安定化させることが可能な偏光フィルムの製造方法、偏光フィルムの製造装置及び制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置や偏光サングラスなどの構成材料として、偏光子を含む偏光フィルムが使用されている。偏光フィルムは、例えば、ヨウ素などの二色性物質で染色した偏光子と、この偏光子に接着されて偏光子を保護する保護フィルムとから構成されている。
偏光フィルムは、例えば、特許文献1に記載のように、長尺帯状の偏光子の製造から、長尺帯状の保護フィルムを接着して長尺帯状の偏光フィルムを得るまでの一連の工程を1つの製造ライン上で行うロールツーロール方式で製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-341515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図3は、従来のロールツーロール方式の偏光フィルムの製造方法で用いられる製造装置及び制御システムの概略構成例を模式的に示す図である。図3に示す実線で示す矢符は、各フィルムの搬送方向を意味する。
図3に示すように、従来の偏光フィルムの製造方法では、まず、繰出ロール1に巻回された原反フィルムF0を繰り出し、処理槽2(例えば、原反フィルムF0の搬送方向上流側から順に、膨潤処理槽、染色処理槽、架橋処理槽、延伸処理槽、洗浄処理槽から構成される)内の処理浴に浸漬して、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質で染色すると共に一軸延伸する。次いで、オーブン3で乾燥させることで、偏光子F1を得る。次いで、例えば、偏光子F1の両面に塗工機6で活性エネルギー線硬化型接着剤を塗工する。また、例えば、繰出ロール(図示省略)から繰り出された保護フィルムF2の片面に塗工機(図示省略)で活性エネルギー線硬化型接着剤を塗工する。そして、貼り合わせロール7によって、接着剤が塗工された保護フィルムF2を、接着剤が塗工された偏光子F1の両面に貼り合わせる。その後、図示を全て省略するが、活性エネルギー線照射装置から偏光子F1及び保護フィルムF2間の接着剤に活性エネルギー線を照射して硬化させた後、オーブンで乾燥させ、必要に応じて他のフィルム(表面保護フィルム等)を貼り合わせることで偏光フィルムを製造する。
【0005】
図3に示すように、従来の製造装置は、処理槽2と貼り合わせロール7との間に配置され、偏光子F1(処理槽2で処理された後、オーブン3で乾燥する前の原反フィルムF0を含む)を搬送する第1テンションカットロール20と、処理槽2において原反フィルムF0を搬送する第2テンションカットロール60と、を備えている。図3に示す例では、第1テンションカットロール20として、3つの第1テンションカットロール20a~20cが配置され、第2テンションカットロール60として、5つの第2テンションカットロール60a~60eが配置されている。図3に示す例では、第1テンションカットロール20及び第2テンションカットロール60は、何れもニップロールである。
【0006】
従来の制御システム100Aは、制御装置40と、エンコーダ50と、を備えている。
エンコーダ50は、貼り合わせロール7の回転数を測定し、制御装置40に出力する。制御装置40は、入力された貼り合わせロール7の回転数と、予め記憶された貼り合わせロール7の外径とに基づき、貼り合わせロール7の周速P0’を演算する。そして、制御装置40は、貼り合わせロール7の周速P0’と第1テンションカットロール20の周速との比率が予め定められた値になるように、第1テンションカットロール20の周速を制御(比率一定制御)する。具体的には、第1テンションカットロール20aの周速をP1a、第1テンションカットロール20bの周速をP1b、第1テンションカットロール20cの周速をP1cとすると、制御装置40は、P1a/P0’=α1、P1b/P0’=α2、P1c/P0’=α3(α1、α2、α3は所定の定数)となるように、周速P1a、P1b及びP1cを決定し、各周速P1a~P1cで第1テンションカットロール20a~20cがそれぞれ回転するように、第1テンションカットロール20a~20cの駆動部(図示省略のモータ等)に制御信号を送信する。一般に、貼り合わせロール7は予め決められた一定の周速で回転させるため、第1テンションカットロール20も一定の周速で回転することになる。
なお、図3に示す例では、貼り合わせロール7の回転数を測定した結果に基づき、貼り合わせロール7の周速P0’を演算し、演算した周速P0’に基づき、第1テンションカットロール20の周速を制御しているが、貼り合わせロール7の周速を実際に測定・演算することなく、貼り合わせロール7の周速の設定値又は回転数の設定値に基づき、第1テンションカットロール20の周速を制御する場合もある。
【0007】
また、制御装置40は、貼り合わせロール7の周速P0’と第2テンションカットロール60の周速との比率が予め定められた値になるように、第2テンションカットロール60の周速を制御(比率一定制御)する。具体的には、第2テンションカットロール60aの周速をP2a、第2テンションカットロール60bの周速をP2b、第2テンションカットロール60cの周速をP2c、第2テンションカットロール60dの周速をP2d、第2テンションカットロール60eの周速をP2eとすると、制御装置40は、P2a/P0’=β1、P2b/P0’=β2、P2c/P0’=β3、P2d/P0’=β4、P2e/P0’=β5(β1、β2、β3、β4、β5は所定の定数)となるように、周速P2a、P2b、P2c、P2d及びP2eを決定し、各周速P2a~P2eで第2テンションカットロール60a~60eがそれぞれ回転するように、第2テンションカットロール60a~60eの駆動部(図示省略のモータ等)に制御信号を送信する。前述のように、一般に、貼り合わせロール7は一定の周速で回転するため、第2テンションカットロール60も一定の周速で回転することになる。
第2テンションカットロール60の周速の比率一定制御は、予め決められた所定の延伸倍率で原反フィルムF0を延伸するために必要である。
【0008】
