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特許7316250無電解金めっき浴および無電解金めっき方法
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  • 特許-無電解金めっき浴および無電解金めっき方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】無電解金めっき浴および無電解金めっき方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/42 20060101AFI20230720BHJP
   C23C 18/44 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
C23C18/42
C23C18/44
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020081282
(22)【出願日】2020-05-01
(65)【公開番号】P2021175816
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-11-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000228165
【氏名又は名称】EEJA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162961
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100188640
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 圭次
(74)【代理人】
【識別番号】100146927
【弁理士】
【氏名又は名称】船越 巧子
(72)【発明者】
【氏名】朝川 隆信
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2002/016668(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1価の金(I)錯体およびヒダントイン化合物(B)を含む無電解金めっき浴であって、当該金(I)錯体が1価のヒダントイン化合物(A)金(I)錯体であり、当該ヒダントイン化合物(A)がヒダントイン、5-メチルヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン、3,5,5-トリメチルヒダントイン、3-メチル-5-エチルヒダントイン、3-メチル-5,5-ジエチルヒダントイン、3,5,5-トリエチルヒダントイン、3,5-ジエチルヒダントイン、5-プロピルヒダントイン、5-イソプロピルヒダントイン、1-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヒダントインのうちのいずれかであり、当該ヒダントイン化合物(B)がヒダントイン、5-メチルヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン、3,5,5-トリメチルヒダントイン、3-メチル-5-エチルヒダントイン、3-メチル-5,5-ジエチルヒダントイン、3,5,5-トリエチルヒダントイン、3,5-ジエチルヒダントイン、5-プロピルヒダントイン、5-イソプロピルヒダントイン、1-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヒダントインのうちのいずれかであって当該ヒダントイン化合物(A)と異なるヒダントイン化合物であることを特徴とする非シアン系の置換型無電解金めっき浴。
【請求項2】
1価の金(I)錯体およびヒダントイン化合物(B)を含む無電解金めっき浴であって、当該金(I)錯体が1価のヒダントイン化合物(A)金(I)錯体であり、当該ヒダントイン化合物(A)がヒダントイン、5-メチルヒダントイン、3,5,5-トリメチルヒダントイン、3-メチル-5-エチルヒダントイン、3-メチル-5,5-ジエチルヒダントイン、3,5,5-トリエチルヒダントイン、3,5-ジエチルヒダントイン、5-プロピルヒダントイン、5-イソプロピルヒダントイン、1-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヒダントインのうちのいずれかであり、当該ヒダントイン化合物(B)が5,5-ジメチルヒダントインであることを特徴とする非シアン系の置換型無電解金めっき浴。
【請求項3】
1価の金(I)錯体およびヒダントイン化合物(B)を含む無電解金めっき浴であって、当該金(I)錯体が1価のヒダントイン化合物(A)金(I)錯体であり、当該ヒダントイン化合物(A)がヒダントインまたは5-メチルヒダントインのうちのいずれかであり、当該ヒダントイン化合物(B)がヒダントイン、5-メチルヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン3,5,5-トリメチルヒダントイン、3-メチル-5-エチルヒダントイン、3-メチル-5,5-ジエチルヒダントイン、3,5,5-トリエチルヒダントイン、3,5-ジエチルヒダントイン、5-プロピルヒダントイン、5-イソプロピルヒダントイン、1-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヒダントインのうちのいずれかであって当該ヒダントイン化合物(A)と異なるヒダントイン化合物であることを特徴とする非シアン系の置換型無電解金めっき浴。
