(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】湿式造粒、押出および球形化による抗体を含む固形剤形の調製方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/16 20060101AFI20230720BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230720BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230720BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230720BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20230720BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230720BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20230720BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20230720BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230720BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230720BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230720BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230720BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230720BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230720BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20230720BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
A61K9/16
A61K39/395 N
A61K47/22
A61K47/38
A61K47/40
A61K47/36
A61K47/14
A61K47/04
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/26
A61K47/32
A61K47/02
A61K47/10
A61K47/44
A61P37/06
(21)【出願番号】P 2020515727
(86)(22)【出願日】2018-09-11
(86)【国際出願番号】 EP2018074521
(87)【国際公開番号】W WO2019057563
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-07-05
(32)【優先日】2017-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518330316
【氏名又は名称】ティロッツ ファーマ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】TILLOTTS PHARMA AG
【住所又は居所原語表記】Baslerstrasse 15,4310 Rheinfelden Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】バルム,フェリーペ
(72)【発明者】
【氏名】デコログニー,ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】ブラボー,ロベルト
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-312630(JP,A)
【文献】特表2002-506018(JP,A)
【文献】国際公開第2012/130872(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 39/00-39/44
A61P 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの抗体またはFabフラグメント、F(ab’)
2フラグメント、Fab’フラグメント、scFV、dsFV、VHH,ダイアボディ、トライアボディ、テトラボディ、Fc融合タンパク質およびミニボディ
からなる群より選択される機能的フラグメントと、界面活性剤と、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース、シクロデキストリン、ペクチン、ペクチニン酸、デンプン、デキストリン、カラゲナン、グリセロールモノステアラートまたはコロイド状二酸化ケイ素からなる押出球形化補助剤と、緩衝剤と、崩壊剤と、充填剤、徐放物質およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つのさらなる添加剤とを含む固形医薬組成物を調製する方法であって、
a)前記押出球形化補助剤と、前記崩壊剤と、前記少なくとも1つのさらなる添加剤とを含む粉体混合物を準備する段階と、
b)段階a)の前記粉体混合物に結合液を加えることにより湿式造粒を実施して湿塊を得る段階と、
c)段階b)の前記湿塊を押し出し、押出物を収集する段階と、
d)段階c)の前記押出物を球形化して湿った球状物を得る段階と、
e)前記湿った球状物を乾燥させて前記固形医薬組成物を得る段階と
を含み、前記粉体混合物および/または前記結合液が、前記少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントと、前記緩衝剤と、前記界面活性剤とを含み、結合液の総体積に対する界面活性剤の量(w/v)は0.05~0.5%である、
方法。
【請求項2】
段階a)の前記粉体混合物または段階b)の前記結合液が結合剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
i)前記押出球形化補助剤が、微結晶性セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース、シクロデキストリン、ペクチン、ペクチニン酸、デンプン、デキストリン、カラゲナン、グリセロールモノステアラートまたはコロイド状二酸化ケイ素であり、
ii)前記崩壊剤が、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン、大豆多糖、架橋アルギン酸およびその組合せからなる群より選択され、
iii)前記少なくとも1つのさらなる添加剤が、デキストロース、ラクトース、ラクトース一水和物、無水ラクトース、キシリトール、マンニトール、スクロース、グルコース、ラフィノース、ソルビトール、トレハロース、第二リン酸カルシウム、アミノ酸、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、リジン、プロリン、ロイシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸およびアスパラギンなどならびにそれぞれの塩、プロピレングリコールならびにポリエチレングリコールから選択される充填剤;分子量が100,000~7,000,000である非イオン性ポリ(エチレンオキシド)ポリマー、20℃の水中2重量%での粘度が3~100,000mPa・sであるHPMC 2208タイプ、キサンタンガム、グアーガム、トラガントガム、イナゴマメガム、アラビアゴム、キトサン、カルボマー、グリセリル(ジ)ベヘナート、パルミトステアリン酸グリセリン、エチルセルロース、ポリビニルアセタートおよびポリメタクリラート、例えばポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.1、ポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.2またはポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート)2:1など;ならびにその組合せから選択される徐放物質からなる群より選択される、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのさらなる添加剤が、デキストロース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、トレハロース、スクロース、アミノ酸、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、リジン、プロリン、ロイシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸およびアスパラギンなどならびにそれぞれの塩、第二リン酸カルシウムならびにその組合せからなる群より選択される充填剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
段階e)の後に、f)徐放コーティング剤形態の少なくとも1つの追加のコーティング剤を塗布する段階をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記徐放コーティング剤が、ポリメタクリラート、例えばポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.1、ポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.2またはポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート)2:1など、エチルセルロース、ポリビニルアセタートおよびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの徐放ポリマーを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記
固形医薬組成物が徐放
固形医薬組成物であり、前記少なくとも1つのさらなる添加剤が、分子量が100,000~7,000,000である非イオン性ポリ(エチレンオキシド)ポリマー、20℃の水中2重量%での粘度が3~100,000mPa・sであるHPMC 2208タイプ、キサンタンガム、グアーガム、トラガントガム、イナゴマメガム、アラビアゴム、キトサン、カルボマー、エチルセルロース、ポリビニルアセタート、グリセリル(ジ)ベヘナート、パルミトステアリン酸グリセリン、ポリメタクリラート、例えばポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.1、ポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.2またはポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート)2:1などおよびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの徐放物質を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記崩壊剤に加えて少なくとも2つのさらなる添加剤を含み、第一のさらなる添加剤が徐放物質であり、第二のさらなる添加剤が充填剤である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記
固形医薬組成物が、段階e)の時点での前記
固形医薬組成物の総重量に対して0.05~60%の前記少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントが、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)に特異的な抗体およびその機能的フラグメント、α4β7インテグリンに特異的な抗体およびその機能的フラグメント、CD3、CD4またはCD20に特異的な抗体およびその機能的フラグメント、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン12(IL-12)、インターロイキン13(IL-13)、インターロイキン23(IL-23)またはその受容体に特異的な抗体およびその機能的フラグメント、CXCL10/IP-10に特異的な抗体およびその機能的フラグメントならびにp40タンパク質サブユニットに特異的な抗体およびその機能的フラグメントから選択される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記抗体またはその機能的フラグメントが、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、セルトリズマブペゴルおよびゴリムマブならびにその機能的フラグメントから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記界面活性剤が、ポリソルベート20、ポリソルベート28、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート81、ポリソルベート85、ポロキサマー124、ポロキサマー181、ポロキサマー188、ポロキサマー237、ポロキサマー331、ポロキサマー338およびポロキサマー407、グリセリルモノステアラート、ポリエトキシ化ヒマシ油、PEG-40水素化ヒマシ油、マクロゴール15ヒドロキシステアラート、ポリオキシル15ヒドロキシステアラート、カプリロカプロイルマクロゴール-8グリセリド、D-α-トコフェロールポリエチレングリコール1000スクシナート、グリセリルモノステアラート、レシチン、ソルビタンモノパルミタート、セチルアルコール、オレイルアルコール、グリコール酸ナトリウム、アルキルグリコシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アルキルポリ(エチレンオキシド)、アルキルポリグルコシド、オクチルグルコシド、デシルマルトシドならびにその組合せからなる群より選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
段階a)~d)のいずれの時点でも、前記少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの温度が50℃未満であり、段階e)において、前記湿った球状物の乾燥を50℃未満の温度で実施する、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
段階e)の後、または段階f)として徐放コーティング剤形態の少なくとも1つの追加のコーティング剤を塗布する場合は段階f)の後に、遅延放出コーティング剤形態の少なくとも1つの追加のコーティング剤を塗布する段階をさらに含み、前記
固形医薬組成物が経口投与のためのものである、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記遅延放出コーティング剤が、ポリビニルアセタートフタラート、セルロースアセタートトリメリタート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラートHP-50、HP-55またはHP-55S、セルロースアセタートフタラート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートスクシナート(HPMCAS)、ポリ(メタクリル酸、エチルアクリラート)1:1、ポリ(メタクリル酸、メチルメタクリラート)1:1、ポリ(メタクリル酸、メチルメタクリラート)1:2、コンドロイチン硫酸、ペクチン、グアーガム、キトサン、イヌリン、ラクツロース、ラフィノース、スタキオース、アルギン酸塩、デキストラン、キサンタンガム、イナゴマメガム、アラビノガラクタン、アミロース、アミロペクチン、プルラン、カラゲナン、シクロデキストリン、スクレログルカン、キチン、カーデュラン(curdulan)、レバン、デンプン、難消化性デンプン、アゾ結合開裂細菌によって分解されるアゾ化合物およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの成分を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記
固形医薬組成物を経口投与したとき、前記抗体または機能的フラグメントの放出が回腸末端部、回腸結腸領域、上行結腸、横行結腸または下行結腸で始まる、請求項14または15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体およびその機能的フラグメントを含み、任意選択で遅延放出コーティング剤でコートした速放固形剤形および徐放固形剤形を湿式造粒、押出および球形化により調製する方法、この方法により調製した固形剤形ならびに患者の消化管の局所治療へのこの固形剤形の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで様々な方法によって調製される医薬組成物が多数提案されており、いくつかの場合には、酵素またはホルモンなどの生物学的に活性なポリペプチドを含むものが実現されている。このような生物学的に活性なポリペプチド、特に抗体およびその機能的フラグメントなどの抗原結合活性を有する大きなポリペプチドには固有の性質が備わっていることから、その環境の変化に対する感受性が高く、そこから特有の不安定さが生じる。このため、医薬組成物に組み込むうえでその安定性および活性ならびに治療効果のある放出を確保するのは、患者への治療適用が可能な量のこのような抗体には法外なコストがかかることから極めて困難であり、かつ最も重要なこととなっている。抗体に特有のこの不安定性は一般に、抗体を液体、ゼラチン状、半固体、固体または任意のその他の形態のいずれの医薬組成物の調製に使用するのかとは無関係である。しかし、特に固形剤形では、製造の加工段階の多くが抗体またはその機能的フラグメントの安定性および活性に悪影響を及ぼし得るものである。
【0003】
固形剤形の使用は、腸内投与を目的とする医薬組成物には極めて一般的なものである。生物学的に活性なポリペプチドを含む固形剤形の腸内投与、特に経口投与は近年、それが消化管疾患、例えば、炎症性腸疾患(IBD)、結腸直腸癌、下痢または微生物感染の症状の局所治療をさらに可能にすることから、特に利便性および安全性の点でますます重要なものになってきている。
【0004】
固形剤形に組み込む過程では、多数の因子が抗体およびその機能的フラグメントなどの大きな生物学的に活性なポリペプチドの化学的および物理的安定性、ひいてはその活性に影響を及ぼし得る。大きなポリペプチドの例えば断片化、酸化、脱アミノ化、異性化、ジスルフィド結合形成または酸/塩基種の形成といった形態の化学的不安定性は、固形剤形に使用する成分ならびに固形剤形の調製およびのちの保管の過程のpHおよび温度によって直接影響を受ける。例えば変性、凝集または吸着といった形態の物理的不安定性は、調製およびのちの保管の過程でのずり応力、温度変化または強い剪断力によって生じ得る。例えば、55℃超の中程度の高温が免疫グロブリンG(IgG)の変性を引き起こし、それによりポリペプチドの完全性が影響を受け、抗原結合フラグメント(Fab)がポリペプチドの中で高温に最も感受性の高い部分であることが既に明らかにされている(Vermeerら,Biophys J.,2000 Jan,78(1):394-404)。例えばタンパク質消化または翻訳後修飾といった形態の生物学的不安定性は、プロテアーゼおよびその他の酵素ならびに大きなポリペプチドの完全性に影響を及ぼすことができる他の生物学的因子への曝露によって生じ得る。このため、抗体およびその機能的フラグメントなどの大きな生物学的に活性なポリペプチドを固形剤形に組み込むための加工は、特に個々の添加剤の選択の点でも加工パラメータの点でも大きな課題となっている。
【0005】
固形剤形を調製する方法の選択は、大きな生物学的に活性なポリペプチドの安定性および活性に直接影響を及ぼすことに加えて、得られる固形剤形の特性、すなわち、その安定性、完全性、品質および溶出挙動にも影響を及ぼす。押出球形化では固形剤形を調製する他の方法と比較して、(例えば直接圧縮によって調製する固形剤形とは対照的に)過度に大きい粒子を生じることなく活性成分のレベルを高くすることが可能であり、2種類以上の活性薬剤を組み合わせることが容易であり、有効成分および添加剤の物理的特性の修正が容易であり、かさ密度が高く、吸湿性が低く、球形度が高く、粒子径分布が低く、表面が滑らかな粒子が得られる(Sahooら,J Pharm Res Opin,9(2013),pp.65-68)。
【0006】
押出球形化により固形剤形を調製する方法は当該技術分野で公知である。欧州特許第1064935号、国際公開第00/24382号、欧州特許第1996163号、欧州特許第1083196号、欧州特許第2066309号、欧州特許第1171101号、欧州特許第1166776号または欧州特許第1978940号に開示されている溶融押出球形化法は、抗体およびその機能的フラグメントに使用するのに適していない。溶融押出の過程では、抗体および機能的フラグメントが含まれ得る全成分の混合物からなる溶融物が高温で形成される。次いで、この溶融物が同程度の高温で押し出される。これらの高い温度は、55℃を軽く上回る傾向がある。先行技術に記載されている他の押出球形化法では、添加剤の組合せ、一部の加工段階に特有のパラメータならびに抗体およびその機能的フラグメントの活性および回収に悪影響を及ぼし得る追加の加工段階を用いる。欧州特許第2144599号には、融点が40℃~120℃のロウ様物質を含み、押出球形化法によって調製された組成物が開示されており、ここでは、最終段階の組成物をロウ様物質の融点より15~20℃高い温度に加熱して融解させる。欧州特許第0935523号には、マトリックスに活性成分を埋め込み封入する方法が開示されており、この方法は、加熱時にマトリックス材料を可塑化して溶融物を形成することを含み、活性成分を混合することができるようなる前にこれを冷却する必要がある。次いで、マトリックス溶融物と活性成分の混合物を押し出し、切断または成形して小さくする。