以上に説明した従来の制御システム100Aを用いた偏光フィルムの製造方法では、処理槽2と貼り合わせロール7との間で偏光子F1を搬送する第1テンションカットロール20の周速を比率一定制御で制御しており、搬送される偏光子F1の各位置での設定張力を各比率α1~α3によって決定していることになる。しかしながら、偏光子F1に実際に生じる張力は、偏光子F1の状態によって大きく変動する。偏光子F1に実際に生じる張力が大きく変動すると、偏光子F1の搬送に支障が生じる場合がある。また、過大な張力が生じると、偏光子F1が破断する場合もある。そして、同じ製造条件で偏光フィルムを製造しても、偏光子F1に実際に生じる張力の再現性が良くない。このため、オペレータの手動による各比率α1~α3の微調整が必要となっている。
従来の偏光フィルムの製造方法における偏光子F1の搬送(処理槽2と貼り合わせロール7との間での搬送)方法は、偏光子F1が比較的大きく伸縮可能な場合には支障が生じ難い。すなわち、偏光子F1が大きく伸縮可能であれば、実際の張力が大きく変動しても、偏光子F1が伸縮することで、張力変動の影響が緩和される。
【0009】
しかしながら、近年、水分率の低い偏光子F1(例えば、オーブン3出側での偏光子F1の水分率が15%以下)が製造されるようになってきている。
水分率の低い偏光子F1は殆ど伸縮しないため、従来の偏光フィルムの製造方法では、張力変動の影響が緩和され難く、偏光子F1の搬送に支障が生じたり、偏光子F1が破断するおそれが高まるという問題がある。
【0010】
したがい、本発明は、オーブン出側での偏光子の水分率が低くても、処理槽と貼り合わせロールとの間における偏光子の搬送を安定化させることが可能な偏光フィルムの製造方法、偏光フィルムの製造装置及び制御システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明は、原反フィルムを処理槽において二色性物質で染色すると共に一軸延伸した後、オーブンで乾燥させて偏光子を作製し、貼り合わせロールで前記偏光子と保護フィルムとを貼り合わせて偏光フィルムを製造する方法であって、前記処理槽と前記貼り合わせロールとの間前記偏光子を搬送する第1テンションカットロール、前記処理槽と前記貼り合わせロールとの間に且つ前記第1テンションカットロールの下流側に張力計と、交互に複数配置し、前記張力計で測定した張力が予め定められた値になるように、前記第1テンションカットロールの周速を制御する第1制御工程を含前記第1制御工程において、最も下流側に配置された前記張力計及び前記第1テンションカットロールの組み合わせによる周速の制御を実行した後、前記最も下流側に配置された組み合わせよりも上流側に配置された前記張力計及び前記第1テンションカットロールの組み合わせによる周速の制御を上流側に向けて順次実行する、偏光フィルムの製造方法を提供する。
【0012】
本発明における「テンションカットロール」(第1テンションカットロール及び後述の好ましい方法における第2テンションカットロール)は、ロール上でのフィルムの滑りが無く、ロールの上流側と下流側との張力差を制御できるロールを意味し、テンションカットロールとして、例えば、ニップロールやサクションロールを用いることができる。
また、本発明における「下流側」とは、偏光子又は原反フィルムの搬送方向下流側を意味する。
本発明によれば、第1制御工程において、第1テンションカットロールの下流側に配置された張力計で測定した張力が予め定められた値になるように、第1テンションカットロールの周速を制御する(以下、これを適宜「張力一定制御」という)。すなわち、実際に測定した張力が予め定められた値になるように第1テンションカットロールの周速を制御するため、オーブン出側での偏光子の水分率が低くても、偏光子に実際に生じる張力の変動が小さくなり、偏光子の搬送を安定化させることが可能である。
【0014】
本発明において、「上流側」とは、偏光子又は原反フィルムの搬送方向上流側を意味する。また、本発明において、「最も下流側に配置された前記張力計及び前記第1テンションカットロールの組み合わせによる周速の制御」とは、最も下流側に配置された張力計で測定した張力が予め定められた値になるように、最も下流側に配置された第1テンションカットロールの周速を制御することを意味する。また、本発明において、「最も下流側に配置された組み合わせよりも上流側に配置された前記張力計及び前記第1テンションカットロールの組み合わせによる周速の制御」とは、最も下流側に配置された張力計よりも上流側に配置された張力計で測定した張力が予め定められた値になるように、この張力計よりも上流側で且つこの張力計の直近に配置された第1テンションカットロールの周速を制御することを意味する。さらに、本発明において、「上流側に向けて順次実行する」とは、最も下流側に配置された張力計及び第1テンションカットロールの組み合わせによる周速の制御から、最も上流側に配置された張力計及び第1テンションカットロールの組み合わせによる周速の制御までを上流側に向けて順次実行することを意味する。
例えば、第1テンションカットロール及び張力計がそれぞれ3つずつ配置されている場合(下流側から順に、張力計30a、第1テンションカットロール20a、張力計30b、第1テンションカットロール20b、張力計30c、第1テンションカットロール20cが配置されている場合)には、張力計30aで測定した張力が予め定められた値になるように第1テンションカットロール20aの周速を制御した後、張力計30bで測定した張力が予め定められた値になるように第1テンションカットロール20bの周速を制御し、その後、張力計30cで測定した張力が予め定められた値になるように第1テンションカットロール20cの周速を制御することを意味する。
本発明によれば、張力計及び第1テンションカットロールを交互に複数配置する場合に、最も下流側に配置された張力計及び第1テンションカットロールの組み合わせによる周速の制御を実行した後、順次上流側に配置された組み合わせに向けて周速の制御を実行するため、制御が発散することなく、安定した周速の制御が可能である。これにより、張力計及び第1テンションカットロールを交互に複数配置する場合において、偏光子に実際に生じる張力の変動が小さくなり、偏光子の搬送を安定化させることが可能である。
【0015】
好ましくは、前記処理槽の出側に前記第1テンションカットロールを配置すると共に、前記処理槽において前記原反フィルムを搬送する第2テンションカットロールを配置し、前記第1制御工程を実行した後、前記処理槽の出側に配置された前記第1テンションカットロールの周速を測定し、前記測定した前記第1テンションカットロールの周速と前記第2テンションカットロールの周速との比率が予め定められた値になるように、前記第2テンションカットロールの周速を制御する第2制御工程を含む。
【0016】
