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特許7316239カーボンブラック成形体、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】カーボンブラック成形体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/48 20060101AFI20230720BHJP
   C01B 32/00 20170101ALI20230720BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
C09C1/48
C01B32/00
B01J32/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020037353
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2020152902
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-12-20
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/011437
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】WO
(73)【特許権者】
【識別番号】000156961
【氏名又は名称】関西熱化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寛志
(72)【発明者】
【氏名】塚▲崎▼ 孝規
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-164801(JP,A)
【文献】特開平07-206415(JP,A)
【文献】特開2006-342035(JP,A)
【文献】特開平04-164861(JP,A)
【文献】特開平11-100267(JP,A)
【文献】特開平07-053265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/48
C01B 32/00
B01J 32/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック成形体の細孔径3.6~5000nmの範囲を水銀圧入法で測定し、横軸を細孔径(nm)、縦軸を細孔容積(cm3/g)としたLog微分細孔容積分布において、
細孔容積のピークMは細孔径3.6~500nmの範囲内、
前記ピークMの半値幅は100nm以下、
前記半値幅/面積基準メディアン径は0.7以下、且つ、
細孔径500nmを超える範囲において細孔容積が存在する場合は細孔径1000~5000nmの範囲の前記Log微分細孔容積の最大値と最小値の差が0.18cm/g以下であり、
前記カーボンブラック成形体100質量%に含まれるバインダー量は20質量%以下(0質量%を含む)であるカーボンブラック成形体(但し、石炭灰を含み、質量比で「カーボンブラック/石炭灰」が3.0以下である場合を除く)
【請求項2】
前記Log微分細孔容積分布における細孔容積のピークは細孔径3.6~500nmの範囲に一つである請求項1に記載のカーボンブラック成形体。
【請求項3】
BET比表面積が10~2000m/gである請求項1または2に記載のカーボンブラック成形体。
【請求項4】
カーボンブラックと、必要に応じてバインダーを含み、
前記カーボンブラックとバインダーの合計100質量%に対して前記バインダーが20質量%以下(0質量%を含む)(但し、石炭灰を含み、質量比で「カーボンブラック/石炭灰」が3.0以下である場合を除く)、
である原料を等方性加圧処理することを特徴とするカーボンブラック成形体の製造方法。
【請求項5】
2種類以上のカーボンブラックを混合した後、等方性加圧処理を行うものである請求項4に記載のカーボンブラック成形体の製造方法。
【請求項6】
前記混合は2種類以上のカーボンブラックを解砕、混合する複合化処理である請求項5に記載のカーボンブラック成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンブラック成形体、及びカーボンブラック成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、タイヤなどゴムの補強材、インキやトナーなどの着色材、磁気テープや半導体部品などの導電性部材、紫外線吸収剤などとして各種分野で利用されている。一方でカーボンブラックは発塵性が高く、またかさ密度が低いためハンドリング性や輸送性が悪かった。このような問題を解決する手段として例えば特許文献1にはカーボンブラックを加圧成型して輸送する技術が提案されている。
【0003】
近年、カーボンブラックを用いた新たな材料の研究開発が行われており、例えばカーボンブラックとバインダーとを混合してなる成形体を触媒担体として使用する技術が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-140036号公報
【文献】特表2017-523024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はカーボンブラックを用いた新規な材料を提供することを目的としてなされたものであって、従来とは異なる新規な細孔構造を有するカーボンブラック成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決した本発明は以下の通りである。
