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特許7316207緩衝器用潤滑油組成物、摩擦調整用添加剤、潤滑油添加剤、緩衝器および緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】緩衝器用潤滑油組成物、摩擦調整用添加剤、潤滑油添加剤、緩衝器および緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 141/10 20060101AFI20230720BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20230720BHJP
   C10M 129/74 20060101ALN20230720BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20230720BHJP
   C10N 40/06 20060101ALN20230720BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20230720BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20230720BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20230720BHJP
【FI】
C10M141/10
F16F9/32 R
C10M129/74
C10M137/10 A
C10N40:06
C10N30:06
C10N30:00 Z
C10N10:04
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019233395
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021102671
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎治
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-203954(JP,A)
【文献】国際公開第2015/025972(WO,A1)
【文献】特開2019-019170(JP,A)
【文献】特開2014-019713(JP,A)
【文献】特開2013-199535(JP,A)
【文献】特許第7264616(JP,B2)
【文献】特許第6895022(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
F16F9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、摩擦調整剤と、を含有し、
前記摩擦調整剤として、ジチオリン酸亜鉛およびペンタエリスリトールエステルを含有するとともに、組成物全体に対して前記ペンタエリスリトールエステルを5重量%以上含有する、緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記摩擦調整剤は、該組成物の摩擦係数を0.02~0.05の範囲内とするための摩擦調整剤を形成したものである、請求項1に記載の緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項3】
前記ジチオリン酸亜鉛は、少なくとも一の炭素数3~5の第二級アルキル基を有する、請求項1または2に記載の緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項4】
前記ジチオリン酸亜鉛は、下記式1で表される第1のジチオリン酸亜鉛である、請求項1ないし3のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
【化1】
[式1中、R11~R14は、アルキル基であって、そのうち1つ以上3つ以下は第一級アルキル基であり、残りは第二級アルキル基である。
【請求項5】
前記ペンタエリスリトールエステルは、ペンタエリスリトールテトラエステルを一番多い割合で含むもの、あるいは、50重量%以上含むものである、請求項1ないし4のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項6】
前記摩擦調整剤は、該組成物の摩擦係数に加えて振幅依存指標が0.3~3.0の範囲内とするための摩擦調整剤を形成したものである、請求項2ないし5のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項7】
ジチオリン酸亜鉛と、ペンタエリスリトールエステルと、を含有し、緩衝器用潤滑油中における前記ペンタエリスリトールエステルの濃度が5重量%以上となるように添加することで、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を0.02~0.05、ならびに、振幅依存指標を0.3~3.0の範囲内とするための緩衝器用潤滑油の摩擦調整用添加剤。
【請求項8】
ジチオリン酸亜鉛と、ペンタエリスリトールエステル添加剤と、を含有する潤滑油添加剤であって、潤滑油中において前記ペンタエリスリトールエステルの濃度が5重量%以上となるように添加することで、潤滑油の微振幅時における摩擦係数を制御するための潤滑油添加剤。
【請求項9】
潤滑油の微振幅時の摩擦係数と通常振幅時の摩擦係数とを略同一に制御するための請求項8に記載の潤滑油添加剤。
【請求項10】
ジチオリン酸亜鉛と、エステル添加剤と、を含有する潤滑油添加剤であって、潤滑油中において前記ペンタエリスリトールエステルの濃度が5重量%以上となるように添加することで、乗り心地性の向上と持続とを両立させるための潤滑油添加剤。
【請求項11】
上記乗り心地性の向上が、緩衝器の振幅に関わらず摩擦力を略同一とすることである、請求項10に記載の潤滑油添加剤。
【請求項12】
請求項1ないし6のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物を用いた緩衝器。
【請求項13】