本発明においては、第1テンションカットロールの周速を張力一定制御で制御するため、処理槽の出側に配置された第1テンションカットロールの周速は、従来のように比率一定制御で制御する場合と異なり、一定ではなく変動する。
上記の好ましい方法によれば、第2制御工程において、基本的には、処理槽の出側に配置された第1テンションカットロールの周速と第2テンションカットロールの周速との比率が予め定められた値になるように、第2テンションカットロールの周速を制御する、すなわち、比率一定制御を実行することになる。しかしながら、比率の基準となる処理槽の出側に配置された第1テンションカットロールの周速として、実際に測定した周速を用いるため、上記のように、処理槽の出側に配置された第1テンションカットロールの周速が変動したとしても、比率一定制御を適切に実行することができ、予め決められた所定の延伸倍率で原反フィルムを延伸することが可能である。
【0017】
本発明は、前記オーブン出側での前記偏光子の水分率が15%以下である場合に、好適に用いられる。すなわち、水分率が低いため、殆ど伸縮しない偏光子に対して好適に用いられる。
なお、「偏光子の水分率」は、オーブンで乾燥した後の偏光子中に含まれる水分の割合を意味する。具体的には、オーブンで乾燥した後の偏光子の重量(乾燥後の偏光子の重量)と、その乾燥後の偏光子から実質的に水分を除去した後の偏光子の重量(完全乾燥後の偏光子の重量)とをそれぞれ測定し、以下の式に各重量を代入して求められる。
偏光子の水分率=(乾燥後の偏光子の重量-完全乾燥後の偏光子の重量)/乾燥後の偏光子の重量×100
【0018】
本発明は、前記オーブン出側での前記偏光子の厚みが20μm以下である場合に、好適に用いられる。すなわち、厚みが薄いため、過大な張力が生じることで破断し易い偏光子に対して好適に用いられる。
【0019】
また、前記課題を解決するため、本発明は、原反フィルムを二色性物質で染色すると共に一軸延伸する処理槽と、前記処理槽で処理された原反フィルムを乾燥させて偏光子を作製するオーブンと、前記偏光子と保護フィルムとを貼り合わせる貼り合わせロールと、前記処理槽と前記貼り合わせロールとの間に配置され、前記偏光子を搬送する第1テンションカットロールと、を備える偏光フィルムの製造装置であって、前記処理槽と前記貼り合わせロールとの間に且つ前記第1テンションカットロールの下流側に配置された張力計と、制御装置と、を備え、前記第1テンションカットロール及び前記張力計は、交互に複数配置され、前記制御装置は、前記張力計で測定した張力が予め定められた値になるように、前記第1テンションカットロールの周速を制御前記制御装置は、最も下流側に配置された前記張力計及び前記第1テンションカットロールの組み合わせによる周速の制御を実行した後、前記最も下流側に配置された組み合わせよりも上流側に配置された前記張力計及び前記第1テンションカットロールの組み合わせによる周速の制御を上流側に向けて順次実行する、偏光フィルムの製造装置としても提供される。
【0020】
さらに、前記課題を解決するため、本発明は、前記張力計と、前記制御装置と、を備える、前記偏光フィルムの製造装置に用いられる制御システムとしても提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、オーブン出側での偏光子の水分率が低くても、処理槽と貼り合わせロールとの間における偏光子の搬送を安定化させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る偏光フィルムの製造方法を適用する偏光フィルムの製造装置の概略構成例を模式的に示す図である。
図2図1に示す偏光フィルムの製造装置のうち、制御システムに関わる部分をより具体的に示す図である。
図3】従来のロールツーロール方式の偏光フィルムの製造方法で用いられる製造装置及び制御システムの概略構成例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る偏光フィルムの製造方法、偏光フィルムの製造装置及び制御システムについて説明する。
なお、本明細書において、「下限値X~上限値Y」で表される数値範囲は、下限値X以上上限値Y以下を意味する。前記数値範囲が別個に複数記載されている場合、任意の下限値と任意の上限値とを選択して、「任意の下限値~任意の上限値」を設定できるものとする。
また、各図は、参考的に表したものであり、各図に表された部材などの寸法、縮尺及び形状は、実際のものとは異なっている場合があることに留意されたい。
さらに、以下の説明では、「偏光フィルムの製造方法」及び「偏光フィルムの製造装置」を、それぞれ単に「製造方法」及び「製造装置」という場合がある。
【0024】
図1は、本実施形態に係る偏光フィルムの製造方法を適用する偏光フィルムの製造装置の概略構成例を模式的に示す図である。図2は、図1に示す偏光フィルムの製造装置のうち、本実施形態に係る制御システムに関わる部分をより具体的に示す図である。図1及び図2に示す矢符は、各フィルムの搬送方向を意味する。
図1又は図2に示すように、本実施形態に係る製造装置は、偏光子F1の製造から少なくとも保護フィルムF2を接着して偏光フィルムFを得るまでの一連の工程を1つの製造ライン上で行うロールツーロール方式の製造装置である。本実施形態に係る製造装置は、原反フィルムF0を二色性物質で染色すると共に一軸延伸する処理槽2と、処理槽2で処理された原反フィルムF0を乾燥させて偏光子F1を作製するオーブン3と、偏光子F1と保護フィルムF2とを貼り合わせる貼り合わせロール7と、処理槽2と貼り合わせロール7との間に配置され、偏光子F1を搬送する第1テンションカットロール20と、を備えている。本実施形態の第1テンションカットロール20は、複数配置されている。具体的には、図2に示すように、第1テンションカットロール20として、下流側(偏光子F1の搬送方向下流側)から順に、3つの第1テンションカットロール20a~20cが配置されている。本実施形態の第1テンションカットロール20は、何れもニップロールである。
ただし、本発明は、これに限るものではなく、2つ又は4つ以上の第1テンションカットロール20が配置されていてもよいし、1つの第1テンションカットロール20が配置されているだけでもよい。また、第1テンションカットロール20がサクションロールなどの他の形式のロールであってもよい。
【0025】
