IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝三菱電機産業システム株式会社の特許一覧 ▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-3レベル電力変換器の制御装置 図1
  • 特許-3レベル電力変換器の制御装置 図2
  • 特許-3レベル電力変換器の制御装置 図3
  • 特許-3レベル電力変換器の制御装置 図4
  • 特許-3レベル電力変換器の制御装置 図5
  • 特許-3レベル電力変換器の制御装置 図6
  • 特許-3レベル電力変換器の制御装置 図7
  • 特許-3レベル電力変換器の制御装置 図8
  • 特許-3レベル電力変換器の制御装置 図9
  • 特許-3レベル電力変換器の制御装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】3レベル電力変換器の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/487 20070101AFI20230720BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20230720BHJP
【FI】
H02M7/487
H02M7/48 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020168688
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2022060920
(43)【公開日】2022-04-15
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷内田 貴行
(72)【発明者】
【氏名】奥山 涼太
(72)【発明者】
【氏名】藤井 俊行
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-079574(JP,A)
【文献】特開2013-255317(JP,A)
【文献】特開2013-247725(JP,A)
【文献】特開平08-289565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/487
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3レベルの直流電圧を交流電圧に変換する複数のスイッチング素子を含む3レベル電力変換器の制御装置であって、
前記3レベル電力変換器の出力電圧指令を補正する補正回路と、
前記補正回路によって補正された前記出力電圧指令に応じて前記複数のスイッチング素子を制御する制御回路とを備え、
前記補正回路は、
前記3レベル電力変換器の基本波の偶数次調波を生成する少なくとも1つの生成器と、
前記偶数次調波を前記出力電圧指令に加算する加算器とを含み、
前記少なくとも1つの生成器は、前記3レベル電力変換器の出力電流から抽出された有効成分を前記出力電流から抽出された無効成分で除算した値の逆正接だけ前記基本波に対して位相がずれるように、前記偶数次調波の位相を決定する、制御装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つの生成器は、
前記基本波の2次調波を生成する2次調波生成器と、
前記基本波の4次調波を生成する4次調波生成器と、
前記基本波の8次調波を生成する8次調波生成器との少なくとも1つを含み、
前記2次調波生成器は、前記出力電流の有効成分を前記出力電流の無効成分で除算した値、または、前記出力電流のうちの逆相成分の有効成分を前記逆相成分の無効成分で除算した値をQ1とするとき、前記基本波に対してarctan(Q1)だけ進むように前記2次調波の位相を決定し、
前記4次調波生成器は、前記基本波に対してarctan(Q1)だけ遅れるように前記4次調波の位相を決定し、
前記8次調波生成器は、前記基本波に対してarctan(Q1)だけ進むように前記8次調波の位相を決定する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの生成器は、前記基本波の6次調波を生成する6次調波生成器を含み、
前記6次調波生成器は、前記出力電流の有効成分を前記出力電流の無効成分で除算した値、または、前記出力電流のうちの正相成分の有効成分を前記正相成分の無効成分で除算した値をQ2とするとき、前記基本波に対してarctan(Q2)だけ進むように前記6次調波の位相を決定する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの生成器は、
少なくとも1つの第1生成器と、
前記基本波の6次調波を生成する第2生成器とを含み、
前記少なくとも1つの第1生成器は、
前記基本波の2次調波を生成する2次調波生成器と、
前記基本波の4次調波を生成する4次調波生成器と、
前記基本波の8次調波を生成する8次調波生成器との少なくとも1つを含み、
前記2次調波生成器は、前記出力電流のうちの逆相成分の有効成分を前記逆相成分の無効成分で除算した値をQ1とするとき、前記基本波に対してarctan(Q1)だけ進むように前記2次調波の位相を決定し、
前記4次調波生成器は、前記基本波に対してarctan(Q1)だけ遅れるように前記4次調波の位相を決定し、
前記8次調波生成器は、前記基本波に対してarctan(Q1)だけ進むように前記8次調波の位相を決定し、
前記第2生成器は、前記出力電流のうちの正相成分の有効成分を前記正相成分の無効成分で除算した値をQ2とするとき、前記基本波に対してarctan(Q2)だけ進むように前記6次調波の位相を決定する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項5】
前記3レベル電力変換器は、第1端子と、前記第1端子よりも低電位の第2端子と、前記第1端子と前記第2端子との中間電位点とを有する直流回路をさらに含み、
前記補正回路は、
前記第1端子と前記中間電位点との間の電圧と、前記中間電位点と前記第2端子との間の電圧との偏差に基づいて、前記偶数次調波の振幅を調整する調整器をさらに含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、3レベル電力変換器の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直流電力を交流電力に変換するNPC(Neutral-Point-Clamped)方式(中性点クランプ方式)の3レベル電力変換器が知られている。NPC方式の3レベル電力変換器では、コンデンサによって直流電圧を高電位側と低電位側とに均等に分割し、高電位側直流電圧と低電位側直流電圧とを均等に保持する中性点電位制御が必要になる。
【0003】
特開2013-255317号公報(特許文献1)は、偶数次調波を出力電圧指令に加算することにより、高電位側直流電圧と低電位側直流電圧とのアンバランスを抑制する制御装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-255317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