基油と摩擦調整剤とを含有する緩衝器用潤滑油組成物に、前記摩擦調整剤として、ジチオリン酸亜鉛と、該組成物全体に対して5重量%以上のペンタエリスリトールエステルとを組み合わせて添加することを特徴とする、緩衝器用潤滑油組成物の摩擦係数を0.02~0.05の範囲内に調整する緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
【請求項14】
調整期間が一定期間である、請求項13に記載の緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
【請求項15】
前記ジチオリン酸亜鉛は、少なくとも一の炭素数3~5の第二級アルキル基を有する、請求項13または14に記載の緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
【請求項16】
前記ジチオリン酸亜鉛は、下記式1で表される第1のジチオリン酸亜鉛である、請求項13ないし15のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
【化2】
[式1中、R11~R14は、アルキル基であって、そのうち1つ以上3つ以下は第一級アルキル基であり、残りは第二級アルキル基である。
【請求項17】
前記ペンタエリスリトールエステルは、ペンタエリスリトールテトラエステルを一番多い割合で含むもの、あるいは、50重量%以上含むものである、請求項13ないし16のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
【請求項18】
前記摩擦調整剤として添加するものが、該組成物の摩擦係数に加えて振幅依存指標を0.3~3.0の範囲内とするための摩擦調整剤を形成したものである、請求項14ないし17のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器用潤滑油組成物、摩擦調整用添加剤、潤滑油添加剤、緩衝器および緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、緩衝器の制振力は、バルブで発生する油圧減衰力と、ピストンロッドとオイルシールまたはピストンとシリンダの摺動部で発生する摩擦力とを合わせた力となることが知られている。また、緩衝器の制振力が大きい場合には操作安定性は増すが乗り心地が悪化し、反対に、緩衝器の制振力が小さい場合には操作安定性は悪化するが乗り心地が良好となることが知られている。そのため、近年では、乗り心地性に着目し、緩衝器用潤滑油に添加する摩擦調整剤を調整することで、緩衝器用潤滑油の摩擦力を小さくする研究が行われてきた(たとえば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】ショックアブソーバの技術動向とトライボロジー(中西 博、トライボロジスト 2009年(Vol.54)9号 598頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
緩衝器は往復運動により制振力を発揮するが、油圧減衰力が立ち上がるまでは一定時間がかかる一方、摩擦力は応答性が高いため、静止状態から滑り状態に移行する際や微振幅時には、摩擦力が、緩衝器の制振力の重要なファクターとなる。しかしながら、従来技術では、静止状態から滑り状態に移行する際や微振幅時である場合と、滑り状態や通常振幅時である場合とで摩擦特性が異なることに着目しておらず、従来の緩衝器用潤滑油では、静止状態から滑り状態に移行する際や微振幅時の摩擦力と、滑り状態や通常振幅時の摩擦力とに差が生じ、乗り心地性が低下してしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、操作安定性と乗り心地性とを両立可能な緩衝器用潤滑油組成物、摩擦調整用添加剤、潤滑油添加剤、緩衝器および緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記(1)ないし(6)の緩衝器用潤滑油組成物を要旨とする。
(1)基油と、摩擦調整剤と、を含有し、前記摩擦調整剤として、ジチオリン酸亜鉛およびペンタエリスリトールエステルを含有するとともに、組成物全体に対して前記ペンタエリスリトールエステルを5重量%以上含有する、緩衝器用潤滑油組成物。
(2)前記摩擦調整剤は、該組成物の摩擦係数を0.02~0.05の範囲内とするための摩擦調整剤を形成したものである、上記(1)に記載の緩衝器用潤滑油組成物。
(3)前記ジチオリン酸亜鉛は、少なくとも一の炭素数3~5の第二級アルキル基を有する、上記(1)または(2)に記載の緩衝器用潤滑油組成物。
(4)前記ジチオリン酸亜鉛は、下記式1で表される第1のジチオリン酸亜鉛である、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
【化1】
[式1中、R11~R14は、アルキル基であって、そのうち1つ以上3つ以下は第一級アルキル基であり、残りは第二級アルキル基である。
(5)前記ペンタエリスリトールエステルは、ペンタエリスリトールテトラエステルを一番多い割合で含むもの、あるいは、50重量%以上含むものである、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
(6)前記摩擦調整剤は、該組成物の摩擦係数に加えて振幅依存指標が0.3~3.0の範囲内とするための摩擦調整剤を形成したものである、上記(2)ないし(5)のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
【0007】
本発明は下記(7)の緩衝器用潤滑油の摩擦調整用添加剤を要旨とする。
(7)ジチオリン酸亜鉛と、ペンタエリスリトールエステルと、を含有し、緩衝器用潤滑油中における前記ペンタエリスリトールエステルの濃度が5重量%以上となるように添加することで、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を0.02~0.05、ならびに、振幅依存指標を0.3~3.0の範囲内とするための緩衝器用潤滑油の摩擦調整用添加剤。
【0008】
本発明は下記(8)ないし(11)の潤滑油添加剤を要旨とする。