【0007】
[1] カーボンブラック成形体の細孔径3.6~5000nmの範囲を水銀圧入法で測定し、横軸を細孔径(nm)、縦軸を細孔容積(cm3/g)としたLog微分細孔容積分布において、
細孔容積のピークMは細孔径3.6~500nmの範囲内、
前記ピークMの半値幅は100nm以下、
前記半値幅/面積基準メディアン径は0.7以下、且つ、
細孔径500nmを超える範囲において細孔容積が存在する場合は細孔径1000~5000nmの範囲の前記Log微分細孔容積の最大値と最小値の差が0.18cm/g以下であるカーボンブラック成形体。
【0008】
[2] 前記Log微分細孔容積分布における細孔容積のピークは細孔径3.6~500nmの範囲に一つである上記[1]に記載のカーボンブラック成形体。
【0009】
[3] BET比表面積が10~2000m/gである上記[1]または[2]に記載のカーボンブラック成形体。
【0010】
[4]カーボンブラックを等方性加圧処理することを特徴とするカーボンブラック成形体の製造方法。
【0011】
[5] 2種類以上のカーボンブラックを混合した後、等方性加圧処理を行うものである上記[4]に記載のカーボンブラック成形体の製造方法。
【0012】
[6] 前記混合は2種類以上のカーボンブラックを解砕、混合する複合化処理である上記[5]に記載のカーボンブラック成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特異な細孔構造を有する新規なカーボンブラック成形体を提供できる。特に本発明のカーボンブラック成形体は従来のカーボンブラックとは異なる細孔構造に起因して従来では吸着できなかった被吸着物に対する吸着性能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は窒素ガス吸着法で測定して得られたLog微分細孔容積分布曲線である。
図2図2は窒素ガス吸着法で測定して得られたLog微分細孔容積分布曲線である。
図3図3は水銀圧入法で測定して得られたLog微分細孔容積分布曲線である。
図4図4は水銀圧入法で測定して得られた一次粒子径と面積基準メディアン径の関係をプロットしたグラフである。
図5図5A図5Bは水銀圧入法で測定して得られた細孔径分布の面積基準メディアン径と半値幅の関係をプロットしたグラフである。
図6図6は水銀圧入法で測定して得られたLog微分細孔容積分布曲線である。
図7図7Aは2種類の原料を単純混合したカーボンブラック成形体のLog微分細孔容積分布曲線(水銀圧入法)、図7Bは2種類の原料を複合化処理したカーボンブラック成形体のLog微分細孔容積分布曲線(水銀圧入法)である。
図8図8はカーボンブラック成形体の水蒸気吸着等温線である。
図9図9は実施例4~6のカーボンブラック成形体を水銀圧入法で測定して得られたLog微分細孔容積分布曲線である。
図10図10は実施例のタンパク質分離試験結果をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
カーボンブラックは数nm~数百nmの球状微粒子(一次粒子)が不規則な鎖状に枝分かれした複雑な凝集構造(アグリゲート:一次凝集体)を有している。更に該一次凝集体同士がvan der waals力や付着などによって凝集し、アグロメート(二次凝集体)を構成することがある。そのため粉末状態のカーボンブラックの細孔径分布を調べると、一次凝集体における一次粒子間の空隙や、一次凝集体間の空隙や二次凝集体間の空隙なども細孔として測定される。これら細孔は不規則に形成されるため、従来のカーボンブラック(成形されていないカーボンブラック粉末、以下同じ)の細孔径は図6(Comp.1)の細孔容積分布曲線に例示すように不均一な分布であった。
【0016】
本発明者らは従来よりも均一な細孔経分布を有するカーボンブラックについて検討した。その結果、カーボンブラックを等方性加圧処理すると均一に圧密化されて均一な粒子間空隙が再成形され、その結果、細孔径分布が従来よりも均一化されたカーボンブラック成形体が得られることを見出し、本発明に至った。
【0017】
本発明のカーボンブラック成形体は、細孔径3.6~5000nmの範囲を水銀圧入法で測定し、横軸を細孔径(直径:nm)、縦軸を細孔容積(cm/g)としたLog微分細孔容積分布(dV/dlog(D))において、以下の条件を満足するものである。
(I)細孔径3.6~500nmの範囲内に細孔容積分布曲線で示される細孔容積のピークMが存在する
(II)ピークMの半値幅は100nm以下である
(III)半値幅/面積基準メディアン径は0.7以下である
(IV)上記細孔容積分布において細孔径500nmを超える細孔径に細孔容積が存在する場合、細孔径1000~5000nmの範囲の前記Log微分細孔容積の最大値と最小値の差が0.18cm/g以下である
【0018】