3レベル電力変換器の出力電圧に対する出力電流の位相は変動し得る。特許文献1に記載の技術では、出力電圧指令に加算される偶数次調波の位相が一定である。そのため、出力電流の位相が変動したときに、高電位側直流電圧と低電位側直流電圧とのアンバランスを十分に抑制できない。
【0006】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、出力電流の位相が変動した場合であっても、高電位側直流電圧と低電位側直流電圧とのアンバランスを抑制できる3レベル電力変換器の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る制御装置は、3レベルの直流電圧を交流電圧に変換する複数のスイッチング素子を含む3レベル電力変換器の制御装置である。制御装置は、3レベル電力変換器の出力電圧指令を補正する補正回路と、補正回路によって補正された出力電圧指令に応じて複数のスイッチング素子を制御する制御回路とを備える。補正回路は、3レベル電力変換器の基本波の偶数次調波を生成する少なくとも1つの生成器と、偶数次調波を出力電圧指令に加算する加算器とを含む。少なくとも1つの生成器は、3レベル電力変換器の出力電流から抽出された有効成分を出力電流から抽出された無効成分で除算した値の逆正接だけ基本波に対して位相がずれるように、偶数次調波の位相を決定する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、出力電流の位相が変動した場合であっても、高電位側直流電圧と低電位側直流電圧とのアンバランスを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る3レベル電力変換器1の全体構成を示す図である。
図2】参考形態に係る制御装置900の構成を示す図である。
図3】U相の出力電圧波形および出力電流波形の一例を示す図である。
図4】2次調波を出力電圧指令Vu,Vv,Vwに加算したときの、図1に示す直流回路200およびスイッチング回路300のモデルを用いたシミュレーション結果を示す図である。
図5】実施の形態1に係る制御装置100の内部構成を示す図である。
図6】4次調波を出力電圧指令Vu,Vv,Vwに加算したときの、図1に示す直流回路200およびスイッチング回路300のモデルを用いたシミュレーション結果を示す図である。
図7】8次調波を出力電圧指令Vu,Vv,Vwに加算したときの、図1に示す直流回路200およびスイッチング回路300のモデルを用いたシミュレーション結果を示す図である。
図8】6次調波を出力電圧指令Vu,Vv,Vwに加算したときの、図1に示す直流回路200およびスイッチング回路300のモデルを用いたシミュレーション結果を示す図である。
図9】実施の形態2に係る制御装置100Aの内部構成を示す図である。
図10】変形例に係る3レベル電力変換器の全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本開示の実施の形態について説明する。以下図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則的には繰り返さないものとする。なお、以下で説明される実施の形態および変形例は、適宜選択的に組み合わされてもよい。
【0011】
[実施の形態1]
<3レベル電力変換器の全体構成>
図1は、実施の形態1に係る3レベル電力変換器1の全体構成を示す図である。図1に示されるように、3レベル電力変換器1は、制御装置100と、直流回路200と、スイッチング回路300と、変流器3U,3V,3Wとを備える。
【0012】
直流回路200は、高電位端子T1と、低電位端子T2と、コンデンサC1,C2とを含む。
【0013】
高電位端子T1は、図示しない直流電源の正極に接続される。低電位端子T2は、直流電源の負極に接続される。これにより、低電位端子T2は、高電位端子T1よりも低電位となる。
【0014】
コンデンサC1,C2は、高電位端子T1と低電位端子T2との間に直列に接続される。コンデンサC1,C2は、高電位端子T1と低電位端子T2との間の直流電圧を、高電位側の電圧V1と低電位側の電圧V2とに分圧する。コンデンサC1とコンデンサC2とは、中性点Nで互いに接続される。
【0015】
スイッチング回路300は、直流回路200における3レベルの直流電圧を三相(U相,V相,W相)交流電圧に変換して、三相交流電圧を負荷5に供給する。スイッチング回路300によって生成される三相交流電圧の各々は、高電位端子T1の電位、中性点Nの電位、低電位端子T2の電位、中性点Nの電位、高電位端子T1の電位、・・・の順で変化する3レベルの交流電圧である。
【0016】
スイッチング回路300は、スイッチング素子S1U~S4U,S1V~S4V,S1W~S4Wを含む。スイッチング素子S1U~S4U,S1V~S4V,S1W~S4Wは、たとえば、ゲート信号によってオン、オフ可能なIGBTなどの自己消弧形半導体素子と逆並列接続ダイオードとによって構成されるスイッチングデバイスである。
【0017】
スイッチング素子S1U~S4Uは、直流電圧をU相の交流電圧に変換する3レベルインバータを構成する。スイッチング素子S1V~S4Vは、直流電圧をV相の交流電圧に変換する3レベルインバータを構成する。スイッチング素子S1W~S4Wは、直流電圧をW相の交流電圧に変換する3レベルインバータを構成する。
【0018】
図1には、T型NPC(Advanced Neutral-Point-Clamped)方式に従った3レベルインバータが示される。すなわち、スイッチング素子S1U,S2Uは、高電位端子T1と低電位端子T2との間に直列に接続される。スイッチング素子S1U,S2Uの接続点2Uと中性点Nとの間には、スイッチング素子S3U,S4Uが、互いに逆の耐圧方向に制御できる方向に直列接続されている。同様に、スイッチング素子S1V,S2Vは、高電位端子T1と低電位端子T2との間に直列に接続される。スイッチング素子S1V,S2Vの接続点2Vと中性点Nとの間には、スイッチング素子S3V,S4Vが、互いに逆の耐圧方向に制御できる方向に直列接続されている。スイッチング素子S1W,S2Wは、高電位端子T1と低電位端子T2との間に直列に接続される。スイッチング素子S1W,S2Wの接続点2Vと中性点Nとの間には、スイッチング素子S3W,S4Wが、互いに逆の耐圧方向に制御できる方向に直列接続されている。
【0019】
接続点2U,2V,2WからU相,V相,W相の交流電力が負荷5にそれぞれ出力される。
【0020】
接続点2Uの電位は、スイッチング素子S1U~S4Uの状態に応じて、高電位端子T1の電位、中性点Nの電位、低電位端子T2の電位のいずれかをとる。たとえば、スイッチング素子S1U,S4Uがオンであり、スイッチング素子S2U,S3Uがオフであるとき、接続点2Uの電位は、高電位端子T1の電位となる。スイッチング素子S1U,S4Uがオフであり、スイッチング素子S2U,S3Uがオンであるとき、接続点2Uの電位は、低電位端子T2の電位となる。スイッチング素子S1U,S2Uがオフであり、スイッチング素子S3U,S4Uがオンであるとき、接続点2Uの電位は、中性点Nの電位となる。