【請求項4】
1価の金(I)錯体およびヒダントイン化合物(B)を含む無電解金めっき浴であって、当該金(I)錯体が1価のヒダントイン化合物(A)金(I)錯体であり、当該ヒダントイン化合物(A)がヒダントインまたは5-メチルヒダントインのうちいずれかのヒダントイン化合物であり、当該ヒダントイン化合物(B)が5,5-ジメチルヒダントインであることを特徴とする非シアン系の置換型無電解金めっき浴。
【請求項5】
1価の金(I)錯体およびヒダントイン化合物(B)、並びに、還元剤を含む無電解金めっき浴であって、当該金(I)錯体が1価のヒダントイン化合物(A)金(I)錯体であり、当該ヒダントイン化合物(A)がヒダントイン、5-メチルヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン、3,5,5-トリメチルヒダントイン、3-メチル-5-エチルヒダントイン、3-メチル-5,5-ジエチルヒダントイン、3,5,5-トリエチルヒダントイン、3,5-ジエチルヒダントイン、5-プロピルヒダントイン、5-イソプロピルヒダントイン、1-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヒダントインのうちのいずれかであり、当該ヒダントイン化合物(B)がヒダントイン、5-メチルヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン、3,5,5-トリメチルヒダントイン、3-メチル-5-エチルヒダントイン、3-メチル-5,5-ジエチルヒダントイン、3,5,5-トリエチルヒダントイン、3,5-ジエチルヒダントイン、5-プロピルヒダントイン、5-イソプロピルヒダントイン、1-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヒダントインのうちのいずれかであって当該ヒダントイン化合物(A)と異なるヒダントイン化合物であることを特徴とする非シアン系の還元型無電解金めっき浴。
【請求項6】
1価の金(I)錯体およびヒダントイン化合物(B)、並びに、還元剤を含む無電解金めっき浴であって、当該金(I)錯体が1価のヒダントイン化合物(A)金(I)錯体であり、当該ヒダントイン化合物(A)がヒダントイン、5-メチルヒダントイン、3,5,5-トリメチルヒダントイン、3-メチル-5-エチルヒダントイン、3-メチル-5,5-ジエチルヒダントイン、3,5,5-トリエチルヒダントイン、3,5-ジエチルヒダントイン、5-プロピルヒダントイン、5-イソプロピルヒダントイン、1-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヒダントインのうちのいずれかであり、当該ヒダントイン化合物(B)が5,5-ジメチルヒダントインであることを特徴とする非シアン系の還元型無電解金めっき浴。
【請求項7】
1価の金(I)錯体およびヒダントイン化合物(B)、並びに、還元剤を含む無電解金めっき浴であって、当該金(I)錯体が1価のヒダントイン化合物(A)金(I)錯体であり、当該ヒダントイン化合物(A)がヒダントインまたは5-メチルヒダントインのうちのいずれかであり、当該ヒダントイン化合物(B)がヒダントイン、5-メチルヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン3,5,5-トリメチルヒダントイン、3-メチル-5-エチルヒダントイン、3-メチル-5,5-ジエチルヒダントイン、3,5,5-トリエチルヒダントイン、3,5-ジエチルヒダントイン、5-プロピルヒダントイン、5-イソプロピルヒダントイン、1-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヒダントインのうちのいずれかであって当該ヒダントイン化合物(A)と異なるヒダントイン化合物であることを特徴とする非シアン系の還元型無電解金めっき浴。
【請求項8】
1価の金(I)錯体およびヒダントイン化合物(B)並びに、還元剤を含む無電解金めっき浴であって、当該金(I)錯体が1価のヒダントイン化合物(A)金(I)錯体であり、当該ヒダントイン化合物(A)がヒダントインまたは5-メチルヒダントインのうちのいずれかであり、当該ヒダントイン化合物(B)が5,5-ジメチルヒダントインであることを特徴とする非シアン系の還元型無電解金めっき浴。
【請求項9】
クエン酸及びその化合物、イミダゾール及びその化合物、エチレンジアミン及びその化合物、ジエチレントリアミン及びその化合物、並びに、トリエチレンテトラミン及びその化合物の内の少なくとも1種以上の促進剤を更に含むことを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれかの請求項に記載の非シアン系の無電解金めっき浴。
【請求項10】
前記還元剤が次亜リン酸及びその化合物、アスコルビン酸及びその化合物、ヒドロキノン及びその化合物、並びに、ギ酸及びその化合物のうちの少なくともいずれか一種以上であることを特徴とする請求項5から請求項8までのいずれかの請求項に記載の非シアン系の還元型無電解金めっき浴。
【請求項11】