【0007】
これらの当該技術分野で公知の押出球形化により固形剤形を調製する方法は、抗体およびその機能的フラグメントなどの大きな生物活性ポリペプチドに使用するのには適さない傾向がある。固形剤形の溶融/造粒、押出、球形化および乾燥の個々の段階での高温、温度変化、剪断力および/または圧力が抗体およびその機能的フラグメントの安定性および活性に有害な作用を及ぼすため、これらの方法は抗体およびその機能的フラグメントには適さない。さらに、抗体およびその機能的フラグメントに特有の結合能には、そのような固形剤形の調製に使用する多数の添加剤との間に強い物理的/化学的相互作用を生じる傾向があるため、抗体またはその機能的フラグメントのうち投与後に溶解する固形剤形から放出されるのはごく一部の用量にとどまる。
【0008】
抗体またはその機能的フラグメントの放出を持続させるポリマー(すなわち、徐放ポリマー)の使用によって、固形剤形からの抗体または機能的フラグメントの回収率がさらに減少し得る。潰瘍性大腸炎またはクローン病などのIBDでは、炎症を起こした結腸粘膜を局所治療に効果的な抗体濃度に曝露するため、抗体が標的粘膜によって吸収されるまで十分な安定性および活性を保持していなければならない。結腸管腔液中での抗体分解を最小限に抑えるため(Yadavら,International Journal of Pharmaceutics,2016.502(1-2):p.181-187)には、抗体またはその機能的フラグメントが固形剤形から徐々に放出されるのが望ましい。このことにより、抗体またはその機能的フラグメントが、粘膜内への効果的に取り込まれ、数時間から数日間にわたって抗体またはその機能的フラグメントが持続的に供給される速度で固形剤形から確実に放出されるものと思われる。さらに、固形剤形が消化管の内側を移動しながら抗体またはその機能的フラグメントを放出するのを可能にするため、炎症を起こした粘膜のさらに広い標的領域の治療が可能になるものと思われる。
【0009】
固形剤形の胃腸管通過、特に結腸通過には、個人内および個人間で大きなばらつきがみられる(Varumら,Int.J.Pharm.,2010.395(1-2):p.26-36)。さらに、潰瘍性大腸炎またはクローン病などのIBD病態が通過時間に影響を及ぼすこともある。潰瘍性大腸炎では、炎症を起こした粘膜の近位にある領域での結腸通過時間が長くなる場合があることが明らかにされている。このため、剤形が炎症を起こした粘膜に達するまでに上に挙げた領域に長時間留まることになる。抗体を十分に安定な形態で供給されない場合、それは、抗体が早く分解されて遠位の結腸粘膜に達する抗体のレベルが低下することを意味するものと考えられる。一方、場合によっては、炎症を起こした領域の通過を速めることもできるが、それにより、抗体を回腸および大腸に効率的に送達する剤形の設計がさらに複雑なものとなる。
【0010】
多微粒子には、単一単位より結腸通過時間が長いことおよび複数の小ユニットで投与範囲が広くなるなど単一単位より優れた生物製剤学的利点がある(Varumら,Int.J.Pharm.,2010.395(1-2):p.26-36)ため、多微粒子薬物送達システムが好ましい選択になるものと思われる。単一単位のこのような多微粒子薬物送達システムを抗体の徐放が得られるよう設計することが可能である。
【0011】
このように、多微粒子固体製剤の調製に使用することができる固形剤形を、固形剤形の調製に使用する抗体またはその機能的フラグメントの生物活性の低下を最小限に抑える抗体またはその機能的フラグメントを含む押出球形化によって調製する方法が必要とされている。具体的には、この方法は、調製の個々の段階で抗体またはその機能的フラグメントの安定性および活性を維持し、短時間または長時間にわたる放出を可能にし、抗体回収率を制限する抗体またはその機能的フラグメントと固形剤形の他の成分との相互作用を抑えるものであるべきである。
【発明の概要】
【0012】
本発明者らは、様々な加工条件および添加剤を検討したのち、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを含む固形剤形を湿式造粒、押出および球形化により調製するのに有利な方法を発見した。この方法は、調製に使用する抗体またはその機能的フラグメントの安定性および活性を維持し、溶出時に最適な量の抗体またはその機能的フラグメントが固形剤形から回収され得るようにするものである。
【0013】
したがって、本発明は、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを含み、湿式造粒、押出および球形化によって調製される固形剤形を調製する新規な方法を提供する。本発明は、以下の項1~77に明記する主題に関するものである。
【0014】
[1]少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントと、界面活性剤と、押出球形化補助剤と、緩衝剤と、崩壊剤と、充填剤、徐放物質およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つのさらなる添加剤とを含む固形剤形を調製する方法であって、
a)押出球形化補助剤と、崩壊剤と、少なくとも1つのさらなる添加剤とを含む粉体混合物を準備する段階と、
b)段階a)の粉体混合物に結合液を加えることにより湿式造粒を実施して湿塊を得る段階と、
c)段階b)の湿塊を押し出し、押出物を収集する段階と、
d)段階c)の押出物を球形化して湿った球状物を得る段階と、
e)湿った球状物を乾燥させて固形剤形を得る段階と
を含み、粉体混合物および/または結合液が、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントと、緩衝剤と、界面活性剤とを含む、
方法。
【0015】
[2]固形剤形が、ペレット、ビーズ、ミニスフィア、顆粒またはミニ錠剤、好ましくはペレットである、項1に記載の方法。
【0016】
[3]押出球形化補助剤が、微結晶性セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース、シクロデキストリン、ペクチン、ペクチニン酸、デンプン、デキストリン、カラゲナン、グリセロールモノステアラートまたはコロイド状二酸化ケイ素、好ましくは微結晶性セルロース(例えば、Avicel(登録商標)PH-101)である、項1または2に記載の方法。
【0017】
[4]崩壊剤が、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン、大豆多糖および架橋アルギン酸、好ましくはデンプングリコール酸ナトリウムから選択される、項1~3のいずれかに記載の方法。
【0018】
[5]少なくとも1つのさらなる添加剤が、デキストロース、ラクトース、ラクトース一水和物、無水ラクトース、キシリトール、マンニトール、スクロース、グルコース、ラフィノース、ソルビトール、トレハロース、第二リン酸カルシウム、マグネシウムまたはケイ素の酸化物、炭酸チタン、炭酸カルシウム、リン酸マグネシウム、多孔性リン酸カルシウムまたは多孔性リン酸マグネシウム、アミノ酸、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、リジン、プロリン、ロイシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸およびアスパラギンなどならびにそれぞれの塩、プロピレングリコールならびにポリエチレングリコールから選択される充填剤;ならびに分子量が100,000~7,000,000、好ましくは分子量が約100,000である非イオン性ポリ(エチレンオキシド)ポリマー(例えば、Polyox(登録商標)N-10NF)、20℃の水中2重量%での粘度が3~100,000mPa・s(Methocel K3 Premium LV、Methocel K100 Premium LV、Methocel K4M Premium、Methocel K15 Premium、Methocel K100M Premiumなど)、好ましくは約2,308~9,030mPa・s(例えば、Methocel K4M PremiumおよびMethocel K15M Premium)、より好ましくは約2,663~4,970mPa・s(例えば、Methocel K4M Premium)であるHPMC 2208タイプ、キトサン、キサンタンガム、グアーガム、トラガント、ローカストビーンガム(locust been gum)、アラビアゴム、カルボマー、グリセリル(ジ)ベヘナート(例えば、Compritol(登録商標)888 ATO)、パルミトステアリン酸グリセリン(例えば、Precirol(登録商標))およびポリメタクリラート、例えばポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.1(例えば、Eudragit(登録商標)RS 100、Eudragit(登録商標)RS PO、Eudragit(登録商標)RS 30DおよびEudragit(登録商標)RS 12.5)、ポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.2(例えば、Eudragit(登録商標)RL100、Eudragit(登録商標)RL PO、Eudragit(登録商標)RL 30DおよびEudragit(登録商標)RL 12.5)またはポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート)2:1(例えば、Eudragit(登録商標)NE 30D、Eudragit(登録商標)NE 40D、Eudragit(登録商標)NM 30D)など;ポリビニルアセタート(Kollicoat(登録商標)SR 30D);エチルセルロース;ならびにその組合せから選択される徐放ポリマー形態の徐放物質からなる群より選択される、項1~4のいずれかに記載の方法。
【0019】
[6]固形剤形が速放固形剤形であり、少なくとも1つのさらなる添加剤が、デキストロース、ラクトース、ラクトース一水和物、無水ラクトース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、スクロース、グルコース、ラフィノース、トレハロース、第二リン酸カルシウム、マグネシウムまたはケイ素の酸化物、炭酸チタン、炭酸カルシウム、リン酸マグネシウム、多孔性リン酸カルシウムまたは多孔性リン酸マグネシウム、アミノ酸、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、リジン、プロリン、ロイシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸およびアスパラギンなどならびにそれぞれの塩、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールならびにその組合せ;好ましくは、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、トレハロース、アミノ酸、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、リジン、プロリン、ロイシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸およびアスパラギンなどならびにそれぞれの塩、第二リン酸カルシウムならびにその組合せ;より好ましくは、ソルビトール、トレハロース、スクロース、マンニトールまたはアミノ酸、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、リジン、プロリン、ロイシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸およびアスパラギンなどならびにそれぞれの塩ならびにその組合せ;さらにより好ましくはソルビトールからなる群から選択される充填剤である、項5に記載の方法。
【0020】
[7]段階a)の粉体混合物が、
i)押出球形化補助剤である微結晶性セルロースと、
ii)崩壊剤であるデンプングリコール酸ナトリウムと、
iii)充填剤であるソルビトール、スクロース、トレハロースまたはマンニトール、好ましくはソルビトールと
を含む、項6に記載の方法。
【0021】
[8]段階a)の粉体混合物が、
i)20~90%、好ましくは30~80%、より好ましくは40~75%、さらにより好ましくは45~70%、最も好ましくは45~50%の押出球形化補助剤と、
ii)0.5~50%、好ましくは0.5~40%、より好ましくは1~35%、さらにより好ましくは1~30%、さらにより好ましくは1~15%、最も好ましくは約1~10%、あるいは最も好ましくは10~30%の崩壊剤と、
iii)2.5~50%、好ましくは5~50%、より好ましくは10~40%、さらにより好ましくは20~40%、最も好ましくは30~40%、あるいは最も好ましくは20~30%の少なくとも1つのさらなる添加剤である充填剤(好ましくは、スクロース、トレハロース、ソルビトール、マンニトールまたはアミノ酸、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、リジン、プロリン、ロイシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸およびアスパラギンならびにそれぞれの塩ならびにその組合せ)と
を含み、固形剤形が速放固形剤形である、項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【0022】
[9]段階a)の粉体混合物が、
i)20~70%、好ましくは30~60%、より好ましくは40~50%、さらにより好ましくは約45%の押出球形化補助剤と、
ii)0.5~30%、好ましくは0.5~20%、より好ましくは1~15%、さらにより好ましくは1~10%の崩壊剤と、
iii)5~50%、好ましくは10~45%、より好ましくは20~40%、さらにより好ましくは30~40%の少なくとも1つのさらなる添加剤である充填剤(好ましくは、スクロース、トレハロース、ソルビトール、マンニトールまたはアミノ酸、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、リジン、プロリン、ロイシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸およびアスパラギンなどならびにそれぞれの塩ならびにその組合せ)と、
iv)0.1~30%、好ましくは1~20%、より好ましくは2~15%、さらにより好ましくは5~15%の少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントと
を含み、固形剤形が速放固形剤形である、項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0023】
[10]段階e)の後に、
f)徐放コーティング剤形態の少なくとも1つの追加のコーティング剤を塗布する段階
をさらに含む、項1~9に記載の方法。
【0024】
[11]徐放コーティング剤が、ポリメタクリラート、例えばポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.1(例えば、Eudragit(登録商標)RS 100、Eudragit(登録商標)RS PO、Eudragit(登録商標)RS 30DおよびEudragit(登録商標)RS 12.5)、ポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.2(例えば、Eudragit(登録商標)RL100、Eudragit(登録商標)RL PO、Eudragit(登録商標)RL 30DおよびEudragit(登録商標)RL 12.5)またはポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート)2:1(例えば、Eudragit(登録商標)NE 30D、Eudragit(登録商標)NE 40DおよびEudragit(登録商標)NM 30D)など、エチルセルロース、ポリビニルアセタート(例えば、Kollicoat(登録商標)SR 30D)およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの徐放ポリマーを含む、項10に記載の方法。
【0025】
[12]固形剤形が徐放剤形であり、少なくとも1つのさらなる添加剤が少なくとも1つの徐放物質を含む、項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【0026】
[13]少なくとも1つの徐放物質が、分子量が100,000~7,000,000、好ましくは分子量が約100,000である非イオン性ポリ(エチレンオキシド)ポリマー(例えば、Polyox(登録商標)N-10NF);20℃の水中2重量%での粘度が3~100,000mPa・s(Methocel K3 Premium LV、Methocel K100 Premium LV、Methocel K4M Premium、Methocel K15 Premium、Methocel K100M Premiumなど)、好ましくは約2,308~9,030mPa・s(例えば、Methocel K4M PremiumおよびMethocel K15M Premium)、より好ましくは約2,663~4,970mPa・s(例えば、Methocel K4M Premium)であるHPMC 2208タイプ;キトサン;キサンタンガム;グアーガム;トラガント;ローカストビーンガム(locust been gum);アラビアゴム;カルボマー;グリセリル(ジ)ベヘナート(例えば、Compritol(登録商標)888 ATO);パルミトステアリン酸グリセリン(例えば、Precirol(登録商標));ポリメタクリラート、例えばポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.1(例えば、Eudragit(登録商標)RS 100、Eudragit(登録商標)RS PO、Eudragit(登録商標)RS 30DおよびEudragit(登録商標)RS 12.5)、ポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.2(例えば、Eudragit(登録商標)RL100、Eudragit(登録商標)RL PO、Eudragit(登録商標)RL 30DおよびEudragit(登録商標)RL 12.5)またはポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート)2:1(例えば、Eudragit(登録商標)NE 30D、Eudragit(登録商標)NE 40D、Eudragit(登録商標)NM 30D)など;ポリビニルアセタート(Kollicoat(登録商標)SR 30D)、エチルセルロース;およびその組合せ;好ましくは、Polyox(登録商標)N-10NF、Methocel K4MおよびCompritol(登録商標)888 ATOなどからなる群より選択される徐放ポリマーである、項12に記載の方法。
【0027】
[14]段階a)の粉体混合物が、
i)押出球形化補助剤である微結晶性セルロースと、
ii)崩壊剤であるデンプングリコール酸ナトリウムと、
iii)少なくとも1つのさらなる添加剤であるPolyox N-10NFまたはMethocel K4Mと
を含む、項13に記載の方法。
【0028】
[15]段階a)の粉体混合物が、
i)20~90%、好ましくは45~80%、より好ましくは50~80%、さらにより好ましくは60~75%、最も好ましくは約70~75%の押出球形化補助剤と、
ii)0.1~45%、好ましくは0.5~35%、より好ましくは1~30%、さらにより好ましくは1~25%、さらにより好ましくは1%または15%、最も好ましくは約5~15%の崩壊剤と、
iii)0.5~30%、好ましくは1~20%、より好ましくは2.5~12.5%、さらにより好ましくは2.5~10%、最も好ましくは約2.5~7.5%の少なくとも1つの徐放物質を含む少なくとも1つのさらなる添加剤と
を含み、固形剤形が徐放固形剤形である、項1~5および9~14のいずれか1項に記載の方法。
【0029】
[16]少なくとも2つのさらなる添加剤を含み、第一のさらなる添加剤が徐放ポリマーであり、第二のさらなる添加剤が、好ましくはソルビトールまたはマンニトール、より好ましくはソルビトールから選択される充填剤である、項1~15のいずれかに記載の方法。
【0030】
[17]段階a)の粉体混合物が、
i)20~90%、好ましくは45~85%、より好ましくは50~80%、さらにより好ましくは60~80%、最も好ましくは約75%の押出球形化補助剤と、
ii)0.1~40%、好ましくは0.5~30%、より好ましくは1~20%、さらにより好ましくは1~15%、最も好ましくは約1~10%の崩壊剤と、