【0021】
同様に、接続点2Vの電位は、スイッチング素子S1V~S4Vの状態に応じて、高電位端子T1の電位、中性点Nの電位、低電位端子T2の電位のいずれかをとる。接続点2Wの電位は、スイッチング素子S1W~S4Wの状態に応じて、高電位端子T1の電位、中性点Nの電位、低電位端子T2の電位のいずれかをとる。
【0022】
変流器3U,3V,3Wは、接続点2U,2V,2Wと負荷5との間にそれぞれ設けられる。変流器3U,3V,3Wは、接続点2U,2V,2Wから負荷5に流出する出力電流iu,iv,iwの値をそれぞれ測定する。変流器3U,3V,3Wは、測定した出力電流iu,iv,iwの値を制御装置100に出力する。
【0023】
制御装置100は、スイッチング素子S1U~S4U,S1V~S4V,S1W~S4Wの各々をPWM(Pulse Width Modulation)制御することにより、接続点2U,2V,2WからU相,V相,W相の交流電力を出力させる。図1に示されるように、制御装置100は、補正回路10と、PWM制御回路40とを備える。
【0024】
補正回路10は、3レベル電力変換器1の出力電圧指令Vu,Vv,Vwを補正する。出力電圧指令Vuは、U相の出力電圧指令であり、制御装置100が記憶する位相θの正弦波sinθに同期した信号である。出力電圧指令Vvは、V相の出力電圧指令であり、出力電圧指令Vuに対して120°遅れた信号である。出力電圧指令Vwは、W相の出力電圧指令であり、出力電圧指令Vuに対して120°進んだ信号である。
【0025】
PWM制御回路40は、補正回路10によって補正された出力電圧指令Vu,Vv,Vwに応じてスイッチング素子S1U~S4U,S1V~S4V,S1W~S4Wを制御する。具体的には、PWM制御回路40は、補正された出力電圧指令Vu,Vv,Vwと搬送波信号とを比較することにより、スイッチング素子S1U~S4U,S1V~S4V,S1W~S4Wのオン/オフをそれぞれPWM制御する。
【0026】
<参考形態に係る制御装置>
実施の形態1に係る制御装置100の内部構成を説明する前に、図2を参照して、参考形態に係る制御装置の構成について説明する。
【0027】
図2は、参考形態に係る制御装置900の構成を示す図である。図2に示されるように、制御装置900は、演算部91と、極性判定器92と、正弦波発生器93と、減算器94と、アンプ95と、乗算器96と、加算器97~99と、PWM制御回路40とを備える。以下、図1に示す3レベル電力変換器1において制御装置100の代わりに制御装置900を適用したと仮定したときの、制御装置900の各構成の動作について説明する。
【0028】
演算部91は、出力電圧指令Vu,Vv,Vwと出力電流iu,iv,iwとに基づいて、3レベル電力変換器1から出力される無効電力を演算し、演算結果を出力する。演算部91から出力される無効電力は、出力電圧指令Vu,Vv,Vwに対して出力電流iu,iv,iwの位相が遅れているとき(つまり、誘導負荷に応じて遅れ無効電力を出力しているとき)、正となるように定義されている。演算部91から出力される無効電力は、出力電圧指令Vu,Vv,Vwに対して出力電流iu,iv,iwの位相が進んでいるとき(つまり、容量負荷に応じて進み無効電力を出力しているとき)、負となるように定義されている。
【0029】
演算部91は、たとえば、出力電圧指令と同じ位相の正弦波を用いて、出力電流iu,iv,iwをdq変換することにより、無効電力を演算すればよい。
【0030】
極性判定器92は、演算部91から出力される無効電力の値の正負の判定結果を出力する。極性判定器92は、無効電力の値が正であるとき(つまり、誘導負荷に応じて遅れ無効電力を出力しているとき)、判定結果「1」を出力する。極性判定器92は、無効電力の値が負であるとき(つまり、容量負荷に応じて進み無効電力を出力しているとき)、判定結果「-1」を出力する。
【0031】
正弦波発生器93は、3レベル電力変換器1の基本波の偶数(2n)倍の周波数を有する偶数次調波(sin(2nθ))を発生させる。正弦波発生器93は、発生させた偶数次調波に対して、極性判定器92から出力される判定結果を乗算し、判定結果が乗算された偶数次調波を出力する。正弦波発生器93から出力される偶数次調波の位相は、基本波の位相と同じである。
【0032】
なお、3レベル電力変換器1の基本波は、制御装置100が記憶する位相θの正弦波sinθに同期する。すなわち、基本波は、U相の出力電圧指令Vuと同期する。
【0033】
減算器94は、3レベル電力変換器1における電圧V1と電圧V2との偏差(V1-V2)を演算する。電圧V1および電圧V2の値は、図示しない電圧検出器によって検出され、減算器94に入力される。減算器94によって演算された偏差は、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの度合いを示す。
【0034】
アンプ95は、減算器94によって演算された偏差に予め定められたゲインKを乗算し、乗算結果を出力する。
【0035】
乗算器96は、正弦波発生器93から出力される偶数次調波とアンプ95の出力とを乗算し、偶数次調波の振幅を調整する。
【0036】
乗算器96は、電圧V1と電圧V2との大小関係に応じて、偶数次調波の符号を切り替える。アンプ95の出力の符号は、電圧V1と電圧V2との大小関係に応じて、変化する。具体的には、電圧V1>電圧V2の場合、アンプ95の出力は正となる。電圧V1<電圧V2の場合、アンプ95の出力は負となる。そのため、乗算器96は、電圧V1>電圧V2の場合、正弦波発生器93から出力される偶数次調波の符号を反転させない。乗算器96は、電圧V1<電圧V2の場合、正弦波発生器93から出力される偶数次調波の符号を反転させる。
【0037】
加算器97~99は、U相,V相,W相の出力電圧指令Vu,Vv,Vwに乗算器96の出力を加算することにより、出力電圧指令Vu,Vv,Vwを補正する。
【0038】
PWM制御回路40は、加算器97~99によって補正された出力電圧指令Vu,Vv,Vwに応じてスイッチング素子S1U~S4U,S1V~S4V,S1W~S4Wをそれぞれ制御する。
【0039】
3レベル電力変換器1において制御装置100の代わりに参考形態に係る制御装置900を適用すると、進み無効電力か遅れ無効電力かに応じて偶数次調波の符号が決定され、当該偶数次調波が出力電圧指令Vu,Vv,Vwに加算される。
【0040】
<参考形態に係る制御装置を適用したときの問題点>
次に、図2に示す参考形態に係る制御装置900を3レベル電力変換器1に適用したときの問題点について説明する。
【0041】
出力電圧指令Vu,Vv,Vwに加算される偶数次調波の振幅(大きさ)をΔhとし、偶数次調波の次数をhとし、基本波に対する偶数次調波の位相差をφhとすると、出力電圧は以下の式で表される。
【0042】
【数1】
【0043】
式(1)は、U相の出力電圧kuを示す。式(2)は、V相の出力電圧kvを示す。式(3)は、W相の出力電圧kwを示す。出力電圧ku,kv,kwは、PWM制御回路40に入力される、補正後の出力電圧指令に対応する。
【0044】