(8)ジチオリン酸亜鉛と、ペンタエリスリトールエステル添加剤と、を含有する潤滑油添加剤であって、潤滑油中において前記ペンタエリスリトールエステルの濃度が5重量%以上となるように添加することで、潤滑油の微振幅時における摩擦係数を制御するための潤滑油添加剤。
(9)潤滑油の微振幅時の摩擦係数と通常振幅時の摩擦係数とを略同一に制御するための上記(8)に記載の潤滑油添加剤。
(10)ジチオリン酸亜鉛と、エステル添加剤と、を含有する潤滑油添加剤であって、潤滑油中において前記ペンタエリスリトールエステルの濃度が5重量%以上となるように添加することで、乗り心地性の向上と持続とを両立させるための潤滑油添加剤。
(11)上記乗り心地性の向上が、緩衝器の振幅に関わらず摩擦力を略同一とすることである、上記(10)に記載の潤滑油添加剤。
【0009】
本発明は下記(12)の緩衝器を要旨とする。
(12)上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物を用いた緩衝器。
【0010】
また本発明は、下記(13)ないし(18)の緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法を要旨とする。
(13)基油と摩擦調整剤とを含有する緩衝器用潤滑油組成物に、前記摩擦調整剤として、ジチオリン酸亜鉛と、該組成物全体に対して5重量%以上のペンタエリスリトールエステルとを組み合わせて添加することを特徴とする、緩衝器用潤滑油組成物の摩擦係数を0.02~0.05の範囲内に調整する緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
14)調整期間が一定期間である、上記(13)に記載の緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
15)前記ジチオリン酸亜鉛は、少なくとも一の炭素数3~5の第二級アルキル基を有する、上記(13)または(14)に記載の緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
16)前記ジチオリン酸亜鉛は、下記式1で表される第1のジチオリン酸亜鉛である、上記(13)ないし(15)のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
【化2】
[式1中、R11~R14は、アルキル基であって、そのうち1つ以上3つ以下は第一級アルキル基であり、残りは第二級アルキル基である。
17)前記ペンタエリスリトールエステルは、ペンタエリスリトールテトラエステルを一番多い割合で含むもの、あるいは、50重量%以上含むものである、上記(13)ないし(16)のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
18)前記摩擦調整剤として添加するものが、該組成物の摩擦係数に加えて振幅依存指標を0.3~3.0の範囲内とするための摩擦調整剤を形成したものである、上記(14)ないし(17)のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
【発明の効果】
【0011】
操作安定性と乗り心地性とを両立することができる、緩衝器用潤滑油組成物、摩擦調整用添加剤、潤滑油添加剤、緩衝器および緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ZnDTPを添加していない緩衝器用潤滑油の摩擦係数と各種摩擦調整剤の添加量との関係を示すグラフである。
図2】ZnDTPを添加している緩衝器用潤滑油の摩擦係数と各種摩擦調整剤の添加量との関係を示すグラフである。
図3】ZnDTPを添加している緩衝器用潤滑油の摩擦係数と、ペンタエリスリトールの添加量との関係を説明するための図である。
図4】摩擦試験における緩衝器用潤滑油の摩擦係数の変動を示す従来のグラフである。
図5】本実施形態に係る摩擦試験装置の一例を示す図である。
図6】本実施形態に係る摩擦試験装置の試験結果の一例を示す図である。
図7】振幅依存指標を説明するための図である。
図8】緩衝器用潤滑油の振幅依存指標の一例である。
図9】ZnDPTの劣化度合いと、ペンタエリスリトールの添加量との関係を説明するための図である。
図10】本実施形態に係る緩衝器用潤滑油におけるZnDTPとペンタエリスリトールの働きを説明するための図である。
図11】ZnDTPの種類に応じた緩衝器用潤滑油の摩擦特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る緩衝器用潤滑油組成物、摩擦調整用添加剤、潤滑油添加剤、緩衝器および緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法を、図に基づいて説明する。なお、以下の実施形態においては、本発明に係る緩衝器用潤滑油組成物の実施形態として、緩衝器用潤滑油を例示して説明する。
【0014】
本実施形態に係る緩衝器用潤滑油は、(A)基油と、(B)摩擦調整剤としてジチオリン酸亜鉛(以下、ZnDTPともいう。)と、を有し、(B)摩擦調整剤は、(B1)ZnDTPに、(B2)ペンタエリスリトールを組み合わせることを特徴とする。特に、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油では、従来から用いられているZnDTPを添加する場合において、さらに摩擦調整剤としてペンタエリスリトールを添加したときに、乗り心地性および操縦安定性に適した摩擦係数に容易に調整することができるとともに、静止状態から滑り状態に移行する際や微振幅時の摩擦係数と、滑り状態や通常振幅時の摩擦係数との差を小さくすることができ、乗り心地性を向上することができる。また、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油では、ZnDTPに加えて、ペンタエリスリトールを添加することで、ZnDTPの劣化(分解)をペンタエリスリトールで抑制することができるため、長期において持続的に乗り心地性と操縦安定性とを両立可能な緩衝器用潤滑油および緩衝器の摩擦調整用添加剤を提供することができる。
【0015】
(A)基油