iii)1~30%、好ましくは1~20%、より好ましくは2.5~12.5%、さらにより好ましくは2.5~10%、最も好ましくは約2.5~7.5%の少なくとも1つの徐放物質を含む第一のさらなる添加剤と、
iv)0.5~50%、好ましくは1~20%、より好ましくは1~15%、さらにより好ましくは5~15%、最も好ましくは約10%の充填剤と
を含み、固形剤形が徐放固形剤形である、項16に記載の方法。
【0031】
[18]段階a)の粉体混合物が、
i)押出球形化補助剤である微結晶性セルロースと、
ii)第一のさらなる添加剤であるグリセリル(ジ)ベヘナートと、
iii)充填剤であるソルビトール、スクロース、トレハロース、マンニトールまたはアミノ酸、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、リジン、プロリン、ロイシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸およびアスパラギンなどならびにそれぞれの塩ならびにその組合せ、好ましくはソルビトールと
を含む、項17に記載の方法。
【0032】
[19]段階a)の粉体混合物が、
i)30~85%、好ましくは45~80%、より好ましくは50~80%、さらにより好ましくは約75%の押出球形化補助剤と、
ii)0.1~40%、好ましくは0.5~30%、より好ましくは1~20%、さらにより好ましくは1~15%、最も好ましくは1~10%の崩壊剤と、
iii)1~35%、好ましくは1~25%、より好ましくは2.5~15%、さらにより好ましくは約2.5~10%の第一のさらなる添加剤であるグリセリル(ジ)ベヘナートと、
iv)2.5~50%、好ましくは5~40%、より好ましくは10~35%、さらにより好ましくは10~25%の充填剤形態の第二のさらなる添加剤、好ましくはスクロース、トレハロース、ソルビトールまたはマンニトール、より好ましくはソルビトールと
を含み、固形剤形が徐放固形剤形である、項16、17または18に記載の方法。
【0033】
[20]段階a)の粉体混合物および/または段階b)の結合液が、流動促進剤、可塑剤、抗酸化剤、安定剤、保湿剤、保護コロイド、色素、透過促進剤、プロテアーゼ阻害剤およびその組合せから選択される少なくとも1つのさらなる添加剤を含む、項1~19のいずれかに記載の方法。
【0034】
[21]固形剤形が、治療有効量の少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを単一単位用量として投与することが可能な量の少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを含む、項1~20のいずれかに記載の方法。
【0035】
[22]固形剤形が、固形剤形の総重量に対して0.01~60%、好ましくは0.05~45%、より好ましくは0.1~30%、さらにより好ましくは0.5~25%、さらにより好ましくは1~20%、さらにより好ましくは1~15%、最も好ましくは5~15%の少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを含む、項1~21のいずれかに記載の方法。
【0036】
[23]機能的抗体フラグメントが、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメント、scFv、dsFv、VHH、ダイアボディ、トライアボディ、テトラボディ、Fc融合タンパク質またはミニボディである、項1~22のいずれかに記載の方法。
【0037】
[24]少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントが、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)に特異的な抗体およびその機能的フラグメント、α4β7インテグリンに特異的な抗体およびその機能的フラグメント、CD3、CD4またはCD20に特異的な抗体およびその機能的フラグメント、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン12(IL-12)、インターロイキン13(IL-13)、インターロイキン23(IL-23)またはその受容体に特異的な抗体およびその機能的フラグメント、CXCL10/IP-10に特異的な抗体およびその機能的フラグメントならびにp40タンパク質サブユニットに特異的な抗体およびその機能的フラグメントから選択される、項1~23のいずれかに記載の方法。
【0038】
[25]抗体またはその機能的フラグメントが、消化器疾患、好ましくは、炎症性腸疾患(IBD)、セリアック病、消化管感染症、結腸直腸癌または小腸癌、より好ましくは、クローン病または潰瘍性大腸炎などのIBDの治療への使用に適したものである、項1~24のいずれかに記載の方法。
【0039】
[26]少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントが、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、セルトリズマブペゴル、ゴリムマブ、ビジリズマブ、エルデルマブ、アブリルマブ、カナキヌマブ、トシリズマブ、ウステキヌマブ、ナタリズマブ、エトロリズマブ、プリリキシマブ、ベドリズマブおよびその機能的フラグメント;最初に出願された国際出願PCT/EP2017/056218号の請求項2、国際出願PCT/EP2017/056246号の請求項2、国際出願PCT/EP2017/056237号の請求項2および/または国際出願PCT/EP2017/056227号の請求項2に開示されているアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)を含む軽鎖可変ドメインおよび/または重鎖可変ドメインを有する抗TNFα抗体またはその機能的フラグメント;最初に出願された国際出願PCT/EP2017/056218号の請求項4、国際出願PCT/EP2017/056246号の請求項5および6、国際出願PCT/EP2017/056237号の請求項5および6ならびに国際出願PCT/EP2017/056227号の請求項4に記載の重鎖可変ドメインアミノ酸配列ならびに/あるいは軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む抗TNFα抗体またはその機能的フラグメント;ならびにその組合せから選択される、項1~25のいずれかに記載の方法。
【0040】
[27]抗体またはその機能的フラグメントが、TNFαに特異的な抗体およびその機能的フラグメントから選択される、項1~26のいずれか1項に記載の方法。
【0041】
[28]TNFαに特異的な抗体またはその機能的フラグメントが、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、セルトリズマブペゴルおよびゴリムマブならびにその機能的フラグメント;最初に出願された国際出願PCT/EP2017/056218号の請求項2、国際出願PCT/EP2017/056246号の請求項2、国際出願PCT/EP2017/056237号の請求項2および/または国際出願PCT/EP2017/056227号の請求項2に開示されているアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)を含む軽鎖可変ドメインおよび/または重鎖可変ドメインを有する抗TNFα抗体またはその機能的フラグメント;最初に出願された国際出願PCT/EP2017/056218号の請求項4、国際出願PCT/EP2017/056246号の請求項5および6、国際出願PCT/EP2017/056237号の請求項5および6ならびに国際出願PCT/EP2017/056227号の請求項4に記載の重鎖可変ドメインアミノ酸配列および/または軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む抗TNFα抗体またはその機能的フラグメント;ならびにその組合せから選択される、項27に記載の方法。
【0042】
[29]少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントが、結合液中に0.01~1000mg/ml、好ましくは0.1~500mg/ml、より好ましくは0.1~200mg/ml、さらにより好ましくは0.1~100mg/ml、さらにより好ましくは1~100mg/ml、さらにより好ましくは5~100mg/ml、さらにより好ましくは10~50mg/mlの濃度(w/v)で含まれている、項1~28のいずれかに記載の方法。
【0043】
[30]結合液が水溶液である、項1~29のいずれかに記載の方法。
【0044】
[31]結合液の総体積に対する界面活性剤の量(w/v)が、結合液の総体積を基準に0.005~2.0%、好ましくは0.01~1%、より好ましくは0.05~0.8%、さらにより好ましくは0.05~0.5%、さらにより好ましくは0.1~0.5、最も好ましくは約0.1%であるか;または固形剤形中の界面活性剤の濃度(w/w)が、段階e)の後の固形剤形の総重量を基準に0.001~1%、好ましくは0.005~0.5%、より好ましくは0.01~0.5%、さらにより好ましくは0.01%~0.25%である、項1~30のいずれかに記載の方法。
【0045】
[32]界面活性剤が、ポリソルベート20、ポリソルベート28、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート81、ポリソルベート85、ポロキサマー124、ポロキサマー181、ポロキサマー188、ポロキサマー237、ポロキサマー331、ポロキサマー338およびポロキサマー407、グリセリルモノステアラート、ポリエトキシ化ヒマシ油、PEG-40水素化ヒマシ油、マクロゴール15ヒドロキシステアラート、ポリオキシル15ヒドロキシステアラート、カプリロカプロイルマクロゴール-8グリセリド、D-α-トコフェロールポリエチレングリコール1000スクシナート、グリセリルモノステアラート、レシチン、ソルビタンモノパルミタート、セチルアルコール、オレイルアルコール、グリコール酸ナトリウム、デ(ス)オキシコール酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アルキルポリ(エチレンオキシド)、アルキルグリコシド、アルキルポリグルコシド、オクチルグルコシド、デシルマルトシドならびにその組合せ、好ましくはポリソルベート20またはポロキサマー188、より好ましくはポリソルベート20からなる群より選択される、項1~31のいずれかに記載の方法。
【0046】
[33]結合液が界面活性剤を含む、項1~32のいずれかに記載の方法。
【0047】
[34]粉体混合物および/または結合液中に含まれる緩衝剤が、酢酸塩、クエン酸塩、ヒスチジン、ヒドロキシメチルアミノメタン(トリス)およびリン酸塩緩衝剤(緩衝塩)ならびにその組合せから選択される、項1~33のいずれかに記載の方法。
【0048】
[35]段階a)の粉体混合物または段階b)の結合液が、好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンおよびその組合せから選択される結合剤をさらに含む、項1~34のいずれかに記載の方法。
【0049】
[36]段階b)の湿塊をスクリュ押出機を用いて押し出す、項1~35のいずれかに記載の方法。
【0050】
[37]崩壊剤によって、段階a)の粉体混合物の抗体またはその機能的フラグメントを含む結合液に対する吸収能が増大する、項1~36のいずれかに記載の方法。
【0051】
[38]段階a)~段階d)のいずれの時点でも、抗体またはその機能的フラグメントの温度が55℃未満、好ましくは50℃未満、より好ましくは45℃未満、さらにより好ましくは40℃未満、さらにより好ましくは35℃未満、最も好ましくは30℃未満である、項1~37のいずれかに記載の方法。
【0052】
[39]段階e)において、湿った球状物の乾燥を55℃未満、好ましくは50℃未満、より好ましくは45℃未満、さらにより好ましくは約40℃の温度で実施する、項1~38のいずれかに記載の方法。
【0053】
[40]段階e)において、湿った球状物の乾燥を真空補助乾燥を用いて45℃未満の温度で実施する、項39に記載の方法。
【0054】
[41]段階e)の乾燥の後、固形剤形の残留溶媒含量(すなわち、残留水分レベル)が、固形剤形の総重量に対して15重量%未満、好ましくは10重量%未満、より好ましくは8重量%未満、さらにより好ましくは5重量%未満、さらにより好ましくは3重量%未満、さらにより好ましくは2%未満である、項1~40のいずれかに記載の方法。
【0055】
[42]固形剤形が、経口投与または直腸内投与、好ましくは経口投与を目的とするものである、項1~41のいずれかに記載の方法。
【0056】
[43]段階e)の後、または段階f)として徐放コーティング剤形態の少なくとも1つの追加のコーティング剤を塗布する場合は段階f)の後に、遅延放出コーティング剤形態の少なくとも1つの追加のコーティング剤を塗布する段階をさらに含み、固形剤形が経口投与のためのものである、項1~42のいずれかに記載の方法。
【0057】
[44]遅延放出コーティング剤が、pH依存性に崩壊するコーティング材料、時間依存性に崩壊するコーティング材料、腸内環境中の酵素トリガーによって崩壊するコーティング材料およびその組合せから選択される少なくとも1つの成分を含む、項43に記載の方法。
【0058】
[45]pH依存性に崩壊するコーティング材料が、ポリビニルアセタートフタラート、セルロースアセタートトリメリタート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラートHP-50、HP-55またはHP-55S、セルロースアセタートフタラート、アクリル酸コポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートスクシナート(HPMCAS)、ポリ(メタクリル酸、エチルアクリラート)1:1(Eudragit(登録商標)L100-55、Eudragit(登録商標)L30D-55)、ポリ(メタクリル酸、メチルメタクリラート)1:1(Eudragit(登録商標)L-100、Eudragit(登録商標)L12.5)、ポリ(メタクリル酸、メチルメタクリラート)1:2(Eudragit(登録商標)S-100、Eudragit(登録商標)S12,5、Eudragit(登録商標)FS30D)およびその組合せから選択され、
時間依存性に崩壊するコーティング材料が、ポリメタクリラート、例えばポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.2(例えば、Eudragit(登録商標)RL 30D、Eudragit(登録商標)RL100、Eudragit(登録商標)RL POおよびEudragit(登録商標)RL 12.5)、ポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.1(例えば、Eudragit(登録商標)RS 30D、Eudragit(登録商標)RS 100、Eudragit(登録商標)RS POおよびEudragit(登録商標)RS 12.5)またはポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート)2:1(例えば、Eudragit(登録商標)NE 30D、Eudragit(登録商標)NE 40D、Eudragit(登録商標)NM 30D)など、ポリビニルアセタート(Kollicoat SR30D)、エチルセルロースおよびその組合せから選択され、
腸内環境中の酵素トリガーによって崩壊するコーティング材料が、コンドロイチン硫酸、ペクチン、グアーガム、キトサン、イヌリン、ラクツロース、ラフィノース、スタキオース、アルギン酸塩、デキストラン、キサンタンガム、イナゴマメガム、アラビノガラクタン、アミロース、アミロペクチン、プルラン、カラゲナン、シクロデキストリン、スクレログルカン、キチン、カーデュラン(curdulan)、レバン、デンプン、難消化性デンプン、アゾ結合開裂細菌によって分解されるアゾ化合物およびその組合せから選択される、
項44に記載の方法。
【0059】
[46]遅延放出コーティング剤が、少なくとも1つのpH依存性に崩壊するコーティング材料と少なくとも1つの腸内環境中の酵素トリガーによって崩壊するコーティング材料との組合せを含む、項43~45に記載の方法。
【0060】
[47]遅延放出コーティング剤が、少なくとも1つの腸溶性ポリマー、好ましくはポリ(メタクリル酸、メチルメタクリラート)1:2と、コンドロイチン硫酸、シクロデキストリン、キトサン、デキストラン、アラビノガラクタン、アミロース、プルラン、カラゲナン、スクレログルカン、キチン、カーデュラン(curdulan)、レバン、アミロペクチン、デンプン、難消化性デンプンおよびその組合せから選択される少なくとも1つの多糖、好ましくは難消化性デンプンとの組合せを含む、項43~46のいずれか1項に記載の方法。
【0061】
[48]遅延放出コーティング剤が、i)pH8に調整され部分的に中和された腸溶性ポリマー、好ましくはpH8に調整され部分的に中和されたポリ(メタクリル酸、メチルメタクリラート)1:2を含み、緩衝塩を含有する内部コーティング剤と、ii)少なくとも1つの腸溶性ポリマー、好ましくはポリ(メタクリル酸、メチルメタクリラート)1:2と、コンドロイチン硫酸、シクロデキストリン、キトサン、デキストラン、アラビノガラクタン、アミロース、プルラン、カラゲナン、スクレログルカン、キチン、カーデュラン(curdulan)、レバン、アミロペクチン、デンプン、難消化性デンプンおよびその組合せから選択される少なくとも1つの多糖、好ましくは難消化性デンプンとの組合せを含む外部コーティング剤とを含む、項43~47のいずれか1項に記載の方法。
【0062】
[49]少なくとも1つの成分、例えば、少なくとも1つの腸溶性ポリマー、好ましくはポリ(メタクリル酸、メチルメタクリラート)1:2と、コンドロイチン硫酸、シクロデキストリン、キトサン、デキストラン、アラビノガラクタン、アミロース、プルラン、カラゲナン、スクレログルカン、キチン、カーデュラン(curdulan)、レバン、アミロペクチン、デンプン、難消化性デンプンおよびその組合せから選択される少なくとも1つの多糖、好ましくは難消化性デンプンとの組合せを有機溶媒、有機溶媒の混合物または少なくとも1つの有機溶媒と水との混合物に分散させ、それを好ましくはスプレーコーティング、より好ましくは流動床スプレーコーティングによって粒子に塗布する、項43~48のいずれか1項に記載の方法。
【0063】
[50]組合せは、有機溶媒に溶解した腸溶性ポリマーと、少なくとも1つの多糖の水性再分散液とを混合することによって調製し、少なくとも1つの有機溶媒と水との混合物に分散させる、項49に記載の方法。
【0064】
[51]遅延放出コーティング剤をスプレーコーティング、好ましくは流動床スプレーコーティングによって塗布する、項43~50のいずれか1項に記載の方法。
【0065】
[52]回腸、回腸末端部、回腸結腸領域、上行結腸、横行結腸または下行結腸から開始される抗体またはその機能的フラグメントの標的化放出のための遅延放出コーティング剤を含む、項43~51のいずれか1項に記載の方法。
【0066】
[53]固形剤形中に二量体およびその他の凝集体として存在する抗体またはその機能的フラグメントの総含有量の割合が、抗体またはその機能的フラグメントを結合液に加える時点の二量体およびその他の凝集体として存在する抗体またはその機能的フラグメント全体の割合を15%超、好ましくは10%、より好ましくは8%、さらにより好ましくは7%、さらにより好ましくは5%、3%、2%または1.5%上回ることがない、項1~52のいずれかに記載の方法。
【0067】
[54]固形剤形中に完全長抗体またはその機能的フラグメントのフラグメントとして存在する抗体またはその機能的フラグメントの総含有量の割合が、抗体またはその機能的フラグメントを結合液に加える時点と比較して実質的に増加しない、項1~53のいずれかに記載の方法。
【0068】
[55]固形剤形中に完全長抗体のフラグメントまたはその機能的フラグメントのフラグメントとして存在する抗体またはその機能的フラグメントの総含有量の割合が、抗体またはその機能的フラグメントを結合液に加えた時点の完全長抗体またはその機能的フラグメントのフラグメントとして存在する抗体またはその機能的フラグメントの総含有量の割合を15%超、好ましくは10%、より好ましくは8%、さらにより好ましくは7%、さらにより好ましくは5%、3%、2%、1.5%または1%上回ることがない、項1~54のいずれかに記載の方法。
【0069】
[56]固形剤形が速放剤形であり、連続運動下にある緩衝水溶液中に固形剤形を連続浸漬して2時間以内、好ましくは1時間以内に少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも93%、さらにより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも97%、さらにより好ましくは少なくとも98%が固形剤形から回収されることを可能にする、項1~55のいずれかに記載の方法。
【0070】