また、本実施形態に係る製造装置は、処理槽2と貼り合わせロール7との間に且つ第1テンションカットロール20の下流側に配置された張力計30を備えている。本実施形態の張力計30は、複数(第1テンションカットロール20と同数)配置されている。具体的には、図2に示すように、張力計30として、下流側から順に、3つの張力計30a~30cが配置されている。これは、第1テンションカットロール20が3つ配置されているからである。より具体的には、3つの張力計30a~30cが、3つの第1テンションカットロール20a~20cと交互に配置されている。すなわち、張力計30aは第1テンションカットロール20aの下流側に配置され、張力計30bは第1テンションカットロール20bの下流側(第1テンションカットロール20aの上流側)に配置され、張力計30cは第1テンションカットロール20cの下流側(第1テンションカットロール20bの上流側)に配置されている。
張力計30としては、例えば、微小変位方式を測定原理とする三菱電機社製の微偏位張力検出器「LX-100TD」を用いることができる。
【0026】
また、本実施形態に係る製造装置は、制御装置40を備えている。制御装置40は、コンピュータやPLC(Programmable Logic Controller)から構成されている。
また、本実施形態に係る製造装置は、処理槽2の出側に配置された第1テンションカットロール20cの回転数を測定するエンコーダ70を備えている。
本実施形態に係る制御システム100は、以上に述べた張力計30、制御装置40及びエンコーダ70を備える構成である。
【0027】
さらに、本実施形態に係る製造装置は、処理槽2において原反フィルムF0を搬送する第2テンションカットロール60を備えている。本実施形態の第2テンションカットロール60は、複数配置されている。具体的には、図2に示すように、第2テンションカットロール60として、上流側(原反フィルムF0の搬送方向上流側)から順に、5つの第2テンションカットロール60a~60eが配置されている。図示の便宜上、図2における処理槽2の構成を簡略化して単一の槽のように図示しているが、実際には、本実施形態の処理槽2は、上流側から順に、膨潤処理槽、染色処理槽、架橋処理槽、延伸処理槽、洗浄処理槽の区画された5つの槽から構成されており、第2テンションカットロール60aは膨潤処理槽の入側に、第2テンションカットロール60bは染色処理槽の入側に、第2テンションカットロール60cは架橋処理槽の入側に、第2テンションカットロール60dは延伸処理槽の入側に、第2テンションカットロール60eは洗浄処理槽の入側に、それぞれ配置されている。本実施形態の第2テンションカットロール60は、何れもニップロールである。
ただし、本発明は、これに限るものではなく、2つ、3つ、4つ又は6つ以上の第2テンションカットロール60が配置されていてもよいし、1つの第2テンションカットロール60が配置されているだけでもよい。また、第2テンションカットロール60がサクションロールなどの他の形式のロールであってもよい。
【0028】
本実施形態に係る製造装置は、以上に説明した構成要素以外に、一般的な偏光フィルムの製造装置が備える従来公知の各種構成要素を備えている。
【0029】
以上に説明した本実施形態に係る製造装置を用いて偏光フィルムFを製造するにあたっては、まず、繰出ロール1に巻回された原反フィルムF0を繰り出し、処理槽2(本実施形態では、原反フィルムF0の搬送方向上流側から順に、膨潤処理槽、染色処理槽、架橋処理槽、延伸処理槽、洗浄処理槽から構成される)内の処理浴に浸漬して、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質で染色すると共に一軸延伸する。次いで、オーブン3で乾燥させることで、偏光子F1を得る。偏光子F1は、特定の1つの方向のみに振動する光(偏光)を透過し、それ以外の方向に振動する光を遮断する性質を有する光学素子である。本実施形態の偏光子F1は、柔軟なフィルム状である。
【0030】
原反フィルムF0は、長尺帯状である。本明細書において、長尺帯状は、長手方向の長さが短手方向(長手方向と直交する方向)の長さよりも十分に大きい長方形状を意味する。長尺帯状の長手方向の長さは、例えば、10m以上であり、好ましくは50m以上である。
原反フィルムF0としては、特に限定されないが、二色性物質による染色性に優れていることから、好ましくは、親水性ポリマーフィルム(例えば、ポリビニルアルコール系フィルムなど)を含むフィルムが用いられ、より好ましくは、親水性ポリマーフィルムが用いられる。親水性ポリマーフィルムを含むフィルムとしては、親水性ポリマーフィルムと非親水性ポリマーフィルムとが積層されたフィルムが挙げられる。この場合、非親水性ポリマーフィルムの表面及び/又は裏面に親水性ポリマーフィルムが積層されていることが好ましい。この場合、非親水性ポリマーフィルムの表面及び/又は裏面に積層される親水性ポリマーフィルムは、厚み数μm程度の薄い膜状であってもよい。
【0031】
親水性ポリマーフィルムとしては、特に限定されず、従来公知のフィルムを使用できる。具体的には、親水性ポリマーフィルムとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系フィルム、これらの部分ケン化フィルムなどが挙げられる。また、これらの他にも、PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物などのポリエン配向フィルム、延伸配向されたポリビニレン系フィルムなども使用できる。これらの中でも、特に二色性物質による染色性に優れることから、PVA系ポリマーフィルムが好ましい。
PVA系ポリマーフィルムの原料ポリマーとしては、例えば、酢酸ビニルを重合した後にケン化したポリマー、酢酸ビニルに対して少量の不飽和カルボン酸や不飽和スルホン酸等の共重合可能なモノマーを共重合したポリマー、などが挙げられる。PVA系ポリマーの重合度は、特に限定されないが、水に対する溶解度の点等から、500~10000が好ましく、より好ましくは、1000~6000である。また、PVA系ポリマーのケン化度は、75モル%以上が好ましく、より好ましくは、98モル%~100モル%である。
未処理の原反フィルムF0の厚みは、特に限定されないが、例えば、15μm~110μmである。
【0032】
本実施形態の処理槽2は、前述のように、原反フィルムF0の搬送方向上流側から順に、膨潤処理槽、染色処理槽、架橋処理槽、延伸処理槽、洗浄処理槽から構成されており、各槽は、例えば、以下に述べる構成を有する。
【0033】
<膨潤処理槽>