無電解金めっき浴中に被めっき体を浸漬して当該被めっき体表面に金被膜を形成させる無電解金めっき方法において、前記無電解金めっき浴は、請求項1から請求項10までのいずれかの請求項に記載の非シアン系の無電解金めっき浴であることを特徴とする無電解金めっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無電解金めっき浴及び無電解金めっき方法に関し、詳細には置換型及び還元型の無電解金めっき浴、並びに、これらの無電解金めっき浴を用いた無電解金めっき方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金めっき皮膜は半導体回路や接続端子などの各種電子部品で広く活用されている。例えば、電子部品であるプリント回路基板やウェハーのワイヤボンディングパッドおよびはんだ接合パッドなどである。従来の金めっき皮膜には、電解めっき技術が頻繁に使用されてきた。ところが、近年の配線の微細化と高密度化により、電解めっき用の配線部分を確保することが難しくなり、電解めっき配線を必要としない無電解めっき技術が注目され始めた。このため電子部品の用途や実装方法に応じて、さまざまな無電解金めっき浴が提案されている。
【0003】
無電解金めっき浴の原理は、被めっき体である下地金属とめっき浴中の金イオンとの置換反応による。すなわち、下地金属が溶解することにより、金イオンが下地金属上で金(金属)に還元し、堆積する。金に対し卑な金属が用いられる無電解金めっき浴では、次のような条件が必要とされる。ニッケルやパラジウムなどの下地金属に均一に析出し、厚くめっきしても赤みが全くみられない皮膜を形成できること、無電解金めっきの作業中に卑な金属が局所的に溶解して下地金属に孔食や局所的な腐食をしないこと、長期間にわたって無電解金めっき浴中や槽壁などへ金微粒子が析出しないことなどである。これらの要件は、還元型の無電解金めっき浴では、さらに深刻な問題へと拡大されてきた。
【0004】
これまで非シアン化金系の無電解金めっき浴では、もっぱら亜硫酸金塩が用いられていた。例えば、特開平6-73554号公報(後述する特許文献1)には「亜硫酸塩を含む水溶液に塩化金(III)酸またはそのアルカリ塩溶液を添加し、当該塩化金酸イオンを亜硫酸金錯イオンに変換した後、チオ硫酸塩を添加し、所定のpHに調整後還元剤を添加することを特徴とする無電解めっき液の建浴方法」の発明が請求項4に開示されている。
【0005】
ところが、この亜硫酸金塩の無電解金めっき浴では、金の析出粒子が粗く、ち密な金皮膜を形成することができないという欠点があった。また、めっき作業の連続運転中や休止している間に亜硫酸イオンと亜硫酸金イオンの空気酸化、またこれに伴う金イオンの不均化反応(3Au→Au3++2Au)によってめっきに寄与しない金微粒子が浴槽内で不意に析出することがあった。
【0006】
また、塩化第一金、塩化ナトリウム及び2-ベンズイミダゾールチオールを反応させたノンシアン金塩結晶を用いた置換型無電解金めっき浴が開示されている(特開2015-151343号公報(後述する特許文献2)の明細書0017段落)。しかし、この無電解金めっき浴は薄い金めっき皮膜しか得ることができなかった。すなわち、同0023段落には、この1価の「ノンシアン金塩を用いた置換金めっき液を使用し、銅電極上に無電解金(約0.04μm)/ニッケル皮膜(約5μm)を形成した」と記載されている。
【0007】
他方、金電気めっき浴ではヒダントイン化合物を用いた例がいくつか開示されている。例えば、特開2003-183258号公報の明細書0015段落・0027段落には、3価の水酸化金ナトリウム(Na(Au(OH))とジメチルヒダントインとを反応させた「金錯体溶液…金濃度で15g/L、リン酸3ナトリウム …50g/L、リン酸2水素ナトリウム …30g/L、結晶調整剤…適量」の電解金めっき液が開示され、この電解金めっき液を用いて電流密度…1.5A/dmで電気めっきしたことが記載されている。
【0008】
また、特開2005-256072号公報にも同様の電解金めっき液が開示されている。
すなわち、同明細書0028段落には、塩化金酸(HAuCl)とジメチルヒダントインとを反応させた「金錯体溶液…金濃度で15g/L、リン酸3ナトリウム …50g/L、リン酸2水素ナトリウム …30g/L、ギ酸タリウム(結晶調整剤)…適量」のめっき液が開示され、この電解金めっき液を電流密度…1.5A/dmで電気めっきしたことが記載されている。
【0009】
本明細書では、無電解金めっき浴における金ヒダントイン錯体を構成するヒダントイン化合物を大文字アルファベットで略記し、3価の金イオンを(Au3+)と表記する。そうすると、特開2003-183258号公報の3価の水酸化金ナトリウム(Na(Au(OH))と5,5-ジメチルヒダントイン(DMH)の金(III)錯体は、下記の一般式(a)に示すような[Au(DMH)を形成すると表記できる。
Na[Au(OH)]+4(DMH)-→ Na[Au(DMH)]………(a)
この金ヒダントイン錯体は、水溶液中で3価のAu3+イオンと(DMH)イオンとが結合して安定していることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平6-73554号公報
【文献】2015-151343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、1価のAuイオンと、ヒダントイン化合物(A)のいずれか1種とが結合した、例えばAu(I)(HY)錯体を金源に用い、併せて、ヒダントイン化合物(B)のいずれかを含有させることによって、赤みのない、厚い金めっき皮膜が得られる、安定した無電解金めっき浴及び無電解金めっき方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決し得た本発明の置換型無電解金めっき浴は、1価の金(I)イオン及び下記の式(1)で表されるヒダントイン化合物(A)、並びに、下記の式(1)で表されるヒダントイン化合物(B)を含むことを要旨とする。特に、1価の金(I)イオン及び下記の式(1)で表されるヒダントイン化合物(A)、並びに、当該ヒダントイン化合物(A)と異なる下記の式(1)で表される他のヒダントイン化合物(B)を含むことを要旨とする。