[57]固形剤形が徐放剤形であり、連続運動下にある緩衝水溶液中に固形剤形を連続浸漬して4時間以内、6時間以内、8時間以内、10時間以内、12時間以内、14時間以内、16時間以内、18時間以内、20時間以内、22時間以内、24時間以内、26時間以内、28時間以内、30時間以内、32時間以内などで少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの少なくとも45%、好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも65%、さらにより好ましくは少なくとも75%、さらにより好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも93%、さらにより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも97%、さらにより好ましくは少なくとも98%が固形剤形から回収されることを可能にする、項1~56のいずれかに記載の方法。
【0071】
[58]固形剤形が徐放剤形であり、連続運動下にある緩衝水溶液中に固形剤形を連続浸漬したとき、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントが少なくとも5時間、好ましくは少なくとも10時間、より好ましくは少なくとも12時間、さらにより好ましくは少なくとも20時間、最も好ましくは少なくとも24時間にわたって徐放されることを可能にする、項1~57のいずれかに記載の方法。
【0072】
[59]項1~58のいずれか1項の方法によって得られる固形剤形。
【0073】
[60]治療有効量の少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントと、押出球形化補助剤と、界面活性剤と、緩衝剤と、崩壊剤と、充填剤、徐放物質およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つのさらなる添加剤と、任意選択で少なくとも1つのさらなる添加剤とを含み、乾式混合、湿式造粒、押出、球形化および乾燥の段階によって得られる、固形剤形。
【0074】
[61]項1~58のいずれか1項で定められる乾式混合、湿式造粒、押出、球形化および乾燥の段階を含む方法によって得られる、項60に記載の固形剤形。
【0075】
[62]消化器疾患、好ましくはIBD、セリアック病、消化管感染症、結腸直腸癌または小腸癌、より好ましくはIBDの局所治療への使用のための項59~61のいずれか1項に記載の固形剤形。
【0076】
[63]IBDがクローン病または潰瘍性大腸炎である、項62に記載の使用のための固形剤形。
【0077】
[64]患者の回腸、回腸末端部、回腸結腸領域、上行結腸、横行結腸または下行結腸の局所治療への使用のための項59~63のいずれか1項に記載の固形剤形。
【0078】
[65]複数の固形剤形単位を含み、固形剤形単位がそれぞれ、項1~58のいずれか1項の方法によって得られるものであり、多微粒子薬物送達システムが、好ましくはサシェ、スティック包装、飲用ストロー(Xstraw(登録商標))、カプセルまたは錠剤である、多微粒子薬物送達システム。
【0079】
[66]複数の固形剤形単位を含み、各固形剤形単位が、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントと、界面活性剤と、押出球形化補助剤と、緩衝剤と、崩壊剤と、充填剤、徐放物質およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つのさらなる添加剤とを含み、好ましくは、各固形剤形単位が所定の軸と同じ所定の断面プロファイルとを有し、上記固形剤形単位の個数の少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは95%が縦横比中央値0.7~1.7を有し、縦横比が、所定の軸に沿った固形剤形単位の長さを最小断面寸法で除したものと定義される、多微粒子薬物送達システム。
【0080】
[67]縦横比中央値が0.8超、好ましくは0.9超、かつ1.6未満、好ましくは1.5未満、より好ましくは1.4、さらにより好ましくは1.3未満、さらにより好ましくは1.2未満、最も好ましくは約1である、項66に記載の多微粒子薬物送達システム。
【0081】
[68]固形剤形単位が、0.9未満、好ましくは0.8未満、より好ましくは0.7未満、さらにより好ましくは0.6未満、最も好ましくは0.5未満の縦横比の範囲を有する、項66または67に記載の多微粒子薬物送達システム。
【0082】
[69]少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも93%、さらにより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも97%、さらにより好ましくは少なくとも98%が固形剤形単位から回収されることを可能にする、項66~68のいずれかに記載の多微粒子薬物送達システム。
【0083】
[70]連続運動下にある緩衝水溶液中に固形剤形を連続浸漬して30分以内、1時間以内または2時間以内に少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも93%、さらにより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも97%、さらにより好ましくは少なくとも98%が固形剤形単位から回収されること(速放)を可能にする、項66~69のいずれかに記載の多微粒子薬物送達システム。
【0084】
[71]連続運動下にある緩衝水溶液中に固形剤形を連続浸漬して4時間以内、6時間以内、8時間以内、10時間以内、12時間以内、14時間以内、16時間以内、18時間以内、20時間以内、22時間以内、24時間以内、26時間以内、28時間以内、30時間以内、32時間以内、34時間以内または36時間以内などに少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも93%、さらにより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも97%、さらにより好ましくは少なくとも98%が固形剤形単位から回収されること(徐放)を可能にする、項66~70のいずれかに記載の多微粒子薬物送達システム。
【0085】
[72]固形剤形単位が押出球形化によって調製される、項66~71のいずれかに記載の多微粒子薬物送達システム。
【0086】
[73]固形剤形単位が項1~58のいずれかのいずれか1項の方法による押出球形化によって調製される、項66~72のいずれかに記載の多微粒子薬物送達システム。
【0087】
[74]固形剤形単位が、押出によって調製され、非球形化固形剤形単位である、項66~72のいずれかに記載の多微粒子薬物送達システム。
【0088】
[75]多微粒子薬物送達システムが、複数の固形剤形単位から圧縮、封入または押出球形化によって調製される、項66~74のいずれかに記載の多微粒子薬物送達システム。
【0089】
[76]多微粒子薬物送達システムまたは個々の固形剤形単位が、さらなるコーティング剤として塗布される遅延放出コーティング剤を含む、項66~75のいずれかに記載の多微粒子薬物送達システム。
【0090】
[77]項65~76のいずれか1項に記載の多微粒子薬物送達システムに含まれる固形剤形単位の単一の固形剤形単位からなる固形剤形。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【
図1】各段階の30分後、60分後または24分後に湿式造粒、押出、球形化および乾燥による比較例1のペレットの調製における個々の段階の後のアダリムマブの(A)クエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7)中でのアダリムマブ回収率、(B)凝集プロファイルおよび(C)断片化プロファイルを求め1.0mg/mlのアダリムマブ標準品のものと比較した図である。ブラッドフォード試薬を用いた総タンパク質含有量の分析によりアダリムマブ定量化を熱量測定的に実施した。
【
図2】造粒に使用するアダリムマブ含有結合液中のTween(登録商標)20またはKolliphor(登録商標)188の濃度を変えて調製したペレットからのアダリムマブ放出を示す図である。添加剤は、ソルビトールの代わりにマンニトールを含有する実施例1および比較例3を除いて、比較例2のペレットで使用したものと同じものとした。クエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7)中でペレットを溶出させた。ブラッドフォード試薬を用いて溶出試料の総タンパク質含有量を比色分析的に求めた。結果は、対応する標準偏差とともに三重反復の平均値で表されている。
【
図3】実施例1、実施例2および実施例3のペレット(速放性)をクエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7)に入れて24時間後に回収されたアダリムマブから得たサイズ排除クロマトグラフィー(凝集体)のデータを示す図である。試料を3連で調製し、同じ緩衝液に入れた1.0mg/mlアダリムマブの陽性対照と比較した。
【
図4】実施例1、実施例2および実施例3のペレットをクエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7)に入れて24時間後に回収されたアダリムマブから得たマイクロチップ電気泳動(フラグメント)のデータを示す図である。試料を3連で調製し、同じ緩衝液に入れた1.0mg/mlアダリムマブの陽性対照と比較した。
【
図5】クエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7.0)中での実施例4、実施例5、実施例6および実施例7のペレットからのアダリムマブ放出を示す図である。結果は、対応する標準偏差とともに三重反復の平均値で表されている。
【
図6】(A)様々な徐放ペレットのクエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7.0)中でのアダリムマブ放出を示す図である。結果は、対応する標準偏差とともに三重反復の平均値で表されている。(B)徐放ポリマーのCompritol(登録商標)ATO 188を含む様々な徐放ペレットのクエン酸塩TRIS緩衝液(pH7)中での溶出を示す図である。
【
図7】アダリムマブを粉体混合物中に直接加え、結合液に様々なTween(登録商標)20濃度(Tween(登録商標)20 0.1%(比較例4)、Tween(登録商標)20 0.25%(実施例15)およびTween(登録商標)20 0.5%(実施例16))を用いて調製した速放ペレットからのアダリムマブ放出を示す図である。
【
図8】押出球形化によって調製し、さらに、流動床機器を用いて、ポリマー重量が28.5%(実施例17)、20.6%(実施例18)および13.7%(実施例19)増加するまでEudragit(登録商標)RS 30Dと可塑剤のクエン酸トリエチルと抗粘着剤のSyloid(登録商標)244FPとを含む徐放コーティング剤でコートした速放アダリムマブ充填ペレット(比較例5)からのアダリムマブ放出を示す図である。さらに、溶出させて24時間後に収集した実施例19のペレット試料では、アダリムマブの凝集体にもフラグメントにもそれぞれサイズ排除クロマトグラフィーおよびマイクロチップ電気泳動による測定で有意な増加はみられなかった(
図8B)。
【発明を実施するための形態】
【0092】
(詳細な説明)
本発明は、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントと、界面活性剤と、押出球形化補助剤と、緩衝剤と、崩壊剤と、充填剤、徐放物質およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つのさらなる添加剤とを含む固形剤形を調製する方法に関する。本発明の方法は、そのもっとも一般的な形態では、a)押出球形化補助剤と、崩壊剤と、少なくとも1つのさらなる添加剤とを含む粉体混合物を準備する段階;b)段階a)の粉体混合物に結合液を加えることにより湿式造粒を実施して湿塊を得る段階;c)段階b)の湿塊を押し出し、押出物を収集する段階;d)段階c)の押出物を球形化して湿った球状物を得る段階;およびe)湿った球状物を乾燥させて最終固形剤形を得る段階を含み;粉体混合物および/または結合液は、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントと、緩衝剤と、界面活性剤とを含む。
【0093】
本明細書で使用される「固形剤形」という用語は、「固形医薬剤形」または「固形剤形に製剤化した医薬組成物」と同義であると理解され得るものであり、例えば、ペレット、カプセル、顆粒、ミニ錠剤などがこれに含まれる。本発明の一実施形態では、固形剤形は、ペレット、ミニスフィア、ビーズ、顆粒またはミニ錠剤である。本発明の好ましい実施形態では、固形剤形はペレットである。本発明の複数の単位固形剤形を組み合わせて、例えば錠剤、硬ゼラチン/HPMCカプセル、サシェ/スティック包装、飲用ストロー(Xstraw(登録商標))、カプレットまたは丸剤の形態の単一単位の製剤にし得る。
【0094】
本明細書で使用される「約」という用語は、所与の量の数値または範囲が、明示される数値または範囲の10%以内、または任意選択でその数値または範囲の5%以内、またはいくつかの実施形態ではその数値または範囲の1%以内の範囲にある量を包含し得ることを表す。
【0095】
「抗体」という用語は、本発明においては、クラスIgG、IgM、IgE、IgAまたはIgD(またはその任意のサブクラス)に属するタンパク質と定義される「免疫グロブリン」(Ig)を指し、あらゆる従来の既知の抗体およびその機能的フラグメントを包含する。本発明においては、抗体/免疫グロブリンの「機能的フラグメント」は、親抗体の特性を実質的に維持しているその親抗体の抗原結合フラグメントまたはその他の誘導体と定義される。抗体/免疫グロブリンの「抗原結合フラグメント」は、抗原結合領域を保持しているフラグメント(例えば、IgGの可変領域)と定義される。抗体の「抗原結合領域」は通常、抗体の1つまたは複数の超可変領域、すなわち、CDR-1、CDR-2および/またはCDR-3領域にみられる。本発明による「抗原結合フラグメント」は、F(ab’)2フラグメントおよびFabフラグメントのドメインを包含する。本発明の「機能的フラグメント」は、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメント、scFv、dsFv、VHH、ダイアボディ、トライアボディ、テトラボディ、Fc融合タンパク質およびミニボディを包含する。F(ab’)2またはFabドメインは、CH1ドメインとCLドメインとの間で起こる分子間ジスルフィド相互作用が最小限になる、または完全に除去されるよう設計され得る。本発明に使用する抗体または機能的フラグメントは、二機能性または多機能性構築物の一部であり得る。
【0096】
Fabフラグメントは、抗体をパパイン(EC3.4.22.2)などのシステインプロテイナーゼで消化した後、精製した消化産物として得ることができる。F(ab’)2フラグメントは、抗体をペプシン(EC3.4.23.1)またはIdeS(化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来の免疫グロブリン分解酵素;EC3.4.22)で消化した後、精製した消化産物として得ることができる。Fab’フラグメントは、穏やかな還元性条件下でF(ab’)2フラグメントから得ることができ、各F(ab’)2分子から2つのFab’フラグメントが生じる。scFvは、可変軽(「VL」)ドメインと可変重(「VH」)ドメインがペプチド架橋によって結合した一本鎖Fvフラグメントである。
【0097】
「ダイアボディ」は、それぞれがリンカーなどを介して連結された可変領域を有する2つのフラグメント(以降、ダイアボディ形成フラグメントと呼ぶ)からなる二量体であり、通常、2つのVLと2つのVHとを含む。ダイアボディ形成フラグメントとしては、VLとVH、VLとVL、VHとVHなど、好ましくはVHとVLからなるものが挙げられる。ダイアボディ形成フラグメントのリンカー連結可変領域については特に限定されるわけではないが、同じフラグメントの可変領域の間に非共有結合が生じない程度に短いのが好ましい。このようなリンカーの長さは、当業者が必要に応じて決定することができるが、通常、2~14アミノ酸、好ましくは3~9アミノ酸、特に4~6アミノ酸を用いる。この場合、同じフラグメント上にコードされるVLとVHは、別のフラグメントとの二量体が形成され得るように、同じ鎖上のVLとVHとの間に非共有結合が生じず、一本鎖可変領域フラグメントが形成されない程度に短いリンカーを介して連結される。二量体は、ダイアボディ形成フラグメント同士の共有結合もしくは非共有結合またはその両方を介して形成され得る。
【0098】
さらに、リンカーなどを介してダイアボディ形成フラグメントを連結して一本鎖ダイアボディ(sc(Fv)2)を形成することができる。約15~20アミノ酸の長いリンカーを用いてダイアボディ形成フラグメントを連結することにより、同じ鎖上に存在するダイアボディ形成フラグメント同士で非共有結合を形成させて二量体を形成することができる。ダイアボディの調製と同じ原理に基づき、3つ以上のダイアボディ形成フラグメントを連結することにより、三量体または四量体などの重合抗体を調製することもできる。
【0099】
一実施形態では、本発明の方法により調製される固形剤形中の機能的フラグメントは、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメント、scFv、dsFv、VHH、ダイアボディ、トライアボディ、テトラボディ、Fc融合タンパク質またはミニボディである。本発明に使用する好ましい機能的フラグメントは、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメント、scFvおよびダイアボディである。
【0100】
固形剤形を調製するために本発明の方法で使用する抗体またはその機能的フラグメントは特に限定されない。一実施形態では、抗体またはその機能的フラグメントは抗体である。本発明の別の実施形態では、抗体またはその機能的フラグメントは、上で定義した機能的フラグメントである。抗体またはその機能的フラグメントは、例えば安定性、特異性または標的化を改善する付加残基または置換残基の形態の1つまたは複数の修飾をさらに含み得る。これらは当該技術分野で公知の任意のこのような修飾を含み得る。
【0101】
抗体または機能的フラグメントが標的とする抗原、すなわち、抗体またはその機能的フラグメントが特異的に結合することができる免疫原、ペプチド、タンパク質またはその他の分子構造は限定されない。「~に特異的な」または「特異的に結合すること」は、最も一般的な形態では(かつ特に明記されない場合)、例えば当該技術分野で公知の特異性アッセイ法によって判定される、抗体またはその機能的フラグメントが目的とする標的と無関係な生体分子とを識別する(例えば、ヒトTNFαに特異的な抗体がヒトTNFαと無関係な生体分子とを識別する)能力を指す。このような方法は、特に限定されないが、ウエスタンブロットおよび酵素結合免疫測定(ELISA)試験を含む。例えば、標準的なELISAアッセイを実施することができる。通常、単一の基準生体分子ではなく、約3~5つの無関係な生体分子、例えば粉乳、BSA、トランスフェリンなどのセットを用いることにより結合特異性の判定を実施する。本発明の一実施形態では、抗体またはその機能的フラグメントは、消化器疾患、例えば、炎症性腸疾患(IBD)(例えば、クローン病または潰瘍性大腸炎)、癌(例えば、結腸直腸癌または小腸癌)、セリアック病または感染症(例えば、ディフィシル菌(Clostridium difficile)感染症)、より好ましくはIBDの治療に使用するのに適したものである。本発明の別の実施形態では、抗体またはその機能的フラグメントは、患者の消化管の空腸、回腸または大腸の局所治療に使用するのに適したものである。
【0102】
本発明のさらなる実施形態では、抗体またはその機能的フラグメントは、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)に特異的な抗体およびその機能的フラグメント、α4β7インテグリンに特異的な抗体およびその機能的フラグメント、CD3、CD4またはCD20に特異的な抗体およびその機能的フラグメント、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン12(IL-12)、インターロイキン13(IL-13)、インターロイキン23(IL-23)またはその受容体に特異的な抗体およびその機能的フラグメント、CXCL10/IP-10に特異的な抗体およびその機能的フラグメントならびにp40タンパク質サブユニットに特異的な抗体およびその機能的フラグメントから選択される。本発明のさらに別の実施形態では、抗体またはその機能的フラグメントは、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、セルトリズマブペゴル、ゴリムマブ、ビジリズマブ、エルデルマブ、アブリルマブ、カナキヌマブ、トシリズマブ、ウステキヌマブ、ナタリズマブ、エトロリズマブ、プリリキシマブ、ベドリズマブおよびその機能的フラグメントから選択される。
【0103】
本発明の一実施形態では、本発明の方法によって調製する固形剤形中の抗体またはその機能的フラグメントは、TNFαと特異的に結合するものである。本明細書で使用される「抗TNFα抗体」、「TNFα抗体」および「TNFαに特異的な抗体」という用語は、互換可能なものである。一実施形態では、特異的に結合することとは、抗体またはフラグメントがヒトTNFαとヒトTNFβとを識別することができることを指す。本発明の好ましい実施形態では、TNFα抗体またはその機能的フラグメントはTNFα抗体である。本発明の別の好ましい実施形態では、TNFα抗体またはその機能的フラグメントはTNFα抗体の機能的フラグメントである。