本実施形態に係る緩衝器用潤滑油における基油は、鉱油及び/又は合成油である。この鉱油や合成油の種類に特に制限はなく、鉱油としては、例えば、溶剤精製、水添精製などの通常の精製法により得られたパラフィン基系鉱油、中間基系鉱油又はナフテン基系鉱油などが挙げられる。また、合成油としては、例えば、ポリブテン、ポリオレフィン〔α-オレフィン(共)重合体〕、各種のエステル(例えば、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステルなど)、各種のエーテル(例えば、ポリフェニルエーテルなど)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどが挙げられる。 本発明においては、基油として、上記鉱油を一種用いてもよく、二種以上組み合わせて用いてもよい。また、上記合成油を一種用いてもよく、二種以上組み合わせて用いてもよい。更には、鉱油一種以上と合成油一種以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0016】
(B)摩擦調整剤
従来の作動油は、リン系、アミン系、エステル系などの摩擦調整剤の組合せで摩擦調整していた。これら摩擦調整剤の各添加量は配合されている他の添加剤とのバランスで適正添加量が変わり画一的に決められるものではないが、組成物全量に対して0.3~2.0重量%で含有され、通常0.5重量%以下のごく微量が多く、それらを組み合わせて摩擦調整を行っていた。そのため、緩衝器用潤滑油に各種添加剤(摩擦調整剤など)が使われると特性変化が大きく、乗り心地性能だけでなく摩擦上昇による部品の摩擦などの問題があった。
ZnDTPは1930年代から使用されてきており、その効果は経験的に知られているが、作用機構や他の添加剤共存下での挙動は十分に明らかにされておらず、今後の研究が期待されていた。本発明者らは、従来の摩擦調整剤のうち、リン系の摩擦調整剤であるZnDTPを用いると摩擦が大きくなるため、各種添加剤による摩擦調整の範囲が大きくなること、乗り心地性能上もZnDTPを用いると、乗り心地の質感改善する使用経過による摩擦の変化が生じ、乗り心地性能と品質を安定化させることは難しいという問題点を認識した。そうした問題点を解決するために、本発明者らは、乗り心地に適した特定の摩擦特性を持ち、かつ、添加量に対して摩擦特性が飽和する添加剤であるペンタエリスリトールを用いることで、乗り心地性能と耐久性を両立させる手法を発明するに至った。
摩擦調整剤として、従来用いられているジチオリン酸亜鉛にペンタエリスリトールを、潤滑油組成物全体に対して0.2重量%以上含有させる組み合わせである。前記ペンタエリスリトール0.2重量%で摩擦特性が飽和し乗り心地性能は得られるが、耐久性能としては2.0重量%添加することで、耐久性と乗り心地性能を両立させた良好な結果が得られる。
上記の知見に基づいて説明する。
本実施形態に係る緩衝器用潤滑油は摩擦調整剤を含有する。摩擦調整剤は、特に限定されないが、リン系、アミン系、またはエステル系などの種々の減摩剤を含有することができる。減摩剤とは、このような1種又は複数種の材料を含有するあらゆる潤滑剤又は流体によって潤滑される表面の摩擦係数を変えることができる1種又は複数種のあらゆる材料である。減摩剤の添加量を調整することで、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を調整することができる。
また、本実施形態に係る摩擦調整剤は、下記に説明するように、(B1)ジチオリン酸亜鉛と、(B2)ペンタエリスリトールとを含有する。
【0017】
(B1)ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)
ZnDTPは、下記一般式3で表されるものであり、摩擦調整剤による摩擦係数の調整を補助する機能を有する。なお、下記一般式3中のRはそれぞれ個別の炭化水素基を示し、直鎖状の第一級アルキル基、分枝状の第二級アルキル基、またはアリール基が挙げられる。本実施形態において、Rは、特に限定されないが、少なくとも短鎖(炭素数3~5)の第二級アルキル基を1つ以上有することが好ましい。
【化3】
【0018】
また、本実施形態に係るZnDTPは、少なくとも第二級アルキル基を有することが好ましく、第一級アルキル基よりも第二級アルキル基を多く有することが好ましい。なお、本実施形態においては、異なる種類のZnDTPを混合することができるが、この場合、少なくとも二級アルキル基を有するZnDTPを含むことが好ましく、またZnDTP全体として第一級アルキル基よりも第二級アルキル基を多く有することが好ましい。また、アルキル基は長鎖よりも短鎖の方が好ましい。そのため、本実施形態に係るZnDTPは、少なくとも短鎖(炭素数3~5)の第二級アルキル基を有している。ZnDTPのアルキル基の測定方法は、特に限定されないが、たとえばFT-IRの指紋領域を用いてP-O-Cの吸収帯、P=S P-Sの吸収帯の特徴から、アルキル基が第一級アルキル基または第二級アルキル基であるか、短鎖か長鎖であるか測定することができる。
【0019】
図1は、緩衝器用潤滑油の摩擦係数と各摩擦調整剤の添加量との関係を示す図であり、図1はZnDTPを添加していない緩衝器用潤滑油の摩擦係数を、図2はZnDTPを添加している緩衝器用潤滑油の摩擦係数をそれぞれ示している。緩衝器用潤滑油の摩擦係数は小さすぎると操作安定性が悪化し、大きすぎると乗り心地性が悪化するため、0.02~0.05の範囲内に調整することが好ましい。従来から、摩擦調整剤の添加量を調整することで摩擦係数を調整していたが、図1に示すように、ZnDTPを添加しない場合、摩擦調整剤だけで摩擦係数を調整することは困難である。これに対して、図2に示すように、ZnDTPを添加した場合には、摩擦調整剤の添加量に応じて摩擦係数を調整することが容易となり、摩擦係数を目標とする0.02~0.05の範囲内に調整することができる。なお、図1および図2に示す例においては、ゴム試験片を荷重20Nでクロムめっきされた試験片に押し付けながら往復運動させる、往復運動摩擦試験により摩擦係数を測定した。
【0020】