負荷5の構成および状態に応じて、3レベル電力変換器1から出力される電力のうち無効電力と有効電力との割合が変動し得る。無効電力と有効電力との割合は、出力電圧に対する出力電流の位相に依存する。
【0045】
図3は、U相の出力電圧波形および出力電流波形の一例を示す図である。出力電圧と出力電流との位相が一致する場合、有効電力のみが出力される。出力電圧に対して出力電流の位相が90°ずれている場合、無効電力のみが出力される。無効電力および有効電力を出力している場合、無効電力と有効電力との割合に応じて、出力電圧に対する出力電流の位相が変化する。
【0046】
また、3レベル電力変換器1に接続される負荷5の構成によって、出力電流に逆相電流成分(以下、「逆相成分」とも称する。)が生じうる。たとえば、負荷5が一般家庭の電源のように三相から二相を取る結線で構成されている場合、逆相成分が容易に発生する。さらにフリッカ成分が含まれると、逆相フリッカ成分が生じる。
【0047】
出力電流に含まれる正相電流成分(以下、「正相成分」とも称する。)の振幅(大きさ)をIp、正相成分の位相をφp、出力電流に含まれる逆相成分の振幅(大きさ)をIn、逆相成分の位相をφnとすると、出力電流は以下の式で表される。
【0048】
【数2】
【0049】
式(4)は、U相の出力電流iuを示す。式(5)は、V相の出力電流ivを示す。式(6)は、W相の出力電流iwを示す。
【0050】
図4は、偶数次調波として2次調波(つまり、h=2)を出力電圧指令Vu,Vv,Vwに加算したときの、図1に示す直流回路200およびスイッチング回路300のモデルを用いたシミュレーション結果を示す図である。
【0051】
図4には、出力電流が逆相成分のみであると仮定したときの(つまり、Ip=0)、電圧V1と電圧V2との偏差の抑制能力が示される。図4に示されるグラフにおいて、横軸は、基本波に対する2次調波の位相差φhを示し、縦軸は、電圧V1と電圧V2との偏差の抑制能力を示す。抑制能力の絶対値が大きいほど、電圧V1と電圧V2との偏差がより抑制されている。
【0052】
図4には、出力電圧に対する逆相成分の位相φn=-90°,-60°,-30°,0°のときの波形が示される。位相φn=-90°の波形は、無効電力のみを出力しているときに対応している。位相φn=0°の波形は、有効電力のみを出力しているときに対応している。位相φn=-60°の波形は、無効電力と有効電力とを出力し、無効電力が有効電力よりも大きいときに対応している。位相φn=-30°の波形は、無効電力と有効電力とを出力し、有効電力が無効電力よりも大きいときに対応している。
【0053】
図2に示す制御装置900では、偶数次調波の位相は、基本波の位相と同じである。すなわち、基本波に対する2次調波の位相差φhは、図4中の破線50で示されるように、0°に固定される。そのため、位相φn=-90°のとき、つまり、無効電力のみを出力しているときには、電圧V1と電圧V2とのアンバランスを抑制できる。しかしながら、有効電力の割合が増えるにつれて、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力が低下する。
【0054】
したがって、図2に示す制御装置900を3レベル電力変換器1に適用したとき、有効電力の割合が増えるように出力電圧に対する出力電流の位相が変動すると、電圧V1と電圧V2とのアンバランスを十分に抑制できなくなる。
【0055】
<本実施の形態に係る制御装置の構成>
図5は、実施の形態1に係る制御装置100の内部構成を示す図である。図5に示されるように、補正回路10は、演算部11と、逆正接算出器12と、生成器13~16と、加算器17~19と、減算器20と、調整器21と、加算器23~25とを含む。
【0056】
演算部11は、変流器3U,3V,3Wによって測定された出力電流iu,iv,iwの値に基づいて、出力電流のうちの無効成分Xと有効成分Yとを演算する。無効成分Xは、無効電力に対応する成分である。有効成分Yは、有効電力に対応する成分である。
【0057】
演算部11は、たとえば三相二相変換などの公知の演算方法を用いて、出力電流iu,iv,iwから無効成分Xおよび有効成分Yを演算すればよい。
【0058】
たとえば、演算部11は、以下の式(7)に従って、出力電流iu,iv,iwを交流電流iα,iβに三相二相変換する。
【0059】
【数3】
【0060】
次に、交流電流iα,iβを以下の式(8)に従ってdq変換する。dq変換により得られるd軸成分idおよびq軸成分iqは、出力電流の有効成分Yおよび出力電流の無効成分Xをそれぞれ示す。
【0061】
【数4】
【0062】
演算部11は、演算結果である無効成分Xおよび有効成分Yを逆正接算出器12に出力する。
【0063】
逆正接算出器12は、有効成分Yを無効成分Xで除算した値の逆正接P(=arctan(Y/X))を算出する。
【0064】
生成器13~16は、3レベル電力変換器1の基本波の偶数次調波として、2次調波,4次調波,8次調波および6次調波をそれぞれ生成する。生成器13~16は、有効成分Yを無効成分Xで除算した値の逆正接Pだけ基本波に対して位相がずれるように、偶数次調波の位相を決定する。
【0065】
生成器13は、余弦算出器30と、正弦算出器31と、正弦波発生器13aと、余弦波発生器13bと,加算器13cと、アンプ13dとを有する。
【0066】
余弦算出器30は、逆正接Pに対する余弦(cosP)を算出する。正弦算出器31は、逆正接Pに対する正弦(sinP)を算出する。
【0067】
正弦波発生器13aは、基本波の2倍の周波数を有する正弦波(sin(2θ))を発生させる。正弦波発生器13aは、発生させた正弦波に対して、余弦算出器30から出力されるcosPを乗算し、cosPが乗算された正弦波(cosP*sin(2θ))を出力する。
【0068】
余弦波発生器13bは、基本波の2倍の周波数を有する余弦波(cos(2θ))を発生させる。余弦波発生器13bは、発生させた余弦波に対して、正弦算出器31から出力されるsinPを乗算し、sinPが乗算された余弦波(sinP*cos(2θ))を出力する。
【0069】
加算器13cは、正弦波発生器13aから出力される正弦波(cosP*sin(2θ))と余弦波発生器13bから出力される余弦波(sinP*cos(2θ))とを加算する。加算器13cから出力される波は、以下の式(9)においてhに2を代入した三角関数で表され、基本波に対して逆正接Pだけ位相のずれた2次調波となる。具体的には、加算器13cから出力される波は、基本波に対して逆正接Pだけ進んだ2次調波となる。
cosP*sin(hθ)+sinP*cos(hθ)
={sin(P+hθ)-sin(P-hθ)}/2+{sin(P+hθ)+sin(P-hθ)}/2
=sin(P+hθ)
=sin(hθ+P) 式(9)。
【0070】
アンプ13dは、加算器13cから出力される2次調波(sin(2θ+P))に、負荷5の構成に応じて予め定められたゲインK2を乗算し、乗算結果を出力する。
【0071】
生成器14は、生成器13と比較して、正弦波発生器13a、余弦波発生器13b,加算器13cおよびアンプ13dの代わりに、正弦波発生器14a、余弦波発生器14b,減算器14cおよびアンプ14dをそれぞれ有する点で相違する。
【0072】