本発明のカーボンブラック成形体は特異な細孔構造を有するものであり、その特徴を示す指標として水銀圧入法で特定される上記物性を規定している。上記(I)~(III)は本発明のカーボンブラック成形体に特有の物性として細孔分布曲線から特定される所定の範囲に出現するピークMがシャープであり、且つ均一な細孔分布を有することを規定したものである。一方、上記(IV)は主に従来のカーボンブラック成形体と差別化するための指標である。本発明の様に等方性加圧処理した場合はカーボンブラック成形体を水銀圧入法で測定しても細孔構造は再構成され難い。一方、従来のカーボンブラックは未加圧、乃至一軸プレス成形である。そのため水銀圧入法で測定すると、水銀の圧入によって細孔が加圧されて細孔構造が再構成され、測定前後でカーボンブラック成形体の細孔構造が変化する。つまり、従来の未加圧や一軸プレスのカーボンブラック成形体は、そのままの状態では図1(Comp.1、2)に示す様に本発明のカーボンブラック成形体とはピークの位置が重ならず細孔構造が異なっている。しかしながら水銀圧入法で測定すると図6に示す様にピーク位置が変動して上記(I)~(III)を満足し得る。このように測定時の加圧によって細孔構造が変化する従来のカーボンブラック成形体と区別する更なる指標として(IV)を規定した。この点に関する詳細は以下の通りである。
【0019】
水銀圧入法では測定時にカーボンブラック粒子間の空隙に水銀が圧入される。その際、従来の未加圧のカーボンブラックなどのように圧密化されていない材料(Comp.1)では水銀の圧入によって該空隙が再構成されて図6に示すように実質的に本発明のカーボンブラック成形体(Ex.4)と略同一の分布のピークM1を有する細孔容積分布曲線を示すようになる。このように従来のカーボンブラックを水銀圧入法で測定した場合、測定時の水銀の圧入によって空隙には等方性加圧処理した場合と同様の圧力がかかるため、分布のピークだけに着目すると本発明のカーボンブラック成形体と従来のカーボンブラックとの区別が困難となることがある。しかしながら従来のカーボンブラックには細孔径が比較的大きい空隙、例えば分布のピークよりも細孔径が大きい空隙が多数存在している。そのため細孔容積分布曲線は分布のピークよりも細孔径の小さい側と比べて、分布のピークよりも細孔径が大きい側の方が縦軸の値が極めて大きくなる傾向を示す。一方、本発明のカーボンブラック成形体は従来よりも均一化された細孔径を有するため、分布のピークよりも細孔径が大きくなる程、大きな細孔径は減少する傾向を示す。
【0020】
図6に示すように一軸加圧して得られたカーボンブラック成形体(以下、一軸加圧カーボンブラック成形体という)の細孔容積分布曲線(図6中、Comp.2)も従来のカーボンブラックと同様の傾向を示す。すなわち、一軸加圧処理は一方向からのみ加圧して成形するため得られたカーボンブラック成形体の細孔は他方からの加圧が十分にされておらず不均一な細孔が形成される。そのため窒素ガス吸着法で測定した図1(Comp.2)に示す細孔容積分布曲線を有する一軸加圧カーボンブラック成形体を水銀圧入法で測定すると水銀の圧入によって等方性加圧処理と同様に圧密化されて実質的に本発明のカーボンブラック成形体と略同一の分布のピークM1を有する細孔容積分曲線を示すようになる(図6)。一方、一軸加圧カーボンブラック成形体は細孔の不均一な形成に起因して図6に示すように細孔容積分布曲線は分布のピークM1よりも細孔径が大きい側に多くの空隙(細孔)が存在していることが確認できる(例えばピークM2近辺)。
したがって水銀圧入法で測定した際の上記変動を考慮して本発明のカーボンブラック成形体を従来のカーボンブラック成形体と区別し得る指標として(IV)を規定した。
【0021】
以下、上記(I)~(IV)について説明する。
【0022】
(I)ピークM:細孔径3.6~500nmの範囲内
本発明において「ピーク」とは、上記Log微分細孔容積分布において得られる細孔容積分布曲線上の細孔容積の最大値をいう。本発明のカーボンブラック成形体は細孔径3.6~500nmの領域内に分布のピークMを有する。横軸上の分布のピーク位置は後記する製造方法にしたがって調整することが可能である。したがって分布のピーク位置は用途に応じて調整すればよく、メソ孔領域(2nm~50nm)、マクロ孔領域(50nm超~500nm)のいずれに分布のピークが存在していてもよい。吸着物質の選択性を考慮すると、ピークMは好ましくは400nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは250nm以下、より更に好ましくは100nm以下、80nm以下、60nm以下、40nm以下、20nm以下の順に好ましい。
【0023】
(II)ピークMの半値幅:100nm以下
上記ピークMの半値幅は、1~100nm以下である。半値幅が狭いほど細孔径が均一となり、所望の細孔径を有する細孔が精度よく形成されていることを意味する。また半値幅が狭いほど、例えば該所望の細孔径に適した被吸着物の吸着性能が向上する。分布のピークの半値幅は100nm以下、50nm以下、40nm以下、30nm以下、20nm以下、10nm以下の順である。
【0024】
(III)半値幅/面積基準メディアン径:0.7以下
本発明のカーボンブラック成形体は等方加圧処理されているため、従来のカーボンブラック成形体と比べて上記ピークがシャープであり、且つ均一な細孔径分布を有している。本発明ではこのようなシャープかつ均一な細孔径分布の指標として上記半値幅と面積基準メディアン径との関係を「半値幅/面積基準メディアン径」で規定した。半値幅/面積基準メディアン径は0.7以下、好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.5以下であって、好ましくは0.1以上である。なお、半値幅には上記ピークMの値(nm)を使用する。また面積基準メディアン径は水銀圧入法に基づく値(nm)である。