【0104】
先行技術には、これまでにTNFαに対するモノクローナル抗体がいくつか記載されている。Meagerら(Hybridoma,6,305-311、1987)には、組換えTNFαに対するマウスモノクローナル抗体が記載されている。Fendlyら(Hybridoma,6,359-370,1987)には、TNF上の中和エピトープを明らかにするのに組換えTNFαに対するマウスモノクローナル抗体を使用することが記載されている。さらに、国際公開第92/11383号には、TNFαに特異的なCDR移植抗体を含めた組換え抗体が開示されている。米国特許第5,919,452号には、抗TNFαキメラ抗体およびTNFαの存在を原因とする病態の治療へのその使用が開示されている。さらに、Stephensら(Immunology,85,668-674,1995)、英国特許第2246570(A)号、英国特許第2297145(A)号、米国特許第8,673,310号、米国特許出願公開第2014/0193400号、欧州特許第2390267(B1)号、米国特許第8,293,235号、米国特許第8,697,074号、国際公開第2009/155723(A2)号および国際公開第2006/131013(A2)号に抗TNFα抗体が開示されている。
【0105】
現時点で承認されている抗TNFαバイオ医薬品としては、(i)キメラIgG抗ヒトモノクローナル抗体のインフリキシマブ(Remicade(登録商標));(ii)IgG1 Fcを有するTNFR2二量体融合タンパク質のエタネルセプト(Enbrel(登録商標));(iii)完全ヒトモノクローナル抗体(mAb)のアダリムマブ(Humira(登録商標))、(iv)ペグ化Fabフラグメントのセルトリズマブ(Cimzia(登録商標))および(v)ヒトIgGIKモノクローナル抗体のゴリムマブ(Simponi(登録商標))が挙げられる。さらに、様々なバイオ後続品が開発段階にある。したがって、本発明の一実施形態では、抗体またはその機能的フラグメントは、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、セルトリズマブペゴルおよびゴリムマブまたはその機能的フラグメントから選択される。本発明の別の実施形態では、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントは、最初に出願された国際出願PCT/EP2017/056218号、国際出願PCT/EP2017/056246号、国際出願PCT/EP2017/056237号および国際出願PCT/EP2017/056227号に開示されている抗TNFα抗体またはその機能的フラグメントから選択される。本発明のさらに別の実施形態では、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントは、最初に出願された国際出願PCT/EP2017/056218号、国際出願PCT/EP2017/056246号、国際出願PCT/EP2017/056237号および国際出願PCT/EP2017/056227号に開示されているアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)を含む軽鎖可変ドメインおよび/または重鎖可変ドメインを有する抗TNFα抗体またはその機能的フラグメントである。
【0106】
本発明の好ましい実施形態では、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントは、国際出願PCT/EP2017/056218号の配列番号7、9、12、14、24および25、国際出願PCT/EP2017/056246号の配列番号7~11および6、国際出願PCT/EP2017/056237号の配列番号7~12、国際出願PCT/EP2017/056227号の配列番号1~4、7および6に開示されているアミノ酸配列を有する1つまたは複数のCDRを含む軽鎖可変ドメインおよび/または重鎖可変ドメインを有する抗TNFα抗体またはその機能的フラグメントならびにその組合せから選択される。本発明の別の好ましい実施形態では、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントは、最初に出願された国際出願PCT/EP2017/056218号の請求項2、国際出願PCT/EP2017/056246号の請求項2、国際出願PCT/EP2017/056237号の請求項2および/または国際出願PCT/EP2017/056227号の請求項2に開示されているアミノ酸配列を有するCDRを含む軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインを有する抗TNFα抗体またはその機能的フラグメントから選択される。本発明のまた別の好ましい実施形態では、少なくとも1つの抗TNFα抗体またはその機能的フラグメントは、国際出願PCT/EP2017/056218号の請求項4、国際出願PCT/EP2017/056246号の請求項5および6、国際出願PCT/EP2017/056237号の請求項5および6、国際出願PCT/EP2017/056227号の請求項4に記載の重鎖可変ドメインアミノ酸配列および/または軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む抗TNFα抗体またはその機能的フラグメントならびにその組合せからなる群より選択される。
【0107】
本発明者らが、押出球形化補助剤と崩壊剤と少なくとも1つのさらなる添加剤との粉体混合物に加える結合液または粉体混合物中に界面活性剤が含まれていると、固形剤形溶出時の固形剤形からのインタクト抗体またはその機能的フラグメントの回収率が大幅に改善されることを発見したのは驚くべきことである。したがって、本発明の方法によって調製される固形剤形は、1つまたは複数の界面活性剤を含む。本明細書で使用される「界面活性剤」という用語は、表面を活性化させる物質、すなわち、自身が溶解する液体の表面張力を低下させ、かつ/または油と水の間の界面張力を低下させる物質を指す。界面活性剤は、例えばイオン性または非イオン性であり得る。本発明の方法によって調製する固形剤形に含ませることができる例示的非イオン界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリソルベート20、28、40、60、65、80、81および85などのポリソルベート;ポロキサマー124、181、188、237、331、338および407などのポロキサマー;またはポリエチレン-ポリプロピレングリコール;アルキルポリ(エチレンオキシド)、アルキルポリグルコシド(例えば、オクチルグルコシドおよびデシルマルトシド);セチルアルコールおよびオレイルアルコールなどの脂肪アルコール;グリセリルモノステアラート、レシチン、ソルビタンモノパルミタート、グリコール酸ナトリウム、デ(ス)オキシコール酸ナトリウム、ポリエトキシ化ヒマシ油(Kolliphor(登録商標)EL)、PEG-40水素化ヒマシ油(クレモフォール(登録商標)RH40)、マクロゴール15ヒドロキシステアラート、ポリオキシル15ヒドロキシステアラート(Kolliphor(登録商標)HS 15)、カプリロカプロイルマクロゴール-8グリセリド(Labrasol(登録商標))、D-α-トコフェロールポリエチレングリコール1000スクシナート(ビタミンE TPGS)が挙げられる。本発明の方法の一実施形態では、界面活性剤は、ポリソルベート20(Tween(登録商標)20)、ポリソルベート28、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート81、ポリソルベート85、ポロキサマー124、ポロキサマー181、ポロキサマー188(Kolliphor(登録商標)188)、ポロキサマー237、ポロキサマー331、ポロキサマー338およびポロキサマー407、グリセリルモノステアラート、ポリエトキシ化ヒマシ油(Kolliphor(登録商標)EL)、PEG-40水素化ヒマシ油(クレモフォール(登録商標)RH40)、マクロゴール15ヒドロキシステアラート、ポリオキシル15ヒドロキシステアラート(Kolliphor(登録商標)HS 15)、カプリロカプロイルマクロゴール-8グリセリド(Labrasol(登録商標))、D-α-トコフェロールポリエチレングリコール1000スクシナート(ビタミンE TPGS)、グリセリルモノステアラート、レシチン、ソルビタンモノパルミタート、セチルアルコール、オレイルアルコール、グリコール酸ナトリウム、デ(ス)オキシコール酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アルキルポリ(エチレンオキシド)、アルキルグリコシド、アルキルポリグルコシド、オクチルグルコシド、デシルマルトシドからなる群より選択される。本発明の方法の好ましい実施形態では、界面活性剤は、ポリソルベート20(Tween(登録商標)20)、ポリソルベート28、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート81、ポリソルベート85、ポロキサマー124、ポロキサマー181、ポロキサマー188(Kolliphor(登録商標)188)、ポロキサマー237、ポロキサマー331、ポロキサマー338およびポロキサマー407、グリセリルモノステアラート、ポリエトキシ化ヒマシ油(Kolliphor(登録商標)EL)、PEG-40水素化ヒマシ油(クレモフォール(登録商標)RH40)、マクロゴール15ヒドロキシステアラート、ポリオキシル15ヒドロキシステアラート(Kolliphor(登録商標)HS 15)、カプリロカプロイルマクロゴール-8グリセリド(Labrasol(登録商標))、D-α-トコフェロールポリエチレングリコール1000スクシナート(ビタミンE TPGS)、グリセリルモノステアラートからなる群より選択される。別の好ましい実施形態では、界面活性剤は、ポリソルベート20またはポロキサマー188、好ましくはポリソルベート20から選択される。
【0108】
使用する界面活性剤の量は特に限定されない。本発明の一実施形態では、結合液の総体積に対する使用する界面活性剤の量(w/v)は、0.005~2.0%、好ましくは0.01~1%、より好ましくは0.05~0.8%、さらにより好ましくは0.05~0.5%、さらにより好ましくは0.1~0.5、最も好ましくは約0.1%である。「結合液の総体積」という用語は、本発明の方法の段階b)で加える結合液の総体積を指す。結合液の総体積に対する界面活性剤の量(w/v)は、約0.03%、約0.05%、約0.08%、約0.1%、約0.15%、約0.2%、約0.25%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%または約0.8%であり得る。本発明の別の実施形態では、固形剤形中の界面活性剤の濃度(w/w)は、段階e)の後の固形剤形の総重量を基準に0.001~1%、好ましくは0.005~0.8%、より好ましくは0.005~0.5%、さらにより好ましくは0.01%~0.25%である。本発明のさらに別の実施形態では、固形剤形中の界面活性剤の濃度(w/w)は、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの濃度(w/w)によって決まるため、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの濃度が高いほど高い濃度の界面活性剤を使用し得る。
【0109】
本発明の方法で固形剤形を調製するのに使用する押出球形化補助剤は特に限定されない。本発明に使用することができる押出球形化補助剤の例としては、微結晶性セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース、シクロデキストリン、ペクチン、ペクチニン酸、デンプン、デキストリン、カラゲナン、グリセロールモノステアラート、コロイド状二酸化ケイ素が挙げられる。本発明の好ましい実施形態では、押出球形化補助剤は微結晶性セルロース(例えば、Avicel(登録商標)PH-101)である。
【0110】
本発明の方法によって調製する固形剤形中の崩壊剤は特に限定されない。崩壊剤の例としては、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン、大豆多糖または架橋アルギン酸が挙げられる。本発明の好ましい実施形態では、崩壊剤はデンプングリコール酸ナトリウム(例えば、Explotab(登録商標))である。
【0111】
本発明の方法によって調製する固形剤形は緩衝剤(緩衝塩)をさらに含む。適切な緩衝剤については当該技術分野で公知である。適切な緩衝剤は、1つまたは複数の緩衝剤/緩衝塩であり得、例えば、酢酸塩、クエン酸塩、ヒスチジン、ヒドロキシメチルアミノメタン(TRIS)およびリン酸塩緩衝剤などから選択され得る。特定の実施形態では、本発明の方法によって調製する固形剤形中の緩衝剤は、酢酸塩、クエン酸塩、TRIS、ヒスチジンおよびリン酸塩緩衝剤ならびにその組合せからなる群より選択される。緩衝剤は、結合液中に含ませても粉体混合物中に含ませてもよい。好ましくは、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを結合液中に含ませる場合は緩衝剤を結合液中に含ませ、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを粉体混合物中に含ませる場合は粉体混合物中に含ませる。
【0112】
本発明の方法によって調製する固形剤形中に含まれ充填剤、徐放物質およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つのさらなる添加剤は、特に限定されない。充填剤の例としては、デキストロース、ラクトース、ラクトース一水和物、無水ラクトース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、(アルファ化)デンプン、スクロース、グルコース、ラフィノース、トレハロース、第二リン酸カルシウム、マグネシウムもしくはケイ素の酸化物、炭酸チタン、炭酸カルシウム、リン酸マグネシウム、多孔性リン酸カルシウムまたは多孔性リン酸マグネシウム、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールが挙げられる。さらに、充填剤の例としてアミノ酸、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、リジン、プロリン、ロイシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸およびアスパラギンなどならびにその塩がある。本発明では、徐放ポリマーのグループから徐放物質を選択するのが好ましい。本発明では、徐放ポリマーの例としては、分子量が100,000~7,000,000、好ましくは分子量が約100,000である非イオン性ポリ(エチレンオキシド)ポリマー(例えば、Dows Chemicals社のPolyox(登録商標)N-10NF)、20℃の水中2重量%での粘度が3~100,000mPa・s(Dows Chemicals社のMethocel K3 Premium LV、Methocel K100 Premium LV、Methocel K4M Premium、Methocel K15 Premium、Methocel K100M Premiumなど)、好ましくは2,308~9,030mPa・s(例えば、Dows Chemical社のMethocel K4M PremiumおよびMethocel K15M Premium)、より好ましくは2,663~4,970mPa・s(例えば、Dows Chemicals社のMethocel K4M Premium)のHPMC 2208タイプ、キトサン、キサンタンガム、グアーガム、トラガント、ローカストビーンガム(locust been gum)、アラビアゴム、カルボマー、グリセリル(ジ)ベヘナート(例えば、Gattefosse社のCompritol(登録商標)888 ATO)、パルミトステアリン酸グリセリン(Gattefosse社のPrecirol(登録商標)など)、エチルセルロース、ポリビニルアセタート(Kollicoat(登録商標)SR 30D)およびポリメタクリラート、例えばポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.1(例えば、Eudragit(登録商標)RS 100、Eudragit(登録商標)RS PO、Eudragit(登録商標)RS 30DおよびEudragit(登録商標)RS 12.5)、ポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.2(例えば、Eudragit(登録商標)RL100、Eudragit(登録商標)RL PO、Eudragit(登録商標)RL 30DおよびEudragit(登録商標)RL 12.5)またはポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート)2:1(例えば、Eudragit(登録商標)NE 30D、Eudragit(登録商標)NE 40DおよびEudragit(登録商標)NM 30D)などが挙げられる。
【0113】
本発明の方法の段階a)の粉体混合物は、任意選択で少なくとも1つのさらなる添加剤を含み得る。本明細書で使用される「添加剤」という用語は、所望の稠度、粘度または安定化効果を得るため製剤に加える非治療剤を指す。本発明の一実施形態では、少なくとも1つのさらなる添加剤は、流動促進剤、可塑剤、滑沢剤、安定剤、保存剤、抗酸化剤、保湿剤、保護コロイド、色素、透過促進剤およびプロテアーゼ阻害剤などの薬学的に許容される添加剤から選択される。
【0114】
本発明の方法は、その最も一般的な形態では、押出球形化補助剤と、崩壊剤と、充填剤、徐放物質およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つのさらなる添加剤とを含む粉体混合物を準備する段階a)を第一の段階として含む。粉体混合物の個々の成分、すなわち、上に明記した押出球形化補助剤、崩壊剤および少なくとも1つのさらなる添加剤は、粉末または顆粒として準備することができる。湿式造粒、押出および球形化による固形剤形の調製に適した前記粉末または顆粒の全般的特性、例えば粒径、粒径分布またはかさ密度などは当業者に公知である。例えば、押出球形化補助剤のAvicel(登録商標)PH101(FMC Biopolymer社)、崩壊剤のEXPLOTAB(登録商標)(JRS Pharma社)および充填剤のソルビトール(Sigma-Aldrich社)ならびに/あるいは徐放ポリマー形態の徐放物質であるMethocel K4M(Colorcon Limited社、イギリス)またはPolyox(登録商標)N-10NF(The Dow Chemical社)などの市販の製品を使用することができる。
【0115】
本発明の一実施形態では、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメント、緩衝剤(緩衝塩)および/または界面活性剤を粉体混合物に直接加える。少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントは、粉末または顆粒として粉体混合物に直接加え得る。例えば、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを、抗体またはその機能的フラグメントを含有する粒子を含む粉末、例えば、凍結乾燥粉末、噴霧乾燥粉末、風乾粉末または真空乾燥粉末として加えることができる。界面活性剤も同様に、界面活性剤を含む粉末または顆粒として加えることができる。
【0116】
段階a)の個々の成分を従来の混合装置により混合して粉体混合物にすることができる。このような混合装置またはブレンダは当該技術分野で公知であり、例えば、異なる速度で反対方向に回転するブレードを備えたダブルパドルミキサがこれに含まれる。粉末化した段階a)の個々の成分の粒径を段階b)に進む前にさらに小さくする必要がある場合、乾式混合段階で適切な混合機器を用いて粉末を粉砕することができる。一実施形態では、乾式混合のための混合装置を段階b)の湿式混合(すなわち、湿式造粒または湿潤)でも使用する。乾式混合段階は通常、50rpmのブレードで約10分間実施する。
【0117】
本発明の方法の段階b)では、段階a)の粉体混合物に、好ましくは徐々に連続混合下で結合液を加えて湿塊を得る。この段階を湿式造粒、湿式混合または湿潤と呼び、定められた時間にわたって実施し、その時間は混合する材料の量によって異なり得る。本明細書で使用される「湿式造粒」という用語は、「湿式混合」または「湿潤」と同義であるものと理解される。
【0118】
本発明の別の実施形態では、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメント、緩衝剤および/または界面活性剤を結合液中に含ませる。少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを結合液中に導入する方法は特に限定されない。例えば、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを、抗体またはその機能的フラグメントを含有する粒子を含む粉末、例えば、凍結乾燥粉末、噴霧乾燥粉末、風乾粉末または真空乾燥粉末として結合液に加え、それにより、抗体またはその機能的フラグメントを結合液中で直接再構成することができる。あるいは、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを、例えば緩衝水溶液の一部として予め溶液中に加えてもよい。界面活性剤も同様に、界面活性剤を含む粉末もしくは顆粒として、または界面活性剤を含む溶液もしくは懸濁液として結合液中に導入し得る。