【0013】
【化1】
(1)
(式(1)中、R、R1及びR2は水素または1から3までの炭素原子を含むアルキル基であり、同じでも異なっていてもよい。)本発明の非シアン系の置換型無電解金めっき浴の例は、1価の金(I)錯体、ヒダントイン化合物(A)およびヒダントイン化合物(B)を含む無電解金めっき浴であって、当該金(I)錯体が1価のヒダントイン化合物(A)金(I)錯体であり、当該ヒダントイン化合物(A)がヒダントイン、5-メチルヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン、3,5,5-トリメチルヒダントイン、3-メチル-5-エチルヒダントイン、3-メチル-5,5-ジエチルヒダントイン、3,5,5-トリエチルヒダントイン、3,5-ジエチルヒダントイン、5-プロピルヒダントイン、5-イソプロピルヒダントイン、1-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヒダントインのうちのいずれかであり、当該ヒダントイン化合物(B)がヒダントイン、5-メチルヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン、3,5,5-トリメチルヒダントイン、3-メチル-5-エチルヒダントイン、3-メチル-5,5-ジエチルヒダントイン、3,5,5-トリエチルヒダントイン、3,5-ジエチルヒダントイン、5-プロピルヒダントイン、5-イソプロピルヒダントイン、1-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヒダントインのうちのいずれかであって当該ヒダントイン化合物(A)と異なるヒダントイン化合物である。
【0014】
また、上記課題を解決し得た本発明の還元型無電解金めっき浴は、1価の金(I)イオン及び上記の式(1)で表されるヒダントイン化合物(A)、及び下記の式(1)で表されるヒダントイン化合物(B)、並びに、還元剤を含むことを要旨とする。特に、1価の金(I)イオン及び上記の式(1)で表されるヒダントイン化合物(A)、当該ヒダントイン化合物(A)と異なる上記の式(1)で表される他のヒダントイン化合物(B)、並びに、還元剤を含むことを要旨とする。本発明の非シアン系の還元型無電解金めっき浴の例は、1価の金(I)錯体、ヒダントイン化合物(A)およびヒダントイン化合物(B)、並びに、還元剤を含む無電解金めっき浴であって、当該金(I)錯体が1価のヒダントイン化合物(A)金(I)錯体であり、当該ヒダントイン化合物(A)がヒダントイン、5-メチルヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン、3,5,5-トリメチルヒダントイン、3-メチル-5-エチルヒダントイン、3-メチル-5,5-ジエチルヒダントイン、3,5,5-トリエチルヒダントイン、3,5-ジエチルヒダントイン、5-プロピルヒダントイン、5-イソプロピルヒダントイン、1-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヒダントインのうちのいずれかであり、当該ヒダントイン化合物(B)がヒダントイン、5-メチルヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン、3,5,5-トリメチルヒダントイン、3-メチル-5-エチルヒダントイン、3-メチル-5,5-ジエチルヒダントイン、3,5,5-トリエチルヒダントイン、3,5-ジエチルヒダントイン、5-プロピルヒダントイン、5-イソプロピルヒダントイン、1-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヒダントインのうちのいずれかであって当該ヒダントイン化合物(A)と異なるヒダントイン化合物である。
【0015】
本発明の置換型無電解金めっき浴及び還元型無電解金めっき浴をまとめて無電解金めっき浴という。本発明の無電解金めっき浴における一方のヒダントイン化合物(A)及び他方のヒダントイン化合物(B)は、いずれも酸性下で安定な化合物である。これらの化合物は、酸性下でヒダントイン酸に変化せず、高アルカリ浴中でもヒダントイン酸に変化せず、無電解金めっき浴中で安定した性質を有する。
【0016】
本発明の無電解金めっき浴には、無機・有機のイオウ化合物を含有しないことが望ましい。特に、Sとして1g/L以上のイオウ化合物を含まないことがより望ましい。無機・有機のイオウ化合物としては、亜流酸塩、チオエーテル、チオール、スルホン酸塩、スルホンアミド、スルホキシドなどである。イオウは、金表面へ強く吸着しやすく還元剤としての性質もある。このため本発明の無電解金めっき浴にイオウ化合物が必要量以上にあると、めっき浴が不安定になりやすい。また、本発明の無電解金めっき浴にはシアン化合物は含まれない。
【0017】
上記の式(1)で表される一方のヒダントイン化合物(A)又は他方のヒダントイン化合物(B)の例は、ヒダントイン、5-メチルヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン、3,5,5-トリメチルヒダントイン、3-メチル-5-エチルヒダントイン、3-メチル-5,5-ジエチルヒダントイン、3,5,5-トリエチルヒダントイン、3,5-ジエチルヒダントイン、5-プロピルヒダントイン、5-イソプロピルヒダントイン、1-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヒダントインなどである。これらのヒダントイン化合物(A)又は他方のヒダントイン化合物(B)は無電解金めっき浴中で溶解している。