【0025】
本発明において面積基準メディアン径とは、カーボンブラック成形体の細孔径を水銀圧入法で測定、算出した値であり、詳細な条件は本発明の実施例に基づくものとする。面積基準メディアン径が小さすぎると吸着速度が遅くなることがある。一方、面積基準メディアン径が大きすぎると嵩高くなる。したがって面積基準メディアン径は好ましくは500nm以下、より好ましくは250nm以下、更に好ましくは100nm以下である。
【0026】
(IV)細孔径500nmを超える範囲において細孔容積が存在する場合:細孔径1000~5000nmの範囲の前記Log微分細孔容積の最大値と最小値の差が0.18cm/g以下
本発明のカーボンブラック成形体は従来よりも均一化された細孔径を有するため、分布のピークよりも細孔径が大きくなる程、大きな細孔径は減少する傾向を示す。一方、従来のカーボンブラックや一軸プレスされたカーボンブラックは、図6に示すように細孔径1000~5000nmの範囲でLog微分細孔容積の最大値と最小値の差が大きくなる。
本発明では上記Log微分細孔容積分布において、細孔径500nmを超える範囲において細孔容積が存在する場合は細孔径1000~5000nmの範囲の前記Log微分細孔容積の最大値と最小値の差が0.18cm/g以下、好ましくは0.1cm/g以下、より好ましくは0.05cm/g以下である。下限は特に限定されず、0cm/gであってもよい。
【0027】
本発明のカーボンブラック成形体は上記(I)~(IV)を満足する物性を有するが、更に下記(V)~(VIII)のうち、少なくとも1つ以上を満足することも好ましい実施態様である。
【0028】
(V)細孔径3.6~500nmの範囲における細孔容積のピーク:1つ
本発明のカーボンブラック成形体は分布のピークMの他にも極大値を有するピークを1または2以上有していてもよい。ピークは最大値を示すピークをピークM1とし、値が小さくなるにつれてピークM2、ピークM3と順次記してピークを区別することがある。所定の大きさの被吸着物に対する吸着性能と吸着量を向上させる観点からは分布のピークは細孔径3.6~500nmの領域に一つであることが好ましい。
【0029】
(VI)BET比表面積
カーボンブラック成形体はBET比表面積が10~2000m/gであることが好ましい。比表面積が大きい程、吸着性能が向上するため、より好ましくは25m2/g以上、更に好ましくは100m2/g以上、より好ましくは200m2/g以上である。一方、比表面積が大きくなりすぎると密度が低下して粒子の強度が低くなることがあるため、より好ましくは1500m2/g以下、更に好ましくは1200m2/g以下、より更に好ましくは1000m2/g以下である。BET比表面積は窒素吸着等温線を測定するBET法により求められる。
【0030】
(VII)3.6~5000nmの範囲の細孔容積
カーボンブラック成形体の細孔径3.6~5000nmまで範囲の細孔容積を高くする程、初期吸着速度を向上できる。一方、該範囲の細孔容積が大きくなると比表面積が減少する傾向を示す。水銀圧入法で測定した細孔径3.6~5000nmの細孔容積は好ましくは0.05cm/g以上、より好ましくは0.1cm/g以上、更に好ましくは0.2cm/g以上であって、好ましくは2.0cm/g以下、より好ましくは1.5cm/g以下、更に好ましくは1.0cm/g以下である。
【0031】
(VIII)酸性表面官能基量、塩基性表面官能基量
本発明のカーボンブラック成形体は、酸性表面官能基量や塩基性表面官能基量を適宜調整することで、親水性や吸着性能を調整できる。例えば酸性表面官能基量は5meq/g以下に調整してもよい。また例えば塩基性表面官能基量は5meq/g以下に調整してもよい。酸性表面官能基量、及び塩基性表面官能基量は実施例に記載の測定方法に基づく値である。
【0032】
カーボンブラック成形体のサイズは特に限定されず、用途に応じて適宜選択できる。また成形する形状も特に限定されない。
【0033】
以下、本発明のカーボンブラック成形体の好適な製造方法について説明する。
【0034】
カーボンブラック
原料として使用するカーボンブラックは、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ローラーブラック、ディスクブラック、その他公知のカーボンブラックから適宜選択して使用でき、これらは単独、あるいは任意に組み合わせてもよい。本発明では各種市販のカーボンブラックを用いることができる。またカーボンブラックの製造方法は特に限定されず、各種公知の製造方法で得られたカーボンブラックはいずれも使用可能である。
【0035】
また本発明では市販されているカーボンブラックをそのまま使用できるためカーボンブラックの一次粒子径、平均粒子径、比表面積なども限定されない。カーボンブラックの一次粒子径が大きいほど、形成される粒子間空隙が大きくなる傾向があるため所望の細孔径となるように一次粒子経を適宜選定すればよい。またカーボンブラックは一次粒子、一次凝集体、二次凝集体のいずれの状態であってもよい。必要に応じてカーボンブラックを解砕、分級等して所望の状態にしてもよい。
【0036】
本発明のカーボンブラック成形体はカーボンブラック粒子間の空隙によって細孔が形成されている。粒子間空隙によって形成された細孔は、未成形のカーボンブラックと比べて細孔径や細孔径容積が大きいため吸着容量も大きく、大きな被吸着物も吸着できる。