正弦波発生器14aは、基本波の4倍の周波数を有する正弦波(sin(4θ))を発生させる。正弦波発生器14aは、発生させた正弦波に対して、余弦算出器30から出力されるcosPを乗算し、cosPが乗算された正弦波(cosP*sin(4θ))を出力する。
【0073】
余弦波発生器14bは、基本波の4倍の周波数を有する余弦波(cos(4θ))を発生させる。余弦波発生器14bは、発生させた余弦波に対して、正弦算出器31から出力されるsinPを乗算し、sinPが乗算された余弦波(sinP*cos(4θ))を出力する。
【0074】
減算器14cは、正弦波発生器14aから出力される正弦波(cosP*sin(4θ))から、余弦波発生器13bから出力される余弦波(sinP*cos(4θ))を減算する。減算器14cから出力される波は、以下の式(10)に示されるように、基本波に対して逆正接Pだけ位相のずれた4次調波となる。具体的には、減算器14cから出力される波は、基本波に対して逆正接Pだけ遅れた4次調波となる。
cosP*sin(4θ)-sinP*cos(4θ)
={sin(P+4θ)-sin(P-4θ)}/2-{sin(P+4θ)+sin(P-4θ)}/2
=-sin(P-4θ)
=sin(4θ-P) 式(10)。
【0075】
アンプ14dは、減算器14cから出力される4次調波(sin(4θ-P))に、負荷5の構成に応じて予め定められたゲインK3を乗算し、乗算結果を出力する。
【0076】
生成器15は、生成器13と比較して、正弦波発生器13a、余弦波発生器13b,加算器13cおよびアンプ13dの代わりに、正弦波発生器15a、余弦波発生器15b,加算器15cおよびアンプ15dをそれぞれ有する点で相違する。
【0077】
正弦波発生器15aは、基本波の8倍の周波数を有する正弦波(sin(8θ))を発生させる。正弦波発生器15aは、発生させた正弦波に対して、余弦算出器30から出力されるcosPを乗算し、cosPが乗算された正弦波(cosP*sin(8θ))を出力する。
【0078】
余弦波発生器15bは、基本波の8倍の周波数を有する余弦波(cos(8θ))を発生させる。余弦波発生器15bは、発生させた余弦波に対して、正弦算出器31から出力されるsinPを乗算し、sinPが乗算された余弦波(sinP*cos(8θ))を出力する。
【0079】
加算器15cは、正弦波発生器15aから出力される正弦波(cosP*sin(8θ))と余弦波発生器15bから出力される余弦波(sinP*cos(8θ))とを加算する。加算器15cから出力される波は、上記の式(9)においてhに8を代入した三角関数で表され、基本波に対して逆正接Pだけ位相のずれた8次調波となる。具体的には、加算器15cから出力される波は、基本波に対して逆正接Pだけ進んだ8次調波(sin(8θ+P))となる。
【0080】
アンプ15dは、加算器15cから出力される8次調波(sin(8θ+P))に、負荷5の構成に応じて予め定められたゲインK4を乗算し、乗算結果を出力する。
【0081】
生成器16は、生成器13と比較して、正弦波発生器13a、余弦波発生器13b,加算器13cおよびアンプ13dの代わりに、正弦波発生器16a、余弦波発生器16b,加算器16cおよびアンプ16dをそれぞれ有する点で相違する。
【0082】
正弦波発生器16aは、基本波の6倍の周波数を有する正弦波(sin(6θ))を発生させる。正弦波発生器16aは、発生させた正弦波に対して、余弦算出器30から出力されるcosPを乗算し、cosPが乗算された正弦波(cosP*sin(6θ))を出力する。
【0083】
余弦波発生器16bは、基本波の6倍の周波数を有する余弦波(cos(6θ))を発生させる。余弦波発生器16bは、発生させた余弦波に対して、正弦算出器31から出力されるsinPを乗算し、sinPが乗算された余弦波(sinP*cos(6θ))を出力する。
【0084】
加算器16cは、正弦波発生器16aから出力される正弦波(cosP*sin(6θ))と余弦波発生器16bから出力される余弦波(sinP*cos(6θ))とを加算する。加算器16cから出力される波は、上記の式(9)においてhに6を代入した三角関数で表され、基本波に対して逆正接Pだけ位相のずれた6次調波となる。具体的には、加算器16cから出力される波は、基本波に対して逆正接Pだけ進んだ6次調波(sin(6θ+P))となる。
【0085】
アンプ16dは、加算器16cから出力される6次調波(sin(6θ+P))に、負荷5の構成に応じて予め定められたゲインK5を乗算し、乗算結果を出力する。
【0086】
加算器17は、生成器15から出力される8次調波に生成器16から出力される6次調波を加算する。加算器18は、生成器14から出力される4次調波に加算器17の出力を加算する。加算器19は、生成器13から出力される2次調波に加算器18の出力を加算する。加算器19は、生成器13~16からそれぞれ出力される2次調波、4次調波、8次調波および6次調波の和を出力する。
【0087】
減算器20は、3レベル電力変換器1における電圧V1と電圧V2との偏差(V1-V2)を演算する。電圧V1および電圧V2の値は、図示しない電圧検出器によって検出され、減算器20に入力される。減算器20によって演算された偏差は、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの度合いを示す。
【0088】
調整器21は、減算器20によって演算された偏差に基づいて、加算器19から出力される2次調波、4次調波、8次調波および6次調波の振幅を調整する。
【0089】
さらに、調整器21は、電圧V1と電圧V2との大小関係に応じて、加算器19から出力される2次調波、4次調波、8次調波および6次調波の符号を切り替える。具体的には、調整器21は、電圧V1>電圧V2の場合、2次調波、4次調波、8次調波および6次調波の符号を反転させない。調整器21は、電圧V1<電圧V2の場合、2次調波、4次調波、8次調波および6次調波の符号を反転させる。
【0090】
調整器21は、アンプ21aと、乗算器21bとを有する。アンプ21aは、減算器20から出力された偏差に予め定められたゲインK1を乗算する。乗算器21bは、アンプ21aの出力と加算器19の出力とを乗算する。このようにして、調整器21は、電圧V1と電圧V2との偏差(V1-V2)と予め定められたゲインK1との積を2次調波、4次調波、8次調波および6次調波に乗算する。
【0091】
加算器23~25は、U相,V相,W相の出力電圧指令Vu,Vv,Vwに調整器21の出力を加算することにより、出力電圧指令Vu,Vv,Vwを補正する。
【0092】
PWM制御回路40は、加算器23~25によって補正された出力電圧指令Vu,Vv,Vwに応じてスイッチング素子S1U~S4U,S1V~S4V,S1W~S4Wを制御する。
【0093】
<作用・効果>
以上のように、本実施の形態に係る制御装置100は、補正回路10と、PWM制御回路40とを備える。補正回路10は、3レベル電力変換器1の出力電圧指令Vu,Vv,Vwを補正する。PWM制御回路40は、補正回路10によって補正された出力電圧指令に応じてスイッチング素子S1U~S4U,S1V~S4V,S1W~S4Wを制御する。
【0094】