【0018】
また、1価の金(I)イオンは、既知の金(I)錯体を利用することができる。例えば、高温の高濃度塩酸中の塩化金(I)溶液における金(I)クロロ錯体を利用することができる。また、金(I)ヒダントイン錯体を原料に使用することができる。例えば、特開2003-183258号公報に記載されているように、水酸化金塩とヒダントイン化合物塩とを水溶液中で30~80℃で反応させることにより、金(I)イオンにヒダントイン化合物を配位させることができる。
【0019】
また、上記課題を解決し得た本発明の無電解金めっき浴中に被めっき体を浸漬して当該被めっき体表面に金被膜を形成させる無電解金めっき方法は、前記無電解金めっき浴が、1価の金(I)イオン及び上記の式(1)で表されるヒダントイン化合物(A)、並びに、上記の式(1)で表される他のヒダントイン化合物(B)、特に当該ヒダントイン化合物(A)と異なる上記の式(1)で表される他のヒダントイン化合物(B)を含む置換型無電解金めっき浴、あるいは、1価の金(I)イオン及び上記の式(1)で表されるヒダントイン化合物(A)、当該ヒダントイン化合物(A)と異なる上記の式(1)で表される他のヒダントイン化合物(B)、並びに、還元剤を含む還元型無電解金めっき浴であることを要旨とする。すなわち、本発明の無電解金めっき方法は、無電解金めっき浴中に被めっき体を浸漬して当該被めっき体表面に金被膜を形成させる無電解金めっき方法において、前記無電解金めっき浴が上記の本発明の非シアン系の置換型無電解金めっき浴および還元型無電解金めっき浴である。
【0020】
本発明の無電解金めっき浴の好ましい一方のヒダントイン化合物(A)の一つは、下記の式(2)で表されるヒダントイン(HY)である。
【化2】
(2)
【0021】
また、下記の式(3)で表される5-メチルヒダントイン(MHY)を一方のヒダントイン化合物(A)の一つに用いてもよい。
【化3】
(3)
【0022】
他方、本発明の無電解金めっき浴に好ましい他方のヒダントイン化合物(B)の一つは、下記の式(4)で表される5,5-ジメチルヒダントイン(dmh)である。
【化4】
(4)
【0023】
他方のヒダントイン化合物(B)の作用は、詳細にはわからないが、無電解金めっき浴中で遊離した1価の金イオンを捕捉して安定な金錯体([(Au(dmh) ]X-や[Au(HY)(dmh) ]Y-など)を形成しているようである。さらに、これらの金錯体は下地金属や析出した金金属上に、[Me(0)(dmh) ]Z-のように配位してAu(HY)錯体の橋渡しの役割を果たし、Au(HY)錯体の供給を円滑にさせるものと思料する。しかも、この安定な金錯体は卑な金属上でも安定的に置換還元される。このため、連続して無電解金めっき作業を行っても、無電解金めっき浴中に遊離したAuイオンを増やさない効果があり、浴安定性を維持しながら高速めっきを行うことが可能になるのである。
【0024】
さらに、本発明の還元型無電解金めっき浴の好ましい還元剤には、次亜リン酸及びその化合物、アスコルビン酸及びその化合物、ヒドロキノン及びその化合物、ギ酸及びその化合物、イソアスコルビン酸及びその化合物、キシリトール及びその化合物、ロンガリット及びその化合物、ピロガール及びその化合物、並びに、ヒドラジン及びその化合物等の内の少なくとも1種以上の還元剤を含むことができる。
【0025】
また、本発明の無電解金めっき浴の好ましい促進剤は、クエン酸及びその化合物、イミダゾール及びその化合物、エチレンジアミン及びその化合物、ジエチレントリアミン及びその化合物、並びに、トリエチレンテトラミン及びその化合物である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、安定な無電解金めっき浴が得られ、無電解金めっきの作業中に金微粒子が浴槽内に沈殿や付着することがない。また、本発明の無電解金めっき浴は、赤みが全くみられない金めっき皮膜を得ることができる効果がある。しかも、本発明の金めっき皮膜は密着力に優れている効果がある。また、本発明の無電解金めっき浴は、薄めっきだけでなく厚めっきをすることができる効果がある。
【0027】
本発明の無電解金めっき方法によれば、例えば、1列に並んだ異なる金属の無電解めっき工程の製造ラインを使ってNi/AuプロセスにもNi/Pd/Auプロセスにも対応することができる効果がある。また、本発明の無電解金めっき方法によれば、薄めっきでも良好な金皮膜の析出物を得ることができる効果がある。このためNiやCuなどの下地配線金属の孔食や局所的な腐食を抑制できる効果がある。本発明の無電解金めっき皮膜は、例えば低比抵抗や低接触抵抗などの電気的特性や良好な接合性などの接続信頼性に優れている。
【0028】
また本発明の無電解金めっき方法によれば、めっき皮膜を形成するパットのサイズが小さくても厚い膜厚のめっき皮膜を形成することができる効果がある。また、金めっき皮膜で消費された1価の金(I)イオン、あるいは、複数のヒダントイン化合物(A)又はヒダントイン化合物(B)の一つを無電解金めっき浴中へ補充することによって連続して無電解金めっきを行うことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1はプリント配線基板のテストパターンの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の金(I)ヒダントイン化合物(A)の製造方法について説明する。まず、金を王水にて溶解し、加熱濃縮後、加熱したまま塩酸を添加して脱硝酸をする。その後、濃縮して塩化金酸を得る。これを高真空中の条件下で100℃に加熱し、完全に水分を除去後、160℃以上加熱して窒素酸化物を分解し、濃塩酸の塩化第一金溶液を製造することができる。また、水酸化金ナトリウム(Na(Au(OH))の金(I)錯体を用いてもよい。このようにして得られた金(I)錯体溶液をヒダントイン塩水溶液に混合し、Au(HY)錯体の水溶液を製造することができる。例えば、1価の金錯体(ナトリウムビス(N-メチルヒダントイナト)金(I)四水和物)を形成することができる。