【0037】
本発明ではカーボンブラックを等方性加圧処理して成形するが、カーボンブラックに前処理を施してから等方性加圧処理を行ってもよい。前処理として例えば(I-1)賦活処理、(I-2)混合処理または複合化処理、(I-3)酸化処理が例示される。これら前処理は単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。
【0038】
(I-1)賦活処理
本発明ではカーボンブラックを賦活処理してもよい。カーボンブラックを賦活処理することでカーボンブラックの細孔構造や比表面積が変化し、カーボンブラック自体を吸着物質に適した細孔構造とできる。したがって賦活処理されたカーボンブラックを原料とすることで、より一層、特定の被吸着物質に対して優れた吸着性能が得られる。賦活処理は、水蒸気賦活処理やアルカリ賦活処理など各種公知の賦活処理を採用できる。
【0039】
(I-2)混合処理または複合化処理
本発明では複数のカーボンブラック使用できる。複数のカーボンブラックを使用する場合、カーボンブラックを単純混合するだけでもよいし、後記するように複合化処理してもよい。単純混合とは、カーボンブラックを同一の容器に入れた後、必要に応じて水などを加えながら攪拌、混合することである。したがって単純混合ではカーボンブラック粒子自体が破砕されたり、凝集塊が解砕されることは殆どない。このようにカーボンブラックを単純に混ぜただけでは凝集体の構成は変化しないため、得られたカーボンブラック混合物を等方性加圧処理してもカーボンブラック成形体は図7A(Ex.10)に示すように原料として使用した各カーボンブラックが有する分布のピークが出現する。
【0040】
一方、複合化処理とは粒子径の異なるカーボンブラックを混合し、更にその一次凝集体、乃至二次凝集体を一次粒子レベルまで解砕して凝集体を再構成する処理である。複数のカーボンブラックを複合化処理すると、カーボンブラックの凝集体ないし凝集塊が解砕されて一次粒子レベルで混合される。したがって複合化処理されたカーボンブラック(以下、複合化カーボンブラックということがある)の凝集体は粒径の異なる一次粒子と組み合わされて再構成されるため、単純に混合しただけのカーボンブラック混合物とは凝集体の構成が異なる。複合化処理後、等方性加圧処理すると形成される空隙はより均一化され、カーボンブラック成形体の分布のピークは図7B(Ex.11)に示すように上記混合物のカーボンブラック成形体とは異なる新たな分布のピークが得られる。複数のカーボンブラックを複合化処理する場合、例えば粒子径の分布のピークが異なるカーボンブラックの混合比率を調整することでカーボンブラック成形体の分布のピーク位置をコントロールできる。複合化処理には機械的撹拌混合手段を用いることが望ましく、ボール媒体ミル(振動ボールミル、遊星ボールミル等)、ジェットミル、湿式ジェットミル、湿式高速回転ミル(コロイドミル)、媒体撹拌式ミル(撹拌槽型ビーズミル、流通管型ビーズミル等)等が例示される。また複合化処理する際は湿式、乾式のいずれでもよい。
【0041】
(I-3)酸化処理
本発明ではカーボンブラックを酸化処理してもよい。酸化処理することでカーボンブラックの表面官能基量が変動してカーボンブラック成形体の吸着性や疎水性などの性質が変化する。酸化処理するとカーボンブラックの酸性官能基量が増大するとともに、塩基性官能基量が低減する。カーボンブラックを酸化処理すると表面官能基量が変化して親水性が向上する。したがって酸化処理したカーボンブラックを等方性加圧処理すると、得られたカーボンブラック成形体の親水性も向上しており、極性物質に対する吸着性能を向上できる。
【0042】
酸化処理は乾式、湿式のいずれでもよい。乾式酸化処理は例えば200℃~400℃程度に加熱した炉に空気、オゾン等の酸化性ガスと共にカーボンブラックを供給すればよい。また湿式酸化処理は無機酸、有機酸などの各種公知の酸化剤含有溶液とカーボンブラックとを50~120℃で5~15時間撹拌した後、洗浄、乾燥させればよい。カーボンブラックの酸性官能基量は処理時間・処理温度等をコントロールすることによって制御できる。
【0043】
等方性加圧処理
本発明では上記カーボンブラックを等方性加圧処理して成形する。等方性加圧処理とは、カーボンブラック表面に等しい加圧力を加えて方向性なく加圧成形する処理である。等方性加圧処理は、冷間等方圧加圧処理(CIP:Cold Isostatic Pressing)、静水圧加圧処理、ラバープレス処理、及び熱間等方圧加圧処理(HIP:HOT Isostatic Pressing)が例示される。これらの中でも常温下で3次元的に均一な圧力を加えることができる冷間等方圧加圧処理(CIP)が好ましい。また冷間等方圧加圧処理(CIP)は湿式法、乾式法のいずれでもよい。加圧媒体としてガス、液体など公知の媒体でよい。
【0044】
本発明ではバインダーを使用しなくても等方性加圧処理によって圧密化されたカーボンブラック成形体は所望の形状を維持できる強度を有する。一方、バインダーを添加して等方性加圧処理するとカーボンブラック成形体の細孔容積や比表面積が大幅に低下する。本発明では等方性加圧処理する際、カーボンブラックにはバインダー(結着剤)は添加しないことが好ましい。したがってカーボンブラック成形体に含まれるバインダー量は成形体中、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは0質量%である。