補正回路10は、3レベル電力変換器1の基本波の偶数次調波を生成する生成器13~16と、偶数次調波を出力電圧指令に加算する加算器23~25とを含む。生成器13~16は、3レベル電力変換器1の出力電流iu,iv,iwから抽出された有効成分Yを出力電流iu,iv,iwから抽出された無効成分Xで除算した値の逆正接Pだけ基本波に対して位相がずれるように、偶数次調波の位相を決定する。
【0095】
図4に示されるように、出力電圧に対する逆相成分(逆相電流成分)の位相φnが-90°であるとき、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力は、基本波に対する2次調波の位相差φhが0であるときに最大となる。出力電圧に対する逆相成分の位相φnが-60°であるとき、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力は、基本波に対する2次調波の位相差φhが30°であるときに最大となる。出力電圧に対する逆相成分の位相φnが-30°であるとき、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力は、基本波に対する2次調波の位相差φhが60°であるときに最大となる。出力電圧に対する逆相成分の位相φnが0°であるとき、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力は、基本波に対する2次調波の位相差φhが90°であるときに最大となる。
【0096】
実施の形態1に係る制御装置100では、生成器13は、基本波に対して逆正接Pだけ位相のずれた2次調波を生成する。逆正接Pは、出力電流iu,iv,iwから抽出された有効成分Yを出力電流iu,iv,iwから抽出された無効成分Xで除算した値の逆正接である。そのため、逆正接Pは、出力電圧に対する逆相成分の位相φnが-90°であるとき、つまり、無効電力のみを出力しているとき、0°となる。逆正接Pは、出力電圧に対する逆相成分の位相φnが-60°であるとき、30°となる。逆正接Pは、出力電圧に対する逆相成分の位相φnが-30°であるとき、60°となる。逆正接Pは、出力電圧に対する逆相成分の位相φnが-0°であるとき、つまり、有効電力のみを出力しているとき、90°となる。
【0097】
このように、生成器13は、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力が最大となるように、基本波に対する2次調波の位相差を決定する。そのため、出力電流の位相が変動した場合であっても、高電位側の電圧V1と低電位側の電圧V2とのアンバランスが抑制される。
【0098】
なお、図4に示されるように、有効電力の割合が増えるほど、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力が最大となる位相差φhは、正側に移動する。そのため、生成器13は、有効成分Yを無効成分Xで除算した値(Y/X)の逆正接(arctan(Y/X))だけ、基本波に対して進むように2次調波の位相を決定する。
【0099】
図6は、偶数次調波として4次調波(つまり、h=4)を出力電圧指令Vu,Vv,Vwに加算したときの、図1に示す直流回路200およびスイッチング回路300のモデルを用いたシミュレーション結果を示す図である。図6には、出力電流が逆相成分(逆相電流成分)のみであると仮定したときの(つまり、Ip=0)、電圧V1と電圧V2との偏差の抑制能力が示される。
【0100】
図6に示されるように、出力電圧に対する逆相成分の位相φnが-90°であるとき、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力は、基本波に対する4次調波の位相差φhが0°であるときに最大となる。出力電圧に対する逆相成分の位相φnが-60°であるとき、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力は、基本波に対する4次調波の位相差φhが-30°であるときに最大となる。出力電圧に対する逆相成分の位相φnが-30°であるとき、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力は、基本波に対する4次調波の位相差φhが-60°であるときに最大となる。出力電圧に対する逆相成分の位相φnが0°であるとき、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力は、基本波に対する4次調波の位相差φhが-90°であるときに最大となる。
【0101】
図6に示されるように、有効電力の割合が増えるほど、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力が最大となる位相差φhは、負側に移動する。そのため、生成器14は、有効成分Yを無効成分Xで除算した値(Y/X)の逆正接(arctan(Y/X))だけ、基本波に対して遅れるように4次調波の位相を決定する。これにより、4次調波の位相は、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力が最大となるように決定される。そのため、出力電流の位相が変動した場合であっても、高電位側の電圧V1と低電位側の電圧V2とのアンバランスが抑制される。
【0102】
図7は、偶数次調波として8次調波(つまり、h=8)を出力電圧指令Vu,Vv,Vwに加算したときの、図1に示す直流回路200およびスイッチング回路300のモデルを用いたシミュレーション結果を示す図である。図7には、出力電流が逆相成分(逆相電流成分)のみであると仮定したときの(つまり、Ip=0)、電圧V1と電圧V2との偏差の抑制能力が示される。
【0103】
図7に示されるように、出力電圧に対する逆相成分の位相φnが-90°であるとき、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力は、基本波に対する8次調波の位相差φhが0°であるときに最大となる。出力電圧に対する逆相成分の位相φnが-60°であるとき、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力は、基本波に対する8次調波の位相差φhが30°であるときに最大となる。出力電圧に対する逆相成分の位相φnが-30°であるとき、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力は、基本波に対する8次調波の位相差φhが60°であるときに最大となる。出力電圧に対する逆相成分の位相φnが0°であるとき、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力は、基本波に対する8次調波の位相差φhが90°であるときに最大となる。
【0104】
図7に示されるように、有効電力の割合が増えるほど、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力が最大となる位相差φhは、正側に移動する。そのため、生成器15は、有効成分Yを無効成分Xで除算した値(Y/X)の逆正接(arctan(Y/X))だけ、基本波に対して進むように8次調波の位相を決定する。これにより、8次調波の位相は、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力が最大となるように決定される。そのため、出力電流の位相が変動した場合であっても、高電位側の電圧V1と低電位側の電圧V2とのアンバランスが抑制される。