【0031】
本発明による無電解金めっき浴中の1価の金(I)イオンの濃度は、金(Au)の金属含有量として0.1~10g/L、特に0.2~5g/Lが好ましい。0.2g/L未満では、所定の膜厚が得られない場合がある。5g/Lを超えても、無電解金めっきの膜厚効果はほとんど変わらない。よって、金(Au)の金属含有量が5g/Lを超えると地金コストが高くなる。
【0032】
本発明による無電解金めっき浴においては、ヒダントイン化合物(B)以外の錯化剤、pH緩衝剤、機能性の添加剤等を含有することができる。当業者によく知られている結晶調整剤等の他の成分も必要に応じて含んでいてもよい。錯化剤は、主に被めっき体から溶解する下地金属をマスクして、無電解金めっき浴中の金成分の還元析出を防止する作用を有する添加剤である。本発明の金(I)ヒダントイン化合物(A)は還元されやすいため既知の錯化剤を適宜用いることができる。錯化剤は単独で用いることもでき、または、2種以上を併用することもできる。
【0033】
錯化剤としては、特に限定されず、アンモニア及びその化合物、アミン化合物、カルボン酸など各種公知の錯化剤を用いることができる。アミン化合物としては、グリシン及びその化合物、イミノ二酢酸及びその化合物、ニトリロトリ酢酸及びその化合物、エチレンジアミン四酢酸及びその化合物、ジエチレントリアミン五酢酸及びその化合物、エチレンジアミン誘導体、EDTA誘導体、リン酸誘導体などが挙げられる。カルボン酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、クエン酸、マロン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、酪酸、リン酸等およびこれらの塩類を用いることができる。これらの塩類としては、前記例示のアルカリ金属塩(例えば、カリウム塩またはナトリウム塩)、アルカリ金属土類塩、またはアンモニウム塩等が含まれる。
【0034】
無電解金めっき浴中の錯化剤の含有量(単独で含むときは単独の量であり、2種以上を含むときは合計量である)は上記作用が得られるように適宜調整すればよい。錯化剤の下限値は、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1g/L以上、更に好ましくは3g/L以上、より更に好ましくは5g/L以上である。また、錯化剤の上限値は、好ましくは50g/L以下、より好ましくは30g/L以下、更に好ましくは20g/L以下である。
【0035】
本発明では、pHを所定範囲に制御するため、pH緩衝剤を添加することができる。pH緩衝剤としては、例えば酢酸、プロピオン酸、クエン酸、マロン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、酪酸、リン酸、ホウ酸等及びその化合物などを、0.1~100g/Lの濃度範囲で添加することができる。またこれらのpH緩衝剤を1種又は2種以上を併用することができる。
【0036】
本発明の還元型無電解金めっき浴には、特に浴安定剤、速度調整剤、レベリング剤、結晶調整剤、応力緩和剤、物性向上剤等の機能性添加剤を用いることができる。イオウ化合物(Sとして1g/L未満)としてチオシアン酸及びその化合物、チオジグリコール酸及びその化合物、チオ硫酸及びその化合物等を用いることができる。
【0037】
また、窒素化合物としては、ベンゾトリアゾール及びその化合物、ビピリジン及びその化合物、ヒドロキシキノリン化合物等、ポリマー化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン等、金属系化合物としては、タリウム化合物、タングステン化合物、モリブデン化合物、ビスマス化合物等、ニトロ化合物としては、ニトロベンゼンスルフォン酸及びその化合物、パラニトロ安息香酸及びその化合物等を必要に応じて添加される。上記安定剤の種類は特に限定されず、公知の添加剤が用いられる。
【0038】
また、本発明の還元型無電解金めっき浴には還元剤を用いる。還元剤には、次亜リン酸及びその化合物、アスコルビン酸及びその化合物、ヒドロキノン及びその化合物、ギ酸及びその化合物、イソアスコルビン酸及びその化合物、キシリトール及びその化合物、ロンガリット及びその化合物、ピロガール及びその化合物、並びに、ヒドラジン及びその化合物等の内の少なくとも1種以上の還元剤を含むことが好ましい。還元剤の合計濃度は、0.1~50g/L、特に0.5~10g/Lであることが好ましい。
【0039】
本発明による置換型無電解金めっき浴の温度は、めっき作業の周囲環境に応じて適宜定めることができる。好ましくは30~95℃の範囲、より好ましくは70~90℃の範囲、さらにより好ましくは75~85℃の範囲である。置換型無電解金めっき浴のめっき時間は、時間延長に伴って、金の析出が低下し被めっき体の腐食が継続することを考慮する必要がある。好ましくは30分以内、より好ましくは15分以内である。
【0040】