【0045】
等方性加圧処理は処理圧力を高くする程、粒子間空隙が減少し成形される細孔径が小さくなる傾向がある。また処理圧力を高めると細孔容積分布曲線の形状も分布のピークを中心としたシャープな形状、すなわち細孔径が均一化しやすくなる。したがって処理圧力は好ましくは20MPa以上、より好ましくは50MPa以上、さらに好ましくは100MPa以上、よりさらに好ましくは200MPa以上である。処理圧力が高すぎると空隙が減少する傾向があるため、好ましくは500MPa以下、より好ましくは400MPa以下、更に好ましくは300MPa以下、よりさらに好ましくは250MPa以下である。加圧保持時間は好ましくは1分以上、より好ましくは5分以上である。一方、上記効果が飽和するため、加圧保持時間は好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下である。
【0046】
等方性加圧処理して得られたカーボンブラック成形体は強度が向上し、取り扱い時や使用時の摩擦などによって損壊することがない。したがってより高い充填密度を達成でき、吸着効率を高めることができる。
【0047】
上記等方性加圧処理して得られたカーボンブラック成形体に後処理を施してもよい。後処理として(II-1)2次成形処理、(II-2)熱処理が例示される。これら後処理は単独、あるいは複数組み合わせて行ってもよい。また複数の後処理を組み合わせて行う場合の処理順序は特に限定されない。更に前処理と後処理は任意に組み合わせて実施してもよい。
【0048】
(II-1)2次成形処理
カーボンブラック成形体をそのまま吸着フィルターなどの吸着材としてもよいが、所望のサイズ、形状に解砕して吸着材としてもよい。このような2次成形体もカーボンブラック成形体と同じ分布のピークを有していればよい。カーボンブラック成形体は用途に応じて形状を変更でき、例えばカーボンブラック成形体を各種用途に応じたペレット状、板状、ブリケット状、球状など所望の形状に2次成形してもよい。
【0049】
(II-2)熱処理
カーボンブラック成形体に熱処理を施してもよい。カーボンブラック成形体を熱処理すると結晶性、耐酸化性、表面官能基量、疎水性などの諸特性を変化させることができる。熱処理温度を高くするにしたがってカーボンブラックの結晶化が進行して耐酸化性が向上する。また熱処理温度を高くすることによって酸性官能基量が減少し、塩基性官能基量が増大する。カーボンブラック成形体の表面官能基量、例えば酸性性官能基量と塩基性官能基量の割合を適宜調整することによって例えば疎水性や被吸着物を変化させることができる。
【0050】
カーボンブラック成形体を熱処理すると、カーボンブラック粒子の熱収縮に伴って粒子間空隙が広がって細孔径が大きくなると共に、比表面積は低下する傾向を示す。したがって熱処理温度を高くする程、分布のピークは細孔経が大きい方向にシフトする傾向を示す。一方、熱処理温度を高くしても分布のピークの半値幅は大きく変化せず、例えば半値幅は熱処理前と比べて+2nm以内の変化に抑えられる。したがって均一でシャープな細孔分布を有するという本発明のカーボンブラック成形体の特徴的な細孔構造は維持される。
【0051】
熱処理温度は所望する上記諸特性に応じて適宜設定すればよい。例えば熱処理温度を高くするほど、酸性官能基量を低減でき、例えば1200℃以上にすると酸性官能基量をほぼ除去(Non-Detected)できる。また熱処理温度を高くするほどカーボンブラックの結晶化度が上昇するため好ましくは黒鉛化温度未満である。
【0052】
本発明のカーボンブラック成形体は従来にはない新規な細孔構造を有している。また細孔構造を適宜調整できるため各種用途に応用できる。特に本発明のカーボンブラック成形体は、粒子間空隙が吸着性能を有する細孔として機能するため例えば吸着材として使用できる。吸着材としては、浄水処理、排水処理、貴金属回収処理などの液相用途、空気浄化処理、脱臭処理、ガス分離処理、溶剤回収処理、排ガス処理などの各種用途が例示される。また本発明のカーボンブラック成形体は従来のカーボンブラックでは不可能であったサイズの被吸着物の吸着も可能であり、例えば各種タンパク質、リボタンパク質、ウイルス、マクロパーティクル、リゾチームなどの吸着剤として医療用途でも利用可能である。
【実施例
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0054】
原料
表1に示す原料No.1~5を使用して下記条件で成形体を製造した。なお、原料No.1~4はカーボンブラック、原料No.5は活性炭である。
【0055】
冷間等方性加圧処理(CIP)
実施例1~11では原料をCIP処理した。具体的には原料3gをポリエチレン製袋に充填して密封した後、静水圧粉体形成装置(日本研究開発工業製)に装填した。該装置を操作して表2に示す所定圧力まで昇圧させた後、該圧力で表2に示す所定時間保持してCIP処理を行って試料を得た。
【0056】
1200℃熱処理
実施例5ではCIP処理後、更に昇降炉で熱処理した。具体的にはCIP処理後、得られた成形体を磁製坩堝に約3g仕込み、2L/minで窒素を流通させながら昇温速度4.2℃/minで1200℃まで昇温し、該温度を2時間保持して熱処理を行って試料を得た。
【0057】
2400℃熱処理