【0105】
2次調波、4次調波および8次調波は、逆相成分を出力しているときに、電圧V1と電圧V2とのアンバランスを抑制できる。しかしながら、2次調波、4次調波および8次調波は、正相成分(正相電流成分)を出力しているときに、電圧V1と電圧V2とのアンバランスを抑制できない。これに対し、6次調波は、正相成分を出力しているときに、電圧V1と電圧V2とのアンバランスを抑制できる。
【0106】
図8は、偶数次調波として6次調波(つまり、h=6)を出力電圧指令Vu,Vv,Vwに加算したときの、図1に示す直流回路200およびスイッチング回路300のモデルを用いたシミュレーション結果を示す図である。図8には、出力電流が正相成分のみであると仮定したときの(つまり、In=0)、電圧V1と電圧V2との偏差の抑制能力が示される。
【0107】
図8に示されるように、出力電圧に対する正相成分の位相φpが-90°であるとき、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力は、基本波に対する6次調波の位相差φhが0°であるときに最大となる。出力電圧に対する正相成分の位相φpが0°であるとき、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力は、基本波に対する6次調波の位相差φhが90°であるときに最大となる。
【0108】
図8に示されるように、有効電力の割合が増えるほど、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力が最大となる位相差φhは、正側に移動する。そのため、生成器16は、有効成分Yを無効成分Xで除算した値(Y/X)の逆正接(arctan(Y/X))だけ、基本波に対して進むように6次調波の位相を決定する。これにより、出力電流の位相が変動した場合であっても、高電位側の電圧V1と低電位側の電圧V2とのアンバランスが抑制される。
【0109】
なお、出力電圧に対する正相電流成分の位相φpが-60°であるとき、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力は、基本波に対する6次調波の位相差φhが約5°であるときに最大となる。出力電圧に対する正相電流成分の位相φpが-30°であるとき、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力は、基本波に対する6次調波の位相差φhが約20°であるときに最大となる。そのため、無効電力と有効電力との両方を出力し、かつ、無効電力の割合が大きいとき、基本波に対してarctan(Y/X)だけ進むように6次調波の位相を決定しても、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力は向上しない。ただし、有効電力の割合が大きい場合(有効電力のみを出力する場合を含む)、基本波に対してarctan(Y/X)だけ進むように6次調波の位相を決定することにより、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制能力を高めることができる。
【0110】
補正回路10は、電圧V1と電圧V2との偏差に基づいて、生成器13~16によってそれぞれ生成される2次調波、4次調波、8次調波および6次調波の振幅を調整する調整器21をさらに含む。これにより、2次調波、4次調波、8次調波および6次調波の振幅は、電圧V1と電圧V2とのアンバランスの抑制に適した大きさに調整される。
【0111】
[実施の形態2]
2次調波、4次調波および8次調波は、3レベル電力変換器1が逆相成分を出力しているときに、電圧V1と電圧V2とのアンバランスを抑制できる。6次調波は、3レベル電力変換器1が正相成分を出力しているときに、電圧V1と電圧V2とのアンバランスを抑制できる。そのため、生成器13~15は、出力電流のうちの逆相成分の有効成分を当該逆相成分の無効成分で除算した値の逆正接だけ、基本波に対して2次調波、4次調波および8次調波の位相をそれぞれずらしてもよい。生成器16は、出力電流のうちの正相成分の有効成分を当該正相成分の無効成分で除算した値の逆正接だけ、基本波に対して6次調波の位相をずらしてもよい。
【0112】
図9は、実施の形態2に係る制御装置100Aの内部構成を示す図である。制御装置100Aは、図5に示す制御装置100と比較して、補正回路10の代わりに補正回路10Aを備える点で相違する。補正回路10Aは、図5に示す補正回路10と比較して、演算部11および逆正接算出器12の代わりに、演算部11Aおよび逆正接算出器12A,12Bを含む点で相違する。
【0113】
演算部11Aは、出力電流iu,iv,iwのうちの逆相成分の無効成分X1および有効成分Y1と、出力電流iu,iv,iwのうちの正相成分の無効成分X2および有効成分Y2とを演算する。
【0114】
演算部11Aは、たとえば三相二相変換などの公知の演算方法を用いて、出力電流iu,iv,iwから無効成分X1,X2および有効成分Y1,Y2を演算すればよい。
【0115】
たとえば、演算部11Aは、上記の式(7)に従って、出力電流iu,iv,iwを交流電流iα,iβに三相二相変換する。次に、演算部11Aは、交流電流iα,iβを以下の式(8)に従ってdq変換する。dq変換において、出力電圧の位相を使用することにより、正相成分の無効成分X2および有効成分Y2が演算される。dq変換において、位相-θを使用することにより、逆相成分の無効成分X1および有効成分Y1が演算される。
【0116】
演算部11Aは、逆相成分の無効成分X1および有効成分Y1を逆正接算出器12Aに出力し、正相成分の無効成分X2および有効成分Y2を逆正接算出器12Bに出力する。
【0117】
逆正接算出器12Aは、有効成分Y1を無効成分X1で除算した値(Y1/X1)の逆正接P1(=arctan(Y1/X1))を算出する。逆正接算出器12Aは、算出した逆正接P1(=arctan(Y1/X1))を生成器13~15に出力する。
【0118】
生成器13~15は、実施の形態1と比較して、逆正接Pの代わりに逆正接P1を用いる点で相違する。すなわち、生成器13~15は、逆正接P1(=arctan(Y1/X1))だけ基本波に対して位相がずれるように、偶数次調波の位相を決定する。具体的には、生成器13は、基本波に対してarctan(Y1/X1)だけ進むように2次調波の位相を決定する。生成器14は、基本波に対してarctan(Y1/X1)だけ遅れるように4次調波の位相を決定する。生成器15は、基本波に対してarctan(Y1/X1)だけ進むように8次調波の位相を決定する。
【0119】
逆正接算出器12Bは、有効成分Y2を無効成分X2で除算した値(Y2/X2)の逆正接P2(=arctan(Y2/X2))を算出する。逆正接算出器12Aは、算出した逆正接P2(=arctan(Y2/X2))を生成器16に出力する。
【0120】