本発明による還元型無電解金めっき浴の温度もめっき作業の周囲環境に応じて適宜定めることができる。好ましくは25~90℃の範囲、より好ましくは40~80℃の範囲、さらにより好ましくは50~70℃の範囲にある。還元型無電解金めっき浴のめっき時間は、好ましくは5~20分で膜厚0.1μmを得ることが望ましい。より薄いまたはより厚い析出物が望まれる場合、めっき時間は、上記範囲外にあってよく、相応に調整され得る。
【0041】
本発明による無電解金めっき浴のpHは次のとおりである。置換型無電解金めっき浴のpHは5~12の範囲がより好ましく、更に好ましいpHは7~9である。還元型無電解金めっき浴のpHは6~10の範囲がより好ましく、更に好ましいpHは8~10である。
【0042】
本発明の無電解めっき浴を用いてめっき皮膜を形成する場合、被めっき体となる下地金属は特に限定されない。被めっき体はAlやAl基合金、CuやCu基合金でもよい。SiOやSiN、GaNなど各種公知の半導体基体に、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ag、Pdなど、及びこれらの合金といった、金めっき皮膜の還元析出に触媒性のある金属で基体を被覆しためっき皮膜(中間層金属)でもよい。また、導電性のないセラミックやプラスチックであっても、種々の方法により被めっき体として用いることができる。好ましい下地金属はその表面が銅、ニッケル又はパラジウムである。
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
(実施例)
【0043】
置換型無電解金めっき浴及び還元型無電解金めっき浴に用いたテスト基板及び前処理方法は全ての試験において同一である。そして、異なる正方形のパッド面積を有するテスト基板を使用してパッドにおける平均のめっき膜厚を測定した。図1に示すプリント配線基板の中央部分にある上下点対称のパッド面積は、1:0.25mm、2:0.52mm、3:0.68mm、4:0.97mm、5:1.33mm、6:1.35mm、7:3.3mm、8:6.7mm、9:25mm、10:49mm及び11:90mmである。
【0044】
このプリント配線基板のテスト基板の前処理は、酸性洗浄後ソフトエッチングをした。その後、酸浸漬し、パラジウム触媒を付与してから還元ニッケルめっき5μmを施した。その後、以下の置換型無電解金めっき作業を行った。
(置換型無電解金めっき浴)
【0045】
置換型無電解金めっき浴の組成を表1に示す。実施例1~7が本発明の置換型無電解金めっき浴(pH=8)及びそれらの置換型無電解金めっき浴を用いた無電解金めっき方法である。実施例1、2、4、5及び7は、請求項3に係るヒダントイン化合物(A)のヒダントイン(HY)と、請求項4に係るヒダントイン化合物(B)の5,5-ジメチルヒダントイン(dmh)を用いたものである。実施例3及び実施例6は、ヒダントイン化合物(A)の5-メチルヒダントイン(MHY)と、請求項4に係るヒダントイン化合物(B)の5,5-ジメチルヒダントイン(dmh)を用いたものである。
【0046】
また、実施例1~3が促進剤を含まない置換型無電解金めっき浴で、実施例4~7が促進剤を更に含む置換型無電解金めっき浴である。実施例1~7の置換型無電解金めっき浴のすべてについて、pH=8として建浴を行い、浴温80℃とした。テスト基板は、前述の前処理を行った後、表1に示すとおり、それぞれ15分間の置換型無電解金めっき作業を行った。
【0047】
【表1】
【0048】
得られた金めっき皮膜のめっき膜厚及び膜厚ばらつきは、表2の「平均膜厚」欄の数値(μm)及び「膜厚ばらつき」欄の数値(CV:%)に記載したとおりである。なお、めっき膜厚及び膜厚ばらつきは、株式会社日立ハイテクサイエンス製の蛍光X線分析装置(SFT9550)を用いてテスト基板の中央部分にある上下点対称のパッドに形成された個々のめっき膜厚を測定した。このめっき膜厚の集計結果から平均膜厚(μm)と膜厚のばらつき(CV値(%))を算出した。
【0049】
【表2】
【0050】
表2の数値から明らかなように、いずれの実施例1~7も金めっき皮膜の膜厚が0.09μm以上あり、従来の膜厚「約0.04μm」(特開2015-151343号公報(前述した特許文献2)の明細書0023段落参照)よりも2倍以上厚い金めっき皮膜の膜厚が得られることがわかる。また、いずれの実施例1~7も膜厚ばらつきがCV値で20%以下の良好な皮膜が得られたことがわかる。
【0051】
他方、実施例1~7の金めっき皮膜は、いずれも赤みがみられず、良好な無光沢の外観を呈した。これを表2の「外観」欄に二重丸印(◎)で示す。さらに、表2には記載しないが、実施例1~7の金めっき皮膜をピールテストしたところ、テスト基板のいずれのパッドからも剥がれは見られなかった。また、これらの無電解めっき作業とは別に、実施例1~7の置換型無電解金めっき浴を建浴した日から1週間放置した。その結果、いずれのめっき浴も自己分解が見られず、優れた浴安定性を示すことがわかった。これを表2の「浴安定性」欄に丸印(〇)で示す。
【0052】
また、実施例1の請求項4に係るヒダントイン化合物(B)の5,5-ジメチルヒダントイン(dmh)の代わりにヒダントイン(hy)を用いて実施例1と同様の置換型無電解金めっき浴を用いた無電解金めっき作業を行ったところ、表2に示される実施例1と同様の結果を得た。
(還元型無電解金めっき浴)
【0053】
還元型無電解金めっき浴の組成を表3に示す。実施例8~23が本発明の還元型無電解金めっき浴(pH=9)及びそれらの還元型無電解金めっき浴を用いた無電解金めっき方法である。浴温度を60℃、めっき時間を10分間とした以外は、実施例1と同様にして、実施例8~23の還元型無電解金めっき作業を行った。