【0119】
段階a)の一定量の粉体混合物に加える結合液の総体積は、押出に適した湿塊を得るのに十分なものである。したがって、段階a)の一定量の粉体混合物に加える結合液の総体積は、段階b)で得られる湿塊の粘着力および可塑性が、湿塊の押出を可能にするのに十分であるが、粉体混合物の液体吸収能は超えない程度に低いものになる程度の大きさである。押出に適した湿塊を得るために加える結合液の総体積は、段階a)の粉体混合物の最終的な組成によって異なるものであり得、当業者によって決定され得る。加える結合液の総体積の必要量は、例えば、湿塊のトルクまたは消費電力を測定することにより実験的に決定することができる。
【0120】
本発明のある特定の実施形態では、段階a)の粉体混合物または段階b)の結合液は結合剤をさらに含む。本発明に従って使用するのに適した結合剤は特に限定されず、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0121】
本発明の方法の段階c)では、好ましくは制御された速度で、好ましくは押出物を常時収集しながら、段階b)の湿塊を押し出す。本発明の方法の目的に適した押出機は当該技術分野で公知である。適切な押出機の例としては、単一スクリュ押出機、ツインスクリュ押出機、スクリーン押出機、RAM押出機が挙げられる。本発明の一実施形態では、押出機は単一スクリュ押出機(例えば、Caleva Multi-Lab)である。押出機の適切な設定は当業者が決定することができる。本発明の一実施形態では、押出機は、直径1mm、深さ1mmの穴を有するダイプレートおよび50~200rpm、好ましくは約150rpmのスクリュ速度を備えたものである。
【0122】
本発明の方法の段階d)では、段階c)の押出物をスフェロナイザに入れ球形化して、個々の湿った球状物を得る。スフェロナイザおよびスフェロナイザの設定は特に限定されない。適切なスフェロナイザの例としては、Calevaおよびその他の会社のCaleva Multilabおよびこれより規模の大きいスフェロナイザが挙げられる。本発明の一実施形態では、スフェロナイザは、回転によって段階c)の押出物をプレートの設計、時間、速度および押出物の配合によっては丸くなる小さい断片に粉砕する、溝付きプレートからなるものである。適切な球形化の設定の例として、例えば、1500rpmで5分間というものがある。
【0123】
本発明の方法の段階e)では、段階d)の湿った球状物を乾燥させて最終固形剤形を得る。乾燥させる過程で結合液の溶媒を除去する。球形化後に湿った球状物を乾燥させる手段は当該技術分野で公知であり、例えば、流動床、乾燥棚またはオーブンがこれに含まれる。乾燥をさらに真空で補助し得る。本発明に使用する抗体およびその機能的フラグメントの活性および安定性は、温度変動などの外部ストレス、特に温度上昇に対する感受性が極めて高い。したがって、本発明の方法では、本発明の方法によって調製する最終固形剤形中の少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの長期間にわたる安定性および活性を確保するため、乾燥時の温度は、抗体およびその機能的フラグメントの活性および安定性を保護し、同時に湿った球状物を効率的に乾燥させる温度とする。
【0124】
本発明の一実施形態では、段階e)において、湿った球状物の乾燥を55℃未満、好ましくは50℃未満、より好ましくは45℃未満、さらにより好ましくは約40℃の温度で実施する。湿った球状物を乾燥させる時間は特に限定されず、湿った球状物を乾燥させる手段および目標とする固形剤形の残留水分レベルによって決まる。本発明の一実施形態では、段階d)の湿った球状物を流動床、オーブンまたは乾燥棚乾燥棚で0.5~48時間、好ましくは0.5~24時間、より好ましくは2~18時間、さらにより好ましくは4~16時間、さらにより好ましくは8~14時間乾燥させる。
【0125】
湿った球状物は、十分に乾燥した固形剤形が得られるまで乾燥させ得る。結合液に使用した溶媒(好ましくは水)の大部分が蒸発によって除去されていれば、固形剤形は十分に乾燥しているものとする。本発明の一実施形態では、固形剤形の残留溶媒(好ましくは水)含有量(すなわち、固形剤形の残留水分レベル)が固形剤形の総重量に対して20重量%未満、好ましくは15重量%未満、より好ましくは10重量%未満、さらにより好ましくは8重量%未満、さらにより好ましくは5%未満、最も好ましくは3重量%,2重量%,1重量%または0.5重量%未満であれば、固形剤形は十分に乾燥しているものとする。
【0126】
本発明に使用する抗体およびその機能的フラグメントの活性および安定性を維持するため、本発明では、固形剤形を調製する過程の条件は、(例えば、高温、圧力、剪断力、酵素混入など回避することによって)抗体および機能的フラグメントの活性および安定性に寄与するものである。したがって、本発明の一実施形態では、段階a)~d)のいずれの時点でも、抗体またはその機能的フラグメントの温度は、55℃未満、好ましくは50℃未満、より好ましくは45℃未満、さらにより好ましくは40℃未満、さらにより好ましくは35℃未満、最も好ましくは30℃未満である。本発明の別の実施形態では、段階a)およびe)のいずれの時点でも、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの温度は、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの融解温度(Tm)未満である。このことは、固形剤形中に2つ以上の抗体または機能的フラグメントが含まれる場合、温度は融解温度(Tm)が最も低い抗体またはその機能的フラグメントのTm未満とするべきであることを意味するものと理解される。段階e)の後、段階f)として徐放コーティング剤形態の少なくとも1つの追加のコーティング剤を塗布する本発明のさらに別の実施形態では、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを含む固形剤形の温度は、段階f)のいずれの時点でも、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの融解温度(Tm)未満である。
【0127】
本発明の一実施形態では、本発明の方法によって調製する固形剤形は速放剤形である。本明細書で使用される「速放」という用語は、水溶液中に浸漬して約2時間以内、好ましくは約1時間以内、さらにより好ましくは約0.5時間以内に抗体またはその機能的フラグメントの50%超、好ましくは60%超、さらにより好ましくは70%超などが固形剤形から放出される固形剤形を表すものとする。本明細書で使用される「水溶液」という用語は、大部分が水である(例えば、30重量%超、好ましくは40重量%超、好ましくは50重量%超、好ましくは60重量%超、最も好ましくは70重量%超の水)溶液または懸濁液を指し得る。これには腸液が含まれる。「緩衝水溶液」という用語は、緩衝剤を含む水溶液を指す。固形剤形は、本発明の段階e)の終了後の速放剤形であり得る。ただし、本発明による段階e)の終了後、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの固形剤形からの放出を修正する、例えば徐放コーティング剤または遅延放出コーティング剤の形態の追加のコーティング剤を塗布してもよい。
【0128】
固形剤形から水溶液中に放出される抗体または機能的フラグメントの量を測定するには、固形剤形を一定体積の水溶液中に一定時間にわたって浸漬し、得られた水溶液中の機能的フラグメントの濃度を求めることができる。水溶液中の抗体濃度を求める手段は当該技術分野で公知であり、例えば、280nmでの吸光度を測定することによるもの、またはブラッドフォードアッセイなどの比色分析による試薬ベースのタンパク質アッセイ技術を用いることによるもの、またはELISAによるものがこれに含まれる。本発明の一実施形態では、固形剤形は、固形剤形を連続運動下にある緩衝水溶液中に連続浸漬して1時間以内に少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも92%、さらにより好ましくは少なくとも93%、さらにより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも97%、さらにより好ましくは少なくとも98%が固形剤形から回収されることを可能にする、段階e)の終了後の速放剤形である。
【0129】
本開示全体を通じて、(直前の節のように)例えば、固形剤形/多微粒子薬物送達システムを連続運動下にある緩衝水溶液中に連続浸漬することによる、固形剤形/多微粒子薬物送達システムからの抗体またはその機能的フラグメントの溶出または回収と言う場合は常に、例えば、以下の標準的な試験設定またはこれに関連する当業者に公知の標準的な試験設定を用いることができることを理解するべきである:標準的な溶出装置I(バスケット法)、II(パドル法)、III(レシプロケーティングシリンダ法)または装置IV(フロースルーセル法)を用いて少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの放出を評価することができ、この場合、緩衝剤(すなわち、緩衝水溶液)を37℃で平衡化する。溶出試験に用いる緩衝液の体積は、例えば、装置IまたはIIの小型容器を用いて、必要な体積を減らし、より生物学的に関連のある(biorelevant)ものにすることで適合させることができる。溶出時の抗体またはその機能的フラグメントの放出をELISA法によりオフラインで定量化することができる。
【0130】
本発明の方法の段階a)~e)によって調製する固形剤形が速放固形剤形である場合、本発明の方法の段階a)に含まれる少なくとも1つのさらなる添加剤は、固形剤形の短時間での溶出を可能にする物質である。本発明の方法によって調製する速放固形剤形に使用するさらなる添加剤には充填剤があり、デキストロース、ラクトース、ラクトース一水和物、無水ラクトース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、スクロース、グルコース、ラフィノース、トレハロース、第二リン酸カルシウム、マグネシウムまたはケイ素の酸化物、炭酸チタン、炭酸カルシウム、リン酸マグネシウム、多孔性リン酸カルシウムまたは多孔性リン酸マグネシウム、アミノ酸、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、リジン、プロリン、ロイシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸およびアスパラギンなどならびにそれぞれの塩、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール;好ましくは、デキストロース、マンニトール、スクロース、ソルビトール、キシリトール、トレハロースおよび第二リン酸カルシウムならびにアミノ酸、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、リジン、プロリン、ロイシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸およびアスパラギンなどならびにそれぞれの塩;より好ましくは、スクロース、トレハロース、ソルビトールまたはマンニトールならびにアミノ酸、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、リジン、プロリン、ロイシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸およびアスパラギンなどならびにそれぞれの塩;さらにより好ましくはソルビトールから選択される1つまたは複数のものがこれに含まれ得る。速放固形剤形を調製する本発明の方法の好ましい実施形態では、段階a)の粉体混合物は、押出球形化補助剤の微結晶性セルロース;崩壊剤のデンプングリコール酸ナトリウム;および充填剤のソルビトールまたはマンニトール、好ましくはソルビトールを含む。
【0131】
(本発明の方法の段階e)の終了後の)速放固形剤形を調製する本発明の方法の別の好ましい実施形態では、段階a)の粉体混合物は、押出球形化補助剤を20~90%、好ましくは30~80%、より好ましくは40~75%、さらにより好ましくは45~70%、最も好ましくは約45~50%;崩壊剤を0.5~50%、好ましくは0.5~40、より好ましくは1~35%、さらにより好ましくは1~30%、さらにより好ましくは1~15%、最も好ましくは約1~10%、あるいは最も好ましくは10~30%;ならびに少なくとも1つのさらなる添加剤として充填剤(好ましくは、ソルビトール、スクロース、トレハロースまたはマンニトール、アミノ酸、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、リジン、プロリン、ロイシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸およびアスパラギンなどならびにそれぞれの塩ならびにその組合せ)を2.5~55%、好ましくは5~50%、より好ましくは10~40%、さらにより好ましくは20~40%、最も好ましくは約30~40%、あるいは最も好ましくは20~30%含む。
【0132】
粉体混合物が少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを含む、(本発明の方法の段階e)の終了後の)速放固形剤形を調製する本発明の方法のまた別の好ましい実施形態では、段階a)の粉体混合物は、押出球形化補助剤を20~70%、好ましくは30~60%、より好ましくは40~50%、さらにより好ましくは約45%;崩壊剤を0.5~30%、好ましくは0.5~20%、より好ましくは1~15%、さらにより好ましくは1~10%;少なくとも1つのさらなる添加剤として充填剤(好ましくは、スクロース、トレハロース、ソルビトールまたはマンニトール、アミノ酸、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、リジン、プロリン、ロイシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸およびアスパラギンなどならびにそれぞれの塩ならびにその組合せ)を5~50%、好ましくは10~45%、より好ましくは20~40%、さらにより好ましくは30~40%;ならびに少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを0.1~30%、好ましくは1~25%、より好ましくは1~20%、さらにより好ましくは2~15%、さらにより好ましくは5~15%含む。本発明の別の実施形態では、本発明の方法によって調製する固形剤形は徐放剤形である。本明細書で使用される「徐放」という用語は、長時間にわたって、例えば、少なくとも6時間、好ましくは少なくとも8時間、少なくとも10時間、少なくとも12時間、少なくとも14時間、少なくとも16時間、少なくとも18時間または少なくとも24時間などにわたって固形剤形から相当な割合の抗体またはその機能的フラグメントを放出する固形剤形を表すのに使用される。本発明の好ましい実施形態では、固形剤形は、水溶液中に固形剤形を連続浸漬して一定時間(例えば、4時間、6時間、8時間、10時間、12時間、14時間、16時間、18時間、20時間、22時間、24時間、26時間、28時間、30時間、32時間、34時間または36時間など)以内に少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの少なくとも45%、好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも65%、さらにより好ましくは少なくとも75%、さらにより好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも93%、さらにより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも98%が固形剤形から回収されることを可能にする徐放剤形である。本発明の別の好ましい実施形態では、固形剤形は、水溶液中に固形剤形を連続浸漬したとき、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを少なくとも5時間、好ましくは少なくとも10時間、より好ましくは少なくとも12時間、さらにより好ましくは少なくとも20時間、最も好ましくは少なくとも24時間にわたって徐放することが可能な徐放剤形である。本発明の別の好ましい実施形態では、固形剤形は、連続運動下にある緩衝水溶液中に固形剤形を連続浸漬したとき、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを少なくとも8時間、少なくとも10時間、少なくとも12時間、少なくとも14時間または少なくとも16時間にわたって徐放することが可能な徐放剤形である。
【0133】
特に、回腸および大腸を含めた消化管の区画に発症する病態、例えばクローン病および潰瘍性大腸炎などには、全身吸収が少ない抗体またはその機能的フラグメントの形態の活性な生物学的薬剤の徐放固形剤形が望ましいものであり得る。
【0134】
本発明の方法によって調製する徐放固形剤形では、少なくとも1つのさらなる添加剤は、徐放ポリマーから選択され得る徐放物質である。ただし、2つ以上、例えば2つ、3つまたは4つの徐放ポリマーを含めることができる。本発明に適した徐放ポリマーとしては、分子量が100,000~7,000,000、好ましくは分子量が約100,000である非イオン性ポリ(エチレンオキシド)ポリマー(例えば、Dow Chemicals社のPolyox(登録商標)N-10NF);20℃の水中2重量%での粘度が3~100,000mPa・s(Dow Chemicals社のMethocel K3 Premium LV、Methocel K100 Premium LV、Methocel K4M Premium、Methocel K15 Premium、Methocel K100M Premiumなど)、好ましくは2,308~9,030mPa・s(例えば、Dows Chemical社のMethocel K4M PremiumおよびMethocel K15M Premium)、より好ましくは2,663~4,970mPa・s(例えば、Dow Chemicals社のMethocel K4M Premium)のHPMC 2208タイプ;キトサン、キサンタンガム、グアーガム、トラガント、ローカストビーンガム(locust been gum)、アラビアゴム、カルボマー、グリセリル(ジ)ベヘナート(例えば、Gattefosse社のCompritol(登録商標)888 ATO);パルミトステアリン酸グリセリン(Precirol(登録商標)など);ポリメタクリラート、例えばポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.1(例えば、Eudragit(登録商標)RS 100、Eudragit(登録商標)RS PO、Eudragit(登録商標)RS 30DおよびEudragit(登録商標)RS 12.5)、ポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.2(例えば、Eudragit(登録商標)RL100、Eudragit(登録商標)RL PO、Eudragit(登録商標)RL 30DおよびEudragit(登録商標)RL 12.5)またはポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート)2:1(例えば、Eudragit(登録商標)NE 30D、Eudragit(登録商標)NE 40DおよびEudragit(登録商標)NM 30D)など、エチルセルロース;好ましくは、分子量が約100,000の非イオン性ポリ(エチレンオキシド)ポリマー(Polyox(登録商標)N-10NF);20℃の水中2%での粘度が2,663~4,970mPa・sのHPMC 2208タイプ(Methocel K4M、Dow Chemicals社);およびグリセリル(ジ)ベヘナート(Compritol(登録商標)888 ATO)が挙げられる。
【0135】
徐放固形剤形を調製する本発明の方法の好ましい実施形態では、段階a)の粉体混合物は、押出球形化補助剤の微結晶性セルロース;崩壊剤のデンプングリコール酸ナトリウム;および少なくとも1つのさらなる添加剤のPolyox(登録商標)N-10NFまたはMethocel K4Mを含む。徐放固形剤形を調製する本発明の方法の別の好ましい実施形態では、段階a)の粉体混合物は、押出球形化補助剤を20~90%、好ましくは45~80%、より好ましくは50~80%、さらにより好ましくは60~75%、最も好ましくは約70~75%;崩壊剤を0.1~45%、好ましくは0.5~35%、より好ましくは1~30%、さらにより好ましくは1~25%、さらにより好ましくは1または15%、最も好ましくは約5~15%;および少なくとも1つの徐放物質を含む少なくとも1つのさらなる添加剤を0.5~30%、好ましくは1~20%、より好ましくは2.5~12.5%、さらにより好ましくは2.5~10%、最も好ましくは約2.5~7.5%含む。
【0136】