膨潤処理槽は、膨潤処理液が収容された処理槽である。膨潤処理液は、原反フィルムF0を膨潤させる。膨潤処理液としては、例えば、水を使用することができる。さらに、水に、グリセリンやヨウ化カリウムなどのヨウ素化合物を適量加えた水を膨潤処理液としてもよい。グリセリンを添加する場合、その濃度は5重量%以下が好ましく、ヨウ化カリウムなどのヨウ素化合物を添加する場合、その濃度は10重量%以下が好ましい。
【0034】
<染色処理槽>
染色処理槽は、染色処理液が収容された処理槽である。染色処理液は、原反フィルムF0を染色する。染色処理液としては、有効成分として二色性物質を含む溶液が挙げられる。二色性物質としては、ヨウ素、有機染料などが挙げられる。好ましくは、染色処理液として、ヨウ素を溶媒に溶解させた溶液を使用できる。溶媒としては、水が一般的に使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒が更に添加されてもよい。染色処理液中のヨウ素の濃度としては、特に限定されないが、0.01重量%~10重量%であることが好ましく、0.02重量%~7重量%の範囲がより好ましく、0.025重量%~5重量%であることがさらに好ましい。染色効率をより一層向上させるために、必要に応じて、染色処理液にヨウ素化合物を添加してもよい。ヨウ素化合物は、分子内にヨウ素とヨウ素以外の元素とを含む化合物であり、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンなどが挙げられる。
【0035】
<架橋処理槽>
架橋処理槽は、架橋処理液が収容された処理槽である。架橋処理液は、染色された原反フィルムF0を架橋する。架橋処理液としては、有効成分としてホウ素化合物を含む溶液を使用できる。例えば、架橋処理液としては、ホウ素化合物を溶媒に溶解させた溶液が使用できる。溶媒としては、水が一般的に使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒が更に添加されてもよい。ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ砂などが挙げられる。架橋処理液中のホウ素化合物の濃度としては、特に限定されないが、1重量%~10重量%であることが好ましく、2重量%~7重量%がより好ましく、2重量%~6重量%であることがさらに好ましい。さらに、均一な光学特性を有する偏光子が得られることから、必要に応じて、架橋処理液にヨウ素化合物を添加してもよい。
【0036】
<延伸処理槽>
延伸処理槽は、延伸処理液が収容された処理槽である。
延伸処理液は、特に限定されないが、例えば、有効成分としてホウ素化合物を含む溶液を使用できる。延伸処理液としては、例えば、ホウ素化合物、及び必要に応じて、各種金属塩、亜鉛化合物などを溶媒に溶解させた溶液が使用できる。溶媒としては、水が一般的に使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒が更に添加されてもよい。延伸処理液中のホウ素化合物の濃度としては、特に限定されないが、1重量%~10重量%であることが好ましく、2重量%~7重量%がより好ましい。フィルムに吸着させたヨウ素の溶出を抑制する観点から、必要に応じて、延伸処理液に、ヨウ素化合物を添加してもよい。
【0037】
<洗浄処理槽>
洗浄処理槽は、洗浄処理液が収容された処理槽である。洗浄処理液は、延伸後の原反フィルムF0を洗浄する。洗浄処理液は、原反フィルムF0に付着した染色処理液や架橋処理液などの処理液を洗浄するための処理液である。洗浄処理液としては、代表的には、イオン交換水、蒸留水、純水などの水が用いられる。
【0038】
オーブン3は、以上に説明した処理槽2を構成する洗浄処理槽の下流側に設けられている。オーブン3は、処理後のフィルムを乾燥するために設けられている。
なお、本実施形態の処理槽2は、膨潤処理槽、染色処理槽、架橋処理槽、延伸処理槽及び洗浄処理槽を有するが、これらのうちの1つ又は2つの処理槽を省略してもよい。他方、処理槽2は、調整処理槽(図示せず)を更に有していてもよい。調整処理槽は、調整処理液が収容された処理槽である。この調整処理槽は、架橋処理槽と延伸処理槽との間、又は、延伸処理槽と洗浄処理槽との間に設けられる。調整処理液は、フィルムの色相調整などのための溶液であり、有効成分としてヨウ素化合物を含む溶液を使用できる。
洗浄後の原反フィルムF0をオーブン3で乾燥させて得られるフィルムが、偏光子F1である。
オーブン3出側での偏光子F1の厚みは、特に限定されないが、例えば、20μm以下である場合に、本実施形態に係る製造方法が好適に用いられる。
また、オーブン3出側での偏光子F1の水分率は、特に限定されないが、15%以下である場合に、本実施形態に係る製造方法が好適に用いられる。例えば、オーブン3での乾燥温度が60℃以上で、乾燥時間が30秒以上である場合に、オーブン3出側での偏光子F1の水分率が15%以下になり易い。
【0039】
なお、本発明が好適に用いられる偏光子F1としては、フィルム単層で延伸して得られる偏光子に限るものではなく、基材にPVA系樹脂を塗工した積層フィルムを延伸して得られる偏光子も挙げられる。
上記の偏光子としては、代表的には、特開昭51-069644号公報、特開2000-338329号公報、国際公開第2010/100917号、特開2014-059328号公報、特開2012-73563号公報に記載されている薄型偏光膜を挙げることができる。これら薄型偏光膜は、PVA系樹脂層と延伸用樹脂基材とを積層体の状態で延伸する工程と染色する工程とを含む製法によって得ることができる。この製法であれば、PVA系樹脂層が薄くても、延伸用樹脂基材に支持されていることにより、延伸による破断などの不具合なく延伸することが可能となる。
【0040】
次いで、図1に示すように、偏光子F1の両面に塗工機6で活性エネルギー線硬化型接着剤を塗工する。本実施形態では、塗工機6として、グラビアコータが用いられている。また、繰出ロール5から繰り出された保護フィルムF2の片面に塗工機6で活性エネルギー線硬化型接着剤を塗工する。そして、貼り合わせロール7によって、接着剤が塗工された保護フィルムF2を、接着剤が塗工された偏光子F1の両面に貼り合わせる。
【0041】
塗工機6で塗工する接着剤としては、活性エネルギー線硬化型接着剤が用いられる。
活性エネルギー線硬化型接着剤としては、従来公知のものを使用できる。活性エネルギー線硬化型接着剤は、一般に、活性エネルギー線硬化性成分及び重合開始剤を含み、必要に応じて、各種の添加剤を含む。
活性エネルギー線硬化性成分は、電子線硬化性、紫外線硬化性、可視光線硬化性に大別できる。また、活性エネルギー線硬化性成分は、硬化のメカニズムの観点では、ラジカル重合性化合物とカチオン重合性化合物とに大別できる。