【0054】
【表3】
【0055】
ここで、実施例8~20は、金(I)イオンを金として1g/L含有している還元型無電解金めっき浴である。同様に、実施例21は、金(I)イオンを金として0.5g/L含有し、実施例22は2g/L含有し、実施例23は4g/L含有している。また、実施例8~15及び実施例17~23は、請求項3に係るヒダントイン化合物(A)のヒダントイン(HY)と、請求項4に係るヒダントイン化合物(B)の5,5-ジメチルヒダントイン(dmh)を用いたものである。実施例16は、ヒダントイン化合物(A)の5-メチルヒダントイン(MHY)と、請求項4に係るヒダントイン化合物(B)の5,5-ジメチルヒダントイン(dmh)を用いたものである。また、実施例8~11が促進剤を含まない無電解金めっき浴で、実施例12~23が促進剤を更に含む無電解金めっき浴である。
【0056】
得られた金めっき皮膜の平均膜厚及び膜厚ばらつきは、表4の「平均膜厚」欄の数値(μm)及び「膜厚ばらつき」欄の数値(CV:%)に記載したとおりである。
【0057】
【表4】
【0058】
表4から明らかなように、促進剤を更に含まない実施例8~11の還元型無電解金めっき浴でも、いずれも金めっき皮膜の平均膜厚が0.07μm以上得られることがわかる。すなわち、実施例8~10の還元型無電解金めっき浴では、従来技術の金めっき皮膜の膜厚「約0.04μm」よりも2倍以上厚い膜厚が得られることがわかる。
【0059】
また、金の含有量が少ない実施例21の還元型無電解金めっき浴では平均膜厚が0.06μmしか得られないのに対し、金の含有量を多くした実施例22及び23の無電解金めっき浴では平均膜厚が0.18μm及び0.23μmと厚い金めっき皮膜の膜厚が得られることがわかる。すなわち、本発明の還元型無電解金めっき浴では金の含有量によって金めっき皮膜の膜厚を調整することができることがわかる。
【0060】
また、いずれの実施例1~7も膜厚ばらつきがCV値で20%以下の良好な金めっき皮膜が得られたことがわかる。また、膜厚ばらつきについて促進剤の無い実施例8~11の無電解金めっき浴と促進剤を含む実施例12~23の無電解金めっき浴を比較すると、促進剤を含む無電解金めっき浴のほうが、膜厚ばらつきが小さくなることがわかる。
【0061】
他方、金めっき皮膜は、いずれも赤みのない良好な無光沢の外観を呈した。特に、実施例23の平均膜厚が0.23μmのテスト基板も赤みが全くみられなかった。この結果を表4の「外観」欄に二重丸印(◎)で示す。さらに、表4には記載しないが、実施例1~7の金めっき皮膜をピールテストしたところ、テスト基板のいずれのパッドからも剥がれは見られなかった。また、これらの無電解めっき作業とは別に、実施例8~23の還元型無電解金めっき浴を建浴した日から1週間放置したところ、いずれのめっき浴も自己分解が見られず、優れた浴安定性を示すことがわかった。これを表4の「浴安定性」欄に丸印(〇)で示す。
【0062】
また、実施例12の請求項4に係る5,5-ジメチルヒダントイン(dmh)の代わりにヒダントイン化合物(B)のヒダントイン(hy)を用いて実施例12と同様の還元型無電解金めっき浴を用いた無電解金めっき作業を行ったところ、表4に示される実施例12と同様の結果を得た。
(比較例)
【0063】
比較例1は、実施例1と同様にヒダントイン化合物(A)のヒダントイン(HY)を用い、ヒダントイン化合物(B)を用いないで1価のヒダントイン金(I)(Au+(HY)-)錯体を含む置換型無電解金めっき浴を建浴した。比較例2は、実施例8のヒダントイン化合物(A)の代わりに3価の塩化金(III)酸を用い、ヒダントイン化合物(B)の5,5-ジメチルヒダントイン(dmh)を含む還元型無電解金めっき浴を建浴した。その組成を表5の比較例1及び2に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
無電解金めっき浴の組成以外は、実施例1及び実施例8と同様にして、比較例1及び比較例2の無電解金めっき作業を行った。得られた金めっき皮膜の平均膜厚及び膜厚ばらつきは、表6に記載したとおりである。
【0066】
【表6】
【0067】
比較例1の金めっき皮膜は、膜厚が測定できなかったため比較例1の平均膜厚及び膜厚ばらつきを表6中にバツ印(×)で示した。また、比較例1の金めっき皮膜は、黒っぽいまだら模様の極薄膜しか得られなかった。このため外観も表6中にバツ印(×)で示した。さらに、これらの無電解めっき作業とは別に、比較例1の置換型無電解金めっき浴を建浴した日から1週間放置したところ、比較例1の金めっき浴は自己分解してめっき浴槽内に金微粒子の付着がみられた。これを表6の浴安定性の欄にバツ印(×)で示した。
【0068】
また、比較例2の金めっき皮膜は、表6に記載されている通り、平均膜厚0.02μmであり、従来技術の膜厚「約0.04μm」(特開2015-151343号公報(前述した特許文献2)の明細書0023段落参照)の半分しかないことがわかる。比較例2の金めっき皮膜の膜厚ばらつきは30%であり、本発明の実施例8の膜厚ばらつき15%以下よりも2倍以上大きいことがわかる。
【0069】
なお、比較例2の金めっき皮膜は無光沢の外観を呈した。さらに、比較例2の金めっき皮膜をピールテストしたところ、テスト基板のいずれのパッドからも剥がれは見られなかった。これを表6の「外観」欄に丸印(〇)で示す。また、これらの無電解めっき作業とは別に、比較例2の還元型無電解金めっき浴を建浴した日から1週間放置したところ自己分解が見られなかった。これを表6の「浴安定性」欄に丸印(〇)で示す。
図1