実施例6ではCIP処理後、更に黒鉛化炉(倉田技研社製)で熱処理した。具体的にはCIP処理後、得られた成形体を黒鉛皿に約3g仕込み、Ar雰囲気下で昇温速度10℃/minで2400℃まで昇温し、該温度で2時間保持して熱処理を行って試料を得た。
【0058】
実施例10
単純混合-CIP処理
原料1と原料2を各5g、純水100gをガラス容器に入れ、ステンレス製の撹拌翼を取り付けた攪拌機(新東科学株式会社製スリーワンモーター)にて回転数500rpmで室温下において30分間湿式混合を行った。得られた懸濁液を115℃の箱型乾燥機で1昼夜乾燥(保持温度:115℃)させた後、実施例9と同じ条件でCIP処理を行って試料を得た。
【0059】
実施例11
原料複合-CIP処理
原料1と原料2を各5g、ジルコニアボール(φ3mm)250g、純水100gを遊星ボールミル用ポット(250mL)に投入して30分間湿式粉砕を行った。得られた懸濁液を115℃の箱型乾燥機で1昼夜乾燥(保持温度:115℃)させた後、実施例9と同じ条件でCIP処理を行って試料を得た。
【0060】
比較例1、3は加圧処理等を行わず、原料をそのまま試料とした。
【0061】
比較例2
一軸プレス処理
原料3gを内容積24mmφの円柱成形用の金型に詰めて、油圧式ハンドプレス機にて80kNまで加圧し、該圧力を3分間保持することにより加圧処理を行って試料を得た。
【0062】
得られた各試料を下記測定方法に基づいて各種値を測定した。
【0063】
比表面積
試料0.2gを250℃にて真空加熱した後、窒素吸着装置(マイクロメリティック社製、「ASAP-2420」)を用いて、液体窒素雰囲気下(77K)で窒素吸着等温線を求め、BET法により比表面積(m2/g)を求めた。
【0064】
水銀圧入法による解析
水銀ポロシメーター(マイクロメリティクス製ポアサイザ9320、および、ユアサアイソニクス製ポアマスターGT)を用いて、水銀の物性は、接触角140度、密度13.5335g/cm 表面張力480dyn/cmとし、水銀圧入圧力1.54×10-3~413.4MPaの範囲で試料を測定し、その結果に基づいて細孔径3.6~5000nm(水銀圧入圧力0.30~413.4MPa)までの細孔容積、面積基準メディアン径、ピーク位置、ピーク半値幅、細孔径1000~5000nm(水銀圧入圧力0.30~1.46MPa)のLog微分細孔容積分布における細孔容積の最大値と最小値を求めた。結果を表3に示す。
【0065】
面積基準メディアン径
上記水銀ポロシメーターの測定結果から面積基準で積算値50%をメディアン径とした。
【0066】
ピーク位置、ピーク半値幅
水銀ポロシメーターの測定結果に基づく横軸を細孔径(nm)、縦軸を細孔容積(cm3/g)としたLog微分細孔容積分布において、細孔経分布曲線の最大値を分布のピークM1とし、該ピークM1のピークトップ位置の細孔径を特定した。また該ピークM1のピークトップからベースラインまでの半分の高さにおけるピーク幅を半値幅とした(ピークM1)。ピークが複数ある場合は各ピークについて同様にピーク位置、ピーク半値幅を求めた(ピークM2)。
【0067】
酸性表面官能基量
酸性表面官能基の量は、Boehm法(文献「H.P.Boehm, Adzan.Catal, 16,179(1966)」にその詳細が記載されている)にしたがって求めた。具体的には、まず試料1gにナトリウムエトキシド水溶液(0.1mol/L)を50mL加え、2時間、500rpmで撹拌した後、24時間放置した。その後、さらに30分間撹拌を行いろ過分離した。得られたろ液25mLに対して0.1mol/Lの塩酸を滴下し、pH4.0になるときの塩酸滴定量を測定した。また、ブランクテストとして、前記ナトリウムエトキシド水溶液(0.1mol/L)25mLに対して0.1mol/Lの塩酸を滴下し、pH4.0になるときの塩酸滴定量を測定した。そして、下記の式(2)により酸性官能基量(meq/g)を算出した。
[式]
酸性表面官能基量(meq/g)
=(a-b)×0.1/(S×25/50)・・・(2)
a:ブランクテストにおける塩酸滴定量(mL)
b:試料を反応させたときの塩酸滴定量(mL)
S:試料質量(g)
【0068】
塩基性表面官能基量
塩基性表面官能基の量は、酸性表面官能基量測定時の逆滴定により求めた。具体的には試料1gに塩酸(0.1mol/L)を50mL加え、2時間、500rpmで撹拌した後、24時間放置した。その後、さらに30分間撹拌を行いろ過分離した。得られたろ液25mlに対して0.1mol/Lの水酸化ナトリウムを滴下し、pH8.0になるときの水酸化ナトリウム滴定量を測定した。また、ブランクテストとして、前記塩酸(0.1mol/L)25mlに対して0.1mol/Lの水酸化ナトリウムを滴下し、pH8.0になるときの水酸化ナトリウム滴定量を測定した。そして、下記の式(3)により塩基性表面官能基量(meq/g)を算出した。
[式]
塩基性表面官能基量(meq/g)
=(c-d)×0.1/(S×25/50)・・・(3)
c:ブランクテストにおける水酸化ナトリウム滴定量(mL)
d:試料を反応させたときの水酸化ナトリウム滴定量(mL)
S:試料質量(g)
【0069】
タンパク質(リゾチーム)流通吸着試験方法