以上説明したとおり、ZnDTPは、特に制限はなく市販品や従来公知の製造方法により得られるものが使用できる。単独であるいは二種以上組み合わせて使用することができる。本発明者らは、作用機構が十分に明らかにされていないZnDTPについて、乗り心地改善に適したZnDTPの構造を研究したところ、第二級炭素鎖C3または第二級炭素鎖C4と第一級炭素鎖C8のケミカルミックス(アルコールを先に混ぜてから製造する手法)が効果を発揮するが、単一構造で製造したものを後で混ぜ合わせるフィジカルミックスでは十分な性能が得られないことを見出し、すでに特許出願(特願2019-085919)を済ませた。
すなわち、本発明のZnDTPとして、下記式1で示すZnDTPをペンタエリスリトールと組み合わせて、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を0.02~0.05の範囲内とするための摩擦調整剤を形成することができる。すなわち、ZnDTPとして好ましい具体例は以下のとおりである。
【化4】
[式1中、R11~R14はアルキル基であり、当該アルキル基は第一級アルキル基および第二級アルキル基を有する。すなわち、R11~R14のうち1つ以上3つ以下は第一級アルキル基であり、R11~R14のうち残りは第二級アルキル基である。]
【0021】
式1のZnDTPにおいて、第一級アルキル基は特に限定されず、たとえばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、イソアミル基、イソブチル基、2-メチルブチル基、2-エチルヘキシル基、2,3-ジメチルブチル基、2-メチルペンチル基などが挙げられるが、第一級アルキル基は炭素数4~12のアルキル基(たとえばイソブチル基(炭素数4)や2-エチルヘキシル基(炭素数8)であることが好ましい。
【0022】
また、式1のZnDTPにおいて、第二級アルキル基は特に限定されず、たとえばイソプロピル基、sec-ブチル基、1-エチルプロピル基、4-メチル-2-ペンチル基などが挙げられるが、第二級アルキル基は炭素数3~6のアルキル基(たとえばイソプロピル基(炭素数3))であることが好ましい。
【0023】
また、式1のZnDTPにおいて、第一級アルキル基と第二級アルキル基の割合は、特に限定されないが、第二級アルキル基に対して、第一級アルキル基の割合が高い方が好ましい。
【0024】
式1のZnDTPの含有量は、特に限定されないが、緩衝器用潤滑油において0.1重量%以上含有することが好ましく、0.25重量%以上含有することがより好ましい。また、式1のZnDTPの含有量は、緩衝器用潤滑油において4.0重量%以下とすることが好ましく、2.0重量%以下とすることがより好ましい。
【0025】
さらに、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油は、摩擦調整剤として、式1のZnDTPとは異なる構造の、式2のZnDTPを有する。式2のZnDTPは、[化5]で表される。
【化5】
[式2中、R21~R24は第二級アルキル基である。すなわち、第一級アルキル基を有さず、第二級アルキル基のみを有する。]
【0026】
式2のZnDTPが有する第二級アルキル基の炭素数は、特に限定されず、たとえばイソプロピル基、sec-ブチル基、1-エチルプロピル基、2-エチルヘキシル基、4-メチル-2-ペンチル基などが挙げられるが、第二級アルキル基として、炭素数3~8のアルキル基(たとえばイソプロピル基(炭素数3)、2-エチルヘキシル基(炭素数8)、または、イソブチル基(炭素数4)など)が好ましい。
【0027】
また、式2のZnDTPの含有量は、特に限定されないが、式1のZnDTPよりも少ない方が好ましく、ZnDTPの添加量(式1のZnDTPおよび式2のZnDTPの合計量)に対して20重量%以下となることが好ましい。
【0028】
なお、ZnDTPがどのようなアルキル基を含有しているかは、公知の測定方法により測定することができる。たとえば、C13-NMRを用いてZnDTPの構造を決定することもできるし、FT-IRの指紋領域を用いてP-O-Cの吸収帯、P=S P-Sの吸収帯の特徴から、アルキル基が第一級アルキル基または第二級アルキル基であるかを分析することでZnDTPの構造を決定することもできる。
【0029】
[摩擦試験1]ZnDTP添加の効果について
図5に示す摩擦試験装置10を用いて、振幅±0.2mm、周波数1.5Hz、20Nおよび30℃でピン試験片4とディスク試験片2とを往復させて、平均摩擦係数を測定した。
また、摩擦試験1では、リン系、アミン系、またはエステル系などの種々の摩擦調整剤を添加した緩衝器用潤滑油について、ZnDTPを1%添加した場合と、ZnDTPを添加していない場合とで、摩擦係数を測定した。図1はZnDTPを添加していない緩衝器用潤滑油の摩擦係数を、図2はZnDTPを添加している緩衝器用潤滑油の摩擦係数をそれぞれ示している。緩衝器用潤滑油の摩擦係数は小さすぎると操作安定性が悪化し、大きすぎると乗り心地性が悪化するため、0.02~0.05の範囲内に調整することが好ましい。従来から、摩擦調整剤の添加量を調整することで摩擦係数を調整していたが、図1に示すように、ZnDTPを添加しない場合、摩擦調整剤だけで摩擦係数を調整することは困難であった。これに対して、図2に示すように、ZnDTPを添加した場合には、摩擦調整剤の添加量に応じて摩擦係数を調整することが容易となり、摩擦係数を目標とする0.02~0.05の範囲内に調整することができた。
【0030】
また、式1のZnDTPを含有する緩衝器用潤滑油では、ZnDTPの添加量が0.1~4.0重量%である場合に、最大摩擦係数/平均摩擦係数の値が1.3以下となり、0.25~2.0重量%である場合には、最大摩擦係数/平均摩擦係数の値が1.22以下とより低くなった。なお、最大摩擦係数/平均摩擦係数の値は1に近いほど、摩擦係数のバラツキが少なく、乗り心地が良いと評価することができる。このことから、本発明に係る、第一級アルキル基および第二級アルキル基を有するZnDTPを含有する緩衝器用潤滑油では、当該ZnDTPの添加量を0.25~2.0重量%とすることで、乗り心地がより向上することが分かった。
【0031】
[摩擦試験2]ZnDTPの構造の効果について