【0042】
ラジカル重合性化合物としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基などの炭素-炭素二重結合のラジカル重合性の官能基を有する化合物が挙げられる。また、単官能ラジカル重合性化合物又は二官能以上の多官能ラジカル重合性化合物のいずれも用いることができる。また、これらラジカル重合性化合物は、1種単独で又は2種以上を併用してもよい。ラジカル重合性化合物としては、(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好ましく、例えば、(メタ)アクリルアミド基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
活性エネルギー線硬化型接着剤としてラジカル重合性化合物を用いる場合の重合開始剤は、活性エネルギー線に応じて適宜に選択される。紫外線又は可視光線により接着剤を硬化させる場合には、紫外線開裂又は可視光線開裂の重合開始剤が用いられる。このような重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、芳香族ケトン化合物、アセトフェノン系化合物、芳香族ケタール系化合物、芳香族スルホニルクロリド系化合物、チオキサントン系化合物などが挙げられる。
【0043】
カチオン重合性化合物としては、分子内にカチオン重合性官能基を1つ有する単官能カチオン重合性化合物、分子内にカチオン重合性官能基を2つ以上有する多官能カチオン重合性化合物などが挙げられる。カチオン重合性官能基としては、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基などが挙げられる。エポキシ基を有するカチオン重合性化合物としては、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物などが挙げられる。オキセタニル基を有するカチオン重合性化合物としては、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、1,4-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]ベンゼン、3-エチル-3-(フェノキシメチル)オキセタンなどが挙げられる。ビニルエーテル基を有するカチオン重合性化合物としては、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテルなどが挙げられる。
活性エネルギー線硬化型接着剤としてカチオン重合性化合物を用いる場合、カチオン重合開始剤が配合される。このカチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、電子線などの活性エネルギー線の照射によって、カチオン種又はルイス酸を発生し、カチオン重合性化合物のエポキシ基などと重合反応を開始する。カチオン重合開始剤としては、光酸発生剤と光塩基発生剤とを使用することができる。
【0044】
本発明においては、380nm~450nmの可視光線を含む光で硬化する活性エネルギー線硬化型接着剤を用いることもできる。この場合、ラジカル重合性化合物と重合開始剤とを含む活性エネルギー線硬化型接着剤を用いることが好ましい。
このような活性エネルギー線硬化型接着剤は、例えば、特開2018-092186号公報に開示されており、本発明の活性エネルギー線硬化型接着剤として、上記公報に記載の活性エネルギー線硬化型接着剤を用いることができる。本明細書においては、紙面の都合上、上記公報の記載を転記することを省略するが、上記公報の接着剤に関する記載を本明細書にそのまま取り込めるものとする。
【0045】
接着剤の塗工厚みは、特に限定されないが、あまりに小さいと、フィルムの接着強度が低下し、あまりに大きいと、偏光フィルムFの厚みが相対的に大きくなりすぎる。かかる観点から、偏光子F1及び保護フィルムF2への接着剤の塗工厚みは、それぞれ独立して、0.1μm~5μmであることが好ましい。
また、塗工開始時の接着剤の粘度は、特に限定されないが、あまりに小さい又は大きいと、塗工開始時から接着剤の接着性の低下を生じる。かかる観点から、接着剤は、塗工開始時の25℃での粘度が1mPa・s~100mPa・sに調整されていることが好ましく、塗工開始時の25℃での粘度が10mPa・s~50mPa・sに調整されていることがより好ましく、15mPa・s~45mPa・sに調整されていることが特に好ましい。
【0046】
保護フィルムF2は、長尺帯状である。また、保護フィルムF2は、偏光子F1よりも親水性が低い(疎水性を有する)フィルムである。保護フィルムF2としては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れるものが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロースやトリアセチルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)などのスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマーなどが挙げられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系又はノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体の如きポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミドなどのアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、又は上記ポリマーのブレンド物なども保護フィルムF2を形成するポリマーの例として挙げられる。保護フィルムF2中には任意の適切な添加剤が1種類以上含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、核剤、帯電防止剤、顔料、着色剤などが挙げられる。保護フィルムF2中の上記熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは50~100重量%、より好ましくは50~99重量%、さらに好ましくは60~98重量%、特に好ましくは70~97重量%である。保護フィルムF2中の上記熱可塑性樹脂の含有量が50重量%以下の場合、熱可塑性樹脂が本来有する高透明性などが十分に発現できないおそれがある。