実施例4、比較例1、3の試料を乳鉢で粉砕後、JIS規格円形篩(篩目:53μm、300μm)を用いてロータップ型ふるい振とう機(飯田製作所社製)により10分間振とうさせ、53~300μmに分級し、115℃で2時間乾燥処理を行った。乾燥後の試料をカラム充填高さが30mmになるように内径10mmφのカラムに充填した。試料溶媒を十分に流し、カラム入口とカラム出口のpH、及び吸光度が等しいことを確認後、タンパク溶液(ナカライテスク社製ニワトリ卵白リゾチーム)をカラムに流し、カラム出口からの溶出液を一定量ずつ採取した。タンパク溶液を空間速度SVが13~14h-1となるように約60ml流通させた。カラムから採取した溶液は分光光度計(日立ハイテクノロジ社製U-2910)を用いて、280nmの吸光度を測定して破過曲線を求め、該破過曲線からタンパク質の吸着量(10%破過)を算出した。結果を表4に示す。
【0070】
水蒸気吸着試験
蒸気吸着量測定装置(マイクロトラップ・ベル社製、BELSORP‐max)を準備した。試料をセルに約40mg投入し、250℃,5時間の真空加熱により前処理を行った後、置換ガスを導入し、秤量を行った。水蒸気吸着測定は、循環恒温槽により25℃に保持されたウォータバス中で、相対圧(P/P)0.0~0.85の範囲で行った。試験は実施例4、及び比較例1についておこなった。結果を図8に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
図1に各試料を窒素ガス吸着法で測定したLog微分細孔容積分布曲線を示す。窒素ガス吸着法は水銀圧入法のように測定時の空隙の加圧による細孔構造の変動がないため、比較例のカーボンブラック成形体の細孔構造をそのまま反映している。等方性加圧処理をした実施例1~4、8、10、11と比べて加圧処理をしなかった比較例1は加圧成形されていないためピークがなく、不均一な細孔径分布であった。また比較例2はカーボンブラックを一軸プレスした例であるが、一方向からのみ加圧しているため不均一に圧縮され、様々な細孔径が混在していることがわかる。
【0076】
また図1に示す様にCIP処理の加圧条件のみ変更した実施例1~4を比べると成形時の圧力が高くなるほど、分布のピークトップの位置は細孔径が小さくなる方向に現れていることがわかる。これは処理圧力が高くなる程、粒子間空隙が減少して形成される細孔径が小さくなっていると考えられる。
【0077】
図2に各試料を窒素ガス吸着法で測定したLog微分細孔容積分布曲線を示す。原料を変更した以外、同じ条件で等方性加圧処理をした実施例4、8、10、11を比べると、使用した原料に応じて分布のピークMが出現していることがわかる。一方、加圧処理をしなかった比較例1は加圧成形されていないためピークがなく、不均一な細孔径分布であった。このことから等方性加圧することでピークが形成されることがわかる。
【0078】
図3に実施例4、7~10の試料を水銀圧入法で測定したLog微分細孔容積分布曲線を示す。これらは一次粒子径が異なるカーボンブラックを同一条件で等方性加圧処理した例である。図3からも明らかなように一次粒子経が大きくなるほど形成される粒子間空隙も大きくなる傾向にあることがわかる。また図4は面積基準メディアン径と一次粒子経の関係、図5Aは細孔径分布の半値幅と面積基準メディアン径の関係、図5Bは[半値幅/面積基準メディアン径]と面積基準メディアン径との関係を示す。図4から一次粒子経が大きいほど、細孔径が大きくなる傾向がわかる。また図5Aから面積基準メディアン径が大きいほど、細孔分布はブロードになる傾向がわかる。図5Bから面積基準メディアン径にかかわらず、狭い半値幅を有しており、ピークM1がシャープであることがわかる。
【0079】
図7A図7Bは、実施例4、8、10、11を窒素ガス吸着法で測定して得られたLog微分細孔容積分布曲線である。図7A図7Bに示すように、2種類のカーボンブラック(原料No.1、2)を単純に混合しただけの実施例10では2つのピークトップが確認されたが、ピークの位置は、実施例4(原料No.1)と実施例8(原料No.2)のピークと同じ位置であった。すなわち、単純に混合しただけでは各原料が有するピークがそのまま出現する。一方、複合化処理によって各凝集体を解砕して一次粒子レベルで混合した実施例11では凝集体が再構成されている。そのため複数の原料を用いても複合化処理することでカーボンブラック成形体はより均一化された単分散の分布のピークが得られており、細孔制御に有効であることがわかる。
【0080】
図8は実施例4と比較例1の水蒸気吸着量を調べた結果である。実施例4は酸性官能基量が比較例1よりも少ないが、図8に示すように水蒸気吸着性に優れており、しかも相対圧P/P0=0.8~0.85において水蒸気吸着量が急激に増加していることがわかる。
【0081】
図9は熱処理の有無、温度が及ぼす影響について調べた結果である。図9に示すようにカーボンブラック成形体は高温で熱処理する程、細孔径が大きくなることがわかる。また表3から熱処理することによって比表面積が減少する一方で面積基準メディアン径が増大するが、ピークの半値幅M1はほとんど変化がないことがわかる。これらの結果は熱処理によってカーボンブラック粒子が収縮して空隙が大きくなり、細孔容積分布曲線も細孔径が大きくなる側にシフトするが、細孔構造は維持されているため、ピークの半値幅は維持されていると考えられる。
【0082】
図10に示すように実施例4は等方性加圧処理をしていない比較例1や活性炭である比較例3よりも高いリゾチーム吸着率を示した。この結果からカーボンブラックを等方性加圧処理することによってリゾチーム吸着に適した細孔が形成されており、しかも該吸着に適した細孔径分布であることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10