図5に示す摩擦試験装置10を用いて、振幅±0.1mm、周波数5Hz、20Nおよび30℃でピン試験片4とディスク試験片2とを往復させた。
図11に示すように、本発明に係る緩衝器用潤滑油(すなわち、第一級アルキル基および第二級アルキル基を有するZnDTPを含有する緩衝器用潤滑油)である実験例1に加えて、比較実験例1~4についても摩擦係数を測定した。
実験例1:第一級アルキル基および第二級アルキル基を有するZnDTPを含有する緩衝器用潤滑油
比較実験例1:炭素数3,5の第一級アルキル基のみを有するZnDTPを加えた緩衝器用潤滑油の例
比較実験例2:炭素数3,5の第二級アルキル基のみを有するZnDTPを加えた緩衝器用潤滑油の例
比較実験例3:炭素数6,8の第二級アルキル基のみを有するZnDTPを加えた緩衝器用潤滑油の例
比較実験例4:炭素数8の第一級アルキル基のみを有するZnDTPを加えた緩衝器用潤滑油の例
比較実験例5:炭素数3,6の第二級アルキル基のみを有するZnDTPと、炭素数8の第一級アルキル基のみを有するZnDTPとを1:1で混合したものを加えた緩衝器用潤滑油の例
摩耗試験2から、比較実験例1~5では、実験例1と比べて、ZnDTPの添加量が変化すると、最大摩擦係数/平均摩擦係数の値も変動しやすいのに対して、実験例1では、ZnDTPの添加量が変化しても、最大摩擦係数/平均摩擦係数の値が変動しにくいことがわかった。たとえば、実験例1では、ZnDTPの添加量が0.2~4.0重量%の範囲において、最大摩擦係数/平均摩擦係数の値は1.24以下のままとなった。このことから、実験例1に係る第一級アルキル基および第二級アルキル基を有するZnDTPを含有する緩衝器用潤滑油では、長期間の使用によりZnDTPの劣化(分解)が進みZnDTPの含有量が減少した場合も、比較実験例1~5と比べて、乗り心地性が変化しにくいという効果が大きいことが分かった。
【0032】
(B2)ペンタエリスリトール
ペンタエリスリトールは、4価の糖アルコールであり、ポリオールは油溶性または油分散性高分子摩擦調整剤を形成するために用いることが知られている。本発明に係るペンタエリスリトールはエステルの形態で用いることが好ましい。ペンタエリスリトールは、4つ全ての末端置換基が脂肪酸残基とエステル結合したペンタエリスリトールテトラエステルと、いずれかの末端置換基が脂肪酸残基とエステル結合した部分エステルであるペンタエリスリトールモノエステル、ペンタエリスリトールジエステルおよびペンタエリスリトールトリエステルとがあるが、本発明においてはペンタエリスリトールの種類は特に限定されない。
【0033】
本発明者らは、微振幅時において、操作安定性と乗り心地性とを両立することができる緩衝器用潤滑油の提供のために、ペンタエリスリトール成分についても研究を深めたところ、ペンタエリスリトールエステルの脂肪酸残基の炭素数を調整することで、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を調整することができることを見出し、すでに特許出願(特願2019-187393)を済ませた。本発明におけるペンタエリスリトールの緩衝器用潤滑油の機能面での寄与は、(1)従来から用いられているZnDTPを添加する場合において、さらに摩擦調整剤としてペンタエリスリトールを添加したときに、乗り心地性および操縦安定性に適した摩擦係数に容易に調整することができるとともに、静止状態から滑り状態に移行する際や微振幅時の摩擦係数と、滑り状態や通常振幅時の摩擦係数との差を小さくすることができ、乗り心地性を向上することができること、(2)ZnDTPの劣化(分解)をペンタエリスリトールで抑制することができるため、長期において乗り心地性と操縦安定性とを両立可能な緩衝器用潤滑油および緩衝器の摩擦調整用添加剤を提供することができることである。かかるペンタエリスリトールとして、(3)緩衝器用潤滑油の摩擦係数を調整すること、を付加できることとなる。
すなわち、本発明のペンタエリスリトールをZnDTPに組み合わせて、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を0.02~0.05の範囲内とするための摩擦調整剤を形成することができる。すなわち、ペンタエリスリトールとして以下のとおりのものを好ましい具体例として例示できる。
ペンタエリスリトールエステルの脂肪酸残基の炭素数が大きいほど、緩衝器潤滑油の摩擦係数が小さくなる傾向にあり、脂肪酸残基の炭素数が小さいほど、緩衝器用潤滑油の摩擦係数が大きくなる傾向がある。そのため、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を所望の摩擦係数となるように、ペンタエリスリトールエステルが有する脂肪酸残基の炭素数に着目して、ペンタエリスリトールエステルを選択することができる。また、異なる炭素数の脂肪酸残基を有する複数のペンタエリスリトールエステルを組み合わせて、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を調整することもできる。たとえば、炭素数の小さい脂肪酸残基を有するペンタエリスリトールエステルと、炭素数の大きい脂肪酸残基を有するペンタエリスリトールテトラエステルとの配合量を調整することで、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を調整することもできる。
脂肪酸残基は、特に限定されず、たとえば、ステアリン酸残基やオレイン酸残基などのC6~C22の脂肪酸残基とすることができる。また、脂肪酸残基として、カプリル酸、カプリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、アジピン酸、ペラルゴン酸、トール脂肪酸、ヤシ脂肪酸、ココナツ脂肪酸、牛脂脂肪酸を例示することもできる。
【0034】
また、ペンタエリスリトールエステルは、主にペンタエリスリトールテトラエステルであることが好ましい。すなわち、ペンタエリスリトールモノエステル、ジエステル、トリエステルおよびテトラエステルの中で、テトラエステルの割合が最も多いもの、あるいは、テトラエステルを50%以上含むものが好ましい。
【0035】
摩擦調整剤にペンタエリスリトールを含有させる効果について説明する。
【0036】