【0047】
また、保護フィルムF2としては、特開2001-343529号公報に記載のポリマーフィルム、例えば、(A)側鎖に置換及び/又は非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換及び/又は非置換フェニル並びにニトリル基を有する熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物が挙げられる。具体例としては、イソブチレンとN-メチルマレイミドからなる交互共重合体とアクリロニトリル・スチレン共重合体とを含有する樹脂組成物のフィルムが挙げられる。フィルムとしては、樹脂組成物の混合押出品などからなるフィルムを用いることができる。これらのフィルムは位相差が小さく、光弾性係数が小さいため偏光フィルムFの歪みによるムラなどの不具合を解消することができ、また透湿度が小さいため、加湿耐久性に優れる。
【0048】
次いで、図1に示すように、活性エネルギー線照射装置8から偏光子F1及び保護フィルムF2間の接着剤に活性エネルギー線を照射して硬化させた後、オーブン9で乾燥させる。活性エネルギー線は、活性エネルギー線硬化型接着剤の硬化性に応じて適宜選択される。活性エネルギー線としては、電子線、紫外線、可視光線などが挙げられる。最後に、両面に保護フィルムF2が貼り合わせられた偏光子F1の片面に、繰出ロール10から繰り出された長尺帯状の表面保護フィルムF3を貼り合わせロール11によって貼り合わせることで、長尺帯状の偏光フィルムFが得られる。得られた偏光フィルムFは、巻取ロール12で巻き取られる。
【0049】
なお、図1に示す例では、偏光子F1及び保護フィルムF2の双方に活性エネルギー線硬化型接着剤を塗工しているが、偏光子F1の両面にのみ接着剤を塗工することも可能である。この場合、図1に示す計4台の塗工機6のうち、図1の下側(偏光子F1の搬送方向下流側)2台の塗工機6は不要である。また、保護フィルムF2の片面にのみ接着剤を塗工することも可能である。この場合、図1に示す計4台の塗工機6のうち、図1の上側(偏光子F1の搬送方向上流側)2台の塗工機6は不要である。さらに、図1に示す例では、偏光子F1の両面に保護フィルムF2を貼り合わせているため、塗工機6を図1の左右に一対配置し、活性エネルギー線照射装置8を左右に一対配置しているが、偏光子F1の片面にのみ保護フィルムF2を貼り合わせる場合には、塗工機6及び活性エネルギー線照射装置8は、図1の左右何れかに1台配置するだけでよい。
【0050】
以下、本実施形態に係る制御システム100の動作について説明する。
制御システム100が備える制御装置40は、張力計30で測定した張力が予め定められた値になるように、第1テンションカットロール20の周速を制御する(本発明の第1制御工程に相当)。具体的には、偏光フィルムFを製造している間、張力計30は、常に偏光子F1の張力を測定し、制御装置40に出力する。そして、図2に示すように、制御装置40は、最も下流側に配置された張力計30aから入力された張力Taが予め定められた値になるように、第1テンションカットロール20aの周速を制御(張力一定制御)する。具体的には、制御装置40は、入力された張力Taが予め定められ制御装置40に記憶された値よりも小さい場合には、第1テンションカットロール20aの周速が現時点よりも大きい周速P1aとなるように、第1テンションカットロール20aの駆動部(図示省略のモータ等)に制御信号を送信する。逆に、入力された張力Taが予め定められ制御装置40に記憶された値よりも大きい場合には、第1テンションカットロール20aの周速が小さい周速P1aとなるように、第1テンションカットロール20aの駆動部に制御信号を送信する。
【0051】
次いで、制御装置40は、張力計30aよりも上流側に配置された直近の張力計30bから入力された張力Tbが予め定められた値になるように、第1テンションカットロール20bの周速を制御(張力一定制御)する。具体的には、制御装置40は、入力された張力Tbが予め定められ制御装置40に記憶された値よりも小さい場合には、第1テンションカットロール20bの周速が現時点よりも大きい周速P1bとなるように、第1テンションカットロール20bの駆動部(図示省略のモータ等)に制御信号を送信する。逆に、入力された張力Tbが予め定められ制御装置40に記憶された値よりも大きい場合には、第1テンションカットロール20bの周速が小さい周速P1bとなるように、第1テンションカットロール20bの駆動部に制御信号を送信する。
【0052】
最後に、制御装置40は、最も上流側に配置された張力計30cから入力された張力Tcが予め定められた値になるように、処理槽2の出側に配置された第1テンションカットロール20cの周速を制御(張力一定制御)する。具体的には、制御装置40は、入力された張力Tcが予め定められ制御装置40に記憶された値よりも小さい場合には、第1テンションカットロール20cの周速が現時点よりも大きい周速P1cとなるように、第1テンションカットロール20cの駆動部(図示省略のモータ等)に制御信号を送信する。逆に、入力された張力Tcが予め定められ制御装置40に記憶された値よりも大きい場合には、第1テンションカットロール20cの周速が小さい周速P1cとなるように、第1テンションカットロール20cの駆動部に制御信号を送信する。
【0053】
以上のように、本実施形態に係る制御システム100は、第1制御工程において、第1テンションカットロール20の下流側に配置された張力計30で測定した張力が予め定められた値になるように、第1テンションカットロール20の周速を制御する。すなわち、実際に測定した張力が予め定められた値になるように第1テンションカットロール20の周速を制御するため、オーブン3出側での偏光子F1の水分率が低くても、偏光子F1に実際に生じる張力の変動が小さくなり、偏光子F1の搬送を安定化させることが可能である。
また、本実施形態に係る制御システム100は、第1制御工程において、最も下流側に配置された張力計30a及び第1テンションカットロール20aの組み合わせによる周速P1aの制御を実行した後、最も上流側に配置された張力計30c及び第1テンションカットロール20cの組み合わせによる周速P1cの制御まで、順次上流側に配置された組み合わせに向けて周速の制御を実行する。このため、制御が発散することなく、安定した周速の制御が可能である。
【0054】