徐放固形剤形を調製する本発明の方法の別の好ましい実施形態では、段階a)で少なくとも2つのさらなる添加剤を加え、ここでは、第一のさらなる添加剤は徐放物質、好ましくは徐放ポリマーであり、第二のさらなる添加剤は充填剤、好ましくは、スクロース、トレハロース、ソルビトールまたはマンニトール、アミノ酸、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、リジン、プロリン、ロイシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸およびアスパラギンならびにそれぞれの塩ならびにその組合せ、より好ましくはソルビトールである。段階a)で少なくとも2つのさらなる添加剤を加える場合、段階a)の粉体混合物は、押出球形化補助剤を20~90%、好ましくは45~85%、より好ましくは50~80%、さらにより好ましくは60~80%、最も好ましくは約75%;崩壊剤を0.1~40%、好ましくは0.5~30%、より好ましくは1~20%、さらにより好ましくは1~15%、最も好ましくは1~10%;徐放物質を1~30%、好ましくは1~20%、より好ましくは2.5~12.5%、さらにより好ましくは2.5~10%、最も好ましくは約2.5~7.5%;および充填剤を0.5~30%、好ましくは1~20%、より好ましくは1~15%、さらにより好ましくは5~15%、最も好ましくは約10%含み得る。
【0137】
徐放固形剤形を調製する本発明の方法の別の実施形態では、段階a)の粉体混合物は、押出球形化補助剤の微結晶性セルロース;第一のさらなる添加剤のグリセリル(ジ)ベヘナート;第二のさらなる添加剤として充填剤、好ましくはソルビトール、スクロース、トレハロースもしくはマンニトールまたはアミノ酸、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、リジン、プロリン、ロイシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸およびアスパラギンなどならびにそれぞれの塩ならびにその組合せを含む。
【0138】
徐放固形剤形を調製する本発明の方法のさらに別の実施形態では、段階a)の粉体混合物は、押出球形化補助剤を30~85%、好ましくは45~80%、より好ましくは50~80%、さらにより好ましくは約75%;第一のさらなる添加剤のグリセリル(ジ)ベヘナートを1~35%、好ましくは1~25%、より好ましくは2.5~15%、さらにより好ましくは約2.5~10%;充填剤の形態の第二のさらなる添加剤、好ましくはスクロース、トレハロース、ソルビトールまたはマンニトール、より好ましくはソルビトールを2.5~45%、好ましくは5~40%、より好ましくは10~35%、さらにより好ましくは10~25%含む。
【0139】
本発明の方法の段階b)の結合液は、抗体またはその機能的フラグメントの安定性および活性が確保され、少なくとも一部が粉体混合物によって吸収される段階a)の粉体混合物の湿潤溶液として使用することが可能である限り、特に限定されない。したがって、結合液は、上記の基準を満たす任意の溶媒または溶媒の混合物であり得る。本発明の一実施形態では、結合液は水溶液である。さらなる実施形態では、結合液は、抗体またはその機能的フラグメントの安定性をさらに確保するため、少なくとも1つの緩衝剤を含む。抗体またはその機能的フラグメントと組み合わせて使用するのに適した緩衝剤は当該技術分野で公知であり、酢酸塩、クエン酸塩、ヒスチジン、TRISおよびリン酸塩緩衝剤がこれに含まれる。
【0140】
結合液は安定剤をさらに含み得る。結合液が安定剤を含む場合、抗体またはその機能的フラグメントも結合液中に含まれるのが好ましい。抗体またはその機能的フラグメントと組み合わせて使用するのに適した安定剤は当該技術分野で公知であり、ポリオール(ソルビトール、マンニトール、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、糖(スクロース、トレハロース、グルコース、ラフィノース)、シクロデキストリンならびにアミノ酸、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、リジン、プロリン、ロイシン、グルタミン酸、セリン、アスパラギン酸およびアスパラギンなどならびにそれぞれの塩がこれに含まれる。
【0141】
結合液中または粉体混合物中の少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの濃度は特に限定されない。本発明の一実施形態では、結合液中または粉体混合物中の少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの濃度は、本発明の方法によって調製する固形剤形中の抗体またはその機能的フラグメントの量が、治療有効量の少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを例えば複数の固形剤形を(例えば、複数のペレット、ビーズまたは顆粒の形態で)含む錠剤、カプセル、飲用ストロー(Xstraw(登録商標))またはサシェ/スティック包装の形態の単一単位用量として投与することを可能にする量となる濃度である。「投与」という用語は、組成物を患者の身体と最初に接触させる方法および形態に関連するものである。本発明の方法によって調製する固形剤形は、経口的に、直腸内に、あるいは局所適用および/または体組織内への吸収の目的部位に固形剤形の蓄積を生じさせる任意の他の方法で投与することができる。好ましくは、本発明の固形剤形は経口投与を目的とするものである。「治療有効量」とは、所望の治療効果を得るのに必要な少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの量のことである。正確な量は、様々な抗体またはその機能的フラグメントおよび/または個々の患者によって異なり得るが、当業者が決定し得るものである。
【0142】
本発明の別の実施形態では、結合液中または粉体混合物中の抗体の濃度は、固形剤形中の抗体またはその機能的フラグメントの量が、段階e)の後の固形剤形の総重量に対して0.01~60%、好ましくは0.05~45%、より好ましくは0.1~30%、さらにより好ましくは0.5~25%、さらにより好ましくは1~20%、さらにより好ましくは1~15%、さらにより好ましくは2~15%、最も好ましくは5~15%となる濃度である。本発明のさらなる実施形態では、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントが結合液中に0.01~1000mg/ml、好ましくは0.1~500mg/ml、より好ましくは1~200mg/ml、さらにより好ましくは5~100mg/ml、さらにより好ましくは10~50mg/mlの濃度(w/v)で含まれる。本発明では、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントが結合液中に含まれる場合、最終固形剤形の総重量に対する抗体またはその機能的フラグメントの所望の添加量を実現するため、一定の量および組成の段階a)の粉体混合物に加える結合液の総体積に応じて、結合液中の抗体またはその機能的フラグメントの量または濃度を調節する必要がある。本発明のさらなる実施形態では、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントが粉体混合物中に0.01~60%、好ましくは0.05~45%、より好ましくは0.1~30%、さらにより好ましくは0.5~25%、さらにより好ましくは1~20%、さらにより好ましくは1~15%の濃度(w/w)で含まれる。
【0143】
本発明の方法によって調製する固形剤形中の抗体またはその機能的フラグメントの量は、抗体または機能的フラグメント薬理活性、治療する適応症、目標とする投与レジメン、計画する投与方法、最終組成物の完全性、安定性および溶出挙動ならびにその他の同様の根拠に応じて異なるものとなる。一実施形態では、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの量は、好ましくは本発明の方法の段階e)の後の固形剤形の総重量に対して少なくとも0.01%、好ましくは少なくとも0.05%、より好ましくは少なくとも0.1%、さらにより好ましくは少なくとも1%、最も好ましくは少なくとも2%である。さらなる実施形態では、抗体またはその機能的フラグメント量は一般に、好ましくは本発明の方法の段階e)の後の固形剤形の総重量に対して最大60%、好ましくは最大45%、より好ましくは少なくとも35%、さらにより好ましくは最大30%、さらにより好ましくは最大25%、さらにより好ましくは最大20%である。
【0144】
上記の本発明の段階a)~e)に従って調製する固形剤形が速放剤形である場合、段階e)の後、段階f)として徐放コーティング剤形態の少なくとも1つの追加のコーティング剤を塗布し得る。徐放コーティング剤を塗布する方法は、それが固形剤形中の少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの安定性および活性に影響を及ぼさない限り、特に限定されない。徐放コーティング剤を塗布する方法は当該技術分野で公知である。本発明の一実施形態では、例えば流動床スプレーコーティングを用いて、スプレーコーティングにより遅延放出コーティング剤を塗布する。徐放コーティング剤は例えば、例えば徐放コーティング材料と、任意選択のさらなる添加剤、例えば可塑剤、抗粘着添加剤および造膜促進剤などとを含む水性懸濁液(分散液)または有機溶液の形態のコーティング液として塗布し得る。
【0145】
段階f)の固形剤形の徐放コーティング剤に適した徐放コーティング材料は当該技術分野で公知である。徐放コーティング剤に使用するのに適したコーティング材料には、徐放ポリマー、例えばポリメタクリラート、例えばポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.1(例えば、Eudragit(登録商標)RS 100、Eudragit(登録商標)RS PO、Eudragit(登録商標)RS 30DおよびEudragit(登録商標)RS 12.5)、ポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.2(例えば、Eudragit(登録商標)RL100、Eudragit(登録商標)RL PO、Eudragit(登録商標)RL 30DおよびEudragit(登録商標)RL 12.5)またはポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート)2:1(例えば、Eudragit(登録商標)NE 30D、Eudragit(登録商標)NE 40DおよびEudragit(登録商標)NM 30D)など、エチルセルロース、ポリビニルアセタート(例えば、Kollicoat(登録商標)SR 30D)およびその組合せなどがある。徐放コーティング剤に使用する徐放ポリマーは、例えば粉末もしくは顆粒の形態の固体として、または懸濁液(分散液)、例えば水性懸濁液として準備し得る。好ましくは、徐放ポリマーを懸濁液として準備する。徐放コーティング剤に使用する任意選択のさらなる添加剤は当業者に公知であり、可塑剤、抗粘着剤、造膜促進剤、流動促進剤、抗酸化剤、保湿剤、保護コロイド、色素および充填剤がこれに含まれる。
【0146】
本発明の方法により、本発明の方法に従って調製する固形剤形中で少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの活性および安定性を維持することが可能になる。抗体またはそのフラグメントの安定性および活性は、例えば、二量体およびその他の凝集体として存在する抗体またはその機能的フラグメントの割合を求めることによって推定することができる。本発明の一実施形態では、固形剤形中に二量体およびその他の凝集体として存在する抗体またはその機能的フラグメントの総含有量の割合は、抗体またはその機能的フラグメントを結合液に加えた時点で二量体およびその他の凝集体として存在する抗体またはその機能的フラグメント全体の割合を15%超、好ましくは10%、より好ましくは8%、さらにより好ましくは7%、さらにより好ましくは5%、3%、2%または1.5%上回ることはない。二量体およびその他の凝集体として存在するポリペプチドの割合を求める方法は当該技術分野で公知であり、例えばサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)がこれに含まれる。
【0147】
抗体またはその機能的フラグメントの安定性および活性は、例えば、完全長抗体またはその機能的フラグメントのフラグメンとして存在する抗体またはその機能的フラグメントの割合を求めることによって推定することもできる。したがって、本発明の別の実施形態では、固形剤形中に完全長抗体またはその機能的フラグメントのフラグメントとして存在する抗体またはその機能的フラグメントの総含有量の割合は、抗体またはその機能的フラグメントを結合液に加えた時点と比較して実質的に増加しない。本発明のさらなる実施形態では、固形剤形中に完全長抗体またはそのフラグメントのフラグメントとして存在する抗体またはその機能的フラグメントの総含有量の割合は、抗体またはその機能的フラグメントを結合液に加えた時点で完全長抗体またはその機能的フラグメントのフラグメントとして存在する抗体またはその機能的フラグメントの総含有量の割合を15%超、好ましくは10%、より好ましくは8%、さらにより好ましくは7%、さらにより好ましくは5%、3%、2%、1.5%または1%上回ることはない。完全長抗体またはその機能的フラグメントのフラグメントとして存在する抗体またはその機能的フラグメントの割合を求める方法は当該技術分野で公知であり、例えばマイクロチップ電気泳動解析がこれに含まれる。
【0148】
本発明の一実施形態では、抗体またはその機能的フラグメントは、患者の消化管の局所治療への使用に適したものである。本発明における「局所治療」という用語は、例えば注入、注射または埋植による、抗体またはその機能的フラグメントを含む剤形の全身適用ではなく、固形剤形の局所適用を表すのに使用される。本明細書で使用される「消化管」という用語は、口から肛門までの間にあり、連続した通路を形成し、摂取した物質の消化、栄養素の吸収および便の排出を担うあらゆる構造体を含めたヒト身体の器官系を表す。本明細書で使用される「患者」という用語は、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの投与により治療または予防することができる病態が発症している、または発症しやすい生物を指す。好ましい実施形態では、患者はヒトである。
【0149】
固形剤形により、上記のクラスの抗体およびその機能的フラグメントを1日1回、1日数回、2日に1回などで送達することが可能になる。消化管、例えば回腸または大腸の局所治療は、抗体またはその機能的フラグメントの局所濃度を高めると同時に、上部消化管への薬物の放出または不必要な全身吸収によって起こる副作用を最小限に抑えることにより、胃腸管壁を特異的に標的とし、回腸大腸の疾患の治療を強化することを可能にする。
【0150】
したがって、本発明の別の実施形態では、本発明の方法によって調製する固形剤形は、消化管、好ましくは回腸および大腸の疾患の治療に使用するものである。このような疾患としては、例えば、IBD、癌(結腸直腸癌または小腸癌など)、セリアック病、小腸および結腸の感染症(ディフィシル菌(Clostridium difficile)感染症など)ならびに下痢が挙げられる。本発明の好ましい実施形態では、本発明の方法によって調製する固形剤形は、IBD、例えばクローン病または潰瘍性大腸炎の治療に使用するものである。
【0151】
本発明の一実施形態では、本発明の方法によって調製する固形剤形は、経口投与または直腸内、好ましくは経口投与のためのものである。本発明における「経口投与」は、固形剤形を口から消化管内に導入することを意味する。本発明における「直腸内投与」は、固形剤形を肛門から消化管内に導入することを意味する。
【0152】
本発明の一実施形態では、段階e)で乾燥させた後、または段階f)として徐放コーティング剤形態の少なくとも1つの追加のコーティング剤を塗布する場合は段階f)の後、固形剤形に遅延放出コーティング剤形態の少なくとも1つの追加のコーティング剤を塗布する。本発明の意味の範囲内の遅延放出コーティング剤とは、例えば化学的トリガーもしくは酵素トリガーまたは溶液に浸漬してからの一定時間の経過の形態で特定の事象が起こるまで、固形剤形からの少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの放出を防ぐコーティング剤のことである。
【0153】
好ましい実施形態では、本発明の方法によって調製する固形剤形は、例えば小腸の空腸の前または回腸の前、好ましくは回腸末端部の前、より好ましくは回腸結腸領域の前、あるいは、消化管の上行結腸の前、横行結腸の前または下行結腸の前で組成物が放出されるのを防ぐ遅延放出コーティング剤でコートしたペレット、ビーズ、ミニスフィア、ミニ錠剤または顆粒の形態で経口投与するためのものである。回腸結腸領域は、小腸が大腸と結合する消化管の領域である。大腸は消化管の最後から2番目の区画であり、さらに盲腸、結腸および直腸に分けることができる。結腸はさらに、上行結腸、横行結腸および下行結腸に細分される。回腸末端部は小腸の最後から2番目の区画であり、盲腸と直接隣接している。
【0154】
遅延放出コーティング剤を塗布する方法は、それが固形剤形中の少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの安定性および活性に影響を及ぼさない限り、特に限定されない。遅延放出コーティング剤を塗布する方法は当該技術分野で公知である。本発明の一実施形態では、遅延放出コーティング剤をスプレーコーティング、好ましくは流動床スプレーコーティングによって塗布する。
【0155】
経口投与時の固形剤形の遅延放出、特に空腸、回腸または大腸での標的化放出のためのコーティング材料は当該技術分野で公知である。これらは、特定のpHを上回ると崩壊するコーティング材料、消化管内で特定の滞留時間を過ぎると崩壊するコーティング材料および腸の特定の領域の細菌叢に特異的な酵素トリガーにより崩壊するコーティング材料に細分することができる。上記の大腸を標的とする3つの異なる種類のコーティング材料については、例えばBansalら(Polim.Med.2014,44,2,109-118)に概説されている。上記のこのようなコーティング材料の使用についても、例えば、国際公開第2007/122374(A2)号、国際公開第0176562(A1)号、国際公開第03068196(A1)号および英国特許出願公開第2367002(A)号に記載されている。本発明の一実施形態では、遅延放出コーティング剤は、pH依存性に崩壊するコーティング材料、時間依存性に崩壊するコーティング材料、大腸環境中の酵素トリガーにより崩壊するコーティング材料およびその組合せから選択される少なくとも1つの成分を含む。
【0156】
pH依存性に崩壊するコーティング材料のうち好ましいコーティング材料は、ポリビニルアセタートフタラート、セルロースアセタートトリメリタート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラートHP-50、HP-55またはHP-55S、セルロースアセタートフタラート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートスクシナート(HPMCAS)、ポリ(メタクリル酸、エチルアクリラート)1:1(Eudragit(登録商標)L100-55、Eudragit(登録商標)L30D-55)、ポリ(メタクリル酸、メチルメタクリラート)1:1(Eudragit(登録商標)L-100、Eudragit(登録商標)L12.5)、ポリ(メタクリル酸、メチルメタクリラート)1:2(Eudragit(登録商標)S-100、Eudragit(登録商標)S12,5、Eudragit(登録商標)FS30D)およびその組合せから選択される。好ましい時間依存性に崩壊するコーティング材料は、ポリメタクリラート、例えばポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.2(例えば、Eudragit(登録商標)RL 30D、Eudragit(登録商標)RL100、Eudragit(登録商標)RL POおよびEudragit(登録商標)RL 12.5)、ポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアンモニオエチルメタクリラートクロリド)1:2:0.1(例えば、Eudragit(登録商標)RS 30D、Eudragit(登録商標)RS 100、Eudragit(登録商標)RS POおよびEudragit(登録商標)RS 12.5)またはポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート)2:1(例えば、Eudragit(登録商標)NE 30D、Eudragit(登録商標)NE 40D、Eudragit(登録商標)NM 30D)、ポリビニルアセタート(Kollicoat(登録商標)SR 30D)、エチルセルロースおよびその組合せから選択される。腸内環境中の酵素トリガーによって崩壊するコーティング材料のうち好ましいコーティング材料は、コンドロイチン硫酸、ペクチン、グアーガム、キトサン、イヌリン、ラクツロース、ラフィノース、スタキオース、アルギン酸塩、デキストラン、キサンタンガム、イナゴマメガム、アラビノガラクタン、アミロース、アミロペクチン、プルラン、カラゲナン、シクロデキストリン、スクレログルカン、キチン、カーデュラン(curdulan)、レバン、デンプン、難消化性デンプン、アゾ結合開裂細菌によって分解されるアゾ化合物およびその組合せから選択される。
【0157】