(ペンタエリスリトールの添加量と摩擦係数との関係)
図3は、ZnDTPを添加した緩衝器用潤滑油の摩擦係数と、ペンタエリスリトールの添加量との関係を示すグラフである。図3に示すように、ペンタエリスリトールの添加量が0.2重量%以上の場合、ZnDTPを添加した緩衝器用潤滑油の摩擦係数は変動せずに0.02~0.05の範囲内に収まる。このように、ペンタエリスリトールの添加量が0.2重量%以上では、緩衝器用潤滑油の摩擦係数に影響しないため、本実施形態では、ペンタエリスリトールを0.2重量%以上、より好ましくは1重量%以上含有する。また、ペンタエリスリトールを、3重量%よりも多く含有する構成とすることもできるし、5重量%以上含有する構成とすることもできる。
【実施例
【0037】
(ZnDTPの摩擦調整特性)
まず、(a)ZnDTPおよびペンタエリスリトールを添加してない基油(緩衝器用潤滑油)と、(b)主に長鎖(炭素数8~12)の第一級アルキル基を有するZnDTPを(a)の基油に添加した緩衝器用潤滑油と、(c)主に短鎖(炭素数3~5)の第二級アルキル基を有するZnDTPを(a)の基油に添加した緩衝器用潤滑油の3つについて、振幅依存指標を算出した。
【0038】
ここで、振幅依存指標とは、本発明で新たに採用した乗り心地を評価するための目じるしとなるものであり、同一の周波数での「微振幅時の摩擦係数/通常振幅時の摩擦係数」で表され、下記に説明する摩擦試験の結果から算出される指標である。なお、上記「微振幅時の摩擦係数」とは±1.0mm以下の振幅時の摩擦係数であり、「通常振幅時の摩擦係数」とは±1.0mmよりも大きい振幅時の摩擦係数をいう。ただし、微振幅時と通常振幅時を両方とも±1.0mmに近付けてしまうと、振幅依存指標の値は1に近付き緩衝器用潤滑油の摩擦特性を適切に評価することができない場合があるため、「微振幅時の摩擦係数」は±0.2mm以下の振幅における摩擦係数が好ましく、また、「通常振幅時の摩擦係数」は±2.0mm以上の振幅における摩擦係数が好ましい。なお、「微振幅時の摩擦係数」および「通常振幅時の摩擦係数」は、所定時間内における摩擦係数の平均値でもよいし最大値でもよい。振幅依存指標は、1に近い値ほど、微振幅時の摩擦係数と通常振幅時との摩擦係数の差が小さく、乗り心地が良いと評価することができ、0.3~3.0の範囲内であることが好ましく、0.5~2.0の範囲内であることがより好ましい。
【0039】
[摩擦係数の測定]
従来、緩衝器用潤滑油の摩擦力は、図4に示すように、緩衝器の往復運動において静摩擦と動摩擦とを繰り返すため、従来の摩擦試験の結果では、静摩擦から動摩擦に移行する瞬間の摩擦係数の平均値を緩衝器用潤滑油の摩擦係数として算出していた。なお、図4において、実線は摩擦係数を示し、破線はピン試験片とディスク試験片との変動量を示す。これに対して、本発明では、図5に示す摩擦試験装置10を製作し、当該摩擦試験装置10を用いて、以下に説明するように、摩擦係数を測定した。
【0040】
[摩擦試験装置10]
図5に示す摩擦試験装置10は、ピン・オン・ディスク型の摩擦試験装置であり、スライドベアリング1上に固定したディスク試験片2を電磁加振機3により往復運動させ、これにピン試験片4を押し当てて摺動させて生じた摩擦力を、ピン試験片4の固定軸5に取り付けたひずみゲージ6を用いて計測する。また、緩衝器の摩擦特性に影響する要素として緩衝器用潤滑油とオイルシールとの組み合わせがあるため、図5に示す摩擦試験装置10では、緩衝器においてオイルシールとして使用されるアクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)をピン試験片4に用い、オイルリップ形状を模してピン試験片4の先端を140°の角度となるようにカットした。また、ディスク試験片2には、ピストンロッド表面に使用する硬質クロムめっき膜を用い、研磨仕上げを施して表面粗さをRa0.01μm以下とした。なお、本実施例では、NBRのピン試験片4とクロムめっきされたディスク試験片2との間の摩擦力(摩擦係数)を測定しているが、銅ボールとクロムめっきされたディスク試験片2との間の摩擦力(摩擦係数)を測定してもよい。
【0041】
[摩擦試験3]
また、図5に示す摩擦試験装置10を用いた摩擦試験3では、振幅±0.1mm,±0.2mm,±0.5mm,±1.0mm,±2.0mmとして、それぞれ周波数50Hzで往復させた。これは、それぞれ異なる速度で摩擦試験を行うことを意味する。
[摩擦試験3の結果]
図6に、本実施例による摩擦試験3の結果を例示する。なお、図6に示す摩耗試験の結果は、銅ボールとクロムめっきされたディスク試験片2との間の摩擦力(摩擦係数)を測定したものである。
ZnDTPを添加していない(a)の緩衝器用潤滑油では、振幅±1.0mm,±2.0mmなどの通常振幅(高速度)における摩擦係数と比べて、振幅±0.1mm,±0.2mmなどの微振幅(低速度)における摩擦係数が高くなっている。
一方、主に長鎖(炭素数8~12)の一級アルキル基を有するZnDTPを添加した(b)の緩衝器用潤滑油では、(a)の緩衝器用潤滑油と比べて、微振幅(低速度)における摩擦係数と通常振幅(高速度)における摩擦係数との差は小さくなっている。
さらに、主に短鎖(炭素数3~5)の二級アルキル基を有するZnDTPを添加した(c)の緩衝器用潤滑油では、(a)および(b)の緩衝器用潤滑油に比べて、微振幅(低速度)における摩擦係数と通常振幅(高速度)における摩擦係数との差はさらに小さくなっている。
【0042】
[ZnDTPによる乗り心地性向上効果]
上記摩擦試験3の結果が示すこうした特性を数値化するために、図7に示すように、同一の周波数(図5図7に示す例では50Hz)での「微振幅時の摩擦係数/通常振幅時の摩擦係数」を振幅依存指標として特定した。具体的には、図7に示す例においては、「微振幅時の±0.1mmの摩擦係数/通常振幅時の±2.0mmの摩擦係数」を振幅依存指標として特定した。振幅依存指標は、1に近いほど、速度に応じた摩擦係数の変動が少なく、その分、乗り心地性が高いと判断できる指標となる。なお、図7に示すグラフでは摩擦力を縦軸としているが、振幅依存指標を求める際には、同一の荷重(N)で摩擦試験を行うことを前提としており、当該試験結果で得られた「微振幅時の摩擦力/通常振幅時の摩擦力」を振幅依存指標として算出することもできる。すなわち、本発明において「微振幅時の摩擦係数/通常振幅時の摩擦係数」を振幅依存指標として算出することは、同一の荷重で微振幅時の摩擦力および通常振幅時の摩擦力を測定し、測定した「微振幅時の摩擦力/通常振幅時の摩擦力」を振幅依存指標として算出することを含むものである。