生成器16は、実施の形態1と比較して、逆正接Pの代わりに逆正接P2を用いる点でのみ相違する。すなわち、生成器16は、逆正接P2(=arctan(Y2/X2))だけ基本波に対して位相がずれるように、6次調波の位相を決定する。具体的には、生成器16は、基本波に対してarctan(Y2/X2)だけ進むように6次調波の位相を決定する。
【0121】
実施の形態2によれば、逆相成分における無効成分X1および有効成分Y1の割合に応じて、2次調波,4次調波および8次調波の位相を決定できる。さらに、正相成分における無効成分X2および有効成分Y2の割合に応じて、6次調波の位相を決定できる。これにより、電圧V1と電圧V2とのアンバランスをより効率的に抑制できる。
【0122】
[変形例]
上記の説明では、補正回路10,10Aは、4つの生成器13~16を含む。しかしながら、補正回路10,10Aは、生成器13~16のうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【0123】
図4図6および図7に示されるように、2次調波、4次調波および8次調波を出力電圧指令に加算することにより、3レベル電力変換器1が逆相成分(逆相電流成分)を出力しているときに、電圧V1と電圧V2とのアンバランスが抑制される。逆に、6次調波を出力電圧指令に加算しても、3レベル電力変換器1が逆相成分を出力しているときに、電圧V1と電圧V2とのアンバランスが抑制されない。
【0124】
そのため、負荷5によって主として逆相成分が生み出されることが予めわかっている場合、補正回路10,10Aは、生成器13~15のうちの少なくとも1つを含み、生成器16を含まなくてもよい。
【0125】
図8に示されるように、6次調波を出力電圧指令に加算することにより、3レベル電力変換器1が正相成分(正相電流成分)を出力しているときに、電圧V1と電圧V2とのアンバランスが抑制される。逆に、2次調波、4次調波および8次調波を出力電圧指令に加算しても、3レベル電力変換器1が正相成分を出力しているときに、電圧V1と電圧V2とのアンバランスが抑制されない。
【0126】
そのため、負荷5によって主として正相成分が生み出されることが予めわかっている場合、補正回路10,10Aは、生成器16を含み、生成器13~15を含まなくてもよい。
【0127】
3レベル電力変換器1からの出力電流に正相成分および逆相成分の両方が含まれる場合、補正回路10,10Aは、生成器13~15のうちの少なくとも1つと、生成器16とを含むことが好ましい。
【0128】
上記の説明では、スイッチング回路300は、T型NPC方式に従った3レベルインバータを構成する。しかしながら、スイッチング回路300の構成はこれに限定されない。たとえば、スイッチング回路は、NPC方式に従った3レベルインバータを構成してもよい。
【0129】
図10は、変形例に係る3レベル電力変換器の全体構成を示す図である。図10に示す3レベル電力変換器1Aは、図1に示す3レベル電力変換器1と比較して、スイッチング回路300の代わりにスイッチング回路300Aを備える。
【0130】
スイッチング回路300Aは、スイッチング素子S5U~S8U,S5V~S8V,S5W~S8Wと、ダイオードD1U,D2U,D1V,D2V,D1W,D2Wとを含む。
【0131】
スイッチング素子S5U~S8U,S5V~S8V,S5W~S8Wは、たとえば、ゲート信号によってオン、オフ可能なIGBTなどの自己消弧形半導体素子と逆並列接続ダイオードとによって構成されるスイッチングデバイスである。
【0132】
スイッチング素子S5U~S8Uは、直流電圧をU相の交流電圧に変換する3レベルインバータを構成する。スイッチング素子S5V~S8Vは、直流電圧をV相の交流電圧に変換する3レベルインバータを構成する。スイッチング素子S5W~S8Wは、直流電圧をW相の交流電圧に変換する3レベルインバータを構成する。
【0133】
図10には、NPC方式に従った3レベルインバータが示される。すなわち、スイッチング素子S5U~S8Uは、高電位端子T1と低電位端子T2との間に直列に接続される。ダイオードD1Uのカソードはスイッチング素子S5U,S6Uの接続点に接続され、ダイオードD1Uのアノードは中性点Nに接続される。ダイオードD2Uのアノードはスイッチング素子S7U,S8Uの接続点に接続され、ダイオードD2Uのカソードは中性点Nに接続される。
【0134】
同様に、スイッチング素子S5V~S8Vは、高電位端子T1と低電位端子T2との間に直列に接続される。ダイオードD1Vのカソードはスイッチング素子S5V,S6Vの接続点に接続され、ダイオードD1Vのアノードは中性点Nに接続される。ダイオードD2Vのアノードはスイッチング素子S7V,S8Vの接続点に接続され、ダイオードD2Vのカソードは中性点Nに接続される。
【0135】
スイッチング素子S5W~S8Wは、高電位端子T1と低電位端子T2との間に直列に接続される。ダイオードD1Wのカソードはスイッチング素子S5W,S6Wの接続点に接続され、ダイオードD1Wのアノードは中性点Nに接続される。ダイオードD2Wのアノードはスイッチング素子S7W,S8Wの接続点に接続され、ダイオードD2Wのカソードは中性点Nに接続される。
【0136】
スイッチング素子S6U,S7Uの接続点4UからU相の交流電力が負荷5に出力される。スイッチング素子S6V,S7Vの接続点4VからV相の交流電力が負荷5に出力される。スイッチング素子S6W,S7Wの接続点4WからW相の交流電力が負荷5に出力される。
【0137】
接続点4U,4V,4Wの電位は、それぞれスイッチング素子S5U~S8U,S5V~S8V,S5W~S8Wの状態に応じて、高電位端子T1の電位、中性点Nの電位、低電位端子T2の電位のいずれかをとる。
【0138】
制御装置100,100Aは、図10に示すスイッチング回路300Aを備える3レベル電力変換器1Aにも適用される。これにより、出力電流の位相が変動した場合であっても、電圧V1と電圧V2とのアンバランスを抑制できる。
【0139】
今回開示された実施の形態がすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0140】
1,1A 3レベル電力変換器、2U,2V,2W,4U,4V,4W 接続点、3U,3V,3W 変流器、5 負荷、10,10A 補正回路、11,11A,91 演算部、12,12A,12B 逆正接算出器、13~16 生成器、13a~16a,93 正弦波発生器、13b~16b 余弦波発生器、13c,15c,16c,17~19,23~25,97~99 加算器、13d~16d,21a,95 アンプ、14c,20,94 減算器、21 調整器、21b,96 乗算器、30 余弦算出器、31 正弦算出器、40 PWM制御回路、92 極性判定器、100,100A,900 制御装置、200 直流回路、300,300A スイッチング回路、C1,C2 コンデンサ、D1U,D1V,D1W,D2U,D2V,D2W ダイオード、N 中性点、S1U~S8U,S1V~S8V,S1W~S8W スイッチング素子、T1 高電位端子、T2 低電位端子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10