本実施形態に係る制御システム100は、以上に説明した第1制御工程を実行した後、処理槽2の出側に配置された第1テンションカットロール20cの周速を測定し、測定した第1テンションカットロールの周速P1c’と第2テンションカットロール60の周速との比率が予め定められた値になるように、第2テンションカットロール60の周速を制御する(本発明の第2制御工程に相当)。具体的には、偏光フィルムFを製造している間、エンコーダ70は、常に第1テンションカットロール20cの回転数を測定し、制御装置40に出力する。制御装置40は、入力された第1テンションカットロール20cの回転数と、予め記憶された第1テンションカットロール20cの外径とに基づき、第1テンションカットロール20cの周速P1c’を演算する。そして、図2に示すように、制御装置40は、第1テンションカットロール20cの周速P1c’と第2テンションカットロール60の周速との比率が予め定められた値になるように、第2テンションカットロール60の周速を制御(比率一定制御)する。具体的には、第2テンションカットロール60aの周速をP2a、第2テンションカットロール60bの周速をP2b、第2テンションカットロール60cの周速をP2c、第2テンションカットロール60dの周速をP2d、第2テンションカットロール60eの周速をP2eとすると、制御装置40は、P2a/P1c’=β1、P2b/P1c’=β2、P2c/P1c’=β3、P2d/P1c’=β4、P2e/P1c’=β5(β1、β2、β3、β4、β5は所定の定数)となるように、周速P2a、P2b、P2c、P2d及びP2eを決定し、各周速P2a~P2eで第2テンションカットロール60a~60eがそれぞれ回転するように、第2テンションカットロール60a~60eの駆動部(図示省略のモータ等)に制御信号を送信する。
【0055】
本実施形態に係る制御システム100は、第1制御工程において、第1テンションカットロール20cの周速を張力一定制御で制御するため、処理槽2の出側に配置された第1テンションカットロール20cの周速は、従来のように比率一定制御で制御する場合と異なり、一定ではなく変動する。
そして、本実施形態に係る制御システム100は、第2制御工程において、基本的には、処理槽2の出側に配置された第1テンションカットロール20cの測定した周速P1c’と第2テンションカットロール60の周速との比率が予め定められた値になるように、第2テンションカットロール60の周速を制御する、すなわち、比率一定制御を実行することになる。しかしながら、比率の基準となる処理槽2の出側に配置された第1テンションカットロール20cの周速として、実際に測定した周速P1c’を用いるため、上記のように、処理槽2の出側に配置された第1テンションカットロール20cの周速P1c’が変動したとしても、比率一定制御を適切に実行することができ、予め決められた所定の延伸倍率で原反フィルムF0を延伸することが可能である。
【実施例
【0056】
以下、実施例及び比較例を説明し、本発明を更に詳述する。ただし、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0057】
<実施例>
原反フィルムF0として、平均重合度2400、ケン化度99.9モル%の厚み45μmのポリビニルアルコールフィルム(クラレ社製VF-PS-4500)を用い、処理槽2で処理を施した。具体的には、処理槽2において、30℃の温水中に60秒間浸漬し膨潤させた。次いで、ヨウ素/ヨウ化カリウム(重量比=0.5/8)の濃度0.3%の水溶液に浸漬し、3.5倍まで延伸させながらフィルムを染色した。その後、65℃のホウ酸エステル水溶液中で、トータルの延伸倍率が6倍となるように延伸を行った。以上の処理を処理槽2で行った後に、オーブン3で、乾燥温度40℃で3分間乾燥を行い、厚み18μmのPVA系偏光子F1を得た。
【0058】
この偏光子F1のオーブン3出側での水分率を測定したところ14%であった。
偏光子F1の水分率は、次のようにして測定した。
装置稼働から約60分後に、オーブン3から出た直後の偏光子F1の任意の箇所を正方形状に切り取ってサンプル片を得た。切り取ったサンプル片の重量を標準状態下で速やかに測定した。その後、そのサンプル片を加熱オーブンを用いて120℃で2時間、強制乾燥させた後、そのサンプル片の重量を標準状態下で速やかに測定した。なお、この強制乾燥によって、サンプル片に含まれる水分はほぼ無くなっていると考えられる。
強制乾燥前のサンプル片の重量(乾燥後の偏光子F1の重量)と強制乾燥後のサンプル片の重量(完全乾燥後の偏光子F1の重量)とを、以下の式に代入することによって、偏光子F1の水分率を求めた。
偏光子F1の水分率=(乾燥後の偏光子F1の重量-完全乾燥後の偏光子F1の重量)/乾燥後の偏光子F1の重量×100
【0059】
実施例では、図1及び図2に示すように、偏光子F1を搬送する際に、処理槽2と貼り合わせロール7との間で且つ第1テンションカットロール20の下流側に配置された張力計30で測定した張力が予め定められた値になるように、第1テンションカットロール20の周速を制御する張力一定制御を行い、偏光子F1の破断の有無を調査した。また、図2に示す張力計30aで測定した張力の変動を調査した。なお、張力計30b、30cで張力の変動を測定したとしても、その変動量は張力計30aで測定する場合と同程度である。
【0060】
<比較例>
比較例では、偏光子F1を搬送する際に、貼り合わせロール7の周速と、処理槽2と貼り合わせロール7との間に配置された第1テンションカットロール20の周速との比率が予め定められた値になるように、第1テンションカットロール20の周速を制御する比率一定制御を行った点を除き、実施例と同じ条件で、偏光子F1の破断の有無と、張力計30aで測定した張力の変動とを調査した。
【0061】
上記試験の結果を表1に示す。
表1に示すように、比較例では、張力変動が非常に大きく、搬送開始から1時間以内に偏光子F1の破断が生じた。
これに対して、実施例では張力変動が小さく、偏光子F1の破断は生じなかった。
【表1】
【符号の説明】
【0062】
F0・・・原反フィルム
F1・・・偏光子
F2・・・保護フィルム
F・・・偏光フィルム
2・・・処理槽
3・・・オーブン
7・・・貼り合わせロール
20,20a,20b,20c・・・第1テンションカットロール
30,30a,30b,30c・・・張力計
40・・・制御装置
60,60a,60b,60c,60d,60e・・・第2テンションカットロール
70・・・エンコーダ
100・・・制御システム
図1
図2
図3