【0043】
上記(a)~(c)の緩衝器用潤滑油の振幅依存指標を図8に示す。
図8に示すように、(a)の緩衝器用潤滑油の振幅依存指標は3.5と最も1から外れた値となり、(b)の緩衝器用潤滑油の振幅依存指標は2.48と2番目に1に近い値となり、(c)の緩衝器用潤滑油の振幅依存指標は1.1と1に最も近い値となっている。
このことから、ZnDTPを添加した緩衝器用潤滑油では、ZnDTPを添加していない緩衝器用潤滑油と比べて、振幅依存指標が1に近くなり、乗り心地性が向上することがわかる。さらに、同じくZnDTPを添加した場合でも、短鎖(炭素数3~5)の二級アルキル基を有するZnDTPを添加した緩衝器用潤滑油は、長鎖(炭素数8~12)の一級アルキル基を有するZnDTPを添加した緩衝器用潤滑油と比べて、振幅依存指標が1に近い値となり、乗り心地性が向上することがわかった。
【0044】
(ペンタエリスリトールによるZnDTP劣化抑制効果)
さらに研究を深めてゆき、緩衝器用潤滑油に短鎖(炭素数3~5)の第二級アルキル基を有するZnDTPを添加した場合に、ZnDTPが劣化(分解)してしまい、それにより緩衝器用潤滑油の摩擦係数が低下してしまうことがあることを見出した。そして、このようなZnDTPの劣化(分解)を抑制するために、種々の添加剤を試行し、ペンタエリスリトールを添加することで、ZnDTPの劣化(分解)を抑制することができる本発明に至った。
【0045】
ここで、図9は、ZnDTPの劣化(分解)の度合いと、ペンタエリスリトールの添加量との関係を示すグラフである。なお、図9に示す実施例では、ブロックオンリング型の摩擦摩耗試験機であるFALEX-LFW1試験機を用い、摺動部に250mlの潤滑油添加剤を供給し、速度0.6m/s、荷重6581Nで摺動させた後、遠心分離機でスラッジを除去した後に、FT-IRを用いて、ZnDTPの含有量を測定した。図9に示すように、ペンタエリスリトールを添加していない場合、200万回相当の緩衝器の動作においてZnDTPは80%程度劣化(分解)することが分かった。これに対して、ペンタエリスリトールを0.5重量%添加させた場合には200万回相当の緩衝器の動作においてZnDTPの劣化は55%程度まで抑制され、ペンタエリスリトールを1.0重量%添加させた場合には200万回相当の緩衝器の動作においてZnDTPの劣化は25%程度にまで抑制され、ペンタエリスリトールを2.0重量%添加させた場合には200万回相当の緩衝器の動作においてZnDTPの劣化は9%程度にまで抑制された。
【0046】
[考察]
図10(A)は、ZnDTPを添加した緩衝器用潤滑油を説明するための図である。図10(A)に示すように、ZnDTPを添加した緩衝器用潤滑油において、ZnDTPの表面膜は他の添加剤よりも厚く形成することが知られている。また、静止状態から滑り状態に移行する際や微振幅時においては、境界潤滑の摩擦により油温が上昇することで、ZnDTPの反応膜が形成されやすいと考えられる。そのため、静止状態から滑り状態に移行する際や微振幅時の境界潤滑では、図10(B)に示すように、ZnDTPが境界面で働き摩擦力を抑制するものと考えられる。一方、滑り状態や通常振幅時においては、図10(C)に示すように、緩衝器用潤滑油の表面には、ペンタエリスリトールの反応膜が表面に形成されることで、ZnDTPの劣化(分解)を抑制することができると考えられる。
【0047】
以上のように、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油では、(A)基油と、(B)摩擦調整剤とを有し、(B)摩擦調整剤は、(B1)ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)と、(B2)ペンタエリスリトールと、を含有する。特に、本実施例に係る緩衝器用潤滑油では、(B1)ZnDTPを含有することで、摩擦調整剤の添加量を変化させることで、操作安定性と乗り心地性とを両立できる0.02~0.05の摩擦係数に調整しやすくすることができる。また、ZnDTPを添加していない場合、摩擦調整剤が劣化して摩擦調整剤の添加量が少し変わっただけで目標とする摩擦係数から直ぐに外れてしまうが、ZnDTPを添加することで、摩擦調整剤が劣化(分解)して摩擦調整剤の添加量が変化した場合でも、摩擦係数が目標とする摩擦係数から直ぐに外れてしまうことを有効に抑制することができる。
【0048】
また、本実施例に係る緩衝器用潤滑油では、(B1)ZnDTPを含有することで、境界潤滑(摩擦部分の2面間に十分な厚さの潤滑膜が形成できなくなり、摩擦面が部分的に固体接触するようになる状態。)においても、ZnDTPが表面膜を厚く形成することができるため、境界潤滑時においても混合潤滑時や流体潤滑時と同程度の摩擦係数を得ることができ、これにより、乗り心地性を向上することができる。さらに、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油では、(B2)ペンタエリスリトールを含有することで、滑り状態や通常振幅時においては、ペンタエリスリトールの表面膜が形成され、ZnDTPが劣化することを有効に防止することができる。特に、本実施形態では、ペンタエリスリトールの添加量を0.2重量%以上とした場合には、ペンタエリスリトールの添加量に関わらず摩擦係数はほとんど変化しないため、ペンタエリスリトールの添加量を増やすことでZnDTPの劣化(分解)をより長い時間抑制することができる。これにより、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油では、緩衝器の振幅が変化した場合でも、振幅の変化に依らないで乗り心地性を長時間持続させることができる。
【0049】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11