本発明の一実施形態では、遅延放出コーティング剤のためのコーティング材料は、上に挙げたpH依存性に崩壊するコーティング材料、時間依存性に崩壊するコーティング材料および腸内環境中の酵素トリガーによって崩壊するコーティング材料ならびにその組合せから選択される1つ、2つ、3つなどの成分を含む。本発明の別の実施形態では、遅延放出コーティング剤は、少なくとも1つのpH依存性に崩壊するコーティング材料と少なくとも1つの腸内環境中の酵素トリガーによって崩壊するコーティング材料の組合せを含む。
【0158】
例えば、遅延放出コーティング剤は、盲腸から始まり、上行結腸、横行結腸および下行結腸と続いてS状結腸で終わる大腸全体への抗体またはその機能的フラグメントの送達に焦点を絞るよう設計することができる。あるいは、例えば、遅延放出コーティング剤を空腸への抗体またはその機能的フラグメントの送達で始まり、横行結腸での放出で終わるよう設計することができる。その可能性および組合せは多数存在する。
【0159】
本発明の一実施形態では、遅延放出コーティング剤は、少なくとも1つのpH感受性(腸溶性)ポリマー、例えばポリ(メタクリル酸、メチルメタクリラート)1:2と、コンドロイチン硫酸、シクロデキストリン、キトサン、デキストラン、アラビノガラクタン、アミロース、プルラン、カラゲナン、スクレログルカン、キチン、カーデュラン(curdulan)、レバン、アミロペクチン、デンプン、難消化性デンプンおよびその組合せから選択される少なくとも1つの多糖との組合せを含む。本発明の好ましい実施形態では、遅延放出コーティング剤は、ポリ(メタクリル酸、メチルメタクリラート)1:2と難消化性デンプン(例えば、Phloral(登録商標)技術)の組合せである。少なくとも1つの腸溶性ポリマー、例えばポリ(メタクリル酸、メチルメタクリラート)1:2と少なくとも1つの多糖、例えば難消化性デンプンとを含む遅延放出コーティング剤を有機溶媒、有機溶媒の混合物または少なくとも1つの有機溶媒と水との混合物に分散させ、次いで、例えば流動床スプレーコーティングにより固形剤形に塗布し得る。
【0160】
別の実施形態では、遅延放出コーティング剤は、i)pH8に調整され部分的に中和された腸溶性ポリマー(好ましくはpH8に調整されたポリ(メタクリル酸、メチルメタクリラート)1:2)を含み、緩衝塩を含有する内部コーティング剤と、ii)少なくとも1つの腸溶性ポリマー(好ましくはポリ(メタクリル酸、メチルメタクリラート)1:2)と、コンドロイチン硫酸、シクロデキストリン、キトサン、デキストラン、アラビノガラクタン、アミロース、プルラン、カラゲナン、スクレログルカン、キチン、カーデュラン(curdulan)、レバン、アミロペクチン、デンプン、難消化性デンプンおよびその組合せから選択される少なくとも1つの多糖、好ましくは難消化性デンプンとの組合せを含む外部コーティング剤とを含む。遅延放出コーティング剤のその他の好ましい実施形態については、国際公開第2007122374(A2)号に開示されている実施形態にみることができる。上記の遅延放出コーティング剤は任意選択で、上の実施形態のうちの1つに挙げた少なくとも1つの添加剤(例えば、界面活性剤、充填剤またはさらなる添加剤)を含む。
【0161】
本発明の方法のさらなる態様では、さらなる段階で、上記の実施形態のうちの1つに従い本発明の方法によって調製した複数の固形剤形を含むサシェ/スティック包装、カプセル(例えば、硬ゼラチンまたは軟ゼラチンカプセル)、HPMCカプセル、飲用ストロー(例えば、Harro Hofliger社のXstraw(登録商標))または錠剤(多微粒子薬物送達システム)を準備する。複数の固形剤形を含むサシェ/スティック包装、カプセル、飲用ストローまたは錠剤を調製する方法は当該技術分野で公知である。多微粒子薬物送達システム(例えば、サシェ/スティック包装、カプセル、飲用ストローまたは錠剤)は、ヒト患者への経口投与に適した少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを全量含み得る。別の実施形態では、サシェ/スティック包装、カプセル、飲用ストローまたは錠剤は、ヒト患者への経口投与に適した少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントを治療有効量含む。
【0162】
本発明の別の実施形態では、上の本発明の実施形態のうちの1つに記載されている通りに本発明の方法の段階a)~d)または段階a)~f)によって調製した複数の固形剤形を組み合わせて多微粒子薬物送達システム、例えば錠剤またはカプセルにし得る。このような複数の単位を含む錠剤またはカプセル剤を調製する方法は当該技術分野で公知である。次いで、このように調製した錠剤またはカプセルを上記のように遅延放出コーティング剤でコートし得る。
【0163】
上の実施形態に記載した固形剤形の調製方法に加えて、本発明はさらに、上記の実施形態のいずれか1つによって定められる本発明の方法によって調製した固形剤形に関する。本発明の固形剤形は、ペレット、ビーズ、ミニスフィア、顆粒またはミニ錠剤の形態であり得る。本発明は、上記の本発明の方法によって調製した複数の単位固形剤形を含む、サシェ/スティック包装、カプセル、飲用ストロー(Xstraw(登録商標))または錠剤の形態の多微粒子薬物送達システムにも関する。さらに、本発明は、消化器疾患、好ましくはIBD、結腸直腸癌、小腸癌、セリアック病または消化管感染症(例えば、ディフィシル菌(Clostridium difficile)感染症)、より好ましくはIBD、例えばクローン病または潰瘍性大腸炎、より好ましくはクローン病または潰瘍性大腸炎の治療に使用する前記固形剤形/多微粒子薬物送達システムに関する。本発明は、患者の消化管の局所治療に使用する、上記の本発明の方法によって調製した固形剤形/多微粒子薬物送達システムにも関する。最後に、本発明は、消化器疾患、好ましくはIBD、結腸直腸癌、小腸癌、セリアック病または消化管感染症、より好ましくはIBDに罹患している患者の治療に使用する前記本発明の固形剤形/多微粒子薬物送達システムに関する。
【0164】
さらなる態様では、本発明は、複数の固形剤形単位(すなわち、単一の固形剤形)を含み、各固形剤形単位が、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントと、界面活性剤と、押出球形化補助剤と、緩衝剤(緩衝塩)と、崩壊剤と、充填剤、徐放物質およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つのさらなる添加剤と、任意選択のさらなる添加剤を含み、好ましくは、各固形剤形単位が所定の軸と同じ所定の断面プロファイルとを有し、上記固形剤形単位の個数の少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは95%が縦横比中央値0.7~1.7を有し、縦横比が、所定の軸に沿った固形剤形単位の長さを最小断面寸法で除したものと定義される、多微粒子薬物送達システムに関する。
【0165】
本発明の多微粒子薬物送達システムの一実施形態では、縦横比中央値は0.8超、好ましくは0.9超、かつ1.6未満、好ましくは1.5未満、より好ましくは1.4、さらにより好ましくは1.3未満、さらにより好ましくは1.2未満、最も好ましくは約1である。本発明の多微粒子薬物送達システムの別の実施形態では、固形剤形単位は、0.9未満、好ましくは0.8未満、より好ましくは0.7未満、さらにより好ましくは0.6未満、最も好ましくは0.5未満の縦横比の範囲を有する。縦横比、所定の軸、所定の断面プロファイルおよび範囲に関するさらなる詳細(定義および実施形態を含む)については、欧州特許第2512453号の開示が参照される。固形剤形単位の縦横比および範囲に関する上の定義および実施形態が、上のいずれか1つの実施形態による本発明の固形剤形および上記の本発明の方法の実施形態のいずれか1つによって調製した固形剤形に同じように適用されることを理解するべきである。
【0166】
本発明のさらなる実施形態では、本発明の多微粒子薬物送達システムは、少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも93%、さらにより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも97%、さらにより好ましくは少なくとも98%が固形剤形単位から回収されることを可能にする。本発明のまた別の実施形態では、本発明の多微粒子薬物送達システムは、連続運動下にある緩衝水溶液中に固形剤形を連続浸漬して30分以内、1時間以内または2時間以内に少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも93%、さらにより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも97%、さらにより好ましくは少なくとも98%が固形剤形単位から回収されること(速放)を可能にする。本発明のまた別の実施形態では、本発明の多微粒子薬物送達システムは、連続運動下にある緩衝水溶液中に固形剤形を連続浸漬して4時間以内、6時間以内、8時間以内、10時間以内、12時間以内、14時間以内、16時間以内、18時間以内、20時間以内、22時間以内、24時間以内、26時間以内、28時間以内、30時間以内、32時間以内、34時間以内または36時間以内などに少なくとも1つの抗体またはその機能的フラグメントの少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも93%、さらにより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも97%、さらにより好ましくは少なくとも98%が固形剤形単位から回収されること(徐放)を可能にする。
【0167】
一実施形態では、多微粒子薬物送達システム中に含まれる固形剤形単位を押出球形化によって調製する。本発明の特定の実施形態では、多微粒子薬物送達システム中に含まれる固形剤形単位は、上記のいずれかの実施形態の方法によって押出球形化により調製した固形剤形である。本発明の別の実施形態では、多微粒子薬物送達システム中に含まれる固形剤形単位は、押出によって調製され、非球形化固形剤形単位である。さらなる実施形態では、多微粒子薬物送達システムは、複数の固形剤形単位から圧縮、封入もしくは押出球形化によって調製され、かつ/または多微粒子薬物送達システムおよびその調製方法に関する上記のいずれかの実施形態で定められる特性を有する。
【0168】
本発明のさらなる実施形態では、多微粒子薬物送達システムまたは個々の固形剤形単位は、さらなるコーティング剤として塗布される遅延放出コーティング剤を含む。多微粒子薬物送達システムのさらなる実施形態については、欧州特許第2512453号にみられ、これらの実施形態が欧州特許第2512453号に開示されているかどうかに関係なく、球形化または非球形化固形剤形に関して参照する際に本発明に適用することができる。
【0169】
(実施例)
実施例に適用される材料および方法
クエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7)の調製:クエン酸ナトリウムの100mM溶液(2.942g、精製水で100.0mLにした)を調製した。100mMクエン酸溶液(3.842gを精製水に溶かし、精製水で200.0mlに希釈した)を調製した。クエン酸溶液のpHをクエン酸ナトリウム溶液で3.5に調整した。1MのTRIS溶液(12.114g、精製水で100.0mlにした)を調製した。クエン酸塩緩衝液のpHをTRIS溶液でpH7.0に調整した。
【0170】
ペレットの調製
乾式混合:Caleva Multilab機器のミキサアタッチメント(ダブルパドルミキサ)を用いて、各バッチ(バッチサイズ:10g)に必要な添加剤を約5分の所定の時間にわたって50rpmで混合した。
【0171】
湿式混合:乾式混合段階の後、添加剤の粉体混合物に結合液(所定の濃度の界面活性剤を含む、または含まない脱イオン水、クエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7)またはアダリムマブ溶液)を混合しながら徐々に加え、所定の時間および速度で混合した。
【0172】
押出:次いで、ミキサから湿塊を取り出し、スクリュ押出機を一定速度(150rpm)で用いて、湿塊がすべて押し出されるまで直径1mm、深さ1mmの押出ダイの穴から押し出した。
【0173】
球形化:次いで、湿った押出物を、回転によって湿った押出物を小さい断片に粉砕し、次いでそれが時間、速度および押出物の個々の成分の性状によっては丸くなる(湿った球状物)溝付きプレートからなる、スフェロナイザアタッチメントに入れた。押出物を所定の長さの時間にわたって所与の速度で球形化した。
【0174】
【0175】
乾燥:次いで、球形化段階で得た湿ったペレットを使い捨て秤量皿に収集し、乾燥棚で一晩、40℃で乾燥させた。
【0176】
乾燥ペレットからのアダリムマブの溶出
一定量のアダリムマブ充填ペレットを5mlの凍結チューブに入れ、緩衝液4.0mlを加えて、理論的に算出したアダリムマブ充填量を基準に理論上1mg/mlのアダリムマブ濃度にした。別途明記しない限り、クエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7)を使用した。実験過程全体を通して試料を攪拌する。所定の時点で上清試料(200μl)を採取し、遠心分離し、明記したときは必ず上清の総タンパク質含有量、凝集体の有無(SEC)および断片化(電気泳動)を分析した。
【0177】
総タンパク質含有量の定量化(ブラッドフォート):Coomassie Plusアッセイ(Thermo Fisher Scientific社)を用い、ブラッドフォード法に従って比色分析により総タンパク質の定量化を実施した。簡潔に述べれば、試料6.6μlをピペットで96ウェルプレートの底に入れ、Coomassie Plus試薬200μlを加え、500rpmで30秒間、攪拌により混合した。次いで、試料を室温で10分間インキュベートした後、595nmでの吸光度を記録し(Tecanプレートリーダー)、ブランクを減算した。新たに作成した標準曲線を用いて定量化を実施した。
【0178】
マイクロチップ電気泳動分析(フラグメント):アダリムマブを含有する試料の上清(2μl)のフラグメントの有無をマイクロチップゲル電気泳動により非還元条件下で試験した。いずれの実験にも、クエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7)に溶かした1mg/mlアダリムマブの陽性対照を用いた。
【0179】
サイズ排除クロマトグラフィー(凝集):アダリムマブを含有する試料の上清の凝集体(二量体、オリゴマー)の有無をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により試験した。いずれの実験にも、クエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7)に溶かした1mg/mlアダリムマブの陽性対照を用いた。
【0180】
結果
比較実験1
添加剤とアダリムマブの様々な被験組合せをペレットに加工し、個々の加工段階の後、アダリムマブ回収率ならびに凝集および断片化プロファイルを明らかにした。被験組成物のうち1つのもの(比較例1:微結晶性セルロース25%、多孔性炭酸カルシウム/リン酸カルシウム25%、ソルビトール40%、デンプングリコール酸ナトリウム10%を含む粉体混合物および14.2mg/mlのアダリムマブを含有する結合液10ml)については、各加工段階の後および最終ペレット製剤のクエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7)中でのアダリムマブ回収率を評価し(
図1a)、様々な時点で収集した試料の凝集および断片化プロファイルを
図1b~1cに示す。
図1b~1cに示されるように、各加工段階の後、アダリムマブ標準品と比較してアダリムマブの凝集体にもフラグメントにも有意な増加はみられない。
【0181】
実験2
粉体混合段階で同じ添加剤組成を含有するが、異なる結合液の組成で造粒したペレットからのアダリムマブ放出をクエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7)で評価した。表1に挙げたペレット組成物を上記の通りに調製し、試験した。湿式混合/造粒の過程で結合液に界面活性剤のTween 20を0.01%用いることにより、界面活性剤を含有しない対照製剤(比較例2)と比較してアダリムマブ回収率に有意な改善がみられた(比較例3)が、長時間にわたる溶出の過程で吸着を防ぐには十分なものではなかった。Tween(登録商標)20を0.05%(実施例1)または0.1%(実施例4)を用いたところ、アダリムマブ回収率がさらに増大し、湿式混合の過程でアダリムマブを含有する結合液にTween(登録商標)20を0.1%用いた場合、完全に回収することができた(
図2)。
【0182】
0.05%ではKolliphor(登録商標)(実施例3)とTween(登録商標)20(実施例1)のアダリムマブ回収率は同程度であり、Kolliphor(登録商標)の濃度を0.2%に増加させても(実施例2)有益性をもたらすことはなかった。実施例1~4のように、造粒段階で結合液に界面活性剤を加えた場合にアダリムマブ回収率が改善されたこと以外には、アダリムマブ標準品と比較して凝集(
図3)および断片化(
図4)に対して有意な影響はみられず、製剤の組成および押出球形化工程を用いた抗体固形剤形の製造工程の持続可能性が示された。Avicel 50%とExplotab(登録商標)30%とソルビトール20%とを含むペレット(実施例4)から放出させたところ、アダリムマブが短時間で放出され、2時間以内に80%超が回収された(
図2および
図5(B))。
【0183】
Avicel(登録商標)70%と、徐放ポリマーのPolyox(登録商標)N-10 NFまたはMethocel K4M 5%とを含むペレット(実施例5および実施例6)から放出させたところ、初期バースト放出の速度が大幅に低下し、アダリムマブの長時間放出がもたらされた。徐放ポリマーのPolyox(登録商標)N-10 NF 5%を含有する製剤中のAvicel(登録商標)の含有量を70%(実施例5)から80%に増加させたところ(実施例7)、ペレット崩壊の速度が低下したことにより放出速度が有意に低下した。
【0184】
【0185】
【0186】
【0187】
実験3
徐放剤形のペレット組成をさらに試験し、ここでは、崩壊剤(Explotab(登録商標))を犠牲にしてソルビトールを加え、界面活性剤の体積をさらに変化させた(
図6)。このことから、浸漬後の最初の4時間でのアダリムマブの放出速度をさらに低下させることが可能であることが明らかになった。一方、Explotab(登録商標)(実施例8)の代わりにStarch 1500を含有する実施例10のバッチのペレットからの緩衝液(pH7.0)中でのアダリムマブ溶出速度は極めて遅く、24時間以内の回収率が30%未満であった(
図6)。Tween(登録商標)20の濃度を0.1%(実施例10)から0.2%(実施例9)に増加させると、薬物放出速度がわずかに速くなった(
図6)。
【0188】
実験4
Compritol(登録商標)888 ATOを徐放ポリマーとした試験を、その他の点では、他の徐放剤形について上に記載した成分および調製(Tween(登録商標)20 0.1%)を用いて実施した。以下のペレット組成物を調製し試験した。
【0189】
【0190】
Avicel PH101 75%をCompritol ATO 188 25%とともに含有するペレットでは、24時間にわたって持続的であるが緩徐な放出が得られた(実施例12)。Compritol ATO 188の量を10%または5%(それぞれ実施例13および実施例14)に減らすことによって、これがさらに改善された。
【0191】
【0192】
また、乾燥混合段階で噴霧乾燥アダリムマブから開始してペレットを調製した。この場合、結合液は、0.1%~0.5%w/vの範囲の様々な濃度のTween(登録商標)20の水溶液である。結合液中のTween(登録商標)20の濃度を増加させると、Tween(登録商標)20をわずか0.1%にして製造したペレット(比較例4)と比較して短時間での溶出がもたらされ、約90%アダリムマブがペレットから回収されたが、比較例4では、長時間が経過しても吸着によりアダリムマブを回収することができなかった(
図7)。
【0193】
実験6
押出球形化によって調製した速放アダリムマブ充填ペレット(比較例5)をさらに、流動床機器を用いて、ポリマー重量が28.5%(実施例17)、20.6%(実施例18)および13.7%(実施例19)増加するまでEudragit(登録商標)RS 30Dと可塑剤のクエン酸トリエチル(ポリマーを基準に20%)と抗粘着剤のSyloid(登録商標)244FP(ポリマーを基準に10%)とを含む徐放コーティング剤でコートした。アダリムマブ層状ペレットに塗布するEudragit(登録商標)RS 30Dのコーティング量により、クエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7)中でのマトリックスペレットからのアダリムマブ放出を効果的に制御することができた(
図8A)。さらに、クエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7)に入れてから24時間後に収集した実施例19のペレット試料では、アダリムマブの凝集体にもフラグメントにもそれぞれサイズ排除クロマトグラフィーおよびマイクロチップ電気泳動による測定で有意な増加はみられず(
図8B)、製剤および押出球形化工程の後に徐放ポリマーでコートすることを含む製造段階ともに抗体に悪影響を及ぼすことはないことがわかった。